(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、成形材料、成形品、水廻り用樹脂材料、水廻り用成形材料および水廻り用製品
(51)【国際特許分類】
C08F 283/01 20060101AFI20240216BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20240216BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20240216BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240216BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20240216BHJP
C08L 33/16 20060101ALI20240216BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240216BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08F283/01
C08F290/06
C08F265/06
C08F2/44 C
C08K5/5419
C08L33/16
C08J5/04 CFD
C09K3/18 104
(21)【出願番号】P 2019150405
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2018157017
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503090980
【氏名又は名称】ジャパンコンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 和昭
(72)【発明者】
【氏名】小田 敬一
(72)【発明者】
【氏名】塚本 貴史
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-14481(JP,A)
【文献】特開2013-173840(JP,A)
【文献】特開昭58-187415(JP,A)
【文献】特開平11-343350(JP,A)
【文献】特開2014-80463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂ベースおよびエチレン性不飽和二重結合を有する重合性単量体を含有する熱硬化性樹脂と、撥水撥油剤(但し、前記重合性単量体を除く。)と、を含有し、
前記樹脂ベースは、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性樹脂ベースおよび/またはアクリル樹脂ベース(但し、前記撥水撥油剤を除く。)を含み、
前記撥水撥油剤は、
下記一般式(1)に示すフッ化物、および/または、
下記一般式(2)に示す長鎖アルキル基含有アルコキシシラン、および/または、
下記一般式(4A)に示す(メタ)アクリル酸エステルと下記一般式(4B)に示す(メタ)アクリル酸エステルと水酸基含有モノ(メタ)アクリレートとを含
む共重合体
(但し、下記一般式(4C)に示す(メタ)アクリル酸エステルを前記共重合体の構成単位として除く)を含有し、
前記樹脂ベースの含有割合は、前記熱硬化性樹脂において、10質量%以上90質量%以下であることを特徴とする、熱硬化性樹脂組成物。
一般式(1)
【化1】
(式(1)中、Xは、アルコキシシリル基を示す。aは、0以上15以下の整数を示す。bは、0以上15以下の整数を示す。)
一般式(2)
【化2】
(式(2)中、R
1は、アルキル基を示す。R
2は、炭素数30以下のアルキル基を示す。cは、0または1を示す。dは、0または1を示す。eは、3以上30以下の整数を示す。)
一般式(4A)
【化4A】
(式(4A)中、iは、0以上15以下の整数を示す。jは、0以上15以下の整数を示す。R
5は、水素原子またはメチル基を示す。)
一般式(4B)
【化4B】
(式(4B)中、R
6は、水素原子またはメチル基を示す。R
7は、炭素数10以上30以下の直鎖状のアルキル基を示す。)
【化4C】
(式(4C)中、R
8は、水素原子またはメチル基を示す。R
9は、炭素数1以上9以下の直鎖状のアルキル基または芳香族炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記撥水撥油剤は、
下記一般式(3)に示す(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンを、さらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
一般式(3)
【化3】
(式(3)中、Yは、水素原子または(メタ)アクリロイルオキシ基を示す。R
3は、水
素原子またはメチル基を示す。R
4は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。fは、5以上200以下の整数を示す。gは、1以上5以下の整数を示す。hは、1以上5以下の整数を示す。)
【請求項3】
前記撥水撥油剤は、
上記一般式(1)に示すフッ化物と、
上記一般式(2)に示す長鎖アルキル基含有アルコキシシラン、および/または、上記一般式(3)に示す(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンと、を含有し、
前記フッ化物の含有割合は、前記フッ化物、前記長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび前記(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンの総和に対して、50質量%を超過することを特徴とする、請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物と、
前記熱硬化性樹脂組成物が含浸される強化繊維と、を含むことを特徴とする、成形材料。
【請求項5】
請求項4に記載の成形材料の硬化物を含むことを特徴とする、成形品。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする、水廻り用樹脂材料。
【請求項7】
請求項6に記載の水廻り用樹脂材料と、
前記水廻り用樹脂材料が含浸される強化繊維と、を含むことを特徴とする、水廻り用成形材料。
【請求項8】
請求項7に記載の水廻り用成形材料の硬化物を含むことを特徴とする、水廻り用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、成形材料、成形品、水廻り用樹脂材料、水廻り用成形材料および水廻り用製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物を強化繊維に含浸して、例えば、シートモールディングコンパウンド(以下、SMCとする。)などの成形材料として、各種産業製品に利用することが知られている。そして、そのような成形材料から成形される成形品には、用途に応じた種々の特性が要求される。
【0003】
例えば、成形材料が、浴槽や洗面カウンターなどの水廻り品に利用される場合、その水廻り品には、通常、撥水性が要求される。
【0004】
そのような成形材料として、例えば、アクリル系樹脂組成物と、無機充填剤と、硬化剤と、下記一般式(I)および(II)で示される1種の反応性シリコーンとからなるアクリル系プレミックスが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【化I】
【0005】
(式(I)中、R
1は、水素原子またはメチル基、R
2は、炭素数1~5のアルキレン基、R
3、R
4は、炭素数1~4のアルキル基、mは、5~200の整数を表わす。)
【化II】
【0006】
(式(II)中、R1は、水素原子またはメチル基、R2は、炭素数1~5のアルキレン基、R3は、炭素数1~4のアルキル基、nは、5~200の整数を表わす。)
そして、そのようなプレミックスでは、上記した直鎖状の反応性シリコーンが配合されることにより、成形品に撥水性が付与されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、水廻り品では、掃除の手間を低減するために、水垢などの汚れの付着を防止する防汚性の向上が期待されている。そのような防汚性の向上には、撥水性の向上だけでなく、撥油性の向上を図る必要がある。
【0009】
しかし、特許文献1に記載のプレミックスでは、成形品に付与できる撥水性に限度があり、また、成形品に優れた撥油性を付与することは困難である。そのため、特許文献1に記載のプレミックスから成形される成形品では、撥水性および撥油性をバランスよく確保できず、防汚性の向上を図るには限度がある。
【0010】
本発明は、成形品に優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく付与できる熱硬化性樹脂組成物、成形材料、成形品、水廻り用樹脂材料、水廻り用成形材料および水廻り用製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明[1]は、樹脂ベースおよびエチレン性不飽和二重結合を有する重合性単量体を含有する熱硬化性樹脂と、撥水撥油剤と、を含有し、前記撥水撥油剤は、下記一般式(1)に示すフッ化物、および/または、下記一般式(2)に示す長鎖アルキル基含有アルコキシシラン、および/または、下記一般式(4A)に示す(メタ)アクリル酸エステルと下記一般式(4B)に示す(メタ)アクリル酸エステルとを含む共重合体を含有する、熱硬化性樹脂組成物を含む。
一般式(1)
【0012】
【0013】
(式(1)中、Xは、アルコキシシリル基または(メタ)アクリロイルオキシ基を示す。aは、0以上15以下の整数を示す。bは、0以上15以下の整数を示す。)
一般式(2)
【0014】
【0015】
(式(2)中、R1は、アルキル基を示す。R2は、炭素数30以下のアルキル基を示す。cは、0または1を示す。dは、0または1を示す。eは、3以上30以下の整数を示す。)
一般式(4A)
【0016】
【0017】
(式(4A)中、iは、0以上15以下の整数を示す。jは、0以上15以下の整数を示す。R5は、水素原子またはメチル基を示す。)
一般式(4B)
【0018】
【0019】
(式(4B)中、R6は、水素原子またはメチル基を示す。R7は、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を示す。)
本発明[2]は、前記撥水撥油剤は、下記一般式(3)に示す(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンを、さらに含有する、上記[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物を含む。
一般式(3)
【0020】
【0021】
(式(3)中、Yは、水素原子または(メタ)アクリロイルオキシ基を示す。R3は、水素原子またはメチル基を示す。R4は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。fは、5以上200以下の整数を示す。gは、1以上5以下の整数を示す。hは、1以上5以下の整数を示す。)
本発明[3]は、前記撥水撥油剤は、上記一般式(1)に示すフッ化物と、上記一般式(2)に示す長鎖アルキル基含有アルコキシシラン、および/または、上記一般式(3)に示す(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンと、を含有し、前記フッ化物の含有割合は、前記フッ化物、前記長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび前記(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンの総和に対して、50質量%を超過する、上記[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物を含む。
【0022】
本発明[4]は、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物と、前記熱硬化性樹脂組成物が含浸される強化繊維とを含む、成形材料を含む。
【0023】
本発明[5]は、上記[4]に記載の成形材料の硬化物を含む、成形品を含む。
【0024】
本発明[6]は、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を含む、水廻り用樹脂材料を含む。
【0025】
本発明[7]は、上記[6]に記載の水廻り用樹脂材料と、前記水廻り用樹脂材料が含浸される強化繊維と、を含む、水廻り用成形材料を含む。
【0026】
本発明[8]は、上記[7]に記載の水廻り用成形材料の硬化物を含む、水廻り用製品を含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明の熱硬化性樹脂組成物では、撥水撥油剤が、分子末端にトリフルオロメチル基(-CF3)を有する上記一般式(1)のフッ化物、および/または、ケイ素に結合する長鎖アルキル基(-(CH2)eCH3)を有する上記一般式(2)のアルコキシシランを含有する。このように熱硬化性樹脂組成物が上記特定構造を有する撥水撥油剤を含有するので、熱硬化性樹脂組成物から成形される成形品に、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく付与することができる。
【0028】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物では、撥水撥油剤が、分子末端にトリフルオロメチル基(-CF3)を有する上記一般式(4A)に示す(メタ)アクリル酸エステルと、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を有する上記一般式(4B)に示す(メタ)アクリル酸エステルとを含む共重合体を含有する。
【0029】
そのため、熱硬化性樹脂組成物から成形される成形品に、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく付与することができ、とりわけ、成形品の撥油性のさらなる向上を図ることができる。
【0030】
本発明の成形材料は、上記の熱硬化性樹脂組成物と、熱硬化性樹脂組成物が含浸される強化繊維とを含むので、成形品に、優れた機械強度を付与できるとともに、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく付与することができる。
【0031】
本発明の成形品は、上記の成形材料の硬化物を含むので、優れた機械強度を有するとともに、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく有する。
【0032】
本発明の水廻り用樹脂材料は、上記の熱硬化性樹脂組成物を含むので、水廻り用樹脂材料から成形される水廻り用製品に、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく付与することができる。
【0033】
本発明の水廻り用成形材料は、上記の水廻り用樹脂材料と、水廻り用樹脂材料が含浸される強化繊維とを含むので、水廻り用製品に、優れた機械強度を付与できるとともに、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく付与することができる。
【0034】
本発明の水廻り用製品は、上記の水廻り用成形材料の硬化物を含むので、優れた機械強度を有するとともに、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく有する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、必須成分として、熱硬化性樹脂と、撥水撥油剤とを含有する。
1.熱硬化性樹脂
熱硬化性樹脂は、樹脂ベースおよびエチレン性不飽和二重結合を有する重合性単量体(以下、エチレン性不飽和単量体とする。)を含有する。
【0036】
樹脂ベースとして、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性樹脂ベース(以下、エチレン性不飽和樹脂ベースとする。)、アクリル樹脂ベースなどが挙げられる。
【0037】
エチレン性不飽和樹脂ベースは、例えば、ビニル基などのエチレン性不飽和二重結合を主鎖および/または側鎖に含み、エチレン性不飽和単量体との反応により熱硬化する樹脂ベースである。エチレン性不飽和樹脂ベースとして、具体的には、不飽和ポリエステル、ビニルエステルなどが挙げられる。
【0038】
不飽和ポリエステルは、多塩基酸と多価アルコールとの重合生成物(重合体)である。
【0039】
多塩基酸は、エチレン性不飽和二重結合を有する多塩基酸(以下、エチレン性不飽和含有多塩基酸とする。)を少なくとも含む。また、多塩基酸は、好ましくは、エチレン性不飽和含有多塩基酸と、エチレン性不飽和二重結合を有しない多塩基酸(以下、エチレン性不飽和不含多塩基酸とする。)とを含み、さらに好ましくは、エチレン性不飽和含有多塩基酸およびエチレン性不飽和不含多塩基酸からなる。
【0040】
エチレン性不飽和含有多塩基酸として、例えば、不飽和脂肪族ジカルボン酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸など)、不飽和脂肪族ジカルボン酸から誘導される酸無水物(例えば、無水マレイン酸など)などが挙げられる。エチレン性不飽和含有多塩基酸は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0041】
エチレン性不飽和含有多塩基酸のなかでは、好ましくは、不飽和脂肪族ジカルボン酸の酸無水物が挙げられ、さらに好ましくは、無水マレイン酸が挙げられる。
【0042】
多塩基酸において、エチレン性不飽和含有多塩基酸の含有割合は、例えば、60mol%以上、好ましくは、70mol%以上、例えば、100mol%以下、好ましくは、90mol%以下である。
【0043】
エチレン性不飽和不含多塩基酸として、例えば、飽和脂肪族ジカルボン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸など)、芳香族ジカルボン酸(例えば、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸など)、飽和脂環族ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸など)、それらジカルボン酸から誘導される酸無水物などが挙げられる。エチレン性不飽和不含多塩基酸は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0044】
エチレン性不飽和不含多塩基酸のなかでは、好ましくは、芳香族ジカルボン酸が挙げられ、さらに好ましくは、イソフタル酸が挙げられる。
【0045】
多塩基酸において、エチレン性不飽和不含多塩基酸の含有割合は、例えば、0mol%以上、好ましくは、10mol%以上、例えば、40mol%以下、好ましくは、30mol%以下である。
【0046】
多価アルコールとして、例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなど)、ポリオキシアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコールなどのポリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのポリプロピレングリコールなど)、脂環族ジオール(例えば、シクロヘキサンジオール、水素化ビスフェノールAなど)、芳香族ジオール(例えば、ビスフェノールAなどのビスフェノール)などが挙げられる。多価アルコールは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0047】
多価アルコールのなかでは、好ましくは、アルカンジオールが挙げられ、好ましくは、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールが挙げられ、さらに好ましくは、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールの併用が挙げられる。
【0048】
このような不飽和ポリエステルは、上記した多塩基酸と上記した多価アルコールとを、公知の反応条件下において、縮合重合することにより調製される。
【0049】
つまり、不飽和ポリエステルは、多塩基酸と多価アルコールとの重合生成物(重合体)を含み、好ましくは、エチレン性不飽和含有多塩基酸およびエチレン性不飽和不含多塩基酸と、アルカンジオールとの重合生成物を含み、さらに好ましくは、不飽和脂肪族ジカルボン酸の酸無水物および芳香族ジカルボン酸と、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールとの重合生成物を含み、とりわけ好ましくは、無水マレイン酸およびイソフタル酸と、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールとの重合生成物を含む。
【0050】
また、不飽和ポリエステルは、好ましくは、酸価を有する。
【0051】
酸価を有する不飽和ポリエステルの調製方法として、例えば、多価アルコールに対して過剰な多塩基酸を縮合重合させる方法、多塩基酸と多価アルコールとの縮合重合反応を所望の酸価となった段階で停止する方法などが挙げられる。
【0052】
不飽和ポリエステルの酸価は、例えば、5mgKOH/g以上、好ましくは、10mgKOH/g以上、さらに好ましくは、20mgKOH/g以上、例えば、50mgKOH/g以下、好ましくは、40mgKOH/g以下である。なお、樹脂の酸価は、JIS K 6901に準拠して測定できる(以下同様)。
【0053】
ビニルエステルは、エポキシ樹脂と不飽和一塩基酸との付加反応物である。
【0054】
エポキシ樹脂は、少なくとも1つのエポキシ基を有する。エポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂など)、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ノボラック型エポキシ樹脂など)、脂肪族型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0055】
エポキシ樹脂のなかでは、好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられ、さらに好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0056】
不飽和一塩基酸は、エチレン性不飽和二重結合を有する。不飽和一塩基酸として、例えば、不飽和モノ脂肪酸(例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸など)、芳香族不飽和モノカルボン酸(例えば、ケイ皮酸など)、エステル結合含有不飽和モノカルボン酸(例えば、酸無水物と不飽和アルコールとの反応物など)などが挙げられる。不飽和一塩基酸は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0057】
不飽和一塩基酸のなかでは、好ましくは、不飽和モノ脂肪酸が挙げられ、さらに好ましくは、(メタ)アクリル酸が挙げられ、とりわけ好ましくは、メタクリル酸が挙げられる。
【0058】
このようなビニルエステルは、上記したエポキシ樹脂と上記した不飽和一塩基酸とを、公知の反応条件下において、開環付加反応することにより調製される。
【0059】
また、ビニルエステルには、変性されていないビニルエステル(無変性ビニルエステル)に加え、無変性ビニルエステルから誘導される酸変性ビニルエステルが含まれる。
【0060】
酸変性ビニルエステルは、酸変性されたビニルエステルであり、ビニルエステルの側鎖にカルボキシル基が導入されている。酸変性ビニルエステルは、例えば、上記した無変性ビニルエステルと酸無水物との反応生成物である。
【0061】
酸無水物として、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸などが挙げられる。酸無水物は、単独使用または2種以上併用することができる。このような酸無水物のなかでは、好ましくは、無水マレイン酸が挙げられる。
【0062】
そして、酸変性ビニルエステルは、例えば、上記した無変性ビニルエステルが含有する水酸基と酸無水物の酸無水物基とを、公知の反応条件下において反応させることにより調製される。水酸基と酸無水物基との反応により、エステル結合が形成するとともに、カルボキシル基が生成する。
【0063】
酸変性ビニルエステルの酸価は、例えば、10mgKOH/g以上、好ましくは、20mgKOH/g以上、さらに好ましくは、30mgKOH/g以上、例えば、100mgKOH/g以下、好ましくは、80mgKOH/g以下である。
【0064】
このようなビニルエステルは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0065】
ビニルエステルのなかでは、好ましくは、酸変性ビニルエステルが挙げられ、さらに好ましくは、無変性ビニルエステルおよび酸変性ビニルエステルの併用が挙げられる。つまり、ビニルエステルは、好ましくは、酸変性ビニルエステルを含み、さらに好ましくは、無変性ビニルエステルおよび酸変性ビニルエステルを含み、とりわけ好ましくは、それらからなる。
【0066】
アクリル樹脂ベースとして、例えば、ポリ(メタ)アクリレート、および、酸変性ポリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0067】
ポリ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリレートの重合生成物(重合体)である。なお、(メタ)アクリルは、メタクリルおよび/またはアクリルと同義である(以下同様)。
【0068】
(メタ)アクリレートとして、例えば、1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノ(メタ)アクリレート、2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0069】
モノ(メタ)アクリレートとして、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数12または13)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールなどが挙げられる。また、このようなモノ(メタ)アクリレートは、スチレンと共重合させてもよい。
【0070】
多官能(メタ)アクリレートとして、例えば、アルカングリコールジ(メタ)アクリレート(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなど)、ポリオキシアルキレンジ(メタ)アクリレート(例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。
【0071】
このような(メタ)アクリレートは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0072】
(メタ)アクリレートのなかでは、好ましくは、モノ(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに好ましくは、(メタ)アクリル酸メチルが挙げられる。
【0073】
そして、ポリ(メタ)アクリレートは、例えば、上記した(メタ)アクリレートを、公知の反応条件下において重合反応させることにより調製される。
【0074】
このようなポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、例えば、10000以上2000000以下である。
【0075】
酸変性ポリ(メタ)アクリレートは、側鎖に-OCO-X-COOH(式中、Xは芳香族基、脂環族基または脂肪族基を示す)で表される側鎖成分、および/または、(メタ)アクリル酸から誘導される構成成分を、樹脂1000g中0.005~5.0mol含有する(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂である。
【0076】
(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂において、Xは芳香族基、脂環族基または脂肪族基であり、好ましくは、芳香族基である。
【0077】
この構造は、ヒドロキシ基含有ビニル単量体(例えば、ヒドロキシメチルメタクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレートなど)と、芳香族、脂環族または脂肪族の酸無水物類(例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンジカルボン酸無水物など)との付加反応によって得られる付加反応物を、上記(メタ)アクリレートと共重合するか、あるいは、上記ヒドロキシル基含有ビニル単量体と上記(メタ)アクリレートとの共重合体に、上記酸無水物類を付加反応することによって得られる。
【0078】
このような酸変性ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、例えば、10000以上、好ましくは、50000以上、例えば、2000000以下、好ましくは、1000000以下である。
【0079】
酸変性ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量が上記下限以上であれば、成形品にヒケやソリが生じることを抑制できる。また、酸変性ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量が上記上限以下であれば、エチレン性不飽和単量体へ容易に溶解できる。
【0080】
このようなアクリル樹脂ベースは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0081】
アクリル樹脂ベースのなかでは、好ましくは、酸変性ポリ(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに好ましくは、ヒドロキシ基含有ビニル単量体と酸無水物類との付加反応物と、(メタ)アクリレートとの共重合体が挙げられ、とりわけ好ましくは、ヒドロキシメチルメタクリレートと無水フタル酸との付加反応物と、(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体が挙げられる。
【0082】
つまり、アクリル樹脂ベースは、好ましくは、酸変性ポリ(メタ)アクリレートを含み、さらに好ましくは、ヒドロキシ基含有ビニル単量体と酸無水物類との付加反応物と、(メタ)アクリレートとの共重合体を含み、とりわけ好ましくは、ヒドロキシメチルメタクリレートと無水フタル酸との付加反応物と、(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体を含む。また、アクリル樹脂ベースは、好ましくは、酸変性ポリ(メタ)アクリレート(ヒドロキシ基含有ビニル単量体と酸無水物類との付加反応物と、(メタ)アクリレートとの共重合体、ヒドロキシメチルメタクリレートと無水フタル酸との付加反応物と、(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体)からなる。
【0083】
このような樹脂ベースは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0084】
エチレン性不飽和単量体は、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性モノマー(ビニルモノマー)であって、上記した樹脂ベースを溶解可能である。また、樹脂ベースがエチレン性不飽和樹脂ベースである場合、エチレン性不飽和単量体は、上記したエチレン性不飽和樹脂ベースと重合可能(架橋可能)な反応性希釈剤である。
【0085】
エチレン性不飽和単量体として、例えば、スチレン系モノマー(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、クロロスチレンなど)、上記した(メタ)アクリレートなどが挙げられる。エチレン性不飽和単量体は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0086】
エチレン性不飽和単量体は、上記した樹脂ベースの種類に応じて適宜選択される。例えば、樹脂ベースがエチレン性不飽和樹脂ベースである場合、エチレン性不飽和単量体として、好ましくは、スチレン系モノマーが挙げられ、さらに好ましくは、スチレンが挙げられる。つまり、樹脂ベースがエチレン性不飽和樹脂ベースである場合、エチレン性不飽和単量体は、好ましくは、スチレン系モノマーを含み、さらに好ましくは、スチレンを含む。
【0087】
また、樹脂ベースがアクリル樹脂ベースである場合、エチレン性不飽和単量体として、好ましくは、(メタ)アクリレートが挙げられ、さらに好ましくは、メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。つまり、樹脂ベースがアクリル樹脂ベースである場合、エチレン性不飽和単量体は、好ましくは、(メタ)アクリレートを含み、さらに好ましくは、メチル(メタ)アクリレートを含む。
【0088】
このような熱硬化性樹脂として、例えば、不飽和ポリエステルおよびエチレン性不飽和単量体を含む不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステルおよびエチレン性不飽和単量体を含むビニルエステル樹脂、アクリル樹脂ベースおよびエチレン性不飽和単量体を含むアクリルシラップなどが挙げられる。
【0089】
熱硬化性樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0090】
このような熱硬化性樹脂は、好ましくは、酸価を有する不飽和ポリエステルおよびスチレン系モノマーを含む不飽和ポリエステル樹脂、酸変性ビニルエステルおよびスチレン系モノマーを含むビニルエステル樹脂、酸変性ポリ(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリレートを含むアクリルシラップからなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含み、さらに好ましくは、前記群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂からなる。
【0091】
不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ポリエステル(好ましくは、酸価を有する不飽和ポリエステル)とエチレン性不飽和単量体(好ましくは、スチレン系モノマー)とを混合することにより調製できる。
【0092】
ビニルエステル樹脂は、ビニルエステル(好ましくは、酸変性ビニルエステル)とエチレン性不飽和単量体(好ましくは、スチレン系モノマー)とを混合することにより調製できる。
【0093】
アクリルシラップは、アクリル樹脂ベース(好ましくは、酸変性ポリ(メタ)アクリレート)の調製において、アクリル樹脂ベース(好ましくは、酸変性ポリ(メタ)アクリレート)が生成するとともに、(メタ)アクリレートが残存するように、重合反応を停止することにより調製される。
【0094】
なお、アクリルシラップが酸変性ポリ(メタ)アクリレートを含有する場合、アクリルシラップの酸価は、例えば、5mgKOH/g以上、好ましくは、10mgKOH/g以上、例えば、50mgKOH/g以下、好ましくは、40mgKOH/g以下である。
【0095】
これら不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂およびアクリルシラップのなかでは、好ましくは、不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0096】
このような熱硬化性樹脂における樹脂ベースの含有割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、30質量%以上、例えば、90質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。
【0097】
また、熱硬化性樹脂におけるエチレン性不飽和単量体の含有割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、30質量%以上、例えば、90質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。
【0098】
また、熱硬化性樹脂の樹脂ベースの含有割合は、熱硬化性樹脂と、後述する低収縮化剤との総和(以下、樹脂成分の総和とする。)100質量部に対して、例えば、20質量部以上、好ましくは、30質量部以上、例えば、90質量部以下、好ましくは、85質量部以下、さらに好ましくは、50質量部以下である。
【0099】
また、熱硬化性樹脂の樹脂ベースの含有割合は、熱硬化性樹脂と、撥水撥油剤との総和(以下、必須成分の総和とする。)100質量部に対して、例えば、20質量部以上、好ましくは、30質量部以上、例えば、90質量部以下、好ましくは、85質量部以下、さらに好ましくは、50質量部以下である。
【0100】
2.撥水撥油剤
撥水撥油剤は、熱硬化性樹脂組成物から成形される成形品に、撥水性および撥油性を付与し、ひいては、優れた防汚性を付与する。
【0101】
撥水撥油剤は、下記一般式(1)に示すフッ化物、および/または、下記一般式(2)に示す長鎖アルキル基含有アルコキシシラン、および/または、下記一般式(4A)に示す(メタ)アクリル酸エステルと下記一般式(4B)に示す(メタ)アクリル酸エステルとを含む共重合体を、少なくとも含有する。
【0102】
2-1.フッ化物
まず、下記一般式(1)に示すフッ化物(以下、単にフッ化物とする。)を説明する。
【0103】
【0104】
(式(1)中、Xは、アルコキシシリル基または(メタ)アクリロイルオキシ基を示す。aは、0以上15以下の整数を示す。bは、0以上15以下の整数を示す。)
フッ化物は、一方の分子末端にトリフルオロメチル基(-CF3)を有し、他方の分子末端に、アルコキシシリル基または(メタ)アクリロイルオキシ基を有する。
【0105】
上記一般式(1)において、aの整数は、0以上、15以下、好ましくは、10以下、さらに好ましくは、5以下、とりわけ好ましくは、0である。
【0106】
上記一般式(1)において、bの整数は、0以上、好ましくは、1以上、15以下、好ましくは、10以下、さらに好ましくは、5以下、とりわけ好ましくは、2以下である。
【0107】
また、上記一般式(1)において、Xで示されるアルコキシシリル基は、例えば、下記一般式(1A)により示される。
【0108】
【0109】
(式(1A)中、R1は、アルキル基を示す。R2は、炭素数30以下のアルキル基を示す。cは、0または1を示す。dは、0または1を示す。)
上記一般式(1A)において、cおよびdのそれぞれは、0または1を示し、好ましくは、0である。また、上記一般式(1A)において、R1で示されるアルキル基は、例えば、炭素数30以下のアルキル基である。また、上記一般式(1A)において、R2で示されるアルキル基は、炭素数30以下のアルキル基であって、好ましくは、炭素数6以下のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、メチル基およびエチル基が挙げられ、とりわけ好ましくは、メチル基が挙げられる。
【0110】
つまり、一般式(1)においてXで示されるアルコキシシリル基は、好ましくは、トリアルコキシシリル基であり、さらに好ましくは、トリメトキシシリル基である。
【0111】
また、上記一般式(1)において、Xで示される(メタ)アクリロイルオキシ基は、例えば、下記一般式(1B)により示される。
【0112】
【0113】
(式(1B)中、R3は、水素原子またはメチル基を示す。)
上記一般式(1B)において、R3は、水素原子またはメチル基を示し、好ましくは、メチル基である。つまり、一般式(1)においてXで示される(メタ)アクリロイルオキシ基は、好ましくは、メタクリロイルオキシ基である。
【0114】
このようなフッ化物は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0115】
このようなフッ化物のなかでは、好ましくは、上記一般式(1)において、bが1~5であるフッ化物が挙げられ、具体的には、トリフロロプロピルトリメトキシシラン(一般式(1)において、Xはトリメトキシシリル基を示し、aは0を示し、bは2を示す。)、トリフロロエチルメタクリレート(一般式(1)において、Xはメタクリロイルオキシ基を示し、aは0を示し、bは1を示す。)、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)4(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2-O(C=O)CH(CH3)=CH2、CF3(CF2)4(CH2)2-O(C=O)CH(CH3)=CH2などが挙げられる。
【0116】
そのようなフッ化物において、さらに好ましくは、上記一般式(1)において、aが0であり、bが1~5であるフッ化物が挙げられ、とりわけ好ましくは、トリフロロプロピルトリメトキシシランおよびトリフロロエチルメタクリレートが挙げられ、特に好ましくは、トリフロロプロピルメトキシシランが挙げられる。
【0117】
つまり、フッ化物は、好ましくは、上記一般式(1)において、bが1~5であるフッ化物を含み、さらに好ましくは、上記一般式(1)において、aが0であり、bが1~5であるフッ化物を含み、とりわけ好ましくは、トリフロロプロピルトリメトキシシランおよび/またはトリフロロエチルメタクリレートを含み、特に好ましくは、トリフロロプロピルメトキシシランを含む。また、フッ化物は、好ましくは、上記一般式(1)において、bが1~5であるフッ化物(トリフロロプロピルトリメトキシシランおよび/またはトリフロロエチルメタクリレート)からなる。
【0118】
フッ化物がトリフロロプロピルトリメトキシシランおよび/またはトリフロロエチルメタクリレートを含むと、熱硬化性樹脂組成物から成形される成形品に、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく確実に付与することができ、とりわけ、フッ化物がトリフロロプロピルトリメトキシシランを含むと、成形品における撥油性のさらなる向上を図ることができる。
【0119】
2-2.長鎖アルキル基含有アルコキシシラン
次に、下記一般式(2)に示す長鎖アルキル基含有アルコキシシラン(以下、単に長鎖アルキル基含有アルコキシシランとする。)を説明する。
【0120】
【0121】
(式(2)中、R1は、アルキル基を示す。R2は、炭素数30以下のアルキル基を示す。cは、0または1を示す。dは、0または1を示す。eは、3以上30以下の整数を示す。)
長鎖アルキル基含有アルコキシシランは、Si原子に結合する長鎖アルキル基と、Si原子に結合する少なくとも1つのアルコキシ基とを有する。
【0122】
上記一般式(2)において、cおよびdのそれぞれは、上記一般式(1A)におけるcおよびdと同義であって、好ましくは、0である。また、上記一般式(2)において、R1は、上記一般式(1A)におけるR1と同義である。また、上記一般式(2)において、R2は、上記一般式(1A)におけるR2と同義であって、好ましくは、メチル基である。
【0123】
つまり、上記一般式(2)に示す長鎖アルキル基含有アルコキシシランは、好ましくは、Si原子に結合する3つのアルコキシ基(トリアルコキシシリル基)を有し、さらに好ましくは、トリメトキシシリル基を有する。
【0124】
また、上記一般式(2)において、eの整数は、3以上、好ましくは、5以上、さらに好ましくは、8以上、30以下、好ましくは、10以下である。
【0125】
このような長鎖アルキル基含有アルコキシシランは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0126】
長鎖アルキル基含有アルコキシシランのなかでは、好ましくは、上記一般式(2)において、cおよびdが0であり、eが3以上30以下である長鎖アルキル基含有トリアルコキシシランが挙げられる。そのような長鎖アルキル基含有トリアルコキシシランとして、具体的には、デシルトリメトキシシラン(一般式(2)において、R2はメチル基を示し、cおよびdは0を示し、eは9を示す。)、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシランなどが挙げられ、好ましくは、デシルトリメトキシシランが挙げられる。
【0127】
つまり、上記一般式(2)に示す長鎖アルキル基含有アルコキシシランは、好ましくは、上記一般式(2)において、cおよびdが0であり、eが3以上30以下である長鎖アルキル基含有トリアルコキシシランを含み、さらに好ましくは、デシルトリメトキシシランを含む。また、長鎖アルキル基含有アルコキシシランは、好ましくは、上記一般式(2)において、cおよびdが0であり、eが3以上30以下である長鎖アルキル基含有トリアルコキシシラン(デシルトリメトキシシラン)からなる。
【0128】
2-3.(メタ)アクリル酸エステル共重合体
次に、下記一般式(4A)に示す(メタ)アクリル酸エステルと下記一般式(4B)に示す(メタ)アクリル酸エステルとを含む共重合体(以下、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とする。)を説明する。
【0129】
【0130】
(式(4A)中、iは、0以上15以下の整数を示す。jは、0以上15以下の整数を示す。R5は、水素原子またはメチル基を示す。)
上記一般式(4A)に示す(メタ)アクリル酸エステル(以下、(メタ)アクリル酸エステル4Aとする。)は、一方の分子末端にトリフルオロメチル基(-CF3)を有し、他方の分子末端に(メタ)アクリロイルオキシ基を有する。
【0131】
上記一般式(4A)において、iの整数は、0以上、好ましくは、1以上、さらに好ましくは、3以上、15以下、好ましくは、10以下である。
【0132】
上記一般式(4A)において、jの整数は、0以上、好ましくは、1以上、15以下、好ましくは、10以下、さらに好ましくは、5以下である。
【0133】
上記一般式(4A)において、R5は、水素原子またはメチル基を示し、好ましくは、メチル基である。つまり、(メタ)アクリル酸エステル4Aは、好ましくは、メタクリル酸エステルである。
【0134】
(メタ)アクリル酸エステル4Aは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0135】
(メタ)アクリル酸エステル4Aのなかでは、好ましくは、上記一般式(4A)において、iが3~10であり、jが1~5である(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、具体的には、メタクリル酸1H,1H,2H,2H,パーフルオロオクチルなどが挙げられる。
【0136】
つまり、(メタ)アクリル酸エステル4Aは、好ましくは、上記一般式(4A)において、iが3~10であり、jが1~5である(メタ)アクリル酸エステルを含み、さらに好ましくは、メタクリル酸1H,1H,2H,2H,パーフルオロオクチルを含む。また、(メタ)アクリル酸エステル4Aは、好ましくは、上記一般式(4A)において、iが3~10であり、jが1~2である(メタ)アクリル酸エステルからなる。
【0137】
【0138】
(式(4B)中、R6は、水素原子またはメチル基を示す。R7は、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を示す。)
上記一般式(4B)に示す(メタ)アクリル酸エステル(以下、(メタ)アクリル酸エステル4Bとする。)は、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基と、(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する。
【0139】
上記一般式(4B)において、R6は、水素原子またはメチル基を示し、好ましくは、メチル基である。つまり、(メタ)アクリル酸エステル4Bは、好ましくは、メタクリル酸エステルである。
【0140】
上記一般式(4B)において、R7で示される脂肪族炭化水素基として、例えば、炭素数30以下のアルキル基などが挙げられる。
【0141】
上記一般式(4B)において、R7で示される芳香族炭化水素基として、例えば、フェニレン基などが挙げられる。
【0142】
このようなR7のなかでは、好ましくは、脂肪族炭化水素基が挙げられ、より好ましくは、炭素数10以上30以下のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、炭素数10以上30以下の直鎖状アルキル基が挙げられ、とりわけ好ましくは、炭素数14以上22以下の直鎖状アルキル基が挙げられ、特に好ましくは、オクタデシル基が挙げられる。
【0143】
また、上記一般式(4B)においてR7で示される脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、極性基(例えば、水酸基、カルボキシル基など)を含んでいてもよい。
【0144】
(メタ)アクリル酸エステル4Bは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0145】
(メタ)アクリル酸エステル4Bのなかでは、好ましくは、上記一般式(4B)において、R7が炭素数10以上30以下の直鎖状アルキル基である(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、具体的には、メタクリル酸オクタデシルなどが挙げられる。
【0146】
つまり、(メタ)アクリル酸エステル4Bは、好ましくは、上記一般式(4B)において、R7が炭素数10以上30以下の直鎖状アルキル基である(メタ)アクリル酸エステルを含み、さらに好ましくは、メタクリル酸オクタデシルを含む。また、(メタ)アクリル酸エステル4Bは、好ましくは、上記一般式(4B)において、R7が炭素数10以上30以下の直鎖状アルキル基である(メタ)アクリル酸エステル(メタクリル酸オクタデシル)からなる。
【0147】
(メタ)アクリル酸エステル4Bの共重合比率(質量比)は、(メタ)アクリル酸エステル4Aと(メタ)アクリル酸エステル4Bとの総和に対して、例えば、50質量%以上、好ましくは、60質量%以上、さらに好ましくは、70質量%以上、例えば、95質量%以下、好ましくは、90質量%以下である。
【0148】
(メタ)アクリル酸エステル4Bの共重合比率(mol比)は、(メタ)アクリル酸エステル4Aと(メタ)アクリル酸エステル4Bとの総和に対して、例えば、50mol%以上、好ましくは、60mol%以上、さらに好ましくは、70mol%以上、例えば、95mol%以下、好ましくは、90mol%以下である。
【0149】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量は、例えば、1000以上、好ましくは、3000以上、例えば、20000以下、好ましくは、10000以下である。
【0150】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル4Aおよび(メタ)アクリル酸エステル4Bを少なくとも含むモノマー成分の共重合体である。(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル4Aおよび(メタ)アクリル酸エステル4Bのそれぞれに由来するユニットを少なくとも含む。
【0151】
また、モノマー成分は、(メタ)アクリル酸エステル4Aおよび(メタ)アクリル酸エステル4Bに加えて、好ましくは、他の重合性モノマーを含む。つまり、(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル4Aと(メタ)アクリル酸エステル4Bとからなる共重合体、または、(メタ)アクリル酸エステル4Aと(メタ)アクリル酸エステル4Bと他の重合性モノマーとからなる共重合体であり、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル4Aと(メタ)アクリル酸エステル4Bと他の重合性モノマーとからなる共重合体である。
【0152】
モノマー成分が他の重合性モノマーを含む場合、(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル4Aおよび(メタ)アクリル酸エステル4Bに由来するユニットに加えて、他の重合性モノマーに由来するユニットを含む。
【0153】
他の重合性モノマーは、(メタ)アクリル酸エステル4Aおよび(メタ)アクリル酸エステル4Bと重合可能であって、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノ(メタ)アクリレート、例えば、後述する下記一般式(3)に示す(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンなどが挙げられる。
【0154】
他の重合性モノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。他の重合性モノマーのなかでは、好ましくは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと後述する一般式(3)に示す(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの併用が挙げられる。
【0155】
モノマー成分における他の重合性モノマーの共重合比率(質量比)は、例えば、40質量%以上、好ましくは、50質量%以上、さらに好ましくは、60質量%以上、例えば、95質量%以下、好ましくは、90質量%以下、さらに好ましくは、80質量%以下である。
【0156】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、上記した(メタ)アクリル酸エステル4Aと、上記した(メタ)アクリル酸エステル4Bとを、上記の共重合比率となるように共重合させて調製される。
【0157】
より詳しくは、上記した(メタ)アクリル酸エステル4Aと、上記した(メタ)アクリル酸エステル4Bと、必要に応じて他の重合性モノマーとを含むモノマー成分を、例えば、不活性ガス(例えば、窒素ガスなど)雰囲気において、溶媒の存在下において共重合させる。その後、必要に応じて溶媒を除去することにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が調製される。
【0158】
溶媒として、例えば、水、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)などが挙げられる。溶媒は、単独使用または2種以上併用することができる。溶媒のなかでは、好ましくは、水とアセトンとの併用が挙げられる。
【0159】
反応温度は、例えば、40℃以上70℃以下であり、反応時間は、例えば、5時間以上20時間以下である。
【0160】
また、モノマー成分に公知の添加剤を適宜の割合で添加してもよい。
【0161】
添加剤として、例えば、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのノニオン性界面活性剤など)、分子量調整剤(例えば、ステアリルメルカプタンなど)、開始剤(例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩など)などが挙げられる。
【0162】
2-4.(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン
また、撥水撥油剤は、成形品の撥水撥油性の観点から好ましくは、下記一般式(3)に示す(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン(以下、単に(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとする。)を、さらに含有する。
【0163】
【0164】
(式(3)中、Yは、水素原子または(メタ)アクリロイルオキシ基を示す。R3は、水素原子またはメチル基を示す。R4は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。fは、5以上200以下の整数を示す。gは、1以上5以下の整数を示す。hは、1以上5以下の整数を示す。)
上記一般式(3)に示す(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンは、一方の分子末端に(メタ)アクリロイルオキシ基を有し、他方の分子末端に、アルキル基または(メタ)アクリロイルオキシ基を有する。
【0165】
上記一般式(3)において、fの整数は、5以上、好ましくは、10以上、200以下、好ましくは、150以下、さらに好ましくは、80以下である。
【0166】
上記一般式(3)において、gの整数は、1以上、好ましくは、2以上、5以下、好ましくは、4以下である。
【0167】
上記一般式(3)において、hの整数は、1以上、好ましくは、3以上、10以下、好ましくは、5以下である。
【0168】
上記一般式(3)において、R3は、水素原子またはメチル基を示し、好ましくは、メチル基である。
【0169】
上記一般式(3)において、R4で示されるアルキル基は、炭素数1以上4以下のアルキル基であって、好ましくは、メチル基である。
【0170】
上記一般式(3)において、Yは、水素原子または(メタ)アクリロイルオキシ基を示す。上記一般式(3)において、Yで示される(メタ)アクリロイルオキシ基は、例えば、上記一般式(1B)に示される(メタ)アクリロイルオキシ基と同義である。このような上記一般式(3)におけるYは、好ましくは、水素原子である。
【0171】
このような(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0172】
このような(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンのなかでは、好ましくは、一方の分子末端にメタクリロイルオキシ基を有し、他方の分子末端にアルキル基を有するメタクリロイル基・アルキル基末端ポリシロキサンが挙げられる。そのようなメタクリロイル基・アルキル基末端ポリシロキサンとして、具体的には、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン(上記一般式(3)において、Yが水素原子、hが4、R3がメチル基、R4がメチル基、fが63、gが3を示す。)、上記一般式(3)においてfが平均10のメタクリロイル基含有ポリシロキサン、上記一般式(3)においてfが平均130のメタクリロイル基含有ポリシロキサンなどが挙げられ、好ましくは、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【0173】
つまり、上記一般式(3)に示す(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンは、好ましくは、メタクリロイル基・アルキル基末端ポリシロキサンを含み、さらに好ましくはα-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンを含む。また、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンは、好ましくは、メタクリロイル基・アルキル基末端ポリシロキサン(α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン)からなる。
【0174】
2-5.撥水撥油剤の組み合わせ
上記したように、撥水撥油剤は、フッ化物および長鎖アルキル基含有アルコキシシランのいずれか一方のみを含むことができるが、成形品の撥水撥油性の観点から好ましくは、複数の撥水撥油剤(フッ化物、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン)が組み合わせて用いられる。
【0175】
撥水撥油剤の組み合わせとして、例えば、フッ化物と長鎖アルキル基含有アルコキシシランとの組み合わせ、フッ化物と(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせ、長鎖アルキル基含有アルコキシシランと(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせ、フッ化物と長鎖アルキル基含有アルコキシシランと(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせが挙げられる。
【0176】
これら組み合わせのなかでは、好ましくは、フッ化物と長鎖アルキル基含有アルコキシシランとの組み合わせ、および、フッ化物と(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせが挙げられる。
【0177】
つまり、撥水撥油剤は、好ましくは、フッ化物と、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび/または(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとを含有し、さらに好ましくは、フッ化物と長鎖アルキル基含有アルコキシシランとの組み合わせ、または、フッ化物と(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせを含み、とりわけ好ましくは、それら組み合わせからなる。
【0178】
撥水撥油剤が、フッ化物と、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび/または(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとを含有すると、成形品の撥水性および撥油性の向上を確実に図ることができる。
【0179】
撥水撥油剤が、フッ化物と、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび/または(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとを含有する場合、フッ化物の含有割合は、フッ化物、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンの総和に対して、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、50質量%を超過し、とりわけ好ましくは、55質量%以上、例えば、90質量%以下、好ましくは、85質量%以下である。
【0180】
フッ化物の含有割合が上記の下限以上、上限以下であると、成形品において、撥水性および撥油性をより一層バランスよく確保することができる。
【0181】
また、撥水撥油剤は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体のみを含むことができるが、成形品の撥水撥油性の観点から好ましくは、複数の撥水撥油剤((メタ)アクリル酸エステル共重合体、フッ化物、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン)が組み合わせて用いられる。
【0182】
撥水撥油剤の組み合わせとして、例えば、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とフッ化物との組み合わせ、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と長鎖アルキル基含有アルコキシシランとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とフッ化物と長鎖アルキル基含有アルコキシシランとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と長鎖アルキル基含有アルコキシシランと(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とフッ化物と(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とフッ化物と長鎖アルキル基含有アルコキシシランと(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせが挙げられる。
【0183】
これら組み合わせのなかでは、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とフッ化物との組み合わせ、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とフッ化物と長鎖アルキル基含有アルコキシシランとの組み合わせが挙げられ、さらに好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせが挙げられる。
【0184】
つまり、撥水撥油剤は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、フッ化物、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種とを含有する。
【0185】
また、撥水撥油剤は、さらに好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とフッ化物との組み合わせ、または、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせ、または、(メタ)アクリル酸エステル共重合体とフッ化物と長鎖アルキル基含有アルコキシシランとの組み合わせを含み、とりわけ好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンとの組み合わせを含み、特に好ましくは、それら組み合わせからなる。
【0186】
撥水撥油剤が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、フッ化物、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種とを含有すると、成形品の撥水性および撥油性の向上をより確実に図ることができる。
【0187】
撥水撥油剤が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、フッ化物、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種とを含有する場合、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、フッ化物、長鎖アルキル基含有アルコキシシランおよび(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサンの総和に対して、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、50質量%を超過し、とりわけ好ましくは、55質量%以上、例えば、90質量%以下、好ましくは、85質量%以下である。
【0188】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有割合が上記下限以上、上限以下であると、成形品の撥油性のさらなる向上を図ることができる。
【0189】
このような撥水撥油剤の含有割合は、樹脂成分(樹脂ベース+エチレン性不飽和単量体+低収縮化剤)の総和100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.1質量部以上、より好ましくは、0.3質量部以上、とりわけ好ましくは、1質量部以上、特に好ましくは、2質量部以上、最も好ましくは、3質量部以上、例えば、15質量部以下、好ましくは、10質量部以下、さらに好ましくは、7質量部以下である。
【0190】
また、撥水撥油剤の含有割合は、必須成分(樹脂ベース+エチレン性不飽和単量体+撥水撥油剤)の総和100質量部に対して、例えば、0.012質量部以上、好ましくは、0.12質量部以上、より好ましくは、0.36質量部以上、とりわけ好ましくは、0.5質量部以上、特に好ましくは、1.2質量部以上、最も好ましくは、2.8質量部以上、例えば、13質量部以下、好ましくは、9質量部以下、さらに好ましくは、7.8質量部以下である。
【0191】
3.低収縮化剤
また、熱硬化性樹脂組成物は、任意成分として、好ましくは、低収縮化剤を含む。
【0192】
低収縮化剤は、熱硬化性樹脂組成物から成形される成形品の硬化収縮および熱収縮を抑制する。
【0193】
低収縮化剤として、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、セルロースエステル樹脂(例えば、セルロースアセテートブチレートなど)、ポリスチレン、架橋ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル-ポリスチレンブロックコポリマー、SBS(ゴム)、SEPS(ゴム)、飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0194】
このような低収縮化剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0195】
低収縮化剤の選定は、本発明を制限するものではないが、好ましくは、ポリスチレン、架橋ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル-ポリスチレンブロックコポリマーが好適である。
【0196】
低収縮化剤の含有割合は、本発明を制限するものではないが、必須成分の総和100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、3質量部以上、例えば、30質量部以下、好ましくは、20質量部以下、さらに好ましくは、15質量部以下である。
【0197】
4.その他の添加剤
また、熱硬化性樹脂組成物は、任意成分として、その他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤として、例えば、硬化剤、重合禁止剤、充填材、離型剤、増粘剤などが挙げられる。その他の添加剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0198】
硬化剤(重合開始剤)として、例えば、パーオキサイドが挙げられる。パーオキサイドとして、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2-エチルヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシアセテートなどが挙げられる。パーオキサイドは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0199】
このような重合開始剤のなかでは、好ましくは、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが挙げられる。
【0200】
重合開始剤の含有割合は、必須成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、好ましくは、0.8質量部以上、例えば、10質量部以下、好ましくは、3質量部以下である。
【0201】
重合禁止剤として、例えば、ハイドロキノン化合物(例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2-t-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、メトキシハイドロキノンなど)、ベンゾキノン化合物(例えば、パラベンゾキノン、2,5-ジ-t-ブチルベンゾキノンなど)、ナフトキノン化合物(例えば、ナフトキノンなど)、カテコール化合物(例えば、p-t-ブチルカテコールなど)、芳香族アミン化合物(例えば、フェノチアジンなど)、N-オキシル化合物などが挙げられる。重合禁止剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0202】
このような重合禁止剤のなかでは、好ましくは、ベンゾキノン化合物、N-オキシル化合物が挙げられ、さらに好ましくは、パラベンゾキノンが挙げられる。
【0203】
重合禁止剤の含有割合は、必須成分100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.05質量部以上、例えば、0.3質量部以下、好ましくは、0.20質量部以下である。
【0204】
充填材として、例えば、無機充填材が挙げられる。無機充填材として、例えば、酸化物(例えば、アルミナ、チタニアなど)、水酸化物(例えば、水酸化アルミニウムなど)、炭酸塩(例えば、炭酸カルシウムなど)、硫酸塩(例えば、硫酸バリウムなど)、シリカ(例えば、結晶性シリカ、溶融シリカ、フュームドシリカ、乾式シリカ(アエロジル)など)、ガラスパウダー、中空フィラー(例えば、ガラス中空球、シリカ中空球、アルミナ中空球など)、ケイ酸塩(例えば、珪砂、珪藻土、マイカ、クレー、カオリン、タルクなど)、フッ化物(例えば、ホタル石など)、リン酸塩(例えば、リン酸カルシウムなど)、粘土鉱物(例えば、スメクタイトなど)などが挙げられる。充填材は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0205】
充填材のなかでは、好ましくは、水酸化物および炭酸塩が挙げられ、さらに好ましくは、水酸化アルミニウムおよび炭酸カルシウムが挙げられる。
【0206】
充填材の含有割合は、必須成分100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、10質量部以上、例えば、400質量部以下、好ましくは、300質量部以下、さらに好ましくは、250質量部以下である。
【0207】
離型剤(内部離型剤)として、例えば、脂肪酸(例えば、ステアリン酸、ラウリン酸など)、脂肪酸金属塩(例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなど)、パラフィン、液体ワックス、フッ素ポリマー、シリコーン系ポリマーなどが挙げられる。内部離型剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0208】
このような離型剤のなかでは、好ましくは、脂肪酸、脂肪酸金属塩が挙げられ、さらに好ましくは、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛が挙げられる。
【0209】
内部離型剤の含有割合は、必須成分100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、3質量部以上、例えば、10質量部以下である。
【0210】
増粘剤は、熱硬化性樹脂組成物を加熱圧縮成形に適した粘度まで増粘する。増粘剤は、例えば、熱硬化性樹脂組成物を強化繊維(後述)に含浸させる前(好ましくは、直前)に、熱硬化性樹脂組成物に添加される。
【0211】
増粘剤として、例えば、アルカリ土類金属酸化物(例えば、酸化マグネシウムなど)、アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなど)、ポリイソシアネート(例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族ポリイソシアネート、例えば、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ノルボルネンメタンジイソシアネート(NBDI)などの脂環族ポリイソシアネート、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)などの芳香脂肪族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ポリイソシアネート、および、それらの変性体など)が挙げられる。このような増粘剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0212】
増粘剤のなかでは、好ましくは、アルカリ土類金属酸化物が挙げられ、さらに好ましくは、酸化マグネシウムが挙げられる。
【0213】
このような増粘剤の配合割合は、必須成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、例えば、10質量部以下、好ましくは、6質量部以下である。
【0214】
さらに必要に応じて、熱硬化性樹脂組成物は、着色剤、湿潤分散剤、分離防止剤、難燃剤、導電剤、紫外線吸収剤などを適宜の割合で含有してもよい。
【0215】
5.成形材料
このような熱硬化性樹脂組成物は、上記した必須成分(熱硬化性樹脂および撥水撥油剤)と、必要に応じて、任意成分とを公知の設備(例えば、SMC含浸機、TMC含浸機、双腕ニーダー、プラネタリーニーダーなど)を用いて混合することにより調製される。
【0216】
そして、熱硬化性樹脂組成物は、シートモールディングコンパウンド(SMC)、シックモールディングコンパウンド(TMC)、バルクモールディングコンパウンド(BMC)などの成形材料(繊維強化樹脂材料)に好適に用いられる。つまり、熱硬化性樹脂組成物の用途として、例えば、SMC用成形材料、TMC用成形材料、BMC用成形材料などが挙げられる。
【0217】
成形材料は、上記した熱硬化性樹脂組成物と、強化繊維とを含む。熱硬化性樹脂組成物は、強化繊維に含浸される。
【0218】
強化繊維として、例えば、無機繊維(例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維など)、有機繊維(例えば、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、フッ素樹脂系繊維、フェノール系繊維など)、天然繊維(例えば、麻、ケナフなど)などが挙げられる。強化繊維は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0219】
このような強化繊維のなかでは、好ましくは、無機繊維が挙げられ、さらに好ましくは、炭素繊維およびガラス繊維が挙げられ、とりわけ好ましくは、ガラス繊維が挙げられる。
【0220】
強化繊維の形状として、例えば、ロービングクロスなどのクロス状、チョップドストランドマット、プリフォーマブルマット、コンティニュアンスストランドマット、サーフェーシングマットなどのマット状、ストランド状、ロービング状、不織布状、ペーパー状などが挙げられる。
【0221】
このような強化繊維の形状のうち、成形材料がSMC用成形材料およびTMC用成形材料である場合、好ましくは、ロービング状が挙げられ、より具体的には、ロービング状の強化繊維が挙げられる。強化繊維の形状のうち、成形材料がBMC用成形材料である場合、好ましくは、あらかじめ所定の長さに切断された強化繊維が好適である。
【0222】
強化繊維の長さおよび強化繊維の配合割合は、成形材料の用途に応じて適宜変更される。
【0223】
成形材料がSMC用成形材料である場合、強化繊維の長さは、例えば、10mm以上、好ましくは、12mm以上、例えば、60mm以下、好ましくは、30mm以下であり、強化繊維の配合割合は、成形材料の総量に対して、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上、例えば、60質量%以下、好ましくは、40質量%以下である。
【0224】
このようなSMC用成形材料は、例えば、シート形状を有する。SMC用成形材料の厚みは、例えば、0.5mm以上6.0mm以下である。
【0225】
また、成形材料がTMC用成形材料である場合、強化繊維の長さは、例えば、3mm以上、好ましくは、5mm以上、例えば、60mm以下、好ましくは、30mm以下であり、強化繊維の配合割合は、成形材料の総量に対して、例えば、3質量%以上、好ましくは、5質量%以上、例えば、60質量%以下、好ましくは、40質量%以下である。
【0226】
このようなTMC用成形材料は、例えば、ブロック状やシート形状を有する。TMC用成形材料の厚みは、例えば、2.0mm以上30.0mm以下である。
【0227】
また、成形材料がBMC用成形材料である場合、強化繊維の長さは、例えば、1mm以上、好ましくは、2mm以上、例えば、30mm以下、好ましくは、20mm以下であり、強化繊維の配合割合は、成形材料の総量に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは、3質量%以上、例えば、40質量%以下、好ましくは、30質量%以下である。
【0228】
このようなBMC用成形材料は、例えば、円筒や直方体のブロック形状を有する。BMC用成形材料のブロック単位は、例えば、0.1kg以上30kg以下である。
【0229】
これら成形材料(SMC用成形材料、TMC用成形材料およびBMC用成形材料)は、必要に応じて、20℃以上80℃以下、0.5時間以上200時間以下で熟成された後、公知の加熱圧縮成形法、加熱トランスファー成形法や加熱射出成形法により、硬化成形される。これにより、所望の形状を有する成形品が得られる。
【0230】
つまり、成形品は、上記した成形材料の硬化物を含み、より具体的には、上記した熱硬化性樹脂組成物の硬化物と、強化繊維とを含む。
【0231】
このような成形品は、種々の産業製品に好適に利用され、特に、水廻り製品(例えば、浴槽、洗面カウンター、キッチンカウンター、キッチンシンク、浴室ユニットの洗い場、床、天井、壁、洗い場付き浴槽など)に好適に利用される。
【0232】
つまり、上記した熱硬化性樹脂組成物は、例えば、水廻り用樹脂材料に含有されて、水廻りに利用される樹脂製品の材料として好適に利用される。
【0233】
また、上記した成形材料は、例えば、水廻り用成形材料に含有されて、水廻りに利用される繊維強化樹脂製品の材料として好適に利用される。
【0234】
また、上記した水廻り用成形材料の硬化物は、例えば、水廻り用製品に含有されて、水廻りに利用される繊維強化樹脂製品として好適に利用される。
【0235】
6.作用効果
上記した熱硬化性樹脂組成物では、撥水撥油剤が、分子末端にトリフルオロメチル基(-CF3)を有する上記一般式(1)のフッ化物、および/または、ケイ素に結合する長鎖アルキル基を有する上記一般式(2)のアルコキシシランを含有する。
【0236】
つまり、熱硬化性樹脂組成物が上記した特定構造を有する撥水撥油剤を含有するので、熱硬化性樹脂組成物から成形される成形品に、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく付与することができる。
【0237】
また、上記した熱硬化性樹脂組成物では、撥水撥油剤が、分子末端にトリフルオロメチル基(-CF3)を有する上記一般式(4A)に示す(メタ)アクリル酸エステルと、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を有する上記一般式(4B)に示す(メタ)アクリル酸エステルとを含む共重合体を含有する。
【0238】
そのため、熱硬化性樹脂組成物から成形される成形品に、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく付与することができ、とりわけ、成形品の撥油性の向上を図ることができる。
【0239】
また、上記した成形材料は、上記の熱硬化性樹脂組成物と、熱硬化性樹脂組成物が含浸される強化繊維とを含むので、成形品に、優れた機械強度を付与することができるとともに、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく付与することができる。
【0240】
また、上記した成形品は、上記の成形材料の硬化物を含むので、優れた機械強度を有するとともに、優れた撥水性および優れた撥油性をバランスよく有する。
【0241】
また、上記した熱硬化性樹脂組成物、成形材料および成形品では、撥水撥油剤が熱硬化性樹脂に混合されているので、成形品表面に加えて成形品内部まで撥水撥油剤が均一に分散し、成形硬化の際に樹脂と、充填材、ガラス繊維などとも結合している。そのため、使用により成形品表面が摩耗したり微細な傷がつくことがあっても、成形品の表面において新たな撥水撥油剤が常に均質に露出するので、優れた撥水性および撥油性を長期間安定して発現することができる。
【0242】
一方、成形品の表面が撥水撥油剤により処理(塗装)されて、成形品に撥水性および撥油性が付与される場合、成形品表面に成形カス、微細なゴミが付着していると撥水撥油剤が表面に塗装できないため、成形品表面を予め十分に洗浄、乾燥する洗浄工程と、撥水撥油剤を液垂れすることなく、均一に塗布する塗装工程、および不要な溶剤を完全に乾燥させる乾燥工程が必要で成形品コストが数倍に上がるだけでなく、成形品が摩耗すると、成形品の表面上の撥水撥油剤が剥離し、撥水性および撥油性を確保できない。
【0243】
また、成形品表面に塗装した撥水撥油剤は、温水で使用される過程で、塗膜が剥離したり結合が切れるため、優れた撥水性および撥油性を長期に安定的に発現することができないという問題がある。
【0244】
しかし、本発明の撥水撥油剤が混合される熱硬化性樹脂組成物および成形材料から得られた成形品は、撥水撥油剤により表面処理された成形品と比較して、塗装工程が不要でコストが大幅に安いだけでなく、優れた撥水性および撥油性を長期にわたって維持することができる。
【実施例】
【0245】
以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。また、以下の記載において特に言及がない限り、「部」および「%」は質量基準である。
<不飽和ポリエステル樹脂の調製>
合成例1
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器および攪拌機を備えたフラスコを反応器とした。この反応器に、イソフタル酸2.0mol、プロピレングリコール5.5mol、ネオペンチルグリコール5.0molを仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら200~210℃の温度で重縮合反応させた。酸価が10mgKOH/gになった時点で150℃まで冷却し、無水マレイン酸8.0molを仕込み、再び210~220℃で反応させて、酸価が27.0mgKOH/gの不飽和ポリエステルを得た。
【0246】
次いで、得られた不飽和ポリエステル40質量部にスチレン45質量部を混合して、不飽和ポリエステル樹脂を得た。
【0247】
なお、表1~7において、ビニルモノマーとしてのスチレンの欄には、熱硬化性樹脂に含まれるスチレンと、後述するポリスチレンのスチレン溶液に含まれるスチレンとの総和を記載している。
<ビニルエステル樹脂の調製>
合成例2
合成例1と同様の反応器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量185)1850質量部(10.0当量)、ビスフェノールA 317質量部(2.78当量)、触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド 0.4質量部を仕込み、窒素を吹き込みながら、150℃で5時間反応させてエポキシ当量が300のエポキシ樹脂を得た。120℃まで冷却後、重合禁止剤としてハイドロキノン 2.0質量部、触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド 2.0質量部、メタクリル酸 636質量部(7.40当量)を添加し、空気を吹き込みながら、110℃で8時間反応させ、酸価6.7mgKOH/gのビニルエステルを得た。このビニルエステルに、無水マレイン酸 354質量部(3.61mol)を添加し、80℃で2時間反応させることにより酸価71.2mgKOH/gの酸変性ビニルエステルを得た。
【0248】
次いで、得られた酸変性ビニルエステル40質量部にスチレン45質量部を混合して、ビニルエステル樹脂を得た。
<アクリルシラップの調製>
合成例3
メチルメタクリレート45.1molと、ヒドロキシメチルメタクリレートと無水フタル酸との付加反応物2.9molとを重合開始剤としてのアゾビスイソブチルニトリル(AIBN)の存在下において、85℃で8時間反応させることにより、酸価30.0mgKOH/gのアクリルシラップを得た。
【0249】
アクリルシラップは、酸変性ポリメチルメタクリレートと、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)とを、表4に示す処方で含有していた。
<(メタ)アクリル酸エステル共重合体の調製>
合成例4
合成例1と同様の反応器に、メタクリル酸1H,1H,2H,2H,パーフルオロオクチル5.3質量部、メタクリル酸オクタデシル14.7質量部、ヒドロキシエチルアクリレート1.0質量部、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル1.7質量部、ステアリルトリエチルアンモニウムクロリド0.4質量部、水26質量部、アセトン10質量部、分子量調整剤としてのステアリルメルカプタン0.1質量部、開始剤としての2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩0.04質量部を仕込み、窒素を吹き込みながら、55℃で12時間反応させることにより、固形分濃度38%のエマルションを得た。得られたエマルションをメタノールで3回洗浄し、30℃で12時間真空乾燥させて、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を得た。
【0250】
合成例5
合成例1と同様の反応器に、メタクリル酸1H,1H,2H,2H,パーフルオロオクチル4.3質量部、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン2.1質量部、メタクリル酸オクタデシル13.6質量部、ヒドロキシエチルアクリレート1.0質量部、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル1.7質量部、ステアリルトリエチルアンモニウムクロリド0.4質量部、水26質量部、アセトン10質量部、分子量調整剤としてのステアリルメルカプタン0.1質量部、開始剤としての2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩0.04質量部を仕込み、窒素を吹き込みながら、55℃で12時間反応させることにより、固形分濃度38%のエマルションを得た。得られたエマルションをメタノールで3回洗浄し、30℃で12時間真空乾燥させて、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を得た。
【0251】
<繊維強化成形材料の調製>
実施例1~6、10~20および27~42、比較例3~5
表1~3および5~7に示すように、合成例1の不飽和ポリエステル樹脂と、撥水撥油剤と、70質量%のポリスチレンのスチレン溶液と、硬化剤と、重合禁止剤と、充填材と、離型剤と、着色剤とを、表1~3および表5~7に示す処方で混合して、熱硬化性樹脂組成物を調製した。なお、表1~7では、ポリスチレンのスチレン溶液に含まれるポリスチレンを低収縮化剤として記載し、ポリスチレンのスチレン溶液に含まれるスチレンをビニルモノマーとして記載する。
【0252】
次いで、熱硬化性樹脂組成物に、増粘剤を添加後、ガラス繊維のロービングを連続的に1インチ(25mm)に切断したガラス繊維を、公知のSMC含浸機により、表1~3および表5~7に示す含有割合となるように添加して、厚さ2mmの成形材料(SMC)を調製した。
【0253】
実施例21および22
実施例17および実施例18と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0254】
次いで、熱硬化性樹脂組成物に、増粘剤を添加後、ガラス繊維のロービングを連続的に1インチ(25mm)に切断したガラス繊維を、公知のTMC含浸機により、表4に示す含有割合となるように添加して、厚さ6mmの成形材料(TMC)を調製した。
【0255】
実施例23および24
表4に示すように、低収縮化剤を変更した点、充填材を変更した点、強化繊維を変更した点以外は、実施例17および実施例18と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0256】
次いで、熱硬化性樹脂組成物に、増粘剤を添加後、ガラス繊維のロービングを連続的に3mmに切断したチョップドガラスを、公知のBMCニーダーにより、表4に示す含有割合となるように添加して、ブロック単位5kgの成形材料(BMC)を調製した。
【0257】
実施例25
表4に示すように、合成例1の不飽和ポリエステル樹脂を合成例2のビニルエステル樹脂に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0258】
次いで、熱硬化性樹脂組成物に、増粘剤を添加後、ガラス繊維のロービングを連続的に1インチ(25mm)に切断したガラス繊維を、公知のSMC含浸機により、表4に示す含有割合となるように添加して、厚さ2mmの成形材料(SMC)を調製した。
【0259】
実施例26
表4に示すように、合成例1の不飽和ポリエステル樹脂を合成例3のアクリルシラップに変更したこと以外は、実施例5と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0260】
次いで、熱硬化性樹脂組成物に、増粘剤を添加後、ガラス繊維のロービングを連続的に1インチ(25mm)に切断したガラス繊維を、公知のSMC含浸機により、表4に示す含有割合となるように添加して、厚さ2mmの成形材料(SMC)を調製した。
【0261】
比較例1
表4に示すように、撥水撥油剤を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物および成形材料(SMC)を調製した。
【0262】
比較例2
表4に示すように、デシルトリメトキシシランを、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンに変更したこと以外は、実施例2と同様にして、熱硬化性樹脂組成物および成形材料(SMC)を調製した。
<評価>
(撥水性試験)
各実施例および各比較例のそれぞれの成形材料から、300mm□平板金型を用いて、成形温度 上型/下型=145℃/130℃、キープ時間360秒、成形圧 面圧10MPaにて、300mm□平板成形品を得た。そして、その300mm□平板成形品に対する水の接触角を以下のように測定して、成形品の撥水性を評価した。その結果を表1~7に示す。
【0263】
接触角計(協和界面科学社製「DMs-401SA」を用いて水1μlの水滴を針先に作り、これを成形品の表面に接触させて平板表面に水を液下した。そして、水の接触角として、成形品の表面と水(水の自由表面)とが接する点における水の表面の接線と、成形品表面とのなす角のうち、水を含むほうの角の角度を測定した。
【0264】
なお、成形品に対する水の接触角が100°以上であると、撥水性が十分に確保されており、成形品に対する水の接触角が100°未満であると、撥水性が不十分である。
【0265】
(撥油性試験)
撥水性試験と同様にして、各実施例および各比較例のそれぞれの成形材料から300mm□平板成形品を得た。そして、その300mm□平板成形品に対するn-ヘキサデカンの接触角を以下のように測定して、成形品の撥油性を評価した。その結果を表1~7に示す。
【0266】
接触角計(協和界面科学社製「DMs-401SA」を用いてn-ヘキサデカン1μlの液滴を針先に作り、これを成形品の表面に接触させて平板表面に液滴を液下した。そして、n-ヘキサデカンの接触角として、成形品の表面とn-ヘキサデカン(n-ヘキサデカンの自由表面)が接する点におけるn-ヘキサデカンの表面の接線と、成形品表面とのなす角のうち、n-ヘキサデカンを含むほうの角の角度を測定した。
【0267】
なお、成形品に対するn-ヘキサデカンの接触角が20°を超過すると、撥油性が十分に確保されており、成形品に対するn-ヘキサデカンの接触角が20°以下であると、撥油性が不十分である。
【0268】
(外観)
撥水性試験と同様にして、各実施例および各比較例のそれぞれの成形材料から300mm□平板成形品を得た。そして、その300mm□平板成形品の外観を、下記の基準により目視にて評価した。その結果を表1~7に示す。
○:成形品表面に異常が無い状態、
×:スカミング、および/または、ツヤむらがある状態。
【0269】
(光沢)
撥水性試験と同様にして、各実施例および各比較例のそれぞれの成形材料から300mm□平板成形品を得た。そして、その300mm□平板成形品の光沢を以下のように測定した。その結果を表1~7に示す。
【0270】
JIS Z8741(1997年)に準拠し、入射角60°、受光角60°の条件で測定した。
【0271】
(耐熱水性試験)
撥水性試験と同様にして、各実施例および各比較例のそれぞれの成形材料から300mm□平板成形品を得た。そして、その成形品の耐熱水性を以下のように測定した。その結果を表1~7に示す。
【0272】
成形品より切り出した150mm□の試験片を、90℃に保った湯浴中に浸漬し、50時間毎に製品面のブリスター(膨れ)を目視観察することにより、ブリスター(膨れ)発生までの時間を測定した。
【0273】
【0274】
【0275】
【0276】
【0277】
【0278】
【0279】
【0280】
なお、各表における各化合物の詳細を下記する。
トリフロロプロピルメトキシシラン:上記一般式(1)において、Xがトリメトキシシシリル基、aが0、bが2を示す。
トリフロロエチルメタクリレート:上記一般式(1)において、Xがメタクリロイルオキシ基、aが0、bが1を示す。
デシルトリメトキシシラン:上記一般式(2)において、R2がメチル基、cが9、dおよびeが0を示す。
α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン:上記一般式
(3)において、Yが水素原子、hが4、R3がメチル基、R4がメチル基、fが63、gが3を示す。
合成例4の(メタ)アクリル酸エステル共重合体:メタクリル酸1H,1H,2H,2H,パーフルオロオクチルと、メタクリル酸オクタデシル(上記一般式(4B)において、R6は、メチル基を示し、R7は、オクタデシル基を示す。)と、ヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体。
合成例5の(メタ)アクリル酸エステル共重合体:メタクリル酸1H,1H,2H,2H,パーフルオロオクチルと、メタクリル酸オクタデシルと、ヒドロキシエチルアクリレートと、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンとの共重合体。