(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】強化ガラスの表面屈折率測定装置及び表面屈折率測定方法、強化ガラスの表面応力測定装置及び表面応力測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20240216BHJP
G01L 1/00 20060101ALI20240216BHJP
G01N 21/23 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
G01L1/00 B
G01L1/00 G
G01N21/23
(21)【出願番号】P 2020071911
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019079521
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393008902
【氏名又は名称】有限会社折原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大神 聡司
(72)【発明者】
【氏名】眞下 尚洋
(72)【発明者】
【氏名】折原 秀治
(72)【発明者】
【氏名】折原 芳男
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115811(WO,A1)
【文献】特開2017-197408(JP,A)
【文献】特開2018-024554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0022642(US,A1)
【文献】特表2015-504035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01L 1/00 - G01L 1/26
G01L 25/00
G01B 11/00 - G01B 11/30
C03C 15/00 - C03C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化ガラスの表面屈折率測定装置であって、
前記強化ガラスの圧縮応力層を有する表面層内に、少なくとも第1の領域と前記第1の領域に接する第2の領域をこの順に介して、光源からの光を入射させると共に、前記表面層内を伝播した光を、前記強化ガラスの外へ、少なくとも前記第2の領域と前記第1の領域をこの順に介して出射させる光入出力部材と、
前記光入出力部材を介して出射した光に含まれる、前記強化ガラスへの入射表面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分を、二種の輝線列に変換する光変換部材と、
前記二種の輝線列を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子で得られた画像から前記二種の輝線列の輝線の位置を測定する位置測定手段と、
前記位置測定手段の測定結果に基づいて、前記二種の光成分に対応した前記強化ガラスの表面の屈折率、又は前記強化ガラスの表面から深さ方向にわたる屈折率分布を算出する屈折率分布算出手段と、を有し、
前記第2の領域は、無機膜又はガラス層であり、
前記第1の領域と前記第2の領域の境界面と前記強化ガラスの入射表面との距離が1μm以上10μm以下である、強化ガラスの表面屈折率測定装置。
【請求項2】
前記第1の領域と前記第2の領域の境界面と、前記強化ガラスの入射表面との平行度が前記第2の領域の厚さの10%以下である、請求項1に記載の強化ガラスの表面屈折率測定装置。
【請求項3】
前記第2の領域は、前記強化ガラスの表面の屈折率に対して
±0.05の範囲内の屈折率を有する、請求項1又は2に記載の強化ガラスの表面屈折率測定装置。
【請求項4】
前記第2の領域は、無機膜であり、
前記無機膜が、Si、Al、Zr,Ti、Nb、Taから選ばれる少なくとも一つの金属を含む酸化膜、窒化膜、又は酸窒化膜である、請求項
1乃至3の何れか一項に記載の強化ガラスの表面屈折率測定装置。
【請求項5】
前記第2の領域の厚さが1μm以上10μm以下である、請求項
1乃至
4の何れか一項に記載の強化ガラスの表面屈折率測定装置。
【請求項6】
前記第2の領域の厚さの偏差が10%以下である、請求項
1乃至
5の何れか一項に記載の強化ガラスの表面屈折率測定装置。
【請求項7】
前記第2の領域の前記強化ガラスの表面に近い側の表面粗さRaが0.02nm以上1.5nm以下である請求項
1乃至
6の何れか一項に記載の強化ガラスの表面屈折率測定装置。
【請求項8】
請求項1乃至
7の何れか一項に記載の強化ガラスの表面屈折率測定装置を含み、
前記二種の光成分に対応した屈折率分布の差とガラスの光弾性定数とに基づいて、前記強化ガラスの表面の応力、又は前記強化ガラスの表面から深さ方向にわたる応力分布を算出する応力分布算出手段を有する、強化ガラスの表面応力測定装置。
【請求項9】
強化ガラスの表面屈折率測定方法であって、
前記強化ガラスの圧縮応力層を有する表面層内に、少なくとも第1の領域と前記第1の領域に接する第2の領域をこの順に介して、光源からの光を入射させると共に、前記表面層内を伝播した光を、前記強化ガラスの外へ、少なくとも前記第2の領域と前記第1の領域をこの順に介して出射させる光入出力工程と、
前記強化ガラスの外へ出射した光に含まれる、前記強化ガラスへの入射表面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分を、二種の輝線列に変換する光変換工程と、
前記二種の輝線列を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で得られた画像から前記二種の輝線列の輝線の位置を測定する位置測定工程と、
前記位置測定工程での測定結果に基づいて、前記二種の光成分に対応した前記強化ガラスの表面の屈折率、又は前記強化ガラスの表面から深さ方向にわたる屈折率分布を算出する屈折率分布算出工程と、を有し、
前記第2の領域は、無機膜又はガラス層であり、
前記光入出力工程では、前記第1の領域と前記第2の領域の境界面と前記強化ガラスの入射表面との距離が1μm以上10μm以下である、強化ガラスの表面屈折率測定方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の強化ガラスの表面屈折率測定方法で得た前記二種の光成分に対応した屈折率分布の差とガラスの光弾性定数とに基づいて、前記強化ガラスの表面の応力、又は前記強化ガラスの表面から深さ方向にわたる応力分布を算出する応力分布算出工程を有する、強化ガラスの表面応力測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラスの表面屈折率測定装置及び表面屈折率測定方法、強化ガラスの表面応力測定装置及び表面応力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やスマートフォン等の電子機器において、表示部や、筐体本体にガラスが用いられることが多く、そのガラスは強度を上げるために、ガラス表面にイオン交換による表面層を形成することにより強度を上げた、所謂化学強化ガラスが使用されている。化学強化ガラス等の強化ガラスの表面層は、少なくともガラス表面側に存在しイオン交換による圧縮応力が発生している圧縮応力層を含み、ガラス内部側に該圧縮応力層に隣接して存在し引張応力が発生している引張応力層を含んでもよい。強化ガラスの強度は、形成された表面層の応力値や表面圧縮応力層の深さに関わっている。そのため、強化ガラスの開発や、生産での品質管理では、表面層の応力値や圧縮応力層の深さ、或いは、応力の分布を測定することが重要である。
【0003】
強化ガラスの表面層の応力を測定する技術としては、例えば、強化ガラスの表面層の屈折率が内部の屈折率より高い場合に、光導波効果と光弾性効果とを利用して、表面層の圧縮応力を非破壊で測定する技術(以下、非破壊測定技術とする)を挙げることができる。この非破壊測定技術では、単色光を強化ガラスの表面層に入射して光導波効果により複数のモードを発生させ、各モードで光線軌跡が決まった光を取出し、凸レンズで各モードに対応する輝線に結像させる。なお、結像させた輝線は、モードの数だけ存在する。
【0004】
又、この非破壊測定技術では、表面層から取出した光は、出射面に対して、光の振動方向が水平と、垂直の二種の光成分についての輝線を観察できる。そして、次数の一番低いモード1の光は表面層の一番表面に近い側を通る性質を利用し、二種の光成分のモード1に対応する輝線の位置から、それぞれの光成分についての屈折率を算出し、その二種の屈折率の差とガラスの光弾性定数から強化ガラスの表面付近の応力を求めている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、上記の非破壊測定技術の原理を元に、モード1とモード2に対応する輝線の位置から、外挿でガラスの最表面での応力(以下、表面応力値とする)を求め、かつ、表面層の屈折率分布は直線的に変化すると仮定し、輝線の総本数から、圧縮応力層の深さを求める方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yogyo-Kyokai-Shi(窯業協会誌)87{3}1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、輝線に基づいて強化ガラスの屈折率を求めるには、出射面に対して光の振動方向が水平と垂直の二種の光成分について、各々2本以上の輝線が観察できることが好ましい。又、屈折率の測定精度を向上するためには、更に多くの本数の輝線が観察できることが好ましい。又、表面層が薄い強化ガラスも存在し、この場合、屈折率の測定精度を向上するためには、強化ガラスの表面により近い浅い領域の情報を得る必要がある。
【0009】
しかしながら、従来の表面屈折率測定装置では、屈折率の測定精度が十分高いとはいえず、屈折率の測定精度の向上が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、表面屈折率測定装置の屈折率の測定精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本表面屈折率測定装置は、強化ガラスの表面屈折率測定装置であって、前記強化ガラスの圧縮応力層を有する表面層内に、少なくとも第1の領域と前記第1の領域に接する第2の領域をこの順に介して、光源からの光を入射させると共に、前記表面層内を伝播した光を、前記強化ガラスの外へ、少なくとも前記第2の領域と前記第1の領域をこの順に介して出射させる光入出力部材と、前記光入出力部材を介して出射した光に含まれる、前記強化ガラスへの入射表面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分を、二種の輝線列に変換する光変換部材と、前記二種の輝線列を撮像する撮像素子と、前記撮像素子で得られた画像から前記二種の輝線列の輝線の位置を測定する位置測定手段と、前記位置測定手段の測定結果に基づいて、前記二種の光成分に対応した前記強化ガラスの表面の屈折率、又は前記強化ガラスの表面から深さ方向にわたる屈折率分布を算出する屈折率分布算出手段と、を有し、前記第2の領域は、無機膜又はガラス層であり、前記第1の領域と前記第2の領域の境界面と前記強化ガラスの入射表面との距離が1μm以上10μm以下である。
【発明の効果】
【0012】
開示の一実施態様によれば、表面屈折率測定装置の屈折率の測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
【
図2】ガラス内部の光線軌跡を現した図(その1)である。
【
図3】強化ガラスの表面層の屈折率分布を例示する図である。
【
図4】複数のモードが存在する場合の各モードの光線軌跡を説明した図である。
【
図5】複数のモードに対応する輝線列を例示する図である。
【
図6】ガラス内部の光線軌跡を現した図(その2)である。
【
図7】ガラス内部の光線軌跡を現した図(その3)である。
【
図8】強化ガラスの表面層を伝わる導波光の各モードにおける光線軌跡の計算例を示す図である。
【
図9】光導波効果において多光束干渉が起きていることを説明する図である。
【
図10】ファブリペロー干渉計の多光束干渉について説明する図である。
【
図11】導波光強度と導波光が強化ガラスの表面となす角Θとの関係の計算例を示す図である。
【
図12】本実施形態に係る測定方法を例示するフローチャートである。
【
図13】表面屈折率測定装置の演算部の機能ブロックを例示する図である。
【
図14】輝線の本数が増える理由について説明する図(その1)である。
【
図15】輝線の本数が増える理由について説明する図(その2)である。
【
図16】第2実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
【
図17】第2実施形態に係る光入出力部材の形成方法を説明する図(その1)である。
【
図18】第2実施形態に係る光入出力部材の形成方法を説明する図(その2)である。
【
図19】第3実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
【
図20】強化ガラスの表面の平坦度が良い場合と悪い場合の輝線列の写真の例である。
【
図21】第4実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
【
図22】実施例について説明する図(その1)である。
【
図23】実施例について説明する図(その2)である。
【
図24】第5実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
【
図25】プリズムの底面上に形成された構造部材の一例を示す上面図である。
【
図26】実施例について説明する図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0015】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
図1に示すように、表面屈折率測定装置1は、光源10と、光入出力部材20と、光変換部材40と、偏光部材50と、撮像素子60と、演算部70とを有する。
【0016】
200は、被測定体となる強化ガラスである。強化ガラス200は、例えば、化学強化法や風冷強化法等により強化処理が施されたガラスであり、表面210側に屈折率分布を有する表面層を備えている。表面層は、少なくともガラス表面側に存在しイオン交換による圧縮応力が発生している圧縮応力層を含み、ガラス内部側に該圧縮応力層に隣接して存在し引張応力が発生している引張応力層を含んでもよい。
【0017】
光源10は、光入出力部材20を介して強化ガラス200の表面層に光線Lを入射するように配置されている。干渉を利用するため、光源10の波長は、単純な明暗表示になる単波長であることが好ましい。
【0018】
光源10としては、例えば、容易に単波長の光が得られるNaランプを用いることができ、この場合の波長は589.3nmである。又、光源10として、Naランプより短波長である水銀ランプを用いてもよく、この場合の波長は、例えば水銀I線である365nmである。但し、水銀ランプは多くの輝線があるので、365nmラインだけを透過させるバンドパスフィルタを通して使用することが好ましい。
【0019】
又、光源10としてLED(Light Emitting Diode)を用いてもよい。近年、多くの波長のLEDが開発されているが、LEDのスペクトル幅は半値幅で10nm以上あり、単波長性が悪く、温度により波長が変化する。そのため、バンドパスフィルタを通して使用することが好ましい。
【0020】
光源10をLEDにバンドパスフィルタを通した構成にした場合、Naランプや水銀ランプほど単波長性はないが、紫外域から赤外域まで任意の波長を使うことができる点で好適である。なお、光源10の波長は、表面屈折率測定装置1の測定の基本原理には影響しないため、上に例示した波長以外の光源を用いても構わない。
【0021】
光入出力部材20は、被測定体である強化ガラス200の表面210上に配置されている。光入出力部材20は、プリズム21と、プリズム21の底面21cに形成された無機膜22とを有している。無機膜22は、強化ガラス200の表面210と接している。なお、プリズム21は本発明に係る第1の領域の代表的な一例であり、無機膜22は本発明に係る第2の領域の代表的な一例である。
【0022】
光入出力部材20は、強化ガラス200の圧縮応力層を有する表面層内に、プリズム21と無機膜22をこの順に介して、光源10からの光を入射させる機能を有する。又、光入出力部材20は、表面層内を伝播した光を、強化ガラス200の外へ、無機膜22とプリズム21をこの順に介して出射させる機能を有する。
【0023】
光入出力部材20のプリズム21は、例えば、屈折率が1.60~1.80の光学ガラスで形成されたプリズムである。この場合、強化ガラス200の表面210において、光線がプリズム21を介して光学的に入射及び出射するために、プリズム21の屈折率は無機膜22及び強化ガラス200の屈折率よりも大きくする必要がある。又、プリズム21の傾斜面21a及び21bにおいて、入射光及び出射光が略垂直に通過するような屈折率を選ぶ必要がある。
【0024】
例えば、プリズム21の傾斜角が60°で、強化ガラス200の表面層の屈折率が1.52の場合は、プリズム21の屈折率は例えば1.72である。又、プリズム21の材料となる光学ガラスは、屈折率の均一性が高く、屈折率の面内偏差は例えば1×10-5以下に抑えられている。
【0025】
なお、光入出力部材20において、プリズム21に代えて同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。プリズム21に代えて他の部材を用いた場合にも、後述の撮像工程において得られた画像の領域における他の部材の底面の屈折率の面内偏差は、1×10-5以下に抑えられていることが望ましい。又、他の部材の底面の平坦度は、光源10からの光の波長をλとしたときに、λ/4以下に形成されていることが望ましく、λ/8以下に形成されていれば、より望ましい。
【0026】
光入出力部材20の無機膜22は、プリズム21の底面21c(プリズム21と無機膜22の境界面)と強化ガラス200の入射表面である表面210との距離を規定する距離規定手段である。無機膜22としては、例えば、Si、Al、Zr、Ti、Nb、Taから選ばれる少なくとも一つの金属を含む酸化膜、窒化膜、又は酸窒化膜が挙げられる。又、ガラスや樹脂でも機能を発揮するが便宜上無機膜として記載する。
【0027】
無機膜22の屈折率は、強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ屈折率である。無機膜22は、強化ガラス200の表面210の屈折率に対して±0.05の範囲内の屈折率を有することが好ましい。例えば、強化ガラス200の表面210の屈折率が1.52であれば、無機膜22の屈折率は1.47以上1.57以下であることが好ましい。無機膜22の屈折率が1.47以上1.57以下であれば、無機膜22と強化ガラス200の表面210の境界での反射が十分低減され、輝線がより明確に確認できる。無機膜22の屈折率は、例えば、エリプソメーターにより測定できる。
【0028】
無機膜22の厚さは、1μm以上10μm以下である。無機膜22の厚さを1μm以上10μm以下とすることで、プリズム21と無機膜22の境界面と強化ガラス200の表面210との距離dを1μm以上10μm以下の範囲に規定できる。距離dを1μm以上とすることで、後述の輝線の本数を増やせるため、強化ガラス200の屈折率の測定精度を向上できる。その結果、強化ガラス200の応力の測定精度も向上できる。無機膜22の厚さは、例えば、エリプソメーター、X線光電子分光測定器(XPS)或いは電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により測定できる。
【0029】
無機膜22の厚さの偏差は、10%以下に抑えることが好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましく、0.5%以下が更に好ましい。無機膜22の厚さの偏差が10%以下であれば、プリズム21の下端から強化ガラス200の表面210までの光路長が均一となり、後述するフィネス値が向上し、輝線がより明確に確認できる。無機膜22の厚さの偏差は、例えば、エリプソメーター、X線光電子分光測定器(XPS)或いは電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により測定できる。
【0030】
無機膜22の強化ガラス200の表面210に近い側の面の表面粗さRaは、大きくても本発明の効果を発現するが、0.02nm以上1.5nm以下であることが測定精度を高める上で好ましい。表面粗さRaが0.02nm以上1.5nm以下であれば、光源10からの光が無機膜22の表面及び無機膜22の内部で散乱することを抑制する効果があり、その結果、表面屈折率測定装置1の測定値の精度向上の効果が得られる。表面粗さRaは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)により測定できる。
【0031】
プリズム21と無機膜22の境界面と、強化ガラス200の表面210との平行度は、無機膜22の膜厚の10%以下であることが好ましい。これにより、十分なフィネス値F(後述)が得られる。平行度は、例えば、顕微分光膜厚計や反射分光膜厚計により複数点測定することで膜厚の平行度を無機膜22の膜厚の10%以下とし、無機膜22と強化ガラス200を密着させることで高い精度が達成できる。
【0032】
なお、距離dが10μmより大きくても輝線の本数を増やして屈折率の測定精度を向上させることは可能であるが、無機膜22を10μmよりも厚く形成することは生産性が悪く、また距離dが10μmを大きく超えると輝線が密集しすぎて観察しづらい。そのため、距離dの上限を10μmとしている。なお、輝線の本数が増やせる理由については、後述する。
【0033】
光入出力部材20のプリズム21の傾斜面21b側から出射された光の方向には撮像素子60が配置されており、光入出力部材20と撮像素子60との間に、光変換部材40と偏光部材50が挿入されている。
【0034】
光変換部材40は、光入出力部材20のプリズム21の傾斜面21b側から出射された光線を輝線列に変換して撮像素子60上に集光する機能を備えている。光変換部材40としては、例えば、凸レンズを用いることができるが、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。
【0035】
偏光部材50は、強化ガラス200と無機膜22との境界面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分のうち一方を選択的に透過する機能を備えている光分離手段である。偏光部材50としては、例えば、回転可能な状態で配置された偏光板等を用いることができるが、同様の機能を備えた他の部材を用いてもよい。ここで、強化ガラス200と無機膜22との境界面に対して平行に振動する光成分はS偏光であり、垂直に振動する光成分はP偏光である。
【0036】
なお、強化ガラス200と無機膜22との境界面は、光入出力部材20を介して強化ガラス200の外に出射した光の出射面と垂直である。そこで、光入出力部材20を介して強化ガラス200の外に出射した光の出射面に対して垂直に振動する光成分はS偏光であり、平行に振動する光成分はP偏光であると言い換えてもよい。
【0037】
撮像素子60は、光入出力部材20から出射され、光変換部材40及び偏光部材50を経由して受光した光を電気信号に変換する機能を備えている。より詳しくは、撮像素子60は、例えば、受光した光を電気信号に変換し、画像を構成する複数の画素毎の輝度値を画像データとして、演算部70に出力できる。撮像素子60としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の素子を用いることができるが、同様の機能を備えた他の素子を用いてもよい。
【0038】
演算部70は、撮像素子60から画像データを取り込み、画像処理や数値計算をする機能を備えている。演算部70は、これ以外の機能(例えば、光源10の光量や露光時間を制御する機能等)を有する構成としてもよい。演算部70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メインメモリ等を含む。
【0039】
この場合、演算部70の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現できる。演算部70のCPUは、必要に応じてRAMからデータを読み出したり、格納したりできる。但し、演算部70の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、演算部70は、物理的に複数の装置等により形成されてもよい。演算部70としては、例えば、パーソナルコンピュータを用いることができる。
【0040】
表面屈折率測定装置1では、光源10から光入出力部材20のプリズム21の傾斜面21a側に入射した光Lは、無機膜22を介して強化ガラス200の表面層に入射し、表面層内を伝播する導波光となる。そして、導波光が表面層内を伝播すると、光導波効果によりモードが発生し、幾つかの決まった経路を進んで、光入出力部材20のプリズム21の傾斜面21b側から、強化ガラス200の外へ出射する。
【0041】
そして、光変換部材40及び偏光部材50により、撮像素子60上に、モード毎にP偏光及びS偏光の輝線となって結像される。撮像素子60上に発生したモードの数のP偏光及びS偏光の輝線の画像データは、演算部70へと送られる。演算部70では、撮像素子60から送られた画像データから、撮像素子60上のP偏光及びS偏光の輝線の位置を算出する。
【0042】
このような構成により、表面屈折率測定装置1では、P偏光及びS偏光の輝線の位置に基づいて、強化ガラス200の表面層における表面から深さ方向にわたる、P偏光及びS偏光の夫々の屈折率分布を算出できる。
【0043】
これにより、算出したP偏光及びS偏光の夫々の屈折率分布の差と、強化ガラス200の光弾性定数とに基づいて、強化ガラス200の表面層における表面から深さ方向にわたる応力分布を算出できる。
【0044】
以下、表面屈折率測定装置1における屈折率分布の測定及び応力分布の測定等に関し、より詳しく説明する。
【0045】
(モードと輝線)
図2及び
図3等を参照し、強化ガラス200の表面層に光線を入射したときの、光線の軌跡とモードについて説明する。
【0046】
図2において、強化ガラス200は、表面210から深さ方向にわたる屈折率分布を有している。
図2において表面210からの深さをxとし、深さ方向にわたる屈折率分布をn(x)とすると、深さ方向にわたる屈折率分布n(x)は、例えば、
図3に示す曲線のようになる。つまり、強化ガラス200では、化学強化等により表面210の屈折率は高く、深くなるにつれ低くなる。そして、化学強化により形成された化学強化層が終了する深さ(表面層の最深部)で元のガラスの屈折率と同じになり、それより深い部分では一定(元のガラスの屈折率)となる。このように、強化ガラス200の表面層では、内部方向に進むにつれ屈折率が低くなる。
【0047】
このとき、表面層の表面側に圧縮応力が発生し、この圧縮と釣り合うように、ガラス内部には引張応力が働く。この圧縮応力から引張応力に変わる位置を最表層からの距離でDOL_Zero値(Depth of Layer_Zero値)として表現し、強化層が終了する深さをDOL_Tail(Depth of Layer_Tail値)として表現する。強化層が終了する深さとは、化学強化により形成された化学強化層が終了する深さであり、組成比が元のガラスの組成比とほぼ同一になる深さのことである。又、この釣合のために発生したガラス内部の引張応力値をCT値(Center Tension値)として表現する。
【0048】
図2において、光源10からの光線Lは光入出力部材20のプリズム21を通して無機膜22に入射され、無機膜22と強化ガラス200との界面に達する。無機膜22と強化ガラス200の表面210の屈折率は同等であるので、実質的に屈折も反射も起こさず、光は強化ガラス200内へと進む。
【0049】
表面210に対して浅い角度で入射した光線Lは、強化ガラス200の内部方向に進むにつれ屈折率が低くなるため、光線軌跡が徐々に表面210と平行に近づき、最深点xtで深さ方向から表面210の方向に反転する。なお、
図2の例では、強化ガラス200より大きな屈折率を持つ光入出力部材20を介して光線Lが入射している。
【0050】
そして光線軌跡が反転した光線は、入射した点から反転する点までの光線軌跡の形状と相似な形状で表面210へと向かい、無機膜22と強化ガラス200との界面に達する。無機膜22と強化ガラス200の表面の屈折率は同等であるため、実質的に屈折も反射も起こさず、光は無機膜22へ進み、無機膜22とプリズム21との界面に達する。プリズム21の屈折率は無機膜22の屈折率より大きいため、少なくとも一部は反射し、無機膜22を介して再び強化ガラス200の内部へ進む。
【0051】
強化ガラス200の内部へと進んだ光は、強化ガラス200の表面層の最深点xtで反転する。そして、再び、強化ガラス200の表面、更に、無機膜22とプリズム21の界面に達し、再び一部は反射し、これを繰り返し、光線はプリズム21の底面21cと強化ガラス200の表面層の最深点xtとの間での導波光として伝わっていく。
【0052】
そして、プリズム21の底面21cと強化ガラス200の表面層の最深点xtとの間を伝わっていく導波光は光入出力部材20のプリズム21の傾斜面21b側より強化ガラス200の外へ取出される。
【0053】
このように、強化ガラス200の内部に進んだ光線は、それまでの光線軌跡と同じ形状の軌跡を通り深さxtで反転してプリズム21の底面21cと無機膜22との界面に戻り、これを繰り返し、光線は底面21cと最深点xtとの間を往復しつつ進んでいく。そして、底面21cから最深点xtまでの限定された空間を光が進行していくため、光は有限値の離散的なモードとしてだけ伝播し得る。
【0054】
すなわち、複数のある決まった経路の光線だけが、強化ガラス200の表面層を伝わることができる。この現象は光導波効果と呼ばれており、光ファイバー内に光線が進む原理でもある。表面210を光導波効果により伝わる光のモード、及びそのモードの光線軌跡は、表面210から深さ方向にわたる屈折率分布で決まる。
【0055】
ここで、強化ガラス200の表面210の平坦度が悪くとも、又、表面210の屈折率の均一性が悪くとも、強化ガラス200の表面210では反射を起こさず、屈折率が均一で平坦度が良く形成されたプリズム21の底面21cと無機膜22との界面で反射する。そのため、多光束干渉の効果が高く、導波光のモードの発生は非常に明確になる。
【0056】
図4は、複数のモードが存在する場合の各モードの光線軌跡を説明した図である。
図4の例では、モード1、モード2、及びモード3の3つのモードを示しているが、更に高次のモードを有してもよい。次数の一番低いモード1は、光線軌跡がプリズム21の底面21cで反射するときの底面21cとの角度が一番浅い(出射余角が一番小さい)。又、モード毎に光線軌跡の最深点が異なり、モード1の最深点xt1は一番浅い。モードの次数が大きくなるにつれ、底面21cでの反射するときの底面21cとなす角度は大きくなる(出射余角が大きくなる)。又、モード2の最深点xt2はモード1の最深点xt1よりも深く、モード3の最深点xt3はモード2の最深点xt2よりも更に深くなる。
【0057】
ここで、光線の所定面に対する入射角は、入射する光線と所定面の法線とのなす角である。これに対し、光線の所定面に対する入射余角は、入射する光線と所定面とのなす角である。すなわち、光線の所定面に対する入射角がθであれば、光線の所定面に対する入射余角はπ/2-θである。又、光線の所定面に対する出射角と出射余角との関係についても同様である。
【0058】
なお、
図4では入射光を1本の光線で表しているが、入射光はある広がりを持っている。その広がりを持った光も、夫々同じモードでは表面210から出射する光の余角は同じである。そして、生じたモード以外の光は打ち消し合うため、表面210からは各モードに対応した光以外は出射しない。後述の
図6等についても同様である。
【0059】
光入出力部材20のプリズム21の傾斜面21bからの出射光は、
図5に示すように、光変換部材40で集光され、光変換部材40の焦点面である撮像素子60に、そのモードに対応した光が奥行き方向に輝線列となって結像される。
図6を参照しながら、輝線列が結像される理由について説明する。
【0060】
図6は、
図1の光入出力部材20のプリズム21の傾斜面21b側(右部分)を拡大した図である。
図6において、強化ガラス200の表面層の屈折率分布と入射光の波長が決まると、光導波効果による全てのモードが決まる。そして、それぞれのモード毎に光線軌跡のプリズム21の底面21cとなす角度が決まっており、又、モードが異なると角度も異なる。
【0061】
そして、モードの次数の大きいほど光線軌跡はより強化ガラス200の表面層の深い部分を通り、底面21cとの角度も順に大きくなっている。それにしたがい、取出された各モードの光も、強化ガラス200の表面210から出射するときに底面21cとなす角度はモード毎に異なり、低いモードより順位に角度が大きくなっていく。
【0062】
又、
図1や
図6において、光入出力部材20及び強化ガラス200は奥行き方向には同じ形状である。そのため、光変換部材40で集光された光は、光変換部材40の焦点面である撮像素子60に、そのモードに対応した光が奥行き方向に輝線となって結像される。
【0063】
そして、モード毎に出射余角が異なるため、
図5に示すように、輝線がモード毎に順に並び、輝線列となる。なお、輝線列は通常は明線の列となるが、出射光に対して光源からの直接光が参照光として作用し、暗線の列となる場合もある。しかし、明線の列となる場合も暗線の列となる場合も、各線の位置は全く同じである。
【0064】
つまり、輝線は、モードが成り立つときに明線又は暗線で発現する。参照光の明暗により輝線の明暗が変わる場合があっても、本実施形態に係る屈折率分布や応力分布の計算には全く影響がない。そこで、本願では、明線であっても暗線であっても便宜上輝線と表現する。
【0065】
このように、光源10からの光線L(例えば、単色の光線)を光入出力部材20のプリズム21の傾斜面21a側(左部分)より無機膜22を通して強化ガラス200の表面210に入射する。そうすると、強化ガラス200の表面210に入射された光は、光導波効果により強化ガラス200の表面層を幾つかのモードの光線軌跡を描き、強化ガラス200の表面層を右方向へ伝搬する。
【0066】
この伝播光を光入出力部材20のプリズム21の傾斜面21b側(右部分)で無機膜22を通して強化ガラス200の外に取出す。そして、光変換部材40により撮像素子60に集光すると、撮像素子60にはモードの数だけ、それぞれのモードに対応した複数の輝線列又は暗線列の像が結像される。
【0067】
ところで、表面層内を伝わった光線が屈折して強化ガラス200の外に出射される際の出射余角は、その光線の表面層内での光線軌跡の最深点での強化ガラス200の屈折率、すなわち実効屈折率nnに等しい屈折率を持つ媒質が光入出力部材20に接していたときの臨界屈折光のそれに等しい。各モードでの最深点は、そのモードでの光線が全反射する点とも解釈できる。
【0068】
ここで、あるモード間の実効屈折率nnの差Δnと輝線間の距離ΔSとの関係は、光変換部材40の焦点距離f、光入出力部材20の屈折率np、強化ガラス200の屈折率ngとすると、下記の式1(数1)及び式2(数2)の関係がある。
【0069】
【0070】
【数2】
従って、撮像素子60上である一点の実効屈折率の位置が分かれば、観測される輝線の位置から、その輝線に対応する各モードの実効屈折率、すなわち、強化ガラス200の表面層内での光線軌跡の最深点での屈折率を求めることができる。
【0071】
(光線軌跡)
本実施形態では、下記の式3(数3)を用いて屈折率分布を算出する。式3は、非特許文献1に記載された技術情報等に基づいて、発明者らが導出したものである。非特許文献1では、屈折率分布は直線的に変化すると仮定し、光の進む経路を円弧に近似している。一方、本実施形態では、任意の屈折率分布でのモードの成り立つ条件を得るために、屈折率分布を任意の分布n(x)としている。
【0072】
式3において、θは微小な距離drを直線で進む光線の出射余角、n0は強化ガラス表面の屈折率、Θは強化ガラスに入射した光線の出射余角、λは強化ガラスに入射する光線の波長、Nはモードの次数(例えば、モード1ならN=1)である。又、tcは無機膜22の厚さ、ncは無機膜22の屈折率である。又、G1は光線が強化ガラスに入射する点、F2は光線が反転する最深点(xt)、G2はF2で反転した光線が再び強化ガラスに到達する点であり、モード毎に異なる。なお、左辺の第1項は表面層内を伝播する光に関する項、左辺の第2項は無機膜22を伝搬する光に関する項、左辺の第3項は表面210を伝播する光に関する項である。
【0073】
【数3】
式3を用いて、次数が隣接するモードの最深点の間では、強化ガラス200の屈折率変化率が一定であると仮定し、次数の最も低いモードから順に、夫々のモードの最深点の深さを計算し、全体の屈折率分布を求めることができる。
【0074】
例えば、
図6において、各モードの最深部xt1、xt2、xt3・・・の深さでの表面層の屈折率すなわち実効屈折率をn1、n2、n3・・・とする。又、プリズム21の底面21c-xt1の間、xt1-xt2の間、xt2-xt3の間、・・・の屈折率変化率は直線であるとし、その屈折率変化率をα1、α2、α3・・・とする。
【0075】
あるモードnでの光線軌跡は、そのモードの最深点xtnより浅い部分を通るため、表面からxtnまでの屈折率分布が決まっていれば、そのモードnでの光線軌跡は一意に決まる。全てのモードのxtが分かっているのであれば、屈折率分布は一意に決まるが、式3より、解析的にはもちろんのこと、数値計算においても、直接一度に屈折率分布を求めることは困難である。
【0076】
そこで、まず、表面210に一番近い部分を通るモード1、2を使い、α1、α2、及びxt1、xt2を求める。そうすると、モード3では、xt1、xt2が既知で、不明なパラメータはxt3だけとなるため、容易にxt3を求めることができる。同様に、モード4、5・・・と順にxt4、xt5・・・を求めれば、全てのモードに対応した最深点のxtnを求めることができる。そして、表面210から深さ方向にわたる屈折率分布を求めることができる。
【0077】
図7は、ガラス内部の光線軌跡を現した図である。
図7を参照して、屈折率分布を計算する具体的な方法について説明する。まず、光線追跡法を使い、式3の左辺を求める。
図7において、x方向(縦方向)は強化ガラス200の深さ方向、y方向(横方向)は強化ガラス200の表面210に水平な方向である。又、深さxでの屈折率はn(x)である。なお、Hは表面210の法線である。
【0078】
ここで、光入出力部材20の屈折率を1.72とし、光入出力部材20から入射余角Ψで表面210に入射する光線Lを考える。又、無機膜22に対する入射点の座標を(xc、yc)、強化ガラス200に対する入射点の座標を(x0、y0)とする。なお、xc=0である。このとき、強化ガラス200の内部に入射した光線Lは、出射余角θ1で屈折し進む。このとき、Ψとθ1にはスネルの式が成り立つ。又、無機膜22の屈折率は強化ガラス200の屈折率とほぼ同じであるため、無機膜22と強化ガラス200の境界面で屈折率は無視できると仮定できる。
【0079】
次に、強化ガラス200の内部では光線Lの軌跡は曲線であるが、ある微小な距離drは直線で進むと仮定する(距離drは波長の1/10から1/100程度が望ましい)。つまり、光線は出射余角θ1の方向にdrだけ直線で進むとする。このとき、x方向の移動量dx1=dr・sinθ1、y方向の移動量dy1=dr・cosθ1となる。又、移動した点の座標(x1、y1)=(dr・sinθ1、y0+dr・cosθ1)となる。
【0080】
この部分的な光線軌跡の始点の座標(x0、y0)での屈折率はn(0)、終点の座標(x1、y1)での屈折率はn(x1)であるが、この光線軌跡内では始点の屈折率で一定とし、終点で屈折率がn(x1)に変わるとする。そうすると、次の光線軌跡はスネルの法則にしたがい、出射余角θ2へ角度を変え進む。出射余角θ2で進む光はdrだけ直線で進み、更に出射余角θ3(図示せず)に方向を変えて進んでいく。これを、繰り返し光線軌跡を追って全体の光線軌跡を求める。
【0081】
このとき、dr進む毎に、式3の左辺の第1項を計算する。例えば、座標(x0、y0)~座標(x1、y1)の部分では、第1項はdr・cosθ1・n(0)であり容易に計算できる。他のdrについても同様にして計算できる。そして、dr毎に求めた第1項を光線軌跡がプリズム21の底面21cに戻るまで加算していくと、式3の左辺第1項が全て求まる。又、このとき、この光線軌跡のy方向に進む距離Σdyが分かる。式3においてdG1G2=Σdy、Θ=θ1であるから式3の左辺第3項が求まり、この二項が強化ガラス200内の光路差に相当する。一方、無機膜22内の光路差を示す第2項は全て既知なので、式3左辺が全て求まる。
【0082】
以上の方法により、代表的な強化ガラスの表面層を伝わる導波光の各モードにおける光線軌跡を計算したものを
図8に示す。なお、
図8は簡単のためtc=0、すなわち無機膜がない場合を記載している。この代表的な強化ガラスは、元のガラスの屈折率ngb=1.51、化学強化工程で変化した表面の屈折率分布は、最表面の屈折率ngs=1.52、深さが50μm、屈折率の分布形状は直線とする。又、光源の波長は596nm、プリズムの屈折率をnp=1.72、プリズムと強化ガラスの間に挟む液体の屈折率をnf=1.64とする。
【0083】
このとき、計算結果ではモードは19存在し、一番低いモード1のガラス表面となす角θ1、すなわち式3のΘは2.0°であり、最深点は4.3μmである。又、モード1の光線軌跡を元に、強化ガラスの表面と液体との界面での光エネルギーの反射率Rをフレネルの式より求めると、R=0.7となる。
【0084】
図1における導波光は1本の直線で描かれているが、光導波効果は多光束干渉である。
図9は、光導波効果において多光束干渉が起きていることを説明する図である。
図9において、光源から光線L
1が点P
1で強化ガラス200の表面210に入射し、強化ガラス200の表面層内で戻ってきた光線L
1は点P
2に達し、点P
2で同じ光源から入射した光線L
2と干渉を起こす。
【0085】
そして、点P2で反射した光線L1と入射した光線L2は同じ経路を進み点P3に達する。点P3では再び、光線L1、光線L2と同じ光源から入射した光線L3とが干渉し、更に、光線L1、光線L2、光線L3は、同じ経路で点P4へと進み、更に多くの光線と干渉を起こし、多光束干渉となる。
【0086】
一般的に多光束干渉の場合、その干渉条件は狭くなるため、強化ガラスの表面層を伝わる導波光は非常に狭い条件、すなわち、式3におけるΘが狭い条件のみの光が導波光として強化ガラスの表面層を伝わる。そのため、輝線の線幅も非常に狭く、急峻になる。この現象は、輝線の位置を精度よく測定可能とするために重要である。
【0087】
しかし、多光束干渉で輝線の幅が狭くなるには、干渉面であるガラス表面は、光学的に、平坦であり、又、均一である必要がある。
【0088】
(ファブリペロー干渉の式)
ファブリペロー干渉計の多光束干渉について簡単に説明する。
図10は、ファブリペロー干渉計の多光束干渉について説明する図である。
図10に示すように、反射率R、透過率Tの二つの反射面が上下に平行に配された屈折率n、厚さLの膜に角度φで入射した光は、二つの反射面の間を繰り返し反射する。そして、多光束干渉を起こし、干渉を起こす波長のみが二つの反射面を通り抜け、狭い範囲の波長の光のみが透過する。そのため、この原理は、分光器や狭帯域干渉フィルタとして利用されている。この透過する波長範囲の目安として、フィネス値Fが定義されている。
【0089】
二つの反射面の往復の光路長が入射された光の波長の整数倍の時に最大の輝度となり干渉の条件となるが、この条件を満足する波長は複数存在するため、干渉条件を満足する隣り合う波長の間隔に対する透過する光の波長の幅の比率がフィネス値Fと定義されている。フィネス値Fは式4に示すように、反射率Rで決まる。
【0090】
【数4】
ファブリペロー干渉計への入射する角度(
図10でのφ)に対しても、選択制があり、フィネス値Fは入射角でも同様な意味を持つパラメータである。又、フィネス値Fは反射面の平坦度や平行度が良いことが必要であり、反射率Rが高くても、反射面の平坦度、平行度の値が大きければ、十分なフィネス値Fが得られない。例えば、現在、実用化され、市販されているファブリペロー干渉計では、フィネス値Fが高く50~100程度であるが、それを得るための反射面の平坦度はλ/100~λ/200である。
【0091】
本実施形態における強化ガラスの表面層の導波光における多光束干渉も、原理的には、ファブリペロー干渉計と同じである。ファブリペロー干渉計では反射率R、透過率Tの二つの反射面を用いるが、表面屈折率測定装置1における導波光は片方が全反射であることが異なるだけで、多光束干渉を起こす原理は同じである。フィネス値Fや必要な反射面の平坦度の関係式の値はやや異なるが、傾向は同じである。そのため、表面屈折率測定装置1の輝線の幅、急峻度も、強化ガラスの表面の反射率、透過率、及び、表面の平坦度に関わる。
【0092】
表面屈折率測定装置1の場合、フィネス値Fは片面が全反射であり、反射率が100%であるので、式4のファブリペローのフィネス値Fの反射率Rに、ガラス表面の反射率の平方根を代入すれば良い。又、フィネス値Fを得るに必要な最低平坦度は、平坦度を=λ/qとすると、ファブリペロー干渉計の場合、光線が1往復するのに反射面が2面であるため、q>2×Fとなり、表面屈折率測定装置1の場合、反射面は1面であるため、q>Fとなる。
【0093】
前述のように、代表的な強化ガラスの場合での、強化ガラス表面の反射率はR=0.7程度である。例えば、R=0.7の場合、平方根は0.837であり、フィネス値Fは約18となり、反射率からは十分なフィネス値Fを得られるが、それに必要な平坦度は、λ/18となり、非常に高い平坦度が要求される。しかし、表面屈折率測定装置1の場合、分光器のような高分解能が必要ではなく、輝線の位置の測定精度が得られれば良い程度のフィネス値Fが確保できれば良い。
【0094】
先に示した代表的な強化ガラスの例で、各フィネス値における導波光強度と導波光が強化ガラスの表面とのなす角Θとの関係を計算した結果を
図11に示す。
【0095】
図11では、フィネス値Fが1、5、18での結果を比較した。反射率から得られるフィネス値F=18では、非常にシャープである。一方。フィネス値F=1では、幅広く、コントラストも1/5以下に下がっていて、輝線位置測定精度が下がると予想される。
【0096】
しかし、フィネス値F=5程度でも、コントラストは1割減程度であり、ピークも鋭く、十分な輝線位置測定が可能な形状である、すなわち、フィネス値Fは5~10程度であれば十分な位置測定が可能である。その時に必要な平坦度はλ/10~λ/5である。
【0097】
(屈折率分布の算出)
次に、屈折率分布を計算する方法を説明する。まず、非特許文献1にも示されているように、モード1とモード2の輝線の位置から、表面210の屈折率とモード2の最深点が求まる。これにより、3つの点、表面210(x=0)、モード1の最深点(xt1)、モード2の最深点(xt2)の値と、その点の屈折率n0、n1、n2が分かる。但し、表面がモード1とモード2の外挿なので、この3点は直線である。
【0098】
次に、モード3での最深点xt3を適当な値に仮定すると、xt3までの屈折率分布が定義でき、上記計算方法にて、この分布での式3の左辺が計算できる。すなわちxt3を唯一のパラメータとして式3の左辺が計算でき、又、右辺はモードの次数で決まり、モード3では2.75λとなる。
【0099】
その後、xt3をパラメータとし二分法やニュートン法等の非線形方程式の計算手法を用いることで、xt3を容易に求めることができる。そして、xt3まで求めたら、次のモード4の輝線位置から、xt4が求まり、全ての輝線について同様の計算を繰り返すことで、全体の屈折率分布を算出できる。
【0100】
(応力分布の算出)
強化ガラスは面内に強い圧縮応力があるため、P偏光の光の屈折率とS偏光の光の屈折率は、光弾性効果により応力の分だけずれる。すなわち、強化ガラス200の表面210に面内応力が存在すると、P偏光とS偏光で、屈折率分布が異なって、モードの発生のしかたも異なり、輝線の位置も異なる。
【0101】
従って、P偏光とS偏光での輝線の位置が分かれば、P偏光とS偏光の夫々の屈折率分布を逆に計算できる。そこで、P偏光とS偏光の屈折率分布の差と強化ガラス200の光弾性定数とに基づいて、強化ガラス200の表面210から深さ方向にわたる応力分布σ(x)を算出できる。
【0102】
具体的には、下記の式5(数5)を用いて、応力分布を算出できる。式5で、kcは光弾性定数であり、ΔnPS(x)はP偏光とS偏光の屈折率分布の差である。P偏光の屈折率分布nP(x)とS偏光の屈折率分布nS(x)は夫々離散的に得られるので、夫々の点の間を直線近似したり、複数の点を使って近似曲線を算出したりすることで任意の位置において応力分布を得ることができる。
【0103】
【数5】
なお、化学強化ガラスが測定された応力分布において、応力0となる点がDOL_Zero値、計算された一番深い点での応力値がCT値である。
【0104】
しかし、CT値、DOL_Zero値については、P偏光とS偏光の微小な屈折率差から求めるため、特に屈折率の変化が小さい部分(屈折率分布の傾斜が緩やかになるゼロクロス付近)では、P偏光とS偏光の屈折率差が小さくなり測定誤差が大きくなる。そこで、算出された圧縮応力層の応力分布を強化ガラス200の深さ方向に積分した値が、強化ガラス200の内部の引張応力と釣り合うよう式6(数6)を用いてCT値を算出してもよい。ここで、CS(x)とは、
図7に示した強化ガラス200の深さ方向の位置xにおける圧縮応力値である。以下、式0に基づいて算出したCT値と式5に基づいて算出したCT値を分けて説明する場合、それぞれCT
0値、CT
5値と呼ぶこととする。例えば、積分範囲を強化ガラス200の表面210から中央までとし、積分結果がゼロとなるようにCT
5値を決定できる。その際、応力0点となる深さをDOL_Zero値として算出してもよい。
【0105】
【数6】
(測定のフロー)
図12は、本実施形態に係る測定方法を例示するフローチャートである。
図13は、表面屈折率測定装置1の演算部70の機能ブロックを例示する図である。
【0106】
まず、ステップS501では、強化ガラス200の表面層内に光源10からの光を入射させる(光供給工程)。次に、ステップS502では、強化ガラス200の表面層内を伝播した光を強化ガラス200の外へ出射させる(光取出工程)。
【0107】
次に、ステップS503では、光変換部材40及び偏光部材50は、出射された光の、出射面に対して平行及び垂直に振動する二種の光成分(P偏光とS偏光)について、夫々少なくとも2本以上の輝線を有する二種の輝線列として変換する(光変換工程)。
【0108】
次に、ステップS504では、撮像素子60は、光変換工程により変換された二種の輝線列を撮像する(撮像工程)。次に、ステップS505では、演算部70の位置測定手段71は、撮像工程で得られた画像から二種の輝線列の各輝線の位置を測定する(位置測定工程)。
【0109】
次に、ステップS506では、演算部70の屈折率分布算出手段72は、二種の輝線列の夫々少なくとも2本以上の輝線の位置から、二種の光成分に対応した強化ガラス200の表面210から深さ方向にわたる屈折率分布を算出する(屈折率分布算出工程)。なお、屈折率分布の算出のためには、輝線は2本以上あればよく、輝線が3本以上であれば、2次以上の関数による近似が可能になり、より詳細の分布情報が得られる。
【0110】
次に、ステップS507では、演算部70の応力分布算出手段73は、二種の光成分の屈折率分布の差とガラスの光弾性定数とに基づいて、強化ガラス200の表面210から深さ方向にわたる応力分布を算出する(応力分布算出工程)。なお、屈折率分布のみを算出することを目的とする場合には、ステップS507の工程は不要である。
【0111】
なお、屈折率分布のプロファイルと応力分布のプロファイルとは類似している。そのため、ステップS507で、応力分布算出手段73は、P偏光及びS偏光に対応した屈折率分布のうち、P偏光に対応した屈折率分布、S偏光に対応した屈折率分布、P偏光に対応した屈折率分布とS偏光に対応した屈折率分布との平均値の屈折率分布、の何れかを応力分布として算出してもよい。
【0112】
又、演算部70は、
図13の構成に加えて、CT値を算出するCT値算出手段や、DOL_Zero値を算出するDOL_Zero値算出手段等を備えていてもよい。この場合、応力分布算出手段73が算出した応力分布に基づいて、CT値やDOL_Zero値を算出できる。
【0113】
以上のように、本実施形態に係る表面屈折率測定装置及び表面屈折率測定方法によれば、二種の輝線列の夫々少なくとも2本以上の輝線の位置から、二種の光成分に対応した強化ガラスの表面から深さ方向にわたる屈折率分布を算出できる。
【0114】
更に、二種の光成分の屈折率分布の差とガラスの光弾性定数とに基づいて、強化ガラスの表面から深さ方向にわたる応力分布を算出できる。すなわち、強化ガラスの表面層の屈折率分布及び応力分布を非破壊で測定できる。
【0115】
その結果、測定された応力分布に基づいて精度の高いCT値、DOL_Zero値を算出可能となり、強化ガラスの開発において最適な強化条件を得ることができる。又、強化ガラスの製造工程において、信頼性と精度の高い、ガラスの強度管理が可能となり、より強度の高い強化ガラスを開発及び製造できる。
【0116】
又、プリズム21の強化ガラス200側に無機膜22を設け、プリズム21と無機膜22の境界面と強化ガラス200の表面210との距離dを1μm以上とすることで、輝線の本数を増やせるため、強化ガラス200の屈折率の測定精度を向上できる。その結果、強化ガラス200の応力の測定精度も向上できる。
【0117】
ここで、輝線の本数が増える理由について説明する。
【0118】
本発明の測定原理では、強化ガラスの化学強化層における導波光の発生するモードに従って、輝線が生じ、その輝線より、そのモードの光線軌跡の最深点の深さと屈折率を知ることができるが、その得られる深さは、離散的で飛び飛びの深さのみである。
【0119】
又、低い次数のモードすなわち表面に近いモードほど、その間隔は大きく、例えば、
図8に示した例では、モード1では4.3μm、モード2では9.2μmと、10μm以下は2点しかない。そのため、10μm以下の表面に近い領域では、精度良く屈折率分布を得るのが難しい。
【0120】
特に、モード1より浅い領域では、モード1とモード2からの外挿でしか屈折率を予想できない。そのため、10μm以下の浅い領域で、急激な変化をする強化方法においては、十分な精度で屈折率分布を得るのが難しい。
【0121】
しかし、本発明では、強化ガラスの表面に通常のモード1の深さに近い厚みのガラスと同じ屈折率の層を設けることで、実質的にモード1の最深点を強化ガラスの表面に近づけ、強化ガラスの表面により近い領域の屈折率が測定可能となる。
【0122】
その原理を
図14を参照しながら説明する。
図14(a)はプリズム21に強化ガラス200が密着している従来の場合であり、ある波長λの光線Aは、プリズム21を通り強化ガラス200の表面210から強化ガラス200に入射し、ある深さで反転し強化ガラス200の表面210に戻ってくる。この点をp1、強化ガラス200の表面210から最深点までの深さをd1とする。そして、この点p1を通る光線Aと平行な光線Bとで、干渉を起こし、光線Aと光線Bの光路差が波長の整数倍になる光線A、Bの入射角で輝線を生じる。
【0123】
一方、
図14(b)は、本発明の一態様であり、プリズム21と強化ガラス200の間に、強化ガラス200の表面210とほぼ同じ屈折率で、厚みがdsの層(ここでは、無機膜22とする)が設けられている。
【0124】
光線Cはプリズム21及び無機膜22を通り強化ガラス200の表面210から強化ガラス200に入射し、ある深さで反転し強化ガラス200の表面210に戻る。この例では、無機膜22と強化ガラス200の表面210の屈折率はほぼ同じであり、その界面では反射も屈折もしないため、光線Cは更に進み、プリズム21と無機膜22の界面に達する。この点をp2とし、この界面から最深点までの深さをd2とする。
【0125】
そして、プリズム21と無機膜22の界面では屈折率が大きく異なるため、この界面で、この点p2を通る光線Cと平行な光線Dとで、干渉を起こし、従来の
図14(a)の場合と同様に、光線Cと光線Dの光路差が波長の整数倍になる光線C、Dの入射角で輝線を生じる。
【0126】
従来の
図14(a)でのプリズム21と強化ガラス200の表面210との界面から深さd1の最深点までの光線軌跡と、本発明の一態様である
図14(b)でのプリズム21と無機膜22との界面から深さd2の最深点までの光線軌跡は若干異なる。すなわち、
図14(b)では直線であるが、従来の
図14(a)の場合ではやや円弧を描く。
【0127】
しかし、短い領域では、円弧をほぼ直線とみなしても、その径路の違いによる光路差は無視できるほど小さい。そのため、
図14(b)の深さd2は、ほぼ、
図14(a)の深さd1と同じとみなせる。
【0128】
しかし、
図14(b)では、強化ガラス200の表面210から最深点までの深さd3は、d2から無機膜22の厚みdsを差し引いた分浅くなる。例えば、
図14(a)の深さd1が5μmで、
図14(b)の無機膜22の厚さが4μmであれば、
図14(b)の深さd3は1μmとなる。又、モード2以降もそれぞれの強化ガラス200の表面210から最深点までの深さは、無機膜22の厚みdsの分、浅くなる。
【0129】
図15は、輝線並びの例である。従来の
図14(a)の場合の輝線並びを
図15(a)に、本発明の一態様である
図14(b)の場合の輝線並びを
図15(b)に示す。
図15の点線のモード0は、強化ガラス200の表面210の屈折率の位置であり、仮想的なモード0とする。
図15(b)では、全体の輝線並びが強化ガラス200の表面210を示すモード0に近づき、導波光効果を生じる深さがd1からd2に深くなるので、新たなモード5やモード6の輝線も現れ、トータルの輝線の本数も増えることになる。
【0130】
又、無機膜22は、屈折率、厚み共に予め測定され、既知であるため、無機膜22での光路長の算出は容易であり、各モードでの最深点を算出することも可能である。
【0131】
なお、無機膜22等の距離規定手段を設けることで輝線の本数が増える理由は、式3からも説明できる。式3において、第2項は無機膜22等の距離規定手段があることにより新たに加わる部分である。すなわち、式3中の第2項の分だけ式3の左辺は大きくなる。従って、例えばN=1で式3の等式が成立するΨは、第2項がない場合よりも、第2項の大きさの分だけ小さくなる。すなわち浅い入射角度から輝線が生じ始める。
【0132】
更に、式3中の第2項のsinθ1の項の存在のため、Ψを増していった場合に、θ1も増していくので、第2項は徐々に大きくなっていく。従って、次のN=2のモードが成立するΨは、第2項が無い場合に比べて小さい角度となり、かつ、N=1が成立するΨとの間隔も、第2項が無い場合に比べて狭くなる。
【0133】
このようにして、臨界角までに式3が成立する角度Ψは、第2項が無い場合に比べて浅くなっていき、かつ間隔が狭まる。その結果、輝線の本数が増える。すなわち、プリズム21と強化ガラス200との間に、無機膜22等の距離規定手段を設けると、輝線の本数が増える。
【0134】
このように、プリズム21と強化ガラス200との間に、無機膜22等の距離規定手段を設けると、強化ガラス200へ入射した光が強化ガラス200の表面210により近い位置で深さ方向から表面方向に反転し、輝線の本数が増える。その結果、強化ガラス200の屈折率の測定精度及び応力の測定精度を向上できる。言い換えれば、強化ガラス200の応力プロファイルがより正確に測定できる。
【0135】
一方、プリズム21と強化ガラス200の距離の増加に伴い、輝線の間隔が狭くなる。より精度よく測定するためには、P偏光のモード1の輝線と、S偏光のモード1の輝線の間が、3pixel以上となる解像度で輝線を観測することが好ましい。解像度を向上する方法としては、光変換部材40を調節し、光学倍率を上げて撮影する方法や、撮像素子60として、高解像度のものを用いる方法が挙げられる。
【0136】
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、第1実施形態とは異なる光入出力部材を有する表面屈折率測定装置の例を示す。なお、第2実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0137】
図16は、第2実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
図16に示すように、表面屈折率測定装置2は、光入出力部材20が光入出力部材20Aに置換された点が、表面屈折率測定装置1(
図1参照)と相違する。光入出力部材20Aは、無機膜22がガラス層23に置換された点が、光入出力部材20(
図1参照)と相違する。
【0138】
図16において、光入出力部材20Aのガラス層23は、プリズム21の底面21c(プリズム21とガラス層23の境界)と強化ガラス200の入射表面である表面210との距離を規定する距離規定手段である。ガラス層23の材料としては、特に制限はないが、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス等が挙げられる。
【0139】
ガラス層23の屈折率は、強化ガラス200の屈折率とほぼ同じ屈折率である。ガラス層23は、強化ガラス200の表面210の屈折率に対して±0.05の範囲内の屈折率を有することが好ましい。例えば、強化ガラス200の表面210の屈折率が1.52であれば、ガラス層23の屈折率は1.47以上1.57以下であることが好ましい。ガラス層23の屈折率が1.47以上1.57以下であれば、ガラス層23と強化ガラス200の表面210の境界での反射が十分低減され、輝線がより明確に確認できる。ガラス層23の屈折率は、例えば、エリプソメーターにより測定できる。
【0140】
ガラス層23の厚さは、1μm以上10μm以下である。ガラス層23の厚さを1μm以上10μm以下とすることで、プリズム21とガラス層23の境界と強化ガラス200の表面210との距離dを1μm以上10μm以下の範囲に規定できる。距離dを1μm以上とすることで、輝線の本数を増やせるため、強化ガラス200の屈折率の測定精度を向上できる。ガラス層23の厚さは、例えば、デジタルマイクロメーターや、マイクロスコープによって側面から観察することにより測定できる。
【0141】
ガラス層23の厚さの偏差は、10%以下に抑えることが好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましく、0.5%以下が更に好ましい。ガラス層23の厚さの偏差が10%以下であれば、プリズム21の下端から強化ガラス200の表面210までの光路長が均一となり、後述するフィネス値が向上し、輝線がより明確に確認できる。ガラス層23の厚さの偏差は、例えば、エリプソメーター、X線光電子分光測定器(XPS)或いは電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により測定できる。
【0142】
ガラス層23の強化ガラス200の表面210に近い側の面の表面粗さRaは、大きくても本発明の効果を発現するが、0.02nm以上1.5nm以下であることが測定精度を高める上で好ましい。表面粗さRaが0.02nm以上1.5nm以下であれば、光源10からの光がガラス層23の表面及びガラス層23の内部で散乱することを抑制する効果があり、その結果、表面屈折率測定装置1の測定値の精度向上の効果が得られる。表面粗さRaは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)により測定できる。
【0143】
プリズム21とガラス層23の境界面と、強化ガラス200の表面210との平行度は、ガラス層23の膜厚の10%以下であることが好ましい。これにより、十分なフィネス値Fが得られる。平行度は、例えば、顕微分光膜厚計や反射分光膜厚計により複数点測定することで膜厚の平行度をガラス層23の膜厚の10%以下とし、ガラス層23と強化ガラス200を密着させることで高い精度が達成できる。
【0144】
図17及び
図18は、第2実施形態に係る光入出力部材の形成方法を説明する図である。まず、
図17(a)に示すように、光入出力部材20Aのプリズム21となるガラス素材を直方体に加工したガラスブロック240を用意する。ガラスブロック240の面241は、平坦度が1/4λ以下で加工されている。
【0145】
次に、
図17(b)に示すように、光入出力部材20Aのガラス層23となるガラス素材として薄いガラス板250を用意する。ガラス板250の面251の大きさは、ガラスブロック240の面241と同じである。ガラス板250の厚さは、例えば、0.1mm以上2mm以下である。ガラス板250の少なくとも面251は、平坦度が1/4λ以下で加工されている。
【0146】
次に、
図17(c)に示すように、ガラスブロック240の面241とガラス板250を面251とを合わせ、接着して積層体260を作製する。接着には、ガラス板250の屈折率とほぼ同じである光学ガラス接着剤を用いる。又、光学ガラス接着剤に代えて、オプティカルコンタクトを用いてもよい。
【0147】
次に、
図17(d)に示すように、積層体260において、ガラス板250の面252(面251の反対面)を、ガラス板250の厚さが1μm以上10μm以下になるように研磨して面252を光学面に仕上げる。このとき、ガラス板250の面251に対する面252の平行度は、ガラス板250の板厚の10%以下が好ましい。
【0148】
研磨途中のガラス板250の厚さは、例えば、干渉式の厚み計(例えば、大塚電子製・分光膜厚計FE300等)により、小さなエリアを0.1μm以下の分解能で高精度に測定できる。この厚み計によりガラス板250の面252内の複数の点を測定し、調整し、研磨することにより、面251に対する面252の平行度をガラス板250の板厚の10%以下、かつガラス板250の厚さを1μm以上10μm以下に制御できる。
【0149】
次に、
図18(a)に示すように、積層体260を縦横に切断し、光入出力部材20A1個分の大きさに切り出し、積層体260Aを作製する。そして、
図18(b)に示すように、積層体260Aの面261及び262を斜めに研磨し、光学研磨で仕上げる。これにより、
図18(c)に示すように、プリズム21上にガラス層23が接着された光入出力部材20Aが得られる。
【0150】
このように、プリズム21の底面21cと強化ガラス200の表面210との距離を規定する距離規定手段としてガラス層23を設けてもよい。この場合も、ガラス層23の厚さを1μm以上10μm以下とすることで、第1実施形態と同様に、輝線の本数を増やせるため、強化ガラス200の屈折率の測定精度を向上できる。その結果、強化ガラス200の応力の測定精度も向上できる。
【0151】
〈第3実施形態〉
第3実施形態では、光入出力部材が液体を介して強化ガラスと接する例を示す。なお、第3実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0152】
図19は、第3実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
図19に示すように、表面屈折率測定装置3では、光入出力部材20と強化ガラス200との間には、光入出力部材20の無機膜22の底面22cと強化ガラス200の表面210とを光学的に結合するための光学的結合液体である液体30が充填されている。つまり、無機膜22の底面22cが液体30を介して強化ガラス200の表面210に当接している。液体30の厚さは、1μm以下とすることが好ましい。
【0153】
液体30の屈折率は、強化ガラス200の表面層の最表面の屈折率と同等に調整されている。ここで、同等とは、強化ガラス200の表面と液体30との界面では全く反射や屈折を起こさせず、無機膜22の底面22cと液体30との界面を導波光の片方の反射面にすることを可能とする、液体30の屈折率と強化ガラス200の表面層の屈折率との関係をいう。
【0154】
ngbを化学強化工程前のガラスの屈折率、ngsを化学強化工程後の強化ガラスの最表面の屈折率、nfを液体30の屈折率としたときに、ngb<nf≦ngs+0.005であることが、高いコントラストの輝線が観察され、精確な測定ができる点で好ましい。ngb+0.005≦nf≦ngs+0.005であれば、より好ましい。又、液体30の屈折率nfと強化ガラス200の表面層の屈折率ngsとの差の絶対値が0.005以下であると、特に好ましい。この好ましい屈折率の範囲に含まれる屈折率を本発明における適切な屈折率といい、この屈折率を持つ屈折液を本発明における適切な屈折液という。
【0155】
液体30は、材料の異なる2種類以上の液体を混ぜて作ってもよい。液体30を材料の異なる2種類以上の液体を混ぜて作ることで、液体30の粘度を調整できる。液体30の粘度は、低い方が強化ガラス200と無機膜22に密着させやすい点で好ましい。具体的には、液体30の粘度は、5cps(センチポアズ)以下であることが好ましく、3cps以下であることがより好ましく、1cps以下であることが更に好ましい。
【0156】
又、液体30を材料の異なる2種類以上の液体を混ぜて作ることで、沸点を調整できる。液体30の沸点が高いと保管時に変質しにくい点で好ましい。具体的には、液体30の沸点は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。
【0157】
このように、表面屈折率測定装置3では、光入出力部材20と強化ガラス200との間に光学的結合液体である液体30が充填されている。そして、液体30の屈折率は強化ガラス200の表面層の屈折率と同等に調整されている。
【0158】
これにより、強化ガラス200の表面と液体30との界面では全く反射や屈折を起こさせず、光入出力部材20の無機膜22の底面22cと液体30との界面が導波光の片方の反射面となり、強い導波光を得ることができる。その結果、表面の光学的平坦度が悪い、或いは、表面の屈折率均一性が悪い強化ガラスでも、強化ガラスの表面の状態に依存しない強い導波光を得ることが可能となり、鮮明な輝線が得られるため、強化ガラスの表面層の屈折率分布を非破壊で精度よく測定できる。
【0159】
さらに、液体30の屈折率次第では、輝線が発現する領域と輝線が発現しない領域の境界が明瞭に見える効果が期待でき、
図3の表面層の最深部における屈折率や応力測定精度向上にも活用できる。輝線が発現する領域と輝線が発現しない領域の境界は、明部と暗部、あるいは暗部と明部の境界線として視認でき、通常、強化ガラスとプリズムとの屈折率差により臨界角付近で発生する。
【0160】
例えば、ガラス形成工程後の化学強化の工程においも、短時間で表面応力が強くなるような化学強化工程で形成された化学強化ガラスでは、イオン交換が均一にされず、屈折率が局所的に不均一となることもある。例えば、強化ガラスの表面層に金属イオンが拡散したガラスでは、表面層で急激に屈折率の傾きが大きくなる。この場合の金属イオンは、Sn、Ag、Ti、Ni、Co、Cu、In等である。
【0161】
このような光学的平坦度が悪いガラスでは、多光束干渉によるフィネス値Fが悪化し、輝線の幅は広く、コントラストも下がり、精度の高い位置測定を妨げることとなり、極端な場合、実質的にモードが発生しなくなり、測定が困難な場合もある。
図20に強化ガラスの表面の平坦度が良い場合と悪い場合の輝線列の写真を示す。
図20(a)は強化ガラスの表面の平坦度が悪い場合の例、
図20(b)は強化ガラスの表面の平坦度が良い場合の例である。
【0162】
このように、表面、或いは表面付近は光学的に不均一性が大きい、或は表面の光学的平坦度が悪いような、化学強化ガラスでは、撮像素子に結像される輝線も、線幅も広く、コントラストも低く、不明確になり、輝線の測定精度が落ちる。極端に不均一性が大きい、或いは平坦度が悪い場合、導波光そのものも消失し、輝線が生じないこともある。そのため、強化ガラスの表面屈折率或いは表面層の屈折率分布の測定精度が落ち、更には測定が困難になる場合がある。
【0163】
表面屈折率測定装置3では、光入出力部材20の無機膜22と強化ガラス200との間に光学的結合液体である液体30が充填されており、液体30の屈折率は強化ガラス200の表面層の最表面の屈折率と同等又は強化ガラスの表面層よりも深い部分との間に調整されている。
【0164】
そのため、表面の光学的平坦度が悪い、或いは、表面の屈折率均一性が悪い強化ガラスでも、強化ガラスの表面の状態に依存しない強い導波光を得ることが可能となり、強化ガラスの表面層の屈折率分布を非破壊で精度よく測定できる。例えば、表面屈折率測定装置3は、強化ガラスの表面で導波光を反射させる従来の装置では測定が困難であった、表面の粗さRaが5nmや10nm、50nmである強化ガラス200の表面層の屈折率分布を精度よく測定できる。更には、表面の粗さRaが100nm以上である強化ガラス200であっても、表面層の屈折率分布を精度よく測定できる。
【0165】
なお、液体30は、無機膜22の底面22cに塗布してもよいし、強化ガラス200の表面210に塗布してもよい。液体30を無機膜22の底面22cに塗布した場合、液体30を光入出力部材20の一部と考えてもよい。
【0166】
以上の説明では、第1実施形態で説明した光入出力部材20を用いる例を示したが、第2実施形態に係る光入出力部材20Aを用いた場合にも、ガラス層23と強化ガラス200との間に液体30を充填することで、上記と同様の効果が得られる。
【0167】
〈第4実施形態〉
第4実施形態では、第1実施形態とは異なる光入出力部材を有する表面屈折率測定装置の他の例を示す。なお、第4実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0168】
図21は、第4実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
図21に示すように、表面屈折率測定装置4は、光入出力部材20が光入出力部材20Bに置換された点が、表面屈折率測定装置1(
図1参照)と相違する。光入出力部材20Bは、無機膜22がフィラー24に置換された点が、光入出力部材20(
図1参照)と相違する。
【0169】
図21において、光入出力部材20Bのフィラー24は、プリズム21の底面21cと強化ガラス200の入射表面である表面210との距離を規定する距離規定手段である。フィラー24の粒径は1μm以上10μm以下である。ここで、粒径とは、平均粒子径の意味である。強化ガラス200やプリズム21のキズを抑制させる点から、フィラー24の材料は柔らかい樹脂等であることが好ましい。フィラー24としては、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、コロイダルシリカ、シリコーン等が好適に用いられる。フィラー24の粒径は、例えば、光学顕微鏡又は電子顕微鏡による直接観察や、動的光散乱法やレーザー回折法等の光学的方法等により測定できる。
【0170】
プリズム21と強化ガラス200との間のフィラー24の周囲には、プリズム21の底面21cと強化ガラス200の表面210とを光学的に結合するための光学的結合液体である液体30が充填されている。つまり、プリズム21の底面21cが液体30を介して強化ガラス200の表面210に当接している。液体30については前述の通りである。
【0171】
このように、プリズム21の底面21cと強化ガラス200の表面210との距離を規定する距離規定手段としてフィラー24を設けてもよい。この場合も、フィラー24の粒径を1μm以上10μm以下とすることで、第1実施形態と同様に、輝線の本数を増やせるため、強化ガラス200の屈折率の測定精度を向上できる。その結果、強化ガラス200の応力の測定精度も向上できる。
【0172】
なお、プリズム21の底面21cにフィラー24及び液体30を保持するための凹部を設けてもよい。この場合、
図1の状態を上下反転させ、プリズム21を下側に配置し、プリズム21の凹部の外周面(凹んでいない部分)の上に強化ガラス200を配置して測定を行う。又、凹部の深さでプリズム21の底面(凹部の底面)と強化ガラス200の表面210との距離を規定してもよい。この場合、フィラー24は用いずに液体30のみを用いてもよい。
【0173】
〈第5実施形態〉
第5実施形態では、第1実施形態とは異なる光入出力部材を有する表面屈折率測定装置の他の例を示す。なお、第5実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0174】
図24は、第5実施形態に係る強化ガラスの表面屈折率測定装置を例示する図である。
図24に示すように、表面屈折率測定装置5は、光入出力部材20が光入出力部材20Cに置換された点が、表面屈折率測定装置1(
図1参照)と相違する。光入出力部材20Cは、構造部材25を有する。
図24において、光入出力部材20Cの構造部材25は、プリズム21の底面21cと強化ガラス200の入射表面である表面210との距離を規定する距離規定手段である。
【0175】
構造部材25により形成される、プリズム21の底面21cと強化ガラス200の入射表面である表面210との間の空間26には、プリズム21の底面21cと強化ガラス200の表面210とを光学的に結合するための光学的結合液体である液体30が充填されている。つまり、プリズム21の底面21cが液体30を介して強化ガラス200の表面210に当接している。液体30については前述の通りである。液体30の屈折率と強化ガラス200の表面層の屈折率の差が小さくなるよう調整しやすいため、光導波効果以外による輝線の発生を抑制できる。また、液体であることから膜応力が発生しないため、ガラス内で発生する応力測定に悪影響を与えない。このように、構造部材25は、距離規定手段であり、空間26を形成する点で、第1実施形態における光入出力部材20の無機膜22と相違する。
【0176】
空間26は、例えば構造部材25を形成する際に、プリズムの一部すなわち膜を付けない部分をマスキングして成膜し、マスキングを剥離することで形成される。
【0177】
図25(a)、(b)は、プリズム21の底面21c上に形成された構造部材25の例を示す上面図である。
図25の上面図において、構造部材25の占める総面積がプリズム21の底面21cの面積より小さいことにより、空間26を確保でき、液体30を充填できる。構造部材25の占める面積は、例えばプリズム21の底面21cの面積の半分以下であり、3分の1以下、4分の1以下であっても良い。強化ガラス200の表面210とプリズム21の底面21cの距離を精確に保つため、構造部材25の占める面積は、プリズム21の底面21cの20分の1以上が好ましい。また、構造部材25は導波光の伝搬に影響しないように、プリズム21の底面21cの端や、底面21cの面内に、小さい面積で複数点在するように配置することが好ましい。
【0178】
図25(a)、(b)において、構造部材25同士の間隔は、プリズム21の底面21cと強化ガラス200の表面210の距離を一定に保てるように設定されることが好ましく、例えば10mm以下であり、5mm以下、3mm以下であってもよい。更に、構造部材25は、
図25(a)のように、底面21c上で空間26を分断せず、空間26が一続きになるよう設置されることが好ましい。空間26が一続きであると、液体30を充填する際に液体30が空間26内を移動して空隙を埋められる。更に、構造部材25同士の間隔は、例えば0.1mm以上、0.5mm以上であると、液体30が構造部材25の間を移動できる。
【0179】
構造部材25の厚さは1μm以上10μm以下である。構造部材25の膜厚を1μm以上10μm以下とすることで、第1実施形態と同様に、輝線の本数を増やせるため、強化ガラス200の屈折率の測定精度を向上できる。その結果、強化ガラス200の応力の測定精度も向上できる。
【0180】
構造部材25の屈折率は、液体30の屈折率との差が小さい方が、導波光伝搬への影響を抑制できる。
【0181】
構造部材25の材質は特に限られず、無機膜、ガラス、樹脂などから選択され、好ましくは無機膜である。無機膜としては、Si、Al、Zr、Ti、Nb、Taから選ばれる少なくとも一つの金属を含む酸化膜、窒化膜、又は酸窒化膜が挙げられる。
【0182】
[実施例、比較例]
表面屈折率測定装置において、プリズム21と無機膜22の境界面と強化ガラス200の表面210との距離dを含む
図22及び23に示すパラメータを変えながら、輝線の本数を評価した。
【0183】
被測定体としては、例1~例4では圧縮応力層の深さが5μmの強化ガラス200を用い、例5~例8では圧縮応力層の深さが10μmの強化ガラス200を用いた。例9~11では、圧縮応力層の深さが7μmの強化ガラス200を用いた。
【0184】
又、例1、例2、及び例5~例7では、距離規定手段として無機膜(シリコンアルミオキサイド)を用いた。例8では距離規定手段としてスペーサーとなるフィラーを用いた。例1、例2、及び例5~例7では距離dは無機膜と液体30との総厚であり、例8では距離dはフィラーの平均粒径であった。比較例である例3及び例4では、距離規定手段を設けていなく、距離d(液体30の厚さのみ)は1μm以下であった。
【0185】
例9~11では距離規定手段の構造部材25としてスペーサーとなる無機膜(シリコンアルミオキサイド)を
図25(b)のように、プリズムを横断するように設置し、プリズム21と強化ガラス200の間に液体30を充填した。構造部材25同士の間隔は4.5mmであり、構造部材25の幅は1mmであった。例9~11で、距離dは無機膜の膜厚である。
【0186】
図22及び23に示すパラメータCは、((nc×tc)/λ)×1000である。ここで、ncは無機膜と液体30との平均屈折率である。tcは無機膜と液体30との総厚(μm)、又はフィラーの粒径(μm)である。λは光源の波長(nm)である。
【0187】
各パラメータの値及び輝線の評価結果(本数及び写真)を
図22、
図23、
図26に示す。なお、判定の『OK』は、P偏光とS偏光の両方について2本以上の輝線が確認できた場合、『NG』は、P偏光とS偏光の少なくとも一方について1本以下の輝線しか確認できなかった場合を示している。
【0188】
図22の例1及び例2、
図23の例5~8、並びに
図26の例9~11に示すように、距離dが1μm以上の場合には、輝線を増やすことができ、P偏光とS偏光の両方について、2本以上の輝線が確認できた。これに対して、
図22に示す例3及び例4のように、距離dが1μm未満の場合には、P偏光とS偏光の両方について1本の輝線しか確認できなかった。
【0189】
このように、距離dを1μm以上とすることで、輝線の本数を増やせることが確認できた。輝線の本数を増やすことで強化ガラスの屈折率の測定精度を向上でき、その結果、強化ガラスの応力の測定精度も向上できる。
【0190】
又、
図22の例1と例2との比較、及び
図23の例5と例7との比較により、距離dが大きいほど輝線の本数が増えることが確認できた。輝線の本数をより増やすことで強化ガラスの屈折率の測定精度をより向上でき、その結果、強化ガラスの応力の測定精度もより向上できる。
【0191】
又、
図22、
図23、
図26より、パラメータCの値は5以上が好ましい。特に、
図22のように圧縮応力層の深さが5μmと比較的浅い場合を考慮すると、パラメータCの値は10以上がより好ましい。
【0192】
又、例8の結果より、距離規定手段としてフィラーを用いた場合も、無機膜を用いた場合と同様の効果が得られることが確認できた。
【0193】
以上、好ましい実施形態及び実施例について詳説したが、上述した実施形態及び実施例に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0194】
例えば、上記の各実施形態では、光源を表面屈折率測定装置の構成要素として説明したが、表面屈折率測定装置は光源を有していない構成としてもよい。この場合、表面屈折率測定装置は、例えば、光入出力部材20と、液体30と、光変換部材40と、偏光部材50と、撮像素子60と、演算部70とを有する構成にできる。光源は、表面屈折率測定装置の使用者が適宜なものを用意して使用できる。
【符号の説明】
【0195】
1、2、3、4 表面屈折率測定装置
10 光源
20、20A、20B、20C 光入出力部材
21 プリズム
21a、21b 傾斜面
21c、22c 底面
22 無機膜
23 ガラス層
24 フィラー
25 構造部材
26 空間
30 液体
40 光変換部材
50 偏光部材
60 撮像素子
70 演算部
71 位置測定手段
72 屈折率分布算出手段
73 応力分布算出手段
200 強化ガラス
210 強化ガラスの表面