(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】便座装置
(51)【国際特許分類】
A47K 13/00 20060101AFI20240216BHJP
E03D 9/08 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
A47K13/00
E03D9/08 A
(21)【出願番号】P 2020036829
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】掛樋 浩司
(72)【発明者】
【氏名】井戸田 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】叶野 貴大
(72)【発明者】
【氏名】小早川 育雄
(72)【発明者】
【氏名】樋口 恒太
(72)【発明者】
【氏名】佃 和磨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有亮
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-177012(JP,A)
【文献】特開2009-268991(JP,A)
【文献】特開2005-105546(JP,A)
【文献】特開2014-27977(JP,A)
【文献】特開2018-130716(JP,A)
【文献】特開2009-19066(JP,A)
【文献】特開2009-256450(JP,A)
【文献】特開2018-27170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 13/00 - 17/02
E03D 9/00 - 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、前記ケーシングに対して起立状態と倒伏状態とに回転自在に設けられた便座と、を備えた便座装置であって、
前記ケーシング及び前記便座の少なくとも一方は、表面において部分的に設けられたコーティング層を有しており、
前記便座の表面は、前記便座の倒伏状態において下方を向く下面と、前記下面に対して内周側に設けられた内側切削面と、前記下面に対して外周側に設けられた外側切削面と、を含み、
前記コーティング層は、前記下面と、前記内側切削面及び前記外側切削面の少なくとも一方に設けられており、
前記コーティング層と周囲との境界部が視覚的に見えない便座装置。
【請求項2】
便鉢部を有する便器本体に設けられた便座装置であって、
前記コーティング層は、
前記ケーシング及び前記便座の少なくとも一方の表面において前記便鉢部側から飛んでくる汚物が到達する領域に設けられている請求項1に記載の便座装置。
【請求項3】
前記コーティング層は、前記便座の倒伏状態において、前記内側切削面及び前記外側切削面の少なくとも一方の上端よりも上方の位置まで及んでいる
請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の便座装置。
【請求項4】
前記コーティング層は、前記便座の起立状態において、前記ケーシングの表面のうち前方に露出する領域に設けられている請求項1から
請求項3までのいずれか1項に記載の便座装置。
【請求項5】
ケーシングと、前記ケーシングに対して起立状態と倒伏状態とに回転自在に設けられた便座と、前記便座の上方において前記ケーシングに対して起立状態と倒伏状態とに回転自在に設けられた便蓋と、を備えた便座装置であって、
前記ケーシング、前記便座、及び前記便蓋の少なくともいずれか1つは、表面において部分的に設けられたコーティング層を有しており、
前記便座の表面は、前記便座の倒伏状態において下方を向く下面と、前記下面に対して内周側に設けられた内側切削面と、前記下面に対して外周側に設けられた外側切削面と、を含み、
前記コーティング層は、前記下面と、前記内側切削面及び前記外側切削面の少なくとも一方に設けられており、
前記コーティング層と周囲との境界部が視覚的に見えない便座装置。
【請求項6】
前記便座は、中央開口を有しており、
前記コーティング層は、前記便蓋における前記便座側に位置する面のうち、前記便蓋の倒伏状態において前記中央開口と重なる領域と、前記便蓋及び前記便座の起立状態において前記中央開口と重なる領域との少なくとも一方に設けられている
請求項5に記載の便座装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、便座装置が開示されている。便座装置は、便器上部に設置された本体と、本体に回転自在に支持された便座及び便蓋等から構成されている。便座の表面には、防汚塗膜が形成されている。防汚塗膜の乾燥後膜厚は、5μmから30μm程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の構成は、防汚塗膜と周囲との境界が視覚的に見え得るため、便座装置の意匠性が損なわれるおそれがある。便座装置の意匠性を確保するために、例えば、防汚塗膜と周囲との境界が生じないように防汚塗膜を便座装置の表面全体に設けることが考えられる。しかし、防汚塗膜を便座装置の表面全体に設けた場合には、防汚処理を施すために手間及びコストが掛かる。
【0005】
本開示は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、防汚処理を施す位置の自由度が高く、意匠性に優れた便座装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の便座装置は、ケーシングと、前記ケーシングに対して起立状態と倒伏状態とに回転自在に設けられた便座と、を備えた便座装置であって、前記ケーシング及び前記便座の少なくとも一方は、表面において部分的に設けられたコーティング層を有しており、前記コーティング層と周囲との境界部が視覚的に見えない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1に係る便座装置を示す斜視図である。
【
図4】便座及び便蓋の倒伏状態における左右方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<実施形態1>
便器装置10は、
図1に示すように、便器本体11と、便座装置20とを備えている。以下、各構成部材において、前後方向、左右方向、上下方向は、便器装置10に着座した状態の着座者から見て前後方向、左右方向、上下方向を夫々示すものとする。
【0009】
便器本体11は、便鉢部12を有している。便鉢部12の上端にはリム13が形成されている。便器本体11の上方には、便座装置20が設置されている。
【0010】
便座装置20は、
図2及び
図3に示すように、ケーシング30、便座40、便蓋50を備えている。ケーシング30は、洗浄ノズル23を有する局部洗浄装置、便器洗浄装置等の機能部品を収容する筐体として構成されている。ケーシング30は、ケーシング本体31と、ケーシング本体31の上部を覆うカバー部32とを備えて構成されている。ケーシング本体31は、例えばアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂等の樹脂基材によって構成されている。
【0011】
ケーシング本体31は、カバー部32によって覆われた上壁部、前壁部33、後壁部34、右壁部35、左壁部36を備えている。カバー部32及びケーシング本体31の上壁部は、ケーシング30の天井部分を構成する。前壁部33は、上壁部の前端部から下方側に延出し、左右方向に長い板状に形成されている。後壁部34は、上壁部の後端部から下方側に延出し、左右方向に長い平板状に形成されている。右壁部35は、上壁部、前壁部33、及び後壁部34の各右端部に連続した板状に形成されている。左壁部36は、上壁部、前壁部33、及び後壁部34の各左端部に連続した板状に形成されている。
【0012】
前壁部33は、
図3に示すように、前方に向かうにつれて低位置となるように傾斜している。前壁部33の下部には、局部洗浄装置の洗浄ノズル23を進退させるための開口部33Aが形成されている。開口部33Aは、洗浄ノズル23が後退した状態においてシャッター38によって塞がれる。シャッター38は、開口部33Aを塞いだ状態において前壁部33に連なって配置され、ケーシング30の一部を構成する(
図7参照)。
【0013】
便座40は、ケーシング30に対して起立状態と倒伏状態とに回転自在に設けられている。便座40は、倒伏状態において、便器本体11の上面に沿って配置される。便座40は、起立状態において、便器本体11の上方に向けて後方に傾斜して配置される。
【0014】
便座40は、
図5に示すように、便座本体41、便座足部42を有している。便座本体41は、中央開口43を有している。便座40の倒伏状態において、便座本体41の後部には、後方に向けて突出する形態でヒンジ部44A,44Bが設けられている。便座足部42は、便座本体41よりも軟質な樹脂材料によって形成されている。便座足部42は、便座40の倒伏状態において、リム13に接触する。
【0015】
便座本体41は、
図6に示すように、座表部材45及び座裏部材46を接合することによって中空状に構成されている。座表部材45及び座裏部材46は、ポリプロピレン(PP)樹脂等の樹脂基材によって構成されている。座表部材45は、幅方向における断面視にて逆U字状に形成されている。座裏部材46は平板状に形成されている。座表部材45及び座裏部材46は互いに溶着されてている。座表部材45及び座裏部材46の接合部には、切削加工によって切削面47E,47Fが形成されている。切削面47E,47Fは、座表部材45及び座裏部材46に跨る平坦な傾斜面状をなす。このようにして形成された便座40は、座表部材45と座裏部材46との接合部に段差や隙間が形成されていない。このため、接合部に汚れが溜まり難く、汚れが付着した場合も容易に拭き取ることができる。
【0016】
便座40の表面49は、上面47A、下面47B、内側面47C、外側面47D、切削面47E,47F、を含む。上面47Aは、便座40の倒伏状態において上方を向く面である。下面47Bは、便座40の倒伏状態において下方を向く面である。内側面47Cは、便座40における内周側に位置して、中央開口43の中央部を向く面である。外側面47Dは、便座40における外周側に位置して、便座40の前後及び左右を向く面である。切削面47E,47Fのうち切削面47Eは、下面47Bに対して内周側に設けられている。切削面47E,47Fのうち切削面47Fは、下面47Bに対して外周側に設けられている。切削面47E,47Fを互いに区別する場合には、それぞれ内側切削面47E、外側切削面47Fと称する。
【0017】
便蓋50は、
図3及び
図4に示すように、便座40の上方においてケーシング30に対して起立状態と倒伏状態とに回転自在に設けられている。便蓋50は、倒伏状態において、便座40の上面47Aに沿って配置される。便蓋50は、起立状態において、便器本体11の上方に向けてわずかに後方に傾斜して配置される。
【0018】
便蓋50は、便蓋本体51、便蓋足部52(
図8参照)、接触部53を有している。便蓋本体51は、ポリプロピレン(PP)樹脂等の樹脂基材によって構成されている。便蓋50の倒伏状態において、便蓋本体51の後部には、後方に向けて突出する形態でヒンジ部54A,54Bが設けられている。便蓋本体51は、便蓋50の倒伏状態において、便座40の上面47A及び中央開口43全域を覆うと共に便座40の外側面47Dを覆っている。便蓋本体51は、便座40の上面47Aよりも一回り大きい平板状の上板部55と、上板部55の縁部から下方に延びた垂下片部56とを有している。便蓋足部52及び接触部53は、便蓋50の倒伏状態において上板部55の下面55Aから突出している。便蓋足部52は、便蓋50の倒伏状態において、便座40の上面47Aに接触する。接触部53は、
図3に示すように、便座40及び便蓋50の起立状態において、便座40の上面47Aに接触する。
【0019】
便座装置20は、
図1に示すように、便座40の表面49において部分的に設けられた第1コーティング層60を有している。便座装置20は、ケーシング30の表面39において部分的に設けられた第2コーティング層70を有している。便座装置20は、便蓋50の表面59において部分的に設けられた第3コーティング層80を有している。第1コーティング層60、第2コーティング層70、及び第3コーティング層80はコーティング層の一例である。コーティング層60,70,80は、可視光の透過性を有し、視認することができない薄層である。各図では説明の便宜のために、網掛け模様若しくは太線によってコーティング層60,70,80を模式的に表している。
【0020】
コーティング層60,70,80は、
図3及び
図4に示すように、表面39,49,59において便鉢部12側から飛んでくる汚物が到達する領域R1,R2,R3,R4に設けられている。便座装置20においてコーティング層60,70,80が設けられた面は、防汚処理が施された防汚処理面である。便鉢部12側から飛んでくる汚物は、例えば、便座40の倒伏状態における小便時の尿はね及び大便時の便はね、便座40の起立状態における男子小便時の尿はね、便器洗浄時の洗浄水のはね、及び局部洗浄装置使用時の洗浄水のはね等を例示できる。表面39,49,59において便鉢部12側から飛んでくる汚物が到達する領域は、便座40及び便蓋50の姿勢、便鉢部12との位置関係、便器洗浄時若しくは局部洗浄装置使用時における洗浄態様等に応じて設計できる。
【0021】
第1コーティング層60は、
図5及び
図6に示すように、便座40において下面47Bと、内側切削面47E及び外側切削面47Fに設けられている。第1コーティング層60は、便座40の倒伏状態において、内側切削面47Eの上端よりも上方の位置まで及んでいる。第1コーティング層60は、便座40の倒伏状態において、外側切削面47Fの上端よりも上方の位置まで及んでいる。具体的には、第1コーティング層60は、便座40の下面47Bにおいて、便座足部42を除く全域に設けられている。第1コーティング層60は、便座40の内側切削面47E、外側切削面47F、内側面47C、及び外側面47Dの全域に設けられている。便座40の表面49において第1コーティング層60が設けられた領域を領域R1と称する。第1コーティング層60は、便座40の上面47Aには設けられていない。第1コーティング層60と周囲との境界部61は、内側面47Cの上端及び外側面47Dの上端に沿って延びている。便座40の上面47Aは、第1コーティング層60によって防汚処理が施されていない非処理面である。便座40は、非処理面において、座表部材45を構成する樹脂基材が表面に露出している。
【0022】
第2コーティング層70は、
図7に示すように、便座40の起立状態において、ケーシング30の表面39のうち前方に露出する領域R2に設けられている。ケーシング30の表面39のうち前方に露出する領域R2は、便座40の起立状態において、便座40若しくは便蓋50によって前方から覆われていない領域である。具体的には、第2コーティング層70は、ケーシング30の前壁部33の前面及びシャッター38の前面に設けられている。第2コーティング層70は、ケーシング30においてカバー部32、後壁部34、右壁部35、及び左壁部36には設けられていない。第2コーティング層70と周囲との境界部71は、ケーシング30における前壁部33の周縁に沿って延びている。ケーシング30においてカバー部32、後壁部34、右壁部35、及び左壁部36の表面は、第2コーティング層70によって防汚処理が施されていない非処理面である。ケーシング30は、非処理面において、ケーシング30を構成する樹脂基材が表面に露出している。
【0023】
第3コーティング層80は、
図8に示すように、便蓋50における便座40側の面のうち、便蓋50の倒伏状態において中央開口43と重なる領域R3に設けられている。第3コーティング層80は、便蓋50における便座40側の面のうち、便蓋50及び便座40の起立状態において中央開口43と重なる領域R4に設けられている。
図8においては、便蓋50の倒伏状態において便蓋50の表面59に中央開口43を鉛直方向に投影した外形と、便蓋50及び便座40の起立状態において便蓋50の表面59に中央開口43を水平方向に投影した外形を、二点鎖線で描いている。紙面上方に位置する中央開口43が倒伏状態における外形を表し、紙面下方に位置する中央開口43が便蓋50及び便座40の起立状態における外形を表す。便座装置20は、便座40と便蓋50の回転軸が互いにズレて配置されることに起因して、便蓋50の倒伏状態における前後方向について、領域R3と領域R4がズレている。領域R3,R4は、便蓋50の倒伏状態における上板部55の下面55Aにおいて、中央部に位置している。第3コーティング層80は、領域R3及び領域R3に隣接する領域と、領域R4及び領域R4に隣接する領域を包含する形で設けられている。第3コーティング層80は、上板部55の下面55Aにおける周縁部58、上板部55の上面、及び垂下片部56には設けられていない。第3コーティング層80と周囲との境界部81は、上板部55の下面55A内に略楕円状に延びている。下面55Aにおける周縁部58、上板部55の上面及び垂下片部56の表面は、第3コーティング層80によって防汚処理が施されていない非処理面である。つまり、下面55Aは、防汚処理面と非処理面の双方を含んでいる。便蓋50は、非処理面において、便蓋50を構成する樹脂基材が表面に露出している
。
【0024】
領域R1,R2,R3,R4は、
図1に示すように、便座装置20の表面において連続する面における一部の領域である。つまり、境界部61,71,81は、便座装置20を構成する部品と部品との接合部分等の非連続な部分ではなく、便座装置20の表面において連続する面に表れる。具体的には、境界部61は、便座40において滑らかに連続する面に表れている(
図6参照)。境界部71は、ケーシング30において前壁部33と壁部35,36が屈曲しつつ連続する面に表れている(
図7参照)。境界部81は、便蓋50において平坦に連続する面に表れている(
図8参照)。
【0025】
便座装置20は、コーティング層60,70,80と周囲との境界部61,71,81が視覚的に見えない構成である。境界部61,71,81が視覚的に見えない構成として、コーティング層60,70,80の膜厚が波長域380nmから780nmである可視光に対して十分に小さい構成を例示できる。例えば、コーティング層60,70,80の膜厚は、コーティング層60,70,80で反射した光の干渉を考慮して、可視光の波長域の1/2未満とすることができる。コーティング層60,70,80の膜厚は、境界部61,71,81が視覚的に見えないという観点から、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。コーティング層60,70,80の膜厚が上記の値以下であれば、境界部61,71,81に使用者が触れた際に段差として認識されにくく、着座した場合や清掃時に違和感を覚えにくいという効果も期待できる。コーティング層60,70,80の膜厚は、製造しやすさという観点から、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。つまり、コーティング層60,70,80の膜厚は、1nm以上100nm以下であることが好ましく、3nm以上50nm以下であることがより好ましく、5nm以上30nm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
コーティング層60,70,80は、プライマー層と、撥水層とからなる二層構造とされ、樹脂基材の表面に化学結合によって結合している。プライマー層は、例えば、樹脂基材の構成材料と化学結合しやすく、かつ、撥水層の構成材料とも化学結合しやすい化学成分の単分子層によって構成される。撥水層は、例えば、プライマー層の表面に化学結合によって結合した単分子層によって構成される。このような構成によれば、膜厚が小さいコーティング層60,70,80を好適に形成できる。撥水層は、コーティング層60,70,80の表層である。コーティング層60,70,80は、樹脂基材の水接触角よりも大きい水接触角を有している。コーティング層60,70,80の水接触角は、防汚性を向上するという観点から、例えば、80度以上であることが好ましく、90度以上であることがより好ましく、100度以上であることがさらに好ましい。コーティング層60,70,80の水接触角の上限値は、通常120度以下である。撥水層は、好ましくは有機シランを含み、より好ましくは有機フッ素シランを含み、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)シランを含んでいる。
【0027】
本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態の便座装置20は、ケーシング30と、ケーシング30に対して起立状態と倒伏状態とに回転自在に設けられた便座40と、便座40の上方においてケーシング30に対して起立状態と倒伏状態とに回転自在に設けられた便蓋50と、を備えている。ケーシング30、便座40、及び便蓋50は、表面39,49,59において部分的に設けられたコーティング層60,70,80を有している。便座装置20は、コーティング層60,70,80と周囲との境界部61,71,81が視覚的に見えない。
【0028】
本実施形態によれば、防汚処理を施す位置の自由度が高く、意匠性に優れた便座装置20を提供することができる。具体的には、コーティング層60,70,80と周囲との境界部61,71,81は、便座装置20の表面39,49,59において線状に延びている。このため、コーティング層の境界部が視覚的に見える場合には、便座装置の意匠性が損なわれることが懸念される。これに対して、本実施形態の便座装置20は、境界部61,71,81が視覚的に見えないから、コーティング層60,70,80を設けたことに起因して、便座装置20の意匠性が損なわれにくい。このため、便座装置20の意匠性を考慮して、境界部61,71,81の位置が制約されたり、境界部61,71,81をなくすべく便座装置20の表面39,49,59全体にコーティング層60,70,80を設けたりする必要がない。本実施形態によれば、例えば、便座装置20において汚れやすい領域に確実にコーティング層60,70,80を設け、かつ、防汚処理の必要性が低い領域及び防汚処理に適しない領域等にはコーティング層60,70,80を設けない構成を実現できる。
【0029】
本実施形態の便座装置20は、便鉢部12を有する便器本体11に設けられている。コーティング層60,70,80は、表面39,49,59において便鉢部12側から飛んでくる汚物が到達する領域R1,R2,R3,R4に設けられている。本実施形態によれば、便座装置20において汚れやすい領域に確実にコーティング層60,70,80を設けることができ、便座装置20の防汚性を向上できる。
【0030】
本実施形態の便座装置20は、便座40の表面49は、便座40の倒伏状態において下方を向く下面47Bと、下面47Bに対して内周側に設けられた内側切削面47Eと、下面47Bに対して外周側に設けられた外側切削面47Fと、を含んでいる。第1コーティング層60は、下面47Bと、内側切削面47E及び外側切削面47Fに設けられている。本実施形態によれば、便座40において汚れやすい下面47B、内側切削面47E、及び外側切削面47Fに第1コーティング層60を設けることができ、便座装置20の防汚性を向上できる。
【0031】
本実施形態において、第1コーティング層60は、便座40の倒伏状態において、内側切削面47E及び外側切削面47Fの上端よりも上方の位置まで及んでいる。本実施形態によれば、便座40において汚れやすい内側切削面47E及び外側切削面47Fと、内側切削面47E及び外側切削面47Fに対して上方に位置する領域に第1コーティング層60を設けることができ、便座装置20の防汚性を向上できる。本実施形態において、第1コーティング層60と周囲との境界部61は便座40における側面47C,47Dの上端に位置する。便座40における側面47C,47Dの上端は、便座40の倒伏状態において使用者の目に付きやすく、境界部61が視覚的に見える場合には、便座装置20の意匠性が損なわれることが懸念される。これに対して、本実施形態の便座装置20は、境界部61が視覚的に見えないから、便座40において使用者の目に付きやすい領域に境界部61が位置した場合であっても、便座装置20の意匠性が損なわれにくい。
【0032】
本実施形態において、第2コーティング層70は、便座40の起立状態において、ケーシング30の表面39のうち前方に露出する領域R2に設けられている。本実施形態によれば、ケーシング30において汚れやすい領域R2に確実に第2コーティング層70を設けることができ、便座装置20の防汚性を向上できる。
【0033】
本実施形態において、便座40は、中央開口43を有している。第3コーティング層80は、便蓋50における便座40側の面のうち、便蓋50の倒伏状態において便鉢部12側に位置して中央開口43と重なる領域R3と、便蓋50及び便座40の起立状態において便鉢部12側に位置して中央開口43と重なる領域R4とに設けられている。本実施形態によれば、便蓋50において汚れやすい領域R3,R4に確実に第3コーティング層80を設けることができ、便座装置20の防汚性を向上できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本開示を更に具体的に説明する。
【0035】
1.サンプルの作製
好適な例としてのサンプル1からサンプル4では、樹脂基材としてPP樹脂製の平板を用いた。平板の大きさは、300mm×300mm、厚さ3mmである。平板の表面において、左半分をマスキングテープでマスクし、マスクしていない右半分に、シラン系樹脂用プライマーコーティング剤をウエスで塗布し(塗布量:5μl/cm2)、プライマー層を形成した。その後、マスクしていない右半分に、後述する撥水処理剤をウエスで塗布し(塗布量:5μl/cm2)、撥水層を形成した。マスキングテープを取り除き、マスキングテープの粘着剤残りが影響しないよう、表面をイソプロパノールとウエスで拭き掃除し、サンプルを作製した。以下の説明では、平板の表面において、防汚処理を施した右半分を処理面と称し、防汚処理を施していない左半分を非処理面と称する。
【0036】
好適な例としてのサンプル5からサンプル8では、樹脂基材としてABS樹脂製の平板を用いた他は、サンプル1からサンプル4と同様にしてサンプルを作製した。
【0037】
サンプル1及びサンプル5では、撥水処理剤として、パーフルオロポリエーテルのシラン化合物を用いた。表1においては、この撥水処理剤をPFPEシランと表記している。
【0038】
サンプル2及びサンプル6では、撥水処理剤として、パーフルオロポリエーテル系シランカップリング剤 1部、t-ブタノール 99部、0.1N 塩酸 1部を混合した液を用いた。表1においては、この撥水処理剤をPFPEシランと表記している。
【0039】
サンプル3及びサンプル7では、撥水処理剤として、1H,1H,2H,2Hパーフルオロオクチルトリメトキシシラン 1部、t-ブタノール 99部、0.1N 塩酸 1部を混合した液を用いた。表1においては、この撥水処理剤をPFAシランと表記している。
【0040】
サンプル4及びサンプル8では、撥水処理剤として、ヘキシルトリメトキシシラン 1部、t-ブタノール 99部、0.1N 塩酸 1部を混合した液を用いた。表1においては、この撥水処理剤をアルキルシランと表記している。
【0041】
サンプル9からサンプル11では、サンプル1からサンプル4と同じ平板の表面において、左半分をマスキングテープでマスクし、マスクしていない右半分に、樹脂用プライマーコーティング剤をスプレー塗布し、プライマー層を形成した。その後、マスクしていない右半分に、後述する撥水処理剤を塗布し(塗着量管理でWET 1mg/cm2)、撥水層を形成した。この際、サンプル9では撥水処理剤を刷毛で塗布し、サンプル10及びサンプル11では撥水処理剤をスプレー塗布した。サンプル9からサンプル11は、後述の水接触角の改質効果を発揮しつつ、最も膜厚が薄くなるよう、塗布条件を事前検討した上で作製した。それ以外は、サンプル1からサンプル4と同様にしてサンプル9からサンプル11を作製した。
【0042】
サンプル12からサンプル14では、樹脂基材としてABS樹脂製の平板を用いた他は、サンプル9からサンプル11と同様にしてサンプルを作製した。
【0043】
サンプル9及びサンプル12では、撥水処理剤として、シリコーン化合物(信越化学株式会社製、KR-400)を用いた。表1においては、この撥水処理剤をシリコーン化合物と表記している。
【0044】
サンプル10及びサンプル13では、撥水処理剤として、シリコーン成分を含有した2液ウレタン塗料を用いた。表1においては、この撥水処理剤をシリコーン含有ウレタン塗料と表記している。
【0045】
サンプル11及びサンプル14では、撥水処理剤として、フッ素系塗料(株式会社野田スクリーン製)を用いた。表1においては、この撥水処理剤をフッ素系塗料と表記している。
【0046】
2.膜厚測定
各サンプルの撥水処理剤を処理した側の一部を切断し、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、S-3400N)で断面観察することで、コーティング層の膜厚を測定した。結果を表1に示す。なお、サンプル1からサンプル8は、本手法では膜厚測定できなかったため、分子構造から推定される理論値を示している。サンプル1からサンプル8において、プライマー層及び撥水層を含むコーティング層の膜厚の理論値はいずれも100nm以下であり、概ね数十nmである。
【0047】
3.水接触角の測定及び実曝試験
水接触角は、接触角計(協和界面化学製)を使用して、各サンプルの処理面と非処理面においてそれぞれ測定した。測定結果を表1に示す。
【0048】
実曝試験は、各サンプルについて汚れの付着性に関する以下の試験を行った。各サンプルは、処理面と非処理面の境界部が中央に位置するように50mm×50mm角に加工した。加工したサンプルを、使用頻度が数十人/日である事業所内にある便器装置における便座の裏面側に貼り付けた。便器装置を1週間使用した後、汚れの付着性を各サンプルの処理面と非処理面においてそれぞれ評価した。汚れの付着性は、紫外光を照射し、汚れの付着量を目視にて判定した。判定基準は、汚れの付着が全くない場合を「A」、汚れの付着が少しある場合を「B」、汚れの付着がある場合を「C」、汚れの付着が多くある場合を「D」とした。清掃しやすさを評価するために、清掃後における汚れの付着性を各サンプルの処理面と非処理面においてそれぞれ評価した。清掃は、洗浄剤を染み込ませた不織布で3往復拭きとりを行った。評価方法は、清掃前における評価方法と同様である。試験結果を表1に示す。
【0049】
4.外観検査
各サンプルにおいて、処理面と非処理面との境界部が見えるか否か、コーティング層がほこり等の異物を巻き込んでいるか否かを、目視にて検査した。処理面と非処理面との境界部が見えるか否かについては、処理面と非処理面との境界部が視覚的に見えない場合を「OK」とし、処理面と非処理面との境界部が視覚的に見える場合を「NG」とした。検査結果を表1の「境界部の非視認性」の欄に示す。コーティング層がほこり等の異物を巻き込んでいるか否かについては、異物の巻き込みが視認されない場合を「OK」とし、異物の巻き込みが視認された場合を「NG」とした。検査結果を表1の「異物の巻き込み」の欄に示す。
【0050】
【0051】
5.考察
水接触角の測定及び実曝試験の結果から、サンプル1からサンプル14において、非処理面に比して処理面の防汚性能が優れることが分かった。水接触角の測定及び実曝試験の結果から、サンプル1からサンプル8の防汚性能は、サンプル9からサンプル14と同等であることが確認できた。
【0052】
外観検査の結果から、サンプル9からサンプル14は境界部が視覚的に見えるのに対して、サンプル1からサンプル8は境界部が視覚的に見えないことが分かった。この結果から、便座装置の表面に部分的にサンプル1からサンプル8のコーティング層を設けた場合に、境界部が視認されることに起因して、便座装置の意匠性が損なわれにくいことが示された。サンプル9からサンプル14のコーティング層は膜厚が数μm(実測値)であり、サンプル1からサンプル8のコーティング層は膜厚が100nm以下(理論値)である。コーティング層の境界部が視覚的に見えるか否かについては、コーティング層の膜厚が影響していることが示唆された。
【0053】
外観検査の結果から、サンプル9からサンプル14は異物の巻き込みが確認されたのに対して、サンプル1からサンプル8は異物の巻き込みが確認されないことが分かった。この結果から、便座装置の表面に実施例のコーティング層を設けた場合に、異物の巻き込みという観点においても便座装置の意匠性が損なわれにくいことが示唆された。
【0054】
<他の実施形態>
本開示は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
(1)便座装置は、ケーシングと便座を備え、便蓋を備えない構成であってもよい。ケーシングと便座を備えた便座装置は、ケーシング及び便座の少なくとも一方が、表面において部分的に設けられたコーティング層を有する構成であってもよい。
(2)コーティング層は、ケーシング、便座、便蓋のいずれか1つのみに設けられていてもよい。コーティング層は、ケーシング、便座、及び便蓋のいずれか2つのみに設けられていてもよい。これらの場合において、防汚性の観点から、コーティング層は、少なくとも便座に設けられていることが好ましい。
(3)コーティング層は、便座の内側切削面及び外側切削面の一方のみに設けられていてもよい。防汚性の観点から、コーティング層は、少なくとも便座の内側切削面に設けられていることが好ましい。例えば、実施形態2において、第1コーティング層160は、
図9に示すように、下面47Bと内側切削面47Eに設けられている。第1コーティング層160は、便座40の倒伏状態において、内側切削面47Eの上端よりも上方の位置(内側面47C)まで及んでいる。その他にも、コーティング層は、便座の倒伏状態において、内側面及び外側面の途中まで及んでいてもよい。
(4)実施形態3において、第1コーティング層260は、
図10に示すように、下面47Bと内側切削面47E及び外側切削面47Fに設けられている。第1コーティング層260は、内側面47C及び外側面47Dには設けられておらず、内側においては内側切削面47Eの上端まで、外側においては外側切削面47Fの上端まで設けられている。
(5)コーティング層は、便蓋における便座側に位置する面のうち、領域R3と領域R4の一方のみに設けられていてもよい。
(6)上記以外にも、コーティング層を設ける範囲は、汚れやすさ及び製造しやすさ等を考慮して適宜設計可能である。
(7)便座装置を構成する樹脂基材は、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂以外にも、外観、機械的特性、コスト、コーティング層との結合性等を考慮して適宜選択できる。
(8)コーティング層の構成する成分は、上記以外にも、境界部の非視認性、防汚性、コスト、樹脂基材との結合性等を考慮して適宜選択できる。
【符号の説明】
【0055】
11…便器本体、12…便鉢部、20…便座装置、30…ケーシング、39…表面、40…便座、43…中央開口、47B…下面、47E…内側切削面、47F…外側切削面、49…表面、50…便蓋、60,160,260…第1コーティング層、61…境界部、70…第2コーティング層、71…境界部、80…第3コーティング層、81…境界部、R1,R2,R3,R4…領域