(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】角形電池の製造方法及び角形電池の検査方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20240216BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240216BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240216BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240216BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/058
(21)【出願番号】P 2022020004
(22)【出願日】2022-02-11
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-021827(JP,A)
【文献】特開2010-181290(JP,A)
【文献】特開2017-045547(JP,A)
【文献】特開2015-197968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
H01M 10/05-10/058
H01M 10/48
G01N 29/02-29/52
G01R 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角形電池ケース内に電極体及び電解液を収容した角形電池の製造方法であって、
組み立てた上記角形電池の上記角形電池ケースのうち、上記電極体を挟んで対向する第1側壁部と第2側壁部との間を挟圧して、上記第1側壁部の内側面及び上記第2側壁部の内側面をそれぞれ上記電極体に接触させ、
上記第1側壁部の外側面内の第1被測定部に送信プローブを、上記第2側壁部の外側面内の第2被測定部に受信プローブを密着させると共に、
上記第1被測定部及び上記第2被測定部の少なくとも一方の周囲部に、上記第1被測定部から周囲に拡がって伝わる拡散超音波、または、上記第2被測定部の周囲から上記第2被測定部に向けて伝わる回込み超音波を吸収する吸収材を配置した状態で、
上記送信プローブから送出され、上記第1側壁部、上記電極体を透過して上記第2側壁部に到達した透過後超音波を上記受信プローブで受波し、
上記受信プローブから得られた受波信号に基づいて、上記電極体への上記電解液の含浸状態を判定する含浸検査工程を備える
角形電池の製造方法。
【請求項2】
角形電池ケース内に電極体及び電解液を収容した角形電池の検査方法であって、
上記角形電池の上記角形電池ケースのうち、上記電極体を挟んで対向する第1側壁部と第2側壁部との間を挟圧して、上記第1側壁部の内側面及び上記第2側壁部の内側面をそれぞれ上記電極体に接触させ、
上記第1側壁部の外側面内の第1被測定部に送信プローブを、上記第2側壁部の外側面内の第2被測定部に受信プローブを密着させると共に、
上記第1被測定部及び上記第2被測定部の少なくとも一方の周囲部に、上記第1被測定部から周囲に拡がって伝わる拡散超音波、または、上記第2被測定部の周囲から上記第2被測定部に向けて伝わる回込み超音波を吸収する吸収材を配置した状態で、
上記送信プローブから送出され、上記第1側壁部、上記電極体を透過して上記第2側壁部に到達した透過後超音波を上記受信プローブで受波し、
上記受信プローブから得られた受波信号に基づいて、上記電極体への上記電解液の含浸状態を判定する含浸検査工程を備える
角形電池の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角形電池ケース内に電極体及び電解液を収容した角形電池の製造方法及び角形電池の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電池の製造過程において、電池を組み立てて電池ケース内に電解液を注液した後、電池に初充電を行う前に、電極体への電解液の含浸状態を検査することがある。例えば特許文献1(特許請求の範囲、
図2及び
図3を参照)に、超音波を利用して、電極体への電解液の含浸状態を検査する含浸検査装置及び含浸検査方法が開示されている。具体的には、この特許文献1の含浸検査方法では、電池を間に挟んで超音波出力部及び超音波受信部を対向するように配置し、超音波出力部から電池に向けて出力した超音波を、超音波受信部で受信する。そして、出力した超音波に対する、受信した超音波の減衰率に応じて、電極体への電解液の含浸状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の含浸検査方法では、超音波出力部及び超音波受信部と電池との間にそれぞれ空隙を設けているため、電池によっては(特に厚みのある電池では)、電極体への電解液の含浸状態を適切に判断できない。
一方、この問題を回避するべく、超音波出力部及び超音波受信部をそれぞれ電池ケースに密着させると、超音波出力部から出力した超音波が、回り込むように角形電池ケースを伝播して超音波受信部で受信されるため、電解液の含浸状態を適切に判断できないことが判ってきた。
更に本発明者が検討したところ、電池内部の角形電池ケースと電極体との間に空気の層が存在していると、電解液の含浸状態を適切に判断できないことも判ってきた。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電極体への電解液の含浸状態を適切に検査することができる角形電池の製造方法及び角形電池の検査方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、角形電池ケース内に電極体及び電解液を収容した角形電池の製造方法であって、組み立てた上記角形電池の上記角形電池ケースのうち、上記電極体を挟んで対向する第1側壁部と第2側壁部との間を挟圧して、上記第1側壁部の内側面及び上記第2側壁部の内側面をそれぞれ上記電極体に接触させ、上記第1側壁部の外側面内の第1被測定部に送信プローブを、上記第2側壁部の外側面内の第2被測定部に受信プローブを密着させると共に、上記第1被測定部及び上記第2被測定部の少なくとも一方の周囲部に、上記第1被測定部から周囲に拡がって伝わる拡散超音波、または、上記第2被測定部の周囲から上記第2被測定部に向けて伝わる回込み超音波を吸収する吸収材を配置した状態で、上記送信プローブから送出され、上記第1側壁部、上記電極体を透過して上記第2側壁部に到達した透過後超音波を上記受信プローブで受波し、上記受信プローブから得られた受波信号に基づいて、上記電極体への上記電解液の含浸状態を判定する含浸検査工程を備える角形電池の製造方法である。
【0007】
上述の角形電池の製造方法では、含浸検査工程において、角形電池ケースの第1側壁部と第2側壁部との間を挟圧して、第1側壁部の内側面と第2側壁部の内側面をそれぞれ電極体に接触させると共に、送信プローブ及び受信プローブをそれぞれ第1側壁部の外側面内の第1被測定部及び第2側壁部の外側面内の第2被測定部に密着させている。このため、送信プローブから送出された送波超音波は、第1側壁部に直接伝わり、空気層を介さずに電極体に届き、電極体を透過し、更に電極体から空気層を介さずに第2側壁部に伝わり、第2側壁部から受信プローブに直接伝わる。これにより、送信プローブから送出され、電極体等を透過した透過後超音波を、受信プローブで適切に受波できる。
一方、角形電池ケースのうち、送信プローブが密着する第1被測定部、及び、受信プローブが密着する第2被測定部の少なくとも一方の周囲部に、拡散超音波或いは回込み超音波を吸収する吸収材を配置している。これにより、送信プローブから送出した送波超音波の一部が、電極体を透過せずに、第1被測定部から拡散し、回り込むように角形電池ケースを伝播し、第2被測定部に届いて受信プローブで受波され、ノイズとなるのを抑制できる。
これらにより、電極体への電解液の含浸状態を適切に検査できる。
【0008】
具体的には、もし電極体に電解液が十分に含浸している場合には、送信プローブからバースト波状の送波超音波を送波開始してから所定の経過時間が経過した後に、この送波超音波と同程度の周波数を有するバースト波状の受波超音波が受波される。電解液が十分含浸された電極体は超音波が容易に透過するからである。
しかし、電極体に電解液が全く含浸できていない場合には、送信プローブから同様の送波超音波を送出しても、受信プローブでは殆ど受波超音波を受波できない。電解液が含浸されていないために空気の層を含む電極体を、超音波は容易に透過できないからである。
一方、電極体への電解液の含浸が不十分な場合には、受信プローブで受波される受波超音波が上記所定の経過時間からズレたり、受波超音波の振幅が、電極体に電解液が十分に含浸している場合よりも小さくなったりする。
従って、電池の製造工程において、受信プローブから得られた、受波超音波に対応する受波信号に基づいて、電極体への電解液の含浸状態を適切に検査することができる。
【0009】
角形電池に収容する「電極体」としては、例えば、複数の矩形状の電極板をセパレータを介して積層した積層型の電極体や、帯状の電極板を帯状のセパレータを介して扁平状に捲回した扁平状捲回型の電極体などが挙げられる。また、角形電池としては、角形電池ケース内に単数の電極体を収容した電池のほか、角形電池ケース内に複数の電極体を第1側壁部及び第2側壁部に直交する方向に重ねて収容した電池でもよい。
超音波を吸収する「吸収材」としては、例えば、ゴムからなる吸収材のほか、樹脂や粘土、グリース、ゲル等からなる吸収材が挙げられる。
【0010】
また、他の態様は、角形電池ケース内に電極体及び電解液を収容した角形電池の検査方法であって、上記角形電池の上記角形電池ケースのうち、上記電極体を挟んで対向する第1側壁部と第2側壁部との間を挟圧して、上記第1側壁部の内側面及び上記第2側壁部の内側面をそれぞれ上記電極体に接触させ、上記第1側壁部の外側面内の第1被測定部に送信プローブを、上記第2側壁部の外側面内の第2被測定部に受信プローブを密着させると共に、上記第1被測定部及び上記第2被測定部の少なくとも一方の周囲部に、上記第1被測定部から周囲に拡がって伝わる拡散超音波、または、上記第2被測定部の周囲から上記第2被測定部に向けて伝わる回込み超音波を吸収する吸収材を配置した状態で、上記送信プローブから送出され、上記第1側壁部、上記電極体を透過して上記第2側壁部に到達した透過後超音波を上記受信プローブで受波し、上記受信プローブから得られた受波信号に基づいて、上記電極体への上記電解液の含浸状態を判定する含浸検査工程を備える角形電池の検査方法である。
【0011】
上述の角形電池の検査方法では、前述した含浸検査工程を備えるため、検査対象となった角形電池における、電極体への電解液の含浸状態を適切に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1,2に係る角形電池の斜視図である。
【
図2】実施形態1に係る角形電池の製造のフローチャートである。
【
図3】実施形態1,2に係り、含浸検査装置及びこれにセットした角形電池を、角形電池の厚み方向に見た側面図である。
【
図4】実施形態1,2に係り、含浸検査装置及びこれにセットした角形電池の、
図3におけるA-A矢視断面図である。
【
図5】実施例及び比較例1,2に係り、送波開始からの経過時間tと、送信プローブから送出した送波超音波の振幅ATとの関係を示すグラフである。
【
図6】実施例に係り、送波超音波の送波開始からの経過時間tと、受信プローブで受波した受波超音波の振幅ARとの関係を示すグラフであり、(a)は電極体に十分に電解液を含浸させた角形電池について得たグラフであり、(b)は電極体に電解液を全く含浸させていない未注液の角形電池について得たグラフである。
【
図7】比較形態1に係り、含浸検査装置及びこれにセットした角形電池の、
図4に対応する断面図である。
【
図8】比較例1に係り、 送波超音波の送波開始からの経過時間tと、受信プローブで受波した受波超音波の振幅ARとの関係を示すグラフであり、(a)は電極体に十分に電解液を含浸させた角形電池について得たグラフであり、(b)は電極体に電解液を全く含浸させていない未注液の角形電池について得たグラフである。
【
図9】比較形態2に係り、含浸検査装置及びこれにセットした角形電池の、
図4に対応する断面図である。
【
図10】比較例2に係り、 送波超音波の送波開始からの経過時間tと、受信プローブで受波した受波超音波の振幅ARとの関係を示すグラフであり、(a)は電極体に十分に電解液を含浸させた角形電池について得たグラフであり、(b)は電極体に電解液を全く含浸させていない未注液の角形電池について得たグラフである。
【
図11】実施形態2に係る角形電池の検査のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1に本実施形態1に係る、直方体状の角形電池(以下、単に「電池」ともいう)1の斜視図を示す。なお、以下では、電池1の縦方向AH、横方向BH及び厚み方向CHを、
図1に示す方向と定めて説明する。この電池1は、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、電気自動車等の車両などに搭載される角形で密閉型のリチウムイオン二次電池である。
電池1は、角形電池ケース(以下、単に「電池ケース」ともいう)10と、この電池ケース10の内部に収容された電極体20と、電池ケース10に支持された正極端子30及び負極端子40等から構成される。また電池ケース10内には、電解液50が収容されており、その一部は電極体20内に含浸され、一部は電池ケース10の底部に溜まっている。
【0014】
このうち角形電池ケース10は、金属(本実施形態1ではアルミニウム)からなる直方体箱状であり、上壁部13、これに対向する下壁部14、これらの間を結ぶ4つの側壁部(電極体20を挟んで対向する面積の広い第1側壁部15及び第2側壁部16、これらよりも面積の狭い第3側壁部17及び第4側壁部18)を有する。この電池ケース10は、開口11cを有する有底角筒状のケース本体部材11と、このケース本体部材11の開口11cを閉塞する形態で溶接された矩形板状のケース蓋部材12とから構成される。このうちケース蓋部材12には、電池ケース10の内圧が所定圧力に達した際に破断開弁する安全弁(不図示)が設けられている。またケース蓋部材12には、電池ケース10の内外を連通する注液孔(不図示)が形成されており、封止部材(不図示)で気密に封止されている。
【0015】
更にケース蓋部材12には、複数のアルミニウムの部材から構成される正極端子30が、ケース蓋部材12と絶縁された状態で固設されている。この正極端子30は、電池ケース10の内部で電極体20の正極板21にそれぞれ接続し導通する一方、ケース蓋部材12を貫通して電池外部まで延びている。またケース蓋部材12には、複数の銅の部材から構成される負極端子40が、ケース蓋部材12と絶縁された状態で固設されている。この負極端子40は、電池ケース10の内部で電極体20の負極板22にそれぞれ接続し導通する一方、ケース蓋部材12を貫通して電池外部まで延びている。
電極体20は、帯状の正極板21と帯状の負極板22とを、樹脂製の多孔質膜からなる帯状の一対のセパレータ23を介して重ね、扁平状に捲回した扁平状捲回型の電極体である。この電極体20は、横倒しの状態で電池ケース10内に収容されている。
【0016】
次いで、上記角形電池1の製造方法について説明する(
図2参照)。まず「組立工程」S1において、電池1を組み立てる。具体的には、ケース蓋部材12を用意し、これに正極端子30及び負極端子40を固設する(
図1参照)。次に、ケース蓋部材12に固設した正極端子30及び負極端子40を、別途形成した電極体20の正極板21及び負極板22にそれぞれ溶接する。次に、ケース本体部材11を用意し、電極体20をケース本体部材11内に挿入すると共に、ケース本体部材11の開口11cをケース蓋部材12で塞ぐ。その後、ケース本体部材11とケース蓋部材12とを、ケース蓋部材12の全周にわたり溶接して電池ケース10を形成する。次に、電解液50をケース蓋部材12の注液孔(不図示)を通じて電池ケース10内に注液し、その後、この注液孔を封止部材(不図示)で気密に封止する。
【0017】
次に「含浸検査工程」S2において、組立工程S1で組み立てた電池1について、電極体20への電解液50の含浸状態を検査する。本実施形態1では、組立工程S1における電解液50の注液完了時から3時間経過した後に、この含浸検査工程S2を行う。まず含浸検査工程S2で用いる含浸検査装置100について説明する(
図3及び
図4参照)。この含浸検査装置100は、電池1を厚み方向CHに押圧し拘束する一対の拘束板110,115と、送波信号TSにより送波超音波US0を送出する送信プローブ120、及び、受波超音波US5を受波して受波信号RSを出力する受信プローブ125と、拡散超音波US1吸収する吸収材130、及び、回込み超音波US2を吸収する吸収材135と、送波信号TSを送信プローブ120に向けて送出し、受信プローブ125からの受波信号RSを受信するプローブ駆動装置140と、プローブ駆動装置140の制御等を行う制御部150とを備える。
【0018】
このうち拘束板110,115は、それぞれ矩形板状で金属(本実施形態1ではアルミニウム)からなる。拘束板110,115の中央には、送信プローブ120または受信プローブ125を配置する開口110c,115cが形成されている。また拘束板110,115周囲の4つの角部近傍には、それぞれボルト117を挿通する貫通孔110k,115kが形成されている。一対の拘束板110,115で電池1を厚み方向CHに挟み、拘束板110,115の各貫通孔110k,115kにボルト117をそれぞれ挿通し、ナット118でそれぞれ螺合して、電池1を厚み方向CHに挟圧する。これにより、吸収材130,135を介して、拘束板110,115で、電池1の電池ケース10のうち第1側壁部15と第2側壁部16との間を挟圧して、電池ケース10の第1側壁部15の内側面15n及び第2側壁部16の内側面16nをそれぞれ電極体20に接触させる。
【0019】
送信プローブ120は、送波信号TSにより送波超音波US0を送出可能に構成されている。この送信プローブ120は、一方の拘束板110の開口110c内及び後述する吸収材130の開口130c内にそれぞれ隙間を空けて配置されると共に、電池ケース10の第1側壁部15の外側面15mのうち、中央の第1被測定部15maに密着している。これにより、送信プローブ120から第1側壁部15の第1被測定部15maに向けて送波超音波US0を直接送出することができる。
【0020】
一方、受信プローブ125は、受波した受波超音波US5を受波信号RSとして出力可能に構成されている。この受信プローブ125は、他方の拘束板115の開口115c内及び後述する吸収材135の開口135c内にそれぞれ隙間を空けて配置されると共に、電池ケース10の第2側壁部16の外側面16mのうち、中央の第2被測定部16maに密着している。これにより、各所から第2側壁部16の第2被測定部16maに届いた受波超音波US5を直接、受信プローブ125で受波し受波信号RSを生成することができる。
【0021】
吸収材130,135は、それぞれ矩形板状で天然ゴムからなる。吸収材130,135の中央には、送信プローブ120または受信プローブ125を配置する開口130c,135cが形成されている。一方の吸収材130は、拘束板110と電池ケース10の第1側壁部15との間に挟持されて、第1側壁部15のうち第1被測定部15maの周囲をなす周囲部15mbに密着している。これにより、送信プローブ120から第1被測定部15maに送出された送波超音波US0のうち、第1被測定部15maから周囲に拡がるように第1側壁部15を伝わる拡散超音波US1(
図4において上向き矢印及び下向き矢印で示す)を、この吸収材130で吸収して、拡散超音波US1が第1側壁部15を拡がるように伝わることを抑制する。また他方の吸収材135は、拘束板115と電池ケース10の第2側壁部16との間に挟持されて、第2側壁部16のうち第2被測定部16maの周囲をなす周囲部16mbに密着している。これにより、第2側壁部16のうち第2被測定部16maの周囲から第2被測定部16maに向けて第2側壁部16を伝わる回込み超音波US2(
図4において下向き矢印及び上向き矢印で示す)を、この吸収材135で吸収して、回込み超音波US2が第2被測定部16maに届くのを抑制する。
【0022】
プローブ駆動装置140は、本実施形態1では、ジャパンプローブ社製のパルサ・レシーバJPR-600Cである。このプローブ駆動装置140には、送信プローブ120及び受信プローブ125が接続されており、送信プローブ120から送波超音波US0を送出させる送波信号TSを生成すると共に、受波超音波US5に応じて受信プローブ125で生成された受波信号RSを受信可能に構成されている。
制御部150は、図示しないCPU、ROM及びRAMを含み、ROM等に記憶された所定の制御プログラムによって作動するマイクロコンピュータを有する。制御部150には、プローブ駆動装置140が接続されており、プローブ駆動装置140を制御する。また制御部150は、後述するように、プローブ駆動装置140で受信した受波信号RSに基づいて、電極体20への電解液50の含浸状態を判定する。
【0023】
次に、上述の含浸検査装置100を用いて行う含浸検査工程S2について説明する。まず電池1を含浸検査装置100にセットする。即ち、一対の拘束板110,115により、電池1の電池ケース10のうち第1側壁部15と第2側壁部16との間を挟圧して、第1側壁部15の内側面15n及び第2側壁部16の内側面16nをそれぞれ電極体20に接触させる。その際、拘束板110,115と電池1との間にそれぞれ吸収材130,135を介在させて、吸収材130を第1側壁部15のうち第1被測定部15maの周囲部15mbに密着させると共に、吸収材135を第2側壁部16のうち第2被測定部16maの周囲部16mbに密着させる。更に拘束後に、送信プローブ120を第1側壁部15の第1被測定部15maに、受信プローブ125を第2側壁部16の第2被測定部16maにそれぞれ密着させる。
【0024】
そして、プローブ駆動装置140で生成した送波信号TSにより、送信プローブ120から送波超音波US0を送出させる。本実施形態1では、
図5に示すように、周波数を0.8MHz、含まれる波の数が3つ(5μsec程度継続)のバースト波状の送波超音波US0を送出させた。送信プローブ120から送出された送波超音波US0の大部分は、電池1の厚み方向CHに直進し、透過前超音波USTとして第1側壁部15(その第1被測定部15ma)に伝わる。更に、厚み方向CHに直進し、電極体20を透過して、透過後超音波USRとして第2側壁部16(その第2被測定部16ma)に到達し、更に受波超音波US5として、受信プローブ125で受波される。
【0025】
本実施形態1では、送信プローブ120を第1側壁部15のうち第1被測定部15maに密着させており、これらの間に空隙がないので、送波超音波US0が送信プローブ120から第1被測定部15maに伝わり易い。また、受信プローブ125を第2側壁部16の第2被測定部16maに密着させており、これらの間に空隙がないので、受波超音波US5が第2被測定部16maから受信プローブ125へ伝わり易い。
また、電池ケース10の第1側壁部15の内側面15n及び第2側壁部16の内側面16nをそれぞれ電極体20に接触させており、第1側壁部15と電極体20との間、及び、第2側壁部16と電極体20の間に空気の層が存在しない。このため、第1被測定部15maに伝わった送波超音波US0の一部である透過前超音波USTが、第1側壁部15から電極体20に伝わり易い。また、透過後超音波USRが電極体20から第2側壁部16へ伝わり易い。
【0026】
一方、送波超音波US0のうち、第1側壁部15の第1被測定部15maからその周囲に向けて(
図4において上方及び下方に)拡がるように伝わる拡散超音波US1は、第1被測定部15maの周囲部15mbに配置した吸収材130に吸収され、更なる拡散が抑制される。他方、第2側壁部16の第2被測定部16maの周囲から第2被測定部16maに向けて(
図4において下方及び上方に)伝わる回込み超音波US2は、第2被測定部16maの周囲部16mbにおいて吸収材135に吸収され、第2被測定部16maに届くのが抑制される。従って、送信プローブ120から送出され第1側壁部15を伝わる拡散超音波US1が、回り込むように更に電池ケース10を伝播し、回込み超音波US2となって受信プローブ125で受波されるのを、効果的に抑制できる。
【0027】
次に、制御部150において、受信プローブ125から得られた受波信号RSに基づいて、当該電池1における、電極体20への電解液50の含浸状態を判定する。
【0028】
ここで、検査する電池1が、電極体20に電解液50が十分に含浸している電池1である場合、
図6(a)に示すように、送信プローブ120からバースト波状の送波超音波US0(
図4参照)を送波開始(経過時間t=0)してから所定の経過時間ta(本実施形態1ではta=約23μsec)が経過した後に、概ね10μsecにわたり、送波超音波US0(
図5参照)の同程度の周波数を有するバースト波状で、十分大きな振幅ARの受波超音波US5が、受信プローブ125で受信され、これに対応する受波信号RSが得られる。
【0029】
電極体20内に電解液50が十分含浸された電池1では、電極体20をなす正極板21または負極板22とセパレータ23との間や、セパレータ23の内部などに電解液50が満たされているので、透過前超音波USTが電極体20をほぼ減衰することなく透過し、透過後超音波USRとなって第2被測定部16maに伝わり、更に受波超音波US5として受信プローブ125に伝わったからと推測される。そこで、このような受波信号RSが得られた電池1は、電極体20への電解液50の含浸状態が良好な良品と判定する。
【0030】
一方、電極体20に電解液50が全く含浸していない電池1を検査する場合を模して、
図6(b)に電解液50を未注液の電池1について含浸検査を行った結果を示す。この場合には、送信プローブ120からバースト波状の送波超音波US0を送出しても、受信プローブ125で受波する受波超音波US5には、バースト波状の信号は殆ど含まれていない。電極体20内に電解液50が殆ど含浸されていない電池1では、電極体20をなす正極板21または負極板22とセパレータ23との間や、セパレータ23の内部などが空気で満たされているので、透過前超音波USTが電極体20を伝わる際に大きく減衰してしまい、電極体20を透過して、透過後超音波USRとなって第2被測定部16maに伝わることが困難となる。このため、受波超音波US5においても、所定の経過時間ta付近の時刻にバースト波状の信号を検知できなかったと推測される。このような受波信号RSが得られた電池1は、電極体20への電解液50の含浸状態が不良な不良品と判定する。
【0031】
また、電極体20への電解液50の含浸が不十分な場合(データ不図示)には、受信プローブ125で受信される受波超音波US5に現れるバースト波状の波形部分が、上述の所定の経過時間taから遅延したり、受信された受波超音波US5の振幅ARの大きさが、電極体20に電解液50が十分に含浸している場合(
図6(a)参照)に比して小さくなったりする。電極体20内への電解液50の含浸が不十分な電池1では、電極体20をなす正極板21または負極板22とセパレータ23との間や、セパレータ23の内部などの一部には電解液50が存在するが、他の部分は空気で満たされている状態となる。このため、透過前超音波USTが電極体20を伝わる際に、超音波が伝わる経路が長くなったり、減衰が生じてしまうと考えられる。このような受波信号RSが得られた電池1も、電解液50の含浸状態が不良な不良品と判定する。
【0032】
その後、含浸検査を行った電池1を含浸検査装置100から取り出し、良品の電池1を残す一方、不良品と判定された電池1は除外する。
【0033】
次に、「初充電工程」S3(
図2参照)において、(良品の)電池1に充電装置(不図示)を接続して、25℃の環境温度下において、定電流定電圧(CCCV)充電により、SOC100%まで電池1に初充電を行う。
【0034】
次に、「エージング工程」S4において、初充電した電池1を60℃の環境温度下で、端子開放した状態で10時間にわたり放置して、電池1を高温エージングする。その後、この電池1について各種検査を行う。かくして、電池1の製造が完了する。
【0035】
(比較形態1)
次いで、上述の実施形態1の比較形態1について説明する(
図7及び
図8参照)。本比較形態1でも、電池1の製造に当たり、実施形態1と同様の各工程S1~S4を行う。このうち、含浸検査工程S2では、実施形態1と同様、送信プローブ120及び受信プローブ125を用いるが、前述の含浸検査装置100とは異なり、拘束板110,115による電池1の拘束及び吸収材130,135による超音波の吸収を行わず、電池1に対する送信プローブ120及び受信プローブ125の保持のみ行う含浸検査装置C1を用いる点が、実施形態1と異なる。即ち、含浸検査装置C1は、拘束板110,115及び吸収材130,135は用いず、図示しない保持部を利用して、送信プローブ120を電池ケース10の第1側壁部15の第1被測定部15maに、受信プローブ125を電池ケース10の第2側壁部16の第2被測定部16maにそれぞれ密着させて保持する。そして、実施形態1と同様、送信プローブ120から送波超音波US0を送出し(
図5参照)、受信プローブ125で受波超音波US5を受波する。
【0036】
前述の実施形態1では、電極体20に電解液50が十分に含浸している良品の電池1を検査した場合には、送信プローブ120からバースト波状の送波超音波US0を送波開始(経過時間t=0)してから、所定の経過時間ta(実施形態1では、ta=23μsec程度経過)が経過した後に、受波信号RSに、送波超音波US0と同程度の周波数(0.8MHz)のバースト波状の信号が生じていた(
図6(a)参照)。
【0037】
これに対し、本比較形態1において、電極体20に電解液50が十分に含浸している良品の電池1を検査した場合には、実施形態1の場合(
図6(a)参照)とは異なる、
図8(a)に示す受波超音波US5(受波信号RS)が得られた。即ち、本比較形態1では、良品の電池1を検査すると、送信プローブ120からバースト波状の送波超音波US0を送出開始(t=0)してから、実施形態1の所定の経過時間taよりも短い所定の経過時間tc(本比較形態1ではtc=約8μsec)の経過以降に、12μsec程度の期間にわたって、振幅の大きなバースト波状の受波超音波US5が受波される(
図8(a)参照)。
【0038】
一方、電極体20に電解液50が全く含浸していない電池1を検査する場合を模して、電解液50を未注液の電池1について含浸検査工程S2を行った場合にも、実施形態1の場合(
図6(b)参照)とは異なる、
図8(b)に示す受波信号RSが得られる。未注液の電池1を検査した場合には、本来、実施形態1において説明したように、送信プローブ120から送波超音波US0を送出しても、受信プローブ125で殆ど受波超音波US5として受波できないはずである(
図6(b)参照)。しかし、本変形形態1では、経過時間td=約8μsec以降、経過時間t=50μsecを越える長期にわたり、受波超音波US5として大きな超音波が受波されている(
図8(b)参照)。
【0039】
但し、実施形態1の場合(
図6(a)参照)と比較すれば容易に理解できるように、いずれの場合(
図8(a)(b)参照)にも、所定の経過時間tc或いはtd(tc,td=約8μsec)の経過以降に受波したバースト波状の或いは長期継続する受波超音波US5は、送波超音波US0の周波数(0.8MHz)よりも高い(3倍程度の)周波数を有している。このため、この比較形態1において、所定の経過時間tc,tdの経過以降に受波したバースト波状の或いは長期継続する受波超音波US5は、実施形態1において得られたのと同様の、送信プローブ120から送出された送波超音波US0の一部が、電池1の厚み方向CHに直進し、透過前超音波USTとして第1側壁部15の第1被測定部15maに伝わり、更に電極体20を透過して、透過後超音波USRとして第2側壁部16の第2被測定部16maに到達し、受波超音波US5として受信プローブ125で受波された超音波であるとは考えられない。
【0040】
比較形態1において、良品の電池1では経過時間t=8~20μsecの期間に、また、未注液の電池1では経過時間t=8μsecの経過以降に、送波超音波US0の周波数よりも高い周波数を有するバースト波状の或いは長期継続する受波超音波US5が得られた理由の詳細は明確ではない。
【0041】
しかしながら、推測するに、本変形形態1では、含浸検査装置C1で拘束板110,115を用いないため、電池1を拘束していない。即ち、拘束板110,115で電池ケース10を押圧していないため、第1側壁部15と電極体20との間、及び、第2側壁部16と電極体20の間に空気の層AR1,AR2(
図7参照)がそれぞれ存在していると考えられる。このため、送信プローブ120から送出した送波超音波US0の一部が、透過前超音波USTとなって第1側壁部15の第1被測定部15maから電極体20へ伝わり難い。また電極体20を透過した透過後超音波USRが第2側壁部16の第2被測定部16maへ伝わることも難しいと考えられる。
【0042】
しかも本変形形態1では、超音波を吸収する吸収材130,135を電池ケース10に密着させていない。このため、送信プローブ120から送出した送波超音波US0の大部分は、透過前超音波USTとなるのではなく、拡散超音波US1として、第1側壁部15の第1被測定部15maからその周囲に向けて(
図7において上方及び下方に)拡がるように伝わる。そして、回り込むように電池ケース10を伝播して、回込み超音波US2となって、第2側壁部16の第2被測定部16maの周囲から第2被測定部16maに向けて(
図7において下方及び上方に)伝わり、第2被測定部16maにおいて、受波超音波US5として受信プローブ125で受波されたと推測される。なお、この拡散超音波US1及び回込み超音波US2は、金属(本比較形態1ではアルミニウム)からなる電池ケース10内を拡がり方向に伝搬する。このため、電極体20を透過する場合に比して伝搬距離は長いが、電池ケース(アルミニウム)における超音波の伝搬速度(音速)が速いため、実施形態1の所定の経過時間ta(=23μsec)よりも早い所定の経過時間tc,td(=約8μsec)の経過以降に、バースト波状の受波超音波US5が到達したと推測される。
【0043】
また、電解液50が未注液の電池1を検査した場合(
図8(b)参照)には、経過時間tdの経過以降に長期継続する受波超音波US5が受波されたのに対し、電極体20に電解液50が十分に含浸している良品の電池1を検査した場合(
図8(a)参照)には、所定の経過時間tcの経過以降、12μsec程度の期間だけバースト波状の受波超音波US5が受波された。電解液50を注液した電池1では、回込み超音波US2が回り込むように電池ケース10を伝播する間に、電池ケース10とこれに接する電解液50との間でも超音波の相互伝搬を生じるが、この際にエネルギーロスが生じやすく、回込み超音波US2が早期に減衰したと推測される。これに対し未注液の電池1では、電池ケース10を伝播する回込み超音波US2の減衰が生じ難く、長期にわたり、受波超音波US5として大きな超音波が受波された(
図8(b)参照)と推測される。
【0044】
更に、この比較形態1では、バースト波状或いは長期継続する受波超音波US5として、送波超音波US0の周波数(0.8MHz)よりも高い(3倍程度の)周波数を有する受波超音波US5が受波されている。この理由も明確では無い。しかし、送信プローブ120から送出され厚み方向CHに進む送波超音波US0が、上述のように方向変換して、拡散超音波US1として、第1側壁部15の第1被測定部15maからその周囲に向けて(
図7において上方及び下方に)拡がるように伝わる際に、非線形効果により、高調波(3倍調波)の拡散超音波US1に変換されて伝搬し、回込み超音波US2、更には受波超音波US5となって、受信プローブ125となって観測されたと推測される。
【0045】
(比較形態2)
次いで、第2の比較形態について説明する(
図9及び
図10参照)。本比較形態2でも、電池1の製造に当たり、実施形態1と同様の各工程S1~S4を行う。このうち、含浸検査工程S2では、実施形態1と同様、送信プローブ120及び受信プローブ125を用いるが、前述の含浸検査装置100とは異なり、吸収材130,135を用いず、拘束板110,115で電池1を拘束し、送信プローブ120及び受信プローブ125を保持する含浸検査装置C2を用いる点が、実施形態1と異なる。即ち、吸収材130,135は用いずに、拘束板110,115で電池1を直接、押圧し拘束すると共に、送信プローブ120を電池ケース10の第1側壁部15の第1被測定部15maに、受信プローブ125を電池ケース10の第2側壁部16の第2被測定部16maにそれぞれ密着させる。そして、実施形態1と同様、送信プローブ120から送波超音波US0を送出し(
図5参照)、受信プローブ125で受波超音波US5を受波する。
【0046】
本比較形態2で、電極体20に電解液50が十分に含浸している良品の電池1を検査した場合には、実施形態1の場合(
図6(a)参照)とも比較形態1の場合(
図8(a)参照)とも異なる、
図10(a)に示す受波超音波US5(受波信号RS)が得られた。即ち、本比較形態2では、良品の電池1を検査すると、送信プローブ120からバースト波状の送波超音波US0を送出開始(t=0)してから、実施形態1の所定の経過時間taよりも短く、比較形態1の所定の経過時間tcとほぼ同程度の所定の経過時間te(本比較形態2ではte=約8μsec)の経過以降に、経過時間t=8~16μsecの約8μsecの期間にわたって、振幅の大きなバースト波状の受波超音波US5が受波される(
図10(a)参照)。
【0047】
一方、電極体20に電解液50が全く含浸していない電池1を検査する場合を模して、電解液50が未注液の電池1について含浸検査を行った場合にも、実施形態1の場合(
図6(b)参照)とも比較形態1の場合(
図8(b)参照)とも異なる、
図10(b)に示す受波信号RSが得られる。未注液の電池1を検査した場合には、本来、実施形態1において説明したように、送信プローブ120から送波超音波US0を送出しても、受信プローブ125で殆ど受波超音波US5として受波できないはずである(
図6(b)参照)。しかし、本変形形態2では、比較形態1の所定の経過時間tcとほぼ同程度の所定の経過時間tf(本比較形態2ではtf=約8μsec)の経過以降、経過時間t=8~18μsecの約10μsecの期間にわたって、振幅の大きなバースト波状の受波超音波US5が受波される(
図10(b)参照)。
【0048】
但し、実施形態1の場合(
図6(a)参照)と比較すれば容易に理解できるように、いずれの場合(
図10(a)(b)参照)にも、所定の経過時間te或いはtf(te,tf=約8μsec)の経過以降に受波したバースト波状の受波超音波US5は、送波超音波US0の周波数(0.8MHz)よりも高い(3倍程度の)周波数を有している。このため、この比較形態2において、経過時間te,tfの経過以降に受波したバースト波状の受波超音波US5は、実施形態1において得られたのと同様の、送信プローブ120から送出された送波超音波US0の一部が、電池1の厚み方向CHに直進し、透過前超音波USTとして第1側壁部15の第1被測定部15maに伝わり、更に電極体20を透過して、透過後超音波USRとして第2側壁部16の第2被測定部16maに到達し、受波超音波US5として受信プローブ125で受波された超音波であるとは考えられない。
【0049】
比較形態2において、電極体20に電解液50が十分に含浸している良品の電池1では経過時間t=8~16μsecに、また、未注液の電池1では経過時間t=8~18μseに、送波超音波US0の周波数よりも高い周波数を有するバースト波状の受波超音波US5が得られた理由の詳細は明確ではない。
【0050】
しかしながら、推測するに、本変形形態2では、含浸検査装置C2で拘束板110,115を用いて電池1を拘束しているが、超音波を吸収する吸収材130,135を電池ケース10に密着させていない。このため、送信プローブ120から送出した送波超音波US0の一部は、透過前超音波USTとなって第1側壁部15の第1被測定部15maから電極体20へ伝わり、また電極体20を透過した透過後超音波USRが第2側壁部16の第2被測定部16maへ伝わる。
【0051】
しかし、それよりも速く、送信プローブ120から送出した送波超音波US0の一部が、高調波(3倍調波)の拡散超音波US1となって、第1被測定部15maからその周囲に向けて(
図7において上方及び下方に)拡がるように伝わる。そして、回り込むように電池ケース10を伝播して、回込み超音波US2となって、第2側壁部16の第2被測定部16maの周囲から第2被測定部16maに向けて(
図7において下方及び上方に)伝わり、第2被測定部16maにおいて、受波超音波US5として受信プローブ125で受波されたと推測される。
【0052】
また、本変形形態2では、超音波を吸収する吸収材130,135を電池ケース10に密着させていないが、良品の電池1を検査した場合(
図10(a)参照)でも、未注液の電池1を検査した場合(
図10(b)参照)でも、約8μsec或いは約10μsec継続するバースト波状の受波超音波US5が得られている。本変形形態2では、含浸検査装置C2で拘束板110,115を用いて電池1を拘束し、電池ケース10の第1側壁部15の内側面15n及び第2側壁部16の内側面16nをそれぞれ電極体20に接触させている。このため、拡散超音波US1あるいは回込み超音波US2が電池ケース10内を伝播する間に、電池ケース10とこれに接する電極体20或いは更に電解液50との間でも超音波の相互伝搬を生じるが、この際にエネルギーロスが生じ易く、回込み超音波US2が早期に減衰したと推測される。
【0053】
以上で説明したように、電池1の製造方法では、含浸検査工程S2において、電池ケース10の第1側壁部15と第2側壁部16との間を挟圧して、第1側壁部15の内側面15nと第2側壁部16の内側面16nをそれぞれ電極体20に接触させると共に、送信プローブ120及び受信プローブ125をそれぞれ第1側壁部15の外側面15m内の第1被測定部15ma及び第2側壁部16の外側面16m内の第2被測定部16maに密着させている。このため、送信プローブ120から送出された送波超音波US0は、第1側壁部15に直接伝わり、空気層を介さずに電極体20に届き、この電極体20を透過し、更に電極体20から空気層を介さずに第2側壁部16に伝わり、第2側壁部16から受信プローブ125に直接伝わる。これにより、送信プローブ120から送出され、電極体20等を透過した透過後超音波USRを、受信プローブ125で適切に受波できる。
【0054】
一方、電池ケース10のうち、送信プローブ120が密着する第1被測定部15maの周囲部15mbに、拡散超音波US1を吸収する吸収材130を配置すると共に、受信プローブ125が密着する第2被測定部16maの周囲部16mbに、回込み超音波US2を吸収する吸収材135を配置している。これにより、送信プローブ120から送波した送波超音波US0の一部が、電極体20を透過せずに、第1被測定部15maから拡散し、回り込むように電池ケース10を伝播し、第2被測定部16maに届いて受信プローブ125で受波され、ノイズとなるのを抑制できる。
これらにより、電池1における、電極体20への電解液50の含浸状態を適切に検査できる。
【0055】
(実施形態2)
次いで、第2の実施形態について説明する。実施形態1では、電池1の製造過程において含浸検査工程S2を行う場合を例示した。これに対し、本実施形態2では、出荷後の電池1について含浸検査工程S2を行う点が異なる(
図11参照)。含浸検査工程S2自体は、実施形態1と同様である。
このように出荷後の電池1について含浸検査を行った場合でも、実施形態1で説明したように、当該電池1における、電極体20への電解液50の含浸状態を適切に検査できる。
【0056】
以上において、本発明を実施形態1,2に即して説明したが、本発明は実施形態1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態1,2では、超音波USを吸収する吸収材130,135を、電池ケース10のうち第1被測定部15maの周囲部15mbと第2被測定部16maの周囲部16mbの両方に配置したが、いずれか一方の周囲部にのみ、吸収材を配置してもよい。また、吸収材130,135には、ゴムに限らず、樹脂や粘土、グリース、ゲルなどを用いてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 角形電池(電池)
10 角形電池ケース(電池ケース)
15 第1側壁部
15n (第1側壁部の)内側面
15m (第1側壁部の)外側面
15ma 第1被測定部
15mb (第1被測定部の)周囲部
16 第2側壁部
16n (第2側壁部の)内側面
16m (第2側壁部の)外側面
16ma 第2被測定部
16mb (第2被測定部の)周囲部
20 電極体
50 電解液
100,C1,C2 含浸検査装置
110,115 拘束板
120 送信プローブ
125 受信プローブ
130,135 吸収材
140 プローブ駆動装置
150 制御部
TS 送波信号
RS 受波信号
US0 送波超音波
UST 透過前超音波
USR 透過後超音波
US1 拡散超音波
US2 回込み超音波
US5 受波超音波
t,ta,tc,td,te,tf (送波開始から経過した)経過時間
AT,AR 振幅
S1 組立工程
S2 含浸検査工程
S3 初充電工程
S4 エージング工程