IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日星電気株式会社の特許一覧

特許7437858誘導ブリルアン散乱抑制方法、及び光源装置
<>
  • 特許-誘導ブリルアン散乱抑制方法、及び光源装置 図1
  • 特許-誘導ブリルアン散乱抑制方法、及び光源装置 図2
  • 特許-誘導ブリルアン散乱抑制方法、及び光源装置 図3
  • 特許-誘導ブリルアン散乱抑制方法、及び光源装置 図4
  • 特許-誘導ブリルアン散乱抑制方法、及び光源装置 図5
  • 特許-誘導ブリルアン散乱抑制方法、及び光源装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】誘導ブリルアン散乱抑制方法、及び光源装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/067 20060101AFI20240216BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20240216BHJP
   G02F 1/35 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
H01S3/067
H01S3/10 Z
G02F1/35 501
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020013081
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021119585
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西川 慎二
(72)【発明者】
【氏名】菖蒲 勇
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0280581(US,A1)
【文献】国際公開第2015/087564(WO,A1)
【文献】特表2017-525146(JP,A)
【文献】特開2010-171260(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165495(WO,A1)
【文献】特開2013-065713(JP,A)
【文献】特開平05-268168(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0292498(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
H01S 5/00 - 5/50
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
H04B 10/00 - 10/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバに第1波束、第2波束、・・・の順に、第N波束(Nは2以上の自然数) まで、複数の波束を入力することで、該光ファイバによって波束列を伝搬させる際に使用される誘導ブリルアン散乱抑制方法であって、
所定の周波数を有する波束を発生させる光源と、
該光源から該光ファイバへと至る光学系内に設けられ、入力された波束を該光ファイバと伝搬距離延長手段とへ分岐して入力する光分岐手段と、
該伝搬距離延長手段内に設けられた周波数調整手段とを使用し、
該光源に発生させた該第1波束を、該光分岐手段によって該光ファイバと該伝搬距離延長手段とに分岐して入力させるとともに、
該伝搬距離延長手段に入力された該第1波束を該周波数調整手段によって該所定の周波数とは異なる周波数に変換し、
周波数変換された該第1波束を該光分岐手段に入力し、周波数変換された該第1波束の少なくとも一部を該第2波束として該光分岐手段から該光ファイバに入力させることを特徴とする、誘導ブリルアン散乱抑制方法。
【請求項2】
該波束列を構成する複数の波束から任意に選択された第i波束(iはNより小さい自然数)の周波数νと、該第i波束の次に該光ファイバへ入力される第i+1波束の周波数νi+1の差は、該光ファイバのブリルアン利得幅よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の誘導ブリルアン散乱抑制方法。
【請求項3】
周波数νと周波数νi+1の差をΔνとした時、Δνは1≦i<Nの範囲において略一定であることを特徴とする、請求項2に記載の誘導ブリルアン散乱抑制方法。
【請求項4】
該光ファイバの長さをL、該光ファイバにおける波束の伝搬速度をV、波束列の持続時間をTとした際、Nの値がT≧2L/Vを満たすよう設定されていることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の誘導ブリルアン散乱抑制方法。
【請求項5】
該光ファイバは、所定の希土類元素が添加されたコアを有し、一端より該コアに入力された波束を増幅して他端より出力する増幅ファイバであることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の誘導ブリルアン散乱抑制方法。
【請求項6】
波束列を発生させる波束列発生手段と、該波束列発生手段で発生した波束列が入力される光ファイバとを有する光源装置であって、
該波束列発生手段は、所定の周波数を有する波束を発生させる光源と、該光源から該光ファイバへと至る光学系内に設けられた光分岐手段と、該光分岐手段に対して光学的に結合されるとともに入力された波束が再び該光分岐手段へと入力されるように構成された伝搬距離延長手段とを有し、
該光分岐手段は入力された波束を該光ファイバと該伝搬距離延長手段とへ分岐して入力するように設けられているとともに、
該波束列は少なくとも、該光源で発生した後に該光分岐手段から該光ファイバに直接入力される波束と、該伝搬距離延長手段を経由した後に該光分岐手段から該光ファイバに入力される波束とで構成され、
該波束列を構成する波束ごとに異なる周波数を付与する周波数調整手段が該伝搬距離延長手段内に備えられていることを特徴とする光源装置。
【請求項7】
該光ファイバは、所定の希土類元素が添加されたコアを有し、一端より該コアに入力された波束を増幅して他端より出力する増幅ファイバであることを特徴とする、請求項6に記載の光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導ブリルアン散乱を抑制する方法と、この方法を使用した光源装置に関するものであり、特に高出力の光エネルギーが要求されるレーザ装置に好適な方法、光源装置である。
【背景技術】
【0002】
種々の産業分野においてレーザ装置が使用されており、レーザによる加工、処理の高速化、高精細化のために、レーザ装置に高出力化、出力光のスペクトル幅の狭線化が要求される場面が存在する。
【0003】
レーザ装置に使用されるレーザ光源の態様の1つとして、図1に示した基本構成を有するファイバレーザが存在する。ファイバレーザは、信号光源1から発生した信号光2と、励起光源3から発生する励起光4を、光カプラ5を介して希土類元素を添加したコアを有する増幅用光ファイバ6へ入力し、励起光4がコアに添加された希土類元素に作用することで、増幅用光ファイバ6のコアを伝搬する信号光2を増幅し、高エネルギーを有するレーザ光8を得る。
【0004】
ファイバレーザは図1に示した基本構成を基に、信号光源1、励起光源3の制御や、増幅用光ファイバ6の選択などによって、高出力化や狭線化が実施される。
【0005】
一方で、ファイバレーザの高出力化、狭線化を行う際には、ファイバレーザを構成する光ファイバ内で発生する、誘導ブリルアン散乱(SBS:Stimulated Brillouin Scattering)と呼ばれる現象が障害となる。SBSは光ファイバ(光伝送媒質)に出力が高い光が入力された際に発生する現象であり、光が有する電場振動によって、光伝送媒質に音響振動が発生し、この振動によって所望する光の伝送方向の逆方向に光が散乱してしまう現象である。
【0006】
光ファイバがファイバレーザの増幅用光ファイバの場合や、他の光ファイバで発生したSBSが増幅用光ファイバに入力された場合、本来の増幅対象である信号光に加え、SBSによって発生した散乱光も増幅してしまう。このため、信号光由来の増幅光と、散乱光由来の増幅光が増幅用光ファイバに存在することになり、2つ増幅光が有するエネルギーの和に増幅用光ファイバが耐えられなくなり、増幅用光ファイバが焼損する可能性がある。
【0007】
増幅用光ファイバが焼損する可能性がある場合、ファイバレーザを構成する他のファイバにも焼損の可能性が発生する。このため、SBSが発生する環境下においては、光ファイバの焼損を防ぐためにSBSに起因する光ファイバへの負荷も考慮して出力光の出力を設定する必要があり、高出力化の妨げになる。
【0008】
加えて、SBSは光ファイバに入力される光のスペクトル幅が狭い場合、及び光ファイバが長い場合にも発生しやすいため、狭線化や、所望する場所への導光の妨げにもなる。
【0009】
SBSを抑制する方法としては、特許文献1、2の方法などが挙げられる。特許文献1では、光励起ファイバ増幅器の構成として、異なるブリルアン中心周波数を示すファイバセグメントを直列に配した構成を用いることで、SBSを抑制する方法が提案されている。しかしながら、特許文献1の方法では、ブリルアン中心周波数を考慮して使用する光ファイバを選定する必要があるため、光励起ファイバ増幅器の設計の自由度が損なわれる場面も存在する。
【0010】
特許文献2では、レーザ源で生成された光信号を二つの偏波成分に分割し、一方には時間遅延、他方には周波数シフトを導入した後に結合、出力させることで、SBSを抑制する方法が提案されている。しかしながら、特許文献2の方法は、長距離光ファイバ伝送システムへの適用を意図したものであり、より高エネルギーのレーザ光が求められるレーザ加工用途への適用については不十分な面も存在する。
【0011】
【文献】特許第4469357号
【文献】特許第3751542号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、レーザ光に代表される高エネルギーの光が光ファイバに入力された際に発生する誘導ブリルアン散乱を抑制する方法を提供するとともに、この方法を使用することで安定して高エネルギー、狭スペクトル幅の光を出力することができる光源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、光ファイバに入力される光として複数の波束を入力する際、各波束の周波数が互いに異なるように入力し、隣り合う波束の周波数の差、及び光ファイバに入力される波束列の持続時間を特定の範囲に設定することで、従来の問題を解消できることを究明した。
【0014】
本発明によって提供される誘導ブリルアン散乱抑制方法は、光ファイバに第1波束、第2波束、・・・の順に、第N波束(Nは2以上の自然数)まで、複数の波束を入力する際、各波束の周波数を互いに異ならせることを特徴とする。
【0015】
本発明によって提供される光源装置は、波束列を発生させる波束列発生手段と、波束列発生手段で発生した波束列が入力される光ファイバとを有し、波束列発生手段は、該波束列を構成する波束ごとに異なる周波数を付与する周波数調整手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の誘導ブリルアン散乱抑制方法にあっては、以下に記載した優れた効果が期待できる。

(1) 波束が入力される光ファイバの種類に依らず採用可能な方法であるため、本方法を用いた光源装置の設計の自由度が向上する。

(2) 入力される波束が高エネルギー、狭スペクトル幅の場合でも安定したSBS抑制が可能なため、レーザ加工機用途に用いられる光源装置にも好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ファイバレーザ装置の基本的構成である。
図2】波束と波束列の説明図である
図3】本発明の基本的概念、及び本発明を実施するための光源装置の概要を示す図である。
図4】本発明に係る光源装置の参考例である。
図5】本発明を実施するための光源装置の具体的態様である。
図6】本発明の実施例の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における波束と波束列について、図2を用いて説明する。
【0019】
波束Wは、図2(a)に示した一定の周波数で振動する光であるが、その持続時間tが調整できることを特徴とする。
【0020】
波束列WRは、図2(b)に示した、間欠的に発生する複数の波束Wで構成された信号光であり、第1波束W、第2波束W、・・・、第i波束W、・・・、第N波束Wの順に、N個の波束で構成される。Nは2以上の自然数であり、図2(b)はN=5の場合である。また、図2(b)中のTWRは波束列WRの持続時間である。
【0021】
本発明は、光ファイバに第1波束W、第2波束W、・・・の順に、第N波束W(Nは2以上の自然数)まで複数の波束を入力する際、各波束の周波数を互いに異なるものとすることが特徴である。すなわち、第1波束Wが有する周波数をν、第2波束Wが有する周波数をν、・・・、第N波束Wが有する周波数をνとした場合、ν~νが全て異なることを特徴とする。
【0022】
周波数の異なるN個の波束で構成された波束列WRは、図2(c)に示すように、繰り返し発生される。図2(c)はN=5の場合である。
【0023】
誘導ブリルアン散乱(SBS)は、光ファイバ、及び光ファイバに入力される光のパラメータ等によって決定されるSBS閾値を上回る条件の際に発生するが、SBS閾値は波束の持続時間に反比例する。
【0024】
光ファイバに互いに周波数が異なる波束が間欠的に入力された場合、各波束内で発生した逆方向へ伝搬する散乱光はそれぞれ異なる周波数を有するため、他の波束内でブリルアン増幅されることはない。このため、各波束の条件をSBS閾値を下回る条件、あるいはSBS閾値を上回っても許容できる範囲のSBS発生に留めている条件に設定した場合、過度なSBSを抑制しつつ、波束列を入力することができる。
【0025】
通常、周波数νの光が光ファイバに入力された際に発生する散乱光の周波数νは、νと比較して低周波数側にシフトしており、シフト量νは式1で表される。
【0026】
【0027】
式1において、nは光ファイバの屈折率、Vは音速、λは光ファイバに入力する光の波長である。
【0028】
散乱光がブリルアン増幅されるためには、散乱光が式1のνを中心としたブリルアン利得幅内の周波数を有する必要がある。
【0029】
したがって、本発明において光ファイバに入力する波束Wの周波数は、波束列WRを構成する複数の波束から任意に選択された第i波束W(iはNより小さい自然数)の周波数νと、第i波束Wの次に光ファイバへ入力される第i+1波束Wi+1の周波数νi+1の差が、光ファイバのブリルアン利得幅よりも大きいことが好ましい。
【0030】
ブリルアン利得幅は、様々な条件により変化しえるが、石英製の光ファイバでは概ね30~100MHz程度である。
【0031】
周波数νと周波数νi+1の差をΔνとした際、Δνがブリルアン利得幅よりも大きいことで、散乱光のブリルアン増幅は各波束内に限定され、SBSの抑制効果の向上に寄与する。
【0032】
Δνは波束によって異なっても構わないが、SBSの抑制を安定して行う観点では、
1≦i<Nの範囲において、Δνは略一定であることが好ましい。Δνが略一定であることで、隣り合う波束に一定の周波数差が常に発生し、より確実なSBSの抑制が可能である。
【0033】
加えて、SBSを抑制しつつ光ファイバから出射される光の出力を高める観点では、光ファイバの長さをL、光ファイバにおける波束Wの伝搬速度をV、波束列WRの持続時間をTWRとした際、Nの値がTWR≧2L/Vを満たすよう設定されていることが好ましい。
【0034】
言い換えると、光ファイバに入力された波束Wが、光ファイバから出射されるのに要する時間の2倍以上波束列WRを持続させるのが良い。
光ファイバに入力された波束Wが光ファイバから出射されるのに要する時間がtである場合、周波数νを有する第1波束Wの先端が光ファイバの出射端に到達したとき、出射端で発生した周波数ν1を有する第1波束Wに由来する散乱光は時間tを要して光ファイバの入射端に到達する。
【0035】
周波数νを有する第1波束Wに由来する散乱光は、周波数ν~νを有する第2波束W~第N波束W内ではブリルアン増幅されないが、周波数νを有する第1波束W内ではブリルアン増幅される。
【0036】
このため、周波数νを有する第1波束Wに由来する散乱光が光ファイバに残っている状態で新たな波束列WRを入力すると、新たに入力された第1波束W内で散乱光がブリルアン増幅されることになり、SBSが発生する要因の1つとなりえる。
【0037】
光ファイバに入力された波束Wが、光ファイバから出射されるのに要する時間の2倍以上波束列WRを持続させることで、第1波束Wに由来する散乱光が光ファイバから出射された後に、新たな第1波束Wが入力される状態になるため、SBSの抑制に寄与する。
【0038】
加えて、より多くの波束Wが入力されることで、光ファイバから出射される光の出力向上に寄与する。
【0039】
上記の通り、本発明は光ファイバで発生するSBSの抑制効果を有するため、より強いSBSが発生しやすい、光ファイバがファイバレーザの増幅ファイバとして用いられる、所定の希土類元素を添加したコアを有する光ファイバのコアに波束Wを入力する場合であっても、過度なSBSの発生を抑制できるため、ファイバレーザ装置に好適に用いられる方法である。
【0040】
本発明の方法は、光源装置の態様で実施可能であり、図3は本発明の方法を実施するための光源装置Aの概略図である。光源装置Aは波束列WRを発生させる波束列発生手段21と、波束列発生手段21で発生した波束列WRが入力される光ファイバ41とを有し、波束列発生手段21には、波束列WRを構成する波束ごとに異なる周波数を付与する周波数調整手段31が備えられている。
光ファイバ41は、ファイバレーザの増幅ファイバとして用いられる希土類元素を添加したコアを有する光ファイバであっても、光増幅機能を有しない通常の光ファイバであっても良い。
【0041】
光源装置Aの参考例として、図4(a)、(b)に示した、波束列発生手段21として所定の周波数を有する波束を発生させる光源211を複数有し、複数の光源211が発生させた波束Wが光ファイバ4 1 に入力されるタイミングが光源211ごとに異なるよう構成された光源装置が挙げられる。
【0042】
この態様の場合に採用される周波数調整手段31の一例として、図4(a)に示した、複数の光源211を互いに異なる周波数を有する波束を発生させるものとした態様が挙げられる。すなわち、図4(a)に示した光源装置Aでは、互いに異なる周波数を有する波束を発生させる複数の光源211を使用することが周波数調整手段31となる。複数の光源211が発生させる波束Wの周波数が互いに異なることで、光ファイバ41に入力される波束ごとに異なる周波数を付与することができる。
【0043】
他の例として、図4(b)に示した、複数の光源211のうち、少なくとも2つの光源は同じ周波数を有する波束を発生させるものとし、同じ周波数を発生させる光源のうち、少なくとも1つの光源から発生した波束Wは、光ファイバ41に入力される前に周波数調整手段31によって周波数変換させる態様が挙げられる。この態様の場合、複数の光源211の周波数が同じものであっても、光ファイバ41に入力される周波数を光源毎に変化させることができるので、準備する複数の光源211を同一のものとできる利点が存在する。
【0044】
図4(b)の光源装置Aに使用される、周波数調整手段31としては、音響光学素子(AOM)や、電気光学位相変調器(EOPM)などが挙げられる。
【0045】
複数の光源211が発生させた波束が光ファイバ41に入力されるタイミングが光源211ごとに異なることで、光ファイバ41に波束列WRが入力されることになる。
【0046】
波束Wが入力されるタイミングを光源211ごとに異ならせる具体的方法の一例として、図4(a)に示した、光源211から光ファイバ41までの光路長を光源ごとに変化させた光学系を構成し、複数の光源211から同時に波束Wを発生させ、光路長の差によって各光源211から光ファイバ41に到達するまでの時間に差を与える方法が挙げられる。すなわち、図4(a)に示した光源装置Aでは、光源211から光ファイバ41までの光路長を光源211ごとに変化させていることが波束列発生手段21の要部となる。
【0047】
波束Wが入力されるタイミングを光源211ごとに異ならせる他の例として、図4(b)に示した、光源211から光ファイバ41までの光路長を全ての光源で等しくし、光源211から波束Wを発生させるタイミングを光源211ごとに個別に制御する方法が挙げられる。すなわち、図4(b)に示した光源装置Aでは、光源211の制御装置が波束列発生手段21の要部となる。
【0048】
図4(a)、(b)に示した光源装置Aは、波束列発生手段21として所定の周波数を有する波束を発生させる光源211を複数有し、複数の光源211が発生させた波束Wが光ファイバ41に入力されるタイミングが光源211ごとに異なるよう構成された光源装置の一例であり、波束Wが光ファイバ41に入力されるタイミングを光源211ごとに異ならせるための具体的構成や、複数の波束Wの周波数を互いに異ならせるための周波数調整手段31の具体的構成は適宜選択、組み合わせて利用することができる。
【0049】
光源装置Aの具体的態様としては、図5に示した、所定の周波数を有する波束Wを発生させる少なくとも1つの光源211と、光源211から光ファイバ41へと至る光学系内に設けられた光分岐手段212と、光分岐手段212に対して光学的に結合された伝搬距離延長手段213とを有した構成が挙げられる。
【0050】
この構成において、光分岐手段212は光源211で発生した波束Wを所定のパワー比で、光ファイバ41に入力される波束と、伝搬距離延長手段213に入力される波束に分岐させる。光分岐手段212によって伝搬距離延長手段213に入力された波束は、伝搬距離延長手段213を伝搬したのち再び光分岐手段212に入力され、改めて所定のパワー比で、光ファイバ41に入力される波束と、伝搬距離延長手段213に入力される波束に分岐される。
【0051】
光ファイバ41には、伝搬距離延長手段213を経由することなく光分岐手段212から直接入力された波束と、伝搬距離延長手段213を経由した波束が入力されることになり、伝搬距離延長手段213を経由した波束は、伝搬距離延長手段213の経由に要した時間分、光分岐手段212から直接入力された波束に遅れて光ファイバ41に入力されるため、結果として光ファイバ41に波束列WRが入力されることになる。
【0052】
すなわち、この態様においては、光分岐手段212と伝搬距離延長手段213が波束列発生手段21の要部となる。
【0053】
光分岐手段212と伝搬距離延長手段213とで波束列発生手段21を構成する場合、伝搬距離延長手段213内に周波数調整手段31が設けた構成が好ましく利用できる。
【0054】
この構成では、光分岐手段212から光ファイバ41に直接入力された波束の周波数と、伝搬距離延長手段213に入力された波束の周波数との間に差を設けることができるため、光ファイバ41に入力された隣り合う波束の周波数を互いに異ならせることができる。
【0055】
さらに、伝搬距離延長手段213を経由することで周波数が変化した波束は、光分岐手段212によって所定のパワー比によって再度伝搬距離延長手段213に入力される。その際に周波数調整手段31によって再度周波数の変換が行われた後、光分岐手段212に戻る。
このように、光分岐手段212への入力 → 光分岐手段212による分岐 → 周波数調整手段31による周波数変換 → 伝搬距離延長手段213による時間調整 → 光分岐手段212への入力 → ・・・、を繰り返した結果、光ファイバ41に複数の波束を入力できると共に、入力された複数の波束の周波数を互いに異ならせることができる。
【0056】
光分岐手段212としては、公知の光カプラやビームスプリッタ、サーキュレーターなどを適宜選択して使用することができる。
【0057】
伝搬距離延長手段213としては、光ファイバF(光ファイバ41とは別の光ファイバ)をループ状に光分岐手段212に接続したものや、複数の反射部材を組み合わせ、光分岐手段212によって分岐された光を、光分岐手段212の入力端へと導光させる光学系などを適宜選択して利用することができる。
【0058】
伝搬距離延長手段213内に設ける周波数調整手段31としては、音響光学素子(AOM)や、電気光学位相変調器(EOPM)などが挙げられる。
【0059】
Δνを略一定とする観点では、周波数調整手段31としてAOMが好ましく利用できる。AOMを所定の音響周波数で動作させることで、伝搬距離延長手段213を通過する波束に対して常に一定の周波数変動を与え、Δνを安定して略一定にすることができるとともに、音響周波数を調整することで所望するΔνを容易に与えることができる。
【0060】
また、伝搬距離延長手段213内を波束が伝送する際に減衰されてしまうことを考慮して、伝搬距離延長手段213内に光増幅手段214を設けてもよい。伝搬距離延長手段213として光ファイバFが使用されている場合は、希土類元素添加ファイバと励起光源によって構成された、ファイバレーザで用いられる光増幅器と同等の光増幅手段が好適に用いられる。
【0061】
光ファイバFが使用されない伝搬距離延長手段213の場合は、YAG結晶などのレーザ媒質を、伝搬距離延長手段213を構成する光学系内に設け、増幅対象の波束とともに励起光をレーザ媒質に導入する構成の光増幅手段が利用できる。
【実施例
【0062】
本発明によるSBS抑制方法を実施できる光源装置Aを作成して実験を行い、本発明による効果を確認した。
【0063】
光源装置Aとしては、図5に示した、光分岐手段212と伝搬距離延長手段213とで構成された波束列発生手段21を有し、伝搬距離延長手段213内に周波数調整手段31を設けた構成の光源装置を基本に作成した。実施例の光源装置Aは図6に示したものであり、以下に詳細を述べる。
【0064】
光源装置Aを構成する光源211として、分布帰還型のレーザダイオード(DFB-LD)を使用し、DFB-LDで発生したレーザ光を光ファイバF1に結合させる。
光源211の発振波長は1030nmとし、周波数は約291THzである。また光源211が発するレーザ光のスペクトル幅は、連続光を発振する際に1MHzであり、SBSが発生しやすい狭線幅の条件にあたる。
【0065】
光源211で発生したレーザ光が伝搬される光路の下流側に、光源211が発する波長のみを透過させ、他の波長を遮断する光学フィルタ215を設けた。特段の説明がない限り、実施例において光源装置Aに使用する光学フィルタ215は同一仕様のものである。
【0066】
光学フィルタ215の下流側に第1AOM216を設けた。第1AOM216は駆動中の間に入力されたレーザ光を光分岐手段側へ出力し、駆動停止中に入力されたレーザ光を遮断する機能を有する。第1AOM216の駆動/停止を連続的に繰り返すことで、光分岐手段212側に出力されるレーザ光をパルス状になり、光分岐手段212に波束Wが入力されることになる。
【0067】
第1AOM216の下流側には、上流側へ逆行する光を遮断する光アイソレーター217Aを設け、次いで光分岐手段212を設けた。
【0068】
光分岐手段212として、入力ポートと出力ポートをそれぞれ2つずつ有する、光ファイバで構成された第1光カプラC1を使用した。一方の入力ポートに第1AOM216で生成した波束Wが結合される。また、第1光カプラC1は、入力された波束Wが有するエネルギーの半分以上を第1出力ポートへ導き、残りを第2出力ポートへ導くものを使用した。
【0069】
第2出力ポートの先に、伝搬距離延長手段213を構成する光学系を設け、伝搬距離延長手段213を経由した波束が、第1光カプラC1の他方の入力ポートに結合されるよう構成する。
【0070】
伝搬距離延長手段213内には、図6に示すように、第2AOM218、第2光カプラC2、第1増幅ファイバDF1、クラッドポンプストリッパー(CPS)219、光学フィルタ215を設けた。特段の説明がない限り、実施例において光源装置Aに使用するCPS219は同一仕様のものである。
【0071】
第2AOM218は所定の音響周波数で駆動され、伝搬距離延長手段213に入力された波束に対し所定の周波数シフトを与える。
【0072】
第2光カプラC2は2つの入力ポートと1つの出力ポートを有するものを使用し、一方の入力ポートには第2AOM218を経由した波束が結合され、他方の入力ポートには後段の第1増幅ファイバDF1での光増幅に使用される励起光を出射する励起光源P1が接続される。
【0073】
励起光源P1としては、出力調整が容易なバタフライ型パッケージのレーザダイオード(BTF-LD)を使用し、発振波長は976nmとした。
【0074】
第1増幅ファイバDF1として、コアにイッテルビウムが添加された、コア径6μm、第1クラッド径125μm、第2クラッド径250μmのダブルクラッドファイバを使用した。
【0075】
第1増幅ファイバDF1を経由した波束は、余剰のクラッドモード光を除去するCPS219、所定の波長のみを透過させる光学フィルタ215を経由したのち、出射端が第1光カプラC1の他方の入力ポートに接続された一定長さの光ファイバF2に入力される。
【0076】
光ファイバF2の長さは、伝搬距離延長手段213を経由した波束が、伝搬距離延長手段213を経由することなく第1光カプラC1の第1出力ポートへ出力された波束に対し、20nsだけ遅延して第1出力ポートへ出力される長さに設定した。
【0077】
第1光カプラC1の第1出力ポートの下流に光アイソレーター217Bと、入力ポートが1つ、出力ポートが2つの第3光カプラC3を設け、一方の出力ポートには後述の光学系、他方の出力ポートには出力光の検出用のフォトダイオード(PD)を設けた。
【0078】
なお、光アイソレーター217は、設けられる場所に入力される光の出力に応じたものが選択される。
また、第3光カプラC3は、入力された波束Wが有するエネルギーのほぼ全てを一方の出力ポートへ導き、PDでの検出に必要な微少量を他方の出力ポートへ導くものを使用した。
【0079】
以上が、実施例における波束列発生手段21である。
【0080】
第3光カプラC3の一方のポートの先に、波束列WRが入力される第1増幅光学系が設けられる。第1増幅光学系には図6に示すように、第4光カプラC4、第2増幅ファイバDF2、CPS219、光アイソレーター217C、光学フィルタ215、第5光カプラC5、PDを設けた。
【0081】
第4光カプラC4は2つの入力ポートと1つの出力ポートを有するものを使用し、一方の入力ポートには波束列発生手段21で発生した波束列WRが結合され、他方の入力ポートには第2増幅ファイバDF2での光増幅に使用される励起光を出射する励起光源P2が接続される。
【0082】
励起光源P2には発振波長が976nmのLDを使用した。
【0083】
第2増幅ファイバDF2は、第1増幅ファイバDF1と同様のものを使用した。
【0084】
第2増幅ファイバDF2を経由した波束列WRは、CPS219、光アイソレーター217C、光学フィルタ215を経由したのち、入力ポートが1つ、出力ポートが2つの第5光カプラC5を設け、一方のポートには後述の第2増幅光学系、他方のポートには出力光の検出用のPDを設けた。
【0085】
第2増幅光学系は、第6光カプラC6~光アイソレーター217Dまでの構造は、第1増幅光学系と同等のものを使用した。異なる点は励起光源P2とP3の出力である。
【0086】
光アイソレーター217Dの下流には、入力ポートと出力ポートをそれぞれ2つずつ有する、光ファイバで構成された第7光カプラC7を使用した。一方の入力ポートには各光学系を経由してきた波束列WRが入力され、他方の入力ポートには後述する出射光学系を逆行する光を検出するためのPDを設けた。一方の出力ポートには後述する出射光学系が接続され、他方の出力ポートには各光学系を経由してきた波束列WRを検出・分析するためのオシロスコープを設けた。また、第7光カプラC7は入力された波束Wが有するエネルギーのほぼ全てを一方の出力ポートへ導き、オシロスコープでの検出に必要な微少量を他方の出力ポートへ導くものを使用するとともに、一方の出力ポートに入力された戻り光が有するエネルギーのほぼ全てを一方の入力ポートへ導き、PDでの検出に必要な微少量を他方の入力ポートへ導くものを使用した。
【0087】
第7光カプラC7の一方の出力ポートに接続された出射光学系は、第2増幅光学系で増幅された波束列WRを所定の場所へ導光するのに十分な長さを有した、光増幅機能を有しない光ファイバ41で構成される。
【0088】
以上、述べた波束列発生手段21、第1増幅光学系、第2増幅光学系、出射光学系により、本発明を実施するための光源装置Aが構成される。
【0089】
以下の条件で光源装置Aを動作させ、SBSの抑制効果を確認した。
【0090】
光源211を駆動させ、出力10mWの連続光を発生させた。
【0091】
第1AOM216を繰り返し周波数500kHz、デューティー比5%で駆動させ、連続光を平均パルス幅85nsのパルス光に変換した。光源211から出射された直後は1MHzであったスペクトル幅は、パルス光に変換する際に10MHzに広がるが、依然としてSBSが発生しやすい狭線幅の条件にあたる。
【0092】
第2AOM218を音響周波数200MHz、ゲート開放間隔を1860nsで駆動させ、伝搬距離延長手段213に入力された光に対して200MHzの周波数シフトを与える。なお、周波数シフトによって第2AOM218を通過した光の波長も変化するが、微々たる変化であり、実質的に1030nmの光とみなすことができる。
【0093】
第1増幅ファイバDF1による増幅量は、伝搬距離延長手段213を経由して第1光カプラC1の他方の入力ポートに結合された時点の波束の平均出力が0.4mWになるよう設定した。
【0094】
伝搬距離延長手段213により、第1AOM216によって生成されたパルス1波が、平均パルス幅85ns、平均パルス間隔20ns、パルス本数17本のパルス列(波束列WR)に変換されて、第1増幅光学系へ入力される。
【0095】
第1増幅光学系に入力された波束列WRは、第1増幅光学系内に設けられた第2増幅ファイバDF2によって平均出力が30mWまで増幅された後、第2増幅光学系に入力される。
【0096】
第2増幅光学系に入力された波束列WRは、第2増幅光学系内に設けられた第3増幅ファイバDF3によって平均出力が3.5Wまで増幅された後、光ファイバ41で構成された出射光学系に入力される。光ファイバ41の長さは200mとし、第2増幅ファイバDF2、第3増幅ファイバDF3よりも長く、SBSが発生するのに十分な長さである。
【0097】
出射光学系から出射されたレーザ光の出力と、第7光カプラC7に接続されたPDで検出した戻り光の出力に基づいて、光ファイバ41内部でのSBSの発生状態を評価した。SBSが発生するとPDで検出される戻り光(後方散乱出力)が増加することから、式2で定義される後方反射率を用いてSBSの発生状態を評価した。
【0098】
【0099】
後方反射率が1%となるように、光源装置Aを駆動させたところ、出射光学系から出力されるレーザ光の平均出力は1900mWであった。さらにレーザ光の平均出力を上昇させたところ、平均出力が2110mWの時点で、後方反射率が5%に至った。
【0100】
比較例として、光源211、光ファイバF1、光学フィルタ215、光アイソレーター217Aの順に各光学部品を結合させた下流側に、直接第1増幅光学系を接続し、第1増幅光学系以降は実施例の光源装置Aと同様に構成した光源装置を準備した。すなわち、比較例の光源装置は実施例の光源装置Aから第1AOM216、波束列発生手段21、周波数調整手段31を割愛し、一定の周波数を有する連続光を第1増幅光学系以降に入力するよう構成された光源装置と言える。
【0101】
比較例の光源装置を動作させ、一定の周波数を有する連続光を第1増幅光学系及び第2増幅光学系で増幅し、光ファイバ41に入力した際における、光ファイバ41内部でのSBSの発生状態を評価した。
【0102】
比較例では、レーザ光の平均出力が128mWの際に1%の後方反射率、平均出力が152mWの際に5%の後方反射率を示した。
【0103】
実施例の光源装置Aは、比較例と比べて、同等の後方反射率を示す平均出力が高く、平均出力の増加に伴う後方反射率の上昇も緩やかである。このことから、第1増幅光学系以降に入力される波束列WRを構成する波束の周波数が、波束ごとに異なる本発明の方法によって、光ファイバ41で発生するSBSが抑制されることが確認できた。
【0104】
また、直接的な確認は取れていないものの、実施例の光源装置Aを構成する光ファイバ類の中で最も長い光ファイバ41で発生するSBSが抑制された結果から、比較例の光源装置において第1増幅光学系内の第2増幅ファイバDF2、第2増幅光学系内の第3増幅ファイバDF3で仮にSBSが発生していたとしても、実施例の光源装置Aでは抑制されていると推測される。
【0105】
以上の例は、本発明の一例に過ぎず、本発明の思想の範囲内であれば、種々の変更および応用が可能であることは言うまでもない。特に、実施例に記載した光源装置Aは本発明を実施するための一態様に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内であれば、他の態様の光源装置を使用できることは言うまでもなく、所望する目的・効果を達成するために、具体的な光学系や構成部品を適宜変更しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の誘導ブリルアン散乱抑制方法及び光源装置はレーザ加工機を筆頭に、各種のレーザ装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0107】
1 信号光源
2 信号光
3 励起光源
4 励起光
5 光カプラ
6 光カプラと増幅用光ファイバの接続部
7 増幅用光ファイバ
8 増幅用光ファイバとレーザ出射用光ファイバの接続部
9 レーザ出射用光ファイバ
10 レーザ光
W 波束
波束の持続時間
WR 波束列
WR 波束列の持続時間
A 光源装置
21 波束列発生手段
211 光源
212 光分岐手段
213 伝搬距離延長手段
214 光増幅手段
215 光学フィルタ
216 第1AOM
217 光アイソレーター
218 第2AOM
219 クラッドポンプストリッパー(CPS)
31 周波数調整手段
41 光ファイバ
C1~C7 光カプラ
F、F1~F2 光ファイバ
DF、DF1~DF3 増幅ファイバ
S 励起光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6