(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ヒトの老化バイオマーカーとしての、唾液及び尿の代謝物の使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20240216BHJP
G01N 33/493 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01N33/50 T
G01N33/493 A
(21)【出願番号】P 2020559007
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2019017250
(87)【国際公開番号】W WO2019208572
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-05
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】柳田 充弘
(72)【発明者】
【氏名】照屋 貴之
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-113996(JP,A)
【文献】特表2017-516085(JP,A)
【文献】特開2019-007759(JP,A)
【文献】国際公開第2017/155100(WO,A1)
【文献】CHALECKIS, R. et al.,Individual variability in human blood metabolites identifies age-related differences,PNAS,2016年04月19日,Vol.113/NO.116,p.4252-4259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の尿の代謝物
の量を測定することによって、老化度の評価のための指標
を得る方法であって、上記尿が起床後第一尿であり、上記尿の代謝物がシュウドウリジンを含む、方法。
【請求項2】
採取直後に試料を冷有機溶媒で処理することを特徴とする、請求項1に記載
の方法。
【請求項3】
上記尿の代謝物が、
シュウドウリジン、
並びにジメチル-グアノシン、ヒスチジン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン
、1,5-アンヒドログルシトール、2-ヒドロキシ(イソ)酪酸、3-ヒドロキシ(イソ)酪酸、アデノシン、アスパラギン、アスパラギン酸、ブチロ-ベタイン、(イソ)ブチリル-カルニチン、カルノシン、クレアチニン、デカノイル-カルニチン、ジメチル-アルギニン、ジメチル-リジン、フルクトース-1,6-ジホスフェート、グルコン酸、グルタミン、グリセロール-ホスフェート、グリセロール-ホスホコリン、グリセロホスホエタノールアミン、馬尿酸、ヒポキサンチン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、キヌレニン、ロイシン、メチオニン、ミオイノシトール、N-アセチル-アルギニン、N-アセチル-アスパラギン酸、N-アセチル-グルコサミン、N-メチル-アデノシン、N2-アセチル-リジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、ペントース-リン酸、フェニルアラニン、ホスホグリセリン酸、キノリン酸、S-アデノシル-ホモシステイン、スレオニン、トリメチル-リジン、トリプトファン、セリン、(イソ)バレリル-カルニチン、及びバリンからなる群から選択される少なくとも1つの代謝物を含
む、請求項1又は2に記載
の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法により老化度
の評価のための指標を得ることができる手段を有する、老化度判定装置。
【請求項5】
被験者の
尿の代謝物のデータが入力手段に入力され、
判定手段において上記尿の代謝物の定量値と暦年齢のプロットから作成した標準曲線に基づいて老化度が判定され
、上記尿が起床後第一尿であり、上記尿の代謝物がシュウドウリジンを含む、入力手段及び判定手段を有する、老化度判定装置。
【請求項6】
請求項4若しくは5に記載の装置
を有する、老化度判定システム。
【請求項7】
老化度に影響を及ぼす物質を評価する方法であって、
尿の代謝物を測定する工程を含み、
上記尿が起床後第一尿であり、上記尿の代謝物が
、シュウドウリジ
ンを含む、方法。
【請求項8】
尿採取管、及び検出基準としての代謝化合物を含み、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法を用いることによって老化度を判定するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化度の判定方法、老化度の判定装置、老化度の判定システム、老化度を判定するためのキット、老化度に影響を与える物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長生きするとともに、人々は健康を維持し、老化を緩和したいと考えている。しかし、個人の生物学的老化度を客観的に評価する方法がないため、人々がそれに対する対策の必要性や老化関連疾患のリスクを認識することは困難である。老化の課題は、傷害や疾患、特に老化関連疾患に対する感受性の増加である。また、それらからの回復も困難である。したがって、個人の老化度(老化度)を客観的に測定し、その情報を老化ケアや老化関連疾患の予防に活用することは重要な課題である。
【0003】
高齢者は、身体のさまざまな部分で老化が進むことを心配している。生体液中の特定の老化関連代謝物の分析による個体全体の老化の評価と老化型の決定は、特に手技が簡単で速い場合、それらにかなりの関心が持たれる。老化に伴う代謝活性の低下は、それを心配する人々にとって貴重な情報となるであろう。非侵襲的に採取できる尿・唾液の代謝物の簡便かつ迅速な測定を可能にする技術は、血液を用いる方法よりもメリットが高い。尿及び唾液は、小児から高齢者まであらゆる年齢の人々の日常の健康状態を管理するための有望な生体試料である。我々の知る限り、同等の健康及び/又は老化分析サービスは存在しない。
【0004】
ヒト生体液代謝物は、その潜在的使用のための診断マーカーとしての存在量及び生物学的意義を決定するために、十分に検討されている。医学的診断のためには、収集、検査するのが簡便であるという理由から、血漿又は血清からの非細胞性代謝物が最も一般的に使用される。排尿は、体が水溶性の老廃物を排泄する主要な経路である。尿は大部分が老廃物と見なされているが、腎機能のような生理学的状態を反映する診断用生体液としてかなりの価値がある(非特許文献1)。唾液腺から分泌される唾液は、口腔粘膜や歯の保護、口腔の洗浄、食物の咀嚼・嚥下の促進、消化作用、抗菌作用、緩衝作用、再石灰化作用、味覚発現の促進などの役割を果たす。唾液にはステロイド、他の非ペプチドホルモンや抗体が含まれるため、診断標本として有望と考えられている(非特許文献2)。唾液には多くの機能があるが、その代謝物は十分に研究されていない。
【0005】
メタボロミクスは、液体クロマトグラフィー(LC)-質量分析(MS)のような技術を用いて、細胞及び生物における代謝物をプロファイリングする化学生物学のひとつの分野である。通常は1.5kDa未満の分子を扱い、プロテオミクスやトランスクリプトミクスなど他の包括的な解析と組み合わせて代謝調節を研究するための重要なツールである。発明者らは最近、非標的包括的LC-MSを用いて若年群(~40歳)と高齢群(70~95歳)の間で存在量が著しく異なる43の血液代謝物を報告した(非特許文献3)。これらの血中代謝物は、遺伝的、エピジェネティック、及びライフスタイルファクターによって影響される、ヒトの老化のある種の血液中の生理的状態を反映している可能性があるため、ヒトの老化度を分子的に特徴付けるために重要であると考えられる。
【0006】
老化に関連する多様な変化は、ヒトの老化が、ヒトの老化の進行に影響し得る多くのパラメータを伴う結果であるように、多くのヒトの体の部分で起こり得る。代謝物の過剰又は欠乏は、老化の開始及び進行につながるであろう。ヒトの老化と密接に関連している低分子の測定の適用はこれまであまり行われていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Andrew S Levey AS & Coresh J (2012) Chronic kidney disease. Lancet, 379(9811):165-180
【文献】Hofman LF (2001) Human saliva as a diagnostic specimen. J Nutr,131(5):1621S-1625S
【文献】Chaleckis R, et al. (2016) Individual variability in human blood metabolites identifies age-related differences. Proc Natl Acad Sci U S A 113(16):4252-4259
【文献】Chaleckis R, et al. (2014) Unexpected similarities between the Schizosaccharomyces and human blood metabolomes, and novel human metabolites. Molecular BioSystems 10(10):2538
【文献】Pluskal T, Nakamura T, Villar-Briones A, & Yanagida M (2010) Metabolic profiling of the fission yeast S. pombe: quantification of compounds under different temperatures and genetic perturbation. Mol Biosyst 6(1):182-198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、老化度を簡便かつ客観的に決定できる非侵襲的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ヒト生体液中に存在する代謝物は、遺伝的、エピジェネティック、及びライフスタイルファクターに影響される個々の生理学的状態を記録する。高解像度液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)を用いて、13人の若年者(30±3歳)と14人の高齢者(76±4歳)の血液、尿、唾液の非標的定量メタボロミクス分析を行った。尿及び唾液中にはそれぞれ異なる99種類の代謝物が同定された。統計解析により、発明者らは、年齢に顕著に関連して増加又は減少を示す、50の尿中の化合物及び17の唾液中の化合物を見出した。
【0010】
本研究では、尿及び唾液の代謝物が指標として用いられる老化度を決定するための新規な方法を提示する。本発明の方法は、容易で非侵襲的で正確である。
【0011】
本発明は以下の通りである。
[1]尿及び/又は唾液の代謝物が指標として用いられる、老化度の判定方法。
[2]採取直後に試料を冷有機溶媒で処理することを特徴とする、[1]に記載の老化度の判定方法。
[3]尿の代謝物が、1,5-アンヒドログルシトール、2-ヒドロキシ(イソ)酪酸、3-ヒドロキシ(イソ)酪酸、アデノシン、アスパラギン、アスパラギン酸、ブチロ-ベタイン、(イソ)ブチリル-カルニチン、カルノシン、クレアチニン、デカノイル-カルニチン、ジメチル-アルギニン、ジメチル-グアノシン、ジメチル-リジン、フルクトース-1,6-ジホスフェート、グルコン酸、グルタミン、グリセロール-ホスフェート、グリセロール-ホスホコリン、グリセロホスホエタノールアミン、馬尿酸、ヒスチジン、ヒポキサンチン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、キヌレニン、ロイシン、メチオニン、ミオイノシトール、N-アセチル-アルギニン、N-アセチル-アスパラギン酸、N-アセチル-グルコサミン、N-メチル-アデノシン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N2-アセチル-リジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、ペントース-リン酸、フェニルアラニン、ホスホグリセリン酸、シュウドウリジン、キノリン酸、S-アデノシル-ホモシステイン、スレオニン、トリメチル-リジン、トリプトファン、セリン、(イソ)バレリル-カルニチン、及びバリンから成る群より選択される少なくとも1つの代謝物を含み、
唾液の代謝物が、アデノシン、ATP、カルニチン、シトルリン、クレアチニン、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルタミン酸、グルタチオンジスルフィド、メチオニン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、ニコチンアミド、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、セドヘプツロース-7-リン酸、及びスレオニンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む、老化度の判定方法。
[4]尿の代謝物が、1,5-アンヒドログルシトール、2-ヒドロキシ(イソ)酪酸、アデノシン、(イソ)ブチリル-カルノシン、カルノシン、デカノイル-カルニチン、ジメチルグアノシン、グルタミン、グリセロール-ホスホコリン、ヒスチジン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、ロイシン、ミオ-イノシトール、N-アセチル-アスパラギン酸、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、シュウドウリジン、キノリン酸、トリプトファン、セリン及びバリンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含み、唾液の代謝物が、アデノシン、ATP、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、クレアチニン、グルタミン酸、ニコチンアミド、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、及びセドヘプツロース-7-リン酸からなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む、[1]又は[2]に記載の老化度の判定方法。
[5]尿の代謝物が、(イソ)ブチリル-カルニチン、ジメチル-グアノシン、ヒスチジン、ミオ-イノシトール、N-アセチル-アスパラギン酸、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、シュウドウリジン、セリン及びバリンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含み、唾液の代謝物が、ATP、クレアチニン、グルタミン酸及びホスホグリセリン酸からなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む、[1]又は[2]に記載の老化度の判定方法。
[6][1]~[5]のいずれかの方法により老化度が判定される、老化度の判定装置。
[7]被験者の血中代謝物のデータが入力手段に入力され、被験者のデータと集団のデータとを比較することによって老化度が判定される、入力手段及び判定手段を有する、老化度判定装置。
[8]老化度が、[1]~[5]のいずれかの方法、又は、[6]もしくは[7]の装置によって判定される、老化度判定システム。
[9]老化度に影響を及ぼす物質を評価する方法であって、尿及び/又は唾液の代謝物を測定する工程を含み、尿の代謝物が、1,5-アンヒドログルシトール、2-ヒドロキシ(イソ)酪酸、3-ヒドロキシ(イソ)酪酸、アデノシン、アスパラギン酸、ブチロ-ベタイン、(イソ)ブチリル-カルニチン、カルノシン、クレアチニン、デカノイル-カルニチン、ジメチル-アルギニン、ジメチル-グアノシン、ジメチル-リジン、フルクトース-1,6-ジホスフェート、グルコン酸、グルタミン、グリセロール-リン酸、グリセロール-ホスホコリン、グリセロホスホエタノールアミン、馬尿酸、ヒスチジン、ヒポキサンチン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、キヌレニン、ロイシン、メチオニン、ミオ-イノシトール、N-アセチル-アルギニン、N-アセチル-アスパラギン酸、N-アセチル-グルコサミン、N-メチル-アデノシン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N2-アセチル-リジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、ペントース-リン酸、フェニルアラニン、ホスホグリセリン酸、シュウドウリジン、キノリン酸、S-アデノシル-ホモシステイン、スレオニン、トリメチル-リジン、トリプトファン、セリン、(イソ)バレリル-カルニチン、及びバリンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含み、唾液の代謝物が、アデノシン、ATP、カルニチン、シトルリン、クレアチニン、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルタミン酸、グルタチオンジスルフィド、メチオニン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、ニコチンアミド、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、セドヘプツロース-7-リン酸、及びスレオニンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む、方法。
[10]尿又は唾液採取管、及び検出基準としての代謝化合物を含み、[1]~[5]のいずれかに記載の方法を用いることによって老化度を判定するためのキット。
【発明の効果】
【0012】
ヒトの生体液は、健康、疾患、食事、生活様式の個人差を反映する代謝物に関する豊富な情報源を提供する。尿及び唾液中の50及び17の老化関連代謝物をそれぞれ同定することができた。統計学的解析は、高齢者において増加又は減少したある種の老化関連化合物が相関することを示唆した。高齢者では尿の代謝物50種中49種、唾液の代謝物17種中16種が著しく減少する。これらの知見に基づく本発明は、老化度を簡単かつ正確に判定できる新規な方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】尿中の50種類の老化関連代謝物の要約。それらは、脂質代謝に関係する7化合物、グルコース代謝に関係する8化合物、6プリン-ピリミジン及び異なる蛋白質機能に関係する28アミノ酸代謝である。その存在量は高齢者でほとんど減少していた。
【
図2】尿中のシュウドウリジンと相関を示す老化関連化合物。数字はペア化合物間の相関係数を示す。
【
図3】シュウドウリジンと高い相関を示した尿老化マーカー。数字はペア化合物間の相関係数を示す。
【
図4】シュウドウリジンと相関しなかった尿老化マーカー。数字はペア化合物間の相関係数を示す。
【
図5】唾液中の老化関連代謝物17種のまとめ。それらは糖代謝に関与する5種の化合物、異なる蛋白質機能に関連するアミノ酸代謝に関与する8種の化合物、3種のプリン-ピリミジン及び1種のビタミンである。その存在量は高齢者でほとんど減少していた。
【
図6】尿及び唾液老化マーカーの主成分分析によるヒト老化の総合評価。ヒト老化のバイオマーカーとして同定されている尿及び唾液中のそれぞれ50及び17の代謝物の定量データを主成分分析(PCA)に適用した。PCAプロットの各点のラベルは、被験者の年齢と性別(M、男性;F、女性)を示している。
【
図7】散布図には、PC1スコアと被験者の年齢との関係が表示される。散布図の番号は、表に示した被験者IDに対応する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明が詳細に記載される前に、本発明の方法論、装置及びシステムは、記載された特定の方法論、装置、及びシステムに限定されるものではなく、当然に、変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で使用する用語は特定の実施形態のみを記載する目的であり、本発明の範囲を限定することを意図したものではないことも理解されたい。
【0015】
他に定義されていないか、又は明細書中に明確に指示していない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者が一般的に理解するものと同一の意味を有する。本発明の実施又は試験において、本明細書に記載されている方法及び材料と類似又は同等の任意の方法及び材料を使用することができるが、ここに好適な方法及び材料が記載されている。
【0016】
本明細書に言及される全ての公表文献は、参考文献が引用された特定の材料及び方法論を開示し、記述する目的で、参考文献として本明細書に組み込まれる。ここで述べる引例は、単に本出願の出願日より前にそれらが開示されたために提示されている。本明細書のいかなる内容も、本発明が先の発明を根拠にそのような開示より先行する権利がないことを認めるものとして解釈されない。
【0017】
定義
「老化度」という用語は、本明細書では、老化の程度又は老化指数を指すために使用される。被験者の老化速度が平均より早いか遅いかを示す値である。
【0018】
「血液代謝物」という用語は、本明細書では、血液成分に含まれる生物学的代謝活性に関与する低分子化合物を指すために使用される。
【0019】
本明細書に記載される本発明の態様及び実施形態は、実施態様及び実施形態「からなる」及び/又は「実質的にからなる」を含むことが理解される。
【0020】
本発明の他の目的、利点及び特徴は、以下の明細書を添付の図と併せて説明して明らかにする。
【0021】
老化度の判定方法
本発明によれば、老化度は、被験者の尿又は唾液の特定代謝物を指標として用いることによって評価される。被験者の尿又は唾液中の特定の代謝物の量を測定することにより、被験者の老化度(老化の程度)を決定することができる。
【0022】
ここで、被験者の老化度を決定するために使用される試料は、尿及び唾液からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。尿又は唾液のいずれかを使用することが望ましい。尿と唾液の両方を試料として使用することが最も望ましい。
【0023】
本発明における尿の代謝物としては、高齢者層と若年層との尿中差が大きいことが望ましい。尿の代謝物は、1,5-アンヒドログルシトール、2-ヒドロキシ(イソ)酪酸、3-ヒドロキシ(イソ)酪酸、アデノシン、アスパラギン、アスパラギン酸、ブチロ-ベタイン、(イソ)ブチリル-カルニチン、カルノシン、クレアチニン、デカノイル-カルニチン、ジメチル-アルギニン、ジメチル-グアノシン、ジメチル-リジン、フルクトース-1,6-ジホスフェート、グルコン酸、グルタミン、グリセロール-ホスフェート、グリセロール-ホスホコリン、グリセロホスホエタノールアミン、馬尿酸、ヒスチジン、ヒポキサンチン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、キヌレニン、ロイシン、メチオニン、ミオイノシトール、N-アセチル-アルギニン、N-アセチル-アスパラギン酸、N-アセチル-グルコサミン、N-メチル-アデノシン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N2-アセチル-リジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、ペントース-リン酸、フェニルアラニン、ホスホグリセリン酸、シュウドウリジン、キノリン酸、S-アデノシル-ホモシステイン、スレオニン、トリメチル-リジン、トリプトファン、セリン、(イソ)バレリル-カルニチン、及びバリンから成る群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む。
【0024】
1,5-アンヒドログルシトール、2-ヒドロキシ(イソ)酪酸、3-ヒドロキシ(イソ)酪酸、アデノシン、アスパラギン、アスパラギン酸、ブチロ-ベタイン、(イソ)ブチリル-カルニチン、カルノシン、クレアチニン、デカノイル-カルニチン、ジメチル-アルギニン、ジメチル-グアノシン、ジメチル-リジン、フルクトース-1,6-ジホスフェート、グルコン酸、グルタミン、グリセロール-リン酸、グリセロール-ホスホコリン、グリセロホスホエタノールアミン、馬尿酸、ヒスチジン、ヒポキサンチン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、キヌレニン、ロイシン、メチオニン、N-アセチル-アルギニン、N-アセチル-アスパラギン酸、N-アセチル-グルコサミン、N-メチル-アデノシン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N2-アセチル-リジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、ペントース-リン酸、フェニルアラニン、ホスホグリセリン酸、シュウドウリジン、キノリン酸、S-アデノシル-ホモシステイン、スレオニン、トリメチル-リジン、トリプトファン、セリン、(イソ)バレリル-カルニチン及びバリンは高齢者層で低い。したがって、これらの尿中化合物の含有量が標準より低い場合、被験者の老化度は高いと判断される。
【0025】
一方、ミオ-イノシトールは高齢者で高い。したがって、尿中のミオイノシトールが標準より高い場合、被験者の老化度は高いと判断される。
【0026】
好ましくは、本発明における尿の代謝物は、1,5-アンヒドログルシトール、2-ヒドロキシ(イソ)酪酸、アデノシン、(イソ)ブチリル-カルニチン、カルノシン、デカノイル-カルニチン、ジメチル-グアノシン、グルタミン、グリセロホスホコリン、ヒスチジン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、ロイシン、ミオ-イノシトール、N-アセチル-アスパラギン酸、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、シュウドウリジン、キノリン酸、トリプトファン、セリン及びバリンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む。
【0027】
より好ましくは、本発明における尿の代謝物は、(イソ)ブチリル-カルニチン、ジメチル-グアノシン、ヒスチジン、ミオ-イノシトール、N-アセチル-アスパラギン酸、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、シュウドウリジン、セリン及びバリンからなる群から選択される少なくとも1つの代謝物を含む。
【0028】
最も好ましくは、本発明における尿の代謝物は、ジメチル-グアノシン、ヒスチジン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン及びシュウドウリジンからなる群から選択される少なくとも1つの代謝物を含む。
【0029】
上記の尿の代謝物はいくつかのグループに分類される。アデノシン、ジメチル-グアノシン、ヒポキサンチン、N-メチル-アデノシン、N-メチル-グアノシン及びシュウドウリジンはプリン/ピリミジン代謝物である。アスパラギン、アスパラギン酸、ブチロベタイン、カルノシン、クレアチニン、ジメチル-アルギニン、ジメチル-リジン、グルタミン、馬尿酸、ヒスチジン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、キヌレニン、ロイシン、メチオニン、N-アセチル-アルギニン、N-アセチル-アスパラギン酸、N-メチル-ヒスチジン、N2-アセチル-リジン、N6-アセチル-リジン、フェニルアラニン、キノリン酸、S-アデノシル-ホモシステイン、セリン、スレオニン、トリメチル-リジン、トリプトファン及びバリンはアミノ酸代謝物である。2-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシ酪酸は有機酸である。(イソ)ブチリル-カルニチン、デカノイル-カルニチン、グリセロリン酸、グリセロホスホコリン、グリセロホスホエタノールアミン、オクタノイル-カルニチン及び(イソ)バレリル-カルニチンは脂質代謝物である。1,5-アンヒドログルシトール、フルクトース-1,6-二リン酸、グルコン酸、ミオ-イノシトール、N-アセチル-グルコサミン、ペントース-リン酸及びホスホグリセリン酸は糖代謝物である。
【0030】
本発明における唾液の代謝物としては、高齢者層と若年層の唾液に大きな差があることが望ましい。唾液の代謝物は、アデノシン、ATP、カルニチン、シトルリン、クレアチニン、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルタミン酸、グルタチオンジスルフィド、メチオニン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、ニコチンアミド、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、セドヘプツロース-7-リン酸及びスレオニンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む。
【0031】
高齢者ではアデノシン、カルニチン、シトルリン、クレアチニン、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルタミン酸、グルタチオンジスルフィド、メチオニン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、ニコチンアミド、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、セドヘプツロース-7-リン酸及びスレオニンが低い。したがって、これらの唾液化合物の含有量が、標準より低い場合、被験者の老化度は高いと判断される。
【0032】
一方、高齢者ではATPが高い。したがって、唾液中のATP量が、標準より高い場合、被験者の老化度は高いと判断される。
【0033】
好適には、本発明における唾液の代謝物は、アデノシン、ATP、カルニチン、シトルリン、クレアチニン、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルタミン酸、グルタチオンジスルフィド、メチオニン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、ニコチンアミド、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、セドヘプツロース-7-リン酸及びスレオニンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む。
【0034】
より好ましくは、本発明における唾液の代謝物は、アデノシン、ATP、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、クレアチニン、グルタミン酸、ニコチンアミド、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸及びセドヘプツロース-7-リン酸からなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む。
【0035】
最も好ましくは、本発明における唾液の代謝物は、ATP、クレアチニン、グルタミン酸及びホスホグリセリン酸からなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む。
【0036】
上記の唾液の代謝物はいくつかのグループに分類される。フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸及びセドヘプツロース-7-リン酸は糖代謝物である。カルニチン、シトルリン、クレアチニン、グルタミン酸、グルタチオンジスルフィド、メチオニン、N-メチル-ヒスチジン及びスレオニンはアミノ酸代謝物である。アデノシン、ATP及びN-メチル-グアノシンはプリン/ピリミジン代謝物である。ニコチンアミドはビタミンである。
【0037】
本発明における老化程度のより正確な判定結果を得るためには、複数の尿又は唾液の代謝物を分析することが望ましい。
【0038】
本発明の老化度を判定する方法は、(i)試料を調製する工程、(ii)分析工程、及び(iii)老化度を判定する工程を含む。
【0039】
(i)試料を調製する工程
メタボローム試料は、既報(非特許文献4)のように調製することができる。起床後の最初の尿と唾液を朝食前に採取する。簡単に言うと、メタボロミクス解析のための尿及び唾液サンプルは、2mLのマイクロチューブに採取される。採取後3時間以内に、-20~-80℃(望ましくは-40~-50℃)で5~10倍量の30~70%メタノール(望ましくは50~60%)で0.1~1.0mLの尿又は唾液をクエンチした。このクエンチング工程により、多くの不安定な代謝物の正確な測定が保証された。
【0040】
それぞれの試料に2種類の内部標準物質(HEPESとPIPESの10nmol)を添加する。短時間のボルテックス処理後、試料をAmicon Ultra 10-kDaカットオフフィルター(Millipore, Billerica, MA, USA)に移し、タンパク質及び細胞残屑を除去する。真空蒸発法による試料濃縮後、各試料を50%アセトニトリル40μLに再懸濁し、LC-MSシステムへの各注入に1μLを用いる。
【0041】
(ii)分析工程
被験者の試料中の尿又は唾液代謝物量を、このステップで分析する。LC-MSデータは、前述(非特許文献4)のように、LTQ Orbitrap質量分析計(Thermo Fisher Scientific社、Waltham社、MA社、米国)と結合したParadigm MS4 HPLCシステム(Michrom Bioresources社、Auburn社、CA社、米国)を用いて得ることが望ましい。簡単に説明すると、ZIC-pHILICカラム(Merck SeQuant、Umea、スウェーデン; 150mm x 2.1mm、5μm粒径)上でLC分離を行う。HILICカラムは、他のものではこれまで測定されていなかった多くの親水性血液代謝物を分離するのに非常に有用である(非特許文献4)。移動相はアセトニトリル(A)及びpH 9.3の10mM炭酸アンモニウム緩衝液(B)を用い、流速100μL mL-1で80~20% Aから30分間で勾配溶出させる。関心のある代謝物のピーク面積は、MZmine 2ソフトウェアを用いて測定する。詳細なデータ分析手順及びパラメータは、既報に記載されている(非特許文献5)。
【0042】
(iii)老化度を判定する工程
われわれは、尿及び唾液中のそれぞれ異なる99種類の代謝物、計117種類の代謝物を分析し、標準品によって確認した。それぞれの代謝物について、1価の[M+H]+又は[M-H]-のピークを選択する(表1)。代謝物はそのピーク面積により3つのグループ(H、M、L)に分類される。Hは高ピーク領域(>108AU)、M は中ピーク領域(108~107AU)、Lは低ピーク領域(<107AU)を持つ化合物を示す。
【0043】
本発明の老化度を判定する方法は、上記の代謝物を指標とする限り特に限定されない。単なる例として以下の方法を例示した。年齢スコア(算出値)は、老化マーカーの定量値(ピーク面積)と暦年齢のプロットから作成した標準曲線に基づいて、被験者の老化マーカーのデータから求めることができる。また、老化度は暦年齢との相違点で決定できる。例えば、代謝物の年齢スコアを暦年齢で除し、100を乗じると、100のように低いと若年傾向と、100より高いと高齢傾向と判断される。
【0044】
代謝データの解釈には、主成分分析(PCA)を、個人の代謝物レベルの多くのパラメータの総合と統合に適用できる。総合ヒト老化度を表す指標の確立を試みた。疾患のバイオマーカーとは対照的に、ヒトの老化度を判定するための診断分子マーカーはほとんど確立されていない。このように、客観的評価は、ヒトの老化の多様な側面について確立されていない。我々の本発明は、老化マーカーを分子レベルで測定することに基づく方法として画期的であり、さらに、単純なスコア上に多くの代謝物情報を統合していると考えられる(
図7)。
【0045】
装置
本発明は、老化度を判定するための装置を提供する。本装置は、上記の本発明の方法を用いる。
【0046】
本発明の老化度を判定するための装置は、入力手段、及び判定するための手段を含み、ここで、被験者の血液代謝物のデータが入力手段に入力され、老化度は、被験者のデータを集団のデータと比較することによって判定される。装置によって使用される本発明の方法の詳細については、前記方法の項の説明を適用することができる。
【0047】
システム
本発明は、老化度を判定するためのシステムを提供する。老化度は、上記の本発明の方法、又は上記の本発明の装置によって判定される。本発明のシステムの詳細については、前記方法の項及び装置の項を参照することができる。
【0048】
方法
本発明は、尿の代謝物を測定する工程を含む老化度に影響を及ぼす物質を評価する方法を提供する。ここで、尿の代謝物は、1,5-アンヒドログルシトール、2-ヒドロキシ(イソ)酪酸、3-ヒドロキシ(イソ)酪酸、アデノシン、アスパラギン、アスパラギン酸、ブチロ-ベタイン、(イソ)ブチリル-カルニチン、カルノシン、クレアチニン、デカノイル-カルニチン、ジメチル-アルギニン、ジメチル-グアノシン、ジメチル-リジン、フルクトース-1,6-ジホスフェート、グルコン酸、グルタミン、グリセロール-ホスフェート、グリセロール-ホスホコリン、グリセロホスホエタノールアミン、馬尿酸、ヒスチジン、ヒポキサンチン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、キヌレニン、ロイシン、メチオニン、ミオイノシトール、N-アセチル-アルギニン、N-アセチル-アスパラギン酸、N-アセチル-グルコサミン、N-メチル-アデノシン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N2-アセチル-リジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、ペントース-リン酸、フェニルアラニン、ホスホグリセリン酸、シュウドウリジン、キノリン酸、S-アデノシル-ホモシステイン、スレオニン、トリメチル-リジン、トリプトファン、セリン、(イソ)バレリル-カルニチン、及びバリンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む。この評価法で見出された物質は、アンチエイジング食品、飲料、サプリメント、医薬品、化粧品などとして広く利用できる。尿代謝物を測定する工程の詳細については、「老化度の判定方法」の項を参照することができる。
【0049】
本発明は、唾液の代謝物を測定する工程を含む老化度に影響を及ぼす物質を評価する方法を提供する。ここで、唾液の代謝物は、アデノシン、ATP、カルニチン、シトルリン、クレアチニン、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルタミン酸、グルタチオンジスルフィド、メチオニン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、ニコチンアミド、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、セドヘプツロース-7-リン酸及びスレオニンからなる群より選択される少なくとも1つの代謝物を含む。この評価法で見出された物質は、アンチエイジング食品、飲料、サプリメント、医薬品、化粧品などとして広く利用できる。唾液の代謝物を測定する工程の詳細については、「老化度の判定方法」の項を参照することができる。
【0050】
本発明は、上記の尿及び/又は唾液の代謝物を測定する工程を含む、老化度に影響を及ぼす物質を評価する方法を提供する。
【0051】
キット
本発明は、採尿管、及び検出標準としての尿代謝物化合物を含む、本発明の方法を用いることによって、老化度を判定するためのキットを提供する。本発明のキットは、採尿管等の他に任意の構成要素を含むことができる。検出標準としての尿の代謝物化合物は、1,5-アンヒドログルシトール、2-ヒドロキシ(イソ)酪酸、3-ヒドロキシ(イソ)酪酸、アデノシン、アスパラギン、アスパラギン酸、ブチロ-ベタイン、(イソ)ブチリル-カルニチン、カルノシン、クレアチニン、デカノイル-カルニチン、ジメチル-アルギニン、ジメチル-グアノシン、ジメチル-リジン、フルクトース-1,6-ジホスフェート、グルコン酸、グルタミン、グリセロール-ホスフェート、グリセロール-ホスホコリン、グリセロホスホエタノールアミン、馬尿酸、ヒスチジン、ヒポキサンチン、インドキシル-硫酸、イソロイシン、キヌレニン、ロイシン、メチオニン、ミオイノシトール、N-アセチル-アルギニン、N-アセチル-アスパラギン酸、N-アセチル-グルコサミン、N-メチル-アデノシン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、N2-アセチル-リジン、N6-アセチル-リジン、オクタノイル-カルニチン、ペントース-リン酸、フェニルアラニン、ホスホグリセリン酸、シュウドウリジン、キノリン酸、S-アデノシル-ホモシステイン、スレオニン、トリメチル-リジン、トリプトファン、セリン、(イソ)バレリル-カルニチン、及びバリンからなる群より選択することができる。
【0052】
本発明は、唾液収集管、及び検出標準としての唾液の代謝物化合物を含む、本発明の方法を使用することによって老化度を判定するためのキットを提供する。本発明のキットは、唾液採取管等の他に任意の構成要素を含むことができる。検出標準としての唾液の代謝物化合物は、アデノシン、ATP、カルニチン、シトルリン、クレアチニン、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルタミン酸、グルタチオンジスルフィド、メチオニン、N-メチル-グアノシン、N-メチル-ヒスチジン、ニコチンアミド、ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、セドヘプツロース-7-リン酸及びスレオニンからなる群から選択することができる。
【0053】
ヒトメタボロミクスの将来展望
本発明で見出された50の尿化合物及び17の唾液化合物は、老化関連疾患と相関していると考えることができた。これらの代謝物のレベルを指標として、疾患のリスク、疾患の状態、疾患に対する感受性等を判定することが可能であると考えられる。以下の疾患は、前記疾患として例示できる。生活習慣病(アテローム動脈硬化、高血圧、閉経、骨粗鬆症、癌);神経疾患(脳梗塞、アルツハイマー病、認知症、パーキンソン症候群など);眼疾患(白内障、緑内障、老化黄斑変性、老視、ドライアイなど);耳鼻咽喉科疾患(聴覚障害、慢性甲状腺炎、口腔乾燥など);心疾患(虚血性心疾患、心筋梗塞、心不全、狭心症、急性冠症候群など);肺疾患(慢性閉塞性肺疾患など);消化器疾患(萎縮性胃炎、肝硬変、脂肪肝など)肝機能障害;腎&泌尿器疾患(尿失禁、慢性腎不全、前立腺肥大など)、筋骨格疾患(関節炎、ロコモティブシンドローム、腰痛、関節痛、虚弱)、栄養不良、早老症、ウェルナー症候群など。
【実施例】
【0054】
実施例の要約は以下の通りである。われわれは、尿及び唾液中のそれぞれ異なる99種類の代謝物、計117種類の代謝物を分析し、標準によって確認した。それぞれの代謝物について、1価の[M+H]+又は[M-H]-のピークを選択する(表1)。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
LC-MSで検出された117種の代謝物を示した。代謝物はそのピーク面積により3つのグループ(H、M、L)に分類される。Hは高ピーク領域(>108 AU)、Mは中ピーク領域(108~107AU)、Lは低ピーク領域(<107AU)を持つ化合物を示す。NDは検出されないことを示す。CVは、被験者27例における各化合物の変動係数を示す。若年被験者13例と高齢被験者14例の間の代謝物のレベルは、p<0.05で有意に異なると考えられた。
【0059】
倫理記載
ヘルシンキ宣言に従い、全てのドナーから書面によるインフォームド・コンセントを得た。すべての実験は、関連する日本の法律及び施設のガイドラインに準拠して実施された。全てのプロトコールは沖縄科学技術大学院大学(OIST)のヒト対象研究審査委員会の承認を得た。
【0060】
ヒト被験者特性及び血液メタボロミクス解析
27名の健常男女ボランティアが本研究に参加した(表2)。メタボロミクス解析のための尿及び唾液サンプルを朝に採取し、被験者に少なくとも12時間の絶食を確保するために朝食を摂取しないように依頼した。
【0061】
【0062】
高齢者の尿の代謝物に関する結果は驚くべきことである。なぜなら、50種類の代謝物が存在量の減少を示しているからである(
図1)。しかし、相関ネットワークから判断すると、この減少はむしろ特異的である。まず、脂質、プリン/ピリミジン、アミノ酸、糖などの代謝物の4つのサブグループが減少した。なかでもアミノ酸が最も大きなグループである。興味深いことに、シュウドウリジンはほとんどがアミノ酸からなる24種類の老化に関連する尿化合物の相関の中心であるが、脂肪酸分解に関連する代謝物も含まれている(
図2,3)。この知見の生理学的根拠を理解したい。(イソ)ブチリル-カルニチン、アセチル-リジン、アスパラギン酸、S-アデノシル-ホモシステインなど他の尿中年齢関連マーカーはシュウドウリジンとは相関しないため、シュウドウリジンとの相関は偶然ではない(
図4)。このように、高齢者における尿の代謝物の減少は、ヒトの老化を理解するためのきわめて特異的かつ基本的なものであると思われる。
【0063】
唾液中に老化関連代謝物17種を同定した(
図5)。それらには、糖代謝に関与する5種の化合物、異なる蛋白質機能に関連するアミノ酸代謝に関与する8種の化合物、3種のプリン/ピリミジン、及び1種のビタミンが含まれる。それらの存在量は、ほとんどが高齢被験者で減少した。発明者らのデータは、高齢者(唾液に基づく)では、筋肉量と酸化還元活性の崩壊に加えて、糖、脂質、及びアミノ酸代謝物が明らかに低下することを示唆している。このように、いくつかの口腔活動性が、脂質、メチル化、及び抗酸化の減少により低下すると予想される。これらの新たに発見された特徴は、追加データを用いた他の測定法によって検証することができる。ヒト老化研究の有望なテーマと思われる口腔老化にこれらの結果を活用することが可能であろうと期待している。
【0064】
総合老化度への主成分分析の適用
老化関連代謝物の主成分分析(PCA)を用いてヒトの老化度を定量する方法の開発に成功した。発明者らは、この方法をヒトの老化の多様なパターンの新しい指標として実証した。ヒトの老化のバイオマーカーとして同定された尿及び唾液中のそれぞれ50及び17の代謝物の定量データをPCAに適用した(
図6)。PCAプロットの各点のラベルは、被験者の年齢と性別(M、男性;F、女性)を示している。このようにして得られた情報は、ヒトの老化の診断データとして利用することができた。総合老化度は、主に老化を表す第1主成分と、分析された付加的な年齢依存代謝物からなる第2主成分の2次元(2D)様式で表される。このように、発明者らは、主要及び部分的又は補助的な老化パラメータを通して、ヒトの老化に関する情報を提供することができる。散布図には、尿及び唾液中の老化マーカーのデータに基づく総合老化度(老化の程度)と被験者の年代との関係が表示されている(
図7)。総合老化度(老化の程度)と年代は非常に相関している。この方法は、ヒトの老化に関する新規な観点に独自に基づいている。要するに、この方法はPCAの概念を通して多くの老化関連代謝物の存在量を統合することである。発明者らの知る限りでは、ここに示した方法は新規であり、ヒト寿命の総合評価として大いに役立つであろう。