(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
F01P 3/20 20060101AFI20240216BHJP
F01N 5/02 20060101ALI20240216BHJP
F01P 5/12 20060101ALI20240216BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20240216BHJP
B60H 1/03 20060101ALI20240216BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
F01P3/20 L
F01N5/02 A
F01P3/20 E
F01P3/20 H
F01P5/12 G
F01P7/16 503
B60H1/03 Z
B60H1/22 651B
B60H1/22 651A
(21)【出願番号】P 2020104872
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】溝口 真一朗
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012463(JP,A)
【文献】特開2017-128223(JP,A)
【文献】特開2017-065653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 3/20
F01N 5/02
F01P 5/12
F01P 7/16
B60H 1/03
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガスからエンジン冷却液に熱を回収する排熱回収器と、
ヒートポンプシステムと、
前記エンジン冷却液と前記ヒートポンプシステムのヒートポンプ冷媒との間の熱交換を行う第1熱交換器と、
を備える車両において、
前記エンジンから排出される前記エンジン冷却液が前記排熱回収器及び前記第1熱交換器を通らずに前記エンジンに戻る第1回路と、
前記第1回路に介装される第1ウォータポンプと、
前記エンジン冷却液が前記エンジンを通らずに前記排熱回収器及び前記第1熱交換器を循環する第2回路と、
前記第2回路に改装される第2ウォータポンプと、
前記エンジンから排出される前記エンジン冷却液が、前記第1回路の途中で分岐して前記第2回路に入り、前記排熱回収器及び前記第1熱交換器を通過した後に、前記第2回路の途中で分岐して前記第1回路に入り、前記エンジンに戻る第3回路と、
前記第1回路と前記第2回路との間の前記エンジン冷却液の入出を制御する第1バルブと、
を備え
、
外気温が第1外気温以下かつ前記第1外気温より低い第2外気温より高い場合には、
前記ヒートポンプシステムは停止し、
前記第1バルブは開弁し、
前記第1ウォータポンプ及び前記第2ウォータポンプは作動することを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、
前記エンジンの冷却液排出口と前記第1熱交換器の冷却液導入口とを連結する第1冷却液通路と、
前記第1熱交換器の冷却液排出口と前記排熱回収器の冷却液導入口とを連結する第2冷却液通路と、
前記排熱回収器の冷却液排出口と前記エンジンの冷却液導入口とを連結する第3冷却液通路と、
前記第1冷却液通路から分岐して前記第3冷却液通路に合流する第4冷却液通路と、
前記第1冷却液通路の前記第4冷却液通路との分岐点より前記エンジン側から分岐して、前記第3冷却液通路の前記第4冷却液通路との合流部より前記エンジン側に合流する第5冷却液通路と、
をさらに備え、
前記第1回路は、前記第1冷却液通路の前記エンジンの冷却液排出口から前記第5冷却液通路との分岐部までの部分と、前記第5冷却液通路と、前記第3冷却液通路の前記第5冷却液通路との合流部から前記エンジンの冷却液導入口までの部分と、で構成され、
前記第2回路は、前記第4冷却液通路と、前記第1冷却液通路の前記第4冷却液通路との合流部から前記第1熱交換器の冷却液導入口までの部分と、前記第2冷却液通路と、前記第3冷却液通路の前記排熱回収器の冷却液排出口から前記第4冷却液通路との分岐部までの部分と、で構成され、
前記第1ウォータポンプは前記前記第3冷却液通路に介装され、
前記第2ウォータポンプは前記第4冷却液通路に介装され、
前記第1バルブは、前記第1冷却液通路の、前記第4冷却液通路との分岐部と前記第5冷却液通路との分岐部との間に介装され
、
外気温が第1外気温以下かつ前記第1外気温より低い第2外気温より高い場合には、
前記ヒートポンプシステムは停止し、
前記第1バルブは開弁し、
前記第1ウォータポンプ及び前記第2ウォータポンプは作動することを特徴とする車両。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の車両において、
外気温が前記第2外気温以下かつ前記第2外気温より低い第3外気温より高い場合には、
前記ヒートポンプシステムは作動し、
前記第1バルブは閉弁し、
前記第1ウォータポンプ及び前記第2ウォータポンプは作動する、車両。
【請求項4】
請求項
3に記載の車両において、
前記第1バルブは前記エンジンが暖機状態になった後、さらに前記冷却液の温度が上昇したら開弁する、車両。
【請求項5】
請求項
4に記載の車両において、
前記第1バルブは開弁する際に徐々に開度を増大させる、車両。
【請求項6】
請求項
3から5のいずれか一項に記載の車両において、
外気温が前記第3外気温以下の場合には、
前記ヒートポンプシステムは作動し、
前記第1バルブは開弁し、
前記第2ウォータポンプは停止する、車両。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の車両において、
前記ヒートポンプシステムは、車室内に導入される空気を熱交換により加熱する第2熱交換器を備え、
前記第2熱交換器は、前記ヒートポンプ冷媒により前記空気を加熱する熱交換器、または前記ヒートポンプ冷媒と熱交換により加熱された前記冷却液により前記空気を加熱する熱交換器である、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガスから前記エンジンの冷却液に熱を回収する排熱回収器と、大気を熱源とするヒートポンプシステムと、冷却液とヒートポンプシステムのヒートポンプ冷媒との間の熱交換を行う第1熱交換器と、を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の空調システムにおいて、車室内に導入する外気の加熱にヒートポンプシステムを用いることが知られている。しかし、外気を熱源とするヒートポンプシステムは、低外気温時には熱交換器の着霜により使用できない、または使用できたとしても効率が低下するおそれがある。特許文献1には、エンジン冷却液でヒートポンプ冷媒を加熱することで、つまりエンジンを熱源とすることで、低外気温時でも使用可能なヒートポンプシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のヒートポンプシステムでは、エンジン冷却液の熱がヒートポンプ冷媒に奪われるので、エンジンが暖機状態になるまでに要する時間が長くなり、燃費性能及び排気エミッションの悪化を招来するおそれがある。
【0005】
そこで本発明では、空調システムとしてヒートポンプシステムを備え、かつ、より短い時間でエンジンを暖機状態にし得る車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、エンジンの排気ガスからエンジンの冷却液に熱を回収する排熱回収器と、ヒートポンプシステムと、冷却液とヒートポンプシステムのヒートポンプ冷媒との間の熱交換を行う第1熱交換器と、を備える車両が提供される。この車両は、エンジンから排出されるエンジン冷却液が排熱回収器及び第1熱交換器を通らずにエンジンに戻る第1回路と、第1回路に介装される第1ウォータポンプと、エンジン冷却液がエンジンを通らずに排熱回収器及び第1熱交換器を循環する第2回路と、第2回路に改装される第2ウォータポンプと、エンジンから排出されるエンジン冷却液が、第1回路の途中で分岐して第2回路に入り、排熱回収器及び第1熱交換器を通過した後に、第2回路の途中で分岐して第1回路に入り、エンジンに戻る第3回路と、第1回路と第2回路との間のエンジン冷却液の入出を制御する第1バルブと、を備え、外気温が第1外気温以下かつ第1外気温より低い第2外気温より高い場合には、ヒートポンプシステムは停止し、第1バルブは開弁し、第1ウォータポンプ及び第2ウォータポンプは作動する。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、ヒートポンプシステムを備え、かつ、より短い時間でエンジンを暖機状態にし得る車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態にかかる車両の空調装置の回路図である。
【
図3】
図3は、比較例としての空調装置の回路図である。
【
図4】
図4は、キャビン加熱要求熱量と外気温との関係の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、エンジン始動時における上記の各要素の状態についてまとめた表である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る第1処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る第2処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係る第3処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、低外気温時に
図6の制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。
【
図11】
図11は、第1実施形態の第1変形例に係る回路図である。
【
図12】
図12は、第1実施形態の第2変形例に係る回路図である。
【
図13】
図13は、第1実施形態の第3変形例に係る回路図である。
【
図14】
図14は、第1実施形態の第4変形例に係る回路図である。
【
図15】
図15は、第2実施形態にかかる車両の空調装置の回路図である。
【
図16】
図16は、エンジン始動時における上記の各要素の状態についてまとめた表である。
【
図17】
図17は、第2実施形態に係る制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、第2実施形態に係る第1処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図19】
図19は、第2実施形態に係る第2処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図20】
図20は、第2実施形態に係る第3処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図21】
図21は、低外気温時に
図16の制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について、
図1から
図9を参照して説明する。
【0011】
[空調装置]
図1は、第1実施形態にかかる車両の空調装置の回路図である。空調装置はエンジン冷却液回路EWC及びヒートポンプシステムとしてのヒートポンプ回路HPCを備える。
【0012】
エンジン冷却液回路EWCは、エンジン1の冷却液排出口と第1熱交換器としての熱交換器3の冷却液導入口とを連結する第1冷却液通路11と、熱交換器3の冷却液排出口とエンジン1の冷却液導入口とを連結する第2冷却液通路12と、排熱回収器4の冷却液排出口とエンジン1の冷却液導入口とを連結する第3冷却液通路13と、を備える。
【0013】
熱交換器3は、エンジン冷却液と後述するヒートポンプ回路HPCのヒートポンプ冷媒との熱交換を行う。
【0014】
排熱回収器4は、エンジン1の排気ガスとエンジン冷却液との熱交換を行うことで、エンジン1の排熱をエンジン冷却液に回収する。排熱回収器4の構成及び機能については後で詳述する。
【0015】
第1冷却液通路11には、エンジン冷却液と車室内に導入する空気との熱交換を行うヒータコア2が介装される。また、第1冷却液通路11の、エンジン1冷却液排出口には、エンジン冷却液の温度を検出する水温センサ18が配置される。
【0016】
また、エンジン冷却液回路EWCは、第1冷却液通路11から分岐して第3冷却液通路13に合流する第4冷却液通路14と、第1冷却液通路11の第4冷却液通路14との分岐点よりエンジン側から分岐して、第3冷却液通路13の第4冷却液通路14との合流部よりエンジン側に合流する第5冷却液通路15と、を備える。
【0017】
第3冷却液通路13は第1ウォータポンプ6が介装され、第4冷却液通路14には第2ウォータポンプ7が介装される。そして、第1冷却液通路11の、第4冷却液通路14との分岐部と第5冷却液通路15との分岐部との間には第1バルブ5が介装される。
【0018】
ヒートポンプ回路HPCは、第2熱交換器としてのキャビンコンデンサ8と、キャビンコンデンサ8の冷媒排出口と熱交換器3の冷媒導入口とを連結する第1冷媒通路17と、熱交換器3の冷媒排出口とキャビンコンデンサ8の冷媒導入口とを連結する第2冷媒通路16と、を備える。
【0019】
キャビンコンデンサ8は、熱交換器3での熱交換により温度上昇したヒートポンプ冷媒と車室内に導入される空気との熱交換を行う。
【0020】
第2冷媒通路16にはヒートポンプ冷媒を圧送するコンプレッサ10が介装され、第1冷媒通路17にはキャビンコンデンサ8を通過したヒートポンプ冷媒を急激に膨張させる膨張器9が介装される。
【0021】
第1ウォータポンプ6、第2ウォータポンプ7、第1バルブ5、ヒートポンプシステム及び後述する三方弁24の動作は、コントローラ100により制御される。
【0022】
上記のヒートポンプシステムが稼働するのは、ヒータコア2の熱量だけでは暖房要求を満足できない場合である。
【0023】
なお、ヒータコア2とキャビンコンデンサ8は、実際には近接して配置され、例えば、車室内に空気を導入する導入通路(図示せず)のエバポレータ(図示せず)より下流に、空気の流れに対して直列に配置される。また、上記の空調装置を搭載する車両には、外気温を検出する外気温センサ19が備えられる。
【0024】
[排熱回収器]
図2は、排熱回収器4を用いる排熱回収システムの構成図である。
【0025】
エンジン1の排気通路20は、マニホールド触媒23より下流で排熱回収通路22とバイパス通路21に分岐している。排熱回収通路22には排熱回収器4が配置されている。バイパス通路21は、排熱回収器4より下流で排熱回収通路22と合流しており、合流部にはバイパス通路21または排熱回収通路22の一方を選択的に閉鎖する三方弁24が配置されている。
【0026】
排熱回収器4には、エンジン1から排出されたエンジン冷却液を導入するエンジン冷却液導入通路25と、エンジン1に排熱回収後のエンジン冷却液を排出するエンジン冷却液排出通路26と、が接続されている。
【0027】
排熱回収器4は、例えば一般的なエンジン冷却液用ラジエータと同様の構成である。すなわち、エンジン冷却液導入通路25が接続される入側タンク(図示せず)と、エンジン冷却液排出通路26が接続される出側タンク(図示せず)と、入側タンクと出側タンクとを連結する複数のチューブ(図示せず)とで構成される。複数のチューブは所定の間隔をおいて配置され、その間をエンジン1の排気ガスが通過する構成となっている。これにより、チューブ内を流れるエンジン冷却液と、チューブ間の隙間を流れる排気ガスとの熱交換が行われ、排気ガスの熱がエンジン冷却液に回収される。これを排熱回収ともいう。
【0028】
上記の排熱回収は、例えばエンジン1が冷機始動した際に実行される。排熱回収を行う場合には、三方弁24によってバイパス通路21が閉鎖される。低温のエンジン冷却液(図中の白矢印)が排熱回収器4に導入され、排熱回収器4において高温の排気ガス(図中の黒矢印)と熱交換をする。そして熱交換により温度上昇したエンジン冷却液(図中の黒矢印)がエンジン1に導入される。このように、排熱回収を行うことで、エンジン冷却液の温度上昇を促進し、ひいてはエンジン1の暖機を促進することができる。
【0029】
排熱回収を行う必要がない場合には、三方弁24は排熱回収通路22を閉鎖する。
【0030】
[エンジン冷却液回路EWCの動作及び作用効果]
本実施形態に係る
図1のエンジン冷却液回路EWCの動作及び作用効果について、公知のシステムと比較しつつ説明する。
【0031】
図3は公知のシステムの回路図である。
図1と同様の構成要素には、
図1と同様の符号を付してある。
【0032】
図3のシステムも、エンジン冷却液回路EWCとヒートポンプ回路HPCとを備える。しかし、
図3のシステムは第4冷却液通路14、第5冷却液通路15、第1バルブ5及び第2ウォータポンプ7を備えない。このようなシステムによれば、ヒータコア2の熱量だけでは暖房要求を満足できない場合でも、不足する分の熱量をキャビンコンデンサ8で賄うことができる。また、排熱回収器4によりエンジン1の排熱を利用してエンジン冷却液を加熱することで、エンジン1の暖機を促進できる。
【0033】
ただし、排熱回収器4で加熱されるエンジン冷却液は、熱交換器3においてエンジン冷却液からヒートポンプ冷媒へ熱が奪われた後のものである。つまり、排熱回収器4を備えないシステムと比較すればエンジン1の暖機を促進できるものの、暖機に要する時間については改善の余地がある。
【0034】
これに対し本実施形態のシステムは、第4冷却液通路14、第5冷却液通路15、第1バルブ5及び第2ウォータポンプ7を備える。そして、第1バルブ5を閉弁し、第2ウォータポンプ7を作動させることで、エンジン冷却液回路EWCを、エンジン1及びヒータコア2を循環する回路(第1回路)と、熱交換器3及び排熱回収器4を循環する回路(第2回路)の2つの独立回路に分けることができる。なお、第1バルブ5を開弁し、第2ウォータポンプ7を非作動にすることにより、エンジン1、ヒータ2、熱交換器3及び排熱回収器4を循環する回路(第3回路)にすることができる。
【0035】
2つの独立回路に分けることで、
図3の構成に比べて、熱交換器3で奪われる熱が減少し、エンジン1を循環するエンジン冷却液の温度上昇が早まる。
【0036】
また、熱交換器3と排熱回収器4を循環する回路を流れるエンジン冷却液は、エンジン1から熱を受け取らないので、熱交換器3の出口における温度が
図3の構成に比べて低くなる。そして、熱交換器3の出口における温度が低い分、
図3の構成に比べて排熱回収器4で排気ガスから回収できる熱量が多くなる。排熱回収器4で回収する熱量が増加すれば、熱交換器3を介してヒートポンプ冷媒に与える熱量が増加する。つまり、キャビンコンデンサ8での加熱量が増加する。
【0037】
上記の通り、2つの独立回路に分けることで、エンジン1の暖機をより促進し、かつヒートポンプシステムによる暖房性能を確保できる。
【0038】
ところで、エンジン1の暖機に要する時間や、暖房要求を満足するために必要な熱量(以下、キャビン加熱要求熱量ともいう)は、外気温と関係がある。例えば、外気温が低いほど、エンジン始動時におけるエンジン冷却液の温度及び車室内温度は低いため、暖機に要する時間は長くなり、キャビン加熱要求熱量は大きくなる。なお、暖房要求がる場合とは、運転者が空調装置を暖房設定にした場合、または空調装置の設定温度が車室内温度より高い場合のように、車室内の温度を上昇させる必要がある場合である。
【0039】
図4は、キャビン加熱要求熱量と外気温との関係の一例を示す図である。上記の通り、外気温が低いほどキャビン加熱要求熱量は大きい。また、図示する通り、エンジン1の熱だけで対応可能なキャビン加熱要求熱量(図中の破線A)、排熱回収器4で回収した熱で対応可能なキャビン加熱要求熱量(図中の破線B)、ヒートポンプシステムで生成した熱で対応可能なキャビン加熱要求熱量(図中の破線C)には限界がある。そこで、外気温に応じて、キャビン加熱要求熱量を満足するように、エンジン1の熱、排熱回収器4で回収した熱、ヒートポンプシステムで生成した熱のいずれか、またはこれらの組み合わせを選択する。ここで、キャビン加熱要求熱量をエンジン1の熱だけで満足できる下限の外気温をTmp1とする。このTmp1はエンジン1の仕様等により異なる温度である。
【0040】
本実施形態では、外気温に応じて第1バルブ5の開閉、第2ウォータポンプ7の作動/停止、ヒートポンプシステムの作動/停止、排熱回収を実行するか否かを切り換える。
【0041】
図5は、エンジン始動時における上記の各要素の状態についてまとめた表である。
【0042】
本実施形態では、コントローラ100は、外気温センサ19により外気温Tmpを検出し、検出した外気温Tmpが25℃<Tmpの高外気温、5℃<Tmp≦25℃の中間外気温、-20℃<Tmp≦5℃の低外気温、Tmp≦-20℃の極低外気温のいずれの温度範囲に属するかに応じて制御を行う。なお、上記の-20℃、5℃、25℃という境界温度はあくまでも例示にすぎない。また、低外気温と中間外気温との境界温度である5℃は、
図4における温度Tmp1の一例である。
【0043】
高外気温の場合は、暖房要求があることは想定し難いので、ヒートポンプシステムは停止させる。また、冷機始動であっても、エンジン始動時におけるエンジン冷却液温度はほぼ外気温と同じである。そこで、第1バルブ5は開状態にし、第2ウォータポンプ7は停止させる。ただし、エンジン1の暖機促進のため、排熱回収は実行する。
【0044】
中間外気温の場合は、外気温が上述した温度Tmp1より高いので、暖房要求がある場合でもエンジン1の熱だけでキャビン加熱要求熱量を満足できる。そこで、第1バルブ5は開状態にし、第2ウォータポンプ7及びヒートポンプシステムは停止させる。なお、高外気温の場合と同様に、排熱回収は実行する。このように排熱回収器4だけでエンジン1の暖機と暖房要求に応じるための熱量を賄うことで、ヒートポンプシステム及び第2ウォータポンプ7の作動に要する動力を削減し、燃費性能を向上させることができる。
【0045】
低外気温の場合は、エンジン1の熱だけではキャビン加熱要求熱量を満足できないので、排熱回収器4で回収した熱を利用。そこで、エンジン冷却液回路EWCを、エンジン1及びヒータコア2を循環する回路と、熱交換器3及び排熱回収器4を循環する回路の2つの独立回路に分ける。つまり、第1バルブ5を閉状態にし、第2ウォータポンプ7を作動させる。そしてヒートポンプシステムを作動させる。もちろん、排熱回収は実行する。
【0046】
なお、エンジン冷却液が十分に高まったら、つまりエンジン1が暖機状態になったら、第1バルブ5を開状態にし、第2ウォータポンプ7を停止させる。
【0047】
極低外気温の場合も低外気温の場合と同様にエンジン1の熱だけではキャビン加熱要求熱量を満足できない。ただし、極低外気温の場合には、低外気温の場合と同様に熱交換器3及び排熱回収器4を循環する回路を独立させると、エンジン冷却液とヒートポンプ冷媒との温度差が大きくなり、ヒートポンプシステムで熱を汲み上げることが困難になる。そこで、第1バルブ5は開状態にし、第2ウォータポンプ7は停止させ、ヒートポンプシステムは作動させ、さらに排熱回収を実行する。
【0048】
図6は、上述した第1バルブ5及び第2ウォータポンプ7の動作を含む、エンジン始動時にコントローラ100が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。以下、フローチャートのステップに沿って説明する。
【0049】
ステップS100で、コントローラ100はエンジン冷却液温度が第1閾値より低いか否かを判定し、低い場合はステップS101の処理を実行し、そうでない場合はステップS102の処理を実行する。判定に用いるエンジン冷却液温度は、水温センサ18で検出するエンジン冷却液温度、つまり水温センサ18で検出するエンジン冷却液温度である。第1閾値は、エンジン1が暖機状態であると認められる下限の温度であり、例えば70℃程度とする。
【0050】
ステップS101で、コントローラ100は排熱回収モードを開始する。すなわち、コントローラ100は三方弁24によりバイパス通路21を閉鎖して、排気ガスが排熱回収通路22を通過する状態にする。排熱回収モードを開始した後は、ステップS103の処理を実行する。
【0051】
一方、ステップS102では、コントローラ100は排熱非回収モードを開始する。すなわち、コントローラ100は三方弁24により排熱回収通路22を閉鎖して、排気ガスがバイパス通路21を通過する状態にする。排熱非回収モードを開始した後は、後述するステップS107の処理を実行する。
【0052】
ステップS103で、コントローラ100は暖房要求の有無を判定し、暖房要求がある場合はステップS104の処理を実行し、ない場合はステップS107の処理を実行する。
【0053】
ステップS104で、コントローラ100は外気温センサ19で検出した外気温が、上述した温度範囲のいずれに属するかを判定する。低外気温の場合はステップS105の第1処理を実行し、極低外気温の場合はステップS106の第2処理を実行し、中間外気温または高外気温の場合はステップS107の第3処理を実行する。
【0054】
ステップS105の第1処理は、
図7に示す通り、ヒートポンプシステムのコンプレッサ10をONにするステップS200と、第1バルブ5を閉弁状態にし、かつ第2ウォータポンプ7をONにするステップS201とからなる。
【0055】
ステップS106の第2処理は、
図8に示す通り、ヒートポンプシステムのコンプレッサ10をONにするステップS300と、第1バルブ5を開弁状態にし、かつ第2ウォータポンプ7をOFFにするステップS301とからなる。
【0056】
ステップS107の第3処理は、
図9に示す通り、ヒートポンプシステムのコンプレッサ10をOFFにするステップS400と、第1バルブ5を開弁状態にし、かつ第2ウォータポンプ7をOFFにするステップS201とからなる。第3処理が終了したら、本ルーチンを終了する。
【0057】
ステップS105またはS106の処理を行った後、コントローラ100はステップS108において、エンジン冷却液温度が第1閾値より高いか否かを判定する。コントローラ100は、判定結果が肯定的な場合はステップS109の処理を実行し、否定的な場合はステップS104の処理に戻る。
【0058】
ステップS109で、コントローラ100はコンプレッサ10を停止させ、さらに三方弁24により排熱回収通路22を閉鎖する。つまり、ヒートポンプシステムを停止させ、排熱非回収モードに切り替える。
【0059】
ステップS110で、コントローラ100は第1バルブ5を閉弁状態にし、第2ウォータポンプ7をONにする。すなわち、低外気温の場合は第1処理後の状態を維持し、極低音の場合は第1処理後の状態に変更する。
【0060】
ステップS111で、コントローラ100はエンジン冷却液温度が第2閾値より高いか否かを判定する。第2閾値は、エンジン1の運転中における制御目標となる温度であり、例えば85℃程度とする。判定結果が肯定的な場合は、コントローラ100はステップS112の処理を実行し、否定的な場合はステップS104の処理に戻る。
【0061】
ステップS112で、コントローラ100は第1バルブ5を開弁状態にし、第2ウォータポンプ7をOFFにする。つまり、エンジン冷却液がエンジン1、ヒータコア2、熱交換器3及び排熱回収器4を一つの回路で循環する状態にする。
【0062】
ステップS113で、コントローラ100は暖房要求があるか否かを判定し、暖房要求がある場合はステップS112の処理に戻り、ない場合は本ルーチンを終了する。
【0063】
図10は、低外気温時にエンジン始動した場合のタイミングチャートである。具体的には、エンジン1を冷機始動した後、車速40[km/h]程度(図中の一点鎖線)、エンジン回転速度2000[rpm]程度(図中の二点鎖線)で定速走行した場合の、暖機完了するまでのチャートである。なお、車速以外のチャートには、
図3に示した構成によるものを比較例として破線で示している。
【0064】
低外気温なので、第1バルブ5は開状態で第2ウォータポンプ7は作動状態である。つまり、エンジン1及びヒータコア2を循環する回路と、熱交換器3及び排熱回収器4を循環する回路とが独立している。また、ヒートポンプシステムは作動状態である。
【0065】
エンジン出口冷却液温度が第1閾値に達したタイミングT1でヒートポンプシステムは停止する。そして、エンジン冷却液温度が第2閾値に達したタイミングT2で第1バルブ5は開弁状態になり、第2ウォータポンプ7は停止する。このとき、第1バルブ5は徐々に開度を増大させる。これは、エンジン1を循環するエンジン冷却液に熱交換器3及び排熱回収器4を循環していたエンジン冷却液が混入する際に、エンジン冷却液温度が急激に低下するのを防ぐためである。エンジン冷却液温度の急低下を防止することで、燃費性能の低下を抑制できる。
【0066】
エンジン出口冷却液温度は、エンジン1の始動に伴い上昇する。本実施形態では回路が独立しており、エンジン1を循環するエンジン冷却液が熱交換器3で熱を奪われないので、比較例に対して温度上昇が早い。つまり、エンジン1の暖機に要する時間がより短い。なお、タイミングT2からエンジン出口エンジン冷却液温度が低下しているが、これは上記の通りエンジン1を循環するエンジン冷却液に熱交換器3及び排熱回収器4を循環していた低温のエンジン冷却液が混入するからである。ただし、一端低下するものの、その後再び上昇に転じる。
【0067】
排熱回収器4の入口におけるエンジン冷却液温度(図中のEHRS入口冷却液温度)は、比較例の構成ではエンジン1の始動に伴い上昇し始める。これは、エンジン1と排熱回収器4が同じ回路にあり、エンジン1の温度が上昇するのに伴い、エンジン1を通過するエンジン冷却液の温度が上昇するからである。
【0068】
これに対し本実施形態の構成では、排熱回収器4とエンジン1とが別回路になっており、排熱回収器4に導入されるエンジン冷却液は排熱回収器4で温度上昇した後に熱交換器3で温度低下したものである。したがって、EHRS入口冷却液温度は排熱回収器4に導入される排気ガスの温度が上昇するまでは、熱交換器3で熱が奪われることでわずかに低下する。その後、後述する排熱回収量の増大に伴いEHRS入口冷却液温度は上昇に転じるが、エンジン冷却液は排熱回収器4と熱交換器3の閉回路を循環し、比較例のようにエンジン1を通過しないので、比較例に比べて低い温度となる。
【0069】
また、EHRS入口冷却液温度はタイミングT2以降、急峻に上昇する。これは、エンジン1側の回路を循環していた高温のエンジン冷却液が混入するからである。ただし、エンジン冷却液の撹拌が進むと、EHRS入口冷却液温度の上昇は後述する
図17に示す通り緩やかになる。
【0070】
排熱回収器4の入口における排気ガス温度(図中のEHRS排気ガス温度)は、エンジン1の始動からやや遅れて上昇し始める。これは、エンジン1から排熱回収器4の入口まで距離があるためである。これについては本実施形態も比較例も同様である。
【0071】
排熱回収器4での排熱回収量(図中のEHRS排熱回収量)は、EHRS排気ガス温度と同様に、エンジン1の始動からやや遅れて上昇し始める。そしてタイミングT1で排熱非回収モードに切り換わると、本実施形態も比較例もEHRS排熱回収量は減少する。
【0072】
タイミングT1までのEHRS排熱回収量は、本実施形態の方が比較例よりEHRS排熱回収量は多くなる。これは以下の理由による。
【0073】
EHRS排熱回収量は、式(1)により定義される。
【数1】
なお、式(1)は、排熱回収器4の伝熱面積が十分に広く、排熱回収器4の入口における冷却液温度は排熱回収器4の出口における排気ガス温度になるという仮定に基づく。
【0074】
式(1)からわかる通り、ΔTが大きくなるほど、つまりEHRS排気ガス温度とEHRS入口エンジン冷却液温度との差が大きくなるほど排熱回収量Qは大きくなる。このため、本実施形態と比較例とを対比すると、上述した通りEHRS入口排気ガス温度は等しいが、EHRS入口冷却液温度は本実施形態の方が比較例より低いので、排熱回収量は本実施形態の方が大きくなる。
【0075】
なお、キャビン加熱量、つまりキャビンに導入される空気を加熱する熱量は、本実施形態と比較例とでほとんど差がない。これは、比較例の構成では、排熱回収器4における排熱回収量は本実施形態に比べて小さいが、エンジン1を通過する際にエンジン1の熱を受け取るため、熱交換器3に導入されるエンジン冷却液の温度については両者にほとんど差がないためである。換言すると、本実施形態によれば、比較例と同等のキャビン加熱量を確保しつつ、エンジン1の暖機に要する時間を比較例よりも短くすることができる。
【0076】
以上の通り本実施形態の車両は、エンジン1の排気ガスからエンジン1のエンジン冷却液に熱を回収する排熱回収器4と、大気を熱源とするヒートポンプシステムと、エンジン冷却液とヒートポンプシステムのヒートポンプ冷媒との間の熱交換を行う熱交換器3(第1熱交換器)とを備える。そして、エンジン1から排出されるエンジン冷却液が排熱回収器4及び熱交換器3を通らずにエンジン1に戻る第1回路と、第1回路に介装される第1ウォータポンプ6と、エンジン冷却液がエンジン1を通らずに排熱回収器4及び熱交換器3を循環する第2回路と、第2回路に介装される第2ウォータポンプ7と、エンジン1から排出されるエンジン冷却液が、第1回路の途中で分岐して第2回路に入り、排熱回収器4及び熱交換器3を通過した後に、第2回路の途中で分岐して第1回路に入り、エンジン1に戻る第3回路と、第1回路と第2回路との間のエンジン冷却液の入出を制御する第1バルブ5とを備える。これにより、エンジン1を循環するエンジン冷却液の回路と、熱交換器3及び排熱回収器4を循環してヒートポンプ冷媒と熱交換するエンジン冷却液の回路とを独立した回路にすることができる。このように独立した回路にすることで、暖房要求を満足させつつ、エンジン1の暖機を促進させることができる。暖機状態になるまでの時間が短縮されれば、冷機時の燃料噴射量が増量補正される時間が短くなるので、燃費性能が向上する。
【0077】
本実施形態の具体的な構成は次の通りである。エンジン1の冷却液排出口と熱交換器3の冷却液導入口とを連結する第1冷却液通路11と、熱交換器3の冷却液排出口と排熱回収器4の冷却液導入口とを連結する第2冷却液通路12と、排熱回収器4の冷却液排出口とエンジン1の冷却液導入口とを連結する第3冷却液通路13とを備える。また、第1冷却液通路11から分岐して第3冷却液通路13に合流する第4冷却液通路14と、第1冷却液通路11の第4冷却液通路14との分岐点よりエンジン1側から分岐して、第3冷却液通路13の第4冷却液通路14との合流部よりエンジン1側に合流する第5冷却液通路15とを備える。さらに、第3冷却液通路13に介装される第1ウォータポンプ6と、第4冷却液通路14に介装される第2ウォータポンプ7と、第1冷却液通路11の第4冷却液通路14との分岐部と第5冷却液通路15との分岐部との間に介装される第1バルブ5と、を備える。
【0078】
本実施形態の車両では、外気温が第1外気温以下かつ第1外気温より低い第2外気温より高い場合(つまり中間外気温の場合)には、ヒートポンプシステムは停止し、第1バルブ5は開弁し、第1ウォータポンプ6及び第2ウォータポンプ7は作動する。これにより、暖房要求を満足するために必要なキャビン加熱量が小さいときには排熱回収器4で回収した熱で対応し、ヒートポンプシステムを作動させないので、ヒートポンプシステムの作動に要する動力が不要となり、燃費性能が向上する。
【0079】
本実施形態では、外気温が第2外気温以下かつ第2外気温より低い第3外気温より高い場合(つまり低外気温の場合)には、ヒートポンプシステムは作動し、第1バルブは閉弁し、第1ウォータポンプ及び第2ウォータポンプは作動する。これより、エンジン1を循環するエンジン冷却液の回路と、熱交換器3及び排熱回収器4を循環してヒートポンプ冷媒と熱交換するエンジン冷却液の回路とを独立した回路になる。そして、排熱回収器4で回収された熱は熱交換器3でヒートポンプ冷媒へ移行し、そのヒートポンプ冷媒がヒートポンプシステムによりさらに温度上昇して車室内に導入される空気を温める。ここで、エンジン冷却液の回路が独立することで、排熱回収器4の入口におけるエンジン冷却液の温度の上昇が抑制されるので、排熱回収器4での排熱回収量を増大させることができる。すなわち、本実施形態によれば、より多くの排熱を回収することにより、空調装置の暖房効率を向上させることができる。
【0080】
本実施形態では、第1バルブ5はエンジン1が暖機状態になった後、さらにエンジン冷却液の温度が上昇してから、具体的には第2閾値に達したら開弁する。ヒートポンプシステムはエンジン1が暖機状態になったら停止するが、ここで第1バルブ5を開状態にすると、エンジン冷却液の温度が低下してエンジン1の温度低下を招くことになる。そこで上記の通り、暖機状態になってから、さらにエンジン冷却液温度が上昇してから第1バルブ5を開くことで、エンジン1の温度低下を抑制する。
【0081】
本実施形態では、第1バルブ5は開弁する際に徐々に開度を増大させる。これにより、熱交換器3及び排熱回収器4を循環するエンジン冷却液がエンジン1側のエンジン冷却液に混入する際の、エンジン冷却液の温度の急峻な低下を抑制し、エンジン1の温度低下による燃費性能の低下を抑制することができる。
【0082】
本実施形態では、外気温が第3外気温以下の場合(つまり極低外気温の場合)には、ヒートポンプシステムは作動し、第1バルブ5は開弁し、第2ウォータポンプ7は停止する。極低外気温では、エンジン始動時のエンジン冷却液温度が低く、ヒートポンプシステムで熱を汲み上げることが難しい。そこで、第1バルブ5を開状態にすることでエンジン1本体も熱源として使用してエンジン冷却液温度を上昇させる。
【0083】
本実施形態のヒートポンプシステムは、車室内に導入される空気を熱交換により加熱する第2熱交換器として、ヒートポンプ冷媒により空気を加熱する熱交換器、つまりキャビンコンデンサ8を備える。つまり、車室内に導入される空気を温める装置として、ヒータコア2の他にキャビンコンデンサ8を備える。これにより、ヒータコア2だけでは熱量が足りない場合でも、キャビンコンデンサ8の熱を用いることができる。
【0084】
[変形例]
本実施形態にかかる車両の空調装置の回路は、
図1に示したものに限られず、例えば
図11から
図14に示す構成の回路であっても構わない。
【0085】
図11の構成は、排熱回収器4が第2冷却液通路12にある点で
図1の構成と異なる。
【0086】
図12の構成は、排熱回収器4と熱交換器3とが第2ウォータポンプに対して並列に接続されている点で
図1の構成と異なる。
【0087】
図13の構成は、第1バルブ5が第3冷却液通路13に配置される点で
図1の構成と異なる。
【0088】
図14の構成は、第1バルブ5が第3冷却液通路13に配置される点と、ヒータコア2を通過する冷却液通路と第5冷却液通路15とが並列になっている点と、で
図1の構成と異なる。
【0089】
上記の各構成でも、
図6~
図9に示す制御を実行することで、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0090】
[第2実施形態]
図15は第2実施形態にかかる車両の空調装置の回路図である。
図1と共通する要素には同じ番号を付している。以下、
図1の回路との相違点を中心に説明する。
【0091】
第1実施形態では、車室内に導入する空気をキャビンコンデンサ8により直接加熱する。これに対し本実施形態では、ヒートポンプシステムで生成した熱でエンジン冷却液を加熱する水冷コンデンサ36を備え、水冷コンデンサ36で加熱されたエンジン冷却液を第2熱交換器としてのヒータコア2に導入し、ヒータコア2にて車室内に導入する空気を加熱する。このため、ヒータコア2の冷却液導入口と水冷コンデンサ36の冷却液排出口とを連結する第6冷却液通路38と、ヒータコア2の冷却液排出口と水冷コンデンサ36の冷却液導入口とを連結する第7冷却液通路37を備える。第7冷却液通路37には、第3ウォータポンプ33が介装される。
【0092】
また、第1冷却液通路11の第5冷却液通路15との分岐部よりエンジン側とヒータコア2の冷却液導入口とを連結する第8冷却液通路34と、ヒータコア2の冷却液排出口と第3冷却液通路13の第5冷却液通路15との合流部よりエンジン側とを連結する第9冷却液通路35も備える。第8冷却液通路34には第3バルブ31が、第9冷却液通路35には第4バルブ32が、それぞれ介装される。
【0093】
図16は、エンジン始動時における上記の各要素の状態についてまとめた表である。第3ウォータポンプ33、第2バルブ30、第3バルブ31及び第4バルブ32を除いた部分は
図5と同様である。
【0094】
高外気温の場合は、第3ウォータポンプ33は停止、第2バルブ30は開状態、第3バルブ31は閉状態、第4バルブ32は閉状態となる。つまり、エンジン冷却液はエンジン1と熱交換器3と排熱回収器4とを循環する。また、ヒートポンプシステムは作動していないので、熱交換器3では滞留しているヒートポンプ冷媒とエンジン冷却液とが熱交換することとなり、熱交換器3でのエンジン冷却液の温度低下が抑制される。
【0095】
中間外気温の場合は、第3ウォータポンプ33は停止、第2バルブ30は閉状態、第3バルブ31は開状態、第4バルブ32は開状態となる。つまり、エンジン1から排出されたエンジン冷却液は、一部が熱交換器3及び排熱回収器4を循環し、その他がヒータコア2を循環する。
【0096】
低外気温の場合は、第3ウォータポンプ33は作動、第2バルブ30は開状態、第3バルブ31は閉状態、第4バルブ32は閉状態となる。つまり、エンジン冷却液の回路は、エンジン1から排出されて第2冷却液通路12を介して循環する回路と、熱交換器3及び排熱回収器4を循環する回路と、ヒータコア2及び水冷コンデンサ36を循環する回路の3つになる。これにより、第1実施形態と同様に、エンジン1の暖機を促進しつつ、暖房要求を満足することができる。
【0097】
極低外気温の場合は、低外気温の場合と同様に、第3ウォータポンプ33は作動、第2バルブ30は開状態、第3バルブ31は閉状態、第4バルブ32は閉状態となる。ただし、第1バルブ5は開状態で第2ウォータポンプ7は停止している。つまり、エンジン1から排出されたエンジン冷却液は、一部が熱交換器3及び排熱回収器4を循環し、その他がヒータコア2を循環する。さらに、ヒータコア2を通過したエンジン冷却液の一部はヒータコア2と水冷コンデンサ36とを循環する。
【0098】
図17は、本実施形態においてエンジン始動時にコントローラ100が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。
図6と同様の処理については
図6と同じステップ番号を付してある。以下、
図6との相違点を中心に説明する。
【0099】
ステップS100からステップS104で外気温を判定するところまでは
図6と同様である。ただし、ステップS103で暖房要求がないと判定した場合に実行する第3処理と、ステップS104の判定結果に基づき低外気温の場合に実行する第1処理と、極低外気温の場合に実行する第2処理と、中間外気温及び高外気温の場合に実行する第3処理の内容が異なる。
【0100】
低外気温の場合は、コントローラ100はステップS105-2において
図18に示す第1処理を実行する。
図18のステップS200及びS201は
図7のステップS200及びS201と同様である。ただし、本実施形態では、コントローラ100はステップS202において第3ウォータポンプ33を作動させ、ステップS203において第2バルブ30を開状態、第3バルブ31を閉状態、第4バルブ32を閉状態にする。
【0101】
極低外気温の場合は、コントローラ100はステップS106-2において
図15に示す第2処理を実行する。
図19のステップS300及びS301は
図8のステップ300及びS301と同様である。ただし、本実施形態では、コントローラ100はステップS302において第3ウォータポンプ33を作動させ、ステップS303において第2バルブ30を開状態、第3バルブ31を閉状態、第4バルブ32を閉状態にする。
【0102】
ステップS103で暖房要求がないと判定した場合と、ステップS104で中間外気温及び高外気温と判定した場合は、コントローラ100はステップS107-2において
図20に示す第3処理を実行する。なお、下記の第3処理が終了したら、本ルーチンを終了する。
【0103】
コントローラ100は、
図20のステップS500でコンプレッサ10を停止させ、ステップS501で第1バルブ5を開状態、第2ウォータポンプ7を停止させる。さらにコントローラ100はステップS502で第3ウォータポンプ33を停止させる。そして、コントローラ100は、ステップS503で外気温判定を実行する。ここでは、中間外気温か高外気温のいずれであるかを判定する。
【0104】
中間外気温の場合は、コントローラ100はステップS504で第2バルブ30を閉状態、第3バルブ31を開状態、第4バルブ32を開状態にする。
【0105】
高外気温の場合は、コントローラ100はステップS505で第2バルブ30を開状態、第3バルブ31を閉状態、第4バルブ32を閉状態にする。
【0106】
第1処理または第2処理が終了した後のステップS108、S109は
図6の同ステップと同じである。
【0107】
ステップS110-2で、コントローラ100は、第1バルブ5を閉状態、第2ウォータポンプ7を作動、第3ウォータポンプ33を作動、第2バルブ30を開状態、第3バルブ31を閉状態、第4バルブ32を閉状態にする。つまり、低外気温の場合は第1処理後の状態を維持し、極低外気温の場合は第2処理後の状態から第1処理後の状態に変更する。
【0108】
その後のステップS111からS113は
図6の同ステップと同じである。
【0109】
ステップS113で暖房要求がなくなったら、コントローラ100はステップS114で第3ウォータポンプ33を停止、第2バルブ30を閉状態、第3バルブ31を開状態、第4バルブ32を開状態にする。これにより、エンジン1から排出されたエンジン冷却液の一部は熱交換器3及び排熱回収器4を循環してエンジン1に戻り、その他はヒータコア2を循環してエンジン1に戻る。
【0110】
図21は、低外気温時にエンジン始動した場合のタイミングチャートである。具体的には、エンジン1を冷機始動した後、車速40[km/h]程度(図中の一点鎖線)、エンジン回転速度2000[rpm]程度(図中の二点鎖線)で定速走行した場合について示している。
【0111】
エンジン出口冷却液温度が第2閾値に達するタイミングT2までは、第3ウォータポンプ33、第2バルブ30、第3バルブ31及び第4バルブ32があることを除き、基本的には第1実施形態の
図10と同様である。
【0112】
低外気温なので、エンジン始動後に第3ウォータポンプ33は作動状態、第2バルブ30は開状態、第3バルブ31は閉状態、第4バルブ32は閉状態になる。そして、タイミングT3で暖房要求がなくなったら、第3ウォータポンプ33は停止状態、第2バルブ30は閉状態、第3バルブ31は開状態、第4バルブ32は開状態になる。
【0113】
以上のように本実施形態のヒートポンプシステムは、車室内に導入される空気を熱交換により加熱する第2熱交換器をとして、ヒートポンプ冷媒と熱交換により加熱されたエンジン冷却液により空気を加熱する熱交換器、つまりヒータコア2を備える。これにより、キャビンコンデンサ8を追加する必要がなくなるので、従来から知られている空調装置からの変更の規模を縮小でき、ひいては空調装置にかかるコストの低減を実現できる。
【0114】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0115】
1 エンジン
2 ヒータコア
3 熱交換器
4 排熱回収器
5 第1バルブ
6 第1ウォータポンプ
7 第2ウォータポンプ
8 キャビンコンデンサ
9 膨張器
10 コンプレッサ
24 三方弁
100 コントローラ