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特許7437731生活習慣病の予防と治療用医薬組成物および飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】生活習慣病の予防と治療用医薬組成物および飲食品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/36 20060101AFI20240216BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240216BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20240216BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240216BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20240216BHJP
【FI】
A61K31/36
A61P13/12
A61P19/06
A61P43/00 111
A23L33/105
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019200346
(22)【出願日】2019-11-02
(65)【公開番号】P2021070677
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)The 31st Annual and International Meeting of the Japanese Association for Animal Cell Technology(JAACT2018 Tsukuba)Program&Abstracts(第31回日本動物細胞工学会2018年度国際会議(JAACT2018 Tsukuba)プログラムと要旨集)公開日:平成30年11月5日 (2)The 4th International Conference on Pharma and Food(ICPF2018)Program and Abstracts(第4回薬食国際カンファレンスプログラムと要旨集)公開日:平成30年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】521318697
【氏名又は名称】株式会社ナチュファルマ琉球
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 章夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 桃佳
(72)【発明者】
【氏名】禹 済泰
(72)【発明者】
【氏名】米澤 貴之
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】Rajeswari Hari et al.,Evaluation of In-vitro Antioxidant and Xanthine oxidase inhibitory activity of selected Indian plants,International Journal of Biotech Trends and Technology (IJBTT),2012年,Vol.2, Issue 4,pp.1-9
【文献】LWT-Food Science and Technology,2012年,Vol.47,pp.138-146
【文献】Biol. Pharm. Bull.,2008年,Vol.31, No.10,pp.1973-1976
【文献】Chemistry of Natural Compounds,2019年01月,Vol.55, No.1,pp.178-182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L 33/105
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クベビン、又はヒノキニンのうち少なくとも1種以上を有効成分とする、尿酸産生抑制剤。
【請求項2】
クベビン、又はヒノキニンのうち少なくとも1種以上を有効成分とする、高尿酸血症の予防及び/又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クベバコショウ(Piper Cubeba)由来のリグナン化合物の各種細胞の分化、および、代謝調節作用による各種生活習慣病の予防及び/又は治療用医薬組成物、および、健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病とは、食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群であり、肥満、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、高血圧症、歯周病、骨粗鬆症などが含まれ、動脈硬化、痛風、腎障害、サルコペニアといった病態にも深く関わっており、その対策が求められている。それらの疾患の制御に重要な組織や臓器としては、脂肪組織、肝臓、筋肉などがあげられる。また、それらの疾患の発症や治療に重要な細胞としては、脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞などがあげられ、生体内分子としては、アディポネクチン、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(peroxisome proliferator-activated receptor:PPAR)、5’アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ(adenosine monophosphate-activated protein kinase:AMPK)、キサンチンオキシダーゼなどがあげられる。
【0003】
糖尿病には主に、インスリン分泌の低下に起因する1型糖尿病と、インスリン抵抗性と呼ばれるインスリンの効果が弱くなることによって引き起こされる2型糖尿病に分類される。2型糖尿病の主な治療薬としては、核内受容体のPPARγのアゴニストであるピオグリタゾンなどが知られている。ピオグリタゾンなどのPPARγのアゴニストは脂肪細胞の分化を誘導してアディポネクチンなどのアディポカインの産生を誘導して、インスリン感受性を高め、インスリン抵抗性を改善して、抗糖尿病効果を発揮すると考えられている。天然のPPARγアゴニストとしてはエイコサノイド類などが知られている(特許文献1)。天然由来のアディポネクチン産生促進剤としては、米糠、羅漢果、シメジ、キク、及びライ麦由来のトリテルペン化合物などが知られており、抗動脈硬化剤、抗肥満剤、抗糖尿病剤、肝線維化抑制剤として用いることができることが示されている(特許文献2)。
【0004】
筋肉は糖を取り込んで消費する主要な器官であり、血糖値の調節に重要である。筋肉における糖取込は、インスリンシグナルのほか、AMPKシグナルが重要な役割を果たすことが知られている。AMPKは運動やアディポネクチンのほか、飢餓によっても活性化されるリン酸化酵素の1種で、エネルギー調節をつかさどる重要な酵素である。AMPKを活性化するビグアナイド薬のメトホルミンは、糖脂質の代謝を調節することで、耐糖能やインスリン抵抗性を改善して抗糖尿病作用や抗肥満作用を示すことが知られている(非特許文献1)。天然由来のAMPK活性化剤としては、5,7-ジメトキシフラボンなどが知られており、耐糖能異常、高脂血症、高血圧、冠動脈疾患、動脈硬化性疾患、肥満などの予防及び治療や、筋肉量・筋力の増強などに有用である(特許文献3)。アディポネクチンによるAMPKの活性化は骨格筋機能の改善に関わっており、サルコペニアの改善にも有用であることが知られている(非特許文献2)。また、アディポネクチンは肝臓においてはAMPK活性化を介して糖新生を抑制し、脂肪合成や脂肪蓄積も抑制することから非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を改善する作用がある(非特許文献3)。
【0005】
核酸やプリン体は肝臓などで代謝されて尿酸となり排泄されるが、プリン体の過剰摂取や排泄低下によって、血中の尿酸濃度が高まる高尿酸血症を発症する。この高尿酸血症が続くと、関節内又は関節周囲に尿酸塩の結晶が沈着し、急性関節炎発作、痛風結節、関節機能障害、関節の変形等のいわゆる痛風の症状を発症し、さらに、腎障害、血管障害等、多くの合併症を引き起こす原因となる。キサンチンオキシダーゼは核酸代謝においてヒポキサンチンからキサンチン、さらに尿酸への変換を触媒する酵素であり、キサンチンオキシダーゼの阻害剤であるアロプリノールは痛風の治療薬として用いられている。天然由来のキサンチンオキシダーゼ阻害剤としては、ザクロ抽出物を有効成分とする血中尿酸値低下剤などが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-355538号公報
【文献】特開2005-068132号公報
【文献】特開2017-031121号公報
【文献】特開2006-016340号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】最新医学 70:632-639、2015
【文献】日本老年医学会雑誌 55:13-24、2018
【文献】Mebio 33:32-37、2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、各種生活習慣病(肥満、糖尿病、高尿酸血症、脂質異常症など)とそれらの疾患に関連する病態(痛風、動脈硬化、非アルコール性脂肪肝、サルコペニア、腎障害など)の予防及び/又は治療用医薬組成物、及び、健康食品や飲食物の提供であり、脂肪細胞分化促進剤、糖取込促進剤、アディポネクチン産生促進剤、PPARγ活性化剤、AMPK活性化剤、尿酸産生抑制剤の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、脂肪細胞、筋肉細胞、肝細胞などを用いて、前記課題を解決する食経験が豊富な天然物素材を探索した結果、クベバコショウ(Piper Cubeba)から抽出されたクベビン(Cubebin)およびヒノキニン(Hinokinin)が、それぞれ、脂肪細胞においてはPPARγを活性化すること、アディポネクチン産生を誘導すること、糖取込を促進することを、筋肉細胞においてはAMPKを活性化すること、糖取込を促進することを、そして、肝細胞においてはAMPKを活性化すること、糖取込を促進すること、尿酸産生を抑制することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、
本発明は以下のとおりである。
[1] クベビン、又はヒノキニンのうち少なくとも1種以上を有効成分とする、生活習慣病の予防及び/又は治療剤。
[2] クベビン、又はヒノキニンのうち少なくとも1種以上を有効成分とする、PPARγ活性化剤
[3] クベビン、又はヒノキニンのうち少なくとも1種以上を有効成分とする、アディポネクチン産生促進剤。
[4] クベビン、又はヒノキニンのうち少なくとも1種以上を有効成分とする、AMPK活性化剤。
[5] クベビン、又はヒノキニンのうち少なくとも1種以上を有効成分とする、糖取込促進剤。
[6] クベビン、又はヒノキニンのうち少なくとも1種以上を有効成分とする、尿酸産生抑制剤。
[7] [1]~[6]に記載のいずれかを有効成分として含有する、インスリン抵抗性改善剤。
[8] [1]~[6]に記載のいずれかを有効成分として含有する、糖尿病の予防及び/又は治療剤。
[9] [1]~[6]に記載のいずれかを有効成分として含有する、高尿酸血症の予防及び/又は治療剤。
[10] [1]~[6]に記載のいずれかを有効成分として含有する、サルコペニアの予防及び/又は治療剤
[11] [1]~[6]に記載のいずれかを有効成分として含有する、脂質代謝改善剤
[12] [1]~[6]に記載のいずれかを有効成分として含有する、脂肪肝炎の予防及び/又は治療剤
[13] 生活習慣病を予防及び/又は治療するための方法であって、
上記疾患を患っているヒトおよび動物に、クベビン、又はヒノキニンを少なくとも1種以上含有する[1]~[12]に記載の組成物を投与するステップを含む、方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の生活習慣病の予防及び/又は治療剤は、PPARγ活性化作用を有し、アディポネクチン産生を促進し、AMPKを活性化させ、糖取込を促進することができるとともに、尿酸の産生を抑制することができる。このため、インスリン抵抗性を改善して糖脂質代謝を調節することができ、肥満、糖尿病、脂質代謝異常症、非アルコール性脂肪肝炎、サルコペニア、動脈硬化の予防及び/又は治療や改善のために用いることができる。また、高尿酸血症の予防及び/又は治療や改善のため用いることができ、痛風や腎障害の予防及び/又は治療や改善のため用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】脂肪細胞分化の指標となる脂肪蓄積に対するクベビン及びヒノキニンの作用を示す細胞の写真である。
図2】脂肪細胞分化の指標となる脂肪蓄積に対するクベビン及びヒノキニンの作用を示すグラフである。
図3】脂肪細胞におけるPPARγおよびアディポネクチンのmRNA発現に対するクベビンとヒノキニンの作用を示すグラフである。
図4】クベビンとヒノキニンのPPARγリガンド作用を示すグラフである。
図5】筋肉細胞、肝細胞、脂肪細胞の糖取込に対するクベビン及びヒノキニンの作用を示すグラフである。
図6】肝細胞におけるAMPK活性化に対するクベビン及びヒノキニンの作用を示す図である。
図7】肝細胞の尿酸産生に対するクベビン及びヒノキニンの作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の生活習慣病の予防及び/又は治療剤は、クベビン、又はヒノキニンを有効成分として含有する。クベビンは下記の式(1)に示す構造式を有する。ヒノキニンは下記の式(2)に示す構造式を有する。
【化1】
【化2】
【0014】
<実施形態1:医薬組成物>
本発明によれば、
上記化学式(1)~(2)で示される化合物であるクベビン、又はヒノキニンを含有する、生活習慣病を予防及び/又は治療する医薬組成物が提供される。
クベビン、又はヒノキニンは単独で使用してもよく、任意の割合で配合してもよい。
医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤等を含んでいてもよい。また、着色料、香料、防腐剤などを含んでいてもよい。賦形剤としては例えば乳糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット、結晶セルロースなどが、滑沢剤としては例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、硬化植物油などが、結合剤としては例えばジメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが、崩壊剤としては例えばデンプン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン末、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリンなどが、それぞれあげられる。使用する際の形態は特に限定されず、カプセル状、粉末、粒状、タブレット状、液状などの形態とでき、また、外用剤としてクリーム、ペースト状、ジェルなどののほか、貼付剤として徐放する形態などでも用いることもできる。
【0015】
<実施形態2:飲食用組成物>
本発明のクベビン、又はヒノキニンは、生活習慣病の予防や改善用のサプリメントとして用いることができ、あるいは、飲食物に混合して、又は飲食用組成物として用いることもできる。
サプリメントとして用いる場合、錠剤や顆粒の形態で用いることができ、他の有用成分と混合してもよい。
飲食用組成物として用いる場合、健康飲食品、特定保健用飲食品、機能性表示食品、栄養機能飲食品、健康補助飲食品等として供することが可能である。これらの飲食品は、生活習慣病の予防や改善に有用な機能性食品として供することができ、特定保健用飲食品、機能性表示食品やその他のサプリメント、健康飲食品等には、体脂肪を減らす、脂質代謝を改善する、糖代謝を改善する、血糖値の上昇を抑える、尿酸値を下げる、健康な肝臓の機能を維持する、等の機能を表示することができる。
飲食用組成物は、固形物、液状、粉末、顆粒状、ペースト状等の種々の形態であり、具体的には、例えば、清涼飲料、乳酸飲料、嗜好飲料、コーヒー、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの飲料品;キャンディー、チョコレート、ビスケット類、菓子パン類、ケーキ、餅菓子、米菓類などの菓子類;果実飲料、野菜飲料、ジャム類、ペースト類などの野菜・果実加工品;日本酒、焼酎、ワイン、中国酒、ウイスキー、ウオッカ、ブランデー、ジン、ラム、酒、ビール、清涼アルコール飲料、果実酒、リキュールなどのアルコ-ル飲料;ヨーグルト、アイスクリーム、バター、チーズ、練乳、粉乳のなどの乳製品;ドレッシング、マヨネーズ、てんぷら油、サラダ油などの油脂加工品;しょうゆ、ソース、酢、みりん、ドレッシングタイプ調味料などの調味料;粉末ジュース、粉末スープ、インスタントコーヒー、即席麺類、即席カレー、即席味噌汁、調理済み食品、調理済み飲料、調理済みスープなどの乾燥飲食品、小麦粉加工品、でんぷん類加工品などの穀物加工品等が挙げられる。例えば飴、クッキー、チューインガム、ビスケットのような固形物として用いても、あるいは清涼飲料水、牛乳、ヨーグルト、シロップのような液状でもよい。飲食物とする場合、クエン酸、乳酸、カゼインなど、通常飲食物に使用される添加剤を配合することができる。
【0016】
医薬組成物は、経口で投与してもよく、また静注、筋注、皮下投与、直腸投与、経皮投与等の非経口で投与してもよい。
クベビン、又はヒノキニンを含有する医薬組成物薬剤、サプリメント又は、あるいは飲食物等の飲食用組成物におけるクベビン、又はヒノキニン含有量は、その剤型に応じて異なるが、通常クベビン、又はヒノキニンが、全組成物中の0.001~50重量%、好ましくは0.01~20重量%程度含まれていればよい。クベビン、又はヒノキニンの場合の摂取量は、摂取者の年齢、性別、体重、症状の種類、症状の程度などを考慮して適宜増減できるが、一日当たりの摂取量が0.01~300 mg/kgになるように、各投与形態に合わせて設定するのが好ましい。医薬組成物、飲食用組成物、生体適合性材料のいずれの形態においても、1日1回又は、数回に分けて投与、又は摂取すればよい。
本発明のクベビン、又はヒノキニンを含有する医薬組成物、サプリメント又は、飲食物等の飲食用組成物は、ヒトを含む哺乳動物を対象とする。ヒト以外の哺乳動物としては、サルなどの霊長類、ラット、マウスなどのげっ歯類、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ等が挙げられる。
【0017】
<実施形態3:生活習慣病を予防又は治療するための方法>
本願発明によれば、
生活習慣病を予防又は治療するための方法であって、上記方法は、
上記生活習慣病を患っているヒトまたは動物に、クベビン、又はヒノキニンを含有する医薬組成物又は飲食物を投与するステップを含む、方法が提供される。
上記医薬組成物を患者に投与する場合には、投与量は、患者の症状の重篤さ、年齢、体重、PSA値、尿流量及び健康状態等の諸条件によって異なる。一般的には、上述した用量及び用法で、1日1回若しくはそれ以上の回数にわたって投与すればよく、以上のような諸条件に応じて、投与の回数及び量を適宜増減すればよい。
上記医薬組成物又は生活習慣病予防又は治療用医薬製剤の1日当たりの投与量、投与期間及び投与回数は、上述した治療薬と同様であってもよい。上記医薬組成物又は生活習慣病予防又は治療用医薬製剤の投与は、医師による判断により終了してもよいし、患者の自己判断で終了してもよい。
【0018】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0019】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
[実施例1] 脂肪細胞分化に対する作用
PPARγ活性化剤は脂肪細胞の分化を促進することが知られている。PPARγの活性化に対する作用について、脂肪細胞の分化に伴って増加する脂肪蓄積を指標に評価した。
【0021】
3T3-L1マウス前駆脂肪細胞株(JCRB細胞バンクより入手)細胞を24ウェルプレートに25,000 細胞/wellで播種し、10%FBS-DMEM培地で3日間培養後、インスリン(5μg/mL)存在下で、クベビンまたはヒノキニンを10μMと30μMで添加して6日間培養した。同様に、ポジティブコントロール(PC)として、PPARγアゴニストであるロシグリタゾンを1μMになるように添加して、6日間培養した。培養後、中性緩衝ホルマリン溶液で細胞を固定して、オイルレッドO染色法によって、細胞内の脂肪滴を染色し、光学顕微鏡下で撮影して観察した(図1)。また、オイルレッドO色素を溶解してプレートリーダーにて吸光度を測定することで、脂肪蓄積量を定量した(図2)。
【0022】
細胞写真の解析の結果、インスリンのみを添加して培養したコントロールでは、赤く染まった脂肪滴がほとんど観察されないのに対して、1μMのロシグリタゾンを添加すると、赤く染まった脂肪滴が多数観察された(図1)。クベビン(30μM)または、ヒノキニン(30μM)を添加すると、赤く染まった脂肪滴が多数観察された(図1)。次に、細胞内脂肪滴に取り込まれたオイルレッドO色素を抽出し、脂肪蓄積量を定量した結果、インスリンのみを添加して培養したコントロール(CN)と比較して、1μMのロシグリタゾンを添加したポジティブコントロール(PC)では、脂肪蓄積量が有意に増加した(図2)。クベビンまたは、ヒノキニンを添加した細胞においても、脂肪蓄積量が有意に増加した(図2)。これらの結果は、クベビンおよびヒノキニンが脂肪細胞の分化を促進したことを示しており、クベビンおよびヒノキニンがPPARγを活性化した結果であると考えられる。
【0023】
[実施例2] 脂肪細胞の遺伝子発現に対する作用
PPARγ活性化作用の確認のため、脂肪細胞のPPARγ遺伝子発現に対する作用を解析した。また、アディポネクチン産生に対する作用を明らかにするために、脂肪細胞のアディポネクチン遺伝子発現に対する作用を解析した。3T3-L1細胞をインスリン(10μg/mL)存在下、クベビンまたはヒノキニン(50μM)を添加して3日間培養後、TRIzol試薬(ライフテクノロジーズ・ジャパン)を用いて、Total RNAを抽出した。Total RNAから市販のキットを用いてcDNAを作製し、リアルタイムRT-PCRにて、PPARγおよびアディポネクチンのmRNA発現量について解析した。
【0024】
相対的mRNAの発現量を解析した結果、クベビンおよびヒノキニンは、3T3-L1脂肪細胞において、PPARγのmRNA発現を促進することが明らかになった(図3)。このことは、クベビンおよびヒノキニンが脂肪細胞の分化を促進したことを示すとともに、PPARγ活性化作用も有することを示している。また、クベビンおよびヒノキニンは、3T3-L1脂肪細胞において、アディポネクチンのmRNA発現を強く誘導することが示された(図3)。このことから、クベビンおよびヒノキニンが脂肪細胞において、アディポネクチンの産生を強く促進することを示している。
【0025】
[実施例3] PPARγリガンド活性の解析
PPARγアゴニスト作用について検討するため、NuLigand kit(Microsystems)を用いて添付のプロトコールに従って、クベビンおよびヒノキニンのPPARγリガンド活性を評価した。96wellプレートの各wellに、PPARγ溶液を100μlずつ分注し、プレートシールを貼り、4℃で一晩静置した。PPARγ溶液を除去した後、0.5μM DTTを含む緩衝液で洗浄し、CBP-BAP溶液100μlずつを各wellに添加し、さらに、ポジティブコントロールであるロシグリタゾン、または、クベビン、または、ヒノキニンを添加して4℃で1時間静置した。緩衝液で洗浄後、基質液(NPPを添加した1M Tris-HCl(pH8.0)溶液)を各wellに100μlずつ分注し、37℃で3時間反応させた後、0.5N NaOHを各wellに25μl加えて反応を停止させ、405nmの吸光度を測定した。
【0026】
PPARγリガンドアッセイの結果、コントロール(CN)と比較して、PPARγアゴニストであるロシグリタゾン添加によって吸光度が濃度依存的に上昇した(図4)。同様に、コントロール(CN)と比較して、クベビン、または、ヒノキニンを添加すると、吸光度が濃度依存的に上昇した(図4)、このことは、クベビン、およびヒノキニンには、PPARγアゴニスト作用があることを示している。
【0027】
[実施例4] ラット由来L6筋肉細胞、ヒト由来HepG2肝細胞およびマウス由来3T3-L1脂肪細胞における糖取り込みに対する作用
ラット由来L6筋芽細胞(American Type Culture Collectionより購入)は10%FBS-DMEM(高グルコース)培地に懸濁して96ウェルプレートに5,000細胞/wellで播種して2日間培養後、2%FBS-DMEM(低グルコース)培地に交換して、さらに6日間培養して、L6筋肉細胞とした。ヒト由来HepG2細胞(RIKEN BRCより入手)は10%FBS-DMEM(高グルコース)培地に懸濁して96ウェルプレートに20,000 細胞/wellで播種し、2日間培養した。マウス由来3T3-L1細胞は10%CS-DMEM(高グルコース)培地に懸濁して96ウェルプレートに5,000細胞/wellで播種して3日間培養後、イソブチルメチルキサンチン、デキサメタゾン、インスリンを添加した10%FBS-DMEM(高グルコース)培地に交換して、さらに6日間培養することで、分化して脂肪を蓄積した3T3-L1脂肪細胞を準備した。各細胞は、KHH(-)バッファー(0.1%BSA、10mM Hepes及び2mM ピルビン酸ナトリウムを含むグルコース不含のクレブス溶液(Krebs-Henseleit buffer; pH 7.4, 141 mg/L MgSO4, 160 mg/L KH2PO4, 350 mg/L KCl, 6,900 mg/L NaCl, 373 mg/L CaCl2・2H2O及び2,100 mg/L NaHCO3を含有))にて2時間培養後、クベビン、またはヒノキニンを添加、または未添加のKHH(+)バッファー(11mMのグルコースを含むKHH(-)バッファー)に交換し、さらに37℃で6~20時間培養した。培養前後の培養液中のグルコース濃度をグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業(株))で測定し、培養前後のグルコース濃度の差より、培養液中のグルコースの減少量を算出して、その値を細胞の糖取り込み量とした。
【0028】
L6筋肉細胞において、コントロール(CN)における糖取込量と比較して、クベビン、またはヒノキニンを添加して培養すると、濃度依存的な糖取込量の増加が認められた(図5、A)。同様に、HepG2肝細胞においても、コントロール(CN)と比較して、クベビン、またはヒノキニンを添加して培養すると、濃度依存的な糖取込量の増加が認められた(図5、B)。さらに、分化した3T3-L1脂肪細胞においても、クベビン、またはヒノキニンを添加して培養すると、コントロール(CN)と比較して、濃度依存的な糖取込量の増加が認められた(図5、C)。これらの効果は、インスリン非存在下で認められたことから、クベビン、および、ヒノキニンは、インスリン非依存的に筋肉細胞、肝細胞、脂肪細胞の糖取込を促進する作用を持つことが示された。また、このことは、クベビン、および、ヒノキニンがインスリン非依存的な糖取込シグナル経路であるAMPKを活性化することも示唆している。
【0029】
[実施例5] AMPK活性化に対する作用
糖脂質代謝やエネルギー代謝に重要なAMPKの活性化について、AMPKのリン酸化体(p-AMPK)の量を指標としてウエスタンブロット法にて検討した。ヒト由来HepG2細胞は10%FBS-DMEM(高グルコース)培地に懸濁して3.5cmのディッシュに1,000,000 細胞を播種し、2日間培養した。KHH(-)バッファーにて2時間培養後、クベビン、またはヒノキニンを添加、または未添加のKHH(+)バッファーに交換し、さらに37℃で30~270分間培養した。培養後は、氷冷PBSで細胞を洗浄した後、ホスファターゼ阻害剤であるPhosSTOP(ロシュ・ダイアグノスティクス(株))を添加したComplete Lysis-M試薬(ロシュ・ダイアグノスティクス(株))にて細胞を溶解させ、その細胞溶解液を14,000 x gで5分間遠心し、上清を回収してサンプルとした。各サンプルを常法に従ってSDS-PAGEにて分離し、PVDF膜に転写してブロッキング後、抗リン酸化AMPK抗体及び抗AMPK抗体を用いて、ウエスタンブロット法にて解析した。
【0030】
ウエスタンブロット法にて、リン酸化AMPK(p-AMPK)の量を解析した結果、AMPK活性化化合物であるAICARを添加して培養すると、30,90,270分後の何れにおいても、コントロール(CN)と比較して、リン酸化AMPKの量が増加していた(図6)。ヒノキニンを添加して培養した際にも、同程度のリン酸化AMPKの量が増加が、30,90,270分後の何れにおいても認められた(図6)。また、クベビンを添加して培養した場合も、コントロールと比較して明らかにリン酸化AMPKの量が増加していた(図6)。リン酸化AMPKの量は、CN(+)、クベビン(++)、ヒノキニン(+++)、AICAR(+++)であった。この時、いずれにおいても、AMPKの量には大きな変動は見られなかった(図6)。このことは、クベビン、および、ヒノキニンは、ヒトの肝細胞において、リン酸化AMPKの量を増加させたことから、クベビン、および、ヒノキニンには、AMPK活性化作用があることが示された。
【0031】
[実施例6] 尿酸産生に対する作用
尿酸産生に対する作用をマウス由来AML12肝細胞(ATCCより入手)を用いて検討した。AML12肝細胞は10%ウマ胎児血清、ITS液体培地サプリメント(シグマアルドリッチ)、デキサメタゾンを含むDMEM/F-12培地に懸濁し、48ウェルプレートに62,500 細胞/wellで播種して3日間培養し、1%ウマ胎児血清、ITS液体培地サプリメント(シグマアルドリッチ)、デキサメタゾンを含むDMEM/F-12培地に交換してさらに一晩培養した。その後、尿酸前駆体であるグアノシンおよびイノシンをそれぞれ100μM含み、さらに、ポジティブコントロールとしてキサンチンオキシダーゼ阻害剤であるアロプリノール、または、クベビン、または、ヒノキニンを添加、または非添加のKHH(+)バッファーにて、4時間培養後、培養上清中の尿酸濃度について、ウリカーゼ比色法で定量する尿酸C-テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定して、尿酸産生量を解析した。
【0032】
AML12肝細胞の尿酸産生について検討した結果、グアノシンおよびイノシンによって誘導される尿酸産生(CN)が、ポジティブコントロール(PC)のアロプリノール添加で有意に抑制された(図7)。また、クベビン、または、ヒノキニンを添加すると、グアノシンおよびイノシンによって誘導される尿酸産生量が、濃度依存的に減少していた(図7)。このことは、クベビン、および、ヒノキニンには尿酸産生抑制作用があることを示しており、高尿酸血症の予防や改善、治療に有用であることを示している。
【0033】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲に含まれることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のクベビンまたはヒノキニンを有効成分とする生活習慣病の予防及び/又は治療剤はヒトおよび動物の生活習慣病の予防や改善や治療のための医薬製剤、機能性食品、サプリメントなどとして有用であり、PPARγ活性化剤、アディポネクチン産生促進剤、AMPK活性化剤、糖取込促進剤、尿酸産生抑制剤、インスリン抵抗性改善剤、抗糖尿病剤、抗高尿酸血症剤、抗サルコペニア剤、脂質代謝改善剤、抗非アルコール性脂肪肝炎剤としても有用である。
図1
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図7