(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 87/02 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
D05B87/02
(21)【出願番号】P 2020082798
(22)【出願日】2020-05-08
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】真船 潤
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-158412(JP,A)
【文献】特開2008-272059(JP,A)
【文献】特開2005-160592(JP,A)
【文献】特開2020-018601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 87/00-87/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針を保持する針棒と、当該針棒を所定の軸を中心に揺動可能に支持する針駆動装置と、レバーを押し下げることによって待機位置から糸通し位置へスライドし、当該針の針孔に上糸を挿通させる糸通し部を備える糸通し装置と、を備えるミシンにおいて、
前記糸通し装置は、
前記糸通し部を支持する支持体と、
前記レバーの移動に連動する前記支持体をスライド可能に支持する支持体台部と、を備え、
前記待機位置では前記針駆動装置から前記糸通し装置を離間させる一方、前記糸通し位置では前記針駆動装置と前記糸通し装置とを接近するように前記支持体台部と前記針駆動装置とがそれぞれ前記軸を中心に揺動可能に支持されることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記支持体台部を前記針駆動装置に向けて付勢する付勢部材を備える請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
一方が前記支持体に設けられ他方が当該支持体以外に設けられた一対のカム部を有し、
前記支持体のスライドに連動して、前記待機位置においては前記一対のカム部が連係して前記支持体台部の前記針棒に向かう揺動が阻止されて前記針駆動装置から前記糸通し装置が離間される状態となり、前記糸通し位置においては当該一対のカム部の連係が解除されて当該支持体台部の当該針棒に向かう揺動が許容される状態へ切り替わることを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記支持体は、前記糸通し位置において前記針駆動装置に連係し、前記糸通し部が前記針孔に上糸を挿通させる所定の位置に当該針駆動装置と前記糸通し装置と位置させる位置決め部を有する請求項1~3の何れか一項に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針先に設けられた針孔に上糸を通すための糸通し装置を備えるミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
針先に設けられた針孔に上糸を通すための糸通し装置を備えるミシンとして、例えば下記の特許文献1が知られている。特許文献1の糸通し装置は、同文献の
図2、
図4に示すように、フック状の部材を針孔に通し、そのフックに上糸を掛けて、フック状の部材を針孔から引き抜くことによって糸通しが行えるように構成されている。しかしこの装置による糸通し作業は、同文献の
図2に示されているように、作業者は一方の指で糸を摘まみ、他方の指でレバーを押し下げなければならない。すなわち、糸通し作業にあたって両手を使わなければならず煩わしさがある。
【0003】
このような問題点を解消して作業性を向上させた糸通し装置も提案されている。例えば下記の特許文献2においては、同文献の
図1~2、
図8~10等に示されているように、糸通し準備段階で上糸を糸保持機構(70)に掛けておき、操作レバー(47)を押し下げると、これに連動してフック(32)が針孔を通るとともに糸保持機構がフックまで上糸を案内して上糸がフックに捕捉され、その後、操作レバーへの押圧を解除してこれが上方へ移動すると、上糸を捕捉した状態でフックが針孔から抜けるために上糸が糸通しされる。すなわち、特許文献2の糸通し装置においては、操作レバーを操作するのみ、つまり片手で操作するのみで糸通しを行うことができるため、作業性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-64386号公報
【文献】特開2006-158412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで特許文献2の糸通し装置は、糸通し作業が向上する一方で大型化を招いている。具体的に説明すると、この装置では、従前の装置に設けられていた針孔にフックを通すためにフックを回転させる軸に加え、上糸を針孔へ案内するために糸保持機構を回転させるための軸も必要であり、特にこの2本の軸の存在が大型化の要因となっている。更に特許文献2における糸通し装置は、同文献の
図2に示されているように、針を上下動させる針棒上下動機構(13)に設けられている。すなわちミシンには、針を上下動させつつこれを左右に動かすことによってジグザグ縫いを行う機能が設けられているところ、ジグザグ縫いを行う場合は、針棒上下動機構のみならず糸通し装置も連動して左右に動くことになる。従って特許文献2に示された如き従来の糸通し装置を備えるミシンでは、先に述べた大型化と相俟って、特にジグザグ縫いを行う場合に騒音や振動が大きいという問題を抱えている。
【0006】
このような問題点に鑑み、本発明は、糸通し作業が行いやすく、またジグザグ縫いを行う場合においても騒音や振動を抑制することが可能なミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、針を保持する針棒と、当該針棒を所定の軸を中心に揺動可能に支持する針駆動装置と、レバーを押し下げることによって待機位置から糸通し位置へスライドし、当該針の針孔に上糸を挿通させる糸通し部を備える糸通し装置と、を備えるミシンにおいて、前記糸通し装置は、前記糸通し部を支持する支持体と、前記レバーの移動に連動する前記支持体をスライド可能に支持する支持体台部と、を備え、前記待機位置では前記針駆動装置から前記糸通し装置を離間させる一方、前記糸通し位置では前記針駆動装置と前記糸通し装置とを接近するように前記支持体台部と前記針駆動装置とがそれぞれ前記軸を中心に揺動可能に支持されるように構成している。
【0008】
このようなミシンは、前記支持体台部を前記針駆動装置に向けて付勢する付勢部材を備えることが好ましい。
【0009】
また上記のミシンは、一方が前記支持体に設けられ他方が当該支持体以外に設けられた一対のカム部を有し、前記支持体のスライドに連動して、前記待機位置においては前記一対のカム部が連係して前記支持体台部の前記針棒に向かう揺動が阻止されて前記針駆動装置から前記糸通し装置が離間される状態となり、前記糸通し位置においては当該一対のカム部の連係が解除されて当該支持体台部の当該針棒に向かう揺動が許容される状態へ切り替わるように構成することが好ましい。
【0010】
そして前記支持体は、前記糸通し位置において前記針駆動装置に連係し、前記糸通し体が前記針孔に上糸を挿通させる所定の位置に当該針駆動装置と前記糸通し装置と位置させる位置決め部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のミシンによれば、レバーを押し下げることによって糸通し部が待機位置から糸通し位置へスライドし、それに伴って針孔に上糸を挿通させることができるため、糸通し作業を容易に行うことができる。また糸通しが行われる糸通し位置では接近していた針駆動装置と糸通し装置を、待機位置では離間させることができ、ジグザグ縫いを行う場合に糸通し装置が針駆動装置に連動して移動することがないため、騒音や振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るミシンの一実施形態を示した外観図である。
【
図2】
図1に示したミシンにおいて、面板を取り外して内部の糸通し装置と針駆動装置を示した斜視図である。
【
図3】
図2における糸通し装置と針駆動装置の分解斜視図である。
【
図4】支持体の先端部周辺を示した部分拡大斜視図であって、(a)は上糸を保持する前の状態であり、(b)は上糸を保持した後の状態である。
【
図5】糸通し装置による糸通し動作に関する説明図である。
【
図6】
図5に示す状態に引き続いて行われる糸通し装置による糸通し動作に関する説明図である。
【
図7】
図6に示す状態に引き続いて行われる糸通し装置による糸通し動作に関する説明図である。
【
図8】
図7に示す状態に引き続いて行われる糸通し装置による糸通し動作に関する説明図である。
【
図9】
図8に示す状態に引き続いて行われる糸通し装置による糸通し動作に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るミシンの一実施形態について説明する。なお以下の説明におけるX、Y、Z方向とは、図面に示した矢印X、Y、Zに沿う方向であってミシン1を正面から見た際の左右方向をX方向、奥行き方向(前後方向)をY方向、高さ方向(上下方向)をZ方向とする。
【0014】
図1に示すように本実施形態のミシン1は、その全体を覆うミシンカバー2を備えている。本実施形態のミシンカバー2は、主にミシン1の右側部分と中央部分を覆うミシンカバー本体2aと、主にミシン1の左側部分を覆う面板2bとを備えていて、ミシンカバー本体2aと面板2bの境界付近には、溝状の糸道2cが設けられている。ミシンカバー2の右側上方には、糸駒sを支持する糸駒支持部3が設けられていて、ミシンカバー2の左側下方には、針棒糸掛け部4、針5(先端に針孔5aが設けられている)、糸掛けばね6(
図2参照)、及びレバー7の下部(後述する押圧部7a)が、面板2bから露出する状態で設けられている。なお本実施形態の糸掛けばね6は、図示したように面板2bの下面に対してその一端部がねじ等で固定されていて、糸駒sからの上糸tを、他端部と面板2bで挟持することができる。また図示は省略するが、糸掛けばね6の近傍には、上糸tをカットするための糸切り刃が設けられている。
【0015】
ミシン1により布を縫製するにあたり、作業者は、その準備段階として糸駒sから上糸tを引出して針孔5aに挿通させる糸掛け動作を行う必要がある。詳細については後述するが、本実施形態のミシン1では、作業者が糸駒sからの上糸tを糸道2cに通し、更に針棒糸掛け部4に掛けた後、糸掛けばね6と面板2bで挟み込むようにしてこれを保持させて糸掛け動作が行われる。なお以下の説明では、糸掛けばね6と面板2bをまとめて第二糸保持部h2と称する。その後はレバー7を押し下げると、後述する針駆動装置8に糸通し装置9が作用して、上糸tを針孔5aに自動的に挿通させることができる。
【0016】
ここで針駆動装置8の構成について、
図2、
図3を参照しながら詳細に説明する。なお
図3の分解斜視図は、各部の連係を説明するためのものであって、組み立て手順を厳密に示したものではなく、組み立て時に後から取り付ける部材を先に取り付けて示した箇所がある。
【0017】
本実施形態の針駆動装置8は、下端部に針棒糸掛け部4を保持するとともに針棒糸掛け部4の下方に針5を保持する針棒10と、針棒10を上下方向にスライド可能に支持する針棒支持体11と、針棒10の中間部に固定される糸通し位置決め板12とを備えている。本実施形態の針棒支持体11は、所定の形状になる板金を折り曲げて形成されたものであって、その上部には針棒支持体11をY方向に貫通する円形の軸孔11aが設けられている。また針棒支持体11の中間部には、これをY方向に貫通する振幅連結部11bが設けられている。そして針棒支持体11の左側面には、平面状になる位置決め部(針駆動装置側位置決め部)11cが設けられている。また糸通し位置決め板12は、X方向に延在する突出部12aと、突出部12aの上方であってその根元側に位置する溝部12bとを備えている。
【0018】
本実施形態の針駆動装置8は、針5を上下運動させる機構として、不図示のモータによって回転する上軸13と、上軸13と針棒10との間に設けられるとともに、上軸の回転運動を往復直線運動に変換するクランク部14とを備えていて、モータの回転によって針棒10が上下方向に移動して針5を上下運動させることができる。
【0019】
また針駆動装置8は、針5を左右に揺動運動させる機構として、ミシンアーム15からY方向に突出する円柱状の軸16と、振幅連結部11bに連結する不図示の振幅機構を備えている。軸16は、針棒支持体11の軸孔11aを挿通して針棒支持体11を回転可能に支持するものであって、振幅機構を駆動させると、針棒支持体11は軸16を中心に左右に揺動運動するため、針棒支持体11に支持された針棒10を介して針5も左右に揺動運動する。このような針5の上下運動による縫目形成と針5の揺動運動を組み合わせることで、ジグザグ縫いや模様縫い、文字縫い等を行うことができる。なお、ミシンアーム15は、ミシンの骨格にあたるフレーム部材である。
【0020】
糸通し装置9は、
図3の部分拡大図に示すように、下方を開放した鉤状の糸通しフック17を備えている。詳細については後述するが、糸通しフック17は、針孔5aに挿入された後に上糸tを捕捉し、その後に針孔5aから抜けることで上糸tを針孔5aに挿通させるものである。糸通しフック17は、
図3に示した糸通し体18の一端部(
図3では左右方向の一端部)に設けられている。糸通し体18は糸通し軸19に固定されるものであって、本実施形態では
図3に示すように、その左右方向他端部が糸通し軸19の下端部に固定されている。糸通し軸19は、支持体20に対して上下方向にスライド可能、且つ糸通し軸19の軸線回りに回転可能に支持されるものであって、本実施形態では概略円柱状に形成されている。支持体20は、支持体台部21に対して上下方向にスライド可能に支持されるものであり、支持体台部21は軸16に回転可能に支持される。なお本明細書等では、糸通しフック17、糸通し体18、及び糸通し軸19の総称として「糸通し部」と称する。
【0021】
上述した、糸通し軸19が支持体20に対して上下方向にスライド可能且つ回転可能に支持される機構として、本実施形態の支持体20は、糸通し軸19を支持する円形の孔を設けた上側軸受け部20aと下側軸受け部20bを備えている(
図3におけるA矢視図を参照)。なお、
図3に示すように糸通し軸19には第一圧縮ばね22が設けられていて、糸通し軸19が支持体20に支持された際、第一圧縮ばね22は、下側軸受け部20bの下面と糸通し体18の上面との間に介在して、糸通し体18を、支持体20から離間させる方向に付勢している。また糸通し軸19が支持体20に支持された際、糸通し軸19に取り付けられる止め輪23は、下側軸受け部20bの上面に接する位置にあって、支持体20に対して糸通し軸19を抜け止め保持している。
【0022】
そして支持体台部21が軸16に回転可能に支持される機構として、本実施形態の支持体台部21は、軸16を挿通させることが可能であって、その上部に設けたコ字状の折り曲げ部を貫通する円形の軸孔21bを備えている。
【0023】
また糸通し軸19は、
図3においてY方向に突出する円柱状の糸通しピン(正面側糸通しピン19aと背面側糸通しピン19b)を備えている。正面側糸通しピン19aは、支持体台部21を厚み方向に貫通するとともにその長手方向に沿って延在するスリット部21aに挿通され、更に支持体20に設けられたカム孔20cに挿通されるものである。本実施形態のカム孔20cは、
図3の部分拡大図に示すように正面視において概略三角形状をなすものであって、直線状に延在する上側内面20c1と、下側内面20c2と、左側内面20c3とを備えている。また上側内面20c1と下側内面20c2は、左から右に向かうにつれて上方から下方に向けて傾斜するものである。そして背面側糸通しピン19bは、詳細については後述するが、糸通し位置決め板12の突出部12aと溝部12bに連係するものである。
【0024】
そして支持体20には、
図3においてX方向を中心として回転可能な糸保持板24が取り付けられている。糸保持板24は、
図4(a)に示すようにYZ平面とZX平面に対して平行になるように延在して平面視でL字状になるものであって、不図示のねじりばねによって、その先端部24aが支持体20の背面部20dに押し付けられる向きに付勢されている。なお糸保持板24には、Y方向に突出する凸部24bが設けられていて、
図4(a)に示す状態(後述する糸通し体18が待機位置にある状態)では、凸部24bが支持体台部21に当接して付勢された方向への回転が阻害されるため、先端部24aと背面部20dとの間には隙間があいている(開放状態)。また支持体20には、X方向に突出する突起状の糸掛けアーム20eと、糸掛けアーム20eの下方においてX方向に延在する糸保持溝20fとが設けられている。なお後述するように、支持体20の背面部20d、糸掛けアーム20e、糸保持溝20f、及び糸保持板24は、糸通し動作の途中段階で上糸tを保持するものであり、以下の説明では背面部20d、糸掛けアーム20e、糸保持溝20f、及び糸保持板24をまとめて、第一糸保持部h1と称する。
【0025】
なお、機能については後述するが、支持体20には、
図4(a)に示すように上下方向に延在する平坦な針受け面20gと、糸保持溝20fを横切るとともにY方向に延在する挿通孔20hと、
図3に示すように支持体20の表面に設けられる第一カム部20jと、支持体20の右側に位置する平面状の位置決め部(糸通し側位置決め部)20kが設けられている。
【0026】
更に糸通し装置9は、
図3に示したスライド台部25、引張ばね26、上述したレバー7の他、
図5に示した第二圧縮ばね(付勢部材)27を備えている。
【0027】
スライド台部25は、所定の形状になる板金を折り曲げて形成されたものであって、
図3に示すようにねじ等によって、ミシンアーム15と、ミシンアーム15に対して不動となるブラケット28に固定される。スライド台部25は、その長手方向に沿って延在する矩形状のスライド孔25aと、引張ばね26の一端部(上端部)を引っ掛けるばね掛け部25bとを備えていて、更に
図3のB矢視図に示すように、スライド台部25の側部に位置して上下方向に延在する平面状の第二カム部25cを備えている。なお第二カム部25cは、上述した第一カム部20jに当接するものである。
【0028】
レバー7は、その下部に位置していて、
図1に示すようにミシン1として組み立てられた状態で面板2bから露出し、作業者が糸通し動作を行う際に指で押圧するために使用される板状の押圧部7aと、その上部背面側に設けられている溝状の支持体連結部7bを備えている。ここで上述した支持体20の表面側には、Y方向に突出する円柱状のレバー連結部20mが設けられていて、支持体連結部7bは、その内側にレバー連結部20mが嵌まる形状で形成されている。なお、溝状の支持体連結部7bはX方向に沿って延在する形状となるものであって、レバー連結部20mは、上下方向においては支持体連結部7bに対して不動となるように嵌合するものの、左右方向には多少移動する(遊びを有している)。更にレバー7は、その上部に位置するとともにY方向に突出する円柱状のばね受け部7cを備えている。ばね受け部7cは、スライド孔25aを挿通した後、引張ばね26の他端部(下端部)を引っ掛けるものであって、これによりレバー7は、引張ばね26により上方に付勢される。
【0029】
第二圧縮ばね27は、
図5に示すように、軸16によって回転可能に支持される支持体台部21を針駆動装置8に向けて付勢するものである。第二圧縮ばね27は、例えばミシンアーム15に連結する固定部と支持体台部21の左側側面との間に圧縮された状態で配置されるものであって、元の長さに復元する際の付勢力によって、支持体台部21を針駆動装置8に向けて付勢している。
【0030】
次に、本実施形態のミシン1での糸通し動作について、
図5~
図9を参照しながら説明する。なお第一カム部20jと第二カム部25cとの連係状態を説明するため、
図5~
図9においては第二カム部25cを概略的に示している。
【0031】
まず、糸通し動作を行うための準備として行われる糸掛け動作について、
図1、
図5を参照しながら説明する。作業者は、ミシン1にセットされた糸駒sから上糸tを引出してこれを糸道2cに通し、針棒糸掛け部4に掛けた後、糸掛けばね6に引っ掛けるようにして糸掛けばね6と面板2bとで上糸tを挟み込む。これにより上糸tは、糸掛けばね6と面板2bで構成される第二糸保持部h2で保持される。糸掛けばね6の近傍には不図示の糸切り刃が設けられていて、上糸tを糸掛けばね6に引っ掛ける際にこれをカットすることができるため、
図5の部分拡大図に示したように残糸長さ(糸掛けばね6からカットした端部までの上糸tの長さ)を短くすることができる。つまり、
図1及び
図5は糸掛け動作が完了した状態(糸通し準備段階)を示している。そしてこの状態において、第一糸保持部h1は、図示したように上糸tの直上に位置している。また糸保持板24は、凸部24bが支持体台部21に当接しているため、先端部24aと背面部20dとの間には隙間があいている。また糸通し装置9は、第二圧縮ばね27の付勢力によって針駆動装置8に向けて付勢されているものの、図示したように糸通し準備段階では、第一カム部20jが第二カム部25cに当接していて、針駆動装置8と糸通し装置9は離間した状態にある。なお
図5は、レバー7が押し下げられておらず支持体20が最も上方に位置する状態を示しており、このときの支持体20(糸通し装置9)の位置を待機位置と称する。また以下の説明のため、支持体20が待機位置からどれだけ降下したか、つまりレバー7の押し下げ量を、レバー7に連結するレバー連結部20mの位置を基準として、図中、符合Lで示す。
【0032】
糸掛け動作が完了した後は、作業者がレバー7を押し下げることによって糸通し動作が行われる。
図6(a)は、
図5に示した状態(レバー7の高さがLの状態)からレバー7を距離S2分、押し下げた状態を概略的に示している。レバー7が押し下げられ、それに伴って支持体20も下降するため、上糸tは、糸保持板24の先端部24aと支持体20の背面部20dとの隙間に侵入する。また支持体20の下降に伴って、支持体台部21が凸部24bから離反して糸保持板24は背面部20dに向けて回転可能となる(挟持状態)。上述したように糸保持板24は、不図示のねじりばねによって背面部20dに向けて付勢されているため、糸保持板24は支持体20の背面部20dに向けて回転し、上糸tは先端部24aと背面部20dによって挟持され保持される。またこのとき上糸tは、
図4(b)に示すように糸掛けアーム20eにも接触して捕捉され、糸保持溝20fへと案内される。これら支持体20、糸保持板24、糸掛けアーム20e、及び糸保持溝20fによって上糸tは、糸保持板24と糸掛けアーム20eとの間で水平部t1が形成されるように掛け渡されて(本実施形態では更に糸保持溝20fに侵入した状態で)保持される。なお、上糸tの「水平部」とは、上糸tの一部が厳密に水平方向に延在している、ということを意味するものではなく、後述するように糸通しフック17が捕捉できるように糸通しフック17と交差可能な角度であれば水平に限らない。またこの状態で上糸tは、
図6(a)に示すように、糸保持板24等により構成される第一糸保持部h1で保持されるとともに、糸掛けばね6等で構成される第二糸保持部h2でも保持される。なお、第二糸保持部h2で上糸tを保持する保持力(面板2bに対して上糸tを押し付ける糸掛けばね6の付勢力)は、第一糸保持部h1で上糸tを保持する保持力(糸保持板24を背面部20dに向けて回転させる不図示のねじりばねの付勢力)よりも弱くなっている。すなわち、第一糸保持部h1よりも第二糸保持部h2からの方が上糸tは外れやすくなっている。
【0033】
その後レバー7が、
図6(b)に示すように距離S3分、押し下げられると、それに伴う支持体20の下降によって第一カム部20jと第二カム部25cとが離間し、第一カム部20jと第二カム部25cとの連係が解除され、糸通し装置9は第二圧縮ばね27の付勢力によって針駆動装置8に向けて回転し接近する。ところで
図3を参照しながら説明した、支持体20の糸通し側位置決め部20kと針棒支持体11の針駆動装置側位置決め部11cは、
図6(b)に示すように、糸通し装置9が針駆動装置8に接近した際に当接するものであって、これにより接近した糸通し装置9と針駆動装置8とを、所定の位置関係で連結させることができる。また、糸通し装置9の回転によって、第一糸保持部h1に保持されている上糸tは、針5の近傍へ案内される。この状態において、第一糸保持部h1で保持された上糸tの水平部t1は、針5に対して直交する向きで針5の手前側に位置することになる。ところで、
図6(a)に示した上糸tにおける針棒糸掛け部4から糸掛けばね6までの経路は、
図6(b)では支持体20が下降するために下方に向けて大きく湾曲することになる。すなわち、針棒糸掛け部4から糸掛けばね6までの間で必要となる糸量が増加し、その増加した糸量を補うために糸駒sが位置する側と糸掛けばね6が位置する側の両方から糸が引出されることになる。ここで、糸駒sが位置する側では、糸駒sの糸量が豊富であるために上糸tが引出される。一方、糸掛けばね6が位置する側では残糸が短くなっていて、また第二糸保持部h2で上糸tを保持する保持力は、第一糸保持部h1で上糸tを保持する保持力よりも弱くなっている。従って、
図6(a)の状態において第一糸保持部h1と第二糸保持部h2の両方で保持されていた上糸tは、
図6(b)の状態では、第二糸保持部h2の保持から解放され、第一糸保持部h1によってのみ保持されることになる。
【0034】
なお、
図3に示した糸通し軸19の正面側糸通しピン19aは、
図6(b)に示す状態において、カム孔20cの右側に位置していて、背面側糸通しピン19bは、糸通し位置決め板12の突出部12aよりも上方に位置している。また、糸通し体18を介して糸通し軸19の下端に設けられた糸通しフック17は、支持体20に対して離間した位置にある。そして支持体20は、下側軸受け部20bの下面と糸通し体18の上面との間に配置された第一圧縮ばね22によって上方に付勢されていて、下側軸受け部20bの上面と止め輪23が接する高さにある。
【0035】
更にレバー7が押し下げられて、
図7(a)に示すように距離S4に至る状態になると、第一糸保持部h1によって針5の近傍まで案内されていた上糸tは、針孔5aの近傍まで降下する。ところで、ここまで支持体20と連動して同量降下していた糸通し軸19は、
図7(a)の上側の部分拡大図に示すように、背面側糸通しピン19bが糸通し位置決め板12の突出部12aに当接することによって、それ以降の降下が阻止される。なお、糸通し軸19の降下が阻止される位置は、糸通しフック17と針孔5aが上下方向で一致する位置関係となるように設定されている。一方、支持体20は、
図7(a)の下側の部分拡大図に示すように、第一圧縮ばね22を押し縮めながら下方に移動することが可能である。このため支持体20は、糸通し軸19を残したままレバー7とともに降下するため、正面側糸通しピン19aに対してカム孔20cが相対的に下方に移動する(正面側糸通しピン19aに対してカム孔20cが下方向にずれる)ことになる。このときのずれ量を、
図7(a)において距離I4で示す。またこの状態では、第一糸保持部h1も、糸通し軸19に固定された糸通しフック17に対して相対的に距離I4分、下方に移動する(第一糸保持部h1が糸通しフック17に対して下方向にずれる)ことになる。また、正面側糸通しピン19aに対してカム孔20cが相対的に下方に移動すると、カム孔20cの上側内面20c1が正面側糸通しピン19aに押し当たり、正面側糸通しピン19aが左側に移動するように糸通し軸19が回転する(上方から見た際に、糸通し軸19が時計回りに回転する)。従って、針5の背面側に位置する糸通しフック17が、針5に近づく向きに回転することになる。
【0036】
図7(b)は、レバー7が距離S5まで押し下げられて支持体20が最下点に達した状態(支持体20が糸通し位置にある状態)を概略的に示している。レバー7とともに支持体20が降下することにより、針孔5aの近傍まで案内された上糸tは、針孔5aを越えて更に降下する。一方、支持体20の降下によって糸通し軸19は、カム孔20cの上側内面20c1が正面側糸通しピン19aに更に押し当たるため、更に時計回りに回転する。この回転によって、糸通しフック17が針孔5aを背面側から正面側に向けて通り抜け、更に支持体20に設けた挿通孔20h(
図4(b)参照)へ挿入される。
図7(b)に示す状態では、糸通しフック17に対して第一糸保持部h1は、相対的に距離I5分、下方に移動している(糸通しフック17に対して第一糸保持部h1が下方向にずれている)。またこの状態において、背面側糸通しピン19bは、突出部12aの根元側に設けられた溝部12bに入り込んでこれに嵌合する。
【0037】
図8(a)は、レバー7を最下点まで押し下げた後に作業者がレバー7から手を放し、引張ばね26の付勢力によってレバー7が元の待機位置に向けて復帰する途中の状態(レバー7が距離S6にある状態)を概略的に示している。この状態においては、
図3に示した引張ばね26の付勢力によってレバー7が上昇し、それに伴い支持体20も上昇する一方、糸通し軸19は、背面側糸通しピン19bが溝部12bに嵌合しているため、その高さで止まっている。このため、
図7(b)では距離I5分あった糸通しフック17に対する第一糸保持部h1の上下方向のずれが一部解消され、
図7(b)では上側内面20c1の近傍に位置していた正面側糸通しピン19aは、下側内面20c2の近傍に位置する。また、糸通し軸19は止まったままで支持体20のみが上昇するため、第一糸保持部h1に保持された上糸t(水平部t1)は糸通しフック17と交差し糸通しフック17に捕捉される。
【0038】
図8(b)は、支持体20が
図8(a)で示す位置よりも更に上昇した状態(レバー7が距離S7にある状態)を概略的に示している。支持体20の更なる上昇により、カム孔20cの下側内面20c2が正面側糸通しピン19aに押し当たり、
図8(a)で示した状態に対して、正面側糸通しピン19aが正面視で右側に移動するように糸通し軸19が回転する(上方から見た際に、糸通し軸19が反時計回りに回転する)。従って、背面側糸通しピン19bが溝部12bから抜け出し、糸通し軸19は支持体20と連動して上昇し始めるため、糸通しフック17に対する第一糸保持部h1の上下方向のずれが解消されていく。また糸通し軸19が反時計回りに回転するため、糸通しフック17もこの方向に回転して針孔5aから引き抜かれる。ここで糸通しフック17には上糸tが掛けられているため、上糸tは糸通しフック17に糸掛けされた状態のまま正面側から背面側に向けて針孔5aから引き抜かれることで針孔5aに上糸tが挿通される。
【0039】
支持体20が更に上昇して、レバー7が
図9(a)に示す距離S8に至る状態においては、支持体20の第一カム部20jが第二カム部25cに接触してこれに乗り上げるため、糸通し側位置決め部20kと針駆動装置側位置決め部11cとが離反し、糸通し装置9は軸16を中心に針駆動装置8から離れる向きに回転する。この回転に伴い、支持体20は針5に対して上昇し且つ離れる向きに移動するため、糸通しフック17と第一糸保持部h1の間の上糸tは、針孔5aを屈曲点にして大きく屈曲する。すなわち、糸通しフック17から第一糸保持部h1までの間で必要となる糸量が増加する。一方、第一糸保持部h1においては、支持体20の上昇に伴い、糸保持板24の凸部24bが再び支持体台部21に当接するため、糸保持板24が付勢された方向とは逆方向に回転し、先端部24aと背面部20dとの間には隙間が生じる。つまり、糸保持板24が開放状態となり、上糸tの保持が解除される。従って、上糸tが第一糸保持部h1から外れることになる。
【0040】
図9(b)は、
図9(a)に示す状態から支持体20が更に上昇して待機位置まで復帰した状態を概略的に示している。支持体20の更なる上昇により、糸通しフック17は、第一糸保持部h1が位置する側の上糸tを更に引き上げて、上糸tの端部を含め残糸が全て針孔5aを通過する。その後の糸通しフック17の上昇に伴い、糸通しフック17からも上糸tが外れて糸通し作業が完了する。
【0041】
このように本実施形態のミシン1によれば、レバー7を押し下げるだけの簡単な操作で糸通し作業を行うことができる。また糸通し装置9は、
図9(b)に示すように待機位置では、第一カム部20jが第二カム部25cに当接していて、針駆動装置8から離間した状態にある。すなわち、ジグザグ縫いのように縫製中に針駆動装置8が軸16を中心に左右に揺動運動する場合でも、糸通し装置9は連動することがないため、従来問題になっていた騒音や振動を抑制することができる。また、糸通し装置と針駆動装置とがそれぞれ同一の軸を中心に揺動することで、揺動運動による針駆動装置の針位置の変化に影響されることなく、糸通し時には糸通し装置と前記針駆動装置とを常に所定の位置関係で連結させることができる。つまり、針が左右位置どこに位置していても確実な糸通しを行うことができる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0043】
例えば本実施形態のミシン1において糸通し作業が行われる際、針駆動装置8と糸通し装置9とは、糸通し側位置決め部20kと針駆動装置側位置決め部11cが当接することによって所定の位置関係になるように位置決めされるが、位置決め方法はこれに限られるものではない。例えば針駆動装置8に向けて糸通し装置9が回転する際、
図4に示した針受け面20gを針5の側面に当接させることにより、針駆動装置8と糸通し装置9とを位置決めしてもよい。すなわち、針受け面20gと針5の側面を、針駆動装置8と糸通し装置9とを位置決めするための位置決め部として利用してもよい。
【0044】
また本実施形態において、針駆動装置8と糸通し装置9との離間は、支持体20に設けた第一カム部20jとスライド台部25の第二カム部25cを利用しているが、これらに限られるものではない。例えば第二カム部25cは、第一カム部20jを設けた支持体20以外の部材に対して針駆動装置8と糸通し装置9とを離間させる機能が発揮できるように設ければよく、ミシンカバー2に設けてもよいし、ミシンアーム15に設けてもよい。また、一対のカムによらずに他の手段を採用して針駆動装置8と糸通し装置9とを離間させてもよい。一例を挙げると、支持体20の全体又は一部が磁性体で構成されるようにし、また面板2bの内側に対して、
図5に示すように支持体20が上昇し且つ揺動した状態での近傍位置に磁石を設けるように構成してもよい。このような構成によっても、
図5に示す状態では、支持体20は面板2bに設けた磁石に引き寄せられるため、糸通し装置9を針駆動装置8から離間させることができる。
【0045】
また本実施形態では、水平部t1を形成しつつ上糸を確実に捕捉・保持できるよう、第一糸保持部h1の構成を、背面部20d、糸掛けアーム20e、糸保持溝20f、及び糸保持板24としていたが、別の構成であっても良い。水平部t1を形成しつつ上糸を捕捉・保持するためには上糸を少なくとも2点で支持できれば良く、例えば、糸保持板24(背面部20d)、糸掛けアーム20eという構成であっても構わない。
【0046】
また本実施形態では、
図1に示すようにレバー7の押圧部7aが面板2bの下側から露出しているが、他の場所から露出するように構成してもよい。例えば面板2bの左側側面においてレバー7が上下方向に移動可能な孔を設け、押圧部7aはその孔の外側で露出するように構成してもよい。
【0047】
本実施形態のミシン1は、糸通し作業を片手で行えるように構成したものであったが、上記特許文献1に示されるような糸通し作業を両手で行うように構成されたミシンに上記の技術を適用して本発明を具現化してもよい。
【0048】
また本実施形態のミシン1は、作業者がレバー7を押し下げることによって糸通し装置を作動させる所謂手動式の糸通し装置を備えるものであったが、これに限られず、例えばレバー7による構成に替えて、モータによって糸通し装置を作動させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1:ミシン
5:針
5a:針孔
7:レバー
8:針駆動装置
10:針棒
11c:針駆動装置側位置決め部(位置決め部)
16:軸
17:糸通しフック(糸通し部)
18:糸通し体(糸通し部)
19:糸通し軸(糸通し部)
20:支持体
20j:第一カム部(カム部)
20k:糸通し側位置決め部(位置決め部)
21:支持体台部
25c:第二カム部(カム部)
27:第二圧縮ばね(付勢部材)
t:上糸