(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】キャパシタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20240216BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
(21)【出願番号】P 2020180338
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 裕美
(72)【発明者】
【氏名】和泉 忍
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-528673(JP,A)
【文献】特開2018-006643(JP,A)
【文献】特開2001-110683(JP,A)
【文献】特開2012-142373(JP,A)
【文献】特開2008-010657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁金属の多孔質体からなる陽極と、前記弁金属の酸化物からなる誘電体層と、前記誘電体層の、前記陽極と反対側に設けられた導電物質製の陰極と、前記誘電体層及び前記陰極の間に形成された固体電解質層とを具備し、
前記固体電解質層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、
分子中に炭素原子同士の不飽和結合とヒドロキシル基を有する
ジオール類である不飽和脂肪族アルコール化合物とを含有する、キャパシタ。
【請求項2】
前記不飽和脂肪族アルコール化合物の炭素数が、4以上8以下である、請求項1
に記載のキャパシタ。
【請求項3】
前記不飽和脂肪族アルコール化合物が、シス-2-ブテン-1,4-ジオール、トランス-2-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、及び2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1
又は2に記載のキャパシタ。
【請求項4】
前記固体電解質層が、アミン化合物及び窒素含有芳香族化合物のうち少なくとも一方をさらに含有する、請求項1~
3のいずれか一項に記載のキャパシタ。
【請求項5】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のキャパシタ。
【請求項6】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のキャパシタ。
【請求項7】
弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する工程と、
前記誘電体層の表面に導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成する工程と、を有し、
前記導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分子中に炭素原子同士の不飽和結合とヒドロキシル基を有する不飽和脂肪族アルコール化合物と、前記導電性複合体を分散させる分散媒と、を含有する、キャパシタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む固体電解質層を備えたキャパシタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
π共役系導電性高分子とポリアニオンを含む導電性複合体を含有する固体電解質層を、誘電体層と陰極との間に配置したキャパシタが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のキャパシタの固体電解質層は、導電性複合体の他に更に特定の化学式で表されるスルフィドを含むことにより、等価直列抵抗(ESR)が低減され、耐熱性も向上したものとなっている。その一方、上記スルフィドによらず、他の添加剤を加えることにより等価直列抵抗が低減されたキャパシタが求められることがある。
本発明は、等価直列抵抗が低減したキャパシタ及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] 弁金属の多孔質体からなる陽極と、前記弁金属の酸化物からなる誘電体層と、前記誘電体層の、前記陽極と反対側に設けられた導電物質製の陰極と、前記誘電体層及び前記陰極の間に形成された固体電解質層とを具備し、前記固体電解質層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分子中に炭素原子同士の不飽和結合とヒドロキシル基を有する不飽和脂肪族アルコール化合物とを含有する、キャパシタ。
[2] 前記不飽和脂肪族アルコール化合物が、ジオール類である、[1]に記載のキャパシタ。
[3] 前記不飽和脂肪族アルコール化合物の炭素数が、4以上8以下である、[1]又は[2]に記載のキャパシタ。
[4] 前記不飽和脂肪族アルコール化合物が、シス-2-ブテン-1,4-ジオール、トランス-2-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、及び2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載のキャパシタ。
[5] 前記固体電解質層が、アミン化合物及び窒素含有芳香族化合物のうち少なくとも一方をさらに含有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載のキャパシタ。
[6] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[5]のいずれか一項に記載のキャパシタ。
[7] 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[6]のいずれか一項に記載のキャパシタ。
[8] 弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程と、前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する工程と、前記誘電体層の表面に導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成する工程と、を有し、前記導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分子中に炭素原子同士の不飽和結合とヒドロキシル基を有する不飽和脂肪族アルコール化合物と、前記導電性複合体を分散させる分散媒と、を含有する、キャパシタの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のキャパシタは、前記不飽和脂肪族アルコール化合物を添加することによって、等価直列抵抗が低減している。さらに静電容量の増加もみられる。本発明のキャパシタの製造方法によれば、上記キャパシタを容易に製造することができる。
【0007】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のキャパシタの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《キャパシタ》
本発明の第一態様はキャパシタである。その実施形態の例について説明する。
図1に示すキャパシタ10は、弁金属の多孔質体からなる陽極11と、弁金属の酸化物からなる誘電体層12と、誘電体層12の表面に形成された固体電解質層14と、最も表側に設けられた陰極13とを具備する。陰極13は誘電体層12及び固体電解質層14を間に挟んで、陽極11と反対側に設けられている。
【0011】
陽極11を構成する弁金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンなどが挙げられる。これらのうち、アルミニウム、タンタル、ニオブが好適である。
陽極11の具体例としては、アルミニウム箔をエッチングして表面積を増加させた後、その表面を酸化処理したものや、タンタル粒子やニオブ粒子の焼結体表面を酸化処理してペレットにしたものが挙げられる。このように処理されたものは表面に凹凸が形成された多孔質体となる。
【0012】
本実施形態における誘電体層12は、陽極11の表面が酸化されて形成された層であり、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液などの電解液中にて、金属体の陽極11の表面を陽極酸化することで形成されたものである。陽極11と同様に誘電体層12にも凹凸が形成されている(
図1参照)。
【0013】
本実施形態における陰極13としては、導電性ペーストから形成した導電層やアルミニウム箔など、導電物質製の金属層を使用することができる。
【0014】
本実施形態における固体電解質層14は、誘電体層12の表面に形成されている。固体電解質層14は、誘電体層12の表面の少なくとも一部を覆っており、誘電体層12の表面の全部を覆っていてもよい。
固体電解質層14の厚さは、一定でもよいし、一定でなくてもよく、例えば、1μm以上100μm以下の厚さが挙げられる。
【0015】
[不飽和脂肪族アルコール化合物]
固体電解質層14は、分子中に炭素原子同士の不飽和結合とヒドロキシル基を有する不飽和脂肪族アルコール化合物の1種類以上と、後で詳述するπ共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体とを含有している。
【0016】
本態様のキャパシタの等価直列抵抗をより低減し、静電容量をより増加させる観点から、前記不飽和脂肪族アルコール化合物は、ヒドロキシル基を2つ有するジオール類であることが好ましい。
また、同様の観点から、前記不飽和脂肪族アルコール化合物の炭素数は、4以上12以下が好ましく、4以上10以下がより好ましく、4以上8以下がさらに好ましく、4以上6以下が特に好ましい。
また、同様の観点から、前記不飽和脂肪族アルコール化合物が有する不飽和結合の数は1つ以上4つ以下が好ましく、1つ以上3つ以下がより好ましく、1つ又は2つがさらに好ましい。
【0017】
前記不飽和脂肪族アルコールとしては、例えば、シス-2-ブテン-1,4-ジオール、トランス-2-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、及び2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
また、3,6-ジメチル-4-オクチン―3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール等も挙げられる。
【0018】
固体電解質層14に含まれる前記不飽和脂肪族アルコール化合物の合計の含有量は、固体電解質層14に含まれる後述の導電性複合体100質量部に対して、例えば、10質量部以上5000質量部以下が好ましく、50質量部以上1000質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなり、静電容量もより向上し易くなる。
固体電解質層14に含まれる前記不飽和脂肪族アルコール化合物の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0019】
[導電性複合体]
次に、固体電解質層14に含有される導電性複合体について説明する。本態様の導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性を有する。
【0020】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0021】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0022】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0023】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して、例えば、1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるので、充分な導電性を確保できる。
【0024】
固体電解質層14の総質量に対する導電性複合体の含有量は、1質量%以上99質量%以下が好ましく、50質量%以上98質量%以下がより好ましく、70質量%以上97質量%以下がさらに好ましい。上記の範囲であると、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなるので好ましい。
【0025】
[含窒素化合物]
固体電解質層14には、含窒素化合物の1種以上が含有されていてもよい。含窒素化合物が固体電解質層14に含まれることによって、キャパシタの等価直列抵抗をさらに低減することができる。
【0026】
前記含窒素化合物として、以下のアミン化合物、窒素含有芳香族化合物及び4級アンモニウム塩を例示できる。これらから選択される1種以上が固体電解質層14に含まれると、キャパシタの等価直列抵抗をさらに低減できる。
【0027】
アミン化合物はアミノ基を有する化合物であり、アミノ基がポリアニオンのアニオン基と反応することがある。
アミン化合物としては、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれであってもよい。アミン化合物は、炭素数2以上12以下の直鎖、もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、炭素数7以上12以下のアラルキル基、炭素数2以上12以下のアルキレン基、炭素数6以上12以下のアリーレン基、炭素数7以上12以下のアラルキレン基、及び炭素数2以上12以下のオキシアルキレン基から選択される置換基を有していてもよい。
具体的な1級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
具体的な2級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
具体的な3級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
これらアミン化合物のうち、3級アミンが好ましく、トリエチルアミン、トリプロピルアミンがより好ましい。
【0028】
窒素含有芳香族化合物(少なくとも1つの窒素原子が環構造を形成する芳香族化合物)としては、例えば、ピロール、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、N-プロピルイミダゾール、N-ブチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-アセチルイミダゾール、2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノ-1-メチルベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール、ピリジン等が挙げられる。
これら窒素含有芳香族化合物のうち、イミダゾールがより好ましい。
【0029】
具体的な4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、テトラナフチルアンモニウム塩等が挙げられる。アンモニウムの対となる陰イオンとしてはヒドロキシドイオンが挙げられる。
【0030】
固体電解質層14に含まれる前記含窒素化合物の合計の含有量は、固体電解質層14に含まれる導電性複合体100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上1000質量部以下が好ましく、1質量部以上100質量部以下がより好ましく、5質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなり、静電容量もより向上し易くなるので好ましい。
固体電解質層14に含まれる前記含窒素化合物の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0031】
[ポリオール化合物]
固体電解質層14には、前記不飽和脂肪族アルコール化合物、前記導電性複合体、及び前記含窒素化合物とは異なる、2つ以上のヒドロキシ基を有する化合物(以下、ポリオール化合物ということがある。)の1種類以上がさらに含まれていてもよい。ポリオール化合物を含有することにより、キャパシタの等価直列抵抗をより一層低減できることがある。
前記ポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンから選択される1種以上が挙げられる。
前記ポリオール化合物は、後述する電解質の溶媒または導電性複合体の分散媒として含まれていてもよい。
【0032】
固体電解質層14に含まれる前記ポリオール化合物の合計の含有量は、固体電解質層14に含まれる導電性複合体100質量部に対して、例えば、100質量部以上10000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなり、静電容量もより向上し易くなるので好ましい。
固体電解質層14に含まれる前記ポリオール化合物の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0033】
[電解液]
固体電解質層14には、電解液用溶媒中に電解質を溶解させた電解液が含まれてもよい。電解液の電気伝導度は高いほど好ましい。
電解液用溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等のアルコール系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン等のアミド系溶媒、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等のニトリル系溶媒、水等が挙げられる。
電解質としては、例えば、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、蟻酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸等のデカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸等のオクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の有機酸;あるいは、硼酸、硼酸と多価アルコールより得られる硼酸の多価アルコール錯化合物;リン酸、炭酸、ケイ酸等の無機酸などをアニオン成分とし、1級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等)、2級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミン等)、3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7等)、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等)などをカチオン成分とした電解質;等が挙げられる。
【0034】
《キャパシタの製造方法》
本発明の第二態様はキャパシタの製造方法であり、第一態様のキャパシタを容易に製造することができる。この製造方法は、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程(誘電体形成工程)と、前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する工程(陰極形成工程)と、前記誘電体層の表面の少なくとも一部に、導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて、固体電解質層を形成する工程と、を含むことが好ましい。
【0035】
前記導電性高分子分散液は、前記不飽和脂肪族アルコール化合物の1種以上が含まれ、さらにπ共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体が分散された分散液である。
前記導電性高分子分散液には、前記含窒素化合物、前記ポリオール化合物、後述する添加剤等を含有させてもよい。
【0036】
誘電体層形成工程は、弁金属の多孔質体からなる陽極11の表面を酸化して誘電体層12を形成する工程である。
誘電体層12を形成する方法としては、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液、ホウ酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液などの化成処理用電解液中にて、陽極11の表面を陽極酸化する方法が挙げられる。
【0037】
陰極形成工程は、誘電体層12に対向する位置に陰極13を配置する工程である。
陰極13を配置する方法としては、例えば、カーボンペースト、銀ペースト等の導電性ペーストを用いて陰極13を形成する方法、アルミニウム箔等の金属箔を誘電体層12に対向配置させる方法などが挙げられる。
【0038】
固体電解質層形成工程は、誘電体層12の表面の少なくとも一部に、前記導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて、固体電解質層14を形成する工程である。
【0039】
導電性高分子分散液を構成する分散媒は、前記導電性複合体を分散させ得る液体であれば特に限定されず、例えば、水、有機溶剤、又は、水と有機溶剤との混合液が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。これら有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0040】
添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。ただし、添加剤は、前記不飽和脂肪族アルコール化合物、前記導電性複合体、前記含窒素化合物、前記ポリオール化合物及び前記分散媒(溶媒)以外の化合物である。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0041】
導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の含有量は特に限定されず、充分な分散性を示す含有量が好ましい。具体的には、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましく、1質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
導電性高分子分散液の総質量に対する前記不飽和脂肪族アルコール化合物の合計の含有量は特に限定されず、導電性高分子分散液が塗布に適した粘度を呈する含有量が好ましい。具体的には、例えば、0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0043】
導電性高分子分散液に含まれる前記不飽和脂肪族アルコール化合物の合計の含有量は、導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体100質量部に対して、例えば、10質量部以上5000質量部以下が好ましく、50質量部以上1000質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、本発明に係る導電性高分子分散液を用いてキャパシタを製造した場合に、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなり、静電容量もより向上し易くなるので好ましい。
【0044】
導電性高分子分散液が前記含窒素化合物を含有する場合、その含有割合は、含窒素化合物の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、0.1質量部以上1000質量部以下が好ましく、1質量部以上100質量部以下がより好ましく、5質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、本発明に係る導電性高分子分散液を用いてキャパシタを製造した場合に、キャパシタの等価直列抵抗がより低下し易くなり、静電容量もより向上し易くなるので好ましい。
【0045】
導電性高分子分散液が前記ポリオール化合物を含有する場合、その含有割合は、ポリオール化合物の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
【0046】
導電性高分子分散液が前記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、例えば、1質量部以上1000質量部以下の範囲内とすることができる。
【0047】
導電性高分子分散液のpHは、誘電体層12や陰極13の腐食を抑制しつつ、ポリアニオンのドープによる導電性向上効果を充分に得る観点から、1超7未満が好ましく、1.5以上5以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。
【0048】
導電性高分子分散液の調製方法としては、ポリアニオン及び分散媒の存在下、π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを酸化重合する方法が挙げられる。
得られた導電性高分子分散液に、前記不飽和脂肪族アルコール化合物を添加し、さらに必要に応じて前記含窒素化合物、前記ポリオール化合物、及び添加剤等を添加することができる。
導電性高分子分散液に含まれる各材料の分散性を向上させる目的で、塗布前に導電性高分子分散液にせん断力を加えながら分散させる公知の高分散処理を施すことが好ましい。
【0049】
導電性高分子分散液の塗布方法としては、例えば、浸漬(ディップコーティング)、コンマコーティング、リバースコーティング、リップコーティング、マイクログラビアコーティング等を適用することができる。これらの中でも、誘電体層12と陰極13との間に固体電解質層14を容易に形成できる観点から、浸漬が好ましい。
乾燥方法としては、例えば、室温乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥等が挙げられる。
【0050】
本発明のキャパシタ及びその製造方法は上記の実施形態の例に限定されない。
本発明のキャパシタでは、誘電体層と陰極との間に、セパレータが設けられてもよい。
誘電体層と陰極との間にセパレータが設けられたキャパシタとしては、巻回型キャパシタが挙げられる。
セパレータとしては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデンなどからなるシート(不織布を含む)、ガラス繊維の不織布などが挙げられる。
セパレータの密度は、0.1g/cm3以上1.0g/cm3以下の範囲であることが好ましく、0.2g/cm3以上0.8g/cm3以下の範囲であることがより好ましい。
セパレータを設ける場合には、セパレータにカーボンペーストあるいは銀ペーストを含浸させて陰極を形成する方法を適用することもできる。
【実施例】
【0051】
(製造例1)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、ポリスチレンスルホン酸含有液を得て、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0052】
(製造例2)
3,4-エチレンジオキシチオフェン14.2gと、製造例1で得たポリスチレンスルホン酸36.7gとを2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去し、溶液に含まれるポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を水洗した。この操作を8回繰り返し、2.0質量%のPEDOT-PSS水分散液を得た。
さらに、得られたPEDOT-PSS水分散液にイミダゾールを添加して中和し、pH2.5に調整した。
【0053】
(製造例3)
エッチドアルミニウム箔(陽極箔)に陽極リード端子を接続した後、アジピン酸アンモニウム10質量%水溶液中で130Vの電圧を印加し、化成(酸化処理)して、アルミニウム箔の両面に誘電体層を形成して陽極箔を得た。
次に、陽極箔の両面に、陰極リード端子が溶接された対向アルミニウム陰極箔を、セルロース製のセパレータを介して積層し、これを円筒状に巻き取ってキャパシタ用素子を得た。
【0054】
(実施例1)
製造例2で得た2.0質量%のPEDOT-PSS水分散液100gに、シス-2-ブテン-1,4-ジオール5gを加え、室温で撹拌した後、高圧分散機を用い、150MPaの圧力で分散処理を施し、導電性高分子分散液を得た。
製造例3で得たキャパシタ用素子を上記の導電性高分子分散液に減圧下で浸漬した後、125℃の熱風乾燥機により30分間乾燥して、誘電体層表面上に導電性複合体を含む固体電解質層を形成させた。
次いで、アルミニウム製のケースに、上記の固体電解質層が形成されたキャパシタ用素子を装填し、封口ゴムで封止して、キャパシタを得た。
【0055】
(実施例2)
シス-2-ブテン-1,4-ジオールの添加量を1gに変更した以外は、実施例1と同様にしてキャパシタを得た。
【0056】
(実施例3)
シス-2-ブテン-1,4-ジオール5gの添加を、2-ブチン-1,4-ジオール5gの添加に変更した以外は、実施例1と同様にしてキャパシタを得た。
【0057】
(実施例4)
2-ブチン-1,4-ジオールの添加量を1gに変更した以外は、実施例3と同様にしてキャパシタを得た。
【0058】
(比較例1)
シス-2-ブテン-1,4-ジオールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてキャパシタを得た。
【0059】
<キャパシタの評価>
各例で得たキャパシタについて、LCRメータZM2376((株)エヌエフ回路設計ブロック製)を用いて、120Hzでの静電容量、及び100kHzでの等価直列抵抗(ESR)を測定した。その結果を表1に示す。
【0060】
<導電層の評価>
各例で使用した導電性高分子分散液0.5gを、スライドガラス上に設置したスペーサーの30mm角の枠内に滴下し、150℃で30分乾燥し、枠内に導電層を形成した。触針式段差計を用いて上記の導電層の膜厚を測定した後、抵抗率計(日東精工アナリテック社製、ロレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で、導電層の電気伝導度(単位:S/cm)を測定した。その結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
不飽和脂肪族アルコール化合物を含む固体電解質層を備えた実施例のキャパシタの等価直列抵抗(ESR)は、比較例のESRよりも小さく、しかも充分な静電容量を有していた。これらのキャパシタの評価結果は、導電層の電気伝導度の測定結果を反映しており、実施例のキャパシタの性能が向上した要因は、固体電解質層の導電性が向上したことにある。
【符号の説明】
【0063】
10 キャパシタ
11 陽極
12 誘電体層
13 陰極
14 固体電解質層