(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】辺円対応変倍構造を有する生乳中の体細胞検査キット
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20240216BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240216BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240216BHJP
C12Q 1/44 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12M1/34 E
G01N33/68
G01N33/50 K
C12Q1/44
(21)【出願番号】P 2019569128
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2019002957
(87)【国際公開番号】W WO2019151243
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018015498
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509127147
【氏名又は名称】株式会社キコーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】関口 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 あい子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 えり子
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-113633(JP,A)
【文献】特開平08-327533(JP,A)
【文献】国際公開第01/092886(WO,A1)
【文献】特表2005-526513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物質を検出および/または定量するための積層フィルタであって、該積層フィルタは
、7枚のフィルタ
からなり、該
7枚のフィルタの少なくとも2つは検査対象物質と反応する反応用試薬を含み、
ここで、該
7枚のフィルタは
複数の第1のフィルタおよび
複数の第2のフィルタ
からなり、該第1のフィルタは四角形であり、該第2のフィルタは円形であり、
ここで、該積層フィルタは、ポリプロピレンから作製された、ポアサイズ0.2ミクロン~10ミクロン、繊維の直径0.1ミクロン~10ミクロンの不織布であり、該第1のフィルタと該第2のフィルタが交互に積層され、該複数
の第1のフィルタの頂点の位置が異なるように回転されて積層される、
積層フィルタ。
【請求項2】
前記検査対象物質と前記反応用試薬の反応が呈色反応である、請求項1に記載の積層フィ
ルタ。
【請求項3】
前記検査対象物質が酵素であり、前記反応用試薬が該酵素の基質を含む、請求項1または
2に記載の積層フィルタ。
【請求項4】
前記検査対象物質がエステラーゼであり、前記反応用試薬がエステラーゼの基質を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
【請求項5】
前記反応用試薬が3-[N-(p-トルエンスルホニル)-L-アラニルオキシ]インド
ールを含む、請求項4に記載の積層フィルタ。
【請求項6】
前記複数のフィルタの少なくとも1つは反応促進剤を含む、請求項1~5のいずれか一項
に記載の積層フィルタ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の積層フィルタおよび該積層フィルタ用のハウジング
を含む、試料用検査具。
【請求項8】
生乳中の白血球を測定するための、請求項7に記載の試料用検査具。
【請求項9】
前記ハウジングがシリンジを含む、請求項7または8に記載の試料用検査具。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の試料用検査具を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中(特に液体試料中)の検査対象物質を検出および/または定量するための積層フィルタ、試料用検査具およびキットに関する。特に、本発明は、生乳中(例えば、ウシ生乳中)の体細胞(例えば、白血球)を検査するための積層フィルタ、試料用検査具およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内の酪農戸数は18,600戸、乳用経産牛は89.28万頭が飼育されている。酪農家の総戸数は減少しつつあるが、一戸当たりの頭数は増加している。酪農家にとっては高品質な生乳を生産し、経営の安定を図るべく日夜努力されているが、一方で乳房炎という、生乳の品質を低下させる「病気」との戦いも余儀なくされている。乳牛が乳房炎に罹患すると、典型的には、以下の問題を生じる、(1)生乳中に体細胞(特に白血球)が増加し、乳成分に変化が起こり生乳の品質を低下させる、(2)乳房炎は生乳の生産量、つまりウシのミルクの出が悪くなることになり、乳量の損失を伴う、(3)体細胞が多く含まれた生乳は乳製品の生産性と品質の低下を招くため、JAや乳業メーカーの買取り価格が引き下げられて農家の損失となる。生乳1ミリリットル中の体細胞数が20万を超えると乳価は1kgあたり5円から最大40円引き下げられる。現在の乳価は1kgあたり78~80円である。
【0003】
酪農家の収入の90%は生乳の販売であり、乳牛一頭から得られる所得は平均16万7千円程度である。もし乳房炎に罹患すると一頭当たりの損失は87,000円といわれ、収入の半分が損失することになる。現在北海道だけでも乳房炎による経済的損失は300億円、米国では年間20億ドルといわれている。したがって、乳房炎を早期に発見して治療することは、酪農家にとっての喫緊の課題であり、乳房炎の解決が、経営の安定に繋がるといっても過言ではない。
【0004】
ところが、生乳中の体細胞数を精度良く測定するにはフローサイトメーターという高額な装置(800~2000万円)が必要であり、酪農家が保有するのは難しい。また酪農家が現場で使用することができるような検査キットは感度と精度が低く、乳房炎の罹患を判断するのが難しい。
【0005】
生乳中の体細胞は85%~90%が白血球であり、乳房炎に罹患すると生乳中にこの体細胞が増え生乳の質が落ちる。生乳や各種の体細胞を簡便に測定するは白血球細胞内にエステラーゼという加水分解酵素があり、このエステラーゼの酵素活性を測定することで、生乳中の体細胞を推定するという検査キットが考案されている(特許文献1:特表2005-526513)。特許文献1の特徴は3層構造をからなるろ過材とフィルムを使用し、最上部に穴の開いたフィルムを配し、次のフィルタに白血球エステラーゼと反応する基質を塗布し、固定化し生乳中の体細胞を補足し、基質と反応する場となるよう設計されている。さらに反応に不要な生乳や、生乳に含まれるエステラーゼ反応を阻害する成分などを吸収するためのろ紙が配置されている。実際の体細胞の測定においては、生乳をピペットで取り、その一定量を最上部の穴に滴下し第2層目のフィルタによって体細胞をろ過、補足し、不要な生乳を第3層目のろ紙に吸わせる。さらにアクチベーターと呼ばれるバッファーを最上部の穴から滴下し、白血球の持つエステーゼの至適反応条件に変換し、酵素反応が始まるのを待つ。やがて白血球エステラーゼによってフィルタに塗布されていた酵素基質が分解され、分解生成物によってフィルタの色が変化し、この色変化を肉眼または特定の機器によって判定し、生乳中に含まれる体細胞の数を推定する。その体細胞数によって乳房炎の診断の補助とする。
【0006】
しかしながら、特許文献1は比較的簡便であるものの、測定感度および測定精度は十分とは言えない。このような背景から、生乳中の体細胞数を現場で、簡単に感度・精度良く測定する検査用の積層フィルタ、試料用検査具およびキットの開発が望まれていた。
【0007】
また、インフルエンザの診断などに汎用されているイムノクロマトという検査用チップも支持体上に貼付されたニトロセルロースなどのいわゆるメンブランフィルターに、インフルエンザウイルスと反応する抗体を塗布しそこにインフルエンザウイルスを含む体液を流すことによって、ウイルスを検出して診断するように調製された診断用チップであるが、反応の場となるシートは一枚でしかも一箇所である。これらのチップで対象となる成分の検出感度を上げて、含まれる成分をより低濃度まで検出しようとする場合は、検査材料から対応する成分を濃縮する必要があり、診断用チップの検出感度のみを上昇させるには限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡便かつ、測定感度および測定精度が十分な、試料中(特に液体試料中)の検査対象物質を検出および/または定量するための積層フィルタ、試料用検査具およびキットを提供することを解決課題とする。例えば、本発明は、生乳中の体細胞を検査するための積層フィルタ、試料用検査具およびキットを提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下によって解決された:
(項目1)
検査対象物質を検出および/または定量するための積層フィルタであって、該積層フィルタは、複数のフィルタを含み、該複数のフィルタの少なくとも2つは検査対象物質と反応する反応用試薬を含む、積層フィルタ。
(項目2)
前記複数のフィルタは形状の異なるフィルタを含む、項目1に記載の積層フィルタ。
(項目3)
前記複数のフィルタが少なくとも4枚のフィルタである、項目1または2に記載の積層フィルタ。
(項目4)
前記複数のフィルタは第1のフィルタおよび第2のフィルタを含み、該第1のフィルタはn角形であり、該第2のフィルタはm角形または円形であり、ここで、nは3から6の整数であり、mはnよりも大きい、項目1~3のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
(項目5)
前記第1のフィルタと前記第2のフィルタとが隣接する、項目4に記載の積層フィルタ。(項目6)
前記第1のフィルタと前記第2のフィルタの面積が異なる、項目4または5に記載の積層フィルタ。
(項目7)
前記積層フィルタが複数の前記第1のフィルタと複数の前記第2のフィルタを含み、前記第1のフィルタの少なくとも1つが前記第2のフィルタの少なくとも1つと隣接する、項目4~6のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
(項目8)
前記第1のフィルタと前記第2のフィルタが交互に積層される、項目5または7に記載の積層フィルタ。
(項目9)
前記複数の前記第1のフィルタの少なくとも2つが、頂点の位置が異なるように回転されて積層される、項目7または8に記載の積層フィルタ。
(項目10)
前記複数の前記第2のフィルタがm角形であり、該第2のフィルタの少なくとも2つが、頂点の位置が異なるように回転されて積層される、項目7~9のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
(項目11)
前記第1のフィルタは四角形であって、前記第2のフィルタは円形である、項目4~9のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
(項目12)
前記フィルタが、ろ紙、不織布、およびガラス繊維からなる群から選択されるフィルタである、項目1~11のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
(項目13)
前記検査対象物質と前記反応用試薬の反応が呈色反応である、項目1~12のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
(項目14)
前記検査対象物質が酵素であり、前記反応用試薬が該酵素の基質を含む、項目1~13のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
(項目15)
前記検査対象物質がエステラーゼであり、前記反応用試薬がエステラーゼの基質を含む、項目1~14のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
(項目16)
前記反応用試薬が3-[N-(p-トルエンスルホニル)-L-アラニルオキシ]インドールを含む、項目15に記載の積層フィルタ。
(項目17)
前記複数のフィルタの少なくとも1つは反応促進剤を含む、項目1~16のいずれか一項に記載の積層フィルタ。
(項目18)
項目1~17のいずれか一項に記載の積層フィルタおよび該積層フィルタ用のハウジングを含む、試料用検査具。
(項目19)
生乳中の白血球を測定するための、項目18に記載の試料用検査具。
(項目20)
前記ハウジングがシリンジを含む、項目18または19に記載の試料用検査具。
(項目21)
項目18~20のいずれか一項に記載の試料用検査具を含む、キット。
【0011】
本発明は、生乳中の体細胞を検査するためのみならず、試料中(特に液体試料中)の検査対象物質を高感度・高精度でかつ簡便に検出および/または定量するための積層フィルタ、試料用検査具およびキットに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、簡便かつ、測定感度および測定精度が十分な、試料中(特に液体試料中)の検査対象物質を検出および/または定量するための積層フィルタ、試料用検査具およびキットを提供する。例えば、本発明は、生乳中の体細胞を検査するための積層フィルタ、試料用検査具およびキットを提供する。本発明にしたがって、本発明は、簡便かつ、測定感度および測定精度が十分な、生乳中の体細胞を検査するための積層フィルタ、試料用検査具およびキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の積層フィルタを収納するハウジングの一例(積層フィルタを含まずに閉じた状態)を示す。
【
図2】
図2は、本発明の積層フィルタを収納するハウジングの一例(積層フィルタを含まずに開いた状態)を示す。
【
図3】
図3は、本発明の積層フィルタを収納するハウジングの一例(積層フィルタを含んで閉じた状態)を示す。
【
図4】
図4は、円形のフィルタと四角形のフィルタを積層した本発明の積層フィルタを収納するハウジングの一例(積層フィルタを含んで開いた状態)を示す。
【
図5】
図5は、本発明の積層フィルタの作製における円形のフィルタと四角形のフィルタの積層の一例を示す。
【
図6】
図6は、本発明の積層フィルタとキャリブレーション用の試料を用いた測定において使用する例示的なカラーチャートを示す。各四角の色の濃淡と、キャリブレーション用試料(または希釈したキャリブレーション用試料)中の細胞濃度の範囲とが対応つけられている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。
【0015】
(1.積層フィルタ)
検査対象物質を検出および/または定量するための本発明の積層フィルタは、複数のフィルタを含み、複数のフィルタの少なくとも2つは検査対象物質と反応する反応用試薬を含む。積層フィルタは、好ましくは、4枚以上、5枚以上、6枚以上、または、7枚以上のフィルタを備え、より好ましくは4枚以上のフィルタを備える。
【0016】
フィルタとしては、検査対象物質と反応用試薬との反応を行う場を提供でき、かつ、積層した際に検査対象物質がフィルタから隣接するフィルタに移動することを可能にする任意のフィルタを使用することができる。フィルタとしては、例えば、ろ紙、不織布、ガラス繊維を使用することができるが、これらに限定されない。不織布は、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、およびこれらの組み合わせから作製することができるがこれに限定されない。
【0017】
本発明の積層フィルタに含まれるフィルタは、検査試料である液体が通過ないしろ過されるフィルタである。本発明において使用するフィルタのポアサイズは、0.1ミクロン~100ミクロン、好ましくは0.2ミクロン~10ミクロン、より好ましくは0.2ミクロン~5ミクロン、最も好ましくは0.2ミクロン~1.0ミクロンである。本発明において使用するフィルタを構成する繊維の直径は、0.05ミクロン~300ミクロン、好ましくは0.1ミクロン~50ミクロン、より好ましくは0.1ミクロン~30ミクロン、最も好ましくは0.1ミクロン~10ミクロンである。
【0018】
積層フィルタに含まれる複数のフィルタは、好ましくは形状の異なるフィルタである。例えば、複数のフィルタは第1のフィルタおよび第2のフィルタを含む。第1のフィルタはn角形であり、第2のフィルタはm角形または円形であり、第2のフィルタは好ましくは円形である。なお、ここで、nは3から6の整数(好ましくは4または5、最も好ましくは4)であり、mはnよりも大きい。フィルタは、必ずしも回転対象である必要はない。例えば、第1のフィルタが四角形である場合必ずしも正方形である必要はなく、第2のフィルタが円形である場合必ずしも正円である必要はない。また、本発明の積層フィルタは、第1の形状を有する第1のフィルタおよび第2の形状を有する第2のフィルタに加えて、さらに異なる形状を有する第3および/または第4のフィルタをさらに備えてもよい。
【0019】
積層フィルタの第1のフィルタと第2のフィルタは隣接しても、しなくてもよい。積層フィルタが複数の第1のフィルタと複数の第2のフィルタを備える場合、第1のフィルタの少なくとも1つが第2のフィルタの少なくとも1つと隣接しても、しなくてもよい。好ましくは、第1のフィルタと第2のフィルタは交互に積層される。また、交互に積層される場合、第1のフィルタと第2のフィルタの間に別のフィルタが介在してもよい。
【0020】
積層フィルタの第1のフィルタと第2のフィルタは、必ずしも同じ面積である必要はなく、むしろ面積が異なること(比率が変倍であること)が好ましい。例えば、第1のフィルタが四角形であり、第2のフィルタが円形である場合、円形のフィルタは四角形のフィルタにほぼ内接する大きさであっても、ほぼ外接する大きさであってもよい。
【0021】
積層フィルタが、複数の第1のフィルタを備える場合、第1のフィルタの少なくとも2つは、頂点の位置が異なるように回転されて積層されてもよい。例えば、積層フィルタが、第1のフィルタAと第1のフィルタBを備える場合、例えば、フィルタAの頂点は、フィルタBの頂点と約30度異なる位置または約45度異なる位置に回転して積層されてもよい。あるいは、積層フィルタが、複数の第1のフィルタを備える場合、第1のフィルタの少なくとも2つは、頂点の位置が重なるように積層されてもよい。
【0022】
積層フィルタが、複数の第2のフィルタを備える場合、第2のフィルタの少なくとも2つは、頂点の位置が異なるように回転されて積層されても、頂点の位置が重なるように積層されてもよい。
【0023】
本発明の積層フィルタは、積層するフィルタの枚数、使用するフィルタの(複数の)形状、フィルタの材質、フィルタ上に添加した反応用試薬の濃度、フィルタ上に反応促進剤を添加するか否か(添加する場合は、その量・濃度)、フィルタを積層する順番、フィルタを積層する場合の配向等を適宜調節することによって、測定における感度・精度を調節することが可能である。
【0024】
本発明において使用する積層フィルタとしては、例えば、辺円変倍構造を有する積層フィルタが挙げられるがこれらに限定されない。すなわち、本発明において使用する積層フィルタは、形状の異なる複数種類のフィルタ、例えば、四角形フィルターの辺と円いフィルターを積層して作製することが可能である。本発明の積層フィルタの作製において使用される形状の異なる複数種類のフィルタの面積は必ずしも等倍である必要はなく、規則性のない変倍であってもよい。例えば、本発明の積層フィルタは、面積の異なる四角形フィルターの辺と円いフィルターを積層して作製することができる(
図4および
図5参照)。
【0025】
(2.試料ろ過のための追加フィルタ)
本発明の積層フィルタにおいて利用可能な試料としては、任意の液体試料が利用可能であり、例えば、生体材料(例えば、血液、尿、唾液、髄液、精液、体液、および乳)が挙げられるがこれらに限定されない。試料がろ過を必要とする場合、例えば、生乳中のエステラーゼを測定する場合、上記積層フィルタの前面または上部に、生乳などの試料に含まれる凝塊や細胞を濾しとる作用を有する任意のフィルタを追加してもよい。例えば、本発明の積層フィルタは、細胞よりも大きな凝塊を除去するための第1の追加フィルタおよび/または細胞を除去するための第2の追加フィルタを備えてもよい。
【0026】
第1の追加フィルタは、例えば、細胞(例えば、白血球)は通過するが、細胞(例えば、白血球)よりも大きな凝塊を濾別するメッシュサイズを有する。第1の追加フィルタのメッシュサイズとしては、例えば、200、300メッシュが挙げられるがこれらに限定されない。第1の追加フィルタは、代表的には、40ミクロン以下の粒子、35ミクロン以下の粒子、30ミクロン以下の粒子、25ミクロン以下の粒子、20ミクロン以下の粒子、15ミクロン以下の粒子、または、10ミクロン以下の粒子を通すが、これらを超えるサイズの粒子を通さない。第1の追加フィルタの材質としては、代表的には、不織布、ナイロンメッシュ、および、ポリカーボネートが挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】
第2の追加フィルタは、細胞(例えば、白血球)よりも小さな凝塊は通過するが、細胞(例えば、白血球)を通さないメッシュサイズを有する。第2の追加フィルタのメッシュサイズとしては、例えば、3μ、5μ、および、10μが挙げられるがこれらに限定されない。第2の追加フィルタは、代表的には、15ミクロン以下、12ミクロン以下、10ミクロン以下、8ミクロン以下、6ミクロン以下、5ミクロン以下、4ミクロン以下、3ミクロン以下、2ミクロン以下、1ミクロン以下、および、0.5ミクロン以下の粒子を通すが、これらを超えるサイズの粒子を通さない。第2の追加フィルタの材質は、第1の追加フィルタと同じであっても、異なってもよい。第2の追加フィルタの材質としては、代表的には、不織布、レーヨンフィルタ、ポリカーボネート、紙、が挙げられるがこれらに限定されない。第2の追加フィルタは、白血球を捕獲するために、その表面に正の電荷を有しても有さなくてもよい。そのような電荷を付与する官能基としては、例えば、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、陽イオン界面活性剤、コロナ処理、が挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
(3.検査対象物質および反応用試薬)
本発明の積層フィルタの検査対象物質は限定されることがなく、積層フィルタに含まれるフィルタ上で反応することが可能な任意の物質を利用することが可能である。
【0029】
本発明の検査対象物質としては、例えば、酵素、酵素反応の基質、抗体、抗原、および色素が挙げられるがこれらに限定されない。抗原としては、例えば、ウイルス、細菌、細胞、細胞片、細胞成分、DNA、RNA、タンパク質、糖鎖および脂質が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、本発明の検査対象物質が酵素である場合、反応用試薬は酵素反応の基質を含む。例えば、本発明の検査対象物質が酵素反応の基質である場合、反応用試薬は酵素を含む。例えば、本発明の検査対象物質が抗体である場合、反応用試薬は抗原を含む。例えば、本発明の検査対象物質が抗原である場合、反応用試薬は抗体を含む。
【0030】
例えば、検査対象物質が試料中のエステラーゼの場合、エステラーゼ基質としては、エステラーゼの酵素反応(エステル分解反応またはタンパク質分解反応)によって呈色する任意の物質を使用することができる。エステラーゼの基質としては、例えば、3-[N-(p-トルエンスルホニル)-L-アラニルオキシ]インド-ル、3-[N-(トルエン-4’-スルホニル)-L-アラニルオキシ]-インドール、3-[N-(ジフェニルカルバモイル)-L-アラニルオキシ]-インドール、3-[N-アセチル-L-アラニルオキシ]インドール、3-[N-ホルミル-L-アラニルオキシ]-インドール、3-[N-(ベンジルオキシカルボニル)-L-アラニルオキシ]-インドール、3-[N-(ベンゾイル)-D,L-アラニルオキシ]-インドール、3-[N-(5’,5’-ジメチル-3’-オキソ-シクロヘキセン-1’-イル)-L-アラニルオキシ]-インドール、3-[N-(2’-ニトロベンゼン-スルフェニル)-L-アラニルオキシ]-インドール、3-[N-(p-トルエンスルホニル)-L-アラニルオキシ]-5-フェニルピロ-ル、3-(N-アセチル-L-アラニルオキシ)-5-フェニルピロール、1-[N-(p-トルエンスルホニル)-L-アラニルオキシ]ナフタリン、3-[N-(p-トルエンスルホニル)-L-アラニルオキシ]-1-メトキシナフタリン、チアゾール-2-アゾ-4’-[1’-(N-ベンジルオキシカルボニル-L-アラニルオキシ)-5’-メトキシナフタリン]、チアゾール-2-アゾ-1’-[2’-(N-ベンジルオキシカルボニル-L-アラニルオキシ)ナフタリン]、チアゾ-ル-2-アゾ-4’[1’-(N-ベンジルオキシカルボニル-L-アラニルオキシ)-ナフタリン]、2-メトキシ-4-ニトロ-ベンゼン-アゾ-4’-[1’-(N-ベンジルオキシカルボニル-L-アラニルオキシ)ナフタリン]、6-メトキシ-ベンゾチアゾール-2-アゾ-2’-[1’(N-ベンジルオキシカルボニル-L-アラニルオキシ)-ナフタリン]、2,5-ジメトキシ-ベンゼン-アゾ-4’-[1’-(N-ベンジルオキシカルボニル-L-アラニルオキシ)-ナフタリン]、2,4-ジニトロ-ベンゼン-アゾ-4’-[1’-(N-ベンジルオキシカルボニル-L-アラニルオキシ)-ベンゼン]、1-[N-(p-トルエンスルホニル)-L-アラニルオキシ]-3-メトキシベンゼン、ジ-アセチル-3’,3’-ジブロム-5’,5’-ジクロル-フェノールスルホンフタレイン、ジ-アセチル-3’,5’,3’,5’-テトラブロム-フェニルスルホンフタレイン、ジ-アセチル-4,5,6,7,3’,5’,3’,5’-オクタブロム-フェノールスルホンフタレイン、ジ-(N-ベンジルカルボニル-L-アラニル)-3’,5’,3’,5’-テトラブロム-フェノールスルホンフタレイン、ジ-(N-ベンジルオキシカルボニル-L-フェニルアラニル)-3’,5’,3’,5’-テトラブロム-フェノールスルホンフタレイン、および3-[N-(p-トシルアラニルオキシ)-4-ニトロベンゼンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
(4.反応促進剤)
本発明のフィルタは、必要に応じて、反応促進剤を含んでもよい。例えば、検査対象物質または反応用試薬がエステラーゼを含む場合、R-OHで示されるアルコールであって、Rが少なくとも1つのハロゲン原子で置換されている反応促進剤によって、エステラーゼ酵素反応が促進する。好ましくは、Rの炭素数は、6以上である。反応促進剤としては、例えば、6-クロロ-1-ヘキサノ-ル、6-ブロモ-1-ヘキサノ-ル、2-クロロシクロヘキサノ-ル、2-ブロモシクロヘキサノ-ル、4-ブロモシクロヘキサノ-ル、1-クロロ-2-ヘプタノ-ル、7-クロロ-1-ヘプタノ-ル、8-ブロモ-1-オクタノ-ル、11-ブロモ-1-ウンデカノ-ル、12-ブロモ-1-ドデカノ-ル、および、2-クロロシクロヘキサノールが挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
(5.ハウジング)
好ましくは、本発明の積層フィルタは、上記複数のフィルタをハウジング内に備えてもよい。ハウジングの一部は、フィルム状(例えば、カバーフィルム)であってもよい。ハウジングは、好ましくは、呈色反応を観察するための窓と、全体を押さえて不織布の厚みを一定にして吸い込まれる試料の量を一定にするための凸部を有する。呈色反応を観察するための窓は、測定対象であり試料の導入口を兼ねてもよい。本発明の積層フィルタは、密封したフィルム(例えば、アルミ蒸着フィルム)に入れて保存することが好ましい。本発明の積層フィルタは、好ましくは、真空状態で保存される。ハウジングは、例えば、
図1に示されるハウジングであっても、シリンジの一部、あるいは、シリンジと連結するカートリッジであってもよい。
【0033】
(6.フィルタへの酵素反応基質の添加)
検査対象物質が酵素(例えば、試料中のエステラーゼ)の場合、本発明のフィルタへの反応用試薬(例えば、酵素反応基質)の添加は、代表的には、反応用試薬溶液(例えば、酵素反応基質溶液)にフィルタを浸漬することによって行ってもよい。あるいは、フィルタに酵素反応基質溶液を添加してもよい。フィルタに基質を固定化するために使用する反応用試薬溶液(例えば、酵素反応基質溶液)の濃度としては、例えば、0.08mg/ml、0.10mg/ml、0.11mg/ml、0.12mg/ml、0.13mg/ml、0.14mg/ml、0.15mg/ml、0.16mg/ml、0.17mg/ml、0.18mg/ml、0.19mg/ml、0.20mg/ml、0.3mg/ml、0.4mg/ml、0.5mg/ml、0.6mg/ml、0.7mg/ml、0.8mg/ml、0.9mg/ml、および1.0mg/mlが挙げられるがこれらに限定されない。
【0034】
(7.フィルタへの反応促進剤の添加)
本発明のフィルタに反応促進剤を添加する場合、その添加に使用する反応促進剤の濃度としては、例えば、反応用試薬溶液(例えば、酵素反応基質溶液)の濃度の1.0倍、1.2倍、1.4倍、1.6倍、1.8倍、2.0倍、2.2倍、2.4倍、2.6倍、2.8倍、3.0倍、3.5倍、4.0倍、4.5倍、5.0倍、6.0倍、7.0倍、8.0倍が挙げられるがこれらに限定されない。
【0035】
(8.積層フィルタの使用)
本発明の積層フィルタの使用方法は、特に限定されることはないが、例えば、積層フィルタの一方の面(試料ろ過のための追加フィルタを備える場合には、追加フィルタ側)に液体の試料を添加するだけで、検査対象物質の検出および/または定量が可能である。本発明の積層フィルタがハウジング内に収容されていると、ハウジングの凸部により複数のフィルタの全体が押さえられてフィルタの厚みが一定となり、そのため、積層フィルタ内に吸い込まれる液体試料の量が一定となる。そのため、本発明の積層フィルタに一定量以上の液体試料を添加した場合には、一定量の液体試料のみが積層フィルタ内に吸い込まれ、その結果、高感度かつ高精度な細胞の検出・測定が可能となる。
【0036】
あるいは、本発明の積層フィルタの使用方法は、特に限定されることはないが、例えば、液体試料中(例えば、生乳中)に浸漬し、取り出すだけで、検査対象物質の検出・測定が可能である。本発明の積層フィルタがハウジング内に収容されていると、ハウジングの凸部により複数のフィルタの全体が押さえられて不織布の厚みが一定となり、そのため、積層フィルタ内に吸い込まれる生乳の量が一定となる。そのため、本発明の積層フィルタは、液体試料中(例えば、生乳中)に浸漬し、取り出すだけで、高感度かつ高精度な細胞の検出・測定を可能とする。
【0037】
本発明の積層フィルタは、シリンジ内に配置すること、あるいは、シリンジに連結したカートリッジ内に配置することも可能である。
【0038】
呈色反応を利用する場合、試料中の検査対象物質の検出および/または定量は、積層フィルタをそのまま外部から目視することによって可能である。あるいは、発色を周知の手段によって測定してもよい。複数のフィルタ上の反応によって発色し、これをハウジングの反応用の窓から見ると、色が増幅されて鮮明な発色となり、より高感度かつ高精度で測定することが可能となる。
【0039】
試料の液体がフィルタから隣接するフィルタに移動するには一定の時間が必要となるため、積層フィルタに含まれる複数のフィルタ上での反応(例えば、呈色反応)の程度の違いは、反応の経時変化を反映し得る。例えば、積層フィルタに試料を添加し一定時間経過した後に積層フィルタに含まれる複数のフィルタでの反応を比較すると、試料を添加した側に近いフィルタはより長時間の反応の結果を反映し、試料を添加した側から遠いフィルタはより短時間の反応の結果を反映する。それゆえ、本発明の積層フィルタは、一点の時間での測定によって、反応の経時変化を検出することも可能である。
【0040】
(9.生乳中の体細胞数の測定)
本発明の積層フィルタを使用することによって、生乳中(例えば、生牛乳中)の体細胞数を簡便に測定ないし検査することが可能である。代表的な測定法は、以下のとおりである。
(1)キャリブレーション用の試料を調製する。キャリブレーション用試料は、例えば、生乳中の白血球数をフローサイトメーターで測定することを特徴とする公定法を用いて所与の試料を測定することによって調製することができる。フローサイトメーターとしては、例えば、FOSS社(デンマーク)のFOSSMATICという装置を使用することが可能である。代表的には、キャリブレーション用試料として使用する試料は、含まれる体細胞数が測定された生乳である。計数される体細胞は、代表的には白血球である。細胞数を決定したキャリブレーション試料に基づいて、種々の濃度の細胞を含む複数のキャリブレーション試料を調製する。
(2)段階的な色具体を示すカラーチャートを準備し、本発明の積層フィルタによる呈色反応と比較するために使用する。上記カラーチャートは、呈色反応による発色に対応する色の濃淡を段階的に示す指標である。例えば、4段階の濃淡を示すカラーチャートを準備する(
図6の4つの異なる濃さの四角参照)。
(3)上記(1)で調製した種々の濃度の細胞を含むキャリブレーション試料を本発明の積層フィルタに供して、エステラーゼの酵素反応による呈色反応を起こさせる。呈色反応の結果を、上記(2)のカラーチャートと比較し、カラーチャートの各々の濃さの色が対応する細胞数を決定する。例えば、最も淡い色が対応する細胞数(例えば、
図6の一番左)、次に濃い色が対応する細胞数(例えば、
図6の左から2番目)、次に濃い色が対応する細胞数(例えば、
図6の左から3番目)、最も濃い色が対応する細胞数(例えば、
図6の一番右)を決定し、カラーチャートの各濃淡の色に対応付けさせる。このようにして、例えば、
図6に示すように、色の濃淡と細胞数を対応付けたカラーチャートが作製できる。
(4)測定対象の試料を本発明の積層フィルタに供し、呈色反応を起こさせる。必要に応じて、細胞を含まない溶液で試料を適切に希釈してもよい。この場合、反応条件(例えば、(i)試料に本発明の積層フィルタを浸漬させるのか、あるいは、一定量の試料を添加するのか、(ii)反応時間、(iii)反応温度、(iv)反応完了後(例えば、ステップ(i)の完了後)の室温放置時間(例えば、酵素反応を起こさせる時間)、(v)使用する試料の温度(例えば、室温か、動物の対応か、冷蔵温度かなど)、(vi)試料採取から測定までの時間、など)を実質的に同等にすることに留意する。
(5)上記(4)の結果得られた呈色反応を観察し、上記(3)のカラーチャートのいずれかの濃淡に対応付けさせる。
(6)上記(5)において対応付けされた濃淡に対応する細胞数が、測定対象の試料中の細胞数であると決定付ける。
【実施例】
【0041】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1:生乳中の体細胞を効率よく検出するための積層フィルタ)
ポリプロピレンから作製された、ポアサイズ0.2ミクロン~10ミクロン、繊維の直径0.1ミクロン~10ミクロンの不織布をフィルタとして使用した。このフィルタ(1辺が12mmの四角形)にエステラーゼ酵素反応基質である反応用試薬3-[N-(p-トルエンスルホニル)-L-アラニルオキシ]インドール(以下TALと記す)(35mg/ml)および反応促進剤12-ブロモー1-ドデカノール(以下DODECAと記す)(50mg/ml)を含む溶液0.015mlを添加し、風乾した。このように作成したフィルタの両側に、反応用試薬も反応促進剤も添加していないフィルタを重ねて積層フィルタとし、更にこのフィルターに対応するように1.0Mトリス塩酸バッファーを含浸させた四角形のフィルターの角が重ならないように2枚重ね、更にその下に同じバッファーを含浸させた円形のフィルターを重ねた後にこれを
図1~2に示すハウジング内に収納した。収納した状態を
図3に示す。この積層フィルタを収納したハウジングを試料用検査具として用いて、生乳を試料として、生乳中に含まれる白血球由来のエステラーゼの検出を行った。
【0043】
生乳中の白血球数は1ml中30万個を越えると生乳としての商品価値が損なわれる。したがって生乳中の白血球数を正確に把握する必要がある。その差は1ml中では30万個と40万個であるが、検査用チップに含まれる生乳の量は0.1mlである。白血球の数では3万個と4万個の発色の強さを分別しなくてはならない。そこで、反応の場として使用される不織布の枚数を以下のように変化させて試験を行った。
【0044】
【0045】
その結果、4枚以上のフィルタを使用することによって、3万個と4万個の白血球の数の違いによる発色の強さを検出することが可能であり、さらに、5枚以上のフィルタを設定することにより、生乳に含まれる白血球の数の差をかなり鮮明に識別できることがわかった。
【0046】
(実施例2:異なる形状のフィルタの使用)
次に、積層フィルタに使用するフィルタとして異なる形状である四角と円形を組合わせた効果について試験した。フィルタの形状が異なる以外は、実施例1と同じ条件を用いた。円形のフィルタの直径は、観察用窓と同じ大きさとし、それが、観察用窓の中央になるように位置合わせを行って調整した。これを試料用検査具として作製した。積層フィルタを収納した状態を
図4に示す。7枚のフィルタの重なりを
図5に示す。生乳中の体細胞の測定を行った結果は、以下のとおりである。
【0047】
【0048】
その結果、生乳中の白血球について1ml中30万個と40万個の発色の差を鮮明に確認する事ができた。
【0049】
(実施例3:フィルタの検討)
フィルタの大きさを次のように規定して、試料用検査具を作製した。円形フィルタは直径8φ、10φ、四角形フィルタは1辺12ミリの正方形とし、10φの円形を2枚、8φの円形を1枚、正方形を3枚、組み合わせ、下から正方形-正方形-8φの円形-正方形12φの円形、12φの円形となるように積層した。最上部の円形にはエステラーゼの基質であるトシルLアラニンエチルエステルを含浸させ、その下はブランクとし、その下のすべてのシートに1M-トリス塩酸バッファーを含浸させて乾燥させたものを配置した。これを試料用検査具とし、以下の白血球を含む生乳に5秒間浸漬したのち平らなところに静置し5分から6分後の観察窓の色の変化白血球数と対応するカラーチャートと比較して生乳中の白血球数を推定した。
【0050】
【0051】
その結果は、上記の表3のとおりである。
【0052】
(実施例4:エンザイムイムノアッセイにおける増幅効果の確認)
血液中のCRPは感染症の時に生体に起こった炎症反応によって生じるため、感染症などの有無を定性的に確認するには良い方法である。
【0053】
最近になって、今まで陰性と判断していた血液中のCRPの値をより精密に、低いレベルまで測定することにより、ガンの進行などもモニターできることがわかった。しかし現行の試薬では低いレベルのCRPを検出することができないためより精密な試薬の開発が必要となり、本来簡易的にCRPをモニターすることで病状を推定する目的から外れてしまっている。
【0054】
そこで今回の仕組みを利用し、CRPの基準値(正常値)は0.5~1.0mg/dlなのでこれ以下の濃度を検出できるか検討した。
【0055】
チップの構造は10φと8φの円形、12ミリの正方形を組み合わせ、これにCRPの抗体を固定し、上下に穴の空いたハウジングに貼り付けてチップを調製した。このチップの観察用窓に抗原となるCRPの希釈液を0.1ml滴下し5分反応させたのち、さらにこの観察用窓に洗浄用のバッファーを1ml滴下してB/Fの分離を十分に行い溢れた洗浄用バッファーは観察用窓の反対側に開けられた小孔から排出したのち、ペルオキシダーゼを標識した第二抗体を0.1ml滴下して5分反応させたのち、発色試薬を滴下して、各CRP濃度における発色の有無を確認した。結果を以下の表に示す。
【0056】
【0057】
以上のように複数のフィルタを用いる本発明は、より高感度にCRPを検出することが可能になった。
【0058】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、簡便かつ、測定感度および測定精度が十分な、試料中(特に液体試料中)の検査対象物質を検出および/または定量するための積層フィルタ、試料用検査具およびキットを提供する。