(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】害虫防除ネット及び防除方法
(51)【国際特許分類】
A01M 29/34 20110101AFI20240216BHJP
【FI】
A01M29/34
(21)【出願番号】P 2020070954
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】392002918
【氏名又は名称】日本ワイドクロス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】廣橋 寿祥
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 正敏
(72)【発明者】
【氏名】宗實 久義
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3101644(JP,U)
【文献】特開2006-204250(JP,A)
【文献】登録実用新案第3124896(JP,U)
【文献】実開昭52-139887(JP,U)
【文献】特開2008-237121(JP,A)
【文献】実開昭49-105671(JP,U)
【文献】特開2011-188828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する線材をたてよこに織って構成され
て、対象とする害虫であるクビアカツヤカミキリの色と同じ黒色を呈し、目合いが害虫の産卵管の太さよりも小さい害虫防除ネットを設け、
前記害虫防除ネットを樹木に被覆して、前記害虫防除ネットの上からの害虫による産卵を妨害するとともに、前記害虫防除ネットと樹木の間に存在する害虫の視認性を色の同化現象によって確保する
害虫防除方法。
【請求項2】
樹木に食害が発生している場合に、前記害虫防除ネットを樹皮表面から浮かせて揺れ動き可能に緩被覆する一方、食害を受けていない場合には、前記害虫防除ネットを樹皮表面に接触させて密被覆する
請求項1に記載の害虫防除方法。
【請求項3】
前記害虫防除ネットとして、前記線材の色と異なる白色のモノフィラメントからなる補助線材がたてよこに織り込まれて升目模様が形成されたものを用いる
請求項1または請求項2に記載の害虫防除方法。
【請求項4】
柔軟性を有する線材をたてよこに織って構成された害虫防除ネットであって、
たてよこ少なくともいずれか一方の前記線材が黒色であ
り対象とする害虫のであるクビアカツヤカミキリ色と同じ黒色を呈するとともに、
目合いが害虫の産卵管の太さよりも小さい
0.4mmに形成された
害虫防除ネット。
【請求項5】
たてよこの前記線材のうち他方の前記線材が透明である
請求項4に記載の害虫防除ネット。
【請求項6】
前記線材とは異色の白色モノフィラメントからなる補助線材が複数本ずつ隣り合わせに並べてたてよこに織り込まれ、升目模様が形成された
請求項4または請求項5に記載の害虫防除ネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば穿孔性害虫、特にクビアカツヤカミキリの防除に好適な害虫防除ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
カミキリムシによる食害を防止する装置として、下記特許文献1に開示のものがある。
【0003】
この装置は、樹木の根元部分の周囲を取り囲み、根元部分に接触することなく地上に置かれる円筒状の支持体と、カミキリムシの脚に絡みつく繊維製の網材からなる捕獲網を有している。捕獲網には樹木の幹の周囲に巻回して固定される巻回固定部が形成され、巻回固定部よりも下の下端部分は、樹木の周方向に広げられて支持体に沿って垂れ下がって接地する。
【0004】
このような構成の装置によれば、飛来するカミキリムシは捕獲網によって侵入が防止されるばかりか、捕獲網に捕らえられる。また、樹木に対して既に産卵がなされている場合には、カミキリムシは捕獲網によって閉じ込められるので孤立し、更なる被害を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、捕獲網に産卵を防止する機能はない。また、捕獲網は網とはいえ、カミキリムシの脚が絡みつくものであるため、内部の視認性は良くない。さらに支持体は大きく、樹木の周囲を囲むので場所を取り、装置を備えた樹木は、もはや樹木の外観を有さず、不自然で見栄えが悪い。
【0007】
そこでこの発明は、害虫の出入り防止のほかに産卵を阻止するとともに、裏側に害虫や、幼虫の排出するフラスが存在する場合にはその害虫やフラスの発見を容易にして、積極的に駆除できるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段は、柔軟性を有する線材をたてよこに織って構成された害虫防除ネットであって、たてよこ少なくともいずれか一方の前記線材が黒色であるとともに、目合いが害虫の産卵管の太さより小さい害虫防除ネットである。
【0009】
この構成の害虫防除ネットは、樹木の樹皮の周方向全体を被覆して、害虫防除ネットの上端縁を樹木の樹皮表面に密着して固定し、害虫防除ネットの下端縁を地面に固定して使用される。
【0010】
この構成では、害虫防除ネットは全体として黒色を呈し、裏側に存在する害虫の視認繊維を良好にする。つまり黒色のネットは、樹皮を、例えば全体として白色や青色を呈するネットのように樹皮の色とは別系統でそれよりも明るい色のネットで覆う場合と異なり隠ぺい性は低く、特に、全体が光沢を有する黒色で、前胸背板が赤色であるクビアカツヤカミキリの視認性は極めて良好である。
【0011】
また害虫防除ネットの目合いは害虫の産卵管の太さ以下であるので、害虫の出入りを防ぐのはもちろんのこと、産卵管が網目に刺さることを阻止する。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、害虫防除ネットが全体として黒色であるので、裏側に害虫の成虫や、幼虫が出すフラスが存在する場合、その成虫やフラスの視認性は良好である。このため、害虫の成虫や幼虫の捕殺を促せ、積極的な駆除ができる。
【0013】
また、害虫が持つ産卵管の太さ以下の小さい目合いの網目により害虫の出入りと産卵行為を妨害するので、被害の発生と被害の拡大を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】害虫防除ネットの目合いと害虫の産卵管を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0016】
図1に害虫防除ネット11の構造を示す。この害虫防除ネット11は穿孔性害虫、特にクビアカツヤカミキリの防除に好適なものである。この例では、クビアカツヤカミキリを対象にした害虫防除ネット11の例を説明する。
【0017】
クビアカツヤカミキリは、樹皮の表面や割れ目に産卵し、孵化した幼虫が樹木の内部へ食入する。成虫は約2.5cm~4cm程度で、全体的に光沢のある黒色であり、前胸背板が赤い。幼虫は孵化したのちフラスを出しながら樹皮の内側を食害して2~3年かけて成長し、羽化して樹外へ脱出する。食害の対象となる樹木は、サクラやウメ、モモ、スモモなど主にバラ科樹木であり、食入部位は地上2m程度までに多い。
【0018】
害虫防除ネット11は、柔軟性を有する線材12をたてよこに織って構成されており、
図1に示したように所定幅wで長尺のシート状である。
【0019】
害虫防除ネット11を用いた害虫防除方法は、害虫防除ネット11を樹木の周方向全体に巻き付けて被覆を行い、害虫の出入りと害虫による産卵を妨害するものである。このため、害虫防除ネット11の幅は食入部位を被覆するのに必要な長さであるのが好ましい。しかし、長さ(幅w)が足りない場合は継ぎ足して使用すればよく、2mに満たない長さであってもよい。
【0020】
たてよこに織られる線材12、つまり経糸12aと緯糸12bは合成樹脂製のモノフィラメントで構成される。モノフィラメントの太さは強度等を考慮して適宜設定される。
【0021】
そして、経糸12aと緯糸12bの少なくともいずれか一方は黒色である。例えば緯糸12bを黒色にして経糸12aを透明にするとよい。このように少なくとも一方の線材12を黒色にすることによって、害虫防除ネット11は全体として黒色を呈するようになる。ここでいう「黒色」とは黒系統の色を指し、灰色を含む意味である。
【0022】
経糸12aと緯糸12bがなす目合いは、
図2の写真に示したように、対象の害虫、すなわちクビアカツヤカミキリの産卵管の太さ以下である。
図2中、写真中央下部の黒色の部分はクビアカツヤカミキリの腹部の後端を背面側から見た部分であり、写真上方に向けて突出している部分が産卵管である。
【0023】
産卵管の太さは、先端部で約0.5mmあるので、害虫防除ネット11の目合いは0.5mmより小さく、具体的には0.4mmに設定されている。すなわち、
図1中のaとbは0.4mmである。目合いは0.4mmより小さくてもよい。
【0024】
また、害虫防除ネット11には、線材12である経糸12a及び緯糸12bとは異なる外観を呈する補助線材13が、線材12と平行にたてよこに織り込まれて
図1に示したような升目模様が形成されている。
【0025】
升目模様は略正方形であり、適宜の一定間隔を隔てた経線13aと緯線13bで構成されている。緯糸12bが黒色で経糸12aが透明であるので、補助線材13には、例えば白色のモノフィラメントを用いるとよい。
【0026】
升目模様を構成する経線13aと緯線13bは、それぞれ複数本の補助線材13で構成される。目合いが0.4mmと細かいので、補助線材13は経糸12aと緯糸12bが本来織り込まれるべき位置に織り込まれている。升目模様は白色のモノフィラメントからなる補助線材13で構成されているので、害虫防除ネット11は全体として黒色であることに変わりはない。
【0027】
以上のように構成された害虫防除ネット11は、次のようにして害虫防除方法に用いられる。すなわち、例えば
図3、
図4に示したように、害虫防除ネット11を樹木15の周方向全体に巻き付けて被覆するとともに、害虫防除ネット11の上端縁11aを樹木15の樹皮表面に接触させて固定する。一方、害虫防除ネット11の下端縁11bは地面16に接触させて固定する。これによって、上端縁11aと下端縁11bとの間に被覆領域11cを形成して、害虫による産卵を妨害する。
【0028】
被覆領域11cの形成には大きく分けて2つの態様がある。
【0029】
一つの態様は、
図3に示したように、被覆領域11cにおける害虫防除ネット11を樹木15の樹皮表面から浮かせて害虫防除ネット11の裏に空間部17を有する緩被覆とするものである。緩被覆は、主に産卵を防止するとともに、被覆領域11c形成時に既に樹木15に存在するクビアカツヤカミキリの脱出を防止するのに好適であり、食害が発生した樹木15に対しての使用態様である。
【0030】
他の態様は、
図4に示したように、被覆領域11cにおける害虫防除ネット11を樹木15の樹皮表面に接触させて密被覆とする。密被覆は、主に産卵を防止するのに好適であり、食害を受けていない樹木15に対して予防を行う態様である。
【0031】
具体的に説明すると、
図3の緩被覆では、まず樹木15の地際(根張り部分15aの先端部分)における幹回りの最大長さを測る。もし樹木15の幹15bにおける被覆範囲に根元よりも太い部分、例えばこぶ状の部分や切り落とされた枝の切り口などのように他の部位よりも太い部分があれば、その部分の幹回りを測定する。
【0032】
計測した長さに相当する長さの害虫防除ネット11を切り出し、樹木15における被覆範囲の上端位置に、害虫防除ネット11の一側縁(上端縁11a)を樹木15の樹皮表面に接触させて固定する。この固定は上端縁11aを幹15bに巻き付けて行い、上端縁11aは樹皮表面に面接触するが、それより下方の部分にはゆとりをもたせる。
【0033】
つまり、上端縁11aを巻き付ける位置より下には、例えば縄を巻き付けるなどして樹皮の表面よりも外周側に突出した浮かせ部18を形成する。浮かせ部18は、例えば縄に代えて樹皮との間に隙間を作らないフェルトやスポンジ状の板材などを巻き付けて構成してもよい。
【0034】
害虫防除ネット11の上端縁11aは、浮かせ部18より上の位置に、例えばプリーツをつけるように巻き付けて、樹皮の表面に接触させて固定される。樹木15の横断面形状に凹み部分があれば、害虫防除ネット11の上端縁11aは凹み部分の表面に沿って固定される。固定には、図示を省略するがロープとステープルを用いるとよい。また上端縁11aには縁取りするように粘着テープ(図示せず)を貼り付けると、幹15bに対するしっかりとした固定ができる点で好ましい。
【0035】
樹木15に巻きつけられた害虫防除ネット11における樹木15の周方向の端同士は、例えばステープル(図示せず)などを用いて結合され、閉じられる。
【0036】
害虫防除ネット11の下端縁11bは、根張り部分15aを被覆して、地面16に対して接触させて固定する。固定に際して下端縁11bは裏側に折り返して二重にする。下端縁11bの固定には既存のペグ19を用いるとよい。
【0037】
このような緩被覆では、害虫防除ネット11の浮かせ部18より下の部分は、重力に従ってカーテンのように垂れ下がり、樹皮との間には適宜厚の空間部17が形成される。しかも、害虫防除ネット11は巻き付けによるテンションが掛かっていない状態であるので、風や他の物との接触により揺れ動くことが可能である。
【0038】
また、ゆったりした被覆によって升目模様は、場所によっては大きく、また小さく湾曲し、樹木15の幹15bと根張り部分15aの被覆部分全体を黒色で塗りつぶすような外観を有する害虫防除ネット11のなかにおいて、視覚上の変化を与える。しかも、害虫防除ネット11は全体として黒色であるので樹木15の樹皮に巻き付けられても、外観のうえで大きな違和感を与えることはない。
【0039】
図4の密被覆では、2枚の害虫防除ネット111,112を使用する。一つは樹木15の幹15bに巻き付けるものであり、もう一つは樹木15の根張り部分15aを覆うものである。
【0040】
まず樹木15における被覆部分の幹回りの最大長さ(幹回りの長さ)を測る。被覆部分に、例えばこぶ状の部分や切り落とされた枝の切り口などの周周りが他の部位よりも大きい部分があれば、その部分の幹回りを測定する。また別に、樹木15の地際(根張り部分15aの先端部分)における幹回りの最大長さ(根張り部分の長さ)を測る。測定した幹回りの長さと根張り部分の長さに基づいて、2枚の害虫防除ネット(幹回り長さの害虫防除ネット111と根張り部分長さの害虫防除ネット112)を切り出す。
【0041】
幹回り長さの害虫防除ネット111は、樹木15における被覆範囲の上端位置に、一側縁(上端縁11a)を樹皮表面に接触させて固定する。この固定は緩被覆と同様に巻き付けて行う。密被覆においては、幹回り長さの害虫防除ネット111の全体を幹15bの樹皮表面に面接触させて巻き付ける。
【0042】
樹木15に巻きつけられた幹回り長さの害虫防除ネット111における樹木15の周方向の端同士は、例えば粘着テープとステープルなどを用いて結合され、閉じられる。
【0043】
幹回り長さの害虫防除ネット111の下端縁11dは、樹木15の幹15bの下端部に対して、上端縁11aと同様に樹皮表面に接触させて固定される。
【0044】
上端縁11aと下端縁11d固定には、図示を省略するがロープとステープルを用いるとよい。樹木15の横断面形状に凹み部分があれば、上端縁11aと下端縁11dは凹み部分の表面に沿って固定される。
【0045】
根張り部分の害虫防除ネット112は、その上端縁11eを幹回り長さの害虫防除ネット111の下端縁11dに重ねるようにして幹15bの下端部に巻き付けて固定する。根張り部分の害虫防除ネット112と幹回り長さの害虫防除ネット111の重なり部分は、幹回り長さの害虫防除ネット111のほうが表側に位置するほうが好ましいが、その逆であってもよい。
【0046】
根張り部分の害虫防除ネット112の下端縁11bは、根張り部分15aを被覆して、地面16に対して接触させて固定する。固定に際して下端縁11bは、緩被覆の場合と同様に裏側に折り返して二重にする。下端縁11bの固定には既存のペグ19が用いられる。
【0047】
このような緩被覆では、2枚の害虫防除ネット111,112からなる害虫防除ネット11が、樹木15の幹15bから根張り部分15aまでを巻回した状態である。具体的には、樹皮と害虫防除ネット11との間には虫が入るような空間はなく、そのうえ外部から樹皮への虫などの直接的な接触が遮断された状態である。なお、すべての部位において樹皮と害虫防除ネット11との間に空間がないわけではなく、樹皮表面の凹凸形状により部分的に空間ができることはある。
【0048】
また、密被覆の場合においても、升目模様が幹15bや根張り部分15aの凹凸に沿って湾曲し、樹木15の幹15bと根張り部分15aの被覆部分全体を黒色で塗りつぶすような外観を有する害虫防除ネット11のなかにおいて、視覚上の変化を与える。しかも、害虫防除ネット11は全体として黒色であるので樹木15の樹皮に巻き付けられても、外観のうえで大きな違和感を与えることはない。
【0049】
前述のような害虫防除方法では、害虫防除ネット11が樹木15における幹と根張り部分の食入される部位を被覆する。しかも、害虫防除ネット11の上端縁11aと下端縁11bは固定部位に対して密着するように固定されるので、害虫防除ネット11によって樹木15と外界とが仕切られることになる。このため、害虫の出入りを防止できる。そのうえ、害虫防除ネット11の目合いは0.4mmであり、害虫の産卵管が通らない大きさであるので、樹木15に卵が産み付けられることを防止できる。
【0050】
緩被覆をした場合には、産卵を妨害できるうえに、既に存在する害虫を閉じ込めることができ、これによって被害の拡大を防止できる。害虫防除ネット11の裏側にいる害虫によりフラスが堆積しても、緩被覆であるので害虫防除ネット11は揺れるため、堆積したフラスを落とす作用も期待できる。このため、堆積したフラスの頂部に害虫防除ネット11が接触した場合であっても、害虫により害虫防除ネット11を噛み切られるおそれを低減できる。
【0051】
また、害虫防除ネット11の被覆領域11cは、自重で垂れ下がっている態様であるため、フラスを発見したときの殺虫剤の注入作業など、被害を抑えるための作業性が良い。
【0052】
さらに、害虫防除ネット11の裏側に害虫が存在する場合、害虫防除ネット11が黒色を呈するので、害虫やフラスの視認性が良い。
図5に視認性を比較した写真を示す。
【0053】
図5中左上の写真は、白色のモノフィラメントからなるネットを桜の木の幹に被せて、ネットの下にクビアカツヤカミキリを置いた状態である。中央の写真は、青色のモノフィラメントからなるネットを、右下の写真は黒色のモノフィラメントからなるネットを用いたものである。いずれのネットもモノフィラメントの太さと目合いは同じである。
【0054】
図5から明らかなように、白色のネットでは幹に白いヴェールを被せたようになってネット下のクビアカツヤカミキリの存在がぼやけてしまう。また青色のネットでは、凝視すればクビアカツヤカミキリの黒色と赤色が認識できるものの、やはり全体として青い幕を張ったようになって、視認性が良くない。これに対して黒色のネットでは、白や青の場合のように幹の表面を隠ぺいするような状態にはならず、幹の表面の状態もクビアカツヤカミキリと同様に明瞭に視認できる。
【0055】
このため、緩被覆した後、フラスやクビアカツヤカミキリを発見しやすく、発見した際には、フラスの除去や殺虫剤の注入、クビアカツヤカミキリの捕殺など、必要な対処を迅速にとれる。つまり、害虫の拡散を防止し被害を抑えるだけではなく、積極的に駆除することができる。
【0056】
密被覆した場合には、樹木15の幹15bと根張り部分15aを密に覆っている被覆領域11cが、その目合い故に、飛来する害虫による産卵を妨害して、樹木15に被害が生じることを未然に防げる。
【0057】
以上のように、樹木15の状態に応じて緩被覆と密被覆を使い分けることで、害虫による食害の発生を防止するとともに、もし食害が発生していた場合でも更なる害虫の飛来や産卵を防ぐ。また害虫防除ネット11の色によって食害や害虫の発見が容易であるので、より積極的に殺虫剤注入や捕殺が行え、全体として効果的な害虫防除が行える。
【0058】
しかも、害虫防除ネット11の巻き付けに大きなスペースを占有することはなくコンパクトにまとめられるとともに、巻き付けた部分の外観を大きく毀損することはなく花などを観賞するもできる。
【0059】
以上の構成はこの発明を実施するための一形態であって、この発明は前述の構成のみに限定されるものではなく、その他の構成を採用することができる。
【0060】
例えば、害虫防除ネット11は、目ずれが起きないように、例えば経糸12aと緯糸12bの交点を融着するなどの目ずれ防止を施してもよい。
【0061】
また、1本の樹木15に対して緩被覆と密被覆を行うこともでき、害虫防除ネット11の巻き方は前述例以外のものであってもよい。
【符号の説明】
【0062】
11…害虫防除ネット
11a…上端縁
11b…下端縁
11c…被覆領域
12…線材
12a…経糸
12b…緯糸
13…補助線材
15…樹木
16…地面
17…空間部
18…浮かせ部