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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】イネいもち病防除剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/16 20060101AFI20240216BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240216BHJP
   A01N 55/10 20060101ALI20240216BHJP
   A01N 53/12 20060101ALI20240216BHJP
   C07D 407/04 20060101ALI20240216BHJP
   C07D 407/14 20060101ALI20240216BHJP
   C07D 409/14 20060101ALI20240216BHJP
   C07F 7/10 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
A01N43/16 C
A01P3/00
A01N55/10 300
A01N53/12
C07D407/04 CSP
C07D407/14
C07D409/14
C07F7/10 V
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021507225
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010142
(87)【国際公開番号】W WO2020189391
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019048574
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター、イノベーション創出強化研究推進事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】本山 高幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 猛
(72)【発明者】
【氏名】近藤 恭光
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-109404(JP,A)
【文献】特開昭58-157705(JP,A)
【文献】FRASINYUK, M. S. et al.,Synthesis and properties of 4-(3-amino-2-benzofuranyl)coumarins,Chemistry of Heterocyclic Compounds,2009年,45(10),1261-1269
【文献】REGISTRY(STN)[online],2007年4月9日[検索日:2020年5月25日]、CAS登録番号929490-29-9;2007年4月9日[検索日:2020年5月25日]、CA
【文献】REGISTRY(STN)[online],2006年8月25日[検索日:2020年5月25日]、CAS登録番号904501-07-01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 43/16
A01P 3/00
A01N 55/10
A01N 53/12
C07D 407/04
C07D 407/14
C07D 409/14
C07F 7/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】

(式中、A~Aはそれぞれ、CH又はNを表し;Rは水素原子以外の置換基であり、nは0~4の整数であり、nが2以上のとき複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよく、隣り合う炭素原子に結合したRは互いに結合して環を形成していてもよく;X及びXはそれぞれ、水素原子、C1-10-アルキル基、-CO-R、-CO-OR又は-SO-Rであり;Rは置換又は非置換の炭素数1~10の炭化水素基、又は置換又は非置換のヘテロ環基である。)
で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含有するシタロン脱水酵素阻害剤。
【請求項2】
前記式(I)中、Rが表す前記置換基が、置換又は非置換のC1-10-アルキル基、置換又は非置換のC1-10-アルコキシ基、置換又は非置換のC6-10-アリールオキシ基、置換又は非置換のC7-11-アラルキルオキシ基、ハロゲン原子、又は水酸基である請求項1に記載のシタロン脱水酵素阻害剤。
【請求項3】
前記式(I)が次式(II):
【化2】

(式中、R及びRのいずれか一方は、置換又は非置換のC1-5-アルキル基、又は置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基であり、R及びRの他方は、水素原子、置換又は非置換のC1-5-アルキル基、又は置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基であり;R及びRは、それぞれ、水素原子、水酸基、ベンジルオキシ基、C2-6-アルカノイルオキシ基、置換又は非置換のC1-5-アルキル基、又は置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基であり;Xは前記式(I)中のXと同義である。)
である請求項1又は2に記載のシタロン脱水酵素阻害剤。
【請求項4】
前記式(II)中の置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基がメトキシメトキシ基、(2-メトキシエトキシ)メトキシ基、[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メトキシ基又はベンジルオキシメトキシ基である請求項3に記載のシタロン脱水酵素阻害剤。
【請求項5】
少なくとも1種のアミノ酸が変異した非野生型シタロン脱水酵素に対して阻害活性を有する請求項1~4のいずれか1項に記載のシタロン脱水酵素阻害剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシタロン脱水酵素阻害剤を含有するイネいもち病防除剤。
【請求項7】
イネいもち病菌のメラニン生合成経路に関与する、ポリケタイド合成酵素及び還元酵素の少なくとも1種に対して阻害活性を有する少なくとも1種の化合物を更に含有する請求項6に記載のイネいもち病防除剤。
【請求項8】
次式(IIa):
【化3】

(式中、R1aは水素原子であり、R2aはメチル基、又は置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基であり、R3aは水素原子であり、R4aはメチル基、水酸基、ベンジルオキシ基、C2-6-アルカノイルオキシ基、又は置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基であり;Xは-CO-又は-SO-であり;R5aは置換又は非置換の炭素数1~10の炭化水素基、又は置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基である。)
で示される化合物(但し、R1a及びR3aが水素原子であり、R2a及びR4aがメチル基であり、Xが-CO-であり、R5aが非置換のイソプロピル基である化合物、 1a 、R 3a 及びR 4a が水素原子であり、R 2a がメチル基であり、X が-CO-であり、R 5a が非置換のtert-ブチル基である化合物、R 1a 及びR 3a が水素原子であり、R 2a 、R 4a 及びR 5a がメチル基であり、X が-CO-である化合物、R 1a 及びR 3a が水素原子であり、R 2a 及びR 4a がメチル基であり、X が-CO-であり、R 5a が3,4,5-トリメトキシフェニル基である化合物、及びR 1a 及びR 3a が水素原子であり、R 2a 及びR 4a がメチル基であり、X が-CO-であり、R 5a が非置換のシクロプロピル基である化合物を除く)。
【請求項9】
前記式(IIa)中の置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基がメトキシメトキシ基、(2-メトキシエトキシ)メトキシ基、[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メトキシ基又はベンジルオキシメトキシ基である請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
請求項6又は7に記載のイネいもち病防除剤を、イネの植物体自体、その種子、それが生育している又は生育が予定される圃場、又はその生育に利用される器具に施用する工程を含む、イネいもち病の防除方法。
【請求項11】
請求項6又は7に記載のイネいもち病防除剤をイネ茎葉へ散布し、又は前記イネいもち病防除剤によるイネ経根処理、田面処理、水面処理、側条処理、土壌処理、イネ種子処理又は苗箱処理に付す工程を含む請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイネいもち病防除剤及びイネいもち病の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イネいもち病は水イネの重要病害である。いもち病菌はメラニンを合成して自らの細胞壁の強度を高めてイネに侵入するが、メラニン合成が阻害されると、細胞壁の強度が低下して侵入できなくなるとされている。このことから、現在上市されているイネいもち病菌用農薬は、菌内のメラニン産生経路に着目し(図1参照のこと)、メラニン産生に至る各工程に関与している特定の酵素を標的として開発されたものである。例えば、前記経路の一工程に関与しているシタロン脱水酵素(SDH1)を標的とする農薬として、バイエルから1998年にカルプロパミドが、住友化学から2000年にジクロシメットが、及び日本農薬から2001年にフェノキサニルがそれぞれ上市され、汎用された時期もあったが、2001年に耐性菌が出現し、所期の効果が得られなくなり、現在では使用されていない。
【0003】
これまで種々の化合物を有効成分とするイネいもち病防除剤について特許出願がされているが(例えば、特許文献1~4)、クマリン骨格を有する化合物がイネいもち病防除剤として有効であるとの報告はない。
【0004】
また、N-置換-4-(3-アミノ-2-ベンゾフラニル)クマリン誘導体については、例えば、非特許文献1にN-(2-フラニルカルボニル)誘導体が記載されているが、イネいもち病については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-15867号公報
【文献】特開平8-295661号公報
【文献】特開昭63-132867号公報
【文献】国際公開第99/11127号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Frasinyuk, M. S., et al., Chemistry of Heterocyclic Compounds (New York, NY, United States) (2009), 45(10), 1261-1269.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規なシタロン脱水酵素阻害剤及びイネいもち病防除剤、並びにその有効成分等として有用な新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため種々検討したところ、所定の構造のクマリン誘導体類が、メラニン産生経路に関与するシタロン脱水酵素(SDH1)及び/又はそのアミノ酸変異体に対しても阻害活性を有することを見出した。この知見に基づいて、更に種々検討したところ、前記クマリン誘導体類を施用することにより、野生型イネいもち病菌及び/又はその薬剤耐性菌に対して、メラニン産生を有意に抑制し、防除し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)次式(I):
【化1】
(式中、A~Aはそれぞれ、CH又はNを表し;Rは水素原子以外の置換基であり、nは0~4の整数であり、nが2以上のとき複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよく、隣り合う炭素原子に結合したRは互いに結合して環を形成していてもよく;X及びXはそれぞれ、水素原子、C1-10-アルキル基、-CO-R、-CO-OR又は-SO-Rであり;Rは置換又は非置換の炭素数1~10の炭化水素基、又は置換又は非置換のヘテロ環基である。)
で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含有するシタロン脱水酵素阻害剤。
(2)前記式(I)中、Rが表す前記置換基が、置換又は非置換のC1-10-アルキル基、置換又は非置換のC1-10-アルコキシ基、置換又は非置換のC6-10-アリールオキシ基、置換又は非置換のC7-11-アラルキルオキシ基、ハロゲン原子、又は水酸基である前記(1)に記載のシタロン脱水酵素阻害剤。
(3)前記式(I)が次式(II):
【化2】
(式中、R及びRのいずれか一方は、置換又は非置換のC1-5-アルキル基、又は置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基であり、R及びRの他方は、水素原子、置換又は非置換のC1-5-アルキル基、又は置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基であり;R及びRは、それぞれ、水素原子、水酸基、ベンジルオキシ基、C2-6-アルカノイルオキシ基、置換又は非置換のC1-5-アルキル基、又は置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基であり;Xは前記式(I)中のXと同義である。)
である前記(1)又は(2)に記載のシタロン脱水酵素阻害剤。
(4)前記式(II)中の置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基がメトキシメトキシ基、(2-メトキシエトキシ)メトキシ基、[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メトキシ基又はベンジルオキシメトキシ基である前記(3)に記載のシタロン脱水酵素阻害剤。
(5)少なくとも1種のアミノ酸が変異した非野生型シタロン脱水酵素に対して阻害活性を有する前記(1)~(4)のいずれかに記載のシタロン脱水酵素阻害剤。
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載のシタロン脱水酵素阻害剤を含有するイネいもち病防除剤。
(7)イネいもち病菌のメラニン生合成経路に関与する、ポリケタイド合成酵素及び還元酵素の少なくとも1種に対して阻害活性を有する少なくとも1種の化合物を更に含有する前記(6)に記載のイネいもち病防除剤。
(8)次式(IIa):
【化3】
(式中、R1aは水素原子であり、R2aはメチル基、又は置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基であり、R3aは水素原子であり、R4aはメチル基、水酸基、ベンジルオキシ基、C2-6-アルカノイルオキシ基、又は置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基であり;Xは-CO-又は-SO-であり;R5aは置換又は非置換の炭素数1~10の炭化水素基、又は置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基である。)
で示される化合物(但し、R1a及びR3aが水素原子であり、R2a及びR4aがメチル基であり、Xが-CO-であり、R5aが非置換のイソプロピル基である化合物を除く)。
(9)前記式(IIa)中の置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基がメトキシメトキシ基、(2-メトキシエトキシ)メトキシ基、[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メトキシ基又はベンジルオキシメトキシ基である前記(8)に記載の化合物。
(10)前記(6)又は(7)に記載のイネいもち病防除剤を、イネの植物体自体、その種子、それが生育している又は生育が予定される圃場、又はその生育に利用される器具に施用する工程を含む、イネいもち病の防除方法。
(11)前記(6)又は(7)に記載のイネいもち病防除剤をイネ茎葉へ散布し、又は前記イネいもち病防除剤によるイネ経根処理、田面処理、水面処理、側条処理、土壌処理、イネ種子処理又は苗箱処理に付す工程を含む前記(10)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規なシタロン脱水酵素阻害剤及びイネいもち病防除剤、並びにその有効成分等として有用な新規化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1はイネいもち病菌のメラニン産生経路の概略図である。
図2図2は各化合物のイネいもち病防除効果の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
前記式(I)においてRで表される置換基としては、特に制限はなく、例えば、置換又は非置換の炭素数1~10の炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルキル-アルキル基、アラルキル基)、置換又は非置換のC1-10-アルコキシ基、置換又は非置換のC6-10-アリールオキシ基、置換又は非置換のC7-11-アラルキルオキシ基、置換又は非置換のC1-10-脂肪族アシル基、置換又は非置換の芳香族アシル基、置換又は非置換のC2-10-アルカノイルオキシ基、置換又は非置換の芳香族アシルオキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ニトロ基が挙げられる。
【0013】
前記式(I)においてX又はXで表されるC1-10-アルキル基、及びRで表される置換基としてのC1-10-アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖状又は分岐状のC1-10-アルキル基が挙げられる。
【0014】
前記式(I)においてRで表される置換又は非置換の炭素数1~10の炭化水素基としては、例えば、C1-10-アルキル基、C2-10-アルケニル基、C2-10-アルキニル基、C3-10-シクロアルキル基、C4-10-シクロアルキル-アルキル基、C7-10-アラルキル基が挙げられる。
【0015】
前記式(I)においてRで表される置換又は非置換のヘテロ環基としては、例えば、O、S及びNから選択されるヘテロ原子を1~4個含有する飽和又は不飽和の単環3~8員、好ましくは5~7員のヘテロ環基が挙げられ、当該ヘテロ環同士、又はシクロアルキル環やベンゼン環と縮環し二から三環式ヘテロ環を形成してもよい。環原子であるS又はNが酸化されオキシドやジオキシドを形成してもよい。当該ヘテロ環は飽和ヘテロ環、芳香族ヘテロ環及びその部分的に飽和されたヘテロ環を含み、飽和ヘテロ環及び部分的に飽和されたヘテロ環においては任意の炭素原子がオキソ基で置換されていてもよい。好ましくは、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、イミダゾリル、ピロリル、ピロリジル、トリアゾリル、テトラゾリル、チエニル、フリル、チアゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、キナゾリル、キノキサリニル、キノリル、イソキノリル、シンノリニル、フタラジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾオキサゾリル、イミダゾピリジル、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、ベンゾチアゾリル、テトラヒドロキノリル、テトラヒドロイソキノリル、ピペリジル、ピペラジニル、アゼパニル、ジアゼパニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、インドリル、インダゾリル、イソインドリル、インドリニル、テトラヒドロベンゾイミダゾリル、ジヒドロベンゾイミダゾリジニル、クロメニル及びクロマニル基等が挙げられる。
【0016】
前記の炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、脂肪族アシル基、芳香族アシル基、アルカノイルオキシ基及び芳香族アシルオキシ基は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ニトロ基等から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。
【0017】
前記式(I)の一態様は、下記式(II)である。
【化4】
【0018】
前記式(II)中、R及びRのいずれか一方は、置換又は非置換のC1-5-アルキル基、又は置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基であり、R及びRの他方は、水素原子、置換又は非置換のC1-5-アルキル基、又は置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基であり;R及びRは、それぞれ、水素原子、水酸基、ベンジルオキシ基、C2-6-アルカノイルオキシ基、置換又は非置換のC1-5-アルキル基、又は置換又は非置換のC1-5-アルコキシ基であり;Xは前記式(I)中のXと同義である。
【0019】
前記式(II)においてR、R、R又はRで表されるC1-5-アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基が挙げられ、これらのC1-5-アルキル基は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ニトロ基等から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。
【0020】
前記式(II)においてR、R、R又はRで表されるC1-5-アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基が挙げられ、これらのC1-5-アルコキシ基は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ニトロ基、C1-3-アルコキシ基(例えば、メトキシ基)、2-メトキシエトキシ基、ベンジルオキシ基、トリ(C1-3-アルキル)シリル-C1-3-アルコキシ基(例えば、2-(トリメチルシリル)エトキシ基)等から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。
【0021】
前記式(II)においてR又はRで表されるC2-6-アルカノイルオキシ基としては、例えばアセトキシ基が挙げられる。
【0022】
前記式(II)においてXで表される-CO-R、-CO-OR又は-SO-Rの置換基中、Rで表される炭素数1~10の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖状又は分岐状のC1-10-アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のC3-10-シクロアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のC2-10-アルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル(プロパルギル)基、3-ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等のC2-10-アルキニル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0023】
前記炭化水素基としては、炭素数2~10の炭化水素基が好ましく、直鎖状又は分岐状のC3-10-アルキル基、C3-10-シクロアルキル基が更に好ましい。
【0024】
前記炭化水素基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等のC1-6-アルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、シクロプロピルオキシカルボニル基、シクロブチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等のC1-6-アルコキシ-カルボニル基;水酸基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ニトロ基;C1-6-アシル基、カルボキシル基、アラルキルオキシ基、C1-6-アルキルアミノ基、ジC1-6-アルキルアミノ基で置換されていてもよい。
【0025】
前記式(II)で示される化合物としては、R及びRがメチル基で、R及びRが水素原子である化合物;R及びRがメチル基で、R及びRが水素原子である化合物;R及びRがメチル基で、R及びRが水素原子である化合物;R及びRがメチル基で、R及びRが水素原子である化合物;R及びRが[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メトキシ基で、R及びRが水素原子である化合物;及びRがメチル基で、Rが水酸基、メトキシ基、メトキシメトキシ基、(2-メトキシエトキシ)メトキシ基又は[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メトキシ基で、R及びRが水素原子である化合物が好ましい。これらの化合物のうち、Xが-CO-Rで、Rがイソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基又はシクロヘキシル基である化合物が更に好ましい。
【0026】
前記式(II)で示される化合物のうち、次式(IIa):
【化5】
(式中、R1aは水素原子であり、R2aはメチル基、又は置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基であり、R3aは水素原子であり、R4aはメチル基、水酸基、ベンジルオキシ基、C2-6-アルカノイルオキシ基、又は置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基であり;Xは-CO-又は-SO-であり;R5aは置換又は非置換の炭素数1~10の炭化水素基、又は置換又は非置換のC1-3-アルコキシ基である。)
で示される化合物(但し、R1a及びR3aが水素原子であり、R2a及びR4aがメチル基であり、Xが-CO-であり、R5aが非置換のイソプロピル基である化合物を除く)は新規化合物である。
【0027】
前記式(I)で示される化合物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
なお、以下においては、前記式(II)において、R及びRが水素原子、Rがメチル基、Rが[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メトキシ基、Xが-COCH(CHである化合物を例にとり説明するが、その他の化合物も以下の方法に準じて製造することができる。
【0028】
【化6】
【0029】
クマリン化合物dのケトン系有機溶媒(例えば、2-ブタノン)溶液に2-シアノフェノールと塩基(例えば、炭酸カリウム)を加え、加熱下反応させて、化合物fを得る。次いで、化合物fの無水有機溶媒(例えば、無水ジクロロメタン)溶液に塩基(トリエチルアミン)とイソブチリルクロライドを加えて、不活性ガス雰囲気下反応させることにより、化合物26を得ることができる。
【0030】
前記のようにして得られる生成物を精製するには、通常用いられる手法、例えばシリカゲル等を担体として用いたカラムクロマトグラフィーやメタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、水等を用いた再結晶法によればよい。カラムクロマトグラフィーの溶出溶媒としては、メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0031】
また、前記式(I)で示される化合物のうち、市販されているものは、これらの市販品を本発明に用いることができる。
【0032】
本発明のシタロン脱水酵素(SDH1)阻害剤は、その活性成分として前記式(I)の化合物の少なくとも1種を含有する。前記式(I)の化合物は、イネいもち病菌のメラニン産生経路に関与するSDH1及び/又はそのアミノ酸変異体(V75M変異体)に対して阻害活性を有する。イネいもち病薬剤耐性菌は、SDH1のV75M変異により薬剤耐性を示すとされている。よって、本発明のSDH1阻害剤は、イネいもち病の薬剤耐性菌に対しても効果を奏する。より具体的には、前記式(I)の化合物を含む本発明の防除剤をイネいもち病菌ないしその薬剤耐性菌に施用すると、イネいもち病菌のメラニン産生能が抑制され、その結果、イネいもち病菌の植物細胞への侵入を防除できる。前記式(I)の化合物の中には、SDH1及びそのV75変異体の双方に対して阻害活性を有する化合物、又はV75変異体のみに高い阻害活性を示す化合物もある。この作用機序については、詳細は明らかではないが、ドッキングシミュレーションの結果は、前記式(I)の化合物が、既存のSDH1阻害性イネいもち病菌防除剤であるカルプロパミドと同様、SDH1に結合することで活性を阻害していること、但し、その結合様式がカルプロパミドとは異なるであろう、ことを示唆した。この性質は、前記式(I)で示される共通の構造に基づくものと推察される。
【0033】
本発明の防除剤は、担体を用い、更に必要に応じて適切な補助剤を配合して、適切な剤形とされて提供されることが好ましい。例えば油剤、乳剤、粉剤、水和剤、粒剤、懸濁剤等に製剤し、適宜希釈するなどして使用するのが好ましい。
【0034】
好ましく用いられる担体としては、クレー、タルク、珪藻土、白土、炭酸カルシウム、無水珪酸、ベントナイト、硫酸ナトリウム、シリカゲル、有機酸塩類、糖類、澱粉、樹脂類、合成もしくは天然高分子等の固体粉末あるいは粒状担体、キシレン等の芳香族炭化水素類、ケロシン等の脂肪族炭化水素類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、ラクタム類、アニソール等のエーテル類、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、水等の液体担体が挙げられる。
【0035】
更に、防除剤の効果をより確実にするために、乳化剤、分散剤、湿潤剤、結合剤、滑沢剤等の補助剤を目的に応じて適宜選択し、組み合わせるなどして用いることが望ましい。そのような補助剤の例としては例えば非イオン性又はイオン性の界面活性剤、カルボキシメチルセルロース、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ガム類、ステアリン酸塩類、ワックス、糊料等が挙げられる。
【0036】
本発明の防除剤においては、前記式(I)の化合物を、通常、粉剤の場合には0.01~10質量%程度、好ましくは0.1~5質量%程度、水和剤の場合には1~90質量%程度、好ましくは5~75質量%程度、粒剤の場合には0.01~40質量%程度、好ましくは0.1~20質量%程度、液剤の場合には1~60質量%程度、好ましくは5~40質量%程度、懸濁剤の場合には1~80質量%程度、好ましくは5~50質量%程度含有させる。
【0037】
本発明のイネいもち病防除剤は、単独で使用できることはもちろんであるが、ブラストサイジンS、カスガマイシン、トリサイクラゾール、ピロキロン、イソプロチオラン、フサライド、プロベナゾール、メトキシアクリレート系、ベンズチアジアゾール系、シクロプロパン系、ピリミジン系、ジチオカーバメート系、カーバメート系、ベンズイミダゾール系、ベンズチアゾール系、トリアジン系、シアノ酢酸アミド系、イミダゾール系、ピロール系、ニコチノイド系、グアニジン系、ニトロメチレン系、シアノメチレン系、イソチアゾール系、アニライド系、キノリン系、有機塩素系、スルホン酸アミド系、ピレスロイド系、スルホニル尿素系、尿素系、有機リン系化合物等の殺菌剤、殺虫剤、除草剤、植物成長調節剤、あるいは肥料等と併用して、若しくは混合剤として使用することもできる。
【0038】
また、本発明の防除剤は、前記式(I)で示される化合物の少なくとも1種とともにメラニン産生経路に関与する他の酵素に対する阻害剤の少なくとも1種、具体的には、ポリケタイド合成酵素及び還元酵素の少なくとも1種に対して阻害活性を有する少なくとも1種の化合物を更に含有していてもよい。施用する土壌等の生存菌の分布や、植物種に応じて、最適な割合で配合することができる。
【0039】
本発明のイネいもち病の防除方法は、前記式(I)で示される化合物を、イネの植物体自体、その種子、それが生育している又は生育を予定される圃場、又はその生育に利用される器具に施用する工程を含んでなるものである。より具体的には、イネいもち病の発生が予想される場合に、予め前記式(I)の化合物をイネ茎葉への散布するほか、イネの経根、田面、水面、側条、土壌、種子、苗箱などに前記式(I)の化合物を施用する。あるいは、イネいもち病菌に感染した結果、病害が発生、蔓延した後に、前記のように前記式(I)の化合物を使用することにより、病害を除きあるいは抑制することができる。
【0040】
本発明の防除剤の適用量は、製剤の形態及び施用する方法、目的、時期を考慮して適宜決定されるが、通常、有効成分である前記式(I)の化合物の量に換算して、1ha当たり10~2000gの範囲で適用するのが好ましく、より好ましくは50~1000gの範囲である。
【0041】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2019-048574の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
合成に用いた溶媒は、いずれも試薬グレードのものである。無水ジクロロメタン(CHCl)は、和光純薬から入手した。
【0044】
各反応は、0.25mmプレコートされたシリカゲルプレート(Merck KGaA製)を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によってモニターした。
【0045】
関東化学のシリカゲル60N(球状;中性;0.04-0.05mm)をフラッシュクロマトグラフィーに用いた。
【0046】
1H NMR は、JEOL JNM-ECA-500 (500 MHz) スペクトロメータを用いて、内部標準としてのテトラメチルシラン(0ppm)を含むCDCl中で、又は溶媒及び内部標準(3.30ppm)としてのCDOD中で測定した。各略記、Sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはクオーテット、mはマルチプレット、brはブロードを意味する。
【0047】
13C NMRは、JEOL JNM-ECA-500 (125 MHz)スペクトロメータを用いて、溶媒及び内部標準(それぞれ、77.0又は49.0ppmである)としてCDCl又はCDOD中で測定した。
【0048】
実施例1:化合物26の合成例
以下の工程1~4により、化合物26を合成した。
【0049】
工程1:4-(クロロメチル)-5-ヒドロキシ-7-メチル-2H-クロメン-2-オン(化合物c)の合成
【化7】
【0050】
4-クロロ-3-オキソブタン酸エチル(a)(2.47g,15mmol)と5-メチルベンゼン-1,3-ジオール(b)(1.24g,10mmol)のトルエン(40mL)溶液に5滴の濃硫酸を加え、85℃で一晩加熱した。室温に冷却後、析出した固体をろ取した。固体を水、EtOAcで洗浄後乾燥し、淡黄色固体(1.23g)を得た。また、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、MgSOで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣を再びトルエン中濃硫酸と加熱し、淡黄色固体(0.81g)を得た。最後にその有機層を水、飽和食塩水で洗浄後MgSOで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=10:1)に付し、無色の化合物c(0.05g)を得た。化合物cの全収率は93.1%であった。なお、前記工程1については、a) Xie, L.; Takeuchi, Y.; Cosentino, L. M.; McPhail, A.T.; Lee, K.-H. J. Med. Chem, 2001, 44, 664-671. b) Zak, J.; Ron, D.; Riva, E.; Harding, H. P.; Cross, B. C. S.; Baxendale, I. R. Chem. Eur. J. 2012, 18, 9901-9910に記載の方法を参照した。
化合物(c): 1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 2.33 (s, 3H), 5.09 (d, J = 1.0 Hz, 2H), 6.46 (brs, 1H), 6.58 (brs,, 1H), 6.68 (brs, 1H).
13C NMR (125 MHz, CD3OD) δ 21.6, 45.9, 106.1, 109.5, 112.4, 113.2, 145.4, 154.4, 156.4, 157.1, 163.1.
【0051】
工程2:4-(クロロメチル)-7-メチル-5-((2-(トリメチルシリル)エトキシ)メトキシ)-2H-クロメン-2-オン(化合物d)の合成
【化8】
【0052】
クマリン化合物c(44.8mg,0.2mmol)と2-(トリメチルシリル)エトキシメチルクロライド(SEMCl)(42.6μL,2.4mmol)の無水CHCl(5mL)溶液にジイソプロピルエチルアミン(41.8μL,2.4mmol)を加え、窒素雰囲気下室温で3時間攪拌した。混合物に水-CHClを加え希釈した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、MgSOで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:EtOAc=2:1)に付し、無色オイル(化合物d)(42.0mg,59%)を得た。なお、前記工程2については、Lipshutz, B. H.; Pegram, J. J. Tetrahedron Lett. 1980, 21, 3343-3346に記載の方法を参照した。
化合物d: 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.02 (s, 9H), 0.99 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 2.41 (s, 3H), 3.81 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 4.93 (d, J = 1.5 Hz, 2H), 5.19 (s, 2H), 6.54 (brs, 1H), 6.84 (brs, 1H), 6.88 (brs, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ -1.4, 18.0, 22.0, 45.4, 67.2, 93.5, 106.3, 110.8, 111.3, 114.1, 143.8, 150.6, 154.9, 155.1, 160.5.
【0053】
工程3:4-(3-アミノベンゾフラン-2-イル)-7-メチル-5-((2-(トリメチルシリル)エトキシ)メトキシ)-2H-クロメン-2-オン(化合物f)の合成
【化9】
【0054】
クマリン化合物d(420mg,1.2mmol)の2-ブタノン(20mL)溶液に2-シアノフェノール(282mg,2.4mmol)とKCO(652mg,4.7mmol)を加え、一晩加熱還流した。溶媒を減圧留去後、残渣を水、EtOAcで希釈した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、MgSOで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ベンゼン:アセトニトリル=10:1)に付し、無色オイル(化合物f)(251mg,49%)を得た。
化合物f: 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ -0.06 (s, 9H), 0.77 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 2.42 (s, 3H), 3.49 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 4.96 (s, 2H), 6.45 (s, 1H), 6.86 (brs, 2H), 7.27 (ddd, J = 8.0, 8.0, 2.0 Hz, 1H), 7.35 (ddd, J = 8.0, 8.0, 1.0 Hz, 1H), 7.36 (dd, J = 8.0, 2.0 Hz, 1H), 7.53 (dd, J = 8.0, 1.0 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ -1.5, 17.9, 22.0, 66.7, 94.2, 106.8, 111.0, 111.3, 111.5, 113.6, 118.6, 122.1, 123.8, 125.9, 126.9, 134.1, 142.3, 144.1, 153.3, 154.9, 155.6, 160.8.
【0055】
工程4:N-(2-(7-メチル-2-オキソ-5-((2-(トリメチルシリル)エトキシ)メトキシ)-2H-クロメン-4-イル)ベンゾフラン-3-イル)イソブチルアミド(化合物26)
【化10】
【0056】
クマリン化合物f(250mg,0.57mmol)の無水CHCl(10mL)溶液にトリエチルアミン(159μL,1.14mmol)とイソブチリルクロライド(72μL,0.68mmol)を加えた。窒素雰囲気下室温で一晩攪拌後、混合物を水、EtOAcで希釈した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、MgSOで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:EtOAc=2:1)に付し、無色オイル(化合物26)(263mg,91%)を得た。なお、工程3及び4については、a) Karn, I. A. Kurkarni, M. V. Gopal, M.; Shahabuddin, M. S.; Sun, C.-M. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2005, 15, 3584-3587. b) Frasinyuk, M. S.; Gorelov, S. V.; Bondarenkoo, S. P.; Khilya, V. P. Chem. Heterocyclic Compounds, 2009, 45, 1261-1269に記載の方法を参照した。
化合物26: 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ -0.06 (s, 9H), 0.72 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 1.22 (d, J = 7.0 Hz, 6H), 2.40 (s, 3H), 2.58 (qq, J = 7.0, 7.0 Hz, 1H), 3.39 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 4.87 (s, 2H), 6.37 (s, 1H), 6.80 (brs, 1H), 6.82 (brs, 1H), 7.29 (dd, J = 8.0, 8.0 Hz, 1H), 7.35 (ddd, J = 8.0, 8.0, 1.0 Hz, 1H), 7.43 (brd, J = 8.0 Hz, 1H), 7.59 (brd,J = 8.0 Hz, 1H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ -1.6, 17.7, 19.6, 22.1, 35.6, 66.7, 93.9, 106.7, 111.0, 111.3, 111.4, 116.2, 117.1, 120.8, 123.1, 125.1, 125.5, 141.7, 144.4, 144.7, 153.5, 154.4, 155.2, 160.3, 175.8.
【0057】
前記合成例において、工程1に用いた試薬(化合物b)、工程2に用いた試薬SEMCl、及び工程4に用いた試薬イソブチリルクロライドの少なくとも1つを、対応する試薬にそれぞれ置き換えて、同様に反応を進行させて、化合物1~25及び27~48をそれぞれ合成した。
化合物49~59は、ナミキ商事から入手した。
化合物60~64は、理研天然化合物バンクに収載されている化合物である。
【0058】
【化11】
【0059】
【化12】
【0060】
【化13】
【0061】
【化14】
【0062】
【化15】
【0063】
【化16】
【0064】
【化17】
【0065】
実施例2:SDH1阻害活性評価
前記式(I)の各化合物について、図1中に示すメラニン生合成経路におけるSDH1に対する阻害活性を評価するために、以下の試験を行った。なお、SDH1として、野生型イネいもち病菌由来のSDH1及び薬剤耐性イネいもち病菌由来のSDH1(V75)を用いた。なお、薬剤耐性イネいもち病菌由来のSDH1は、75位のバリンがメチオニンに置換されているV75M型である。これらの酵素の調製及び阻害活性測定は文献X(Yamada, N., Motoyama, T., Nakasako, M., Kagabu, S., Kudo, T., Yamaguchi, I.: “Enzymatic characterization of scytalone dehydratase Val75Met variant found in melanin biosynthesis dehydratase inhibitor (MBI-D) resistant strains of the rice blast fungus”, Biosci. Biotechnol. Biochem. 68: 615-621 (2004))に記載の方法で行った。下記表に示す各化合物を所定の濃度(0.3nM~30μM)でそれぞれ添加し、基質であるシタロンの濃度を50μMに固定し、反応の進行を352nmの吸収の増加でモニタリングした。DMSOコントロールに対する活性(%)を求め、コントロールの活性の50%を示した時の各化合物の濃度をIC50とした。なお、比較例として、前記式(I)の化合物にかえてカルプロパミド(CPD;和光純薬から入手;既存のSDH1阻害剤)を添加した比較例用試料液についても同様に評価した。その結果、SDH1(WT型)に対する50%阻害濃度(IC50)は、3nM未満であり、SDH1(V75M型)に対するIC50は100nMであった。表中に示す結果から、前記式(I)の化合物は、SDH1に対して阻害活性を有することが理解できる。また、化合物によっては、既存の阻害剤CPDでは弱くしか阻害できないアミノ酸変異SDH1に対しても、強力な阻害活性を有することが理解できる。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例3:イネいもち病菌に対するメラニン化阻害活性のin vivo評価
野生型イネいもち病菌としてPyricularia oryzae Kita1株(NBRC30736株)を用いた。薬剤耐性型イネいもち病菌はP. oryzae R2-1あるいはP. oryzae KR5-1を用いた。R2-1株は佐賀県で単離されたカルプロパミド耐性菌であり、SDH1遺伝子にGTGからATGへの変異(V75M変異)を持っていることを確認している(前記文献X参照)。KR5-1株はKita1株のSDH1遺伝子を薬剤耐性型(V75M)のものに置換することにより作製した。
【0068】
(方法1)
24ウェルプレートの各ウェルに、500μLのポテトデキストロースブロス(PDB)+0.1%寒天培地(PDB(Difco製)に、寒天を0.1%添加したもの)を充填した。各ウェルに、イネいもち病菌を2%の濃度で添加して、その後、各ウェルに、前記式(I)の各化合物を100μMでそれぞれ添加し、25℃で7日間培養し、各試料培養液を得た。なお、対照用の培養液として、前記式(I)の化合物にかえてDMSOを添加した以外は同様に調製した対照用培養液(DMSO)、前記式(I)の化合物にかえて、カルプロパミドを同一の濃度で添加した以外は同様にして調製した対照用培養液(CPD)も、それぞれ準備した。
【0069】
(方法2)
24ウェルプレートの各ウェルに、500μLのCYA培地(Czapek-Dox Broth(Difco製)に、酵母エキスを0.5%、ZnSOを0.0001%、CuSOを0.00005%添加したもの)を充填した。各ウェルに、イネいもち病菌を2%の濃度で添加して、その後、各ウェルに、前記式(I)の各化合物を100μMでそれぞれ添加し、25℃で7日間培養し、各試料培養液を得た。なお、対照用の培養液として、前記式(I)の化合物を添加しなかった以外は同様に調製した対照用培養液(-)、前記式(I)の化合物にかえてDMSOを添加した以外は同様に調製した対照用培養液(DMSO)、前記式(I)の化合物にかえて、カルプロパミドを同一の濃度で添加した以外は同様にして調製した対照用培養液(CPD)も、それぞれ準備した。
【0070】
(方法3)
24ウェルプレートの各ウェルに、500μLのPDB+Metal+0.1%寒天培地(PDB(Difco製)に、ZnSOを0.0001%、CuSOを0.00005%、寒天を0.1%添加したもの)を充填した。各ウェルに、イネいもち病菌を2%の濃度で添加して、その後、各ウェルに、前記式(I)の各化合物を30μMあるいは100μMでそれぞれ添加し、25℃で4日間培養し、各試料培養液を得た。なお、対照用の培養液として、前記式(I)の化合物にかえてDMSOを添加した以外は同様に調製した対照用培養液(DMSO)、前記式(I)の化合物にかえて、カルプロパミドを同一の濃度で添加した以外は同様にして調製した対照用培養液(CPD)も、それぞれ準備した。
【0071】
イネいもち病のメラニン生合成経路が正常に機能していれば、培養によってメラニンが生成し、培養液が黒色化する。一方、メラニン生合成経路に関与するSDH1が阻害されると、シタロンの脱水が進行せず、結果として、メラニンが生成せず培養液の黒色化が起こらない。この場合、培養によってシタロンが蓄積する。各試料培養液及び各対照用培養液について、培養液の黒色化が起こるかどうかを観察したのちに、UPLC(Waters社製)を用いてシタロンの蓄積量を測定した。
【0072】
培養するイネいもち病菌として、Kita1株を用いて、前記方法1~3のいずれかで評価した。いずれの方法でも、メラニン生合経路が正常に機能しているDMSOコントロール(及び対照用培養液(-))では、メラニンの生成により培養液が黒色化したことが目視にて確認された。一方、各試料培養液は、対照用培養液(CPD)と同様、黒色化が抑制されていることを目視にて確認した。更に、表2~4に示すように、黒色化が抑制されている培養液では、シタロンの蓄積が認められた。以上の結果から、前記式(I)の化合物が野生型のイネいもち病菌に対してメラニン産生を抑制すること、及びSDH1阻害活性を示すことがin vivoで実証された。
【0073】
培養するイネいもち病菌として薬剤耐性型イネいもち病菌(R2-1あるいはKR5-1)を用いて、方法1~3のいずれかで評価した。いずれの方法でも、メラニン生合経路が正常に機能しているDMSOコントロール(及び対照用培養液(-))では、メラニンの生成により培養液が黒色化したことが目視にて確認された。一方、各試料培養液は、対照用培養液(-)と比較して、黒色化が抑制されていることを目視にて確認した。更に、表3~4に示すように、黒色化が抑制されている培養液では、シタロンの蓄積が認められた。以上の結果から、前記式(I)の化合物が薬剤耐性型イネいもち病菌に対してメラニン産生を抑制すること、及びアミノ酸変異型SDH1に対する阻害活性を示すことがin vivoで実証された。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
実施例4:イネに対する防除作用の評価
三葉期のイネいもち病菌Kita1株に感受性のイネ(日本晴れ)に対して、野生型イネいもち病菌(Kita1株)あるいは薬剤耐性型イネいもち病菌(KR5-1株)の胞子懸濁液20mL(単位体積mL当たり0.3×10になるように0.02%Tween20に懸濁)を、エアブラシを用いて噴霧摂取した。胞子懸濁液中に、前記式(I)の化合物(化合物26)あるいはCRPを10μM添加した。またコントロールとしてDMSOのみを添加したものを用いた。相対湿度100%、暗所、温度25℃の環境下で24時間感染させた後、それぞれ、人工気象器中で6日間、明期14時間25℃暗期10時間20℃の条件下で、いもち病の完全な病斑が生じるまで生育させた。栽培したそれぞれのイネについて、第2葉から第4葉に生じた病斑の数をカウントして、イネいもち病の発生を評価した。病原性の評価はそれぞれ14株のイネ(2ポット)を用いて行った。イネ一株あたりの病斑数を平均±標準偏差で示した。
【0078】
図2に示す通り、イネに施用すると、カルプロパミドは野生型に対しては高い防除効果を示すものの、薬剤耐性菌に対してはほとんど活性を示さなかった。一方、化合物26は、野生型のみならず、薬剤耐性型のイネいもち病菌に対しても高い防除効果を示すことが実証された。
【0079】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
図1
図2