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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】レーザースキャンセンサ
(51)【国際特許分類】
   G08B 13/181 20060101AFI20240216BHJP
   G01S 17/88 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G08B13/181
G01S17/88
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020036111
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021140343
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】317006258
【氏名又は名称】オプテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 正仁
(72)【発明者】
【氏名】森田 昌城
【審査官】山岸 登
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-059834(JP,A)
【文献】特開2019-152529(JP,A)
【文献】特開2017-009315(JP,A)
【文献】特開2012-022630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S7/48-7/51
17/00-17/95
G08B13/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を出射してその方向に存在する少なくとも1以上の物体からのそれぞれの反射光が戻ってくるまでの時間から前記各物体までの距離を測定するレーザー距離計と、
このレーザー距離計による測定方向を変える走査機構部と、
この走査機構部によって前記測定方向を変えながら前記レーザー距離計による測定を周期的に行うことにより、検知エリアを形成するとともにその検知エリア内における前記測定方向毎に測定した少なくとも1以上の距離を含む距離情報を時系列で取得する距離情報取得部と、
前記測定方向毎に前記検知エリアの外周に対応する距離を背景距離情報として記憶する検知エリア情報記憶部と、
予め定められた所定幅以内に対応する連続した測定方向において、前記距離情報取得部によって取得された前記距離情報が前記検知エリア情報記憶部に記憶されている背景距離情報よりそれぞれ予め定められた所定距離以上大きく、且つその状態がその後の予め定められた所定時間内で予め定められた所定比率以上変動した場合に反射面が存在すると判定する第1判定部と、
前記距離情報取得部によって取得された前記距離情報から、人体に対応する可能性がある部分を抽出するとともに、そうして抽出された各抽出部分の時系列での移動状況に基づいて、前記各抽出部分が人体であるか否かをそれぞれ判定する第2判定部と、
前記第1判定部によって反射面が存在すると判定された場合、又は前記第2判定部によって人体が存在すると判定された場合に、第1警告信号を出力する第1警告信号出力部と
を備えることを特徴とするレーザースキャンセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザースキャンセンサにおいて、
前記第1判定部による判定を前記第1警告信号に反映させることを無効化する第1判定無効化部をさらに備えることを特徴とするレーザースキャンセンサ。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザースキャンセンサにおいて、
前記第1判定部は、前記所定幅、前記所定距離、前記所定時間、及び前記所定比率の各設定の少なくとも1つを変更することで、反射面が存在すると判定する感度を少なくとも2段階に変更できることを特徴とするレーザースキャンセンサ。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザースキャンセンサにおいて、
前記第1判定部によって反射面が存在すると判定された場合に第2警告信号を出力する第2警告信号出力部をさらに備えることを特徴とするレーザースキャンセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の敷地内への侵入者などを検知するレーザースキャンセンサに関し、特に鏡などで反射光を反らして測距不能にすることによって侵入を図ろうとする者であっても検知可能で、いわゆる「失報」を極力防止するレーザースキャンセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防犯装置の一つとして、マイクロ波を検知エリアに向けて送信し、検知エリア内に侵入者が存在する場合には、その侵入者からの反射波を受信して検知するマイクロウエーブセンサが知られている。
【0003】
本願発明者は、屋外での悪天候時などにレーザー光が受ける悪影響などをできる限り排除又は修復し、濃霧や大雨、大雪などの中での侵入者などの検知精度を従来よりも向上させることができるレーザースキャンセンサを既に提案している(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載のレーザースキャンセンサは、レーザー光を出射してその方向に存在する少なくとも1以上の物体からのそれぞれの反射光が戻ってくるまでの時間から前記各物体までの距離を測定するレーザー距離計と、このレーザー距離計による測定方向を変える走査機構部と、この走査機構部によって前記測定方向を変えながら前記レーザー距離計による測定を周期的に行うことにより、検知エリアを形成するとともにその検知エリア内における前記測定方向毎に測定した少なくとも1以上の距離を含む距離情報を時系列で取得する距離情報取得部と、測定方向毎に、前記距離情報取得部によって取得された前記距離情報が本来の検知対象より近距離側の他の物体に対応していると判定されるとともに、隣接測定方向又はそれ以前の測定周期の前記距離情報に基づく補間が可能と判定された場合には、当該測定方向の前記距離情報を、前記隣接測定方向において当該測定周期で取得された前記距離情報に基づく補間値又は当該測定方向においてそれ以前の測定周期で取得された前記距離情報に基づく補間値に置換する補間処理を行う距離情報補間部と、前記距離情報取得部によって取得されるとともに前記距離情報補間部によって必要に応じて前記補間処理が行われた前記距離情報から、物体又は人体に対応する可能性がある部分を抽出するとともに、そうして抽出された各抽出部分の時系列での移動状況に基づいて、前記各抽出部分が物体又は人体であるか否かをそれぞれ判定する判定部と、前記判定部によって物体又は人体が存在していると判定された場合に警告信号を出力する警告信号出力部と、前記測定方向毎に前記検知エリアの外周に対応する距離又は最大検知可能距離を検知エリア情報として記憶する検知エリア情報記憶部とを備え、前記距離情報補間部は、前記距離情報取得部で取得された測定方向毎の前記距離情報に含まれている最大距離と前記検知エリア情報との距離差が予め定めた所定値以上であれば、前記距離情報が本来の検知対象より近距離側の他の物体に対応していると判定することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-059834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原子力発電所や空港などの重要施設では、面警戒のために測距型レーザースキャンセンサが用いられる。目視が必要な監視カメラ、飛び越えや匍匐前進などで回避可能な外周警戒、又は侵入者の体温などを検知する熱検知センサなどとは異なり、不審物の存在位置がわかるため、必要に応じてカメラをクローズアップして記録できるからである。
【0007】
図8は従来のレーザースキャンセンサ10による人体検知の基本原理の概略説明図である。左側にレーザースキャンセンサ10や侵入者20などの位置関係を示し、右側にスキャンエリアA10内の検知状態を示す。
【0008】
この図8に示すように、例えば壁面11の上方にレーザースキャンセンサ10が斜め下方に向けられて設置されている状況で、侵入者20があったと仮定する。ここで、レーザースキャンセンサ10は、その設置作業時などにスキャンエリアA10内に侵入者などが一切存在しない状態で測定方向毎に取得した距離データを背景距離データとして記憶している。通常はこの背景距離データは、その測定方向における地面12などの外周までの距離となる。なお、図8の右側に示されている半円状のスキャンエリアA10の外周(破線)が、検知可能な最大距離に相当する。
【0009】
侵入者20によってレーザー光が一部の測定方向で遮られると、その範囲(A10x)で取得される距離データはそれぞれに背景距離データより短くなり得る。すなわち、スキャンエリアA10内の一部の測定方向で取得した距離データが背景距離データより短くなることで、スキャンエリアA10内になんらかの物体が存在すること、例えば侵入者20の存在を検知できる。
【0010】
しかしながら、レーザースキャンセンサは反射光で距離を測って物体の有無を判定しているため、反射光が存在しない場合には距離データが無限遠になって、その方向には物体が存在しないという判定になる。そのため、例えば鏡などで反射光を反らして測距不能にすることで侵入することが可能となり、レーザースキャンセンサとしては失報となってしまう。そのような具体例を次に示す。
【0011】
図9はレーザースキャンセンサ10による人体検知が鏡21によって妨害される状況を例示する概略説明図である。左側にレーザースキャンセンサ10や侵入者20などの位置関係を示し、右側にスキャンエリアA10内の検知状態を示す。
【0012】
この図9に示すように、侵入者20が例えば全身をほぼ隠せるような大きな鏡21を持ってレーザースキャンセンサ10からのレーザー光の反射光を反らせ、その反射光が戻らない場合、距離データが無限遠になって、その方向には物体が存在しないという判定になる。つまり、侵入者20が存在するにも関わらず警告信号を出力できない失報となってしまう。
【0013】
図10(a)及び(b)はレーザースキャンセンサ10による人体検知が鏡21によって妨害される別の2つの状況を例示する概略説明図であって、(a)は鏡21によって反らされた反射光の先の近くに障害物が存在する場合であり、(b)は鏡21によって反らされた反射光が地面に向いている場合である。左側がレーザースキャンセンサ10や侵入者20などの位置関係を示し、右側がスキャンエリアA10内の検知状態を示すのは同様である。
【0014】
これらの図10(a)又は図10(b)に示すように、侵入者20が大きな鏡21を持ってレーザースキャンセンサ10からのレーザー光の反射光を反らせ、その反射光の先の近くに樹木13などの障害物が存在する場合、又はその反射光が地面に向いている場合、距離データが少なくとも背景距離データより大きくなって、その方向にはやはり物体が存在しないという判定になる。つまり、侵入者20が存在するにも関わらず警告信号を出力できない失報となってしまう。
【0015】
図11はレーザースキャンセンサ10による人体検知が鏡21によって妨害される他の状況を例示する概略説明図である。左側にレーザースキャンセンサ10や侵入者20などの位置関係を示し、右側にスキャンエリアA10内の検知状態を示す。
【0016】
この図11図9とほぼ同様の状況であるが、鏡21によって侵入者20を完全に覆い隠すことができず、侵入者20の一部からの反射光が戻る場合である。侵入者20からの反射光については背景距離データより短い距離が取得されるものの、そのような距離が連続して取得される角度幅が狭いため、なんらかの物体が存在し得るものの人体ではないという判定になる。そのため、侵入者20が存在するにも関わらず、やはり警告信号を出力できない失報となってしまう。
【0017】
なお、レーザースキャンに関する欧州TS規格では、グレード4の要件として鏡の検知が挙げられているため、上述したような状況で鏡を検出することは、特別な課題ではなく、むしろ一般的課題として認識されている。
【0018】
従来技術のこのような課題に鑑み、本発明の目的は、鏡などを用いて侵入を図ろうとする者であっても、鏡面による反射であることを判別することでその侵入者を検知可能として、失報を極力防止するレーザースキャンセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明のレーザースキャンセンサは、レーザー光を出射してその方向に存在する少なくとも1以上の物体からのそれぞれの反射光が戻ってくるまでの時間から前記各物体までの距離を測定するレーザー距離計と、このレーザー距離計による測定方向を変える走査機構部と、この走査機構部によって前記測定方向を変えながら前記レーザー距離計による測定を周期的に行うことにより、検知エリアを形成するとともにその検知エリア内における前記測定方向毎に測定した少なくとも1以上の距離を含む距離情報を時系列で取得する距離情報取得部と、前記測定方向毎に前記検知エリアの外周に対応する距離を背景距離情報として記憶する検知エリア情報記憶部と、予め定められた所定幅以内に対応する連続した測定方向において、前記距離情報取得部によって取得された前記距離情報が前記検知エリア情報記憶部に記憶されている背景距離情報よりそれぞれ予め定められた所定距離以上大きく、且つその状態がその後の予め定められた所定時間内で予め定められた所定比率以上変動した場合に反射面が存在すると判定する第1判定部と、前記距離情報取得部によって取得された前記距離情報から、人体に対応する可能性がある部分を抽出するとともに、そうして抽出された各抽出部分の時系列での移動状況に基づいて、前記各抽出部分が人体であるか否かをそれぞれ判定する第2判定部と、前記第1判定部によって反射面が存在すると判定された場合、又は前記第2判定部によって人体が存在すると判定された場合に、第1警告信号を出力する第1警告信号出力部とを備えることを特徴とする。
【0020】
ここで、前記第1判定部による判定を前記第1警告信号に反映させることを無効化する第1判定無効化部をさらに備えてもよい。前記第1判定部は、前記所定幅、前記所定距離、前記所定時間、及び前記所定比率の各設定の少なくとも1つを変更することで、反射面が存在すると判定する感度を少なくとも2段階に変更できるようにしてもよい。前記第1判定部によって反射面が存在すると判定された場合に第2警告信号を出力する第2警告信号出力部をさらに備えてもよい。
【0021】
このような構成のレーザースキャンセンサによれば、鏡などを用いて侵入を図ろうとする者であっても、鏡面による反射であることを判別することでその侵入者を検知可能として、失報を極力防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のレーザースキャンセンサによれば、鏡などを用いて侵入を図ろうとする者であっても検知可能であり、失報を極力防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザースキャンセンサ100の概略構成を示すブロック図である。
図2】レーザースキャンセンサ100によって形成される検知エリアA100を示す概略平面図である。
図3】レーザースキャンセンサ100によって鏡面を検知する基本原理の概略説明図であって、(a)は正しい反射情報が全く得られていない場合であり、(b)は一部で鏡から反射情報が得られている場合である。
図4】レーザースキャンセンサ100によって鏡面の候補を抽出してから鏡面と確定する鏡面確定処理を例示する概略フローチャートである。
図5】鏡面の候補を抽出する鏡面候補抽出処理を例示する概略フローチャートである。
図6】鏡面のレーザー番号を検索する鏡面レーザー番号検索処理を例示する概略フローチャートである。
図7】鏡面幅を判定するとともに鏡面と確定する鏡面幅判定・鏡面確定処理を例示する概略フローチャートである。
図8】従来のレーザースキャンセンサ10による人体検知の基本原理の概略説明図である。
図9】レーザースキャンセンサ10による人体検知が鏡21によって妨害される状況を例示する概略説明図である。
図10】レーザースキャンセンサ10による人体検知が鏡21によって妨害される別の2つの状況を例示する概略説明図であって、(a)は鏡21によって反らされた反射光の先の近くに障害物が存在する場合であり、(b)は鏡21によって反らされた反射光が地面に向いている場合である。
図11】レーザースキャンセンサ10による人体検知が鏡21によって妨害される他の状況を例示する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0025】
<レーザースキャンセンサ100の概略構成>
図1は本発明の一実施形態に係るレーザースキャンセンサ100の概略構成を示すブロック図である。図2はこのレーザースキャンセンサ100によって形成される検知エリアA100を示す概略平面図である。なお、図2では隣接する距離測定方向の間隔を実際の間隔よりも遙かに広く描画してあるが、あくまでも説明の便宜のためである。
【0026】
図1に示すように、レーザースキャンセンサ100は、レーザー距離計110と、スキャン機構120と、距離データ取得部130と、鏡面判定部135と、人体判定部140と、警告出力制御部150と、メモリ160とを備えている。
【0027】
レーザー距離計110は、パルスレーザー光を出射し、その方向に存在する少なくとも1以上の物体からのそれぞれの反射光が戻ってくるまでの微小な時間を精密に測定することによって、それらの各物体までの距離を正確に測定してそれぞれの距離値を含む距離データを得る。測定方向によっては3つ以上の距離値が得られる状況も想定されるが、本実施形態では近距離側から最大2つまでの距離値を取得するものとしておく。もちろん、このような構成に限るわけではない。
【0028】
レーザー距離計110におけるレーザー光の発光素子としては、例えば半導体レーザーダイオード(LD)などが挙げられる。受光素子としては、例えばアバランシェフォトダイオード(APD)などが挙げられる。発光素子の駆動制御や反射光が戻ってくるまでの時間測定などには専用のハードウェア回路などを設けることが望ましい。レーザー距離計の一般的な特徴としては、かなりの長距離まで精密な距離測定が可能であり、例えば、最大で数十m、場合によってはそれより遙かに長距離であっても測定可能であるが、このレーザー距離計110では最大検知距離を30mとしておく。
【0029】
スキャン機構120は、不図示のモータなどを内蔵することで回転可能としてあり、レーザー距離計110による距離の測定方向(角度)を変えられるようにレーザー距離計110の少なくとも一部と機械的に連結されている。例えば、レーザー距離計110のうちで光学系の部分のみを回転させるような構成が考えられるが、レーザー距離計110全体を回転させるような構成でもよいし、それ以外の構成でもかまわない。そして、スキャン機構120が一定速度で所定方向に回転することにより、それに連動してレーザー距離計110による距離の測定方向が変化する。
【0030】
距離データ取得部130は、スキャン機構120によって測定方向を変えながらレーザー距離計110による測定を周期的に繰り返すことによって、図2に示すような検知エリアA100を形成するとともにその検知エリアA100内における所定角度間隔の測定方向(「ステップ」ともいう)毎の距離データを所定時間毎に時系列で取得する。
【0031】
なお、設置作業時などに検知エリアA100内に人体などが全く存在しない状態で距離データ取得部130によって取得した測定方向毎の距離データは、検知エリアA100の外周(その測定方向における地面12など)までの距離に対応するが、そのときの各距離データをそれぞれ背景距離データとしてメモリ160に記憶させておく。
【0032】
スキャン機構120によるスキャン周期Tを、例えば50ms(1秒間に20回のスキャンを行う)、1回転の半分の180度の範囲でパルスレーザー光を発光して距離を測定するものとして、パルスレーザー光のパルス幅を34ns、その発光周期を34.7μsとすれば、180度の範囲で720回の距離測定ができる。この場合の距離測定の角度間隔は0.25度で、これは30m先でも図2に示すように約13cm幅に過ぎないから、検知エリアA100内の空間分解能としてはかなり高い。そのため、距離データ取得部130によって取得される距離データに基づいて検知物体の位置、大きさ(幅)、形状などをかなり正確に識別して人体か否かなどの判定をすることが可能であり、検知エリアA100内に複数の人体が存在する場合であってもそれらを個別に識別することも可能である。そして、そのような距離データがスキャン周期Tである50ms毎に得られることになる。なお、ここに示した数値はあくまでも例示に過ぎない。
【0033】
鏡面判定部135は、距離データ取得部130によって取得された距離データを解析する。具体的には、まず、全測定方向のうちの一部の連続した測定方向において、距離データ取得部130によって取得された距離データがメモリ160に記憶されている背景距離データよりそれぞれ大きい、より好ましくは所定距離以上それぞれ大きい部分があれば抽出する。次に、抽出した部分に対応する測定方向の距離データと連続した測定方向の両端の角度間隔とから実際の幅を算出し、その幅が鏡21として想定される最大幅より小さいか否かを判定する。これらの条件が満たされている場合に、抽出した部分の時間的変化をその後も継続的に監視し、一定時間内の変化率が所定の閾値より大きいときに鏡21が存在すると判定する。これは、侵入者20がレーザー光を正確に反らし続けるように鏡21を安定的に保持することが極めて困難だからであり、侵入者20以外の一定の容積がある物体では起こり得ない変化だからである。
【0034】
人体判定部140も、距離データ取得部130によって取得された距離データを解析する。測定方向毎の距離データを、メモリ160に記憶されている対応する背景距離データ又はそれ以前の測定周期の距離データと比較することで、距離データに変化があった測定方向にはなんらかの物体が侵入してきたか、又は既に存在していた物体が移動した可能性があることが判明する。そして、距離データの各測定方向に基づいて2次元展開することによって、侵入又は移動した物体の形状や範囲などから人体形状に対応すると推測される部分を抽出する。
【0035】
例えば、侵入者20がレーザースキャンセンサ100側の方向を向いている場合、胴体部分の幅は数十cm程度であるから仮に40cmとすれば、30mの距離では約3個の隣接データに相当する。距離が短くなると隣接データ間の幅もそれに応じて狭くなり、例えば20mの距離では約8.8cmとなり、10mの距離では約4.4cmとなる。このとき、実際の同じ幅に対する隣接データの個数は逆に増えるので、例えば、10mの距離では40cmの幅が約9個の隣接データに相当する。侵入者20がレーザースキャンセンサ100側の方向を向いておらず斜めや横向きであるときは、もちろん距離データに現れる幅は狭くなる。
【0036】
また、人体はゆるやかな丸みを帯びているから、それに対応する隣接データの中央部ほどやや短めの距離になるはずで、具体的には、一定幅で下向きに凸のゆるやかな曲線になると考えられる。距離データ中にそういう部分が存在していれば人体である可能性があると判断できる。一方、幅が狭すぎるものや、逆に幅が広すぎてしかも直線状になっているものは明らかに人体ではないと判断できる。
【0037】
距離データは距離データ取得部130によって時系列で取得されているので、次に、人体判定部140は、距離データ中に人体である可能性があると推測されて抽出された部分が、それ以降の距離データではどのように変化しているか、移動状況を把握する。移動の軌跡が著しく不連続であるときなどは人体ではない可能性が高いと判別できる。一方、完全に静止しているか、移動距離がごくわずかであるときは、少なくとも警戒すべき侵入者ではないと判別できる。さらに、移動方向なども考慮することによっても、警戒すべき侵入者であるのか、単に検知エリアA100の境界付近を歩行している通行人なのかなどの判別をより的確に行うことができる。そして、以上の判別結果などを総合して、警戒すべき人体が存在しているか否かを判定する。
【0038】
なお、仮に30m以上の距離にある物体を検知したとしても、検知エリアA100外に相当するため、以上で述べた人体か否かの判定の対象としては扱わないものとしておくが、これに限るものではない。
【0039】
警告出力制御部150は、鏡面判定部135によって鏡21が存在すると判定されている場合、又は人体判定部140によって人体が存在していると判定された場合に警告信号Dout1を出力する。
【0040】
なお、距離データ取得部130、鏡面判定部135、人体判定部140、警告出力制御部150及びメモリ160など(図1の破線部)は、例えば、機器組み込み用のワンチップマイコンとそのソフトウェア処理によって構成してもよい。上述した各判別処理などは、パターンマッチングなどの手法によって実現できるので、比較的コストの安いワンチップマイコンを採用することもでき、レーザースキャンセンサ100全体としてのコストダウンに貢献することができる。ただし、必ずしもワンチップマイコンを使用しなくてもよい。
【0041】
また、警告出力制御部150から出力される警告信号Dout1に、鏡面判定部135による鏡21の存在判定を反映させるかどうかを、例えばディップスイッチを新たに設けて、ユーザーの操作で切り替えられるようにしてもよい。又はメモリ160に記憶させるフラグ情報などによって、ソフトウェア上で切り替えられるようにしてもよい。
【0042】
また、警告信号Dout1とは別に、鏡面判定部135のみの判定結果に応じた信号を出力できるようにしてもよい。あるいは、独立した出力信号を設けなくても、ソフトウェア上で識別できるようにしてもよい。
【0043】
また、図1では鏡面判定部135及び人体判定部140を分けて図示しているが、1つの判定部で鏡面及び人体の判定をまとめて行うようにしてもよい。
【0044】
<レーザースキャンセンサ100による鏡面検知の基本原理と概略処理>
図3はレーザースキャンセンサ100によって鏡面を検知する基本原理の概略説明図であって、(a)は正しい反射情報が全く得られていない場合であり、(b)は一部で鏡から反射情報が得られている場合である。
【0045】
これらの図3(a)又は(b)に示すように、検知エリアA100の一部の連続した測定方向で取得した各距離データがそれぞれの測定方向における背景距離データより大きいとき、従来技術のように単純に物体が存在しないと判定するのではなく、大きな鏡21を持った侵入者20などの可能性も想定し、物体として補完して人体判定を行うようにする。
【0046】
例えば図3(a)に示すように、所定幅以上の連続する測定方向で、各距離データがそれぞれの背景距離データより大きい場合、それを物体22として扱うようにしてもよい。
【0047】
または、図3(b)に示すように、所定幅未満の狭い連続する測定方向で、距離データが背景距離データより短く、且つその片側又は両側に隣接した連続する測定方向で各距離データがそれぞれの背景距離データより大きい場合、それを物体22として扱うようにしてもよい。
【0048】
ただし、このような補完の有効化に起因する誤報を抑制するため、例えば次のような制限を設けることが好ましい。
【0049】
1.地面12までの距離からの伸び量
2.水平方向の最小・最大幅
3.連続する測定方向の最大幅
4.レーザースキャンセンサ100からの最小距離
図4はレーザースキャンセンサ100によって鏡面の候補を抽出してから鏡面と確定するまでの鏡面確定処理を例示する概略フローチャートである。図5は鏡面の候補を抽出する鏡面候補抽出処理を例示する概略フローチャートである。図6は鏡面のレーザー番号を検索する鏡面レーザー番号検索処理を例示する概略フローチャートである。図7は鏡面幅を判定するとともに鏡面と確定する鏡面幅判定・鏡面確定処理を例示する概略フローチャートである。
【0050】
図4に示すように、まずは鏡面の候補を抽出するため、「鏡面候補抽出」(図5参照)をコールする(ステップS41)。次に、抽出された候補を鏡面と確定するため、「鏡面幅判定・鏡面確定」(図7参照)をコールする(ステップS42)。
【0051】
図5に示すように、図4のステップS41からコールされた「鏡面候補抽出」では、まずは鏡面のレーザー番号を検索する「鏡面レーザー番号検索」(図6参照)をコールする(ステップS51)。次に、その検索で抽出されたレーザー番号を記憶してから(ステップS52)、リターンする。
【0052】
図6に示すように、図5のステップS51からコールされた「鏡面レーザー番号検索」では、まずは「背景距離」がレーザー距離計110によって検知可能な「最大距離」より短いか否かを判定し(ステップS61)、Noであればそのままリターンし、Yesであれば次のステップS62に進む。
【0053】
レーザーで検知した距離(検知距離)が地面までの距離(地面距離)より「伸び量A」以上か否かを判定し(ステップS62)、Noであればそのままリターンし、Yesであれば、レーザーの番号を記憶した(ステップS63)後にリターンする。
【0054】
図7に示すように、図4のステップS42からコールされた「鏡面幅判定・鏡面確定」では、まずは開始レーザーの座標を計算するとともに(ステップS71)、終了レーザーの座標も計算し(ステップS72)、開始レーザーの座標と終了レーザーの座標とから幅を算出する(ステップS73)。
【0055】
そして、算出された幅が「鏡面最大幅」よりも小さいか否かを判定し(ステップS74)、Noであればそのままリターンし、Yesであれば、鏡面のレーザー光として確定して記憶してから(ステップS75)、リターンする。
【0056】
なお、このようにして鏡面のレーザー光としてすぐに確定するのではなく、その後も監視を続け、所定時間内で予め定められた所定比率以上変動した場合に鏡面と確定するのがより好ましい。
【0057】
以上で説明した本実施形態のレーザースキャンセンサ100によれば、鏡21などを用いた侵入者20を、鏡面による反射を判別することで検知可能として、失報を極力防止することができる。
【0058】
なお、上記の所定時間や所定比率、図6における「伸び量A」や図7における「鏡面最大幅」などを適宜変更することで鏡面を検知する感度を実質的に調整することができる。たとえば、そのような感度を少なくとも2段階で切り替えられるようにしてもよい。
【0059】
本発明は、その主旨又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文にはなんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0060】
10 レーザースキャンセンサ(従来技術)
11 壁面
12 地面
13 樹木
20 侵入者
21 鏡
22 物体
100 レーザースキャンセンサ
110 レーザー距離計
120 スキャン機構
130 距離データ取得部
135 鏡面判定部
140 人体判定部
150 警告出力制御部
160 メモリ
図1
図2
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図11