(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】抗CD38及び抗CD138キメラ抗原受容体を含むT細胞、及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240216BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240216BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240216BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240216BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240216BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240216BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240216BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240216BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240216BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
A61P35/00
A61K35/17
A61K39/395 T
A61K47/65
C12N15/63 Z
C07K14/705
C07K19/00
C07K16/28
(21)【出願番号】P 2020552695
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(86)【国際出願番号】 IL2018051325
(87)【国際公開番号】W WO2019111249
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-29
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509142793
【氏名又は名称】ザ メディカル リサーチ, インフラストラクチャー, アンド ヘルス サーヴィシーズ ファンド オブ ザ テル アヴィヴ メディカル センター
【住所又は居所原語表記】6 Weizmann Street, 6423906 Tel-Aviv, Israel
(73)【特許権者】
【識別番号】520371471
【氏名又は名称】イエーダ リサーチ アンド ディヴェロップメント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】エッシャー,ツェリグ
(72)【発明者】
【氏名】ワクス,トヴァ
(72)【発明者】
【氏名】グローバーソン リヴァイン,アナット
(72)【発明者】
【氏名】ローウェット スロボドキン,モラン
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510597(JP,A)
【文献】国際公開第2017/025323(WO,A1)
【文献】Journal of Clinical Immunology,2012年,Vol. 32,pp.1059-1070,https://link.springer.com/article/10.1007/s10875-012-9689-9を参照
【文献】Cancer Immunology Research,2013年07月01日,Vol.1, No.1,pp.43-53,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3881605/のPDFファイルを参照(上記引用箇所はPDFファイルのページ数を意味する)
【文献】Molecular Medicine,2006年12月,Vol.12,pp.345-346,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1829201/を参照
【文献】Blood Reviews,2015年03月,Vol.29, No.2,pp.81-91,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4482758/のPDFファイルを参照(上記引用箇所はPDFファイルのページ数を意味する)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞であって、
第1のCARはCD138に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、
第2のCARはCD38に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、
前記第1のCARは共刺激ドメインを含むとともに活性化ドメインを欠き、
前記第2のCARは活性化ドメインを含むとともに共刺激ドメインを欠き、
前記CD138に特異的に結合する抗原結合ドメインは、配列番号13のアミノ酸配列を有するV
L
ドメインおよび配列番号14のアミノ酸配列を有するV
H
ドメインからなる一本鎖可変断片(抗CD138scFvと表記する)であり、
前記CD38に特異的に結合する抗原結合ドメインは、配列番号15のアミノ酸配列を有するV
L
ドメインおよび配列番号16のアミノ酸配列を有するV
H
ドメインからなる一本鎖可変断片(抗CD38scFvと表記する)である、T細胞。
【請求項2】
前記
抗CD138scFv及び抗CD38scFvのV
L
ドメインおよびV
H
ドメインは、配列番号17のアミノ酸配列を有するペプチドリンカ
により結合される、請求項
1に記載のT細胞。
【請求項3】
前記共刺激ドメインはCD28、4-1BB、OX40、iCOS、CD27、CD80、CD70の共刺激ドメインから選ばれ、前記活性化ドメインはFcRγ及びCD3-ζ活性化ドメインから選ばれる、請求項1
または2に記載のT細胞。
【請求項4】
前記活性化ドメインは配列番号23のアミノ酸配列
を含むFcRγ活性化ドメインであり、前記共刺激ドメインは配列番号22のアミノ酸配列
を含むCD28の共刺激ドメインであ
る、請求項1~
3のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項5】
前記第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列
を有し、前記第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列
を有
する、請求項1に記載のT細胞。
【請求項6】
2つのキメラ抗原受容体(CAR)を発現する設計T細胞であって、
第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列
を有し、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列
を有
する、設計T細胞。
【請求項7】
少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする1つ以上のDNA構築物の少なくとも1つの複製を含み、
前記第1のCARは抗CD138scFvを含み、前記第2のCARは抗CD38scFvを含
み、
前記第1のCARは共刺激ドメインを含むとともに活性化ドメインを欠き、
前記第2のCARは活性化ドメインを含むとともに共刺激ドメインを欠く、請求項1に記載のT細胞。
【請求項8】
DNA構築物の少なくとも1つの複製を含み、前記DNA構築物は、
(A)5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン
と、
(B)5’位から3’位の方へ、(v)リーダーペプチド、(vi)抗CD38scFvドメイン、(vii)膜貫通ドメインII、(viii)活性化ドメイン
、の両方をコードし、
(A)及び(B)は自己切断ペプチドによって分離され
る、請求項1のT細胞。
【請求項9】
前記DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、(ix)活性化ドメインをコードする、請求項
8に記載のT細胞。
【請求項10】
前記DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFv、(iii)膜貫通ドメインII、(iv)活性化ドメイン、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD138scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインI、(ix)共刺激ドメインをコードする、請求項
8に記載のT細胞。
【請求項11】
前記自己切断ペプチドは、配列番号26のアミノ酸配列を有するペプチド、IRESペプチド
から選ばれ
る、請求項
8~10のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項12】
前記自己切断ペプチドは、配列番号27のDNA配列
によりコードされ
る、請求項
11記載のT細胞。
【請求項13】
2つの異なるDNA構築物を含み、
第1のDNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン
をコードするDNA配列を含み、
第2のDNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFvドメイン、(iii)膜貫通ドメインII、(iv)活性化ドメイン
をコードするDNA配列を含み、
前記第1のDNA構築物又は前記第2のDNA構築物の一方DNA構造物は活性化ドメインをコードするDNA配列を含むとともに共刺激ドメインをコードするDNA配列を欠き、一方DNA構造物は共刺激ドメインをコードするDNA配列を含むとともに活性化ドメインをコードするDNA配列を欠く、請求項
7に記載のT細胞。
【請求項14】
(i)前記リーダーペプチドは配列番号20のアミノ酸配列
を有し、及び/又は、
(ii)前記活性化ドメインは配列番号23のアミノ酸配列
を有し、及び/又は、
(iii)前記共刺激ドメインは配列番号22のアミノ酸配列
を有し、及び/又は、
(iv)前記抗CD138scFvドメインは配列番号18のアミノ酸配列
を有し、及び/又は、
(v)前記抗CD38scFvドメインは配列番号19のアミノ酸配列
を有
する、請求項
8~13のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項15】
(i)前記リーダーペプチドは、配列番号39に示されるDNA配列
によりコードされ、及び/又は、
(ii)前記抗CD138scFvは、配列番号28に示されるDNA配列
によりコードされ、及び/又は、
(iii)前記抗CD38scFvは、配列番号29に示されるDNA配列
によりコードされ、及び/又は、
(iv)前記共刺激ドメインは、配列番号30に示されるDNA配列
によりコードされ、及び/又は、
(v)前記活性化ドメインは、配列番号31に示されるDNA配列
によりコード
される、請求項
8~14のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項16】
前記T細胞は配列番号
34のDNA配列を有するDNA構築物の少なくとも1つの複製を含む、請求項
8に記載のT細胞。
【請求項17】
前記T細胞は配列番号32のDNA配列を有するDNA構築物の少なくとも1つの複製及び配列番号33のDNA配列を有するDNA構築物の少なくとも1つの複製を含む、請求項
8に記載のT細胞。
【請求項18】
前記T細胞はCD4+T細胞及びCD8+T細胞から選ばれる、請求項1~
17のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項19】
DNA構築物であって、
(A)5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン
、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、及び(ix
)活性化ドメインをコードし
、
(B)5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFvドメイン、(iii)膜貫通ドメインII、(iv)活性化ドメイン
、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD138scFv、(viii)膜貫通ドメインI、及び(ix)共刺激ドメイン又は活性化ドメインをコード
する、DNA構築物。
【請求項20】
(i)前記自己切断ペプチドは配列番号26のアミノ酸配列
を有し、及び/又は、
(ii)前記リーダーペプチドは配列番号20のアミノ酸配列
を有し、及び/又は、
(iii)前記活性化ドメインは配列番号23のアミノ酸配列
を有し、及び/又は、
(iv)前記共刺激ドメインは配列番号22のアミノ酸配列
を有し、及び/又は、
(v)前記抗CD138scFvドメインは配列番号18のアミノ酸配列
を有し、及び/又は、
(vi)前記抗CD38scFvドメインは配列番号19のアミノ酸配列
を有
する、請求項
19に記載のDNA構築物。
【請求項21】
(i)前記自己切断ペプチドは、配列番号27のDNA配列
によりコードされ、及び/又は、
(ii)前記リーダーペプチドは、配列番号39のDNA配列
によりコードされ、及び/又は、
(iii)前記活性化ドメインは、配列番号31のDNA配列
によりコードされ、及び/又は、
(iv)前記共刺激ドメインは、配列番号30のDNA配列
によりコードされ、
(v)前記抗CD138scFvドメインは、配列番号28のDNA配列
によりコードされ、及び/又は、
(vi)前記抗CD38scFvドメインは、配列番号29のDNA配列
によりコードされ
る、請求項
19~20のいずれか一項に記載のDNA構築物。
【請求項22】
配列番号32のDNA配列及び配列番号33のDNA配列
を含
む、請求項
21に記載のDNA構築物。
【請求項23】
配列番号34のDNA配列
を含
む、請求項
21に記載のDNA構築物。
【請求項24】
前記DNA構築物は、配列番号32のDNA配列及び、配列番号33のDNA配列または配列番号34のDNA配列を含む、請求項
21に記載の
DNA構築物。
【請求項25】
請求項
19~24のいずれか一項に記載の前記DNA構築物を含む、ベクタ。
【請求項26】
請求項
19~24のいずれか一項に記載のDNA構築物、又は請求項
25に記載のベクタを含む、細胞。
【請求項27】
前記細胞はT細胞である、請求項
26に記載の細胞。
【請求項28】
前記T細胞はCD4+T細胞及びCD8+T細胞から選ばれる、請求項
27に記載の細胞。
【請求項29】
請求項1~
18、27又は28のいずれか一項に記載の複数のT細胞、並びに薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項30】
癌の治療を用途とする、請求項
29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記癌は骨髄腫である、請求項
30に記載の用途のための医薬組成物。
【請求項32】
骨髄腫は多発性骨髄腫である、請求項
31に記載の用途のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのキメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞であって、CARの一方はCD138に特異的に結合し、CARの他方はCD38に特異的に結合するT細胞に関する。本発明は、更に、該細胞を含む医薬組成物、癌の治療におけるその用途、具体的には多発性骨髄腫の治療における用途に関する。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は、新しく開発された養子抗腫瘍治療法である。遺伝子改変T細胞は、一般的にシグナリングエンドドメイン(CD3ζ、又はFcRのγ鎖など)、膜貫通ドメイン、並びに標的の悪性細胞上の腫瘍関連抗原に対する受容体特異性を与えるモノクローナル抗体に由来する細胞外一本鎖可変断片(scFv)で構成される、キメラ抗原受容体を発現する。キメラ抗原受容体を介して腫瘍関連抗原を結合すると、T細胞(CAR-T細胞)に発現するキメラ抗原受容体は、悪性細胞に対して細胞毒性となる免疫応答を開始する。理論的にCAR-T細胞は、腫瘍細胞表面に発現する腫瘍関連抗原(TAA)と相互作用することにより、腫瘍細胞を特異的に局在化して排除することができる。
【0003】
当該分野で急速に成長しているにも拘らず、効率的且つ安全なCAR-T治療法の開発は、多くの課題に直面している。それぞれの試験に、或いはそれぞれの患者の間に見られる臨床反応の変動に寄与し得る要因が、既知や未知を問わず、あまりにも多くある。考慮すべき要因としては、例えば、T細胞の生体内運命、腫瘍の特性、安全性が挙げられる。安全性と効力を改善するために、1つの抗原に結合すると次善の活性化をもたらすCARと、2番目の抗原を認識するキメラ共刺激受容体とで形質導入されたT細胞を生成することが提案された(Klossら、2013、Nature Biotechnology、13、71-75;国際公開第2014/055668号;国際公開第2015/142314号)。更なる要因としては標的の選択が挙げられ、これは癌治療に関して常に主要な障害物の1つとなり得るものである。確実的に腫瘍特異的な表面抗原は特定し難く、生命に係わる予期せぬ標的外毒性を軽減する効果的な機序を探し出すべきでる。
【0004】
多発性骨髄腫(MM)は、骨髄で発生する不治の形質細胞(PC)悪性腫瘍で、最終的には腎不全、反復感染による免疫抑制、貧血、骨病変を引き起こす。プロテアソーム阻害剤や免疫調節剤を含む現在の治療法は、多発性骨髄腫の患者の転帰を大幅に改善している。しかし残念ながら、ほとんどの患者は病を再発してしまい、そのような薬剤に曝露された後に選択できる治療法は限られている。CAR-T療法は、原則として、多発性骨髄腫の「通常」治療の問題を幾つか克服することができるが、CAR-T細胞療法の開発における主要な障害となり得るのは、その実質的な標的上・組織外毒性である。悪性細胞のみが発現するタンパク質は少なく、細胞表面抗原は事実上にないため、健康な組織までも標的としてしまう。従って、多発性骨髄腫におけるCAR標的の特定のためには、まず腫瘍細胞のみに特異的に発現する抗原を探し出さなければならない。CAR療法で狙われ得る潜在的な標的として幾つかの骨髄腫関連表面分子が定められた。当該標的には、CD38、CD40、CD44、CD47、CD54、CD56、CD138、CD200、CD307等が含まれる(Atanackovicら、British Journal of Haematology、2016、172、685-698)。但し、これらの標的はいずれも癌細胞にのみ存在する訳ではないため、CAR-T細胞療法に当該標的を使用すると、相当の標的外効果を伴うことになる。
【0005】
Chenら(Leukemia2017,doi:10.l038/leu.2017.302)は、骨髄腫細胞におけるBCMA及びCS1の標的化が骨髄腫巨大病変に対する応答を増強するための効果的な戦略になり得ると語っている。
【0006】
CD38はII型膜貫通型糖タンパク質の45-kDであり、脂質ラフトの細胞表面受容体と会合して細胞質のCa2+束を調節し、リンパ系細胞や骨髄系細胞のシグナル伝達を媒介する。CD38は、骨髄腫細胞に高度且つ均一に発現する一方、正常なリンパ系細胞や骨髄系細胞、非造血系の一部の組織に比較的に低レベルで発現しているため、骨髄腫の治療における潜在的な標的となる。ヒトIgG1κモノクローナル抗体であるダラツマブ(HuMax-CD38、GenMab)は、独特なCD38エピトープに結合する。前臨床研究では、ダラツマブが様々な機序によりCD38を発現する腫瘍細胞の標的TC細胞殺害を誘導できることを確認している。当該機序には、補体媒介性・抗体依存性・細胞媒介性細胞傷害作用、抗体依存性細胞食作用、アポトーシスが含まれ、それより頻度は低いがCD38の酵素活性の阻害も含まれる。抗CD38モノクローナル抗体は、例えば米国特許第7829673号に記載されている。
【0007】
CD138は、細胞外マトリックス分子のコラーゲンとフィブロネクチンとに結合する接着分子として機能する表面タンパク質である。抗CD138抗体は、例えば米国特許第9221914号にも記載されている。CD138が最も有望なマーカとして考えられているにも拘らず、免疫複合体BT062を単剤として使用した第1・2相試験では、23人の患者のうち1人だけが客観的な臨床反応を示した(Atanackovicら)。更に、CD138は多くの成熟上皮細胞にも発現している。但し、上記の臨床試験で肝臓と皮膚の毒性が観察されため、CD138を標的とするCAR-T治療により重大な副作用な生じる可能性も予想される。
【0008】
前述した他の標的にもそれぞれ長所と短所があるが、ほとんどは高度の副作用に関連しているため、標的の選択は相変わらず安全且つ効率的なCAR-T療法の開発の障壁として立ちはだかっている。標的外の副作用が少なく、長期に亘って安全な多発性骨髄腫の治療を可能とするCAR-T治療システムの開発へのニーズは、未だ満たされていない。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、多発性骨髄腫細胞において注意深く選ばれた異なる標的2つ、つまりCD38及びCD138に結合できる2つの別個のCARを発現することで、癌を効果的に治療して延命を可能にする遺伝子改変T細胞を開示する。更に、CARの1つは活性化ドメインのみを有し、2番目のCARは共刺激ドメインのみを有するように特別に設計し、T細胞の「標的上・腫瘍外」結合に係わる副作用の重症度を軽減できるCAR系を開示する。そのような設計により、副作用が低減された効率的な治療を実現する。一態様によると、本発明は、少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞であって、第1のCARはCD138に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、第2のCARはCD38に特異的に結合する抗原結合ドメインを含む、T細胞を提供する。一部の実施形態によると、CD138又はCD38に特異的に結合する抗原結合ドメインは、それぞれ、抗CD38抗体と抗CD138抗体の一本鎖可変ドメイン(scFv)である。従って、一実施形態によると、本発明は、2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、T細胞を提供する。
【0010】
一部の実施形態によると、抗CD138scFvは、配列番号13のアミノ酸配列又はその類似体を有するVLドメインと、配列番号14のアミノ酸配列又はその類似体を有するVHドメインとを含み、抗CD138scFvのVLドメイン及びVHドメインはペプチドリンカによって結合され、類似体は元の配列(親配列)に対して少なくとも70%の同一性を有する。
【0011】
他の実施形態によると、抗CD38scFvドメインは、配列番号15のアミノ酸配列又はその類似体を有するVLドメインと、配列番号16のアミノ酸配列又はその類似体を有するVHドメインとを含み、抗CD38scFvのVLドメイン及びVHドメインはペプチドリンカによって結合され、類似体は元の配列に対して少なくとも70%の同一性を有する。
【0012】
一部の実施形態によると、CARの少なくとも一方は共刺激ドメインを含み、CARの他方は活性化ドメインを含む。一実施形態によると、共刺激ドメインはCD28、4-1BB、OX40、iCOS、CD27、CD80、CD70の共刺激ドメインである。他の実施形態によると、活性化ドメインはFcRγ及びCD3-ζ活性化ドメインから選ばれる。
【0013】
一部の実施形態によると、第1のCARは共刺激ドメインを含んで活性化ドメインを欠き、第2のCARは活性化ドメインを含んで共刺激ドメインを欠く。一実施形態によると、活性化ドメインは配列番号23のアミノ酸配列又はその類似体を有し、共刺激ドメインは配列番号22のアミノ酸配列又はその類似体を有する。
【0014】
一部の実施形態によると、第1のCARの膜貫通ドメインは配列番号35のアミノ酸配列又はその類似体を有し、第2のCARの膜貫通ドメインは配列番号36のアミノ酸配列又はその類似体を有する。
【0015】
一部の実施形態によると、本発明は、2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する設計CAR-T細胞であって、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列又はその類似体を有し、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列又はその類似体を有する、T細胞を提供する。
【0016】
一実施形態によると、T細胞はCD4+T細胞である。更なる実施形態によると、T細胞はCD8+T細胞である。上記の実施形態のうちいずれかによると、T細胞は本発明のCARを発現する。
【0017】
他の態様によると、本発明は、本発明による2つ以上のCARをコードする1つ以上のDNA構築物の少なくとも1つの複製を含むT細胞を提供する。一実施形態によると、T細胞はDNA構築物の少なくとも1つの複製を含み、当該DNA構築物は、(A)5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方、並びに(B)5’位から3’位の方へ、(v)リーダーペプチド、(vi)抗CD38scFvドメイン、(vii)膜貫通ドメインII、(viii)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードし、(A)及び(B)は自己切断ペプチドによって分離される。
【0018】
一部の実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、(ix)活性化ドメインをコードする。他の実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFv、(iii)膜貫通ドメインII、(iv)活性化ドメイン、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD138scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインI、(ix)共刺激ドメインをコードする。一部の実施形態によると、自己切断ペプチドは、配列番号27のDNA配列又はその変異体によりコードされる。
【0019】
或いは、T細胞は本発明のCARをコードする2つの異なるDNA構築物を含む。第1のDNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードする配列を含み、第2のDNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFvドメイン、(iii)膜貫通ドメインII、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードする配列を含む。
【0020】
上記の実施形態のうちいずれかによると、抗CD138scFvは、配列番号28に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。他の実施形態によると、抗CD38scFvは、配列番号29のDNA配列又はその変異体によりコードされる。更なる実施形態によると、共刺激ドメインは、配列番号30のDNA配列又はその変異体によりコードされる。更に他の実施形態によると、活性化ドメインは、配列番号31のDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、リーダーペプチドは、配列番号39のDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、膜貫通ドメインIは、配列番号37に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、膜貫通ドメインIIは、配列番号38に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。
【0021】
一実施形態によると、本発明は、配列番号34のDNA配列又はその変異体を有するDNA構築物の少なくとも1つの複製を含む、T細胞を提供する。
【0022】
他の実施形態によると、本発明は、2つのDNA構築物のそれぞれの少なくとも1つの複製を含み、第1のDNA構築物は配列番号32のDNA配列又はその変異体を有し、第2のDNA構築物は配列番号33のDNA配列又はその変異体を有する、CAR-T細胞を提供する。
【0023】
他の態様によると、少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を含むDNA構築物であって、第1のCARはCD138に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、第2のCARはCD38に特異的に結合する抗原結合ドメインを含む。一実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方、(iv)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、(ix)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードする。一実施形態によると、本発明は、配列番号32のDNA配列及び配列番号33のDNA配列、又はその変異体を含むDNA構築物を提供する。更なる実施形態によると、本発明は、配列番号34のDNA配列又はその変異体を含むDNA構築物を提供する。
【0024】
他の態様によると、本発明は、本発明のDNA構築物を含むベクタを提供する。一実施形態によると、ベクタは、配列番号32のDNA配列及び配列番号33のDNA配列、又はその変異体を含むDNA構築物を含む。更なる実施形態によると、ベクタは、配列番号34のDNA配列又はその変異体を含むDNA構築物を含む。一部の実施形態によると、ベクタはウイルスベクタである。
【0025】
更に他の態様によると、本発明は、本発明のベクタのDNA構築物を含む細胞を提供する。一実施形態によると、細胞は原核細胞である。更なる実施形態によると、細胞は真核細胞である。一部の実施形態によると、細胞はヒト細胞である。更なる実施形態によると、細胞はCD4+又はCD8+T細胞等のT細胞である。
【0026】
他の態様によると、本発明は、本発明のCAR-T細胞を複数含む医薬組成物を提供する。一実施形態によると、T細胞は遺伝子改変により、本発明の2つのCARを発現する。一実施形態によると、T細胞は本発明のCARを発現する。更なる実施形態によると、T細胞は、本発明の2つのCARをコードするDNA構築物を含むか、本発明の2つのCARをコードする2つ以上の異なる構築物を含む。一部の実施形態によると、本発明の医薬組成物は、癌の治療を用途とする。一実施形態によると、癌は多発性骨髄腫である。一部の実施形態によると、T細胞は遺伝子改変により、配列番号24及び配列番号25のアミノ酸配列を有する2つのCARを発現する。
【0027】
他の態様によると、本発明は、治療を必要とする被験体の癌、例えば多発性骨髄腫を治療する方法であって、本発明のT細胞の有効量を投与することを含む方法を提供する。他の態様によると、本発明は、少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞を調製する方法であって、第1のCARは抗CD38scFvを含み、第2のCARは抗CD138scFvを含み、本発明のDNA構築物でT細胞をトランスフェクトすることを含む応報を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】二重CAR-DNA構築物を図示する図である。V
LとV
Hはリンカによって分離されたscFvの一部、T2Aは自己切断ペプチド、CD28はCD28の共刺激要素、FcRγは活性化ドメインを指す。
【
図2】IFN-γ検定で確認した、異なるCAR構築物で形質導入されたT細胞がCD38及びCD138を発現するCAG細胞株と相互作用する能力を示す。検定を4回繰り返し、そのうち代表的なものを示した。IFN-γの分泌は、図に表記されたように様々な形質導入T細胞の刺激があったことを示唆している。
【
図3A】異なるレベルでCD38及びCD138を発現する標的細胞によるCAR-T細胞の刺激を示す。異なる細胞株による刺激を示したものである。結果として、IFN-γの濃度をpg/ml(ELISA)で表した。
【
図3B】異なるレベルでCD38及びCD138を発現する標的細胞によるCAR-T細胞の刺激を示す。正常な一次組織に対するCAR-T細胞の活性を比較したものである。結果として、IFN-γの濃度をpg/ml(ELISA)で表した。
【
図4】二重CAR-T細胞によるCAG-LUC細胞の殺害を示す。ルシフェラーゼ発現CAG細胞を、形質導入CAR-T細胞とインキュベートした。
【
図5】ヒトCAG多発性骨髄腫細胞株と対照群をそれぞれ移植したNSGマウスから得た組織の抗ヒトCD138免疫組織学的特徴の画像を示す。
【
図6】CAG多発性骨髄腫細胞を注射し、異なるCAR構築物で形質導入されたT細胞で治療したマウスの生存曲線である。
【
図7】CAG細胞株を移植され、SW1又は二重CARで治療した生存マウスの組織にヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色を施したものである。
【
図8】治療を受けたマウスにおけるルシフェラーゼ発現多発性骨髄腫(CAG-Luc)の画像を示す。異なるCARを注射(8日目)し、続いてMM CAG-Lucを注射したマウスの治療効果をモニターした。
【
図9】マウスの皮膚(左側のマウス:CAR-CD38-T細胞で治療)に対するCD138-CAR-T細胞の毒性を示す。二重CAR-T細胞で治療したときは副作用が生じなかった(右側)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
一態様によると、本発明は、少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞であって、第1のCARはヒトCD138に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、第2のCARはヒトCD38に特異的に結合する抗原結合ドメインを含む、T細胞を提供する。
【0030】
本明細書で用いられる「T細胞」とは、当技術分野で周知の、様々な細胞性免疫反応に関与する胸腺により生成、又は処理される種類のリンパ球を指す。当該用語は、必要に応じてベクタを使用し、DNA又はRNAポリペプチドなどの核酸で形質導入されたT細胞を網羅する。本発明のT細胞は、T細胞に対して感染又はエレクトロポレーションにより形質導入を施す、DNA又はRNAによりコードされるCAR分子を発現できる。
【0031】
本明細書で用いられる「キメラ抗原受容体」と「CAR」は、互いに同様の意味を有し、細胞上で発現される設計受容体、つまりタンパク質を指す。一般的に、CARは、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内ドメインを含む細胞外ドメイン(細胞外部分)を含む。
【0032】
細胞外ドメインは、抗原結合ドメインを含み、必要に応じてスペーサまたはヒンジ領域を含む。
【0033】
CARの抗原結合ドメインは、特定の抗原を標的とする。標的領域は、抗体の全長重鎖、Fab断片、又は抗体の一本鎖可変断片(scFv)を含み得る。抗原結合ドメインは、CARが使用されるのと同一の、或いは相違する種に由来し得る。一実施形態では、抗原結合ドメインはscFvである。
【0034】
CARの細胞外スペーサ又はヒンジ領域は、抗原結合ドメインと膜貫通ドメインの間にある。細胞外スペーサドメインには、抗体のFc断片、或いはその断片又は誘導体、抗体のヒンジ領域、或いはその断片又は誘導体、抗体のCH2領域、抗体のCH3領域、付属タンパク質、人工スペーサ配列、又はそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限られる訳ではない。
【0035】
本明細書で用いられる「膜貫通ドメイン」とは、細胞膜を横切り、又は橋渡しするCARの領域を指す。本発明のCARの膜貫通ドメインは、膜貫通タンパク質、人工疎水性配列、又はそれらの組み合わせの膜貫通領域である。一部の実施形態によると、当該用語は、細胞外スペーサ又はヒンジ領域を有する膜貫通ドメインも含む。
【0036】
抗体、その断片、又はCARの抗原結合ドメインに関して本明細書で用いられる「特異的に結合」又は「特異的」とは、特定の抗原を認識して結合するが、試料における他の分子は実質的に認識せず、結合もしない抗原結合ドメインを指す。当該用語は、抗原結合ドメインがその抗原に高い親和性で結合し、他の抗原に低い親和性で結合することを示唆する。ある種の抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインが、別の種の抗原にも結合する場合があるが、このような種間反応性は、特定の抗原結合ドメインの定義に反する訳ではない。
【0037】
細胞内ドメインとは、T細胞受容体又は他の受容体(例えば、TNFRスーパーファミリーメンバー)、或いはその一部の細胞内ドメインであり、細胞内活性化ドメイン(例えば、免疫受容体チロシン系の活性化モチーフ(ITAM)を含むT細胞活性化モチーフ)、細胞内共刺激ドメイン、又はその両方等を指す。
【0038】
本明細書で用いられる本発明の「遺伝子改変T細胞」と「CAR-T細胞」は、互いに同様の意味を有する。
【0039】
本明細書で用いられる「CD38」と「ヒトCD38」は互いに同様の意味を有し、ヒト分化分類38(CD38)、ADP-リボシルシクラーゼ1、cADPrヒドロラーゼ1、環状ADP-リボースヒドロラーゼ1、T10と呼ばれ、拡張番号EC3.2.2.5を有するタンパク質を指す。本明細書で用いられる「抗CD38」又は「αCD38」は、ヒトCD38に特異的に結合する抗体の抗原結合ドメインである。一実施形態によると、抗原結合ドメインはCARの抗原結合ドメインである。他の実施形態によると、抗原結合ドメインはscFvである。更なる実施形態によると、抗原結合ドメインはヒトCD38のエピトープに結合し、具体的には、ヒトCD38の細胞外ドメインのエピトープに結合する。
【0040】
本明細書で用いられる「CD138」と「ヒトCD138」は互いに同様の意味を有し、Syndecan1、SDC1、CD138、SDC、又はSYND1と呼ばれ、アクセッション番号P18827のタンパク質を指す。本明細書で用いられる「抗CD138」又は「αCD138」は、ヒトCD138に特異的に結合する抗体の抗原結合ドメインである。一実施形態によると、抗原結合ドメインはCARの抗原結合ドメインである。他の実施形態によると、抗原結合ドメインはscFvである。更なる実施形態によると、抗原結合ドメインはヒトCD138のエピトープに結合し、具体的には、ヒトCD138の細胞外ドメインのエピトープに結合する。
【0041】
一部の実施形態によると、本発明のCARの抗原結合ドメインはscFvである。一実施形態によると、本発明は、少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞であって、第1のCARはヒトCD138に特異的に結合するscFv抗原結合ドメイン(抗CD138scFv)を含み、第2のCARはヒトCD38に特異的に結合するscFv抗原結合ドメイン(抗CD38scFv)を含む、T細胞を提供する。
【0042】
一実施形態によると、本発明は、2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、T細胞を提供する。本明細書で用いられる「第1のCAR」とは、抗CD138scFvを含むCARを指す。本明細書で用いられる「第2のCAR」とは、抗CD38scFvを含むCARを指す。
【0043】
上記の実施形態のうちいずれかによると、抗CD138scFv結合ドメインと抗CD38scFv結合ドメインは、VLドメインとVHドメインとを含む。
【0044】
一実施形態によると、抗CD138scFvは、VLドメインとVHドメインとを含む。VLドメインは、配列番号1、2、3の配列を有する、或いはそれからなる3つの相補性決定領域(CDR)を含み、VHドメインは、配列番号4、5、6の配列を有する、或いはそれからなる3つのCDRを含む。
【0045】
一実施形態によると、抗CD38scFvは、VLドメインとVHドメインとを含む。VLドメインは、配列番号7、8、9の配列を有する、或いはそれからなる3つの相補性決定領域(CDR)を含み、VHドメインは、配列番号10、11、12の配列を有する、或いはそれからなる3つのCDRを含む。
【0046】
一部の実施形態によると、抗CD138scFvは、配列番号1、2、3、4、5、6の配列を有する、或いはそれからなる6つのCDRを含む。抗CD138scFvは、配列番号7、8、9、10、11、12の配列を有する、或いはそれからなる6つのCDRを含む。
【0047】
本発明の態様及び実施形態のいずれかによると、本明細書で用いられる「配列番号Xに示されるアミノ酸配列を含むペプチド」、「配列番号Xを含むペプチド」、「配列番号Xを有するペプチド」は、互いに同様の意味を有する。本明細書で用いられる「配列番号Xに示されるアミノ酸配列からなるペプチド」、「配列番号Xからなるペプチド」、「配列番号Xからなるペプチド」は、互いに同様の意味を有する。
【0048】
上記の実施形態のうちいずれかによると、抗CD138scFvは、配列番号13のアミノ酸配列又はその類似体を有するVLドメインと、配列番号14のアミノ酸配列又はその類似体を有するVHドメインとを含む。抗CD138scFvのVLドメイン及びVHドメインはペプチドリンカによって結合され、類似体は元の配列に対して少なくとも70%の同一性を有する。一実施形態によると、抗CD138scFvは、配列番号13のアミノ酸配列を有するVLドメインと、配列番号14のアミノ酸配列を有するVHドメインとを含む。他の実施形態によると、VLドメインは配列番号13の類似体である。更なる実施形態によると、VHドメインは配列番号14の類似体である。一部の実施形態によると、抗CD138scFvは、配列番号13の類似体であるVLドメインと、配列番号14の類似体であるVHドメインとを含む。
【0049】
上記の実施形態のうちいずれかによると、抗CD38scFvは、配列番号15のアミノ酸配列又はその類似体を有するVLドメインと、配列番号16のアミノ酸配列又はその類似体を有するVHドメインとを含む。抗CD38scFvのVLドメイン及びVHドメインはペプチドリンカによって結合され、類似体は元の配列に対して少なくとも70%の同一性を有する。一実施形態によると、抗CD38scFvは、配列番号15のアミノ酸配列を有するVLドメインと、配列番号16のアミノ酸配列を有するVHドメインとを含む。他の実施形態によると、VLドメインは配列番号15の類似体である。更なる実施形態によると、VHドメインは配列番号16の類似体である。一部の実施形態によると、抗CD38scFvは、配列番号15の類似体であるVLドメインと、配列番号16の類似体であるVHドメインとを含む。
【0050】
本明細書で用いられる「ペプチドリンカ」とは、連結される可変ドメインの種類に応じる長さで2つの可変ドメインを連結できる任意のペプチドを指す。一部の実施形態によると、ペプチドリンカは、配列番号17のアミノ酸配列を有するペプチドである。更なる実施形態によると、ペプチドリンカは、配列番号17を有するペプチドの類似体である。
【0051】
上述した通り、scFvは、ペプチドリンカによってVLドメインに連結されたVHドメインを含む。一部の実施形態によると、VHはVLのN末端に位置する。更なる実施形態によると、VLはVHのN末端に位置する。
【0052】
一部の実施形態によると、本発明は、2つのCARを発現する遺伝子改変T細胞であって、1つのCARは、配列番号13を有するVLドメインと、配列番号14のアミノ酸配列を有するVHドメインとを含む抗CD138scFvを含み、2番目のCARは、配列番号15を有するVLドメインと、配列番号16のアミノ酸配列を有するVHドメインとを含む抗CD138scFvを含む、T細胞を提供する。一部の実施形態によると、抗CD138scFv及び/又は抗CD38scFvのVLドメイン及びVHドメインは、配列番号17のアミノ酸配列を有するペプチドリンカによって結合される。
【0053】
本発明細書で用いられる「ペプチド」とは、ペプチド結合、つまり1つのアミノ酸のカルボキシル基と隣接するアミノ酸のアミノ基との間に形成される共有結合によって連結されたアミノ酸残基の短鎖を指す。「ペプチド」とは、最大50個のアミノ酸を有する短い配列を指す。50個のアミノ酸より長いアミノ酸単量体の鎖は「ポリペプチド」と呼ばれる。当該ポリペプチドは、50個を超えるアミノ酸残基を有する場合、タンパク質、より具体的には低分子量のタンパク質又は中分子量のタンパク質として分類することもできる。
【0054】
本明細書で用いられる「ペプチド類似体」、「類似体」、「配列類似体」、「類似配列」、「配列番号Xの類似体」は互いに同様の意味を有し、元のペプチドに対して少なくとも70%の配列同一性を有するペプチドの類似体を指す。類似体は元のペプチドの活性を保持し、Xは配列の番号を表す。従って「類似体」と「活性類似体」も同様の意味を有すると解釈できる。「類似体」とは、それぞれ元の(親)ペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列に、それぞれ置換、再配置、欠失、付加、及び/又は化学修飾を施したペプチド又はタンパク質を指す。一部の実施形態によると、ペプチド類似体は、元のペプチドに対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、或いは少なくとも99%の配列同一性を有する。一実施形態によると、類似体は、元のペプチドに対して約80%~約99%、約85%~約98%、或いは約90%~約95%の配列同一性を有する。一部の実施形態によると、本発明の類似体は、元のペプチドの配列に対して1、2、3、4、又は5つの置換が行われたものを含む。
【0055】
アミノ酸の置換は、保存的置換であってもよく、非保存的置換であってもよい。非保存的置換は、1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することを含む。
【0056】
一部の実施形態によると、「類似体」は「保存的類似体」を網羅する。
【0057】
当業者にも周知のように、アミノ酸の保存的置換は、本発明の範囲内にある。保存的アミノ酸置換には、1つのアミノ酸を、同じ官能基又は側鎖を有する別のアミノ酸、例えば、脂肪族アミノ酸、芳香族アミノ酸、正に荷電したアミノ酸、負に荷電したアミノ酸に取り替えることが含まれる。当業者であれば、個々の置換が「保存的に修飾された類似体」であり、それにより化学的に類似したアミノ酸によるアミノ酸の置換が生じることを認識するはずである。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野では周知である。保存的置換の例を下記に示す。
【0058】
次の6群にはそれぞれ、互いに保存的置換となるアミノ酸が含まれている。
(1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)
(2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)
(3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)
(4)アルギニン(R)、リジン(K)
(5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)
(6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)
他の実施形態では、保存的置換は、化学的に類似した非天然アミノ酸での置換を網羅する。
【0059】
従って一部の実施形態では、類似体は、抗CD38又は抗CD138のいずれかのscFvの保存的類似体である。一部の実施形態によると、本発明の保存的類似体は、元のscFvの配列に対して1、2、3、4、又は5つの保存的置換が行われたものを含む。更なる実施形態によると、類似体は、元のペプチドのアミノ配列に対して1、2、又は3つの保存的置換が行われた配列からなる。従って、類似体は、元のペプチドの、1、2、又は3つの保存的置換が行われたアミノ配列からなる。
【0060】
一部の実施形態によると、抗CD138scFvは配列番号18のアミノ酸配列を有する。他の実施形態によると、抗CD138scFvは配列番号18のアミノ酸配列からなる。
【0061】
他の実施形態によると、抗CD38scFvは配列番号19のアミノ酸配列を有する。他の実施形態によると、抗CD38scFvは配列番号19のアミノ酸配列からなる。
【0062】
更なる実施形態によると、抗CD138scFvは配列番号18のアミノ酸配列を有し、抗CD38scFvは配列番号19のアミノ酸配列を有する。更なる実施形態によると、抗CD138scFvは配列番号18のアミノ酸配列からなり、抗CD38scFvは配列番号19のアミノ酸配列からなる。
【0063】
上記の実施形態のうちいずれかによると、CARの細胞外ドメインはリーダーペプチドを含む。一実施形態によると、リーダーペプチドは、scFvのN末端に位置する。本明細書で用いられる「リーダーペプチド」、「リードペプチド」、「シグナルペプチド」は、互いに同様の意味を有し、細胞膜に対して標的タンパク質を転位させる、又は転位を促すペプチドを指す。
【0064】
一実施形態によると、第1のCARは、抗CD138scFvのN末端に位置する配列番号20を含むリーダーペプチドを含む。更なる実施形態によると、配列番号20を含むリーダーペプチドは、配列番号18を含む、或いはそれからなる抗CD138scFvのN末端に位置する。
【0065】
一実施形態によると、第2のCARは、抗CD38scFvのN末端に位置する配列番号20を含むリーダーペプチドを含む。更なる実施形態によると、配列番号20を含むリーダーペプチドは、配列番号19を含む、或いはそれからなる抗CD38scFvのN末端に位置する。
【0066】
上記の実施形態のうちいずれかによると、CARの少なくとも一方は共刺激ドメインを含み、CARの少なくとも他方は活性化ドメインを含む。
【0067】
一部の実施形態によると、第1のCARは共刺激ドメインを含み、第2のCARは活性化ドメインを含む。一部の実施形態によると、第1のCARは活性化ドメインを含み、第2のCARは共刺激ドメインを含む。
【0068】
一部の実施形態によると、共刺激ドメインはCD28、4-1BB、OX40、iCOS、CD27、CD80、CD70の共刺激ドメインから選ばれる。一実施形態によると、共刺激ドメインはCD28の共刺激ドメインである。他の実施形態によると、共刺激ドメインは配列番号20のアミノ酸配列を有する。更なる実施形態によると、共刺激ドメインは配列番号22の類似体である。
【0069】
本明細書で用いられる「活性化ドメイン」と「活性化要素」は、互いに同様の意味を有し、細胞内シグナリングドメインを指す。一部の実施形態によると、活性化ドメインはFcRγ及びCD3-ζから選ばれる。一実施形態によると、活性化ドメインは配列番号23のアミノ酸配列を有する。更なる実施形態によると、活性化ドメインは配列番号23の類似体である。
【0070】
本発明の教示のよると、共刺激ドメインと活性化ドメインとを分離し、「標的上・腫瘍外」効果を低減することが好ましい。従って一実施形態によると、CARの一方は共刺激ドメインのみを含み、CARの他方は活性化ドメインのみを含む。故に、一部の実施形態では、抗CD138scFvを含む第1のCARは、共刺激ドメインを含んで活性化ドメインを欠き、抗CD38scFvを含む第2のCARは、活性化ドメインを含んで共刺激ドメインを欠く。更なる実施形態によると、第1のCARは、活性化ドメインを含んで共刺激ドメインを欠き、第2のCARは、共刺激ドメインを含んで活性化ドメインを欠く。
【0071】
更なる実施形態によると、CARの少なくとも一方は活性化ドメインと共刺激ドメインとの両方を含む。
【0072】
更なる実施形態によると、第2のCARは活性化ドメインと共刺激ドメインとの両方を含む。当該実施形態によると、第1のCARは、共刺激ドメインを含んで活性化ドメインを欠く。
【0073】
一部の実施形態によると、活性化ドメインは配列番号23のアミノ酸配列を有し、共刺激ドメインは配列番号22のアミノ酸配列を有する。一実施形態によると、活性化ドメインは配列番号23の類似体である。更なる実施形態によると、共刺激ドメインは配列番号22の類似体である。
【0074】
一実施形態によると、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含む。更なる実施形態によると、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む。一実施形態によると、本発明は、2つのCAR含む設計CAR-T細胞であって、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含み、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む、T細胞を提供する。
【0075】
上記の実施形態のうちいずれかによると、CARは、膜貫通ドメイン(TM)とヒンジドメインとを含む。本発明の教示によると、TMドメインに関して用いられる場合はヒンジドメインも含まれ、膜貫通ドメインの配列にはヒンジドメインの配列も含まれる。一実施形態によると、第1のCARは、配列番号35のアミノ酸配列を有するTMドメインI(TM-I)を含む。更なる実施形態によると、第2のCARは、配列番号36のアミノ酸配列を有するTMドメインII(TM-II)を含む。
【0076】
一部の実施形態によると、本発明は、2つのキメラ抗原受容体(CAR)を発現する設計T細胞であって、第1のCARは配列番号24に示されるアミノ酸配列を有し、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列を有する、T細胞を提供する。一実施形態によると、第1のCARは、配列番号24の類似体であるアミノ酸配列を有する。他の実施形態によると、第2のCARは、配列番号25の類似体であるアミノ酸配列を有する。更なる実施形態によると、第1のCARは配列番号24に類似するアミノ酸配列を有し、第2のCARは配列番号25に類似するアミノ酸配列を有する。一実施形態によると、本発明は、2つのキメラ抗原受容体(CAR)を発現する設計T細胞であって、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列からなり、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列からなる、T細胞を提供する。一部の実施形態によると、変異体は、元の配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有する。他の実施形態によると、変異体は、元の配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の配列同一性を有する。
【0077】
上記の実施形態のうちいずれかによると、T細胞はCD4+T細胞及びCD8+T細胞から選ばれる。従って、一実施形態では、本発明は、2つの別個のCARを発現する遺伝子改変CD4+T細胞であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、T細胞を提供する。更なる実施形態によると、本発明は、2つの別個のCARを発現する遺伝子改変CD8+T細胞であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、T細胞を提供する。一部の実施形態によると、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含む。更なる実施形態によると、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む。一実施形態によると、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含み、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む。一実施形態によると、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列又はその類似体を有し、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列又はその類似体を有する。更なる実施形態によると、本発明は、2つの別個のCARを発現する遺伝子改変CD4+及び/又はCD8+T細胞であって、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列からなり、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列からなる、T細胞を提供する。
【0078】
上記の実施形態のうちいずれかによると、本発明のT細胞は、2つの別個のCARを発現でき、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む。一部の実施形態によると、本発明は、2つの別個のCARを発現するT細胞であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、T細胞を提供する。一部の実施形態によると、T細胞はCD4+T細胞及びCD8+T細胞から選ばれる。従って、一実施形態では、本発明は、2つの別個CARを発現するCD4+T細胞であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、T細胞を提供する。更なる実施形態によると、本発明は、2つの別個CARを発現するCD8+T細胞であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、T細胞を提供する。一部の実施形態によると、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含む。更なる実施形態によると、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む。一実施形態によると、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含み、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む。一実施形態によると、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列又はその類似体を有し、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列又はその類似体を有する。更なる実施形態によると、本発明は、2つの別個のCARを発現するCD4+及び/又はCD8+T細胞であって、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列からなり、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列からなる、T細胞を提供する。
【0079】
他の態様によると、2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする1つ以上のDNA構築物の少なくとも1つの複製を含むT細胞であって、第1のCARはCD138に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、第2のCARはCD38に特異的に結合する抗原結合ドメインを含む、T細胞を提供する。一実施形態によると、本発明のCARの抗原結合ドメインはscFvである。従って、T細胞は、少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする1つ以上のDNA構築物の少なくとも1つの複製を含み、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む。一実施形態によると、2つのCARは1つのDNA構築物によりコードされる。更なる実施形態によると、2つのCARは2つの異なるDNA構築物によりコードされる。一実施形態によると、T細胞は、本発明のCARを発現する、或いは発現することができる。
【0080】
本明細書で用いられる「DNA構築物」とは、人工的に構築された核酸のセグメントを指す。DNA構築物は単離物である、或いは、別のDNA分子に統合されることができる。従って、「組換えDNA構築物」は実験室手法により生成される。「核酸」は、DNA、RNA、一本鎖や二本鎖、並びにそれらの化学修飾を網羅する。本明細書で用いられる「核酸」と「ポリヌクレオチド」は、互いに同様の意味を有する。
【0081】
本発明のCARは、1つのDNA構築物、又は2つ以上のDNA構築物によりコードされてもよい。
【0082】
一部の実施形態によると、本発明の2つのCARは1つのDNA構築物によりコードされる。従って、一実施形態では、本発明は、DNA構築物の少なくとも1つの複製を含むT細胞であって、当該DNA構築物は、(A)5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方、並びに(B)5’位から3’位の方へ、(v)リーダーペプチド、(vi)抗CD38scFvドメイン、(vii)膜貫通ドメインII、(viii)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードし、(A)及び(B)は自己切断ペプチドによって分離される、T細胞を提供する。一実施形態によると、本発明は、DNA構築物の少なくとも1つの複製を含むT細胞であって、当該DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、(ix)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードする、T細胞を提供する。
【0083】
一実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、(ix)活性化ドメインをコードする。更なる実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFv、(iii)膜貫通ドメインII、(iv)活性化ドメイン、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD138scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインI、(ix)共刺激ドメインをコードする。
【0084】
上述の態様で言及された定義及び実施形態、特にCAR、それらの一部やドメイン、DNA構築物、T細胞に関する定義及び実施形態は、全て援用され、含まれる。
【0085】
一実施形態によると、自己切断ペプチドは、配列番号26を有するペプチド又はその活性類似体である。更なる実施形態によると、自己切断ペプチドはIRESペプチド又はその類似体である。更なる実施形態によると、自己切断ペプチドは、配列番号27のDNA配列又はその変異体によりコードされる。
【0086】
本明細書で用いられる「変異体」、「DNA変異体」、「配列変異体」、「ポリヌクレオチド変異体」、「配列番号Xの変異体」は互いに同様の意味を有し、元のポリヌクレオチドに対して少なくとも70%の配列同一性を有するDNAポリヌクレオチドを指す。Xは配列の番号を表す。変異体は、欠失、付加、又は置換などの突然変異を含んでもよく、但し該突然変異を以ってしても、オープンリーディングフレームは変更されず、ポリヌクレオチドは、元のポリヌクレオチドによりコードされたペプチドやタンパク質と実質的に同様の構造や機能を有するペプチドやタンパク質をコードする。一部の実施形態によると、変異体は保存的変異体である。本明細書で用いられる「保存的変異体」とは、所与のコドン位置における1つ以上のヌクレオチドの変化が、その位置でコードされるアミノ酸に変化をもたらさない変異体を指す。従って、保存的変異体によりコードされるペプチドやタンパク質は、元のポリヌクレオチドによりコードされるペプチドやタンパク質に対して100%の配列同一性を有する。一部の実施形態によると、変異体は、元のポリヌクレオチドによりコードされるペプチドやタンパク質の保存的類似体であるペプチドやタンパク質をコードする非保存的変異体である。一部の実施形態によると、変異体は、元のポリヌクレオチドに対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0087】
一部の実施形態によると、本発明のCARは2つ以上の異なるDNA構築物によりコードされる。従って一部の実施形態では、本発明は、2つの異なるDNA構築物を含むT細胞であって、第1のDNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI(TM-I)、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードする配列を含み、第2のDNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFvドメイン、(iii)膜貫通ドメインII(TM-II)、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードする配列を含む、T細胞を提供する。一実施形態によると、第1のDNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)TM-I、(iv)共刺激ドメインをコードする配列を含む。更なる実施形態によると、第2のDNA構築物は、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFvドメイン、(iii)TM-II、(iv)活性化ドメインをコードする配列を含む。一実施形態によると、第1のDNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI(TM-I)、(iv)共刺激ドメインをコードする配列を含み、第2のDNA構築物は、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFvドメイン、(iii)TM-II、(iv)活性化ドメインをコードする配列を含む。
【0088】
上記の実施形態のうちいずれかによると、2つのCARのいずれかが1つ又は2つの別個のDNA構造によりコードされ、リーダーペプチドは、配列番号20のアミノ配列又はその類似体を有する。他の実施形態によると、活性化ドメインは、配列番号23のアミノ配列又はその類似体を有する。更なる実施形態によると、共刺激ドメインは、配列番号22のアミノ配列又はその類似体を有する。更に他の実施形態によると、抗CD138scFvは、配列番号18のアミノ配列又はその類似体を有する。特定の実施形態によると、抗CD38scFvは、配列番号19のアミノ配列又はその類似体を有する。一部の実施形態によると、TM-Iは、配列番号35のアミノ酸配列を有する。更に他の実施形態に、TM-IIは、配列番号36のアミノ酸配列を有する。一部の実施形態によると、リーダーペプチドは配列番号39に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされ、及び/又は、抗CD138scFvは、配列番号28に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされ、及び/又は、抗CD38scFvは、配列番号29に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされ、及び/又は、共刺激ドメインは、配列番号30に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされ、及び/又は、活性化ドメインは、配列番号31に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、膜貫通ドメインIは、配列番号37に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、膜貫通ドメインIIは、配列番号38に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。当該実施形態によると、類似体又は変異体は、元の配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有する。
【0089】
他の実施形態によると、両方のCARをコードするDNA構築物は、配列番号28を含む。他の実施形態によると、DNA構築物は、配列番号28の変異体、例えば保存的変異体を含む。
【0090】
一部の実施形態によると、2つのCARは2つの異なるDNA構築物によりコードされ、第1のDNA構築物は配列番号28を含む。他の実施形態によると、第1のDNA構築物は、配列番号28の変異体、例えば保存的変異体を含む。
【0091】
一部の実施形態によると、両方のCARをコードするDNA構築物は、配列番号29を含む。他の実施形態によると、DNA構築物は、配列番号29の変異体、例えば保存的変異体を含む。
【0092】
一部の実施形態によると、2つのCARは2つの異なるDNA構築物によりコードされ、第2のDNA構築物は配列番号29を含む。他の実施形態によると、第2のDNA構築物は、配列番号29の変異体、例えば保存的変異体を含む。
【0093】
一部の実施形態によると、共刺激ドメインは配列番号30に示されるDNA配列によりコードされ、活性化ドメインは配列番号31に示されるDNA配列によりコードされる。
【0094】
一実施形態によると、2つのCARは、5’位から3’位の方へ配列番号28、30、29、31のDNA配列を含む1つDNA構築物によりコードされる。
【0095】
一部の実施形態によると、DNA構築物は配列番号32又はその変異体を含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は配列番号33又はその変異体を含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は5’位から3’位の方へ配列番号32と配列番号33とを含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は5’位から3’位の方へ配列番号33と配列番号32とを含む。
【0096】
一実施形態によると、本発明は、本発明の2つのCARをコードするDNA構築物を含むT細胞であって、DNA構築物は配列番号34を有する、T細胞を提供する。更なる実施形態によると、DNA構築物は、配列番号34の変異体、例えば保存的変異体である。他の実施形態によると、変異体は元の配列に対して少なくとも90%、少なくともの95%、又は少なくとも98%の配列同一性を有する。
【0097】
一部の実施形態によると、本発明は、本発明の2つのCARをコードする2つのDNA構築物を含むT細胞であって、第1のDNA構築物は配列番号32を含み、第2のDNA構築物は配列番号33を含む、T細胞を提供する。一実施形態によると、第1のDNA構築物は、配列番号32の変異体、例えば保存的変異体であるDNA配列を有する。一実施形態によると、第2のDNA構築物は、配列番号33の変異体、例えば保存的変異体であるDNA配列を有する。更なる実施形態によると、T細胞は2つのDNA構築物を含み、第1のDNA構築物は配列番号32の変異体であるDNAを含み、第2のDNA構築物は配列番号33の変異体であるDNA配列を含む。一部の実施形態によると、変異体は元の配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有する。他の実施形態によると、変異体は元の配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の配列同一性を有する。
【0098】
上記の実施形態のうちいずれかによると、本発明のDNA構築物を含むT細胞は、DNA構築物によりコードされるCARを発現する、或いは発現することができる。
【0099】
本明細書でDNA構築物に関して用いられる「発現」又は「発現する」とは、その構築物の転写産物及び/又は翻訳産物を指す。細胞におけるDNA分子の発現レベルは、細胞内に存在する対応mRNAの量、又は細胞により生成されたそのDNAによりコードされるタンパク質の量のいずれかに基づいて定められてもよい。一部の実施形態によると、発現は条件付き発現である。
【0100】
更なる態様によると、本発明は、2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸構築物であって、第1のCARはCD138に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、第2のCARはCD38に特異的に結合する抗原結合ドメインを含む、核酸構築物を提供する。一実施形態によると、核酸構築物は2つの別個のキメラ抗原受容体をコードし、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む。一実施形態によると、核酸構築物はDNAである。従って一実施形態では、本発明は、2つの別個のキメラ抗原受容体をコードするDNA構築物であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、DNA構築物を提供する。
【0101】
一実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、(ix)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードする。
【0102】
一実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、(ix)活性化ドメインをコードする。更なる実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD38scFv、(iii)膜貫通ドメインII、(iv)活性化ドメイン、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD138scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインI、(ix)共刺激ドメインをコードする。一実施形態によると、リーダーペプチドは、配列番号20のアミノ配列又はその類似体を有する。他の実施形態によると、活性化ドメインは、配列番号23のアミノ配列又はその類似体を有する。更なる実施形態によると、共刺激ドメインは、配列番号22のアミノ配列又はその類似体を有する。更に他の実施形態によると、抗CD138scFvは、配列番号18のアミノ配列又はその類似体を有する。特定の実施形態によると、抗CD38scFvは、配列番号19のアミノ配列又はその類似体を有する。一部の実施形態によると、TM-Iは、配列番号35のアミノ酸配列を有する。更に他の実施形態に、TM-IIは、配列番号36のアミノ酸配列を有する。
【0103】
一部の実施形態によると、リーダーペプチドは配列番号39に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。他の実施形態によると、抗CD138scFvは、配列番号28に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、抗CD38scFvは、配列番号29に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、共刺激ドメインは、配列番号30に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。更に他の実施形態によると、活性化ドメインは、配列番号31に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、共刺激ドメインは配列番号30のDNA配列によりコードされ、活性化ドメインは配列番号31によりコードされる。一部の実施形態によると、自己切断ペプチドは、配列番号27のDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、膜貫通ドメインIは、配列番号37に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。一部の実施形態によると、膜貫通ドメインIIは、配列番号38に示されるDNA配列又はその変異体によりコードされる。
【0104】
一実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ配列番号28、30、29、31のDNA配列を含む。
【0105】
一部の実施形態によると、DNA構築物は配列番号32又はその変異体を含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は配列番号33又はその変異体を含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は5’位から3’位の方へ配列番号32と配列番号33とを含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は5’位から3’位の方へ配列番号33と配列番号32とを含む。一部の実施形態によると、DNA構築物は、配列番号32の配列と配列番号33の配列との間に、配列番号27のDNA配列を有する自己切断配列を含む。
【0106】
一部の実施形態によると、本発明は、配列番号34を含む核酸構築物を提供する。一部の実施形態によると、本発明は、配列番号34からなる核酸構築物を提供する。更なる実施形態によると、DNA構築物は配列番号34の変異体、例えば保存的変異体である。
【0107】
一部の実施形態によると、DNA構築物はプロモータに機能的に連結されている。本明細書で用いられる「プロモータ」とは、下流側の核酸の転写を開始する調節配列を指す。「プロモータ」とは、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始することのできる部位を画定する、より大きなDNA配列内のDNA配列を指す。プロモータは、任意の遠位エンハンサ又はリプレッサ要素を含んでもよい。プロモータは、相同、つまり天然に存在しながら所望の核酸を発現させるもの、又は異種、つまり天然に存在しながら所望の核酸以外の遺伝子に由来する核酸を発現させるもののいずれかであってもよい。プロモータは構成的プロモータであってもよく、誘導プロモータであってもよい。構成的プロモータは、ほとんどの環境や発生条件下で活性を示すプロモータである。誘導プロモータは、環境や発生に制限がかけられて活性を示すプロモータである。プロモータは、全体が天然遺伝子に由来してもよく、天然遺伝子のセグメント又は断片を含んでもよく、或いは、天然に見出される異なるプロモータに由来する異なる要素から構成されてもよく、ましてや合成DNAセグメントを含んでもよい。当業者であれば、異なるプロモータが、異なる組織や細胞型において、或いは発生の異なる段階において、或いは異なる環境や生理学的条件に応じて、遺伝子の発現を惹起してもよいことを理解するはずである。更に、同じプロモータは、異なる組織において差次的に発現され、及び/又は、異なる条件下で差次的に発現されてもよい。
【0108】
他の態様によると、本発明は、本発明の核酸構築物を含むベクタを提供する。一実施形態によると、DNA構築物は、2つの別個のキメラ抗原受容体をコードし、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む。更なる実施形態によると、ベクタは、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、(ix)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方をコードするDNA構築物を含む。一部の実施形態によると、DNA構築物は、5’位から3’位の方へ配列番号28、30、29、31のDNA配列を含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は5’位から3’位の方へ配列番号32と配列番号33とを含む。一部の実施形態によると、DNA構築物は、配列番号32の配列と配列番号33の配列との間に、配列番号27のDNA配列を有する自己切断配列を含む。更に他の実施形態によると、本発明は、配列番号34を含むDNA構築物を含むベクタを提供する。更なる実施形態によると、本発明は、配列番号34からなるDNA構築物を含むベクタを提供する。
【0109】
本明細書で用いられる「ベクタ」と「発現ベクタ」は、互いに同様の意味を有し、ウイルスベクタ又は非ウイルスベクタを指す。例としては、プラスミド、ウイルス、レトロウイルス、バクテリオファージ、コスミド、人工染色体(細菌又は酵母)、ファージ、二本鎖又は一本鎖の線状又は環状の形状を有するバイナリーベクタ、或いは、宿主細胞を形質転換でき、任意で宿主細胞を複製できる核酸配列が挙げられる。ベクタは細胞ゲノムに組み込まれてもよいし、染色体外に存在してもよい(例えば、複製起点を有する自律複製プラスミド)。ベクタは、形質転換細胞の同定に適した任意のマーカ、例えば、テトラサイクリン耐性又はアンピシリン耐性のものを含んでもよい。クローニングベクタは、発現ベクタとして機能するために必要な機能を備えていてもよく、備えていなくともよい。
【0110】
他の実施形態によると、ベクタはウイルス、例えば組換えウイルス又は設計ウイルスである。ベクタの改変は、欠失又は挿入突然変異、遺伝子欠失又は遺伝子封入などの突然変異を含んでもよい。具体的には、突然変異は、ウイルスゲノムの1つ以上の領域で行われてもよい。上記の突然変異は、内部構造タンパク質、複製、又は逆転写機能に関連する領域に導入されてもよい。ベクタ改変の他の例としては、ウイルスの病原性及び/又はその複製能力に係わる遺伝子などの、天然の感染性ベクタを構成する特定の遺伝子の欠失が挙げられる。
【0111】
一実施形態によると、ベクタはウイルスベクタである。本明細書に開示される方法により、任意のウイルスを使用することができる。ウイルスは、dsDNAウイルス(例:アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス)、一本鎖プラス鎖DNAウイルス(例:パルボウイルス)、二本鎖RNAウイルス(例:レオウイルス)、一本鎖RNAウイルス(例:ピコマウイルス、トガウイルス)、一本鎖マイナス鎖RNAウイルス(例:オルソミクソウイルス、ラブドウイルス)、DNA中間体を有する一本鎖RNAウイルス(例:レトロウイルス)、又は二本鎖逆転写ウイルス(例:ヘパドナウイルス)であってもよい。本発明における特定の例としては、ポリオウイルス(PV)、ライノウイルス、鳥インフルエンザを含むインフルエンザウイルス(例:インフルエンザAウイルスのH5N1亜型)、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、感染性気管支炎ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、デング熱ウイルス(フラビウイルス血清型)、ウェストナイル熱ウイルス、エプスタインバーウイルス(EBV)、黄熱ウイルス、エボラ(エボラウイルス)、水痘(水痘帯状疱疹ウイルス)、はしか(パラミクソウイルス)、おたふく風邪(パラミクソウイルス)、狂犬病(リサウイルス)、ヒトパピローマウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV1型)、性器ヘルペス(HSV2型)が挙げられる(但し、これらの限られる訳ではない)。一部の実施形態によると、ベクタは、レンチウイルス、アデノウイルス、改変アデノウイルス、レトロウイルスから選ばれたウイルスである。特定の実施形態では、ベクタはレンチウイルスである。上記の実施形態のうちいずれかによると、ウイルスは非病原性ウイルス、又は病原性遺伝子を欠く改変ウイルスである。
【0112】
他の態様によると、本発明は、本発明のDNA構築物又はベクタを含む細胞を提供する。一部の実施形態によると、細胞は原核細胞又は真核細胞である。更なる実施形態によると、細胞は非ヒト又はヒト哺乳類細胞である。一部の実施形態によると、細胞はヒト細胞である。一部の具体的な実施形態によると、細胞はT細胞である。一実施形態によると、T細胞はCD4+T細胞及びCD8+T細胞から選ばれる。
【0113】
他の態様によると、本発明は、本発明の複数のT細胞、並びに薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0114】
上述の態様で言及された定義及び実施形態、特にCAR、それらの一部やドメイン、DNA構築物、T細胞に関する定義及び実施形態は、全て援用され、含まれる。
【0115】
本明細書で用いられる「医薬組成物」とは、1つ以上の薬学的に許容される担体と共に製剤化された本発明のT細胞を含む組成物を指す。
【0116】
医薬組成物の製剤は、用途に応じて調整してもよい。具体的には、医薬組成物は、哺乳類に投与した後に活性成分が急速放出、連続放出又は遅延放出を起こすように、当技術分野で公知の方法を使用して製剤してもよい。例えば製剤は、膏薬、顆粒、ローション、リニメント、レモネード、芳香水、粉末、シロップ、眼軟膏、液体及び溶液、エアロゾル、抽出物、エリキシル、軟膏、流エキス、乳剤、懸濁液、煎じ薬、注入液、点眼液、錠剤、坐剤、注射、酒精剤、カプセル、クリーム、トローチ、チンキ剤、ペースト、丸薬、軟ゼラチンカプセル剤、硬ゼラチンカプセル剤から選ばれたいずれかでもよい。一実施形態によると、組成物は液体製剤として調剤される。更なる実施形態によると、組成物は注射液として調剤される。
【0117】
本明細書で用いられる「薬学的に許容される担体」又は「薬学的に許容される賦形剤」は、溶剤、分散媒、防腐剤、抗酸化剤、糖衣錠、等張剤、吸収遅延剤、界面活性剤、充填剤、崩壊剤、結合剤、希釈剤、潤滑剤、流動促進剤、pH調整剤、緩衝剤、促進剤、湿潤剤、可溶化剤、界面活性剤、抗酸化剤などであって、医薬品の投与と互換性があるものを指す。医薬活性物質を補助するものとして使用される溶剤や薬剤は、当技術分野では周知のものである。組成物は、補足的な治療機能、追加的な治療機能、又は強化された治療機能を提供する他の活性化合物を含んでもよい。
【0118】
本明細書で用いられる「薬学的に許容される」と「薬理学的に許容される」は、必要に応じて動物又はヒトに投与したときに、有害な反応、アレルギー反応、その他の望ましくない反応を引き起こさない分子体及び組成物を含む。ヒト投与の場合、製剤は、政府の医薬品規制機関、例えば米国食品医薬品局(FDA)の生物製剤基準により求められる無菌性、発熱性、一般的な安全性、純度の基準を満たす必要がある。
【0119】
本発明の組成物は、任意の既知の方法により投与してもよい。本明細書において被験体に対する組成物の「投与」は、当業者に周知の様々な方法のうち1つを使用して行ってもよい。例えば、化合物又は薬剤は、静脈内投与、動脈内投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、眼内投与、舌下投与、経口投与(摂取)、鼻腔内投与(吸入)、脊髄内投与、脳内投与、経皮投与(吸収:例えば皮膚管を介する)により投薬することができる。化合物又は薬剤は更に、再充填型、又は生分解性ポリマーデバイスや他のデバイス、例えば、パッチ及びポンプ、或いは、化合物や薬剤の徐放放出又は制御放出を提供する製剤により適切に導入することもできる。投与は、例えば、1回、複数回、及び/又は長期間にわたって行うことができる。一部の実施形態では、投与には、自己投与を含む直接投与、薬物の処方を含む間接投与の両方が含まれる。例えば、本明細書において、患者に薬物の自己投与を指示する、薬物を別の人に投与するように指示する、及び/又は患者に薬物の処方箋を出す医師は、薬物を患者に投与していると言える。一実施形態によれば、医薬組成物は、非経口的に、つまりは経口ではない方法で投与される。一実施形態によれば、医薬組成物は全身投与により投薬される。更なる実施形態によると、医薬組成物は局所投与により投薬される。一実施形態によれば、医薬組成物は静脈内投与により投薬される。更なる実施形態によると、医薬組成物は筋肉内投与により投薬される。
【0120】
更なる実施形態によると、医薬組成物は、本発明のDNA構築物を含む複数のT細胞を含む。一実施形態によると、T細胞は、本発明の2つのCARをコードする1つの構築物を含む。更なる実施形態によると、T細胞は、それぞれ本発明の1つの別個のCARをコードする、2つの構築物を含む。
【0121】
一実施形態によると、医薬比較は、少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する複数の遺伝子改変T細胞を含み、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む。一部の実施形態によると、T細胞はCD4+T細胞、CD8+T細胞、或いはそれらの組み合わせから選ばれる。従って、一実施形態では、本発明は、2つの別個のCARを発現する遺伝子改変CD4+T細胞を含む医薬組成物であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、医薬組成物を提供する。更なる実施形態によると、本発明は、2つの別個のCARを発現する遺伝子改変CD8+T細胞を含む医薬組成物であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含む、医薬組成物を提供する。一部の実施形態によると、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含む。更なる実施形態によると、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む。一実施形態によると、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含み、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む。一実施形態によると、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列を有する、或いはその類似体であり、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列を有する、或いはその類似体である。更なる実施形態によると、本発明は、2つの別個のCARを発現する遺伝子改変CD4+及び/又はCD8+T細胞を含む医薬組成物であって、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列からなり、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列からなる、医薬組成物を提供する。一部の実施形態によると、T細胞はCARを発現することができる。更なる実施形態によると、T細胞はCARを発現する。
【0122】
一実施形態によると、医薬組成物は、本発明のDNA構築物を含むT細胞を含む。更なる実施形態によると、DNA構築は、5’位から3’位の方へ、(i)リーダーペプチド、(ii)抗CD138scFv、(iii)膜貫通ドメインI、(iv)共刺激ドメイン、活性化ドメイン、又はその両方、(v)自己切断ペプチド、(vi)リーダーペプチド、(vii)抗CD38scFvドメイン、(viii)膜貫通ドメインII、(ix)活性化ドメインをエンコードする。一部の実施形態によると、5’位から3’位の方へ配列番号28、30、29、31のDNA配列を含む。他の実施形態によると、DNA構築物は5’位から3’位の方へ配列番号32と配列番号33とを含む。一部の実施形態によると、DNA構築物は、配列番号32の配列と配列番号33の配列との間に、配列番号27のDNA配列を有する自己切断配列を含む。更に他の実施形態によると、本発明は、配列番号34を含むDNA構築物を含むベクタを提供する。更なる実施形態によると、本発明は、配列番号34からなるDNA構築物を含むベクタを提供する。
【0123】
上記の実施形態のうちいずれかによると、医薬組成物は、癌の治療を用途とする。
【0124】
本明細書における症状又は患者の「治療」とは、臨床結果を含む、有益な結果、又は望ましい結果を得るための措置を講じることを指す。有益な結果、又は望ましい結果は、癌の進行の改善、抑止、実質的に阻害、遅延、又は逆転すること;疾病の臨床症状又は審美的症状を実質的に改善又は緩和すること;疾患や疾病の臨床症状又は審美的症状の出現を実質的に予防すること;有害又は不快な徴候から保護することを含む(但し、これらに限られる訳ではない)。更に治療は、(a)障害の重症度を軽減すること、(b)治療を受けている障害固有の徴候の発症を抑えること、(c)治療を受けている障害固有の徴候の悪化を抑えること、(d)過去に障害があった患者における障害の再発を抑えること、(e)過去に障害に対して無症候であった患者において徴候の再発を抑えること、のうち1つ以上を達成することを指す。
【0125】
一実施形態によると、癌は骨髄腫である。更なる実施形態によると、癌は多発性骨髄腫である。
【0126】
「骨髄腫」とは、骨髄の癌を指す。「多発性骨髄腫」とは、血漿白血球の癌を指す。
【0127】
従って、一部の実施形態では、本発明は、2つの別個のCARを発現する複数の遺伝子改変T細胞を含む医薬組成物であって、第1のCARは抗CD138scFvを含み、第2のCARは抗CD38scFvを含み、多発性骨髄腫の治療を用途とする医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、当該医薬組成物は、多発性骨髄腫の治療を用途とする。一実施形態では、T細胞は、2つの別個のCARを発現する遺伝子改変CD4+T細胞又はCD8+T細胞である。一部の実施形態によると、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含む。更なる実施形態によると、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む。一実施形態によると、第1のCARは配列番号18及び配列番号22のアミノ酸を含み、第2のCARは配列番号19及び配列番号23のアミノ酸を含む。一実施形態によると、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列を有する、或いはその類似体であり、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列を有する、或いはその類似体である。更なる実施形態によると、本発明は、2つの別個のCARを発現する遺伝子改変CD4+及び/又はCD8+T細胞であって、第1のCARは配列番号24のアミノ酸配列からなり、第2のCARは配列番号25のアミノ酸配列からなる、T細胞を提供する。上記の実施形態のうちいずれかによると、T細胞は2つのCARを発現する。
【0128】
上記の態様のうちいずれかによると、「治療」とは、生存率を少なくとも1.5倍、2倍、2.5倍、又は3倍増加させることを含む。更なる実施形態によると、治療は、従来の治療、又は1つのCARを発現するT細胞による治療と比べ、副作用を低減することを含む。
【0129】
一部の実施形態によると、当該医薬組成物を用いる治療は、有害事象の発生率が著しく低い。
【0130】
他の態様によると、本発明は、本発明のT細胞の有効量を投与することを含む、治療を必要とする被験体の癌を治療する方法を提供する。更なる実施形態によると、当該方法は、本発明のT細胞を含む医薬組成物を投与することを含む。一実施形態によると、癌は骨髄腫である。更なる実施形態によると、癌は多発性骨髄腫である。
【0131】
更に他の態様によると、本発明は、少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞の、治療を必要とする被験体の癌を治療する医薬品を調製における用途を提供し、第1のCARはCD138に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、第2のCARはCD38に特異的に結合する抗原結合ドメインを含む。一実施形態によると、T細胞は本発明のDNA構築物を含む。更なる実施形態によると、T細胞は、CD138に特異的に結合する抗原結合ドメインを含むCARと、CD38に特異的に結合する抗原結合ドメインを含むCARとを、別々にコードする少なくとも2つのDNA構築物を含む。
【0132】
他の態様によると、本発明は、本発明のT細胞を調製する方法を提供する。一実施形態によると、本発明は、少なくとも2つの別個のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞を調製する方法であって、第1のCARはCD138に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、第2のCARはCD38に特異的に結合する抗原結合ドメインを含み、当該方法は、T細胞を、本発明のDNA構築物でトランスフェクトすることを含む。
【0133】
上述の態様で言及された定義及び実施形態、特にCAR、それらの一部やドメイン、DNA構築物、T細胞に関する定義及び実施形態は、全て援用され、含まれる。
【0134】
本明細書で用いられる「トランスフェクション」、「形質導入」、「トランスフェト」は、互いに同様の意味を有し、核酸分子を細胞に導入するプロセスとして定義される。核酸は、非ウイルス系、又はウイルス系の方法を用いて細胞に導入される。核酸分子は、完全なタンパク質、又はその機能的部分をコードする遺伝子配列であってもよい。非ウイルス系トランスフェクション法には、核酸分子を細胞に導入するための送達システムとしてウイルスDNA又はウイルス粒子を使用しない、任意の適合なトランスフェクション法が含まれる。非ウイルス系トランスフェクション法の例としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポソームトランスフェクション、ヌクレオフェクション、ソノポレーション、熱ショックによるトランスフェクション、マグネティフェクション、エレクトロポレーションが挙げられる。一部の実施形態では、核酸分子は、当技術分野で周知の標準手法に従い、エレクトロポレーションによって細胞に導入される。ウイルス系トランスフェクション法としては、本明細書に記載の方法において、ウイルスベクタを、有用であれば種類を問わず使用することができる。ウイルスベクタの例としては、レトロウイルスベクタ、アデノウイルスベクタ、レンチウイルスベクタ、アデノ随伴ウイルスベクタが挙げられるが、これらに限られる訳ではない。一部の実施形態では、核酸分子は、当技術分野で周知の標準手法に従い、レトロウイルスベクタを使用して細胞に導入される。
【0135】
一実施形態によると、T細胞はCD4+T細胞である。更なる実施形態によると、T細胞はCD8+T細胞である。
【0136】
一実施形態によると、当該方法は、2つのCARをコードする少なくとも1つのDNA構築物でT細胞を形質導入することを含み、構築物は、5’位から3’位の方へ配列番号28、30、29、31のDNA配列を含む。一部の実施形態によると、DNA構築物は、配列番号32又はその変異体を含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は、配列番号33又はその変異体を含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は5’位から3’位の方へ配列番号32と配列番号33とを含む。更なる実施形態によると、DNA構築物は5’位から3’位の方へ配列番号33と配列番号32とを含む。
【0137】
一実施形態によると、2つのCARをコードするDNA構築物は、配列番号34を有する。更なる実施形態によると、DNA構築物は、配列番号34の変異体、例えば保存的変異体である。
【0138】
一実施形態によると、当該方法は、それぞれ本発明の1つ別個のCARをコードする2つのDNA構築物でT細胞を形質導入することを含み、第1のDNA構築物は配列番号32に示されるDNA配列を含み、第2のDNA構築物は配列番号33に示されるDNA配列を含む。一実施形態によると、第1のDNA構築物は、配列番号32の変異体、例えば保存的変異体であるDNA配列を有する。一実施形態によると、第2のDNA構築物は、配列番号33の変異体、例えば保存的変異体であるDNA配列を有する。更なる実施形態によると、T細胞は2つのDNA構築物を含み、第1のDNA構築物は配列番号32の変異体であるDNAを含み、第2のDNA構築物は配列番号33の変異体であるDNA配列を含む。
【0139】
上記の実施形態のうちいずれかによると、形質導入は、レトロウイルスベクタ、アデノウイルスベクタ、レンチウイルスベクタ、アデノ随伴ウイルスベクタから選ばれたウイルスベクタを用いて行われる。
【0140】
一部の実施形態によると、ベクタは、形質転換細胞の同定に使用に適した任意のマーカを含んでもよい。
【0141】
「含む(comprise)」、「含む(include)」、「有する」、「包含する」は、互いに同様の意味を有し、「少なくとも一部を構成する」と解釈される。「含む(comprising)」を含む本明細書の記述の解釈に当たり、当該用語が付いている構成要素以外の要素も含まれる可能性があることを留意されたい。「comprise」や「comprises」など、類似の用語も同様に解釈する。「有する」と「含む(comprising)」は、「からなる(consisting of)」、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」との意味を網羅してもよく、これらの用語で置き換えられてもよい。「からなる」は、具体的に説明又は記載されていない要素、ステップ、又は手順を除外する。「本質的に~なる」は、組成物又は成分が追加成分を含む可能性があることを意味するが、追加成分が請求の範囲に記載された組成物又は方法の基本的且つ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られる。
【0142】
本発明の概要を説明したが、下記により詳細に説明する。説明の際に参照とする実施例は、単なる例示に過ぎず、本発明を限定する訳ではないことを留意されたい。
【実施例】
【0143】
(物質及び方法)
(細胞株及び培地)
細胞株(CAG/CAG-ルシフェラーゼ発現ヒト多発性骨髄腫細胞株、及びヒト前立腺癌細胞株PC-3)を、10%ウシ胎児血清(FCS)(Hyクローン)と2mMグルタミンとを補充したRPMI(Biological社製、イスラエル、ベイト・ヘメック)を用いて、5%CO2を含む加湿37℃インキュベーターで培養した。293Tヒト胚細胞(ATCC)とPG13(Gag-Polを発現し、pCL-Amphoウイルスエンベロープタンパク質に感染したマウス細胞株)を、10%FCS、2mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウムを補充したDMEMで培養した。細胞を、加湿したインキュベーターに入れ、37℃、7.5%CO2でインキュベートした。ヒトリンパ球を、10%FCSと50μM 2-メルカプトエタノールを補充したRPMI-1640で培養し、加湿したインキュベーターに入れ、37℃、5%CO2でインキュベートした。全ての培地に、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、ネオマイシン(10μg/ml)(Bio-Lab社製、イスラエル、エルサレム)を含む混合抗生物質溶液を補充した。PCRを使用して、全ての細胞のマイコプラズマを確認した。細胞を継代数が少ないときに凍結し、解凍後の継代数を記録した。継代数が約12となる4週間以下の期間、細胞を培養した。本研究で使用された初代培養細胞株は、Cell Biologies社に注文し、LonzoはAlmog-Eisenberg Bros社に注文した。データシートに示されているように、初代細胞がそれぞれ増殖した。
【0144】
(抗体及び試薬)
精製抗ヒトCD3は、ハイブリドーマOKT3から社内で調製した。精製抗ヒトCD28は、Southern Biotechnology Associates社(バーミンガム、USA)から購入した。ヒトIL-2はNovartis-Pharma(イギリス)から購入した。組換えHis又はヒトFcタグ付きCD38及びCD138タンパク質はSino Biological社から購入した。抗His抗体はAbeamから購入した。抗ヒトFc(γ特異的)抗体はeBioscience社から購入した。抗ヒトCD3APCはBioLegend社から入手した。抗ヒトCD38PE-cy7、抗ヒトCD-138APC、抗ヒトErbB2FITCはeBioscince社から購入した。
【0145】
(実施例1)
次の実施例では、様々なキメラ抗原受容体で形質導入されたヒトT細胞を調製して試験を行った。本実施例の目的は、多発性骨髄腫の治療に臨床的に関連する2つの異なる抗原に特異的に結合する2つの異なるCARでT細胞を形質導入するときの効力を検証することである。当該目的のために、2つの臨床的に関連する抗原としてCD38とCD138を選定し、これらの抗原に特異的に結合することを目的とした2つのCARを生成した。CARの一方は、それぞれ配列番号13及び配列番号14の配列を有するVL及びVHを有する抗CD138特異的モノクローナル抗体に由来するscFvを含む。二番目のCARは、それぞれ配列番号15及び配列番号16の配列を有するVL及びVHを有する抗CD38特異的モノクローナル抗体に由来するscFvを含む。各CARにおけるVL及びVHは、配列GSTSGSGKSSEGKG(配列番号17)を有するアミノ酸14個分のリンカで連結した。
【0146】
本実験の試験対象は、抗CD138(αCD138)scFvを有するCARと、抗CD38(αCD38)scFvを有するCARとの2つで形質導入されたT細胞であった。「標的上・腫瘍外」毒性を低減するために、2つのCAR間で共刺激ドメインと活性化シグナリング要素とを分離した。2つのCARは、共刺激ドメイン(CD28の膜貫通及び共刺激ドメインは、それぞれ、配列番号35及び配列番号22の配列を有する)のみを持つαCD138scFvを有するCARと、活性化シグナリング要素(CD8の膜貫通ドメインとFcR-γドメインは、それぞれ、配列番号36及び配列番号26の配列を有する)のみを持つαCD38scFvを有するCARとを指す。2つのCARを、配列番号26の配列を有する自己切断ペプチドT2Aを挟んで、1つのDNA構築物に配置した。構築物の概略図を
図1に示した。使用した構築物は配列番号21の配列を有していた。構築物を二重CARと称することにする。
【0147】
異なるCARを含む対照群T細胞を用意した。Switchとは、臨床的に関連性のあるCARの1つ、つまり抗CD138CAR又は抗CD38CARを抗ErbB2CARに置き換えた2つのCAR(N29と呼ばれる。ErbB2は多発性骨髄腫では発現されない)を含む対照群を指す。下記のクローンを改変T細胞の生成に用いた。
αCDl38-CD28-γ
αCD38-CD28-γ
二重CAR:αCD138-CD28-T2A-αCD38-γ
Switch1(対照群1):N29-CD28-T2A-αCD38-γ
Switch2(対照群2):αCD138-CD28-T2A-N29-γ
αCD138は抗CD138scFv、αCD38は抗CD38scFv、γはFcRy活性化ドメイン(疫受容体チロシン系活性化モチーフ:ITAM)、CD28はCD28の共刺激要素、T2Aは自己切断ペプチド、N29は抗ErbB2scFvをそれぞれ意味する。
【0148】
まず、パッケージング細胞に由来するウイルスを用いて、CARによる形質導入を受けたT細胞の能力について試験を行った。ヒト末梢血リンパ球(PBL)を48時間活性化し、関連パッケージング細胞株の上清で形質導入を行った。形質導入から2日後、細胞をタンパク質発現を観測できるように染色し、FACSで分析を行った。
【0149】
(T細胞の形質導入)
人間の健常ドナーから得た末梢血リンパ球(PBL)を、Lymphoprep勾配(Axis-shield社、ノルウェー、オスロ)で遠心分離をかけて分離し、50μM 2-メルカプトエタノールを補充した完全RPMI-1640 4mLで3×106細胞/ウェルで培養した。1μg/mlの抗CD3抗体とラット抗ヒトCD28抗体(AbD Serotec社、USA)の両方をプレコートした非組織培養処理6ウェルプレート(Falcon)で細胞を2日間刺激した。次に、活性化リンパ球を、PBSでよく洗浄して採取した。遠心分離により細胞をペレット化し、ウイルス上清に2~3×106細胞/mlの密度で再懸濁した。次に、細胞(1.5ml)を、RetroNectin(登録商標)(12μg/ml、4ml/ウェル、宝酒造株式会社、日本、大津)をプレコートした非組織培養処理6ウェルプレート(Falcon)のウェルに加えた。37℃、7.5%CO2で6時間インキュベーションした後、ウイルス上清をゆっくり除去し、IL-2(100IU/ml)を補充したリンパ球培地で置き換え、37℃・5%CO2で一晩中インキュベートした。
【0150】
翌日、形質導入の手順を繰り返した。2回目の感染の翌日、プレートをPBSでよく洗浄し、リンパ球を採取した。350IU/mlのIL-2を補充したリンパ球培地に細胞を再懸濁し、37℃、5%CO2でインキュベートした。
【0151】
CD38抗原及びCD138抗原を発現するCAG細胞株による特異的刺激を受けた構築物で形質導入を行われたT細胞の能力につき、INF-γ検定CAG細胞株を使用して試験を行った。結果を、IFN-γの濃度として
図2に示した。
図2は、手順を4回繰り返し、代表的な結果のみを示したものである。形質導入されたT細胞によるIFN-γの分泌は、とりわけ、形質導入のレベルによって事前に定義されている。
図2から視認できるように、異なるCARで形質導入されたT細胞はIFN-γ分泌を刺激した。CAR-T細胞の形質導入の比は回数ごとに異なるため、
図2にて重要なポイントは、CARが刺激され、二重CARが著しい刺激を示したとのことである。
【0152】
(結果)
まず、異なる抗原を狙う異なるCARで形質導入されたT細胞は、対応抗原を発現する細胞に応答することが分かる。二重CAR、つまりαCD138-CD28-αCD38-γで形質導入されたT細胞の、CD38とCD138の両方を発現するCAG細胞に選択的に応答する能力を比較した。CD38のみを発現するJurkat細胞を対照群として用いた。
図2からわかるように、実験条件下で、T細胞におけるαCD38-γCARの存在は、共刺激とは無関係にT細胞に完全な活性化能力を十分与えた。これは、N29-CD28-T2A-αCD38-γ(Switch1)、又はαCD38CARを発現するT細胞が、jurkat細胞とのインキュベーションで高いIFN-γ分泌を記録した結果から容易に結論を導き出せる。
【0153】
培地とのインキュベーションでαCD38CARを発現するT細胞から見られる比較的高いシグナルは、CD38抗原を自然に発現する形質導入T細胞とαCD38CARの相互作用に基づいて説明できる。
【0154】
(実施例2)
実施例1と同様に実験を構成し、異なる細胞株とのインキュベーション時にCAR-N29、Switch1、Swtich2、又は二重CAR(αCDl38-CD28-T2A-αCD38)で形質導入されたT細胞によるIFN-γの分泌を測定した。細胞株は、対照群細胞株(CD38、ErbB2又はCD138を発現しない)、CAG、PC-3(CD38の発現が低い前立腺癌細胞株)の293株で、標的細胞を含まないリンパ球の培養(培地のみ)も行った。結果を
図3Aに示した。
【0155】
この結果から、PC3細胞とのインキュベーションにおいて、Switch1と二重CARの両方からIFN-γの分泌が少ないことが分かる。これは、二重CARで形質導入されたT細胞からある程度の反応を期待できるが、CD38を強く発現する細胞の反応よりは実質的に低いためであると理解できる。但し、二重CARの効果はSwitch1の効果より遥かに高かった。Switch2が一切IFN-γを分泌しなかったことを鑑みると、これは完全に予想外であった。追加の実験では、二重CARの安全性を示すために、正常細胞に対する刺激を調べた。
【0156】
正常組織に対する単一CAR、又は二重CARの潜在毒性を更に分析し、生じ得る「標的上・腫瘍外」の効果を予測するために、正常な一次ヒト組織を用いて、様々なCARを刺激した。結果を
図3Bに示す。図示されているように、CD38/CD138-CD28-γ又は二重CARを備えた、人間の健常ドナーに由来する7つの異なる初代細胞を用いた。CD38単一CARは、二重CARに比べ、幾つかの正常組織による強い刺激を示した。二重CARは、CD38単一CARに比べ、試験対象の細胞に対して反応性が低下した。驚くことに、CD138CARは、多くの組織型(タンパク質アトラス)で発現することが知られているにもかかわらず、分析された組織に対してIFN-γ分泌を示さなかった。
【0157】
IFN-γ分泌とCAR-T細胞による標的細胞殺害との関係を示すべく、1:2(標的:エフェクタCAR)の比で、安定したルシフェラーゼ感染CAG細胞を用いてCAR-T細胞を刺激し、インキュベーションを20時間かけた後、生物発光イメージング(IVIS)により培養物を分析した。
図4に、対照群と比較した二重CARの特異的且つ効率的な殺害を示した。CD138-CD28-γCARは、二重CAR-T細胞と比べ、殺害の程度が低い。Switch1の対照群は、2つのシグナルを完全に活性化できず、シグナル1つのみを活性化した(CAG細胞ではCD38のみが発現されるため)が、殺害能力は一貫して効率的であった。更に、CD38フルCARも同様に殺害効果を示している。しかしながら、抗原認識の重複により、CAG細胞株のクリアランスが観測され、IFN-γの分泌もより優れたものとなった。
【0158】
(実施例3:二重CARの生体内効力)
(物質及び方法)
免疫不全マウスのNOD scid-gamma(NSG)における多発性骨髄腫細胞株CAGに基づき、生体内ヒト多発性骨髄腫モデルを較正した。これらのマウスは成熟リンパ球を欠いており、複数のサイトカインシグナリング経路が不足しているため、様々なヒトの細胞や組織を生着できる。研究者らはまず、注入した多発性骨髄腫細胞の最適数、投与経路、CAR-T細胞治療の許容時間を得るためにレシピエントマウスに対して行った試験準備の影響を定めた(データは提示せず)。7日目に106個のCAG多発性骨髄腫細胞をIV注射で投与し、続いて200RADで照射すると、腫瘍の効率的に発生し、望ましい腫瘍モデルが得られることを確認した。
【0159】
約106個のCAG多発性骨髄腫細胞をマウスに注射した(0日目)。7日目にマウスに200 RADを照射し(腫瘍の成長に影響を与えず)、8日目に様々なCARで形質導入した改変T細胞の約107個を静注した。
【0160】
異なるCAR-T細胞で治療したマウスの組織を25日目に採取し、抗CD138染色を用いて組織学的に、且つFACSを用いて分析を行った(データは提示せず)。組織学的結果を
図5に示す。
【0161】
更に、二重CAR、Switch1、Swtich2、又は単一CARで形質導入されたT細胞の抗多発性骨髄腫活性を、治療対象ではないマウスの生存曲線と比較して評価した。結果を
図6に示す。
【0162】
(結果)
図5によると、CAG多発性骨髄腫細胞の注入後、試験を行った組織全て、つまり肝臓、肺、脾臓、骨から腫瘍病変が観測された。
【0163】
FACSによりCARを探索し、CAGの注入から26日後、治療を受けたNSGマウスの血液から見つけたリンパ球を記録した(データは提示せず)。その結果、治療用の二重CARを構成する形質導入T細胞が血液中で少なくとも26日間生存したことが明確に分かった。異なるCARで形質導入されたT細胞で治療を受けたマウスの生存曲線を示す
図6からも分かるように、二重CAR又はαCD38CARで治療を受けたものを除いて、実験群のマウスは全て、対照群の未治療群で見られるように移植片対宿主病による体重減少や腫瘍のため、CAG多発性骨髄腫細胞の注入から約40~45日後に死亡した。αCD38CARで形質導入されたT細胞は有意な治療効果を示したが、最終的にはマウスの20%のみが85日後まで生存した。二重CAR-T細胞で治療を受けたマウスは、CD38CAR-T細胞で治療を受けたマウスと比較して、95日以上生存したもの60%に達し、有意に優れた生存率を示した。組織学分析やFACS分析のため、95日目にマウスを安楽死させた。安楽死させたもののうち、腫瘍により死亡したものはなかった。
【0164】
H&E染色を用いた組織学検査から確認しているように、実験終了の時点で、CARで治療を受けた生存マウス2匹からは腫瘍をみつけることができなかった。生存したSwtich1マウスに、肝臓、肺、骨に腫瘍があった(
図7)。
【0165】
(実施例4:二重CARの生体内効力)
実施例3と同様の条件で行われた本実験では、CAG腫瘍/腫瘍体積のモニタリングを容易にすべく、イメージングの前にマウスに注入されるルシフェリンに遭遇すると生物発光を放出するCAG-LUC細胞株を使用した。それにより、各マウスの腫瘍強度を比較し、各群における治療の効力を追跡した。結果を
図8に示した。
【0166】
図8に図示されているように、αCD38又は二重CAR-T細胞で治療を受けた全てのマウス、Switch1(SW1)で治療を受けたほとんどのマウスには、13日目まで腫瘍ができなかった。反対に、Swtich2(SW2)、CD138、N29CAR-T細胞で治療を受けたマウスは、13日目には既に腫瘍を発症した。SW1とαCD38CARで治療を受けたマウスとは違って、二重CARで治療を受けたマウスは48日目まで癌を発症せず、60%が62日目まで癌を発症しなかった。他の群のマウスはほとんどが腫瘍負荷や体重減少により55日目まで生存できなかった。二重CAR-T細胞による治療が他の治療よりも遥かに効率的であることは明らかである。
【0167】
また、Swtich2、αCD138又はN29CAR-T細胞を用いた治療は、腫瘍の急速な進行を特徴とする同様の結果が得られた。Switch1による治療は、平均して、αCD38による治療より効率が劣る。つまり、共刺激ドメインと活性化ドメインを分離することにより、改変T細胞の活性化の効力に影響を及ぼし、「標的外」効果を改善する可能性を示唆している。
【0168】
マウスの病状も追跡した。
図9からわかるように、CAR138を投与したマウスは、皮膚に発現するCD138マウスとヒト抗原との交差反応性として、皮膚刺激を示した。当該副作用は、マウスを二重CAR-T細胞で治療した場合には見出せなかった。この事象は、二重CARを保有するT細胞が1つの抗原、つまりCD138(皮膚細胞にはCD38抗原がない)の存在下では完全に活性化していなかったので、副作用が少なくなったということを立証できる証拠となる。
【0169】
本発明を好ましい実施形態を参照として以上のように説明したが、下記の請求の範囲で定義された本発明の趣旨や性質から逸脱することなく、更に変更することもできる。