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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】巻き食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240216BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240216BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20240216BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20240216BHJP
【FI】
A23L5/00 Z
A23L5/10 D
A23L7/109 D
A23L35/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019200254
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021069356
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】田村 雅司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜一
(72)【発明者】
【氏名】久保 慎一
(72)【発明者】
【氏名】大野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】今野 保幸
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/156225(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175872(WO,A1)
【文献】特開平06-197743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き食品の製造方法であって、
皮と具材とを、該皮に該具材が挟まれるように巻いて、該具材が挟まれていない部分において複数の皮の部分が重なるように成形する成形工程、および、
前記具材が挟まれていない部分において、前記複数の皮の部分が一体的に立体的な形状を形成するように該複数の皮の部分を圧着する圧着工程
を含み、
前記圧着が、前記成形後の食品を搬送しながら、前記複数の皮の部分の少なくとも一部を前記立体的な形状に対応する形状を表面に有する一対のローラーにより加圧して圧着することにより行われ、
前記複数の皮の部分が重なる部分が、前記巻き食品の巻き方向に対して垂直方向の両端に位置し、
前記皮が穀粉および水を含んでなる生地を前記成形工程前に焼成して得られる皮である、
前記製造方法。
【請求項2】
前記立体的な形状が、波状、ジグザク状、格子状からなる群から選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記成形工程が、前記皮で前記具材を一方向に巻くこと、その方向に向かって該具材の右側および/または左側に存在する、具材が挟まれていない前記皮の部分を、該具材に向けて折りたたむことを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
皮と、該皮に挟まれ巻かれた具材とを含む巻き食品であって、前記具材が挟まれていない複数の皮の部分が重なる部分において、該複数の皮の部分が重なるように圧着されて一体化した立体的な形状を有し、該複数の皮の部分が重なる部分が、前記巻き食品の巻き方向に対して垂直方向の両端に位置し、前記皮が穀粉および水を含んでなる焼成された皮である、前記巻き食品。
【請求項5】
巻き食品を加熱調理した後の該巻き食品からの油分の染み出しを抑制する方法であって、
前記巻き食品が皮と、該皮に挟まれ巻かれた具材とを含み、
前記皮が穀粉および水を含んでなる生地を焼成して得られ、
前記具材が挟まれていない部分において、複数の皮の部分が一体的に立体的な形状を形成するように該複数の皮の部分を圧着する圧着工程を含み、
前記圧着が、前記成形後の食品を搬送しながら、前記複数の皮の部分の少なくとも一部を前記立体的な形状に対応する形状を表面に有する一対のローラーにより加圧して圧着することにより行われ、
前記複数の皮の部分が重なる部分が、前記巻き食品の巻き方向に対して垂直方向の両端に位置する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、市場では、皮と具材とを含み、具材が皮に挟まれるように巻いて成形される巻き食品が求められている。このような巻き食品には、油ちょうした後のパリパリとした食感が得られるような工夫がされることが多い。例えば春巻きの場合には、焼成された薄い皮で具材を複数回巻くことにより、油ちょうした後のパリパリとした食感を達成している。しかしながら、春巻きの皮等の焼成された皮は、皮同士の接着性が低く、従来の春巻きは、その端部を構成する複数の皮の部分が互いに接着しておらず、端部において、皮と皮との間または皮と具材との間にすき間がある構造であるため、春巻きを立てて(春巻きの両端部が上下になるように)置いた場合には、そのようなすき間から皮や具材の油分や水分が染み出すという問題があった。そして、染み出た油分や水分が、油ちょうした後の春巻きに特有のパリパリとした食感を低下させるという問題があった。さらに、春巻きを包装する場合には、春巻きから染み出た油分や水分が包装材に移り、見た目やハンドリングが悪くなるという問題点があった。
【0003】
一方、皮と具材とを含む食品としては、餃子、ラビオリ、パイ等のように、具材を皮で包む食品が一般的に流通している。これらの食品では、接着性の高い焼成されていない皮を用いるため、具材を包んだ場合に皮同士が比較的接着しやすく皮と皮との間または皮と具材との間にすき間ができにくいため、油ちょうした際に皮や具材の油分や水分が漏れにくい。しかしながら、これらの食品では、春巻きと比較して厚い皮を用いており、また、春巻きのように比較的薄い皮で具材を複数回巻くのではなく、皮で具材を単回挟み込む(包む)構造であるため(例えば、特許文献1~3)、春巻きと比較して油ちょうした後のパリパリとした食感に乏しいという問題点があった。
【0004】
ところで、シート状の食品の装飾性を向上させるために、その表面に凹凸を付与することが知られている(例えば、特許文献4および5)。しかしながら、皮と具材とを含む食品において、食品を構成する複数の皮の部分が一体的に立体的な形状を形成するように該複数の皮の部分を圧着させることについては報告されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-23843号公報
【文献】特開平1-98454号公報
【文献】特開平9-94051号公報
【文献】特開2002-321094号公報
【文献】特開平9-141348号公報
【0006】
本発明者らは、具材が挟まれていない複数の皮から形成される部分を特定の手法により圧着することにより、油ちょうした後に、皮と皮との間、皮と具材との間のすき間から皮や具材の油分や水分が染み出すことが低減された巻き食品を製造できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0007】
本発明には、以下の発明が包含される。
[1]巻き食品の製造方法であって、
皮と具材とを、該皮に該具材が挟まれるように巻いて成形する成形工程、および、
前記具材が挟まれていない部分において、複数の皮の部分が一体的に立体的な形状を形成するように該複数の皮の部分を圧着する圧着工程
を含み、
前記皮が穀粉および水を含んでなる生地を前記成形工程前に焼成して得られる皮である、
前記製造方法。
[2]前記圧着が、前記立体的な形状に対応する形状を表面に有する一対のローラーにより前記複数の皮の部分を加圧することによって行われる、[1]に記載の製造方法。
[3]前記立体的な形状が、波状、ジグザク状、格子状からなる群から選択される、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]
前記圧着が、前記巻き食品の端部において行われる、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記成形工程が、前記皮で前記具材を一方向に巻くこと、その方向に向かって該具材の右側および/または左側に存在する、具材が挟まれていない前記皮の部分を、該具材に向けて折りたたむことを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の製造方法により得られる、巻き食品。
[7][6]に記載の巻き食品を加熱調理して得られる、加熱調理済み巻き食品。
[8]皮と、該皮に挟まれ巻かれた具材とを含む巻き食品であって、前記具材が挟まれていない複数の皮の部分が重なる部分において、該複数の皮の部分が一体化した立体的な形状を有し、前記皮が穀粉および水を含んでなる焼成された皮である、前記巻き食品。
[9]巻き食品を加熱調理した後の該巻き食品からの油分の染み出しを抑制する方法であって、
前記巻き食品が皮と、該皮に挟まれ巻かれた具材とを含み、
前記皮が穀粉および水を含んでなる生地を焼成して得られ、
前記具材が挟まれていない部分において、複数の皮の部分が一体的に立体的な形状を形成するように該複数の皮の部分を圧着する圧着工程を含む、前記方法。
【0008】
本発明によれば、皮をと具材とを含む巻き食品において、油ちょうした後に、皮と皮との間、皮と具材との間のすき間から皮や具材の油分や水分が染み出すことを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の巻き食品の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、本発明の成形工程における皮と具材の巻き上げの手順の一例を示す概略図である。
図3図3A~Cは、それぞれ圧着部分が波状、ジグザク状および格子状の各立体形状を有する巻き食品の一例を示す模式図(A-1~C-1:平面図、A-2~C-2:圧着部分の側から見た側面図)である。
図4図4は、本発明の圧着工程において用いられるローラーの一例を示す概略図である。
図5図5は、本発明の圧着工程における圧着手順の一例を示す概略図である。
図6図6は、本発明の成形工程の巻きはじめ時点における具材の載置の一例を示す模式図である。
【発明の具体的説明】
【0010】
巻き食品の製造方法
本発明の一つの実施形態によれば、巻き食品の製造方法は、皮と具材(以下、「中具材」ともいう)とを含んでなり、該皮に該具材が挟まれるように巻いて成形する工程(以下、「成形工程」ともいう)、該具材が挟まれていない部分において、複数の皮の部分が一体的に立体的な形状を形成するように該複数の皮の部分を圧着する工程(以下、「圧着工程」ともいう)を含む。以下、成形工程および圧着工程のそれぞれについて詳細に説明する。
【0011】
(成形工程)
成形工程では、皮に具材が挟まれるように巻き上げを実施する。具材を巻き上げる方法としては特に限定されないが、成形工程後に、具材が挟まれていない部分の少なくとも一部において、皮が二重以上の重なりを有するように巻き上げる。重なり部分の皮の具体的な枚数は、折り方に応じて適宜調節されるが、例えば、2~10枚、2~8枚、4~8枚である。具材を巻き上げる方法としては、例えば、春巻きを巻き上げる方法が挙げられる。
【0012】
巻き食品を構成する皮は、穀粉および水を主成分として含む生地(バッター)を加熱処理したものである。穀粉としては、巻き食品の皮として一般的に用いられるいかなる穀粉も用いることができる。穀粉としては、例えば、米粉、そば粉、小麦粉、大麦粉、ライムギ粉、コーンフラワー等が挙げられ、好ましくは小麦粉である。これらの穀粉は、いずれかを単独で用いることもでき、二種以上を混合して用いることもできる。生地における穀粉および水の配合量は目的に応じて適宜設定することができる。例えば、穀粉として小麦粉を使用する場合、生地に対する小麦粉量は、例えば30~60重量%である。
【0013】
上述した生地には、穀粉および水の他に、さらに澱粉類、タンパク質類、その他の材料が含まれていてもよい。澱粉類としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦粉澱粉、米澱粉等、およびこれらにアルファ化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理を加えた加工澱粉等が挙げられる。また、タンパク質類としては、例えば、小麦等を由来とするグルテン、大豆等を由来とする植物性タンパク質、卵等を由来とする動物性タンパク質、およびそれらの混合物等が挙げられる。その他の材料としては、例えば、デキストリン、糖類、アミノ酸およびその塩(グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン等)、油脂類(大豆油、ナタネ油、オリーブ油、パーム油等の植物油およびその硬化油;豚脂、牛脂等の動物性油脂等)、食物繊維(トウモロコシの外皮、小麦ふすま、大麦ふすま、米糠;トウモロコシ、馬鈴薯、小麦、大麦、米等に含まれる澱粉中のセルロース、ヘミセルロース、リグニン、ペクチン等を主成分とするものおよびそれらの分解物等)、卵、乳類、アミノ酸(アラニン、グリシン、リジン等)、増粘多糖類(キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナン等)、乳化剤(有機酸モノグリセリド、モノグリセリド、ポリグリセリンエステル等のグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等)等が挙げられる。これらのうち、後述する圧着工程における皮の圧着性の観点から、生地にはアルコールが含まれていることが好ましい。アルコールとしては、従来食品に用いられるアルコールであれば特に限定されないが、例えばエタノールが挙げられる。アルコールは、アルコールそのものを生地に添加してもよく、アルコールを含有する材料を生地に添加してもより。生地における澱粉類、タンパク質類、その他の材料の配合量は目的に応じて適宜設定することができる。
【0014】
生地の原料は全てを同時に水に混合する必要はなく、分割して混合することもでき、最終的に生地の原料全体が水に均一に分散、懸濁していればよい。
【0015】
皮の生地の粘度は、2000~40000cpsであり、好ましくは3000~30000cps、より好ましくは5000~20000cpsである。粘度の測定は、25℃にてB型粘度計(単一遠円筒型回転式粘度計)を用いて実施することができる。粘度測定に使用される装置としては、B8L(東京計器社製、ローター:No.2、回転数60rpm)を使用してもよい。
【0016】
生地の焼成は、通常、春巻き等の巻き食品の皮を焼成する際に用いられる鉄板型焼成機またはドラム型焼成機を用いて行うことができる。具体的には、穀粉および水を主成分として含む生地を焼成機に適量供給して加熱し、固化させた後に所望の大きさに裁断することにより行うことができる。焼成条件は、原料となる穀粉の種類や量、水の量等によって適宜設定することができる。焼成温度は、例えば90~160℃、好ましくは100~150℃の範囲である。また、焼成時間は、例えば10~120秒、好ましくは15~45秒の範囲である。
【0017】
皮は正方形または略正方形に調製されることが好ましく、また、2つの対角線軸の長さは略同じであることが好ましい。
【0018】
巻き食品を構成する具材は、皮で巻かれた巻き食品の内部に存在する食品素材である。具材は、食品として用いられる材料またはその加工物であり、食品として用いられる材料としては、従来巻き食品の具材として用いられてきたものであれば特に限定されず、例えば、畜肉類およびその加工物、魚介類およびその加工物、野菜類およびその加工物、きのこ類およびその加工物、豆類およびその加工物、種実類およびその加工物、はるさめ、油脂、澱粉、糊料、調味料、香辛料等が挙げられるが挙げられる。これらの材料またはその加工物は一つを単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。また、これらの材料またはその加工物は予め調理されていてもよく、または調理されていなくてもよい。
【0019】
巻き食品の具材として、例えば、リンゴ、バナナ、イチゴ、キウイ、パイナップル、ブルーベリー等の果物類、チョコレート、ジャム、ナッツ類、カスタードクリーム、餡類等の菓子類を用いることにより、菓子感覚の巻き食品とすることができる。さらに、トマト味をつけた野菜類やチーズを入れたピザ様の具材、カレー味をつけた野菜類や肉類の具材等、味にバリエーションを持たせた具材を用いることにより、新感覚の巻き食品とすることもできる。
【0020】
具材の形態としては特に限定されないが、例えば、固体、半固体、ペースト、クリーム、液体(水溶液、分散液、乳化液等)等、またはこれらの混合物等の形態が挙げられる。具体的な形態としては、例えば、液体が主体の形態(例えば、粘度500cps未満)、固体および/または半固体とペーストおよび/またはクリーム(例えば、粘度1000cps以上)との混合物の形態、固体および/または半固体とペーストおよび/またはクリーム(例えば、粘度3000cps以上)との混合物の形態等が挙げられる。これらのうち、好ましくは固体および/または半固体とペーストおよび/またはクリーム(例えば、粘度1000cps以上)との混合物の形態であり、より好ましくは固体および/または半固体とペーストおよび/またはクリーム(例えば、粘度3000cps以上)との混合物の形態である。
【0021】
具材の水分含量は、好ましくは15~60質量%、より好ましくは20~55質量%、より一層好ましくは20~50質量%である。ここで、具材の「水分含量」とは、具材の全質量に対する水の質量の割合(百分率)を意味する。
【0022】
ここで、本発明の巻き食品の皮の巻き方の一例を図2に示す。図2では、皮11の2つの対角線軸(対角線軸aおよびb)の長さは略同じであり、具材12の長辺は皮11対角線軸aに対して略平行であり、かつ、平面視上、皮11の対角線軸bが具材12の略中央部を通るように具材12が載置される。次いで、皮11で具材12を一方向に巻き、その方向(巻き方向)に対して具材12の右側および左側に存在する、具材12が挟まれていない皮11の部分を、固形物に向けて折りたたむ。この時、折りたたみ後に、圧着工程において圧着する部分、すなわち具材12が挟まれておらず、複数の皮11の部分が重なる部分13が形成されるように折りたたむ。ここで、具材12が挟まれておらず、複数の皮11の部分が重なる部分13の位置は特に限定されないが、巻き上げ後の食品における端部であることが好ましい。なお、図2においては、具材12の左右に存在する皮11の部分が両方折りたたまれているが、具材12の左右に存在する皮11の部分のいずれか一方のみが折りたたまれていてもよく、また、いずれも折りたたまれていなくてもよい。ここで、このような巻き食品の皮の巻き方は当業者にとって公知の技術であり、手作業または市販されている春巻き成形機等を用いて行うことができる。
【0023】
(圧着工程)
圧着工程では、成形工程で形成された「具材が挟まれていない皮の部分」を構成する複数の皮の部分が一体化し、立体的な形状を形成するように複数の皮の部分が圧着される。圧着工程によって形成される立体的な形状としては特に限定されないが、例えば、波状、ジグザク状、格子状等が挙げられる。なお、波状およびジグザグ状とは、圧着された皮を側面から見た場合の形状がそれぞれ波状およびジグザグ状であることを意味する。また、格子状とは、圧着された皮の表面(圧着面)から見た場合の形状が格子状であることを意味する。波状、ジグザク状および格子状のそれぞれの立体形状を有する巻き食品の一例の模式図を図3A~3Cに示す。
【0024】
圧着工程後に得られる巻き食品において、複数の皮の部分が一体化し、立体的な形状を形成するように圧着された部分(圧着部)の横幅としては特に限定されないが、複数の皮の部分を確実に圧着して分離しにくくするために、好ましくは5~30mm、より好ましくは7~25mm、より一層好ましくは10~15mmである。なお、図2に示す巻き食品の皮の巻き方の場合、圧着部の横幅とは、巻き方向に対して垂直方向の圧着部の長さを意味する。
【0025】
圧着部の縦幅としては特に限定されないが、好ましくは10~50mm、より好ましくは20~45mm、より一層好ましくは30~40mmである。なお、図2に示す巻き食品の皮の巻き方の場合、圧着部の縦幅とは、巻き方向に対して平行方向の圧着部の長さを意味する。
【0026】
圧着部の横幅および縦幅を上記範囲にすることにより、複数の皮の部分を確実に圧着して分離しにくくすることができる。その結果、例えば巻き食品を油ちょうした場合の複数の皮の部分の分離を防ぎ、皮と皮との間のすき間(圧着部の開き)が生じるのを抑制することができ、それに起因する油分や水分の染み出し等を抑制することができる。また、巻き食品を油ちょうした場合、圧着部は強いパリパリとした食感を有し、圧着部の横幅および縦幅を上記範囲にした場合には、油ちょうした巻き食品において適度に強いパリパリとした食感を得ることもできる。
【0027】
圧着する方法としては、複数の皮の部分を一体的に立体的な形状を形成するように圧着することができる限り特に限定されないが、例えば一つ(単独)のローラーにより加圧する方法、一対の対向するローラーにより挟み込むようにして加圧する方法等が挙げられる。これらの圧着方法のうち、一対の対向するローラーにより挟み込むようにして加圧する方法が好ましい。
【0028】
ローラーの形状としては特に限定されないが、例えば、加圧する表面(加圧面)が平坦であるローラー、加圧面が立体的な形状を有するローラー等が挙げられる。ローラー表面の立体的な形状は圧着工程によって皮に形成される立体的な形状に対応するものであり、例えば、波状、ジグザク状、格子状等が挙げられる。加圧面が立体的形状を有する一対の対向するローラーの凹凸部(雌雄)で皮を挟む(噛み込む)ことにより、複数の皮が一体的に立体的な形状を形成するように圧着される。立体的な形状は規則的な形状であっても不規則的な形状であってもよいが、規則的な形状であることが好ましい。
【0029】
ローラーとしては、表面に立体的な形状を有するローラーが好ましく、ギア(歯車)のように表面に波状の形状を有するローラーがより好ましい。表面に立体的な形状を有するローラーを用いることにより、複数の皮の部分を短時間で圧着することができる。さらに、圧着された複数の皮の部分が立体的な形状を形成するように圧着されることにより、複数の皮の部分がより大きい表面積で圧着されるため、圧着後に複数の皮の部分がより分離しにくくなる。その結果、例えば巻き食品を油ちょうした場合の複数の皮の部分の分離を防ぎ、皮と皮との間のすき間(圧着部の開き)が生じるのを抑制することができ、それに起因する油分や水分の染み出し等を抑制することができる。
【0030】
ローラーの加圧面の幅としては特に限定されないが、上述した巻き食品における圧着部の横幅が達成されるように、所望の圧着部の横幅と同程度の幅であることが好ましい。具体的な幅としては、例えば5~10mm、10~15mm、15~25mmである。
【0031】
ローラーの加圧面が立体的な形状を有する場合、立体的な形状の深さ(ローラーの最表部からの長さ)は均一であっても不均一であってもよいが、好ましくは均一である。立体的な形状の深さは、上述した巻き食品における圧着部の表面積が十分に大きくなるように適宜設定することができる。具体的な深さとしては、例えば1~3mm、3~5mm、5~10mmである。図4に、ローラーの加圧面における立体的な形状の深さの例を示す。
【0032】
ローラーの加圧面が規則的な立体的な形状を有する場合、立体的な形状のピッチとしては特に限定されないが、好ましくは1~10mm、より好ましくは1~7mm、より一層好ましくは1~5mmである。ここで、「立体的な形状のピッチ」とは、ローラーを側面から見た場合に、立体形状における1つの頂部と隣の頂部との間のローラーの最外周の円(外周円)に沿った距離をいう。図4に、加圧面に規則的な立体形状を有するローラーの一例を示す。本発明の一つの実施形態では、加圧面に規則的な立体的形状を有し、該立体形状のピッチが1~5mmである一対の対向するローラーの凹凸部(雌雄)で皮により挟み込む(噛み込む)ことにより、複数の皮が一体的に立体的な形状を形成するように圧着される。
【0033】
圧着する条件、すなわち加圧の時間、圧力、および一対の対向ローラーを用いる場合におけるローラー間の距離(対向するローラー間のすき間)等は、ローラーの素材、ローラーの加圧面の形状、食品の皮を構成する原材料、水分含量、皮の厚さ、皮の重なりの数等に応じて適宜設定することができる。
【0034】
図5に、本発明における圧着工程の一例の概略図を示す。図5において、成形工程により巻き上げられた食品44が圧着装置40の搬送用紐コンベア41により図の左側から右側へと搬送され、食品44の具材が挟まれていない皮の部分(図5中の食品44の手前の端部(被圧着部分))が、表面に波状の形状を有するローラー42(つぶしギア)によって圧着され、巻き食品45が得られる。図示されていないが、この際、被圧着部分が確実に圧着されるように、被圧着部分がローラーと接触し得るように誘導することが好ましい。なお、図示されていないが、搬送用紐コンベア41およびローラー42は、例えば駆動モーター等の動力源を介して駆動する。
【0035】
巻き食品
本発明の方法により製造される巻き食品は、そのまま或いは調理後に、常温、冷蔵状態または冷凍状態で保存、流通、販売等することができる。本発明の方法により製造される巻き食品は、上記圧着工程後の冷凍工程において冷凍処理された、冷凍食品であることが好ましい。巻き食品の冷凍条件は特に限定されず、例えば-30℃以下で40分以上である。冷凍工程により冷凍処理された巻き食品は、例えば-18℃で保存される。
【0036】
巻き食品は、その種類および調理状態に応じて、加熱調理することができる。加熱調理としては、例えば油ちょう、オーブンやフライパン等による焼き、電子レンジ等によるマイクロ波処理、スチームによる蒸し等が挙げられるが、好ましくは油ちょうである。すなわち、本発明の方法により製造される巻き食品は、好ましくは加熱調理用であり、より好ましくは油ちょう用である。油ちょうの条件は、油ちょう食品を製造する場合に用いられる条件であれば特に限定されず、温度は、例えば150~200℃、160~180℃、170~170℃であり、時間は2~15分、3~12分、4~10分とすることができる。油ちょうに用いる油は特に限定されず、例えば、サラダ油、キャノーラ油、ベニバナ油、コーン油、コメ油、ナタネ油、ゴマ油、オリーブ油等が挙げられる。
【0037】
したがって、本発明の一つの実施形態としては、本発明の方法により製造される巻き食品を加熱調理して得られる加熱調理済みの巻き食品、好ましくは油ちょうして得られる巻き食品も提供される。このような加熱調理済みの巻き食品は、冷凍処理をして冷凍加熱調理済み巻き食品とすることもできる。冷凍加熱調理済み巻き食品は、その種類および調理状態に応じて、さらに加熱調理することができる。
【実施例
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特段の記載のない限り、本明細書における各パラメータの測定方法および単位は、JIS(日本工業規格)に従うものとする。
【0039】
実施例1:揚げ巻き食品の調製
(1)巻き食品の調製
以下の手順に従って巻き食品を調製した。
まず、チーズ、チーズフード、明太子、マッシュルームおよび調味料を混合し、加熱調理した後に冷却して、明太チーズ風味の巻き食品の具材を得た。
【0040】
下記表1に示す配合で春巻の皮の生地の原料を縦型ミキサー(愛工舎製作所)にて混合撹拌(340回転/分で4分間)し、春巻の皮の生地を調製した。
【表1】
【0041】
ドラム型成型機(大英技研製焼成ドラムHT-30型)を用いて、得られた春巻きの皮の生地を132℃で19秒間加熱焼成し、帯状の春巻皮を得た。得られた帯状物をカッターにて裁断し、大きさが200×200mm、重さが24gの春巻の皮を調製した。
【0042】
得られた春巻きの皮に、上記で得られた具材31gを載せて巻き上げ、下記表2に示す配合で調製した糊1gを用いて皮を接着させて、巻き食品を作製した。
【表2】
【0043】
本実施例における具材の載置位置を図6に示す。まず、具材の載置位置としては、具材52は皮51の中央部近傍であって、対角線軸aから頂点c寄りに載置し、具材長辺は対角線軸aに対して略平行であり、かつ、対角線軸bが具材52の略中央部を平面視上通るようにした。具材長辺長さは対称軸線aの1/3程度とし、具材短辺長さは対称軸線bの1/5~1/6程度とした。対角線軸aと対角線軸bとは略同じ長さであった。巻き上げ手順および作製された巻き食品における具材52が挟まれていない皮の部分(被圧着部分)、すなわち「端部」は図2に示したものと同様であった。
【0044】
(2)巻き食品の端部の圧着
上記(1)の手順に従って作製された巻き食品の両端部を以下の(A)~(C)のそれぞれの方法によりつぶして、両端部の皮を圧着した。
(A)表面(ローラー面)が平坦な一対のローラーを用いて巻き食品の両端部を1~2秒間手動でつぶして(幅約40mm)、両端部の皮が平坦になるように圧着する(ローラー円周64mm)。
(B)表面が平坦な二枚の定規を用いて巻き食品の両端部を10秒間手動でつぶして(幅約40mm)、両端部の皮が平坦になるように圧着する。
(C)表面(ローラー面)に規則的な立体形状(凹凸)を有するギア状の一対のローラーを有する生産試験機を用いて巻き食品の両端部を1~2秒間つぶして(幅約40mm)、両端部の皮が立体形状(凹凸)を形成するように圧着する(ローラー円周64mm、歯数65枚、ピッチ3.09mm)。生産試験機を用いた圧着工程の概略図を図5に示す。
【0045】
端部を圧着しないこと以外は上記巻き食品と同様の方法により、非圧着巻き食品を作製した。
【0046】
(3)凍結
上記(A)~(C)のそれぞれの方法により両端部の皮を圧着した各巻き食品(圧着巻き食品(A)~(C))、および非圧着巻き食品を約-35℃にて凍結して、-18℃にて保存した。
【0047】
(4)油ちょう
冷凍した各圧着巻き食品および非圧着巻き食品を、サラダ油を用いて170℃で4分30秒間油ちょうし、網上で1分間放冷して、各揚げ巻き食品を得た。
【0048】
2.揚げ巻き食品の評価
(1)圧着部の開きの有無の評価
各揚げ巻き食品について、圧着した両端部の開きの有無を、油ちょう直後に目視により観察した。結果を表3に示す。なお、各揚げ巻き食品5個について目視による観察を行った。
【表3】
【0049】
表3の結果から、両端部の皮が立体的な形状(凹凸)を形成するように圧着した本発明の巻き食品(圧着巻き食品(C))では、その圧着時間が短時間(1~2秒間)であっても、5個全ての揚げ巻き食品において油ちょう後に両端部の開きは確認されなかった。この結果は、両端部を平坦なローラーで長時間(10秒間)圧着した巻き食品(圧着巻き食品(B))と同様の結果であった。一方、非圧着巻き食品、および両端部を平坦なローラーで短時間(1~2秒間圧着した巻き食品(圧着巻き食品(A))では、5個全ての揚げ巻き食品において油ちょう後に両端部の開きが確認された。すなわち、本発明によれば、迅速かつ大量に製造することができるという巻き食品に求められる高い生産性と、油ちょう後の巻き食品の端部の開きにより生じる油分や水分の染み出しを抑制することができるという優れた効果とを両立した巻き食品を提供することができる。
【0050】
(2)油分の染み出し量の測定
各揚げ巻き食品について、加温保存後の油分の染み出し量を以下の手順に従って測定した。
各揚げ巻き食品(各5個)を、金属製の計量カップ上に設置した金属製の漏斗中に1個ずつ長手方向を上下にして立てた状態で静置し、計量カップおよび漏斗と共に約60℃の保温器に入れて30分間保存した。保存後の揚げ巻き食品から染み出して計量カップ中に蓄積した油分をペーパーで拭い取り、油分を拭い取ったペーパーの重量を測定し、ペーパー(風袋)の重量を差し引いて、各揚げ巻き食品からの油分の染み出し量を算出した。各揚げ巻き食品の油分の染み出し量およびその平均値を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
また、各揚げ巻き食品を濾紙上に長手方向を上下にして立てた状態で静置して、油染みの程度(濾紙上に形成された油染みの直径)を測定した。各揚げ巻き食品の油染み程度を表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
表4および5の結果から、両端部の皮が立体的な形状(凹凸)を形成するように圧着した本発明の巻き食品(圧着巻き食品(C))では、その圧着時間が短時間(1~2秒間)であっても、両端部を圧着しない巻き食品(非圧着巻き食品)、および両端部を平坦なローラーで短時間(1~2秒間)圧着した巻き食品(圧着巻き食品(A))と比較して油分の染み出しが顕著に抑制されることが示された。また、本発明の圧着巻き食品(C)では、両端部を平坦なローラーで長時間(10秒間)圧着した巻き食品(圧着巻き食品(B))と同程度に油分の染み出しが抑制されることが示された。すなわち、本発明によれば、迅速かつ大量に製造することができるという巻き食品に求められる高い生産性と、油ちょう後の油分の染み出しを顕著に抑制することができるという優れた効果とを両立した巻き食品を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、迅速かつ大量に製造することができるという、従来巻き食品に求められる高い生産性を損なうことなく、巻き食品の両端部の皮が立体的な形状を形成するように圧着させることができる。巻き食品の両端部の皮が立体的な形状を形成することにより圧着部の面積が大きくなるため、油ちょうされた場合であっても圧着した両端部の開きを抑制することができる。その結果、油ちょうされた巻き食品において、端部の開きにより生じる油分や水分の染み出しを抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
11 皮
12 具材
13 具材が挟まれていない皮の部分(被圧着部分)
21 巻き食品
22 圧着部分
31 ローラー(つぶしギア)
40 圧着装置
41 搬送用紐コンベア
42 ローラー(つぶしギア)
43 搬送用ローラー
44 成形工程後の食品
45 ローラーにより圧着された食品(巻き食品)
51 皮
52 具材
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
図6