(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】スリットランプ顕微鏡
(51)【国際特許分類】
A61B 3/135 20060101AFI20240216BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
A61B3/135
G02B21/00
(21)【出願番号】P 2019234916
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019051361
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】清水 仁
(72)【発明者】
【氏名】大森 和宏
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-526507(JP,A)
【文献】特開2000-197607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
G02B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の前眼部にスリット光を投射する照明系と、
前記スリット光が投射されている前記前眼部からの光を導く光学系と、前記光学系により導かれた前記光を撮像面で受光する撮像素子とを含む撮影系と
を含み、
前記前眼部の組織の屈折率により変位した前記照明系の焦点を含む物面と、前記光学系の主面と、前記撮像面とが、シャインプルーフの条件を満足するように配置されている、
スリットランプ顕微鏡。
【請求項2】
前記照明系及び前記撮影系を移動する移動機構を更に含み、
前記撮影系は、前記移動機構による前記照明系及び前記撮影系の移動と並行して繰り返し撮影を行うことにより前記前眼部の複数の画像を取得する、
請求項1のスリットランプ顕微鏡。
【請求項3】
前記複数の画像に基づいて3次元画像を構築する3次元画像構築部を更に含む、
請求項2のスリットランプ顕微鏡。
【請求項4】
前記3次元画像をレンダリングしてレンダリング画像を構築するレンダリング部を更に含む、
請求項3のスリットランプ顕微鏡。
【請求項5】
前記複数の画像の少なくとも1つ又はそれを処理して得られた画像に所定の解析処理を適用する解析部を含む、
請求項2~4のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項6】
前記屈折率による前記物面の偏向角は、3~13度の範囲に含まれる、
請求項1~5のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項7】
前記屈折率による前記物面の偏向角は、6~10度の範囲に含まれる、
請求項6のスリットランプ顕微鏡。
【請求項8】
前記屈折率による前記物面の偏向角は、所定の模型眼における角膜曲率半径の値及び眼の屈折率の値に少なくとも基づいて決定される、
請求項1~7のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項9】
前記屈折率による前記物面の偏向角は、前記照明系の光軸と前記撮影系の光軸とのなす角度に少なくとも基づいて決定される、
請求項1~5のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項10】
前記角度は、0度よりも大きく且つ60度以下の範囲内の値に設定される、
請求項9のスリットランプ顕微鏡。
【請求項11】
前記屈折率による前記物面の偏向角は、前記角度及び角膜曲率半径に少なくとも基づいて決定される、
請求項9又は10のスリットランプ顕微鏡。
【請求項12】
前記角膜曲率半径の値は、所定の模型眼に基づき設定される、
請求項11のスリットランプ顕微鏡。
【請求項13】
前記角膜曲率半径の値は、グルストランド模型眼に基づいて、7.7mm±0.5mmの範囲内の値に設定される、
請求項12のスリットランプ顕微鏡。
【請求項14】
前記屈折率による前記物面の偏向角は、前記角度及び眼球屈折率に少なくとも基づいて決定される、
請求項9又は10のスリットランプ顕微鏡。
【請求項15】
前記眼球屈折率の値は、所定の模型眼に基づき設定される、
請求項14のスリットランプ顕微鏡。
【請求項16】
前記眼球屈折率の値は、グルストランド模型眼に基づいて、1.336±0.001の範囲内の値に設定される、
請求項15のスリットランプ顕微鏡。
【請求項17】
前記屈折率による前記物面の偏向角は、前記角度、角膜曲率半径及び眼球屈折率に少なくとも基づいて決定される、
請求項9又は10のスリットランプ顕微鏡。
【請求項18】
前記角膜曲率半径の値及び前記眼球屈折率の値のそれぞれは、所定の模型眼に基づき設定される、
請求項17のスリットランプ顕微鏡。
【請求項19】
グルストランド模型眼に基づいて、前記角膜曲率半径の値は、7.7mm±0.5mmの範囲内の値に設定され、且つ、前記眼球屈折率の値は、1.336±0.001の範囲内の値に設定される、
請求項18のスリットランプ顕微鏡。
【請求項20】
前記偏向角は、0度よりも大きく且つ11.09度以下の範囲内の値に設定される、
請求項19のスリットランプ顕微鏡。
【請求項21】
前記撮影系の光軸の向きを変更する第1偏向機構を更に備える、
請求項1~20のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項22】
前記第1偏向機構は、実質的に前記物面と前記撮影系の光軸との交点を中心に前記撮影系の光軸を回動させる、
請求項21のスリットランプ顕微鏡。
【請求項23】
前記撮影系により取得された前記被検眼の画像を解析して画質を評価する画質評価部と、
前記画質評価部による評価の結果に少なくとも基づいて前記第1偏向機構の制御を行う第1偏向制御部と
を更に含む、
請求項21又は22のスリットランプ顕微鏡。
【請求項24】
前記撮影系により取得された前記被検眼の画像を解析して角膜曲率半径を計測する計測部と、
前記計測部による計測の結果に少なくとも基づいて前記撮影系の光軸の目標向きを決定する第1決定部と、
を更に含み、
前記第1偏向機構は、前記撮影系の光軸の向きを前記目標向きに変更する、
請求項21~23のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項25】
予め取得された前記被検眼の角膜曲率半径の測定データを受け付けるデータ受付部と、
前記測定データに少なくとも基づいて前記撮影系の光軸の目標向きを決定する第2決定部と、
を更に含み、
前記第1偏向機構は、前記撮影系の光軸の向きを前記目標向きに変更する、
請求項21~23のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項26】
前記撮影系は、前記第1偏向機構が前記撮影系の光軸の向きを変更したことに対応して前記前眼部の撮影を開始する、
請求項21~25のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項27】
前記照明系の光軸の向きを変更する第2偏向機構を更に備える、
請求項1~20のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項28】
前記第2偏向機構は、前記被検眼の角膜と前記照明系の光軸との交点を中心に前記照明系の光軸を回動させる、
請求項27のスリットランプ顕微鏡。
【請求項29】
前記撮影系により取得された前記被検眼の画像を解析して画質を評価する画質評価部と、
前記画質評価部による評価の結果に少なくとも基づいて前記第2偏向機構の制御を行う第2偏向制御部と
を更に含む、
請求項27又は28のスリットランプ顕微鏡。
【請求項30】
前記撮影系により取得された前記被検眼の画像を解析して角膜曲率半径を計測する計測部と、
前記計測部による計測の結果に少なくとも基づいて前記照明系の光軸の目標向きを決定する第3決定部と
を更に含み、
前記第2偏向機構は、前記照明系の光軸の向きを前記目標向きに変更する、
請求項27~29のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項31】
予め取得された前記被検眼の角膜曲率半径の測定データを受け付けるデータ受付部と、
前記測定データに少なくとも基づいて前記照明系の光軸の目標向きを決定する第4決定部と
を更に含み、
前記第2偏向機構は、前記照明系の光軸の向きを前記目標向きに変更する、
請求項27~29のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【請求項32】
前記撮影系は、前記第2偏向機構が前記照明系の光軸の向きを変更したことに対応して前記前眼部の撮影を開始する、
請求項27~31のいずれかのスリットランプ顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリットランプ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野において画像診断は重要な位置を占める。画像診断では、各種の眼科撮影装置が用いられる。眼科撮影装置には、スリットランプ顕微鏡、眼底カメラ、走査型レーザー検眼鏡(SLO)、光干渉断層計(OCT)などがある。また、レフラクトメータ、ケラトメータ、眼圧計、スペキュラーマイクロスコープ、ウェーブフロントアナライザ、マイクロペリメータなどの各種の検査装置や測定装置にも、前眼部や眼底を撮影する機能が搭載されている。
【0003】
これら様々な眼科装置のうち最も広く且つ頻繁に使用される装置の一つがスリットランプ顕微鏡である。スリットランプ顕微鏡は、スリット光で被検眼を照明し、照明された断面を側方から顕微鏡で観察したり撮影したりするための眼科装置である。
【0004】
例えば、特許文献1には、照明系及び撮影系の移動とそれらの焦点の移動とを組み合わせて実行しつつ前眼部撮影を行うことが可能なスリットランプ顕微鏡が開示されている。これによれば、前眼部の広い範囲にわたってピントが合った3次元画像を取得できる一方、光学系の光軸方向のスキャン(焦点の移動)とこれに直交する方向のスキャン(光学系の移動)とを行うために撮影には時間や手間が掛かる。
【0005】
これに対し、特許文献2及び3には、シャインプルーフの原理を利用して前眼部撮影を行う技術が開示されている。シャインプルーフの原理は、レンズ面が像面と平行でない場合における光学系の焦点面の向きについての幾何学的規則であり、レンズ(光学系)の主面と撮像素子の撮像面とが或る1つの直線で交わるとき、ピントが合う物面も同じ直線にて交わることを主張する。
【0006】
この原理によれば、照明系の光軸を通る面(物面を含む)と撮影系の主面と撮像素子の撮像面とが同一の直線にて交差するようにスリットランプ顕微鏡を構成すれば、物面全体にわたってピントが合った画像を得ることができる。
【0007】
このような従来のシャインプルーフ型スリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の光軸に対して傾斜した方向から前眼部を観察・撮影しようとすると、被検眼内部の屈折率と外部の屈折率との相違により光線が屈折し、シャインプルーフの原理を意図した配置が崩れてしまう。また、被検眼の組織の形状や特性には個人差があるため、この配置の崩れにも個人差が生じる。例えば、角膜の形状(曲率)や前眼部組織の屈折率の個人差の影響が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-159073号公報
【文献】特開2000-197607号公報
【文献】特表2015-533322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、被検眼内外の屈折率の違いに起因するシャインプルーフ型スリットランプ顕微鏡の問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
例示的な第1の態様は、被検眼の前眼部にスリット光を投射する照明系と、前記スリット光が投射されている前記前眼部からの光を導く光学系と、前記光学系により導かれた前記光を撮像面で受光する撮像素子とを含む撮影系とを含み、前記前眼部の組織の屈折率により変位した前記照明系の焦点を含む物面と、前記光学系の主面と、前記撮像面とが、シャインプルーフの条件を満足するように配置されている、スリットランプ顕微鏡である。
【0011】
例示的な第2の態様は、第1の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記照明系及び前記撮影系を移動する移動機構を更に含み、前記撮影系は、前記移動機構による前記照明系及び前記撮影系の移動と並行して繰り返し撮影を行うことにより前記前眼部の複数の画像を取得する。
【0012】
例示的な第3の態様は、第2の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記複数の画像に基づいて3次元画像を構築する3次元画像構築部を更に含む。
【0013】
例示的な第4の態様は、第3の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記3次元画像をレンダリングしてレンダリング画像を構築するレンダリング部を更に含む。
【0014】
例示的な第5の態様は、第2~第4の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記複数の画像の少なくとも1つ又はそれを処理して得られた画像に所定の解析処理を適用する解析部を含む。
【0015】
例示的な第6の態様は、第1~第5の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記屈折率による前記物面の偏向角は、3~13度の範囲に含まれる。
【0016】
例示的な第7の態様は、第6の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記屈折率による前記物面の偏向角は、6~10度の範囲に含まれる。
【0017】
例示的な第8の態様は、第1~第7の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記屈折率による前記物面の偏向角は、所定の模型眼における角膜曲率半径の値及び眼の屈折率の値に少なくとも基づいて決定される。
【0018】
例示的な第9の態様は、第1~第5の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記屈折率による前記物面の偏向角は、前記照明系の光軸と前記撮影系の光軸とのなす角度に少なくとも基づいて決定される。
【0019】
例示的な第10の態様は、第9の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記角度は、0度よりも大きく且つ60度以下の範囲内の値に設定される。
【0020】
例示的な第11の態様は、第9又は第10の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記屈折率による前記物面の偏向角は、前記角度及び角膜曲率半径に少なくとも基づいて決定される。
【0021】
例示的な第12の態様は、第11の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記角膜曲率半径の値は、所定の模型眼に基づき設定される。
【0022】
例示的な第13の態様は、第12の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記角膜曲率半径の値は、グルストランド模型眼に基づいて、7.7ミリメートル(mm)±0.5mmの範囲内の値に設定される。
【0023】
例示的な第14の態様は、第9又は第10の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記屈折率による前記物面の偏向角は、前記角度及び眼球屈折率に少なくとも基づいて決定される。
【0024】
例示的な第15の態様は、第14の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記眼球屈折率の値は、所定の模型眼に基づき設定される。
【0025】
例示的な第16の態様は、第15の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記眼球屈折率の値は、グルストランド模型眼に基づいて、1.336±0.001の範囲内の値に設定される。
【0026】
例示的な第17の態様は、第9又は第10の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記屈折率による前記物面の偏向角は、前記角度、角膜曲率半径及び眼球屈折率に少なくとも基づいて決定される。
【0027】
例示的な第18の態様は、第17の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記角膜曲率半径の値及び前記眼球屈折率の値のそれぞれは、所定の模型眼に基づき設定される。
【0028】
例示的な第19の態様は、第18の態様のスリットランプ顕微鏡であって、グルストランド模型眼に基づいて、前記角膜曲率半径の値は、7.7mm±0.5mmの範囲内の値に設定され、且つ、前記眼球屈折率の値は、1.336±0.001の範囲内の値に設定される。
【0029】
例示的な第20の態様は、第19の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記偏向角は、0度よりも大きく且つ11.09度以下の範囲内の値に設定される。
【0030】
例示的な第21の態様は、第1~第20の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記撮影系の光軸の向きを変更する第1偏向機構を更に備える。
【0031】
例示的な第22の態様は、第21の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記第1偏向機構は、実質的に前記物面と前記撮影系の光軸との交点を中心に前記撮影系の光軸を回動させる。
【0032】
例示的な第23の態様は、第21又は第22の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記撮影系により取得された前記被検眼の画像を解析して画質を評価する画質評価部と、前記画質評価部による評価の結果に少なくとも基づいて前記第1偏向機構の制御を行う第1偏向制御部とを更に含む。
【0033】
例示的な第24の態様は、第21~第23の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記撮影系により取得された前記被検眼の画像を解析して角膜曲率半径を計測する計測部と、前記計測部による計測の結果に少なくとも基づいて前記撮影系の光軸の目標向きを決定する第1決定部と、を更に含み、前記第1偏向機構は、前記撮影系の光軸の向きを前記目標向きに変更する。
【0034】
例示的な第25の態様は、第21~第23の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、予め取得された前記被検眼の角膜曲率半径の測定データを受け付けるデータ受付部と、前記測定データに少なくとも基づいて前記撮影系の光軸の目標向きを決定する第2決定部と、を更に含み、前記第1偏向機構は、前記撮影系の光軸の向きを前記目標向きに変更する。
【0035】
例示的な第26の態様は、第21~第25の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記撮影系は、前記第1偏向機構が前記撮影系の光軸の向きを変更したことに対応して前記前眼部の撮影を開始する。
【0036】
例示的な第27の態様は、第1~第20の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記照明系の光軸の向きを変更する第2偏向機構を更に備える。
【0037】
例示的な第28の態様は、第27の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記第2偏向機構は、前記被検眼の角膜と前記照明系の光軸との交点を中心に前記照明系の光軸を回動させる。
【0038】
例示的な第29の態様は、第27又は第28の態様のスリットランプ顕微鏡であって、前記撮影系により取得された前記被検眼の画像を解析して画質を評価する画質評価部と、前記画質評価部による評価の結果に少なくとも基づいて前記第2偏向機構の制御を行う第2偏向制御部とを更に含む。
【0039】
例示的な第30の態様は、第27~第29の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記撮影系により取得された前記被検眼の画像を解析して角膜曲率半径を計測する計測部と、前記計測部による計測の結果に少なくとも基づいて前記照明系の光軸の目標向きを決定する第3決定部と、を更に含み、前記第2偏向機構は、前記照明系の光軸の向きを前記目標向きに変更する。
【0040】
例示的な第31の態様は、第27~第29の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、予め取得された前記被検眼の角膜曲率半径の測定データを受け付けるデータ受付部と、前記測定データに少なくとも基づいて前記照明系の光軸の目標向きを決定する第4決定部とを更に含み、前記第2偏向機構は、前記照明系の光軸の向きを前記目標向きに変更する。
【0041】
例示的な第32の態様は、第27~第31の態様のいずれかのスリットランプ顕微鏡であって、前記撮影系は、前記第2偏向機構が前記照明系の光軸の向きを変更したことに対応して前記前眼部の撮影を開始する。
【発明の効果】
【0042】
例示的な実施形態によれば、被検眼内外の屈折率の違いに起因するシャインプルーフ条件からの逸脱を回避することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1A】例示的な実施形態の背景を説明するための概略図である。
【
図1B】例示的な実施形態の背景を説明するための概略図である。
【
図1C】例示的な実施形態の背景を説明するための概略図である。
【
図1D】例示的な実施形態の背景を説明するための概略図である。
【
図1E】例示的な実施形態の背景を説明するための概略図である。
【
図2】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図3】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図4】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図5】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図6】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図7】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図8】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を表すフローチャートである。
【
図9】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図10】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図11】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を表すフローチャートである。
【
図12】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図13】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図14】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を表すフローチャートである。
【
図15】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図16】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成を表す概略図である。
【
図17】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡の動作を表すフローチャートである。
【
図18】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡を説明するための概略図である。
【
図19】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡を説明するための概略図である。
【
図20】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡を説明するための概略図である。
【
図21】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡を説明するための概略図である。
【
図22】例示的な態様に係るスリットランプ顕微鏡を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書にて引用した文献の開示事項や他の公知技術を実施形態に組み合わせることができる。以下、実施形態の背景及び概要についてまず簡単に説明した後に、幾つかの例示的な態様を説明する。
【0045】
<背景及び概要>
図1Aに示すように、レンズLNが焦点を結ぶ物面(Subject Plane)SPは、レンズLNまでの位置とレンズLNの焦点距離により算出された位置に、像面(Image Plane)IPとして結像されることが知られている(ニュートンの結像公式)。更に、
図1Bに示すように、物面SPが或る方向に距離Δだけ変位すると、光学系の横倍率βの2乗(すなわち縦倍率)を距離Δに積算した距離(Δ×β
2)だけ像面IPも同じ方向に変位することが知られている。
【0046】
物面の変位を考慮した場合のニュートンの結像公式に基づき、レンズLNの光軸に対して物面SPが傾いている場合を考慮すると、シャインプルーフの原理は、
図1Cに示すように、物面SPを含む平面PL1と、レンズLNの主面PL2(主平面)と、像面IPを含む平面PL3とが、同じ直線CLにて交わることを主張する。
【0047】
したがって、
図1Cに示す条件が満足されている場合には、
図1Dに示すように、理論上は、被検眼Eの眼球光軸Eaxと物面SPとを一致させることにより、つまり、主面PL2及び平面PL3のそれぞれと同じ直線CLで交わる平面PL1に沿ってスリット光SLを被検眼Eに入射することにより、物面SPの全体にピントを合わせて撮影を行えるスリットランプ顕微鏡が実現される。
【0048】
しかしながら、被検眼Eの内外における屈折率の相違(空気の屈折率と角膜の屈折率との相違、眼球組織境界における屈折率の相違など)によってスリット光SLが屈折するため、スリット光SLの屈折を無視した場合の物面SPは正確ではなく、シャインプルーフの条件からの逸脱が生じる。
【0049】
例えば、
図1Eに示すように、眼球光軸Eaxに一致したスリット光SLの入射方向(同じく符号SLで示す)に対して撮影角度αだけ傾けて撮影を行う場合において、角膜前面における屈折を考慮すると、角膜頂点に位置するレンズLNの焦点位置FP1は変位しないが、被検眼Eの内部に位置する(例示的な)焦点位置FP2及びFP3はそれぞれ符号FP2’及びFP3’で示す位置に移動する。したがって、シャインプルーフの条件を満足する物面としては、眼球光軸Eaxに一致する元の物面SPではなく、屈折を考慮した複数の焦点位置FP1、FP2’及びFP3’を通る平面上に位置する物面SP’が採用される。
【0050】
更に、物面SP’を実現するためには、物面SP’と物面SP(眼球光軸Eax)との間の角度と、少なくとも角膜前面での屈折とを考慮すると、元の入射方向SLから角度Δθだけ傾斜した方向SL’からスリット光を入射させればよいことが分かる。一例として、被検眼を球と仮定し、撮影角度α=30度とし、Gullstrand(グルストランド)模型眼の角膜曲率半径=7.7mm及び眼球屈折率=1.336を用いて計算を行うと、物面SPに対する物面SP’の傾斜角度は約6度となり、入射方向SLに対する入射方向SL’の角度は約8度となる。
【0051】
なお、これらパラメータの個人差の幅や、参照される模型眼の種類などを考慮すると、被検眼Eの屈折率に起因する物面の偏向角Δθは、3~13度の範囲に含まれていてよく、更に6~10度の範囲に含まれていてよい。なお、偏向角Δθの決定のために参照可能な模型眼の種類は任意であり、例えば、特開2012-93522号公報や特表2017-526517号公報に開示された、Gullstrand模型眼、Navarro模型眼、Liou-Brennan模型眼、Badal模型眼、Arizona模型眼、Indiana模型眼、任意の規格化模型眼、及び、これらのいずれかと同等の模型眼のいずれかであってよい。
【0052】
また、上記の例では、所定の模型眼における角膜曲率半径の値及び眼の屈折率の値に少なくとも基づき偏向角Δθが決定されているが、偏向角Δθの決定方法はこれに限定されない。例えば、角膜曲率半径に加えて又はその代わりに、他のパラメータの値を用いて偏向角Δθを決定することが可能である。或いは、模型眼以外の情報を利用することも可能である。例えば、被検眼Eの測定データを用いて偏向角Δθを決定することが可能である。その幾つかの例については後述する。
【0053】
<スリットランプ顕微鏡について>
一般に、スリットランプ顕微鏡は、各種の医療施設において広く用いられている。実施形態に係るスリットランプ顕微鏡の設置場所は医療施設に限定されず、同装置に関する専門技術保持者が側にいない状況や環境、又は、専門技術保持者が遠隔地から監視、指示、操作をすることができる状況や環境で使用されてもよい。また、実施形態に係るスリットランプ顕微鏡は可搬型であってもよい。実施形態に係るスリットランプ顕微鏡が設置される施設の例としては、医療施設の他、眼鏡店、オプトメトリスト、健康診断会場、検診会場、患者の自宅、福祉施設、公共施設、検診車などがある。
【0054】
実施形態に係るスリットランプ顕微鏡は、スリット光を用いた観察・撮影機能(スリットランプ顕微鏡機能)を少なくとも有する眼科撮影装置(又は、より一般に、医療装置)であり、他の撮影機能(モダリティ)を更に備えていてもよい。他のモダリティの例として、眼底カメラ、SLO、OCTなどがある。
【0055】
実施形態に係るスリットランプ顕微鏡は、被検眼の特性を測定する機能を更に備えていてもよい。測定機能の例として、視力測定、屈折測定、眼圧測定、角膜内皮細胞測定、収差測定、視野測定などがある。
【0056】
実施形態に係るスリットランプ顕微鏡は、撮影画像や測定データを解析するためのアプリケーションを更に備えていてもよい。また、実施形態に係るスリットランプ顕微鏡は、治療や手術のための機能を更に備えていてもよい。その例として光凝固治療や光線力学的療法がある。
【0057】
以下、実施形態の幾つかの例示的態様について説明する。これら例示的態様のうちのいずれか2つ又はそれ以上を組み合わせることが可能である。また、これら例示的態様のそれぞれ又は2以上の組み合わせに対し、任意の公知技術を組み合わせることや任意の公知技術に基づく変形(付加、置換等)を施すことが可能である。
【0058】
以下に例示する実施形態において、「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を意味する。プロセッサは、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムやデータを読み出し実行することで、その実施形態に係る機能を実現する。
【0059】
例示的態様に係るスリットランプ顕微鏡の構成について説明する。まず、次のように方向を定義する。スリットランプ顕微鏡の光学系が被検眼の正面(ニュートラル位置)に配置されているときに、光学系における最も被検眼側に位置するレンズ(対物レンズ)から被検眼に向かう方向を前方向(又は、深さ方向、奥行き方向、Z方向)とし、その逆方向を後方向(-Z方向)とする。また、Z方向に直交する水平方向を左右方向(又は、横方向、±X方向)とする。更に、Z方向とX方向の双方に直交する方向を上下方向(又は、縦方向、±Y方向)とする。XYZ座標系は、例えば右手系(又は、左手系)として定義された3次元直交座標系である。
【0060】
また、スリットランプ顕微鏡の観察撮影系は少なくとも水平方向に回動可能であり、観察撮影系の光軸(観察撮影光軸)に沿う方向である動径方向をr1方向とし、回転方向をθ1方向とする。同様に、スリットランプ顕微鏡の照明系は回動可能であり、照明系の光軸(照明光軸)に沿う方向である動径方向をr2方向とし、回転方向をθ2方向とする。例えば、動径方向の正方向は、対物レンズから被検眼に向かう方向であり、回転方向の正方向は、上方から見たときの反時計回り方向である。回転方向は、例えば、Z方向を基準として定義される(つまり、Z方向が回転角度0度として定義される)。観察撮影系がニュートラル位置に配置されているとき(つまり、θ1=0度のとき)、r1方向はZ方向に一致する。同様に、照明系がニュートラル位置に配置されているとき(つまり、θ2=0度のとき)、r2方向はZ方向に一致する。照明系及び観察撮影系の少なくとも一方は、上下方向に回動可能であってもよい。この場合においても動径方向や回転方向が同様に定義される。
【0061】
例示的態様に係るスリットランプ顕微鏡の外観構成を
図2に示す。スリットランプ顕微鏡1にはコンピュータ100が接続されている。コンピュータ100は、各種の情報処理(制御処理、演算処理等)を行う。コンピュータ100は、通信回線を介してスリットランプ顕微鏡1に接続されていてよく、例えばネットワーク上のサーバ等であってもよい。或いは、コンピュータ100は、スリットランプ顕微鏡1の部分であってもよい。
【0062】
スリットランプ顕微鏡1はテーブル2上に載置される。基台4は、例えば、移動機構部3を介して3次元的に移動可能に構成されている。基台4は、操作ハンドル5を傾倒操作することにより移動される。或いは、移動機構部3は、アクチュエータを含む。
【0063】
基台4の上面には、観察撮影系6及び照明系8を支持する支持部15が設けられている。支持部15には、観察撮影系6を支持する支持アーム16が左右方向に回動可能に取り付けられている。支持アーム16の上部には、照明系8を支持する支持アーム17が左右方向に回動可能に取り付けられている。支持アーム16及び17は、それぞれ独立に且つ互いに同軸で回動可能とされている。
【0064】
観察撮影系6は、支持アーム16を回動させることで移動される。照明系8は、支持アーム17を回動させることで移動される。支持アーム16及び17のそれぞれは、電気的な機構によって回動される。移動機構部3には、支持アーム16を回動させるための機構と、支持アーム17を回動させるための機構とが設けられている。なお、支持アーム16を手動で回動させることによって観察撮影系6を移動することもできる。同様に、支持アーム17を手動で回動させることによって照明系8を移動することもできる。
【0065】
照明系8は、被検眼Eに照明光を照射する。前述のように、照明系8を左右方向に回動することができる。更に、照明系8を上下方向に回動できるように構成されてもよい。つまり、照明系8の仰角や俯角を変更できるように構成されていてもよい。このような照明系8のスイング動作により、被検眼Eに対する照明光の投射方向が変更される。
【0066】
観察撮影系6は、被検眼Eに投射された照明光の戻り光を案内する左右一対の光学系を有する。この光学系は鏡筒本体9内に収納されている。鏡筒本体9の終端は接眼部9aである。検者は接眼部9aをのぞき込むことで被検眼Eを観察する。前述のように、支持アーム16を回動させることにより鏡筒本体9を左右方向に回動させることができる。更に、観察撮影系6を上下方向に回動できるように構成されてもよい。つまり、観察撮影系6の仰角や俯角を変更できるように構成されていてもよい。このような観察撮影系6のスイング動作により、被検眼Eを観察する方向や撮影する方向を変更することができる。
【0067】
鏡筒本体9に対峙する位置には顎受け台10が配置されている。顎受け台10には、被検者の顔を安定配置させるための顎受部10aと額当て10bが設けられている。
【0068】
鏡筒本体9の側面には、倍率を変更するための倍率操作ノブ11が配置されている。更に、鏡筒本体9には、被検眼Eを撮影するための撮像装置13が接続されている。撮像装置13は撮像素子を含む。撮像素子は、光を検出して画像信号(電気信号)を出力する光電変換素子である。画像信号はコンピュータ100に入力される。撮像素子としては、例えば、CCDイメージセンサ又はCMOSイメージセンサ等が用いられる。
【0069】
照明系8の下方位置には、照明系8から出力される照明光束を被検眼Eに向けて反射するミラー12が配置されている。
【0070】
スリットランプ顕微鏡1の光学系の構成例を
図3に示す。前述したように、スリットランプ顕微鏡1は、観察撮影系6と照明系8とを備えている。
【0071】
観察撮影系6は左右一対の光学系を備えている。左右の光学系の構成はほぼ同様であり、被検眼Eの双眼での観察を可能としている。なお、
図3は、観察撮影系6の左右の光学系の一方のみを示している。観察撮影系6は、双眼光学系には限定されず、単眼光学系であってもよい。符号O1は、観察撮影系6の光軸を示す。
【0072】
観察撮影系6の左右の光学系のそれぞれは、対物レンズ31、変倍光学系32、ビームスプリッタ34、結像レンズ35、プリズム36、及び接眼レンズ37を含む。ここで、ビームスプリッタ34は、左右の光学系の一方又は双方に設けられる。接眼レンズ37は、接眼部9a内に設けられている。符号Pは、接眼レンズ37に導かれる光の結像位置を示す。符号Ecは被検眼Eの角膜を示す。符号Eoは検者眼を示す。
【0073】
変倍光学系32は、複数(例えば3枚)の変倍レンズ32a、32b、32cを含む。本実施形態では、観察撮影系6の光路に対して選択的に挿入可能な複数の変倍レンズ群が設けられている。これら変倍レンズ群は、それぞれ異なる倍率に対応する。観察撮影系6の光路に配置された変倍レンズ群が変倍光学系32として用いられる。このような変倍レンズ群の選択的な挿入により、被検眼Eの観察像や撮影画像の倍率(画角)を変更することができる。倍率の変更、つまり観察撮影系6の光路に配置される変倍レンズ群の切り替えは、倍率操作ノブ11を操作することにより行われる。また、図示しないスイッチ等を用いて電動で倍率を変更することもできる。
【0074】
ビームスプリッタ34は、光軸O1に沿って進む光の光路を、光軸O1の延長上に位置する光路と、光軸O1に対して直交する光路とに分割する。光軸O1の延長上に位置する光路に入射した光は、結像レンズ35、プリズム36及び接眼レンズ37を介して検者眼Eoに導かれる。プリズム36は、光の進行方向を上方に平行移動させる。
【0075】
一方、光軸O1に対して直交する光路に入射した光は、集光レンズ41及びミラー42を介して、撮像装置13の撮像素子43に導かれる。すなわち、観察撮影系6は、被検眼Eからの戻り光を撮像装置13に導く。撮像素子43は、この戻り光を検出して画像信号GSを生成する。撮像装置13は、左右の光学系の一方又は双方に設けられる。
【0076】
観察撮影系6は、そのフォーカス位置(焦点)を変更するための合焦機構40を含む。合焦機構40は、対物レンズ31を光軸O1に沿って移動させる。対物レンズ31の移動は、自動及び/又は手動で行われる。自動で対物レンズ31を移動する場合、例えば、コンピュータ100は、公知のフォーカス調整手法(例えば、位相差検出方式、コントラスト検出方式など)を用いて、被検眼Eからの戻り光に基づきフォーカス位置を求めることができる。更に、コンピュータ100は、求められたフォーカス位置まで対物レンズ31を光軸O1に沿って移動するようにアクチュエータを制御することができる。一方、手動で対物レンズ31を移動する場合、ユーザーによる操作に応じてアクチュエータが対物レンズ31を光軸O1に沿って移動させる。
【0077】
なお、観察撮影系6は、対物レンズ31と撮像素子43との間の光軸O1上の位置に配置された第1合焦レンズを含んでもよい。この場合、合焦機構40は、第1合焦レンズを光軸O1に沿って移動させることによって観察撮影系6のフォーカス位置を変更する。また、観察撮影系6の全体(又は一部)が光軸O1に沿って移動可能に構成されていてもよい。この場合、合焦機構40は、観察撮影系6の全体を光軸O1に沿って移動させることによって、観察撮影系6のフォーカス位置を変更する。対物レンズ31を移動させる場合と同様に、合焦機構40による第1合焦レンズ又は観察撮影系6の移動は、自動又は手動で行われる。
【0078】
この例示的態様では、接眼レンズを介した観察と撮像素子による撮影との双方が可能な観察撮影系6が採用されている。しかし、幾つかの例示的態様に係るスリットランプ顕微鏡は、撮像素子による撮影のみが可能な撮影系を備えていてもよい。
【0079】
照明系8は、照明光源51、集光レンズ52、スリット形成部53、及び対物レンズ54を含む。符号O2は、照明系8の光軸を示す。
【0080】
照明光源51は照明光を出力する。照明系8に複数の光源を設けてもよい。例えば、定常光を出力する光源(例えば、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)等)と、フラッシュ光を出力する光源(例えば、キセノンランプ、LED等)の双方を照明光源51として設けることができる。また、前眼部観察用の光源と後眼部観察用の光源とを別々に設けてもよい。例えば、照明光源51は、可視光を出力する可視光源を含む。照明光源51は、赤外光(例えば、中心波長が800nm~1000nmの光)を出力する赤外光源を含んでもよい。
【0081】
スリット形成部53は、スリット光を生成するために用いられる。スリット形成部53は、一対のスリット刃を有する。これらスリット刃の間隔(スリット幅)を変更することにより、生成されるスリット光の幅を変更することができる。また、一対のスリット刃の一体的な回動によりスリット光の向きを変更することができる。スリット形成部53の構成は、一対のスリット刃を含む態様に限定されず、他の任意の態様であってもよい。
【0082】
照明系8は、そのフォーカス位置(焦点)を変更するための合焦機構50を含む。合焦機構50は、対物レンズ54を光軸O2に沿って移動させる。対物レンズ54の移動は、自動及び/又は手動で行われる。自動で対物レンズ54を移動する場合、例えば、コンピュータ100は、被検眼Eからの戻り光に基づく像が描出された画像を解析することによってフォーカス位置を求めることができる。更に、コンピュータ100は、求められたフォーカス位置まで対物レンズ54を光軸O2に沿って移動するようにアクチュエータを制御することができる。一方、手動で対物レンズ54を移動する場合には、ユーザーによる操作に応じてアクチュエータが対物レンズ54を光軸O2に沿って移動させる。
【0083】
なお、照明系8は、対物レンズ54とスリット形成部53との間の光軸O2上の位置に配置された第2合焦レンズを含んでもよい。この場合、合焦機構50は、第2合焦レンズを光軸O2に沿って移動させることによって、スリット光のフォーカス位置を変更する。また、照明系8の全体(又は一部)が光軸O2に沿って移動可能に構成されていてもよい。この場合、合焦機構50は、照明系8の全体を光軸O2に沿って移動させることによって、スリット光のフォーカス位置を変更する。対物レンズ54を移動させる場合と同様に、合焦機構50による第2合焦レンズ又は照明系8の移動は、自動又は手動で行われる。
【0084】
図3では図示が省略されているが、照明系8から出力される照明光束を被検眼Eに向けて反射するミラー12が光軸O2上に配置されている。典型的には、照明系8とミラー12とが一体的に回動するように構成されている。
【0085】
以下に説明する幾つかの例示的態様では、特に言及しない限り、スリットランプ顕微鏡1を参照して説明を行う。ただし、これら例示的態様又は他の態様に適用可能なスリットランプ顕微鏡はこれに限定されない。
【0086】
<第1の態様>
第1の態様に係るスリットランプ顕微鏡について説明する。本態様に係るスリットランプ顕微鏡200の構成例を
図4及び
図5に示す。
【0087】
図4に示すように、スリットランプ顕微鏡200は、それぞれスリットランプ顕微鏡1と同様の撮影系(観察撮影系)6、照明系8及びコンピュータ100に加え、移動機構60を含む。コンピュータ100は、制御部110と、データ処理部120とを含む。
図5に示すデータ処理部120Aは、データ処理部120の一例を示す。データ処理部120(120A)は、3次元画像構築部121と、レンダリング部122と、解析部123とを含む。
【0088】
スリットランプ顕微鏡200は、単一の装置であってもよいし、2以上の装置を含むシステムであってもよい。例えば、幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡200は、照明系8、撮影系6、及び移動機構60を含む本体装置と、コンピュータ100と、本体装置とコンピュータ100との間の通信を担う通信デバイスとを含む。また、幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡200は、同様の本体装置(及びコンピュータ100)に加え、通信回線を介して本体装置(又はコンピュータ100)にアクセス可能な遠隔操作用コンピュータを含む。
【0089】
照明系8は、被検眼Eの前眼部にスリット光を照射する。符号O2は、照明系8の光軸(照明光軸)を示す。照明系8は、例えば、スリット光の幅、長さ及び向きを変更可能である。スリット光の長さとは、スリット幅に対応するスリット光の断面幅方向に直交する方向におけるスリット光の断面寸法である。スリット幅やスリット長は、典型的には、スリット光の前眼部への投影像の寸法として、又は、スリット形成部53が形成するスリットの寸法として、表現される。
【0090】
撮影系6は、照明系8からのスリット光が照射されている前眼部を撮影する。符号O1は、撮影系6の光軸(撮影光軸)を示す。撮影系6は、光学系6aと、撮像素子43とを含む。
【0091】
光学系6aは、スリット光が照射されている被検眼Eの前眼部からの光を撮像素子43に導く。撮像素子43は、光学系6aにより導かれた光を撮像面にて受光する。
【0092】
光学系6aにより導かれる光(つまり、被検眼Eの前眼部からの光)は、前眼部に照射されているスリット光の戻り光を含み、他の光を更に含んでいてよい。戻り光の例として、反射光、散乱光、蛍光がある。他の光の例として、スリットランプ顕微鏡200の設置環境からの光(室内光、太陽光など)がある。
【0093】
本態様に係る照明系8及び撮影系6は、シャインプルーフカメラとして機能する。すなわち、照明系8に基づき決まる物面SPと、光学系6aの主面と、撮像素子43の撮像面とが、いわゆるシャインプルーフの条件を満足するように、照明系8及び撮影系6の構成及び配置が決定される。
【0094】
より具体的には、
図1Eに示すように、前眼部の組織の屈折率により変位した照明系8の焦点を含む物面SPと、光学系6aの主面と、撮像素子43の撮像面とが、同一の直線上にて交差するように、照明系8及び撮影系6の構成及び配置が決定される。これにより、物面SPの全体にピントを合わせて撮影を行うことができる。なお、前述したように、従来のシャインプルーフ型スリットランプ顕微鏡では、前眼部の組織の屈折率による照明系の焦点の変位を考慮していないため、物面SPの全体にピントを合わせて撮影を行うことはできない。
【0095】
物面SPの範囲は、例えば、角膜前面から水晶体(典型的にはその後面)までの範囲よりも広く設定される。ただし、物面SPの範囲はこれに限定されない。また、被検眼Eの所定の撮影対象範囲(例えば、角膜前面から水晶体後面までの範囲を含む)に対して物面SPの位置合わせを行うことができる。この位置合わせのための動作は、例えば、公知のアライメント動作を含んでいてよい。
【0096】
シャインプルーフの条件を満足させるために、典型的には、照明系8に含まれる要素の構成及び配置と、撮影系6に含まれる要素の構成及び配置と、照明系8と撮影系6との相対位置とに関する設計、調整、処理等がなされる。
【0097】
照明系8と撮影系6との相対位置を示すパラメータとして、例えば、照明光軸O2と撮影光軸O1とがなす角度(撮影角度)がある。なお、従来のシャインプルーフ型スリットランプ顕微鏡では、照明光軸O2と眼球光軸Eaxとが一致しているが、本態様に係るスリットランプ顕微鏡200では、眼球光軸Eaxと照明光軸O2とが角度(偏向角)Δθをなしている。
【0098】
偏向角Δθは、少なくとも、前眼部の屈折率に基づき決定される。この屈折率は、被検眼Eの屈折率の測定値であってもよいし、標準的な値であってもよい。標準的な値の例として、前述した模型眼の値がある。
【0099】
偏向角Δθは、他の眼球パラメータに更に基づき決定されてもよい。例えば、角膜曲率半径、角膜厚、前房深度、水晶体前面の曲率半径、水晶体厚、水晶体後面の曲率半径などがある。また、偏向角Δθは、照明光軸O2と撮影光軸O1とがなす撮影角度に依存してもよい。
【0100】
このように、眼球パラメータの個人差や、参照される模型眼の種類や、撮影角度などに応じて、偏向角Δθは、3~13度の範囲内の値に設定されてよく、更に6~10度の範囲内の値に設定されてよい。なお、偏向角Δθの値はこれらに限定されるものではない。
【0101】
移動機構60は、照明系8及び撮影系6を移動する。本態様において、移動機構60は、照明系8及び撮影系6を一体的に左右方向に移動可能である。照明系8及び撮影系6が一体的に左右方向に移動されるとき、典型的には、スリット光の長手方向は上下方向に沿っている。つまり、典型的な制御例において、スリット光の向き(長手方向)と、照明系8及び撮影系6の移動方向とは、互いに直交している。これにより、被検眼Eをスリット光でスキャンすることができる。
【0102】
また、移動機構60は、照明系8と撮影系6とを互いに独立に移動可能である。例えば、移動機構60は、照明系8の水平方向の回転移動と、撮影系6の水平方向の回転移動とを、互いに独立に行うことが可能である。これにより、照明光軸O2と撮影光軸O1とがなす撮影角度を変更することができる。
【0103】
図2に例示する構成が採用される場合、移動機構60は、撮影系(観察撮影系)6を支持する支持アーム16を左右方向に回動させるアクチュエータと、照明系8を支持する支持アーム17を左右方向に回動させるアクチュエータとを含む。これにより、照明系8と撮影系6とが互いに独立に且つ互いに同軸で回動可能となる。
【0104】
移動機構60による照明系8の移動態様は上記の例に限定されず、撮影系6の移動態様も上記の例に限定されない。例えば、移動機構60は、照明系8及び撮影系6を一体的に任意の方向に移動可能に構成されていてよい。また、移動機構60は、照明系8と撮影系6との間の相対位置を任意に変更可能に構成されていてよい。
【0105】
コンピュータ100に設けられた制御部110は、スリットランプ顕微鏡200の各部を制御する。例えば、制御部110は、照明系8の要素、撮影系6の要素、移動機構60、データ処理部120などを制御する。
【0106】
制御部110は、1以上のプロセッサ、1以上の主記憶装置、1以上の補助記憶装置などを含む。補助記憶装置には、制御プログラム等が記憶されている。制御プログラム等は、スリットランプ顕微鏡200がアクセス可能なコンピュータや記憶装置に記憶されていてもよい。制御部110の機能は、制御プログラム等のソフトウェアと、プロセッサ等のハードウェアとの協働によって実現される。
【0107】
制御部110は、被検眼Eの3次元領域をスリット光でスキャンするために、照明系8、撮影系6及び移動機構60に対して次のような制御を適用することができる。
【0108】
まず、制御部110は、照明系8及び撮影系6を所定のスキャン開始位置に配置させるための移動機構60の制御を実行する(アライメント制御)。スキャン開始位置は、例えば、左右方向における被検眼Eの角膜の端部(第1端部)に相当する位置、又は、それよりも眼球光軸Eaxから離れた位置である。以下、アライメント制御の幾つかの例示的態様を説明するが、アライメント制御はこれらに限定されるものではない。
【0109】
アライメント制御は、例えば、被検眼Eの眼球光軸Eaxに対する照明光軸O2の角度が所定の偏向角(Δθ)に等しくなるように照明系8を配置させる制御と、このように配置された照明系8の照明光軸O2に対する撮影光軸O1の角度が所定の撮影角度(α-Δθ)に等しくなるように撮影系6を配置させる制御と、このように配置された照明系8及び撮影系6を所定のスキャン開始位置に一体的に移動する制御とを含む。
【0110】
他の例において、アライメント制御は、照明光軸O2と撮影光軸O1とがなす角度が所定の撮影角度(α-Δθ)に等しくなるように照明系8及び撮影系6を配置させる制御と、撮影系6に対してこのような相対位置に配置された照明系8の照明光軸O2が被検眼Eの眼球光軸Eaxに対して所定の偏向角Δθをなすように照明系8を配置させる制御と、このように配置された照明系8及び撮影系6を所定のスキャン開始位置に一体的に移動する制御とを含む。
【0111】
更に他の例において、アライメント制御は、照明光軸O2と撮影光軸O1とがなす角度が所定の撮影角度(α)に等しくなるように照明系8及び撮影系6を配置させる制御と、このように配置された照明系8及び撮影系6を照明光軸O2が被検眼Eの眼球光軸Eaxに一致するように所定のスキャン開始位置に一体的に移動する制御と、眼球光軸Eaxにに一致するように配置された照明光軸O2を所定の偏向角Δθだけ回転させるように照明系8を移動する制御とを含む。
【0112】
照明系8及び撮影系6がスキャン開始位置に配置された後、制御部110は、照明系8を制御して、被検眼Eに対するスリット光の照射を開始させる(スリット光照射制御)。なお、アライメント制御の実行前に、又は、アライメント制御の実行中に、スリット光照射制御を行ってもよい。照明系8は、典型的には連続光をスリット光として照射するが、断続光(パルス光)をスリット光として照射してもよい。また、照明系8は、典型的には可視光をスリット光として照射するが、赤外光をスリット光として照射してもよい。
【0113】
スリット光の照射開始と同時に又はその前若しくは後の任意のタイミングで、制御部110は、撮影系6を制御して、被検眼Eの動画撮影を開始させる(撮影制御)。すなわち、撮影系6は、移動機構60による照明系8及び撮影系6の移動と並行して繰り返し撮影を行うことにより、被検眼Eの前眼部の複数の画像を取得する。動画撮影は、所定の繰り返しレートで行われる。
【0114】
アライメント制御、スリット光照射制御、及び撮影制御の実行後、制御部110は、移動機構60を制御して、照明系8及び撮影系6の移動を開始する(移動制御)。移動制御により、照明系8及び撮影系6が一体的に移動される。つまり、照明系8と撮影系6との相対位置(例えば、撮影角度α-Δθ)を維持しつつ照明系8及び撮影系6が移動される。照明系8及び撮影系6の移動は、前述したスキャン開始位置から所定のスキャン終了位置まで行われる。スキャン終了位置は、例えば、スキャン開始位置と同様に、左右方向において第1端部の反対側の角膜の端部(第2端部)に相当する位置、又は、それよりも眼球光軸Eaxから離れた位置である。スキャン開始位置からスキャン終了位置までの範囲がスキャン範囲となる。
【0115】
スリット光によるスキャンの例示的態様は、水平方向を幅方向とし且つ上下方向を長手方向とするスリット光を被検眼Eに照射しつつ、且つ、照明系8及び撮影系6を水平方向に移動しつつ、撮影系6による動画撮影を実行する。
【0116】
ここで、スリット光の長さ(つまり、上下方向におけるスリット光の寸法)は、例えば、角膜の径以上に設定される。すなわち、スリット光の長さは角膜径以上に設定される。また、前述のように、照明系8及び撮影系6の移動距離(つまり、スキャン範囲)は、左右方向における角膜径以上に設定される。これにより、少なくとも被検眼Eの角膜全体をスリット光でスキャンすることができる。なお、強膜のスキャンを行う場合、虹彩のスキャンを行う場合、隅角のスキャンを行う場合などにおいては、より広いスキャン範囲を適用することができる。スキャン範囲はこれらの例示的態様に限定されず、撮影対象部位などに応じて任意に設定可能である。
【0117】
このようなスキャンにより、スリット光の照射位置が異なる複数の断面画像が得られる。換言すると、スリット光の照射位置が水平方向に移動する様が描写された動画像が得られる。各断面画像が示す断面は、
図4に示す物面SPを含む。撮影系6のピントは、物面SP全体に合っている。物面SPは、例えば、角膜前面から水晶体後面までの範囲を含む。この場合、角膜前面から水晶体後面にわたる3次元領域の明瞭な(ピントが合った、高品質の、精細な)画像が得られる。
【0118】
データ処理部120は、各種のデータ処理を実行する。処理されるデータは、スリットランプ顕微鏡200により取得されたデータ、及び、外部から入力されたデータのいずれでもよい。例えば、データ処理部120は、照明系8及び撮影系6によって取得された画像を処理することができる。
【0119】
データ処理部120は、1以上のプロセッサ、1以上の主記憶装置、1以上の補助記憶装置などを含む。補助記憶装置には、データ処理プログラム等が記憶されている。データ処理プログラム等は、スリットランプ顕微鏡200がアクセス可能なコンピュータや記憶装置に記憶されていてもよい。データ処理部120の機能は、データ処理プログラム等のソフトウェアと、プロセッサ等のハードウェアとの協働によって実現される。
【0120】
前述したように、データ処理部120の例示的態様であるデータ処理部120Aは、3次元画像構築部121と、レンダリング部122と、解析部123とを含む(
図5を参照)。
【0121】
3次元画像構築部121は、照明系8及び撮影系6を用いて取得された被検眼Eの複数の画像に基づいて3次元画像を構築する。本態様では、3次元画像構築部121は、被検眼Eをスリット光でスキャンして収集された複数の断面画像に基づいて3次元画像を構築することができる。
【0122】
3次元画像は、3次元座標系によって画素の位置が定義された画像(画像データ)である。3次元画像の例として、スタックデータやボリュームデータがある。スタックデータは、複数の2次元画像(例えば、複数の断面画像)をそれらの位置関係にしたがって単一の3次元座標系に埋め込むことによって構築される。ボリュームデータは、ボクセルデータとも呼ばれ、例えば、スタックデータにボクセル化処理を適用することによって構築される。
【0123】
3次元画像を構築する処理の例を説明する。3次元画像構築部121は、複数の画像のそれぞれから部分画像を抽出し、抽出された複数の部分画像から3次元画像を構築することができる。ここで、部分画像は、例えば、物面SPに相当する画像(物面画像)、又は、物面画像の少なくとも一部を含む画像である。本例によれば、例えば、角膜前面から水晶体後面にわたる明瞭な(ピントが合った、高品質の、精細な)3次元画像を構築することが可能となる。
【0124】
レンダリング部122は、3次元画像構築部121により構築された3次元画像をレンダリングすることで新たな画像(レンダリング画像)を構築する。
【0125】
レンダリングは任意の処理であってよく、例えば3次元コンピュータグラフィクスを含む。3次元コンピュータグラフィクスは、3次元座標系により定義された3次元空間内の仮想的な立体物(スタックデータ、ボリュームデータなどの3次元画像)を2次元情報に変換することにより立体感のある画像を作成する演算手法である。
【0126】
レンダリングの例として、ボリュームレンダリング、最大値投影(MIP)、最小値投影(MinIP)、サーフェスレンダリング、多断面再構成(MPR)、プロジェクション画像構築、シャドウグラム構築、スリットランプ顕微鏡で得られた断面画像の再現などがある。また、レンダリング部122は、このようなレンダリングとともに任意の処理を実行可能であってもよい。
【0127】
レンダリング部122は、被検眼Eの所定部位に相当する3次元画像中の領域を特定することができる。例えば、レンダリング部122は、角膜に相当する領域、角膜前面に相当する領域、角膜後面に相当する領域、水晶体に相当する領域、水晶体前面に相当する領域、水晶体後面に相当する領域、虹彩に相当する領域、隅角に相当する領域などを特定することができる。このような画像領域特定には、例えば、セグメンテーション、エッジ検出、閾値処理、フィルタリング、ラベリングなど、公知の画像処理が適用される。また、畳み込みニューラルネットワークを用いた機械学習などを利用して画像領域特定を行ってもよい。
【0128】
3次元画像は、典型的にはスタックデータ又はボリュームデータである。3次元画像に対する断面の指定は、手動又は自動で行われる。断面の自動指定には、例えば、前述の画像領域特定が適用される。
【0129】
一方、3次元画像の断面を手動で指定する場合、レンダリング部122は、3次元画像をレンダリングして、手動断面指定のための表示画像を構築する。表示画像は、典型的には観察対象となる部位の全体を表す画像であり、例えば、角膜前面から水晶体後面までの部位を表す。表示画像を構築するためのレンダリングは、典型的には、ボリュームレンダリング又はサーフェスレンダリングである。
【0130】
制御部110は、レンダリング部122により構築された表示画像を、図示しない表示デバイスに表示させる。ユーザーは、ポインティングデバイスなどの操作デバイスを用いて、表示画像に対して所望の断面を指定する。表示画像に指定された断面の位置情報がレンダリング部122に入力される。
【0131】
表示画像は3次元画像のレンダリング画像であるから、表示画像と3次元画像との間には自明な位置対応関係がある。この位置対応関係に基づき、レンダリング部122は、表示画像に指定された断面の位置に対応する、3次元画像における断面の位置を特定する。つまり、レンダリング部122は、3次元画像に対して断面を指定する。
【0132】
更に、レンダリング部122は、3次元画像を当該断面で切断して3次元部分画像を構築することができる。レンダリング部122は、この3次元部分画像をレンダリングして表示用の画像を構築することができる。
【0133】
解析部123は、被検眼Eの画像に解析処理を適用する。解析処理が適用される画像は、例えば、スリット光のスキャンで収集された複数の画像のうちの少なくとも1つの画像、又は、それを処理して得られた画像であってよい。後者の例として、3次元画像構築部121により構築された3次元画像、レンダリング部122により構築されたレンダリング画像、他の処理画像などがある。
【0134】
解析処理は、例えば、所定のパラメータに関する計測を含む。計測は、例えば、組織の形態を示すパラメータ(厚み、径、面積、体積、角度、形状など)に関する計測データを求める処理、及び、組織間の関係を示すパラメータ(距離、方向など)に関するデータを求める処理のいずれかであってよい。計測パラメータの例として、角膜前面曲率、角膜前面曲率半径、角膜後面曲率、角膜後面曲率半径、角膜径、角膜厚、角膜トポグラフィ、前房深度、隅角、水晶体前面曲率、水晶体前面曲率半径、水晶体後面曲率、水晶体後面曲率半径、水晶体厚などがある。計測データは、計測パラメータの分布データであってもよい。
【0135】
解析処理は、計測データの評価を更に含んでいてもよい。評価は、例えば、標準データ(基準データ)との比較を含む。標準データは、例えば、正常眼データ(正常眼データベース)であってもよいし、所定疾患に関する病眼データ(病眼データベース)であってもよい。評価の例として、角膜形状(曲率半径、曲率半径分布、トポグラフィ等)の評価、角膜厚(分布)の評価、前房深度の評価、隅角(分布)の評価、水晶体形状(曲率半径、曲率半径分布、トポグラフィ等)の評価、水晶体厚(分布)の評価、白内障(混濁)の評価などがある。
【0136】
スリットランプ顕微鏡200は、他の装置との間におけるデータ通信を行う通信部を含んでいてもよい。通信部は、他の装置へのデータの送信と、他の装置から送信されたデータの受信とを行う。通信部が実行するデータ通信の方式は任意である。例えば、通信部は、インターネットに準拠した通信インターフェイス、専用線に準拠した通信インターフェイス、LANに準拠した通信インターフェイス、近距離通信に準拠した通信インターフェイスなど、各種の通信インターフェイスのうちの1以上を含む。データ通信は有線通信でも無線通信でもよい。通信部により送信されるデータ及び/又は受信されるデータは暗号化されていてよい。その場合、例えば、制御部110及び/又はデータ処理部120は、通信部により送信されるデータを暗号化する暗号化処理部、及び/又は、通信部9により受信されたデータを復号化する復号化処理部を含む。
【0137】
スリットランプ顕微鏡200は、表示デバイスや操作デバイスを備えていてよい。或いは、表示デバイスや操作デバイスは、スリットランプ顕微鏡200の周辺機器であってもよい。表示デバイスは、制御部110の制御を受けて各種の情報を表示する。表示デバイスは、液晶ディスプレイ(LCD)などのフラットパネルディスプレイを含んでいてよい。操作デバイスは、スリットランプ顕微鏡200を操作するためのデバイスや、情報を入力するためのデバイスを含む。操作デバイスは、例えば、ボタン、スイッチ、レバー、ダイアル、ハンドル、ノブ、マウス、キーボード、トラックボール、操作パネルなどを含む。タッチスクリーンのように、表示デバイスと操作デバイスとが一体化したデバイスを用いてもよい。
【0138】
<第2の態様>
第2の態様に係るスリットランプ顕微鏡について説明する。本態様に係るスリットランプ顕微鏡200Aの構成例を
図6及び
図7に示す。
【0139】
図6に示すように、スリットランプ顕微鏡200Aは、第1の態様に係るスリットランプ顕微鏡200と同様に、撮影系6、照明系8、移動機構60及びコンピュータ100を備える。本態様に係る移動機構60は、第1偏向機構70として機能する。
【0140】
コンピュータ100は、制御部110と、データ処理部120とを含む。
図7に示す制御部110B及びデータ処理部120Bは、それぞれ、本態様の制御部110の一例及び本態様のデータ処理部120の一例である。制御部110Bは、第1偏向制御部111を含む。データ処理部120Bは、画質評価部124と、計測部125と、第1決定部126とを含む。本態様のデータ処理部120(120B)は、3次元画像構築部121、レンダリング部122及び解析部123のいずれかを更に含んでいてもよい。
【0141】
第1偏向機構70は、撮影系6の光軸(撮影光軸O1)の向きを変更するものである。つまり、第1偏向機構70は、撮影系6の向きを変更するものであり、換言すると、撮影系6を回動させるものである。例えば、第1偏向機構70は、前述したアライメントがなされた状態において、実質的に物面SPと撮影光軸O1との交点を中心に撮影系6を回動させる。
図6の符号SPaは、実質的に物面SPと撮影光軸O1との交点に位置する、撮影系6の仮想的な回動軸を示す。第1偏向機構70は第1偏向制御部111の制御の下に動作する。第1偏向機構70は、例えば、回転駆動力を発生するアクチュエータ、又は、直線駆動力を発生するアクチュエータとこの直線駆動力を回転駆動力に変換する機構を含む。
【0142】
画質評価部124は、撮影系6により取得された被検眼Eの画像を解析してその画質を評価する。画質評価パラメータは、例えば、エッジの強度(勾配の大きさ、微分値の大きさ)であるが、他のパラメータであってもよい。画質評価部124は、被検眼Eの画像を解析して画質評価パラメータの値を算出し、算出されたパラメータ値を既定の閾値と比較することで画質評価を行う。
【0143】
第1偏向制御部111は、画質評価部124による評価の結果に基づいて第1偏向機構70の制御を行うことができる。例えば、画質評価部124によりパラメータ値が閾値未満であると判定されたとき、第1偏向制御部111は、撮影系6の向きを変更するために第1偏向機構70の制御を行うことができる。
【0144】
計測部125及び第1決定部126は、撮影系6の向きを現在の向きから好適な向き(目標向き)に変更するための情報を生成する。計測部125及び第1決定部126による情報生成と、画質評価部124による画質評価とを組み合わせてもよいし、これらの一方のみを行うようにしてもよい。
【0145】
計測部125は、撮影系6により取得された被検眼Eの画像を解析して角膜曲率半径を計測する。計測部125により解析される画像は、例えば、スリット光により取得された1又は2以上の断面画像であってもよいし、スリット光のスキャンに基づき構築された3次元画像であってもよい。計測部125は、第1の態様の解析部123又はその一部として構成されていてよい。
【0146】
例えば、計測部125は、撮影系6により取得された被検眼Eの画像を解析して角膜前面に相当する画像領域を特定する。この画像領域特定は、例えば、セグメンテーション、エッジ検出、閾値処理、フィルタリング、ラベリング、及び、畳み込みニューラルネットワークを用いた機械学習のうちのいずれかを含んでよい。
【0147】
計測部125は、角膜曲率半径以外のパラメータに関する計測を行ってもよい。この計測パラメータは、撮影系6の向きを変更するために用いることが可能な任意のパラメータであってよい。
【0148】
第1決定部126は、計測部125による計測の結果に少なくとも基づいて、撮影系6(撮影光軸O1)の目標向きを決定する。この目標向きは、既定の物面SP(例えば、眼球光軸Eaxに一致された物面SP)と、光学系6aの既定の主面と、撮像素子43の撮像面(像面)とが、シャインプルーフの条件を満足するような、撮影系6の向き(主面の向き及び像面の向き)である。
【0149】
目標向きを決定するための演算に利用可能なパラメータは、例えば、照明系8と撮影系6との間の相対位置(例えば、撮影角度など)、被検眼Eに対する照明系8の相対位置(例えば、眼球光軸Eaxに対する照明光軸O2の偏向角など)、被検眼Eに対する撮影系6の相対位置、照明系6の要素の設定(例えば、スリット幅、スリット長など)、撮影系6の要素の設定(例えば、焦点距離、絞り値など)など、スリットランプ顕微鏡200Aに関する任意のパラメータを含んでいてよい。また、目標向きを決定するための演算に利用可能なパラメータは、角膜曲率半径以外にも、角膜の屈折率、房水の屈折率、水晶体の屈折率、角膜厚、前房深度、水晶体前面の曲率半径、水晶体厚、水晶体後面の曲率半径など、眼に関する任意のパラメータを含んでいてよい。眼に関するパラメータの値は、標準的な値でもよいし、被検眼Eについての測定値でもよい。
【0150】
目標向きを決定するための演算は、例えば、これらパラメータのいずれかを含む既定の演算式、及び/又は、これらパラメータのいずれかに関するグラフや表に基づき実行されてよい。また、目標向きを決定するための演算は、例えば、光線追跡、機械学習などを利用した処理を含んでもよい。
【0151】
第1偏向制御部111は、第1決定部126により決定された目標向きに撮影系6(撮影光軸O1)の向きを変更するように、第1偏向機構70を制御することができる。
【0152】
計測部125及び第1決定部126による情報生成と、画質評価部124による画質評価とを組み合わせる場合、例えば、画質評価部124によって画質が不十分であると判定された場合に計測部125及び第1決定部126により目標向きを決定し、この目標向きに基づき撮影系6(撮影光軸O1)の向きを変更することができる。
【0153】
本態様に係るスリットランプ顕微鏡200Aの動作例を説明する。スリットランプ顕微鏡200Aの動作の一例を
図8に示す。なお、アライメント等の準備的な処理は既に行われたものとする。
【0154】
(S1:前眼部を撮影)
まず、スリットランプ顕微鏡200Aは、被検眼Eの前眼部を撮影する。この前眼部撮影はスリット光を用いて行われ、例えば、1回以上の撮影からなる。
【0155】
(S2:画質を評価)
画質評価部124は、ステップS1で取得された前眼部の画像を解析してその画質を評価する。例えば、画質評価部124は、前眼部の画像のエッジ強度を算出し、算出されたエッジ強度を閾値と比較する。エッジ強度が閾値以上であることは画質が十分であることに相当し、エッジ強度が閾値未満であることは画質が不十分であることに相当する。
【0156】
(S3:画質OK?)
ステップS2において画質が十分であると判定された場合(S3:Yes)、処理はステップS7に移行する。他方、ステップS2において画質が十分でないと判定された場合(S3:No)、処理はステップS4に移行する。
【0157】
(S4:角膜曲率半径を算出)
ステップS1で取得された前眼部画像の画質が十分でないと判定された場合(S3:No)、計測部125は、被検眼Eの画像を解析して角膜曲率半径を計測する。この被検眼Eの画像は、ステップS1で取得された前眼部画像であってもよいし、他の画像であってもよい。
【0158】
ステップS1で取得された前眼部画像以外の画像から角膜曲率半径を算出する場合に行われる処理の例を説明する。ステップS1で取得された前眼部画像の画質が十分でないと判定された場合(S3:No)、スリットランプ顕微鏡200Aは、被検眼Eの前眼部の撮影を再度行う。この前眼部撮影は、少なくとも角膜前面を撮影対象とする。計測部125は、この前眼部撮影で取得された画像を解析することで角膜曲率半径を求める。
【0159】
(S5:撮影光軸の目標向きを決定)
第1決定部126は、ステップS4で算出された角膜曲率半径に少なくとも基づいて、撮影系6(撮影光軸O1)の目標向きを決定する。
【0160】
(S6:撮影系の向きを変更)
第1偏向制御部111は、ステップS5で決定された目標向きに撮影系6(撮影光軸O1)の向きを一致させるように、第1偏向機構70の制御を行う。
【0161】
(S7:前眼部をスリット光でスキャン)
ステップS6の撮影系6の偏向が完了したことに対応し、スリットランプ顕微鏡200Aは、被検眼Eの前眼部に対してスリット光によるスキャンを適用する。これにより、例えば、角膜前面から水晶体後面にわたる明瞭な画像群が得られる。
【0162】
データ処理部120B(3次元画像構築部121)は、この画像群に基づき3次元画像を構築することができる。これにより、例えば、角膜前面から水晶体後面にわたる3次元領域を高精細に表現した3次元画像が得られる。
【0163】
データ処理部120B(レンダリング部122)は、この3次元画像から任意のレンダリング画像を構築することができる。これにより、ユーザは、被検眼Eの所望の部位の高品質な画像を観察することが可能である。
【0164】
データ処理部120B(解析部123)は、ステップS7で取得された複数の画像の少なくとも1つ又はそれを処理して得られた画像に所定の解析処理を適用することができる。これにより、被検眼Eに関する任意の解析データを求めることが可能である。
【0165】
本例では、撮影系6の偏向(S6)の完了が、スリット光によるスキャン(S7)のトリガーとなっているが、スリット光によるスキャンのトリガーはこれに限定されない。例えば、ユーザの指示に対応してスリット光によるスキャンを開始するようにしてもよい。また、撮影系6の偏向(S6)が完了したことに対応してステップS1に戻り、前眼部の撮影、画質の評価、角膜曲率半径の測定、目標向きの決定、撮影系6の向きの変更などを再度実行するようにしてもよい。
【0166】
<第3の態様>
第3の態様に係るスリットランプ顕微鏡について説明する。本態様に係るスリットランプ顕微鏡200Bの構成例を
図9及び
図10に示す。
【0167】
図9に示すように、スリットランプ顕微鏡200Bは、第2の態様に係るスリットランプ顕微鏡200Aと同様に、撮影系6と、照明系8と、第1偏向機構70として機能する移動機構60と、コンピュータ100とを備える。
【0168】
コンピュータ100は、制御部110と、データ処理部120と、データ受付部130とを含む。
図10に示す制御部110B及びデータ処理部120Cは、それぞれ、本態様の制御部110の一例及び本態様のデータ処理部120の一例である。制御部110Bは、第2の態様と同様の第1偏向制御部111を含む。データ処理部120Cは、第2の態様と同様の画質評価部124に加え、第2決定部127を含む。本態様のデータ処理部120(120C)は、3次元画像構築部121、レンダリング部122、解析部123、計測部125、及び第1決定部126のいずれかを更に含んでいてもよい。これら任意的な要素については、第1の態様及び/又は第2の態様に記載された事項を適用することができる。
【0169】
第2の態様と同様に、第1偏向制御部111は、画質評価部124による評価の結果に基づいて第1偏向機構70の制御を行うことができる。
【0170】
データ受付部130は、予め取得された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データを受け付ける。一の態様に係るデータ受付部130は、例えば、前述した通信部の少なくとも一部を含んでいてよい。この場合、データ受付部130は、例えば電子カルテシステム等のファイリングシステムから被検眼Eの角膜曲率半径の測定データを受信する。他の態様に係るデータ受付部130は、記録媒体に記録されたデータを取得する装置(ドライブ装置、データリーダ、データスキャナなど)を含む。この場合、データ受付部130(ドライブ装置など)は、例えば、コンピュータ可読な非一時的記録媒体(磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データを読み出す。或いは、データ受付部130(データスキャナなど)は、紙葉類に印刷された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データを読み取る。
【0171】
第2決定部127は、データ受付部130により取得された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データに少なくとも基づいて、撮影系6(撮影光軸O1)の目標向きを決定する。目標向き及びその決定方法(演算方法など)は、第2の態様に係る第1決定部126に関するそれと同様であってよい。
【0172】
第2決定部127による情報生成と、画質評価部124による画質評価とを組み合わせる場合、例えば、画質評価部124によって画質が不十分であると判定された場合に第2決定部127により目標向きを決定し、この目標向きに基づき撮影系6の向きを変更することができる。
【0173】
本態様に係るスリットランプ顕微鏡200Bの動作例を説明する。スリットランプ顕微鏡200Bの動作の一例を
図11に示す。なお、アライメント等の準備的な処理は既に行われたものとする。
【0174】
(S11:前眼部を撮影)
まず、例えば第2の態様のステップS1と同じ要領で、スリットランプ顕微鏡200Bは、被検眼Eの前眼部を撮影する。
【0175】
(S12:画質を評価)
例えば第2の態様のステップS2と同じ要領で、画質評価部124は、ステップS11において取得された前眼部の画像を解析してその画質を評価する。
【0176】
(S13:画質OK?)
ステップS12において画質が十分であると判定された場合(S13:Yes)、処理はステップS17に移行する。他方、ステップS12において画質が十分でないと判定された場合(S13:No)、処理はステップS14に移行する。
【0177】
(S14:角膜曲率半径の測定データを取得)
ステップS11で取得された前眼部画像の画質が十分でないと判定された場合(S13:No)、データ受付部130は、予め取得された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データを受け付ける。
【0178】
(S15:撮影光軸の目標向きを決定)
第2決定部127は、ステップS14で取得された角膜曲率半径の測定データに少なくとも基づいて、撮影系6(撮影光軸O1)の目標向きを決定する。この演算は、例えば第2の態様のステップS5と同じ要領で実行される。
【0179】
(S16:撮影系の向きを変更)
例えば第2の態様のステップS6と同じ要領で、第1偏向制御部111は、ステップS15で決定された目標向きに撮影系6(撮影光軸O1)の向きを一致させるように、第1偏向機構70の制御を行う。
【0180】
(S17:前眼部をスリット光でスキャン)
ステップS16の撮影系6の偏向が完了したことに対応し、スリットランプ顕微鏡200Bは、例えば第2の態様のステップS7と同じ要領で、被検眼Eの前眼部に対してスリット光によるスキャンを適用する。これにより、例えば、角膜前面から水晶体後面にわたる明瞭な画像群が得られる。
【0181】
データ処理部120C(3次元画像構築部121)は、この画像群に基づき3次元画像を構築することができる。これにより、例えば、角膜前面から水晶体後面にわたる3次元領域を高精細に表現した3次元画像が得られる。
【0182】
データ処理部120C(レンダリング部122)は、この3次元画像から任意のレンダリング画像を構築することができる。これにより、ユーザは、被検眼Eの所望の部位の高品質な画像を観察することが可能である。
【0183】
データ処理部120C(解析部123)は、ステップS17で取得された複数の画像の少なくとも1つ又はそれを処理して得られた画像に所定の解析処理を適用することができる。これにより、被検眼Eに関する任意の解析データを求めることが可能である。
【0184】
例えば、ステップS17で取得された被検眼Eの画像の画質が不十分である場合などにおいて、データ処理部120C(計測部125)は、ステップS17で取得された複数の画像の少なくとも1つ若しくはそれを処理して得られた画像を解析することで、又は、ステップS17の後に行われた新たな撮影で取得された画像若しくはそれを処理して得られた画像を解析することで、被検眼Eの角膜曲率半径の計測を行うことができる。これにより取得された角膜曲率半径の計測データに少なくとも基づいて、データ処理部120C(第1決定部126)は、撮影系6(撮影光軸O1)の新たな目標向きを決定することができる。更に、第1偏向制御部111は、撮影系6(撮影光軸O1)の向きをこの新たな目標向きに変更するように第1偏向機構70の制御を行うことができる。この一連の処理は、例えば、過去に取得された角膜曲率半径の測定データと現在の角膜曲率半径との間に実質的な相違が存在する場合などに有効である。
【0185】
本例では、撮影系6の偏向(S16)の完了が、スリット光によるスキャン(S17)のトリガーとなっているが、スリット光によるスキャンのトリガーはこれに限定されない。例えば、ユーザの指示に対応してスリット光によるスキャンを開始するようにしてもよい。また、撮影系6の偏向(S16)が完了したことに対応してステップS11に戻るようにしてもよい。このとき、前眼部の撮影、画質の評価、撮影系6の向きの変更などを再度実行するようにしてもよい。或いは、第2の態様と同様に、前眼部の撮影、画質の評価、角膜曲率半径の測定、目標向きの決定、撮影系6の向きの変更などを実行するようにしてもよい。
【0186】
<第4の態様>
第4の態様に係るスリットランプ顕微鏡について説明する。本態様に係るスリットランプ顕微鏡200Cの構成例を
図12及び
図13に示す。
【0187】
図12に示すように、スリットランプ顕微鏡200Cは、第1の態様に係るスリットランプ顕微鏡200と同様に、撮影系6、照明系8及びコンピュータ100を備える。更に、スリットランプ顕微鏡200Cは、第2偏向機構61を含む移動機構60Aを更に備える。
【0188】
コンピュータ100は、制御部110と、データ処理部120とを含む。
図13に示す制御部110C及びデータ処理部120Dは、それぞれ、本態様の制御部110の一例及び本態様のデータ処理部120の一例である。制御部110Cは、第2偏向制御部112を含む。データ処理部120Dは、画質評価部124と、計測部125と、第3決定部128とを含む。本態様のデータ処理部120(120D)は、3次元画像構築部121、レンダリング部122、解析部123、第1決定部126、及び第2決定部127のいずれかを更に含んでいてもよい。また、スリットランプ顕微鏡200Cは、第1偏向機構70を含んでいてよく、更に第1偏向制御部111を含んでいてもよい。
【0189】
第2偏向機構61は、照明系8の光軸(照明光軸O2)の向きを変更するものである。つまり、第2偏向機構61は、照明系8の向きを変更するものであり、換言すると、照明系8を回動させるものである。例えば、第2偏向機構61は、前述したアライメントがなされた状態において、被検眼Eの角膜と照明光軸O2との交点を中心に照明光軸O2を回動させる(
図12を参照)。第2偏向機構61は第2偏向制御部112の制御の下に動作する。第2偏向機構61は、例えば、回転駆動力を発生するアクチュエータ、又は、直線駆動力を発生するアクチュエータとこの直線駆動力を回転駆動力に変換する機構を含む。
【0190】
本態様では、第2偏向機構61は移動機構60Aに含まれている。移動機構60Aは、第1の態様の移動機構60と同様の要素であり、少なくとも照明光軸O2を回動させる機構(第2偏向機構61)を含む。
【0191】
第2の態様と同様に、画質評価部124は、撮影系6により取得された被検眼Eの画像を解析してその画質を評価する。第2偏向制御部112は、画質評価部124による評価の結果に基づいて第2偏向機構61の制御を行うことができる。例えば、画質評価部124によりパラメータ値が閾値未満であると判定されたとき、第2偏向制御部112は、照明光軸O2の向きを変更するために第2偏向機構61の制御を行うことができる。
【0192】
計測部125及び第3決定部128は、照明光軸O2の向きを現在の向きから好適な向き(目標向き)に変更するための情報を生成する。計測部125及び第3決定部128による情報生成と、画質評価部124による画質評価とを組み合わせてもよいし、これらの一方のみを行うようにしてもよい。
【0193】
第2の態様と同様に、計測部125は、撮影系6により取得された被検眼Eの画像を解析して角膜曲率半径を計測する。計測部125は、角膜曲率半径以外のパラメータに関する計測を行ってもよい。この計測パラメータは、照明光軸O2の向きを変更するために用いることが可能な任意のパラメータであってよい。
【0194】
第3決定部128は、計測部125による計測の結果に少なくとも基づいて、照明光軸O2の目標向きを決定する。この目標向きは、物面SPと、光学系6aの既定の主面と、撮像素子43の撮像面(既定の像面)とが、シャインプルーフの条件を満足するような、照明光軸O2の向き(物面SPの向き)である。
【0195】
目標向きを決定するための演算に利用可能なパラメータは、例えば、照明系8と撮影系6との間の相対位置(例えば、撮影角度など)、被検眼Eに対する照明系8の相対位置(例えば、眼球光軸Eaxに対する照明光軸O2の偏向角など)、被検眼Eに対する撮影系6の相対位置、照明系6の要素の設定(例えば、スリット幅、スリット長など)、撮影系6の要素の設定(例えば、焦点距離、絞り値など)など、スリットランプ顕微鏡200Cに関する任意のパラメータを含んでいてよい。また、目標向きを決定するための演算に利用可能なパラメータは、角膜曲率半径以外にも、角膜の屈折率、房水の屈折率、水晶体の屈折率、角膜厚、前房深度、水晶体前面の曲率半径、水晶体厚、水晶体後面の曲率半径など、眼に関する任意のパラメータを含んでいてよい。眼に関するパラメータの値は、標準的な値でもよいし、被検眼Eについての測定値でもよい。
【0196】
目標向きを決定するための演算は、例えば、これらパラメータのいずれかを含む既定の演算式、及び/又は、これらパラメータのいずれかに関するグラフや表に基づき実行されてよい。また、目標向きを決定するための演算は、例えば、光線追跡、機械学習などを利用した処理を含んでもよい。
【0197】
第2偏向制御部112は、第3決定部128により決定された目標向きに照明光軸O2の向きを変更するように、第2偏向機構61を制御することができる(
図12に示す、照明光軸O2の角度Δθの回転)。これにより、光学系6aの主面と撮像素子43の撮像面(像面)との関係においてシャインプルーフの条件を満足するような物面SPを実現することができる。
【0198】
計測部125及び第3決定部128による情報生成と、画質評価部124による画質評価とを組み合わせる場合、例えば、画質評価部124によって画質が不十分であると判定された場合に計測部125及び第3決定部128により目標向きを決定し、この目標向きに基づき照明光軸O2の向きを変更することができる。
【0199】
本態様に係るスリットランプ顕微鏡200Cの動作例を説明する。スリットランプ顕微鏡200Cの動作の一例を
図14に示す。なお、アライメント等の準備的な処理は既に行われたものとする。
【0200】
(S21:前眼部を撮影)
まず、例えば第2の態様のステップS1と同じ要領で、スリットランプ顕微鏡200Cは、被検眼Eの前眼部を撮影する。
【0201】
(S22:画質を評価)
画質評価部124は、例えば第2の態様のステップS2と同じ要領で、ステップS21で取得された前眼部の画像を解析してその画質を評価する。
【0202】
(S23:画質OK?)
ステップS22において画質が十分であると判定された場合(S23:Yes)、処理はステップS27に移行する。他方、ステップS22において画質が十分でないと判定された場合(S23:No)、処理はステップS24に移行する。
【0203】
(S24:角膜曲率半径を算出)
ステップS21で取得された前眼部画像の画質が十分でないと判定された場合(S23:No)、計測部125は、例えば第2の態様のステップS4と同じ要領で、被検眼Eの画像を解析して角膜曲率半径を計測する。
【0204】
(S25:照明光軸の目標向きを決定)
第3決定部128は、ステップS24で算出された角膜曲率半径に少なくとも基づいて、照明光軸O2の目標向きを決定する。
【0205】
(S26:照明系の向きを変更)
第2偏向制御部112は、ステップS25で決定された目標向きに照明光軸O2の向きを一致させるように、第2偏向機構61の制御して照明系8の向きを変更する。
【0206】
(S27:前眼部をスリット光でスキャン)
ステップS26の照明系8の偏向が完了したことに対応し、スリットランプ顕微鏡200Cは、被検眼Eの前眼部に対してスリット光によるスキャンを適用する。これにより、例えば、角膜前面から水晶体後面にわたる明瞭な画像群が得られる。
【0207】
データ処理部120D(3次元画像構築部121)は、この画像群に基づき3次元画像を構築することができる。これにより、例えば、角膜前面から水晶体後面にわたる3次元領域を高精細に表現した3次元画像が得られる。
【0208】
データ処理部120D(レンダリング部122)は、この3次元画像から任意のレンダリング画像を構築することができる。これにより、ユーザは、被検眼Eの所望の部位の高品質な画像を観察することが可能である。
【0209】
データ処理部120D(解析部123)は、ステップS27で取得された複数の画像の少なくとも1つ又はそれを処理して得られた画像に所定の解析処理を適用することができる。これにより、被検眼Eに関する任意の解析データを求めることが可能である。
【0210】
本例では、照明系8の偏向(S26)の完了が、スリット光によるスキャン(S27)のトリガーとなっているが、スリット光によるスキャンのトリガーはこれに限定されない。例えば、ユーザの指示に対応してスリット光によるスキャンを開始するようにしてもよい。また、照明系8の偏向(S26)が完了したことに対応してステップS21に戻り、前眼部の撮影、画質の評価、角膜曲率半径の測定、目標向きの決定、照明系8の向きの変更などを再度実行するようにしてもよい。
【0211】
<第5の態様>
第5の態様に係るスリットランプ顕微鏡について説明する。本態様に係るスリットランプ顕微鏡200Dの構成例を
図15及び
図16に示す。
【0212】
図15に示すように、スリットランプ顕微鏡200Dは、第4の態様に係るスリットランプ顕微鏡200Cと同様に、撮影系6と、照明系8と、第2偏向機構61を含む移動機構60Aと、コンピュータ100とを備える。
【0213】
コンピュータ100は、制御部110と、データ処理部120と、データ受付部130とを含む。
図16に示す制御部110C及びデータ処理部120Eは、それぞれ、本態様の制御部110の一例及び本態様のデータ処理部120の一例である。制御部110Cは、第4の態様と同様の第2偏向制御部112を含む。データ処理部120Eは、第2の態様と同様の画質評価部124に加え、第4決定部129を含む。本態様のデータ処理部120(120E)は、3次元画像構築部121、レンダリング部122、解析部123、計測部125、第1決定部126、第2決定部127、及び第3決定部128のいずれかを更に含んでいてもよい。また、スリットランプ顕微鏡200Dは、第1偏向機構70を含んでいてよく、更に第1偏向制御部111を含んでいてもよい。データ受付部130は、第3の態様と同様に、予め取得された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データを受け付ける。
【0214】
第4決定部129は、データ受付部130により取得された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データに少なくとも基づいて、照明光軸O2の目標向きを決定する。目標向き及びその決定方法(演算方法など)は、第4の態様に係る第3決定部128に関するそれと同様であってよい。
【0215】
第4決定部129による情報生成と、画質評価部124による画質評価とを組み合わせる場合、例えば、画質評価部124によって画質が不十分であると判定された場合に第4決定部129により目標向きを決定し、この目標向きに基づき照明系8の向きを変更することができる。
【0216】
本態様に係るスリットランプ顕微鏡200Dの動作例を説明する。スリットランプ顕微鏡200Dの動作の一例を
図17に示す。なお、アライメント等の準備的な処理は既に行われたものとする。
【0217】
(S31:前眼部を撮影)
まず、例えば第2の態様のステップS1と同じ要領で、スリットランプ顕微鏡200Dは、被検眼Eの前眼部を撮影する。
【0218】
(S32:画質を評価)
例えば第2の態様のステップS2と同じ要領で、画質評価部124は、ステップS31において取得された前眼部の画像を解析してその画質を評価する。
【0219】
(S33:画質OK?)
ステップS32において画質が十分であると判定された場合(S33:Yes)、処理はステップS37に移行する。他方、ステップS32において画質が十分でないと判定された場合(S33:No)、処理はステップS34に移行する。
【0220】
(S34:角膜曲率半径の測定データを取得)
ステップS31で取得された前眼部画像の画質が十分でないと判定された場合(S33:No)、データ受付部130は、予め取得された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データを受け付ける。
【0221】
(S35:照明光軸の目標向きを決定)
第4決定部129は、ステップS34で取得された角膜曲率半径の測定データに少なくとも基づいて、照明光軸O2の目標向きを決定する。この演算は、例えば第4の態様のステップS25と同じ要領で実行される。
【0222】
(S36:照明系の向きを変更)
例えば第4の態様のステップS26と同じ要領で、第2偏向制御部112は、ステップS35で決定された目標向きに照明光軸O2の向きを一致させるように、第2偏向機構61の制御して照明系8の向きを変更する。
【0223】
(S37:前眼部をスリット光でスキャン)
ステップS36の照明系8の偏向が完了したことに対応し、スリットランプ顕微鏡200Dは、例えば第2の態様のステップS7と同じ要領で、被検眼Eの前眼部に対してスリット光によるスキャンを適用する。これにより、例えば、角膜前面から水晶体後面にわたる明瞭な画像群が得られる。
【0224】
データ処理部120E(3次元画像構築部121)は、この画像群に基づき3次元画像を構築することができる。これにより、例えば、角膜前面から水晶体後面にわたる3次元領域を高精細に表現した3次元画像が得られる。
【0225】
データ処理部120E(レンダリング部122)は、この3次元画像から任意のレンダリング画像を構築することができる。これにより、ユーザは、被検眼Eの所望の部位の高品質な画像を観察することが可能である。
【0226】
データ処理部120E(解析部123)は、ステップS37で取得された複数の画像の少なくとも1つ又はそれを処理して得られた画像に所定の解析処理を適用することができる。これにより、被検眼Eに関する任意の解析データを求めることが可能である。
【0227】
例えば、ステップS37で取得された被検眼Eの画像の画質が不十分である場合などにおいて、データ処理部120E(計測部125)は、ステップS37で取得された複数の画像の少なくとも1つ若しくはそれを処理して得られた画像を解析することで、又は、ステップS37の後に行われた新たな撮影で取得された画像若しくはそれを処理して得られた画像を解析することで、被検眼Eの角膜曲率半径の計測を行うことができる。これにより取得された角膜曲率半径の計測データに少なくとも基づいて、データ処理部120E(第3決定部128)は、照明光軸O2の新たな目標向きを決定することができる。更に、第2偏向制御部112は、照明光軸O2の向きをこの新たな目標向きに変更するように第2偏向機構61の制御をして照明系8を偏向することができる。この一連の処理は、例えば、過去に取得された角膜曲率半径の測定データと現在の角膜曲率半径との間に実質的な相違が存在する場合などに有効である。
【0228】
本例では、照明系8の偏向(S36)の完了が、スリット光によるスキャン(S37)のトリガーとなっているが、スリット光によるスキャンのトリガーはこれに限定されない。例えば、ユーザの指示に対応してスリット光によるスキャンを開始するようにしてもよい。また、照明系8の偏向(S36)が完了したことに対応してステップS31に戻るようにしてもよい。このとき、前眼部の撮影、画質の評価、照明系8の向きの変更などを再度実行するようにしてもよい。或いは、第4の態様と同様に、前眼部の撮影、画質の評価、角膜曲率半径の測定、目標向きの決定、照明系8の向きの変更などを実行するようにしてもよい。
【0229】
<効果>
実施形態に係るスリットランプ顕微鏡の効果について説明する。
【0230】
幾つかの態様に係るスリットランプ顕微鏡は、照明系と、撮影系とを含む。照明系は、被検眼の前眼部にスリット光を投射する。撮影系は、スリット光が投射されている前眼部からの光を導く光学系と、光学系により導かれた光を撮像面で受光する撮像素子とを含む。更に、前眼部の組織の屈折率により変位した照明系の焦点を含む物面と、光学系の主面と、撮像面とが、シャインプルーフの条件を満足するように配置されている。
【0231】
例えば、スリットランプ顕微鏡200は、照明系8と、撮影系6とを含む。照明系8は、被検眼Eの前眼部にスリット光を投射する。撮影系6は、スリット光が投射されている前眼部からの光を導く光学系6aと、光学系6aにより導かれた光を撮像面で受光する撮像素子43とを含む。更に、前眼部の組織の屈折率により変位した照明系8の焦点を含む物面SPと、光学系6aの主面と、撮像素子43の撮像面とが、シャインプルーフの条件を満足するように配置されている。
【0232】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、前眼部の組織の屈折率による照明系の焦点の変位を考慮した上で、物面と光学系の主面と撮像面とがシャインプルーフの条件を満足するように構成されているので、物面に相当する被検眼の領域についてピントの合った画像を取得することができる。
【0233】
なお、幾つかの態様において、前眼部の組織の屈折率による物面の偏向角は、3~13度の範囲に含まれていてよく、更に6~10度の範囲に含まれていてもよい。また、幾つかの態様において、前眼部の組織の屈折率による物面の偏向角は、所定の模型眼における角膜曲率半径の値及び眼の屈折率の値に少なくとも基づいて決定されてよい。
【0234】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、照明系及び撮影系を移動する移動機構を更に含んでいてよい。更に、撮影系は、移動機構による照明系及び撮影系の移動と並行して繰り返し撮影を行うことにより前眼部の複数の画像を取得するように構成されていてよい。
【0235】
例えば、スリットランプ顕微鏡200は、照明系8及び撮影系6を移動する移動機構60を含む。撮影系6は、移動機構60による照明系8及び撮影系6の移動と並行して繰り返し撮影を行うことにより前眼部の複数の画像を取得することができる。照明系8及び撮影系6の移動と繰り返し撮影を並行して実行する態様は任意である。一例において、照明系8及び撮影系6の連続的移動と並行して繰り返し撮影を行うことができる。他の例において、照明系8及び撮影系6の移動と撮影とを交互に行うことができる。
【0236】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、物面の移動と並行して繰り返し撮影を行うことができるので、物面の移動範囲に相当する被検眼の領域についてピントの合った画像を取得することが可能である。
【0237】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、照明系及び撮影系の移動と並行した繰り返し撮影により取得された前眼部の複数の画像に基づいて3次元画像を構築する3次元画像構築部を更に含んでいてよい。
【0238】
例えば、スリットランプ顕微鏡200は、3次元画像構築部121により、照明系8及び撮影系6の移動と並行した繰り返し撮影により取得された前眼部の複数の画像に基づき3次元画像を構築することができる。
【0239】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、物面の移動範囲に相当する被検眼の3次元領域についてピントの合った3次元画像を取得することが可能である。
【0240】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、3次元画像構築部により構築された3次元画像をレンダリングしてレンダリング画像を構築するレンダリング部を更に含んでいてよい。
【0241】
例えば、スリットランプ顕微鏡200は、レンダリング部122により、3次元画像構築部121により構築された3次元画像をレンダリングしてレンダリング画像を構築することができる。
【0242】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の3次元領域についてピントの合った3次元画像から所望のレンダリング画像を構築し観察することが可能である。
【0243】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、照明系及び撮影系の移動と並行した繰り返し撮影により取得された前眼部の複数の画像の少なくとも1つ又はそれを処理して得られた画像(3次元画像、レンダリング画像、他の処理画像など)に所定の解析処理を適用する解析部を含んでいてよい。
【0244】
例えば、スリットランプ顕微鏡200は、解析部123により、照明系及び撮影系の移動と並行した繰り返し撮影により取得された前眼部の複数の画像の少なくとも1つ又はそれを処理して得られた画像に所定の解析処理を適用することができる。
【0245】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、物面にピントが合った高品質の画像を解析することができるので、高確度、高精度の解析データを取得することが可能である。
【0246】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、撮影系の光軸の向きを変更する第1偏向機構を更に備えていてよい。
【0247】
例えば、スリットランプ顕微鏡200A(又は200B)は、撮影系6の光軸(撮影光軸)O1の向きを変更する第1偏向機構70を備えている。
【0248】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の組織形状や特性の個人差に応じて、物面と光学系の主面と撮像素子の撮像面とがシャインプルーフの条件を満足するように撮影系6の光軸の向きを調整することが可能である。
【0249】
幾つかの態様において、第1偏向機構は、実質的に物面と撮影系の光軸との交点を中心に撮影系を回動させるように構成されていてよい。
【0250】
例えば、スリットランプ顕微鏡200A(又は200B)の第1偏向機構70は、実質的に物面SPと撮影系6の光軸(撮影光軸)O1との交点に位置する仮想的な回動軸SPaを中心に撮影系6を回動させるように構成されている。
【0251】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の角膜に対する照明系の位置を変化させることなく、シャインプルーフの条件を満足させるための撮影系の向きの調整を行うことが可能である。
【0252】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、撮影系により取得された被検眼の画像を解析して画質を評価する画質評価部と、画質評価部による評価の結果に少なくとも基づいて第1偏向機構の制御を行う第1偏向制御部とを更に含んでいてよい。
【0253】
例えば、スリットランプ顕微鏡200A(又は200B)は、撮影系6により取得された被検眼Eの画像を解析して画質を評価する画質評価部124と、画質評価部124による評価の結果に少なくとも基づいて第1偏向機構70の制御を行う第1偏向制御部111とを更に備えている。
【0254】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、シャインプルーフの条件を満足させるための撮影系の向きの調整を、実際に取得された画像の画質に応じて行うことができる。例えば、シャインプルーフの条件が満足されていない状態では低品質の画像が得られる。このような場合、本態様によれば、撮影系の向きの調整を自動で実施することが可能である。
【0255】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、撮影系により取得された被検眼の画像を解析して角膜曲率半径を計測する計測部と、計測部による計測の結果に少なくとも基づいて撮影系の光軸の目標向きを決定する第1決定部とを更に含んでいてよい。更に、本態様のスリットランプ顕微鏡は、第1偏向機構により、撮影系の向きをこの目標向きに変更するように構成されていてよい。
【0256】
例えば、スリットランプ顕微鏡200Aは、撮影系6により取得された被検眼Eの画像を解析して角膜曲率半径を計測する計測部125と、計測部125による計測の結果に少なくとも基づいて撮影系6の光軸(撮影光軸)O1の目標向きを決定する第1決定部126とを更に備えている。スリットランプ顕微鏡200Aは、第1偏向機構70により、撮影系6の向きを第1決定部126により決定された目標向きに変更することができる。
【0257】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の角膜曲率半径を実際に計測し、得られたデータから撮影系の光軸の目標向きを決定し、シャインプルーフの条件を満足させるための撮影系の向きの調整を行うことができる。これにより、撮影系の向きの調整を高確度、高精度で行うことが可能となる。
【0258】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、予め取得された被検眼の角膜曲率半径の測定データを受け付けるデータ受付部と、この測定データに少なくとも基づいて撮影系の光軸の目標向きを決定する第2決定部とを更に備えていてよい。更に、本態様のスリットランプ顕微鏡は、第1偏向機構によって撮影系の光軸の向きをこの目標向きに変更するように構成されていてよい。
【0259】
例えば、スリットランプ顕微鏡200Bは、予め取得された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データを受け付けるデータ受付部130と、この測定データに少なくとも基づいて撮影系6の光軸(撮影光軸)O1の目標向きを決定する第2決定部127とを更に備えている。スリットランプ顕微鏡200Bは、第1偏向機構70により、撮影系6の光軸(撮影光軸)O1の向きを第2決定部127により決定された目標向きに変更することができる。
【0260】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の角膜曲率半径の実際の測定データから撮影系の光軸の目標向きを決定し、シャインプルーフの条件を満足させるための撮影系の向きの調整を行うことができる。これにより、撮影系の向きの調整を高確度、高精度で行うことが可能となる。
【0261】
幾つかの態様において、撮影系は、撮影系の光軸の向きを第1偏向機構が変更したことに対応して前眼部の撮影を開始するように構成されていてよい。
【0262】
例えば、スリットランプ顕微鏡200A(又は200B)は、撮影系6の光軸(撮影光軸)O1の向きを第1偏向機構70が変更したことに対応して照明系8及び撮影系6による前眼部の撮影を開始することができる。
【0263】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、撮影系の向きが調整された後に自動で前眼部撮影を行うことができるので、シャインプルーフの条件が満足されていない状態で前眼部撮影が実施される事態の回避を図ることが可能となる。
【0264】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、照明系の光軸の向きを変更する第2偏向機構を更に備えていてよい。
【0265】
例えば、スリットランプ顕微鏡200C(又は200D)は、照明系8の光軸(照明光軸)O2の向きを変更する第2偏向機構61を更に備えている。
【0266】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の組織形状や特性の個人差に応じて、物面と光学系の主面と撮像素子の撮像面とがシャインプルーフの条件を満足するように照明系の向きを調整することが可能である。
【0267】
幾つかの態様において、第2偏向機構は、被検眼の角膜と照明光軸との交点を中心に照明光軸を回動させるように構成されていてよい。
【0268】
例えば、スリットランプ顕微鏡200C(又は200D)の第2偏向機構61は、被検眼Eの角膜と照明光軸O2との交点を中心に照明光軸O2(照明系8)を回動させるように構成されている。
【0269】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の角膜に対する撮影系の位置を変化させることなく、シャインプルーフの条件を満足させるための照明系の向きの調整を行うことが可能である。
【0270】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、撮影系により取得された被検眼の画像を解析して画質を評価する画質評価部と、画質評価部による評価の結果に少なくとも基づいて第2偏向機構の制御を行う第2偏向制御部とを更に含んでいてよい。
【0271】
例えば、スリットランプ顕微鏡200C(又は200D)は、撮影系6により取得された被検眼Eの画像を解析して画質を評価する画質評価部124と、画質評価部124による評価の結果に少なくとも基づいて第2偏向機構61の制御を行う第2偏向制御部112とを更に備えている。
【0272】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、シャインプルーフの条件を満足させるための照明系の向きの調整を、実際に取得された画像の画質に応じて行うことができる。例えば、シャインプルーフの条件が満足されていない状態では低品質の画像が得られる。このような場合、本態様によれば、照明系の向きの調整を自動で実施することが可能である。
【0273】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、撮影系により取得された被検眼の画像を解析して角膜曲率半径を計測する計測部と、計測部による計測の結果に少なくとも基づいて照明系の光軸の目標向きを決定する第3決定部とを更に含んでいてよい。更に、本態様のスリットランプ顕微鏡は、第2偏向機構により、照明光軸の向きをこの目標向きに変更するように構成されていてよい。
【0274】
例えば、スリットランプ顕微鏡200Cは、撮影系6により取得された被検眼Eの画像を解析して角膜曲率半径を計測する計測部125と、計測部125による計測の結果に少なくとも基づいて照明光軸O2の目標向きを決定する第3決定部128とを更に備えている。スリットランプ顕微鏡200Cは、第2偏向機構61により、照明光軸O2の向きをこの目標向きに変更することができる。
【0275】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の角膜曲率半径を実際に計測し、得られたデータから照明光軸の目標向きを決定し、シャインプルーフの条件を満足させるための照明系の向きの調整を行うことができる。これにより、照明系の向きの調整を高確度、高精度で行うことが可能となる。
【0276】
幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡は、予め取得された被検眼の角膜曲率半径の測定データを受け付けるデータ受付部と、この測定データに少なくとも基づいて照明光軸の目標向きを決定する第4決定部とを更に備えていてよい。更に、本態様のスリットランプ顕微鏡は、第2偏向機構によって、照明光軸の向きを目標向きに変更するように構成されていてよい。
【0277】
例えば、スリットランプ顕微鏡200Dは、予め取得された被検眼Eの角膜曲率半径の測定データを受け付けるデータ受付部130と、この測定データに少なくとも基づいて照明光軸O2の目標向きを決定する第4決定部129とを更に備えている。更に、スリットランプ顕微鏡200Dは、第2偏向機構61により、照明光軸O2の向きを目標向きに変更することができる。
【0278】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、被検眼の角膜曲率半径の実際の測定データから照明光軸の目標向きを決定し、シャインプルーフの条件を満足させるための照明系の向きの調整を行うことができる。これにより、照明系の調整を高確度、高精度で行うことが可能となる。
【0279】
幾つかの態様において、撮影系は、照明系の向きを第2偏向機構が変更したことに対応して前眼部の撮影を開始するように構成されていてよい。
【0280】
例えば、スリットランプ顕微鏡200C(又は200D)は、照明系の向きを第2偏向機構が変更したことに対応して照明系及び撮影系による前眼部の撮影を開始することができる。
【0281】
このようなスリットランプ顕微鏡によれば、照明系の向きが調整された後に自動で前眼部撮影を行うことができるので、シャインプルーフの条件が満足されていない状態で前眼部撮影が実施される事態の回避を図ることが可能となる。
【0282】
<第6の態様>
前述した第1~第5の態様では、撮像素子の撮像面に入射する全ての主光線の向き(入射角度)が等しいことが仮定されている。しかしながら、光学系の光軸に対して撮像面が偏心且つ傾斜していることを勘案すると、厳密には、撮像面の異なる位置にそれぞれ到達する主光線の入射角度は異なっている。本態様では、このような入射角度の違いが考慮された幾つかの例示的な光学系構成を提供する。
【0283】
まず、本発明者が実施した光学シミュレーションについて説明する。
図18に示すように、例示として、撮像素子300の撮像面上の3つの位置300a、300b及び300cを考慮する。なお、符号301は、絞りの中心を通る光学系光軸を示す(或いは、この光学系光軸に沿って進行する主光線を示す)。撮像素子300により得られる画像の画角は、光学系光軸301を基準に定義される。位置300bは、画角の中心に相当する。位置300bにおける主光線入射角度を38.11度に設定した。このとき、位置300a(画角の下端位置)における主光線入射角度は40.09度となり、位置300c(画角の上端位置)における主光線入射角度は36.06度となった。このように、画角内における主光線入射角度の誤差は、最大で約4度にも及ぶことが分かった。
【0284】
第1~第5の態様では、典型的には、画角の中心に相当する位置300bにおける主光線入射角度38.11度が、画角全体に対して適用されている。これに対し、本態様では、画角内の異なる位置に対して異なる主光線入射角度を適用する。つまり、第1~第5の態様では主光線入射角度は一様と仮定されているが、本態様では主光線入射角度の非一様を考慮する。
【0285】
このようなシミュレーションの結果を示す。角膜頂点、水晶体前嚢、水晶体核、及び水晶体後嚢にそれぞれ対応する撮像面上の位置を、角膜対応位置、前嚢対応位置、核対応位置、及び後嚢対応位置と呼ぶことにする。
【0286】
角膜対応位置と前嚢対応位置との間の距離は2.55mmに設定され、角膜対応位置と核対応位置との間の距離は4.91mmに設定され、角膜対応位置と後嚢対応位置との間の距離は7.14mmに設定される。
【0287】
また、角膜対応位置における主光線入射角度の設計値は39.11度に設定され、その補正値として39.11度が得られた。前嚢対応位置における主光線入射角度の設計値は38.61度に設定され、その補正値として34.63度が得られた。核対応位置における主光線入射角度の設計値は38.11度に設定され、その補正値として31.64度が得られた。後嚢対応位置における主光線入射角度の設計値は37.61度に設定され、その補正値として29.24度が得られた。
【0288】
これら補正値の平均は33.65度である。本態様では、撮像面に対する主光線入射角度が平均値33.65度となるように光学系を設計することができる。
【0289】
主光線入射角度の補正値を求めるための演算の例を以下に説明する。
図19の符号400は眼球(眼球モデル)を示す。眼球400は、角膜頂点401がxy座標系の原点に位置し且つ眼球光軸がy軸に一致するように配置されている。符号410は、空気換算した撮像素子の撮像面(空気換算像面)を示す。空気換算像面410は、角膜頂点401を通過する。符号420は主光線を示す。主光線420を含む光線の結像位置を符号421で示す。また、y軸に対して主光線420がなす角をθ
1とし、y軸に対して空気換算像面410がなす各をθ
2とすると、空気換算像面410に対する主光線420の入射角度θは、θ=θ
1+θ
2と表される。
【0290】
図19に示すモデルにおいて眼球内換算した像面の光軸と眼球光軸(典型的には照明光軸)とが一致するための条件を求めることにより、主光線入射角度の補正値が得られる。
図19から分かるように、眼球内換算した像面の光軸と眼球光軸とが一致することは、主光線420を含む光線の結像位置421がy軸上に配置されること、すなわちy軸に対する結像位置421のx方向の変位Δをゼロにすること(変位Δをゼロに近付けること:Δ→0)と同義である。
【0291】
任意の主光線入射角度(撮像面上の任意の位置)θ(θ=θ1+θ2)について、変位Δは、例えば次の4つの演算工程を介して求めることができる。
【0292】
(1)θ1及びθ2を設定する。なお、θ1及びθ2の一方を設定すれば他方は一意的に定まる。例えば、θは与えられているから、θ1を設定すればθ2=θ-θ1となる。
【0293】
(2)眼球400による屈折を考慮せずに、主光線420と空気換算像面410との交点を求める。つまり、結像位置421の設計位置を求める。
【0294】
(3)主光線420が眼球400(角膜)に入射する位置を求める。換言すると、眼球400の表面と主光線420との交点を求める。更に、この交点における主光線420の入射角及び出射角を求める。すなわち、主光線420の屈折点及び屈折角を求める。
【0295】
(4)眼球400(角膜)による屈折を考慮した、(眼球内)結像位置421と眼球光軸(y軸)との間のx方向の距離(上記の変位Δ)を求める。
【0296】
変位Δの大きさ(変位Δの絶対値)が所定閾値未満になるまで、θ1及びθ2を変更しつつ上記の4つの演算工程(1)~(4)を繰り返す。ここで、閾値は、例えば0.0001に設定される。このような反復的演算により、変位Δが十分に小さいとき、つまり、像面光軸と眼球光軸(照明光軸)とが実質的に一致するときの、主光線入射角度の補正値が得られる。
【0297】
このような演算の例として、核対応位置についての演算を以下に説明する。なお、核対応位置ではθ=38.11107度である。また、眼球400の角膜曲率半径をr=7.72mmに、眼球屈折率をn=1.337にそれぞれ設定する。
【0298】
(1)まず、θ1及びθ2を設定する。仮定的にθ2=5度に設定する。このとき、θ1=θ-θ2=38.11107-5=33.11107度となる。
【0299】
(2)次に、眼球400による屈折を無視して主光線420と空気換算像面410との交点を求める。そのために、まず、空気換算像面410を表す式と主光線420を表す式とを求める。空気換算像面410とx軸とのなす角は90-θ2度であるから、空気換算像面410を表す式は、y=(tan(90-θ2))x=(tan(90-5))x=11.43005xとなる。
【0300】
一方、主光線420とx軸とのなす角は90+θ1度であるから、核対応位置についての主光線420の傾きは、tan(90+θ1)=tan(90+33.11107)=-1.53335となる。
【0301】
主光線420のy切片(y=ys)の算出には光学系の設計データが参照される。xy座標系の原点(角膜頂点401)と、主光線420と空気換算像面410との交点との間の距離をImで表す。例えば、角膜対応位置についての距離Imは0.00000mmとなり、前嚢対応位置についての距離Imは1.81661mmとなり、核対応位置についての距離Imは3.68280mmとなり、後嚢対応位置についての距離Imは5.57288mmとなる。
【0302】
ここで
図20を参照する。
図20には、xy座標系の原点(角膜頂点401)と、主光線420と空気換算像面410との交点と、y切片((x,y)=(0,y
s)の点)とを3つの頂点とする三角形が示されている。この三角形に正弦定理を適用すると、核対応位置についてのy切片の値y
sは次のように算出される:y
s=I
m・sin(180-θ)/sinθ
1=3.68280・sin(180-38.11107)/sin(38.11107)=4.16096。
【0303】
以上より、核対応位置についての主光線420を表す式は、次のように表される:y=-1.53335x+4.16096。よって、核対応位置についての主光線420と空気換算像面410との交点の座標(xi,yi)は、主光線420を表す式y=-1.53335x+4.16096と、空気換算像面410を表す式y=11.43005xとからなる連立方程式を解くことにより得られる:(xi,yi)=(0.32098,3.66879)。以上で、演算工程(2)は終了である。
【0304】
(3)次に、主光線420の屈折点及び屈折角を求める。眼球400の角膜は次式により表される:x2+(y-r)2=r2=7.722。この角膜を表す式と主光線420を表す式とからなる連立方程式を解くことによって、角膜と主光線420との交点の座標(xc,yc)が求められる。核対応位置についての交点の座標(xc,yc)は次のようになる:(xc,yc)=(2.45277,0.40001)。
【0305】
続いて、この交点(xc,yc)における主光線420の入射角と出射角とを求める。そのために、まず、交点(xc,yc)における眼球400(角膜)の接線430の傾きを求める。核対応位置について、接線430の傾きは、角膜を表す曲線x2+(y-r)2=7.722の、交点(xc,yc)におけるx微分に相当する。角膜を表す曲線x2+(y-r)2=7.722をxで微分すると次式が得られる:y′=x/(r2-x2)1/2。このx微分の式に交点(xc,yc)のx座標xcを代入することで接線430の傾きtanθy′=0.33508が得られ、θy′=arctan(0.33508)=18.52486が得られる。
【0306】
更に、
図21から分かるように、核対応位置について、交点(x
c,y
c)における主光線420の入射角θ
iは、θ
i=θ
1-θ
y′=33.11107-18.52486=14.58621となる。
【0307】
また、核対応位置について、交点(xc,yc)における主光線420の出射角θi′は、スネルの法則を用いて得られる:θi′=arcsin((sinθi)/n)=arcsin((sin(14.58621))/1.337)=10.85705。以上で、演算工程(3)は終了である。
【0308】
(4)最後に、眼球400による屈折を加味した結像位置421と眼球光軸との間のx方向の距離(変位Δ)を求める。そのために、まず、主光線420とx軸との交点を求める。核対応位置について、主光線420を表す式y=-1.53335x+4.16096においてy=0と置くと、主光線420とx軸との交点(x0,y0)が次のように得られる:(x0,y0)=(2.71364,0)。
【0309】
次に、眼球400による屈折を無視したときの入射光線の結像位置を求める。つまり、眼球400による屈折を無視したときの、x軸と空気換算像面410との間の距離を求める。主光線420とx軸との交点と、主光線420と空気換算像面410との交点と、この交点からx軸に下ろした垂線の足(垂点)とを3つの頂点とする三角形を考慮する。この三角形に三平方の定理を適用することにより、x軸と空気換算像面410との間の距離Lは次のように求められる:L=((x0-xi)2+(y0-yi)2)1/2=((2.71364-0.32098)2+(0-3.66879)2)1/2=4.38005。
【0310】
更に、
図22を参照すると、主光線420がx軸を通過してから眼球400に入射するまでにx方向に進む距離Δ
1、つまり、主光線420がx軸に交差する点と主光線420が眼球400と交差する点との間の距離のx成分Δ
1は、次の演算によって得られる:Δ
1=|x
c-x
0|=|2.45277-2.71364|=0.26087。
【0311】
一方、主光線420がx軸を通過してから眼球400に入射するまでにy方向に進む距離Δ1、つまり、主光線420がx軸に交差する点と主光線420が眼球400と交差する点との間の距離のy成分H1は、H1=|yc-y0|=0.40001である。
【0312】
したがって、主光線420がx軸を通過してから眼球400に入射するまでに進む距離L1、つまり、主光線420がx軸に交差する点と主光線420が眼球400と交差する点との間の距離L1は、次の演算によって得られる:L1=(Δ1
2+H1
2)1/2=(0.260872+0.400012)1/2=0.47755。
【0313】
以上より、屈折を無視したときのx軸と空気換算像面410との間の距離Lと、主光線420がx軸を通過してから眼球400に入射するまでに進む距離L1との差に、眼球屈折率nを乗算することによって、眼球400内における主光線420の長さL2、つまり、主光線420が眼球400(角膜)に交差する点と結像位置421との間の距離L2は、次の演算によって得られる:L2=(L-L1)・n=(4.38005-0.47755)・1.337=5.21764。
【0314】
また、眼球400の光軸(y軸)に対して、眼球400内における主光線420がなす角度θnは、次式により得られる:θn=θy′+θi′=18.52486+10.85705=29.38191。
【0315】
更に、眼球400内において主光線420がx方向に進む距離Δ2は、次の演算により得られる:L2・sinθn=5.21764・sin(29.38191)=2.55992。
【0316】
これにより、眼球400(被検眼)による屈折を考慮した結像位置421と眼球光軸(y軸)との間のx方向の距離Δ(目的の変位Δ)は、次式によって求められる:Δ=x0-Δ1-Δ2=2.71364-0.26087-2.55992=0.10715。
【0317】
このようにして求められた変位Δの大きさ(変位Δの絶対値)を所定閾値(例えば0.0001)と比較する。本例では、変位Δ=0.10715>0.0001であるから、θ1及びθ2を変更して4つの演算工程(1)~(4)を再び実行する。この反復的演算は、変位Δの大きさが閾値未満になるまで繰り返される。それにより、変位Δが十分に小さいとき、つまり、像面光軸と眼球光軸(照明光軸)とが実質的に一致するときの、主光線420の入射角の補正値が得られる。
【0318】
以上に説明した演算によって変位Δ<0.0001を満足するように求められた、角膜対応位置、前嚢対応位置、核対応位置、及び後嚢対応位置についての各種パラメータの値を以下の表に示す。
【0319】
【0320】
以上のシミュレーションによって得られた知見に基づき、被検眼Eの屈折率に起因する物面の偏向角を次のように設定することが可能である。
【0321】
まず、被検眼Eの屈折率による物面の偏向角は、照明系8の光軸(照明光軸O2)と撮影系6の光軸(撮影光軸O1)とのなす角度に少なくとも基づいて決定されてよい。
【0322】
ここで、照明光軸O2と撮影光軸O1とのなす角度は、0度よりも大きく且つ60度以下の範囲内の値に設定されてよい。当該角度範囲が0度を含まないことは、シャインプルーフの原理から当然である。また、当該角度範囲の最大値である60度は、シャインプルーフの原理を利用した前眼部撮影について本発明者らが試験を行って得た知見であり、角膜から水晶体までの範囲の画像を好適に取得可能な照明光軸O2と撮影光軸O1とのなす角度の限界値である。
【0323】
被検眼Eの屈折率による物面の偏向角は、照明光軸O2と撮影光軸O1とのなす角度に加え、角膜曲率半径に少なくとも基づいて決定されてもよい。
【0324】
ここで、角膜曲率半径の値は、所定の模型眼に基づき設定されてよい。この模型眼は、例えば、Gullstrand(グルストランド)模型眼、Navarro模型眼、Liou-Brennan模型眼、Badal模型眼、Arizona模型眼、Indiana模型眼、任意の規格化模型眼、及び、これらのいずれかと同等の模型眼のいずれかであってよい。
【0325】
典型的には、上記した演算例のように、角膜曲率半径の値は、グルストランド模型眼に基づいて、例えば7.7mm±0.5mmの範囲内の値に設定されてよい。
【0326】
被検眼Eの屈折率による物面の偏向角は、照明光軸O2と撮影光軸O1とのなす角度に加え、眼球屈折率に少なくとも基づいて決定されてよい。
【0327】
ここで、眼球屈折率の値は、所定の模型眼に基づき設定されてよい。この模型眼は、例えば、Gullstrand(グルストランド)模型眼、Navarro模型眼、Liou-Brennan模型眼、Badal模型眼、Arizona模型眼、Indiana模型眼、任意の規格化模型眼、及び、これらのいずれかと同等の模型眼のいずれかであってよい。
【0328】
典型的には、上記した演算例のように、眼球屈折率の値は、グルストランド模型眼に基づいて、例えば1.336±0.001の範囲内の値に設定されてよい。
【0329】
被検眼Eの屈折率による物面の偏向角は、照明光軸O2と撮影光軸O1とのなす角度に加え、角膜曲率半径及び眼球屈折率に少なくとも基づいて決定されてもよい。
【0330】
ここで、角膜曲率半径の値及び眼球屈折率の値のそれぞれは、前述したように、所定の模型眼に基づき設定されてよい。典型的には、上記演算例のように、グルストランド模型眼に基づいて、角膜曲率半径の値を7.7mm±0.5mmの範囲内の値に設定し、且つ、眼球屈折率の値を1.336±0.001の範囲内の値に設定することができる。
【0331】
角膜曲率半径の値が7.7mm±0.5mmの範囲内の値に設定され、且つ、眼球屈折率の値が1.336±0.001の範囲内の値に設定され、更に、照明光軸O2と撮影光軸O1とのなす角度が0度よりも大きく且つ60度以下の範囲内の値に設定された場合において、被検眼Eの屈折率による物面の偏向角は、0度よりも大きく且つ11.09度以下の範囲内の値に設定されてよい。ここで、物面の偏向角が0度よりも大きいことは、シャインプルーフの原理から自然に得られる事項である。また、偏向角の範囲の最大値11.09度は、演算工程(1)~(4)において、角膜曲率半径r=7.2mm、眼球屈折率n=1.337、及び、照明光軸O2と撮影光軸O1とのなす角度θ=θ1+θ2=60度を適用し、変位Δ<0.0001となるように演算を行うことによって得られた値である。
【0332】
このような本態様によれば、被検眼内外の屈折率の違いに起因するシャインプルーフ条件からの逸脱を、第1~第5の態様よりも高い精度及び高い確度で回避することが可能になる。
【0333】
本態様に、第1~第5の態様のうちのいずれか1つ又は2つ以上を組み合わせることが可能である。また、本態様の少なくとも一部を含む実施形態に対して、任意の公知技術を組み合わせることが可能であり、また、任意の公知技術に基づく変形(付加、置換等)を施すことも可能である。
【0334】
<その他の事項>
以上に説明した幾つかの態様は例示に過ぎない。よって、本発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を施すことが可能である。
【0335】
例えば、幾つかの態様において、スリットランプ顕微鏡の遠隔操作が可能であってよい。そのために、スリットランプ顕微鏡は、例えば、受信部と、制御部と、送信部とを含む。
【0336】
本態様のスリットランプ顕微鏡の受信部は、第1装置からの指示を通信回線を介して受信する。受信部は、前述の通信部の少なくとも一部を含む。第1装置は、例えば、スリットランプ顕微鏡を遠隔操作するための指示を入力するための操作デバイスと、入力された指示を受け付けるコンピュータと、受け付けた指示をスリットランプ顕微鏡に送信する送信デバイスとを含む。
【0337】
本態様のスリットランプ顕微鏡の制御部は、受信部により受信された指示にしたがって少なくとも照明系及び撮影系を制御する。これにより、被検眼の画像が得られる。制御部は、コンピュータ100の少なくとも一部を含む。
【0338】
本態様のスリットランプ顕微鏡の送信部は、指示に応じて取得された被検眼の画像又はそれを処理して得られたデータ(画像、解析データなど)を、通信回線を介して第2装置に送信する。送信部は、前述の通信部の少なくとも一部を含む。第2装置は、スリットランプ顕微鏡から送信された画像又はデータを受信する受信デバイスを少なくとも含み、例えば、受信された画像又はデータを記憶する記憶装置、受信された画像又はデータを処理するコンピュータなどを更に含む。
【0339】
スリットランプ顕微鏡200A及び200Bのように撮影系の光軸の向きを変更可能な構成の代わりに、ライトフィールドカメラを撮像装置として設けるとともに、この撮像装置により得られた画像に光学空間画像処理を施して少なくとも物面全体にわたりピントが合った画像を得るようにしてもよい。
【0340】
幾つかの態様のいずれか1つ又はいずれか2以上の組み合わせに係る処理をコンピュータに実行させるプログラムを構成することが可能である。また、幾つかの態様のいずれか1つ又はいずれか2以上の組み合わせに対して本発明の要旨の範囲内における変形を適用して実現される処理をコンピュータに実行させるプログラムを構成することが可能である。
【0341】
更に、このようなプログラムを記録したコンピュータ可読な非一時的記録媒体を作成することが可能である。この非一時的記録媒体は任意の形態であってよく、その例として、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどがある。
【0342】
本発明は、幾つかの態様のいずれか1つ又はいずれか2以上の組み合わせにより実現される方法を含む。また、幾つかの態様のいずれか1つ又はいずれか2以上の組み合わせに対して本発明の要旨の範囲内における任意の変形を適用することによって実現される方法も、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0343】
200、200A、200B、200C、200D スリットランプ顕微鏡
6 撮影系
6a 光学系
8 照明系
O2 照明光軸
43 撮像素子
60 移動機構
61 第2偏向機構
70 第1偏向機構
100 コンピュータ
111 第1偏向制御部
112 第2偏向制御部
121 3次元画像構築部
122 レンダリング部
123 解析部
124 画質評価部
125 計測部
126 第1決定部
127 第2決定部
128 第3決定部
129 第4決定部
130 データ受付部