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  • 特許-廃水処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】廃水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20240216BHJP
【FI】
C02F1/58 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019238587
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107046
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】窪井 浩徳
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109231700(CN,A)
【文献】特開2017-140610(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109455806(CN,A)
【文献】特開昭51-054561(JP,A)
【文献】特開平02-235868(JP,A)
【文献】国際公開第2014/027427(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/027665(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58 - 1/64
1/00
9/00 - 9/20
3/28 - 3/34
C07B 31/00 - 61/00
63/00 - 63/04
C07C 1/00 - 409/44
C08G 18/00 - 18/87
71/00 - 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシアンジアミドとチオ尿素とを含む廃水において、酸性下にこれらを反応させる処理工程を含み、
前記処理工程において、前記廃水における水層の温度が20~80℃であり、
前記処理工程は、前記廃水中の水層に塩酸、硫酸、または硝酸を添加して、前記水層のpHを1以下にする工程を含み、
前記処理工程の前に、
ポリハロゲン化合物またはポリオール化合物と、チオ尿素と、を反応させてイソチウロニウムを得る工程aと、
前記イソチウロニウムに塩基性化合物を添加し、当該イソチウロニウムを分解して、有機メルカプト化合物と、前記ジシアンジアミドとを得る工程bと、
を含み、
前記廃水中に含まれる前記ジシアンジアミドは工程bで得られたジシアンジアミドであり、前記廃水中に含まれる前記チオ尿素は工程aにおける未反応のチオ尿素である、廃水処理方法。
【請求項2】
工程aは、
下記一般式(1)
-(X) (1)
(一般式(1)中、Qは硫黄原子を含む炭素数1~30のn価の有機基であり、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子または水酸基であり、nは1~10の整数を示す。)
で表されるポリハロゲン化合物またはポリオール化合物と、チオ尿素とを反応させて下記一般式(2)で表されるイソチウロニウムを得る工程を含み、
-(S-C(=NH )-NH (2)
(一般式(2)中、Q、nは一般式(1)と同義である。)
工程bは、前記イソチウロニウムに塩基性化合物を添加し、当該イソチウロニウムを分解して下記一般式(3)
-(SH) (3)
(一般式(3)中、Q、nは一般式(1)と同義である。)
で表される有機メルカプト化合物と、ジシアンジアミドとを得る工程を含む、請求項1に記載の廃水処理方法。
【請求項3】
前記有機メルカプト化合物が、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、および2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアンから選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の廃水処理方法。
【請求項4】
前記有機メルカプト化合物が、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンである、請求項1~3のいずれかに記載の廃水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機メルカプト化合物を合成する際に生じる廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機メルカプト化合物、特に分子中にメルカプト基を2つ以上有するポリチオール化合物は、ポリチオウレタン樹脂やポリチオウレタンウレア樹脂のモノマー、2液混合反応型エポキシ樹脂の硬化剤、その他、医薬品、農薬、電子材料などの工業製品製造用中間体として工業的に広く使用されている有用な化合物である。
【0003】
ポリチオウレタン樹脂のモノマーとして使用されるポリチオール化合物の製造方法が記載されている文献としては、例えば以下の特許文献1及び2が挙げられる。
【0004】
特許文献1では、2-メルカプトエタノールと、エピハロヒドリン化合物と、を反応させ、得られたポリアルコール化合物をチオ尿素と反応させてイソチウロニウム塩を得て、得られたイソチウロニウム塩を加水分解することにより、ポリチオール化合物を製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2では、2-メルカプトエタノールと、エピハロヒドリン化合物と、を反応させ、得られた化合物を硫化ナトリウムと反応させてポリアルコール化合物を得て、得られたポリアルコール化合物をチオ尿素と反応させてイソチウロニウム塩とした後、イソチウロニウム塩を加水分解することにより、ポリチオール化合物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/027427号
【文献】国際公開第2014/027428号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、未反応のチオ尿素を含む廃水を処理する場合、活性汚泥に対するチオ尿素の毒性は高く、簡便な方法で廃水の毒性を低減する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、有機メルカプト化合物とともに得られるジシアンジアミドをチオ尿素と反応させることで廃水の毒性を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
[1] ジシアンジアミドとチオ尿素とを含む廃水において、酸性下にこれらを反応させる処理工程を含む、廃水処理方法。
[2] 前記処理工程の前に、
ポリハロゲン化合物またはポリオール化合物と、チオ尿素と、を反応させてイソチウロニウムを得る工程aと、
前記イソチウロニウムに塩基性化合物を添加し、当該イソチウロニウムを分解して、有機メルカプト化合物と、前記ジシアンジアミドとを得る工程bと、
を含み、
前記廃水中に含まれる前記ジシアンジアミドは工程bで得られたジシアンジアミドであり、前記廃水中に含まれる前記チオ尿素は工程aにおける未反応のチオ尿素である、[1]に記載の廃水処理方法。
[3] 工程aは、
下記一般式(1)
-(X) (1)
(一般式(1)中、Qは硫黄原子を含む炭素数1~30のn価の有機基であり、Xはハロゲン原子または水酸基であり、nは1~10の整数を示す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)
で表されるポリハロゲン化合物またはポリオール化合物と、チオ尿素とを反応させて下記一般式(2)で表されるイソチウロニウムを得る工程を含み、
-(S-C(=NH )-NH (2)
(一般式(2)中、Q、nは一般式(1)と同義である。)
工程bは、前記イソチウロニウムに塩基性化合物を添加し、当該イソチウロニウムを分解して下記一般式(3)
-(SH) (3)
(一般式(3)中、Q、nは一般式(1)と同義である。)
で表される有機メルカプト化合物と、ジシアンジアミドとを得る工程を含む、
[1]または[2]に記載の廃水処理方法。
[4] 前記処理工程において、前記廃水の少なくとも一部のpHは1以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の廃水処理方法。
[5] 前記処理工程は、前記廃水に塩酸、硫酸、または硝酸を添加して、該廃水を酸性にする工程を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の廃水処理方法。
[6] 前記処理工程における前記廃水の温度は、20~80℃である、[1]~[5]のいずれかに記載の廃水処理方法。
[7] 前記有機メルカプト化合物が、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、および2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアンから選択される少なくとも1種である、[2]~[6]のいずれかに記載の廃水処理方法。
[8] 前記有機メルカプト化合物が、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンである、[2]~[7]のいずれかに記載の廃水処理方法。
[9] ジシアンジアミドを含む、チオ尿素含有廃水用処理剤。
[10] ジシアンジアミドのチオ尿素含有廃水用処理剤としての使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、チオ尿素を含む廃水の毒性を簡便な方法で低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、廃水中の塩酸量と、チオ尿素およびジシアンジアミドの残存率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の廃水処理方法を実施の形態に基づき説明する。
本実施形態の廃水処理方法は、ジシアンジアミドとチオ尿素とを含む廃水において、酸性下にこれらを反応させる処理工程を含む。
チオ尿素を含む廃水にジシアンジアミドを添加し、酸性下にこれらを反応させてもよく、または目的とする化合物を合成する際にジシアンジアミドが生成し当該ジシアンジアミドがチオ尿素とともに廃水に含まれる場合には、酸性下にこれらを反応させてもよい。
なお、廃水中のジシアンジアミドは一部が析出していてもよい。
【0012】
本実施形態の廃水処理工程においては、具体的に、以下の反応式で示される反応が進行し、ビグアニドおよびチオアンメリンが生成する。生成するビグアニドおよびチオアンメリンは、特にチオアンメリンは、魚毒性が極めて低く、さらにチオ尿素と比較して活性汚泥に対する毒性が低いことから、本実施形態の方法により廃水中のチオ尿素の濃度を効率的に低減することができ、廃水の毒性を簡便な方法で低減できることができる。
【0013】
【化1】
【0014】
本工程において、前記水層の少なくとも一部のpHが1以下、好ましくは0以下、より好ましくは-0.2以下、特に好ましくは-1.0以上-0.2以下とすることができる。
【0015】
pHが当該範囲であると、ジシアンジアミドの加水分解によるグアニル尿素の生成が抑制され、さらにチオ尿素とジシアンジアミドとの上記反応が進行することから、チオ尿素を含む廃水の毒性をより効果的に低減することができる。
【0016】
本工程は、前記水層に塩酸、硫酸、または硝酸を添加して、該水層を酸性にする工程を含む。水層のpHが上記範囲となるように、これらの酸を一括して添加することができ、反応中に水層のpHが上記範囲から外れた際には滴下等により追加することもできる。
すなわち、本工程は、全工程に亘って水層のpHが上記範囲に維持される場合と、水層のpHが上記範囲から一時的に外れる場合とを含む。
【0017】
本工程における前記水層の温度は、20~80℃、好ましくは40~60℃とすることができる。当該温度範囲であると、チオ尿素とジシアンジアミドとの上記反応がより効果的に進行する。
【0018】
反応時間は、所望とするチオ尿素の濃度に応じて適宜設定することができるが、通常は、1~10時間程度である1~10時間程度である。廃水中のチオ尿素の濃度の許容値は、活性汚泥の硝化反応を阻害しない濃度の目安として0.8~3.8ppm程度である。
なお、本工程においては、反応後の前記水層のpHは上昇する傾向があるが、少なくとも一部のpHが2以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは0以下とすることができる。
反応圧力も特に限定されず常圧で行うことができる。
【0019】
本実施形態において、ジシアンジアミドにより廃水中のチオ尿素の毒性を低減できることから、ジシアンジアミドまたはジシアンジアミドを含む組成物を、チオ尿素含有廃水処理剤として使用することができる。
【0020】
本実施形態の廃水処理方法を、具体的な目的化合物の製造において行う方法を以下に説明する。
本実施形態の廃水処理方法は以下の工程を含む。
工程a:ポリハロゲン化合物またはポリオール化合物と、チオ尿素と、を反応させてイソチウロニウムを得る。
工程b:前記イソチウロニウムに塩基性化合物を添加し、当該イソチウロニウムを分解して、有機メルカプト化合物と、ジシアンジアミドと、を得る。
工程c:工程bで得られたジシアンジアミドと、工程aにおける未反応のチオ尿素とを含む廃水において、酸性下にこれらを反応させる。
本実施形態の廃水処理方法は、チオ尿素を含む廃水の毒性を簡便な方法で低減できる工程を有していることから、作業効率に優れ、ひいては有機メルカプト化合物の生産効率に優れ、さらに製造コストも低減することができる。
【0021】
[工程a]
本工程においては、ポリハロゲン化合物またはポリオール化合物と、チオ尿素と、を反応させてイソチウロニウムを得る。
【0022】
ポリハロゲン化合物またはポリオール化合物としては、本発明の効果を得ることができれば特に限定することなく公知の化合物を用いることができる。本実施形態においては、例えば、ポリハロゲン化合物またはポリオール化合物として、下記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0023】
-(X) (1)
一般式(1)中、Qは硫黄原子を含む炭素数1~30のn価の有機基であり、Xはハロゲン原子または水酸基であり、nは1~10の整数を示す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。
【0024】
における有機基は、鎖状構造、脂環式構造、芳香族構造を有してもよい。Qにおける有機基は、硫黄原子を含み、具体体にはスルフィド結合及び/又はメルカプト基を有することが好ましい。
nは、1~7が好ましく、1~5がより好ましい。
【0025】
一般式(1)で表される化合物としては、特に限定されないが、3-チア-1-ペンタノール、3,7-ジチア-1,5,9-ノナントリオール、9-クロロ-3,7-ジチア-1,5-ノナンジオール、5-クロロ-3,7-ジチア-1,9-ノナンジオール、5,9-ジクロロ-3,7-ジチア-1-ノナノール、1,9-ジクロロ-3,7-ジチア-5-ノナノール、3,7,11-トリチア-1,5,9,13-トリデカンテトラオール、13-クロロ-3,7,11-トリチア-1,5,9-トリデカントリオール、9-クロロ-3,7,11-トリチア-1,5,13-トリデカントリオール、9,13-ジクロロ-3,7,11-トリチア-1,5-トリデカンジオール、5,13-ジクロロ-3,7,11-トリチア-1,9-トリデカンジオール、1,13-ジクロロ-3,7,11-トリチア-5,9-トリデカンジオール、5,9-ジクロロ-3,7,11-トリチア-1,13-トリデカンジオール、5,9,13-トリクロロ-3,7,11-トリチア-1-トリデカノール、1,9,13-トリクロロ-3,7,11-トリチア-5-トリデカノール、3-チア-1,5-ペンタンジオール、5-クロロ-3-チア-1-ペンタノール、2,5-ジ(ヒドロキシメチル)-1,4-ジチアン、5-クロロメチル-2-ヒドロキシメチル-1,4-ジチアン、2,5-ビス(ブロモメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス(クロロメチル)-1,4-ジチアン、6-クロロ-1,5-ヘキサンジオール、5,6-ジクロロ-1-ヘキサノール、1,6-ジクロロ-5-ヘキサノール等を挙げることができる。
【0026】
本工程においては、一般式(1)で表される化合物の置換基Xに対するチオ尿素のモル比は1~1.5モル程度である。反応は、塩化水素存在下において行うことができ、室温から還流温度の範囲で、1~10時間程度で行う。
【0027】
一般式(1)で表される化合物とチオ尿素との反応により、下記一般式(2)のイソチウロニウムが得られる。塩化水素としては、塩酸水溶液、塩化水素ガスを用いることができる。
-(S-C(=NH )-NH (2)
一般式(2)中、Q、nは一般式(1)と同義である。
【0028】
[工程b]
本工程においては、工程aで得られた前記イソチウロニウムに塩基性化合物を添加し、当該イソチウロニウムを分解して、有機メルカプト化合物と、ジシアンジアミドと、を得る。
塩基性化合物としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム(水和物でもよい)等を挙げることができる。
【0029】
具体的には、塩基性化合物を添加した後、室温から還流温度範囲、好ましくは30~80℃において、1~8時間程度の間でイソチウロニウムの加水分解反応を行う。反応後、水層を分液し、有機メルカプト化合物を得ることができる。当該水層には、反応により生成したジシアンジアミドと、未反応のチオ尿素が含まれる。
塩基性化合物は水溶液として添加することもできる。
【0030】
工程bは、イソチウロニウムに有機溶媒および塩基性化合物を添加し、イソチウロニウムを加水分解して有機メルカプト化合物を得ることもできる。なお、有機溶媒および塩基性化合物の添加順序は限定されない。
有機溶媒としては、反応が進行すれば特に限定されないが、例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等を挙げることができる。
【0031】
反応後、有機溶媒層と水層とを分液し、有機溶媒層に含まれる下記一般式(3)の有機メルカプト化合物を得ることができる。
-(SH) (3)
一般式(3)中、Q、nは一般式(1)と同義である。
前記有機メルカプト化合物が、WO2016/125736号に例示された化合物を挙げることができる。
【0032】
本実施形態において、前記有機メルカプト化合物は、特に限定されないが、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、および2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタンから選択される少なくとも一種であることが好ましく、
4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、および2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアンから選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
分液により回収された、ジシアンジアミドと未反応のチオ尿素とを含む水層は、工程cにおいて処理される。
【0033】
[工程c]
本工程においては、工程bで得られた水層において、前記ジシアンジアミドと前記チオ尿素とを酸性下に反応させる。
【0034】
本工程は前述の廃水処理工程と同様に行うことができる。
工程cにおいて処理された水層を廃水処理設備において処理される。
【0035】
以上のように、本実施形態の廃水処理方法は、チオ尿素を含む廃水の毒性を簡便な方法で低減できることができ、作業効率に優れていることから、有機メルカプト化合物の生産効率に優れ、さらに製造コストも低減することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例
【0037】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
[製造例1]
(4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンを主成分とするポリチオール化合物の合成)
反応器内に、2-メルカプトエタノール124.6重量部、脱気水(溶存酸素濃度2ppm)18.3重量部を装入した。12~35℃にて、32重量%の水酸化ナトリウム水溶液101.5重量部を40分かけて滴下装入した後、エピクロルヒドリン73.6重量部を29~36℃にて4.5時間かけて滴下装入し、引き続き40分撹拌を行った。NMRデータから、1,3-ビス(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-プロパノールの生成を確認した。
35.5%の塩酸331.5重量部を装入し、次に、純度99.90%のチオ尿素183.8重量部を装入し、110℃還流下にて3時間撹拌して、チウロニウム塩化反応を行った。45℃まで冷却した後、トルエン320.5重量部を加え、31℃まで冷却し、25重量%のアンモニア水溶液243.1重量部を31~41℃で44分掛けて装入し、54~62℃で3時間撹拌により加水分解反応を行った。続いて、有機層と水層を分液して、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンを主成分とするポリチオールのトルエン溶液(有機層)と水層とをそれぞれ得た。
【0039】
[実施例1]
チオ尿素を4100ppm、ジシアンジアミドを44000ppm含有する製造例1で得られた水層200gに、35%塩酸22.52gを加えた。pHは0.00になった。これを60℃で8時間加熱したところ、pHは1.88になり、チオ尿素の残存率は32.2%、ジシアンジアミドの残存率は63.8%となった。表-1に廃水処理結果を示し、図1に、廃水中の塩酸量と、チオ尿素およびジシアンジアミドの残存率との関係を示す。
【0040】
[実施例2]
チオ尿素を4100ppm、ジシアンジアミドを44000ppm含有する製造例1で得られた水層200gに、35%塩酸30.13gを加えた。pHは-0.63になった。これを60℃で8時間加熱したところ、pHは1.42になり、チオ尿素の残存率は4.4%、ジシアンジアミドの残存率は18.9%となった。表-1に廃水処理結果を示し、図1に、廃水中の塩酸量と、チオ尿素およびジシアンジアミドの残存率との関係を示す。
【0041】
[実施例3]
チオ尿素を4100ppm、ジシアンジアミドを44000ppm含有する製造例1で得られた水層200gに、35%塩酸34.63gを加えた。pHは-0.62になった。これを60℃で8時間加熱したところ、pHは0.00になり、チオ尿素の残存率は2.8%、ジシアンジアミドの残存率は0.3%となった。表-1に廃水処理結果を示し、図1に、廃水中の塩酸量と、チオ尿素およびジシアンジアミドの残存率との関係を示す。
【0042】
[実施例4]
チオ尿素を4100ppm、ジシアンジアミドを44000ppm含有する製造例1で得られた水層200gに、35%塩酸40.00gを加えた。pHは-0.64になった。これを60℃で8時間加熱したところ、pHは-0.39になり、チオ尿素の残存率は3.9%、ジシアンジアミドの残存率は0.0%となった。表-1に廃水処理結果を示し、図1に、廃水中の塩酸量と、チオ尿素およびジシアンジアミドの残存率との関係を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例の結果から、ジシアンジアミドとチオ尿素とを含む廃水において、酸性下にこれらを反応させることにより、チオ尿素を含む廃水の毒性を簡便な方法で低減できることができることが明らかとなった。
図1