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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】作業機械の安全装置
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20240216BHJP
   E02F 9/24 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
E02F9/20 C
E02F9/24 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023178753
(22)【出願日】2023-10-17
【審査請求日】2023-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509122887
【氏名又は名称】株式会社レグラス
(74)【代理人】
【識別番号】110003546
【氏名又は名称】弁理士法人伊藤IP特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-152362(JP,A)
【文献】特開2018-197491(JP,A)
【文献】特開2020-128155(JP,A)
【文献】特開平06-165304(JP,A)
【文献】特開2000-314104(JP,A)
【文献】特開2019-108742(JP,A)
【文献】特開2023-099912(JP,A)
【文献】特開2020-128125(JP,A)
【文献】特開2006-097423(JP,A)
【文献】特開2018-040199(JP,A)
【文献】特開2019-157497(JP,A)
【文献】特開平6-94007(JP,A)
【文献】特表2022-547058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に設置され、該作業機械の周囲を撮影する半天球カメラと、
前記半天球カメラによって撮影された前記作業機械の周囲画像を表す撮影画像データを取得し、該撮影画像データに基づいて所定の処理を実行するプロセッサと、
前記作業機械に予め設置され該作業機械の作動を制御する所定の作動制御装置に所定の操作を行う衝突回避装置と、
を備え、
前記プロセッサは、
前記撮影画像データから人物画像を抽出する抽出処理と、
抽出された前記人物画像に基づいて、前記作業機械の周囲の人物が該作業機械の作動範囲に属しているか否かを判別する判定処理と、
前記判定処理によって前記作業機械の作動範囲に人物が属していると判定された場合に、前記衝突回避装置を作動させ、該作業機械の走行が停止されるように、該衝突回避装置に前記作動制御装置を操作させる衝突回避処理と、を実行し、
前記作業機械は、前記作動制御装置として、該作業機械の作動源である油圧の付加対象を乗員による油圧レバー操作に基づいて切り替える油圧制御弁を備え、
前記衝突回避装置は、前記油圧レバー操作によりオンオフされる前記油圧制御弁の作動スイッチを遮断する制御回路であって、前記作動スイッチと前記油圧制御弁との間に後付け可能に介装される制御回路を有し、
前記プロセッサは、前記衝突回避処理において、前記油圧レバー操作によらず前記作業機械の走行が停止されるように、前記油圧レバー操作により前記作動スイッチが前記作業機械の走行部の作動をオンにしていたとしても、前記制御回路に前記作動スイッチのうち該走行部の作動スイッチを遮断させる、
作業機械の安全装置。
【請求項2】
前記作業機械は、前記作動制御装置として、該作業機械が有する各作動部の全動作を停止させるロックレバーを更に備え、
前記制御回路は、前記ロックレバーの作動状態を制御する制御信号を出力し、
前記プロセッサは、前記衝突回避処理において、前記油圧レバー操作によらず前記作業機械の全動作が停止されるように、前記制御回路に前記制御信号を出力させる、
請求項1に記載の作業機械の安全装置。
【請求項3】
前記作業機械は、前記乗員による前記ロックレバーの機械的な操作を検出するセンサを更に備え、
前記プロセッサは、
前記センサからの出力に基づいて、前記乗員による前記ロックレバーの操作に対する検出情報を取得することと、
前記衝突回避処理の実行後、前記検出情報に基づいて、前記乗員による前記ロックレバーの操作が検出された場合に、該衝突回避処理によって停止された前記作業機械の作動を復帰させることと、を更に実行する、
請求項2に記載の作業機械の安全装置。
【請求項4】
作業機械に設置され、該作業機械の周囲を撮影する半天球カメラと、
前記半天球カメラによって撮影された前記作業機械の周囲画像を表す撮影画像データを取得し、該撮影画像データに基づいて所定の処理を実行するプロセッサと、
前記作業機械に予め設置され該作業機械の作動を制御する所定の作動制御装置に所定の操作を行う衝突回避装置と、
を備え、
前記プロセッサは、
前記撮影画像データから人物画像を抽出する抽出処理と、
抽出された前記人物画像に基づいて、前記作業機械の周囲の人物が該作業機械の作動範囲に属しているか否かを判別する判定処理と、
前記判定処理によって前記作業機械の作動範囲に人物が属していると判定された場合に、前記衝突回避装置を作動させ、該作業機械の走行が停止されるように、該衝突回避装置に前記作動制御装置を操作させる衝突回避処理と、を実行し、
前記作業機械は、前記作動制御装置として、該作業機械の走行を停止させるブレーキ機構を備え、
前記衝突回避装置は、前記ブレーキ機構が有するブレーキペダルに外力を付加することで該ブレーキペダルを駆動させるアクチュエータを有し、
前記プロセッサは、前記衝突回避処理において、乗員による前記ブレーキペダルの操作によらず前記作業機械の走行が停止されるように、前記アクチュエータに前記ブレーキペダルを駆動させ、
前記作業機械は、該作業機械の走行状態を検出する第1センサと、該作業機械が運搬している荷物の量を検出する第2センサと、更に備え、
前記プロセッサは、
前記第1センサ及び前記第2センサからの出力に基づいて、前記作業機械が運搬している荷物の荷崩れが生じないようなブレーキ強度を算出することを、更に実行し、
前記衝突回避処理において、前記ブレーキ強度となるように、前記アクチュエータに前記ブレーキペダルを駆動させる、
作業機械の安全装置。
【請求項5】
前記衝突回避装置は、所定の発報を出力する発報装置を更に含み、
前記プロセッサは、前記衝突回避処理において、前記発報装置から前記発報を出力させる、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の作業機械の安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ショベル、フォークリフト等の作業機械が用いられる現場では、作業機械とその周囲の人物との接触事故の防止が図られている。例えば、作業機械の車体の周辺に存在する障害物をオペレータが視認できるように、ミラーやカメラを設置した作業機械が実用化されている。そして、カメラが撮影した画像を作業機械の運転室内のディスプレイに表示するシステムが知られている。
【0003】
一方、近年、自動車等の車両においては、カメラやライダー(LiDAR)等を用いて車両周辺の物体を認識して衝突を回避する衝突回避装置が搭載されている。そして、このような衝突回避装置では、車両が物体に衝突する危険が生じた場合にブレーキを作動させる技術が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、車両が物体に衝突する危険が生じた場合に、車両の既存のブレーキペダルをアクチュエータにより機械的に直接駆動して車両にブレーキをかける衝突回避装置が開示されている。この衝突回避装置では、車両と物体との空間位置及び距離を検知するためのミリ波レーダ-と物体の種類を見分けるための単眼カメラとが一体化されたキットを用いて、車両の物体に衝突する危険度が判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-65543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ショベル、フォークリフト等の作業機械とその周囲の人物との接触を抑制するためには、作業機械の周囲を広範囲に亘って監視する必要がある。ここで、特許文献1に記載の技術によれば、ミリ波レーダ-と単眼カメラとが一体化されたキットが、作業機械の周囲を監視する物体認識装置として機能するようにも思われる。しかしながら、当該技術では、ミリ波レーダ-によって空間位置及び距離が検知されることになるため、これを用いて作業機械の周囲を監視しようとしても、作業機械の周囲を広範囲に亘って監視することが困難である。
【0007】
一方、カメラ等を複数用いて作業機械の周囲を広範囲に亘って監視することも考えられるが、この場合、例えば、複数の画像を合成して鳥瞰画像が生成されることになるため、画像の合成部分が死角になってしまう虞がある。また、複数のカメラ等を作業機械に配置する場合には、コストとスペースが問題となり得る。
【0008】
本開示の目的は、可及的に少ないカメラ数で作業機械の周囲を広範囲に亘って監視できるとともに、作業機械の既存の作動制御装置に容易に後付けできる作業機械の安全装置を提供することで、低コストで、作業機械とその周囲の人物との接触を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の作業機械の安全装置は、作業機械に設置され、該作業機械の周囲を撮影する半天球カメラと、前記半天球カメラによって撮影された前記作業機械の周囲画像を表す撮影画像データを取得し、該撮影画像データに基づいて所定の処理を実行するプロセッサと、前記作業機械に予め設置され該作業機械の作動を制御する所定の作動制御装置に所定の操作を行う衝突回避装置と、を備える。そして、前記プロセッサは、前記撮影画像データから人物画像を抽出する抽出処理と、抽出された前記人物画像に基づいて、前記作業機械の周囲の人物が該作業機械の作動範囲に属しているか否かを判別する判定処理と、前記判定処理によって前記作業機械の作動範囲に人物が属していると判定された場合に、前記衝突回避装置を作動させ、該作業機械の走行が停止されるように、該衝突回避装置に前記作動制御装置を操作させる衝突回避処理と、を実行する。
【0010】
このような作業機械の安全装置は、半天球カメラ、画像処理装置、および衝突回避装置といった簡易な構成によって実現され、これらを既存の作業機械に配置するだけで、作業機械に該作業機械とその周囲の人物との接触を回避するための安全装置を簡単に設置することができる。また、1つの半天球カメラによって、作業機械の周囲を広範囲に亘って視野が欠けることなく撮影することができるため、低コストで作業機械とその周囲の人物との接触を回避することができる。更に、このような安全装置において、前記衝突回避装置は、所定の発報を出力する発報装置を更に含み、前記プロセッサは、前記衝突回避処理において、前記発報装置から前記発報を出力させてもよい。ここで、発報装置が出力する発報は、例えば、警告灯や警告音である。これによれば、作業機械の走行を停止させる処理と併せて、発報装置からの発報で警告を行うことができる。
【0011】
そして、上記の作業機械の安全装置において、前記作業機械は、前記作動制御装置として、該作業機械の作動源である油圧の付加対象を乗員による油圧レバー操作に基づいて切り替える油圧制御弁を備えてもよい。そして、前記衝突回避装置は、前記油圧レバー操作によりオンオフされる前記油圧制御弁の作動スイッチを遮断する制御回路を有し、前記プロセッサは、前記衝突回避処理において、前記油圧レバー操作によらず前記作業機械の走行が停止されるように、前記制御回路に前記作動スイッチのうち前記作業機械の走行部の作動スイッチを遮断させてもよい。
【0012】
また、前記作業機械は、前記作動制御装置として、該作業機械が有する各作動部の全動作を停止させるロックレバーを更に備え、前記制御回路は、前記ロックレバーの作動状態を制御する制御信号を出力し、前記プロセッサは、前記衝突回避処理において、前記油圧レバー操作によらず前記作業機械の全動作が停止されるように、前記制御回路に前記制御信号を出力させてもよい。この場合、前記作業機械は、前記乗員による前記ロックレバーの機械的な操作を検出するセンサを更に備え、前記プロセッサは、前記センサからの出力に基づいて、前記乗員による前記ロックレバーの操作に対する検出情報を取得することと、前記衝突回避処理の実行後、前記検出情報に基づいて、前記乗員による前記ロックレバーの操作が検出された場合に、該衝突回避処理によって停止された前記作業機械の作動を復帰させることと、を更に実行してもよい。
【0013】
また、本開示の作業機械の安全装置において、前記作業機械は、前記作動制御装置として、該作業機械の走行を停止させるブレーキ機構を備えてもよい。そして、前記衝突回避装置は、前記ブレーキ機構が有するブレーキペダルに外力を付加することで該ブレーキペダルを駆動させるアクチュエータを有し、前記プロセッサは、前記衝突回避処理において、乗員による前記ブレーキペダルの操作によらず前記作業機械の走行が停止されるように、前記アクチュエータに前記ブレーキペダルを駆動させてもよい。
【0014】
この場合、前記作業機械は、該作業機械の走行状態を検出する第1センサと、該作業機械が運搬している荷物の量を検出する第2センサと、更に備え、前記プロセッサは、前記第1センサ及び前記第2センサからの出力に基づいて、前記作業機械が運搬している荷物の荷崩れが生じないようなブレーキ強度を算出することを、更に実行し、前記衝突回避処理において、前記ブレーキ強度となるように、前記アクチュエータに前記ブレーキペダルを駆動させてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、可及的に少ないカメラ数で作業機械の周囲を広範囲に亘って監視できるとともに、作業機械の既存の作動制御装置に容易に後付けできる作業機械の安全装置によって、低コストで、作業機械とその周囲の人物との接触を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態における作業機械の安全装置の概略構成を示す図である。
図2】第1実施形態に係る安全装置において、作業機械とその周囲の人物との接触を回避するために制御部が行う処理フローを示すフローチャートである。
図3】第1実施形態における事前学習モデルに対する入力から得られる識別結果と、該事前学習モデルを構成するニューラルネットワークを説明するための図である。
図4】足元角度と、半天球カメラの設置高さと、周囲人物との距離と、の関係を説明するための図である。
図5】第1実施形態に係る測距処理である足元測距において、判定処理部が行う処理フローを示すフローチャートである。
図6】カメラの内部パラメータとともに、該カメラのセンサ上に投影される被写体を説明するための図である。
図7】第1実施形態における衝突回避処理を実行するために、作業機械の既存の作動制御装置である油圧制御弁の作動スイッチに後付けされる衝突回避装置の詳細を説明するための図である。
図8】第2実施形態に係る衝突回避処理において、衝突回避処理部が行う処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本開示の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本開示は実施形態の構成に限定されない。
【0018】
<第1実施形態>
第1実施形態における作業機械の安全装置の概要について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態における作業機械の安全装置の概略構成を示す図である。本実施形態に係る作業機械の安全装置100は、作業機械10に設置され、該作業機械10の周囲を広範囲に亘って監視できるとともに、該作業機械10の既存の作動制御装置である油圧制御弁20の作動スイッチ21に容易に後付けでき、該作業機械10とその周囲の人物との接触を回避するための装置である。ここで、本実施形態における作業機械10とは、油圧ショベルである。そして、安全装置100は、半天球カメラ200と、画像処理装置300と、衝突回避装置400と、を備える。
【0019】
半天球カメラ200は、作業機械10に設置され該作業機械10の周囲を撮影する装置であって、静止画や動画等の画像の入力を受け付ける機能を有し、具体的には、Charged-Coupled Devices(CCD)、Metal-oxide-semiconductor(MOS)あるいはComplementary Metal-Oxide-Semiconductor(CMOS)等のイメージセンサを用いたカメラにより実現される。ここで、本実施形態では、図1(a)に示すように、半天球カメラ200は、作業機械10の上部旋回体11の上面に配置され、該半天球カメラ200の光軸L2が、地面との平行線L1に対して所定の角度で下方に向けられている。なお、この角度は、半天球カメラ200によって地面付近の人を撮影可能な角度として定義され、例えば、図1(a)に示すように、半天球カメラ200が上部旋回体11の上面に配置される場合には、該半天球カメラ200の光軸L2が地面に対して略垂直に向けられる。ただし、このように半天球カメラ200が地面に対して略垂直に向けられる態様に限定する意図はなく、半天球カメラ200は、前後左右いずれかの方向に傾けられてもよい。そして、本実施形態では、図1(b)に示すように、1つの半天球カメラ200が、作業機械10の運転室の上面に配置されている。このように、作業機械10に半天球カメラ200が設置されることで、可及的に少ないカメラ数で作業機械10の周囲を広範囲に亘って視野が欠けることなく撮影することができ、また、該半天球カメラ200が運転室の上面に配置されることで、該運転室の存在により生じ得る死角の影響を可及的に抑制することができる。
【0020】
画像処理装置300は、半天球カメラ200によって撮影された作業機械10の周囲画像を表す撮影画像データを取得し、該撮影画像データに基づいて所定の処理を実行する。
【0021】
ここで、画像処理装置300は、データの取得、生成、更新等の演算処理及び加工処理のための処理能力のある機器であればどの様な電子機器でもよく、例えば、コンピュータである。すなわち、画像処理装置300は、CPUやGPU等のプロセッサ、RAMやROM等の主記憶装置、EPROM、ハードディスクドライブ、リムーバブルメディア等の補助記憶装置を有するコンピュータとして構成することができる。なお、リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、あるいは、CDやDVDのようなディスク記録媒体であってもよい。補助記憶装置には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納されている。
【0022】
衝突回避装置400は、作業機械10に予め設置された既存の作動制御装置である油圧制御弁20の作動スイッチ21に所定の操作を行う装置である。上述したように、本実施形態における作業機械10は油圧ショベルであって、上記の油圧制御弁20は、作業機械10の作動源である油圧の付加対象を、該作業機械10のオペレータである作業機械10の乗員による油圧レバー操作に基づいて切り替える油圧の流路切替弁である。なお、作業機械10には、油圧制御弁20を駆動するための油圧レバー40が設けられており、上記の乗員による油圧レバー操作とは、乗員による該油圧レバー40の操作である。また、上記の油圧の付加対象とは、作業機械10の走行部、旋回部、アーム部、ブレード部等である。そして、上記の油圧レバー操作によって、油圧制御弁20の作動スイッチ21がオンオフされることで、油圧の付加対象が切り替えられることになる。衝突回避装置400は、このような作動スイッチ21を遮断する制御回路を有し、後述するように、作業機械10の作動範囲に人物が属している場合に、該作業機械10の走行部12の作動スイッチを遮断する。
【0023】
また、衝突回避装置400は、発報装置500を有していてもよい。発報装置500は、所定の発報を出力する装置である。ここで、所定の発報とは、警告灯や警告音などである。本実施形態では、図1(a)および図1(b)に示すように、発報装置500として、例えば、パトライト(登録商標)が上部旋回体11の上面に配置されてもよい。そうすると、安全装置100は、例えば、パトライト(登録商標)が発する警告灯によって、作業機械10の周囲の人物に対して警告を行うことができる。また、作業機械10のオペレータに対して、該作業機械10への人の接近を認知させることができる。なお、発報装置500は、例えば、パトライト(登録商標)とスピーカーとを含んでもよい。この場合、安全装置100は、警告灯と警告音によって、警告を行うことができる。
【0024】
また、安全装置100は、表示装置600を更に備えてもよい。ここで、表示装置600は、半天球カメラ200によって撮影された撮影画像データ又は/及び該撮影画像データに基づく処理により取得された所定のデータを表示可能に構成された装置である。このような表示装置600は、例えば、作業機械10の運転室内に設けられる。これにより、作業機械10のオペレータは、該作業機械10の車体の周辺に存在する障害物を、表示装置600を介して視認できるようになる。
【0025】
以上に述べたように、本開示の作業機械の安全装置100は、半天球カメラ200、画像処理装置300、および衝突回避装置400といった簡易な構成によって実現され、これらを既存の作業機械10に配置するだけで、作業機械10に該作業機械10とその周囲の人物との接触を回避するための安全装置100を簡単に設置することができる。また、1つの半天球カメラ200によって、作業機械10の周囲を広範囲に亘って視野が欠けることなく撮影することができるため、低コストで作業機械とその周囲の人物との接触を回避することができる。
【0026】
次に、図1(c)に基づいて、画像処理装置300の構成要素の詳細な説明を行う。図1(c)は、第1実施形態における、安全装置100に含まれる画像処理装置300の構成要素をより詳細に示した図である。
【0027】
画像処理装置300は、機能部として記憶部302、制御部303を有しており、補助記憶装置に格納されたプログラムを主記憶装置の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各機能部等が制御されることによって、各機能部における所定の目的に合致した各機能を実現することができる。ただし、一部または全部の機能はASICやFPGAのようなハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0028】
記憶部302は、主記憶装置と補助記憶装置を含んで構成される。主記憶装置は、制御部303によって実行されるプログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが展開されるメモリである。補助記憶装置は、制御部303において実行されるプログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが記憶される装置である。
【0029】
また、記憶部302は、後述する事前学習モデルを記憶してもよい。この事前学習モデルは、後述する抽出処理に用いることができる。ここで、画像処理装置300の機能がFPGAのようなハードウェア回路によって実現される場合、事前学習モデルはFPGAに内蔵されたメモリに記憶されてもよい。
【0030】
制御部303は、画像処理装置300が行う処理を司る機能部である。制御部303は、CPUなどの演算処理装置によって実現することができる。制御部303は、更に、取得部3031と、抽出処理部3032と、判定処理部3033と、衝突回避処理部3034と、の4つの機能部を有して構成される。各機能部は、記憶されたプログラムをCPUによって実行することで実現してもよい。なお、制御部303が、取得部3031、抽出処理部3032、判定処理部3033、および衝突回避処理部3034の処理を実行することで、本開示に係るプロセッサとして機能する。そして、このプロセッサが、画像処理装置300を構成する集積回路に実装されることで、上記機能部の処理を実行するプロセッサが作業機械10に設置されることになる。
【0031】
ここで、制御部303が行う処理フローについて、図2に基づいて説明する。図2は、本実施形態に係る安全装置100において、作業機械10とその周囲の人物との接触を回避するために制御部303が行う処理フローを示すフローチャートである。本実施形態では、安全装置100の電源が入れられると本フローの実行が開始され、安全装置100の作動中に所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0032】
本フローでは、先ず、S101において、取得部3031が、半天球カメラ200によって撮影された作業機械10の周囲画像を表す撮影画像データを取得する。ここで、半天球カメラ200および画像処理装置300は通信部を有しており、これらの通信部がネットワークを介して接続されることで、取得部3031が上記の撮影画像データを取得することが可能になる。なお、ネットワークは、無線であっても有線であっても無線と有線の組み合わせであってもよい。
【0033】
次に、S102において、抽出処理部3032が、撮影画像データから人物画像を抽出する抽出処理を実行する。この抽出処理では、作業機械10の周囲に人が存在して、その人が半天球カメラ200によって撮影されている場合には、撮影画像データから人物画像を抽出することができる。ここで、抽出処理部3032は、作業機械10の運転室内のオペレータを除外して人物画像を抽出する。なお、この抽出処理の詳細については、後述する。
【0034】
次に、S103において、判定処理部3033が、作業機械10の周囲の人物が該作業機械10の作動範囲に属しているか否かを判別する。ここで、判定処理部3033は、上述した抽出処理の結果に基づいて、作業機械10の周囲に人物が存在する場合には、その人物が該作業機械10の作動範囲に属しているか否かを判別する。そして、S103において肯定判定された場合、制御部303はS104の処理へ進み、S103において否定判定された場合、本フローの実行が終了される。
【0035】
ここで、S103における判定処理では、作業機械10の作動範囲が画像上に予め定義された標準画像データと、抽出処理によって抽出された人物画像を含んだ撮影画像データと、を比較することで、該人物画像が、標準画像データで定義されている作業機械10の作動範囲内に属しているか否かを判別してもよい。また、S103における判定処理では、作業機械10とその周囲の人物との距離を測定する測距処理を更に実行し、その測定結果に基づいて、人物が該作業機械10の作動範囲に属しているか否かを判別してもよい。この測距処理では、抽出処理によって抽出された人物画像と、半天球カメラ200の設置パラメータと、に基づいて、作業機械10とその周囲の人物との距離を測定する処理であって、その詳細については後述する。
【0036】
そして、S103において肯定判定された場合、次に、S104において、衝突回避処理部3034が、衝突回避処理を実行する。ここで、衝突回避処理は、衝突回避装置400を作動させ、作業機械10の走行が停止されるように、該衝突回避装置400に作業機械10の作動制御装置を操作させる処理であって、本実施形態では、乗員による油圧レバー操作によらず作業機械10の走行が停止されるように、上述した制御回路に油圧制御弁20の作動スイッチ21のうち作業機械10の走行部12の作動スイッチを遮断させる処理である。なお、この衝突回避処理の詳細については、後述する。また、衝突回避処理では、上記の処理と併せて、発報装置500から発報を出力させてもよい。そして、S104の処理の後、本フローの実行が終了される。
【0037】
以上に述べた処理によれば、1つの半天球カメラ200という可及的に少ないカメラ数で作業機械10の周囲を広範囲に亘って監視でき、抽出処理によって抽出された人物画像に基づいて、乗員による油圧レバー操作によらず作業機械10の走行が停止されるように衝突回避処理が実行されることで、作業機械とその周囲の人物との接触を回避することができる。
【0038】
(抽出処理)
次に、抽出処理部3032が実行する抽出処理の詳細について説明する。本実施形態の抽出処理では、事前学習モデルに撮影画像データが入力されることで、人物画像が抽出される。そして、事前学習モデルは、人物を表す画像を含んだデータを用いて学習を行うことにより構築される。
【0039】
ここで、図3は、本実施形態における事前学習モデルに対する入力から得られる識別結果と、該事前学習モデルを構成するニューラルネットワークを説明するための図である。本実施形態では、事前学習モデルとして、ディープラーニングにより生成されるニューラルネットワークモデルを用いる。本実施形態における事前学習モデル30は、所定の画像データの入力を受け付ける入力層31と、入力層31に入力された該画像データから人物を表す特徴量を抽出する中間層(隠れ層)32と、特徴量に基づく識別結果を出力する出力層33とを有する。なお、図4の例では、事前学習モデル30は、1層の中間層32を有しており、入力層31の出力が中間層32に入力され、中間層32の出力が出力層33に入力されている。ただし、中間層32の数は、1層に限られなくてもよく、事前学習モデル30は、2層以上の中間層32を有してもよい。
【0040】
また、図3によると、各層31~33は、1又は複数のニューロンを備えている。例えば、入力層31のニューロンの数は、入力される画像データに応じて設定することができる。また、出力層33のニューロンの数は、識別結果である人物画像に応じて設定することができる。
【0041】
そして、隣接する層のニューロン同士は適宜結合され、各結合には重み(結合荷重)が機械学習の結果に基づいて設定される。図3の例では、各ニューロンは、隣接する層の全てのニューロンと結合されているが、ニューロンの結合は、このような例に限定されなくてもよく、適宜設定することができる。
【0042】
このような事前学習モデル30は、例えば、人物を表す画像を含んだ画像データと、人物を表す画像のラベルと、の組みである教師データを用いて教師あり学習を行うことで構築される。具体的には、特徴量とラベルとの組みをニューラルネットワークに与え、ニューラルネットワークの出力がラベルと同じとなるように、ニューロン同士の結合の重みがチューニングされる。このようにして、教師データの特徴を学習し、入力から結果を推定するための事前学習モデルが帰納的に獲得される。
【0043】
なお、上記の図1に示したように、半天球カメラ200が作業機械10の上部旋回体11の上面に配置される場合には、半天球カメラ200によって撮影される作業機械10の周囲画像は、該作業機械10の上方からの俯瞰画像になる傾向がある。そこで、本実施形態では、事前学習モデルを構築するために学習される画像データに俯瞰画像が用いられてもよい。このように、事前学習モデルを構築するために学習される画像データに俯瞰画像が用いられることで、撮影画像データから人物画像をより精度よく抽出することが可能となる。
【0044】
また、事前学習モデル30は、教師なし学習を行うことで構築されてもよい。教師なし学習には、例えば、転移学習の一種であるドメイン適応を用いることができる。これによれば、ラベルが付された教師データを大量に用意することなく、事前学習モデルを獲得することができる。
【0045】
ここで、本実施形態では、上述したように、画像処理装置300の機能をFPGAのようなハードウェア回路によって実現することができる。この場合、事前学習モデルはFPGAに内蔵されたメモリに記憶され得る。これによれば、事前学習モデルを用いた抽出処理を可及的速やかに実行することができ、以て、より迅速に作業機械10の周辺を監視することができる。
【0046】
このように、本実施形態の抽出処理によれば、事前学習モデルを用いることで、撮影画像データから人物画像を精度よく抽出することができる。
【0047】
(測距処理)
次に、判定処理部3033が実行し得る測距処理の詳細について説明する。本実施形態の測距処理では、抽出処理によって抽出された人物画像と、半天球カメラ200の設置パラメータと、に基づいて、作業機械10とその周囲の人物との距離が測定される。そして、このような測距処理について、本実施形態では、人物画像の足元の画像に基づいて測距する足元測距が用いられる。
【0048】
足元測距では、判定処理部3033は、撮影画像データにおける人物画像の足元の二次元座標である足元座標を取得する。そして、足元座標に基づいて、作業機械10の周囲の人物の足元と半天球カメラ200との間の所定の角度である足元角度を算出する。そうすると、判定処理部3033は、算出された足元角度と、半天球カメラ200の設置高さと、に基づいて、作業機械10とその周囲の人物との距離を測定することができる。
【0049】
図4は、足元角度と、半天球カメラ200の設置高さと、周囲人物との距離と、の関係を説明するための図である。ここで、周囲人物とは、作業機械10の周囲の人物であって、この周囲人物と作業機械10との距離である周囲人物との距離が、図4における距離Dとして表される。そして、地面からの半天球カメラ200の設置高さが、図4における高さhとして表される。また、上述した、周囲人物の足元と半天球カメラ200との間の足元角度が、図4における角度θとして表される。そうすると、周囲人物との距離Dを下記式1で算出することができる。
【数1】
D:周囲人物との距離(mm)
h:半天球カメラ200の設置高さ(mm)
θ:足元角度(degree)
【0050】
そして、判定処理部3033は、上記式1に基づく周囲人物との距離Dを算出するために、図5に示す処理フローを実行する。図5は、本実施形態に係る測距処理である足元測距において、判定処理部3033が行う処理フローを示すフローチャートである。本フローは、上記の図2に示したS103の内部処理として実行され得る。
【0051】
本フローでは、先ず、S1031において、足元座標(撮影画像データにおける人物画像の足元の二次元座標)が取得される。これについて、図6に基づいて説明する。図6は、カメラの内部パラメータとともに、該カメラのセンサ上に投影される被写体を説明するための図である。図6に示す例では、周囲人物が、カメラの光軸L2からY軸方向にずれた位置に存在している。この場合、判定処理部3033は、センサ上に投影された周囲人物の足元の座標yを足元座標として取得する。
【0052】
そして、図5に戻って、次に、S1032において、足元角度(作業機械10の周囲の人物の足元と半天球カメラ200との間の角度)が算出される。ここで、周囲人物が、カメラの光軸L2からX軸およびY軸方向にずれた位置に存在している場合を仮定すると、上記のS1031の処理において、判定処理部3033は、センサ上に投影された周囲人物の足元のx座標およびy座標を取得する。そして、S1032の処理では、先ず、これら座標の光軸L2からの距離が下記式2で算出される。
【数2】
dist:足元座標の光軸からの距離(pixel)
x:足元座標のx座標(pixel)
y:足元座標のy座標(pixel)
xcen:センサ上の光軸のx座標(pixel)
ycen:センサ上の光軸のy座標(pixel)
なお、センサ上の光軸の座標(xcen、ycen)は、カメラの内部パラメータとして予め定められる。
【0053】
そして、足元角度θは、上記の図6に基づいて、下記式3で算出することができる。
【数3】
θ:足元角度(degree)
f:レンズの焦点距離(mm)
dist:足元座標の光軸からの距離(pixel)
N:カメラの画素サイズ(mm/pixel)
【0054】
そして、図5に戻って、次に、S1033において、半天球カメラ200の設置高さが取得される。半天球カメラ200の設置高さは、安全装置100が設置される作業機械10に応じて予め定められる。なお、判定処理部3033は、S1033の処理をS1031の処理の前に行ってもよい。
【0055】
次に、S1034において、S1032の処理で算出された足元角度と、S1033の処理で取得された半天球カメラ200の設置高さと、に基づいて、作業機械10とその周囲の人物との距離が測定される。詳しくは、判定処理部3033は、上記式1に基づいて、作業機械10とその周囲の人物との距離を算出する。
【0056】
そして、S1034の処理の後、制御部303は、この測距処理によって測定された上記の距離が所定値以下であるか否かを判別することで、作業機械10の周囲の人物が該作業機械10の作動範囲に属しているか否かを判別してもよい。この場合、上記の所定値とは、作業機械10の作動範囲として定められ得る距離であって、例えば、作業機械10の大きさ等に基づいて、予め定められ得る。
【0057】
(衝突回避処理)
次に、衝突回避処理部3034が実行する衝突回避処理の詳細について説明する。本実施形態の衝突回避処理では、上述したように、乗員による油圧レバー操作によらず作業機械10の走行が停止されるように、衝突回避装置400が有する制御回路に油圧制御弁20の作動スイッチ21のうち作業機械10の走行部12の作動スイッチを遮断させる。これについて、図7に基づいて説明する。
【0058】
図7は、本実施形態における衝突回避処理を実行するために、作業機械10の既存の作動制御装置である油圧制御弁20の作動スイッチ21に後付けされる衝突回避装置400の詳細を説明するための図である。ここで、図7(a)は、既存の作業機械10を例示する図であって、図7(b)は、安全装置100が後付けされた作業機械10を例示する図である。
【0059】
本実施形態の作業機械10は、図7(a)に示すように、油圧レバー40と作動スイッチ21とが機械的に接続されていて、作業機械10の乗員による油圧レバー操作に基づく油圧レバー40への入力によって、油圧制御弁20の作動スイッチ21がオンオフされる。ここで、油圧制御弁20は、油圧の流路を切り替えるソレノイドバルブであって、油圧制御弁20と作動スイッチ21とがコネクタによって電気的に接続されることで、作動スイッチ21のオンオフに応じて油圧制御弁20が作動することになる。そして、油圧制御弁20は、油圧回路を介して、作業機械10が有する作動部の1つである走行部12を駆動する油圧モータに油圧が付加されるように、流路を切り替えることで、作業機械10の前進および後進を制御することができる。
【0060】
そして、本実施形態では、図7(b)に示すように、衝突回避装置400が有する制御回路が、作動スイッチ21と油圧制御弁20との間に介装される。このとき、上記の制御回路からの配線が、作動スイッチ21からの配線と油圧制御弁20からの配線とに夫々コネクタで接続されることで、制御回路が作動スイッチ21と油圧制御弁20との間に介装され得る。
【0061】
そうすると、作動スイッチ21のオンオフ情報に関する電気信号は、衝突回避装置400が有する制御回路を経由して油圧制御弁20に伝えられることになる。そして、作業機械10の周囲の人物が該作業機械10の作動範囲に属していない場合には、制御回路は、作動スイッチ21のオンオフ情報に関する電気信号をそのまま油圧制御弁20に伝送する。このとき、衝突回避装置400は、画像処理装置300からの判定処理結果に基づいて、上記の処理を実行する。
【0062】
一方、画像処理装置300からの判定処理結果において、作業機械10の周囲の人物が該作業機械10の作動範囲に属していると判定される場合には、衝突回避装置400は、画像処理装置300からの該判定結果を取得し、乗員による油圧レバー操作によらず作業機械10の走行が停止されるように、つまり、作動スイッチ21が走行部12の油圧モータをオンにする電気信号を送っていたとしても該油圧モータが作動しないように、該作動スイッチの電気信号を遮断する。そうすると、油圧制御弁20には、上記の油圧モータへの油圧の付加をオフにする電気信号が伝えられることになり、該油圧モータへの油圧の供給が遮断される。これにより、作業機械10の走行が停止される。これによれば、作業機械10の周囲の人物が該作業機械10の作動範囲に属していると判定された場合に、速やかに自動的に作業機械10の走行が停止されることになり、以て、作業機械10とその周囲の人物との接触を回避することができる。
【0063】
そして、上述したように、衝突回避装置400が有する制御回路は、作動スイッチ21と油圧制御弁20との間に容易に介装され得る。そのため、本開示によれば、安全装置100を作業機械10の既存の作動制御装置に容易に後付けすることができ、以て、低コストで、作業機械10とその周囲の人物との接触を回避することが可能になる。
【0064】
以上に述べたように、本実施形態によれば、可及的に少ないカメラ数で作業機械の周囲を広範囲に亘って監視できるとともに、作業機械の既存の作動制御装置に容易に後付けできる作業機械の安全装置を提供することで、低コストで、作業機械とその周囲の人物との接触を回避することできる。
【0065】
<第1実施形態の変形例>
上記第1実施形態の変形例について説明する。本変形例に係る作業機械10は、作動制御装置として、該作業機械10が有する各作動部(走行部、旋回部、アーム部、ブレード部等)の全動作を停止させるロックレバーを更に備える。そして、上述した第1実施形態では、衝突回避装置400が有する制御回路が、油圧制御弁20の作動スイッチ21を遮断するのに対して、本変形例に係る制御回路は、上記のロックレバーの作動状態を制御する制御信号を出力する機能を更に有する。そして、画像処理装置300は、衝突回避処理において、油圧レバー操作によらず作業機械の全動作が停止されるように、上記の制御回路に上記の制御信号を出力させる。
【0066】
詳しくは、上述した第1実施形態の説明で述べた図2の処理フローのS104の処理において、衝突回避処理部3034が、油圧レバー操作によらず作業機械10の全動作が停止されるように、衝突回避装置400が有する制御回路に所定の制御信号を出力させる。
【0067】
ここで、ロックレバーは、上記の第1実施形態の油圧レバー40と同様に、油圧制御弁20に電気信号を伝送する作動スイッチと機械的に接続されていて、作業機械10の乗員による該ロックレバーの操作に基づいて、該作動スイッチがオンオフされる。なお、この作動スイッチがオンされた状態とは、作業機械10が有する各作動部の全動作が停止されるように油圧がロックされた状態であって、このとき、油圧制御弁20は、作業機械10が有する各作動部への油圧の供給が遮断されるように作動する。つまり、作業機械10の乗員は、例えば、緊急時に、上記の作動スイッチがオンされるようにロックレバーを操作することで、作業機械10を緊急停止させることができる。
【0068】
そして、本変形例に係る制御回路は、上述した第1実施形態の説明で述べた制御回路の場合と同様にして、上記の作動スイッチと油圧制御弁20との間に介装され得る。つまり、上記の作動スイッチのオンオフ情報に関する電気信号は、衝突回避装置400が有する制御回路を経由して油圧制御弁20に伝えられることになる。
【0069】
そうすると、衝突回避処理部3034は、S104の処理において、乗員による油圧レバー操作によらず作業機械10の全動作が停止されるように、つまり、上述した第1実施形態の説明で述べた作動スイッチ21が作業機械10の任意の作動部の油圧装置をオンにする電気信号を送っていたとしても該油圧装置が作動しないように、そして、ロックレバーと機械的に接続された作動スイッチがオフされていたとしても、制御回路に、作業機械10が有する各作動部への油圧の供給を遮断する制御信号を出力させる。これにより、作業機械10の周囲の人物が該作業機械10の作動範囲に属していると判定された場合に、速やかに自動的に作業機械10の全動作を停止させることができ、以て、作業機械10とその周囲の人物との接触をより好適に回避することができる。
【0070】
そして、このようにして作業機械10の動作が停止された場合、衝突回避処理部3034は、例えば、所定時間(例えば10秒)経過後に、停止状態を解除させ作業機械10の作動を自動復帰させてもよい。この場合、衝突回避処理部3034は、画像処理装置300からの作業機械10の作動範囲には既に人物が属していないという判定結果を取得した後に、上記の制御回路からの制御信号の出力を停止させることで、作業機械10の作動を自動復帰させることができる。
【0071】
なお、作業機械10の乗員の意思によらず作業機械10の作動が自動復帰されると、場合によっては、該乗員が作業機械10を誤操作してしまう事態が生じる虞がある。そのため、衝突回避処理部3034は、衝突回避処理によって作業機械10の走行が停止された後、または衝突回避処理によって作業機械10の全動作が停止された後、作業機械10の乗員によるロックレバーの操作が検出された場合に、作業機械10の作動を復帰させてもよい。
【0072】
この場合、作業機械10は、作業機械10の乗員によるロックレバーの機械的な操作を検出するセンサを更に備える。ここで、上記のセンサとは、例えば、距離センサであって、ロックレバーのシフトストローク部において、該レバーの操作方向と直交する部分の距離を周期的に計測し、この計測部分をロックレバーが通過したときの計測距離の変化を検出することで、乗員によるロックレバーの機械的な操作を検出するものである。
【0073】
そして、衝突回避処理部3034は、上記のセンサからの出力に基づいて、乗員によるロックレバーの操作に対する検出情報を取得し、該検出情報に基づいて、乗員によるロックレバーの操作が検出された場合、つまり、上記のセンサによって上記の計測距離の変化が検出された場合に、衝突回避処理によって停止された作業機械10の作動を復帰させることができる。なお、このとき、衝突回避処理部3034は、上記に加えて乗員による他の操作(例えば、作業機械10の操作に供されるタッチパネルに対する復帰操作)を検出し、それに基づいて作業機械10の作動を復帰させてもよい。
【0074】
そうすると、作業機械10の乗員によってロックレバーが操作されるまでは、衝突回避処理による作業機械10の走行の停止状態、または衝突回避処理による作業機械10の全動作の停止状態が維持されることになる。これにより、例えば、作業機械10の乗員が作業機械10を誤操作してしまうことによる該作業機械10の予期せぬ作動を抑制することができ、以て、作業機械10の作動をより安全に復帰させることができる。そして、作業機械10の乗員は、衝突回避処理によって停止された作業機械10の走行、または衝突回避処理によって停止された作業機械10の全動作を復帰させる意思を、ロックレバーを操作することで簡単に作業機械10に入力することができ、以て、安全性を維持しながら利便性を可及的に高めることができる。
【0075】
<第2実施形態>
第2実施形態について説明する。本実施形態に係る作業機械の安全装置100は、作業機械10に設置され、該作業機械10の周囲を広範囲に亘って監視できるとともに、該作業機械10の既存の作動制御装置であるブレーキ機構のブレーキペダルに容易に後付けでき、該作業機械10とその周囲の人物との接触を回避するための装置である。ここで、本実施形態における作業機械10とは、フォークリフトである。そして、安全装置100は、上述した第1実施形態と同様に、半天球カメラ200と、画像処理装置300と、衝突回避装置400と、を備える。
【0076】
そして、本実施形態の衝突回避装置400は、作業機械10に予め設置された既存の作動制御装置であるブレーキ機構のブレーキペダルに所定の操作を行う装置であって、ブレーキペダルに外力を付加することで該ブレーキペダルを駆動させるアクチュエータを有する。そして、画像処理装置300は、衝突回避処理において、作業機械10の乗員によるブレーキペダルの操作によらず作業機械10の走行が停止されるように、アクチュエータにブレーキペダルを駆動させる。
【0077】
詳しくは、上述した第1実施形態の説明で述べた図2の処理フローのS104の処理において、衝突回避処理部3034が、上述したアクチュエータにブレーキペダルを駆動させる処理を実行する。なお、ブレーキペダルに外力を付加するアクチュエータは、周知の技術(例えば、自動車に自動ブレーキをかける衝突回避装置の技術)を用いて、既存の作業機械10に容易に後付けすることができる。
【0078】
ここで、フォークリフトのような作業機械10では、その走行が前進のみならず後進も頻繁に行われることになるため、自動車のように前方を監視した衝突回避装置では、作業機械10とその周囲の人物との接触を回避することができない虞がある。
【0079】
これに対して、本実施形態では、半天球カメラ200によって作業機械10の周囲画像が撮影されるため、上記の図2の処理フローのS103の処理において、作業機械10の全周に亘って、作業機械10の周囲の人物が該作業機械10の作動範囲に属しているか否かが判別される。これにより、その走行が前進のみならず後進も頻繁に行われるフォークリフトのような作業機械10においても、作業機械10とその周囲の人物との接触を回避することができる。
【0080】
また、フォークリフトのような作業機械10は、荷物を運搬するために用いられ得る。そうすると、衝突回避処理によって作業機械10が急制動されると、該作業機械10が運搬している荷物の荷崩れが生じてしまう虞がある。
【0081】
そこで、本実施形態における衝突回避処理では、作業機械10が運搬している荷物の荷崩れが生じないようなブレーキ強度で該作業機械10の走行が停止されてもよい。これについて、図8に基づいて説明する。
【0082】
図8は、本実施形態に係る衝突回避処理において、衝突回避処理部3034が行う処理フローを示すフローチャートである。本フローは、上記の図2に示したS104の内部処理として実行され得る。
【0083】
本フローでは、先ず、S1041において、作業機械10の走行状態が取得される。ここで、上記の走行状態とは、作業機械10の車速、車体傾き、作用する荷重、加速度等であって、これらを検出可能な周知のセンサ(本開示の第1センサに相当)によって検出される。衝突回避処理部3034は、このようなセンサからの出力に基づいて、作業機械10の走行状態を取得する。
【0084】
次に、S1042において、作業機械10が運搬している荷物の量が取得される。ここで、例えば、作業機械10(フォークリフト)のフォーク部には重量センサ(本開示の第2センサに相当)が設けられていて、衝突回避処理部3034は、このようなセンサからの出力に基づいて、例えば、作業機械10が運搬している荷物の量として、作業機械10が運搬している荷物の重さを取得する。
【0085】
次に、S1043において、衝突回避処理で作業機械10にブレーキをかけるときのブレーキが算出される。ここで、作業機械10の走行状態と、作業機械10が運搬している荷物の重さと、によると、該作業機械10の走行状態が変化したときの該荷物に作用する慣性力を算出することができる。そして、作業機械10が運搬している荷物の荷崩れが生じる可能性がある慣性力は、荷物の荷崩れ条件として予め定められ得る。そうすると、衝突回避処理部3034は、取得した作業機械10の走行状態および運搬している荷物の重さと、予め定められた荷物の荷崩れ条件と、に基づいて、作業機械10が運搬している荷物の荷崩れが生じないようなブレーキ強度を算出することができる。
【0086】
衝突回避処理部3034は、算出したブレーキ強度となるように、上記のアクチュエータにブレーキペダルを駆動させる。なお、アクチュエータによるブレーキペダルの駆動力と、ブレーキ強度と、の相関が予め定められていて、衝突回避処理部3034は、この相関に基づいて、アクチュエータにブレーキペダルを駆動させることができる。
【0087】
このような処理によれば、可及的に少ないカメラ数で作業機械の周囲を広範囲に亘って監視できるだけでなく、衝突回避処理をより安全に実行することができる。
【0088】
そして、以上に述べたように、本実施形態によれば、可及的に少ないカメラ数で作業機械の周囲を広範囲に亘って監視できるとともに、作業機械の既存の作動制御装置に容易に後付けできる作業機械の安全装置を提供することで、低コストで、作業機械とその周囲の人物との接触を回避することできる。
【0089】
<その他の変形例>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうる。例えば、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0090】
なお、上記の実施形態では、作業機械10の走行部が油圧によって駆動される例について説明したが、作業機械10を走行させる駆動源は、エンジンや電気モータであってもよい。この場合、作業機械10は、作動制御装置として、エンジン又は/及びモータを備えるとともに、該作業機械10を走行させるために乗員により操作され得るアクセルペダルを備える。
【0091】
更に、この場合、衝突回避装置400は、このような駆動源からの駆動力の出力を停止させる制御回路を有する。
【0092】
そして、画像処理装置300は、衝突回避処理において、作業機械10の乗員によるアクセルペダルの操作によらず作業機械10の走行が停止されるように、エンジン又は/及びモータからの駆動力の出力を停止させる。これにより、仮に、作業機械10の乗員が該作業機械10の周囲の人物の存在に気づかずアクセルペダルを操作し続けたとしても、画像処理装置300が、作業機械10の周囲の人物が該作業機械10の作動範囲に属していると判定すると、該画像処理装置300によって、エンジン又は/及びモータからの駆動力の出力が停止されることになる。
【0093】
そうすると、作業機械10の駆動源がエンジンである場合には、該作業機械10にエンジンブレーキが作用し、また、作業機械10の駆動源が電気モータである場合には、該作業機械10に回生ブレーキが作用し、作業機械10が減速、停止されることになる。
【0094】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。例えば、抽出処理部3032を画像処理装置300とは別の集積回路に形成してもよい。このとき当該別の集積回路は画像処理装置300と好適に協働可能に構成される。また、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。集積回路において、各機能をどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0095】
本開示は、上記の実施形態で説明した機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク・ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード、フラッシュメモリ、光学式カード、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0096】
10・・・・作業機械
100・・・安全装置
200・・・半天球カメラ
300・・・画像処理装置
303・・・制御部
400・・・衝突回避装置
【要約】
【課題】可及的に少ないカメラ数で作業機械の周囲を広範囲に亘って監視できるとともに、作業機械の既存の作動制御装置に容易に後付けできる作業機械の安全装置を提供することで、低コストで、作業機械とその周囲の人物との接触を回避する。
【解決手段】本開示の作業機械の安全装置100は、作業機械10の周囲を撮影する半天球カメラ200と、撮影された作業機械10の周囲画像を表す撮影画像データに基づいて所定の処理を実行するプロセッサ303と、作業機械10に予め設置された作動制御装置に所定の操作を行う衝突回避装置400と、を備える。そして、プロセッサ303は、撮影画像データから人物画像を抽出し、作業機械10の周囲の人物が該作業機械の作動範囲に属しているか否かを判別し、作業機械10の走行が停止されるように衝突回避装置400に作動制御装置を操作させる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8