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特許7438078鋼材用水性被覆剤、被膜、鋼材の被覆方法、及び鋼材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】鋼材用水性被覆剤、被膜、鋼材の被覆方法、及び鋼材
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20240216BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20240216BHJP
   C09D 123/08 20060101ALI20240216BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240216BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240216BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20240216BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240216BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20240216BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D133/02
C09D123/08
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/41
C09D5/02
C09D5/08
C23C26/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020176150
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2022067441
(43)【公開日】2022-05-06
【審査請求日】2023-07-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 基寛
(72)【発明者】
【氏名】東新 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】森下 敦司
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 哲也
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-144208(JP,A)
【文献】国際公開第2007/144951(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/152187(WO,A1)
【文献】特開2003-25516(JP,A)
【文献】特開2003-227079(JP,A)
【文献】特開2013-180493(JP,A)
【文献】特開2013-208889(JP,A)
【文献】特開2014-181321(JP,A)
【文献】特開2014-184708(JP,A)
【文献】特開2012-057179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00- 3/12
C09D 1/00- 10/00
C09D 15/00- 17/00
C09D101/00-201/10
C23C 24/00- 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ、メジアン径が20~100nmであり、かつ、シラノール基及びアルコキシシリル基のうち少なくともいずれかを有する、ポリウレタン樹脂粒子(A-1)及びエチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)と、
モード径が5~20nmである酸化ケイ素粒子(B)と、
有機チタン化合物(C)と、
樹脂及び界面活性剤のうち、少なくともいずれかで被覆されたフタロシアニン顔料(F)と、
リン酸化合物、チオカルボニル化合物、酸化ニオブ及びグアニジン化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上の防錆剤(G)と、を有し、
前記フタロシアニン顔料(F)の含有量は、前記ポリウレタン樹脂粒子(A-1)と、前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、0.01~10質量部であり、一次粒子径は、0.01~1.0μmである、鋼材用水性被覆剤。
【請求項2】
前記フタロシアニン顔料(F)におけるフタロシアニンは、金属フタロシアニン及び無金属フタロシアニンのうち少なくともいずれかであり、
前記金属フタロシアニンの金属は、Ca、Ba、Cd、Na、Cu、Ni、Co、Fe、Mg、Zn、Al、Mn、V、Ti及びSnのうちいずれかである、請求項1に記載の鋼材用水性被覆剤。
【請求項3】
20℃粘度が100mPa・s以下である、請求項1又は2に記載の鋼材用水性被覆剤。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂粒子(A-1)と、前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)との質量比は、(A-1):(A-2)=20:80~90:10である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤。
【請求項5】
モード径が70~200nmである酸化ケイ素粒子(E)を更に有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤。
【請求項6】
前記防錆剤(G)の含有量は、前記ポリウレタン樹脂粒子(A-1)と、前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、それぞれ、
前記リン酸化合物はリン酸根換算で0.01~5質量部であり、
前記チオカルボニル化合物は0.1~10質量部であり、
前記酸化ニオブはNb 換算で0.1~5質量部であり、
前記グアニジン化合物は0.1~5質量部である、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤により形成され、彩度Cが2.0以上50以下である、被膜。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤を鋼材表面に塗布して被膜を形成する、鋼材の被覆方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の鋼材用水性被覆剤により、表面に被膜が形成され、60°光沢度が50%以上である、鋼材。
【請求項10】
前記鋼材は、溶融亜鉛めっき鋼及びアルミニウム含有亜鉛めっき鋼のうちいずれかである、請求項に記載の鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材用水性被覆剤、被膜、鋼材の被覆方法、及び鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材やめっき鋼材に対して耐食性を付与する処理として、クロメート処理が知られている。クロメート処理は、処理後の鋼材表面が金属光沢を維持しながら黄色を帯びている。一方、クロメート処理に使用される6価クロムは毒性を有することから、クロムを含有しないノンクロム処理も近年使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-190121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ノンクロム処理を施した鋼材表面はクロメート処理のような着色は無く、無色透明であるため、処理の有無を目視で判別することは困難である。処理の有無を確認するため、鋼材表面の分析やマーキング装置を用いる方法があるが、工程追加によるコストアップの問題がある。
【0005】
このため、ノンクロム処理を施した鋼材表面を着色することが考えられる。この際に、鋼材に対して鋼材特有の金属光沢を維持しながら、鮮やかな色調を有する意匠性に優れた外観を鋼材表面に付与できることが好ましい。しかし、ノンクロム処理において鋼材を着色するため、処理剤に単に顔料を添加するのみでは、形成される被膜の耐食性や耐候性等の性能が低下する問題があった。また、顔料が塗膜中で凝集し、発色が不鮮明で金属光沢にも乏しい外観となる問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、形成される被膜の耐食性及び耐候性を維持し、かつ、金属表面に好ましい意匠性を付与できる鋼材用水性被覆剤、被膜、鋼材の被覆方法、及び鋼材を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐食性及び耐候性を維持し、かつ、金属表面に好ましい意匠性を付与できる鋼材用の被膜、鋼材の被覆方法及び鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、それぞれ、メジアン径が20~100nmであり、かつ、シラノール基及びアルコキシシリル基のうち少なくともいずれかを有する、ポリウレタン樹脂粒子(A-1)及びエチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)と、モード径が5~20nmである酸化ケイ素粒子(B)と、有機チタン化合物(C)と、樹脂及び界面活性剤のうち、少なくともいずれかで被覆されたフタロシアニン顔料(F)と、リン酸化合物、チオカルボニル化合物、酸化ニオブ及びグアニジン化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上の防錆剤(G)と、を有し、前記フタロシアニン顔料(F)の含有量は、前記ポリウレタン樹脂粒子(A-1)と、前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、0.01~10質量部であり、一次粒子径は、0.01~1.0μmである、鋼材用水性被覆剤に関する。
【0008】
(1)の発明によれば、形成される被膜の耐食性及び耐候性を維持し、かつ、金属表面に好ましい意匠性を付与できる鋼材用水性被覆剤を提供できる。
【0009】
(2) 前記フタロシアニン顔料(F)におけるフタロシアニンは、金属フタロシアニン及び無金属フタロシアニンのうち少なくともいずれかであり、前記金属フタロシアニンの金属は、Ca、Ba、Cd、Na、Cu、Ni、Co、Fe、Mg、Zn、Al、Mn、V、Ti及びSnのうちいずれかである、(1)に記載の鋼材用水性被覆剤。
【0010】
(2)の発明によれば、形成される被膜の耐食性及び耐候性を維持する効果がより好ましく得られ、金属表面に付与された好ましい意匠性を維持できる。
【0011】
(3) 20℃粘度が100mPa・s以下である、(1)又は(2)に記載の鋼材用水性被覆剤。
【0012】
(3)の発明によれば、鋼材用水性被覆剤の好ましい塗装性が得られ、塗装ムラを無くし、金属表面に好ましい意匠性を付与できる。
【0013】
(4) 前記ポリウレタン樹脂粒子(A-1)と、前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)との質量比は、(A-1):(A-2)=20:80~90:10である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤。
【0014】
(4)の発明によれば、耐溶剤性及び耐アルカリ性に優れた被膜を形成できる。
【0015】
(5) モード径が70~200nmである酸化ケイ素粒子(E)を更に有する、(1)~(4)のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤。
【0016】
(5)の発明によれば、形成される被膜の硬度を向上でき、摩擦係数を好適な範囲に調整できるため、被膜の耐アブレージョン性を向上できる。
【0017】
(6) 前記防錆剤(G)の含有量は、前記ポリウレタン樹脂粒子(A-1)と、前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、それぞれ、
前記リン酸化合物はリン酸根換算で0.01~5質量部であり、
前記チオカルボニル化合物は0.1~10質量部であり、
前記酸化ニオブはNb 換算で0.1~5質量部であり、
前記グアニジン化合物は0.1~5質量部である、(1)~(5)のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤。
) (1)~()のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤により形成され、彩度Cが2.0以上50以下である、被膜。
【0018】
)の発明によれば、鋼材用水性被覆剤により形成される被膜によって、鋼材に好ましい意匠性を付与できる。
【0019】
) (1)~()のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤を鋼材表面に塗布して被膜を形成する、鋼材の被覆方法。
【0020】
)の発明によれば、鋼材表面に耐食性及び耐候性が維持され、かつ金属表面に好ましい意匠性を付与できる被膜を形成できる。
【0021】
) (1)~()のいずれか一項に記載の鋼材用水性被覆剤により、表面に被膜が形成され、60°光沢度が50%以上である、鋼材。
【0022】
(9)の発明によれば、好ましい意匠性が付与された鋼材を提供できる。
【0023】
10) 前記鋼材は、溶融亜鉛めっき鋼及びアルミニウム含有亜鉛めっき鋼のうちいずれかである、()に記載の鋼材。
【0024】
10)の発明によれば、好ましい意匠性が付与された鋼材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0026】
<鋼材用水性被覆剤>
本実施形態に係る鋼材用水性被覆剤は、ポリウレタン樹脂粒子(A-1)(以下、単に「樹脂粒子(A-1)」と記載する場合がある)と、エチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)(以下、単に「樹脂粒子(A-2)」と記載する場合がある)と、酸化ケイ素粒子(B)と、有機チタン化合物(C)と、フタロシアニン顔料(F)と、を有する。また、ワックス粒子(D)と、酸化ケイ素粒子(E)と、を含んでいてもよい。
【0027】
ポリウレタン樹脂粒子(A-1)は、メジアン径が20~100nmであり、かつ、シラノール基及びアルコキシシリル基のうち少なくともいずれかを有する。樹脂粒子(A-1)としては、特に限定されないが、例えばポリカーボネート系ポリウレタンが耐溶剤性、耐アルカリ性に優れる点で好ましい。上記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂粒子は、例えば以下の方法で得られる。まず、イソシアネート基含有化合物、ポリカーボネートポリオール、低分子量ポリオール、及び活性水素基と親水性基とを有する化合物を反応させてポリウレタンプレポリマーを製造する。次に、上記親水性基を中和剤により中和する。次に、上記中和した中和プレポリマーを、活性水素基を含有するアルコキシシラン類、及びアミン類を含んだ水中に分散させ、鎖延長させることで、シラノール基及びアルコキシシリル基のうち少なくともいずれかを有する、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂粒子が得られる。
【0028】
上記イソシアネート基含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート若しくはその混合物、4,4-トルイジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0029】
上記ポリカーボネートポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール-A、及び水添ビスフェノール-Aからなる群から選ばれる、1種又は2種以上のグリコールと、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等と、を反応させることにより得られるものが挙げられる。
【0030】
上記低分子ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等のグリコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0031】
上記活性水素基と親水性基とを有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエタンスルホン酸等のスルホン酸基含有化合物、若しくはこれらの誘導体、又は2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸等のカルボキシ基含有化合物、若しくはこれらの誘導体が挙げられる。上記ポリウレタン樹脂粒子の製造の際には、これらの化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記カルボキシ基又はスルホン酸基等の親水性基は、ポリウレタンプレポリマーを水中に良好に分散させるために、中和剤を用いて中和することが好ましい。
【0032】
上記中和剤としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級アミン、又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記活性水素基を含有するアルコキシシラン類としては、特に限定されないが、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有シラン類、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類が挙げられる。
【0034】
上記鎖延長に用いるアミン類としては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン等のジアミン類、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類、ヒドラジン類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記イソシアネート基含有化合物と、ポリオール等の活性水素化合物からポリウレタンプレポリマーを得る反応は、例えば、反応温度30~100℃で行われることが好ましい。上記反応は、有機溶剤の存在下で行われてもよいし、非存在下であってもよい。上記有機溶剤としては、比較的水への溶解度が高い有機溶剤が好ましく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0036】
上記中和した中和プレポリマーの水中への分散方法としては、特に限定されないが、例えば、ホモジナイザー、ミキサー等を用いる方法が挙げられる。この際の温度は、例えば室温以上、70℃以下程度が好ましい。
【0037】
ポリウレタンプレポリマーを得る反応の際、有機溶剤を用いた場合には、必要に応じて有機溶剤を減圧下で蒸留して除いてもよい。
【0038】
エチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子(A-2)は、メジアン径が20~100nmであり、かつ、シラノール基及びアルコキシシリル基のうち少なくともいずれかを有する。樹脂粒子(A-2)としては、特に限定されないが、例えば、エチレン-メタクリル酸共重合樹脂を、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、及びアミンのうち、少なくともいずれかで中和、水分散化させた樹脂液に、エポキシ基含有アルコキシシラン類を反応させて得られる樹脂粒子が、微粒子で、高性能被膜を形成しうるという点で好ましい。
【0039】
上記エチレン-メタクリル酸共重合樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エチレン含有量が70~90質量%、メタクリル酸の含有量が10~30質量%であることが好ましい。上記エチレン-メタクリル酸共重合樹脂には、エチレンとメタクリル酸以外のその他の単量体が含まれていてもよいが、上記その他の単量体の含有量は10質量%以下であることが好ましい。上記エチレン-メタクリル酸共重合樹脂の製造方法としては、特に制限されず、例えば、高圧法低密度ポリエチレンの製造装置による重合等の公知の方法によって製造することができる。
【0040】
上記エポキシ基含有アルコキシシラン類は、特に限定されないが、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記エポキシ基含有アルコキシシラン類は、上記水分散化させたエチレン-メタクリル酸共重合樹脂の固形分100質量部に対して、0.1~20質量部を用いて反応させることが好ましく、1~10質量部を用いることがより好ましい。上記エポキシ基含有アルコキシシラン類を0.1質量部未満用いた場合、鋼材表面に形成される被膜の耐アルカリ性や塗料等の硬化性樹脂との密着性が低下する。同様に、20質量部を超えて用いた場合、鋼材用水性被覆剤の浴安定性が低下する場合がある。
【0042】
上記水分散化させたエチレン-メタクリル酸共重合樹脂と、上記エポキシ基含有アルコキシシラン類との反応に際し、多官能エポキシ化合物を併用してもよい。上記多官能エポキシ化合物としては、特に限定されないが、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グルセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
上記水分散化させたエチレン-メタクリル酸共重合樹脂と、上記エポキシ基含有アルコキシシラン類、及び多官能エポキシ化合物との反応は、50~100℃の温度条件下で、0.5~12時間行うことが好ましい。
【0044】
樹脂粒子(A-1)と、樹脂粒子(A-2)との質量比は、(A-1):(A-2)=20:80~90:10であることが好ましい。樹脂粒子(A-1)と樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、樹脂粒子(A-1)が20質量部未満である場合、被膜の疎水性が高くなり、耐テープ剥離性の低下、又はホワイトガソリン等の高疎水性溶剤に対する耐溶剤性が低下する場合がある。樹脂粒子(A-1)が90質量部を超える場合、被膜の親水性が高くなり、耐アルカリ性の低下、エタノール等の高親水性溶剤に対する耐溶剤性の低下、又は被膜が脆くなることによる加工部耐食性の悪化等が発生する場合がある。
【0045】
樹脂粒子(A-1)及び樹脂粒子(A-2)が、シラノール基及びアルコキシシリル基のうち少なくともいずれかを有することにより、酸化ケイ素粒子(B)及び有機チタン化合物(C)との反応により、複合被膜が形成される。これにより、鋼材用水性被覆剤により形成される被膜の耐溶剤性や耐アルカリ性等を向上できる。
【0046】
樹脂粒子(A-1)及び樹脂粒子(A-2)の粒子径は、いずれも20~100nmである。上記粒子径は、動的光散乱法により測定される、メジアン径(D50)である。上記粒子径が20nm未満である場合、鋼材用水性被覆剤の粘度が高粘度となる、又は浴安定性が低下する等の理由により、塗装作業性が低下する。上記粒子径が100nmを超える場合、鋼材用水性被覆剤により形成される被膜の耐テープ剥離性や耐溶剤性が低下する。
【0047】
樹脂粒子(A-1)の粒子径は、水分散性を得るための親水性官能基である、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基等の導入量、及び、親水性官能基を中和する中和剤の種類や量を変更することで調整することができる。樹脂粒子(A-2)の粒子径は、中和剤の種類、水分散の条件、エポキシ基含有アルコキシシラン類の種類や量、及び多官能エポキシ化合物の種類や量を変更することで調整することができる。
【0048】
酸化ケイ素粒子(B)は、粒子径が5~20nmである。上記粒子径は、動的光散乱法により測定される、モード径(最頻度粒子径)である。粒子径がこの範囲であると光を透過するため、好ましい意匠性(光沢・彩度)が得られる。酸化ケイ素粒子(B)としては、特に制限されないが、例えば、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等を用いることができる。具体的には、スノーテックスN、スノーテックスC(日産化学工業)やアデライトAT-20N、AT-20A(旭電化工業)やカタロイドS-20L、カタロイドSA(触媒化成工業)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
酸化ケイ素粒子(B)の含有量は、樹脂粒子(A-1)及び樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。酸化ケイ素粒子(B)の含有量が5質量部未満である場合、鋼材用水性被覆材により形成される被膜の硬度や耐食性が低下する場合がある。100質量部を超える場合、被膜の造膜性や耐水性が低下する場合がある。
【0050】
有機チタン化合物(C)は、特に制限されないが、例えば、ジプロポキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジプロポキシビス(ジエタノールアミナト)チタン、ジブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジブトキシビス(ジエタノールアミナト)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、ジブトキシビス(アセチルアセトナト)チタン、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタンモノアンモニウム塩、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタンジアンモニウム塩、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、オキソチタンビス(モノアンモニウムオキサレート)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
有機チタン化合物(C)の含有量は、樹脂粒子(A-1)及び樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、チタン原子換算で0.05~3質量部であることが好ましく、0.1~2質量部であることがより好ましい。有機チタン化合物(C)の含有量が0.05質量部未満である場合、鋼材用水性被覆剤により形成される被膜内の各成分の複合化が不十分となり、被膜の性能が低下する場合がある。3質量部を超える場合、被膜の親水性が高くなりすぎて被膜の性能が低下する、鋼材用水性被覆剤の浴安定性が低下する場合がある。
【0052】
鋼材用水性被覆剤により形成される被膜の動摩擦係数を低下させ、被膜表面の潤滑性を向上させるために、ワックス粒子(D)を添加してもよい。その場合、粒子径が0.5~4μmであり、かつ、軟化点が100~140℃であることが好ましい。ワックス粒子(D)としては、特に限定されないが、ポリオレフィンワックス粒子(D)が意匠性を向上できる観点(光沢・彩度)から好ましい。ポリオレフィンワックス粒子(D)としては、特に限定されないが、例えば、パラフィン、マイクロクリスタリン、ポリエチレン等の炭化水素系のワックス、及びこれらの誘導体等が挙げられる。上記誘導体としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル化ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン等が挙げられる。
【0053】
上記ワックス粒子(D)を鋼材用水性被覆剤に添加する場合、粒子径は、特に限定されないが、0.5~4μmであることが好ましい。上記粒子径は、動的光散乱法により測定される、メジアン径(D50)である。上記粒子径が0.5μm未満である場合、形成される被膜の潤滑性が不十分である場合がある。上記粒子径が4μmを超える場合、ワックス粒子(D)の分布が不均一になる、被膜からの脱落が生じる、等の問題が生じる可能性がある。
【0054】
本実施形態の鋼材用水性被覆剤には、粒子径(モード径)が5~20nmの酸化ケイ素粒子(B)に加えて、粒子径(モード径)70~200nmの酸化ケイ素粒子(E)を含有させてもよい。上記粒子径は、動的光散乱法により測定される、モード径(最頻度粒子径)である。酸化ケイ素粒子(E)が鋼材用水性被覆剤に含有されることで、被膜の硬度を向上させ、摩擦係数を好適な範囲に調整できる。従って、被膜の耐アブレージョン性を向上させ、被膜が形成された被覆鋼材のコイル潰れや切り板の荷崩れ等を防止できる等、被膜鋼材のハンドリング性を向上できる。
【0055】
酸化ケイ素粒子(E)の粒子径を70nm以上にすることで、被膜の硬度及び摩擦係数を向上させることができる。また、粒子径を200nm以下にすることで、酸化ケイ素粒子(E)が鋼材用水性被覆剤中で沈降しにくくなり、分散性を確保することができる。
【0056】
酸化ケイ素粒子(E)は、酸化ケイ素粒子(B)よりも粒子径(モード径)が大きい。酸化ケイ素粒子(E)としては、特に限定されず、公知のものを使用できる。例えば、ST-ZL、MP-1040(日産化学工業社製)、PL-7(扶桑化学工業社製)、SI-80P(触媒化成工業社製)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
酸化ケイ素粒子(E)の含有量は、樹脂粒子(A-1)及び樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましい。酸化ケイ素粒子(E)の含有量が1質量部未満である場合、摩擦係数の調整効果が得られにくいので、1質量部以上を含有させるとよい。また、酸化ケイ素粒子(E)の含有量が20質量部を超えると、被膜の造膜性や耐水性が低下するおそれがある。
【0058】
フタロシアニン顔料(F)は、被覆鋼材の光沢度を維持しつつ、形成される被膜に好ましい彩度Cを付与する。フタロシアニン顔料(F)におけるフタロシアニンは、金属フタロシアニン及び無金属フタロシアニンのうち少なくともいずれかであることが好ましい。金属フタロシアニンの金属としては、例えば、Ca、Ba、Cd、Na、Cu、Ni、Co、Fe、Mg、Zn、Al、Mn、V、Ti及びSnのうちいずれかであることが好ましい。上記フタロシアニンとしては、金属がCu又はSnのうちいずれかである、金属フタロシアニンであることがより好ましい。フタロシアニンの結晶構造としても特に限定されず、一般に用いられるα型やβ型を用いてもよいし、その他の結晶構造を有するものを用いてもよい。
【0059】
上記フタロシアニンを得る方法としては、特に限定されないが、例えば、銅フタロシアニンを得る方法としては、フタル酸又はその誘導体、尿素又はその誘導体を銅化合物及び触媒の存在下に有機溶剤中で加熱反応させる尿素法(ワイラー法)、フタロジニトリルを銅化合物の存在下に有機溶剤中で加熱反応させるフタロジニトリル法等、公知の方法が挙げられる。
【0060】
上記製法にて得られたフタロシアニンは、微細顔料同士の凝集体を形成しているため、微細化法として、アシッドペースティング法、ソルベントソルトミリング法等の公知の方法により、一次粒子径が非常に微細であり、分布の幅が狭く、シャープな粒度分布をもつフタロシアニン粒子を得ることができる。また、フタロシアニン粒子の再凝集を防止するため、樹脂、及び/又は界面活性剤を添加してもよい。被覆して、フタロシアニン分散体が得られる。
【0061】
上記フタロシアニンを樹脂又は界面活性剤で被覆する方法としては、特に制限されないが、例えば、ソルベントソルトミリング法において、フタロシアニン、樹脂及び/又は界面活性剤、水溶性無機塩、及び水溶性有機溶剤をニーダー、押出機等を用いて混錬することで、フタロシアニンを微細化すると共に、樹脂又は界面活性剤を均一にフタロシアニンの表面に被覆できる。上記以外の方法でフタロシアニンを微細化する際、樹脂及び/又は界面活性剤を添加して、フタロシアニン表面を被覆してもよいし、微細化の後に樹脂及び/又は界面活性剤を添加して、フタロシアニン表面を被覆してもよい。これにより、鋼材用水性被覆剤中におけるフタロシアニン(F)の好ましい分散性が得られ、その結果、鋼材用水性被覆剤により形成される被膜、及び上記被膜で被覆される鋼材の好ましい彩度及び光沢が得られる。
【0062】
上記樹脂としては、顔料に吸着する性質を有する顔料親和性部位と、着色料担体と相溶性のある部位とを有し、顔料に吸着して顔料の着色料担体への分散を安定化する働きをするものである。特に制限されず、天然樹脂、変性天然樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂、天然樹脂で変性された合成樹脂等を用いることができる。天然樹脂としてはロジンが代表的で、変性天然樹脂としてはロジン誘導体、繊維素誘導体、ゴム誘導体、タンパク誘導体およびそれらのオリゴマーが用いられる。合成樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアマイド樹脂等が挙げられる。天然樹脂で変性された合成樹脂としてはロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0063】
具体的には、ポリウレタン、ポリアクリレートなどのポリカルボン酸エステル、不飽和ポリアミド、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸(部分)アミン塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸アルキルアミン塩、ポリシロキサン、長鎖ポリアミノアマイドリン酸塩、水酸基含有ポリカルボン酸エステルや、これらの変性物、ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離のカルボキシル基を有するポリエステルとの反応により形成されたアミドやその塩などの油性分散剤;(メタ)アクリル酸-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性樹脂や水溶性高分子化合物、ポリエステル系、変性ポリアクリレート系、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加化合物、燐酸エステル系等が用いられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0064】
上記界面活性剤としては、特に制限されず、従来公知のアニオン系界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができる。
【0065】
具体的には、アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、スチレン- アクリル酸共重合体のアルカリ塩、ステアリン酸ナトリウム、アルキルナフタリンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸モノエタノールアミン、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ステアリン酸モノエタノールアミン、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、スチレン- アクリル酸共重合体のモノエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルなどが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、アセチレングリコール、ポリオキシエチレンアセチレングリコールなどが挙げられる。カオチン性界面活性剤としては、アルキル4 級アンモニウム塩やそれらのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタインなどのアルキルベタイン、アルキルイミダゾリンなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
フタロシアニン顔料(F)の含有量は、樹脂粒子(A-1)と樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、0.01~10質量部である。フタロシアニン顔料(F)の上記含有量は、0.05~5質量部であることが好ましい。フタロシアニン顔料(F)の含有量が0.01質量部未満である場合、形成される被膜の好ましい彩度が得られない場合がある。10質量部を超える場合、被膜を形成した鋼材の光沢度が低くなる場合がある。
【0067】
フタロシアニン顔料(F)の粒子径は、0.01~1.0μmである。上記粒子径は、電子顕微鏡により測定される、一次粒子径である。上記一次粒子径は、0.05~1.0μmであることが好ましい。フタロシアニン顔料(F)の一次粒子径が0.01μm未満である場合、鋼材用水性被覆剤中における好ましい分散性が得られず、彩度及び光沢が得られない場合がある。一次粒子径が1.0μmを超える場合、被膜中で光の乱反射が起こり、好ましい被膜の彩度が得られない場合がある。また、被膜が形成された鋼材の好ましい光沢度が得られない場合がある。
【0068】
本実施形態に係る鋼材用水性被覆剤には、更に、リン酸化合物、チオカルボニル化合物、酸化ニオブ及びグアニジン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の防錆剤が含まれることが好ましい。これにより、被膜が形成された鋼材の優れた耐食性が得られる。
【0069】
上記リン酸化合物としては、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のリン酸塩類等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記リン酸化合物を用いることで、リン酸イオンが鋼材表面にリン酸塩層を形成して不動態化させ、鋼材の防錆性を向上させることができる。
【0070】
上記リン酸化合物の含有量は、樹脂粒子(A-1)及び樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、リン酸根換算で0.01~5質量部であることが好ましく、0.05~3質量部であることがより好ましい。0.01質量部未満の場合には耐食性が不十分となり、5質量部を超えると使用する水性分散樹脂によってはゲル化して塗布不能となる場合がある。
【0071】
上記チオカルボニル化合物、酸化ニオブ、グアニジン化合物は、従来から耐食性を付与するために使用されてきたクロム化合物と同様、特に亜鉛鋼材等の白錆防止に有効である。上記チオカルボニル化合物は、チオカルボニル基を有する化合物であり、例えば、以下一般式(1)で示される。
【0072】
【化1】
【0073】
上記式(1)中、X、Yは、H、OH、SH、若しくはNH、置換基としてOH、SH若しくはNHを有するもの、又は置換基として-O-、-NH-、-S-、-CO-若しくは-CS-を有する、炭素数1~15の炭化水素基を示す。XとYは結合して環を形成していてもよい。上記式(1)で示されるチオカルボニル化合物としては、窒素原子や酸素原子を有することが好ましい。
【0074】
チオカルボニル化合物としては、上記以外に、水溶液中や酸又はアルカリの存在下の条件においてチオカルボニル基含有化合物を形成することのできる化合物を用いてもよい。例えば、チオ尿素及びその誘導体、例えば、メチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、エチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素、フェニルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素、1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオ尿素、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素等が挙げられる。
【0075】
チオカルボニル化合物としては、上記以外に、カルボチオ酸類及びその塩類を用いてもよい。例えば、チオ酢酸、チオ安息香酸、ジチオ酢酸、メチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸トリエチルアミン塩、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリン塩、o-エチルキサントゲン酸カリウム等が挙げられる。
【0076】
これらのチオカルボニル化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、上記チオカルボニル化合物のうち水に対する溶解度が低いものは、アルカリ溶液等の溶媒に溶解させた後、鋼材用水性被覆剤に配合することができる。
【0077】
上記チオカルボニル化合物の含有量は、樹脂粒子(A-1)及び樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~5質量部であることがより好ましい。0.1質量部未満の場合には耐食性が不十分となり、10質量部を超えると耐食性が飽和して不経済となるだけでなく、使用する水性分散樹脂によってはゲル化して塗布不能となる場合がある。
【0078】
上記酸化ニオブは、酸化ニオブコロイド粒子であることが好ましい。これにより、形成される被膜の耐食性をより向上できる。上記酸化ニオブコロイド粒子は、より安定して緻密な酸化ニオブを含有する被膜を形成し、被処理物に対して安定して防錆性を付与する観点から、粒子径が100nm以下であることが好ましい。上記粒子径は、動的光散乱法によって測定される、モード径(最頻度粒子径)である。上記粒子径は、2~50nmであることがより好ましく、2~20nmであることが更に好ましい。
【0079】
上記酸化ニオブコロイド粒子は、ニオブの酸化物が水中に微粒子状態で分散しているものを示す。上記には、例えば厳密には酸化ニオブが形成されず、水酸化ニオブと酸化ニオブの中間状態でアモルファス状態であるものも含まれる。上記酸化ニオブコロイド粒子としては、特に限定されず、公知の方法によって製造された酸化ニオブゾルを用いることができる。
【0080】
上記酸化ニオブの含有量は、樹脂粒子(A-1)及び樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、Nb換算で0.1~5質量部であることが好ましく、0.2~3質量部であることがより好ましい。0.1質量部未満の場合には十分な防錆性が得られず、好ましくない。5質量%を超えても、効果の向上は見られず、経済的でないおそれがある。
【0081】
上記グアニジン化合物は、特に限定されないが、例えば、グアニジン、アミノグアニジン、グアニルチオ尿素、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、1,3-ジフェニルグアニジン等が挙げられる。上記グアニジン化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0082】
上記グアニジン化合物の含有量は、樹脂粒子(A-1)及び樹脂粒子(A-2)との合計100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましく、0.2~3質量部であることがより好ましい。0.1質量部未満の場合には耐食性が不十分となり、5質量部を超えると耐食性が飽和して不経済となるだけでなく、使用する水性分散樹脂によってはゲル化して塗布不能となることがある。
【0083】
本実施形態に係る鋼材用水性被覆剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記以外の成分が含まれていてもよい。例えば、消泡剤、有機溶剤、レベリング剤等が含まれていてもよい。有機溶剤としては、塗料に一般的に用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系の親水性溶剤等が挙げられる。レベリング剤としても、特に限定されず、例えば、シリコーン系、フッ素系等のレベリング剤等が挙げられる。
【0084】
本実施形態に係る鋼材用水性被覆剤の溶媒は、水、水及び各種アルコールの混合物などを用いることができる。
【0085】
本実施形態に係る鋼材用水性被覆剤は、20℃粘度が100mPa・s以下であることが好ましい。20℃粘度が100mPa・sを超える場合、例えば塗装時において、コーティングロールから被塗物に転写される被覆剤が糸引き状の液滴になりやすく、塗装むらになりやすい。鋼材用水性被覆剤の粘度は、50mPa・s以下であることがより好ましい。鋼材用水性被覆剤の粘度の下限は、特に限定されないが、例えば3mPa・s以上であってもよいし、5mPa・s以上であってもよい。
【0086】
<鋼材用水性被覆剤により形成される被膜>
本実施形態に係る鋼材用水性被覆剤により形成される被膜(以下、単に「被膜」と記載する場合がある)は、上記各成分が複合化した複合化樹脂からなる。即ち、各成分の官能基が結合を形成し、複合化された状態である。上記結合は、主に樹脂粒子(A-1)及び(A-2)のSi-OH基、及びSi-OR基の少なくともいずれか、酸化ケイ素粒子(B)、(E)表面のSi-OH基、有機チタン化合物(C)のTi-OH及びTi-OR’基の少なくともいずれか等が反応することによって形成される結合である。上記結合は、例えば、Si-O-Si結合、Si-O-Ti-O-Si結合等であると考えられ、有機樹脂粒子と無機粒子とが化学的に強固な結合を形成する。
【0087】
本実施形態の被膜は、ポリウレタン樹脂粒子及びエチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子を含む樹脂と、酸化ケイ素粒子と、Tiと、フタロシアニン顔料とを含み、フタロシアニン顔料の含有量が、ポリウレタン樹脂粒子とエチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子との合計100質量部に対して、0.01~10質量部であり、フタロシアニン顔料の粒子径(一次粒子径)が0.01~1.0μmである被膜である。酸化ケイ素粒子は、粒子径(モード径)が5~20nmのものが含まれ、更に、粒子径(モード径)が70~200nmの酸化ケイ素粒子が含まれる場合がある。Tiは、上記の有機チタン化合物(C)に由来するものである。すなわち、本実施形態の被膜には元素としてのTiが含まれる。また、フタロシアニン顔料は、被膜中にフタロシアニンが含有されていることを確認することで、その含有を確認可能である。更に、被膜には、上記の防錆剤や、その他の添加成分が含まれていてもよい。
【0088】
上記被膜は、彩度Cが2.0以上50以下である。被膜の彩度Cが2.0以上であることで、被膜の色調が鮮明で、発色性が良好であるため好ましい。彩度Cは5.0以上であることがより好ましい。また、彩度Cは50以下とする。彩度Cは50未満であることがより好ましい。彩度Cが2.0未満の場合、被膜の発色性が劣る可能性がある。彩度Cの測定は、市販の色差計を用いて行うことができ、例えば、日本電色工業株式会社製の分光色差計SE6000を用いて行うことができる。彩度Cは、以下の式で算出される。以下の式におけるa及びbは、L表色系において、aは赤方向、-aは緑方向、bは黄方向、-bは青方向の色相を示す。
【0089】
【数1】
【0090】
上記被膜は、被膜量が0.5~3g/mであることが好ましく、0.5~2g/mであることがより好ましい。被膜量が0.5g/m未満であると、耐食性や耐アルカリ性が低下する場合がある。一方、被膜量が多すぎると、基材密着性が低下するのみならず、不経済である。
【0091】
<鋼材の被覆方法>
【0092】
鋼材の被覆方法は、上記鋼材用水性被覆剤を金属表面に塗布して被膜を形成するものであり、コーティング工程と、加熱硬化工程と、を含む。
【0093】
コーティング工程では、上記鋼材用水性被覆剤を金属表面に均一に塗布する。コーティング方法は特に限定されず、一般に使用されるロールコート、エアスプレー、エアレススプレー、浸漬等を適宜採用することができる。被膜の硬化性を高めるために、あらかじめ被塗物である鋼材を加熱しておいてもよい。
【0094】
加熱硬化工程では、上記鋼材用水性被覆剤が塗布された鋼材を加熱し、鋼材表面に被膜を形成する。被塗物である鋼材の加熱温度は50~250℃、好ましくは70~220℃である。加熱温度が50℃未満では、水分の蒸発速度が遅く十分な成膜性が得られないため、耐溶剤性や耐アルカリ性が低下する。一方、250℃を超えると樹脂の熱分解が生じ、被膜物性が低下して各種性能の低下を招き、また黄変等外観が悪くなる。加熱硬化時間は1秒~5分が好ましい。
【0095】
また、鋼材の被覆方法は、上記以外に、上記被膜の上に上塗り塗料を塗布する上塗り塗装工程を含んでいてもよい。上塗り塗装工程で用いられる上塗り塗料としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル変性アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フタル酸樹脂、アミノ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂等からなる塗料等が挙げられる。上塗り塗料の塗膜の膜厚は、防錆金属製品の用途、使用する上塗り塗料の種類等によって適宜決定され、特に制限されない。通常、5~300μm程度、より好ましくは10~200μm程度である。上塗り塗料の塗膜の形成は、上記鋼材用水性被覆剤により形成された被膜の上に上塗り塗料を塗布し、加熱して乾燥、硬化させて行うことができる。加熱温度としては、例えば50~250℃とすることができ、加熱時間としては、5分~1時間とすることができる。
【0096】
<鋼材用水性被覆材により被覆された鋼材>
本実施形態に係る鋼材は、鋼材(基材)と、鋼材(基材)上に配置されためっき層と、めっき層の表面に配置された被膜とを備える。被膜は、上述したように、ポリウレタン樹脂粒子及びエチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子を含む樹脂と、酸化ケイ素粒子と、Tiと、フタロシアニン顔料とを含む。フタロシアニン顔料の含有量は、ポリウレタン樹脂粒子とエチレン-不飽和カルボン酸共重合樹脂粒子との合計100質量部に対して、0.01~10質量部である。また、フタロシアニン顔料の一次粒子径は0.01~1.0μmである。
【0097】
本実施形態に係る鋼材用水性被覆剤により被膜が表面に形成される鋼材としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム含有亜鉛めっき鋼材、亜鉛めっき鋼材、亜鉛-ニッケルめっき鋼材、亜鉛-鉄めっき鋼材、亜鉛-クロムめっき鋼材、亜鉛-チタンめっき鋼材、亜鉛-マグネシウムめっき鋼材、亜鉛-マンガンめっき鋼材、亜鉛-アルミニウム-マグネシウムめっき鋼材、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-シリコンめっき鋼材等の亜鉛系めっき鋼材、更にはこれらのめっき層に少量の異種金属元素又は不純物としてコバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものが含まれる。更には以上のめっきと他の種類のめっき、例えば鉄めっき、鉄-りんめっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等と組み合わせた複層めっきにも適用可能である。更にはアルミニウム又はアルミニウム系合金めっきにも適応可能である。めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等のいずれの方法でもよい。鋼材としては、アルミニウム含有亜鉛めっき鋼材であることが好ましい。
【0098】
本実施形態に係る被膜が表面に形成された鋼材は、60°光沢度が50%以上であることが好ましい。60°光沢度は、50~200%であることがより好ましく、60~150%であることが更に好ましい。60°光沢度が50%未満である場合、鋼材の好ましい外観が得られない。また、一般的なめっき鋼材の60°光沢度の上限から、より好ましい60°光沢度を200%以下とした。但し、鋼材に特殊な製造方法や製造後研磨などを適用することで200%超も可能であり、200%超であってもよい。60°光沢度は、JIS Z 8741に規定される方法に基づいて測定することができ、例えば市販の光沢計(日本電色工業株式会社製 VG2000等)を用いて測定できる。
【0099】
本実施形態に係る被膜が表面に形成された鋼材は、耐食性、及び促進耐候性が維持されつつ、かつ好ましい光沢度と彩度を有し、意匠性に優れた外観が得られるものである。
【実施例
【0100】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を更に詳細に説明する。本発明の内容は以下の実施例の記載に限定されない。
【0101】
<樹脂粒子(A-1)の水分散液の製造>
(製造例1)
反応容器に4,4-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、分子量2000のポリカーボネートジオール、ネオペンチルグリコール、ジメチロールプロピオン酸、及び溶剤としてN-メチルピロリドンを仕込み、80℃において6時間撹拌後、ジメチルエタノールアミンで中和してポリウレタンプレポリマー溶液を得た。次に、ヒドラジン及びγ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシランを含有する水中に、上記反応により得られたポリウレタンプレポリマー溶液をホモディスパーを用いて分散させることにより、シラノール基及び/又はエトキシシリル基を含有するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂粒子の水分散液を得た。固形分濃度は30質量%、動的光散乱法によって測定したメジアン径は39nmであった。
【0102】
(製造例2)
上記製造例1と同様にして得られたポリウレタンプレポリマーを、ホモディスパーを用いて、ヒドラジン及びγ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランを含有する水中に、上記反応により得られたポリウレタンプレポリマー溶液をホモディスパーを用いて分散させることにより、シラノール基及び/又はエトキシシリル基を含有するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂粒子の水分散液を得た。固形分濃度は30質量%、動的光散乱法によって測定したメジアン径は20nmであった。
【0103】
(製造例3)
反応容器に4,4-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ジメチロールプロピオン酸、及びアセトンを加え、攪拌下50℃に加熱して反応させたのち、更に、アジピン酸、ネオペンチルグリコール、及びエチレングリコールとの反応により得られた分子量2000のポリエステルポリオールを加えて反応させてポリウレタンプレポリマー溶液を得た。次いで、ジメチルエタノールアミン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、及び2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールを含有する水中に、上記反応により得られたポリウレタンプレポリマー溶液をホモディスパーを用いて分散させ、加熱下にアセトンを留去することにより、シラノール基及び/又はエトキシシリル基を含有するポリエステル系ポリウレタン樹脂粒子の水分散液を得た。固形分濃度は30質量%、メジアン径は32nmであった。
【0104】
<樹脂粒子(A-2)の水分散液の製造>
(製造例4)
反応容器にエチレン-メタクリル酸共重合樹脂(メタクリル酸の含有量が20質量%)、樹脂に対して5.6質量%相当の水酸化ナトリウム及び脱イオン水を加え、95℃で6時間攪拌することにより固形分20質量%の水分散樹脂液を得た。この水分散樹脂液に対して、更にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを0.8質量%、グリセロールポリグリシジルエーテルを0.8質量%を加えて、85℃で2時間反応させることによって、シラノール基及び/又はメトキシシリル基を有するエチレン-メタクリル酸共重合樹脂粒子の水分散液を得た。固形分濃度は21質量%、メジアン径は50nmであった。
【0105】
(製造例5)
反応容器にエチレン-メタクリル酸共重合樹脂(メタクリル酸の含有量が20質量%)、樹脂に対して3.7質量%の水酸化ナトリウム、6.3質量%のアンモニア水、及び脱イオン水を加え、95℃で6時間攪拌することにより固形分20質量%の水分散樹脂液を得た。この水分散樹脂液に対して、更にγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランを1.2質量%、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルを0.6質量%を加えて、85℃で2時間反応させることによって、シラノール基及び/又はメトキシシリル基を有するエチレン-メタクリル酸共重合樹脂粒子の水分散液を得た。固形分濃度は21質量%、メジアン径は100nmであった。
【0106】
(製造例6)
反応容器にエチレン-メタクリル酸共重合樹脂(メタクリル酸の含有量が20質量%)、樹脂に対して4.7質量%相当の水酸化ナトリウム及び脱イオン水を加え、95℃で2時間攪拌することにより固形分20質量%の水分散樹脂液を得た。この水分散樹脂液に対して、更にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを1.2質量%、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルを1.2質量%加えて、85℃で2時間反応させることによって、シラノール基及び/又はメトキシシリル基を有するエチレン-メタクリル酸共重合樹脂粒子の水分散液を得た。固形分濃度は21質量%、メジアン径は70nmであった。
【0107】
(製造例7)
反応容器にエチレン-メタクリル酸共重合樹脂(メタクリル酸の含有量が20質量%)、樹脂に対して21.0質量%のアンモニア水、及び脱イオン水を加え、95℃で2時間攪拌することにより固形分20質量%の水分散樹脂液を得た。この水分散樹脂液に対して、更にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを1.2質量%、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルを1.2質量%加えて、85℃で2時間反応させることによって、シラノール基及び/又はメトキシシリル基を有するエチレン-メタクリル酸共重合樹脂粒子の水分散液を得た。固形分濃度は21質量%、メジアン径は150nmであった。
【0108】
(製造例8)
反応容器にエチレン-メタクリル酸共重合樹脂(メタクリル酸の含有量が27質量%)、樹脂に対して28.0質量%のアンモニア水及び脱イオン水を加え、95℃で2時間攪拌することにより固形分20質量%の水分散樹脂液を得た。この水分散樹脂液に対して、さらにγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを1.6質量%、水添ビスフェノールA ジグリシジルエーテルを1.6質量%加えて、85℃で2時間反応させることによって、シラノール基及び/又はメトキシシリル基を有するエチレン-メタクリル酸共重合樹脂粒子の水分散液を得た。固形分濃度は21質量% 、メジアン径は14nmであった。
【0109】
(製造例9)
反応容器にエポキシ当量190のビスフェノールFエピクロルヒドリン型エポキシ樹脂190質量部にジエタノールアミン30質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート110質量部を加え、100℃で2時間反応させ、固形分濃度70%の変性エポキシ樹脂を得た。反応容器にNCOが13.3%、不揮発分75%のトリメチロールプロパンの2,4-トルエンジイソシアネートプレポリマーを100質量部、ノニルフェノール44質量部、ジメチルベンジルアミン5質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート65質量部を混合し、窒素雰囲気下80℃で3時間、反応させ、固形分濃度70%、NCO%が20%のハーフブロック化ポリイソシアネートを得た。上記変性エポキシ樹脂70質量部と上記ハーフブロック化ポリイソシアネート30質量部を混合し、80℃で4時間攪拌して反応させた後、赤外線分光分析でNCO基の吸収が完全になくなることを確認した。その後、イオン交換水で希釈して水性エポキシ樹脂を得た。固形分濃度は25質量%、メジアン径は600nmであった。
【0110】
<実施例及び比較例に係る鋼材用水性被覆剤の調製>
(実施例1)
上記製造例1の樹脂粒子(A-1)の水分散液を固形分換算で80質量部と、上記製造例4の樹脂粒子(A-2)の水分散液を固形分換算で20質量部用いた。酸化ケイ素粒子(B)としては、粒子径(モード径)が15nmのものを用いた。有機チタン化合物(C)としては、ジプロポキシビス(トリエタノールアミナト)チタンを用いた。ワックス粒子(D)としては、粒子径(メジアン径)1.0μm、軟化点115℃のポリエチレン粒子を用いた。酸化ケイ素粒子(E)としては、粒子径(モード径)100nmのものを用いた。フタロシアニン顔料(F)としては、被覆剤として界面活性剤を用いたCuフタロシアニン(一次粒子径0.26μm)を用いた。防錆剤(G)としては、リン酸塩及びチオ尿素を用いた。各成分の含有量は、樹脂粒子(A-1)と樹脂粒子(A-2)の合計100質量部に対する質量部として、表6に示す量を用いて、実施例1に係る鋼材用被覆調整剤を調製した。なお、表6に示す有機チタン化合物(C)の含有量は、チタン原子換算の質量部である。
【0111】
(実施例2~18、及び比較例1~21)
それぞれ表6に示す原料を用いたこと以外は、実施例1と同様として、実施例2~18、及び比較例1~20に係る鋼材用被覆調整剤を調製した。また比較例12を60℃で経時させて高粘度に調整したものを比較例21とした。なお、表6に示す酸化ケイ素粒子(B)、有機チタン化合物(C)、酸化ケイ素粒子(E)、フタロシアニン顔料(F)及び防錆剤(G)の種類と、表6に示す記号との対応は、以下の表1~表5に示した。
【0112】
なお、表4に示したフタロシアニン顔料(F)の詳細は、以下の通りである。
種類k:御国色素株式会社製 「SAブルー 5204」
種類l:トーヨーカラー株式会社製 「LIOFAST SF670ブルー」
種類m:御国色素株式会社製 「SAブルー 5205」
種類n:大日精化工業株式会社社製 「DPカラー 1737 Blue」
種類o:大日精化工業株式会社社製 「DPカラー 1534 Blue」
種類p:大日精化工業株式会社社製 「DP-1957 Yellow」
種類q:大日精化工業株式会社社製 「NAF カラー NAF1032レッド」
種類r:トーヨーカラー株式会社製 「LIOFAST BLUE G227」
種類s:トーヨーカラー株式会社製 「EMF BLUE HG」
種類t:御国色素株式会社製 「PSMスカイブルー FG」
種類u:大日精化工業株式会社社製 「TBカラー TB-700 Blue GA」
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
<評価用被覆鋼板の作成>
上記実施例1~18、比較例1~21の鋼材用水性被覆剤を用い、溶融亜鉛めっき鋼板及びアルミニウム含有亜鉛めっき鋼材の表面に被膜を形成し、評価用サンプルを作成した。鋼材用水性被覆剤の塗布はバーコーターで、乾燥皮膜量1g/mになるように塗布し、雰囲気温度500℃の熱風乾燥炉を用いて到達板温150℃まで焼き付けて試験板を作成した。
【0120】
<評価>
上記作製した実施例及び比較例に係る試験板を用い、耐アルカリ性、耐溶剤性、耐アブレージョン性、平面耐食性、耐候性(彩度変化量)、光沢度、彩度、塗装性について以下の条件で評価を行った。結果を表7に示した。
【0121】
(耐アルカリ性)
試験板を55℃のアルカリ脱脂剤(サーフクリーナー53、日本ペイント社製)2質量%水溶液(pH12.5)に攪拌しながら2分間浸漬した後、試験板のエッジと裏面をテープシールし、塩水噴霧試験(JIS-Z-2371)を行った。72時間後の白錆発生状況を観察し下記基準で評価を行い、3を合格とした。結果を表7に示す。
3:白錆ほとんどなし
2:白錆面積30%未満
1:白錆面積30%以上
【0122】
(耐溶剤性)
試験板をラビングテスターに設置後、エタノール、メチルエチルケトン(MEK)又はホワイトガソリンを含浸させた脱脂綿を0.5kgf/cmの荷重で5回(往復)、擦った後、試験板のエッジと裏面をテープシールし、塩水噴霧試験(JIS-Z-2371)を行った。72時間後の白錆発生状況を観察し下記基準で評価を行い、3を合格とした。結果を表7に示す。
3:白錆ほとんどなし
2:白錆面積30%未満
1:白錆面積30%以上
【0123】
(耐アブレージョン性[摺動性])
試験板に、段ボール紙を介して10g/cmの荷重をかけ、360回/minの楕円運動を加えて摺動部にアブレージョン(摩耗傷)を発生させた。10分間試験を行った後の試験板表面の状態を観察し下記基準で評価を行い、3を合格とした。結果を表7に示す。
3:黒化ほとんどなし
2:摺動部の50%未満の面積が黒化
1:摺動部の50%以上の面積が黒化
【0124】
(平面部耐食性)
試験板を、試験板のエッジと裏面をテープシールし、塩水噴霧試験SST(JIS-Z-2371)を行った。溶融亜鉛めっきの試験片では72時間後、アルミニウム含有亜鉛めっきの試験片は120時間後の白錆発生状況を観察し下記基準で評価を行い、3を合格とした。結果を表7に示す。
3:白錆ほとんどなし
2:白錆面積30%未満
1:白錆面積30%以上
【0125】
(耐侯性[彩度変化量])
試験板をサンシャインウェザーメーター試験機にいれ、促進耐候試験500時間を実施し、初期値と試験後の彩度の変化量を測定した。彩度は以下に示す彩度測定と同様の方法で、彩度Cとして算出した。彩度Cの変化量は以下式(2)にて算定し、以下の基準で評価を行い、3を合格とした。試験機はスガ試験機株式会社製サンシャインウェザーメーターを用いた。結果を表7に示す。
変化量(%)=試験後彩度C/初期値彩度C×100 …(2)
3:変化量(%)=95%~100%
2:変化量(%)=90%~95%未満
1:変化量(%)=80%~90%未満
【0126】
(光沢度[意匠性])
光沢計(日本電色工業株式会社製 VG2000)を用い、JIS Z 8741に規定される方法に基づいて試験板表面の60°光沢度(%)を測定した。以下の基準で評価を行い、2を合格とした。結果を表7に示す。
2:50~200%
1:50%未満
【0127】
(彩度[意匠性])
分光色差計(日本電色工業株式会社製 SE6000)を用い、試験板表面のL値を測定し、以下の式により彩度Cを算出した。以下の基準で評価を行い、3を合格とした。結果を表7に示す。
3:C=2.0~50
2:C=50超、100未満
1:C=2.0未満
【0128】
【数2】
【0129】
(塗装性)
自動バーコーター(安田精機製作所製 No 542-AB)を用い、鋼材用水性被覆剤を塗布し、塗装外観ムラを以下の基準で評価を行い、2を合格とした。結果を表7に示す。
2:ムラなし
1:ムラあり
【0130】
【表7】
【0131】
上記表7の結果から、実施例1~18の鋼材用水性被覆剤により被膜が形成された鋼板は、比較例1~21の鋼材用水性被覆剤により被膜が形成された鋼板と比較して光沢度、彩度がいずれも優れている結果が確認され、意匠性に優れていた。また、実施例1~18の鋼材用水性被覆剤により被膜が形成された鋼板は、耐アルカリ性、耐溶剤性、摺動性、平面部耐食性、耐候性、塗装性も優れている結果が示された。