(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】異種材料積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/01 20060101AFI20240216BHJP
B21D 39/03 20060101ALI20240216BHJP
B21D 47/04 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B32B15/01 Z
B21D39/03 B
B21D47/04
(21)【出願番号】P 2020086255
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019113734
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596092470
【氏名又は名称】権田金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003742
【氏名又は名称】弁理士法人海田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100128749
【氏名又は名称】海田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】権田 善夫
(72)【発明者】
【氏名】野田 雅史
(72)【発明者】
【氏名】権田 源太郎
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-078722(JP,A)
【文献】実開平02-034237(JP,U)
【文献】特開2010-279961(JP,A)
【文献】特開2001-321857(JP,A)
【文献】特開2004-304445(JP,A)
【文献】特開2004-121395(JP,A)
【文献】特開2017-154162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B21D 39/00-41/04
B21D 47/00-55/00
C22F 1/00- 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のチタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、平板状のマグネシウム又はマグネシウム合金を接合して構成される異種材料積層体であって、
前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金は、平板状をした板面に1又は複数の接合穴を有し、
前記マグネシウム又はマグネシウム合金は、前記接合穴を塞ぐように配置された後、前記接合穴との対向面の反対側から前記接合穴に向けてマグネシウム又はマグネシウム合金が変形する押圧力を及ぼされることで、前記マグネシウム又はマグネシウム合金の一部が形状変形して前記接合穴に侵入する接合凸部を有し、
前記接合穴と前記接合凸部が係合状態となることで、前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、前記マグネシウム又はマグネシウム合金が、平板状をした互いの板面同士を面合わせした状態で接合されることを特徴とする異種材料積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の異種材料積層体において、
前記接合穴は、平板状をした前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金の板面に形成された穴入口の穴径に対して、内部空間の穴径が大きくなるように形成されることを特徴とする異種材料積層体。
【請求項3】
請求項2に記載の異種材料積層体において、
前記接合穴は、前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金を縦断面で見たときに、略蟻溝形状として形成されることを特徴とする異種材料積層体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の異種材料積層体において、
前記接合穴と前記接合凸部が係合状態にあるとき、前記接合穴と前記接合凸部との間に隙間空間が存在することを特徴とする異種材料積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の異種材料積層体において、
前記マグネシウム又はマグネシウム合金における前記接合凸部が形成された箇所の反対側に、前記押圧力を及ぼす工具によって形成された押圧痕を有することを特徴とする異種材料積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の異種材料積層体において、
前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、前記マグネシウム又はマグネシウム合金との接合箇所の境界表面の入口を樹脂又は塗料で覆うシール部を設けたことを特徴とする異種材料積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の異種材料積層体において、
前記シール部が、前記マグネシウム又はマグネシウム合金の全外周面を覆って構成されることを特徴とする異種材料積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウム又はマグネシウム合金を接合して構成される異種材料積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金は、機械特性(比強度、比弾性率等)、耐食性等に優れることから、航空機、車両(自動車、鉄道車両等)、スポーツ用具部材等の用途に用いられている。
【0003】
一方、マグネシウム又はマグネシウム合金は、実用構造金属材料中、最も低密度(=1.7g/cm3)であり、金属材料特有の易リサイクル性を有し、資源も豊富に存在することから、次世代の構造用軽量材料として注目されている。そして、マグネシウム又はマグネシウム合金については、例えば、自動車産業においては、下記特許文献1に例示されるようなステアリングホイールや、シリンダーヘッドカバー、オイルパン等の部材が、マグネシウム合金鋳造材により作製されている。また、例えば、家電製品では、パソコン・携帯電話等の家電製品筐体が、マグネシウム合金鋳造材により作製されている。
【0004】
上述した有意な特性を備えるチタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウム又はマグネシウム合金とを組み合わせた異種材料積層体が実現できれば、それぞれが単独では発現し得ない高い特性や異なる特性を発現することが期待できる。特に、異種材料積層体がこのような特性を発揮するためには、チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウム又はマグネシウム合金との接合手段が重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らが従来技術を確認した限りにおいて、チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウム又はマグネシウム合金を接合して異種材料積層体を構成する技術は存在しなかった。特に、チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウム又はマグネシウム合金とのそれぞれの金属特性を変更せずに、好適に積層接合する技術は従来存在していなかった。
【0007】
また、従来から、同種材料の接合では発生しない腐食や電食といった問題が、異種材料の接合では発生してしまうことが知られており、異種材料を接合する際に、腐食や電食といった不具合が発生することの無い異種材料接合技術の実現が求められていた。
【0008】
さらに、異種材料を接合した場合には、この接合体を同時に加工処理することが難しいという課題も存在していた。例えば、アルミニウムと鉄鋼材料を接合した場合、これら異種材料の接合体に対して同時に表面加工処理を施すことは、従来技術では困難であった。
【0009】
本発明は、上述した従来技術の課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウム又はマグネシウム合金を接合して異種材料積層体を構成する技術を提供することにある。また、本発明の更なる目的は、腐食や電食といった不具合が発生することが無く、同時に加工処理を実施することが可能な異種材料積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る異種材料積層体は、平板状のチタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、平板状のマグネシウム又はマグネシウム合金を接合して構成される異種材料積層体であって、前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金は、平板状をした板面に1又は複数の接合穴を有し、前記マグネシウム又はマグネシウム合金は、前記接合穴を塞ぐように配置された後、前記接合穴との対向面の反対側から前記接合穴に向けてマグネシウム又はマグネシウム合金が変形する押圧力を及ぼされることで、前記マグネシウム又はマグネシウム合金の一部が形状変形して前記接合穴に侵入する接合凸部を有し、前記接合穴と前記接合凸部が係合状態となることで、前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、前記マグネシウム又はマグネシウム合金が、平板状をした互いの板面同士を面合わせした状態で接合されることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明に係る異種材料積層体において、前記接合穴は、平板状をした前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金の板面に形成された穴入口の穴径に対して、内部空間の穴径が大きくなるように形成することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る異種材料積層体において、前記接合穴は、前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金を縦断面で見たときに、略蟻溝形状として形成されていることが好適である。
【0013】
またさらに、本発明に係る異種材料積層体では、前記接合穴と前記接合凸部が係合状態にあるとき、前記接合穴と前記接合凸部との間に隙間空間が存在することとすることができる。
【0014】
さらにまた、本発明に係る異種材料積層体では、前記マグネシウム又はマグネシウム合金における前記接合凸部が形成された箇所の反対側に、前記押圧力を及ぼす工具によって形成された押圧痕を有することとすることができる。
【0015】
また、本発明に係る異種材料積層体では、前記チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、前記マグネシウム又はマグネシウム合金との接合箇所の境界表面の入口を樹脂又は塗料で覆うシール部を設けることが好適である。
【0016】
さらに、本発明に係る異種材料積層体において、前記シール部が、前記マグネシウム又はマグネシウム合金の全外周面を覆って構成されることとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウム又はマグネシウム合金を接合して異種材料積層体を構成する技術を提供することができる。また、本発明によれば、腐食や電食といった不具合が発生することが無く、同時に加工処理を実施することが可能な異種材料積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係る異種材料積層体の構成を説明するための縦断面図である。
【
図2】本実施形態に係る異種材料積層体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】本実施形態に係る異種材料積層体の製造方法を説明するための
図2に対応させた模式図である。
【
図4】本発明に係る接合穴の変形例を示した図である。
【
図5】複数組の接合穴と接合凸部が配置された、本発明に係る異種材料積層体の形態例を示す図である。
【
図6】樹脂コーティングによるシール部を設置した異種材料積層体と、シール部を有していない接合まま材としての異種材料積層体を示す図であり、符号(a1),(a2),(a3)で示した異種材料積層体と、符号(b1),(b2),(b3)で示した異種材料積層体との塩水浸漬試験前の状態が示されている。
【
図7】
図6で示した異種材料積層体の塩水浸漬試験後の状態が示された図である。
【
図8】5%NaCl溶液中で24時間塩水浸漬した後の接合断面を示す図である。
【
図9】マグネシウム合金の上面のみに樹脂コーティング(押圧痕の箇所も含む)を施した試験品を示した外観図である。
【
図10】追加実験後にマグネシウム合金の上面から樹脂コーティングを剥がした状態の外観を示す図である。
【
図11】
図10で示した追加実験後の試験品の切断面組織を示す断面図である。
【
図12】異種材料積層体のせん断剥離試験前の外観像を示す図であり、図中の分図(a)が平面視を示し、分図(b)が側面視を示している。
【
図13】せん断剥離試験を行った異種材料積層体の接合条件を示した図である。
【
図14】異種材料積層体のせん断剥離試験後の接合部断面観察結果を示す図であり、図中の分図(a)が平面視を示し、分図(b)が縦断面視を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0024】
まず、
図1を用いて、本実施形態に係る異種材料積層体10の構成について説明を行う。ここで、
図1は、本実施形態に係る異種材料積層体の構成を説明するための縦断面図である。
【0025】
本実施形態に係る異種材料積層体10は、基材となる平板状のアルミニウム合金11と、このアルミニウム合金11の上側の板面に配置された平板状のマグネシウム合金21とから構成されている。
【0026】
アルミニウム合金11には、上側の板面に接合穴12が形成されている。この接合穴12は、アルミニウム合金11を縦断面で見たときに、略蟻溝形状として形成されている。
【0027】
一方、アルミニウム合金11の上側の板面に配置された平板状のマグネシウム合金21には、接合穴12に侵入する接合凸部22が形成されている。つまり、接合穴12と接合凸部22が係合状態となることで、アルミニウム合金11とマグネシウム合金21が、平板状をした互いの板面同士を面合わせした状態で接合されている。
【0028】
なお、マグネシウム合金21における接合凸部22の形成箇所の反対側の面には、接合凸部22を形成する際に用いられた工具によって形成された押圧痕23が形成されている。これら接合凸部22と押圧痕23の形成過程について簡単に説明すると、平板状のマグネシウム合金21を、平板状のアルミニウム合金11の接合穴12を塞ぐように配置した後、接合穴12との対向面の反対側から接合穴12に向けて工具を垂直方向に押し付け、マグネシウム合金21が変形する押圧力を及ぼすことでマグネシウム合金21の一部が形状変形し、接合穴12に侵入する接合凸部22が形成されることとなる。このように、押圧痕23は、接合凸部22を形成する際に必然的に形成される形状であり、また、工具からの押圧力によってマグネシウム合金21に形成された接合凸部22は、接合穴12の内部に侵入して接合穴12と係合状態となることで、アルミニウム合金11とマグネシウム合金21が接合した異種材料積層体10が形成されることとなる。
【0029】
また、接合穴12の内部に侵入する接合凸部22の侵入量については、充填率が100%である必要はない。つまり、接合穴12の内部空間のすべてを接合凸部22が占める必要はなく、接合穴12と接合凸部22の係合状態が実現できれば良いので、接合穴12と接合凸部22が係合状態にあるときに、接合穴12と接合凸部22との間に隙間空間が存在するように構成することもできる。
【0030】
また、上述した実施形態では、接合穴12を形成した基材をアルミニウム合金11とし、工具からの押圧力によって接合凸部22が形成される材料をマグネシウム合金21とした場合を例示して説明したが、基材であるアルミニウム合金11については、チタン、チタン合金又はアルミニウムを用いてもよいし、マグネシウム合金21については、マグネシウムを用いてもよい。
【0031】
さらに、本発明に係るアルミニウム又はアルミニウム合金については、例えば、JIS H 4000:2014(対応国際規格ISO 209:2007、ISO 6361-1:2011、ISO 6361-2:2011、ISO 6361-3:2011、ISO 6361-4:2011、ISO 6361-5:2011)に記載のアルミニウムおよびアルミニウム合金等を用いることができる。
【0032】
また、本発明に係るチタン又はチタン合金については、例えば、いわゆるα合金、β合金、α+β合金等を用いることができ、さらに具体的には、α合金としては、Ti-5Al-2.5Sn、Ti-8Al-V-Mo、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si、Ti-6Al-5Zr-0.5Mo-0.25Si等を用いることができ、β合金としては、Ti-13V-11Cr-3Al、Ti-11.5Mo-4.5Sn-6Zr、Ti-4Mo-8V-6Cr-3Al-4Zr、Ti-15Mo-5Zr、Ti-15Mo-5Zr-3Al、Ti-8Mo-8V-2Fe-3Al、Ti-15V-3Cr-3Al-3Sn等を用いることができ、α+β合金としては、Ti-6Al-4V、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo、Ti-6Al-6V-2Sn、Ti-11Sn-5Zr-2.5Al-Mo-1.25Si等を用いることができる。
【0033】
また、本発明に係るマグネシウム又はマグネシウム合金については、例えば、AZ61、AZX611、AZX612、AZX811、AZX813、AMX1001等を用いることができる。
【0034】
以上、
図1を用いて、本実施形態に係る異種材料積層体10の構成について説明を行った。次に、
図2および
図3を参照図面に加えて、本実施形態に係る異種材料積層体10の製造方法を詳しく説明する。ここで、
図2は、本実施形態に係る異種材料積層体の製造方法を説明するためのフローチャートであり、
図3は、本実施形態に係る異種材料積層体の製造方法を説明するための
図2に対応させた模式図である。
【0035】
本実施形態に係る異種材料積層体10の製造方法は、まず、平板状のアルミニウム合金11を準備し、上側の板面に対して接合穴12を形成する(
図2のステップS10、
図3の(a)参照)。本実施形態において、接合穴12は、アルミニウム合金11を縦断面で見たときに、略蟻溝形状として形成されている。
【0036】
次に、平板状のアルミニウム合金11の上面に対して、平板状のマグネシウム合金21を配置する(
図2のステップS11、
図3の(b)参照)。このとき、平板状のマグネシウム合金21が、平板状のアルミニウム合金11の接合穴12を塞ぐように配置する。
【0037】
続いて、平板状のマグネシウム合金21を配置した後、マグネシウム合金21における、接合穴12との対向面の反対側から接合穴12に向けて工具31を垂直方向に押し付け、マグネシウム合金21が変形する押圧力を及ぼす(
図2のステップS12、
図3の(c)参照)。工具31から、マグネシウム合金21が変形する押圧力を及ぼされることで、マグネシウム合金21の一部が形状変形し、接合穴12に侵入する接合凸部22が徐々に形成されることとなる。このとき、工具31は、回転しながらマグネシウム合金21に対して押圧力を及ぼしていくことになるので、マグネシウム合金21における接合凸部22が形成された箇所の反対側には、押圧力を及ぼす工具31によって形成された押圧痕23が形成されていくことになる。
【0038】
さらに、工具31からのマグネシウム合金21に対する押圧力の付与は、マグネシウム合金21の一部が形状変形し、接合穴12に侵入するとともに接合穴12に係合する接合凸部22が形成されるまで継続される。最終的に、工具31からの押圧力によってマグネシウム合金21に形成された接合凸部22は、接合穴12の内部に侵入して接合穴12と係合状態となることで、アルミニウム合金11とマグネシウム合金21が接合した異種材料積層体10が形成されることとなる(
図2のステップS13、
図3の(d)参照)。
【0039】
以上、
図2および
図3を参照することで、本実施形態に係る異種材料積層体10の製造方法を詳しく説明した。上述した製造方法によって構成された異種材料積層体10は、アルミニウム合金11とマグネシウム合金21が金属的に結合しておらず、互いの間に隙間を有して接した状態で接合したものである。したがって、本実施形態に係る異種材料積層体10は、腐食や電食といった不具合が発生し難い構成となっている。さらに、本実施形態に係る異種材料積層体10は、異種材料間に僅かな隙間が形成されているので、同時に加工処理を実施することが可能となっている。つまり、本実施形態に係る異種材料積層体10は、従来技術には無い有意な特徴を備えたものとなっている。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0041】
例えば、上述した実施形態では、平板状のチタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金11と、平板状のマグネシウム又はマグネシウム合金21を接合して構成される異種材料積層体10を想定していたが、本発明は、異種材料の機械的特性や硬さが大きく異なっていたとしても、異種材料を接合できる技術である。したがって、チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金11に代えて鉄鋼材料を採用し、鉄鋼材料に対してマグネシウム又はマグネシウム合金21を接合する構成を採用することも、本発明の範囲に含まれるものである。
【0042】
また例えば、上述した実施形態では、接合穴12が縦断面視で略蟻溝形状として形成された場合を例示して説明したが、本発明の接合穴については、内部空間に侵入して形成される接合凸部22と係合可能な形状であれば、どのような穴形状を採用してもよい。例えば、
図4は、本発明に係る接合穴の変形例を示した図であるが、
図4で示すように、アルミニウム合金11を縦断面で見たときに、アルミニウム合金11の板面に形成された穴入口の穴径に対して、内部空間の穴径が大きくなるように形成されていればよく、その内部空間の形状についても、
図4中の分図(a)で示すように、縦断面視略矩形形状であるものや、
図4中の分図(b)で示すように、縦断面視略逆台形形状であるものや、
図4中の分図(c)で示すように、縦断面視略長円形状であるものなどを採用することができる。
【0043】
また例えば、上述した実施形態では、1組の接合穴12と接合凸部22を示して説明を行ったが、本発明に係る異種材料積層体には、複数組の接合穴12と接合凸部22を配置することができる。そのような実施例を示す図として、
図5を示す。ここで、
図5は、複数組の接合穴と接合凸部が配置された、本発明に係る異種材料積層体の形態例を示す図である。
図5で示す異種材料積層体10のように、アルミニウム合金11に複数の接合穴12を形成し、各接合穴12に対してマグネシウム合金21の接合凸部22を侵入させて複数の係合状態を実現することで、異種材料11,21が強固に接合された異種材料積層体10を実現することが可能となる。
【0044】
さらに、上述した実施形態に係る異種材料積層体10は、アルミニウム合金11とマグネシウム合金21が金属的に結合しておらず、互いの間に隙間を有して接した状態で接合したものである。つまり、異種材料間に僅かな隙間が形成されているので、この隙間に塩水等が侵入した場合には、異種材料積層体10に腐食などの不具合が生じる可能性が考えられる。そこで、発明者らは、本発明に係る異種材料積層体において、チタン、チタン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金11と、マグネシウム又はマグネシウム合金21との接合箇所の境界表面の入口を樹脂又は塗料で覆うシール部を設ける構成を創案した。樹脂や塗料などで構成されるシール部を異種材料積層体に対して設置することで、腐食等の不具合が生じ難い異種材料積層体を実現することができる。
【0045】
なお、発明者らは、上述したシール部の効果を確認するための塩水浸漬試験を実施したので、その内容について、
図6~
図11を用いて説明を行う。
【0046】
まず、
図6は、樹脂コーティングによるシール部61を設置した異種材料積層体100と、シール部61を有していない接合まま材としての異種材料積層体200を示す図であり、符号(a1),(a2),(a3)で示した異種材料積層体100と、符号(b1),(b2),(b3)で示した異種材料積層体200との塩水浸漬試験前の状態が示されている。また、
図7は、
図6で示した異種材料積層体100,200の塩水浸漬試験後の状態が示された図である。
【0047】
この塩水浸漬試験は、アルミニウム合金11とマグネシウム合金21の接合体を5%NaCl溶液中に24時間浸漬させることで行った。樹脂コーティングによるシール部61を設置した異種材料積層体100では、シール部61がアルミニウム合金11とマグネシウム合金21との接合箇所の境界表面の入口を覆うとともに、マグネシウム合金21の全外周面を覆うように構成されている。この塩水浸漬試験の主旨は、アルミニウム合金11とマグネシウム合金21との接合箇所の境界表面の入口からの塩水侵入と、異種材料積層体100の間に存在する隙間を簡易的に塞いだ時の効果を見ることであるため、この2点についての確認を行った。よって、腐食生成物の解析やクロム酸での煮沸処理は行わずに、塩水浸漬後に純水洗浄を複数回行い、乾燥した後に断面観察を行うこととした。ただし、試験前の異種材料積層体100はアセトンで脱脂処理を行い、脱脂処理後に樹脂でコーティング処理を行った。
【0048】
この塩水浸漬試験の結果が
図7に示されており、
図7には、試験開始から3時間後の外観が示されている。接合まま材としての異種材料積層体200の場合、マグネシウム合金21の部分が早期に糸状腐食から孔食に至っており、3時間後の塩水も灰色に変化していた。一方、樹脂コーティングによるシール部61を設置した異種材料積層体100では、マグネシウム合金21の部分と塩水が反応する箇所がなく、塩水は白濁化しただけであった。なお、アルミニウム合金11側にも腐食の痕跡はあったが、マグネシウム合金21と比較すると軽微であった。
【0049】
ここで、5%NaCl溶液中で24時間塩水浸漬した後の接合断面を示す図として、
図8を示す。接合まま材としての異種材料積層体200については、マグネシウム合金21とアルミニウム合金11の間にある隙間から塩水が侵入するとともに、押圧痕23の箇所からも孔食していることが確認された。一方、樹脂コーティングによるシール部61を設置した異種材料積層体100では、接合面に塩水が侵入した形跡は組織的にも認められなかった。つまり、樹脂コーティングによるシール部61を設置した異種材料積層体100について、24時間の塩水連続浸漬試験の範囲ではあるが、隙間を埋める(塞ぐ)ことで電食(今回の場合はガルバニック腐食)を防げる可能性があることが確認できた。この確認結果は、例えば、意匠性向上のために異種材料積層体10に対して表面塗膜処理を行うならば、塗膜が破れない限りは接合面での腐食減少は起き難いと推察できることを示している。
【0050】
以上、発明者らが行った塩水浸漬試験について
図6~
図8を示して説明を行ったが、発明者らは、上記塩水浸漬試験で得られた知見の再現性の確認のために、さらなる追加実験を行った。この追加実験の内容について、
図9~
図11を示して説明を行う。ここで、
図9は、マグネシウム合金21の上面のみに樹脂コーティング(押圧痕23の箇所も含む)を施した試験品を示した外観図であり、
図10は、追加実験後にマグネシウム合金21の上面から樹脂コーティングを剥がした状態の外観を示す図であり、
図11は、
図10で示した追加実験後の試験品の切断面組織を示す断面図である。なお、
図9~
図11で示される追加実験は、
図6~
図8を示して説明した塩水浸漬試験と同じ塩水浸漬条件で試験を行った。
【0051】
その結果、押圧痕23の箇所からの孔食は認められなくなるものの、アルミニウム合金11とマグネシウム合金21との接合箇所の境界表面の入口から接合部に存在する隙間に対して塩水が侵入し、当該接合部が腐食していることが確認できた。この結果から、アルミニウム合金11とマグネシウム合金21との接合箇所の境界表面の入口を覆うとともに、マグネシウム合金21の全外周面を覆うようにシール部61を設置することで異種材料積層体100を構成することが有効であることが確認できた。
【0052】
なお、上述した塩水浸漬試験では、シール部61を樹脂コーティングによって構成した場合を例示して説明したが、本発明のシール部については、樹脂のほか、塗料など、シール性を有するあらゆる物質を採用することが可能である。
【0053】
さらに、発明者らは、本発明に係る異種材料積層体に対して、せん断剥離試験を行った。このせん断剥離試験の内容について、
図12~
図14を示して説明を行う。ここで、
図12は、異種材料積層体のせん断剥離試験前の外観像を示す図であり、図中の分図(a)が平面視を示し、分図(b)が側面視を示している。また、
図13は、せん断剥離試験を行った異種材料積層体の接合条件を示した図であり、
図14は、異種材料積層体のせん断剥離試験後の接合部断面観察結果を示す図であり、図中の分図(a)が平面視を示し、分図(b)が縦断面視を示している。
【0054】
同種又は異種接合を行った場合、せん断変形を付与しその時の荷重を測定するが、単軸引張力(応力)に比べると非常に小さな値となり易い。突き合わせFSW接合など以外では、同種又は異材の積層体になるため耐え得るせん断荷重を把握する必要がある。そこで、発明者らは、アルミニウム合金板材とマグネシウム合金板材に接合を1点又は2点行い、せん断剥離荷重と接合点数の増加に伴う強度の増加を調査した。試験体の外観像が
図12に示されており、接合条件が
図13に示されている。なお、せん断剥離試験片は、インストロン型引張試験機で行った。
【0055】
接合点を1点とした場合の荷重は、2.6~2.7kNであり、T溝部への充填率110%と120%のもので実施したが、値に大差はなかった。本手法はアルミニウム合金とマグネシウム合金の境界部に隙間があり、T溝部への充填率が高い場合は他箇所が薄くなっていると考えられることより、発明者らは、引張荷重に比べて他接合手法と同様にせん断変形付与時の荷重は低下を予想した。しかしながら、引張荷重が3.2~3.3kNのため、せん断変形付与時の荷重値は18.2%~18.8%の低減であり(つまり、せん断変形付与時の荷重値は20%未満となる)、せん断変形に対しても良好な接合手法であったと考えられる。
【0056】
一方、
図12(a)に示すように、2点接合を行った場合の荷重値は4.8~5.1kNと2倍には至らなかったが、1.85~1.89倍に達した(つまり、2点接合では1点接合に比べて荷重値が2倍未満となる)。なお、発明者らの試験研究によって、接合点を増加させることで耐荷重値は上昇するものの、ツール径を小さくし過ぎると現状のT溝形状では、単軸引張試験において、受圧部に該当する部分へのマグネシウム合金の流動不足が考えられることが明らかとなっている。
【0057】
せん断剥離試験後に破断した試験片の接合部を切り出し、顕微鏡観察した結果を
図14に示す。引張方向に対しては、マグネシウム合金がアルミニウム合金からの圧縮力を受けており、反対側では引張変形となるため、剥離が一部認められた。一方で、その他の箇所においては、クラックの発生や欠損などなく、本工法の1つの特徴である接合部間の隙間が変形の緩和に役立っていると考えられることが、発明者らの試験研究によって明らかとなった。なお、FSWや溶融接合の場合、接合部全体に応力が作用するが、本工法の場合は、T溝部の何処に応力や応力集中が作用するか類推することも容易である。かかる特徴も、本発明の有意な効果ということができる。
【0058】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0059】
10,100,200 異種材料積層体、11 アルミニウム合金、12 接合穴、21 マグネシウム合金、22 接合凸部、23 押圧痕、31 工具、61 シール部。