IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

特許7437895摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手
<>
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図1
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図2
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図3
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図4
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図5
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図6
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図7
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図8
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図9
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図10
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図11
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図12
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図13
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図14
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図15
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図16
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図17
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図18
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図19
  • 特許-摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/20 20060101AFI20240216BHJP
   F16D 3/205 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
F16D3/20 J
F16D3/205 M
F16D3/20 K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019145161
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021025605
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】石島 実
(72)【発明者】
【氏名】板垣 卓
(72)【発明者】
【氏名】河田 将太
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069922(WO,A1)
【文献】特開2003-154422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/20- 3/229
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に転動体を収容するトラック溝が形成され、前記転動体を介して内側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する摺動式等速自在継手用外側継手部材において、
前記転動体及び前記内側継手部材を含む内部部品の抜け止め用として前記トラック溝の開口端側に加締め加工にて形成された隆起部と、前記隆起部が形成された箇所に対応する開口端面に加締め加工にて形成された凹部とを有し、
前記凹部は、軸方向から見て、前記トラック溝に沿った方向に互いに離れた位置に設けられて前記凹部の底部へ向かって互いに接近するように傾斜する一対の傾斜面を有し、
前記各傾斜面の傾斜角度が、5度以上25度以下であり、
前記凹部の表面粗さは、前記隆起部の表面粗さよりも小さいことを特徴とする摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項2】
前記各傾斜面の傾斜角度が、10度以上20度以下である請求項1に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項3】
前記各傾斜面の縁に設けられた隅部が曲面状に形成されている請求項1又は2に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項4】
前記凹部は、前記トラック溝とは連続せずに独立した位置に形成されている請求項1から3のいずれか1項に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項5】
前記内部部品に対して、継手組付け作業時に生じ得る抜け力よりも大きな引き抜き力を作用させた場合に、前記隆起部は前記内部部品の抜けを許容する請求項1から4のいずれか1項に記載の摺動式等速自在継手用外側継手部材。
【請求項6】
内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、前記トラック溝に転動可能に配置された転動体と、前記転動体を介して前記外側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する内側継手部材と、を備える摺動式等速自在継手において、
前記外側継手部材として、請求項1から5のいずれか1項に記載の外側継手部材を備えることを特徴とする摺動式等速自在継手
【請求項7】
前記転動体は、ローラであり、
前記内側継手部材は、前記ローラが回転可能に装着されたトリポード部材である請求項6に記載の摺動式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式等速自在継手用外側継手部材、摺動式等速自在継に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械の動力伝達系においては、駆動軸と従動軸との二軸間で、角度変位だけでなく軸方向変位も許容しながら等速で回転トルクを伝達する摺動式等速自在継手が用いられている。
【0003】
摺動式等速自在継手としては、例えば、図15に示すようなローラタイプのトリポード型等速自在継手や、図16に示すようなボールタイプのダブルオフセット型等速自在継手などが知られている。
【0004】
図15に示すトリポード型等速自在継手60は、内周面に複数のトラック溝65を有する外側継手部材61と、内側継手部材としてのトリポード部材62と、トリポード部材62に設けられた転動体としてのローラ63など、を備えている。この等速自在継手60においては、ローラ63が外側継手部材61のトラック溝65に沿って転動することで、ローラ63及びトリポード部材62を含む内部部品が外側継手部材61に対して軸方向Xに移動する。なお、ここで言う「軸方向」とは、外側継手部材61の中心軸線Oの方向、あるいはこれと平行な任意の軸線の方向を意味する。以下、同様である。
【0005】
一方、図16に示すダブルオフセット型等速自在継手70は、内周面に複数のトラック溝75を有する外側継手部材71と、外周面に複数のトラック溝76を有する内側継手部材72と、外側継手部材71と内側継手部材72の対向するトラック溝75,76の間に配置された転動体としての複数のボール73と、外側継手部材71の内周面と内側継手部材72の外周面との間に介在してボール73を保持するケージ74など、を備えている。この等速自在継手70においては、ボール73が外側継手部材71のトラック溝75に沿って転動することで、ボール73、内側継手部材72及びケージ74を含む内部部品が外側継手部材71に対して軸方向Xに移動する。
【0006】
ところで、このような摺動式等速自在継手においては、車体などへの継手取付時にローラ又はボールなどを含む内部部品が外側継手部材の開口端から抜け出ることを防止するため、外側継手部材の開口端面を加締めて、トラック溝に内径方向へ突出する隆起部を形成し、この隆起部によって内部部品の抜け止めを行う方法が提案されている(下記特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1に記載の方法では、トラック溝に隆起部を形成するために、図17に示すような加締め工具100が用いられている。図17に示す加締め工具100は、三角凸状の隆起形成部101を有しており、図18及び図19に示すように、隆起形成部101を外側継手部材200の開口端面200aに押し当てて食い込ませることで、トラック溝201が部分的に突出し、隆起部300が形成される。
【0008】
また、特許文献1には、加締め工具の隆起形成部を外側継手部材に食い込ませる際の荷重を小さくするため、図20に示すように、隆起形成部101の三角形状の両側面101a,101bを、先端部に向かって互いに接近するように傾斜させた構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-66014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、抜け止め力をより確実に得るための対策の1つとして、トラック溝に沿った方向の隆起部の幅を大きく確保することが挙げられる。この隆起部の幅は、加締め工具100の隆起形成部101の先端幅D(図17参照)の大きさに依存する。すなわち、隆起形成部101の先端幅Dを大きくするほど、形成される隆起部の幅を大きく確保することが可能である。また、図20に示すような傾斜した両側面101a,101bを有する加締め工具100においては、各側面101a,101bの傾斜角度θを小さくすることで、隆起形成部101の先端幅Dを大きくすることができる。
【0011】
しかしながら、各側面101a,101bの傾斜角度θを小さくすると、外側継手部材に隆起形成部101を食い込ませにくくなるため、荷重の大きなプレス機が必要になり、設備費が上昇するといった問題が発生する。また、各側面101a,101bの傾斜角度θを小さくせずに(傾斜角度θを維持しつつ)隆起形成部101の先端幅Dを大きくすることも可能であるが、その場合、加締め工具本体の幅W(図20参照)が大きくなるため、装置が大型化するといった問題が生じる。
【0012】
このように、隆起形成部101の先端幅Dを大きく確保するために、各側面101a,101bの傾斜角度θを小さくすると、加締め工具を食い込ませる際の押し込み荷重が大きくなり、また、各側面101a,101bの傾斜角度θをそのまま維持して隆起形成部101の先端幅Dを大きくすると、加締め工具本体の幅Wが大きくなるため、抜け止め力の確保と押し込み荷重の低減を両立させることは、簡単には実現しにくいものであった。
【0013】
そこで、本発明は、抜け止め力の確保と押し込み荷重の低減を両立できる加締め工具、その加締め工具を用いて製造された摺動式等速自在継手用外側継手部材、及び摺動式等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る加締め工具は、摺動式等速自在継手用外側継手部材のトラック溝の開口端部に、転動体及び内側継手部材を含む内部部品の抜け止め用の隆起部を加締め加工する加締め工具であって、外側継手部材の開口端面に押し当てられて隆起部を形成する凸状の隆起形成部を有する。隆起形成部は、互いに離れた位置に設けられて隆起形成部の先端部に向かって互いに接近するように傾斜する一対の側面を有し、一対の側面の傾斜角度は、5度以上25度以下である。
【0015】
このような加締め工具を用いることで、抜け止め力の確保と押し込み荷重の低減を両立できるようになる。すなわち、隆起形成部の各側面の傾斜角度が25度以下となるようにすることで、隆起形成部の先端部の幅をできるだけ大きく確保し、トラック溝に沿った方向の隆起部の幅を十分に確保できるようになる。これにより、隆起部によって転動体の移動を効果的に規制できるようになり、抜け止め力が得られるようになる。また、隆起形成部の各側面の傾斜角度を5度以上にすることで、外側継手部材に対する加締め工具の押し込み荷重を低減できるようになる。
【0016】
また、本発明に係る加締め工具によって形成される摺動式等速自在継手用外側継手部材は、次のような構造的特徴を有する。
【0017】
すなわち、本発明に係る摺動式等速自在継手用外側継手部材は、転動体及び内側継手部材を含む内部部品の抜け止め用としてトラック溝の開口端側に加締め加工にて形成された隆起部と、隆起部が形成された箇所に対応する開口端面に加締め加工にて形成された凹部とを有する。凹部は、軸方向から見て、トラック溝に沿った方向に互いに離れた位置に設けられて凹部の底部へ向かって互いに接近するように傾斜する一対の傾斜面を有し、各傾斜面の傾斜角度は5度以上25度以下となる。ここで、「軸方向」とは、上述の軸方向と同様に、外側継手部材の中心軸線の方向、あるいはこれと平行な任意の軸線の方向を意味する。
【0018】
また、各傾斜面は、傾斜角度が10度以上20度以下となるように形成されることが好ましい。このような傾斜角度となるような加締め工具を用いることで、より確実な抜け止め力の確保と、より効果的な押し込み荷重の低減を実現できるようになる。
【0019】
また、各傾斜面の縁に設けられた隅部は、曲面状に形成されることが望ましい。このようにすることで、隅部に生じる応力集中を緩和でき、隅部を起点に発生する亀裂を防止できるようになる。
【0020】
また、内部部品に対して、継手組付け作業時に生じ得る抜け力よりも大きな引き抜き力を作用させた場合、隆起部が内部部品の抜けを許容するようにしてもよい。この場合、外側継手部材と内部部品とを組付け後に分離することができるので、修理やメンテナンスの作業性が向上する。
【0021】
本発明に係る摺動式等速自在継手用外側継手部材は、例えば、転動体としてのローラと、ローラが回転可能に装着された内側継手部材としてのトリポード部材と、を備える摺動式等速自在継手に適用可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、抜け止め力の確保と押し込み荷重の低減の両立を実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の一形態であるトリポード型等速自在継手の要部縦断面図である。
図2図1に示すトリポード型等速自在継手の要部横断面図である。
図3図1に示すトリポード型等速自在継手の外側継手部材を開口端側から見た端面図である。
図4】隆起部の箇所で外側継手部材を軸方向に切断した要部拡大縦断面図である。
図5図3に示す隆起部を拡大して示す要部拡大端面図である。
図6】隆起部の変形例を示す要部拡大端面図である。
図7】加締め工具の斜視図である。
図8】加締め工具によって隆起部が形成される前の状態を示す縦断面図である。
図9】加締め工具によって隆起部が形成された状態を示す縦断面図である。
図10】加締め工具によって形成された凹部の形状を説明するための斜視図である。
図11】隆起部の幅を説明するための要部拡大端面図である。
図12】隆起形成部の各側面の傾斜角度を説明するための正面図である。
図13】隅部を起点に亀裂が生じた外側継手部材の要部拡大端面図である。
図14】ローラを外側継手部材に圧入する状態を示す縦断面図である。
図15】従来のトリポード型等速自在継手の縦断面図である。
図16】従来のダブルオフセット型等速自在継手の縦断面図である。
図17】従来の加締め加工具の斜視図である。
図18】従来の加締め加工具を用いた隆起部形成方法を示す図である。
図19】従来の加締め加工具を用いた隆起部形成方法を示す図である。
図20】隆起形成部の各側面を傾斜させた従来の加締め加工具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施の一形態であるトリポード型等速自在継手の要部縦断面図、図2は、本実施形態に係るトリポード型等速自在継手の要部横断面図である。
【0026】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材としてのトリポード部材3と、転動体としてのローラ4と、を主な構成要素として備えている。
【0027】
外側継手部材2は、一端に開口部を有するカップ状に形成された部材である。外側継手部材2の内周面には、軸方向に伸びる3つのトラック溝5が周方向に等間隔に形成されている。各トラック溝5には、互いに対向する転動体案内面としてのローラ案内面5aが設けられている。なお、本発明に関する説明中の「軸方向」とは、外側継手部材2の中心軸線Oあるいはこれと平行な任意の軸線の方向X(図1参照)を意味する。
【0028】
トリポード部材3は、中心孔6aが設けられたボス部6と、このボス部6から半径方向に突出する3つの脚軸7と、を有している。ボス部6の中心孔6aには、シャフト8の端部に形成された雄スプライン8bに対して嵌合可能な雌スプライン6bが形成されている。シャフト8の端部が中心孔6aに挿入され、雄スプライン8bと雌スプライン6bとが嵌合することで、シャフト8とトリポード部材3とが一体的に回転可能に連結される。また、中心孔6aから突出するシャフト8の端部に止め輪9が装着されることで、トリポード部材3に対するシャフト8の軸方向の抜けが防止される。
【0029】
トリポード部材3の各脚軸7には、ローラ4などから成るローラユニット14が装着されている。ローラユニット14は、アウタリングとしてのローラ4と、ローラ4の内側に配置されると共に脚軸3に外嵌されたインナリング10と、ローラ4とインナリング10との間に介在された多数の針状ころ11と、によって構成されている。ローラ4、インナリング10、及び針状ころ11は、ワッシャ12,13によって互いに分離しないように組み付けられている。
【0030】
また、ローラ4は、外側継手部材2のトラック溝5内に配置されている。ローラ4が、トラック溝5のローラ案内面5aに沿って転動することで、ローラユニット14及びトリポード部材3を含む内部部品は、外側継手部材2に対して軸方向変位する。また、脚軸7の横断面が略楕円形状に形成されていることで、ローラユニット14は脚軸7の軸線に対して傾斜することが可能である。これにより、トリポード部材3の軸線が外側継手部材2の軸線に対して傾斜する角度変位も許容される。また、ローラユニット14は、シャフト8の回転に伴ってトリポード部材3が回転する際、トリポード部材3と外側継手部材2との間で回転トルクを伝達するトルク伝達部材としても機能する。
【0031】
また、本実施形態に係るトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2の開口部を密封するためのブーツ15を備えている。ブーツ15は、大径端部15aと、小径端部(図示省略)と、大径端部15aと小径端部とを連結する蛇腹部15cと、から成る。大径端部15aは、外側継手部材2の外径面の開口端側に形成されたブーツ装着部2bに対してブーツバンド16にて締め付けられることにより取り付けられる。また、小径部は、シャフト8の外径面に形成されたブーツ装着部(図示省略)に対して、別のブーツバンドにて締め付けられることにより取り付けられる。
【0032】
以下、外側継手部材2に対する内部部品(ローラユニット14及びトリポード部材3)の抜けを防止する抜け止め構造について説明する。
【0033】
図3は、外側継手部材2を開口端側から見た端面図である。
【0034】
図3に示すように、外側継手部材2のトラック溝5の開口端側には、内部部品抜け止め用の隆起部20が設けられている。隆起部20は、各トラック溝5の各ローラ案内面5aに1つずつ設けられている。また、各隆起部20が形成された箇所に対応する外側継手部材2の開口端面2aには、隆起部20を形成するために外側継手部材2を加締め加工した際の工具痕である凹部30が形成されている。凹部30は、軸方向から見て矩形(長方形又は正方形)に形成され、トラック溝5とは連続しない独立した位置(開口端面2a)に、各隆起部20に対応して1つずつ形成されている。
【0035】
図4は、隆起部20の箇所で外側継手部材2を軸方向に切断した要部拡大断面図である。
【0036】
図4に示すように、隆起部20は、ローラ案内面5aよりも内側に突出している。このように、隆起部20がローラ案内面5aよりも内側に突出していることで、図4の二点鎖線で示すように、外側継手部材2内に組み込まれたローラ4が継手開口側へ移動したとしても、ローラ4がローラ案内面5aから突出する隆起部20の規制面20aに突き当たってローラ4の移動が規制され、ローラ4及びこれを含む内部部品の外側継手部材2に対する抜けが防止される。
【0037】
各ローラ案内面5aに形成される複数の隆起部20の突出量は、全て同じでなくてもよい。外側継手部材2ごと、トラック溝5ごと、あるいは隆起部20ごとに、隆起部20の突出量を異ならせることも可能である。
【0038】
また、図5に示すように、ローラ4の外周面4aとローラ案内面5aとが、所定の接触角αをもって接触する、いわゆるアンギュラ接触する場合は、ローラ4の外周面4aとローラ案内面5aとが接触する2つの接触点Sの間隔内に隆起部20が収まるようにすることが好ましい。ここでは、隆起部20が2つの接触点Sの間隔内に収まるようにするため、トラック溝5に沿った方向Yの凹部30の幅寸法Bを、2つの接触点S同士の間隔Aよりも小さく設定している(B<A)。このように、隆起部20が2つの接触点Sの間隔内に収まるようにすることで、ローラ4が隆起部20に接触した際に生じ得る接触痕や変形が、ローラ案内面5aとローラ4との接触箇所(接触点S)に生じることはないので、ローラ4の機能性や耐久性を良好に維持することが可能である。
【0039】
また、図5に示すように、本実施形態では、隆起部20の規制面20aが、外側継手部材2の軸方向から見て、一直線状に形成されているが、図6に示す変形例のように、規制面20aは、トラック溝5に沿った幅方向Yの端部側よりも中央側で窪んだ凹曲面状であってもよい。規制面20aが中央側で窪んだ凹曲面状である場合は、規制面20aの曲率がローラ4の外周面4aの曲率に近くなるため、ローラ4と規制面20aとの接触範囲が増え、隆起部20による抜け止め力が向上する。
【0040】
続いて、隆起部20を形成するための加締め工具について説明する。
【0041】
図7に示すように、加締め工具40は、直方体形状又は立方体形状の本体部41と、本体部41に設けられた三角凸状の隆起形成部42とを有する。ここで便宜的に、図7に示す矢印Z方向を加締め工具40の幅方向と称すると、隆起形成部42は、互いに幅方向Zの離れた位置に設けられた三角形状の一対の側面43,44と、各側面43,44同士を繋ぐ四角形状(台形状)の前面45及び後面46を有する。各側面43,44は、隆起形成部42の幅方向Zに渡って伸びる先端部47に向かって(図7の上方に向かって)互いに接近するように傾斜している。前面45及び後面46も、隆起形成部42の先端部47に向かって互いに接近するように傾斜している。先端部47は、面取り加工され、曲面状に形成されている。また同様に、一方の側面43と前面45及び後面46との間に形成された角部48と、他方の側面44と前面45及び後面46との間に形成された角部49も、面取り加工され、いずれも曲面状に形成されている。
【0042】
このように構成された加締め工具40を用いて隆起部20を形成するには、まず、図8に示すように、加締め工具40を外側継手部材2の開口端面2a側に配置し、隆起形成部42を外側継手部材2の開口端面2aに接触させる。またこのとき、本実施形態では、開口端面2aに対する隆起形成部42の接触位置があらかじめ決定された所定の位置となるように、位置決め冶具50を用いて加締め工具40を位置決めする。
【0043】
そして、図9に示すように、加締め工具40を図示しないプレス機などによって外側継手部材2の開口端面2aへ押圧し、隆起形成部42を開口端面2aに食い込ませる。これにより、開口端面2aに凹部30が形成されると共に、ローラ案内面5aの開口端側の部分が内側に突出するように塑性変形して、隆起部20が形成される。
【0044】
また、外側継手部材2の開口端面2aに形成される凹部30は、隆起形成部42の形状が転写されるため、次のような形状となる。
【0045】
すなわち、図10に示すように、凹部30は、隆起形成部42の各側面43,44が転写された三角形状の第1、第2傾斜面51,52と、隆起形成部42の前面45及び後面46が転写された四角形状(台形状)の第3、第4傾斜面53,54と、隆起形成部42の先端部47が転写された底部55と、隆起形成部42の各角部48,49が転写された各隅部56,57とを有する形状に形成される。第1傾斜面51及び第2傾斜面52は、軸方向から見て、トラック溝5に沿った方向Yに互いに離れた位置に設けられ、底部55へ向かって互いに接近するように傾斜している。第3傾斜面53及び第4傾斜面54は、トラック溝5に沿った方向Yに伸び、底部55へ向かって互いに接近するように傾斜している。底部55及び各隅部56,57は、これらの転写元である隆起形成部42の先端部47及び各角部48,49が曲面状に形成されていることで、いずれも曲面状に形成されている。
【0046】
ところで、車体などにトリポード型等速自在継手が取り付けられる際、外側継手部材に組み付けられたトリポード部材(内部部品)が外側継手部材に対して角度をとった状態で取付作業が行われることがある。このように、トリポード部材が外側継手部材に対して角度をとった状態になると、図11に示すローラ4の位置がトラック溝5に沿った方向Yに変化する。このため、トラック溝5に沿った方向Yの隆起部20の幅Eが小さいと、ローラ4の移動が隆起部20によって確実に規制されずに内部部品が抜け出やすくなる虞がある。従って、このような場合でも内部部品の抜けを確実に防止するには、隆起部20の幅Eを大きく確保する必要がある。
【0047】
隆起部20の幅Eの大きさは、加締め工具40の先端部47の幅D(図10参照)に依存する。先端部47の幅Dを大きくすることで、隆起部20の幅Eを大きく確保することが可能である。しかしながら、上記課題でも述べたように、先端部47の幅Dを大きく確保するために、隆起形成部42の各側面43,44の傾斜角度θを小さくすると、外側継手部材2に対する加締め工具40の押し込み荷重の低減を図りにくくなり、設備費などが高くなるといった問題がある。すなわち、各側面43,44の傾斜角度θを小さくすると、押し込み荷重を低減しにくくなり、反対に、各側面43,44の傾斜角度θを大きくすると、先端部47の幅Dを大きく確保し難くなることから、押し込み荷重の低減と抜け止め力の確保とは簡単には両立し難いトレードオフの関係にある。
【0048】
そこで、これらを両立できるようにするため、各側面43,44の好ましい傾斜角度θについて鋭意検討した結果、本実施形態においては、各側面43,44の傾斜角度θを以下のように設定している。
【0049】
具体的に、本実施形態では、各側面43,44の傾斜角度θを、5度以上25度以下の範囲内に設定している。ここで、本実施形態における各側面43,44の傾斜角度θとは、図12に示す直線mに対する各傾斜面43,44の傾斜角度であり、この直線mは、各側面43,44の底辺43a,44aを通り加締め工具40の外側継手部材2に対する押し込み方向Fに平行な面を示す。
【0050】
このように、各側面43,44の傾斜角度θを、5度以上25度以下の範囲に設定にすることで、抜け止め力の確保と押し込み荷重の低減を両立できるようになる。すなわち、各側面43,44の傾斜角度θを25度以下にすることで、隆起形成部42の先端部47の幅Dをできるだけ大きく確保でき、隆起部20の幅Eを十分に確保することができるようになる。これにより、外側継手部材2に対して内部部品が角度をとった状態で取付作業が行われる場合であっても、隆起部20によってローラ4の移動を効果的に規制でき、抜け止め力が得られるようになる。また、各側面43,44の傾斜角度θを5度以上にすることで、外側継手部材2に対する加締め工具40の押し込み荷重を低減できるようになり、プレス機などの設備費の上昇を抑制することも可能となる。各側面43,44の傾斜角度θは、互いに異なる角度に設定することも可能であるが、押し込み荷重のばらつきが生じないように同じ角度に設定されていることが望ましい。
【0051】
さらに、各側面43,44の傾斜角度θは、10度以上20度以下の範囲に設定されることが好ましい。このように、傾斜角度θを10度以上20度以下の範囲に設定することで、より確実な抜け止め力の確保と、より効果的な押し込み荷重の低減を実現できるようになる。
【0052】
本実施形態に係る加締め工具40を用いて加締め加工される外側継手部材2においては、上述のように、隆起形成部42の形状が転写された凹部30が形成される。このとき、もちろん各側面43,44の傾斜角度θも反映されるので、凹部30には、外側継手部材2の軸方向、あるいは外側継手部材2の開口端面2aに直交する方向(図10に示す直線n方向)に対して5度以上25度以下の範囲内で傾斜する第1、第2傾斜面51,52が形成される(5度≦δ≦25度)。また、隆起形成部42の各側面43,44の傾斜角度θが10度以上20度以下の範囲内である場合は、これに倣って、凹部30の第1、第2傾斜面51,52の傾斜角度δも10度以上20度以下となる。
【0053】
また、本実施形態では、隆起形成部42の各側面43,44の縁に設けられた角部48,49がいずれも曲面状に形成されているため(図7参照)、図13に示すような隅部56,57を起点とする亀裂Cの発生を防止することができる。すなわち、角部48,49が曲面状に形成されていることで、これらの形状が転写される隅部56,57の形状も曲面状となるので、各隅部56,57で生じる応力集中を緩和することができ、亀裂Cの発生を防止できるようになる。
【0054】
また、本実施形態では、加締め工具40によって隆起部20を形成する際に、加締め工具40が隆起部20に対して接触しないため(図9参照)、加締め工具40は膨出する隆起部20からの抵抗力(反発力)を受けることがない。このようにすることで、本実施形態では、加締め工具40が膨出する隆起部20に接触(圧接)する場合に比べて、加締め工具40の押し込み荷重を低減することができ、小さい押し込み荷重で加締め加工を行うことができるようになる。
【0055】
また、本実施形態のように、隆起部20が、加締め工具40との接触を回避して形成されたものであるか、あるいは、加締め工具40との接触(圧接)を伴って形成されたものであるかは、隆起部20と凹部30とのそれぞれの表面粗さ(例えば、JIS B0601-1994で規定される十点平均粗さRz)を比較することで判別することが可能である。すなわち、本実施形態の場合は、隆起部20が加締め工具40によって拘束されることなく突出するため、隆起部20の表面全体が、トラック溝成型時に鍛造成型されたままの状態であり、加締め加工された凹部30の表面粗さに比べて粗い。一方、加締め加工中に加締め工具40が膨出する隆起部20と接触(圧接)した場合は、隆起部20の表面が加締め工具40によって拘束されて成型されるので、その成型された部分の表面粗さは凹部30の表面粗さと同等になる。従って、隆起部20の表面粗さと凹部30の表面粗さとを比較することで、隆起部20全体の表面粗さが凹部30の表面粗さよりも粗い場合は、本実施形態の方法を採用したものであると特定又は推定することが可能である。
【0056】
上述の隆起部20の形成方法では、1つのローラ案内面5aに対して隆起部20を形成する方法について説明したが、その後、同様にして他のローラ案内面5aにも隆起部20を形成することで、全てのトラック溝5に対して隆起部20を形成することが可能である。また、加締め工具40の本体部41をリング状に形成し、その本体部41に複数の隆起形成部42を設けてもよい。この場合、一度の加締め加工で、複数あるいは全部の隆起部20を形成することができるので、加工時間を短縮することが可能である。
【0057】
全てのローラ案内面5aに隆起部20を形成し終えた後は、図14に示すように、ローラ4をトラック溝5に押し込み、ローラ4が相対面するローラ案内面5a同士を弾塑性変形させて押し広げつつ隆起部20を乗り越えることで、ローラ4がトラック溝5の奥側へ挿入される。これにより、外側継手部材2に対して内部部品の組付けを行うことができる。
【0058】
このように、外側継手部材2に対して内部部品が組み付けられた後は、隆起部20によってローラ4の移動が規制されることで、内部部品の抜けが防止される。この隆起部20による抜け止め力は、車体などへの継手組付け作業時に生じ得る抜け力以上に設定されているため、継手組付け作業時に生じる抜け力では内部部品が外側継手部材2から抜け出ることはない。
【0059】
一方で、継手の修理やメンテナンスを行うことを考慮すると、内部部品は外側継手部材2に対して分離可能であることが好ましい。そのため、本実施形態では、隆起部20の突出量や形状などを調整することで、継手組付け作業時に生じ得る抜け力よりも大きな引き抜き力を内部部品に作用させた場合に、隆起部20が内部部品の抜けを許容できるようにしている。さらに、本実施形態では、トラック溝5の奥側に向かって突出量が小さくなるガイド面20b(図4参照)を隆起部20に設け、内部部品を外側継手部材2に対して分離する際に、ガイド面20bによってローラ4に対する隆起部20への食い込みが軽減され、ローラ4などの変形や損傷を抑制できるようにしている。
【0060】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本発明は、転動体としてローラを備えるローラタイプの摺動式等速自在継手に限らず、図16に示すような転動体としてボールを備えるボールタイプの摺動式等速自在継手にも適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 トリポード型等速自在継手(摺動式等速自在継手)
2 外側継手部材
2a 開口端面
3 トリポード部材(内側継手部材)
4 ローラ(転動体)
5 トラック溝
20 隆起部
30 凹部
40 加締め工具
42 隆起形成部
43 側面
44 側面
47 先端部
51 第1傾斜面
52 第2傾斜面
55 底部
θ 傾斜角度
δ 傾斜角度
X 軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20