(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20240216BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20240216BHJP
B23K 26/046 20140101ALI20240216BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/067
B23K26/046
H01L21/78 B
(21)【出願番号】P 2020121657
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】是松 克洋
(72)【発明者】
【氏名】荻原 孝文
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-51011(JP,A)
【文献】特開2011-206850(JP,A)
【文献】特開2010-260063(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156688(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/53
B23K 26/067
B23K 26/046
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にレーザ光を照射することにより、前記対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持する支持部と、
前記支持部によって支持された前記対象物に前記レーザ光を照射する照射部と、
前記支持部及び前記照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、
前記照射部及び前記移動機構を制御する制御部と、を備え、
前記照射部は、前記レーザ光を変調する空間光変調器と、前記空間光変調器によって変調された前記レーザ光を前記対象物に集光する集光部と、を有し、
前記制御部は、
前記レーザ光が複数の加工光に分岐し、且つ、複数の前記加工光の複数の集光点が、前記レーザ光の照射方向に垂直な方向において互いに異なる箇所に位置するように、前記空間光変調器により前記レーザ光を変調させる第1制御を実行し、
前記第1制御では、
前記照射方向における前記レーザ光の非変調光の集光点と前記対象物のレーザ光入射面とは反対側の反対面との間に、前記改質領域を構成する複数の改質スポットから延び且つ前記仮想面に沿って伸展して互いに繋がる亀裂が存在するように、前記レーザ光を変調させる、レーザ加工装置。
【請求項2】
複数の前記改質スポットから延びる前記亀裂は、前記仮想面に沿って2次元状に広がるように互いに繋がる、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記対象物は、基板と、前記基板のレーザ光入射側と反対側に設けられた機能素子層と、を含む、請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第1制御では、前記照射方向における前記レーザ光の非変調光の集光点と前記反対面との間に前記亀裂が存在するように、複数の前記加工光の複数の集光点を前記レーザ光の照射方向に垂直な方向に移動させる、請求項1~3の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、
複数の前記加工光の前記集光点の位置が前記仮想面に沿って移動するように、前記移動機構により前記支持部及び前記照射部の少なくとも一方を移動させる第2制御を実行する、請求項1~4の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記第2制御では、複数の前記加工光の前記集光点の位置が加工用ラインに沿って移動するように、前記支持部及び前記照射部の少なくとも一方を移動させ、
複数の前記改質スポットから延びる前記亀裂は、前記加工用ラインに沿う方向及び前記加工用ラインと交差する方向に伸展して互いに繋がる、請求項5に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記第1制御では、
前記照射方向において、複数の前記加工光それぞれの集光点が当該加工光の理想集光点に対して前記レーザ光の非変調光の集光点とは反対側に位置するように、又は、複数の前記加工光それぞれの集光点が前記非変調光の集光点に対して当該加工光の理想集光点とは反対側に位置するように、前記レーザ光を変調させる、請求項1~6の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記第1制御では、
前記照射方向における前記レーザ光の非変調光の集光点と前記対象物の前記反対面との間に前記改質領域が存在するように、前記レーザ光を変調させる、請求項1~7の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
対象物にレーザ光を照射することにより、前記対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成するレーザ加工方法であって、
前記レーザ光を複数の加工光に分岐し、且つ、複数の前記加工光の複数の集光点を、前記レーザ光の照射方向に垂直な方向において互いに異なる箇所に位置させる工程を含み、
当該工程では、
前記照射方向における前記レーザ光の非変調光の集光点と前記対象物のレーザ光入射面とは反対側の反対面との間に、前記改質領域を構成する複数の改質スポットから延び且つ前記仮想面に沿って伸展して互いに繋がる亀裂を存在させる、レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワークを保持する保持機構と、保持機構に保持されたワークにレーザ光を照射するレーザ照射機構と、を備えるレーザ加工装置が記載されている。特許文献1に記載のレーザ加工装置では、集光レンズを有するレーザ照射機構が基台に対して固定されており、集光レンズの光軸に垂直な方向に沿ったワークの移動が保持機構によって実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したようなレーザ加工装置では、対象物にレーザ光を照射することにより、対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成する場合がある。この場合、仮想面に渡る改質領域及び改質領域から延びる亀裂を境界として、対象物の一部が剥離される。このような剥離加工では、レーザ光を複数の加工光に分岐するように変調させて加工する、いわゆる多焦点レーザ加工が実施されることがある。しかし、多焦点レーザ加工を実施する剥離加工では、対象物におけるレーザ光入射側と反対側(例えば機能素子層)がレーザ光の非変調光により損傷してしまうという問題が顕著になるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、対象物におけるレーザ光入射側と反対側の損傷を抑制することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザ加工装置は、対象物にレーザ光を照射することにより、対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成するレーザ加工装置であって、対象物を支持する支持部と、支持部によって支持された対象物にレーザ光を照射する照射部と、支持部及び照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、照射部及び移動機構を制御する制御部と、を備え、照射部は、レーザ光を変調する空間光変調器と、空間光変調器によって変調されたレーザ光を対象物に集光する集光部と、を有し、制御部は、レーザ光が複数の加工光に分岐し、且つ、複数の加工光の複数の集光点が、レーザ光の照射方向に垂直な方向において互いに異なる箇所に位置するように、空間光変調器によりレーザ光を変調させる第1制御を実行し、第1制御では、照射方向におけるレーザ光の非変調光の集光点と対象物のレーザ光入射面とは反対側の反対面との間に、改質領域を構成する複数の改質スポットから延び且つ仮想面に沿って伸展して互いに繋がる亀裂が存在するように、レーザ光を変調させる。
【0007】
このレーザ加工装置では、レーザ光が複数の加工光に分岐し、且つ、複数の加工光の複数の集光点が照射方向に垂直な方向において互いに異なる箇所に位置する。このとき、レーザ光の非変調光の集光点と対象物のレーザ光入射面とは反対側の反対面との間に、改質領域を構成する複数の改質スポットから延び且つ仮想面に沿って伸展して互いに繋がる亀裂が存在する。この亀裂により、対象物におけるレーザ光入射側と反対側に到達しないようにレーザ光の非変調光を遮断することができる。よって、レーザ光の非変調光により対象物の当該反対側にダメージが発生してしまうのを抑制することができる。すなわち、対象物におけるレーザ光入射側と反対側の損傷を抑制することが可能となる。
【0008】
本発明に係るレーザ加工装置において、複数の改質スポットから延びる亀裂は、仮想面に沿って2次元状に広がるように互いに繋がっていてもよい。このような亀裂により、レーザ光の非変調光を効果的に遮断することができる。
【0009】
本発明に係るレーザ加工装置において、対象物は、基板と、基板のレーザ光入射側と反対側に設けられた機能素子層と、を含んでいてもよい。この場合、対象物の当該反対側には機能素子層が設けられることから、対象物の当該反対側の損傷を抑制する上記効果は特に有効である。
【0010】
本発明に係るレーザ加工装置において、制御部は、複数の加工光の集光点の位置が仮想面に沿って移動するように、移動機構により支持部及び照射部の少なくとも一方を移動させる第2制御を実行してもよい。このように複数の加工光の集光点の位置を仮想面に沿って移動させることで、仮想面に沿った改質領域の形成を具体的に実現できる。
【0011】
本発明に係るレーザ加工装置において、第1制御では、照射方向におけるレーザ光の非変調光の集光点と反対面との間に亀裂が存在するように、複数の加工光の複数の集光点をレーザ光の照射方向に垂直な方向に移動させてもよい。これにより、レーザ光の照射方向における非変調光の集光点とレーザ光入射面の反対面との間に当該亀裂を確実に位置させることができる。
【0012】
本発明に係るレーザ加工装置において、第2制御では、複数の加工光の集光点の位置が加工用ラインに沿って移動するように、支持部及び照射部の少なくとも一方を移動させ、複数の改質スポットから延びる亀裂は、加工用ラインに沿う方向及び加工用ラインと交差する方向に伸展して互いに繋がっていてもよい。このような亀裂により、レーザ光の非変調光を効果的に遮断することができる。
【0013】
本発明に係るレーザ加工装置において、第1制御では、照射方向において、複数の加工光それぞれの集光点が当該加工光の理想集光点に対してレーザ光の非変調光の集光点とは反対側に位置するように、又は、複数の加工光それぞれの集光点が非変調光の集光点に対して当該加工光の理想集光点とは反対側に位置するように、レーザ光を変調させてもよい。これにより、結果的に、レーザ光の非変調光の集光点を、対象物におけるレーザ光入射側と反対側から遠ざけることができる。よって、レーザ光の非変調光の集光で対象物の当該反対側にダメージが発生してしまうのを抑制することができる。
【0014】
本発明に係るレーザ加工装置において、第1制御では、照射方向におけるレーザ光の非変調光の集光点と対象物の反対面との間に改質領域が存在するように、レーザ光を変調させてもよい。この場合、改質領域により、対象物におけるレーザ光入射側と反対側に到達しないようにレーザ光の非変調光を遮断することができる。よって、レーザ光の非変調光で対象物の当該反対側にダメージが発生してしまうのを抑制することができる。
【0015】
本発明に係るレーザ加工方法は、対象物にレーザ光を照射することにより、対象物の内部において仮想面に沿って改質領域を形成するレーザ加工方法であって、レーザ光を複数の加工光に分岐し、且つ、複数の加工光の複数の集光点を、レーザ光の照射方向に垂直な方向において互いに異なる箇所に位置させる工程を含み、当該工程では、照射方向におけるレーザ光の非変調光の集光点と対象物のレーザ光入射面とは反対側の反対面との間に、改質領域を構成する複数の改質スポットから延び且つ仮想面に沿って伸展して互いに繋がる亀裂を存在させる。
【0016】
このレーザ加工方法では、上記レーザ加工装置と同様に、非変調光の集光点と反対面との間に存在する亀裂により、対象物の当該反対側に到達しないようにレーザ光の非変調光を遮断することができる。よって、レーザ光の非変調光で対象物の当該反対側にダメージが発生してしまうのを抑制することができる。すなわち、対象物におけるレーザ光入射側と反対側の損傷を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象物におけるレーザ光入射側と反対側の損傷を抑制することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、第1実施形態のレーザ加工装置の構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される空間光変調器の一部分の断面図である。
【
図3】
図3(a)は、対象物の平面図である。
図3(b)は、対象物の断面図である。
【
図4】
図4は、レーザ光の分岐を説明する模式面である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る多焦点加工制御を説明するための対象物の側断面図である。
【
図6】
図6は、一般的な多焦点加工制御を説明するための対象物の側断面図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の剥離加工を評価する評価試験の結果を示す図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の入力受付部の表示例を示す図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態の変形例に係る多焦点加工制御を説明するための対象物の側断面図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る多焦点加工制御を説明するための対象物の側断面図である。
【
図11】
図11は、第2実施態に係る剥離加工を評価する評価試験の結果を示す図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態の変形例に係る多焦点加工制御を説明するための対象物の側断面図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態の他の変形例に係る多焦点加工制御を説明するための対象物の側断面図である。
【
図14】
図14は、第3実施形態に係る多焦点加工制御を説明するための対象物の側断面図である。
【
図15】
図15は、第3実施形態の亀裂を説明するための対象物の平断面図である。
【
図16】
図16は、第3実施形態に係る剥離加工を評価する評価試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
[第1実施形態]
第1実施形態について説明する。
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、支持部2と、光源3と、光軸調整部4と、空間光変調器5と、集光部6と、光軸モニタ部7と、可視撮像部8Aと、赤外撮像部8Bと、移動機構9と、制御部10と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することで対象物11に改質領域12を形成する装置である。以下の説明では、互いに直交する3方向を、それぞれ、X方向、Y方向及びZ方向という。本実施形態では、X方向は第1水平方向であり、Y方向は第1水平方向に垂直な第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0021】
支持部2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルム(図示省略)を吸着することで、対象物11の表面11a及び裏面11bがZ方向と直交するように対象物11を支持する。支持部2は、X方向及びY方向のそれぞれの方向に沿って移動可能である。本実施形態の支持部2には、対象物11の裏面11bをレーザ光入射面側である上側にした状態(表面11aを支持部2側である下側にした状態)で、対象物11が載置される。支持部2は、Z方向に沿って延びる回転軸2Rを有する。支持部2は、回転軸2Rを中心に回転可能である。
【0022】
光源3は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出射する。レーザ光Lは、対象物11に対して透過性を有している。光軸調整部4は、光源3から出射されたレーザ光Lの光軸を調整する。本実施形態では、光軸調整部4は、光源3から出射されたレーザ光Lの進行方向をZ方向に沿うように変更しつつ、レーザ光Lの光軸を調整する。光軸調整部4は、例えば、位置及び角度の調整が可能な複数の反射ミラーによって構成されている。
【0023】
空間光変調器5は、レーザ加工ヘッドH内に配置されている。空間光変調器5は、光源3から出射されたレーザ光Lを変調する。本実施形態では、光軸調整部4からZ方向に沿って下側に進行したレーザ光Lがレーザ加工ヘッドH内に入射し、レーザ加工ヘッドH内に入射したレーザ光LがミラーH1によってY方向に対して角度を成すように水平に反射され、ミラーH1によって反射されたレーザ光Lが空間光変調器5に入射する。空間光変調器5は、そのように入射したレーザ光LをY方向に沿って水平に反射しつつ変調する。
【0024】
集光部6は、レーザ加工ヘッドHの底壁に取り付けられている。集光部6は、空間光変調器5によって変調されたレーザ光Lを、支持部2によって支持された対象物11に集光する。本実施形態では、空間光変調器5によってY方向に沿って水平に反射されたレーザ光LがダイクロイックミラーH2によってZ方向に沿って下側に反射され、ダイクロイックミラーH2によって反射されたレーザ光Lが集光部6に入射する。集光部6は、そのように入射したレーザ光Lを対象物11に集光する。集光部6は、集光レンズユニット61が駆動機構62を介してレーザ加工ヘッドHの底壁に取り付けられることで構成されている。駆動機構62は、例えば圧電素子の駆動力によって、集光レンズユニット61をZ方向に沿って移動させる。
【0025】
なお、レーザ加工ヘッドH内において、空間光変調器5と集光部6との間には、結像光学系(図示省略)が配置されている。結像光学系は、空間光変調器5の反射面と集光部6の入射瞳面とが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。これにより、空間光変調器5の反射面でのレーザ光Lの像(空間光変調器5によって変調されたレーザ光Lの像)が集光部6の入射瞳面に転像(結像)される。レーザ加工ヘッドHの底壁には、X方向において集光レンズユニット61の両側に位置するように1対の測距センサS1,S2が取り付けられている。各測距センサS1,S2は、対象物11の裏面11bに対して測距用の光(例えば、レーザ光)を出射し、裏面11bで反射された測距用の光を検出することで、裏面11bの変位データを取得する。レーザ加工ヘッドHは、照射部を構成する。
【0026】
光軸モニタ部7は、レーザ加工ヘッドH内に配置されている。光軸モニタ部7は、ダイクロイックミラーH2を透過したレーザ光Lの一部を検出する。光軸モニタ部7による検出結果は、例えば、集光レンズユニット61に入射するレーザ光Lの光軸と集光レンズユニット61の光軸との関係を示す。可視撮像部8Aは、レーザ加工ヘッドH内に配置されている。可視撮像部8Aは、可視光Vを出射し、可視光Vによる対象物11の像を画像として取得する。本実施形態では、可視撮像部8Aから出射された可視光VがダイクロイックミラーH2及び集光部6を介して対象物11の裏面11bに照射され、裏面11bで反射された可視光Vが集光部6及びダイクロイックミラーH2を介して可視撮像部8Aで検出される。赤外撮像部8Bは、レーザ加工ヘッドHの側壁に取り付けられている。赤外撮像部8Bは、赤外光を出射し、赤外光による対象物11の像を赤外線画像として取得する。
【0027】
移動機構9は、レーザ加工ヘッドHをX方向、Y方向及びZ方向に移動させる機構を含む。移動機構9は、レーザ光Lの集光点CがX方向、Y方向及びZ方向に移動するように、モータ等の公知の駆動装置の駆動力によりレーザ加工ヘッドHを駆動する。また、移動機構9は、回転軸2Rを中心に支持部2を回転させる機構を含む。移動機構9は、レーザ光Lの集光点Cが回転軸2R回りのθ方向に移動するように、モータ等の公知の駆動装置の駆動力により支持部2を回転駆動する。
【0028】
制御部10は、レーザ加工装置1の各部の動作を制御する。制御部10は、少なくとも空間光変調器5及び移動機構9を制御する。制御部10は、処理部101と、記憶部102と、入力受付部103と、を有している。処理部101は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部101では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。
【0029】
記憶部102は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部103は、オペレータから各種データの入力を受け付けるインターフェース部である。本実施形態では、入力受付部103は、GUI(Graphical User Interface)を構成する。入力受付部103は、後述するように、スライシング位置及びZ方向シフト量の入力を受け付ける。
【0030】
以上のように構成されたレーザ加工装置1では、対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、複数の改質スポット12s及び複数の改質スポット12sから延びる亀裂を含む。
【0031】
空間光変調器5について具体的に説明する。空間光変調器5は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。
図2に示されるように、空間光変調器5は、半導体基板51上に、駆動回路層52、画素電極層53、反射膜54、配向膜55、液晶層56、配向膜57、透明導電膜58及び透明基板59がこの順序で積層されることで、構成されている。
【0032】
半導体基板51は、例えば、シリコン基板である。駆動回路層52は、半導体基板51上において、アクティブ・マトリクス回路を構成している。画素電極層53は、半導体基板51の表面に沿ってマトリックス状に配列された複数の画素電極53aを含んでいる。各画素電極53aは、例えば、アルミニウム等の金属材料によって形成されている。各画素電極53aには、駆動回路層52によって電圧が印加される。
【0033】
反射膜54は、例えば、誘電体多層膜である。配向膜55は、液晶層56における反射膜54側の表面に設けられており、配向膜57は、液晶層56における反射膜54とは反対側の表面に設けられている。各配向膜55,57は、例えば、ポリイミド等の高分子材料によって形成されており、各配向膜55,57における液晶層56との接触面には、例えば、ラビング処理が施されている。配向膜55,57は、液晶層56に含まれる液晶分子56aを一定方向に配列させる。
【0034】
透明導電膜58は、透明基板59における配向膜57側の表面に設けられており、液晶層56等を挟んで画素電極層53と向かい合っている。透明基板59は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜58は、例えば、ITO等の光透過性且つ導電性材料によって形成されている。透明基板59及び透明導電膜58は、レーザ光Lを透過させる。
【0035】
以上のように構成された空間光変調器5では、変調パターンを示す信号が制御部10から駆動回路層52に入力されると、当該信号に応じた電圧が各画素電極53aに印加され、各画素電極53aと透明導電膜58との間に電界が形成される。当該電界が形成されると、液晶層56において、各画素電極53aに対応する領域ごとに液晶分子56aの配列方向が変化し、各画素電極53aに対応する領域ごとに屈折率が変化する。この状態が、液晶層56に変調パターンが表示された状態である。
【0036】
液晶層56に変調パターンが表示された状態で、レーザ光Lが、外部から透明基板59及び透明導電膜58を介して液晶層56に入射し、反射膜54で反射されて、液晶層56から透明導電膜58及び透明基板59を介して外部に出射させられると、液晶層56に表示された変調パターンに応じて、レーザ光Lが変調される。このように、空間光変調器5によれば、液晶層56に表示する変調パターンを適宜設定することで、レーザ光Lの変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等の変調)が可能である。
【0037】
対象物11の構成について具体的に説明する。本実施形態の対象物11は、
図3(a)及び
図3(b)に示されるように、円板状に形成されたウェハである。対象物11は、表面(第1面)11a及び表面11aとは反対側の裏面(第2面)11bを有している。対象物11は、基板21と、基板21のレーザ光入射面側と反対側に設けられたデバイス層(機能素子層)22と、を含む。対象物11は、基板21上にデバイス層22が積層されることで構成されている。
【0038】
基板21は、例えばシリコン基板等の半導体基板である。基板21には、結晶方位を示すノッチ又はオリエンテーションフラットが設けられていてもよい。デバイス層22は、対象物11における表面11a側に設けられている。デバイス層22は、基板21の主面に沿ってマトリックス状に配列された複数の機能素子を含む。デバイス層22は、基板21に蒸着されたTi(チタン)層及びSn(すず)層等の金属層を含む。各機能素子は、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。各機能素子は、複数の層がスタックされて3次元的に構成される場合もある。
【0039】
対象物11には、剥離予定面としての仮想面M1が設定されている。仮想面M1は、改質領域12の形成を予定する面である。仮想面M1は、対象物11のレーザ光入射面である裏面11bに対向する面である。仮想面M1は、裏面11bに平行な面であり、例えば円形状を呈している。仮想面M1は、仮想的な領域であり、平面に限定されず、曲面ないし3次元状の面であってもよい。
【0040】
また、対象物11には、加工用ライン15が設定されている。加工用ライン15は、改質領域12の形成を予定するラインである。加工用ライン15は、対象物11において周縁側から内側に向かって渦巻き状に延在する。換言すると、加工用ライン15は、支持部2の回転軸2R(
図1参照)の位置を中心とする渦巻き状(インボリュート曲線)に延びる。加工用ライン15は、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。仮想面M1及び加工用ライン15の設定は、制御部10において行うことができる。仮想面M1及び加工用ライン15は、座標指定されたものであってもよい。仮想面M1及び加工用ライン15の何れか一方のみが設定されていてもよい。
【0041】
本実施形態のレーザ加工装置1は、対象物11に集光点(少なくとも集光領域の一部)Cを合わせてレーザ光Lを照射することにより、対象物11の内部において仮想面M1に沿って改質領域12を形成する。レーザ加工装置1は、対象物11に剥離加工を含むレーザ加工を施し、半導体デバイスを取得(製造)する。剥離加工は、対象物11の一部分を剥離するための加工である。
【0042】
制御部10は、レーザ光Lが複数の加工光に分岐し、且つ、複数の加工光の複数の集光点がレーザ光Lの照射方向に垂直な方向において互いに異なる箇所に位置するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させる多焦点加工制御(第1制御)を実行する。例えば多焦点加工制御では、空間光変調器5を制御し、空間光変調器5の液晶層56に所定の変調パターン(回折パターンを含む変調パターン等)を表示させる。この状態で、光源3からレーザ光Lを出射させ、集光部6によってレーザ光Lが裏面11b側から対象物11に集光させる。つまり、空間光変調器5によってレーザ光Lを変調させ、変調させたレーザ光Lを集光部6によって裏面11bをレーザ光入射面として対象物11に集光させる。これにより、レーザ光Lが2つの加工光L1,L2に分岐(回折)され、2つの加工光L1,L2の各集光点C1,C2がX方向及び/又はY方向において互いに異なる箇所に位置する。
【0043】
図4に示される一例では、加工進行方向K1(加工用ライン15の延在方向)に対する傾斜方向K2に一列に並ぶ2つの改質スポット12sが仮想面M1上に形成されるように、レーザ光Lが2つの加工光L1,L2へ2分岐される。加工光L1は-1次光であり、加工光は+1次光に対応する。同時形成される複数の改質スポット12sについて、X方向の間隔が分岐ピッチBPxであり、Y方向の間隔が分岐ピッチBPyである。連続する2パルスのレーザ光Lの照射で形成される一対の改質スポット12sについて、加工進行方向K1における間隔がパルスピッチPPである。加工進行方向K1と傾斜方向K2と間の角度が分岐角度αである。
【0044】
多焦点加工制御では、
図5に示されるように、Z方向において、複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2が当該加工光L1,L2の理想集光点C10,C20に対してレーザ光Lの非変調光L0の集光点C0とは反対側に位置するように、レーザ光Lを変調させる。具体的には、多焦点加工制御では、Z方向において、複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2が理想集光点C10,C20に対してZ方向シフト量だけデバイス層22側に位置するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させる。
【0045】
加工光の理想集光点とは、球面収差がなく加工光が対象物11中の1点に集光すると仮定した場合における集光点である。レーザ光Lの非変調光L0とは、空間光変調器5に入射したレーザ光Lのうち、空間光変調器5によって変調されずに空間光変調器5から出射された光である。例えば、空間光変調器5に入射したレーザ光Lのうち透明基板59の外側表面(透明導電膜58とは反対側の表面)で反射された光が非変調光L0となる。非変調光L0の集光点C0は、集光レンズユニット61の焦点位置に対応する。非変調光L0が対象物11内にあるとき、もしくは、対象物11を通過して入射側と反対側に位置するとき(
図9参照)、球面収差等の影響で集光領域はZ方向に伸びてしまうが、その中でも、最もダメージに影響する点であって強度の強い点を、集光点C0と定義している。
【0046】
多焦点加工制御では、Z方向において、非変調光L0の集光点C0が対象物11の内部におけるレーザ光入射側(裏面11b側)に位置するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させる。多焦点加工制御では、入力受付部103で受け付けたスライシング位置及びZ方向シフト量に基づいて、複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2を当該加工光L1,L2の理想集光点C10,C20から仮想面M1に沿った位置までシフトさせる。このような加工光L1,L2の集光点C1,C2のシフトは、空間光変調器5の液晶層56に表示する変調パターンを適宜に制御することで実現できる。
【0047】
制御部10は、レーザ加工ヘッドHからのレーザ光Lの照射に併せて、複数の加工光L1,L2の集光点C1,C2の位置が仮想面M1に沿って移動するように移動機構9により支持部2及びレーザ加工ヘッドHの少なくとも一方を移動させる移動制御(第2制御)を実行する。移動制御では、複数の加工光L1,L2の集光点C1,C2の位置が加工用ライン15に沿って移動するように、支持部2及びレーザ加工ヘッドHの少なくとも一方を移動させる。移動制御では、支持部2を回転させながら、レーザ加工ヘッドH(集光点C1,C2)のX方向における移動を制御する。
【0048】
制御部10は、支持部2の回転量に関する回転情報(以下、「θ情報」ともいう)に基づいて、各種の制御を実行可能である。θ情報は、支持部2を回転させる移動機構9の駆動量から取得されてもよいし、別途のセンサ等により取得されてもよい。θ情報は、公知の種々の手法により取得することができる。制御部10は、入力受付部103の表示を制御する。制御部10は、入力受付部103から入力された各種の設定に基づいて、剥離加工を実行する。
【0049】
次に、レーザ加工装置1によるレーザ加工方法を説明する。ここでは、レーザ加工装置1を用いて対象物11に剥離加工を行う一例を説明する。
【0050】
まず、裏面11bをレーザ光入射面側にした状態で支持部2上に対象物11を載置する。対象物11においてデバイス層22が搭載された表面11a側は、支持基板ないしテープ材が接着されて保護されている。続いて、可視撮像部8Aによって取得された画像(例えば、対象物11の裏面11bの像)に基づいて、レーザ光Lの集光点Cが裏面11b上に位置するように、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッドH(すなわち、集光部6)を移動させるハイトセットを行う。ハイトセットの位置を基準として、レーザ光Lの集光点Cが裏面11bから所定深さに位置するように、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッドHを移動させる。
【0051】
以下、このようにZ方向に沿ってレーザ加工ヘッドHをハイトセットの位置から移動させた後の集光部6の位置を「デフォーカス位置」という。ここでは、デフォーカス位置は、ハイトセット時を基準(デフォーカス位置=0)とし、集光部6が対象物11に近づくほどマイナス(負側)となるパラメータとする。所定深さは、対象物11の仮想面M1に沿って改質領域12を形成可能な深さである。
【0052】
続いて、支持部2を一定の回転速度で回転させながら、光源3からレーザ光Lを照射すると共に、集光点Cが仮想面M1の外縁側から内側にX方向に移動するようにレーザ加工ヘッドHをX方向に沿って移動する。これにより、対象物11の内部において仮想面M1上の加工用ライン15に沿って、回転軸2R(
図1参照)の位置を中心とする渦巻き状に延びる改質領域12を形成する。
【0053】
改質領域12の形成では、多焦点加工制御が実行され、レーザ光Lが複数の加工光L1,L2に分岐され、複数の加工光L1,L2の複数の集光点C1,C2がX方向及び/又はY方向において互いに異なる箇所に位置される。これと共に、複数の加工光L1,L2の集光点C1,C2の位置が、仮想面M1に沿って相対的に移動させられる。これにより、複数の改質スポット12sが仮想面M1に沿って形成される。このとき、一対の測距センサS1,S2のうち加工進行方向K1の前側に位置する一方で取得された裏面11bの変位データに基づいて、レーザ光Lの集光点Cが裏面11bに追従するように集光部6の駆動機構62を動作させる。
【0054】
形成した改質領域12は、複数の改質スポット12sを含む。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。改質領域12は、複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、レーザ光LのパルスピッチPP(対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度をレーザ光Lの繰り返し周波数で除した値)によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0055】
続いて、仮想面M1に渡る改質領域12及び改質領域12の改質スポット12sから延びる亀裂を境界として、対象物11の一部を剥離する。対象物11の剥離は、例えば吸着冶具を用いて行ってもよい。対象物11の剥離は、支持部2上で実施してもよいし、剥離専用のエリアに移動させて実施してもよい。対象物11の剥離は、エアーブロー又はテープ材を利用して剥離してもよい。外部応力だけで対象物11を剥離できない場合には、対象物11に反応するエッチング液(KOH又はTMAH等)で改質領域12を選択的にエッチングしてもよい。これにより、対象物11を容易に剥離することが可能となる。
【0056】
なお、支持部2を一定の回転速度で回転させたが、当該回転速度は変化させてもよい。例えば支持部2の回転速度は、改質スポット12sのパルスピッチPPが一定間隔となるように変化させてもよい。対象物11の剥離面に対して、仕上げの研削又は砥石等の研磨材による研磨を行ってもよい。エッチングにより対象物11を剥離している場合、当該研磨を簡略化してもよい。
【0057】
ところで、一般的な従来の多焦点加工制御では、
図6に示されるように、複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2がその理想集光点C10,C20と一致するように構成される。この場合、レーザ光Lの非変調光L0の漏れ光(対象物11に吸収されない光)の影響により、デバイス層22が損傷する問題が懸念される。特に、剥離加工では、このような問題は顕著になるおそれがある。これは、剥離加工では、デバイス層22のアクティブエリア上にもレーザ光Lが照射されることから、非変調光L0の漏れ光は、デバイス層22の直下ダメージに繋がりやすく、ひいてはデバイス特性悪化に繋がりやすいためである。
【0058】
この点、本実施形態の多焦点加工制御によれば、Z方向において複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2が、当該加工光L1,L2の理想集光点C10,C20に対してレーザ光Lの非変調光L0の集光点C0とは反対側に位置する。具体的には、複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2が、理想集光点C10,C20に対してZ方向シフト量だけデバイス層22に接近した位置に位置する。デフォーカス位置が、理想集光点C10,C20を仮想面M1に沿って位置させる場合(後述の比較例参照)に比べて、Z方向シフト量だけデバイス層22から離れる側に位置する。非変調光L0の集光点C0が、理想集光点C10,C20を仮想面M1に沿って位置させる場合に比べて、Z方向シフト量だけデバイス層22から離れる側に位置する。
【0059】
したがって、レーザ加工装置1及びレーザ加工方法によれば、結果的に、レーザ光Lの非変調光L0の集光点C0を、対象物11におけるデバイス層22から遠ざけることができる。デバイス層22に至った当該漏れ光のエネルギ密度を抑えることができる。非変調光L0の集光によりデバイス層22に及ぶ悪影響を低減することができる。非変調光L0の集光で対象物11のデバイス層22にダメージが発生しまうのを抑制することができる。すなわち、対象物11におけるデバイス層22(レーザ光入射側と反対側)の損傷を抑制することが可能となる。
【0060】
レーザ加工装置1の多焦点加工制御では、Z方向において非変調光L0の集光点C0が対象物11の内部におけるレーザ光入射側(裏面11b側)に位置するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させる。換言すると、レーザ加工方法では、Z方向において非変調光L0の集光点C0を、対象物11の内部におけるレーザ光入射側に位置させる。これにより、非変調光L0の集光点C0を対象物11のデバイス層22層から効果的に遠ざけることができる。
【0061】
レーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、対象物11は、基板21及びデバイス層22を含む。対象物11のレーザ光入射側と反対側にはデバイス層22が設けられることから、対象物11のレーザ光入射側と反対側の損傷を抑制する効果として、対象物11におけるデバイス層22の損傷を抑制する効果が奏される。当該効果は特に有効である。
【0062】
レーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、複数の加工光L1,L2の集光点C1,C2の位置が仮想面M1に沿って移動するように、移動機構9により支持部2及びレーザ加工ヘッドHの少なくとも一方を移動させる。このように複数の加工光L1,L2の集光点C1,C2の位置を仮想面M1に沿って移動させることで、仮想面M1に沿った改質領域12の形成を具体的に実現できる。
【0063】
なお、レーザ加工装置1の多焦点加工制御では、Z方向において非変調光L0の集光点C0が対象物11の外部であって対象物11よりも集光部6側に位置するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させてもよい。換言すると、レーザ加工方法では、Z方向において非変調光L0の集光点C0を、対象物11の外部であって対象物11よりも集光部6側に位置させてもよい。これにより、非変調光L0の集光点C0を対象物11のデバイス層22から効果的に遠ざけることができる。
【0064】
図7は、第1実施形態に係る剥離加工を評価する評価試験の結果を示す図である。図中において、比較例は、例えば
図6に示される一般的な多焦点加工制御に係る剥離加工の例である。実施例1は、上述した第1実施形態の多焦点加工制御に係る剥離加工の例である。Z方向シフト量は、絶対値を示している。ダメージ評価写真は、レーザ加工後の対象物11(デバイス層22)を表面11aから見た写真図である。共通加工条件として、分岐ピッチBPxは100μm、分岐ピッチBPyは60μm、レーザ光Lの出力は3.7W、パルスエネルギ(分岐で20%ロスを想定した換算値)は18.5μJ、パルスピッチPPは6.25μm、周波数は80kHz、パルス幅は700nsとしている。対象物11は、表面11a及び裏面11bの面方位が[100]のウェハである。図中の写真図では、左右に延びる加工用ラインに沿ってレーザ光Lがスキャンされている。
【0065】
図7に示されるように、比較例では、非変調光L0の漏れ光に起因したダメージが、加工用ラインに沿って断続的にデバイス層22に表れていることがわかる(図中の点線状のライン参照)。これに対して、実施例1では、当該ダメージの回避を実現できることがわかる。なお、Z方向シフト量が5μm、10μm及び15μmでは、ダメージの回避を実現することは困難であるという知見も得られた。
【0066】
図8は、入力受付部103の表示例を示す図である。
図8に示されるように、入力受付部103は、オペレータから各種データの入力を受け付ける。図中において、「SS1」は加工光L1を示し、「SS2」は加工光L2を示す。オペレータは、「分岐数」及び「シフト方向」、並びに、各加工光L1,L2に関する数値等を入力受付部103を介して入力することができる。
【0067】
図8に示される例では、「分岐数」に「2」が入力されており、「シフト方向」に「Z方向」が入力されている。つまり、レーザ光Lが2つの加工光L1,L2に分岐された状態で、Z方向シフトのレーザ加工方法が選択されている。Z方向シフトのレーザ加工方法は、上述したように、複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2が、理想集光点C10,C20に対してZ方向シフト量だけデバイス層22に接近した位置に位置するレーザ加工方法である。
【0068】
スライシング位置は、対象物11における仮想面M1の位置(裏面11bからの距離)を示す。スライシング位置は、第1データに対応する。Z方向シフト量は、加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2と理想集光点C10,C20との距離を示す。Z方向シフト量は、第2データに対応する。「球面収差」に入力された「基準」は、各加工光L1,L2,L3の球面収差の補正量を示す。なお、入力受付部103では、Z方向シフト量が一定値以上となるようにその入力が制限されてもよい。
【0069】
このように、レーザ加工装置1では、入力受付部103で受け付けたスライシング位置及びZ方向シフト量を含む各種データに基づいて、複数の加工光L1,L2の集光点C1,C2を理想集光点C10,C20からシフトさせることができる。この場合、オペレータは、少なくともスライシング位置及びZ方向シフト量について所望に設定することができる。
【0070】
図9は、第1実施形態の変形例に係る多焦点加工制御を説明するための対象物11の側断面図である。
図9に示されるように、多焦点加工制御では、Z方向において、複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2が非変調光L0の集光点C0に対して当該加工光L1,L2の理想集光点C10,C20とは反対側に位置するように、レーザ光Lを変調させてもよい。このような変形例に係る多焦点加工制御では、Z方向において、複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2が理想集光点C10,C20に対してZ方向シフト量だけ集光部6に近づく側に位置するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させる。
【0071】
この変形例においても、結果的に、非変調光L0の集光点C0を対象物11におけるデバイス層22から遠ざけることができる。デバイス層22に至った非変調光L0の漏れ光のエネルギ密度を抑えることができ、対象物11におけるデバイス層22(レーザ光入射側と反対側)の損傷を抑制することが可能となる。
【0072】
変形例に係る多焦点加工制御では、Z方向において非変調光L0の集光点C0が対象物11の外部であって対象物11よりも集光部6側とは反対側に位置するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させている。換言すると、変形例に係るレーザ加工方法では、Z方向において非変調光L0の集光点C0を、対象物11の外部であって対象物11よりも集光部6側とは反対側に位置させている。これにより、非変調光L0の集光点C0を対象物11のデバイス層22層から効果的に遠ざけることができる。
【0073】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。第2実施形態の説明では、第1実施形態と異なる点について説明し、重複する説明は省略する。
【0074】
第2実施形態の多焦点加工制御では、
図10に示されるように、レーザ光Lが3つの加工光L1,L2,L3に分岐(回折)され且つそれらの各集光点C1,C2,C3がX方向及び/又はY方向において互いに異なる箇所に位置するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させる。加工光L3は0次光である。
【0075】
多焦点加工制御では、Z方向におけるレーザ光Lの非変調光L0の集光点C0と表面11a(レーザ光入射面とは反対側の反対面)との間に、加工光L3の集光による改質領域12(改質スポット12m)が存在するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させる。つまり、多焦点加工制御では、レーザ光Lが分岐されて成る加工光L1~L3のうちの加工光L1,L2の集光により改質スポット12mを形成すると同時に、0次光である加工光L3の集光により、Z方向における非変調光L0の集光点C0と表面11aとの間(集光点C0の直下)に改質スポット12mを形成させる。
【0076】
0次光の加工光L3の出力は、加工光L1~L3の出力の中で最も小さい。0次光の加工光L3の集光による改質スポット12mは、加工光L1,L2の集光による改質スポット12sよりも小さい。対象物11の仮想面M1に沿う剥離に対する寄与度について、改質スポット12mは改質スポット12sよりも小さい。例えば、改質スポット12sに係る加工光L1,L2の出力(エネルギ)は18.5μJであり、それより小さい改質スポット12mに係る加工光L3の出力(エネルギ)は8μJである。
【0077】
以上、第2実施形態のレーザ加工装置及びレーザ加工方法では、レーザ光Lを複数の加工光L1~L3に分岐し、且つ、複数の加工光L1~L3の複数の集光点C1~C3をX方向及び/又はY方向において互いに異なる箇所に位置させる。このとき、非変調光L0の集光点C0と対象物11の表面11a(デバイス層22)との間には、改質領域12が存在する。この改質領域12により、対象物11の表面11a側のデバイス層22に到達しないように非変調光L0を遮断することができる。例えば、加工光L3の集光点C3及びその周辺で温度上昇が発生し、吸収が始まった時点から、非変調光L0の漏れ光も、集光点C3及びその周辺で吸収される。これにより、デバイス層22への非変調光L0の漏れ量を、影響の無い範囲に抑制することができる。非変調光L0によりデバイス層22にダメージが発生してしまうのを抑制することができる。すなわち、対象物11におけるデバイス層22の損傷を抑制することが可能となる。
【0078】
第2実施形態のレーザ加工装置及びレーザ加工方法では、複数の加工光L1~L3に含まれる0次光の加工光L3の集光により、Z方向における非変調光L0の集光点C0と表面11aとの間に改質スポット12mを形成させる。これにより、改質スポット12sと同時に形成する改質スポット12mを利用して、非変調光L0を対象物11のデバイス層22に到達しないように遮断することができる。
【0079】
第2実施形態のレーザ加工装置及びレーザ加工方法では、0次光である加工光L3の出力は、複数の加工光L1~L3の出力の中で最も小さい。これにより、0次光である加工光L3の集光による改質領域12を、仮想面M1に沿った対象物11の剥離に寄与しにくくすることが可能となる。
【0080】
図11は、第2実施形態に係る剥離加工を評価する評価試験の結果を示す図である。図中において、比較例は、例えば
図6に示される一般的な多焦点加工制御に係る剥離加工の例である。実施例2は、上述した第2実施形態の多焦点加工制御に係る剥離加工の例である。赤外線画像は、赤外撮像部8Bで取得された画像であって仮想面M1の位置における画像である。ダメージ評価写真は、レーザ加工後の対象物11(デバイス層22)を表面11aから見た写真図である。図中の画像及び写真図では、左右に延びる加工用ラインに沿ってレーザ光Lがスキャンされている。
図11に示されるように、比較例では、非変調光L0の漏れ光に起因したダメージが、加工用ラインに沿って断続的にデバイス層22に表れていることがわかる(点線状のライン参照)。これに対して、実施例2では、当該ダメージの回避を実現できることがわかる。
【0081】
図12は、第2実施形態の変形例に係る多焦点加工制御を説明するための対象物11の側断面図である。
図11に示されるように、多焦点加工制御では、0次光の加工光L3の出力は、加工光L1,L2の出力(複数の加工光L1~L3のうち0次光の加工光L3以外の少なくとも何れか)の出力と同じであってもよい。これにより、0次光である加工光L3の集光による改質領域12(改質スポット12m)を、仮想面M1に沿った対象物11の剥離に利用することが可能となる。
【0082】
図13は、第2実施形態の他の変形例に係る多焦点加工制御を説明するための対象物11の側断面図である。
図11に示されるように、多焦点加工制御では、Z方向における非変調光L0の集光点C0と表面11aとの間に、既に形成されている改質領域12(図示する例では改質スポット12r)が位置するように、空間光変調器5によりレーザ光Lを変調させ、加工光L1,L2の集光点C1,C2をレーザ光Lの照射方向に垂直な方向に移動させてもよい。
【0083】
例えば多焦点加工制御では、レーザ光Lを2分岐して加工光L1,L2をパルス照射する際、それより前の加工光L1(又は加工光L2)のパルス照射で既に形成されている改質領域12の直上に非変調光L0の集光点C0が位置するように、空間光変調器5により加工光L1,L2の集光点C1,C2をX方向及び/又はY方向に移動させてもよい。これにより、既に形成されている改質領域12を利用して、非変調光L0をデバイス層22に到達しないように物理的に遮断することができる。
【0084】
第2実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法は、上述した第1実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法を含んでいてもよい。つまり、第2実施形態では、Z方向において加工光L1,L2の集光点C1,C2を、理想集光点C10,C20に対して非変調光L0の集光点C0とは反対側、又は、非変調光L0の集光点C0に対して理想集光点C10,C20とは反対側に位置させて、結果的に、非変調光L0の集光点C0をデバイス層22(レーザ光入射側と反対側)から遠ざけてもよい。
【0085】
[第3実施形態]
第3実施形態について説明する。第3実施形態の説明では、第1実施形態と異なる点について説明し、重複する説明は省略する。
【0086】
第3実施形態の多焦点加工制御では、
図14に示されるように、Z方向における非変調光L0の集光点C0と対象物11の表面11a(レーザ光入射面の反対面)との間に、改質スポット12sから延び且つ仮想面M1に沿って伸展して互いに繋がる亀裂FCが存在するように、レーザ光Lを変調させる。
【0087】
亀裂FCは、仮想面M1に沿って2次元状に広がるように互いに繋がる(
図15参照)。亀裂FCは、加工用ライン15に沿う方向及び加工用ライン15と交差(直交)する方向に伸展して互いに繋がる。亀裂FCは、剥離亀裂である。亀裂FCは、赤外撮像部8Bで取得された仮想面M1の位置における赤外線画像上において、左右上下に伸展し、複数の加工用ライン15を跨いで繋がっている。亀裂FCは、加工状態がスライシングフルカット状態の場合に実現し得る。スライシングフルカット状態は、改質スポット12sから亀裂FCが延びている状態であって、当該赤外線画像上において改質スポット12sが確認できない(当該亀裂FCにより形成された空間ないし隙間が確認される)状態である(
図16の実施例3の赤外線画像を参照)。
【0088】
このような亀裂FCを実現し得る加工条件は、加工状態がスライシングフルカット状態になるように、公知技術に基づき各種の加工パラメータが適宜設定された条件(スライシングフルカット条件)である。スライシングフルカット条件としては、例えば、レーザ光Lの出力は3.7W、パルスエネルギ(分岐で20%ロスを想定した換算値)は18.5μJ、パルス幅は700ns、分岐ピッチBPx,BPyは10μ~30μm(特に分岐ピッチBPyは30μm)、加工速度は800mm/s、パルスピッチPPは10μm、パルス幅は700nsである。多焦点加工制御では、スライシングフルカット条件を加工条件としたレーザ加工を実行させる。
【0089】
以上、第3実施形態のレーザ加工装置及びレーザ加工方法では、レーザ光Lを複数の加工光L1~L3に分岐し、且つ、複数の加工光L1~L3の複数の集光点C1~C3をX方向及び/又はY方向において互いに異なる箇所に位置させる。このとき、レーザ光Lの非変調光L0の集光点C0と対象物11の表面11aとの間に、改質スポット12sから延び且つ仮想面M1に沿って伸展して互いに繋がる亀裂FCが存在する。この亀裂FCにより、対象物11における表面11a側のデバイス層22に到達しないように非変調光L0を遮断することができる。よって、非変調光L0で対象物11のデバイス層22にダメージが発生してしまうのを抑制することができる。すなわち、対象物11におけるデバイス層22の損傷を抑制することが可能となる。
【0090】
第3実施形態のレーザ加工装置及びレーザ加工方法では、複数の改質スポット12sから延びる亀裂FCは、仮想面M1に沿って2次元状に広がるように互いに繋がっている。このような亀裂FCにより、非変調光L0を効果的に遮断することができる。
【0091】
第3実施形態のレーザ加工装置及びレーザ加工方法では、複数の改質スポット12sから延びる亀裂FCは、加工用ライン15に沿う方向及び加工用ライン15と交差する方向に伸展して互いに繋がっている。このような亀裂FCにより、非変調光L0を効果的に遮断することができる。
【0092】
なお、第3実施形態では、亀裂FCが伸展している範囲(
図15の半透明範囲を参照)であれば、その直上の任意の位置に非変調光L0の集光点C0を位置するように、空間光変調器5により加工光L1,L2の集光点C1,C2をX方向及び/又はY方向に移動させてもよい。つまり、Z方向における非変調光L0の集光点C0と表面11aとの間に亀裂FCが存在するように、加工光L1,L2の集光点C1,C2をレーザ光Lの照射方向に垂直な方向に移動させてもよい。これにより、Z方向における非変調光L0の集光点C0と表面11aとの間に亀裂FCを確実に位置させることができる。
【0093】
図16は、第3実施形態に係る剥離加工を評価する評価試験の結果を示す図である。図中において、比較例は、例えば
図6に示される一般的な多焦点加工制御に係る剥離加工の例である。実施例3は、上述した第3実施形態の多焦点加工制御に係る剥離加工の例である。赤外線画像は、赤外撮像部8Bで取得された画像であって仮想面M1の位置における画像である。ダメージ評価写真は、レーザ加工後の対象物11(デバイス層22)を表面11aから見た写真図である。図中の画像及び写真図では、左右に延びる加工用ラインに沿ってレーザ光Lがスキャンされている。
図16に示されるように、比較例では、非変調光L0の漏れ光に起因したダメージが、加工用ラインに沿って断続的にデバイス層22に表れていることがわかる(図中の点線状のライン参照)。これに対して、実施例3では、当該ダメージの回避を実現できることがわかる。
【0094】
第3実施形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法は、上述した第1実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法を含んでいてもよい。つまり、第3実施形態では、Z方向において加工光L1,L2の集光点C1,C2を、理想集光点C10,C20に対して非変調光L0の集光点C0とは反対側、又は、非変調光L0の集光点C0に対して理想集光点C10,C20とは反対側に位置させて、結果的に、非変調光L0の集光点C0をデバイス層22(レーザ光入射側と反対側)から遠ざけてもよい。これに代えてもしくは加えて、第3実施形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法は、上述した第2実施形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法を含んでいてもよい。つまり、第3実施形態では、非変調光L0の集光点C0と対象物11の表面11a(デバイス層22)との間に改質領域12を存在させてもよい。
【0095】
[変形例]
以上、本発明の一態様は、上述した実施形態に限定されない。
【0096】
上記実施形態では、レーザ光Lの分岐数(加工光の数)は限定されず、上述した2分岐及び3分岐だけでなく、4分岐以上であってもよい。上記実施形態では、複数の加工光それぞれの集光点の間隔は、等しくてもよいし、異なっていてもよい。上記実施形態では、レーザ加工ヘッドH及び支持部2の双方を移動機構9により移動させたが、これらの少なくとも一方を移動機構9により移動させてもよい。
【0097】
上記実施形態では、対象物11におけるレーザ光入射側と反対側のデバイス層22の損傷を抑制する効果を奏するが、デバイス層22の損傷を抑制する効果に限られない。上記実施形態によれば、対象物11におけるレーザ光入射面の反対面である表面11aの損傷を抑制することができる。上記実施形態によれば、対象物11における表面11a側の部分の損傷を抑制することができる。要は、上記実施形によれば、対象物11におけるレーザ光入射側と反対側の損傷を抑制することができる。
【0098】
上記実施形態では、加工用ラインは渦巻き状に限定されず、種々の形状の加工用ラインが対象物11に設定されていてもよい。加工用ラインは、例えば、所定方向に沿って並ぶ直線状の複数のラインを含んでいてもよい。直線状の複数のラインは、その一部又は全部が繋がっていてもよいし、繋がっていなくてもよい。上記実施形態は、照射部として複数のレーザ加工ヘッドを備えていてもよい。上記実施形態では、空間光変調器5は反射型の空間光変調器に限定されず、透過型の空間光変調器を採用してもよい。
【0099】
上記実施形態では、対象物11の種類、対象物11の形状、対象物11のサイズ、対象物11が有する結晶方位の数及び方向、並びに、対象物11の主面の面方位は特に限定されない。上記実施形態では、対象物11は、結晶構造を有する結晶材料を含んで形成されていてもよいし、これに代えてもしくは加えて、非結晶構造(非晶質構造)を有する非結晶材料を含んで形成されていてもよい。結晶材料は、異方性結晶及び等方性結晶の何れであってもよい。例えば対象物11は、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、LiTaO3、ダイアモンド、GaOx、サファイア(Al2O3)、ガリウム砒素、リン化インジウム、ガラス、及び無アルカリガラスの少なくとも何れかで形成された基板を含んでいてもよい。
【0100】
上記実施形態では、改質領域12は、例えば対象物11の内部に形成された結晶領域、再結晶領域、又は、ゲッタリング領域であってもよい。結晶領域は、対象物11の加工前の構造を維持している領域である。再結晶領域は、一旦は蒸発、プラズマ化あるいは溶融した後、再凝固する際に単結晶あるいは多結晶として凝固した領域である。ゲッタリング領域は、重金属等の不純物を集めて捕獲するゲッタリング効果を発揮する領域であり、連続的に形成されていてもよいし、断続的に形成されていてもよい。上記実施形態は、アブレーション等の加工へ適用されてもよい。
【0101】
上記第1実施形態では、複数の加工光L1,L2それぞれの集光点C1,C2を理想集光点C10,C20に対してZ方向シフト量だけデバイス層22に接近させるZ方向シフトの結果、Z方向において非変調光L0の集光点C0が対象物11の内部におけるレーザ光入射側に位置しているが、これに限定されない。Z方向シフトの結果、Z方向において非変調光L0の集光点C0が対象物11の内部における中央部分に位置していてもよい。
【0102】
上述した実施形態及び変形例における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。また、上述した実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1…レーザ加工装置、2…支持部、5…空間光変調器、6…集光部、9…移動機構、10…制御部、11…対象物、11a…表面(レーザ光入射面の反対面)、11b…裏面(レーザ光入射面)、12…改質領域、12s,12m,12r…改質スポット、15…加工用ライン、21…基板、22…デバイス層(機能素子層)、103…入力受付部、C0…非変調光の集光点、C1,C2,C3…加工光の集光点、C10,C20…理想集光点、FC…亀裂、H…レーザ加工ヘッド、L…レーザ光、L0…非変調光、L1,L2…加工光、L3…加工光(0次光)、M1…仮想面。