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特許7437953糸クランプ装置のための負荷印加兼負荷除去装置および糸クランプ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】糸クランプ装置のための負荷印加兼負荷除去装置および糸クランプ装置
(51)【国際特許分類】
   D01H 7/22 20060101AFI20240216BHJP
   D01H 7/04 20060101ALI20240216BHJP
   D01H 1/40 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
D01H7/22
D01H7/04
D01H1/40
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020009949
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2020117851
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】19153746
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518264859
【氏名又は名称】ザウラー スピニング ソリューションズ ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Saurer Spinning Solutions GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Carlstr. 60, 52531 Uebach-Palenberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ ヴィンター
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218715(JP,A)
【文献】特表2009-536989(JP,A)
【文献】特開2015-108212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 7/22
D01H 7/04
D01H 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動可能な紡績機スピンドルまたは撚糸機スピンドルの糸クランプ装置(30)のための負荷印加兼負荷除去装置(1)であって、当該負荷印加兼負荷除去装置(1)は、
安定状態と準安定状態との間で急激に変位可能であるばねリングエレメント(10)と、
前記紡績機スピンドルまたは前記撚糸機スピンドルの定置のアンダワインディング管(32)への接続のために、前記ばねリングエレメント(10)の内縁部(13)に配置されている内側の保持装置(15)と、
前記紡績機スピンドルまたは前記撚糸機スピンドルの、前記定置のアンダワインディング管(32)に対して相対的に、前記アンダワインディング管(32)の長手軸線に沿って軸方向移動可能なクランプエレメント(33)への接続のために、前記ばねリングエレメント(10)の外縁部(12)に配設されている外側の保持装置(16)と、
前記外側の保持装置(16)と前記内側の保持装置(15)との間の相対運動に基づいて生じる安定位置と準安定位置との間で、遠心力エレメント(20)を案内して保持するための保持兼ガイド装置(17)と、を含んでおり、前記ばねリングエレメント(10)は、前記安定位置において安定状態を、かつ前記準安定位置において準安定状態をとる、
負荷印加兼負荷除去装置(1)において、
前記保持兼ガイド装置(17)は、1つの遠心力エレメント(20)のための少なくとも1つの収容部(18D,18E)を有していて、該収容部(18D,18E)は、前記ばねリングエレメント(10)の、前記内縁部(13)と前記外縁部(12)を互いに接続しているリング面部分(11)から前記アンダワインディング管(32)の長手軸線方向に間隔をおいて配置されている
ことを特徴とする、負荷印加兼負荷除去装置(1)。
【請求項2】
前記内側の保持装置(15)は、横断面で見てV字形またはL字形の保持エレメントを有しており、該保持エレメントは前記アンダワインディング管(32)の、前記保持エレメントに対応する切欠き(37)と特に遊びをもって係合する、
請求項1記載の負荷印加兼負荷除去装置(1)。
【請求項3】
前記内側の保持装置(15)または前記外側の保持装置(16)は、前記ばねリングエレメント(10)の互いに向かい合って位置しているリングセグメントに配置されている2つの保持エレメント(15A,15B;16)を有している、
請求項1または2記載の負荷印加兼負荷除去装置(1)。
【請求項4】
前記収容部(18D,18E)は、前記リング面部分(11)に向かい合って位置していてかつ前記リング面部分(11)に対して間隔をおいて位置している、前記遠心力エレメント(20)のための下側の載置部分(18E)と、前記遠心力エレメント(20)の、前記アンダワインディング管(32)とは反対の側に、前記遠心力エレメント(20)と接触させるための側部の接触部分(18D)とを有しており、前記収容部(18D,18E)は、特に横断面で見てL字形に形成されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の負荷印加兼負荷除去装置(1)。
【請求項5】
前記保持兼ガイド装置(17)は、前記収容部(18D,18E)を保持する保持部分(18B)を有しており、該保持部分(18B)は、前記リング面部分(11)を含む平面に対して斜めに延びていて、かつ前記外縁部(12)に配置されているか、または、前記外縁部(12)からばねリングエレメント中心から離れる方向に突出している結合部分(18A)を介して前記外縁部(12)に連結されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の負荷印加兼負荷除去装置(1)。
【請求項6】
当該負荷印加兼負荷除去装置(1)は、遠心力エレメント(20)を有していて、該遠心力エレメント(20)は、中央の領域(21)において縁部領域(22)とは異なる厚さを有しているドロップ形状の形をしている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の負荷印加兼負荷除去装置(1)。
【請求項7】
紡績機スピンドルまたは撚糸機スピンドル用の糸クランプ装置(30)であって、
前記紡績機スピンドルまたは前記撚糸機スピンドルのスピンドル上側部分に定置に配置可能な第1のクランプエレメント(31)と、
前記スピンドル上側部分に前記第1のクランプエレメント(31)に隣接して定置に配置可能なアンダワインディング管(32)と、
前記アンダワインディング管(32)に対して相対的に前記アンダワインディング管(32)の長手軸線に沿って軸方向移動可能な第2のクランプエレメント(33)と、を備えており、
当該糸クランプ装置(30)は、請求項1から6までのいずれか1項記載の負荷印加兼負荷除去装置(1)を収容するように構成されており、前記負荷印加兼負荷除去装置(1)は、ばねリングエレメント(10)を含んでいて、該ばねリングエレメント(10)は、前記第2のクランプエレメント(33)に前記第1のクランプエレメント(31)の方向へばね力に基づく負荷が加えられている安定状態と、前記第2のクランプエレメント(33)が、前記ばねリングエレメント(10)に作用する遠心力エレメント(20)の遠心力に基づいて前記第1のクランプエレメント(31)から間隔をおいて位置決めされている準安定状態との間で、急激に変位可能であり、前記遠心力エレメント(20)は、前記アンダワインディング管(32)と前記第2のクランプエレメント(33)との間において可動に配置されている、
糸クランプ装置(30)において、
前記アンダワインディング管(32)は、遠心力エレメント(20)のための、または前記遠心力エレメント(20)を保持する収容部分のための、外側の当接面部分(38)を有しており、該当接面部分(38)に、前記遠心力エレメント(20)もしくは前記収容部分は、前記安定状態への前記ばねリングエレメント(10)の急激な変位によって当接する
ことを特徴とする、糸クランプ装置(30)。
【請求項8】
前記第2のクランプエレメント(33)は、前記アンダワインディング管(32)に向かい合って位置している内側に、前記ばねリングエレメント(10)の前記準安定状態において前記遠心力エレメント(20)を収容するための収容装置(40)を有しており、前記収容装置(40)は、前記第2のクランプエレメント(33)の周方向において前記遠心力エレメント(20)を間に保持するために互いに向かい合って位置している保持ウェブ(41)を有している、
請求項7記載の糸クランプ装置(30)。
【請求項9】
前記第2のクランプエレメント(33)は、前記アンダワインディング管(32)に向かい合って位置している内側に、遠心力に基づく変形を阻止するための保護エレメント(23)を保持して収容するための別の収容部(43)を有している、
請求項7または8記載の糸クランプ装置(30)。
【請求項10】
前記第2のクランプエレメント(33)は、カバーエレメント(34)と、前記カバーエレメント(34)に結合可能なボトムエレメント(36)とから形成されている、
請求項7から9までのいずれか1項記載の糸クランプ装置(30)。
【請求項11】
当該糸クランプ装置(30)は、前記負荷印加兼負荷除去装置(1)を有しており、少なくとも1つの遠心力エレメント(20)は、前記ばねリングエレメント(10)に対応配置された、前記遠心力エレメント(20)を収容するための収容部(18D,18E)と、前記外側の当接面部分(38)との間で、前記糸クランプ装置(30)の安定状態において、前記ばねリングエレメント(10)から作用するばね力を用いて、特に前記収容部(18D,18E)から前記遠心力エレメントに作用するばね力を用いて、クランプされている、
請求項7から10までのいずれか1項記載の糸クランプ装置(30)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回動可能な紡績機スピンドルまたは撚糸機スピンドルの糸クランプ装置のための負荷印加兼負荷除去装置、およびこのような負荷印加兼負荷除去装置を収容するように形成された糸クランプ装置に関する。
【0002】
公知のように、リング精紡機では、少なくとも一方の機械長辺側の紡績コップの完成後に、まずいわゆる紡出終了(Abspinnen)を実施する必要があり、この紡出終了によって、リング精紡機の該当する左右の機械側が、後続の紡績コップ交換のために準備される。
【0003】
これに関連して、リング精紡機では以前から、一方の機械長辺側の紡績コップの完成後に、リングレールを、上側位置から比較的迅速に、紡績コップの紡績巻管の下側領域に移動させ、このとき糸をそれぞれ、比較的急勾配の螺旋(いわゆる、リザーブワインディング(Hinterwindung))において紡績コップの表面にわたって下方に向かって案内することが通常である。次いでリングレールはこの位置において制動することができ、その結果糸は、紡績コップの紡績巻管の下側領域の周りに複数回巻き付けられる。このいわゆるプロテクトワインディング(Schutzwindung)によって、紡績コップの糸を、後続のさらなる搬送のために安全確保することができる。
【0004】
次いでリングレールは、遅延なく、新たに規定通りにさらに下方に向かってスピンドルのいわゆる巻付け箇所へと移動させられ、そこで制動される。スピンドルの巻付け箇所の領域において、糸は新たに複数の巻条の形で巻き取られる。
【0005】
スピンドルのいわゆる巻付け箇所において固定されているこれらのアンダワインディング(Unterwindung)は、それぞれ紡出開始糸(Anspinnfaden)を形成しており、この紡出開始糸は、紡績コップ交換後において再紡出開始のために必要になる。すなわち、糸がそれぞれリザーブワインディングとアンダワインディングとの間で切り離される、リング精紡機のスピンドルからの完成した紡績コップの引出し後、および新しい紡績巻管の装着後に、リングレールは再び上方に向かって紡績巻管の下側領域に移動させられ、紡出開始糸が新しい紡績巻管に巻き付けられる。
【0006】
このような方法における欠点は、アンダワインディングがスピンドルの巻付け箇所に留まり、この残留アンダワインディングが特定数の紡績コップ交換後にかなりのボリュームとなり、しばしばアンダワインディング領域からの除去が不十分にしか成功し得ないことにある。
【0007】
したがって紡績コップ交換を容易にするために、特にスピンドルの巻付け箇所の手間の掛かるクリーニングを回避するために、スピンドルのアンダワインディング領域に糸クランプ装置を配置し、この糸クランプ装置が糸の一時的な固定を可能にし、ひいてはスピンドルのアンダワインディング領域への糸の巻付けを不要にするといった種々様々な提案が、既に過去において提示されている。
【0008】
独国特許出願公開第19628826号明細書によって公知の糸クランプ装置は、スピンドルのワーブに不動に取り付けられた第1のクランプエレメントと、スピンドルの長手方向軸線に対して軸方向移動可能に支持された第2のクランプエレメントとを有している。これらのクランプエレメントは、移動可能に支持された第2のクランプエレメントとワーブとに支持された圧縮ばねによって、互いに向かって押圧され、これによってクランプエレメントの間にクランプモーメントが与えられている。
【0009】
糸クランプ装置を、圧縮ばねの力に抗した、移動可能な第2のクランプエレメントの移動によって開放するために、第2のクランプエレメントは、内方に向かって傾けられた円錐形のリング面を有しており、このリング面は、位置固定の第1のクランプエレメントと共にリング室を画定しており、このリング室内に、可動に支持されたボールとして形成された遠心力エレメントが配置されている。スピンドルの限界回転数を上回った場合に、遠心力エレメントから移動可能なクランプエレメントにもたらされる力は、圧縮ばねのばね力よりも大きくなり、これによって、移動可能に支持された第2のクランプエレメントは、軸方向において移動し、これにより糸クランプ装置は開放される。
【0010】
スピンドルの限界回転数を下回った場合には、糸クランプ装置は再びクランプ位置に移動し、このクランプ位置において両方のクランプエレメントの端面は互いに圧着させられる。さらに、移動可能に支持された第2のクランプエレメントの端面に配置された肩部が、位置固定の第1のクランプエレメントの端面における対応するリング溝内に係合し、これによってリング室をクランプ間隙に対して分離することができる。
【0011】
このような形式の糸クランプ装置の欠点として、肩部と対応するリング溝との配置形態にもかかわらず、リング室内への糸残留物の侵入を阻止することができないということが判明している。その結果、リング室内に配置された可動に支持されたボールは、少なくとも部分的にブロックされ、これによってしばしば、糸クランプ装置の機能が著しく損なわれてしまう。
【0012】
独国特許出願公開第102008058655号明細書で提案される糸クランプ装置は、半径方向に延びる複数の半割シェルを有しており、これらの半割シェルの内部において、遠心力エレメントが配置されかつ案内されている。このとき半割シェルの一方の半部はそれぞれ、移動可能に支持された第2のクランプエレメントに配置され、かつそれぞれ対応する半割シェルの他方の半部は、位置固定に配置されたベースエレメントに配置されている。さらに移動可能な第2のクランプエレメントの半割シェルはそれぞれ、水平に対して傾けられたガイド(Kulisse)を備えており、かつベースエレメントの対応する半割シェルはそれぞれ、水平なガイドを備えている。さらに移動可能な第2のクランプエレメントの半割シェルの、水平に対して傾けられたガイドは、移動可能なクランプエレメントの半割シェルを起点としてスピンドル上側部分の長手方向軸線の方向において、ベースエレメントを起点として移動可能なクランプエレメントの半割シェルの方向におけるのとは異なった傾斜角を有するように構成されている。
【0013】
欧州特許出願公開第2530041号明細書に記載の糸クランプ装置もまた、通常のように、位置固定の第1のクランプエレメントと、第1のクランプエレメントに対して、アンダワインディング管の長手軸線に沿って軸方向移動可能に支持された第2のクランプエレメントとを有しており、この第2のクランプエレメントは、コイルばねとして形成された押圧エレメントによって、第1のクランプエレメントに向かって押圧される。さらにこの場合においても、可動に支持されたボールとして形成された負荷除去エレメントが設けられており、これらの負荷除去エレメントは、第2のクランプエレメントを遠心力に基づいて押圧し、糸クランプ装置が特定のスピンドル回転数を上回った場合に開放されて糸を解放するように働く。運転中に汚れが負荷除去エレメントの支持箇所に達し得ることを阻止するために、さらにアンダワインディング管が当接面を備えており、この当接面に、第2のクランプエレメントは糸クランプ装置の開放状態において載置される。
【0014】
上に記載された糸クランプ装置は、実地において程度の差こそあれ良好であることが認められているが、しかしながら特に、可動に支持されたボールとして形成されたその遠心力エレメントに基づいて、依然として汚れに対してかなり敏感である。このことは、公知の糸クランプ装置では、ほぼ中断のない正常の持続運転に関してなおさらなる改善が可能であることを意味する。
【0015】
欧州特許出願公開第3260406号明細書には、解決のために、ばねリングエレメントから形成された負荷印加兼負荷除去装置を備えた糸クランプ装置が提案されており、このときばねリングエレメントは、スピンドルの、定置に配置されたアンダワインディング管に沿って案内されていて、かつアンダワインディング管に対して軸方向移動可能に支持された第2のクランプエレメントに機能的に結合されている。ばねリングエレメントは、遠心力エレメントを備えており、この遠心力エレメントは、スピンドルの回転数に依存して、ばねエレメントの形状に影響を及ぼし、ひいては第2のクランプエレメントの位置を設定する。このような糸クランプ装置は、幾つかの個別部材から成っていて、これらの個別部材は、複雑化されていない簡単な組立てによって、コンパクトな糸クランプ装置へと補足されることができる。これによって残留物なしに作動するアンダワインディングシステムを準備することができ、このアンダワインディングシステムは、特に遠心力エレメントの、ほとんど摩擦に依存しない操作によって、汚染に関して極めて鈍感である。
【0016】
本発明によって、特に調節可能性、コンパクト性、耐用寿命、および/または種々様々な糸材料への糸クランプ装置の適合に関して、さらに改善されている糸クランプ装置を提供できることが望まれている。
【0017】
そのために本発明の1つの態様によれば、欧州特許出願公開第3260406号明細書によって既に公知のフロッグクリック原理(Knackfrosch-Prinzip)に基づくばねリングエレメントを備えた負荷印加兼負荷除去装置が提案される。
【0018】
特に、負荷印加兼負荷除去装置は、公知のように安定状態と準安定状態との間において急激に変位可能であるばねリングエレメントを含んでおり、このときばねリングエレメントの内縁部に、紡績機スピンドルまたは撚糸機スピンドルの定置のアンダワインディング管への接続のための内側の保持装置が配置されていて、かつばねリングエレメントの外縁部に、紡績機スピンドルまたは撚糸機スピンドルの、定置のアンダワインディング管に対して相対的に、アンダワインディング管の長手軸線に沿って軸方向移動可能なクランプエレメントへの接続のための外側の保持装置が配設されている。負荷印加兼負荷除去装置はさらに、外側の保持装置と内側の保持装置との間の相対運動によって生じる安定位置と準安定位置との間で遠心力エレメントを案内して保持するための保持兼ガイド装置を含んでおり、このときばねリングエレメントは、安定位置において安定状態を、かつ準安定位置において準安定状態をとる。
【0019】
本発明は、保持兼ガイド装置が、1つの遠心力エレメントのための少なくとも1つの収容部を有していて、該収容部が、ばねリングエレメントの、内縁部と外縁部とを互いに接続しているリング面部分から間隔をおいて配置されていることによって傑出している。
【0020】
提案された構成は、特に次のような利点を有しており、すなわちこの場合発生する遠心力を遠心力エレメントを介して、さらに確定された、ひいては改善された形式でばねリングエレメントに作用させることができ、これによって、外側の保持装置を介して第2のクランプエレメントに機能的に結合されているばねリングエレメントが、ひいては接続された第2のクランプエレメントが、確定されて軸方向において、つまり第1のクランプエレメントから離れる方向において、かつ第1のクランプエレメントに向かう方向において、急激に移動することができるように、ばねリングエレメントを変形させることができる。第2のクランプエレメントの、第1のクランプエレメントから離れる移動は、糸クランプ装置の開放に対応し、これに対して第1のクランプエレメントに接触するまでの第2のクランプエレメントの、第1のクランプエレメントに向かう移動は、糸クランプ装置の閉鎖に一致する。
【0021】
公知の解決策とは異なり、遠心力エレメントはリング面に対して高められて、もしくは間隔をおいて配置されている。これによって特に、安定状態と準安定状態との間における多くの場合クラックノイズを伴う急激な切換えは、間隔をおいて位置している配置形態に基づいて可能になったてこ作用の使用下で、確定されて調節可能、もしくはより精密に調整可能である。言い換えれば、いまや比較的正確でかつ比較的低い回転数値を、このような負荷印加兼負荷除去装置を含む糸クランプ装置における急激な切換えのための限界値として、決定することができる。このことによってさらに、ばねリングエレメントの材料に対して優しい荷重が加えられることになり、このような荷重は、耐用寿命に対してポジティブに作用する。さらに、このような回転数に適合可能な糸クランプ装置によって、種々様々な糸材料を処理することができる。さらにまた、ばねリングエレメントの構成は、さもないと必要な調節リングを省くことによって構造をさらに簡単化することができる。
【0022】
好適な実施形態によれば、内側の保持装置は、横断面で見てV字形またはL字形の保持エレメントを有しており、保持エレメントはアンダワインディング管の対応する収容部とばね弾性的に係合している。このように構成されていると、ばねリングエレメントは、確定された形式で、アンダワインディング管に損傷なしに交換可能に固定することができる。
【0023】
ばねリングエレメントは、好ましくは、特に好適に耐用寿命に影響を及ぼすばね鋼薄板から形成されている。特に好ましくは、ばねリングエレメントは打抜き屈曲部材であり、これによってばねリングエレメントは、安価に製造可能である。それとは択一的に、ばねリングエレメントは、ばねリングエレメントに対する要求に依存して、ばね弾性特性を有するプラスチック含有材料から構成されていても、またはばね鋼薄板とプラスチック含有エレメントとの組合せから構成されていてもよい。
【0024】
好適な実施形態によれば、内側の保持装置または外側の保持装置は、2つの保持エレメントを有しており、両保持エレメントは、ばねリングエレメントの、互いに向かい合って位置しているリングセグメントに配置されている。このように構成されていると、安定状態と準安定状態との間における急激な切換えを、切換え動作中に可能な限り僅かな所要力で、かつばねリングエレメントの傾倒を回避して、確実に保証することができる。さらにばねリングエレメントを、材料を節減して構成することができる。
【0025】
好ましくは、急激な切換え動作を好適に促進するために、必要な場合には別の保持エレメントが設けられていてよい。別の保持エレメントの配置形態は、必要に応じて選択することができる。
【0026】
それとは択一的に、内側の保持装置または外側の保持装置は、好ましくは単に1つの保持エレメントを有することができ、この保持エレメントは、切換え動作中におけるばねリングエレメントの、切換え動作を阻止する傾倒を回避することができるような延在長さを、内縁部もしくは外縁部に沿って有している。
【0027】
好適な実施形態によれば、収容部は、リング面部分に向かい合って位置していてかつリング面部分に対して間隔をおいて位置している、遠心力エレメントのための下側の載置部分と、遠心力エレメントの、アンダワインディング管とは反対の側に、遠心力エレメントと接触させるための側部の接触部分とを有しており、このとき収容部は、特に横断面で見てL字形に形成されている。このような構成は、特に、収容部とアンダワインディング管との間における、遠心力エレメントのクランプ作用を有する配置形態を促進する。
【0028】
好ましくは、保持兼ガイド装置は、収容部を保持する保持部分を有しており、該保持部分は、リング面部分を含む面平面に対して斜めに延びていて、かつ外縁部に配置されているか、または、外縁部からばねリングエレメント中心から離れる方向に突出している結合部分を介して外縁部に連結されている。このように構成されていると、ばねリングエレメントに、もしくは切換えのために必要な切換え力に対するてこ作用を、適宜に設定することができる。
【0029】
本発明の別の態様によれば、紡績機スピンドルまたは撚糸機スピンドル用の糸クランプ装置が提案され、このとき糸クランプ装置は、紡績機スピンドルまたは撚糸機スピンドルのスピンドル上側部分に定置に配置可能な第1のクランプエレメントと、スピンドル上側部分に第1のクランプエレメントに隣接して定置に配置可能なアンダワインディング管と、アンダワインディング管に対して相対的にアンダワインディング管の長手方向軸線に対して軸方向移動可能な第2のクランプエレメントと、を有している。糸クランプ装置は、上に好適に記載された実施形態のうちの1つの実施形態による負荷印加兼負荷除去装置を収容するように形成されており、負荷印加兼負荷除去装置は、ばねリングエレメントを含んでいて、該ばねリングエレメントは、第2のクランプエレメントに第1のクランプエレメントの方向にばね力に基づいて負荷が加えられている安定状態と、第2のクランプエレメントが遠心力に基づいて、ばねリングエレメントに作用する遠心力エレメントによって第1のクランプエレメントに対して間隔をおいて位置決めされている準安定状態との間において、急激に移動可能であり、このとき遠心力エレメントは、アンダワインディング管と第2のクランプエレメントとの間において可動に配置可能である。
【0030】
糸クランプ装置は、アンダワインディング管が、遠心力エレメントのための、または遠心力エレメントを保持する収容部分のための、外側の当接面部分を有しており、該当接面部分に、遠心力エレメントもしくは収容部分が、安定状態へのばねリングエレメントの急激な変位によって当接することによって傑出している。
【0031】
好ましくは、第2のクランプエレメントは、アンダワインディング管に向かい合って位置している内側に、ばねリングエレメントの準安定状態において遠心力エレメントを収容するための収容装置を含んでおり、このとき収容装置は、第2のクランプエレメントの周方向において遠心力エレメントを間に配置するために互いに向かい合って位置している保持ウェブを有している。特に好ましくは、第2のクランプエレメントは、保持ウェブの間の領域に、収容された遠心力エレメントが第1のクランプエレメントの方向に逃げることを阻止するためのヘッドウェブを含んでいる。このように構成されていると、準安定状態において収容された遠心力エレメントを、準安定位置において第2のクランプエレメントによって確実に保持することができる。
【0032】
さらに好ましくは、第2のクランプエレメントは、アンダワインディング管に向かい合って位置している内側に、補償エレメントを保持して収容するための少なくとも1つの別の収容部を含んでいる。このような補償エレメントを設けることによって、第2のクランプエレメントの、遠心力に基づいて生じ得る変形を確実に回避することができる。このような変形は、糸の確実なクランプを妨げるおそれがある。変形を適宜に阻止できるようにするために、好ましくは、補償エレメントをそれぞれ収容するための別の収容部の数は、遠心力エレメントの配置形態および数に依存して選択されている。例えば、互いに向かい合って位置するように配置された2つの遠心力エレメントでは、同様に互いに向かい合って位置するように配置された2つの補償エレメントが設けられていてよく、このとき遠心力エレメント、補償エレメント、および補償エレメントの相応の収容部は、糸クランプ装置の周囲に等しく分配されて設けられている。補償エレメントは、さらに好適な実施形態では、遠心力エレメントによって形成されていてよい。さらに好ましくは、補償エレメントは、対応配置された別の収容部によって、損傷なしに交換可能に保持されていてよい。
【0033】
本発明の実施形態によれば、第2のクランプエレメントは、カバーエレメントと、カバーエレメントに結合可能なボトムエレメントとから形成されている。特に好ましくは、遠心力エレメントを準安定状態において保持する収容装置は、カバーエレメントを備えて形成されている。さらに好ましくは、第2のクランプエレメントの結合された状態においてばねリングエレメントの外側の保持装置をクランプする、カバーエレメントおよびボトムエレメントが形成されている。このように構成されていると、糸クランプ装置および糸クランプ装置の組立てをさらに簡単化することができる。それというのは、いずれにせよ公知の糸クランプ装置との比較において、必要な調節リングを省くことができるからである。
【0034】
好ましくは、糸クランプ装置は、上に好適に記載された実施形態のうちの1つの実施形態による負荷印加兼負荷除去装置を有している。
【0035】
ばねリングエレメントへの遠心力エレメントの取付けに関しては、欧州特許出願公開第3260406号明細書から種々様々な変化形態が公知であり、このとき特に好適であることが判明している実施形態では、遠心力エレメントは、とりわけ、該遠心力エレメントを必要とあれば種々異なった寸法および質量において使用することができ、これによって例えば粗糸の場合には低い開閉回転数で遠心力エレメントを移動させることができるように、ばねリングエレメントに作用結合されている。
【0036】
ばねリングエレメントへの遠心力エレメントの取付けは、例えば公知の形式で、ばねリングエレメントの収容部における、例えばねじ結合、クリップ結合、またはリベット結合のような形状結合式の結合を用いて、実現することができる。それとは択一的に、遠心力エレメントは、例えば溶接、ろう接、または接着のような力結合式または素材結合式の結合を用いて、ばねリングエレメントの収容部に固定されていてもよい。
【0037】
特に、収容部の、リング面部分に対して間隔をおいて位置している配置形態との関連において、特に好適であることが判明している実施形態では、遠心力エレメントは、収容部とアンダワインディング管の外側との間に、糸クランプ装置の安定状態において、ばねリングエレメントから、特に収容部から発するばね力によってクランプ可能である。言い換えれば、遠心力エレメントとばねリングエレメントとの公知の力結合式、素材結合式、または形状結合式の結合を、省くことができる。遠心力エレメントの単なるルーズなクランプは、遠心力エレメントと、この遠心力エレメントとは寸法および/または重量が異なっている異なった遠心力エレメントとの交換を、さらに簡単化された形式で可能にする。
【0038】
好ましくは、遠心力エレメントはドロップ形状の形をしていて、このドロップ形状の形は、ドロップ中央の領域に、ドロップ縁部の領域における円板厚さとは異なる円板厚さを備えた、円板形状によって特徴付けられている。ドロップ縁部は、必要に応じて、好適な形式で外側の当接面部分に当接し得るように形成されていてよく、これに対してドロップ中央は、ばねリングエレメントの収容部のための押圧接触面として適しているように設けられてよい。
【0039】
特に好ましくは、遠心力エレメントは、平面図で見て円形に、かつさらに好ましくは、中心を通って延びる水平のまたは鉛直の対称平面に関して対称的に形成されている。このように構成されていると、遠心力エレメントは、その方向付けに注意を払うことなく、簡単に収容部とアンダワインディング管との間に位置決めすることができる。
【0040】
次に、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】遠心力エレメントを備えた好適な実施形態による負荷印加兼負荷除去装置を示す斜視図である。
図2図1に示された、好適な実施形態による遠心力エレメントを示す横断面図である。
図3】「糸クランプ装置の閉鎖」を意味する安定状態における、図1に示された負荷印加兼負荷除去装置を含む、好適な実施形態による糸クランプ装置を分解して示す側面図である。
図4】「糸クランプ装置の開放」を意味する準安定状態における、図1に示された負荷印加兼負荷除去装置を含む、図3に示された糸クランプ装置を分解して示す側面図である。
図5図3および図4に示された糸クランプ装置の好適な実施形態による第2のクランプ装置のカバーエレメントを斜め下から見て示す図である。
図6図3および図4に示された糸クランプ装置の好適な実施形態による第2のクランプ装置のボトムエレメントを斜め上から見て示す図である。
【0042】
図1には、好適な実施形態による、ばねリングエレメント10を含む負荷印加兼負荷除去装置1が斜視図で示されている。ばねリングエレメント10は、ばね鋼薄板から、特に打抜きおよび屈曲方法を用いて製造されている。
【0043】
ばねリングエレメント10は、リング形状のリング面部分11を含んでおり、このリング面部分11は、外縁部12から内縁部13に向かって傾けられている。言い換えれば、リング面部分11は、円錐セグメントを形成している。
【0044】
ばねリングエレメント10は、内側の保持装置15を含んでおり、この内側の保持装置15は、紡績機スピンドルまたは撚糸機スピンドルの定置のアンダワインディング管への接続のために内縁部13に配置されている。内側の保持装置15は、この好適な実施形態では、互いに向かい合って位置している2つの内側の保持手段15A,15Bによって形成されており、両保持手段15A,15Bは、内縁部13からばねリングエレメント10の中心の方向に突出している。内側の保持手段15A,15Bは、互いに同一に形成されていて、かつ横断面で見てV字形をしている。V字形は、本実施形態では第1の面部分15Aによって形成されており、この面部分15Aは、内縁部13を越えてばねリングエレメント中心に向かって延びる、リング面部分11の延長部である。内縁部13の周方向において第1の面部分15Aには、第2の面部分15Bが配置されており、この面部分15Bは、V字形を形成するために、第1の面部分15Aから90°とは異なる角度を成して突出している。この構成は択一的に、第2の面部分15Bは、図示されていない実施形態によれば、第1の面部分15Aに対して90°に等しい角度をもって設置されていてもよく、これによってV字形の代わりにL字形を形成することができる。
【0045】
ばねリングエレメント10は、さらに外側の保持装置16を有しており、この外側の保持装置16は、紡績機スピンドルまたは撚糸機スピンドルの、定置のアンダワインディング管に対して相対的に移動可能なクランプエレメントへの接続のために外縁部12に配置されている。外側の保持装置16は、この好適な実施形態では、外縁部12から突出している板形状の2つの外側の保持手段16Aによって形成されており、両保持手段16Aは、外縁部12の互いに向かい合って位置している側に配置されていて、かつ外縁部12から、リング面部分11によって形成された平面内において突出している。外側の保持手段16Aは、本実施形態では、リング面部分11の周囲において内側の保持装置15に対してそれぞれ90°ずらされて配置されている。
【0046】
それぞれの外側の保持手段16の領域には、遠心力エレメント20を案内しながら保持するための保持兼ガイド装置17の保持兼ガイド手段18が配置されている。図1には、保持兼ガイド手段18における遠心力エレメント20の配置形態が例示されている。保持兼ガイド手段18は、互いに同一に形成されている。本実施形態による保持兼ガイド手段18は、2脚式の結合部分18Aを含んでおり、この結合部分18Aは、外縁部12から、リング面部分11によって形成された平面内において外側の保持手段16Aを囲むように突出していて、かつ湾曲部を介して90°未満の角度をもって共通の保持部分18Bに移行しており、この保持部分18Bは、リング面部分11から間隔をおいた角隅領域において、台形状の面部分18C,18Dを形成している。この角度は、負荷印加兼負荷除去装置1の安定状態において、共通の保持部分18Bが準安定状態において理想的には互いに平行に延びるように、もしくは方向付けられているように、必要に応じて選択することができる。角度範囲は、遠心力エレメント20の可能な種々異なる厚さをも考慮して、好ましくは70°~80°(80°を含む)の範囲であってよい。
【0047】
台形状の面部分18C,18Dの、外側の保持手段16Aに向かい合って位置しているベース面には、台形状の面部分18C,18Dに対して角度を成して設置されていてばねリングエレメント中心に向かって延びている下側の載置部分18Eが配置されている。このときばねリングエレメント中心に向けられた台形状の面部分は、側部の接触部分18Dを形成している。側部の接触部分18Dおよび下側の載置部分18Eは、ばねクランプ装置における負荷印加兼負荷除去装置1の取り付けられた状態において、リング面部分11に対して間隔をおいて、遠心力エレメント20を保持しかつ案内するために、横断面で見てL字形を形成している。
【0048】
図1に示されたばねリングエレメント10は、外的な力が作用しておらず変位していない安定状態にある。
【0049】
図2に横断面図で示された、好適な実施形態による遠心力エレメント20は、ドロップ(飴菓子)形状の形をしている。ドロップ形状は、横断面図で見て、ドロップ中央21の領域において形成された円筒形と、ドロップ縁部22の領域において形成された半円形または半楕円形とによって特徴付けられている。遠心力エレメント20は、金属材料、プラスチック材料、ゴム材料、セラミックス材料、またはこれらの材料の組合せによって形成されていてよい。
【0050】
図3には、安定状態におけるばねリングエレメント10を備えた、上に記載された負荷印加兼負荷除去装置1を含んでいる、好適な実施形態による糸クランプ装置30が、分解されて側面図で示されている。
【0051】
公知のように、リング精紡機または撚糸機のスピンドルは、紡績巻管交換の範囲内において通常使用される糸クランプ装置を備えている。すなわち糸クランプ装置は、スピンドルの紡績コップが完成し、かつ一緒に上方に向かってそのスピンドルから引き出されて、新しい紡績巻管と交換されねばならない場合に、必要になる。
【0052】
このとき図3に示された糸クランプ装置30を使用することができる。糸クランプ装置30は、スピンドルのスピンドル上側部分に定置に配置可能な第1のクランプエレメント31、同様にスピンドル上側部分において第1のクランプエレメント31に隣接して定置に配置可能なアンダワインディング管32、およびアンダワインディング管32に対して相対的にアンダワインディング管32の長手方向軸線に対して軸方向移動可能な第2のクランプエレメント33(これはスライド管としても公知である)を含んでいる。第2のクランプエレメント33は、カバーエレメント34とボトムエレメント36との2部分から形成されており、カバーエレメント34とボトムエレメント36とは、例えば係止結合装置を介して互いに結合可能である。カバーエレメント34は、ボトムエレメント36の方向に突出している2つの付加部35を含んでおり、両付加部35は、第2のクランプエレメント33の結合された状態において、外側の保持手段16Aを介在させて、相応にボトムエレメント36に形成された接触面部分もしくはクランプ面部分44(図6参照)と、間に位置している外側の保持手段16Aをクランプするために共働する。クランプは、必要に応じて遊びをもってまたは遊びなしに行うことができる。
【0053】
カバーエレメント34およびボトムエレメント36は、外側の保持手段16Aと第2のクランプエレメント33との連結の他に、第2のクランプエレメント33とアンダワインディング管32との間に配された負荷印加兼負荷除去装置1を遠心力エレメント20と一緒に保護するために働く。
【0054】
アンダワインディング管32は、ばねリングエレメント10の内側の保持手段15のそれぞれの保持手段を収容するための切欠き37を備えており、このとき切欠き37は、アンダワインディング管32の下側から、入口部分、入口部分に対して角度を成して設置された接続部分、およびアンダワインディング管32の周方向に延びている終端部分にわたって延在している。ばねリングエレメント10は、相応に、入口部分へ内側の保持手段15A,15Bを導入し、アンダワインディング管32の周方向に若干回転させながら、内側の保持手段15A,15Bを前進させてアンダワインディング管32の終端部分に達するまで接続部分内へ組み込むことにより、固定される。このとき内側の保持手段15A,15Bは、好ましくは遊びをもって終端部分内に係合し、これによってばね特性の影響を回避することができる。内側の保持手段15A,15Bの、上に記載されたV字形もしくはL字形の形状は、特にクリーニング位置に糸クランプ装置30をもたらす場合における、切欠き37の内部における妨げられない滑動を促進する。
【0055】
アンダワインディング管32は、周面側に、外側の当接面部分38を有しており、この当接面部分38に遠心力エレメント20は、ばねリングエレメント10の、図3に示された安定状態において当接している。遠心力エレメント20は、安定状態において、保持部分18と外側の当接面部分38との間で、特にクランプされて配置されている。このときばねリングエレメント10の安定状態は、公知のように、糸クランプ装置30の、糸を確実に固定することができる閉鎖位置に対応する。
【0056】
図4には、負荷印加兼負荷除去装置1もしくはばねリングエレメント10の準安定状態における糸クランプ装置30が、分解されて側面図で示されている。図3とは異なり、遠心力エレメント20は、当接面38に対して半径方向に間隔をおいた位置において示されており、このとき負荷印加兼負荷除去装置1もしくはばねリングエレメント10は、準安定状態にある。糸クランプ装置30を含むスピンドルが紡績コップ交換後に運転回転数に加速されると、遠心力エレメント20およびばねリングエレメント10は、この位置をとる。運転回転数よりも小さな設定された回転数レベルを上回った場合に、ばねリングエレメント10は、ばねリングエレメント10の収容部内に配置された遠心力エレメント20の遠心力作用によって、弾性変形により、かつ場合によってはクラックノイズを出しながら、図3に示された安定状態から図4に示された準安定状態に、急激に変位する。安定状態から準安定状態への移行によって、外縁部12の、ひいては第2のクランプエレメント33の、内縁部13に対する、ひいてはアンダワインディング管32および第1のクランプエレメント31に対する、第1のクランプエレメント31から離れる方向への相対運動が発生する。これによって第2のクランプエレメント33は、第1のクランプエレメント31から間隔をおいた準安定位置に達し、この準安定位置は「糸クランプ装置の開放」を意味しており、この準安定位置において、予め第1のクランプエレメント31と第2のクランプエレメント33との間においてクランプされていた糸が再び解放される。
【0057】
スピンドルが例えば、紡績巻管交換の途中で停止状態に戻されると、スピンドル回転数は連続的に低減し、ひいては、遠心力エレメント20によってばねリングエレメント10に作用する力も低減する。そして設定された回転数レベルにおいて、準安定状態から図3に示された安定状態への、ばねリングエレメント10の急激な戻りが行われる。再びクラックノイズが発生し得るこの戻り時に、糸クランプ装置30は、「糸クランプ装置の閉鎖」を意味する閉鎖状態に移動させられる。
【0058】
図5には、第2のクランプエレメント33のカバーエレメント34が斜め下から見た斜視図で示されている。カバーエレメント34は、アンダワインディング管32に向かい合って位置している内側39に、ばねリングエレメント10の準安定状態において遠心力エレメント20をそれぞれ収容するための収容装置40を含んでおり、このとき収容装置40は、カバーエレメント34の周方向において遠心力エレメント20を間に保持するために互いに向かい合って位置している保持ウェブ41を有している。これによって準安定状態において、収容部18D,18E内にルーズに収容された遠心力エレメント20が、カバーエレメント34の周方向において側方に逃げることを阻止することができる。さらにカバーエレメント34は、保持ウェブ41の間の領域に、収容された遠心力エレメント20が第1のクランプエレメント31の方向に、もしくは第2のクランプエレメント33のボトムエレメント36とは反対の方向に逃げることを阻止するためのヘッドウェブ42を有している。これによって準安定状態において収容された遠心力エレメント20を、確実に保持することができる。
【0059】
さらにカバーエレメント34は、内側に、遠心力に基づいて生じ得る変形を阻止するためにそれぞれ1つの保護エレメント23を保持して収容するための、互いに向かい合って位置している別の収容部43を含んでいる。
【符号の説明】
【0060】
1 負荷印加兼負荷除去装置
10 ばねリングエレメント
11 リング面部分
12 外縁部
13 内縁部
15 内側の保持装置
15A 第1の面部分
15B 第2の面部分
16 外側の保持装置
16A 外側の保持手段
17 保持兼ガイド装置
18 保持兼ガイド手段
18A 結合部分
18B 保持部分
18C 台形状の面部分
18D 側部の接触部分
18E 下側の載置部分
20 遠心力エレメント
21 ドロップ中央
22 ドロップ縁部
23 保護エレメント
30 糸クランプ装置
31 第1のクランプエレメント
32 アンダワインディング管
33 第2のクランプエレメント
34 カバーエレメント
35 付加部
36 ボトムエレメント
37 切欠き
38 当接面部分
39 カバーエレメントの内側
40 収容装置
41 保持ウェブ
42 ヘッドウェブ
43 別の収容部
44 接触兼クランプ面部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6