(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】経口酵母ベータグルカンを用いる低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性強化方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20240216BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240216BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240216BHJP
A61K 39/385 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K39/00 G
A61P37/04
A61K39/385
(21)【出願番号】P 2020559560
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 US2019028813
(87)【国際公開番号】W WO2019209890
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-22
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン-ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】チュン ナイ-コン
(72)【発明者】
【氏名】モダック シャキール
(72)【発明者】
【氏名】ラグパティ ゴヴィンド
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-528267(JP,A)
【文献】特表2003-523401(JP,A)
【文献】特表2011-503161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0053221(US,A1)
【文献】Clinical Cancer Research,2014年,Vol.20, No.5,p.1375-1382
【文献】Vaccine,2008年,Vol.26, No.37,p.4860-4865
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/39
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性をその必要がある対象において感染を治療するために強化する方法において使用するための、β-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合している複数のβ-(1,3)側鎖を含み、かつ約6 kDaから約30 kDaの平均分子量範囲を有する酵母ベータグルカンの有効量を含む組成物であって、
ここで、低免疫原性抗原特異的ワクチンは、
(i)担体と結合していてもよい不活化、部分精製若しくは組換えヘマグルチニン(HA)タンパク質を含み、かつ
(ii)全細胞腫瘍ワクチンではない;及び
当該対象における低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性が、前記組成物で処置されないコントロール対象で観察されるものと比較して増加し、前記感染がインフルエンザである、前記組成物。
【請求項2】
低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性をその必要がある対象において疾患を治療するために強化する方法において使用するための、β-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合している複数のβ-(1,3)側鎖を含み、かつ約6 kDaから約30 kDaの平均分子量範囲を有する酵母ベータグルカンの有効量を含む組成物であって、
ここで、低免疫原性抗原特異的ワクチンは、
(i)担体と結合していてもよいフコシルGM1を含み、かつ
(ii)全細胞腫瘍ワクチンではない;及び
当該対象における低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性が、前記酵母ベータグルカンで処置されないコントロール対象で観察されるものと比較して増加し、前記疾患がメラノーマ、神経芽腫、神経膠腫、小細胞肺癌、乳癌、脳腫瘍、前立腺癌、腎細胞癌腫、肺癌、結腸癌、肝癌又は膵臓癌である、前記組成物。
【請求項3】
当該対象が、免疫低下対象、小児科対象、老年医学科対象、又は健康な対象である、及び/又は前記対象が化学放射線療法に暴露されたことがある、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
当該担体がキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)である、請求項1-3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
当該低免疫原性抗原特異的ワクチン及び当該組成物が、別々に、連続的に、又は同時に投与される、請求項1-4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
当該低免疫原性抗原特異的ワクチンが、静脈内に、筋肉内に、動脈内に、髄腔内に、包内に、眼内に、皮内に、腹腔内に、経気管的に、皮下に、脳室内に、経口的に、又は鼻内に投与される、及び/又は
当該組成物が、静脈内に、筋肉内に、動脈内に、髄腔内に、包内に、眼内に、皮内に、腹腔内に、経気管的に、皮下に、脳室内に、経口的に、又は鼻内に投与される、請求項1-5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
当該低免疫原性抗原特異的ワクチン及び当該組成物の投与が、当該低免疫原性抗原特異的ワクチン及び当該組成物の投与前の対象で観察されるものと比較して治療抗体力価レベルで2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、6倍、6.5倍、7倍、7.5倍、8倍、8.5倍、9倍、9.5倍又は10倍の増加を対象で生じる、及び/又は当該低免疫原性抗原特異的ワクチン及び組成物の投与が、治療抗体力価レベルの持続を対象で生じる、請求項1-6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
可溶化酵母ベータグルカン、低免疫原性抗原特異的ワクチン、及び使用のための指示を含むキットであって、当該可溶化酵母ベータグルカンが、β-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合している複数のβ-(1,3)側鎖を含み、さらに約6 kDaから約30 kDaの平均分子量範囲を有し、当該低免疫原性抗原特異的ワクチンが、担体と結合していてもよいフコシルGM1又はヘマグルチニン(HA)タンパク質を含む、前記キット。
【請求項9】
当該担体がKLHである、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
当該可溶化酵母ベータグルカンが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、包内、眼内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、脳室内、経口、又は鼻内投与のために処方される、及び/又は当該低免疫原性抗原特異的ワクチンが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、包内、眼内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、脳室内、経口、又は鼻内投与のために処方される、請求項8-9のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互引用)本出願は、米国仮特許出願No. 62/662,176(2018年4月24日出願)の特典及び優先権を主張する(前記仮特許出願は参照によってその全体が本明細書に含まれる)。
(技術分野)
本技術は、低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性を強化する方法とともに、腸管細菌叢多様性をその必要がある対象動物で高める方法に関し、前記方法は、当該対象動物に酵母由来のベータグルカン抽出物の有効量を投与する工程を含む。当該方法の実施に使用されるキットもまた提供される。
【背景技術】
【0002】
本技術の背景に関する以下の記述は、本技術の理解の助けとして単に提供され、本技術の先行技術を記述又構成することを許容するものではない。
ヒトワクチン用アジュバントは今もそのニーズが満たされていない主要なものである(O'Hagan et al., Curr Opin Immunol 47:93-102, 2017)。アジュバントは先天性免疫系の活性化を経て作動して(Coffman et al., Immunity 33:492-503, 2010)、獲得免疫応答を調節する活性化シグナルを提供し、それにより抗原特異的Tヘルパー細胞に防御に関連するシグナチャーサイトカインプロフィールを前もって与える。ワクチンの免疫原性を改善するために、アジュバントの共同投与が要求される。HIV、結核、マラリア及びインフルエンザワクチンは、誘発される免疫応答の不十分な量及び質のためにそれらの完全な潜在能力を完全には発揮していない。伝染病の他に、癌(Saxena & Bhardwaj, Curr Opin Immunol 47:35-43, 2017)及びアルツハイマー病のための(Novak et al., Lancet Neurol 16:123-134, 2017)アジュバントもまた最適に達していない。経路特異的アゴニスト(例えばトル様受容体)は精密治療薬であるが、その複雑さ及び臨床有害性は、他の生物製剤とそれらを併用することをためらわせる。
したがって、免疫的に不利である集団(例えば小児、高齢者及び免疫低下者)で安全で有効なアジュバントが希求される(Kollmann & Marchant, Trends Immunol 37:523-534, 2016;Mohr & Siegrist, Curr Opin Immunol 41:1-8, 2016;Schaffner et al., Am J Med, 2018)。
【発明の概要】
【0003】
ある特徴では、本開示は、低免疫原性抗原に特異的なワクチンの免疫原性をその必要がある対象動物で強化する方法を提供し、前記方法は、(a)低免疫原性抗原特異的ワクチンを対象動物に投与する工程(ここで、低免疫原性抗原特異的ワクチンは、(i)場合によって担体と結合される少なくとも1つの低免疫原性抗原を含み、当該少なくとも1つの低免疫原性抗原はペプチド、ポリペプチド、核酸、炭水化物又は脂質であり、かつ(ii)全細胞腫瘍ワクチンではない);及び(b)β-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合される複数のβ-(1,3)側鎖を含む酵母ベータグルカンの有効量を当該対象動物に投与する工程を含み、ここで、当該酵母ベータグルカンは、約6 kDaから約30 kDaの平均分子量範囲を有し、対象動物における低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性は、酵母ベータグルカンで処置されないコントロール対象動物で観察されるものと比較して増加する。対象動物は、免疫低下対象者、小児科対象者、老年医学科対象者、又は健康な対象者であり得る。ある種の実施態様では、対象動物は化学放射線療法に暴露されたことがある。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、少なくとも1つの低免疫原性抗原は、疾患又は感染症に関連するペプチド、ポリペプチド、核酸、炭水化物、又は脂質である。そのような疾患又は感染症の例には、神経変性疾患、アルツハイマー病、メラノーマ、神経芽腫、神経膠腫、小細胞肺癌、t-ALL、乳癌、脳腫瘍、網膜芽細胞腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、卵巣癌、非ホジキンリンパ腫、エプスタイン-バー関連リンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、類表皮癌腫、前立腺癌、腎細胞癌腫、移行細胞癌腫、肺癌、結腸癌、肝癌、胃癌、胃腸管の癌、膵臓癌、HIV、結核、マラリア、インフルエンザ、エボラ、水痘、B型肝炎、HPV、破傷風、肺炎球菌、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、インフルエンザ、ポリオ、ジフテリア、破傷風、百日咳、ラウス肉腫ウイルス、狂犬病及びロタウイルスが含まれるが、ただし前記に限定されない。
【0004】
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、少なくとも1つの低免疫原性抗原の構造は以下である:
【0005】
【0006】
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、少なくとも1つの低免疫原性抗原は、不活化、部分精製若しくは組換えヘマグルチニン(HA)タンパク質又はフコシルGM1である。担体の例には、キーホールリンペットヘモシアニン、血清グロブリン、血清アルブミン、及びオボアルブミンが含まれる。
【0007】
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチン及び酵母ベータグルカンは、別々に、連続的に、又は同時に投与される。ある種の実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチンは、静脈内に、筋肉内に、動脈内に、髄腔内に、包内に、眼内に、皮内に、腹腔内に、経気管的に、皮下に、脳室内に、経口的に、又は鼻内に投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは、静脈内に、筋肉内に、動脈内に、髄腔内に、包内に、眼内に、皮内に、腹腔内に、経気管的に、皮下に、脳室内に、経口的に、又は鼻内に投与される。上記実施態様のいずれでも、酵母ベータグルカンは14日間毎日投与され、その後無酵母ベータグルカン処理が14日間続き、前記が合計13サイクル実施される。
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチン及び酵母ベータグルカンの投与は、当該低免疫原性抗原特異的ワクチン及び当該酵母ベータグルカンの投与前の対象動物で観察される治療抗体力価レベルと比較して、対象動物で少なくとも約1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、6倍、6.5倍、7倍、7.5倍、8倍、8.5倍、9倍、9.5倍、又は10倍の増加を治療抗体力価レベルで生じる。ある種の実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチン及び酵母ベータグルカンの投与は治療抗体力価レベルの持続を対象動物で生じる。上記実施態様のいずれでも、酵母ベータグルカンの投与は、対象動物で延命をもたらし、及び/又は腫瘍再発を防ぐ。
【0008】
別の特徴では、本開示は、その必要がある対象動物で腸管細菌叢の生物多様性を高める方法を提供する。前記方法はβ-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合される複数のβ-(1,3)側鎖を含む酵母ベータグルカンの有効量を当該対象動物に投与する工程を含み、ここで、当該酵母ベータグルカンは約6 kDaから約30 kDaの平均分子量範囲を有し、酵母ベータグルカンの投与は、酵母ベータグルカンの投与前の対象動物で観察される腸管細菌叢の生物多様性と比較して当該生物多様性の増加を生じる。対象動物は、免疫低下対象者、小児科対象者、老年医学科対象者、又は健康な対象者であり得る。いくつかの実施態様では、対象動物は導入化学療法に暴露されたことがあるか、及び/又は腸内細菌共生バランス失調症を示す。
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、対象動物は疾患若しくは感染症と診断されるか、又はそれらに罹患している。そのような疾患又は感染症の例には、神経変性疾患、アルツハイマー病、メラノーマ、神経芽腫、神経膠腫、小細胞肺癌、t-ALL、乳癌、脳腫瘍、網膜芽細胞腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、卵巣癌、非ホジキンリンパ腫、エプスタイン-バー関連リンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、類表皮癌腫、前立腺癌、腎細胞癌腫、移行細胞癌腫、肺癌、結腸癌、肝癌、胃癌、胃腸管の癌、膵臓癌、HIV、結核、マラリア、インフルエンザ、エボラ、水痘、B型肝炎、HPV、破傷風、肺炎球菌、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、インフルエンザ、ポリオ、ジフテリア、破傷風、百日咳、ラウス肉腫ウイルス、狂犬病、及びロタウイルスが含まれるが、ただし前記に限定されない。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは、静脈内に、筋肉内に、動脈内に、髄腔内に、包内に、眼内に、皮内に、腹腔内に、経気管的に、皮下に、脳室内に、経口的に、又は鼻内に投与される。
【0009】
本明細書で開示されるものはまた、可溶化酵母ベータグルカン、低免疫原性抗原特異的ワクチン及び使用の指示を含むキットであり、ここで、当該可溶化酵母ベータグルカンは、β-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合される複数のβ-(1,3)側鎖を含み、さらに約6 kDaから約30 kDaの平均分子量範囲を有する。本技術のキットのいくつかの実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチンは、場合によって担体と結合される少なくとも1つの低免疫原性抗原を含み、当該少なくとも1つの低免疫原性抗原はペプチド、ポリペプチド、核酸、炭水化物又は脂質である。加えて或いはまた別に、本技術のキットのいくつかの実施態様では、少なくとも1つの低免疫原性抗原は、GD2ラクトン、GD3ラクトン、フコシルGM1、及びヘマグルチニン(HA)タンパク質の1つ以上である。担体の例には、キーホールリンペットヘモシアニン、血清グロブリン、血清アルブミン、及びオボアルブミンが含まれる。
加えて或いはまた別に、当該キットのいくつかの実施態様では、可溶化酵母ベータグルカン及び/又は低免疫原性抗原特異的ワクチンは、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、包内、眼内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、脳室内、経口、又は鼻内投与のために処方される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】5x10
4の放射線照射又は生EL4リンパ腫腫瘍細胞を200μgの腫瘍反応性抗GD2モノクローナル抗体(mAb)3F8とともに用いてC57BL/6マウスを静脈内免疫して8週間後のマウス血清の抗EL4腫瘍抗体力価を示す。生腫瘍細胞は時々3F8と前もって混合し、その後尾静脈から注射した。また別に、生腫瘍細胞を3F8投与の前に尾静脈から注射した。マウス血清の抗EL4腫瘍抗体力価は、3F8によって作成した標準曲線を用いELISAによりアッセイされた。データは平均+標準誤差を示す。3F8を伴う生腫瘍細胞は、3F8のみを投与されたコントロールマウスと比較して有意な血清抗腫瘍抗体応答を生じ(p<0.01)、さらにより高い血清抗体応答傾向が、放射線照射腫瘍細胞と比較して生腫瘍細胞で得られた(p=0.344)。
【
図2】5x10
4の放射線照射又は生EL4リンパ腫腫瘍細胞を200μgの腫瘍反応性3F8 mAbとともに用いて静脈内免疫した後で、5x10
4 EL4細胞(静脈内投与)で再チャレンジしたC57BL/6マウスの生存曲線を示す。ワクチン免疫の間、生腫瘍細胞は抗体と混合されるか、又は抗体の尾静脈注射の2時間前に投与された。3F8と一緒に生腫瘍細胞を投与されたマウスは、腫瘍の静脈内(IV)再チャレンジに際して有意により長い期間生存し(p<0.05)、放射線照射腫瘍細胞又は放射線照射腫瘍細胞プラス3F8を投与されたマウスと類似していた。
【
図3】
図2に記載及び提示したように、EL4腫瘍細胞及び3F8 mAbによる静脈内免疫に続いてIV EL4チャレンジした後のマウス生存データの要旨を示す。
【
図4】腫瘍反応性mAb 3F8(50μg)プラス酵母ベータグルカン(YG、2mg)の存在下で生又は放射線照射EL4リンパ腫腫瘍細胞(5x10
5)で皮下免疫した後、5x10
4 EL4細胞IVで再チャレンジしたC57BL/6マウスの生存曲線を示す。生EL4及び3F8を投与されたマウスはナイーブコントロールよりも長期間生存し(p<0.05)、EL4及び3F8プラス酵母ベータグルカンを投与されたマウスは、生EL4プラス3F8(p<0.001)又は放射線照射EL4(p<0.05)のどちらよりも長期間生存した。
【
図5】C57BL/6マウスを腫瘍反応性mAb 3F8(50μg)プラス酵母ベータグルカン(0.1-4mg)の存在下で生EL4リンパ腫腫瘍細胞(5x10
5)で皮下免疫してから4、8及び12週間後のマウス血清抗EL4腫瘍抗体力価を示す。マウス血清抗EL4腫瘍抗体力価は、3F8によって作成した標準曲線を用いELISAによりアッセイされた。データは、5匹のマウスの平均+標準誤差を示す。EL4腫瘍細胞に対する抗体力価は、酵母グルカンの用量と相関性を有した。
【
図6】
図5に記載及び提示したように、EL4腫瘍細胞並びに3F8 mAb及び酵母ベータグルカンによる皮下免疫に続いてIV EL4チャレンジした後のマウス生存データの要旨を示す。
【
図7】RVE腫瘍細胞(2x10
6)、腫瘍反応性Ab 3F8(50μg)及び酵母ベータグルカン(2mg)の混合物でBalb/cマウスを皮下免疫した後のマウス血清の抗体応答を示す。マウス血清抗体力価は、3F8によって作成した標準曲線を用いFACSによりアッセイされた。データは、5匹のマウスの平均+標準誤差を示す。3F8及び酵母グルカンを伴うREV腫瘍細胞は、REV単独よりも有意に高い抗体応答を生じる(p<0.001)。
【
図8】抗GD2抗体3F8(50μg)プラスアジュバント(QS21(10μg)、GPI-0100(100μgI,酵母グルカン(2mg)又はオオムギグルカン(2mg)から選択)の存在下で、GD2(+) EL4リンパ腫腫瘍細胞(5x10
5)でC57BL/6マウスを皮下免疫した後のマウス血清抗体応答を示す。マウス血清の抗腫瘍抗体(3F8等価ユニットとして)は、3F8によって作成した標準曲線を用いEL4に対するFACSによりアッセイされた。データは、5匹のマウスの平均±標準誤差を示す。EL4全細胞腫瘍ワクチンに対する酵母グルカンのアジュバント効果は、QS21で観察される効果に匹敵するようであり、無アジュバントコントロール、GPI-0100及びオオムギグルカンで観察される効果より有意に良好であった(p<0.001)。
【
図9】CD4 T細胞-、マクロファージ-、又はNK細胞-枯渇マウス、及びCR3-、CR2-、CR3-、FcRγ-、FcγRIIB-、又はFcγRIII-欠損マウスにおける抗EL4腫瘍抗体応答及び腫瘍防御の要旨を示す。
【
図10】β-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合される複数のβ-(1,3)側鎖を含む酵母ベータグルカンの包括的構造を示す。R
1、R
2及びR
3は、別個にH又はR(式はまた
図10に示される)であり。nは0から約50の整数であり、mは約35から約2000の整数であり、mグルコースユニットの各々は異なるR
2及びnを有することが可能であり、グルカンには少なくとも1つのR基が存在する。
【
図11】典型的な酵母可溶性ベータグルカン(SBG)サンプル(Biotec Pharmacon ASA, Tromso, Norway)の1H NMRスペクトルを示す。SBGサンプルをDMSO-d6に約20mg/mLの濃度で溶解させ、数滴のTFA-dを添加した。JEOL ECX 400 NMRスペクトロメーターで2時間にわたって80°Cでスペクトル(2.7から5.5ppmをカットオフ)を収集した。化学シフトを2.5ppmのDMSO-d6の残留プロトン共鳴と照らし合わせ、スペクトルをベースライン補正した。
【
図12】SBGの粘性プロフィールを示す。20°C又は30°Cの2%SBG溶液の種々のせん断速度におけるプロフィールが示される。グリセロール(87%溶液)を参照溶液として用いた。
【
図13】GD2(+) EL4フットパッド腫瘍移植(-28日目)、フットパッド切断(0日目)、GD2-KLHワクチンプラスQS-21アジュバント(-4、0、3及び16日目)及び経口酵母ベータグルカンアジュバント(1‐20日目)後における種々の処置グループのマウスの生存曲線を示す。
【
図14】GD2/GD3二価ワクチン投与のための処置スケジュールを示す。
【
図15】2回目寛解以上で処置された患者の無増悪生存曲線を示す。高い抗GD2力価(患者集団の上位~50%)を有する患者は、残余の者と比較して優れた無増悪生存を有する。
【
図16】2回目寛解以上で処置された患者の全生存曲線を示す。高い抗GD2力価(患者集団の上位~50%)を有する患者は、残余の者(患者集団の下位~50%)と比較して優れた全生存を有する。
【
図17】GD2/GD3二価ワクチンを投与されている個々の患者の酵母ベータグルカン経口投与開始前及び開始後における血清抗GD2力価のグラフである。
【
図18】GD2/GD3二価ワクチンを投与されている個々の患者の酵母ベータグルカン経口投与開始前及び開始後における血清抗GD3力価のグラフである。
【
図19】GD2/GD3二価ワクチンを投与されている1回目又は2回目寛解患者の酵母ベータグルカン経口投与開始前及び開始後における血清抗GD2力価を示す。黒色=グルカン投与前、灰色=グルカン投与時。患者は経口酵母ベータグルカン投与時の抗GD2力価の高い者から順に並べられている。
【
図20】GD2/GD3二価ワクチンを投与されている1回目又は2回目寛解患者の酵母ベータグルカン経口投与開始前及び開始後における血清抗GD3力価を示す。黒色=グルカン投与前、灰色=グルカン投与時。患者の順番は
図19と同じである。
【
図21】7サイクルのワクチン接種が完了した酵母ベータグルカン投与中及び投与停止患者における血清抗GD2力価の持続を示す。黒色=グルカン投与中、灰色=グルカン投与停止。患者はグルカン投与時の最高抗GD2力価から降順で並べられている。
【
図22】リツキサン(Rit)及び種々のベータグルカンアジュバント処理後21日目におけるSCIDマウスの樹立Ramos異種移植片の相対的腫瘍サイズのグラフを示す。
【
図23】
図22に記載及び提示した種々の植物アジュバントと併用したリツキサン(Rit)の抗腫瘍効力の要旨を示す。
【
図24】GD2ラクトン-キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)ワクチンの化学合成の模式図を示す。
【
図25】GD3ラクトン-KLHワクチンの化学合成の模式図を示す。
【
図26】GD2L/GD3L-KLH複合物又はフコシル-GM1-KLH複合物の投与のためのワクチン接種、胃管投与及び採血スケジュールを示す。
【
図27】GD2L/GD3L-KLH複合物又はフコシル-GM1-KLH複合物の投与のための免疫スケジュールを示す。
【
図28】ベータグルカンの存在下又は非存在下でGD2L/GD3L-KLH±OPT821でワクチン免疫されたマウスの抗GD2抗体IgG力価の概算を示す。マウスmAb 3F8(μg/mL)をELISA定量の参照として用いた。
【
図29】ベータグルカンの存在下又は非存在下でGD2L/GD3L-KLH±OPT821でワクチン免疫されたマウスの抗GD2抗体IgM力価の概算を示す。マウスAb 3G6(μg/mL)をELISA定量の参照として用いた。
【
図30】ベータグルカンの存在下又は非存在下でFucGM1-KLH±OPT821でワクチン免疫されたマウスの抗FucGM1抗体IgG力価の概算を示す。マウスmAb F12(μg/mL)をELISA定量の参照として用いた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以前の研究では、低免疫原性抗原を含む抗原特異的ワクチンの通常的アジュバント(例えばQS-21(OPT-821))との共同投与は、人間の患者の均一で強力な免疫応答の誘発に有効であることが示されている(Carvajal et al., J. Clinical Oncology 32(15): 10520, 2014;Chiun-Sheng Huang et al., J. Clinical Oncology 34(15): 1003, 2014;Kirkwood et al., J. Clinical Oncology 19(9): 2370-2380, 2001)。
本開示は、抗原特異的ワクチンの本明細書開示の酵母ベータグルカン組成物との共同投与が、レシピエント対象動物で治療抗体力価レベルの最大10倍の増加をもたらすことを示す。本技術の酵母ベータグルカン組成物を用いて観察される治療抗体力価レベルは、古典的サポニンアジュバントQS-21を用いて観察されるものよりも実質的に高い。
図13及びCarvajalらの論文(Carvajal et al., J. Clinical Oncology 32(15): 10520, 2014)を参照されたい。のみならず、二価GD2/GD3ワクチンを投与された患者における抗GD2及び抗GD3抗体力価の両力価の同時改善は、本技術の酵母ベータグルカン組成物とともに抗原混合物を用いるときには抗原性競合は観察されないことを示している。さらにまた、本技術の酵母ベータグルカン組成物を投与される患者は、当該酵母ベータグルカン組成物を投与されない患者で観察される場合と比較して治療抗体力価レベルの強い持続を示す。以下と比較されたい: Krug et al., Clinical Cancer Research 10: 6094-6100, 2004;Cappello et al., Cancer Immunol Immunother 48:483-492, 1999;Dickler et al., Clinical Cancer Research 5: 2773-2779, 1999;及びRagupathi et al., Clinical Cancer Research 9: 5214-5220, 2003。
【0012】
定義
特段の指定がなければ、本明細書で用いられる全ての技術用語及び学術用語は、概して、本技術が属する分野の業者が一般的に理解しているものと同じ意味を有する。本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられるように、単数形“a”、”an”及び“the”は、内容が明瞭にそうでないことを示していないかぎり対応する語の複数形を含む。例えば、“a cell(細胞)”と言えば、2つ以上の細胞の組合せなどを含む。概して、本明細書で用いられる命名法、並びに細胞培養、分子遺伝学、有機化学、分析化学及び核酸化学、及び下記に記載のハイブリダイゼーションにおける実験室手順は、当業界で周知かつ一般的に用いられているものである。
本明細書で用いられるように、数字に関して“約”という用語は、特段に指定されないか又は内容からそうでないことが明瞭でないかぎり、概して、当該数字のどちらかの方向に(当該数字より大きい又は小さい)1%、5%又は10%の範囲内に入る数字を含むと考えられる(ただしそのような数字が可能な値の0%未満又は100%を超える場合を除く)。
本明細書で用いられるように、薬剤又は薬の対象動物への“投与”は、その意図される機能を達成する対象動物への化合物の任意の導入又はデリバリールートを含む。投与は任意の適切なルートによって実施され得る。前記ルートには、経口、鼻内、非経口(静脈内、筋肉内、腹腔内又は皮下)、又は外用が含まれる。投与は自己投与及び別の者による投与を含む。
【0013】
“アジュバント”は免疫系の刺激を引起す1つ以上の物質を指す。この関係では、アジュバントは1つ以上のワクチン抗原に対する免疫応答の強化に用いられる。アジュバントは、ワクチン投与前に、ワクチンと一体で、又はワクチン投与後に対象動物に投与され得る。アジュバントとして用いられる化合物の例には以下が含まれる:アルミニウム化合物、油、ブロック重合体、免疫刺激複合体、ビタミン及び鉱物(例えばビタミンE、ビタミンA、セレン、及びビタミンB12)、クィル(Quil)A(サポニン)、細菌及び真菌細胞壁成分(例えば脂質多糖類、脂質タンパク質、及び糖タンパク質)、ホルモン、サイトカイン、及び補助刺激因子。表1は臨床試験中のアジュバントの要旨を提供する。
【0014】
【0015】
本明細書で用いられるように、“抗原”は抗体が選択的に結合する分子を指す。抗原は、タンパク質、炭水化物、核酸、脂質、ハプテン、又は他の天然に存在するか又は合成の化合物であり得る。しかしながら、いくつかの抗原は単独では抗体生成を引き出すことができない。そのもの自体で抗体生成を誘発することができる抗原は“免疫原”と称される。
本明細書で用いられるように、“癌”という用語は、癌性又は悪性新生物の形成及び成長をもたらす病理学的過程を指し、前記新生物には、神経芽腫、メラノーマ、非ホジキンリンパ腫、エプスタイン-バー関連リンパ腫、ホジキンリンパ腫、網膜芽細胞腫、小細胞肺癌、脳腫瘍、白血病、類表皮癌腫、前立腺癌、腎細胞癌腫、移行細胞癌腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、結腸癌、肝癌、胃癌、及び他の胃腸管の癌が含まれるが、ただし前記に限定されない。
本明細書で用いられるように、“担体”は、小さな非免疫原性又は低免疫原性抗原(例えばハプテン)と複合物化して、抗原の免疫原性を強化することができる外因性タンパク質である。そのような担体の例には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清グロブリン、血清アルブミン、オボアルブミンなどが含まれる。
本明細書で用いられるように、“コントロール”は実験で比較の目的に用いられる代替サンプルである。コントロールは“陽性”又は“陰性”であり得る。例えば、実験の目的が、個別のタイプの疾患又は症状の治療について治療薬剤の有効性の相関性を決定することである場合、典型的には、陽性コントロール(所望の治療効果を示すことが判明している化合物又は組成物)及び陰性コントロール(治療を与えられない又はプラセボを与えられる対象動物若しくはサンプル)が利用される。
【0016】
本明細書で用いられるように、“有効量”という用語は、所望の治療効果及び/又は予防効果を達成するために十分な量、例えば本明細書に記載の疾患若しくは症状又は本明細書に記載の疾患若しくは症状に関連する1つ以上の徴候若しくは症候の予防又は軽減をもたらす量を指す。治療的適用又は予防的適用に関しては、対象動物に投与される組成物の量は、組成物、疾患の程度、タイプ及び重篤性、並びに個体の特徴(例えば一般的健康状態、年齢、性別、体重、及び薬に対する耐性)にしたがい変動するであろう。当業者は、これらの及び他の要因に応じて適切な投薬量を決定することができるであろう。組成物はまた、1つ以上の追加の治療化合物と一体で投与され得る。本明細書に記載する方法では、治療組成物は、癌又は感染症の1つ以上の徴候若しくは症候を有する対象動物に投与できる。本明細書で用いられるように、組成物の“治療的に有効な量”は、疾患又は症状の身体的影響を緩和又は除去する組成物レベルを指す。治療的に有効な量は1回以上の投与で示され得る。
【0017】
本明細書で用いられるように、“ハプテン”という用語は、選択的に抗体と結合できるがそれ自体では適応免疫応答を誘発できない、非免疫原性又は低免疫原性分子を指す。ハプテンは、抗体応答及びT細胞応答を引き出すためにはタンパク質担体と化学的に結合されねばならない。
本明細書で用いられるように、“高次構造”は、互いに相互作用して水素結合により比較的安定な鎖間結合を確立させる2つ以上のグルカン分子によって形成される、三次元形状を指す。
本明細書で用いられるように、“免疫応答”は、リンパ球、抗原提示細胞、食細胞、顆粒球、及び前述の細胞又は肝臓若しくは脾臓によって産生される可溶性巨大分子(抗体、サイトカイン、及び補体を含む)の1つ以上の作用を指し、前記作用は、癌性細胞、転移腫瘍細胞、伝染性病原体などの選択的傷害、破壊、又は人間の身体からの除去をもたらす。免疫応答には細胞性応答、例えばT細胞応答が含まれ、前記応答は、細胞性機能、すなわちT細胞機能の改変(調整、例えば、顕著な強化、刺激、活性化、障害、又は抑制)である。
【0018】
本明細書で用いられるように、“個体”、“患者”、又は“対象動物”という用語は相互に用いられて、個々の生物、脊椎動物、哺乳動物、又は人間を指す。ある種の実施態様では、個体、患者、又は対象動物は人間である。
本明細書で用いられるように、“導入療法”は、新形成疾患のために行われる最初の治療を指し、しばしば標準治療セットの部分であり、例えば外科手術とその後に続く化学療法及び放射線照射である。
本明細書で用いられるように、“全生存期間”又は“OS”は、治療の開始から死亡又は最後の接触日までの観察された寿命を意味する。
本明細書で用いられるように、“ポリペプチド”という用語は、ペプチド結合又は改変ペプチド結合(すなわちペプチド同配体)によって互いに結合される2つ以上のアミノ酸を含むポリマーを意味する。ポリペプチドは、短い鎖(一般的にはペプチド、糖ペプチド又はオリゴマーと称される)及び長い鎖(概してタンパク質と称される)の両方を指す。ポリペプチドは、20個の遺伝子コードアミノ酸以外のアミノ酸を含むことができる。ポリペプチドには、天然のプロセス(例えば翻訳後プロセッシング)によって又は当業界で周知の化学的改変技術によって改変されるアミノ酸配列が含まれる。
本明細書で用いられるように、“低免疫原性抗原(poorly immunogenic antigen)”という用語は、患者で防御性又は治療的に有効な応答を引き出さない抗原(例えば、本明細書に記載の疾患若しくは症状又は本明細書に記載の疾患若しくは症状に関連する1つ以上の徴候若しくは症候を治療又は予防するために十分な免疫応答を誘発しない抗原)を指す。
【0019】
本明細書で用いられるように、疾患又は医学的状態の“予防”又は“予防する”とは、統計サンプルにおいて、治療サンプルで未処置コントロールサンプルと比較して疾患又は医学的状態の発生を減少させるか、又は未処置コントロールサンプルと比較して疾患又は医学的状態の1つ以上の症候の発生を遅らせる化合物を指す。
本明細書で用いられるように、“無増悪生存期間”又は“PFS”は、治療からRECIST 1.1基準にしたがい最初に確認される疾患増悪日までの期間である。
“RECIST”は、“固形腫瘍の応答評価基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)”を表す頭字語を意味し、癌患者が治療中に改善するか(“応答”)、同じ状態に留まるか(“安定”)又は悪化する(“増悪”)時を規定する公開された基準セットである。RECISTによって規定される応答は例えば以下の論文(Journal of the National Cancer Institute, Vol. 92, No. 3, Feb. 2, 2000)で公開され、RECIST基準は他の同様な公開規定及び基準セットを含むことができる。当業者は、本明細書で用いられるRECISTと調和する複数の規定(例えば、“部分応答(PR)”、“完全応答(CR)”、“疾患安定(SD)”及び“疾患増悪(PD)”)を熟知していよう。
【0020】
本明細書で用いられるように、“サンプル”又は“生物学的サンプル”は、対象動物から単離された体液又は組織サンプルであり得る。いくつかの事例では、生物学的サンプルは、全血、血小板、赤血球、白血球、血漿、血清、尿、糞便、表皮サンプル、膣サンプル、皮膚サンプル、頬スワブ、精液、羊水、培養細胞、骨髄サンプル、腫瘍生検試料、吸引物及び/又は絨毛膜絨毛、培養細胞、内皮細胞、関節液、リンパ液、腹水、間質及び細胞外液などから成るか、または前記を含むことができる。“サンプル”という用語はまた細胞間隙の液体を包含し、前記には、歯肉溝滲出液、骨髄、脳脊髄液(CSF)、唾液、粘液、喀痰、精液、汗、尿、又は他の体液が含まれる。サンプルは対象動物から任意の手段によって入手できる。前記手段には、静脈穿刺、排泄、射精、マッサージ、生検、針吸引、洗浄、削り取り、外科切開、又は介入若しくは他の手段が含まれるが、ただし前記に限定されない。血液サンプルは全血又はその任意の分画であり得る。前記分画には血球(赤血球、白血球又はロイコサイト、及び血小板)、血清及び血漿が含まれる。
【0021】
本明細書で用いられるように、治療薬を“別々に”使用するという用語は、少なくとも2つの活性成分を同じ時に又は実質的に同じ時に異なるルートで投与することを指す。
本明細書で用いられるように、治療薬を“連続的に”使用するという用語は、少なくとも2つの活性成分を異なる時に投与することを指す。より詳細には、連続使用は、1つの他のもの又は複数の他のものの投与が開始する前の複数の活性成分の1つの完全な投与を指す。したがって、他の1つの又は複数の活性成分の投与前に、複数の活性成分の1つを数分、数時間、又は数日かけて投与することが可能である。この事例では同時処置は存在しない。
本明細書で用いられるように、治療薬を“同時に”使用するという用語は、少なくとも2つの活性成分を同じルートで同じ時に又は実質的に同じ時に投与することを指す。
本明細書で用いられるように、“生存”は生命を維持している対象動物を指し、無増悪生存とともに全生存を含む。
本明細書で用いられる“治療する(treating, treat, treatment)”は、対象動物(例えば人間)における、本明細書記載の疾患又は異常の治療をカバーし、前記は以下を含む:(i)疾患又は異常を抑制する、すなわちその発達を停止させる;(ii)疾患又は異常を緩和する、すなわち異常の後退を引起す;(iii)異常の進行を減速させる;及び/又は(iv)疾患又は異常の1つ以上の症候を抑制、緩和し、又はその進行を減速させる。いくつかの実施態様では、治療は、疾患に関連する症候が、例えば緩和され、軽減され、治癒されるか、又は寛解状態に置かれることを意味する。
さらに、記載の医学的疾患及び症状の治療又は予防の多様な態様は、“実質的”を意味することもまた意図されることは理解されよう。実質的には、完全だけでなく完全に達しない治療又は予防も含まれ、この場合、何らかの生物学的又は医学的に相応する結果が達成される。治療は、慢性疾患のための継続的な長期に及ぶ治療であっても、又は急性症状の治療のためのただ1回の若しくは数回の治療の実施であってもよい。
【0022】
本明細書で用いられる“ワクチン”という用語は、癌、又は感染性因子(例えばウイルス、真菌、細菌及び他の病原体)に対する防御免疫を強化するために用いられる調製物である。ワクチンは、予防薬剤又は治療薬剤として有用であり得る。ワクチンは、身体に投与されるとき、抗体及び免疫リンパ球(T細胞及びB細胞)の産生を伴う免疫応答を誘発する細胞又は抗原を含む。
“全細胞腫瘍ワクチン”(“全腫瘍ワクチン”とも称される)は、患者にとって自家性又は同種異系であり得る腫瘍細胞を含み、身体の免疫系を刺激できる複数の癌抗原を含むことができる。抗原特異的ワクチンの投与とは異なり、全細胞腫瘍ワクチンは、多数の癌特異的(固有又はアップレギュレート)抗原を患者の免疫系に暴露する。全細胞腫瘍ワクチンは、無傷の細胞又は細胞溶解物を含むことができる。そのような溶解物又は無傷の細胞調製物の使用は、当該ワクチンが、10を超える抗原、典型的には30を超える抗原を含むことを意味する。全細胞腫瘍ワクチンは、in vitroで改変されてある(例えば放射線照射されてある)腫瘍細胞及び死滅腫瘍細胞又は生腫瘍細胞を含むことができる。
【0023】
本技術の酵母ベータグルカン
ベータグルカンは、1,6結合側鎖を有する、ベータ-1,3結合されたベータ-1,4-D-グルコース分子のバックボーンを含むポリマーである。これら側鎖の頻度は二次構造及び生化学的特性を規制する。ベータグルカンは、多くの食品(例えばキノコ、エンバク、コメ、オオムギ、海藻、パン酵母及び真菌)で見出される。グルカン含有抽出物には、レンチナン(シイタケ由来)、PSK(カワラタケ(コリオルス・ベルシコロル(Coriolus versicolor))由来)、ラミナリン(海藻由来)、シゾフィラン、ベータフェクチン及びマイタケd-分画が含まれる。ベータ1,3-グルカンは、ザイモサンの生物学的活性の大半に必要な成分である。ザイモサンは、一般的に用いられるロイコサイト刺激剤でパン酵母(サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae))の細胞壁から誘導される。
供給源及び単離方法に応じて、ベータグルカンは、側鎖に種々の程度の分枝及び結合を有する。側鎖の頻度及びヒンジ構造は免疫調整効果を決定する。真菌及び酵母起原のベータグルカンは通常は水に不溶であるが、酸加水分解又は荷電基(例えばリン酸、硫酸、アミン、カルボキシメチルなど)の当該分子への導入による誘導によって可溶性にできる(Seljelid R, Biosci. Rep. 6:845-851, 1986;Williams et al., Immunopharmacology 22:139-156, 1991)。
【0024】
本技術の酵母ベータグルカンは、β-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合される複数のβ-(1,3)側鎖を含み、さらに約6 kDaから約30 kDa、約6 kDaから約25 kDa、又は約16 kDaから約17 kDaの平均分子量範囲を有する(Biotec Pharamacon ASA, Tromso, Norway)。
図10は、本技術の酵母ベータグルカンの包括的構造を示す。本技術の酵母ベータグルカンの例示的な分子構造は下記に提供される(nは0から約50の整数であり、mは約35から約2000の整数である)。
【0025】
【0026】
ベータグルカン分子は高次構造を形成してゲル性の高粘性プロフィールを生じる。本技術の酵母ベータグルカンのNMRプロフィール及び粘性プロフィールは、それぞれ
図11及び
図12に示される。
本技術の酵母ベータグルカンを加水分解剤(例えば酸又は酵素)で処理して、グルカン分枝内の(1,6)結合を有意に減少させるか又は除去する(単独(1,6)結合は分枝の形成に必要である)。いくつかの実施態様では、ベータグルカン分子内のグリコシド結合の10%未満、5%未満、3%未満又は2%未満は(1,6)結合であろう。これらの生成物は粒子状、半可溶性、可溶性又はゲルであり得る。ある種の実施態様では、可溶化酵母ベータグルカンの生成は、抽出酵母ベータグルカンへ最終濃度75%w/vでギ酸を添加する工程及びフォルモリシス促進のために懸濁物を加熱する工程を含む。本技術の可溶性加水分解酵母ベータグルカンの例は、可溶性ベータグルカン(Biotec Pharmacon ASA, Tromso, Norway)である。可溶性ベータグルカンは、(化学修飾基の関係で)非誘導性の水溶性β-1,3/1,6-グルカンであり、NMR及び化学分析によって、β-1,3結合D-グルコースユニットの側鎖を有する直鎖状β-1,3-グルカンバックボーンを含むと特徴付けられ、ここで、当該側鎖はβ-1,6-結合を介してバックボーンに結合され、側鎖内のβ-1,6部分(バックボーン/側鎖分枝点のものは含まない)の数は、酵母細胞壁の当該グルカンの構造と比較して相当に減少している。可溶性ベータグルカンは、その高粘性プロフィール及びゲル性動作によって示されるように、耐性のある鎖間結合を提示する(
図12)。そのような組成物の非限定的な例は以下のとおりである:
【0027】
所望の構造的特色を有し高次構造を示す生成物、例えば可溶化ベータグルカンは、経口的に、腹腔内に、皮下に、筋肉内に、又は静脈内に投与され得る。グルカンの機能的な用量範囲を当業者は容易に決定することができる。例えば、経口的に投与されるとき、機能的用量範囲は1-500mg/kg/日、10-200mg/kg/日、又は20-80mg/kg/日であろう。非経口的に投与されるときは、機能的用量範囲は0.1-10mg/kg/日であり得る。
本技術では、酵母ベータ-1,3-グルカンは低免疫原性抗原特異的ワクチンと一体で用いられる。ある種の実施態様では、酵母ベータ-1,3-グルカンは、0.1-4mgの量で投与される。上述の医薬組成物は、医薬的に許容できる担体及び薬の投与を強化及び促進することが知られている他の成分を含むことができる。本技術の医薬組成物中の活性成分、医薬的に許容できる担体、及び任意の追加成分の相対量は、処置される対象動物が何であるか、そのサイズ、及び状態にしたがって変動するであろう。そのような医薬組成物は、活性成分のみを対象動物への投与に適切な形態で含むことができるか、或いは、医薬組成物は、活性成分及び1つ以上の医薬的に許容できる担体、1つ以上の追加成分、又は前記の任意の組合せを含むことができる。活性成分は、当業界で一般的に周知の形態で医薬組成物中に存在し得る。
典型的には、対象動物に投与される本技術の酵母ベータグルカンの投薬量は多数の要因にしたがって変動するであろう。前記要因には、処置される対象動物のタイプ並びに癌及び症状のタイプ、対象動物の年齢、投与ルート、並びに相対的治療指数が含まれるが、ただし前記に限定されない。投与ルートは当業者には極めて明白で、多数の要因(処置される疾患のタイプ及び重篤度、処置される患者の性別及び年齢など)によって左右されるであろう。
【0028】
酵母ベータグルカンの経口投与に適切な処方物には、水性若しくは油性懸濁物、水性若しくは油性溶液、エマルジョン、又は微粒子処方物が含まれるが、ただし前記に限定されない。そのような処方物は、任意の手段(軟ゼラチンカプセルが含まれるがただし前記に限定されない)によって投与され得る。
経口投与に適切な本明細書開示の酵母ベータグルカンの液体処方物は、液体形で又は水若しくは他の適切なベヒクルで使用前に再構成することが意図される乾燥生成物の形態で調製され、包装され、販売され得る。投与は多様な種々のルート(静脈内、皮下、鼻内、頬、経皮及び肺内ルートを含む)によって達成され得る。当業者は、所望される投与ルート及び個別の投与ルートに適切な処方物の種類を決定することができよう。
大まかに言って、酵母ベータグルカンは1日数回の頻度で対象動物に投与できるか、或いはもっと少ない頻度で例えば1日1回投与してもよい。低免疫原性抗原特異的ワクチン処置は、例えば抗原のタイプ、癌のタイプ、癌の重篤度、及び各患者の状態に左右されるであろう。酵母ベータグルカン処置は低免疫原性抗原特異的ワクチン処置レジメンと密接に関係し、低免疫原性抗原特異的ワクチンの投与前、投与と同時、又は投与後であり得よう。酵母ベータグルカン及び低免疫原性抗原特異的ワクチン投与の頻度は当業者には極めて明白であり、多数の要因(例えば処置される疾患の範囲及び重篤度並びに患者のタイプ及び年齢が含まれるが、ただし前記に限定されない)に左右されるであろう。
【0029】
本技術の方法
ある特徴では、本開示は、その必要がある対象動物で、低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性を強化する方法を提供し、前記方法は、(a)低免疫原性抗原特異的ワクチンの有効量を対象動物に投与する工程(ここで、低免疫原性抗原特異的ワクチンは、(i)場合によって担体と結合される少なくとも1つの低免疫原性抗原を含み、当該少なくとも1つの低免疫原性抗原はペプチド、ポリペプチド、核酸、炭水化物又は脂質であり、かつ(ii)当該低免疫原性抗原特異的ワクチンは全細胞腫瘍ワクチンではない);及び(b)β-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合される複数のβ-(1,3)側鎖を含む酵母ベータグルカンの有効量を当該対象動物に投与する工程(ここで、当該酵母ベータグルカンは、約6 kDaから約30 kDaの平均分子量範囲を有する)を含み、当該対象動物における低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性は、酵母ベータグルカンで処置されないコントロール対象動物で観察されるものと比較して増加する。対象動物は、免疫低下対象者、小児科対象者、老年医学科対象者、又は健康な対象者であり得る。ある種の実施態様では、対象動物は化学放射線療法に暴露されたことがある。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、少なくとも1つの低免疫原性抗原は、疾患又は感染症と関連するペプチド、ポリペプチド、核酸、炭水化物、又は脂質である。そのような疾患及び感染症の例には以下が含まれる(ただしそれらに限定されない):神経変性疾患、アルツハイマー病、メラノーマ、神経芽腫、神経膠腫、小細胞肺癌、t-ALL、乳癌、脳腫瘍、網膜芽細胞腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、卵巣癌、非ホジキンリンパ腫、エプスタイン-バー関連リンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、類表皮癌腫、前立腺癌、腎細胞癌腫、移行細胞癌腫、肺癌、結腸癌、肝癌、胃癌、胃腸管の癌、膵臓癌、HIV、結核、マラリア、インフルエンザ、エボラ、水痘、B型肝炎、HPV、破傷風、肺炎球菌、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、インフルエンザ、ポリオ、ジフテリア、破傷風、百日咳、ラウス肉腫ウイルス、狂犬病、及びロタウイルス。
【0030】
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、低免疫原性抗原の構造は以下である:
【0031】
【0032】
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、少なくとも1つの低免疫原性抗原は、不活化、部分精製若しくは組換えヘマグルチニン(HA)タンパク質又はフコシルGM1である。担体の例には、キーホールリンペットヘモシアニン、血清グロブリン、血清アルブミン、及びオボアルブミンが含まれる。
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチン及び酵母ベータグルカンは、別々に、同時に、又は連続的に投与される。ある種の実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチンは、静脈内に、筋肉内に、動脈内に、髄腔内に、包内に、眼内に、皮内に、腹腔内に、経気管的に、皮下に、脳室内に、経口的に、又は鼻内に投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは、静脈内に、筋肉内に、動脈内に、髄腔内に、包内に、眼内に、皮内に、腹腔内に、経気管的に、皮下に、脳室内に、経口的に、又は鼻内に投与される。
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチン及び酵母ベータグルカンの投与は、当該低免疫原性抗原特異的ワクチン及び当該酵母ベータグルカンの投与前の対象動物で観察される治療抗体力価レベルと比較して、対象動物で少なくとも約1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、6倍、6.5倍、7倍、7.5倍、8倍、8.5倍、9倍、9.5倍、又は10倍の増加を治療抗体力価レベル(例えば抗GD2又は抗GD3、ただし前記に限定されない)で生じる。ある種の実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチン及び酵母ベータグルカンの投与は、治療抗体力価レベル(例えば抗GD2又は抗GD3、ただし前記に限定されない)の持続を対象動物で生じる。上記実施態様のいずれでも、酵母ベータグルカンの投与は、対象動物で延命をもたらし、及び/又は腫瘍再発を防ぐ。
【0033】
別の特徴では、本開示は、その必要がある対象動物で腸管細菌叢の生物多様性を高める方法を提供する。前記方法はβ-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合される複数のβ-(1,3)側鎖を含む酵母ベータグルカンの有効量を当該対象動物に投与する工程を含み、ここで、当該酵母ベータグルカンは約6 kDaから約30 kDaの平均分子量範囲を有し、酵母ベータグルカンの投与は、酵母ベータグルカンの投与前の対象動物で観察される腸管細菌叢の生物多様性と比較して当該生物多様性の増加を生じる。対象動物は、免疫低下対象者、小児科対象者、老年医学科対象者、又は健康な対象者であり得る。いくつかの実施態様では、対象動物は導入化学療法に暴露されたことがあるか、及び/又は腸内細菌共生バランス失調症を示す。上記実施態様のいずれでも、酵母ベータグルカンの投与は、酵母ベータグルカンの投与前の対象動物で観察される腸管細菌叢の生物多様性と比較して、当該生物多様性で少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%の増加を生じる。
【0034】
加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、対象動物は疾患若しくは感染症と診断されるか、又はそれらに罹患している。そのような疾患又は感染症の例には、神経変性疾患、アルツハイマー病、メラノーマ、神経芽腫、神経膠腫、小細胞肺癌、t-ALL、乳癌、脳腫瘍、網膜芽細胞腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、卵巣癌、非ホジキンリンパ腫、エプスタイン-バー関連リンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、類表皮癌腫、前立腺癌、腎細胞癌腫、移行細胞癌腫、肺癌、結腸癌、肝癌、胃癌、胃腸管の癌、膵臓癌、HIV、結核、マラリア、インフルエンザ、エボラ、水痘、B型肝炎、HPV、破傷風、肺炎球菌、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、インフルエンザ、ポリオ、ジフテリア、破傷風、百日咳、ラウス肉腫ウイルス、狂犬病、及びロタウイルスが含まれるが、ただし前記に限定されない。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは、静脈内に、筋肉内に、動脈内に、髄腔内に、包内に、眼内に、皮内に、腹腔内に、経気管的に、皮下に、脳室内に、経口的に、又は鼻内に投与される。
【0035】
本明細書に開示する方法のいくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは1日に1、2、3、4又は5回投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは1日に5回よりも多く投与される。加えて或いはまた別に、いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは、毎日、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、又は5日おきに投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは、毎週、2週ごと、3週ごと、又は毎月投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは、1週間、2週間、3週間、4週間、又は5週間の間投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは6週間以上投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは12週間以上投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは1年未満の期間投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは1年以上の期間投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは対象動物の生存中ずっと投与される。
本技術の方法のいくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは1週間以上の間毎日投与される。本技術の方法のいくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは2週間以上の間毎日投与される。本技術の方法のいくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは3週間以上の間毎日投与される。本技術の方法のいくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは4週間以上の間毎日投与される。本技術の方法のいくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは6週間以上の間毎日投与される。本技術の方法のいくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは12週間以上の間毎日投与される。いくつかの実施態様では、酵母ベータグルカンは対象動物の生存中ずっと投与される。ある種の実施態様では、酵母ベータグルカンは、1日以上(1-14日)毎日投与され、その後1日以上(1-14日)酵母ベータグルカン処置無しが続き、前記サイクルが、合計1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15回以上実施される。
【0036】
キット
本開示は、可溶化酵母ベータグルカン、低免疫原性抗原特異的ワクチン、及び使用のための指示を含むキットを提供し、ここで、可溶化酵母ベータグルカンは、β-(1,6)結合を介してβ-(1,3)バックボーンに結合される複数のβ-(1,3)側鎖を含み、約6 kDaから約30 kDaの平均分子量範囲を有する。本技術のキットのいくつかの実施態様では、低免疫原性抗原特異的ワクチンは、場合によって、担体に結合される少なくとも1つの低免疫原性抗原を含み、ここで、少なくとも1つの低免疫原性抗原はペプチド、ポリペプチド、核酸、炭水化物、又は脂質である。少なくとも1つの低免疫原性抗原は、任意の疾患又は感染症(本明細書に開示されるものが含まれるが、ただしそれらに限定されない)に関連するペプチド、ポリペプチド、核酸、炭水化物、又は脂質である。
加えて或いはまた別に、本技術のキットのいくつかの実施態様では、少なくとも1つの低免疫原性抗原は、GD2ラクトン、GD3ラクトン、フコシルGM1、及びヘマグルチニン(HA)タンパク質(例えば不活化、部分精製又は組換えヘマグルチニン)の1つ以上である。担体の例には、キーホールリンペットヘモシアニン、血清グロブリン、血清アルブミン、及びオボアルブミンが含まれる。
加えて或いはまた別に、キットのいくつかの実施態様では、可溶化酵母ベータグルカン及び/又は低免疫原性抗原特異的ワクチンは、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、包内、眼内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、脳室内、経口、又は鼻内投与のために処方される。
【0037】
場合によって、本技術のキットの上記に記載の成分は、適切な容器に包装されて低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性を対象動物で強化すると記載したラベルを付される。上述の成分は、ユニット用量又はマルチ用量容器(例えば封入アンプル、バイアル、ビン、注射器、及び試験管)に、水性(好ましくは無菌的)溶液又は再構成のための凍結乾燥(好ましくは無菌的)処方物として仕分けされ得る。さらにまた、キットは、医薬組成物をより大きな体積に希釈するために適切な希釈剤を保持する第二の容器を含むことができる。適切な希釈剤には医薬組成物の医薬的に許容できる賦形剤が含まれるが、ただし前記に限定されない。さらにまた、キットは、医薬組成物を希釈するための指示、及び/又は希釈するとしないに関わらず医薬組成物を投与するための指示を含むことができる。容器は多様な材料(例えばガラス又はプラスチック)から形成でき、さらに無菌的なアクセス口を有することができる(例えば、容器は皮下注射針で穿刺できる静脈内溶液バッグ又はストッパー付きバイアルであり得る)。さらにまた、キットは、医薬的に許容できる緩衝液(例えばリン酸緩衝食塩水、リンゲル溶液及びデキストロース溶液)を含むより多くの容器を含む。さらにまた、商業的及び使用者の観点から所望される他の材料(他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、注射針、注射器などが含まれる)も含まれ得る。キットは、場合によって、治療薬製品の商業的包装物に習慣的に含まれる指示を含むことができ、前記は、例えば適応症、取扱い、投薬量、製造、投与、禁忌及び/又はそのような治療薬製品の使用に関する警告についての情報を含む。
【0038】
キットはまた、生物学的サンプル(例えば血清、血漿、リンパ液、嚢胞液、尿、糞便、脳脊髄液又は血液及び身体組織の生検サンプルを含むが、ただし前記に限定されない)中の治療抗体力価レベルの検出に有用な追加の薬剤を含むことができる。例えば、キットは以下を含むことができる:生物学的サンプルに存在する誘発抗体と結合できる1つ以上の低免疫原性抗原(例えばGD2又はGD3(ただし前記に限定されない))、生物学的サンプルに存在する誘発抗体の量を決定する手段;及び生物学的サンプル中の免疫反応性誘発抗体の量を標準物と比較する手段。1つ以上の低免疫原性抗原は標識され得る。キットの成分(例えば試薬)は適切な容器に包装され得る。さらにまた、キットは、免疫反応性誘発抗体を検出するためにキットを使用する指示を含むことができる。
キットはまた、例えば緩衝剤、保存料又はタンパク質安定化剤を含むことができる。さらにまた、キットは検出可能標識を検出するために必要な成分、例えば酵素又は基質を含むことができる。キットはまた、1つのコントロールサンプル又は一連のコントロールサンプルを含むことができ、前記コントロールサンプルをアッセイして試験サンプルと比較することができる。キットの各化合物を個々の容器内に封入し、種々の容器の全てを単一パッケージ内に、キットを用いて実施したアッセイの結果を解釈するための指示と一緒に入れることができる。本技術のキットはキットの容器内に又は容器上に記載物を含むことができる。前記記載物は、例えば誘発抗体のin vitro若しくはin vivoでの検出のために、又はその必要がある対象動物で低免疫原性抗原特異的ワクチンの免疫原性の強化のために、キットに収納された試薬を使用する態様を説明する。ある種の実施態様では、試薬の使用は本技術の方法にしたがうことができる。
【0039】
実施例
本技術はさらに下記実施例によって例証される(当該実施例は決して制限と解されるべきではない)。下記実施例は、本技術の例示的酵母ベータグルカン組成物の調製、特徴、及び使用を示す。下記実施例は、ワクチン中の本技術のベータグルカン組成物の有効性の特徴を示す。
【実施例1】
【0040】
全腫瘍ワクチンにおける皮下酵母ベータグルカンのアジュバント効果
腫瘍細胞及び抗腫瘍mAbの組合せを全細胞腫瘍ワクチンとして試験した。この実験で用いたモデルワクチンは、GD2(+)腫瘍(EL4)及び抗GD2 IgG3抗体3F8の組合せである。
酵母ベータグルカン:本実施例で用いた酵母ベータグルカンは~16,000から~17,000ダルトンの平均分子量を有し、平均分子量範囲は~6,000から~30,000ダルトンである(
図10)。典型的なSBGサンプル(Biotec Pharamacon ASA, Tromso, Norway)の1H NMRスペクトルは
図11に示される。SBGサンプルを約20mg/mLの濃度でDMSO-d6に数滴のTFA-dを添加して溶解させた。スペクトル(2.7から5.5ppmをカットアウト)をJEOL ECX 400 NMRスペクトロメーターで2時間にわたって80°Cで収集した。化学シフトは、2.5ppmのDMSO-d6の残留プロトン共鳴と照らし合わせ、スペクトルを基線補正した。種々のせん断速度における20°C又は30°CのSBGの2%溶液の粘性プロフィールは
図12に示される。グリセロール(87%溶液)を参照溶液として用いた。
静脈内(IV)EL4腫瘍+IV 3F8 MAb:5x10
4生EL4リンパ腫腫瘍細胞を用い200μgの腫瘍反応性3F8 mAbの存在下でC57BL/6マウスを尾静脈から静脈内免疫した。3F8は、(a)免疫前に腫瘍細胞と直接混合するか、又は(b)治療設定を模倣するために腫瘍細胞でマウスを免疫してから2時間後に与えられた。放射線照射腫瘍細胞を比較として組み入れた。マウス血清の抗EL4腫瘍抗体力価をEL4細胞プレートでELISAによってアッセイした。3F8混合生腫瘍細胞又は2時間後3F8処理生腫瘍細胞を与えられた動物は、3F8のみを与えられたコントロールマウスと比較して有意な血清抗腫瘍抗体応答を生じ(p<0.01)、血清抗体応答のより高い傾向が、放射線照射腫瘍細胞と比較して生腫瘍細胞で得られた(p=0.344、
図1)。生腫瘍細胞を3F8と一緒(直接混合又は腫瘍細胞注射2時間後)に与えられたマウスは、腫瘍のIV再チャレンジに際してコントロールマウスよりも有意に長期間生存し(p<0.05)、放射線照射腫瘍細胞又は放射線照射腫瘍細胞+3F8を与えられたマウスに匹敵した(
図2及び
図3)。
【0041】
皮下(sc)EL4腫瘍+sc 3F8 MAb+sc 酵母ベータグルカン:腫瘍反応性3F8(50μg)+酵母ベータグルカン(0.1-4mg)(Biotec Pharamacon ASA, Tromso, Norway)の存在下で、生EL4リンパ腫腫瘍細胞(5x10
4)を用いC57BL/6マウスを皮下免疫した。マウス血清の抗EL4抗体力価をELISAによってアッセイした。上記に記載したIVワクチン実験と同様に、3F8混合生腫瘍細胞は、3F8 Abのみを与えられたコントロールマウスと比較して有意に高い抗腫瘍抗体応答を生じた(p<0.01)。生腫瘍細胞及び3F8を与えられたマウスは、EL4腫瘍細胞によるIV再チャレンジに際してコントロールマウスよりも有意に長期間生存した(p<0.05)。さらにまた、酵母ベータグルカンが免疫にアジュバントとして加えられたとき、実質的な抗体応答及び腫瘍防御が達成された。F38混合生腫瘍細胞及び酵母ベータグルカンを与えられたマウスは、IV再チャレンジに際して生腫瘍細胞及び3F8を与えられたマウスよりも有意に長期間生存した(p<0.001、
図4)。酵母ベータグルカンの投与量はまた、EL4腫瘍細胞に対する抗体力価(
図5)及びその後の再チャレンジ時の生存(
図6)と相関性を示した。
sc EL4+3f8+酵母ベータグルカン免疫によって誘発される抗EL4腫瘍応答はGD2に対して誘導されなかった。なぜならば、得られたマウス血清はGD2陽性神経芽腫細胞株LAN-1と反応しなかったからである。さらにまた、sc EL4+3f8+酵母ベータグルカンに対する抗体応答はEL4腫瘍に特異的であった。なぜならば、得られたマウス血清はGD2陰性EL4変種と反応しなかったからである。別のGD2陽性リンパ腫(RVE腫瘍細胞)を3F8及び酵母ベータグルカンとBalb/cマウスのワクチンとして混合したとき、強力な抗腫瘍抗体応答が誘発された(
図7)。腫瘍チャレンジに対する防御は、REVは免疫不全マウスではクローン形成性が貧弱なのでこのモデルでは試験されなかった。
したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、全細胞腫瘍ワクチンの免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例2】
【0042】
酵母ベータグルカンと他のアジュバントとの比較
実施例1に記載のsc EL4/3F8ワクチンレジメンでいくつかの異なるアジュバントの効果を試験した。QS21(Bonam et al., Trends Pharmacol Sci 38:771-793, 2017)及びGPI-0100は、それぞれ20μg及び200μgの最大耐性用量を有することが判明している2つのサポニン免疫学的アジュバントである(Livingston et al., Vaccine 12:1275-1280, 1994)。抗GD2抗体3F8(50μg)+以下から選択されるアジュバント(QS21(10μg)、GPI-0100(100μg)、酵母グルカン(2mg)又はオオムギグルカン(2mg))の存在下で、GD2(+)EL4リンパ腫腫瘍細胞(5x10
5)を用いC57BL/6マウスを皮下免疫した。マウス血清の抗腫瘍抗体(3F8等価単位として)を3F8で作成した標準曲線を用いてEL4に対してFACSによりアッセイした。酵母グルカンは、QS21に匹敵しかつGPI-0100より良好なアジュバント効果を有し、一方、オオムギグルカンはアジュバント効果を示さなかった(
図8)。
総合すれば、これらの結果は、全てのベータグルカンが全細胞腫瘍ワクチンの免疫原性を強化できるわけではないことを示している。したがって、本技術の酵母ベータグルカン組成物は、全細胞腫瘍ワクチンの免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例3】
【0043】
全腫瘍/抗体/ベータグルカンワクチン有効性の受容体依存性
全細胞腫瘍ワクチンに対するin vivo抗体応答の誘発及び腫瘍防御におけるCD4 T細胞、マクロファージ、及びNK細胞の重要性を試験した。実験開始前-3、-2及び-1日目並びにその後は実験を通して週に1回CD4 mAb L3T4 mAbを静注してCD4 T細胞を免疫枯渇させた。マクロファージは、-2日目及び-1日目並びにその後は週に1回0.5mgの塩化ガドリニウム(Sigma-Aldrich, St. Louis MO)を腹腔内に用いて免疫枯渇させた。NK細胞は、-6日目及び-3日目並びにその後は週に1回4μLの抗アシアロGM1(Wako USA, Richmond VA)を腹腔内に用いて免疫枯渇させた。
以下の1つ(C3、CR2、CR3、FcRγ、FcγRIIB、又はFcγRIII)を遺伝的に欠損させたノックアウトマウスにおける全腫瘍細胞ワクチンレジメンの有効性もまた評価した。C3、CR3、FcγRIIb、FcγRIIIノックアウトマウスの種畜は業者(Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)から入手した。FcRγノックアウトマウス(FcγRI、FcγRIII及びFcεRI受容体のガンマ鎖サブユニット欠損)は、業者(Taconic, Hudson, NY)から入手した。CD2ノックアウトマウスはCBR(Harvard, Cambridge MA)から提供された。マウスは、NIH動物管理ガイドラインにしたがって病原体フリー動物施設で維持した。
【0044】
図9に示すように、3F8及び酵母ベータグルカンアジュバントの効果は、CD4 T細胞、マクロファージ、及びCR2を必要としたが、C3、CR3、又はFcRγを必要としなかった。さらにまた、実施例1-3に記載した腫瘍ワクチン試験は、静脈内又は皮下に投与されたとき、癌ワクチンは腫瘍再チャレンジに対して防御性である抗腫瘍抗体応答を誘発することを示している。この効果はさらにまた、酵母ベータグルカンの皮下投与によって強化されたが、オオムギグルカンでは強化されなかった。理論に拘束されないが、このモデルで生じる抗腫瘍抗体はオプソニンとして機能してヒト及びネズミ腫瘍抗原の両方の免疫原性を助長し、mAbは効果的な腫瘍免疫のプライミングを強化できると考えられる。
ナイーブマウスの初期内因性抗腫瘍抗体は、それらは腫瘍チャレンジを防御しなかったので明らかに不適切であった。死滅腫瘍細胞は抗体応答を誘発できなかったが、当該応答は、3F8が投与されたとき、及び生腫瘍細胞が存在したときには大いに強化され、活動的腫瘍の存在下におけるmAb処置は腫瘍免疫の誘発を支援できることを示唆している。理論に拘束されないが、誘発された抗体はおそらくGD2(3F8の標的抗原)とは別個のエピトープと結合し、それによって抗体依存腫瘍細胞細胞傷害性又はT細胞依存腫瘍免疫の求心性アームを助長すると考えられる。
Diaz de Stahlら(Diaz de Stahl et al., J Exp Med 197:1183-90, 2003)は、IgG3による抗体応答の強化はC3補体因子を枯渇させたマウスで有意に障害されるが、一方、共通Fc受容体γ鎖を欠くマウス(FcRγ-/-)(FcγRIの発現低下及びFcγRIIIの欠如をもたらす)及びFcγRIIBを欠くマウス(FcγRIIB-/-)は、IgG3複合化抗原による免疫に対して野生型コントロールと同程度に良好に応答することを報告した。しかしながら、Diaz de Stahlら(2003)と異なり、C3は、全細胞腫瘍ワクチンに対する抗体応答には要求されない。
したがって、本技術の酵母ベータグルカン組成物は、全細胞腫瘍ワクチンの免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例4】
【0045】
ベータグルカン構造の重要性及びそのアジュバント特性
酵母ベータグルカンとは対照的に、オオムギグルカンはアジュバント活性を示さなかった(
図8)。ガノデルマ・ルシデュム(
Ganoderma lucidum)(GL, Lingzhi)多糖類(酵母ベータグルカンと同じ分枝ベータ-1,3-1,6-グルカンを含む)もまた免疫原性である(Chan et al., Int Immunol 19:891-9, 2007)。これらの観察は、ある種の分子サイズのグルカンのみが抗腫瘍抗体応答の強化を示すという以前の研究と一致する(Cheung et al., Cancer Immunol Immunother 51:557-64, 2002;及びCheung and Modak, Clin Cancer Res 8:1217-23, 2002)。
したがって、本技術の酵母ベータグルカン組成物は、全細胞腫瘍ワクチンの免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例5】
【0046】
GD2-KLH腫瘍ワクチンにおける経口酵母ベータグルカンのアジュバント効果
GD2及びGD3はヒト対象動物で低免疫原性応答を生じる抗原の例である。GD2に対する偶発的抗体応答が全メラノーマ細胞による免疫後に生じ、以前の試験では6人の患者の1-2名が、GD2-KLH+QS-21による免疫に続いて抗体(中央力価1/80)を生じた。QS-21(Optimer Pharmaceuticals, Jersey City NJ)(クィラジャ・サポナリア(
Quillaja saponaria)由来のサポニン混合物を分画することによって生成)は2つの異性体を含み、前記は35%のキシロース形に対して65%のアピロース形の比率で存在する。GD3は人間でもっとも免疫原性が低いガングリオシドである。ラクトン形成は、これらのガングリオシドの免疫原性を顕著に増大させることが見出された。
図24及び
図25は、GD2-ラクトン-キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)及びGD3-ラクトン-KLHの化学合成をそれぞれ示す。簡単に記せば、オゾンを用いてガングリオシドのセラミド二重結合を開裂させ、続いてアルデヒド基を導入した。その後の工程は、KLH上のアミノリシル基との還元的アミノ化による直接カップリングを含んでいた。GD3ラクトン及びGD2ラクトンの両方のための最も低い最適用量はワクチンにつき30mcgであった。
フットパッド腫瘍の切断前及び切断後に、毎日2mg用量の酵母ベータグルカンの21日間の経口投与の存在下又は非存在下で、3μgのGD2-KLH及び20μgのQS-21でC57Bl/6マウスをワクチン免疫した。GD2-KLHワクチンを投与されたマウスはPBSと比較して延命した(
図13)。さらにまた、ベータグルカンの添加は、GD2-KLHワクチン投与マウスで生存をさらに改善したが、一方、ベータグルカン単独では効果は無かった(
図13)。
したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、その必要がある対象動物で低免疫原性抗原特異的ワクチン(例えばGD2-KLH又はGD3-KLH)の免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例6】
【0047】
2回目寛解以上の高リスク神経芽腫(HR-NB)患者におけるGD2/GD3二価ワクチンのフェースI試験
2回目以上の完全/非常に良好な部分寛解にある神経芽腫患者の皮下に(1、2、3、8、20、32及び52週に)ワクチンを投与した。当該二価ワクチンは、ラクトンとして安定化された各々30μgのGD2及びGD3を含み、前記は、免疫学的担体タンパク質キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)及びOPT-821と複合化された。OPT-821は、皮下注射毎に50、75、100、及び150μg/m
2として用量増加させた。経口ベータグルカン投与(40mg/kg/日、14日間投与/14日間休止を12サイクル)は6週目に開始した(
図14)。フェースI試験は、150μg/m
2のOPT-821(成人で用いられる投与量)では用量制限毒性は存在しなかったので15人の患者で完了した。15人の患者のうち13人が全処置を受け、前記13人には24+から39+(中央値は32+)の月数で無再発を維持した12人の患者及び21ヶ月で再発した(結節がただ1つの)1人の患者が含まれていた。無再発生存は24ヶ月で80%±10%であった。15人の患者のうち14人は10年後になお生存していた。ワクチン及びベータグルカンに対する耐性は良好であった。15人の患者のうち12人でGD2及び/又はGD3に対して抗体応答があった。きわめて小さな残留疾患の消失が、応答が評価できる10人の患者のうち6人で記載された。
したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、その必要がある対象動物で低免疫原性抗原特異的ワクチン(例えばGD2-KLH又はGD3-KLH)の免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例7】
【0048】
2回目寛解以上のHR-NB患者におけるGD2/GD3二価ワクチンのフェースII試験
フェースII試験では、アジュバントOPT-821を150μg/m
2で混合した60μgのGD2-KLH/GD3-KLH複合物の7用量を、2回目以上の寛解にある84人のHB-NB患者に外来患者診療で1年にわたって皮下投与した(
図14)。経口ベータグルカン(40mg/kg/日、14日間投与/14日間休止を10ヵ月)は6週目に開始し、抗体媒介細胞傷害性を強化した。無増悪生存(PFS)及び全生存(OS)をカプランマイヤー分析によって概算した。
84人の患者はいずれも先行再発を有し、処置された57人が2回目の寛解にあり、18人が3回目の寛解にあり、残りは4回目から7回目の寛解にあった。全ての患者が、マウス3F8(63%)、及び/又はヒト3F8(57%)、及び/又はジヌツキシマブ(46%)のいずれかの先行暴露を受けていた。追跡期間中央値は19ヶ月であり、2年間におけるPFSは54%±6%、OSは90%±5%で、グレード3以上の毒性はなかった。血清抗GD2及び抗GD3 IgG1抗体をELISAを用い一連の時点で測定し、統合して1月ごとの曲線下面積として表した。抗GD2力価は13%の患者でワクチン前陽性で、83%の患者でワクチン後陽性であった。抗GD3力価は29.4%の患者でワクチン前陽性で、70.4%の患者でワクチン後陽性であった。
【0049】
酵母ベータグルカンの観察されたアジュバント効果は、抗腫瘍応答の改善と相関性を示した。生じた抗GD2抗体力価は痛み又は神経障害を有する患者を全くもたらさなかった。ワクチン前力価とワクチン後力価との間に相関性はなかった。120ng/mL/月を超える抗GD2抗体力価は、PFS及びOSの改善の予兆であった(それぞれp=0.03及び0.018、
図15及び
図16)。対照的に、抗GD3応答の結果は生存について予兆として有意ではなかった。さらにまた、患者における抗GD2及び抗GD3抗体力価の両方の同時改善は、本技術の酵母ベータグルカン組成物とともに抗原混合物を用いたときに抗原競合は観察されないことを示している。
診断時の年齢、診断からの期間、
MYCN増幅、先行再発数、ワクチン前の抗GD2抗体療法とともにワクチン前の抗GD2血清力価による患者への結果に対する影響はなかった。同様な臨床試験がまた初めての寛解にある患者で実施され、より短い追跡期間及びより少ないイベント(再発又は死亡)が示された。
したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、その必要がある対象動物で低免疫原性抗原特異的ワクチン(例えばGD2-KLH又はGD3-KLH)の免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例8】
【0050】
経口酵母ベータグルカンはGD2/GD3ワクチンを受けた最初及び2回目以上の寛解にある患者で抗GD2及び抗GD3抗体力価を増加させた
血清抗GD2及び抗GD3力価(それぞれ
図17及び
図18)をELISAを用い一連の時点で個々の患者でモニターし、統合して1月ごとの曲線下面積として表した。血清抗GD2抗体は、ワクチン/QS21で最初の5週間に最小限上昇した(8±3から35±7(p=0,007))。経口グルカンを開始すると直ちに、抗GD2抗体力価(
図17)は、初めての寛解及び2回目以上の寛解で処置された患者の一体グループで最大10倍増加した。抗GD3力価(
図18)もまた経口グルカンの開始後増加したが、ただし抗GD2力価ほど激しくはなかった。2回目以上及び最初の寛解で処置された個々の患者におけるグルカン投与前及びグルカン投与中の抗GD2力価は
図19に要約されている。2回目以上及び最初の寛解で処置された個々の患者におけるグルカン投与前及びグルカン投与中の抗GD3力価は
図20に要約されている。抗GD2力価は、個々の患者がもはや経口グルカンを投与されていないときでも最大2年まで持続した(
図21)。抗GD3力価もまたこれらの患者でモニターされ(
図20)、上記に記載したとおり、抗GD3応答もまた経口グルカン後に増加したが、ただし抗GD2応答程顕著ではなかった。さらにまた、生存(PFS又はOS)との相関性はなく、GD2と異なり、GD3は神経芽腫の抗体療法の正しい標的ではないかもしれない。
したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、その必要がある対象動物で低免疫原性抗原特異的ワクチン(例えばGD2-KLH又はGD3-KLH)の免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例9】
【0051】
経口酵母ベータグルカンは腸管細菌叢の多様化に関係した
経口酵母グルカン処置(40mg/kg/日、14日間投与/14日間休止)の前、処置の間、及び処置終了後に糞便標本を神経芽腫患者から入手した。16SリボソームRNA遺伝子配列決定を用いて、当該糞便サンプルを分析した。t-分布確率的埋め込み(tSNE)による可視化を用いて、前記コホートの微生物叢組成物を以前に分析した健康なツインペアの集団と比較した。さらにまた神経芽腫の一時的治療期の間に患者から入手した糞便サンプルとも比較した。多様性はシンプソン多様性インデックスを用いて分析した。微生物叢の成熟性はランダムフォレストモデルアプローチを用いて決定した。治療前サンプルは有意な腸内細菌共生バランス失調症を示さず、予想される微生物叢成熟性は実年齢の6ヵ月以内に収まった。腸内細菌共生バランス失調症は導入化学療法を受けた全ての患者で発生し、多様性及びエンテロコッカス・ファエシウム(Enterococcus faecium)優勢の両方が失われた。細菌叢の未成熟性は、導入療法及び強化療法中の全ての患者サンプルで観察され、予測される細菌叢年齢は、実年齢にかかわらず12ヶ月以下であった。HR-NBのための標準的治療法の完了後に分析した小児では、腸内多様性の全体的改善にもかかわらず腸管微生物叢は未熟なままであった。このグループでは、実年齢3-9歳について予想される微生物叢年齢は8-18ヶ月の範囲であった。患者が経口グルカンを開始したとき、定常的な細菌叢の多様化及び腸管の腸内細菌共生バランス失調症の正常化があった。
健康個体の腸管細菌叢は、バクテロイデス門及びフィルミクテス門由来の細菌種が優勢であり、前記より優勢さが劣る門(すなわちアクチノバクテリア、フソバクテリア、プロテオバクテリア及びベルコミクロビア)が追加される。理論に拘束されないが、開示された前臨床及び臨床データに基づけば、経口酵母グルカンは微生物叢の多様化を促進することができると考えられ、この多様化は続いて、皮下ワクチンとして投与された炭水化物及びタンパク質抗原の両方に対する免疫応答を強化する。この強化は、腫瘍再発に対してきわめて有効であり、先行する化学放射線療法により免疫が低下した小児でさえも、再発及び癌による死亡から患者は防御された。実施例6-8に記載されたように、酵母グルカンは46週間にわたって投与されたとき完全に安全であり、誘発された抗体力価は、酵母ベータグルカンが停止されたときでさえ少なくとも2年間にわてって持続した。
したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、その必要がある対象動物で腸管微生物叢の多様性を高める方法で有用である。
【実施例10】
【0052】
抗腫瘍抗体の存在下における植物アジュバントのin vitro腫瘍細胞傷害性
腫瘍の治療方法:まず初めにSCIDマウス(Jackson Lab, Bar Harbor ME)の脇腹領域の皮下に、培養から新しく採集し100μLのマトリゲル(BD Biosciences, Billerica MA)に懸濁したRamos腫瘍細胞(ヒトリンパ腫細胞株(Pagel et al., Blood 108:328-36, 2006))を移植した。触診可能な小腫瘍(サイズ6-8mm)が出現し始めたときに、無作為に各々5匹ずつの処置グループにマウスを分けた。続いて、経口植物アジュバント、静脈内リツキサンmAb、又は経口植物アジュバント+リツキサンmAbのいずれかを3週間マウスに与えた。mAbは週に2回尾静脈から投与した。2mgの被検植物アジュバント(無LPS水に20mg/mL溶液又は懸濁液)を週に5回胃内注射によって投与した。腫瘍サイズ(長さ及び幅)をカリパスで週に2回測定した。腫瘍の長さが20mmより大きくなったときにマウスをサクリファイスした。植物アジュバントの各々について、2つのエンドポイントが得られた:(1)正の抗腫瘍効果(コントロールグループ(抗体単独処置)と統計的に異なると定義される)、及び(2)(抗体単独処置マウスの平均腫瘍増殖)/(植物アジュバント+抗体処置マウスの平均腫瘍増殖)と定義される抗腫瘍インデックス。被検植物アジュバントには以下が含まれる:オオムギ(Megazyme International Ireland Ltd, Ireland)及びコムギ(Biotec Pharmacon, Tromso, Norway)ベータグルカン、アストラガルス・メンブラナシウス(
Astragalus membranaceus)水抽出物、アストラガルス・メンブラナシウス50%エタノール抽出物(Institute of Chinese Medicine (ICM), Hong Kong)、アストラガルス・メンブラナシウス95%エタノール抽出物(ICM, Hong Kong)、コリオルス・ベルシコロル(
Coriolus versicolor)水抽出物(ICM, Hong Kong)、コロリオルス・ベルシコロル多糖類ペプチド(PSP)(ICM, Hong Kong)、コロリオルス・ベルシコロルタンパク質結合多糖類-K(PSK)(ICM, Hong Kong)、及びウコン水エタノール抽出物(New Chapter, Median, North Dakota)。
結果:ヒトリンパ腫RamosはリツキシマブmAb(リツキサン)に対してin vivoで非常に鋭敏であった。用量5μgでさえも、リツキサン単独で腫瘍増殖の30%が抑制された。静脈内リツキサンが経口植物アジュバントと併用されたとき、酵母グルカン及びコリオルス・ベルシコロル多糖類ペプチド(PSP)は最強のアジュバント効果を引き出し、アストラガルス・メンブラナシウスがそれに続いた。PSK(タンパク質結合多糖類-K)及びコリオルス・ベルシコロル水抽出物はアジュバントとしての有効性は前記よりも低く、一方、ウコンは総合的に無効であった(
図22)。試験した多様な植物アジュバントの抗腫瘍性能は
図23に要約されている。
総合すれば、これらの結果は、全てではないが植物アジュバントは、癌ワクチンの免疫原性の強化に等しく有効である。したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、癌ワクチンの免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例11】
【0053】
経口ベータグルカンに続いて誘発される抗GD2力価は高リスク4期神経芽腫(HR-NB)患者の生存に強く相関する
150μgのアジュバントOPT-821と混合した60μgのGD2-KLH/GD3-KLH複合物ワクチンの7用量を、外来患者診療で230人のHR-NB患者に1年にわたって皮下投与した。経口ベータグルカン(3ヶ月おきに40mg/kg/日x2週間を10ヵ月)を加え抗体媒介細胞傷害性を強化した。無増悪生存(PFS)及び全生存(OS)をカプランマイヤー分析によって概算した。
結果:230人の患者を入手しワクチンで処置した:15人はフェースI(グループ1)、残りはフェースII拡張。フェースII拡張では、102人の患者(グループ2)は2回目以上寛解の非無作為態様で処理され、34人(グループ3)は新しい無作為延長で処理された。78人の患者(グループ4)は1回目寛解で処理された。予備的分析は以下を示した:(1)51%±5%のPFS(2回目以上寛解の非無作為抽出グループでワクチン開始から102ヶ月の最長フォーローアップ)、及び76%±6%のPFS(1回目の寛解グループでワクチン開始から78ヶ月のフォローアップ);(2)OSはそれぞれ79%±9%及び98%±2%;(3)IgM抗GD2抗体及びIgG抗GD2抗体の両方が誘発され、高力価はPFS及びOSと強力に相関した;(4)IgM抗GD2抗体力価はIgG抗GD2とは無関係に予後を示した;(5)IgM及びIgG力価の両方が経口グルカンの開始と時を同じくして最大10倍増加した;(6)ワクチンが完了しグルカンが停止された後、IgM及びIgGの両方が存続した;(7)IgM及びIgG抗GD3抗体はGD3ワクチンによって促進されグルカンによってさらに上昇したが、IgM抗GD3力価もIgG抗GD3力価も患者の結果とは相関しなかった。
これらの結果は、GD2-KLH/GD3-KLHワクチンの安全性及びPFS及びOSにおける抗GD2血清変換の影響を立証した。IgM(補体媒介細胞傷害性、補体依存細胞媒介細胞傷害性及び補体依存細胞媒介食作用に必要)及びIgG(NK-抗体細胞媒介細胞傷害性(ADCC)及び骨髄-ADCCに必要)力価の両方が経口グルカンによって強化され、ワクチン完了及び経口グルカン完了後に持続する。
したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、その必要がある対象動物で低免疫原性抗原特異的ワクチン(例えばGD2-KLH又はGD3-KLH)の免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例12】
【0054】
種々のインフルエンザワクチン構築物を用いる経口ベータグルカン誘発抗体応答の評価
インフルエンザ(Flu)ワクチンの主要な目標は、変化する標的抗原スペクトルに対して十分な免疫応答を誘発する高度に免疫原性でしかも安全なワクチンである。市場で利用可能なFluワクチンの例には、不活化され最低限精製されたワクチン(Fluzone(商標), Sanofi, Paris, France)、(2)部分精製されたワクチン(FluarixTM, GSK, Brentford, United Kingdom)、又は組換えヘマグルチニン(HA)タンパク質ワクチン(Flublok(商標), Protein Sciences, Meriden, CT)が含まれ、前記は、アジュバント又は免疫調整物質の効果を試験するための理想的なベヒクルとして機能する。表2を参照されたい。
【0055】
【0056】
組換えタンパク質ワクチンは、典型的には不活化ワクチンと比較して弱い免疫原性を有し、したがって反復ワクチン接種に加えて3倍多いワクチン用量を必要とする。例えば以下を参照されたい:Christensen, Human Vaccines & Immunotherapeutics, 12(10): 2709-2711, 2016;Blanchfield et al., Influenza and Other Respiratory Viruses 8(6), 628-635, 2014;Mazor et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 111(23): 8571-8576, 2014;及びOnda et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 105(32): 11311-11316, 2008。これらのFluワクチン(特に組換えFlu HAタンパク質ワクチン)の有効性を、それらの好ましい安全性プロフィールを損なうことなく高める免疫学的アジュバント又は免疫調整物質は重要な市場潜在力を有しよう。
方法:酵母ベータグルカンの経口投与がFluワクチンの免疫原性を強化できるか否かを決定するために、エンドポイントとして血球凝集阻害(HI)を用い、ベータグルカン誘発抗体応答を査定した。以下のワクチンのいずれかを1.5mcg/マウスで用い1日目及び14日目にマウスグループを皮下免疫した:Fluzone(商標)(Sanofi Pasteur, Paris, France)、FluArix
TM(GSK, Brentford, United Kingdom)又はFlublok(商標)(Protein Sciences, Meriden, CT)。ベータグルカンを1-5、8-12、15-19及び22-26日目に経口投与した。Fluワクチン単独でワクチン免疫したマウスを陽性コントロールとして供した。マウスを0、14、21、28、35日目、及びその後4週間毎に1回採血した。0、14、21、28、及び35日目に得られた全ての血清を、Flu又はFluワクチンに対する血清学的応答測定の代表的基準である血球凝集阻害アッセイにより試験しした。HAに対する抗体力価はFlu感染に対する防御と相関することはずっと以前から知られている。
表3
各Fluワクチンは4抗原を含む
FluArix
TM:60μg/0.5mL(各抗原15μg/0.5mL)
Flublok(商標):180μg/0.5mL(各抗原45μg/0.5mL)
Fluzone(商標):60μg/0.5mL(各抗原15μg/0.5mL)
各ワクチンの1用量をベータグルカン(BG)の存在下又は非存在下で試験した。各グループ5匹のマウス(6グループx5マウス=合計30マウス)。
【0057】
結果:ベータグルカンの経口投与は、市場で入手できるワクチンの各々による免疫後、不活化、部分精製又は組換えにかかわらず、HAに対する抗体応答を有意に(2倍)増加させた(表4参照)。HI力価に対するベータグルカンの効果は免疫期間を通して一貫していた。
【0058】
【0059】
したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、その必要がある対象動物で低免疫原性抗原特異的ワクチン(例えば不活化、部分精製又は組換えHA)の免疫原性を強化する方法で有用である。
【実施例13】
【0060】
GD2L/GD3L-KLH複合物又はフコシル-GM1-KLH構築物を用いる経口ベータグルカン誘発抗体応答の評価
実験設計:動物を以下の実験グループに分割した:
GD2/GD3-KLHワクチン処理グループ:(1)経口ベータグルカン単独、(2)GD2/GD3-KLHワクチン単独(皮下)、(3)GD2/GD3-KLHワクチン(皮下)及び経口ベータグルカン、(4)QS-21混合GD2/GD3-KLHワクチン(皮下)、並びに(5)QS-21混合GD2/GD3-KLHワクチン(皮下)及び経口ベータグルカン。
フコシルGM1-KLH処理グループ:(1)経口ベータグルカン単独、(2)フコシルGM1-KLHワクチン単独(皮下)、(3)フコシルGM1-KLHワクチン(皮下)及び経口ベータグルカン、(4)OPT-821混合フコシルGM1-KLHワクチン(皮下)、並びに(5)OPT-821混合フコシルGM1-KLHワクチン(皮下)及び経口ベータグルカン。
GD2/GD3-KLH(5μg/マウス)又はフコシル-GM1-KLH(5μg/マウス)±QS-21(20μg/マウス)若しくはOPT-821(20μg/マウス)のいずれかによりマウスを0、7、14、42及び63日目にワクチン接種した。処理グループのサブセットに、ベータグルカン(40mg/kg/マウス、週に5日間)を7-11日目、14-18日目、35-39日目、42-46日目、63-67日目、及び70-74日目に投与した。ワクチン単独、ワクチン+OPT-821、及びベータグルカン単独でワクチン接種したマウスはコントロールグループとして供された。以下のように合計5回の採血を実施した:0日目の2日前、21日目、46日目、53日目、及び77日目。ワクチン接種、胃管投与、採血及び免疫スケジュールは
図26及び27に示される。
定量ELISAアッセイによる免疫応答の評価:ウェル当たり60μLのエタノールに0.2μgのGD2又はフコシルGM1を用いビーズを被覆した(フードで一晩インキュベート)。ELISAプレートを1%のHAS-PBSを用い室温で1時間ブロックした。0.5%のHSAを用い血清を1:40に希釈しELISAでアッセイした。IgG及びIgM GD2力価のELISA定量のために、マウス3F8及び3G6をそれぞれ参照抗体として用いた(5μg/mLから0.039μg/mLの連続2倍希釈)。抗FucGM1抗体IgG力価のELISA定量のために、マウスmAb F12(μg/mL)を参照として用いた。100μLの希釈血清又は抗体を各ウェルに添加し、1-2時間室温でインキュベートした。AP-結合ヤギ抗マウスIgG又はIgM(二次抗体)を0.5%のHAS-PBSで1:1000に希釈した。希釈した二次抗体100μLを各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。続いてウェルをp-リン酸ニトロフェニル基質(Sigma-Aldrich, MO)とともに30分室温でインキュベートし、発色結果を415nMで読み取った。
図28及び29に示すように、GD2L-KLH+QS-21を用いてワクチン免疫されベータグルカンを胃管投与されたマウスは、GD2L-KLH+QS-21アジュバントだけでワクチン免疫されたマウスと比較して、IgG抗体力価で4倍を超える増加及びIgM抗体力価で2倍を超える増加を示した。同様に、フコシル-GM1-KLH+OPT-821でワクチン免疫されベータグルカンを胃管投与されたマウスは、フコシル-GM1-KLH+OPT-821アジュバントだけでワクチン免疫されたマウスと対比して、IgG抗体で力価で10倍より高い増加を示した。
図30を参照されたい。これらの抗体力価は、フコシル-GM1-KLH複合物及びGD2-KLHワクチンを用いた以前の研究で報告されたものより顕著に高い。以下の論文を参照されたい:Krug et al., Clinical Cancer Research 10: 6094-6100, 2004;Cappello et al., Cancer Immunol Immunother 48:483-492, 1999;Dickler et al., Clinical Cancer Research 5: 2773-2779, 1999;及びRagupathi et al., Clinical Cancer Research 9: 5214-5220, 2003。
したがって、本技術の酵母ベータグルカンは、その必要がある対象動物で低免疫原性抗原特異的ワクチン(例えばGD2-KLH、GD3-KLH、又はフコシル-GM1-KLH)の免疫原性を強化する方法で有用である。
【0061】
等価物
本技術は、本出願に記載した個別の実施態様に関して限定されるべきではなく、それら実施態様は、本技術の個々の特徴の1つの例示として意図される。当業者には明白であろうが、本技術の多くの改変及び変型は本技術の趣旨及び範囲を外れることなく実施され得る。本明細書に列挙された装置及び方法に加えて、本技術の範囲内の機能的に等価な方法及び装置は前述の記載から当業者には明白であろう。そのような改変及び変型は添付の特許請求の範囲内に含まれるものである。本技術は、添付の特許請求の範囲によって権限を与えられる全範囲の等価物とともに、当該添付の特許請求の範囲に関してのみ制限されるべきである。本技術は、個別の方法、試薬、化合物、組成物、又は生物学的な系(それらは当然変動し得る)に制限されないことは理解されるべきである。本明細書で用いられる用語論は個別の実施態様を説明することを目的とし、制限を意図しないこともまた理解されるべきである。
加えて、本開示の特色又は特徴がマルクーシュグループの関係で記載される場合、当該開示はまた、それによってマルクーシュグループの個々の任意のメンバー又はサブグループのメンバーに関して記載されていることは当業者には理解されよう。
当業者には理解されるように、任意の目的及び全ての目的のために、特に書面での説明を提供する場合には、本明細書に開示される全ての範囲はまた、任意のかつ全ての可能な部分範囲及びその部分範囲の組合せを包含する。列挙されたいずれの範囲も、十二分に記載され、かつ同じ範囲を少なくとも均等な半分、1/3、1/4、1/5、1/10などに分解することが可能であることは容易に理解されよう。非限定的な例として、本明細書で考察される各範囲は、下方の3/1、真ん中の1/3、上方の1/3などに容易に分解することができる。当業者にはまた理解されるところであるが、例えば、“まで”、“少なくとも”、“を超える”、“未満”などの言葉はいずれも列挙された数を含み、さらに上記で考察したように続いて部分範囲に分解することができる範囲を指す。最後に、当業者には理解されるところであるが、範囲は個々の各メンバーを含む。したがって、例えば1-3つの細胞を有するグループは、1、2又は3つの細胞を有するグループを指す。同様に、1-5つの細胞を有するグループは、1、2、3、4又は5つの細胞を有するグループを指し、以下同様である。
本明細書で参照又は引用された全ての特許、特許出願、仮特許出願、及び公開物は、参照によってその全体(全ての図及び表を含む)が本明細書に、本出願の明快な教示と一致する程度で含まれる。