(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】波浪スペクトラム算出方法、波浪スペクトラム算出プログラム、及び波浪スペクトラム算出システム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20240216BHJP
G01W 1/10 20060101ALI20240216BHJP
G01S 13/95 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
G01W1/10 T
G01S13/95
(21)【出願番号】P 2020059406
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】枌原 直人
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-067198(JP,A)
【文献】特開2001-027665(JP,A)
【文献】特開昭61-139777(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0315284(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00 - 1/18
G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高精度な再現性を有するモデル式を用いて波浪スペクトラムを算出する方法であって、
波浪場計測手段又は波浪場評価手段で得たスペクトラムデータを入手するデータ入手ステップと、
入手した前記スペクトラムデータに基づいて波浪方向分散性パラメータを計算する分散パラメータ計算ステップと、
前記波浪方向分散性パラメータに基づいてモデル項数を決定するモデル項数決定ステップと、
前記モデル式に適用するモデル初期値を設定するモデル初期値設定ステップと、
前記スペクトラムデータと前記モデル項数と前記モデル初期値とを前記モデル式に適用してパラメータを算出し未知パラメータを決定するパラメータ決定ステップと、
前記未知パラメータを出力するパラメータ出力ステップとを備えたことを特徴とする波浪スペクトラム算出方法。
【請求項2】
前記パラメータ決定ステップで決定された前記未知パラメータの適合度を評価する適合度評価ステップをさらに備え、前記パラメータ出力ステップで前記適合度を出力することを特徴とする請求項1に記載の波浪スペクトラム算出方法。
【請求項3】
前記分散パラメータ計算ステップにおける、前記波浪方向分散性パラメータの計算は、数式1に基づいて計算することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の波浪スペクトラム算出方法。
【数1】
S
prt : 波浪方向分散性パラメータ
α : 素成波の向き
α
t : 計算された素成波の向き
ω : 角周波数
M
0 : 計算された高周波側におけるエネルギー損失を表すパラメータ
【請求項4】
前記モデル項数決定ステップにおける、前記モデル項数の決定は、数式2に基づいて決定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の波浪スペクトラム算出方法。
【数2】
ここで、
S
1=α
K(H) α
K(H):モデル項数Kを決定するための境界線(1)
S
2=β
K(H) β
K(H):モデル項数Kを決定するための境界線(2)
である。
【請求項5】
前記パラメータ決定ステップで使用する前記モデル式は、数式3を用いることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の波浪スペクトラム算出方法。
【数3】
E(ω,α) :波浪スペクトラム
ω : 角周波数
α : 素成波の向き
A
k : エネルギーレベルを規定するパラメータ
M
k : 高周波数側におけるエネルギー損失を表すパラメータ
N
k : 低周波数側におけるエネルギー損失を表すパラメータ
S
k : 方向分布の集中度パラメータ
ω
pk : ピーク角周波数
θ
k : ピーク波向
【請求項6】
前記パラメータ決定ステップで決定する前記未知パラメータは、前記A
k、前記M
k、前記N
k、及び前記S
kであることを特徴とする請求項5に記載の波浪スペクトラム算出方法。
【請求項7】
前記モデル初期値設定ステップで設定する前記モデル初期値は、前記A
k、前記M
k、前記N
k、及び前記S
kのデフォルト値であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の波浪スペクトラム算出方法。
【請求項8】
前記データ入手ステップでは前記波浪場計測手段で得た前記スペクトラムデータを入手する場合において、
船舶に搭載した波浪レーダを含む前記波浪場計測手段で取得した波浪データを前記スペクトラムデータとするスペクトラムデータ化ステップと、前記パラメータ出力ステップで出力された前記未知パラメータをユーザー側に送信する送信ステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の波浪スペクトラム算出方法。
【請求項9】
前記データ入手ステップでは前記波浪場評価手段で得た前記スペクトラムデータを入手する場合において、
日時を含む船舶の位置情報に基づき
自らが有する波浪場評価手段において実施される波浪推算の結果、又は
波浪場評価手段を有し日時を含む船舶の位置情報に基づき波浪推算を実施した第三者から入手し
た波浪推算の結果を前記スペクトラムデータとするスペクトラムデータ準備ステップと、前記パラメータ出力ステップで出力された前記未知パラメータをユーザー側に送信する送信ステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の波浪スペクトラム算出方法。
【請求項10】
前記ユーザー側で、送信された前記未知パラメータを受信し、前記モデル式を用いて波浪場を再構築する波浪場再構築ステップをさらに備えたことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の波浪スペクトラム算出方法。
【請求項11】
コンピュータに、
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の波浪スペクトラム算出方法における、前記データ入手ステップと、前記分散パラメータ計算ステップと、前記モデル項数決定ステップと、前記モデル初期値設定ステップと、前記パラメータ決定ステップと、前記パラメータ出力ステップとを実行させることを特徴とする波浪スペクトラム算出プログラム。
【請求項12】
コンピュータに、請求項2、又は請求項2を引用する請求項3から請求項10のいずれか1項に記載の波浪スペクトラム算出方法における前記適合度評価ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項11に記載の波浪スペクトラム算出プログラム。
【請求項13】
コンピュータに、請求項8に記載の波浪スペクトラム算出方法における前記スペクトラムデータ化ステップと、前記送信ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の波浪スペクトラム算出プログラム。
【請求項14】
コンピュータに、請求項9に記載の波浪スペクトラム算出方法における前記スペクトラムデータ準備ステップと、前記送信ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の波浪スペクトラム算出プログラム。
【請求項15】
コンピュータに、請求項10に記載の波浪スペクトラム算出方法における前記波浪場再構築ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の波浪スペクトラム算出プログラム。
【請求項16】
高精度な再現性を有するモデル式を用いて波浪スペクトラムを算出するシステムであって、
波浪場計測手段又は波浪場評価手段で得たスペクトラムデータを入手するデータ入手手段と、
入手した前記スペクトラムデータに基づいて波浪方向分散性パラメータを計算する分散パラメータ計算手段と、
前記波浪方向分散性パラメータに基づいてモデル項数を決定するモデル項数決定手段と、
前記モデル式に適用するモデル初期値を設定するモデル初期値設定手段と、
前記スペクトラムデータと前記モデル項数と前記モデル初期値とを前記モデル式に適用してパラメータを算出し未知パラメータを決定するパラメータ決定手段と、
前記未知パラメータを出力するパラメータ出力手段とを備えたことを特徴とする波浪スペクトラム算出システム。
【請求項17】
前記パラメータ決定手段で決定された前記未知パラメータの適合度を評価する適合度評価手段をさらに備え、前記パラメータ出力手段で前記適合度を出力することを特徴とする請求項16に記載の波浪スペクトラム算出システム。
【請求項18】
前記データ入手手段では前記波浪場計測手段で得たスペクトラムデータを入手する構成とした場合において、
船舶に搭載した波浪レーダを含む前記波浪場計測手段で取得した波浪データを前記スペクトラムデータとするスペクトラムデータ化手段と、前記パラメータ出力手段で出力された前記未知パラメータをユーザー側に送信する送信手段をさらに備えたことを特徴とする請求項16又は請求項17に記載の波浪スペクトラム算出システム。
【請求項19】
前記データ入手手段では前記波浪場評価手段で得た前記スペクトラムデータを入手する構成とした場合において、
日時を含む船舶の位置情報に基づき
自らが有する波浪場評価手段において実施される波浪推算の結果、又は
波浪場評価手段を有し日時を含む船舶の位置情報に基づき波浪推算を実施した第三者から入手し
た波浪推算の結果を前記スペクトラムデータとするスペクトラムデータ準備手段と、前記パラメータ出力手段で出力された前記未知パラメータをユーザー側に送信する送信手段をさらに備えたことを特徴とする請求項16又は請求項17に記載の波浪スペクトラム算出システム。
【請求項20】
前記ユーザー側に、送信された前記未知パラメータを受信し、前記モデル式を用いて波浪場を再構築する波浪場再構築手段をさらに備えたことを特徴とする請求項18又は請求項19に記載の波浪スペクトラム算出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度な再現性を有するモデル式を用いて波浪スペクトラムを算出する波浪スペクトラム算出方法、波浪スペクトラム算出プログラム、及び波浪スペクトラム算出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海象情報は波浪による抵抗増加の計算等に利用されるため、実運航中の船舶の性能評価を行う上で、高精度な海象情報を入手することが重要である。
波浪等の海象情報の入手方法としては、目視観測、波浪ブイの利用、船体運動から逆推定、波浪レーダの利用、波浪推算等が挙げられる。このうち目視観測は、船員の習熟度に依存し、夜間は観測できない。また波浪ブイは、定点設置型のため実運航中の船舶に不向きである。また船体運動から逆推定する方法は、船体運動がなければ、十分な精度を確保できない。このため、船舶の性能評価を行う上で、海象情報の入手には、波浪レーダ又は波浪推算の利用が現実的である。
【0003】
ここで、非特許文献1には、実運航中の外航船に搭載された波浪レーダにより計測した方向スペクトラムを用い、実運航性能シミュレーションを行う上で重要となる短波頂不規則波中抵抗増加への方向スペクトラムの影響評価を行うことが開示されている。
また、特許文献1には、2組以上の短波海洋レーダで観測された海面散乱のドップラスペクトルから波浪の方向スペクトルを抽出する短波海洋レーダによる波浪方向スペクトル抽出法であって、波浪の方向スペクトルを指数関数で表し、方位と周波数の座標で展開し、ベイズモデルを導入してドップラスペクトルから波浪の方向スペクトルを抽出することが開示されている。
また、特許文献2には、探知エリア内において設定された複数の解析エリアのそれぞれに含まれる波浪からのエコーを周波数解析して複数の解析エリア毎に周波数領域スペクトルを生成する周波数領域スペクトル生成部と、各周波数領域スペクトルを構成する各サンプル点が示すエコー強度を各周波数領域スペクトルの座標に含まれる方向を揃えて統合し、統合周波数領域スペクトルを生成する統合部と、統合周波数領域スペクトルに基づき各解析エリアに含まれる波浪に関する情報である波浪情報を算出する波浪情報算出部と、を備えた信号処理装置が開示されている。
また、特許文献3には、各波浪観測海域毎の浮遊物標にGPS受信機及びトランスポンダ子局を含む波浪観測装置を搭載し、また陸上にトランスポンダ親局及び波浪データ処理装置を設置し、トランスポンダ子局は、GPS受信機が測定した自浮遊物標の緯度、経度、高度の各データ及び測定時刻データをトランスポンダ親局に送信し、トランスポンダ親局は、トランスポンダ子局から受信した該当浮遊物標の受信データを波浪データ処理装置に供給し、波浪データ処理装置は、供給される各波浪観測海域毎の波浪観測データに基づく波浪解析を行う波浪観測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-266863号公報
【文献】国際公開第2017/179343号
【文献】特開2001-27665号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】枌原直人、他3名,短波頂不規則波中抵抗増加の推定における方向スペクトラムの影響評価,日本船舶海洋工学会講演論文集 第20号,2015年5月,373-376頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
波浪スペクトラムは、波浪レーダを利用する場合は、洋上の船舶において波浪レーダにより波浪スペクトラム情報を直接計測することにより取得でき、また波浪推算を利用する場合は、船位(日時、緯度経度)から波浪スペクトラム情報を推定して取得することができる。しかし、波浪スペクトラムはデータ量が大きいため、提供者から船社や造船所等のユーザーに対して波浪スペクトラムをそのまま送信することは少なく、提供者は必要最小限の情報として波浪諸元(有義波高、平均波周期、主波向)を算出してユーザーに送信する。
ユーザーは、受信した波浪諸元を用い、モデル式に従って波浪スペクトラムを再構成する。そして再構成した波浪スペクトラムを用い、船体に作用する波浪中抵抗増加を計算する。数式5は従来のモデル式(標準波浪スペクトラム)である。
【数5】
ここで、E(ω,α;H,T,θ):波浪スペクトラム(E)、S:周波数スペクトラム、D:方向分布関数、ω:角周波数、α:素成波の向き、H:有義波高、T:平均波周期、θ:主波向である。
周波数スペクトラムは、数式6、数式7、及び数式8で表される。
【数6】
【数7】
【数8】
方向分布関数は、数式9で表される。
【数9】
【0007】
しかしながら、数式5のモデル式を使用して再構成された波浪場(波浪スペクトラム)は、風波やうねりといった複数の波成分が存在する実際の波浪スペクトラムを精度よく再現できていない場合がある。
図7は非特許文献1のFig.19であり、横軸に示される計測した波浪スペクトラムを用いた場合の波浪中抵抗増加[kN]と、縦軸に示される再構成した波浪スペクトラムを用いた場合の波浪中抵抗増加[kN]との相関図である。対角線上にデータが乗っていれば再構成した波浪スペクトラムの精度が高いといえるが、図中に丸印で示す箇所のように、差が大きいケースがあり、実際の波浪スペクトラムを必ずしも精度よく再現できていないことが分かる。これは、再構成に使用した数式5のモデル式が、実際のスペクトラム形状を表現できてきないことが原因である。また、上述のように実際の波浪スペクトラム自体を送信することは、特に、船舶から遠隔地に送信する場合は、データ量が大きいため容易でない。
また、特許文献1-3は、従来の波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現しようとするものではない。
【0008】
そこで本発明は、従来の波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合に比べて、データ量の増加を抑制しつつ実際の波浪場を精度よく再現できる波浪スペクトラム算出方法、波浪スペクトラム算出プログラム、及び波浪スペクトラム算出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載に対応した波浪スペクトラム算出方法においては、高精度な再現性を有するモデル式を用いて波浪スペクトラムを算出する方法であって、波浪場計測手段又は波浪場評価手段で得たスペクトラムデータを入手するデータ入手ステップと、入手したスペクトラムデータに基づいて波浪方向分散性パラメータを計算する分散パラメータ計算ステップと、波浪方向分散性パラメータに基づいてモデル項数を決定するモデル項数決定ステップと、モデル式に適用するモデル初期値を設定するモデル初期値設定ステップと、スペクトラムデータとモデル項数とモデル初期値とをモデル式に適用してパラメータを算出し未知パラメータを決定するパラメータ決定ステップと、未知パラメータを出力するパラメータ出力ステップとを備えたことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、出力された未知パラメータを用いることで、波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用するデータ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現することができる。
【0010】
請求項2記載の本発明は、パラメータ決定ステップで決定された未知パラメータの適合度を評価する適合度評価ステップをさらに備え、パラメータ出力ステップで適合度を出力することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、得られたパラメータが非現実的な値となることを防ぐことができ、また未知パラメータの妥当性を確認することができる。
【0011】
請求項3記載の本発明は、分散パラメータ計算ステップにおける、波浪方向分散性パラメータの計算は、数式1に基づいて計算することを特徴とする。
【数1】
S
prt : 方向分散性パラメータ
α : 素成波の向き
α
t : 計算された素成波の向き
ω : 角周波数
M
0 : 計算された高周波側におけるエネルギー損失を表すパラメータ
請求項3に記載の本発明によれば、計測した波浪スペクトラムより導かれる波浪方向分散性パラメータを表す数式1に基づいて、波浪方向分散性パラメータを精度よく求めることができる。
【0012】
請求項4記載の本発明は、モデル項数決定ステップにおける、モデル項数の決定は、数式2に基づいて決定することを特徴とする。
【数2】
ここで、
S
1=α
K(H) α
K(H):モデル項数Kを決定するための境界線(1)
S
2=β
K(H) β
K(H):モデル項数Kを決定するための境界線(2)
である。
請求項4に記載の本発明によれば、計測した波浪スペクトラムより導かれる波浪方向分散性パラメータと有義波高との関係に基づく数式2を用いて、モデル項数を的確に決定することができる。
【0013】
請求項5記載の本発明は、パラメータ決定ステップで使用するモデル式は、数式3を用いることを特徴とする。
【数3】
E(ω,α) : 波浪スペクトラム
ω : 角周波数
α : 素成波の向き
A
k : エネルギーレベルを規定するパラメータ
M
k : 高周波数側におけるエネルギー損失を表すパラメータ
N
k : 低周波数側におけるエネルギー損失を表すパラメータ
S
k : 方向分布の集中度パラメータ
ω
pk : ピーク角周波数
θ
k : ピーク波向
請求項5に記載の本発明によれば、未知パラメータを数式3に基づいて、精度よく求めることができる。
【0014】
請求項6記載の本発明は、パラメータ決定ステップで決定する未知パラメータは、Ak、Mk、Nk、及びSkであることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、未知パラメータを利用することにより、データ量の増加を抑制しつつ高精度に波浪場を再現することができる。
【0015】
請求項7記載の本発明は、モデル初期値設定ステップで設定するモデル初期値は、Ak、Mk、Nk、及びSkのデフォルト値であることを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、デフォルト値を用いてAk、Mk、Nk、Skを精度よく求めることができる。
【0016】
請求項8記載の本発明は、データ入手ステップでは波浪場計測手段で得たスペクトラムデータを入手する場合において、船舶に搭載した波浪レーダを含む波浪場計測手段で取得した波浪データをスペクトラムデータとするスペクトラムデータ化ステップと、パラメータ出力ステップで出力された未知パラメータをユーザー側に送信する送信ステップをさらに備えたことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信することで、例えば、大きなデータを送信することが困難な船舶から遠隔地に送信する場合に、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0017】
請求項9記載の本発明は、データ入手ステップでは波浪場評価手段で得たスペクトラムデータを入手する場合において、日時を含む船舶の位置情報に基づき自らが有する波浪場評価手段において実施される波浪推算の結果、又は波浪場評価手段を有し日時を含む船舶の位置情報に基づき波浪推算を実施した第三者から入手した波浪推算の結果をスペクトラムデータとするスペクトラムデータ準備ステップと、パラメータ出力ステップで出力された未知パラメータをユーザー側に送信する送信ステップをさらに備えたことを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、日時を含む船舶の位置に基づいた波浪推算の結果によるスペクトラムデータから未知パラメータを求め、波浪場自体のスペクトラムデータではなく未知パラメータを送信することで、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0018】
請求項10記載の本発明は、ユーザー側で、送信された未知パラメータを受信し、モデル式を用いて波浪場を再構築する波浪場再構築ステップをさらに備えたことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、ユーザー側でモデル式と未知パラメータに基づき高精度に波浪場を再現することができる。
【0019】
請求項11記載に対応した波浪スペクトラム算出プログラムにおいては、コンピュータに、データ入手ステップと、分散パラメータ計算ステップと、モデル項数決定ステップと、モデル初期値設定ステップと、パラメータ決定ステップと、パラメータ出力ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、出力された未知パラメータを用いることで、波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用するデータ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現することができる。
【0020】
請求項12記載の本発明は、コンピュータに、適合度評価ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、得られたパラメータが非現実的な値となることを防ぐことができ、また未知パラメータの妥当性を確認することができる。
【0021】
請求項13記載の本発明は、コンピュータに、スペクトラムデータ化ステップと、送信ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信することで、例えば、大きなデータを送信することが困難な船舶から遠隔地に送信する場合に、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0022】
請求項14記載の本発明は、コンピュータに、スペクトラムデータ準備ステップと、送信ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、ユーザーの位置に基づいた波浪推算によるスペクトラムデータから未知パラメータを求め、波浪場自体のスペクトラムデータではなく未知パラメータを送信することで、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0023】
請求項15記載の本発明は、コンピュータに、波浪場再構築ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、ユーザー側でモデル式と未知パラメータに基づき高精度に波浪場を再現することができる。
【0024】
請求項16記載に対応した波浪スペクトラム算出システムにおいては、高精度な再現性を有するモデル式を用いて波浪スペクトラムを算出するシステムであって、波浪場計測手段又は波浪場評価手段で得たスペクトラムデータを入手するデータ入手手段と、入手したスペクトラムデータに基づいて波浪方向分散性パラメータを計算する分散パラメータ計算手段と、波浪方向分散性パラメータに基づいてモデル項数を決定するモデル項数決定手段と、モデル式に適用するモデル初期値を設定するモデル初期値設定手段と、スペクトラムデータとモデル項数とモデル初期値とをモデル式に適用してパラメータを算出し未知パラメータを決定するパラメータ決定手段と、未知パラメータを出力するパラメータ出力手段とを備えたことを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、出力された未知パラメータを用いることで、波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用するデータ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現することができる。
【0025】
請求項17記載の本発明は、パラメータ決定手段で決定された未知パラメータの適合度を評価する適合度評価手段をさらに備え、パラメータ出力手段で適合度を出力することを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、得られたパラメータが非現実的な値となることを防ぐことができ、また未知パラメータの妥当性を確認することができる。
【0026】
請求項18記載の本発明は、データ入手手段では波浪場計測手段で得たスペクトラムデータを入手する構成とした場合において、船舶に搭載した波浪レーダを含む波浪場計測手段で取得した波浪データをスペクトラムデータとするスペクトラムデータ化手段と、パラメータ出力手段で出力された未知パラメータをユーザー側に送信する送信手段をさらに備えたことを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信することで、例えば、大きなデータを送信することが困難な船舶から遠隔地に送信する場合に、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0027】
請求項19記載の本発明は、データ入手手段では波浪場評価手段で得たスペクトラムデータを入手する構成とした場合において、日時を含む船舶の位置情報に基づき自らが有する波浪場評価手段において実施される波浪推算の結果、又は波浪場評価手段を有し日時を含む船舶の位置情報に基づき波浪推算を実施した第三者から入手した波浪推算の結果をスペクトラムデータとするスペクトラムデータ準備手段と、パラメータ出力手段で出力された未知パラメータをユーザー側に送信する送信手段をさらに備えたことを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、日時を含む船舶の位置に基づいた波浪推算によるスペクトラムデータから未知パラメータを求め、波浪場自体のスペクトラムデータではなく未知パラメータを送信することで、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0028】
請求項20記載の本発明は、ユーザー側に、送信された未知パラメータを受信し、モデル式を用いて波浪場を再構築する波浪場再構築手段をさらに備えたことを特徴とする。
請求項20に記載の本発明によれば、ユーザー側でモデル式と未知パラメータに基づき高精度に波浪場を再現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の波浪スペクトラム算出方法によれば、出力された未知パラメータを用いることで、波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用するデータ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現することができる。
【0030】
また、パラメータ決定ステップで決定された未知パラメータの適合度を評価する適合度評価ステップをさらに備え、パラメータ出力ステップで適合度を出力する場合は、得られたパラメータが非現実的な値となることを防ぐことができ、また未知パラメータの妥当性を確認することができる。
【0031】
また、分散パラメータ計算ステップにおける、波浪方向分散性パラメータの計算は、数式1に基づいて計算する場合は、計測した波浪スペクトラムより導かれる波浪方向分散性パラメータを表す数式1に基づいて、波浪方向分散性パラメータを精度よく求めることができる。
【0032】
また、モデル項数決定ステップにおける、モデル項数の決定は、数式2に基づいて決定する場合は、計測した波浪スペクトラムより導かれる波浪方向分散性パラメータと有義波高との関係に基づく数式2を用いて、モデル項数を的確に決定することができる。
【0033】
また、パラメータ決定ステップで使用するモデル式は、数式3を用いる場合は、未知パラメータを数式3に基づいて、精度よく求めることができる。
【0034】
また、パラメータ決定ステップで決定する未知パラメータは、Ak、Mk、Nk、及びSkである場合は、未知パラメータを利用することにより、データ量の増加を抑制しつつ高精度に波浪場を再現することができる。
【0035】
また、モデル初期値設定ステップで設定するモデル初期値は、Ak、Mk、Nk、及びSkのデフォルト値である場合は、デフォルト値を用いてAk、Mk、Nk、Skを精度よく求めることができる。
【0036】
また、データ入手ステップでは波浪場計測手段で得たスペクトラムデータを入手する場合において、船舶に搭載した波浪レーダを含む波浪場計測手段で取得した波浪データをスペクトラムデータとするスペクトラムデータ化ステップと、パラメータ出力ステップで出力された未知パラメータをユーザー側に送信する送信ステップをさらに備えた場合は、波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信することで、例えば、大きなデータを送信することが困難な船舶から遠隔地に送信する場合に、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0037】
また、データ入手ステップでは波浪場評価手段で得たスペクトラムデータを入手する場合において、日時を含む船舶の位置情報に基づき自らが有する波浪場評価手段において実施される波浪推算の結果、又は波浪場評価手段を有し日時を含む船舶の位置情報に基づき波浪推算を実施した第三者から入手した波浪推算の結果をスペクトラムデータとするスペクトラムデータ準備ステップと、パラメータ出力ステップで出力された未知パラメータをユーザー側に送信する送信ステップをさらに備えた場合は、日時を含む船舶の位置に基づいた波浪推算の結果によるスペクトラムデータから未知パラメータを求め、波浪場自体のスペクトラムデータではなく未知パラメータを送信することで、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0038】
また、ユーザー側で、送信された未知パラメータを受信し、モデル式を用いて波浪場を再構築する波浪場再構築ステップをさらに備えた場合は、ユーザー側でモデル式と未知パラメータに基づき高精度に波浪場を再現することができる。
【0039】
また、本発明の波浪スペクトラム算出プログラムによれば、出力された未知パラメータを用いることで、波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用するデータ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現することができる。
【0040】
また、コンピュータに、適合度評価ステップをさらに実行させる場合は、得られたパラメータが非現実的な値となることを防ぐことができ、また未知パラメータの妥当性を確認することができる。
【0041】
また、コンピュータに、スペクトラムデータ化ステップと、送信ステップをさらに実行させる場合は、波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信することで、例えば、大きなデータを送信することが困難な船舶から遠隔地に送信する場合に、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0042】
また、コンピュータに、スペクトラムデータ準備ステップと、送信ステップをさらに実行させる場合は、ユーザーの位置に基づいた波浪推算によるスペクトラムデータから未知パラメータを求め、波浪場自体のスペクトラムデータではなく未知パラメータを送信することで、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0043】
また、コンピュータに、波浪場再構築ステップをさらに実行させる場合は、ユーザー側でモデル式と未知パラメータに基づき高精度に波浪場を再現することができる。
【0044】
また、本発明の波浪スペクトラム算出システムによれば、出力された未知パラメータを用いることで、波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用するデータ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現することができる。
【0045】
また、パラメータ決定手段で決定された未知パラメータの適合度を評価する適合度評価手段をさらに備え、パラメータ出力手段で適合度を出力する場合は、得られたパラメータが非現実的な値となることを防ぐことができ、また未知パラメータの妥当性を確認することができる。
【0046】
また、データ入手手段では波浪場計測手段で得たスペクトラムデータを入手する構成とした場合において、船舶に搭載した波浪レーダを含む波浪場計測手段で取得した波浪データをスペクトラムデータとするスペクトラムデータ化手段と、パラメータ出力手段で出力された未知パラメータをユーザー側に送信する送信手段をさらに備えた場合は、波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信することで、例えば、大きなデータを送信することが困難な船舶から遠隔地に送信する場合に、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0047】
また、データ入手手段では波浪場評価手段で得たスペクトラムデータを入手する構成とした場合において、日時を含む船舶の位置情報に基づき自らが有する波浪場評価手段において実施される波浪推算の結果、又は波浪場評価手段を有し日時を含む船舶の位置情報に基づき波浪推算を実施した第三者から入手した波浪推算の結果をスペクトラムデータとするスペクトラムデータ準備手段と、パラメータ出力手段で出力された未知パラメータをユーザー側に送信する送信手段をさらに備えた場合は、日時を含む船舶の位置に基づいた波浪推算によるスペクトラムデータから未知パラメータを求め、波浪場自体のスペクトラムデータではなく未知パラメータを送信することで、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー側に渡すことができる。
【0048】
また、ユーザー側に、送信された未知パラメータを受信し、モデル式を用いて波浪場を再構築する波浪場再構築手段をさらに備えた場合は、ユーザー側でモデル式と未知パラメータに基づき高精度に波浪場を再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明の第一の実施形態による波浪スペクトラム算出方法に係る機器のブロック図
【
図5】本発明の第二の実施形態による波浪スペクトラム算出方法に係る機器のブロック図
【
図7】従来の計測した波浪スペクトラムを用いた場合の波浪中抵抗増加と、再構成した波浪スペクトラムを用いた場合の波浪中抵抗増加との相関図
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の実施形態による波浪スペクトラム算出方法、波浪スペクトラム算出プログラム、及び波浪スペクトラム算出システムについて説明する。
【0051】
図1は第一の実施形態による波浪スペクトラム算出方法に係る機器のブロック図である。
本実施形態の波浪スペクトラム算出方法は、波浪のスペクトラムデータを、波浪場計測手段10を用いて取得する。波浪スペクトラム算出方法は、同一者において使用することもできるが、
図1のように、海象情報を提供する提供者2(船舶、ブイ等)と、海象情報の提供を受けるユーザー1とに跨って使用することもできる。ユーザー1は、例えば船社や造船所や他の船舶等である。
提供者2として例えば船舶には、波浪場計測手段10、スペクトラムデータ化手段20、数式モデリングユニット30、送信手段(通信手段)40、及び実船計測手段50が設置されている。数式モデリングユニット30は、データ入手手段31、分散パラメータ計算手段32、モデル項数決定手段33、モデル初期値設定手段34、パラメータ決定手段35、適合度評価手段36、及びパラメータ出力手段37を有する。
例えば、陸上のユーザー1側には、受信手段(通信手段)60、波浪場再構築手段70、及び波浪中抵抗増加算出手段80が設置されている。
【0052】
波浪スペクトラム算出方法においては、高精度な再現性を有するモデル式として数式3を用いて波浪スペクトラムを算出する。
【数3】
ここで、E(ω,α):波浪スペクトラム、ω:角周波数、α:素成波の向き、A
k:エネルギーレベルを規定するパラメータ、M
k:高周波数側におけるエネルギー損失を表すパラメータ、N
k:低周波数側におけるエネルギー損失を表すパラメータ、S
k:方向分布の集中度パラメータ、ω
pk:ピーク角周波数、θ
k:ピーク波向である。
なお、モデル式に周波数の集中度関数γ(ω)を含めてもよい。集中度関数γ(ω)を含める場合、E(ω,α)は、E(ω,α)×γ(ω)となる。
【0053】
モデル式である数式3の特徴は以下の通りである。
1)方向スペクトラムの微分値:dE/dω=0となる角周波数ωがωp(ピーク周波数:入力)との関係を満たしたモデル式である。
2)方向スペクトラムの積分値(エネルギー量:∫Edωdθ)が再構成によって変わらないとしたモデル式(Akで調節可能)である。
3)海洋波の性質から、Mk:5程度、Nk:4~5程度、Sk:1~4程度に適合することが知られており、これを参照値として利用できる。
【0054】
提供者2は、取得した波浪スペクトラムに数式3を適用することで、未知パラメータであるAk、Mk、Nk、Skを数式3に基づいて、精度よく求めることができる。提供者2は、これらのパラメータをユーザー1に送信する。
ユーザー1は、受信した未知パラメータAk、Mk、Nk、Skを数式3に適用することで、受信するデータ量の増加を抑制しつつ波浪スペクトラムを高精度に再構築することができる。
以下に、数式3を用いた波浪スペクトラムの算出フローについて詳細に説明する。
【0055】
図2は第一の実施形態による波浪スペクトラム算出方法のフローであり、左側は提供者側のフロー、右側はユーザー側のフローである。
提供者2は、波浪場計測手段10を用いて波浪データを取得する(S1:波浪データ取得ステップ)。波浪場計測手段10は、例えば船舶に搭載した波浪レーダである。波浪レーダを用いることで、遭遇海象の波浪データ(波浪スペクトラム情報)を直接計測して取得することができる。なお、海上試運転時など定められたコースを航走する場合には、波浪場計測手段10を定点設置型の波浪ブイとし、波浪ブイにより波浪データを取得してもよい。
波浪データ取得ステップS1の後、波浪場計測手段10で取得した波浪データを、スペクトラムデータ化手段20を用いてスペクトラムデータとする(S2:スペクトラムデータ化ステップ)。
スペクトラムデータ化ステップS2の後、得られたスペクトラムデータを、データ入手手段31を用いて数式モデリングユニット30に入手する(S3:データ入手ステップ)。
【0056】
数式3におけるKは、波浪スペクトラムのピーク数であり、ピーク数は1、2,3のいずれかである。このモデル項数Kを決定しなければ未知パラメータA
k、M
k、N
k、S
kの数が決まらないため、波浪方向分散性パラメータに基づいて、モデル項数Kを決定する。
まず、分散パラメータ計算手段32を用い、入手したスペクトラムデータに基づいて波高と波浪方向分散性パラメータを計算する(S4:分散パラメータ計算ステップ)。波浪方向分散性パラメータとは、波の角度に関する広がり具合を示すものであり、本実施形態では数式1に基づいて計算する。これにより、計測した波浪スペクトラムより導かれる波浪方向分散性パラメータを表す数式1に基づいて、波浪方向分散性パラメータを精度よく求めることができる。
【数1】
ここで、S
prt:波浪方向分散性パラメータ(Directional Spread Total Energy)、α:素成波の向き、α
t:計算された素成波の向き、ω:角周波数、M
0:計算された高周波側におけるエネルギー損失を表すパラメータである。α
tとM
0は計測した波浪スペクトラムより計算する。
次に、モデル項数決定手段33を用い、分散パラメータ計算ステップS4で算出した波浪方向分散性パラメータに基づいてモデル項数を決定する(S5:モデル項数決定ステップ)。モデル項数の決定には、数式2を用いる。これにより、計測した波浪スペクトラムより導かれる波浪方向分散性パラメータと有義波高との関係に基づく数式2を用いて、モデル項数を的確に決定することができる。
【数2】
ここで、S
1=α
K(H)であり、α
K(H)はモデル項数Kを決定するための境界線(1)である。また、S
2=β
K(H)であり、β
K(H)はモデル項数Kを決定するための境界線(2)である。
図3はモデル項数の決定に用いる図であり、縦軸を波浪方向分散性パラメータS
prt[deg.]、横軸を有義波高H[m]としている。
図3中の下側の短破線の曲線はS
1(境界線(1))であり、上側の長破線の曲線はS
2(境界線(2))である。数式2に従い、波浪方向分散性パラメータS
prtが下側の曲線S
1以下の場合はモデル項数Kを1と決定し、波浪方向分散性パラメータS
prtが下側の曲線S
1と上側の曲線S
2の間にある場合はモデル項数を2と決定し、波浪方向分散性パラメータS
prtが上側の曲線S
2以上の場合はモデル項数を3と決定する。
なお、標準波浪スペクトラムでコサイン2乗型を仮定した場合、波浪方向分散性パラメータS
prtは31.5度となる。
図3には、この31.5度を示す直線を参考に示している。
【0057】
また、数式3における未知パラメータAk、Mk、Nk、Skは繰り返し計算で求まる。繰り返し計算を行うにあたり、モデル初期値設定手段34を用い、数式3に適用する未知パラメータAk、Mk、Nk、Skのデフォルト値をモデル初期値として設定する(S6:モデル初期値設定ステップ)。これにより、デフォルト値を用いて未知パラメータAk、Mk、Nk、Skを精度よく求めることが可能となる。
未知パラメータAk、Mk、Nk、Skのデフォルト値は、海洋波の構成が風波(完全発達波)とうねりに基づくことを利用し、次のように設定することができる。
1)モデル項数K=1の場合のデフォルト値は、未知パラメータA1、M1、N1、S1を、風波又はうねりを仮定した値とする。風波を仮定した値とするか、うねりを仮定した値とするかは、風速・風向に基づいて判断する。
2)モデル項数K=2の場合のデフォルト値は、第1の未知パラメータA1、M1、N1、S1は風波を仮定した値とし、第2の未知パラメータA2、M2、N2、S2はうねりを仮定した値とする。
3)モデル項数K=3の場合のデフォルト値は、第1の未知パラメータA1、M1、N1、S1は風波を仮定した値とし、第2の未知パラメータA2、M2、N2、S2はうねりを仮定した値とし、第3の未知パラメータA3、M3、N3、S3は方向又は周期が異なる別のうねりを仮定した値とする。このように、モデル項数K=3の場合の未知パラメータAk、Mk、Nk、Skは最大の12個となる。
なお、欠測や通信不良等によって波浪データが得られていない場合は、取得済みのパラメータ値を用いてデフォルト値を予測し設定することもできる。この場合は、例えば前時間と同じ値、又は時系列予測による値とする。このとき、未知パラメータAk、Mk、Nk、Skの各デフォルト値を独立に推定するのではなく、方向スペクトラムのエネルギー量の予測を用い、それに適合するように推定することで、より適切なデフォルト値を設定できる。
また、上述したMk、Nk、Skの参照値をモデル初期値の設定に利用してもよい。
【0058】
次に、データ入手ステップS3で入手したスペクトラムデータと、モデル項数決定ステップS5で決定したモデル項数と、モデル初期値設定ステップS6で設定したモデル初期値とを、パラメータ決定手段35において、モデル式である数式3に適用してパラメータを算出し未知パラメータAk、Mk、Nk、Skを決定する(S7:パラメータ決定ステップ)。
パラメータ決定ステップS7では、二乗平均誤差(RME)が最小になるように、非線形最小2乗法でパラメータを決定する。
【0059】
次に、パラメータ決定ステップS7で決定された未知パラメータA
k、M
k、N
k、S
kの適合度を、適合度評価手段36を用いて評価する(S8:適合度評価ステップ)。
適合度評価ステップS8における適合度の評価は、例えば数式4に示す二乗平均誤差(RME)等により行われるが、モデル式パラメータの算定では参照値も利用し、適合度を評価する。例えば、波の発達過程を示すM
kと、波の減衰過程を示すN
kについては、別途計測した風速データにより、信頼性評価が可能である。これにより、得られたパラメータが非現実的な値となることを防ぐことができる。また、所定の適合度の評価が得られるまでパラメータ決定ステップS7と適合度評価ステップS8を繰り返すことで未知パラメータA
k、M
k、N
k、S
kの精度を高めることも可能となる。
【数4】
ここで、E
meas:計測した波浪スペクトラム、E
rep:再構成された波浪スペクトラム、n:波浪スペクトラムを構成するデータ数である。
【0060】
次に、パラメータ決定ステップS7で決定した未知パラメータAk、Mk、Nk、Skと、適合度評価ステップS8で得た適合度の評価結果を、パラメータ出力手段37を用いて出力する(S9:パラメータ出力ステップ)。出力された未知パラメータAk、Mk、Nk、Skを用いることで、波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づいて波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用するデータ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現することができる。
次に、パラメータ出力ステップS9で出力された未知パラメータAk、Mk、Nk、Skと、適合度の評価結果と、実船計測手段50で計測した日付や時刻を含む船舶の位置情報を、送信手段(通信手段)40を用いてユーザー1に送信する(S10:送信ステップ)。波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信することで、例えば、大きなデータを送信することが困難な船舶から遠隔地に送信する場合に、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー1側に渡すことができる。なお、併せて波浪諸元(有義波高、平均波周期、主波向)を送信してもよい。また、実船計測手段50としてAIS(自動船舶識別装置)を用いることもできる。
【0061】
ユーザー1側では、評価者から送信された未知パラメータA
k、M
k、N
k、S
kと適合度の評価結果を受信手段(通信手段)60で受信し、波浪場再構築手段70において、未知パラメータA
k、M
k、N
k、S
kに基づきモデル式である数式3を用いて波浪場を再構築する(S11:波浪場再構築ステップ)。なお、波浪場再構築ステップS11においては、波浪場を再構築する前に、適合度の評価結果に基づいて未知パラメータの妥当性を確認することが好ましい。
ここで
図4は波浪スペクトラムの比較例を示す図であり、
図4(a)は船上で観測した波浪スペクトラム、
図4(b)はユーザーが再構築した波浪スペクトラムである。
図4から、ユーザー1において数式3と未知パラメータに基づき高精度に波浪場を再現できていることが分かる。
次に、波浪場再構築ステップS11で得た波浪場(波浪スペクトラム)に基づき、波浪中抵抗増加算出手段80を用いて船体に作用する波浪中抵抗増加を算出する(S12:波浪中抵抗増加算出ステップ)。高精度な海象情報に基づいて波浪による抵抗増加を計算することで、実運航中の船舶の性能評価を適切に行うことができる。
このように本実施形態の波浪スペクトラム算出方法によれば、波浪スペクトラムに高精度な再現性を有するモデル式を適用し、モデルのパラメータのみユーザー1に送信することで送信するデータ量を抑制しつつ、ユーザー1は、受信したパラメータにより波浪スペクトラムを高精度に再構成することができる。
【0062】
図5は第二の実施形態による波浪スペクトラム算出方法に係る機器のブロック図である。
図6は第二の実施形態による波浪スペクトラム算出方法のフローであり、左側は提供者側のフロー、右側はユーザー側のフローである。
本実施形態の波浪スペクトラム算出方法は、提供者2が波浪のスペクトラムデータを、波浪場評価手段90による波浪推算を用いて取得する点において第一の実施形態と異なる。この場合の提供者2は例えば気象会社である。なお、第一の実施形態と異なる点を説明し、第一の実施形態と同一機能部材等については同符号を付して説明を省略する。
提供者2側には、波浪場評価手段90、スペクトラムデータ準備手段100、数式モデリングユニット30、及び送信手段(通信手段)40が設置されている。数式モデリングユニット30は、データ入手手段31、分散パラメータ計算手段32、モデル項数決定手段33、モデル初期値設定手段34、パラメータ決定手段35、適合度評価手段36、及びパラメータ出力手段37を有する。
ユーザー1側には、受信手段(通信手段)60、波浪場再構築手段70、及び波浪中抵抗増加算出手段80が設置されている。
【0063】
ユーザー1は、通信手段60を用い、日付を含む船舶の位置情報を提供者2に送信する(S01:位置情報送信ステップ)。
提供者2側では、ユーザー1から送信された位置情報を通信手段40で受信し、波浪場評価手段90において、受信した位置情報に基づき、蓄積した波浪データを用いて波浪推算を実施する(S02:波浪推算ステップ)。波浪推算ステップS02では、船位(日時、緯度経度)における波浪諸元を時間空間内挿して波浪スペクトラムを推算する。なお、波浪推算ステップS02において提供者2は、波浪場評価手段90を有する第三者に波浪推算を依頼し、当該第三者から波浪推算の結果を取得することもできる。
波浪推算ステップS02の後、自ら実施した波浪推算の結果、又は第三者から入手した波浪推算の結果を、スペクトラムデータ準備手段100を用いてスペクトラムデータとする(S03:スペクトラムデータ準備ステップ)。
スペクトラムデータ準備ステップS03の後はデータ入手ステップS3に進み、以後は第一の実施形態と同様の処理を行う。
【0064】
以上、波浪スペクトラム算出方法について説明したが、本発明は、コンピュータに、データ入手ステップS3と、分散パラメータ計算ステップS4と、モデル項数決定ステップS5と、モデル初期値設定ステップS6と、パラメータ決定ステップS7と、パラメータ出力ステップS9とを実行させる、波浪スペクトラム算出プログラムとすることもできる。これにより、出力された未知パラメータを用いることで、波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用するデータ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現することができる。
また、波浪スペクトラム算出プログラムにおいて、適合度評価ステップS8をさらに実行させることで、得られたパラメータが非現実的な値となることを防ぐことができ、また未知パラメータの妥当性を確認することができる。
また、波浪スペクトラム算出プログラムにおいて、スペクトラムデータ化ステップS2と、送信ステップS10をさらに実行させることで、波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信し、例えば、大きなデータを送信することが困難な船舶に対して遠隔地から送信する場合に、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー1側に渡すことができる。
また、波浪スペクトラム算出プログラムにおいて、スペクトラムデータ準備ステップS03と、送信ステップS10をさらに実行させることで、ユーザーの位置に基づいた波浪推算によるスペクトラムデータから未知パラメータを求め、波浪場自体のスペクトラムデータではなく未知パラメータを送信することで、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー1側に渡すことができる。
また、波浪スペクトラム算出プログラムにおいて、波浪場再構築ステップS11をさらに実行させることで、ユーザー1側でモデル式と未知パラメータに基づき高精度に波浪場を再現することができる。
【0065】
また、本発明は、高精度な再現性を有するモデル式を用いて波浪スペクトラムを算出するシステムであって、波浪場計測手段10又は波浪場評価手段90で得たスペクトラムデータを入手するデータ入手手段31と、入手したスペクトラムデータに基づいて波浪方向分散性パラメータを計算する分散パラメータ計算手段32と、波浪方向分散性パラメータに基づいてモデル項数を決定するモデル項数決定手段33と、モデル式に適用するモデル初期値を設定するモデル初期値設定手段34と、スペクトラムデータとモデル項数とモデル初期値とをモデル式に適用してパラメータを算出し未知パラメータを決定するパラメータ決定手段35と、未知パラメータを出力するパラメータ出力手段37とを備えた波浪スペクトラム算出システムとすることができる。これにより、出力された未知パラメータを用いることで、波浪スペクトラムデータをそのまま送信する場合や、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用するデータ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現することができる。
また、波浪スペクトラム算出システムにおいて、パラメータ決定手段35で決定された未知パラメータの適合度を評価する適合度評価手段36をさらに備え、パラメータ出力手段37で適合度を出力することで、得られたパラメータが非現実的な値となることを防ぐことができ、また未知パラメータの妥当性を確認することができる。
また、波浪スペクトラム算出システムにおいて、船舶に搭載した波浪レーダを含む波浪場計測手段10で取得した波浪データをスペクトラムデータとするスペクトラムデータ化手段20と、パラメータ出力手段37で出力された未知パラメータをユーザー1側に送信する送信手段40をさらに備えることで、波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信することで、例えば、大きなデータを送信することが困難な船舶と遠隔地との間で通信する場合に、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー1側に渡すことができる。
また、波浪スペクトラム算出システムにおいて、ユーザー1側から提供される位置情報に基づき実施される波浪推算の結果、又は入手した波浪推算の結果をスペクトラムデータとするスペクトラムデータ準備手段100と、パラメータ出力手段37で出力された未知パラメータをユーザー1側に送信する送信手段40をさらに備えることで、ユーザーの位置に基づいた波浪推算によるスペクトラムデータから未知パラメータを求め、波浪場自体のデータではなく未知パラメータを送信することで、データ量の増加を抑制しつつ、高精度に波浪場を再現するために必要な情報をユーザー1側に渡すことができる。
また、波浪スペクトラム算出システムにおいて、ユーザー1側に、送信された未知パラメータを受信し、モデル式を用いて波浪場を再構築する波浪場再構築手段70をさらに備えることで、ユーザー1側でモデル式と未知パラメータに基づき高精度に波浪場を再現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、従来のモデル式と波浪諸元に基づき波浪場を再現する場合と比べて、再現に使用する新しいモデル式と未知パラメータにより、高精度に波浪場を再現することができる。このため、利便性に優れ、実船モニタリングデータの解析精度の向上や、波浪推算に基づく船舶での波浪場の再構築を実現するデータの普及促進に寄与する。特に、大きなデータを通信することが困難な船舶等と陸上等の遠隔地間での利用に適する。
【符号の説明】
【0067】
1 ユーザー
10 波浪場計測手段
20 スペクトラムデータ化手段
31 データ入手手段
32 分散パラメータ計算手段
33 モデル項数決定手段
34 モデル初期値設定手段
35 パラメータ決定手段
36 適合度評価手段
37 パラメータ出力手段
40 送信手段(通信手段)
70 波浪場再構築手段
90 波浪場評価手段
100 スペクトラムデータ準備手段
S2 スペクトラムデータ化ステップ
S3 データ入手ステップ
S4 分散パラメータ計算ステップ
S5 モデル項数決定ステップ
S6 モデル初期値設定ステップ
S7 パラメータ決定ステップ
S8 適合度評価ステップ
S9 パラメータ出力ステップ
S10 送信ステップ
S11 波浪場再構築ステップ
S03 スペクトラムデータ準備ステップ