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  • 特許-横編機によるパイル編地の編成方法 図1
  • 特許-横編機によるパイル編地の編成方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】横編機によるパイル編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/02 20060101AFI20240216BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20240216BHJP
   D04B 7/12 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
D04B1/02
D04B1/00 Z
D04B7/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020079911
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021172934
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】奥野昌生
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-290572(JP,A)
【文献】特開2019-210559(JP,A)
【文献】特開2010-150690(JP,A)
【文献】特開平11-061605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00 -1/28,21/00-21/20
D04B3/00 -19/00,23/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の編針を配置させた前後針床上を往復走行するキャリッジを備えた横編機にパイル糸とシメ糸を給糸し、一方の針床の編針でパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、他方の針床の編針で前記ベースの裏側にパイル糸のみからなるパイルループを形成することでパイル編地を編成する方法において、
キャリッジに搭載した前後のカムシステムに、
前記編針に備わるバットを上昇させる上げカム面を有し、前記編針を進出させるニードルレイジングカムと、
前記バットを下降させる第1引き込み面を有し、前記編針を引き下げる度山カムを設けるとともに先行側給糸口にパイル糸、後行側給糸口にシメ糸の2つの給糸口を割り当て、
前記カムシステムのうち少なくともパイルループを形成する側のカムシステムには、前記度山カムの前記第1引き込み面の先行側に前記バットを下降させる第2引き込み面を有する作用状態と不作用状態を切り換え可能なルート切り換えカムを設けて、
パイル編成を行うコースでは、
パイルループを形成する側のカムシステムでは、前記ルート切り換えカムを作用状態とさせ編針がパイル糸とシメ糸のうちパイル糸だけを喰い、パイル編地のベースを形成する側のカムシステムでは編針がパイル糸とシメ糸の両方を喰うようにすることを特徴とする横編機によるパイル編地の編成方法。
【請求項2】
前後いずれのカムシステムでもパイルループを形成できるよう前後のカムシステムのそれぞれにルート切り換えカムを設けて、前後一方のカムシステムのルート切り換えカムを作用状態にしてパイル編成を行うコースと、前後他方のカムシステムのルート切り換えカムを作用状態にしてパイル編成を行うコースとを織り交ぜて編成することでパイル編地の表裏にパイルループを形成することを特徴とする請求項1に記載の横編機によるパイル編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は横編機によるパイル編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイル編地とは、前針床(FB)と後針床(BB)のうち一方の針床の編針でパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、ベースの裏側にパイル糸のみからなるパイルループを他方の針床の編針で形成したものである。
【0003】
特許文献1には、シンカー装置を備えた横編機によりパイル地を編成する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のパイル地の編成方法は、パイル糸を引き出すためのシンカー装置を備えていない横編機では形成することができない。
【0004】
図2は、特許文献1とは異なる方法によるパイル編地の編成方法として示す。この方法では2つのカムシステム(SYS1、SYS2)を搭載したキャリッジで行うものである。FBの編針でパイル編地のベースを形成し、BBの編針でパイルループを形成する。パイル糸31用の給糸口P、シメ糸33用の給糸口Bの2つの給糸口を用意し、先行カムシステム(SYS1)にはパイル糸31、後行カムシステム(SYS2)にはシメ糸33、をそれぞれ割り当てる。
【0005】
SYS1ではFB、BBの編針を進退させてパイル糸31を引き込む。このときFBの編針を1つ前のコースで形成された旧編目が編針の先端からノックオーバーされない程度まで引き込み、この状態を維持したまま後行のSYS2へと案内する。SYS2ではBBの編針を動作させず、FBの前記状態の編針のみを再度進退させてシメ糸33を喰わせる。これによりFBの編針は、パイル糸31とシメ糸33の両方を引き込むことで旧編目をノックオーバーさせる。その後、図示は省略するがBBの編針に対し、編糸を給糸させることなく進退させ、SYS1で引き込んだパイル糸31を編針から外してパイルループを形成する。このような編成を繰り返し行うことでパイル編地を編成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭60-59333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した方法によるものでは、SYS1ではFBの編針が前コースで形成した旧編目を針先端からノックオーバーされないように度山カムの位置を調整する、あるいは取り外す必要があった。さらに2つのカムシステムを必要とするため生産性も低くなるなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の横編機によるパイル編地の編成方法では、複数の編針を配置させた前後針床上を往復走行するキャリッジを備えた横編機にパイル糸とシメ糸を給糸し、一方の針床の編針でパイル糸とシメ糸による編目でパイル編地のベースを形成し、他方の針床の編針で前記ベースの裏側にパイル糸のみからなるパイルループを形成することでパイル編地を編成する方法において、
キャリッジに搭載した前後のカムシステムに、
前記編針に備わるバットを上昇させる上げカム面を有し、前記編針を進出させるニードルレイジングカムと、
前記バットを下降させる第1引き込み面を有し、前記編針を引き下げる度山カムを設けるとともに先行側給糸口にパイル糸、後行側給糸口にシメ糸の2つの給糸口を割り当て、
前記カムシステムのうち少なくともパイルループを形成する側のカムシステムには、前記度山カムの前記第1引き込み面の先行側に前記バットを下降させる第2引き込み面を有する作用状態と不作用状態を切り換え可能なルート切り換えカムを設けて、
パイル編成を行うコースでは、
パイルループを形成する側のカムシステムでは、前記ルート切り換えカムを作用状態とさせ編針がパイル糸とシメ糸のうちパイル糸だけを喰い、パイル編地のベースを形成する側のカムシステムでは編針がパイル糸とシメ糸の両方を喰うようにした。
【0009】
また前後いずれのカムシステムでもパイルループを形成できるよう前後のカムシステムのそれぞれにルート切り換えカムを設けて、前後一方のカムシステムのルート切り換えカムを作用状態にしてパイル編成を行うコースと、前後他方のカムシステムのルート切り換えカムを作用状態にしてパイル編成を行うコースとを織り交ぜて編成することでパイル編地の表裏にパイルループを形成するようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、パイル編成を行うコースでは、編地のベースとなる側のカムシステムではパイル糸とシメ糸の両方を引き込むことができるが、パイルループを形成する側のカムシステムではルート切り換えカムが作用状態にあるので先行するパイル糸だけを引き込むことになる。この結果、単一カムシステムでパイル糸とシメ糸による編成を完結できパイル編地を効率よく編成することができる。
【0011】
また前後のカムシステムのそれぞれにルート切り換えカムを設けたので前後いずれのカムシステムでもパイルループを形成することができる。したがって編地のベースの表裏(前後)にパイルループを形成した編地を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係るパイル編成を行うための編針と、カムシステムとの対応関係を示す概略説明図である。
図2図2は、従来の横編機によるパイル編成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
以下、実施形態では2枚ベッド横編機を用いた例を説明する。横編機は、複数の編針1が配置された針床と編針1を駆動させるカムシステム3を搭載したキャリッジと針床に編糸を給糸する複数の給糸口を備える。なおカムシステム3に搭載されるカムやプレッサの駆動方式や針床の構成や編針の選針方法などは特許第5057996号公報などに開示された公知の横編機と同じであるので説明は省略する。また本実施形態では後述するルート切り換えカムを前後のカムシステム3のそれぞれに設けてパイル編地のベースの表裏(前後)にパイルループを形成することができるカムシステム3の例とする。
【0015】
図1は、編針1と、カムシステム3との対応関係を示す概略説明図である。編針1は、ニードル本体5とニードルジャック7とセレクトジャック9とセレクタ11とを備える。ニードルジャック7には編針1の進退操作用のバット7a、セレクトジャック9にはA,H,Bポジション選択用のバット9aが設けられている。図ではセレクトジャック9は中間のHポジションに選針されている。
【0016】
図1のカムシステム3は、ニット・タック・ミスを実施できるカムシステムであるが、編目の目移しも可能な複合カムシステムであってもよい。図はカムシステム3が左向きに走行して編成を行なうときの状態を示す。カムシステム3は、バット7aに作用する複数のカムとバット9aに作用する複数のプレッサを備える。中央に配したニードルレイジングカム13とこれを挟んで左右に設けた度山カム15,15、ルート切り換えカム17,17はバット7aに作用する。
【0017】
ニードルレイジングカム13は、バット7aに作用して編針1をニット位置まで上昇させる上げカム面13aを備える。度山カム15は、バット7aを下降させる第1引き込み面15aを備える。ニットやタックなど通常の編成では、バット7aはルート切り換えカム17を素通りして度山カム15の第1引き込み面15aにガイドされて引き込みルート(通常ルート)を通過する。パイル編成を行なう場合、パイルループを形成しない編地のベースとなる側を編成するカムシステム3ではバット7aを通常ルートを通過させる。
【0018】
ウェルトプレッサ19は選針の初期位置となるBポジションに配置され、選針されなかったセレクトジャック9を押圧して編針1をミスにさせる。タックプレッサ21はAポジションに配置され、この左右にルート切り換えプレッサ23を設けている。ルート切り換えカム17は、編針1にパイル糸31を喰わせるがシメ糸33を喰わないように作用するものであって、度山カム15の第1引き込み面15aの上方側に配置される。ルート切り換えカム17は、第1引き込み面15aの先行側でバット7aを下降させる第2引き込み面17aを備える。
【0019】
ルート切り換えカム17を度山カム15やニードルレイジングカム13の半分程度の厚さとし、ルート切り換えプレッサ23のバット9aに対する押圧量をウェルトプレッサ21やタックプレッサ21の半分程度(ハーフ高さのプレッサ)に構成されている。この場合、ルート切り換えプレッサ23によってセレクトジャック9のバット9aは半分だけ押し込まれるのでニードルジャック7のバット7aも半分沈められる。その結果、バット7aはルート切り換えカム17の作用を受けずに通過し、度山カム15の第1引き込み面15aによって引き込まれる。
【0020】
ルート切り換えプレッサ23は、ソレノイドなどの駆動手段により駆動され、図の左側に示すように上昇した不作用位置と図の右側に示す下降した作用位置(Hポジション)の間を揺動可能に構成されている。上記に代えてルート切り換えカム17をソレノイドなどの駆動手段で出没制御させて作用位置と不作用位置を切り換え可能に構成してもよい。この場合は、ルート切り換えプレッサ23を設ける必要はない。給糸口に関しては、パイル糸31を給糸する先行給糸口Pと、シメ糸33を給糸する後行給糸口Bとを、カムシステムに対して図に示す位置に保持して走行させる。
【0021】
以上説明したカムシステム3を備えた横編機を用いてパイル編地を編成する方法について説明する。以下の例ではパイル編地のベースはFBの編針で形成され、パイルループはBBの編針で形成されるものとする。
【0022】
図1に示すようにカムシステム3が左向きに走行時、パイル編地のベースを形成するFBのカムシステム3では編針1のセレクトジャック9のバット9aはHポジション、先行側ルート切り換えプレッサ23は不作用位置、後行側のルート切り換えプレッサ23はHポジションにそれぞれセットされる。一方、パイルループを形成するBBのカムシステム(不図示)では編針1がHポジション、ルート切り換えプレッサ23は先行後行とも上昇した不作用位置にそれぞれセットされる。
【0023】
I位置では、FB,BBのHポジションに選針されたセレクトジャック9のバット9aは共にいずれのプレッサの作用を受けないので編針1はニット位置まで進出してパイル糸31をフックで喰えることができる。しかし続くII位置では、編地のベースを形成するFBのカムシステム3ではバット9aはルート切り換えプレッサ23の押圧作用を受けるので編針1はルート切り換えカム17の第2引き込み面17aの作用を受けず素通りする。その結果、編針1はI位置とほぼ同じ状態を保つことになり、後行給糸口Bから給糸されるシメ糸33をフックで喰えることができる。その後、後続の度山カム15の第1引き込み面15aで引き下げられてパイル糸31とシメ糸33の両方で編目を形成する。これに対し、パイルループを形成するBBのカムシステム3では、ルート切り換えプレッサ23は不作用位置にあるのでバット9aはループ切り換えカム17の第2引き込み面17aに沿って引き下げられた後、度山カム15の第1引き込み面15aによって更に引き下げられる。つまり編針1はシメ糸33が給糸される前に引き下げられることになるので編針1にはパイル糸31だけがフックされた状態となっている。
【0024】
このような動作のため単一のカムシステム3でパイル糸31とシメ糸33による編成を行うことができる。しかる後、パイルループを係止したBBの編針1に対し、編糸を給糸せずに進退させてパイル糸を編針1から外す。このような編成を繰り返し行うことで編地のベースの裏側にパイルループを有するパイル編地(片面パイル)を編成することができる。パイルループを形成するカムシステム3をコース毎に前後切り換えて行うことで編地のベースの表裏両方にパイルループを有するパイル編地(両面パイル)を編成することもできる。
【0025】
上記ではパイル糸とシメ糸の2つの編糸により単色のパイル編地の編成を例にしたが、異なる2色のパイル糸と給糸口を2つ用意して編成を行えば2色柄のパイル編地を編成することができる。この場合、1色目のパイルループを形成するカムシステムでは、2色目のパイル糸をシメ糸とし、2色目のパイルループを形成するカムシステムでは、1色目のパイル糸をシメ糸として使用することができる。本明細書でいうシメ糸とは、編針でパイル糸と一緒に引き込まれて編目を形成する糸を意味するものであり、パイル糸と異種の糸であっても同種の糸であってもよい。また上記実施形態ではルート切り換えカムを前後のカムシステムのそれぞれに設けた例を示したが、編地のベースの表裏いずれかにだけにパイルループを形成するパイル編地の編成を行う場合には、ルート切り換えカムは前後カムシステムの一方にだけ設ければよい。
【符号の説明】
【0026】
1 編針
3 カムシステム
5 ニードル本体
7 ニードルジャック 7a バット
9 セレクトジャック 9a バット
11 セレクタ
13 ニードルレイジングカム 13a 上げカム面
15 度山カム 15a 第1引き込み面
17 ルート切り換えカム 17a 第2引き込み面
19 ウェルトプレッサ
21 タックプレッサ
23 ルート切り換えプレッサ
31 パイル糸
33 シメ糸
P,G 給糸口
図1
図2