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特許7437937自動車のハイブリッドパワートレインの制御設定値の算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】自動車のハイブリッドパワートレインの制御設定値の算出方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/10 20160101AFI20240216BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240216BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240216BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20240216BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20240216BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240216BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240216BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20240216BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20240216BHJP
【FI】
B60W20/10 ZHV
B60L15/20 K
B60L50/16
B60W10/00 106
B60W10/06
B60W10/06 900
B60W10/08
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60W10/11
B60W20/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019547301
(86)(22)【出願日】2018-02-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 FR2018050417
(87)【国際公開番号】W WO2018158524
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-12-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】1751679
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】311009022
【氏名又は名称】ルノー エス.アー.エス.
(73)【特許権者】
【識別番号】516017684
【氏名又は名称】ユニバーシテ ド オルレアン
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】アジェ-サイド, スワド
(72)【発明者】
【氏名】ケットゥフィ-シェリフ, アメード
(72)【発明者】
【氏名】コラン, ギヨーム
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】青木 良憲
【審判官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-269257(JP,A)
【文献】特開2016-193686(JP,A)
【文献】特表2015-524363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/10
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 10/10
B60W 20/30
B60W 10/00
B60W 10/11
B60L 50/16
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車(1)のハイブリッドパワートレインの制御設定値の算出方法であって、前記ハイブリッドパワートレインは、電流が供給される電動モータ(32)と、ギヤボックス(23)を備え、かつ燃料が供給される内燃機関(22)とを有し、前記方法は、
前記自動車(1)の駆動輪(10)に要求される動力(P)に関する値を取得する工程と、
前記駆動輪(10)における前記動力要求(P)を満たすために、前記電動モータ(32)および前記内燃機関(22)の寄与を決定する工程と、を有し、
前記決定する工程において、前記内燃機関(22)の燃料消費と前記電動モータ(32)の電気エネルギー消費の合計を最小限にするために、前記電動モータ(32)が供給しなければならない電気機械力(P opt)に関する値、前記内燃機関(22)が供給しなければならない熱機械力(Pth opt)に関する値、および前記ギヤボックス(23)に係合させなければならない比(Rth opt)に関する値を含む、3つの値のトリプレット(Pth opt、Rth opt、P opt)を算出し、
前記トリプレット(Pth opt、Rth opt、P opt)は、前記内燃機関(22)の燃料消費(Q)の解析モデルおよび前記電動モータ(32)の電気エネルギー消費(Pbat)の解析モデルによって、算出され、
前記トリプレット(Pth opt、Rth opt、P opt)は、前記電動モータ(32)の前記電気エネルギー消費(Pbat)および前記内燃機関(22)の前記燃料消費(Q)の関数として定義されるハミルトニアン(Hhyb)を最小化することによって得られ、
前記内燃機関(22)が供給しなければならない熱機械力(Pth)に関する値の関数としての前記内燃機関(22)の燃料消費(Q)の前記解析モデルが、以下の式によって与えられることを特徴とする算出方法。
【数1】

およびaは、a<aとなるような実験的に得られる2つの所定の定数であり、
、Qlim、Pth,min、Pth,maxおよびPlimのパラメータは、前記内燃機関(22)の動作点の関数として算出され、前記内燃機関(22)の回転数(ωth)に従って変化する。
【請求項2】
前記電動モータ(32)が供給しなければならない電気機械力(P)に関する値の関数としての前記電動モータ(32)の電気エネルギー消費(Pbat)の前記解析モデルが以下の式によって与えられる、請求項1に記載の算出方法。
【数2】

、a、b、Pe,minおよびPe,maxのパラメータは、aがaよりも小さくなるように、前記電動モータ(32)の動作点の関数として算出され、前記電動モータ(32)の回転数に従って変化する。
【請求項3】
前記ハミルトニアン(Hhyb)が、次の形成で書かれる、請求項1、又は2に記載の算出方法。
【数3】
Q(Pth)は、前記内燃機関(22)の前記燃料消費(Q)を表し、
bat(P)は、前記電動モータ(32)の前記電気エネルギー消費(Pbat)を表し、
λは重み付け係数であり、
前記トリプレット(Pth opt、Rth opt、P opt)の前記熱機械力(Pth opt)に関する値は、前記重み付け係数と、前記駆動輪(10)で要求される前記動力(P)に関する値との関数として決定される。
【請求項4】
前記トリプレット(Pth opt、Rth opt、P opt)の前記熱機械力(Pth opt)に関する値は、以下の値から選択される、請求項3に記載の算出方法。
前記パラメータPth,mim
前記パラメータPth,max
前記パラメータPlim、および
前記駆動輪(10)で要求される前記動力(P)に関する値P
【請求項5】
前記ギヤボックス(23)に係合されなければならない前記比(Rth opt)に関する前記トリプレット(Pth opt、Rth opt、P opt)の値は、
前記ギヤボックス(23)に係合することができる比(Rth opt)毎に前記ハミルトニアン(Hhyb opt)を算出し、次いで、
前記ハミルトニアン(Hhyb opt)の値のうち最も低い値に関する比を選択することによって得られる、請求項1、又は2に記載の算出方法。
【請求項6】
前記ギヤボックス(23)に係合されなければならない前記比(Rth opt)に関する前記トリプレット(Pth opt、Rth opt、P opt)の値は、前記重み付け係数(λ)と、前記駆動輪(10)で要求される前記動力(P)に関する値との関数として得られる、請求項3に記載の算出方法。
【請求項7】
前記トリプレット(Pth opt、Rth opt、P opt)の前記電気機械力( opt )に関する値は、前記駆動輪(10)で要求される前記動力(P)に関する値と、前記トリプレット(Pth opt、Rth opt、P opt)の前記熱機械力(Pth opt)に関する値との関数として推定される、請求項1~6のいずれか1項に記載の算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明が関連している技術分野
本発明は、概して、ハイブリッドパワートレイン、すなわち、電動モータと、ギヤボックスを備えた内燃機関とを有するパワートレインを備えた自動車に関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、そのようなパワートレインの制御設定値の算出方法に関し、この方法は、
-自動車の駆動輪で要求される動力に関する値を取得する工程と、
-駆動輪での動力要求を満たすために、電動モータおよび内燃機関の寄与を決定する工程と、を有する。
【背景技術】
【0003】
技術的背景
ハイブリッド車両は、(内燃機関、燃料タンクおよびギヤボックスを備える)従来の熱トラクションチェーンと、(トラクションバッテリおよび少なくとも1つの電動モータを備える)電気トラクションチェーンとを有する。
【0004】
そのようなハイブリッド車両は、その電気トラクションチェーンのみによって、またはその熱トラクションチェーンのみによって、または同時にその電気トラクションチェーンおよび熱トラクションチェーンの2つによって、駆動されることが可能である。
【0005】
大気中への汚染成分の放出を最大限に減らし、かつ車両にとって最良の範囲を保証するために、内燃機関の燃料消費およびモータの電気エネルギー消費を最小限に抑えることが常に求められている。
【0006】
この目的を達成するために、電動モータと内燃機関との間に供給される総合動力を最も適切に分配することが求められている。
【0007】
したがって、文献WO2016/070887より、電動モータによって供給される電気機械力と内燃機関によって供給される熱機械力との間の良好な分配を見つけることを、原則として可能にする凸最適化方法が知られている。
【0008】
しかしながら、出願人は、この方法が、必ずしも所望されるほど効果的な結果を与えなかったことを見出した。
【発明の概要】
【0009】
発明の主題
この欠点を改善するために、本発明は、前述の凸最適化方法において、ギヤボックス比である第3のパラメータを統合することを提案する。
【0010】
より具体的には、導入部で定義した本発明による制御方法が提案され、この制御方法では、決定する工程において、内燃機関の燃料消費および電動モータの消費電流を最小限に抑えることを可能にする3つの値のトリプレットを算出することが提供され、これらの3つの値はそれぞれ、
-電動モータが供給しなければならない電気機械力、
-内燃機関が供給しなければならない熱機械力、および
-ギヤボックスに係合しなければならない比、に関する。
【0011】
目的は、例えば、より正確には、内燃機関の燃料消費と電動モータの電気エネルギー消費との合計を最小にすることであってもよい。
【0012】
よって、本発明により、見出された値のトリプレットは、係合されるギヤボックス比が最良であり、かつこのボックス比で、電気機械力と熱機械力との間の分配が最適であることを保証することを可能にする。
【0013】
本開示の残りの部分で明らかになるように、この解決策は、使用される電動モータの種類、内燃機関の種類、およびトラクションバッテリの種類が何であれ、堅牢であり、かつ実施が容易であるという利点を有する。
【0014】
本発明による算出方法の他の有利かつ非限定的な特徴は、以下の通りである。
-トリプレットは、内燃機関の燃料消費の解析モデルおよび電動モータの電気エネルギー消費の解析モデルによって算出され、
-内燃機関が供給しなければならない熱機械力に関する値の関数としての内燃機関の燃料消費の解析モデルは、以下の式によって与えられる。
【0015】
【数1】

およびaは、a<aとなるような2つの所定の定数であり、
、Qlim、Pth,min、Pth,maxおよびPlimのパラメータは、内燃機関の動作点(回転数および温度)に応じて算出され、
-Q、Qlimは、所定の回転数での内燃機関の燃料消費限界に関するパラメータであり、
-Pth,min、Pth,maxは、所定の回転数での内燃機関が発生することができる動力限界に関するパラメータであり、
-Plimは、動力パラメータであり、
-電動モータが供給しなければならない電気機械力に関する値の関数としての電動モータの電気エネルギー消費の解析モデルは、以下の式によって与えられる。
【0016】
【数2】

、a、b、Pe,minおよびPe,maxのパラメータは、aがaよりも小さくなるように、電動モータの動作点(回転数、電源電圧および温度)の関数として算出され、
-Pe,min、Pe,maxは、所定の回転数で、電動モータが発生することができる動力限界に関するパラメータであり、
-トリプレットは、電動モータの電気エネルギー消費および内燃機関の燃料消費の関数として定義されるハミルトニアンを最小化することによって得られ、
-前記ハミルトニアンは、以下の形式で書かれる。
【0017】
【数3】
Q(Pth)は、内燃機関の燃料消費を表し、
bat(P)は、電動モータの消費電流を表し、
λは、重み付け係数であり、
前記トリプレットの熱機械力に関する値は、前記重み係数と、駆動輪で要求される動力に関する値との関数として決定される。
【0018】
-前記トリプレットの熱機械力に関する値は、以下の値から選択される:
・パラメータPth,min
・パラメータPth,max
・パラメータPlim、および
・駆動輪に要求される動力に関する値Pr、
-ギヤボックスに係合されなければならない比に関するトリプレットの値は、ギヤボックスに係合され得る比毎に前記ハミルトニアンの値を算出し、次いで、前記ハミルトニアンの値のうち最も低い値に関連する比を選択することによって得られ、
-ギヤボックスに係合されなければならない比に関するトリプレットの値は、前記重み付け係数と、駆動輪に要求される動力に関連する値との関数として得られ、
-前記トリプレットの電気機械力に関する値は、駆動輪に要求される動力に関する値と、前記トリプレットの熱機械力に関連する値との関数として推定される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
非限定的な例として与えられた添付図面に関する以下の説明は、本発明がどのように構成され、どのように実施され得るかの明確な理解を与えるのであろう。
図1図1は、ハイブリッド自動車のトラクションチェーンの概略図である。
図2図2は、本発明による方法に従ってハミルトニアンの数式を得る方法を示すグラフである。
図3図3A~3Cは、本発明による方法に従って熱動力の最適値を得る方法を示すグラフである。
図4図4は、熱動力の最適値を得る別の方法を示す表である。
図5図5は、本発明による方法に従ってギヤボックス比の最適値を得る方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
従来、自動車は、特にパワートレイン、車体要素、および車室要素を支持するシャーシを有する。
【0021】
図1に示すように、ハイブリッド型自動車1では、ハイブリッドパワートレインは、熱トラクションチェーン20と電気トラクションチェーン30とを有する。
【0022】
熱トラクションチェーン20は、特に、燃料タンク21と、タンクから燃料が供給される内燃機関22と、その入力で内燃機関に連結され、かつ出力で自動車の駆動輪10に連結されたギヤボックス23とを有する。
【0023】
電気トラクションチェーン30としては、トラクションバッテリ31と、トラクションバッテリ31によって電流が供給され、その出力軸が自動車の駆動輪10に連結された1つ(または変形例では複数)の電動モータ32とを有する。
【0024】
したがって、これらの2つのトラクションチェーンは、自動車の駆動輪10を回転させるように結合する。
【0025】
さらに、自動車1は、前述の2つのトラクションチェーン(特に、電動モータ32および内燃機関22によって発生する動力)を制御するための、ここではコンピュータ50と呼ばれる電子制御ユニット(ECU)を有する。
【0026】
コンピュータ50は、プロセッサと、以下で説明する方法の文脈で使用されるデータを記録するメモリとを有する。
【0027】
このメモリは、特に、図4に示すタイプのテーブルを記録する(このことは、本開示において後に詳述される)。
【0028】
それはまた、プロセッサによる実行により、以下に記載される方法のコンピュータ50による実施を可能にする命令を有するコンピュータプログラムからなるコンピュータアプリケーションを記録する。
【0029】
本発明を実施するために、コンピュータ50は、センサに接続されている。
【0030】
それは、特に、車両がどの程度加速または減速しなければならないかを測定するためのセンサに接続されている。それは、車両のアクセルペダルの位置を測定するセンサ、または車両の速度を測定するセンサ(車両が運転者によって課せられた速度指令に従わなければならない場合)であってもよい。
【0031】
したがって、いずれにしても、コンピュータ50は、要求されるダイナミクスでこの車両を走行させるために、車両の運転者によって要求される動力に関するデータ項目の値を取得することができる。ここで、コンピュータ50は、駆動輪10が受けなければならない動力(以下、「駆動輪における動力P」という)の値をより正確に得るものと考えられる。
【0032】
本発明を明確に理解するための他の概念をここで定義することができる。
【0033】
電動モータ32のみによって駆動輪10に供給される動力を、ここでは「電気機械力P」という。
【0034】
トラクションバッテリ31から電動モータ32に供給される動力を、ここでは「電気動力Pbat」という。
【0035】
内燃機関22のみからギヤボックス23に供給される動力を、ここでは「熱機械力Pth」という。
【0036】
ギヤボックス23の比を、ここでは「ボックス比Rth」という。
【0037】
内燃機関22の燃料消費を「燃料流量Q」と呼ぶ。
【0038】
パーセンテージで表されるトラクションバッテリ31の充電状態を「充電レベルSOC」と呼ぶ。
【0039】
本発明の主題は、以下のことを保証するために、最も適したボックス比Rthの状態で、電動モータ32および内燃機関22が、それぞれ、運転者が要求する駆動輪での動力要求Pを満たすために供給しなければならない寄与を決定することからなる。
-最小の燃料消費、および
-(例えば、ナビゲーションおよびジオロケーション機器に記憶された旅程の最後に)しきい値よりも高い充電レベルSOC。
【0040】
そうでなければ、以下に説明する本発明の主題は、駆動輪で要求される動力Pに従って、最小限のエネルギー消費を保証するトリプレット{Pth opt,Rth opt,P opt}を見つけることとなる(指数「opt」は、それが最適値であることを意味する)。
【0041】
以下で明らかになるように、該方法においてボックス比Rthを考慮に入れることは、該問題を数学的な意味で複合化させる。
【0042】
本発明の良好な理解を保証するために、トリプレット{Pth opt,Rth opt,P opt}の算出を達成するための方法は、以下の開示において明確に詳述されるが、実際には車両に設置されたコンピュータ50によって実際に実施される方法は、より単純になる。「実際に」という表現は、コンピュータ50によって実際に実施される工程を本開示の全体と区別するために、以下で使用される。
【0043】
本発明による方法は、内燃機関22の燃料消費および電動モータ32の電気エネルギー消費の解析モデリングに基づいている。
【0044】
熱機械力Pthの関数としての内燃機関22の燃料流量Qの解析モデルは、ここでは以下の式によって与えられる。
【0045】
【数4】
[式1]
およびaは、a<aとなるような2つの所定の定数である。
【0046】
このモデルでは、(当該車両のモデルに対して複数の試験を行い、その値を最小二乗法により推定することによって)自動車のモデル毎に、定数aおよびaを実験的に得る。
【0047】
パラメータQ、Qlim、Pth,min、PlimおよびPth,maxとしては、内燃機関22の回転数ωthに応じて変化する変数である。
【0048】
これらの変数は、以下のようにモデル化される:
(ωth)=q2.ωth +q1.ωth+q
lim(ωth)=a1.lim+Q(ωth)、
lim(ωth)=p1.ωth+p
th,mim(ωth)=k1.ωth+k
th,max(ωth)=-Q(ωth)/a
【0049】
このモデリングでは、q、q、q、p、p、kおよびkは、自動車のモデル毎に実験的に得られた定数である。
【0050】
電動モータ32が供給しなければならない電気機械力Pによって消費される電気動力、即ち電気エネルギー消費batの解析モデルは、ここでは以下の式によって与えられる。
【数5】

<aである。
【0051】
このモデルでは、パラメータa、a、b、Pe,minおよびPe,maxは、電動モータ32の回転数に応じて変化する変数である。
【0052】
さらに、ハイブリッドパワートレインの機械的バランスは、以下の式によって与えられる。
【0053】
=Pth+P [式3]
【0054】
上述したように、コンピュータ50は、選択された旅でのハイブリッドパワートレインのエネルギー消費を最小限に抑えるように、熱機械力Pth、電気機械力P、およびボックス比Rthを最適化しようとする。
【0055】
この最適化問題を解決するために使用される方法は、ここではポントリャーギンの最小原理に基づいている。この原理は、特定の数学的演算子、すなわち、電動モータ32が供給しなければならない電気機械力Pと、内燃機関22が供給しなければならない熱機械力Pthとの関数であるハミルトニアンに適用される。
【0056】
ポントリャーギンの最小原理によれば、このハミルトニアンは、求められる最適値を見つけるために最小化されなければならない。
【0057】
このハミルトニアンは、様々な方法で定義することができる。
【0058】
ここでは、それは、まず、燃料流量Qと、次に、消費電気動力、即ち電気エネルギー消費batと重み付け係数λとの積(「当量係数」とも呼ばれる)の和の形式で表される。
【0059】
したがって、ハミルトニアンは、以下の形式でより正確に表される:
【数6】
[式4]
【0060】
重み付け係数λは、所与の瞬間に、トラクションバッテリ31が所定の閾値を上回る充電レベルSOCを有することを保証するように選択される。
【0061】
したがって、それは、少なくともトラクションバッテリ31の瞬時充電レベルSOCの関数として決定される。
【0062】
一例として、それは、少なくともトラクションバッテリ31の瞬時充電レベルSOCの関数として、かつ、例えばナビゲーションおよびジオロケーション機器に記憶された旅程の終わりに充電レベルSOCが位置することが望まれる閾値の関数として選択され得る。
【0063】
[式3]と[式4]とを組み合わせることによって、次のように書くことができる。
【数7】

[式5]
【0064】
または、[式1]および[式2]によって、
【数8】
[式6]
【0065】
すなわち、
【数9】
[式7]
【0066】
[式6]および[式7]において、係数A、A、およびBは、熱機械力Pthおよび電気機械力Pの値に応じて可変する値を有する。
【0067】
[式1]および[式2]を考慮すると、実際には、以下のように書くことができる。
【数10】
[式8]
【数11】
[式9]
【数12】
[式10]
【0068】
図2に示すように、係数A、AおよびBは、熱機械力Pth、駆動輪における動力PおよびパラメータPlimに従って容易に決定することができる値を有する。
【0069】
[式7]から、ハミルトニアンは、熱機械力Pthのアフィン関数の形式で表されることが理解される。
【0070】
th optで示される最適熱機械力Pthは、ハミルトニアンを最小化するものである。したがって、その値は、項「A1-λ.B1」の符号の関数として決定することができ、その値は、重み付け係数λおよび駆動輪における動力Pに依存することが理解される。
【0071】
より正確には、ハミルトニアンは、4つの可能な勾配、すなわち(a-λ.a)、(a-λ.a)、(a-λ.a)および(a-λ.a)を有することができる。
【0072】
これらの4つの場合のうち最初の2つは、図3Aおよび3Bに示され、他の2つは図3Cに示される。
【0073】
実際には、搭載コンピュータ50は、次に、最適熱機械力Pth optを非常に簡単に決定することができる。このため、実際には、それが、コンピュータ50の読み出し専用メモリに記憶されたマッピングを読み出すだけで十分であり、このマッピングは図4に示されている。
【0074】
図4における図3A~3Cによって明確に示されるように、最小原理の解は、実際には最適熱機械力Pthが以下の4つの値のうちの1つをとることができることを示す。
-パラメータPth,mimの値、
-パラメータPth,maxの値、
-パラメータPlimの値、および
-駆動輪における動力Pの値。
【0075】
コンピュータ50が、このマッピングにおいて、最適熱機械力Pth optの値を読み込むと、[式3]によって、最適電気機械力P optの値を簡単に算出することができる。
【0076】
次に、最適ボックス比Rth optを決定することが残る。
【0077】
ボックス比Rthは、いくつかの離散値を有することができ、以下のように書くことができる。
【0078】
th={0,1,2,...,N} [式11]
0は、内燃機関22が停止している場合に対応し、Nは、ギヤボックス23の比の数に対応する。
【0079】
[式7]において、項Pthを項Pth optで置き換えることによって、Hhyb optの式が得られる。
【0080】
この最適ハミルトニアンHhyb optの値は、使用するボックス比Rthに応じて変化する。この最適ハミルトニアンは単純化することにより、以下のように書き込むことができる:Hhyb opt(Rth)。
【0081】
最適ボックス比Rth optを決定するために、ポントリャーギンの最小原理を、離散的に、再度適用することができ、以下のように書くことができる。
【数13】
[式12]
【0082】
そうでなければ、最適ボックス比Rth optは、最適ハミルトニアンHhyb optが最小のものである。
【0083】
式(12)の解は、
-ボックス比Rth毎に最適ハミルトニアンHhyb optを算出し、次いで
-最適ハミルトニアンHhyb optが最も低いボックス比Rthを選択することになる。
【0084】
このため、様々な方法で動作することが可能である。
【0085】
式(12)を解く簡単な方法は、最適ハミルトニアン値Hhyb opt(0)、Hhyb opt(1)、・・・Hhyb opt(N)の各ペア間の差の符号を調べることである。
【0086】
本開示を明確にするために、この式の解法を簡単にするために、ギヤボックスは、ここではRth1およびRth2で示される2つのギヤ比のみを有すると考えられる。
【0087】
式(12)を解くことは、以下の差の符号を調べることになる。
【数14】
【0088】
内燃機関が停止している場合は、熱機械力Pthはゼロであり、燃料流量はゼロであるので、式(7)は次のような形式で書くことができる。
【数15】
[式12]
【0089】
問題が解決される方法を明確に理解するために、状況が以下の通りであるという仮定がなされる特定の例を考察することが可能である:
(Rth1)=a
(Rth1)=Q
(Rth1)=a
)=a
th opt(Rth1)=Plim
【0090】
したがって、ギヤ比0およびRth1のみを考慮すると、以下のように書くことができる。
【0091】
hyb opt(Rth1)―Hhyb opt(0)=a.Plim+Q+λ.(a.(P-Plim)+b)-λ.(a.P+b)
【0092】
その場合、3つの場合を想定することができる。
【数16】
である場合、
hyb opt(Rth1)<Hhyb opt(0)となり、その結果Rth opt=「0」となる。
【数17】
である場合、
hyb opt(Rth1)>Hhyb opt(0)となり、その結果Rth opt=Rth1となる。
【数18】
[式13]
hyb opt(Rth1)=Hhyb opt(0)となり、その結果Rth opt=Rth1=「0」となる。
【0093】
したがって、図5に示すように、式13は、最適ボックス比Rth optがRth1である場合から、最適ボックス比Rth optが0である場合を分離する曲線P01を定義する。
【0094】
この特定の例では、以下のような仮定を補足することができる。
(Rth1)=a
(Rth1)=Q
(Rth1)=a
th opt(Rth1)=Plim
(Rth2)=a
(Rth2)=Q
(Rth2)=a
th opt(Rth2)=Pr
【0095】
ギヤ比Rth1およびRth2のみを考慮すると、次のように書くことができる。
【0096】
hyb opt(Rth1)-Hhyb opt(Rth2)=a.Plim +Q +λ.(a.(P-Plim ))-a.P-Q
【0097】
この式において、指数1および2は、それらが参照するパラメータが、第1のボックス比Rth1が係合されている場合、または第2のボックス比Rth2が係合されている場合(内燃機関の回転数ωthは実際には同じではないので、これらのパラメータは、これらの2つの場合において同一の値を有さない)に算出されるかどうかを示すことを可能にすることに留意されたい。
【0098】
その場合、3つの場合を想定することができる。
【数19】
である場合、
hyb opt(Rth1)<Hhyb opt(Rth2)となり、その結果Rth opt=Rth1となる。
【数20】
である場合、
hyb opt(Rth1)>Hhyb opt(Rth2)となり、その結果Rth opt=Rth2となる。
【数21】
[式14]
hyb opt(Rth1)>Hhyb opt(Rth2)となり、その結果Rth opt=Rth1=Rth2となる。
【0099】
したがって、図5に示されるように、[式14]は、最適ボックス比Rth optがRth1である場合から、最適ボックス比Rth optがRth2である場合を分離する曲線P12を定義する。
【0100】
実際には、図5に示すように、コンピュータ50が、重み付け係数λを考慮して、駆動輪における動力Pを曲線P01およびP12の対応する値と比較するだけで十分であるので、最適ボックス比Rth optを非常に簡単に決定することができる。
【0101】
これらの曲線の式は、コンピュータ50が最適ボックス比Rth optを決定することができるようにするために、コンピュータ50のメモリに単純に記憶されなければならない。
【0102】
まず、第1の曲線P01は、内燃機関22を起動しなければならない場合(Rth opt=Rth1)から、「全電気」モード(Rth opt=0)で自動車を推進しなければならない場合をコンピュータ50が区別することを可能にすることに留意されたい。
【0103】
次に、パラメータA、A、Bについてのいくつかの仮説がここでは、2つの曲線P01、P12を定義する際に想定されていることに留意されたい。もちろん、全ての可能な仮説を想定することができるように、コンピュータ50のメモリに記憶される、より多くの曲線が存在する。
【0104】
最後に、2つの曲線P01、P12を定義する際に、ギヤボックス23が2つの比を含むと仮定したことに留意されたい。もちろん、ボックス比と同じ数の曲線を定義する必要がある。
【0105】
結論として、トリプレット{Pth opt、Rth opt、P opt}を決定するためにコンピュータ50によって実行される方法は簡単であり、算出能力に関して必要とする算出時間およびリソースがかなり少なくなる。
【0106】
この方法は更に、電動モータ32および内燃機関22に伝達されるコマンドの連続性および規則性を保証し、これにより、車両の乗客が感じる衝撃を回避する。
【0107】
この方法は、任意のタイプのハイブリッド自動車に非常に容易に適用することができる。
【0108】
本発明は、記載され、かつ図示された実施形態に限定されないが、当業者は、本発明に従って任意の変形を追加することができるのであろう。したがって、モータおよび内燃機関のエネルギー消費を表す他のモデル(特に2次モデル)を使用することが可能である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5