(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】注液装置及び注液方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/618 20210101AFI20240216BHJP
H01M 50/673 20210101ALI20240216BHJP
【FI】
H01M50/618
H01M50/673
(21)【出願番号】P 2023170817
(22)【出願日】2023-09-29
【審査請求日】2023-10-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506269149
【氏名又は名称】株式会社ワイ・ジー・ケー
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆文
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-057563(JP,A)
【文献】特開平09-102443(JP,A)
【文献】特開平11-073942(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/60-50/691
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置の外装缶内に電解液を注液する注液方法であって、
注液シリンジの、前記電解液を前記外装缶の内部に供給する注液口と、前記外装缶を減圧するための外部のポンプと接続される吸引経路と連通される吸引口とを備えるノズル部を、前記外装缶に開口したセル開口に挿入する工程と、
前記吸引口及び吸引経路を通じて、前記外装缶の内部を減圧する工程と、
前記注液シリンジ内で前記吸引経路と気密に区画された液溜チャンバに、前記電解液を供給する工程と、
前記液溜チャンバを、前記外装缶の内部と別に減圧する工程と、
前記注液シリンジ内で、前記吸引経路上に設けた容積可変機構を作動させて、前記吸引経路の容積を拡大させることで前記吸引経路と前記吸引口を介して連通された前記外装缶の内部をさらに減圧する工程と、
前記液溜チャンバ内の前記電解液を、前記外装缶に注液する工程と、
を含む注液方法。
【請求項2】
請求項1に記載の注液方法であって、さらに、
前記外装缶の内部を減圧する工程に先立ち、前記液溜チャンバと前記外装缶内部とが連通しないように、前記注液口を気密に閉塞する工程を含む注液方法。
【請求項3】
請求項2に記載の注液方法であって、
前記注液口を気密に閉塞する工程が、前記注液シリンジ内で延伸されたシリンジシャフトを可動させて、前記シリンジシャフトの先端で前記注液口に通じる経路を閉塞するよう構成してなる注液方法。
【請求項4】
請求項1に記載の注液方法であって、
前記液溜チャンバに前記電解液を供給する工程が、前記液溜チャンバを開放して行われてなる注液方法。
【請求項5】
請求項4に記載の注液方法であって、
前記液溜チャンバに前記電解液を供給する工程が、前記注液シリンジの後端を開放した前記液溜チャンバに対して行われてなる注液方法。
【請求項6】
請求項5に記載の注液方法であって、
前記液溜チャンバを減圧する工程が、前記注液シリンジの後端から挿入されたシリンジカップにより閉塞された状態で行われる注液方法。
【請求項7】
請求項6に記載の注液方法であって、
前記外装缶の内部をさらに減圧する工程が、前記シリンジカップで前記液溜チャンバを一定容積に保持したまま、前記容積可変機構で前記吸引経路の容積を拡大させて行われる注液方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の注液方法であって、さらに、
前記液溜チャンバ内の前記電解液を前記外装缶に注液する工程に続いて、前記注液シリンジの前記液溜チャンバ内の容積を縮小して、前記外装缶内を加圧する工程を含む注液方法。
【請求項9】
請求項8に記載の注液方法であって、さらに、
前記外装缶内を加圧する工程に続いて、前記液溜チャンバ及び前記吸引経路を大気圧に開放する工程を含む注液方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の注液方法であって、
前記蓄電装置がリチウムイオン二次電池である注液方法。
【請求項11】
蓄電装置の外装缶内に電解液を注液する注液装置であって、
内部に液溜チャンバと吸引経路を区画しており、
前記液溜チャンバと連通され、前記電解液を前記外装缶の内部に供給するための注液口と、
前記吸引経路と一端で連通される吸引口と
を備えるノズル部を含む注液シリンジと、
前記吸引経路と他端で連通され、前記外装缶を減圧するためのポンプと、
前記液溜チャンバと連通され、前記電解液を蓄えるタンクと、
を備え、
前記注液シリンジは、前記吸引経路上に容積可変機構を設けて
おり、
前記容積可変機構は、前記吸引経路に沿って気密に摺動可能なピストン状又はリング状を備えてなる注液装置。
【請求項12】
請求項11に記載の注液装置であって、
前記注液シリンジは、その内部で延伸された可動式のシリンジシャフトを備えており、
前記シリンジシャフトは、その先端に前記注液口に通じる経路を閉塞する閉鎖部を設けており、
前記シリンジシャフトを可動させて、前記閉鎖部で前記注液口に通じる経路を開閉可能に構成してなる注液装置。
【請求項13】
請求項11に記載の注液装置であって、
前記注液シリンジは、前記液溜チャンバの後端を開放しており、
前記注液シリンジの後端に、シリンジカップを摺動自在に挿入してなる注液装置。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項に記載の注液装置であって、
前記蓄電装置がリチウムイオン二次電池である注液装置。
【請求項15】
蓄電装置の外装缶内に電解液を注液する注液装置用の注液シリンジであって、
内部に液溜チャンバと吸引経路を区画しており、
前記液溜チャンバと連通され、前記電解液を前記外装缶の内部に供給するための注液口と、
前記吸引経路と一端で連通される吸引口と
を備えるノズル部を備え、
前記吸引経路上に容積可変機構を設けて
おり、
前記容積可変機構は、前記吸引経路に沿って気密に摺動可能なピストン状又はリング状を備えてなる注液シリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池セル等の製造工程において、容器内に電解液を注液する注液装置及び注液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の電池セルは、その容器をなす外装缶に、正極、負極、セパレータ、電解液などを収納している。このような電池セルの製造工程においては、電解液を効率良く注液することが必要となる。外装缶への電解液の注液方法としては、開放型注液方式と密閉型注液方式が知られている。この内、密閉型と呼ばれる方式では、正負両極とセパレータを重ね巻きしたものや積層した状態の電極組立体を外装缶に挿入し、外装缶の開口を蓋で閉じ、蓋に設けた注液口から電解液を充填した後、この注液口を封口している。
【0003】
外装缶への電解液の注液に関しては、電極組立体を収納した外装缶内を減圧化し、減圧下で電解液を供給する方法が知られている。この方法は、減圧した外装缶によって、あたかもスポイトのように電解液を吸引して注入、充填するというものである。この方法では、負圧に保たれた外装缶内に電解液を吸引させるため、注入充填時間を速くできる。
【0004】
しかしながら、単に減圧するだけでは外装缶内の空気をすべて電解液と置換することは困難であり、依然として電極組立体の隙間には微細気泡が残留しており、これらを除去することは容易でなかった。具体的には、電解液を外装缶に注液するシリンジと、外装缶内部とをそれぞれ個別に減圧状態とし、外装缶内をさらに減圧して真空度を上げることで、電解液を外装缶内に注液し易くすることが考えられる。しかしながら、一般に真空度を高めるには、ブースターポンプ等を利用するところ、このようなポンプ類は配管が複雑で注液装置が大型化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の一態様の課題の一は、減圧して注液する際の構成を簡素化した注液装置及び注液方法を提供することにある。また他の形態の一の課題は、注液時の効率を高めた注液装置及び注液方法を提供することにある。なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。また本開示の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。さらに本開示の明細書、図面、請求項等の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本開示の第1の形態に係る注液方法は、蓄電装置の外装缶内に電解液を注液する注液方法であって、注液シリンジの、前記電解液を前記外装缶の内部に供給する注液口と、前記外装缶を減圧するための外部のポンプと接続される吸引経路と連通される吸引口とを備えるノズル部を、前記外装缶に開口したセル開口に挿入する工程と、前記吸引口及び吸引経路を通じて、前記外装缶の内部を減圧する工程と、前記注液シリンジ内で前記吸引経路と気密に区画された液溜チャンバに、前記電解液を供給する工程と、前記液溜チャンバを、前記外装缶の内部と別に減圧する工程と、前記注液シリンジ内で、前記吸引経路上に設けた容積可変機構を作動させて、前記吸引経路の容積を拡大させることで前記吸引経路と前記吸引口を介して連通された前記外装缶の内部をさらに減圧する工程と、前記液溜チャンバ内の前記電解液を、前記外装缶に注液する工程とを含む。これにより、注液シリンジ内に設けた容積可変機構を作動させて、減圧状態の外装缶内部をさらに減圧することができ、これによって電解液を外装缶内に効率良く注液することが可能となる。特に、ブースターポンプのような複雑な配管を必要とせず、注液シリンジ内に組み込んだ容積可変機構という簡素な構成でもって追加的な減圧を可能としている。また注液シリンジ内に容積可変機構を組み込んだことで、ブースターポンプのように配管の経路長による損失を生じることもなく、効率良く真空度を上げる効果が得られる。
【0008】
また第2の形態に係る注液方法は、上記形態において、さらに、前記外装缶の内部を減圧する工程に先立ち、前記液溜チャンバと前記外装缶内部とが連通しないように、前記注液口を気密に閉塞する工程を含む。これにより、液溜チャンバと外装缶内部とを気密に分離して、これらを個別に減圧することが可能となる。
【0009】
さらに第3の形態に係る注液方法は、上記いずれかの形態において、前記注液口を気密に閉塞する工程が、前記注液シリンジ内で延伸されたシリンジシャフトを可動させて、前記シリンジシャフトの先端で前記注液口に通じる経路を閉塞するよう構成している。これにより、シリンジシャフトの移動というシンプルな構成で注液口を閉塞することが可能となる。
【0010】
さらにまた第4の形態に係る注液方法は、上記いずれかの形態において、前記液溜チャンバに前記電解液を供給する工程が、前記液溜チャンバを開放して行われる。これにより、液溜チャンバへの電解液の供給を大気圧下でスムーズに行うことが可能となる。
【0011】
さらにまた第5の形態に係る注液方法は、上記いずれかの形態において、前記液溜チャンバに前記電解液を供給する工程が、前記注液シリンジの後端を開放した前記液溜チャンバに対して行われる。
【0012】
さらにまた第6の形態に係る注液方法は、上記いずれかの形態において、前記液溜チャンバを減圧する工程が、前記注液シリンジの後端から挿入されたシリンジカップにより閉塞された状態で行われる。
【0013】
さらにまた第7の形態に係る注液方法は、上記いずれかの形態において、前記外装缶の内部をさらに減圧する工程が、前記シリンジカップで前記液溜チャンバを一定容積に保持したまま、前記容積可変機構で前記吸引経路の容積を拡大させて行われる。
【0014】
さらにまた第8の形態に係る注液方法は、上記いずれかの形態において、さらに、前記液溜チャンバ内の前記電解液を前記外装缶に注液する工程に続いて、前記注液シリンジの前記液溜チャンバ内の容積を縮小して、前記外装缶内を加圧する工程を含む。
【0015】
さらにまた第9の形態に係る注液方法は、上記いずれかの形態において、さらに、前記外装缶内を加圧する工程に続いて、前記液溜チャンバ及び前記吸引経路を大気圧に開放する工程を含む。
【0016】
さらにまた第10の形態に係る注液方法は、上記いずれかの形態において、前記蓄電装置がリチウムイオン二次電池である。
【0017】
さらにまた第11の形態に係る注液装置は、蓄電装置の外装缶内に電解液を注液する注液装置であって、内部に液溜チャンバと吸引経路を区画しており、前記液溜チャンバと連通され、前記電解液を前記外装缶の内部に供給するための注液口と、前記吸引経路と一端で連通される吸引口とを備えるノズル部を含む注液シリンジと、前記吸引経路と他端で連通され、前記外装缶を減圧するためのポンプと、前記液溜チャンバと連通され、前記電解液を蓄えるタンクとを備え、前記注液シリンジは、前記吸引経路上に容積可変機構を設けており、前記容積可変機構は、前記吸引経路に沿って気密に摺動可能なピストン状又はリング状を備えている。上記構成により、注液シリンジ内に設けた容積可変機構を作動させて、減圧状態の外装缶内部をさらに減圧することができ、これによって電解液を外装缶内に効率良く注液することが可能となる。特に、ブースターポンプのような複雑な配管を必要とせず、注液シリンジ内に組み込んだ容積可変機構という簡素な構成でもって追加的な減圧を可能としている。また注液シリンジ内に容積可変機構を組み込んだことで、ブースターポンプのように配管の経路長による損失を生じることもなく、効率良く真空度を上げる効果が得られる。
【0018】
さらにまた第12の形態に係る注液装置は、上記いずれかの形態において、前記注液シリンジは、その内部で延伸された可動式のシリンジシャフトを備えている。前記シリンジシャフトは、その先端に前記注液口に通じる経路を閉塞する閉鎖部を設けており、前記シリンジシャフトを可動させて、前記閉鎖部で前記注液口に通じる経路を開閉可能に構成している。上記構成により、シリンジシャフトの移動というシンプルな構成で注液口を閉塞し、液溜チャンバと外装缶内部とを気密に分離して、これらを個別に減圧することが可能となる。
【0019】
さらにまた第13の形態に係る注液装置は、上記いずれかの形態において、前記注液シリンジは、前記液溜チャンバの後端を開放している。前記注液シリンジの後端には、シリンジカップを摺動自在に挿入している。上記構成により、液溜チャンバの容積をシリンジカップでもって可変することが可能となる。
【0020】
さらにまた第14の形態に係る注液装置は、上記いずれかの形態において、前記蓄電装置がリチウムイオン二次電池である。
【0021】
さらにまた第15の形態に係る注液シリンジは、蓄電装置の外装缶内に電解液を注液する注液装置用の注液シリンジであって、内部に液溜チャンバと吸引経路を区画しており、前記液溜チャンバと連通され、前記電解液を前記外装缶の内部に供給するための注液口と、前記吸引経路と一端で連通される吸引口とを備えるノズル部を備え、前記吸引経路上に容積可変機構を設けており、前記容積可変機構は、前記吸引経路に沿って気密に摺動可能なピストン状又はリング状を備えている。上記構成により、注液シリンジ内に設けた容積可変機構を作動させて、減圧状態の外装缶内部をさらに減圧することができ、これによって電解液を外装缶内に効率良く注液することが可能となる。特に、ブースターポンプのような複雑な配管を必要とせず、注液シリンジ内に組み込んだ容積可変機構という簡素な構成でもって追加的な減圧を可能としている。また注液シリンジ内に容積可変機構を組み込んだことで、ブースターポンプのように配管の経路長による損失を生じることもなく、効率良く真空度を上げる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態1に係る注液装置を示す模式図である。
【
図2】実施形態2に係る注液装置を示す模式図である。
【
図3】実施形態3に係る注液装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本開示をさらに詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本開示の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
【0024】
さらに以下に示す実施形態は、本開示の技術思想の具体例を示すものであって、本開示を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本開示の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施形態において説明する内容は、他の実施形態にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
(二次電池1)
【0025】
以下、注液装置及び注液方法が対象とする、電解液を注液する蓄電装置として、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。リチウムイオン二次電池は、直方体状の外装缶2と、外装缶2に収容された電極組立体と、外装缶2に収容された電解液とを備える。外装缶2は、有底四角筒状のケース本体と、ケース本体の開口部を閉塞する板状の蓋部とを有する。ケース本体及び蓋部は、外装缶2の壁部を構成する。蓋部は、蓋部を板厚方向に貫通するセル開口を有する。本実施形態の二次電池1は、その外観が角型をなす角型電池である。なお本開示は蓄電装置を、角型電池に限定せず、円筒状の外装缶の電池にも適用できる。
【0026】
電極組立体は、一又は複数の正極電極と、一又は複数の負極電極と、一又は複数のセパレータとを備える。電極組立体は、正極電極と負極電極との間にセパレータを介在させ、かつ相互に絶縁させた状態で積層した層状構造を有する。正極電極及び負極電極はそれぞれ、矩形シート状の集電体と、集電体の両面に存在する活物質層と、集電体の一辺の一部から突出した集電タブとを有する。集電タブは、活物質層が存在せず、集電体そのもので構成されている。電極組立体は、一又は複数の集電タブが同じ極性同士で積層されたタブ群を有する。ここでは集電体として複数のシートを積層した例を説明したが、電極を反状に捲回した一条巻の集電体としてもよい。
【0027】
次に、二次電池1の製造方法について説明する。二次電池1の製造方法は、電極組立体が収容された外装缶2内にセル開口から電解液を注液する注液工程と、仮封止部材によってセル開口を仮封止する仮封止工程と、拘束治具によって外装缶2を拘束して初期充放電を行う初期充放電工程を有する。本実施形態の初期充放電工程は、コンディショニング工程及びエージング工程からなる。コンディショニング工程では初期充電を行う。なお、二次電池1の仕様によっては、複数回の充放電を繰り返す場合もある。コンディショニング工程後、エージング工程では、恒温槽にて二次電池1を所定のエージング温度にまで昇温させた状態で所定時間放置する。初期充放電工程後、拘束治具による外装缶2の拘束を解除する。
[注液装置100]
【0028】
二次電池1の外装缶2内に電解液を注液する注液装置100を、
図1に示す。この図に示す注液装置100は、注液シリンジ10と、ポンプVPと、タンクTKとを備える。
(注液シリンジ10)
【0029】
注液シリンジ10は、その内部を液溜チャンバ13と吸引経路15に区画している。液溜チャンバ13は、電解液ELを一時的に蓄える空間である。また液溜チャンバ13は、タンクTKと接続されており、タンクTKから電解液ELの供給を受ける。
【0030】
吸引経路15は、一端(図において下部)を吸引口14を介して外装缶2内部と接続し、他端(図において上部)をポンプVPと接続して、ポンプVPで外装缶2内部を吸引することで減圧するための経路である。
【0031】
また注液シリンジ10の先端(図において下部)にはノズル部11を備えている。また後端(図において上部)は、少なくとも一部を開放している。ノズル部11は、注液口12と、吸引口14を備える。注液口12は、液溜チャンバ13と連通されている。注液口12を介して、液溜チャンバ13に一時的に蓄えられた電解液ELを、外装缶2の内部に供給する。また吸引口14は、吸引経路15と連通されており、外装缶2内部の空気を吸引して減圧状態とする。このように、一本のノズル部11を外装缶2の蓋部に開口されたセル開口に接続して、内部の空気を抜き、電解液ELを注液する。ノズル部11はセル開口に気密に接続される。この方式であれば、電解液ELの注液と同じセル開口から二次電池1内を減圧するため、二次電池1の開口を少なくできる利点が得られる。なお
図1の例では、説明のため注液口12と吸引口14を並べて図示しているが、例えば一方を円状に、他方をその周囲に配置した環状に形成する等、既知の構成が適宜利用できる。
(ポンプVP)
【0032】
ポンプVPは、注液シリンジ10や外装缶2の内部を減圧させるためのものである。ポンプVPを動作させて、外装缶2の内部や注液シリンジ10を吸引して減圧する。ポンプVPは弁VVを介して注液シリンジ10と接続される。
図1の例では、注液シリンジ10の液溜チャンバ13と、吸引経路15とが、それぞれ別経路でポンプVPと接続される。各経路には弁VVがそれぞれ設けられており、液溜チャンバ13と、吸引経路15とを、独立して吸引して、異なる真空度に設定できる。なお、
図1の例では液溜チャンバ13と、吸引経路15とを、共通のポンプVPで減圧する構成を示しているが、本開示はこの構成に限られず、液溜チャンバと、吸引経路とを別個のポンプにそれぞれ接続する構成としてもよい。
(タンクTK)
【0033】
タンクTKは、外装缶2に注液する電解液ELを蓄える。タンクTKと、液溜チャンバ13と給液パイプで連通されている。また必要に応じて給液パイプ上に給液ポンプLPや弁を設けてもよい。
(容積可変機構16)
【0034】
また注液シリンジ10は、吸引経路15上に、吸引経路15の容積を変化可能な容積可変機構16を設けている。容積可変機構16は、例えばピストン状やリング状に形成し、ピストン部分を吸引経路15に沿って気密に摺動可能とする等、既知の構成を適宜利用できる。この容積可変機構16を作動させて、外装缶2内部の圧力を変化できる。すなわち、容積可変機構16で吸引経路15の容積を変化させると、吸引経路15と連通された外装缶2内部の圧力が変化する。具体的には、容積可変機構16で吸引経路15の容積を増大させると、吸引経路15内の圧力が低下するため、吸引経路15と連通された外装缶2内部の圧力も減少する。これにより、外装缶2内部の圧力を、液溜チャンバ13内の圧力よりも低減させて、液溜チャンバ13内の電解液ELを、より圧力の低い外装缶2の内部に移動させ易くなる。すなわち、注液をスムーズに行うことが可能となる。
【0035】
外装缶2の内部に電解液ELを注液し易くするため、外装缶2の内部を減圧することが行われている。外装缶2の内圧が、注液シリンジ10の内圧よりも低いと、圧力差によって外装缶2の内部に電解液ELを案内し易くできる。
【0036】
従来、減圧された状態の外装缶2内部を、さらに減圧させようとすれば、ブースターポンプを利用することが考えられる。しかしながら、ブースターポンプを付加しようとすれば、配管が複雑になり、設備コストが高くなる上、エネルギー消費量も大きくなる。また、ブースターポンプを付加するために必要となる配管の長さに応じて損失も発生する。
【0037】
これに対し、本実施形態に係る注液装置100では、注液シリンジ10の内部に容積可変機構16を組み込んでいるため、配管の損失が生じない。また、容積可変機構16は、ピストン状に構成する等、シンプルな構成で実現できるため、付加コストも安価に抑えられる。また容積可変機構16は、注液シリンジ10の内部で偏心させた位置に設ける他、注液シリンジ10の軸上に、例えば円環状に配置してもよい。
[実施形態2]
【0038】
また注液シリンジ10は、その内部で延伸された可動式のシリンジシャフト17を備えてもよい。このような例を実施形態2に係る注液装置200として、
図2に示す。この図において、上述した実施形態1等と同様の部材については、同じ符号を付して詳細説明を適宜省略する。
(シリンジシャフト17)
【0039】
シリンジシャフト17は、その先端に注液口12に通じる経路を閉塞する閉鎖部18を設けている。このシリンジシャフト17を可動させて、閉鎖部18で注液口12に通じる経路を開閉可能に構成している。
図2においてシリンジシャフト17を上昇させると、閉鎖部18を開放し、また下降させると閉鎖部18を閉鎖する。このように、シリンジシャフト17の移動というシンプルな構成で注液口12を閉塞し、液溜チャンバ13と外装缶2内部とを気密に分離して、これらを個別に減圧することが可能となる。閉鎖部18は、例えば弾性状に形成して注液口12を液密に閉塞する。あるいはパッキンやシール材を設けた金属が利用できる。また必ずしもシリンジシャフトの先端で閉塞する必要はなく、中間や肩部といった一部を利用して注液口を閉塞してもよい。なお、閉鎖部18で注液口12を閉鎖しても、吸引口14は閉塞されない。これによって、液溜チャンバ13に保持した電解液ELを留めつつ、外装缶2内部の空気の吸引は阻害されない。
(シリンジカップ19)
【0040】
また注液シリンジ10は、液溜チャンバ13の後端を開放している。注液シリンジ10の後端には、シリンジカップ19を摺動自在に挿入している。このような構成により、液溜チャンバ13の容積をシリンジカップ19でもって可変することが可能となる。シリンジカップ19は、容積可変機構16とは独立して移動するよう構成される。なお、シリンジカップ19と容積可変機構16とを同軸に配置してもよい。また、シリンジカップ19と容積可変機構16の動作を、連携させてもよい。例えばシリンジカップ19の挿入時に容積可変機構16も同時に移動させつつ、シリンジカップ19の挿入後にはシリンジカップ19を停止させたまま容積可変機構16のみを可動させるように構成してもよい。
[実施形態3]
【0041】
さらに本開示は、摺動式のシリンジカップにより液溜チャンバを閉塞し、圧力を調整する構成に限らず、他の部材で液溜チャンバを閉塞してもよいことはいうまでもない。例えば
図3に示す実施形態3に係る注液装置300のように、注液シリンジにブースタBSを設置して、液溜チャンバ内の圧力を調整するように構成している。
【0042】
上述した実施形態2、3では、注液シリンジと同軸にシリンジシャフトを延長させる構成を説明したが、本開示はこの構成に限られず、シリンジシャフトを注液シリンジの延伸方向に対して傾斜させたり、交差させて配置してもよい。
[注液方法]
【0043】
以下、蓄電装置の外装缶2内に電解液ELを注液する注液方法を説明する。まず、注液シリンジ10のノズル部11を、外装缶2の蓋部に開口したセル開口に挿入する。ノズル部11はセル開口と気密に接続される。この状態でノズル部11の注液口12は閉鎖され、吸引口14は開口されて吸引経路15と連通される。吸引経路15は、ポンプVPと接続される。
【0044】
次に、ポンプVPを動作させて、吸引口14及び吸引経路15を通じて、外装缶2の内部を減圧する。真空度は、外装缶2の容積や内部の充填度合、電解液の粘度などに応じて設定され、例えば-90kPaとする。
【0045】
一方で、注液シリンジ10の液溜チャンバ13内に、注液シリンジ10と接続されたタンクTKから電解液ELを供給する。注液口12が閉塞されているため、電解液ELは液溜チャンバ13に蓄えられる。好ましくは、液溜チャンバ13を開放した状態で電解液ELを供給する。これにより、大気圧下でスムーズに液溜チャンバ13への電解液ELの供給を行うことが可能となる。例えば注液シリンジ10の後端を開放した状態で、注液を行う。
【0046】
そして、液溜チャンバ13を気密に閉塞した状態として、ポンプVPにより液溜チャンバ13を減圧する。液溜チャンバ13を気密に閉塞するには、例えば注液シリンジ10の後端からシリンジカップ19を挿入して閉塞する。液溜チャンバ13は外装缶2内部と分離されているため、液溜チャンバ13は外装缶2内部とは別に減圧される。いいかえると、液溜チャンバ13と外装缶2内部とを異なる圧力乃至気圧に維持できる。
【0047】
この状態で、吸引経路15上に設けた容積可変機構16を作動させて、吸引経路15の容積を拡大させ、外装缶2の内部をさらに減圧する。一般に、液溜チャンバ13と外装缶2内部とで、圧力差乃至気圧差を設けることにより、外装缶2の内部に電解液ELを注液できる。圧力差が大きいほど、すなわち外装缶2内部の真空度が液溜チャンバ13の真空度よりも高い程ほど、電解液ELは注液され易くなる。したがって、外装缶2内部の真空度を高めることが重要となる。しかし、ブースターポンプ等を利用する方式では構成が複雑化し、配管長による損失も大きく、エネルギー効率が悪い。そこで本実施形態においては、注液シリンジ10内で、吸引経路15上に設けた容積可変機構16を作動させて、吸引経路15の容積を拡大させることで、吸引経路15と吸引口14を介して連通された外装缶2の内部をさらに減圧する。そして液溜チャンバ13内の電解液ELを、外装缶2に注液する。これによって電解液ELを外装缶2内に効率良く注液することが可能となる。特に注液シリンジ10内に組み込んだ容積可変機構16という簡素な構成でもって追加的な減圧を可能とし、効率良く真空度を上げることを実現している。また、液溜チャンバ13を一定容積に保持したまま、容積可変機構16で吸引経路15の容積のみを拡大させることで、容易に一方の圧力のみを低下させて圧力差を生じさせることができる。
【0048】
液溜チャンバ13内の電解液ELを外装缶2に注液した後は、液溜チャンバ13が外装缶2の内部と連通されているので、液溜チャンバ13内の容積を縮小して、外装缶2内を加圧することができる。これにより、定量加圧して予備的な注液が図られる。最後に、液溜チャンバ13及び吸引経路15を大気圧に開放する。
【0049】
このようにして外装缶2内部に電解液ELをスムーズに注液することができる。また電解液ELが電極体に含浸する速度を大きくして、含浸効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示に係る注液装置及び注液方法は、リチウムイオン二次電池等の電池セルの他、キャパシタなどの蓄電装置の注液にも適用可能である。また電解液以外の液体の注液にも適用できる。
【0051】
また本開示に係る注液装置及び注液方法によれば、蓄電装置を真空あるいは減圧状態にするためのエネルギーを低減できるため、電力消費量を低減できる結果、発電に要する化石燃料の消費量を低減させて環境負荷を低減できる結果、2015年9月の国連サミットで採択された国際目標SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられた17のゴール及び169のターゲットの内、
・「8.働きがいも経済成長も」、「8.4 2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。」
・「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」、「9.4 2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う。」などに資する技術である。
【符号の説明】
【0052】
100、200、300…注液装置
1…二次電池
2…外装缶
10…注液シリンジ
11…ノズル部
12…注液口
13…液溜チャンバ
14…吸引口
15…吸引経路
16…容積可変機構
17…シリンジシャフト
18…閉鎖部
19…シリンジカップ
EL…電解液
VP…ポンプ
TK…タンク
VV…弁
LP…給液ポンプ
BS…ブースタ
【要約】
【課題】減圧して蓄電池に注液する構成を簡素化する。
【解決手段】注液方法は、注液シリンジ10の、電解液ELを外装缶の内部に供給する注液口12と、外装缶2を減圧するための外部のポンプVPと接続される吸引経路15と連通される吸引口14とを備えるノズル部11を、外装缶2に開口したセル開口5に挿入する工程と、吸引口14及び吸引経路15を通じて、外装缶2の内部を減圧する工程と、注液シリンジ10内で吸引経路15と気密に区画された液溜チャンバ13に、電解液ELを供給する工程と、液溜チャンバ13を、外装缶2の内部と別に減圧する工程と、注液シリンジ10内で、吸引経路15上に設けた容積可変機構16を作動させて、吸引経路15の容積を拡大させることで吸引経路15と吸引口14を介して連通された外装缶2の内部をさらに減圧する工程と、液溜チャンバ13内の電解液ELを、外装缶2に注液する工程とを含む。
【選択図】
図1