(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ステアリングホイールの操作予測方法及びステアリングホイールの操作予測装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/06 20060101AFI20240216BHJP
A61B 5/24 20210101ALI20240216BHJP
【FI】
B62D1/06
A61B5/24
(21)【出願番号】P 2019189998
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】宝来 淳史
(72)【発明者】
【氏名】ギョルゲ ルチアン
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-155547(JP,A)
【文献】特開2018-103859(JP,A)
【文献】特開2009-090751(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106073712(CN,A)
【文献】特開平05-345569(JP,A)
【文献】特開2008-247119(JP,A)
【文献】特開2007-245907(JP,A)
【文献】特開2012-144070(JP,A)
【文献】特開2012-130543(JP,A)
【文献】特開2016-200985(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2019-0012864(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/06
A61B 5/389
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに設けられたセンサによって乗員が前記ステアリングホイールを操作する際の筋肉活動により生じる前記乗員の掌の電位信号を検出し、
前記センサによって検出された前記電位信号から前記乗員による前記ステアリングホイールの操作よりも前に発生する操作前信号を抽出し、
抽出した前記操作前信号に基づいて前記乗員による前記ステアリングホイールの操作を予測する
ステアリングホイールの操作予測方法であって、
前記操作前信号は、前記ステアリングホイールを操作しようとする前記乗員の筋肉動作の直前に発生する筋電位信号であり
前記センサによって検出された前記電位信号を高周波数帯20~90Hzのバンドパスフィルタでフィルタリングし、
フィルタリング後の信号を絶対値処理することにより信号強度を全て正値化し、
絶対値処理後の信号を5Hzのローパスフィルタでフィルタリングすることにより、前記乗員の筋肉動作の直前に発生する筋電位信号を抽出する
ステアリングホイールの操作予測方法。
【請求項2】
前記乗員による前記ステアリングホイールの操作と、前記電位信号との関係を示す情報が格納されたデータベースを参照して、前記センサによって検出された前記電位信号から前記
筋電位信号を抽出する
ことを特徴とする請求項1に記載のステアリングホイールの操作予測方法。
【請求項3】
ステアリングホイールに設けられたセンサによって乗員が前記ステアリングホイールを操作する際の筋肉活動により生じる前記乗員の掌の電位信号を検出し、
前記センサによって検出された前記電位信号から前記乗員による前記ステアリングホイールの操作よりも前に発生する操作前信号を抽出し、
抽出した前記操作前信号に基づいて前記乗員による前記ステアリングホイールの操作を予測するステアリングホイールの操作予測方法であって、
前記操作前信号は、前記センサと前記乗員の掌との間のインピーダンス変化に起因する信号である
ステアリングホイールの操作予測方法。
【請求項4】
前記センサと前記乗員の掌との間のインピーダンス変化は、前記センサと前記乗員の掌との間の接触面圧の変化に伴うもの、又は前記センサと前記乗員の掌との間の接触面積の変化に伴うものである
ことを特徴とする請求項
3に記載のステアリングホイールの操作予測方法。
【請求項5】
前記センサによって検出された前記電位信号を低周波数帯1~6Hzのバンドパスフィルタでフィルタリングすることにより、前記センサと前記乗員の掌との間のインピーダンス変化に起因する信号を抽出する
ことを特徴とする請求項
3または
4に記載のステアリングホイールの操作予測方法。
【請求項6】
ステアリングホイールに設けられ、乗員が前記ステアリングホイールを操作する際の筋肉活動により生じる前記乗員の掌の電位信号を検出するセンサと、
前記センサによって検出された前記電位信号から前記乗員による前記ステアリングホイールの操作よりも前に発生する操作前信号を抽出し、抽出した前記操作前信号に基づいて前記乗員による前記ステアリングホイールの操作を予測するコントローラと、を備える
ステアリングホイールの操作予測装置であって、
前記操作前信号は、前記ステアリングホイールを操作しようとする前記乗員の筋肉動作の直前に発生する筋電位信号であり
前記コントローラは、
前記センサによって検出された前記電位信号を高周波数帯20~90Hzのバンドパスフィルタでフィルタリングし、
フィルタリング後の信号を絶対値処理することにより信号強度を全て正値化し、
絶対値処理後の信号を5Hzのローパスフィルタでフィルタリングすることにより、前記乗員の筋肉動作の直前に発生する筋電位信号を抽出する
ステアリングホイールの操作予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールの操作予測方法及びステアリングホイールの操作予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電極を用いてユーザの生体情報(電位信号)を取得し、取得した電位信号に基づいて機器を制御する発明が知られている(特許文献1)。特許文献1に記載された発明は、複数の電極のうち、鉛直下方にユーザの腕の一部が位置する電極を特定し、複数の電極のすべてが腕に密着していなくても電位信号を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明では、複数の電極のすべてが腕に密着していなくても電位信号を計測できるものの、少なくとも1つの電極を乗員の腕に設置する必要がある。しかしながら、乗員の体の一部に電極を設置することは難しい場合があり、この場合乗員の電位信号を取得できない。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みて成されたものであり、その目的は、乗員の体の一部に電極を設置することなく乗員の電位信号を取得し、取得した電位信号を用いて乗員のステアリングホイールの操作を予測するステアリングホイールの操作予測方法及びステアリングホイールの操作予測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るステアリングホイールの操作予測方法は、ステアリングホイールに設けられたセンサによって乗員がステアリングホイールを操作する際の筋肉活動により生じる乗員の掌の電位信号を検出し、検出した電位信号から乗員によるステアリングホイールの操作よりも前に発生する操作前信号を抽出し、抽出した操作前信号に基づいて乗員によるステアリングホイールの操作を予測する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、乗員の体の一部に電極を設置することなく乗員の電位信号を取得し、取得した電位信号を用いて乗員のステアリングホイールの操作を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る操作予測装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係るステアリングホイールを説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態に係る筋電位とレーンチェンジタイミングとの関係を説明するグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施形態に係るレーンチェンジタイミングとTPRとの関係を説明するグラフである。
【
図5】
図5は、障害物を回避するためのレーンチェンジを説明する図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1実施形態に係る筋電位とレーンチェンジタイミングとの関係を説明する他のグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の第1実施形態に係るレーンチェンジタイミングとTPRとの関係を説明する他のグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の第1実施形態に係る操作予測装置の一動作例を説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の第2実施形態に係る操作予測装置のブロック図である。
【
図11】
図11は、本発明の第2実施形態に係る操作予測装置の一動作例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
(第1実施形態)
(操作予測装置の構成例)
【0011】
図1~2を参照して、第1実施形態に係る操作予測装置の構成例を説明する。操作予測装置は車両に搭載される。
【0012】
図1に示すように、操作予測装置は、掌電位検出部10と、コントローラ20と、記憶装置30と、周囲情報取得部40と、自動機能装置50とを備える。
【0013】
掌電位検出部10は、車両に乗車している乗員(主に運転者)の掌の電位(電位信号)を検出する。掌電位検出部10は、一例として、電極を含むセンサであり、ステアリングホイール11(
図2参照)に複数設けられる。掌電位検出部10は、乗員がステアリングホイール11を把持したときの乗員の掌の電位信号を検出する。換言すれば、乗員の掌がステアリングホイール11に密着することにより、乗員の掌の電位信号が検出される。
【0014】
掌電位検出部10は、ステアリングホイール11の把持それ自体に係る電位信号を検出する他に、乗員がステアリングホイール11を操作する際の筋肉活動により生じる乗員の掌の電位信号も検出する。なお、
図2に示す例では、掌電位検出部10はステアリングホイール11の把持位置(一例として10時10分から9時15分までの位置)に設けられるが、これに限定されない。掌電位検出部10はステアリングホイール11の外周全体に渡って設けられてもよい。
【0015】
掌電位検出部10は、電極を含むセンサと説明したが、このようなセンサは電極の他に増幅器、AD変換器などを含んでもよい。この場合、掌電位検出部10は、電極により検出された電位信号を増幅器で増幅した後、AD変換器で信号処理を行う。信号処理の後、掌電位検出部10は、電位信号をコントローラ20に送信してもよい。
【0016】
記憶装置30は、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶媒体である。第1実施形態では記憶装置30にはステアリング操作データベース31とステアリング操作タイミングデータベース32とが記憶されるが、これに限定されない。記憶装置30には各種のプログラム、電位解析部21による解析結果などが記憶されてもよい。
【0017】
コントローラ20は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータには、操作予測装置として機能させるためのコンピュータプログラムがインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、マイクロコンピュータは、操作予測装置が備える複数の情報処理回路として機能する。なお、ここでは、ソフトウェアによって操作予測装置が備える複数の情報処理回路を実現する例を示すが、もちろん、以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路を個別のハードウェアにより構成してもよい。コントローラ20は、複数の情報処理回路として、電位解析部21と、ステアリング操作予測部22と、操作タイミング予測部23と、自動機能制御部24とを備える。
【0018】
電位解析部21は、掌電位検出部10により検出された電位信号を解析する。具体的には、電位解析部21は、電位信号の周波数、波長、電圧などを解析する。解析手法の一例としてフィルタリングが挙げられる。電位解析部21は、電位信号を所定の周波数帯のバンドパスフィルタでフィルタリングすることにより、特定の信号を抽出するなどの解析を行う。電位解析部21は、解析結果をステアリング操作予測部22、操作タイミング予測部23に出力する。
【0019】
ステアリング操作予測部22は、電位解析部21によって解析された電位信号(電位解析部21によって抽出された特定の信号)に基づいて、運転者がステアリングホイール11を操作する意図があるのか否かを予測する。具体的には、ステアリング操作予測部22は、ステアリング操作データベース31を参照して、電位解析部21によって抽出された特定の信号がステアリング操作データベース31に格納されたデータと一致するか否か判定する。電位解析部21によって抽出された特定の信号がステアリング操作データベース31に格納されたデータと一致する場合、ステアリング操作予測部22は運転者がステアリングホイール11を操作する意図があると予測する。ステアリング操作予測部22は予測結果を自動機能制御部24に出力する。
【0020】
操作タイミング予測部23は、ステアリング操作予測部22によって運転者がステアリングホイール11を操作する意図があると予測された場合、実際にステアリングホイール11が操作されるまでの時間を予測する。換言すれば、操作タイミング予測部23は電位解析部21によって特定の信号が抽出されてから何秒後、あるいは何msec後に実際にステアリングホイール11が操作されるのか予測する。この予測は、ステアリング操作タイミングデータベース32の参照によって実現する。操作タイミング予測部23は予測結果を自動機能制御部24に出力する。
【0021】
自動機能制御部24は、ステアリング操作予測部22及び操作タイミング予測部23による予測結果に基づいて、自動機能装置50に指令を出力する。
【0022】
ステアリング操作データベース31には、運転者ごとの電位信号に関するデータが累積的に格納される。具体的には、電位解析部21によって抽出された特定の信号と、実際に運転者によりステアリングホイール11が操作されたこととを対応させ、この対応データが累積的に格納される。
【0023】
ステアリング操作タイミングデータベース32にもステアリング操作データベース31と同様に運転者ごとの電位信号に関するデータが累積的に格納される。ただし、ステアリング操作タイミングデータベース32には、ステアリング操作データベース31とは異なり、電位解析部21によって抽出された特定の信号と、実際に運転者によりステアリングホイール11が操作されたタイミングとを対応させ、この対応データが累積的に格納される。つまり、ステアリング操作タイミングデータベース32には、運転者によるステアリングホイール11の操作意図が抽出されてから実際にステアリングホイール11が操作されるまでの時間と、電位解析部21によって抽出された特定の信号とが対応づけられて格納される。
【0024】
周囲情報取得部40は、車両の周囲の情報を取得する。周囲情報取得部40には、一例として、光波を用いて距離を測定するレーザレンジファインダ、静止画及び動画を取得するカメラ、超音波を用いて距離を測定するソナーなどが含まれる。周囲情報取得部40は、車両の周囲に存在する物体(歩行者、自転車、二輪車、他車両など)、及び車両の周囲の情報(道路境界線、停止線、信号機、標識、横断歩道、交差点など)を取得する。周囲情報取得部40は取得したデータを自動機能装置50に出力する。
【0025】
自動機能装置50は、例えば、ACC(Adaptive Cruise Control)機能を有する装置であり、車両の運転操作を補助する。ACC機能は周知の技術であるため詳細な説明を省略する。自動機能装置50は、自動機能制御部24から取得した指令と、周囲情報取得部40から取得したデータとを用いて車両の運転操作を補助する。また、自動機能装置50は、ACC機能の他に、レーンキープ機能、オートレーンチェンジ機能などを有してもよい。また、自動機能装置50は、自動運転機能を有していてもよい。
【0026】
次に、
図3~4を参照して、電位解析部21による電位信号の処理の一例を説明する。上述したように電位解析部21は電位信号の処理としてフィルタリングを用いる。
【0027】
掌電位検出部10により検出された電位信号を低周波数帯1~6Hzのバンドパスフィルタ(ローパスフィルタ)でフィルタリングした解析結果を
図3に示す。
図3に示す解析結果は、ある運転者(以下、運転者Aという)の電位信号の解析結果である。
図3の縦軸は、筋電位(指数)を示し、横軸は時間を示す。
図3の時刻0は、運転者Aによるレーンチェンジが行われたタイミング(以下、レーンチェンジタイミングと表現する)を示す。時刻が0より前は、レーンチェンジが行われる前を示し、時刻が0より後は、レーンチェンジが行われた後を意味する。
【0028】
図3に示すように、レーンチェンジタイミングの約500msec前に所定の電位信号が抽出された。この電位信号は、運転者Aによるステアリングホイール11の操作よりも前に発生する操作前信号である。操作前信号は、ステアリングホイール11を操作しようとする運転者Aの筋肉動作の直前に発生する筋電位信号である。この筋電位信号は、レーンチェンジに備えた先駆け操作(筋肉動作)であると考えられる。運転者Aは、レーンチェンジを行う際、事前にステアリングホイール11を強く把持するなど、レーンチェンジに備えた先駆け操作を行うと考えられ、この先駆け操作に起因する筋電位信号が約500msec前に出現したと考えられる。先駆け操作に起因する筋電位信号がレーンチェンジタイミングの約500msec前に抽出された場合、運転者Aは約500msec後にレーンチェンジを行うと予測される。
【0029】
ここで、約500msec前という発生タイミングは、あくまで運転者Aの筋電位信号の発生タイミングである。当然ながら発生タイミングには個人差は存在する。運転者ごとの、レーンチェンジに備えた先駆け操作に起因する筋電位信号の振幅、電圧、周波数、発生タイミングなどの筋電位信号の特徴は、運転者ごとに対応付けられてステアリング操作データベース31に格納される。ステアリング操作予測部22は、予め運転者を特定した上で、電位解析部21による解析結果とステアリング操作データベース31と照らし合わせることにより、精度よく特定の信号(先駆け操作に起因する筋電位信号)を抽出することが可能となる。これにより、ステアリング操作予測部22は運転者がステアリングホイール11を操作する意図があるのか否かを精度よく予測することが可能となる。なお、運転者を特定する方法は、顔認識技術などの周知の技術を用いればよい。
【0030】
先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出された場合、所定時間後(
図3に示す例では約500msec後)に実際にレーンチェンジが行われる可能性が高いことを意味するが、この有意性について発明者は検証した。検証結果を
図4に示す。
図4の縦軸はTPR(true positive ratio)を示し、横軸は時間を示す。TPRの数値は、レーンチェンジを行うと予測して、実際にレーンチェンジが行われた割合が高いほど、高くなる。
図4から明らかな通り、レーンチェンジに備えた先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出された場合、所定時間後に実際にレーンチェンジが行われる可能性が高いことがわかる。
【0031】
次に、
図5を参照して、先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出された場合の自動機能装置50によるオートレーンチェンジについて説明する。オートレーンチェンジとは自動的に行われるレーンチェンジである。
【0032】
図5に示すシーンは、車両70がバイク80(障害物)を回避するためにレーンチェンジを行うシーンを示す。より詳しくは、
図5の比較例に示すシーンは、時刻t=0において、運転者が手動でレーンチェンジを行うシーンを示す。
【0033】
図5の実施例は、
図3で説明したように先駆け操作に起因する筋電位信号が時刻t=0から約500msec前に抽出されたことを示す。
図5の実施例における車両70の運転者は、上述の運転者Aとする。自動機能制御部24は、先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出されたとき、オートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作指令を自動機能装置50に出力する。このとき、自動機能制御部24は、オートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミングを決定し、その情報も自動機能装置50に出力する。さらに自動機能制御部24はオートレーンチェンジに必要なステアリングホイール11の操作量を演算し、その情報も自動機能装置50に出力する。
【0034】
オートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミングの決定方法は特に限定されないが、一例として自動機能制御部24は先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出されてから実際にレーンチェンジが行われるまでの間、つまり、約500msec前から時刻t=0までの間で任意に決定することができる。
図5の実施例では、一例としてオートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミングは、時刻t=0から約400msec前に決定されている。
【0035】
図5の実施例では先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出されたため、所定時間後(
図5に示す例では約500msec後)に実際にレーンチェンジが行われる可能性が高いと予測される。そこで、自動機能制御部24はオートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミングを決定し、決定した情報を自動機能装置50に出力する。情報を取得した自動機能装置50は時刻t=0から約400msec前にステアリングホイール11の操作を制御してオートレーンチェンジを開始する。これにより、運転者Aの操作意図に沿った早めのサポートが可能となり、運転者Aの信頼を得ることができる。さらに比較例と比較して、早めにバイク80の回避が可能となるため、運転者Aは安心感も得ることができる。
【0036】
上述の
図3~
図4では、バンドパスフィルタとしてローパスフィルタについて説明したが、フィルタリングは、ローパスフィルタに限定されない。例えば、
図6~7に示すように、バンドパスフィルタとしてハイパスフィルタが用いられてもよい。
【0037】
掌電位検出部10により検出された筋電位信号から5Hz以下を除いた信号を高周波数帯20~90Hzのバンドパスフィルタ(ハイパスフィルタ)でフィルタリングした解析結果を
図6に示す。
図6に示す解析結果は、上述の運転者Aの筋電位信号の解析結果である。ただし、
図3と
図6では運転シーンは異なる。
図6の縦軸は筋電位(指数)を示し、横軸は時間を示す。
図6の時刻0は、運転者Aによるレーンチェンジタイミングを示す。
【0038】
図6に示すように、レーンチェンジタイミングの約100msec前に所定の筋電位信号が抽出されたため、運転者Aは約100msec後にレーンチェンジを行うと予測される。その他の説明は
図3と同様であるため詳細は省略するが、ハイパスフィルタでフィルタリングした場合であっても、ローパスフィルタでフィルタリングした場合と同様の結果が得られる。
【0039】
ハイパスフィルタでフィルタリングした場合の有意性についても発明者は検証した。検証結果を
図7に示す。
図7の縦軸はTPRを示し、横軸は時間を示す。
図7から明らかな通り、レーンチェンジに備えた先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出された場合、所定時間後に実際にレーンチェンジが行われる可能性が高いことがわかる。
【0040】
次に、
図8のフローチャートを参照して、第1実施形態に係る操作予測装置の一動作例を説明する。
【0041】
ステップS101において、掌電位検出部10は、運転者がステアリングホイール11を把持したときの運転者の掌の電位信号を検出する。処理はステップS103に進み、電位解析部21は、掌電位検出部10により検出された電位信号を解析する。
【0042】
処理はステップS105に進み、ステアリング操作予測部22は、ステアリング操作データベース31を参照して、電位解析部21によって抽出された特定の信号がステアリング操作データベース31に格納されたデータと一致するか否か判定する。電位解析部21によって抽出された特定の信号がステアリング操作データベース31に格納されたデータと一致する場合、ステアリング操作予測部22は運転者がステアリングホイール11を操作する意図があると予測する。
【0043】
処理はステップS107に進み、操作タイミング予測部23は、ステアリング操作予測部22によって運転者がステアリングホイール11を操作する意図があると予測された場合、実際にステアリングホイール11が操作されるまでの時間を予測する。
【0044】
処理はステップS109に進み、自動機能制御部24は先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出されてから実際にレーンチェンジが行われるまでの間でオートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミングを決定する。処理はステップS111に進み、自動機能制御部24はオートレーンチェンジに必要なステアリングホイール11の操作量を演算する。
【0045】
処理はステップS113に進み、オートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミング及びオートレーンチェンジに必要なステアリングホイール11の操作量を取得した自動機能装置50は、指定されたタイミングでステアリングホイール11の操作を制御してオートレーンチェンジを開始する。
【0046】
(作用効果)
以上説明したように、第1実施形態に係る操作予測装置によれば、以下の作用効果が得られる。
【0047】
掌電位検出部10はステアリングホイール11に設けられ、乗員がステアリングホイール11を把持したときの乗員の掌の電位信号を検出する。電位解析部21は掌電位検出部10によって検出された電位信号から乗員によるステアリングホイール11の操作よりも前に発生する操作前信号を抽出する。ステアリング操作予測部22は電位解析部21によって抽出された操作前信号に基づいて乗員によるステアリングホイール11の操作を予測する。これにより、乗員の体の一部に電極を設置することなく乗員の電位信号の取得が可能となる。また、取得した電位信号を用いて乗員のステアリングホイール11の操作を予測が可能となる。
【0048】
また、電位解析部21は、乗員によるステアリングホイール11の実際の操作と電位信号との関係を示す情報が格納されたステアリング操作データベース31を参照して、掌電位検出部10によって検出された電位信号から乗員によるステアリングホイール11の操作よりも前に発生する操作前信号を抽出する。これにより、電位解析部21は精度よくステアリングホイール11の操作よりも前に発生する操作前信号を抽出することができる。
【0049】
操作前信号は、ステアリングホイール11を操作しようとする乗員の筋肉動作の直前に発生する筋電位信号である。換言すれば、操作前信号は、運転者がステアリングホイール11を操作する意図があることを示す信号である。
【0050】
また、電位解析部21は掌電位検出部10によって検出された電位信号から5Hz以下を除いた信号を高周波数帯20~90Hzのバンドパスフィルタでフィルタリングして操作前信号を抽出する。これにより、電位解析部21は精度よく操作前信号を抽出することができる。
【0051】
また、電位解析部21は掌電位検出部10によって検出された電位信号を低周波数帯1~6Hzのバンドパスフィルタでフィルタリングして操作前信号を抽出する。これにより、電位解析部21は精度よく操作前信号を抽出することができる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、
図9を参照して本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態が第1実施形態と異なるのは、記憶装置30に感度時間データベース33が記憶されていることである。第1実施形態と重複する構成については符号を引用してその説明は省略する。以下、相違点を中心に説明する。
【0053】
感度時間データベース33には、運転者がステアリングホイール11を操作する際の感度時間Δtが運転者ごとに格納される。この感度時間Δtは、運転技能レベルで運転者を分類するために用いられる。第1実施形態では、運転者を、運転技能レベルの高い上級者、運転技能レベルの低い初級者、その中間の運転技能レベルの中級者の3つに分類する。この分類により、例えば上述の
図5のようにバイク80を回避するためにステアリングホイール11を操作してレーンチェンジを行う際、早めにレーンチェンジを行う運転者、バイク80との間の車間距離が短くなってからレーンチェンジを行う運転者などを区別することができる。第2実施形態では一例として初級者の感度時間Δtを800msecとし、中級者の感度時間Δtを500msecとし、上級者の感度時間Δtを200msecとする。
【0054】
なお、運転技能レベルは、運転者の過去の操作履歴に基づいて設定されてもよい。あるいは、運転経験が1年未満の運転者を初級者、1年以上で10年未満の運転者を中級者、10年以上の運転者を上級者として運転技能レベルが設定されてもよい。なお、運転技能レベルは3つに限定されず、4つ以上に分類されてもよい。
【0055】
第1実施形態では、自動機能制御部24は先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出されてから実際にレーンチェンジが行われるまでの間でオートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミングを任意に決定してもよいと説明した。これに対して第2実施形態では、自動機能制御部24は感度時間Δtを考慮してオートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミングを決定する。詳細について
図10A及び
図10Bを参照して説明する。
【0056】
図10A及び
図10Bに示す時刻T0は、レーンチェンジに備えた先駆け操作に起因する筋電位信号が抽出された時刻である。
図10A及び
図10Bに示す時刻T1は、実際に運転者によってレーンチェンジが行われた時刻である。あるいは、時刻T1は実際に運転者によってステアリングホイール11が操作されると予測された時刻であってもよい。
図10A及び
図10Bに示す時刻T2は、自動機能制御部24によって決定されたオートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミングを示す任意の時刻である。
【0057】
自動機能制御部24は感度時間データベース33を参照して運転者の運転技能レベルを取得する。なお、運転者を特定する方法は、上述したように顔認識技術などの周知の技術を用いればよい。そして、自動機能制御部24は運転技能レベルごとに設定された感度時間Δtを取得する。
【0058】
自動機能制御部24は、時刻T1と時刻T2との差分「T1-T2」(以下この差分を時間差αという)を演算し、この時間差αと運転者の感度時間Δtとを比較する。
【0059】
図10Aに示すように時間差αが感度時間Δtより大きい場合、自動機能制御部24はステアリングホイール11の操作タイミングTrを「T1-Δt」に設定する。すなわち、
図10Aに示すように、時刻T1から感度時間Δtだけ遡ったタイミングT3aをステアリングホイール11を自動操作する際の操作タイミングTrとして設定する。
【0060】
一方、
図10Bに示すように時間差αが感度時間Δt以下である場合、自動機能制御部24はステアリングホイール11の操作タイミングTrを、時刻T2に設定する。すなわち、
図10Bに示すように、時刻T1から感度時間Δtだけ遡ったタイミングT3bは、時刻T2よりも早いタイミングとなるため、自動機能制御部24は時刻T2を操作タイミングTrとして設定する。
【0061】
このように感度時間Δtを考慮してオートレーンチェンジのためのステアリングホイール11の操作タイミングTrを決定することにより、運転者がステアリングホイール11を操作するタイミングに合致して自動機能装置50による自動操作が実行されることになる。その結果、あたかも運転者が自身でステアリングホイール11を操作する感覚で、ステアリングホイール11が自動で作動することになる。すなわち、運転者に対して自動機能が作動しているという認識を持たせることなく、ステアリングホイール11を自動で作動させることが可能となる。
【0062】
例えば、運転者が中級者である場合には、感度時間Δtが500msecに設定され、時刻T1よりも500msecだけ早い時点で自動機能が作動することになる。また、運転者が上級者である場合には、感度時間Δtが200msecに設定され、時刻T1よりも200msecだけ早い時点で自動機能が作動することになる。仮に、上級者に対して感度時間Δtを500msecに設定すると、この上級者が通常ステアリングホイール11を操作するタイミングよりも若干早い時点でステアリングホイール11が作動するので、自身で運転しているという感覚が阻害されてしまい、違和感を感じてしまう可能性がある。
【0063】
第2実施形態では、上級者、中級者、初級者のように運転技能レベルを区分し、それぞれに応じた感度時間Δtを用いてステアリングホイール11の操作タイミングTrが決定される。これにより運転者があたかも自身で操作している感覚となるように、ステアリングホイール11の操作が制御可能となる。これにより、運転者の個人的な運転技能レベルに適合した違和感のないサポートが可能となる。
【0064】
次に、
図11のフローチャートを参照して、第2実施形態に係る操作予測装置の一動作例を説明する。ただし、ステップS201~209、219~221の処理は、
図8に示すステップS101~109、111~121に示す処理と同様であるため、説明を省略する。
【0065】
ステップS211において、自動機能制御部24は感度時間データベース33を参照して運転技能レベルごとに設定された感度時間Δtを取得する。
【0066】
時刻T1と時刻T2との差分「T1-T2」が感度時間Δtより大きい場合(ステップS213でYes)、処理はステップS217に進み、自動機能制御部24はステアリングホイール11の操作タイミングTrを「T1-Δt」に設定する(
図10A参照)。一方、時刻T1と時刻T2との差分「T1-T2」が感度時間Δt以下の場合(ステップS213でNo)、処理はステップS215に進み、自動機能制御部24はステアリングホイール11の操作タイミングTrを時刻T2に設定する(
図10B参照)。
【0067】
上述の実施形態に記載される各機能は、1または複数の処理回路により実装され得る。処理回路は、電気回路を含む処理装置等のプログラムされた処理装置を含む。処理回路は、また、記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や回路部品等の装置を含む。
【0068】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0069】
例えば、第1実施形態では、ローパスフィルタもしくはハイパスフィルタを用いた例を説明したが、両方のフィルタを用いてもよい。すなわち、電位解析部21は掌電位検出部10によって検出された電位信号から5Hz以下を除いた信号を高周波数帯20~90Hzのバンドパスフィルタ(ハイパスフィルタ)でフィルタリングし、かつ、掌電位検出部10によって検出された電位信号を低周波数帯1~6Hzのバンドパスフィルタ(ローパスフィルタ)でフィルタリングして乗員によるステアリングホイール11の操作に関係する信号を抽出してもよい。両方のフィルタを用いた場合であっても、それぞれのフィルタを用いた場合と同様の効果が得られる。
【0070】
また、操作前信号(乗員の筋肉動作の直前に発生する筋電位信号)は、以下の方法によって抽出されてもよい。掌電位検出部10によって検出された電位信号を高周波数帯20~90Hzのバンドパスフィルタでフィルタリングし、フィルタリング後の信号を絶対値処理することにより信号強度を全て正値化し、絶対値処理後の信号を5Hzのローパスフィルタでフィルタリングすることにより、乗員の筋肉動作の直前に発生する筋電位信号が抽出されてもよい。この抽出方法を用いた場合でも上述の効果と同様の効果が得られる。
【0071】
なお、操作前信号の一例として、乗員の筋肉動作の直前に発生する筋電位信号を説明したが、操作前信号はこれに限定されない。操作前信号は掌電位検出部10と乗員の掌との間のインピーダンス変化に起因する信号であってもよい。掌電位検出部10と乗員の掌との間のインピーダンス変化は、掌電位検出部10と乗員の掌との間の接触面圧の変化に伴うもの、又は掌電位検出部10と乗員の掌との間の接触面積の変化に伴うものである。
【0072】
掌電位検出部10と乗員の掌との間のインピーダンス変化に起因する信号の抽出方法の一例を説明する。電位解析部21は、乗員の掌の電位信号を低周波数帯1~6Hzのバンドパスフィルタでフィルタリングすることによって、掌電位検出部10と乗員の掌との間のインピーダンス変化に起因する信号を抽出してもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 掌電位検出部
11 ステアリングホイール
20 コントローラ
21 電位解析部
22 ステアリング操作予測部
23 操作タイミング予測部
24 自動機能制御部
30 記憶装置
31 ステアリング操作データベース
32 ステアリング操作タイミングデータベース
33 感度時間データベース
40 周囲情報取得部
50 自動機能装置