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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/26 20060101AFI20240216BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240216BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B60T8/26 K
B60T8/26 H
B60T7/12 C
B60T8/1755 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019113690
(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2020203653
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】井苅 佳秀
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024644(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185578(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/26
B60T 7/12
B60T 8/1755
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗り型車両(100)の走行を制御する制御装置(60)であって、
前記鞍乗り型車両(100)の衝突可能性を表す指標値(I)を取得する取得部(61)と、
前記鞍乗り型車両(100)の自動緊急減速動作を前記指標値(I)に応じて開始する実行部(62)と、
を備え、
前記実行部(62)は、前記自動緊急減速動作を行う際、前記鞍乗り型車両(100)の車輪(3,4)に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分を後輪(4)に生じる制動力が前輪(3)に生じる制動力よりも高くなる初期状態にし、時間経過に伴って、前記制動力配分における前記前輪(3)の配分比率を増大させ、
前記実行部(62)は、前記制動力配分を前記初期状態にした後において、前記制動力配分を前記鞍乗り型車両(100)の挙動情報に基づいて制御し、
前記挙動情報は、前記自動緊急減速動作における目標減速度の情報を含む、
制御装置。
【請求項2】
前記挙動情報は、前記鞍乗り型車両(100)に生じている車体減速度の情報を含む、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
鞍乗り型車両(100)の走行を制御する制御装置(60)であって、
前記鞍乗り型車両(100)の衝突可能性を表す指標値(I)を取得する取得部(61)と、
前記鞍乗り型車両(100)の自動緊急減速動作を前記指標値(I)に応じて開始する実行部(62)と、
を備え、
前記実行部(62)は、前記自動緊急減速動作を行う際、前記鞍乗り型車両(100)の車輪(3,4)に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分を後輪(4)に生じる制動力が前輪(3)に生じる制動力よりも高くなる初期状態にし、時間経過に伴って、前記制動力配分における前記前輪(3)の配分比率を増大させ、
前記実行部(62)は、前記制動力配分を前記初期状態にした後において、前記制動力配分を前記鞍乗り型車両(100)の挙動情報に基づいて制御し、
前記挙動情報は、前記鞍乗り型車両(100)に生じている車体減速度の情報を含む、
制御装置。
【請求項4】
前記実行部(62)は、前記初期状態において、前記後輪(4)のみに制動力を生じさせる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記実行部(62)は、前記制動力配分を前記初期状態にした後において、前記制動力配分の変化速度を前記鞍乗り型車両(100)の前記挙動情報に基づいて制御する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記実行部(62)は、前記制動力配分を前記初期状態にした後において、前記前輪(3)の配分比率を増大させ始める増大開始時点を前記鞍乗り型車両(100)の前記挙動情報に基づいて制御する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記挙動情報は、前記車輪(3、4)に生じているスリップ度の情報を含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記挙動情報は、前記鞍乗り型車両(100)に生じているピッチ角の情報を含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項9】
前記実行部(62)は、ライダーの搭乗姿勢が減速時の姿勢として不適切と判定される場合、前記制動力配分を前記初期状態にした後における時間経過に伴う前記前輪(3)の配分比率の増大を禁止する、
請求項1~のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項10】
鞍乗り型車両(100)の走行を制御する制御方法であって、
制御装置(60)の取得部(61)が、前記鞍乗り型車両(100)の衝突可能性を表す指標値(I)を取得する取得ステップ(S511)と、
前記制御装置(60)の実行部(62)が、前記鞍乗り型車両(100)の自動緊急減速動作を前記指標値(I)に応じて開始する実行ステップ(S513、517)と、
を備え、
前記実行ステップ(S513、517)において、前記実行部(62)は、前記自動緊急減速動作を行う際、前記鞍乗り型車両(100)の車輪(3,4)に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分を後輪(4)に生じる制動力が前輪(3)に生じる制動力よりも高くなる初期状態にし、時間経過に伴って、前記制動力配分における前記前輪(3)の配分比率を増大させ、
前記実行部(62)は、前記制動力配分を前記初期状態にした後において、前記制動力配分を前記鞍乗り型車両(100)の挙動情報に基づいて制御し、
前記挙動情報は、前記自動緊急減速動作における目標減速度の情報を含む、
制御方法。
【請求項11】
鞍乗り型車両(100)の走行を制御する制御方法であって、
制御装置(60)の取得部(61)が、前記鞍乗り型車両(100)の衝突可能性を表す指標値(I)を取得する取得ステップ(S511)と、
前記制御装置(60)の実行部(62)が、前記鞍乗り型車両(100)の自動緊急減速動作を前記指標値(I)に応じて開始する実行ステップ(S513、517)と、
を備え、
前記実行ステップ(S513、517)において、前記実行部(62)は、前記自動緊急減速動作を行う際、前記鞍乗り型車両(100)の車輪(3,4)に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分を後輪(4)に生じる制動力が前輪(3)に生じる制動力よりも高くなる初期状態にし、時間経過に伴って、前記制動力配分における前記前輪(3)の配分比率を増大させ、
前記実行部(62)は、前記制動力配分を前記初期状態にした後において、前記制動力配分を前記鞍乗り型車両(100)の挙動情報に基づいて制御し、
前記挙動情報は、前記鞍乗り型車両(100)に生じている車体減速度の情報を含む、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、ライダーの快適性を確保しつつ、鞍乗り型車両の自動緊急減速動作を適切に実行することができる制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鞍乗り型車両に関する技術として、ライダーの運転を支援するためのものがある。
【0003】
例えば、特許文献1では、走行方向又は実質的に走行方向にある障害物を検出するセンサ装置により検出された情報に基づいて、不適切に障害物に接近していることをモータサイクルのライダーへ警告する運転者支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-116882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ライダーの運転を支援するための技術として、車両に衝突可能性が生じている場合にその車両に自動緊急減速動作を実行させる制御を、モータサイクル等の鞍乗り型車両に適用することが考えられる。ここで、鞍乗り型車両の姿勢は、例えば4輪を有する車両と比較して不安定になりやすい。ゆえに、その制御の実行中に、制動力が鞍乗り型車両に自動で付与されることに起因して鞍乗り型車両がライダーの意図しない挙動を示し、それにより、ライダーの快適性が大きく損なわれるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、ライダーの快適性を確保しつつ、鞍乗り型車両の自動緊急減速動作を適切に実行することができる制御装置及び制御方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制御装置は、鞍乗り型車両の走行を制御する制御装置であって、前記鞍乗り型車両の衝突可能性を表す指標値を取得する取得部と、前記鞍乗り型車両の自動緊急減速動作を前記指標値に応じて開始する実行部と、を備え、前記実行部は、前記自動緊急減速動作を行う際、前記鞍乗り型車両の車輪に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分を後輪に生じる制動力が前輪に生じる制動力よりも高くなる初期状態にし、時間経過に伴って、前記制動力配分における前記前輪の配分比率を増大させる。
【0008】
本発明に係る制御方法は、鞍乗り型車両の走行を制御する制御方法であって、制御装置の取得部が、前記鞍乗り型車両の衝突可能性を表す指標値を取得する取得ステップと、前記制御装置の実行部が、前記鞍乗り型車両の自動緊急減速動作を前記指標値に応じて開始する実行ステップと、を備え、前記実行ステップにおいて、前記実行部は、前記自動緊急減速動作を行う際、前記鞍乗り型車両の車輪に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分を後輪に生じる制動力が前輪に生じる制動力よりも高くなる初期状態にし、時間経過に伴って、前記制動力配分における前記前輪の配分比率を増大させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る制御装置、及び制御方法では、鞍乗り型車両の自動緊急減速動作が行われる際、車輪に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分が、後輪に生じる制動力が前輪に生じる制動力よりも高くなる初期状態になる。それにより、制動開始時点において、鞍乗り型車両がピッチ方向に傾く挙動であるピッチングの発生を抑制することができる。そして、前後輪の制動力配分が初期状態になった後、時間経過に伴って、前後輪の制動力配分における前輪の配分比率が増大する。それにより、制動力配分の急峻な変化に起因するピッチングの発生を抑制しつつ、後輪を制動する後輪制動機構の負担が過剰になることを抑制することができる。よって、ライダーの快適性を確保しつつ、鞍乗り型車両の自動緊急減速動作を適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る制御装置が搭載されるモータサイクルの概略構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るブレーキシステムの概略構成を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る制御装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る制御装置について、図面を用いて説明する。なお、以下では、二輪のモータサイクルに用いられる制御装置について説明しているが、本発明に係る制御装置は、二輪のモータサイクル以外の鞍乗り型車両(例えば、三輪のモータサイクル、バギー車、自転車等)に用いられるものであってもよい。なお、鞍乗り型車両は、ライダーが跨って乗車する車両を意味する。また、以下では、モータサイクルの車輪を駆動するための動力を出力可能な駆動源としてエンジンが搭載されている場合を説明しているが、モータサイクルの駆動源としてエンジン以外の他の駆動源(例えば、モータ)が搭載されていてもよく、複数の駆動源が搭載されていてもよい。
【0012】
また、以下で説明する構成及び動作等は一例であり、本発明に係る制御装置及び制御方法は、そのような構成及び動作等である場合に限定されない。
【0013】
また、以下では、同一の又は類似する説明を適宜簡略化又は省略している。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分については、符号を付すことを省略しているか、又は同一の符号を付している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0014】
<モータサイクルの構成>
図1図3を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置60が搭載されるモータサイクル100の構成について説明する。
【0015】
図1は、制御装置60が搭載されるモータサイクル100の概略構成を示す模式図である。図2は、ブレーキシステム10の概略構成を示す模式図である。図3は、制御装置60の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0016】
モータサイクル100は、図1に示されるように、胴体1と、胴体1に旋回自在に保持されているハンドル2と、胴体1にハンドル2と共に旋回自在に保持されている前輪3と、胴体1に回動自在に保持されている後輪4と、エンジン5と、ブレーキシステム10とを備える。本実施形態では、制御装置(ECU)60は、後述されるブレーキシステム10の液圧制御ユニット50に設けられている。さらに、モータサイクル100は、図1及び図2に示されるように、周囲環境センサ41と、入力装置42と、慣性計測装置(IMU)43と、マスタシリンダ圧センサ48と、ホイールシリンダ圧センサ49とを備える。モータサイクル100は、本発明の「鞍乗り型車両」の一例に相当する。
【0017】
エンジン5は、モータサイクル100の駆動源の一例に相当し、車輪(具体的には、後輪4)を駆動するための動力を出力可能である。例えば、エンジン5には、内部に燃焼室が形成される1又は複数の気筒と、燃焼室に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁と、点火プラグとが設けられている。燃料噴射弁から燃料が噴射されることにより燃焼室内に空気及び燃料を含む混合気が形成され、当該混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。それにより、気筒内に設けられたピストンが往復運動し、クランクシャフトが回転するようになっている。また、エンジン5の吸気管には、スロットル弁が設けられており、スロットル弁の開度であるスロットル開度に応じて燃焼室への吸気量が変化するようになっている。
【0018】
ブレーキシステム10は、図1及び図2に示されるように、第1ブレーキ操作部11と、少なくとも第1ブレーキ操作部11に連動して前輪3を制動する前輪制動機構12と、第2ブレーキ操作部13と、少なくとも第2ブレーキ操作部13に連動して後輪4を制動する後輪制動機構14とを備える。また、ブレーキシステム10は、液圧制御ユニット50を備え、前輪制動機構12の一部及び後輪制動機構14の一部は、当該液圧制御ユニット50に含まれる。液圧制御ユニット50は、前輪制動機構12によって前輪3に生じる制動力及び後輪制動機構14によって後輪4に生じる制動力を制御する機能を担うユニットである。
【0019】
第1ブレーキ操作部11は、ハンドル2に設けられており、ライダーの手によって操作される。第1ブレーキ操作部11は、例えば、ブレーキレバーである。第2ブレーキ操作部13は、胴体1の下部に設けられており、ライダーの足によって操作される。第2ブレーキ操作部13は、例えば、ブレーキペダルである。
【0020】
前輪制動機構12及び後輪制動機構14のそれぞれは、ピストン(図示省略)を内蔵しているマスタシリンダ21と、マスタシリンダ21に付設されているリザーバ22と、胴体1に保持され、ブレーキパッド(図示省略)を有しているブレーキキャリパ23と、ブレーキキャリパ23に設けられているホイールシリンダ24と、マスタシリンダ21のブレーキ液をホイールシリンダ24に流通させる主流路25と、ホイールシリンダ24のブレーキ液を逃がす副流路26と、マスタシリンダ21のブレーキ液を副流路26に供給する供給流路27とを備える。
【0021】
主流路25には、込め弁(EV)31が設けられている。副流路26は、主流路25のうちの、込め弁31に対するホイールシリンダ24側とマスタシリンダ21側との間をバイパスする。副流路26には、上流側から順に、弛め弁(AV)32と、アキュムレータ33と、ポンプ34とが設けられている。主流路25のうちの、マスタシリンダ21側の端部と、副流路26の下流側端部が接続される箇所との間には、第1弁(USV)35が設けられている。供給流路27は、マスタシリンダ21と、副流路26のうちのポンプ34の吸込側との間を連通させる。供給流路27には、第2弁(HSV)36が設けられている。
【0022】
込め弁31は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。弛め弁32は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。第1弁35は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。第2弁36は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。
【0023】
液圧制御ユニット50は、込め弁31、弛め弁32、アキュムレータ33、ポンプ34、第1弁35及び第2弁36を含むブレーキ液圧を制御するためのコンポーネントと、それらのコンポーネントが設けられ、主流路25、副流路26及び供給流路27を構成するための流路が内部に形成されている基体51と、制御装置60とを含む。
【0024】
なお、基体51は、1つの部材によって形成されていてもよく、複数の部材によって形成されていてもよい。また、基体51が複数の部材によって形成されている場合、各コンポーネントは、異なる部材に分かれて設けられていてもよい。
【0025】
液圧制御ユニット50の上記のコンポーネントの動作は、制御装置60によって制御される。それにより、前輪制動機構12によって前輪3に生じる制動力及び後輪制動機構14によって後輪4に生じる制動力が制御される。
【0026】
例えば、通常時(つまり、後述される自動緊急減速動作及びアンチロックブレーキ制御のいずれも実行されていない時)には、制御装置60によって、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が開放され、第2弁36が閉鎖される。その状態で、第1ブレーキ操作部11が操作されると、前輪制動機構12において、マスタシリンダ21のピストン(図示省略)が押し込まれてホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(図示省略)が前輪3のロータ3aに押し付けられて、前輪3に制動力が生じる。また、第2ブレーキ操作部13が操作されると、後輪制動機構14において、マスタシリンダ21のピストン(図示省略)が押し込まれてホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(図示省略)が後輪4のロータ4aに押し付けられて、後輪4に制動力が生じる。
【0027】
周囲環境センサ41は、モータサイクル100の走行中において、検出範囲内にある対象物(障害物、車両、人、動物等)のモータサイクル100に対する衝突可能性を表す指標値Iを常時検出する。
【0028】
周囲環境センサ41としては、例えば、モータサイクル100に対する、モータサイクル100の走行方向にある対象物(障害物、車両、人、動物等)の相対距離Dr及び相対速度Vrを検出可能なレーダー、カメラ等が用いられる。周囲環境センサ41は、例えば、胴体1の前部に設けられている。なお、周囲環境センサ41の構成は上記の例に限定されず、例えば、周囲環境センサ41が、モータサイクル100の走行方向に侵入すると予測される対象物の相対距離Dr及び相対速度Vrを検出するものであってもよく、また、モータサイクル100の側部に対して衝突の可能性の有る対象物の相対距離Dr及び相対速度Vrを検出するものであってもよい。また、周囲環境センサ41が、対象物の相対距離Dr及び相対速度Vrに加えて、相対加速度Arを検出するものであってもよい。また、周囲環境センサ41が、対象物の相対距離Dr、相対速度Vr、相対加速度Ar等に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。
【0029】
周囲環境センサ41では、例えば、衝突可能性を表す指標値Iが、以下の数式1又は数式2で定義される値で導出される。なお、指標値Iが大きい程、衝突可能性が高いこと意味する。また、衝突可能性を表す指標値Iが、後述される制御装置60で導出されてもよい。
【0030】
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
入力装置42は、ライダーによる走行モードの選択操作を受け付け、ライダーにより選択されている走行モードを示す情報を出力する。ここで、モータサイクル100では、後述されるように、制御装置60によって、モータサイクル100に自動緊急減速動作を実行させるモードを実行可能となっている。自動緊急減速動作は、対象物(障害物、車両、人、動物等)に対するモータサイクル100の衝突可能性が高いと判定される状況下で当該モータサイクル100に自動で減速を生じさせる動作である。ライダーは、入力装置42を用いて、モータサイクル100に自動緊急減速動作を実行させることを所望するか否かを入力することができる。入力装置42としては、例えば、レバー、ボタン又はタッチパネル等が用いられる。入力装置42は、例えば、ハンドル2に設けられている。
【0033】
慣性計測装置43は、3軸のジャイロセンサ及び3方向の加速度センサを備えており、モータサイクル100の姿勢を検出する。例えば、慣性計測装置43は、モータサイクル100のピッチ角を検出し、検出結果を出力する。慣性計測装置43が、モータサイクル100のピッチ角に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。ピッチ角は、モータサイクル100の胴体1の水平方向に対するピッチ方向(つまり、車幅方向に沿った回転軸回りの図1に示される回転方向P)の傾きを示す角度に相当する。慣性計測装置43は、例えば、胴体1に設けられている。なお、モータサイクル100では、ピッチ角を検出する機能のみを有するセンサが慣性計測装置43に替えて用いられてもよい。
【0034】
マスタシリンダ圧センサ48は、マスタシリンダ21のブレーキ液の液圧を検出し、検出結果を出力する。マスタシリンダ圧センサ48が、マスタシリンダ21のブレーキ液の液圧に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。マスタシリンダ圧センサ48は、前輪制動機構12及び後輪制動機構14のそれぞれに設けられている。
【0035】
ホイールシリンダ圧センサ49は、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を検出し、検出結果を出力する。ホイールシリンダ圧センサ49が、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。ホイールシリンダ圧センサ49は、前輪制動機構12及び後輪制動機構14のそれぞれに設けられている。
【0036】
制御装置60は、モータサイクル100の走行を制御する。
【0037】
例えば、制御装置60の一部又は全ては、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されている。また、例えば、制御装置60の一部又は全ては、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御装置60は、例えば、1つであってもよく、また、複数に分かれていてもよい。
【0038】
制御装置60は、図3に示されるように、例えば、取得部61と、実行部62とを備える。
【0039】
取得部61は、モータサイクル100に搭載されている各装置から出力される情報を取得し、実行部62へ出力する。例えば、取得部61は、周囲環境センサ41、入力装置42、慣性計測装置43、マスタシリンダ圧センサ48及びホイールシリンダ圧センサ49から出力される情報を取得する。
【0040】
実行部62は、モータサイクル100に搭載されている各装置の動作を制御することによって、モータサイクル100に付与される駆動力及び制動力を制御する。
【0041】
ここで、実行部62は、モータサイクル100に搭載されている各装置の動作を制御することによって、自動緊急減速動作を実行可能である。具体的には、実行部62は、モータサイクル100に自動緊急減速動作を実行させることを所望することが入力装置42に入力されていて、且つ、対象物(障害物、車両、人、動物等)に対するモータサイクル100の衝突可能性が高いと判定される場合に、自動緊急減速動作を実行する。なお、実行部62は、例えば、ライダーによる走行方向の転換、対象物の移動等によって、対象物に対するモータサイクル100の衝突可能性が低くなったと判定される場合に、自動緊急減速動作を解除する。
【0042】
自動緊急減速動作では、モータサイクル100が対象物(障害物、車両、人、動物等)の手前で停止するように制御される。なお、減速の度合いがある程度以下に制限されていてもよい。
【0043】
具体的には、実行部62は、取得部61で取得される衝突可能性を表す指標値Iを取得し、指標値Iが基準指標値より大きい場合に、その指標値Iに基づいて減速度の目標値(以下、目標減速度と呼ぶ)を算出し、算出結果に基づいてモータサイクル100に付与される駆動力及び制動力を制御する。例えば、実行部62は、指標値Iが大きい程目標減速度を大きくする。なお、目標減速度は、固定値で設定されていてもよい。
【0044】
実行部62は、例えば、駆動制御部62aと、制動制御部62bとを含む。
【0045】
駆動制御部62aは、自動緊急減速動作の実行中に、モータサイクル100の車輪に伝達される駆動力を制御する。具体的には、駆動制御部62aは、自動緊急減速動作の実行中に、エンジン5の各装置(スロットル弁、燃料噴射弁及び点火プラグ等)の動作を制御するための信号を出力するエンジン制御装置(図示省略)に指令を出力することによって、エンジン5の動作を制御する。それにより、自動緊急減速動作の実行中に車輪に伝達される駆動力が制御される。
【0046】
通常時には、エンジン5の動作は、エンジン制御装置によって、ライダーのアクセル操作に応じて車輪に駆動力が伝達されるように制御される。
【0047】
一方、自動緊急減速動作の実行中には、駆動制御部62aは、ライダーのアクセル操作によらずに車輪に駆動力が伝達されるように、エンジン5の動作を制御する。具体的には、駆動制御部62aは、自動緊急減速動作の実行中に、車輪に伝達される駆動力が減少するように、エンジン5の動作を制御し、車輪に伝達される駆動力を制御する。
【0048】
制動制御部62bは、ブレーキシステム10の液圧制御ユニット50の各コンポーネントの動作を制御することによって、モータサイクル100の車輪に生じる制動力を制御する。
【0049】
通常時には、制動制御部62bは、上述したように、ライダーのブレーキ操作に応じて車輪に制動力が生じるように、液圧制御ユニット50の各コンポーネントの動作を制御する。
【0050】
一方、自動緊急減速動作の実行中には、制動制御部62bは、ライダーのブレーキ操作によらずに車輪に制動力が生じるように、各コンポーネントの動作が制御される。具体的には、制動制御部62bは、自動緊急減速動作の実行中に、モータサイクル100の減速度が衝突可能性を表す指標値Iに基づいて算出される目標減速度となるように、液圧制御ユニット50の各コンポーネントの動作を制御し、車輪に生じる制動力を制御する。
【0051】
例えば、自動緊急減速動作の実行中には、制動制御部62bは、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が閉鎖され、第2弁36が開放された状態にし、その状態で、ポンプ34を駆動することにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を増加させて車輪に制動力を生じさせる。また、制動制御部62bは、例えば、第1弁35の開度を制御することによりホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を調整することによって、車輪に生じる制動力を制御することができる。
【0052】
ここで、制動制御部62bは、自動緊急減速動作の実行中に、前輪制動機構12及び後輪制動機構14の各々の動作を個別に制御することによって、前輪制動機構12及び後輪制動機構14のホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を個別に制御し、前後輪の制動力配分(つまり、前輪3に生じる制動力と後輪4に生じる制動力の配分)を制御することができる。具体的には、制動制御部62bは、各車輪に生じる制動力の目標値の合計値が目標減速度に応じた要求制動力(つまり、自動緊急減速動作の実行中における制動時に要求される制動力)になるように、前後輪の制動力配分を制御する。要求制動力は、具体的には、モータサイクル100の減速度を衝突可能性を表す指標値Iに基づいて算出される目標減速度にするために必要な制動力である。
【0053】
なお、制動制御部62bは、車輪にロック又はロックの可能性が生じた場合に、アンチロックブレーキ制御を行ってもよい。アンチロックブレーキ制御は、ロック又はロックの可能性が生じた車輪の制動力を、ロックを回避し得るような制動力に調整する制御である。
【0054】
例えば、アンチロックブレーキ制御の実行中には、制動制御部62bは、込め弁31が閉鎖され、弛め弁32が開放され、第1弁35が開放され、第2弁36が閉鎖された状態にし、その状態で、ポンプ34を駆動することにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を減少させて車輪に生じる制動力を減少させる。また、制動制御部62bは、例えば、上記の状態から込め弁31及び弛め弁32の双方を閉鎖することにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を保持し車輪に生じる制動力を保持することができる。また、制動制御部62bは、例えば、上記の状態から込め弁31を開放し、弛め弁32を閉鎖することにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧を増大させて車輪に生じる制動力を増大させることができる。
【0055】
上記のように、制御装置60では、実行部62は、自動緊急減速動作を実行可能である。ここで、実行部62は、自動緊急減速動作を行う際、車輪に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分を後輪4に生じる制動力が前輪3に生じる制動力よりも高くなる初期状態にし、時間経過に伴って、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させる。それにより、ライダーの快適性を確保しつつ、モータサイクル100の自動緊急減速動作を適切に実行することが実現される。このような制御装置60が行う自動緊急減速動作の実行中における車輪の制動の制御に関する処理については、後述にて詳細に説明する。
【0056】
なお、上記では、駆動制御部62aがエンジン制御装置を介してエンジン5の動作を制御する例を説明したが、駆動制御部62aがエンジン5の各装置の動作を制御するための信号を出力し、エンジン5の各装置の動作を直接的に制御してもよい。その場合、通常時におけるエンジン5の動作についても、自動緊急減速動作の実行中におけるエンジン5の動作と同様に、駆動制御部62aによって制御される。
【0057】
<制御装置の動作>
図4を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置60の動作について説明する。
【0058】
図4は、制御装置60が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。具体的には、図4に示される制御フローは、モータサイクル100に自動緊急減速動作を実行させることを所望することが入力装置42に入力されている場合において、繰り返し行われる。また、図4におけるステップS510及びステップS590は、図4に示される制御フローの開始及び終了にそれぞれ対応する。
【0059】
図4に示される制御フローが開始されると、ステップS511において、取得部61が、モータサイクル100の衝突可能性を表す指標値Iを取得する取得ステップを実行した後、実行部62は、その指標値Iに基づいてモータサイクル100の自動緊急減速動作を開始する要求が生じたか否かを判定する。モータサイクル100の自動緊急減速動作を開始する要求が生じたと判定された場合(ステップS511/YES)、ステップS513に進む。一方、モータサイクル100の減速を開始する要求が生じていないと判定された場合(ステップS511/NO)、ステップS511の判定処理が繰り返される。
【0060】
例えば、実行部62は、指標値Iが基準指標値よりも大きいと判定される場合に、モータサイクル100の減速を開始する要求が生じたと判定する。基準指標値は、固定値であってもよく、また、モータサイクル100の走行状態、路面状況等に応じて変化する変動値であってもよい。
【0061】
ステップS511でYESと判定された場合、ステップS513において、駆動制御部62aは、車輪に伝達されている駆動力が有る場合には、その駆動力を減少させる。また、制動制御部62bは、モータサイクル100の車輪の制動を開始する。具体的には、車輪の制動時には、制動制御部62bは、上述したように、モータサイクル100の減速度が衝突可能性を表す指標値Iに基づいて算出される目標減速度となるように、車輪に生じる制動力を制御する。
【0062】
ここで、制動制御部62bは、車輪に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分を後輪4に生じる制動力が前輪3に生じる制動力よりも高くなる初期状態にする。
【0063】
車輪の制動時には、モータサイクル100には当該モータサイクル100の走行方向である前方向に慣性力が作用している。ゆえに、制動力配分における前輪3の配分比率が大きいほど、モータサイクル100の後部が上昇するようにモータサイクル100がピッチ方向に傾きやすくなる。ここで、モータサイクル100がピッチ方向に傾く挙動であるピッチングは、ライダーの意図しない挙動であり、ライダーの快適性が低下する要因となる。ゆえに、制動開始時点において、制動力配分を後輪4に生じる制動力が前輪3に生じる制動力よりも高くなる初期状態にすることにより、制動開始時点において、モータサイクル100のピッチングを抑制することができる。また、制動開始時点においてピッチングをより効果的に抑制する観点では、制動制御部62bは、上記の初期状態において、後輪4にのみ制動力を生じさせることが好ましい。
【0064】
次に、ステップS515において、実行部62は、ライダーの搭乗姿勢が減速時の姿勢として不適切であるか否かを判定する。ライダーの搭乗姿勢が減速時の姿勢として適切であると判定された場合(ステップS515/NO)、ステップS517に進む。一方、ライダーの搭乗姿勢が減速時の姿勢として不適切であると判定された場合(ステップS515/YES)、ステップS519に進む。
【0065】
減速時の姿勢として不適切な搭乗姿勢は、具体的には、ライダーがモータサイクル100の減速時の挙動に対して身構えておらず、モータサイクル100から落下しやすくなっている姿勢を意味する。
【0066】
例えば、実行部62は、ライダーがハンドル2を握っていないと判定される場合に、ライダーの搭乗姿勢が減速時の姿勢として不適切であると判定する。ライダーがハンドル2を握っているか否かについての判定は、例えば、ハンドル2に設けられる近接センサを利用することによって、実現され得る。
【0067】
また、例えば、実行部62は、ライダーが両足で胴体1を把持していないと判定される場合に、ライダーの搭乗姿勢が減速時の姿勢として不適切であると判定する。ライダーが両足で胴体1を把持しているか否かについての判定は、例えば、胴体1に設けられる近接センサを利用することによって、実現され得る。
【0068】
また、例えば、実行部62は、ライダーの視線が前方を向いていないと判定される場合に、ライダーの搭乗姿勢が減速時の姿勢として不適切であると判定する。ライダーの視線が前方を向いているか否かについての判定は、例えば、ライダーの顔を撮像し、得られる画像に画像処理を施すことによりライダーの視線を検出する装置を利用することによって、実現され得る。
【0069】
ステップS515でNOと判定された場合、ステップS517において、制動制御部62bは、時間経過に伴って、前後輪の制動力配分における前輪3の配分比率を増大させる。
【0070】
ここで、制動力配分を初期状態にした後におけるモータサイクル100の姿勢をより安定化する観点では、制動制御部62bは、制動力配分を初期状態にした後において、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始める増大開始時点をモータサイクル100の挙動情報に基づいて制御することが好ましい。
【0071】
例えば、制動制御部62bは、後輪4に生じているスリップ度が基準値を超える時点を、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始める増大開始時点とする。なお、その基準値は、後輪4にロック又はロックの可能性を生じさせない限界のスリップ度に対応するものであってもよく、また、その限界のスリップ度よりも低いスリップ度に対応するものであってもよい。また、制動制御部62bは、後輪4のスリップ度の変化率が基準値を超える時点を、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始める増大開始時点としてもよい。
【0072】
また、制動制御部62bは、その時点での衝突可能性を表す指標値Iに基づいて算出される目標減速度が基準値を超える時点を、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始める増大開始時点としてもよく、また、ステップS513で用いられた目標減速度の高低に応じて決定される期間が制動開始時点から経過した時点を増大開始時点としてもよい。その期間は、目標減速度が高い場合に、目標減速度が低い場合と比較して短く決定されるとよい。また、制動制御部62bは、モータサイクル100に生じている車体減速度が基準値を超える時点を、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始める増大開始時点としてもよい。
【0073】
また、制動制御部62bは、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始める増大開始時点を、その時点でのモータサイクル100のピッチ角に基づいて制御してもよい。例えば、制動制御部62bは、ピッチ角の変化が安定していると判定された時点を増大開始時点として決定し、このような増大開始時点において、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始めてもよい。制動制御部62bは、例えば、ピッチ角が基準ピッチ角より小さい状態が基準時間継続した場合に、ピッチ角の変化が安定していると判定する。基準ピッチ角及び基準時間は、具体的には、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始めることに起因してピッチングが発生する可能性が十分に低いと判断できる程度にピッチ角の変化が安定していることを適切に判定し得る値に適宜設定される。
【0074】
また、制動制御部62bは、制動開始時点からの経過時間が、固定値として予め設定された基準値を超える時点を、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始める増大開始時点としてもよい。
【0075】
なお、前後輪の制動力配分における前輪3の配分比率が増大する過程において、前後輪の制動力配分は、上述したように、各車輪に生じる制動力の目標値の合計値が要求制動力になるように制御される。ゆえに、例えば、制動開始時点から所定期間に亘ってモータサイクル100の減速度が一定(つまり、要求制動力が一定)である状況下では、当該所定期間において、前輪3に生じる制動力は時間経過に伴って増大し、後輪4に生じる制動力は時間経過に伴って減少する。
【0076】
制動力配分を初期状態に維持し続けた場合、後輪4を制動する後輪制動機構14の負担が過剰になりやすくなる。よって、制動力配分を初期状態から変化させることが考えられるが、この際に制動力配分を急峻に変化させると、モータサイクル100のピッチングが発生しやすくなってしまう。したがって、上記のように、制動力配分が初期状態になった後に、前輪3の配分比率を時間経過に伴って増大させることによって、制動力配分の急峻な変化に起因するピッチングの発生を抑制しつつ、後輪4を制動する後輪制動機構14の負担が過剰になることを抑制することができる。
【0077】
ここで、制動力配分を初期状態にした後におけるモータサイクル100の姿勢をより安定化する観点では、制動制御部62bは、制動力配分を初期状態にした後において、前後輪の制動力配分の変化速度をモータサイクル100の挙動情報に基づいて制御することが好ましい。
【0078】
例えば、制動制御部62bは、制動力配分を初期状態にした後において、制動力配分の変化速度をモータサイクル100のピッチ角に基づいて制御してもよい。例えば、制動制御部62bは、制動力配分の変化速度を、ピッチ角が大きい場合に、ピッチ角が小さい場合よりも小さくしてもよい。また、例えば、制動制御部62bは、制動力配分の変化速度を、ピッチ角の変化率が大きい場合に、ピッチ角の変化率が小さい場合よりも小さくしてもよい。
【0079】
また、制動制御部62bが、制動力配分を初期状態にした後において、制動力配分の変化速度をモータサイクル100の後輪4に生じているスリップ度に基づいて制御してもよい。例えば、制動制御部62bは、制動力配分の変化速度を、後輪4に生じているスリップ度が大きい場合に、後輪4に生じているスリップ度が小さい場合よりも大きくしてもよい。また、例えば、制動制御部62bは、制動力配分の変化速度を、後輪4に生じているスリップ度の変化率が大きい場合に、後輪4に生じているスリップ度の変化率が小さい場合よりも大きくしてもよい。
【0080】
また、制動制御部62bが、制動力配分を初期状態にした後において、制動力配分の変化速度をモータサイクル100の前輪3に生じているスリップ度に基づいて制御してもよい。例えば、制動制御部62bは、制動力配分の変化速度を、前輪3に生じているスリップ度が大きい場合に、前輪3に生じているスリップ度が小さい場合よりも小さくしてもよい。また、例えば、制動制御部62bは、制動力配分の変化速度を、前輪3に生じているスリップ度の変化率が大きい場合に、前輪3に生じているスリップ度の変化率が小さい場合よりも小さくしてもよい。
【0081】
なお、制動力配分を初期状態にした後に行われる制動力配分における前輪3の配分比率の増大の態様は、時間経過に伴う増大であればよく、特に限定されない。例えば、制動制御部62bは、前輪3の配分比率を時間経過に伴って段階的に増大させてもよい。また、例えば、制動制御部62bは、前輪3の配分比率を時間経過に伴って連続的に増大させてもよい。また、例えば、制動制御部62bは、制動力配分における前輪3の配分比率の移動平均が時間経過に伴って増大するように、前輪3の配分比率を増大させてもよい。つまり、制動制御部62bは、制動力配分における前輪3の配分比率を、一時的な減少を伴いながら増大するように変化させてもよい。
【0082】
ステップS517の後、又はステップS515でYESと判定された場合、ステップS519において、実行部62は、モータサイクル100の自動緊急減速動作を終了する要求が生じたか否かを判定する。モータサイクル100の自動緊急減速動作を終了する要求が生じたと判定された場合(ステップS519/YES)、ステップS521に進む。一方、モータサイクル100の自動緊急減速動作を終了する要求が生じていないと判定された場合(ステップS519/NO)、ステップS519の判定処理が繰り返される。
【0083】
例えば、実行部62は、対象物(障害物、車両、人、動物等)に対するモータサイクル100の衝突可能性が低くなったと判定されたときに、モータサイクル100の自動緊急減速動作を終了する要求が生じたと判定する。
【0084】
ステップS519でYESと判定された場合、ステップS521において、制動制御部62bは、モータサイクル100の車輪の制動を終了する。
【0085】
次に、図4に示される制御フローは終了する。
【0086】
なお、制動力配分における前輪3の配分比率の増大処理(つまり、ステップS517の処理)の途中でモータサイクル100の自動緊急減速動作を終了する要求が生じた場合にも、制動制御部62bは車輪の制動を終了し、図4に示される制御フローは終了する。
【0087】
上記のように、図4に示される制御フローでは、実行部62は、ライダーの搭乗姿勢が減速時の姿勢として不適切と判定される場合、前後輪の制動力配分を初期状態にした後における時間経過に伴う前輪3の配分比率の増大を禁止する。なお、制御装置60は、ステップS515の判定を行わない、つまり、ライダーの搭乗姿勢に関わらず前後輪の制動力配分を制御するものであってもよい。
【0088】
<制御装置の効果>
本発明の実施形態に係る制御装置60の効果について説明する。
【0089】
制御装置60では、実行部62は、モータサイクル100の自動緊急減速動作を行う際、車輪に制動力を生じさせ始める制動開始時点において、前後輪の制動力配分を後輪4に生じる制動力が前輪3に生じる制動力よりも高くなる初期状態にし、時間経過に伴って、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させる。それにより、制動開始時点において、モータサイクル100のピッチングの発生を抑制することができる。さらに、制動力配分の急峻な変化に起因するピッチングの発生を抑制しつつ、後輪4を制動する後輪制動機構14の負担が過剰になることを抑制することができる。よって、ライダーの快適性を確保しつつ、モータサイクル100の自動緊急減速動作を適切に実行することができる。
【0090】
好ましくは、制御装置60では、実行部62は、初期状態において、後輪4のみに制動力を生じさせる。それにより、制動開始時点において、モータサイクル100のピッチングをより効果的に抑制することができる。
【0091】
好ましくは、制御装置60では、実行部62は、制動力配分を初期状態にした後において、制動力配分をモータサイクル100の挙動情報に基づいて制御する。挙動情報には、例えば、車輪(前輪3、後輪4)に生じているスリップ度、自動緊急減速動作における目標減速度、モータサイクル100に生じている車体減速度、モータサイクル100に生じているピッチ角等が含まれる。それにより、制動力配分を初期状態にした後において、前輪3の配分比率を増大させることに起因してモータサイクル100の挙動が不安定になることを抑制することができる。ゆえに、制動力配分を初期状態にした後におけるモータサイクル100の姿勢をより安定化することができるので、ライダーの快適性をより適切に確保することができる。
【0092】
好ましくは、制御装置60では、実行部62は、制動力配分を初期状態にした後において、制動力配分の変化速度をモータサイクル100の挙動情報に基づいて制御する。それにより、制動力配分を初期状態にした後において、制動力配分の変化速度が過度に大きくなることに起因してモータサイクル100の挙動が不安定になることを抑制することができる。ゆえに、制動力配分を初期状態にした後におけるモータサイクル100の姿勢をより効果的に安定化することができるので、ライダーの快適性をさらに適切に確保することができる。
【0093】
好ましくは、制御装置60では、実行部62は、制動力配分を初期状態にした後において、制動力配分における前輪3の配分比率を増大させ始める増大開始時点をモータサイクル100の挙動情報に基づいて制御する。それにより、制動力配分を初期状態にした後において、早期に制動力配分における前輪3の配分比率が増大し始めることに起因してモータサイクル100の挙動が不安定になることを抑制することができる。ゆえに、制動力配分を初期状態にした後におけるモータサイクル100の姿勢をより効果的に安定化することができるので、ライダーの快適性をさらに適切に確保することができる。
【0094】
好ましくは、制御装置60では、実行部62は、ライダーの搭乗姿勢が減速時の姿勢として不適切と判定される場合、制動力配分を初期状態にした後における時間経過に伴う前輪3の配分比率の増大を禁止する。それにより、ライダーがモータサイクル100の減速時の挙動に対して身構えていない時点で制動力配分における前輪3の配分比率が増大し始めることを抑制することができる。ゆえに、ライダーの安全性をより適切に確保することができる。
【0095】
本発明は実施形態の説明に限定されない。例えば、実施形態の一部のみが実施されてもよく、また、実施形態の一部同士が組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 胴体、2 ハンドル、3 前輪、3a ロータ、4 後輪、4a ロータ、5 エンジン、10 ブレーキシステム、11 第1ブレーキ操作部、12 前輪制動機構、13 第2ブレーキ操作部、14 後輪制動機構、21 マスタシリンダ、22 リザーバ、23 ブレーキキャリパ、24 ホイールシリンダ、25 主流路、26 副流路、27 供給流路、31 込め弁、32 弛め弁、33 アキュムレータ、34 ポンプ、35 第1弁、36 第2弁、41 周囲環境センサ、42 入力装置、43 慣性計測装置、48 マスタシリンダ圧センサ、49 ホイールシリンダ圧センサ、50 液圧制御ユニット、51 基体、60 制御装置、61 取得部、62 実行部、62a 駆動制御部、62b 制動制御部、100 モータサイクル。
図1
図2
図3
図4