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特許7437988インクジェット印刷装置及びその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240216BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20240216BHJP
   F26B 23/04 20060101ALI20240216BHJP
   F26B 13/08 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 401
B41J29/38 206
B41J29/38 301
F26B23/04 B
F26B13/08 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020052713
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152428
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】宇田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】種本 満
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-76404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0022571(US,A1)
【文献】特開平11-38828(JP,A)
【文献】特開2018-13420(JP,A)
【文献】特開2012-223960(JP,A)
【文献】特開2008-1114(JP,A)
【文献】特開2015-205476(JP,A)
【文献】特開2012-223959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 29/00-29/70
F26B 1/00-25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を所定の搬送方向に搬送させながら印刷ヘッドからインク滴を吐出して前記印刷媒体に対して印刷を行うインクジェット印刷装置において、
前記印刷ヘッドで印刷された前記印刷媒体を所定の乾燥温度で乾燥させるものであって、前記搬送方向における前記印刷ヘッドの下流側に配置され、前記印刷媒体を加熱する加熱手段を少なくとも3個備えた乾燥部と、
前記乾燥部を操作して、前記乾燥部での乾燥処理を終えることにより印刷媒体の温度が乾燥温度となるように制御する温度制御部と、
を備え、
前記温度制御部は、
前記各加熱手段の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部の検出した温度に応じて、前記各加熱手段のオン時間の比率であるデューティ比を操作する制御部と、
前記各加熱手段のデューティ比を時系列で記憶する記憶部と、
前記各加熱手段の故障を検出する故障検出部と、
を備え、
前記制御部は、前記故障検出部が故障を検出した場合には、前記記憶部に記憶されているデューティ比のうち、故障の前における、故障した加熱手段のデューティ比である欠落デューティ比を、故障を検出した時点で加熱に寄与している正常な加熱手段に分配するようにデューティ比を操作することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置において、
前記制御部は、前記少なくとも3個の加熱手段について、いずれかが故障したことを検出した場合には、残りの加熱手段により、最下流で前記乾燥温度となるように、最上流から最下流に向かって次第に温度が高くなるように前記デューティ比を操作することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェット印刷装置において、
前記制御部は、前記少なくとも3個の加熱手段のうち、中央部よりも上流の加熱手段が故障したことを検出した場合には、当該故障した加熱手段以外の複数個の加熱手段のうち、相対的に下流に位置する加熱手段よりも相対的に上流に位置する加熱手段の方への前記欠落デューティ比の分配を大きくすることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット印刷装置において、
前記制御部は、前記少なくとも3個の加熱手段のうち、中央部の加熱手段が故障したことを検出した場合には、前記加熱手段の上流側と下流側の加熱手段に前記欠落デューティ比を均等に分配することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット印刷装置において、
前記制御部は、前記少なくとも3個の加熱手段のうち、中央部よりも下流の加熱手段が故障したことを検出した場合には、当該故障した加熱手段以外の複数個の加熱手段のうち、相対的に上流に位置する加熱手段よりも相対的に下流に位置する加熱手段の方への前記欠落デューティ比の分配を大きくすることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項6】
印刷媒体を所定の搬送方向に搬送させながら印刷ヘッドからインク滴を吐出して前記印刷媒体に対して印刷を行い、前記搬送方向における前記印刷ヘッドの下流側に配置され、前記印刷媒体を加熱する加熱手段を少なくとも3個備えた乾燥部によって前記印刷媒体を所定の乾燥温度で乾燥させるインクジェット印刷装置の制御方法において、
前記加熱手段のオン時間の比率であるデューティ比を時系列的に記憶させつつ、搬送方向における前記印刷ヘッドの下流側に配置された、少なくとも3個の加熱手段を備えた乾燥部により前記印刷媒体を乾燥させる過程と、
前記各加熱手段の故障を検出する過程と、
故障を検出した場合には、記憶されているデューティ比のうち、故障の前における、故障した加熱手段のデューティ比である欠落デューティ比を、故障を検出した時点で加熱に寄与している正常な加熱手段に分配するようにデューティ比を操作する過程と、
を備えていることを特徴とするインクジェット印刷装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴を吐出して印刷媒体に印刷するインクジェット印刷装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、インクジェットヘッドと、搬送路と、乾燥部とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。インクジェットヘッドは、搬送路に沿って搬送される連続紙に対してインク滴を吐出して印刷を行う。乾燥部は、インクジェットヘッドの下流側に配置され、インク滴が吐出されて印刷された連続紙に対して乾燥処理を行う。乾燥部は、例えば、複数個のヒータ(ヒートローラとも呼ばれる)を搬送路に沿って備えている。ヒータは、例えば、内部にハロゲンランプを備えている。乾燥部は、複数個のヒータを印刷条件に応じた温度にフィードバック制御するとともに、ハロゲンランプが断線したか否かを断線検知回路で検出している。断線検出回路が断線を検出した場合には、エラーの発生を報知して乾燥不良を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-204849号公報(図13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の装置は、エラーを解消して印刷処理を再開するためには、断線等で故障したハロゲンランプを交換するメンテナンス作業を行う必要がある。そのため、ハロゲンランプの故障が検出されたら装置を停止させ、その後にハロゲンランプの交換作業を行う必要があるので、長時間のダウンタイムが発生するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、故障した加熱手段を正常に稼動している加熱手段で代替することにより、ダウンタイムを抑制できるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、印刷媒体を所定の搬送方向に搬送させながら印刷ヘッドからインク滴を吐出して前記印刷媒体に対して印刷を行うインクジェット印刷装置において、前記印刷ヘッドで印刷された前記印刷媒体を所定の乾燥温度で乾燥させるものであって、前記搬送方向における前記印刷ヘッドの下流側に配置され、前記印刷媒体を加熱する加熱手段を少なくとも3個備えた乾燥部と、前記乾燥部を操作して、前記乾燥部での乾燥処理を終えることにより印刷媒体の温度が乾燥温度となるように制御する温度制御部と、を備え、前記温度制御部は、前記各加熱手段の温度を検出する温度検出部と、前記温度検出部の検出した温度に応じて、前記各加熱手段のオン時間の比率であるデューティ比を操作する制御部と、前記各加熱手段のデューティ比を時系列で記憶する記憶部と、前記各加熱手段の故障を検出する故障検出部と、を備え、前記制御部は、前記故障検出部が故障を検出した場合には、前記記憶部に記憶されているデューティ比のうち、故障の前における、故障した加熱手段のデューティ比である欠落デューティ比を、故障を検出した時点で加熱に寄与している正常な加熱手段に分配するようにデューティ比を操作することを特徴とするものである。
【0007】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、温度制御部は、乾燥部による乾燥により印刷媒体の温度が乾燥温度となるように乾燥部を操作する。故障検出部が故障を検出した場合には、温度制御部の制御部は、記憶部に記憶されている時系列のデューティ比のうち、欠落デューティ比を、故障を検出した時点で加熱に寄与している正常な加熱手段に分配するようにデューティ比を操作する。したがって、加熱手段が故障したことにより減少した熱量を他の加熱手段で補うことができるので、乾燥能力の低下が生じることがない。その結果、故障検出部が故障を検出した時点では即座に印刷処理を停止させる必要がなく、メンテナンス作業のための準備時間を十分にとった上でメンテナンス作業を行うことができる。よって、迅速なメンテナンス作業を行うことができるので、装置のダウンタイムを抑制できる。その上、記憶部に記憶されているデューティ比に基づく欠落デューティ比を分配するので、現在印刷処理している印刷内容に応じた適切な乾燥処理を継続できる。したがって、正常に稼動している加熱手段で代替して印刷処理を継続しても、乾燥処理による印刷品質の低下を抑制できる。
【0008】
また、本発明において、前記制御部は、前記少なくとも3個の加熱手段について、いずれかが故障したことを検出した場合には、残りの加熱手段により、最下流で前記乾燥温度となるように、最上流から最下流に向かって次第に温度が高くなるように前記デューティ比を操作することが好ましい(請求項2)。
【0009】
制御部は、残りの加熱手段により、最下流で乾燥温度となるように、最上流から最下流に向かって次第に温度が高くなるようにデューティ比を操作する。したがって、印刷媒体の温度が徐々に高くされるので、最上流で過乾燥となることによって印刷媒体がシワになる等の乾燥不良を防止できる。その結果、メンテナンス処理を行うまでの間であっても乾燥品質を良好に維持できる。
【0010】
また、本発明において、前記制御部は、前記少なくとも3個の加熱手段のうち、中央部よりも上流の加熱手段が故障したことを検出した場合には、当該故障した加熱手段以外の複数個の加熱手段のうち、相対的に下流に位置する加熱手段よりも相対的に上流に位置する加熱手段の方への前記欠落デューティ比の分配を大きくすることが好ましい(請求項3)。
【0011】
制御部は、中央部よりも上流の加熱手段が故障したことを検出した場合には、故障した加熱手段以外の複数個の加熱手段のうち、相対的に下流に位置する加熱手段よりも相対的に上流に位置する加熱手段の方への欠落デューティ比の分配を大きくする。したがって、印刷媒体の温度がある程度上がってから、乾燥部の下流に配置されている冷却部に達するまでの時間が短くならないようにできる。その結果、印刷媒体を十分に加熱できるので、メンテナンス処理を行うまでの間であっても乾燥不足に起因する乾燥不良を防止できる。
【0012】
また、本発明において、前記制御部は、前記少なくとも3個の加熱手段のうち、中央部の加熱手段が故障したことを検出した場合には、前記加熱手段の上流側と下流側の加熱手段に前記欠落デューティ比を均等に分配することが好ましい(請求項4)。
【0013】
制御部は、中央部の加熱手段が故障したことを検出した場合には、加熱手段の上流側と下流側の加熱手段に欠落デューティ比を均等に分配する。したがって、欠落した中央部の熱量を最下流と最上流とで均等に補うことができる。加熱を開始してから冷却部に達するまでの乾燥時間を正常時と実質的に同じにできる。その結果、メンテナンス処理を行うまでの間であっても乾燥不良を防止できる。
【0014】
また、本発明において、前記制御部は、前記少なくとも3個の加熱手段のうち、中央部よりも下流の加熱手段が故障したことを検出した場合には、当該故障した加熱手段以外の複数個の加熱手段のうち、相対的に上流に位置する加熱手段よりも相対的に下流に位置する加熱手段の方への前記欠落デューティ比の分配を大きくすることが好ましい(請求項5)。
【0015】
制御部は、中央部よりも下流の加熱手段が故障したことを検出した場合には、故障した加熱手段以外の複数個の加熱手段のうち、相対的に上流に位置する加熱手段よりも相対的に下流に位置する方への欠落デューティ比の分配を大きくする。逆の大きさで分配すると、最上流における印刷媒体の温度が正常時よりも速く上昇してしまうが、このような分配とすることにより、印刷媒体の温度上昇を正常時と同じように行わせることができる。したがって、印刷媒体が過乾燥になることを防止できるので、メンテナンス処理を行うまでの間であっても過乾燥に起因する乾燥不良を防止できる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、印刷媒体を所定の搬送方向に搬送させながら印刷ヘッドからインク滴を吐出して前記印刷媒体に対して印刷を行い、前記搬送方向における前記印刷ヘッドの下流側に配置され、前記印刷媒体を加熱する加熱手段を少なくとも3個備えた乾燥部によって前記印刷媒体を所定の乾燥温度で乾燥させるインクジェット印刷装置の制御方法において、前記加熱手段のオン時間の比率であるデューティ比を時系列的に記憶させつつ、搬送方向における前記印刷ヘッドの下流側に配置された、少なくとも3個の加熱手段を備えた乾燥部により前記印刷媒体を乾燥させる過程と、前記各加熱手段の故障を検出する過程と、故障を検出した場合には、記憶されているデューティ比のうち、故障の前における、故障した加熱手段のデューティ比である欠落デューティ比を、故障を検出した時点で加熱に寄与している正常な加熱手段に分配するようにデューティ比を操作する過程と、を備えていることを特徴とするものである。
【0017】
[作用・効果]請求項6に記載の発明によれば、少なくとも3個の加熱手段を備えた乾燥部により印刷媒体を乾燥させ、検出する過程にて加熱手段の故障を検出した場合には、故障した加熱手段のデューティ比である欠落デューティ比を、故障を検出した時点で加熱に寄与している正常な加熱手段に分配するようにデューティ比を操作する。したがって、加熱手段が故障したことにより減少した熱量を他の加熱手段で補うことができるので、乾燥能力の低下が生じることがない。その結果、故障を検出した時点では即座に印刷処理を停止させる必要がなく、メンテナンス作業のための準備時間を十分にとった上でメンテナンス作業を行うことができる。よって、迅速なメンテナンス作業を行うことができるので、装置のダウンタイムを抑制できる。その上、記憶されているデューティ比に基づく欠落デューティ比を分配するので、現在印刷処理している印刷内容に応じた適切な乾燥処理を継続できる。したがって、正常に稼動している加熱手段で代替して印刷処理を継続しても、乾燥処理による印刷品質の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るインクジェット印刷装置によれば、温度制御部は、乾燥部による乾燥により印刷媒体の温度が乾燥温度となるように乾燥部を操作する。故障検出部が故障を検出した場合には、温度制御部の制御部は、記憶部に記憶されている時系列のデューティ比のうち、欠落デューティ比を正常な加熱手段に分配するようにデューティ比を操作する。したがって、加熱手段が故障したことにより減少した熱量を他の加熱手段で補うことができるので、乾燥能力の低下が生じることがない。その結果、故障検出部が故障を検出した時点では即座に印刷処理を停止させる必要がなく、メンテナンス作業のための準備時間を十分にとった上でメンテナンス作業を行うことができる。よって、迅速なメンテナンス作業を行うことができるので、装置のダウンタイムを抑制できる。その上、記憶部に記憶されているデューティ比に基づく欠落デューティ比を分配するので、現在印刷処理している印刷内容に応じた適切な乾燥処理を継続できる。したがって、正常に稼動している加熱手段で代替して印刷処理を継続しても、乾燥処理による印刷品質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例に係る印刷システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】乾燥部及び温度制御部の要部を示すブロック図である。
図3】(a)は最上流のヒートローラが断線した場合の乾燥部の状態を示し、(b)は温度分布の例を示す模式図である。
図4】各ヒートローラのデューティ比を時系列的に示した模式図である。
図5】(a)は中央部のヒートローラが断線した場合の乾燥部の状態を示し、(b)は温度分布の例を示す模式図である。
図6】(a)は最下流のヒートローラが断線した場合の乾燥部の状態を示し、(b)は温度分布の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、実施例に係る印刷システムの概略構成を示すブロック図である。
【0021】
本実施例に係る印刷システム1は、給紙部3と、印刷装置5と、排紙部7とを備えている。
【0022】
給紙部3は、ロール状の連続紙WPを搬送方向Xに巻き出して供給する。印刷装置5は、例えば、連続紙WPに対してインク滴を吐出させて印刷を行うインクジェット式で構成され、連続紙WPに対して印刷を行う。排紙部7は、印刷を終えた連続紙WPをロール状に巻き取る。
【0023】
なお、上述した連続紙WPが本発明における「印刷媒体」に相当し、上述した印刷装置5が本発明における「インクジェット印刷装置」に相当する。
【0024】
印刷装置5は、給紙部3からの連続紙WPを取り込むための駆動ローラ9を上流側に備えている。駆動ローラ9によって給紙部3から巻き出された連続紙WPは、複数個の搬送ローラ11に沿って、下流側の排紙部7に向かって搬送される。最下流の搬送ローラ11と排紙部7との間には、駆動ローラ13が配置されている。駆動ローラ13は、搬送ローラ11上を搬送されている連続紙WPを排紙部7に向かって送り出す。
【0025】
印刷装置5は、駆動ローラ9と駆動ローラ13との間に、印刷ヘッド15と、乾燥部17と、冷却部19と、検査部21とを上流側からその順で備えている。乾燥部17は、印刷ヘッド15によって印刷された連続紙WPを加熱してインク滴の乾燥を行う。冷却部19は、乾燥部17で加熱された連続紙WPを冷却する。検査部21は、印刷された部分に汚れや抜け等がないかを検査する。
【0026】
印刷ヘッド15は、連続紙WPに対してインク滴を吐出することで印刷を行う。印刷ヘッド15は、連続紙WPの搬送方向Xに直交する、連続紙WPの幅方向Yに複数個のノズル(図示省略)を備えている。なお、印刷ヘッド15を搬送方向Xに複数個(例えば、4個)備え、多色の印刷を行う構成が一般的であるが、本実施例では、発明の理解を容易にするため、1個の印刷ヘッド15だけを備えている構成とする。
【0027】
印刷装置5は、印刷制御部23と、印刷条件設定部25と、温度制御部27と、報知部29とを備えている。印刷制御部23は、図示しないホストコンピュータなどから印刷画像データを受信する。印刷制御部23は、駆動ローラ9,13や、印刷ヘッド15、検査部21、温度制御部27等を統括的に制御する。印刷制御部23は、印刷画像データに基づいて印刷を行う際に、印刷条件設定部25を参照して印刷条件に応じて各部を制御する。印刷条件は、例えば、連続紙WPの種類、連続紙WPの搬送速度、乾燥部17における乾燥温度、冷却部19における冷却温度などである。
【0028】
温度制御部27は、印刷制御部23の制御の下で、乾燥部17と冷却部19の温度制御を行う。報知部29は、乾燥部17などにおいて異常が発生した場合にオペレータに対して報知する。報知部29は、例えば、表示装置やランプなどによる視覚的な報知や、ブザーなどによる音による報知を行う。
【0029】
ここで、図2を参照する。なお、図2は、乾燥部及び温度制御部の要部を示すブロック図である。
【0030】
乾燥部17は、複数個のヒートローラ31を備えている。本実施例では、乾燥部17がヒートローラ31を例えば3個備えているものとする。ここでは、各ヒートローラ31を区別する必要がある場合には、上流側から順に、ヒートローラ31a、31b、31cと称する。各ヒートローラ31は、中心部付近にハロゲンランプ33を内蔵している。ハロゲンランプ33は、赤外域の光を効率的に放射するものであって、ヒートローラ31を内部から加熱する。各ハロゲンランプ33を区別する場合には、ハロゲンランプ33a~33cと称する。ヒートローラ31は、連続紙WPのうち、インク滴が付着していない面(下面)に当接し、連続紙WPに付着しているインク滴を乾燥させる。本実施例における乾燥部17は、搬送方向Xに沿って直線状に3個のヒートローラ31a~31cを配置されている。乾燥部17は、各ヒートローラ31a~31cの外周面における温度を検出する温度センサ35をヒートローラ31a~31cごとに備えている。
【0031】
上述したハロゲンランプ33が本発明における「加熱手段」に相当し、上述した温度センサ35が本発明における「温度検出部」に相当する。
【0032】
上述したように構成された乾燥部17は、温度制御部27によって制御される。温度制御部27は、断線検知回路37と、PWM制御部39と、デューティ比メモリ41と、制御部43とを備えている。
【0033】
断線検知回路37は、ハロゲンランプ33の断線を検知する。断線検知回路37は、ハロゲンランプ33への通電状態を検出することで断線を検知する。断線を検知した場合には、そのことを制御部43に通知する。
【0034】
ハロゲンランプ33は、PWM制御部39によって制御される。PWM制御部39は、サイクルを一定に維持したままで、パルス幅を変えることにより点灯時間の比率(デューティ比)を0~100%の間で調整してハロゲンランプ33の輝度を制御する。その際には、温度センサ35の出力を参照して、フィードバック制御を行う。
【0035】
デューティ比メモリ41は、PWM制御部39からの出力であるデューティ比を時系列的に記憶する。デューティ比の記憶は、例えば、数秒から数分の間隔で行われる。記憶された時系列のデューティ比は、制御部43により参照される。制御部43は、断線検知回路37からの断線に係る通知を受け取ると、報知部29を操作して断線の発生に係る報知を行う。これとともに制御部43は、断線して故障したヒートローラ31(31a~31c)に対応するデューティ比メモリ41(41a~41c)から時系列のデューティ比を読み出す。そして、後述するように、そのデューティ比を正常なヒートローラ31(31a~31c)に分配する操作を行う。制御部43は、印刷条件設定部25で予め設定されている乾燥温度を目標値としてPWM制御部39に制御を指示する。
【0036】
なお、上述した断線検知回路37が本発明における「故障検出部」に相当し、デューティ比メモリ41が本発明における「記憶部」に相当する。
【0037】
<中央部より上流が故障した場合>
【0038】
ここで、図3及び図4を参照して、中央部より上流が故障した場合の一例として、3個のヒートローラ31a~31cのうちの最上流の1個が故障した場合における制御例について説明する。なお、図3は、(a)は最上流のヒートローラが断線した場合の乾燥部の状態を示し、(b)は温度分布の例を示す模式図であり、図4は、各ヒートローラのデューティ比を時系列的に示した模式図である。
【0039】
例えば、図4に示すように、0時点で駆動ローラ9,13が回転を始め、t1時点の直前で連続紙WPの速度が搬送速度に達して印刷が開始され、t1時点で乾燥部17に連続紙WPの印刷領域が到達したものとする。そして、t1~t2時点までは3個のヒートローラ31a~31cの全てが正常に作動し、t3時点で最上流のヒートローラ31aのハロゲンランプ33aが断線したものとする。図4において、実線はハロゲンランプ31aのデューティ比を表し、点線はハロゲンランプ31bのデューティ比を表し、二点鎖線はハロゲンランプ31cのデューティ比を表す。図4中のt1~t2時点までは、各PWM制御部39a~39cからハロゲンランプ33a~33cへ出力されたデューティ比がデューティ比メモリ41に時系列的に記憶されている。なお、デューティ比メモリ41は、故障が発生したt3時点から所定期間T1までの過去分のデューティ比を少なくとも記憶する記憶容量を備えている。所定期間T1は、例えば、数時間から数日程度であることが好ましい。
【0040】
乾燥が開始されたt1時点では、最上流のハロゲンランプ33aは、インク滴が吐出された直後の連続紙WPがヒートローラ31aに接する関係上、温度が下がりやすいので、デューティ比が最も高くなるように操作される。中央部のハロゲンランプ31bは、最上流のヒートローラ31aで昇温された連続紙WPに接するヒートローラ33bを加熱するので、ハロゲンランプ33aより低いデューティ比で操作される。最下流のハロゲンランプ33cは、最上流及び中央部で加熱された連続紙WPに接するヒートローラ31cを加熱するので、ハロゲンランプ33bより低いデューティ比で操作される。
【0041】
なお、ハロゲンランプ33a~33cの各デューティ比が細かく変動しているが、これは連続紙WPに印刷されている印刷内容によってヒートローラ31a~31cの温度変化が生じるからである。例えば、ベタ塗りの箇所では温度が低下するので、デューティ比が高くされ、空白が多い箇所では温度が高くなるので、デューティ比が低くされる。このようなデューティ比の変動は、印刷内容の他に、連続紙WPの厚さや種類、印刷媒体の種類や、搬送速度などによっても異なるものとなる。
【0042】
図3(b)に実線L1で示すように、3個のヒートローラ31a~31cが正常に動作しているt1~t2時点における乾燥部17の位置に応じた温度分布は、最下流から最上流に向かって次第に温度が高くなり、最終的に乾燥温度になるように各ハロゲンランプ33a~33cに与えられるデューティ比が操作されている。
【0043】
図4に示すt3時点でハロゲンランプ33aが故障した場合には、制御部43が断線検知回路37aからの通知によりハロゲンランプ33aの故障を検知する。制御部43は、t3時点を含む過去の時系列的なデューティ比をデューティ比メモリ41aから読み出す。ここでは、例えば、図4における所定期間T1のデューティ比を読み出す。なお、図4における所定期間T1における各ハロゲンランプ33a~33cに与えられたデューティ比は、例えば、平均値で、80%、70%、60%であったとする。
【0044】
制御部43は、故障したハロゲンランプ33aのデューティ比(例えば80%であり、本発明における「欠落デューティ比」に相当する)を正常なハロゲンランプ33b、33cのPWM制御部39b、39cに分配する。ここで、正常に動作している際の各ハロゲンランプ31a~31cに与えられるデューティ比は、順にr1,r2,r3であるとする。例えば、ハロゲンランプ33aのデューティ比r1=Δr2+Δr3であった場合には、PWM制御部39bがハロゲンランプ33bをデューティ比r2+Δr2で操作し、PWM制御部39cがハロゲンランプ33cをデューティ比r3+Δr3で操作する(図3(b)中の二点鎖線L2)。ここで、Δr2はΔr3より大きいことが好ましい(Δr2>Δr3)。
【0045】
最上流のヒートローラ31aが故障した場合、連続紙WPは、中央部のヒートローラ31bで初めて加熱され、その後、最下流のヒートローラ31cを経て冷却部29で冷却される。その初めて加熱されて冷却されるまでの乾燥時間が、最上流のヒートローラ33aが正常な場合に比較して短くなる。そのためΔr2>Δr3の大小関係となるデューティ比で操作して、中央部のヒートローラ31bにて高めの温度で最初に加熱しておく。すると、Δr2<Δr3の大小関係となるデューティ比で操作した場合に比較して、実質的な乾燥時間を長くできる。つまり、連続紙WPの温度がある程度上がってから、連続紙WPが冷却部19に達するまでの時間が短くならないようにできる。したがって、最上流のヒートローラ31aが故障しても、乾燥不足に起因する連続紙WPの乾燥不良を防止できる。
【0046】
<中央部が故障した場合>
【0047】
ここで、図5を参照して、3個のヒートローラ31a~31cのうちの中央部のヒートローラ31bが故障した場合における制御例について説明する。なお、図5は、(a)は中央部のヒートローラが断線した場合の乾燥部の状態を示し、(b)は温度分布の例を示す模式図である。
【0048】
図5(b)に実線L1で示すように、3個のヒートローラ31a~31cが正常に動作している場合には、最下流から最上流に向かって次第に温度が高くなり、最終的に乾燥温度になるように各ハロゲンランプ33a~33cに与えられるデューティ比が操作されている。
【0049】
制御部43は、断線検知回路37bからの通知により、中央部のヒートローラ31bにおけるハロゲンランプ33bの故障を検知する。制御部43は、故障の発生時点を含む過去の時系列的なデューティ比をデューティ比メモリ41bから読み出す。
【0050】
制御部43は、故障したハロゲンランプ33bのデューティ比(例えば70%、本発明における「欠落デューティ比に相当する)を正常なハロゲンランプ33a及びハロゲンランプ33cに分配する。例えば、ハロゲンランプ33bのデューティ比r2=Δr1+Δr3であった場合には、PWM制御部39aがハロゲンランプ33aをデューティ比r1+Δr1で操作し、PWM制御部39cがハロゲンランプ33cをデューティ比r3+Δr3で操作する(図5(b)中の二点鎖線L2)。ここで、Δr1はΔr3と等しいことが好ましい(Δr1=Δr3)。これにより、最上流のヒートローラ31aにて高めの温度で最初に加熱しておくことになり、加熱を開始してから冷却部19に達するまでの乾燥時間を正常時と実質的に同じにできる。したがって、中央部のヒートローラ31bが故障しても、乾燥不足による連続紙WPの乾燥不良を防止できる。
【0051】
<中央部より下流が故障した場合>
【0052】
ここで、図6を参照して、中央部より下流が故障した場合の一例として、3個のヒートローラ31a~31cのうちの最下流のヒートローラ33cが故障した場合における制御例について説明する。なお、図6は、(a)は最下流のヒートローラが断線した場合の乾燥部の状態を示し、(b)は温度分布の例を示す模式図である。
【0053】
制御部43は、断線検知回路37cからの通知により、最下流のヒートローラ31cにおけるハロゲンランプ33cが故障したことを検知する。制御部43は、故障の発生時点を含む過去の時系列的なデューティ比をデューティ比メモリ41cから読み出す。
【0054】
制御部43は、故障したハロゲンランプ33cのデューティ比(例えば60%、本発明における「欠落デューティ比に相当する)を正常なハロゲンランプ33a及びハロゲンランプ33bに分配する。例えば、ハロゲンランプ33cのデューティ比r3=Δr1+Δr2であった場合には、PWM制御部39aがハロゲンランプ33aをデューティ比r1+Δr1で操作し、PWM制御部39bがハロゲンランプ33bをデューティ比r2+Δr2で操作する(図6(b)中の二点鎖線L2)。ここで、Δr2はΔr1より大きいことが好ましい(Δr2>Δr1)。
【0055】
連続紙WPは、最上流のヒートローラ31aで初めて乾燥されるが、このときの温度が正常時より高くなり過ぎると、連続紙WPが過乾燥となって、連続紙WPのインク滴が急激に乾きすぎる現象が起きる。すると、連続紙WPがシワになって乾燥処理が行われることになり、シワによる乾燥不良が生じる。そのためΔr2>Δr1の大小関係のデューティ比で操作して、最上流のヒートローラ31aにて最初に穏やかに加熱しておくことにより、シワの発生を防止できる。その結果、最下流のヒートローラ31cが故障しても、過乾燥に起因する乾燥不良を防止できる。
【0056】
本実施例によると、断線検知回路37が故障を検出した場合には、制御部43は、デューティ比メモリ41に記憶されている時系列のデューティ比のうち、故障したヒートローラ31を操作するために与えられていたデューティ比を正常なヒートローラ31に分配するようにデューティ比を操作する。したがって、ヒートローラ31が故障したことにより減少した熱量を他のヒートローラ31で補うことができるので、乾燥不良が生じることがない。その結果、断線検知回路37が故障を検出した時点では即座に印刷処理を停止させる必要がなく、メンテナンス作業のための準備時間を十分にとった上でメンテナンス作業を行うことができる。よって、迅速なメンテナンス作業を行うことができるので、印刷装置5のダウンタイムを抑制できる。その上、デューティ比メモリ41に記憶されているデューティ比に基づいて故障したヒートローラ31分のデューティ比を分配するので、現在印刷処理している印刷内容に応じた適切な乾燥処理を継続できる。したがって、正常に稼動しているヒートローラ31で代替して印刷処理を継続しても、乾燥処理による印刷品質の低下を抑制できる。
【0057】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0058】
(1)上述した実施例では、乾燥部17が直線状に複数個のヒートローラ31を備えている構成であったが、本発明はこのような構成に限定されない。例えば、複数個のヒートローラ31を環状にした構成の乾燥部17であっても適用できる。
【0059】
(2)上述した実施例では、乾燥部17が3個のヒートローラ31を備えている構成であったが、本発明はこのような構成に限定されない。例えば、4個以上のヒートローラ31を備えている構成であってもよい。このような構成の場合であっても、故障したヒートローラ31に付与されていたデューティ比(熱量相当)を、残りの正常なヒートローラ31に分配すればよい。その場合には、上述したように過乾燥を防止したり、乾燥時間が短くならないようにしたりすることが好ましい。また、1個の加熱手段の熱量を2個の加熱手段の熱量で補うことができない場合には、3個以上の加熱手段の熱量で補うようにしてもよい。
【0060】
(3)上述した実施例では、故障検出部を断線検知回路37a~37cとしているが本発明はこの構成に限定されない。つまり、各ハロゲンランプ33a~33cの故障を検知できればよいので、例えば、光センサによって各ハロゲンランプ33a~33cの輝度を検出して故障検出を行うようにしてもよい。
【0061】
(4)上述した実施例では、加熱手段としてハロゲンランプ33を例にとって説明したが、本発明はハロゲンランプ33に限定されない。例えば、ハロゲンランプ33に代えてヒータや温風発生器を採用してもよい。
【0062】
(5)上述した実施例では、図4に示すような時系列的なデューティ比の中から故障したt3時点から所定期間T1のデューティ比に限って平均値を算出して分配した。しかしながら、本発明はこのような手法に限定されない。つまり、記憶されている全てのデューティ比を用いて平均値を算出したり、印刷条件設定部25で設定された条件が同じ範囲内だけを対象としてデューティ比の平均値を算出したりしてもよい。
【0063】
(6)上述した実施例では、印刷媒体として連続紙WPを例示しているが、印刷媒体が紙以外のものであっても本発明を実施できる。例えば、プラスチック製のフィルムが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明は、加熱手段を複数個備えた乾燥部を有するインクジェット印刷装置及びその制御方法に適している。
【符号の説明】
【0065】
1 … 印刷システム
3 … 給紙部
X … 搬送方向
Y … 幅方向
5 … 印刷装置
7 … 排紙部
9,13 … 駆動ローラ
11 … 搬送ローラ
17 … 乾燥部
27 … 温度制御部
29 … 報知部
31(31a~31c) … ヒートローラ
33(33a~33c) … ハロゲンランプ
35 … 温度センサ
37(37a~37c) … 断線検知回路
41(41a~41c) … デューティ比メモリ
43 … 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6