(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】架空線用テンションバランサ
(51)【国際特許分類】
B60M 1/26 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
B60M1/26 B
(21)【出願番号】P 2020031650
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】田生 陽平
(72)【発明者】
【氏名】原田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】佐々 治
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-024753(JP,A)
【文献】特開2003-247619(JP,A)
【文献】特開2006-187192(JP,A)
【文献】特開2017-141854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に隙間を有した状態で同軸状に配置された外側の第1の筒部材および内側の第2の筒部材を少なくとも含む同軸状に配置された複数の筒部材と、
前記第1の筒部材に対する前記第2の筒部材の軸方向への動きに対して弾性力を与えるコイルばねと、
前記コイルばねを
軸方向に圧縮して支持するばね座金と、
前記第1の筒部材と前記第2の筒部材を軸方向に摺動可能に支持する支持部材と、
を備える架空線用テンションバランサにおいて、
前記支持部材は、
軸方向に互いに分離されて並んだ第1の支持部材と第2の支持部材とからなり、前記第1の支持部材は、前記ばね座金に支持されるか、または前記第1、または第2の筒部材に固定され、前記第2の支持部材は、前記コイルばねによって前記第1の支持部材側に付勢されることで前記第1の支持部材と共にボールを回転自在に支持し、前記ボールの一部を前記ばね座金よりも前記第1の筒部材側または前記第2の筒部材側に突出させたことを特徴とする架空線用テンションバランサ。
【請求項2】
前記ばね座金と前記支持部材は一体となって前記コイルばねを支持することを特徴とする請求項1に記載の架空線用テンションバランサ。
【請求項3】
前記コイルばねは軸方向に複数設けられ、前記コイルばね同士の間
に補助座金を介在させたことを特徴とする請求項1に記載の架空線用テンションバランサ。
【請求項4】
前記
筒部材に溶融アルミニウムメッキを施したことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の架空線用テンションバランサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空線にテンションを与える架空線用テンションバランサに関する。
【背景技術】
【0002】
コイルばねにより、鉄道等の架空線に張力を与える架空線用テンションバランサが知られている。例えば、特許文献1には、同軸状に配置された複数の筒状の部材の間にコイルばねを介装した架空線用テンションバランサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の架空線用テンションバランサでは次のような課題が提起されている。すなわち、主に架空線用テンションバランサの筒状の部材の内周面とコイルばねを支持するばね座金との摩擦抵抗により、架空線用テンションバランサの伸縮時のたわみ-荷重特性にヒステリシス損失が生じる。従来の架空線用テンションバランサでは、そのヒステリシス損失のために、設定された荷重の範囲内で架空線の伸縮量の増大に対応するストローク長を確保することができない場合がある。
【0005】
このような背景において、本発明は、たわみ-荷重特性のヒステリシス損失を低減することによって、設定された荷重の範囲内でのストローク長の増大化需要に対応することができる架空線用テンションバランサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、径方向に隙間を有した状態で同軸状に配置された外側の第1の筒部材および内側の第2の筒部材を少なくとも含む同軸状に配置された複数の筒部材と、第1の筒部材に対する第2の筒部材の軸方向への動きに対して弾性力を与えるコイルばねと、コイルばねを軸方向に圧縮して支持するばね座金と、第1の筒部材と前記第2の筒部材を軸方向に摺動可能に支持する支持部材と、を備える架空線用テンションバランサにおいて、支持部材は、軸方向に互いに分離されて並んだ第1の支持部材と第2の支持部材とからなり、第1の支持部材は、ばね座金に支持されるか、または第1、または第2の筒部材に固定され、第2の支持部材は、コイルばねによって第1の支持部材側に付勢されることで第1の支持部材とともにボールを回転自在に支持し、ボールの一部をばね座金よりも第1の筒部材側または第2の筒部材側に突出させたことを特徴とする。
【0007】
本発明の架空線用テンションバランサにあっては、支持部材は、ボールを回転自在に支持し、ボールの一部をばね座金よりも第1の筒部材側または第2の筒部材側に突出させているから、ばね座金が第1の筒部材側に振れたときにボールが第1の筒部材または第2の筒部材の内周面に接触し、第2の筒部材の第1の筒部材に対する相対移動に対応してボールが回転する。その際の摩擦抵抗は、ボールと支持部材との摩擦抵抗のみであるから、摩擦抵抗が小さい。したがって、たわみ-荷重特性のヒステリシス損失が低減され、設定された荷重の範囲内でストローク長を増大することができる。
【0008】
ここで、ばね座金と支持部材は一体となってコイルばねを支持することができる。具体的には、ばね座金に支持部材を接触させ、支持部材にコイルばねの端部を接触させることにより、コイルばねは支持部材とばね座金とによって支持される。また、支持部材によってばね座金を構成することができる。たとえば、支持部材を皿ばねで構成し、2枚の支持部材を向かい合わせてそれらの縁部にボールを回転自在に支持することができる。さらに、コイルばねは軸方向に複数設けることができ、コイルばね同士の間に支持部材を介在させることができる。また、第1の筒部材に溶融アルミニウムメッキなどの摩擦係数を下げる表面処理を施すと、ボールの第1の筒部材に対する転がり摩擦抵抗が低減され、たわみ-荷重特性のヒステリシス損失をさらに低減することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、設定された荷重の範囲内でストローク長を増大し、架空線の伸縮量の増大に対応することができる架空線用テンションバランサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の架空線用テンションバランサの側断面図である。
【
図3】
図2の矢印IIIで示す部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(構成)
以下、本発明が適用される架空線用テンションバランサの基本構造の一例について説明する。
図1には、架空線用テンションバランサ100が示され、
図2には、その断面構造が示されている。架空線用テンションバランサ100は、同軸状に配置された4つの筒部材である外側筒部材(第1の筒部材)101、第1中間筒部材(第2の筒部材)102、第2中間筒部材103、および内側筒部材104とを備えている。
【0012】
外側筒部材101と第1中間筒部材102との隙間には、圧縮された状態にある外側コイルばね105が収容されている。外側コイルばね105の左端は、第1中間筒部材102の外周に溶接された外側ばね座金102aに接触する外側補助座金201に接触している。外側補助座金201は、2枚の環状の支持部材201aの間にボール201bを回転自在に支持したもので、ボール201bの一部は支持部材201aから外側筒部材101側に突出し、ボール201bの径方向先端は、外側ばね座金102aよりも外側筒部材101側に突出している。
【0013】
また、外側コイルばね105の右端では、外側筒部材101の内面に外側ばね座金102aが溶接され、外側ばね座金102aには、外側補助座金201が接触している。外側補助座金201は、2枚の環状の支持部材201aの間にボール201bを回転自在に支持したもので、ボール201bの一部は支持部材201aから第1中間筒部材102側に突出し、ボール201bの径方向先端は、外側ばね座金102aよりも第1中間筒部材102側に突出している。
【0014】
第1中間筒部材102と第2中間筒部材103との隙間には、圧縮された状態にある中間コイルばね106が収納されている。
図1に示す状態において、中間コイルばね106の左端は、第2中間筒部材103の外周に溶接された中間ばね座金103aに接触する中間補助座金202に接触している。中間補助座金202は、2枚の環状の支持部材202aの間にボール202bを回転自在に支持したもので、ボール202bの一部は支持部材202aから第1中間筒部材102側に突出し、ボール202bの径方向先端は、中間ばね座金103aよりも第1中間筒部材102側に突出している。
【0015】
また、中間コイルばね106の右端では、第1中間筒部材102の内面に中間ばね座金103aが溶接され、中間ばね座金103aには、中間補助座金202が接触している。外側補助座金202は、2枚の環状の支持部材202aの間にボール202bを回転自在に支持したもので、ボール202bの一部は支持部材202aから第2中間筒部材103側に突出し、ボール202bの径方向先端は、外側ばね座金103aよりも第2中間筒部材103側に突出している。
【0016】
第2中間筒部材103と内側筒部材104との隙間には、圧縮された状態にある
内側コイルばね107が収納されている。
図1に示す状態において、内側コイルばね107の左端は、内側筒部材104の外周に溶接された内側ばね座金104aに接触する内側補助座金203に接触している。内側補助座金203は、2枚の環状の支持部材203aの間にボール203bを回転自在に支持したもので、ボール203bの一部は支持部材203aから第2中間筒部材103側に突出し、ボール203bの径方向先端は、中間ばね座金104aよりも第2中間筒部材103側に突出している。
【0017】
また、内側コイルばね107の右端では、第2中間筒部材103の内面に内側ばね座金104aが溶接され、内側ばね座金104aには、内側補助座金203が接触している。内側補助座金203は、2枚の環状の支持部材203aの間にボール203bを回転自在に支持したもので、ボール203bの一部は支持部材203aから内側筒部材104側に突出し、ボール201bの径方向先端は、内側ばね座金104aよりも内側筒部材104側に突出している。
【0018】
なお、外側コイルばね105、中間コイルばね106、内側コイルばね107が筒部材と接触する部分には、両者間の相対的な滑りを阻害しないように潤滑剤であるグリスが塗布あるいは充填されている。潤滑剤は、潤滑機能を有するものであればグリスに限定されない。
【0019】
図1における内側筒部材104の右端端面には、架空線取付け部材108が固定されている。架空線取付け部材108は、ボルト108aを備え、このボルト108aを利用して図示を省略した架空線が架空線取付け部材108に取り付けられる。架空線としては、鉄道用の架線が挙げられるが、他の用途の電力用架空線、信号伝送用の架空線、支持用の架空線等であってもよい。
【0020】
また、架空線用テンションバランサ100は、支柱側取付け部材109によって支柱(図示略)に支持される。すなわち、外側筒部材101の左端開口部には蓋体111が固定され、蓋体111によって開口部が閉塞されることにより、第1中間筒部材102、第2中間筒部材103および内側筒部材104が外側筒部材101から抜け出ないようになっている。支柱側取付け部材109は、蓋体111に溶接によって固定され、蓋体111は、外側筒部材101に形成された取付け孔に図の上方から差し込まれたU字棒110によって外側筒部材101から抜き出ないように強固に支持されている。支柱側取付け部材109には、ボルト109aが取り付けられ、ボルト109aによって架空線用テンションバランサ100は支柱に取り付けられる。なお、図中符号112は、外側筒部材101に溶接された補強部材である。
【0021】
(架空線用テンションバランサの機能)
図1に示す架空線用テンションバランサ100の架空線取付け部材108に架空線が取り付けられる。この状態において、架空線の重みおよび架空線を図の右方向に引く力により、架空線取り付け部材108が図の右方向に相対的に引かれる。
【0022】
一方、外側コイルばね105、中間コイルばね106、および内側コイルばね107は圧縮状態にあるので、内側筒部材104、第2中間筒部材103、および第1中間筒部材102をそれぞれ図の右の方向に引き出すには、外側コイルばね105、中間コイルばね106、内側コイルばね107の弾性力に打ち勝つ力が必要となる。この力の反力が、架空線取付け部材108に取り付けられた架空線に作用する張力、すなわち架空線を図の左の方向に引っ張る張力となる。こうして、
図1の右方向に向かって張り渡される図示省略した架空線を図の左方向に引っ張る張力が働く。例えば、架空線の伸縮や上下動が生じると、架空線取り付け部材108が図の左右に動くが、それが外側コイルばね105、中間コイルばね106、および内側コイルばね107の伸縮により吸収される。
【0023】
架空線取付け部材108が図の左右に移動すると、内側筒部材104、第2中間筒部材103、および第1中間筒部材102が図の左右に移動する。その際に、内側筒部材104、第2中間筒部材103、および第1中間筒部材102は互いに固定されておらず、コイルばねで支持されている構造のため、自重等によりわずかに傾きが生じ、軸方向と直交する方向に振れる。従来では、そのときにばね座金が筒部材の内周面と接触するためにたわみ-荷重特性のヒステリシス損失が大きいという課題があった。
【0024】
上記構成の架空線用テンションバランサ100では、内側筒部材104、第2中間筒部材103、および第1中間筒部材102が軸方向と直交する方向に振れたときに、内側補助座金203のボール203bが第2中間筒部材103の内周面に接触し、中間補助座金202のボール202bが第1中間筒部材102の内周面に接触し、外側補助座金201のボール201bが外側筒部材101の内周面に接触する。この場合、それら接触における摩擦抵抗は、ばね座金102a,…が外側筒部材101,…と接触する際の摩擦抵抗よりも小さい。したがって、たわみ-荷重特性のヒステリシス損失が低減され、設定された荷重の範囲内でストローク長を増大することができる。
【0025】
(変更例)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
たとえば、上記実施形態では、外側ばね座金102aを設けているが、これを省略して外側補助座金201の左端側支持部材201aを第1中間筒部材102に溶接することができる。中間ばね座金103aおよび内側ばね座金104aについても同様である。
【0026】
外側ばね座金102aを支持部材201aによって構成することができる。たとえば、
図4に示すように、支持部材201aを皿ばねで構成し、2枚の支持部材201aを向かい合わせてそれらの縁部にボール201bを回転自在に支持する。そして、左端の支持部材201aを第1中間筒部材102に溶接する。中間ばね座金103aおよび内側ばね座金104aについても同様である。このような構成では、上記実施形態における外側ばね座金102a,…を省略して部品点数を減らすことができる。
【0027】
外側筒部材101,…に溶融アルミニウムメッキなどの摩擦係数を下げる表面処理を施すことにより、ボール201aの外側筒部材101に対する転がり摩擦抵抗が低減され、たわみ-荷重特性のヒステリシス損失をさらに低減することができる。また、外側コイルばね105,…は軸方向に複数設けることができ、外側コイルばね105,…同士の間に外側補助座金201,…を配置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、架空線用テンションバランサに利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
100…架空線用テンションバランサ、101…外側筒部材(第1の筒部材)、102…第1中間筒部材(第2の筒部材)、102a…外側ばね座金、103…第2中間筒部材、103a…中間ばね座金、104…内側筒部材、104a…内側ばね座金、105…外側コイルばね、106…中間コイルばね、107…内側コイルばね、108…架空線取付け部材、108a…ボルト、支柱側取付け部材…109、ボルト…109a、110…U字棒、111…蓋体、112…補強部材、201…外側補助座金、201a…支持部材、201b…ボール、202…中間補助座金、202a…支持部材、202b…ボール、203…内側補助座金、203a…支持部材、203b…ボール。