(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】クローラ式クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 23/74 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
B66C23/74 A
(21)【出願番号】P 2020506595
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010227
(87)【国際公開番号】W WO2019177008
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2018045722
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 拓実
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-129079(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129262(WO,A1)
【文献】特開2018-070339(JP,A)
【文献】特開2006-336328(JP,A)
【文献】特開2017-186116(JP,A)
【文献】特開2006-219241(JP,A)
【文献】特開平08-199630(JP,A)
【文献】特開平08-188383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体上に上部旋回体が旋回可能に搭載され、前記下部走行体が、左右一対のサイドフレームと、これら両サイドフレームを連結して前記上部旋回体を支持するカーボディと、このカーボディの前後両端側に取付けられた前側ロワーウエイトと後側ロワーウエイトとを有するクローラ式クレーンにおいて、
前記下部走行体の重心を前記上部旋回体の旋回中心に近づけるように、前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトの重さを異ならせ、
前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトの取付け間違いを防止する取付け間違い防止手段を備えたことを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項2】
請求項1に記載のクローラ式クレーンにおいて、
前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトの外殻を形成する枠体の外形形状は同じであり、これら両枠体の内部に充填される充填物の重さが互いに異なることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項3】
請求項1に記載のクローラ式クレーンにおいて、
前記取付け間違い防止手段として、連結形態を異にする取付機構を含み、
前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトは、前記取付機構を介して前記カーボディにそれぞれ取付けられていることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項4】
下部走行体上に上部旋回体が旋回可能に搭載され、前記下部走行体が、左右一対のサイドフレームと、これら両サイドフレームを連結して前記上部旋回体を支持するカーボディと、このカーボディの前後両端側に取付けられた前側ロワーウエイトと後側ロワーウエイトとを有するクローラ式クレーンにおいて、
前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトの重さを異ならせ、
前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトは、連結形態を異にする取付機構を介して前記カーボディにそれぞれ取付けられており、
前記カーボディの前後両端部いずれか一方にボディ側ピンが設けられると共に、いずれか他方にボディ側フックが設けられており、前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトのうち、いずれか一方に前記ボディ側ピンと係合するウエイト側フックが設けられ、いずれか他方に前記ボディ側フックと係合するウエイト側ピンが設けられていることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項5】
請求項1に記載のクローラ式クレーンにおいて、
前記下部走行体は前記カーボディの前後両端部にそれぞれジャッキを備えており、前記前側ロワーウエイトは前側の前記ジャッキに取付けられ、前記後側ロワーウエイトは後側の前記ジャッキに取付けられていることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項6】
請求項1に記載のクローラ式クレーンにおいて、
前記前側ロワーウエイトまたは前記後側ロワーウエイトが前記カーボディの正しい位置に取り付けられたか否かを検出する検出部を備えることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項7】
請求項5に記載のクローラ式クレーンにおいて、
前記前側のジャッキと前記後側のジャッキは、連結形態を異にする取付機構を介して前記カーボディにそれぞれ取付けられていることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項8】
請求項3に記載のクローラ式クレーンにおいて、
前記カーボディの前端側及び後端側の少なくとも一方は、前記前側ロワーウエイト及び前記後側ロワーウエイトの一方を取り付け可能で、他方を取り付け不能に構成されていることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項9】
請求項8に記載のクローラ式クレーンにおいて、
前記カーボディの前端側と後端側の少なくとも一方に、前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトのいずれか一方の取付けを許可して他方の取付けを阻止する阻止部材が設けられていることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項10】
請求項1に記載のクローラ式クレーンにおいて、
前記サイドフレームは、前後方向の両端部に配設されたアイドラおよび走行装置と、これらアイドラおよび走行装置の外周に装着されたクローラとを有し、前記前側ロワーウエイトは前記アイドラに近い前記カーボディの前端側に取付けられ、前記後側ロワーウエイトは前記走行装置に近い前記カーボディの後端側に取付けられていることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項11】
下部走行体上に上部旋回体が旋回可能に搭載され、前記下部走行体が、左右一対のサイドフレームと、これら両サイドフレームを連結して前記上部旋回体を支持するカーボディと、このカーボディの前後に取付けられた前側ロワーウエイトと後側ロワーウエイトとを有するクローラ式クレーンにおいて、
前記下部走行体の重心を前記上部旋回体の旋回中心に近づけるように、前記上部旋回体の旋回中心から、前記前側ロワーウエイトの重心位置までの距離と、前記後側ロワーウエイトの重心位置までの距離との一方を他方より常に長くしたことを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項12】
請求項11に記載のクローラ式クレーンにおいて、
前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトは、互いの重さが同じであることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項13】
下部走行体上に上部旋回体が旋回可能に搭載され、前記下部走行体が、左右一対のサイドフレームと、これら両サイドフレームを連結して前記上部旋回体を支持するカーボディと、を有するクローラ式クレーンにおいて、
前記サイドフレームは、
前後方向の一端側に配設されて、駆動力を発生させる走行装置と、
前後方向の他端側に配設されて、前記走行装置の駆動力が伝達されて従動するアイドラと、
前記アイドラ及び前記走行装置の外周に装着されて、前記走行装置の駆動力が伝達されて回転するクローラと、
錘として機能する付加部材と、を支持し、
前記走行装置の重量は、前記アイドラより重く、
前記付加部材は、前記上部旋回体の旋回中心よりも前記アイドラ側において、
前記下部走行体の重心を前記上部旋回体の旋回中心に近づけるように前記サイドフレームに取り付けられ、当該付加部材の全体が前記サイドフレームの側面の枠より内側に収まるように配置されることを特徴とするクローラ式クレーン。
【請求項14】
下部走行体上に上部旋回体が旋回可能に搭載され、前記下部走行体が、左右一対のサイドフレームと、これら両サイドフレームを連結して前記上部旋回体を支持するカーボディと、を有するクローラ式クレーンにおいて、
前記サイドフレームは、
前後方向の一端側に配設されて、駆動力を発生させる走行装置と、
前後方向の他端側に配設されて、前記走行装置の駆動力が伝達されて従動するアイドラと、
前記アイドラ及び前記走行装置の外周に装着されて、前記走行装置の駆動力が伝達されて回転するクローラと、を支持し、
前記走行装置は、駆動力を前記クローラに伝達する駆動輪を有し、
前記アイドラの重量は、前記駆動輪の重量よりも重いことを特徴とするクローラ式クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部走行体上に上部旋回体が旋回可能に搭載されているクローラ式クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
クローラ式クレーンは、クローラを備えた下部走行体の上部に上部旋回体を旋回可能に設け、この上部旋回体の前部側にブームを起伏可能に支持したものであり、上部旋回体の後部側にはカウンタウエイトが設けられている。また、下部走行体は、外周にクローラを装着した左右一対のクローラフレームと、これら両クローラフレームを連結して上部旋回体を支持するカーボディとを有しており、クローラ式クレーン全体のバランス性を高めるために、カーボディの前後両端側には一対のロワーウエイト(カーボディウエイトとも呼称される)が取付けられている。
【0003】
このようなクローラ式クレーンにおいて、一対のロワーウエイトの少なくとも一方をリンク部材等からなる支持機構によって移動可能に支持し、油圧シリンダ等からなる駆動部を動作させてロワーウエイトを前後方向に移動させることにより、下部走行体の重心位置を移動可能とした技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のクローラ式クレーンでは、通常の作業時に、一対のロワーウエイトをカーボディの前後両端側に固定的に取付けておき、組立時にブームを自力で起立させる場合などには、駆動部を動作させて支持機構に支持された前側のロワーウエイトを前方へ移動するようにしている。これにより、前側のロワーウエイトが地面に接する接地位置まで移動するため、下部走行体の重心位置が上部旋回体を旋回中心よりも後方に変更され、クローラ式クレーンの前方への転倒を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、クローラ式クレーンでは、サイドフレームにおける前後方向の両端部にアイドラと走行装置を設置し、これらアイドラと走行装置の外周にクローラを装着しているため、下部走行体の重心は、サイドフレームにおける前後方向の中心位置とならず、駆動モータや減速機等の重量物を含む走行装置が配置された後端側に偏倚したものとなる。一方、下部走行体のカーボディ上に搭載された上部旋回体についてみると、上部旋回体の旋回中心と一致するのはカーボディの中心となるため、上部旋回体の旋回中心と下部走行体の重心とが前後方向に位置ずれしたものとなる。
【0007】
これにより、上部旋回体の前部側に設けられた運転室を下部走行体の前方(アイドラの配置側)に向けた状態で作業を行う前方吊り時と、上部旋回体を180度旋回して運転室を下部走行体の後方(走行装置の配置側)に向けた状態で作業を行う後方吊り時とでは、クローラ式クレーン全体の重心位置が大きく変わってしまうことになる。すなわち、上部旋回体の旋回中心とクローラ式クレーン全体の重心位置との間の距離が、後方吊り時に比べて前方吊り時の方が大きくなるため、前方吊り時における後方安定度が著しく悪くなるという問題が発生する。
【0008】
なお、特許文献1に記載された従来技術では、一対のロワーウエイトをカーボディの前後両端側に固定的に取付けた状態で通常の作業を行うようになっているが、通常の作業時においても、駆動部を動作させてロワーウエイトの取付位置を移動するようにすれば、下部走行体の重心位置を移動させることは可能となる。しかし、その場合、上部旋回体を旋回する度に駆動部を動作させてロワーウエイトの取付位置を変更する必要があるため、作業効率が著しく悪化するという問題が発生する。また、駆動部と支持機構を含む構成が複雑になるという問題もあり、何らかの原因で駆動部が故障した場合、ロワーウエイトの移動が不可能となるため、後方への転倒を避けるために法令で定められた後方安定度の基準を順守できなくなってしまう。
【0009】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、前方吊り時と後方吊り時のいずれの場合においても高い後方安定度を確保することができるクローラ式クレーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、代表的な本発明は、下部走行体上に上部旋回体が旋回可能に搭載され、前記下部走行体が、左右一対のサイドフレームと、これら両サイドフレームを連結して前記上部旋回体を支持するカーボディと、このカーボディの前後両端側に取付けられた前側ロワーウエイトと後側ロワーウエイトとを有するクローラ式クレーンにおいて、前記下部走行体の重心を前記上部旋回体の旋回中心に近づけるように、前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトの重さを異ならせ、前記前側ロワーウエイトと前記後側ロワーウエイトの取付け間違いを防止する取付け間違い防止手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明のクローラ式クレーンによれば、前方吊り時と後方吊り時のいずれの場合においても高い後方安定度を確保することができる。なお、上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るクローラ式クレーンの側面図である。
【
図2】
図1のクローラ式クレーンに備えられる下部走行体の平面図である。
【
図3】
図1のクローラ式クレーンに備えられる下部走行体の正面図である。
【
図5】下部走行体のカーボディに取付けられた前側ロワーウエイトの連結状態を示す側面図である。
【
図6】カーボディと前側ロワーウエイトの取付機構を示す斜視図である。
【
図8】カーボディと後側ロワーウエイトの取付機構を示す斜視図である。
【
図10】カーボディとジャッキの取付け部分を示す斜視図である。
【
図11】変形例1に係るクローラ式クレーンの要部説明図である。
【
図12】変形例2に係るクローラ式クレーンのサイドフレームの側面図である。
【
図13】変形例3に係るクローラ式クレーンのサイドフレームの側面図である。
【
図14】変形例4に係るクローラクレーンのロワーウエイトを示す側面図である。
【
図15】変形例5に係るクローラクレーンのロワーウエイトを示す側面図である。
【
図16】変形例6に係るクローラクレーンのロワーウエイトを示す側面図である。
【
図17】変形例7に係るクローラクレーンのロワーウエイトを示す側面図である。
【
図18】変形例8に係るクローラクレーンのカーボディの側面図である。
【
図19】変形例9に係る取付部及びジャッキアーム周辺の模式図である。
【
図20】変形例10に係る取付部及びジャッキアーム周辺の模式図である。
【
図21】変形例11に係る取付部及びジャッキアーム周辺の模式図である。
【
図22】変形例12に係るジャッキアーム及びロワーウエイトを示す図である。
【
図23】変形例13に係るジャッキアーム及び前側ロワーウエイトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るクローラ式クレーンについて説明する。
図1は本実施形態に係るクローラ式クレーンの全体構成を示す側面図である。
図1に示すように、このクローラ式クレーンは、下部走行体1と、下部走行体1上に旋回輪2を介して旋回可能に搭載された上部旋回体3とを備えており、旋回輪2は旋回用油圧モータ(図示せず)により駆動される。
【0014】
上部旋回体3の前部側には、運転室を構成するキャブ4が設けられていると共に、ブーム5の基端部が回動可能に軸支されている。また、上部旋回体3の中央部にはマスト6の基端部が回動可能に軸支されており、上部旋回体3の後部側にはカウンタウエイト7が設けられている。
【0015】
上部旋回体3には巻上ドラム8と起伏ドラム9が搭載されており、これら巻上ドラム8と起伏ドラム9はそれぞれ油圧モータ(いずれも図示せず)により駆動される。巻上ドラム8には巻上ロープ8aが巻回されており、不図示の旋回用油圧モータの駆動により巻上ドラム8が回動すると、巻上ロープ8aが巻き取りまたは繰り出されてフック10が昇降する。起伏ドラム9には起伏ロープ9aが巻回されており、不図示の起伏用油圧モータの駆動により起伏ドラム9が回動すると、起伏ロープ9aが巻き取りまたは繰り出されてブーム5が起伏する。
【0016】
図2~
図4に示すように、下部走行体1は、前後方向に延びる左右一対のサイドフレーム11L,11Rと、これら両サイドフレーム11L,11Rを連結するカーボディ12とを備えており、このカーボディ12に旋回輪2を介して上部旋回体3が支持されている。各サイドフレーム11L,11Rの前後方向の一端側には駆動モータや減速機を含む走行装置13が、他端側にはアイドラ14がそれぞれ配設されており、これら走行装置13とアイドラ14の外周にクローラ15が装着されている。以下の説明では、アイドラ14が配置された方を前側、走行装置13が配置された方を後側とする。
【0017】
カーボディ12の前面両端部と後面両端部の計4箇所には、先端にジャッキ16を装着したジャッキアーム16aの基部がそれぞれ回動可能に取付けられている。これら各ジャッキ16は、クローラ式クレーンの組立・分解搬送時にカーボディ12を持ち上げて支持するためのものである。なお、以下の説明では、前面2箇所のジャッキアームに符号16Aを付して前側ジャッキアームと呼び、後面2箇所のジャッキアームに符号16Bを付して後側ジャッキアームと呼ぶこととする。
【0018】
カーボディ12の前面2箇所装着された前側ジャッキアーム16Aには前側ロワーウエイト17が取付けられており、カーボディ12の後面2箇所に装着された後側ジャッキアーム16Bには後側ロワーウエイト18が取付けられている。これら前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18は、互いの外形サイズは略同一であるが、両者の質量は大きく異なっている。
【0019】
具体的には、前側ロワーウエイト17の外殻を形成する枠体17aと後側ロワーウエイト18の外殻を形成する枠体18aとは、いずれも外形サイズを同じくする直方体形状であるが、両者の内部に充填される充填物の質量に大きな差があり、後側ロワーウエイト18の枠体18a内の充填物に比べて前側ロワーウエイト17の枠体17a内の充填物の方が遥かに大きな質量に設定されている。各枠体17a,18a内の充填物の質量を変えるのには、例えば、充填物であるコンクリートに対して比重が大きい重量物(鉄くず等)の含有量を変えれば良く、あるいは、充填物が収納される内部空間の容積を各枠体17a,18aで変えておいても良い。
【0020】
前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の重さ(質量)の相違量は、下部走行体1の重心位置と上部旋回体3の旋回中心とのずれ量を考慮して設定する必要がある。すなわち、上部旋回体3は下部走行体1の中央部に設けられたカーボディ12上に旋回輪2を介して支持されているため、上部旋回体3の旋回中心はカーボディ12上の旋回輪2の中心位置となる(
図4に示す直線P参照)。これに対し、下部走行体1の重心は、各サイドフレーム11L,11Rの前後方向の中心位置とはならず、駆動モータや減速機等の重量物を含む走行装置13が配設された後端側に偏倚したものとなる。したがって、この偏倚分をキャンセルするように、上部旋回体3の旋回中心から等距離に取付けられる前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18のうち、カーボディ12の前端側に取付けられる前側ロワーウエイト17をカーボディ12の後端側に取付けられる後側ロワーウエイト18よりも重くすれば、下部走行体1の重心位置を上部旋回体3の旋回中心に略一致させることができる。換言すれば、前側ロワーウエイト17の重さと後側ロワーウエイトの重さが同一である場合に比べて、下部走行体1の重心位置を上部旋回体3の旋回中心に近づけるこことができる。なお、本実施形態においては、上部旋回体3の旋回中心から前側ロワーウエイト17の重心までの距離と、上部旋回体3の旋回中心から後側ロワーウエイト18の重心までの距離とは同じに設定されているが、これに限定されるものではなく、両者が異なるように設定されてもよい。
【0021】
ここで、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の重さを異ならせるとは、両者の重さが異なるように設計しているということであり、(両者の重さが同一となるように設計したが)製造誤差によるバラツキの範囲内で異なるものを含まないものとする。本実施形態の場合、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の枠体17a内に充填物を詰めながら重量を調整しているため、製造誤差は±1%程度と少ないものとなり、±1%未満のバラツキは許容することとする。また、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18を鋳造で製造することも可能であり、その場合の製造誤差は±3%程度と若干大きくなるため、±3%未満のバラツキは許容することとする。すなわち、本発明による「前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の重さを異ならせる」構成は、(両者の重さが同一となるように設計したが)製造誤差によるバラツキの範囲内で異なっている場合は含まれないが、例えば、両者の重さの差が重い方のロワーウエイトの重量の4%以上である場合は、「前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の重さを異ならせる」構成に含まれることとする。なお、本実施形態においては、前側ロワーウエイト17が後側ロワーウエイト18に対して10%程度重くなるように設定している。
【0022】
このように重さの異なる前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18は、以下に説明するように、カーボディ12の前端側と後端側に対する取付け間違いを防止するために、互いの連結形態を異にする取付機構を介して各ジャッキ16の前側ジャッキアーム16Aと後側ジャッキアーム16Bに取付けられるようになっている。
【0023】
図6~
図9に示すように、前側ロワーウエイト17の枠体17aの相対向する両側面には、係止溝17bを有するフック形状の取付部(ウエイト側フック)17cが斜め上方に向けて突出形成されており、後側ロワーウエイト18の枠体18aの相対向する両側面には、ピン(ウエイト側ピン)18bを有する取付部18cが斜め上方に向けて突出形成されている。一方、カーボディ12の前面2箇所に装着された前側ジャッキアーム16Aの先端部には、ピン(ボディ側ピン)19aを有する取付受け部19bが形成されており、カーボディ12の後面2箇所に装着された後側ジャッキアーム16Bの先端部には、係止溝20aを有するフック形状の取付受け部(ボディ側フック)20bが形成されている。
【0024】
したがって、前側ロワーウエイト17のフック形状の取付部17cを前側ジャッキアーム16Aの取付受け部19bに設けられたピン19aに引っ掛けることにより、前側ロワーウエイト17を前側ジャッキアーム16Aに対して正しく取付けることができる(
図5参照)。しかし、前側ロワーウエイト17の取付部17cと後側ジャッキアーム16Bの取付受け部20bは両方共にフック形状であるため、前側ロワーウエイト17の取付部17cを後側ジャッキアーム16Bの取付受け部20bに引っ掛けることはできず、前側ロワーウエイト17を間違って後側ジャッキアーム16Bに取付けてしまうことが防止されている。
【0025】
後側ロワーウエイト18についても同様であり、後側ロワーウエイト18の取付部18cに設けられたピン18bを後側ジャッキアーム16Bのフック形状の取付受け部20bに引っ掛けることにより、後側ロワーウエイト18を後側ジャッキアーム16Bに対して正しく取付けることは可能であるが、後側ロワーウエイト18の取付部18cは前側ロワーウエイト17の取付部17cに引っ掛けることができないため、後側ロワーウエイト18を間違って前側ジャッキアーム16Aに取付けてしまうことが防止されている。
【0026】
なお、ピンとフックの関係は上記と逆でも良く、前側ロワーウエイト17の取付部にピンを設けて、前側ジャッキアーム16Aの取付受け部をフック形状にすると共に、後側ロワーウエイト18の取付部をフック形状にして、後側ジャッキアーム16Bの取付受け部にピンを設けることも可能である。
【0027】
また、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18をカーボディ12に取付ける取付機構として、上記したようなピンとフック以外の構成を採用することも可能であり、要は、重さの異なる前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の取付け間違いを機械的に防止できる取付機構であれば良い。
【0028】
さらに、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の取付け間違いを視覚的に防止するために、各枠体17a,18aに表示形態の異なる表示や着色を施すようにしても良く、このような視覚的な間違い防止手段を単独で使用したり、上記した連結形態を異にする取付機構と併用するようにしても良い。
【0029】
ここで、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18をジャッキ16の前側ジャッキアーム16Aと後側ジャッキアーム16Bを介してカーボディ12に取付ける場合、前側ジャッキアーム16Aと後側ジャッキアーム16Bをカーボディ12の所定位置に間違えなく取付けておく必要がある。
図10は、このようなジャッキ16の取付け間違いを防止するための構成例を示す説明図である。
【0030】
図10に示すように、カーボディ12の前面側の連結部位には阻止部材である第1係合ピン21が設けられ、カーボディ12の後面側の連結部位には阻止部材である第2係合ピン(図示せず)が設けられており、これら第1係合ピン21と第2係合ピンはそれぞれの連結部位における設置位置を異にしている。また、前側ジャッキアーム16Aと後側ジャッキアーム16Bの基端側にはそれぞれ当接部22が設けられ、前側ジャッキアーム16Aの当接部22は第2係合ピンとのみ当接可能となっており、後側ジャッキアーム16Bの当接部22は第1係合ピン21とのみ当接可能となっている。
【0031】
このような構成において、第1係合ピン21が設けられたカーボディ12の前面側に前側ジャッキアーム16Aの基端側を挿入すると、前側ジャッキアーム16Aの当接部22は第1係合ピン21との当接が回避されているため、前側ジャッキアーム16Aをカーボディ12の前面側に正しく取付けることができる。しかし、第2係合ピンが設けられたカーボディ12の後端側に前側ジャッキアーム16Aの基端側を挿入すると、その挿入途中で前側ジャッキアーム16Aの当接部22が第2係合ピンと当接(干渉)してしまうため、前側ジャッキアーム16Aをカーボディ12の後端側に取付けることはできなくなる。
【0032】
後側ジャッキアーム16Bについても同様であり、第2係合ピンが設けられたカーボディ12の後端側に後側ジャッキアーム16Bの基端側を挿入すると、後側ジャッキアーム16Bの当接部22は第2係合ピンとの当接が回避されているため、後側ジャッキアーム16Bをカーボディ12の後面側に正しく取付けることができる。しかし、第1係合ピン21が設けられたカーボディ12の前面側に後側ジャッキアーム16Bの基端側を挿入すると、その挿入途中で後側ジャッキアーム16Bの当接部22が、第1係合ピン21と当接(干渉)してしまうため、後側ジャッキアーム16Bをカーボディ12の前端側に取付けることはできなくなる。
【0033】
なお、このような阻止部材(第1係合ピン21、第2係合ピン)と当接部22とは異なる構成を用いて、前側ジャッキアーム16Aと後側ジャッキアーム16Bの取付け間違いを防止することも可能であり、要は、カーボディ12の前端側の連結部位に、前側ジャッキアーム16Aの取付けを許可して後側ジャッキアーム16Bの取付けを阻止する第1阻止部材が設けられていると共に、カーボディ12の後端側に、前側ジャッキアーム16Aの取付けを阻止して後側ジャッキアーム16Bの取付けを許可する第2阻止部材が設けられていれば良い。
【0034】
また、
図10に示す構成例では、カーボディ12の前面側の連結部位に第1係合ピン21を設けると共に、カーボディ12の後面側の連結部位に第1係合ピン21と異なる形態の第2係合ピンを設けているが、カーボディ12の前面側と後面側のいずれか一方の連結部位にだけ阻止部材(第1係合ピン21または第2係合ピン)を設け、この阻止部材と当接可能な当接部を前側ジャッキアーム16Aと後側ジャッキアーム16Bの一方にだけ設ける構成としても良い。例えば、カーボディ12の前面側には阻止部材である第1係合ピン21を設けるが、カーボディ12の後面側には阻止部材を設けず、第1係合ピン21と当接可能な当接部22を後側ジャッキアーム16Bのみに設けた場合、カーボディ12の前面側に間違って後側ジャッキアーム16Bを取付けようとしても、第1係合ピン21と当接部22が干渉して取付け不可となる。逆に、前側ジャッキアーム16Aをカーボディ12の後面側に取付けようとし場合は取付け可能となるが、その際、後側ジャッキアーム16Bがカーボディ12の前面側に取付け不可であるため、前側ジャッキアーム16Aの取付部位が間違っていることに気付くことができる。
【0035】
また、以上説明した実施形態では、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18を各ジャッキ16のジャッキアーム16a(前側ジャッキアーム16A、後側ジャッキアーム16B)を介してカーボディ12に取付けているが、ジャッキ16を介さずに前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18をカーボディ12に直接取付けるようにしても良い。
【0036】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0037】
以下、上記の実施形態の変形例を説明する。なお、上記の実施形態との共通点の詳細な説明は省略し、相違点を中心に説明する。また、上記の実施形態及び下記の変形例は、単独で実施するだけでなく、実施形態及び変形例、或いは変形例同士を、任意の組み合わせで組み合わせて実施してもよい。
【0038】
[変形例1]
図11は上記実施形態の変形例1に係るクローラ式クレーンの要部を示す説明図である。変形例1では、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の重さ(質量)は同じであるが、上部旋回体3の旋回中心(直線Pで示す)から、前側ロワーウエイト17の重心位置までの距離L1と、後側ロワーウエイト18の重心位置までの距離L2とを異ならせている点が上記実施形態と相違する。
【0039】
具体的に説明すると、
図11に示すように、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18は外形サイズや重さを同じくする共通部材であるが、前側ロワーウエイト17が前後方向に長い取付ブラケット17Aを用いてカーボディ12に前面側に取付けられているのに対し、後側ロワーウエイト18が短寸の取付ブラケット18Aを用いてカーボディ12に後面側に取付けられている。このように、両取付ブラケット17A,18Aの長さ相当分の差によって、上部旋回体の旋回中心Pから前側ロワーウエイト17の重心位置までの距離L1が、旋回中心Pから後側ロワーウエイト18の重心位置までの距離L2よりも長く設定されるため、重さが同じ前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18を用いた場合でも、下部走行体1の重心位置と上部旋回体3の旋回中心とを略一致させることができる。
【0040】
なお、
図11に示す変形例1において、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の重さを同じくする構成とは、両者の重さを同一に設計しているということであり、製造誤差によるバラツキの範囲内である場合を含むものとし、両者の重さの差が重い方のロワーウエイトの重量の5%未満(例えば3%)である場合は、「前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18の重さが同じである」構成に含まれることとする。なお、前側ロワーウエイト17及び後側ロワーウエイト18の重さは、異なっていてもよい。例えば、距離L1を距離L2より長くすることに加えて、前側ロワーウエイト17の重さを後側ロワーウエイト18の重さより重くすることによって、下部走行体1の重心位置を上部旋回体3の旋回中心にさらに近づけてもよい。
【0041】
[変形例2]
図12は上記実施形態の変形例2に係るクローラ式クレーンのサイドフレーム11Lの側面図である。変形例2では、サイドフレーム11L,11Rの構成部品の素材(重さ)を変更することによって、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけるものである。
【0042】
図12に示すように、変形例2に係るサイドフレーム11Lは、駆動輪を含む走行装置13、アイドラ14、クローラ15に加えて、駆動輪及びアイドラ14の間に配置される複数のローラ23とを支持している。走行装置13は、駆動モータで発生させた駆動力を、駆動輪を通じてクローラ15に伝達する。クローラ15は、駆動輪を通じて駆動力が伝達されて回転する。アイドラ14は、クローラ15を通じて走行装置13の駆動力が伝達されて従動する。
【0043】
前述したように、駆動モータは減速機を含む走行装置13の重量は、アイドラ14より重い。そこで、変形例2では、アイドラ14の重量を、走行装置13の構成要素である駆動輪の重量より重くする。なお、従来のアイドラ14は、一般的に鋳鉄で形成されていた。これに対して、変形例2では、アイドラ14を鋳鉄より比重の大きい金属(例えば、鍛造鋼)で形成する。サイドフレーム11Rについても同様である。
【0044】
変形例2によれば、後端側に偏倚していた下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけることができる。また、従来より比重の大きい素材でアイドラ14を形成することによって、アイドラ14の寸法を変更することなく、重量を重くすることができる。その結果、サイドフレーム11L、11Rを設計変更する必要することなく、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけることができる。
【0045】
[変形例3]
図13は上記実施形態の変形例3に係るクローラ式クレーンのサイドフレーム11Lの側面図である。変形例3では、サイドフレーム11L,11Rに新たな部品を付加することによって、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけるものである。
【0046】
図13に示すように、変形例3に係るサイドフレーム11Lは、
図12の構成に加えて、付加部材25を支持している。より詳細には、付加部材25は、サイドフレーム11Lの前後方向の中心より前方(アイドラ14に近い側)に配置されている。付加部材25は、例えば、クローラ15が走行するのに必要な動作をするするうえで、必要のない部品であってもよい。もしくは、付加部材25は、錘としてのみ機能する部材であってもよい。さらに、付加部材25は、他の部材を支持しない部材であってもよい。
【0047】
変形例3に係る付加部材25は、比重の大きい金属(例えば、鉛)で形成された矩形の鉄板である。また、変形例3に係る付加部材25は、サイドフレーム11Lの前後方向の中心より前方(アイドラ14側)において、サイドフレーム11Lの側面に溶接されている。但し、付加部材25の素材、形状、取付位置、及び取付方法は、前述の例に限定されない。
【0048】
なお、走行装置13、アイドラ14、クローラ15、及び付加部材25を取り外した状態で、サイドフレーム11L単体の重心位置は、上部旋回体3の旋回中心と同一(製造誤差3%で考える。)か、若しくは走行装置13を装着する側に僅かに偏倚している。そして、前述したように、走行装置13はアイドラ14より重いので、走行装置13、アイドラ14、クローラ15をサイドフレーム11Lに取り付けると、下部走行体1全体の重心位置は、走行装置13側に偏る。
【0049】
そこで、変形例3のように、上部旋回体3の旋回中心よりアイドラ14側に付加部材25を取り付ければ、従来では後端側に偏倚していた下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけることができる。また、サイドフレーム11L,11Rの動作に必要のない付加部材25で重心調整を行うことにより、その形状、大きさ、取付位置の自由度が高まるので、重心位置の微調整が可能になる。
【0050】
[変形例4]
図14は上記実施形態の変形例4に係るクローラクレーンのロワーウエイト17,18を示す側面図である。変形例4では、前側ロワーウエイト17と後側ロワーウエイト18とで、重量物を充填する枠体17a、18aを前後方向に偏在させることによって、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけるものである。
【0051】
図14に示すように、変形例4に係る枠体17aは、前側ロワーウエイト17の前方側(すなわち、サイドフレーム11L,11Rの前後方向の中心から遠い側)に偏在している。一方、変形例4に係る枠体18aは、後側ロワーウエイト18の前方側(すなわち、サイドフレーム11L,11Rの前後方向の中心に近い側)に偏在している。これにより、上部旋回体3の旋回中心から前側ロワーウエイト17の重心位置までの距離は、上部旋回体3の旋回中心から後側ロワーウエイト18の重心位置までの距離より遠くなる。
【0052】
変形例4によれば、サイドフレーム11L,11Rの前後方向の中心位置を基準として、前方側の回転モーメントが後方側より大きくなるので、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけることができる。なお、枠体17a、18aは、前側ロワーウエイト17及び後側ロワーウエイト18の内部において、前後方向に移動可能に構成されてもよい。これにより、下部走行体1の重心位置の微調整が可能になる。
【0053】
[変形例5]
図15は上記実施形態の変形例5に係るクローラクレーンのロワーウエイト17,18を示す側面図である。変形例5では、任意の数のウエイトを積層してロワーウエイト17、18を構成することによって、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけるものである。
【0054】
図15に示すように、変形例5に係る前側ロワーウエイト17は、3つのウエイト26a、26b、26cを上下方向に積層して構成されている。一方、変形例5に係る後側ロワーウエイト18は、2つのウエイト26d、26eを上下方向に積層して構成されている。なお、ウエイト26a~26eは、同一の重量であってもよいし、異なる重量であってもよい。さらにいえば、ウエイト26a~26eは、同一の部材で構成されていてもよいし、異なる部材で構成されていてもよい。また、ウエイト26a~26eは、前後方向に積層されていてもよいし、一部が上下方向に、一部が前後方向に積層されるものでもよい。
【0055】
変形例5によれば、積層するウエイト26a~26eの数を増減させることによって、前側ロワーウエイト17及び後側ロワーウエイト18の重量を調整することができる。その結果、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけることができる。
【0056】
[変形例6]
図16は上記実施形態の変形例6に係るクローラクレーンのロワーウエイト17,18を示す側面図である。変形例6では、重量物を枠体17a、18a間で移動させることによって、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけるものである。
【0057】
図16に示すように、変形例6に係る枠体17a、18aには、流動性のある重量物(例えば、水、油、液体状の金属など)が充填されている。そして、変形例6に係るクローラクレーンは、枠体17a、18aを接続する配管27と、枠体17a、18aの一方に充填された重量物を吸い上げて、他方に充填するポンプ28をさらに備える。
【0058】
変形例6によれば、ポンプ28によって枠体17a、18a間で重量物を移動させることによって、前側ロワーウエイト17及び後側ロワーウエイト18の重量を調整することができる。その結果、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけることができる。
【0059】
なお、下部走行体1、上部旋回体3、及びドラム8、9(以下、「アクチュエータ」と表記する。)を駆動させるための作動油を重量物として用いる場合、アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプ(図示省略)に、ポンプ28の機能を持たせてもよい。一方、作動油以外の流体を重量物として用いる場合、アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプとは別に、新たにポンプ28を設ける必要がある。
【0060】
[変形例7]
図17は上記実施形態の変形例7に係るクローラクレーンのロワーウエイト17,18を示す側面図である。変形例7では、長辺及び短辺を有するロワーウエイト17,18の取付方向を変更することによって、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけるものである。
【0061】
変形例7に係るロワーウエイト17、18は、概ね直方体の外形を呈する。そして、
図17に示すように、変形例7に係る前側ロワーウエイト17は、長辺を前後方向に向け、短辺を上下方向に向けた状態で前側ジャッキアーム16Aに取り付けられている。一方、変形例7に係る後側ロワーウエイト18は、長辺を上下方向に向け、短辺を前後方向に向けた状態で後側ジャッキアーム16Bに取り付けられている。これにより、上部旋回体3の旋回中心から前側ロワーウエイト17の重心位置までの距離は、上部旋回体3の旋回中心から後側ロワーウエイト18の重心位置までの距離より遠くなる。
【0062】
変形例7によれば、サイドフレーム11L,11Rの前後方向の中心位置を基準として、前方側の回転モーメントが後方側より大きくなるので、下部走行体1の重心位置を、サイドフレーム11L,11Rの前後方向の中心に近づけることができる。なお、ロワーウエイト17,18は、ジャッキアーム16aに対する取付角度(すなわち、長辺及び短辺の向き)を変更可能に構成されていてもよい。これにより、これにより、下部走行体1の重心位置の微調整が可能になる。
【0063】
[変形例8]
図18は上記実施形態の変形例8に係るクローラクレーンのカーボディ12の側面図である。変形例8では、ロワーウエイト17,18とは別のウエイト30をカーボディ12に取り付けることによって、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけるものである。
【0064】
図18に示すように、変形例8に係るカーボディ12には、サイドフレーム11L,11Rの前後方向の中心より前方で、且つ前側ロワーウエイト17より後方に、ウエイト30が取り付けられている。
【0065】
変形例8によれば、カーボディ12の前方側が後方側より重くなる。その結果、下部走行体1の重心位置を、上部旋回体3の旋回中心に近づけることができる。なお、ウエイト30は、カーボディ12の内部空間に充填される重量物でもよいし、カーボディ12の外側に着脱されるものでもよい。
【0066】
[変形例9]
図19は上記実施形態の変形例9に係る取付部17c及びジャッキアーム16A、16B周辺の模式図である。変形例9では、ジャッキアーム16A、16Bでピン19aの直径を異ならせることによって、ロワーウエイト17,18の取付け間違いを防止するものである。
【0067】
図19に示すように、変形例9に係る前側ロワーウエイト17の係止溝17bの溝幅は、後側ロワーウエイト18の係止溝17bの溝幅より大きい。また、変形例9に係る前側ジャッキアーム16Aのピン19aの直径は、後側ジャッキアーム16Bのピン19aの直径より大きい。なお、係止溝17bの溝幅及びピン19aの直径は、前後で異なっていればよく、大小関係は前述の例と反対でもよい。
【0068】
変形例9によれば、前側ロワーウエイト17はジャッキアーム16A、16Bの両方に取り付けることができるものの、後側ロワーウエイト18は後側ジャッキアーム16Bにしか取り付けることができない。すなわち、前側ジャッキアーム16Aは、前側ロワーウエイト17を取り付け可能で、後側ロワーウエイト18を取り付け不能に構成されている。そのため、前側ロワーウエイト17を後側ジャッキアーム16Bに誤って取り付けたとしても、後側ロワーウエイト18を前側ジャッキアーム16Aに取り付ける際に、取付け間違いに気付くことができる。
【0069】
[変形例10]
図20は上記実施形態の変形例10に係る取付部17c及びジャッキアーム16A、16B周辺の模式図である。変形例10では、ジャッキアーム16A、16Bそれぞれで、ピン19aを保持する保持板の間隔を異ならせることによって、ロワーウエイト17,18の取付け間違いを防止するものである。
【0070】
図20に示すように、変形例10に係る前側ロワーウエイト17の取付部17cの板厚(左右方向の寸法)は、後側ロワーウエイト18の取付部17cの板厚より大きい。また、変形例10に係る前側ジャッキアーム16Aの取付受け部19bは、ピン19aの両端を保持する保持板の間隔が後側ジャッキアーム16Bの取付受け部19bより広い。なお、取付部17c、18cの板厚及び保持板の間隔は、前後で異なっていればよく、大小関係は前述の例と反対でもよい。
【0071】
変形例10によれば、後側ロワーウエイト18はジャッキアーム16A、16Bの両方に取り付けることができるものの、前側ロワーウエイト17は前側ジャッキアーム16Aにしか取り付けることができない。すなわち、後側ジャッキアーム16Bは、後側ロワーウエイト18を取り付け可能で、前側ロワーウエイト17を取り付け不能に構成されている。そのため、後側ロワーウエイト18を前側ジャッキアーム16Aに誤って取り付けたとしても、前側ロワーウエイト17を後側ジャッキアーム16Bに取り付ける際に、取付け間違いに気付くことができる。
【0072】
[変形例11]
図21は上記実施形態の変形例11に係る取付部17c及びジャッキアーム16A、16B周辺の模式図である。変形例11では、ジャッキアーム16A、16Bそれぞれで、一対の取付受け部19bの間隔を異ならせることによって、ロワーウエイト17,18の取付け間違いを防止するものである。
【0073】
図21に示すように、変形例11に係る前側ロワーウエイト17の左右一対の取付部17cの間隔は、後側ロワーウエイト18の左右一対の取付部18cの間隔より広い。また、変形例11に係る前側ジャッキアーム16Aの左右一対の取付受け部19bの間隔は、後側ジャッキアーム16Bの左右一対の取付受け部19bの間隔より広い。なお、取付部17cの間隔及び取付受け部19bの間隔は、前後で異なっていればよく、大小関係は前述の例と反対でもよい。
【0074】
すなわち、前側ジャッキアーム16Aは、前側ロワーウエイト17を取り付け可能で、後側ロワーウエイト18を取り付け不能に構成されている。また、後側ジャッキアーム16Bは、後側ロワーウエイト18を取り付け可能で、前側ロワーウエイト17を取り付け不能に構成されている。
【0075】
変形例11によれば、前側ロワーウエイト17は前側ジャッキアーム16Aにしか取り付けることができず、後側ロワーウエイト18は後側ジャッキアーム16Bにしか取り付けることができない。そのため、ロワーウエイト17,18の取付け間違いにいち早く気付くことができる。
【0076】
[変形例12]
図22は上記実施形態の変形例12に係るジャッキアーム16A、16B及びロワーウエイト17、18を示す図である。変形例12では、ジャッキアーム16A、16Bにロワーウエイト17、18が取り付けられた際の物理量(例えば、重量、圧力など)を計測することによって、ロワーウエイト17、18の取付け間違いを防止するものである。
【0077】
図22に示すように、変形例12に係るクローラクレーンは、前側ジャッキアーム16Aのピン19aに付加される物理量を計測するセンサ31と、後側ジャッキアーム16Bのピン19aに負荷される物理量を計測するセンサ32と、センサ31、32から出力される信号に基づいて、ジャッキアーム16A、16Bに正しいロワーウエイト17、18が取り付けられたか否かを判定するコントローラ33とを備える。
【0078】
コントローラ33は、例えば、プログラムを記憶するROMと、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行するCPUと、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAMとを備える。そして、ROMまたはRAMには、ロワーウエイト17、18が取り付けられた際にピン19aに付加される物理量の範囲が記憶されている。
【0079】
コントローラ33は、センサ31で計測された物理量が、前側ロワーウエイト17に対応する物理量の範囲内か否かを判定する。そして、コントローラ33は、センサ31で計測された物理量が前側ロワーウエイト17に対応する物理量の範囲内であれば、前側ジャッキアーム16Aに正しい前側ロワーウエイト17が取り付けられたと判定する。一方、コントローラ33は、センサ31で計測された物理量が前側ロワーウエイト17に対応する物理量の範囲外であれば、前側ジャッキアーム16Aに間違ったウエイト(例えば、後側ロワーウエイト18)が取り付けられたと判定する。
【0080】
そして、コントローラ33は、キャブ4に設置された報知装置(例えば、ディスプレイ、スピーカ、LEDランプなど)を通じて、前述の判定結果をオペレータに報知する。なお、センサ32で計測された物理量に基づいて、後側ジャッキアーム16Bに後側ロワーウエイト18が取り付けられたか否かを判定する方法も同様である。
【0081】
物理量の一例として、ピン19aに付加される荷重を計測する場合、ロードセルをセンサ31、32とすればよい。物理量の他の例として、ピン19aに付加される圧力を計測する場合、圧力センサをセンサ31、32とすればよい。その他の物理量を計測する場合も、計測した物理量に適したセンサ31、32を用いればよい。
【0082】
変形例12によれば、ジャッキアーム16A、16Bに正しいロワーウエイト17,18が取り付けられた否かを、コントローラ33が判定するので、万一、取付作業をするオペレータが気付かなくても、取付け間違いをしたままクローラクレーンが動作するのを防止することができる。
【0083】
すなわち、変形例12に係るコントローラ33、及びセンサ31、32は、ロワーウエイト17、18がカーボディ12の正しい位置に取り付けられたか否かを検出する検出部の一例である。但し、センサ31、32の一方は、省略可能である。
【0084】
[変形例13]
図23は上記実施形態の変形例13に係るジャッキアーム16A、16B及びロワーウエイト17、18を示す図である。変形例13では、ジャッキアーム16A、16B及びロワーウエイト17、18の正しい組み合わせにだけ反応するリミットスイッチ34、35を用いることによって、ロワーウエイト17、18の取付け間違いを防止するものである。
【0085】
図23の例では、前後両方にリミットスイッチ34、35及びターゲット部材17x、18xをつけていたが、前後両方にリミットスイッチおよびターゲット部材を付けなくてもよい。例えば、前側ジャッキアーム16Aのみがリミットスイッチ34を備え、前側ロワーウエイト17のみがターゲット部材17xを備えてもよい。これにより、正しい組み合わせでロワーウエイトを取り付ければ、リミットスイッチが作動する。一方、組み合わせを間違えると、ターゲット部材がないため、リミットスイッチが作動しない。これによって、取付け間違いを防止してもよい。このような構成の場合、リミットスイッチやターゲット部材を少なく構成でき、省コストである。
【0086】
図23に示すように、変形例13に係るクローラクレーンは、コントローラ33と、前側ジャッキアーム16Aに設けられたリミットスイッチ34と、後側ジャッキアーム16Bに設けられたリミットスイッチ35とを備える。コントローラ33の構成は、変形例12と同一であってもよい。
【0087】
リミットスイッチ34、35は、前後方向の異なる位置においてジャッキアーム16A、16Bに取り付けられている。また図示は省略するが、リミットスイッチ34、35は、左右方向の異なる位置において、ジャッキアーム16A、16Bに取り付けられていてもよい。
【0088】
また、ロワーウエイト17、18がジャッキアーム16A、16Bに取り付けられた際に、リミットスイッチ34、35と当接するターゲット部材17x、18xは、リミットスイッチ34、35に対応する位置において、ロワーウエイト17、18に取り付けられている。
【0089】
そのため、前側ジャッキアーム16Aに前側ロワーウエイト17が取り付けられると、リミットスイッチ34がターゲット部材17xに当接して、信号がコントローラ33に出力される。一方、前側ジャッキアーム16Aに後側ロワーウエイト18が取り付けられると、リミットスイッチ34がターゲット部材18xに当接せず、信号がコントローラ33に出力されない。
【0090】
そして、コントローラ33は、リミットスイッチ34から信号が出力されている場合に、前側ジャッキアーム16Aに正しい前側ロワーウエイト17が取り付けられていると判定する。一方、コントローラ33は、リミットスイッチ34から信号が出力されていない場合に、前側ジャッキアーム16Aに正しい前側ロワーウエイト17が取り付けられていないと判定する。
【0091】
そして、コントローラ33は、キャブ4に設置された報知装置(例えば、ディスプレイ、スピーカ、LEDランプなど)を通じて、前述の判定結果をオペレータに報知する。なお、リミットスイッチ35の信号に基づいて、後側ジャッキアーム16Bに後側ロワーウエイト18が取り付けられたか否かを判定する方法も同様である。
【0092】
変形例13によれば、ジャッキアーム16A、16Bに正しいロワーウエイト17,18が取り付けられた否かを、コントローラ33が判定するので、万一、取付作業をするオペレータが気付かなくても、取付け間違いをしたままクローラクレーンが動作するのを防止することができる。
【0093】
すなわち、変形例13に係るコントローラ33、リミットスイッチ34、35、及びターゲット部材17x、18xは、ロワーウエイト17、18がカーボディ12の正しい位置に取り付けられたか否かを検出する検出部の一例である。但し、リミットスイッチ34、35の一方は、省略可能である。ターゲット部材17x、18xについても同様である。
【符号の説明】
【0094】
1 下部走行体
2 旋回輪
3 上部旋回体
4 キャブ
5 ブーム
6 マスト
7 カウンタウエイト
8 巻上ドラム
9 起伏ドラム
10 フック
11L,11R サイドフレーム
12 カーボディ
13 走行装置
14 アイドラ
15 クローラ
16 ジャッキ
16a ジャッキアーム
16A 前側ジャッキアーム
16B 後側ジャッキアーム
17 前側ロワーウエイト
17a 枠体
17b 係止溝
17c 取付部(ウエイト側フック)
17x ターゲット部材
17A 取付ブラケット
18 後側ロワーウエイト
18a 枠体
18b ピン(ウエイト側ピン)
18c 取付部
18x ターゲット部材
18A 取付ブラケット
19a ピン(ボディ側ピン)
19b 取付受け部
20a 係止溝
20b 取付受け部(ボディ側フック)
21 第1係合ピン(阻止部材)
22 当接部
23 ローラ
25 付加部材
26a~26e,30 ウエイト
27 配管
28 ポンプ
31,32 センサ
33 コントローラ
34,35 リミットスイッチ