IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 前田建設工業株式会社の特許一覧

特許7437902トンネル天端部におけるコンクリート打設方法
<>
  • 特許-トンネル天端部におけるコンクリート打設方法 図1
  • 特許-トンネル天端部におけるコンクリート打設方法 図2
  • 特許-トンネル天端部におけるコンクリート打設方法 図3
  • 特許-トンネル天端部におけるコンクリート打設方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】トンネル天端部におけるコンクリート打設方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
E21D11/10 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019178359
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055355
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】原 秀利
(72)【発明者】
【氏名】上村 正人
(72)【発明者】
【氏名】金子 和己
(72)【発明者】
【氏名】高山 藤博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 泰行
(72)【発明者】
【氏名】森 正彦
(72)【発明者】
【氏名】水谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】坂下 誠
(72)【発明者】
【氏名】森田 篤
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-112769(JP,A)
【文献】特開2003-003795(JP,A)
【文献】特開平02-088889(JP,A)
【文献】特開2013-108242(JP,A)
【文献】特開2008-088691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠装置を用いたトンネル覆工のコンクリート打設において、
側壁部からアーチ肩部までの間に、トンネル延長方向の左右方向及び前後方向の少なくとも4箇所に側壁・アーチ部コンクリート打設口を複数段設けるとともに、前記複数段設けた側壁・アーチ部コンクリート打設口のうちで最上段に位置するアーチ肩部コンクリート打設口よりも上部における天端頂部近傍の型枠に、トンネル延長方向の左右方向及び前後方向に少なくとも4箇所の天端肩部コンクリート打設口を設け、
側壁部からアーチ肩部までは、前記側壁・アーチ部コンクリート打設口を各段で前後左右に切り替えて、コンクリートを複数層打ち重ね、
アーチ肩部から天端頂部までは、前記天端肩部コンクリート打設口を前後左右に切り替えて、下側部分は自然流下で、上側部分は前記アーチ肩部コンクリート打設口における充填圧よりも低い圧力で圧入を行い、コンクリートを天端最頂部の検査窓端部まで水平打設する、
ことを特徴とするトンネル天端部におけるコンクリート打設方法。
【請求項2】
前記天端肩部コンクリート打設口は、天端最頂部からトンネル延長方向の左右に向かって1m~1.2m離隔した位置に設けた、
ことを特徴とする請求項1に記載のトンネル天端部におけるコンクリート打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル天端部におけるコンクリート打設方法に関するものであり、詳しくは、トンネル覆工の天端部にコンクリートを打設する際に、品質の高いトンネル覆工を効率良くする施工するためのコンクリート打設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル覆工は、昭和55年頃までの在来工法からNATM工法になって格段と品質が向上した。在来工法の覆工は、アーチ部を打設後に側壁部を打設する逆巻工法が主流であった。そのため、施工継ぎ目が多く、経年変化で漏水やエフロレッセンスが見られ、維持管理にコストがかかっている。
【0003】
また、アーチ部の打設においては、天端打設口から10.5mの間でコンクリートを流すために、打ち重ね層の締固め不足でできる色むらが生じ、また、天端肩部付近には空隙が散見された。一方、NATM工法は、アーチ部と側壁部を同時に打設する全断面コンクリートであるため、一般的に、施工継ぎ目は10.5mに1か所となり、維持管理も格段に向上した。しかしながら、特に天端部の打設となると、空隙や天端部周辺の色むら(竹割模様)などが発生し、在来工法の課題を未だ引きずっている覆工も散見されるのが現状である。
【0004】
NATM工法では、順次、側壁部からコンクリートを打設してゆき、天端部は天端打設口(既設継ぎ目より75cm程度離隔した位置)からコンクリートを打設する。全断面コンクリートは、側壁部から天端部までの高さが7m~8m程度あり、1層の打ち上がり高さを50cmとしている。
【0005】
また、コンクリート打設口は最低でも片側2箇所(計4箇所)備えており、これらのコンクリート打設口から前後左右交互に水平に打設することになっている。このために4系統の配管切替えに、配管切替装置を採用して配管を瞬時に切替えて、コンクリート打設の連続性を維持している。配管は、側壁下部、側壁上部、アーチ肩部、天端部の順に切り替えていく。このような工法(以下、標準工法という)では、アーチ肩部に設けたコンクリート打設口から、自然流下でコンクリートを打設した後、天端打設口からコンクリートを打設する。天端部からアーチ部までの落下高さは概ね2m以上有り、天端打設口からのコンクリート打設は流す打ち方となる。この際のコンクリート打設量は30m3以上となる。
【0006】
このような状況の中、品質の高いトンネル覆工を効率良く施工するための技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された技術は、トンネル内空面に覆工コンクリートを打設する際に、天端部における覆工コンクリートの充填状態を可視的に確認することができるようにして、充填性の信頼度を高めることができるようにしたものである。このトンネル覆工コンクリート打設時の天端部補助型枠装置は、トンネル覆工用型枠の天端部上でトンネル延長方向に移動可能なスライド型枠と、トンネル内空面における覆工コンクリートの充填状態を撮影する撮影装置と、撮影装置の撮影方向を照明する照明装置と、スライド型枠を洗浄するための洗浄装置とを備えたことを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-53263号公報(特許第6383611号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、品質の高いトンネル覆工を効率良く施工するための技術が開発されているが、発明者らは、トンネル覆工の品質をより一層向上させるための技術開発を重ねており、経済性、省人化、熟練作業員不足への対応、施工品質の更なる向上のために、本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法に想到した。
【0009】
すなわち、本発明は、経済性、省人化、熟練作業員不足への対応、施工品質の向上を図ることが可能なトンネル天端部におけるコンクリート打設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法は、型枠装置を用いたトンネル覆工のコンクリート打設において、側壁部からアーチ肩部までの間に、トンネル延長方向の左右方向及び前後方向の少なくとも4箇所に側壁・アーチ部コンクリート打設口を複数段設けるとともに、複数段設けた側壁・アーチ部コンクリート打設口のうちで最上段に位置するアーチ肩部コンクリート打設口よりも上部における天端頂部近傍の型枠に、トンネル延長方向の左右方向及び前後方向に少なくとも4箇所の天端肩部コンクリート打設口を設けている。
【0011】
そして、側壁部からアーチ肩部までは、側壁・アーチ部コンクリート打設口を各段で前後左右に切り替えて、コンクリートを複数層打ち重ねる。さらに、アーチ肩部から天端頂部までは、天端肩部コンクリート打設口を前後左右に切り替えて、下側部分は自然流下で、上側部分(約15cm)はアーチ肩部コンクリート打設口における充填圧よりも低い圧力で圧入を行い、コンクリートを天端最頂部の検査窓端部まで水平打設するようになっている。
【0013】
本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法において、天端肩部コンクリート打設口は、天端最頂部からトンネル延長方向の左右に向かって1m~1.2m離隔した位置に設けることが好ましい。
【0014】
天端最頂部直下には検査窓が設けてあり、天端部においてコンクリートを打設する際に検査窓を開放して、天端部のコンクリート締固め作業や、天端部におけるコンクリートの打設状態等を確認する。したがって、天端最頂部からトンネル延長方向の左右に向かって1m未満に天端肩部コンクリート打設口を設けると、天端肩部コンクリート打設口から打設(圧入)したコンクリートが検査窓から漏れてしまう。一方、アーチ肩部には、アーチ肩部コンクリート打設口が設けてある、したがって、天端最頂部からトンネル延長方向の左右に向かって1.2mを超えて天端肩部コンクリート打設口を設けると、アーチ肩部コンクリート打設口とは別個に天端肩部コンクリート打設口を設けた意味が薄れてしまう。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法では、アーチ肩部よりも上部の天端頂部近傍(天端最頂部からトンネル延長方向の左右に向かって1m~1.2m離隔した位置)に天端肩部コンクリート打設口を設け、この天端肩部コンクリート打設口から下側部分を自然流下で、上側部分(約15cm)を圧入してコンクリートを水平打設している。
【0016】
このように、標準工法のトンネル覆工用型枠装置に対して天端肩部コンクリート打設口を増設しているため、天端の打設時間が標準工法よりは1時間短縮できるので、コンクリートの流動性が低下することがなく、中流動コンクリート(スランプ21cm)を使用しなくても、中流動コンクリートと同等の流動性を確保することができる。また、従来工法(出願人が既に開発している技術:覆工マルチ工法)において、アーチ肩部コンクリート打設口からの打設は、下側部分を自然流下で打設した後、連続して上側部分を圧入していた。圧入時の充填圧が35kPaと高いために、打設口周辺にコンクリートの流れ跡等の色むらが散見された。この点、本発明においては、天端肩部コンクリート打設口からの圧入時の充填圧は4kPaと低いので色むらができ難く、出来栄えが向上する。さらに、圧入時の切り替えは1回で済むので閉塞等のトラブルもない。
【0017】
したがって、施工コストを低減することができるとともに、型枠装置を補強する必要がない。また、天端頂部付近における作業効率が高まるため、省人化を図ることができる。また、施工品質が高く、出来栄えも向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るトンネル覆工用型枠装置の断面模式図。
図2】本発明の実施形態に係るトンネル覆工用型枠装置におけるコンクリート打設口の設置位置を示す断面模式図。
図3】本発明の実施形態に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法におけるコンクリート打設手順を示す平面模式図。
図4】本発明の実施形態に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法、従来工法、標準工法におけるコンクリート打設状態を比較した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法を説明する。図1~3は本発明の実施形態に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法を説明するもので、図1は本発明の実施形態に係るコンクリート打設方法に使用するトンネル覆工用型枠装置の断面模式図、図2はコンクリート打設口の設置位置を示す断面模式図、図3はコンクリート打設手順を示す平面模式図である。また、図4は本発明の実施形態に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法(本発明工法)、従来工法、標準工法におけるコンクリート打設状態を比較した説明図である。
【0020】
<トンネル覆工用型枠装置の特徴点>
本発明の実施形態に係るトンネル覆工用型枠装置10は、一般的に使用しているトンネル覆工用型枠装置(セントル)に対して、アーチ肩部よりも上方の天端頂部近傍に、少なくとも4箇所の天端肩部コンクリート打設口60dを設けてある。この天端肩部コンクリート打設口60dは、トンネル延長方向の左右方向及び前後方向に少なくとも4箇所設けられている。
【0021】
<トンネル覆工用型枠装置の概要>
トンネル覆工用型枠装置10は、図1に示すように、トンネルの内壁面に合致したアーチ状で、トンネルの延長方向に移動可能となっている。詳細には図示しないが、このトンネル覆工用型枠装置10は、一対のレール20上に載置する台車(ガントリー)30と、トンネルの内空断面形状に対応した型枠部40と、覆工材料の充填装置(例えば、圧送ポンプ100)等を備えている。また、型枠部40には、複数のコンクリート打設口60(a~e)を設けてある。
【0022】
<コンクリート打設口>
コンクリート打設口60は、図1図2に示すように、側壁下部コンクリート打設口60a、側壁上部コンクリート打設口60b、アーチ肩部コンクリート打設口60c、天端肩部コンクリート打設口60d、天端頂部コンクリート打設口60eからなる。本発明では、これらコンクリート打設口60のうち、側壁下部コンクリート打設口60a、側壁上部コンクリート打設口60b、アーチ肩部コンクリート打設口60cを、側壁・アーチ部コンクリート打設口と総称している。
【0023】
各コンクリート打設口60(a~e)にはコンクリート配管70を介して圧送ポンプ100が接続されている。さらに、圧送ポンプ100とコンクリート打設口60の間には、配管切替装置80が設けられており、コンクリート配管70を選択的に切り替えることにより、コンクリートを打設するコンクリート打設口60を切り替えることができるようになっている。配管切替装置80には、切り替え時に発生する漏コンを防止するための止板(図示せず)が設置されている。
【0024】
側壁下部コンクリート打設口60a、側壁上部コンクリート打設口60b、アーチ肩部コンクリート打設口60c、天端肩部コンクリート打設口60dは、図3に示すように、それぞれトンネル延長方向の左右方向及び前後方向に少なくとも4箇所に設けられている(打設口(1)、打設口(2)、打設口(3)、打設口(4))。また、図示しないが、天端肩部コンクリート打設口60dには油圧開閉式バルブが設けられており、この油圧開閉式バルブを開閉することにより、使用する天端肩部コンクリート打設口60dを順次選択して、コンクリートの打設を行う。天端肩部コンクリート打設口60dからの打ち上がり高さは(圧入)15cm程度(充填圧で4kPa)で、天端最頂部の検査窓端部いっぱいまで圧入する。なお、図1において、符号50は風管を示し、図3において、符号90は妻板を示している。
【0025】
<コンクリート打設口の切り替え>
側壁下部コンクリート打設口60a、側壁上部コンクリート打設口60b、アーチ肩部コンクリート打設口60c、天端肩部コンクリート打設口60dは、図3に示すように、打設口(1)、打設口(2)、打設口(3)、打設口(4)の順に切り替えられ、一巡すると、打設口(1)に戻って、同様の順序で切り替えられる。このようにコンクリート打設口60を前後左右に切り替えることにより、トンネル内空面の全体にわたって満遍なくコンクリートをバイブレータで横移動させずに打設することができる。なお、コンクリート打設口60を切り替える順序は図3に示す態様に限られず、トンネル内空面の全体にわたって満遍なくコンクリートを打設することができれば、他の順序で切り替えてもよい。
【0026】
側壁下部コンクリート打設口60a、側壁上部コンクリート打設口60b、アーチ肩部コンクリート打設口60cから打設されるコンクリートは、1層の厚さが50cm程度であり、複数層にわたってコンクリートを打設することにより、側壁下部からアーチ肩部までの覆工を施工する。この際、打設したコンクリート内にバイブレータ(図示せず)を挿入して締固めを行う。また、天端部では、打設完了後トンネル縦断方向に設置した10.5mの引き抜きバイブレータ(図示せず)で再度締め固めを行う。
【0027】
<コンクリートの打設手順>
本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法では、側壁部からアーチ肩部まで、トンネル延長方向の左右方向及び前後方向にそれぞれ4箇所ずつ設けた側壁下部コンクリート打設口60a、側壁上部コンクリート打設口60b、アーチ肩部コンクリート打設口60cからコンクリートを自然流下させて打設する。この際、左右前後4箇所の打設口は順次切り替えて使用する。また、1層の厚さは50cm程度であり、複数層にわたってコンクリートを打設する。
【0028】
そして、アーチ肩部コンクリート打設口60cからの打設が完了すると、天端肩部コンクリート打設口60dから下側部分は自然流下で、上側部分の約15cmは圧入でコンクリートを水平打設する。天端肩部コンクリート打設口60dは、トンネル延長方向の左右方向及び前後方向に4箇所設けてあり、これら4箇所の打設口を順次切り替えてコンクリートを打設する。最後に、天端頂部コンクリート打設口60eからコンクリートを打設する。天端頂部コンクリート打設口60eは既設継ぎ目より75cm離れた位置にある。図2に、天端頂部コンクリート打設口60eからコンクリートを打設する範囲を示している。
【0029】
また、本実施形態では、天端部付近におけるコンクリートの打設において、最終的に必要なコンクリート量を正確に把握するための機構を備えている。具体的には、トンネル覆工水平打設の高さ提示用レーザ水平器を用いて照射したレーザ光の高さを基準としてコンクリート打設が終了した時点(例えば、レーザ光の高さから5cm下方までコンクリート打設が終了した時点)で、トンネル覆工打設に使用しているコンクリートポンプ車に搭載したコンクリート吐出用シリンダーのスライド回数計測値に基づいて既に吐出したコンクリート量を算出する。
【0030】
そして、コンクリートポンプ車の積載コンクリート量から既に吐出したコンクリート量を差し引いて、コンクリートポンプ車の残コンクリート量を算出し、レーザ光の高さを基準として水平に打設したコンクリート上面から天端部上端までのコンクリート打設に必要なコンクリート量と残コンクリート量との差に基づいて、追加すべきコンクリート量を算出するようになっている。
【0031】
このようにレーザ水平器を用いると、天端打設において必要なコンクリート量を計算する際、既に打設したコンクリートが水平に仕上がっているので計算しやすく誤差が少なくなる。覆工においては、完全に充填できるまで打設するので常にコンクリートは余る。水平に仕上がらない標準工法では、計算に誤差が生じやすいので多くの余裕量を加算して注文しなくてはならない。その結果、コンクリートが多く余るケースがあり、不経済である。半面、節約しすぎて足りなくなった場合は、再度注文することになり、打設の「連続性」が途絶えてしまう。最悪の場合は、打ち込まれたコンクリートが固まりかけて充填できないおそれもある。覆工の最終段階での天端部のコンクリート量をできるだけ正確に見積もるのは、品質に影響を与える重要な業務である。ちなみに、コンクリートの運搬はトラックミキサー(4m3)で行う。トンネル断面にもよるが、1打設当たり(10.5m)として、20台~30台のトラックミキサーを用いてコンクリートを運搬するのが一般的である。
【0032】
<本発明工法、従来工法、標準工法の比較>
図4を参照して、本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法(本発明工法)と従来工法と標準工法とにおけるコンクリート打設状態を比較して説明する。図4(a)は本発明工法、図4(b)は従来工法、図4(c)は標準工法を示している。
【0033】
標準工法は、図4(c)に示すように、アーチ肩部コンクリート打設口60cから、自然流下でコンクリートを打設した後に、天端頂部コンクリート打設口60eからコンクリートを打設する。天端頂部コンクリート打設口60eからの落下高さが2m以上有り、天端頂部コンクリート打設口60eからのコンクリート打設は流す打ち方となる。
【0034】
従来工法(出願人が開発した「覆工マルチ工法」)は、図4(b)に示すように、アーチ肩部コンクリート打設口60cに開閉式バルブを装備しており、下側部分は自然流下でコンクリートを打設した後に、連続して上側部分にコンクリートを圧入する。コンクリート圧入時の打ち上がり高さは1.5m程度(天端頂部コンクリート打設口60eより20cm~30cm下がった位置)になり、コンクリートの充填圧は35kPa程度になる。
【0035】
本発明工法は、図4(a)に示すように、アーチ肩部よりも上部の天端頂部近傍の型枠に、トンネル延長方向の左右方向及び前後方向に少なくとも4箇所の天端肩部コンクリート打設口60dを設けた点に特徴があり、標準工法及び従来工法と比較して、最終的に天端部において打設するコンクリート量が少なくなる。
【0036】
すなわち、図4に示すように、天端頂部コンクリート打設口60eからの打設高さは、従来工法(b)、標準工法(c)と比較して、本発明工法(a)が最も小さくなるため、天端部において最終的に打設するコンクリート量は、従来工法(b)、標準工法(c)と比較して、本発明工法(a)が最も少なくなる(X<Y<Z)。したがって、本発明工法を実施することにより、経済性、省人化、熟練作業員不足への対応、施工品質の向上を図ることができる。
【0037】
<本発明の有利な効果>
次に、標準工法と比較して、本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法及びトンネル覆工用型枠装置10を使用した場合の有利な効果について説明する。本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法及びトンネル覆工用型枠装置10は、図2に示すように、天端頂部コンクリート打設口60eからのコンクリート打設量を極力少なくするために、側壁下部コンクリート打設口60a、側壁上部コンクリート打設口60b、アーチ肩部コンクリート打設口60cだけではなく、天端肩部コンクリート打設口60dを設けている。
【0038】
このような構成とすることにより、側壁から天端まで1層50cmで前後左右交互に水平に打ち上げを行っているので、天端部におけるコンクリート打設時間が標準工法と比較して1時間以上短縮される。このため、トンネル覆工の内面において、目立った色むら、縞模様、コンクリート打設口60周辺の流れ跡などがなくなり、出来栄えが向上する。また、1時間の短縮はスランプに換算すると約3cmの変動となる。したがって、スランプが3cm低下するのを(硬くなるのを)防止できることになる。さらに、打設しているコンクリートのスランプ低下が低減されるため、流動性を保持することができる。
【0039】
また、左右方向に片側2箇所、全体で4箇所のコンクリート打設口60を用いて、前後左右交互に水平に打設してゆくので、天端頂部コンクリート打設口60eから打ち込まれたコンクリートは、締固め作業員の後方には流れにくくなり、天端部は作業員1人で締固め作業を行うことができる。また、ラップ側(既設施工継ぎ目側)で80~100kPa程度、妻側で30~50kPa程度の高充填圧で密充填することができるため、トンネル覆工の品質が向上する。
【0040】
本発明に係るトンネル天端部におけるコンクリート打設方法では、天端の打設時間が標準工法より1時間短縮できるので、3cmのスランプ低下を防止できる。したがって、通常のスランプ15cmでスランプ18cmに相当する流動性を保持することができる。同様に、通常のスランプ18cmでスランプ21cmの中流動コンクリートに相当する流動性を保持することができる。このため、敢えて中流動コンクリート(スランプ21cm)を使用する必要がなく、使用するコンクリートの費用を低減することができるとともに、トンネル覆工用型枠を補強する必要がない。
【符号の説明】
【0041】
10 トンネル覆工用型枠装置
20 レール
30 台車(ガントリー)
40 型枠部
50 風管
60 コンクリート打設口
60a 側壁下部コンクリート打設口
60b 側壁上部コンクリート打設口
60c アーチ肩部コンクリート打設口
60d 天端肩部コンクリート打設口
60e 天端頂部コンクリート打設口
70 コンクリート配管
80 配管切替装置
90 妻板
100 圧送ポンプ
図1
図2
図3
図4