IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルコア ユーエスエイ コーポレイションの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】Al-Mg-Si-Mn-Fe鋳造合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20240216BHJP
   B22D 17/00 20060101ALI20240216BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C22C21/06
B22D17/00 B
B22D21/04 A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020561716
(86)(22)【出願日】2019-05-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 US2019030924
(87)【国際公開番号】W WO2019217319
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】62/667,930
(32)【優先日】2018-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】317012374
【氏名又は名称】アルコア ユーエスエイ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シンヤン
【審査官】浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-146463(JP,A)
【文献】特開昭60-245759(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01384264(GB,A)
【文献】特開2014-218734(JP,A)
【文献】国際公開第2015/052776(WO,A1)
【文献】特開2018-103228(JP,A)
【文献】特開2002-105611(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109312430(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/06
B22D 17/00
B22D 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム鋳造合金であって、
2.75~4.6重量%のMgと、
0.70~2.5重量%のSiと、
但し、マグネシウムとケイ素の重量比(重量%Mg/重量%Si)は1.7:1乃至3.6:1であり、
0.55~1.5重量%のMnと、
0.20~0.60重量%のFeと、を含み、かつ、
(1) 重量%Si≦(0.4567*(重量%Mg)+0.2*(重量%Mn)+0.25*(重量%Fe);及び
(2) 重量%Si≧(0.4567*(重量%Mg)+0.2*(重量%Mn)+0.25*(重量%Fe)-0.6)であり、
Tiを0.01~0.15重量%含み、
任意にSrを最大で0.10重量%含み、
任意にZr、Hf、V、及びCrの何れかを最大で0.15重量%含み、残部アルミニウム及び不可避不純物からなり、スカンジウムが前記アルミニウム鋳造合金の中に不純物として含まれている、アルミニウム鋳造合金。
【請求項2】
Srを0.005~0.10重量%含む、請求項1のアルミニウム鋳造合金
【請求項3】
アルミニウム鋳造合金は、少なくとも3.0重量%のMgを含む、請求項1のアルミニウム鋳造合金。
【請求項4】
アルミニウム鋳造合金は、1.10~2.1重量%のSiを含む、請求項3のアルミニウム鋳造合金。
【請求項5】
アルミニウム鋳造合金は、0.60~1.2重量%のMnを含む、請求項4のアルミニウム鋳造合金。
【請求項6】
アルミニウム鋳造合金は、0.30~0.60重量%のFeを含む、請求項5のアルミニウム鋳造合金。
【請求項7】
(0.4567*重量%Mg-0.5)≦重量%Si≦(0.4567*重量%Mg+0.2)である、請求項1のアルミニウム鋳造合金。
【請求項8】
アルミニウム鋳造合金は、200MPa以上の極限引張強度、110MPa以上の引張降伏強度、及び10%以上の伸び、の少なくとも1つを実現する、請求項1のアルミニウム鋳造合金。
【請求項9】
アルミニウム鋳造合金は、0.012重量%以下のβ-A1FeSi化合物を含む、請求項1のアルミニウム鋳造合金。
【請求項10】
アルミニウム鋳造合金は、高温割れ傾向指数が、0.30以下を実現する、請求項1のアルミニウム鋳造合金。
【請求項11】
方法であって、
(a)アルミニウム鋳造合金を形状鋳造品にシェイプ鋳造する工程であって、前記アルミニウム鋳造合金が、
2.75~4.6重量%のMgと、
0.70~2.5重量%のSiと、
但し、マグネシウムとケイ素の重量比(重量%Mg/重量%Si)は1.7:1乃至3.6:1であり、
0.55~1.5重量%のMnと、
0.20~0.60重量%のFeと、を含み、かつ、
(1) 重量%Si≦(0.4567*(重量%Mg)+0.2*(重量%Mn)+0.25*(重量%Fe);及び
(2) 重量%Si≧(0.4567*(重量%Mg)+0.2*(重量%Mn)+0.25*(重量%Fe)-0.6)であり、
Tiを0.01~0.15重量%含み、
任意にSrを最大で0.10重量%含み、
任意にZr、Hf、V、及びCrの何れかを最大で0.15重量%含み、残部アルミニウム及び不可避不純物であって、スカンジウムが前記アルミニウム鋳造合金の中に不純物として含まれており、
シェイプ鋳造後の前記形状鋳造品がクラックフリーである、シェイプ鋳造する工程と、
(b)前記形状鋳造品を質別処理する工程と、を含む、方法。
【請求項12】
シェイプ鋳造は、高圧ダイカスト鋳造である、請求項11の方法。
【請求項13】
質別処理は、形状鋳造品に、F質別及びT5質別の1つの質別処理をすることを含む、請求項11の方法。
【請求項14】
質別処理は、溶体化熱処理工程を行わない、請求項11の方法。
【請求項15】
形状鋳造品は、自動車部品の形態である、請求項11の方法。
【請求項16】
自動車部品は、構造部品である、請求項15の方法。
【請求項17】
自動車部品は、ドアフレーム、又はショックタワー、又はトンネル構造体である、請求項15の方法。
【請求項18】
形状鋳造アルミニウム合金製品であって、
2.75~4.6重量%のMgと、
0.70~2.5重量%のSiと、
但し、マグネシウムとケイ素の重量比(重量%Mg/重量%Si)は1.7:1乃至3.6:1であり、
0.55~1.5重量%のMnと、
0.20~0.60重量%のFeと、を含み、かつ、
(1) 重量%Si≦(0.4567*(重量%Mg)+0.2*(重量%Mn)+0.25*(重量%Fe);及び
(2) 重量%Si≧(0.4567*(重量%Mg)+0.2*(重量%Mn)+0.25*(重量%Fe)-0.6)であり、
Tiを0.01~0.15重量%含み、
任意にSrを最大で0.10重量%含み、
任意にZr、Hf、V、及びCrの何れかを最大で0.15重量%含み、残部アルミニウム及び不可避不純物であって、スカンジウムが不純物として含まれているアルミニウム鋳造合金を含み、
自動車部品の形態である、形状鋳造アルミニウム合金製品。
【請求項19】
自動車部品は、構造部品である、請求項18の形状鋳造アルミニウム合金製品。
【請求項20】
自動車部品は、ドアフレーム、又はショックタワー、又はトンネル構造体である、請求項18の形状鋳造アルミニウム合金製品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アルミニウム合金は、様々な用途で有用である。例えば、アルミニウム鋳造(casting又はfoundry)合金は、例えば、自動車産業や家電産業を含む数十もの産業で使用されている。
【発明の概要】
【0002】
広義において、本開示は、新規なアルミニウム鋳造合金及びその関連製品に関する。新規なアルミニウム鋳造合金は、概して、2.5~5.0重量%のMg、0.70~2.5重量%のSiを含み(本質的に前記Mg及び前記Siからなることもある)、マグネシウムとケイ素の重量比(Mg/Si)は1.7:1乃至3.6:1であり、0.40~1.5重量%のMn、0.10~0.60重量%のFeを含み、任意にTiを最大0.15重量%、任意にSrを最大0.10重量%、及び任意にZr、Sc、Hf、V、及びCrの何れかを最大0.15重量%含み、残部アルミニウム及び不可避不純物である。新規なアルミニウム鋳造合金は、特性の中でも、特に、強度、展性(ductility)、鋳造性、金型焼き付き抵抗性(die soldering resistance)、及び品質指数(quality index)の2つ以上の特性の向上を実現することができる。
【0003】
<i.組成>
上述したように、新規なアルミニウム鋳造合金は、概して2.5~5.0重量%のMgを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、4.75重量%以下のMgを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、4.60重量%以下のMgを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも2.75重量%のMgを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも3.0重量%のMgを含む。
【0004】
上述したように、新規なアルミニウム鋳造合金は、概して、0.70~2.5重量%のSiを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.80重量%のSiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.90重量%のSiを含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.95重量%のSiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも1.00重量%のSiを含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも1.05重量%のSiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも1.10重量%のSiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも1.15重量%のSiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも1.20重量%のSiを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、2.4重量%以下のSiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、2.3重量%以下のSiを含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、2.2重量%以下のSiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、2.1重量%以下のSiを含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、2.0重量%以下のSiを含む。
【0005】
上述したように、新規なアルミニウム鋳造合金のマグネシウムとケイ素の重量比(重量%Mg/重量%Si)は、概して、1.7:1乃至3.6:1である。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金のマグネシウムとケイ素の重量比は、少なくとも1.8:1である。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金のマグネシウムとケイ素の重量比は、少なくとも1.85:1である。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金のマグネシウムとケイ素の重量比は、3.6:1以下である。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金のマグネシウムとケイ素の重量比は、3.5:1以下である。
【0006】
一実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、クラックフリー(crack-free)の鋳造製品(例えば、クラックフリーの高圧ダイカスト製品)の製造を容易にするのに十分な量のマグネシウムとケイ素とを含む。クラックフリー製品とは、所定の目的のために使用するのに十分であるクラックの無い製品を意味する。一実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、高温割れ傾向指数(hot cracking tendency index)(HCTI)が、本明細書で開示される低いHCTI値の例としての0.30以下を実現するのに十分な量のマグネシウムとケイ素を含む。
【0007】
上述したように、新規なアルミニウム鋳造合金は、概して、0.40~1.5重量%のMnを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.45重量%のMnを含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.50重量%のMnを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.55重量%のMnを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.60重量%のMnを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、1.45重量%以下のMnを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、1.40重量%以下のMnを含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、1.35重量%以下のMnを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、1.30重量%以下のMnを含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、1.25重量%以下のMnを含む。別の実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、1.20重量%以下のMnを含む。
【0008】
上述したように、新規なアルミニウム鋳造合金は、概して、0.10~0.60重量%のFeを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.12重量%のFeを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.15重量%のFeを含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.20重量%のFeを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.25重量%のFeを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.30重量%のFeを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.35重量%のFeを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.55重量%以下のFeを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.50重量%以下のFeを含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.45重量%以下のFeを含む。
【0009】
一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、α相粒子の形成を促進し、β相粒子の形成を制限するのに十分な量の鉄とマンガンを含む。一実施形態において、新規なアルミニウム鋳造合金は、少なくとも鉄の含有量により、0.012重量%以下のβ-A15FeSi化合物を含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.010重量%以下のβ-Al5FeSi化合物を含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.008重量%以下のβ-Al5FeSi化合物を含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.006重量%以下のβ-A15FeSi化合物を含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.004重量%以下のβ-A15FeSi化合物を含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.002重量%以下のβ-A15FeSi化合物を含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.001重量%以下のβ-A15FeSi化合物を含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.0005重量%以下のβ-AlFeSi化合物を含む。
【0010】
一実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、次の条件を満たすのに十分な量のマグネシウムとケイ素を含むことができる:
(0.4567*Mg-0.5)<=Si<=(0.4567*Mg+0.2)
【0011】
一実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、次の条件を満たすのに十分な量のマグネシウム、ケイ素、マンガン、及び鉄を含むことができる。
(1) 重量%Si≦(0.4567*(重量%Mg)+0.2*(重量%Mn)+0.25*(重量%Fe);及び
(2) 重量%Si≧(0.4567*(重量%Mg)+0.2*(重量%Mn)+0.25*(重量%Fe)-0.6)
【0012】
上述したように、新規なアルミニウム鋳造合金は、任意に、Tiを最大0.15重量%含むことができる。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.01重量%のTiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.03重量%のTiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.05重量%のTiを含む。新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.07重量%のTiを含む。新しいアルミニウム鋳造合金は、0.13重量%以下のTiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.115重量%以下のTiを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.10重量%以下のTiを含む。一実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、結晶粒を微細化し、チタン含有一次粒子の形成を制限/回避するのに十分な量のチタンを含む。幾つかの実施形態では、チタンは、不純物として新規なアルミニウム鋳造合金に含まれる。
【0013】
上述したように、新規なアルミニウム鋳造合金は、任意に、Srを最大0.10重量%含むことができる。一実施形態では、ストロンチウム含有一次粒子の形成を制限/回避すると共に、MgSi共晶の改質を促進するのに十分な量のストロンチウムを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、少なくとも0.005重量%のSrを含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.08重量%以下のSrを含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.05重量%以下のSrを含む。幾つかの実施形態では、ストロンチウムは、不純物として新規なアルミニウム鋳造合金に含まれる。
【0014】
上述したように、新規なアルミニウム鋳造合金は、任意で、Zr、Sc、Hf、V、及びCrの何れかを最大で0.15重量%含む。一実施形態において、新しいアルミニウム鋳造合金は、ジルコニウム、スカンジウム、ハフニウム、バナジウム、及び/又はクロムを含有する一次粒子の形成を制限/回避すると共に、固溶強化を促進するのに十分な量のジルコニウム、スカンジウム、ハフニウム、バナジウム、及び/又はクロムを含む。一実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、Zr、Sc、Hf、V、及びCrの何れかを少なくとも0.01重量%含む。一実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、Zr、Sc、Hf、V、及びCrの何れかを少なくとも0.03重量%含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、Zr、Sc、Hf、V、及びCrの何れかを少なくとも0.05重量%含む。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、Zr、Sc、Hf、V、及びCrの何れかを0.10重量%以下含む。幾つかの実施形態では、ジルコニウムは、不純物として新規なアルミニウム鋳造合金に含まれる。幾つかの実施形態では、スカンジウムは、不純物として新規なアルミニウム鋳造合金に含まれる。幾つかの実施形態では、ハフニウムは、不純物として新規なアルミニウム鋳造合金に含まれる。幾つかの実施形態では、バナジウムは、不純物として新規なアルミニウム鋳造合金に含まれる。幾つかの実施形態では、クロムは、不純物として新規なアルミニウム鋳造合金に含まれる。
【0015】
新しいアルミニウム鋳造合金の残部は、概して、アルミニウム及び不可避不純物である。一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、不可避不純物を0.30重量%以下含み、新しいアルミニウム鋳造合金は、不可避不純物の何れかの元素を0.10重量%以下含む。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、不可避不純物を0.15重量%以下含み、新しいアルミニウム鋳造合金は、不可避不純物の何れかの元素を0.05重量%以下含む。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、不可避不純物を0.10重量%以下含み、新しいアルミニウム鋳造合金は、不可避不純物の何れかの元素を0.03重量%以下含む。
【0016】
<ii.処理>
新規なアルミマム鋳造合金は、適当な任意の鋳造方法を用いて鋳造することができる。一実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、インゴット又はビレットとして直接チル鋳造される。別の実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、形状鋳造品(shape cast product)(例えば、複雑な自動車部品のような複雑な形状鋳造品)にシェイプ鋳造される。一実施形態では、形状鋳造品は、自動車構造部品である。別の実施形態では、形状鋳造品は、ドアフレームである。別の実施形態では、形状鋳造品はショックタワーである。別の実施形態では、形状鋳造品は、自動車用トンネル構造体である。
【0017】
一実施形態において、シェイプ鋳造(shape casting)は高圧ダイカスト鋳造(high-pressure die casting)を含む。別の実施形態では、シェイプ鋳造は永久モールド鋳造を含む。
【0018】
新しいアルミニウム鋳造合金は、溶体化熱処理工程を必要としない。それゆえ、新規なアルミニウム鋳造合金には、F質別(temper)又はT5質別などの適当な質別処理が施されることができる。
【0019】
<特性>
上述したように、新規なアルミニウム鋳造合金は、強度、展性、鋳造性、金型焼き付き抵抗性及び品質指数の少なくとも2つ以上の特性の向上を実現することができる。機械的特性は、ASTM E8及びB557に従って測定されることができる(例えば、方向性凝固された時)。鋳造性は、本明細書に記載されたHCTI法を用いて測定されることができる。金型焼き付き抵抗性は、合金を鋳造することによって決定されることができる。
【0020】
一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、200MPa以上の極限引張強さ(ultimate tensile strength)を実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、210MPa以上の極限引張強さを実現する。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、220MPa以上の極限引張強さを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、230MPa以上の極限引張強さを実現する。
【0021】
一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、100MPa以上の引張降伏強さ(tensile yield strength)を実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、105MPa以上の引張降伏強さを実現する。さらに別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、110MPa以上の引張降伏強さを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、115MPa以上の引張降伏強さを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、120MPa以上の引張降伏強さを実現する。別の実施形態において、新規なアルミニウム鋳造合金は、125MPa以上の引張降伏強さを実現する。上記引張降伏強さの値は、上記極限引張強さのどの値とも一緒に実現されることができる。
【0022】
一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、7%以上の伸びを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、8%以上の伸びを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、9%以上の伸びを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、10%以上の伸びを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、11%以上の伸びを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、12%以上の伸びを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、13%以上の伸びを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、14%以上の伸びを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、15%以上の伸びを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、16%以上の伸びを実現する。上記伸びの値は、上記極限引張強さ又は上記引張降伏強さの何れかの値と一緒に実現されることができる。
【0023】
一実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.30以下のHCTIを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.25以下のHCTIを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.20以下のHCTIを実現する。別の実施形態では、新しいアルミニウム鋳造合金は、0.15以下のHCTIを実現する。
【0024】
一実施形態では、新規なアルミニウム鋳造合金は、金型焼き付き抵抗性を有する。鋳造されたアルミニウム合金の鋳造品が、当該鋳造品に損傷を与えることなく、及び/又は、金型に付着することなく、金型から取り外されることができる。金型の焼き付きは、高圧ダイカスト鋳造で発生することがあり、金型表面に溶融アルミニウムが融着する。幾つかの実施形態において、本明細書に記載の新規なアルミニウム鋳造合金は、金型に融着することなく鋳造されることができる。
【0025】
これらの特徴と他の特徴の組合せについて、以下の詳細な説明において開示する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施例1の合金について、ケイ素含有量と高温割れ傾向指数との関係を示すグラフである。
【0027】
図2図2は、実施例2の合金について、ケイ素含有量と高温割れ傾向指数との関係を示すグラフである。
【0028】
図3図3は、実施例3の合金について、ケイ素含有量と高温割れ傾向指数との関係を示すグラフである。
【0029】
図4図4は、実施例4の合金について、ケイ素含有量と高温割れ傾向指数との関係を示すグラフである。
【0030】
図5a図5aは、ICMEモデリングに基づいて、β相含有量(重量%で示される)を、Mn及びFeの含有量の関数として示すグラフであり、Mgは3.6重量%、Siは1.5重量%に一定に維持されている。
【0031】
図5b図5bは、ICMEモデリングに基づいて、β相含有量(重量%で示される)を、Mn及びFeの含有量の関数として示すグラフであり、Mgは3.6重量%、Siは1.5重量%に一定に維持されている。
【0032】
図6図6は、ICMEモデリングに基づいて、β相含有量(重量%で示される)を、Fe含有量の関数として示すグラフであり、Mgは3.6重量%、Siは1.5重量%、Mnは0.5重量%に一定に維持されている。
【0033】
図7図7aは、実施例6の合金について、極限引張強さ(MPa)と鉄含有量(重量%)との関係を示すグラフである。
【0034】
図7b図7bは、実施例6の合金について、伸び(%)と鉄含有量(重量%)との関係を示すグラフである。
【0035】
図7c図7cは、実施例6の合金について、引張降伏強度(MPa)と鉄含有量(重量%)との関係を示すグラフである。
【0036】
図7d図7dは、実施例6の合金について、品質指数(Q、MPa)と鉄含有量(重量%)との関係を示すグラフである。
【0037】
図8a図8aは、ICMEモデリングに基づいて、HCI(高温割れ指数の計算値)を、Si及びMgの含有量の関数として示すグラフであり、Mnは0.7重量%、Feは0.25重量%に一定に維持されている。
【0038】
図8b図8bは、ICMEモデリングに基づいて、非平衡凝固温度範囲(℃)を、Si及びMgの含有量の関数として示すグラフであり、Mnは0.7重量%、Feは0.25重量%に一定に維持されている。
【0039】
図8c図8cは、ICMEモデリングに基づいて、HCI(高温割れ指数の計算値)を、Si及びMnの含有量の関数として示すグラフであり、Mgは4.0重量%、Feは0.25重量%に一定に維持されている。
【0040】
図8d図8dは、ICMEモデリングに基づいて、HCI(高温割れ指数の計算値)を、Si及びFeの含有量の関数として示すグラフであり、Mgは4.0重量%、Mnは0.70重量%に一定に維持されている。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<実施例1>
ペンシルプローブ鋳造品として、6種類のアルミニウム合金を鋳造した。これらのアルミニウム合金の組成を次の表1に示す。
【表1】
合金ごとに様々な接続サイズ(connection sizes)で5つの試験を行った。高温割れの結果を表2に示す。表中、「C」は鋳造中に割れが発生したこと、「OK」は割れが発生せずに鋳造が行われたこと、「NF」はペンシルプローブのモールドが完全に充填されていなかったことを意味する。この結果に基づいて、各合金の高温割れ傾向指数(HCTI)を算出した。表2は、算出した各合金のHCTIも記載している。
【0042】
合金の高温割れ傾向指数(HCTI)は、次のように定義される。
【数1】
【0043】
割れがどの接続ロッドにも認められなかった場合、HCTI値は0である。割れが、7本の接続ロッド(4mm~16mm)の全てに認められた場合、HCTI値は1である。したがって、HCTIが小さいほど、合金の高温割れ抵抗(hot cracking resistance)が高いことを示す。
【表2】
図1は、得られたHCTI値に対してケイ素含有量を示したものである。Fe、Mn、Mg及びTiの量が同様で、Siが約1~約2重量%の合金は、高温割れ抵抗の向上を実現した。これらの合金のMg/Si比は、約2.0~3.0である。Siが1.56重量%の合金A4は、Mg/Si比が2.26であった。
【0044】
<実施例2>
4つの追加の合金を鋳造し、実施例1と同様に、高温割れ感受性を判定した。実施例1と同様、ケイ素含有量を再び変化させたが、マグネシウムとマンガンは、実施例1よりも少ない公称量(nominal amount)を使用した。実施例2の合金の組成を表3に示す。実施例2の合金のHCTIの結果を図に示す。合金B2が最も優れた高温割れ抵抗を示した。この合金のMg/Si比は約2.65である。
【表3】
【0045】
図2は、Al-2.5Mg-l.lMn-x%Si合金の高温割れ傾向指数の測定結果を示す。0.96重量%のSi及び2.54重量%のMgを有する合金B2が、最も優れた高温割れ抵抗を示した。この合金のMg/Si比は約2.65である。
【0046】
<実施例3>
4つの追加の合金を鋳造し、実施例1と同様に、高温割れ感受性を判定した。実施例1と同様、ケイ素含有量を再び変化させたが、マグネシウムは実施例1よりも多い公称量を使用し、マンガンは実施例1よりも少ない公称量を使用した。実施例3の合金の組成を表4に示す。実施例3の合金のHCTIの結果は図3に示される。図示されるように、全ての合金のHCTIは概ね良好である。最も低いHCTIは、合金C3であり、Mg/Si比が2.22である。
【表4】
【0047】
実施例1~3の結果から、高温割れ抵抗を向上させるために、Mg/Si(重量比)は約1.7~約3.6にすべきであり、好ましくは約2.0~約3.0である。
【0048】
<実施例4>
4つの追加の合金を鋳造し、実施例1と同様に、高温割れ感受性を判定した。ここでは、公称マグネシウム量を3.6重量%、公称ケイ素量を1.5重量%を目標とし、マンガン含有量を変化させた。実施例4の合金の組成を表5に示す。実施例4の合金のHCTIの結果を図4に示す。図示されているように、全ての合金のHCTIは概ね良好である。Mnを1.20重量%含有する合金D4が最も良好なHCTI結果を実現した。
【表5】
【0049】
<実施例5>
4つの追加の合金を鋳造し、実施例1と同様に、高温割れ感受性を判定した。ここでは、公称マグネシウム量を3.45重量%、公称ケイ素量を1.55重量%、公称マンガン量を0.90重量%を目標とし、鉄の含有量を変化させた。実施例5の合金の組成を表6に示す。また、実施例5の合金のHCTIの結果を図に示す。図示されているように、全ての合金のHCTIは概ね良好である。Feを0.29重量%含有する合金E4が最も良好なHCTI結果を実現した。
【表6】
【0050】
これらは予想外の結果である。Al-Si鋳造合金の機械的特性は鉄によって悪影響を受ける。その理由は、鉄は大きな一次化合物又は擬似一次化合物として存在し、硬さを増加させるが延性を低下させるからである。HCTIのこれらの向上結果を受けて、モデリング(ICME-Integrated Computational Materials Engineering)を実施した。これらの結果は、FeとMnの含有量を制御することにより、好ましくない針状のβ-AlFeSiの形成の可能性を回避できることを示している。図5a、図5b及び図6は、マンガン及び鉄の含有量と、β-AlFeSi及びα-Al15FeMnSi相粒子(Al-3.6Mg-l.5Si合金の場合)における体積率との相関関係を示す。Al-Mg-Si合金にMnを添加することにより、α-Al15FeMnSi相の形成を促進し、β-AlFeSi相の形成を制限又は防止することができる。例えば、0.4~0.6重量%のMnを有するAl-3.6Mg-l.5Si合金は、鉄の含有量を増加することにより、β-AlFeSi相の量を減少させる。図6に示されるように、鉄を0.15重量%から0.4重量%まで増加させることにより、β-AlFeSi相の量は約0.018重量%から実質的に0重量%まで減少する。このように、鉄の増加とそれに対応する合金内のβ-AlFeSi相の減少により、合金の特性(例えば、伸び)の向上を実現することができる。
【0051】
<実施例6>
8つの追加の合金を、方向性凝固により鋳造した。すべての合金は鉄含有量を変化させた。第1のグループ(F)は、公称マグネシウム量を3.6重量%、公称ケイ素量を1.5重量%、公称マンガン量を0.90重量%にすることを目標とした。第2のグループ(G)は、公称マグネシウム量を4.0重量%、公称ケイ素量を1.7重量%、公称マンガン量を0.65重量%にすることを目標とした。実施例6の合金の組成を次の表に示す。
【表6-1】
【0052】
方向性凝固合金の機械的特性をASTM E8及びB557に準拠して試験を行い、その結果を次の表7に記載している。実施例5の合金の機械的特性についても試験を行ったので、それらの結果も、表7に含めている。品質指数(Q)についても記載している。Q=UTS+l50*log(Elong.)である。これらの特性及び合金組成に関する様々なグラフを、図7a-7dに示している。
【表7】
【0053】
<実施例7:実験モデリング>
先の実験に基づいて、様々なアルミニウム合金組成をモデル化した。その結果を図8a-8bに示す。これらのモデリング結果は、0.7重量%のMn及び0.25重量%のFeをターゲットとするAl-Mg-Si合金の場合、マグネシウムとケイ素が、(0.4567*Mg-0.5)<=Si<=(0.4567*Mg+0.2)(すべての値は重量パーセント)とるように制御することが有用であることを示している。
【0054】
追加のアルミニウム合金についても同様のモデリングを行い、図8c-8dに示している。これらモデリングの結果は、マンガン又は鉄の含有量が増加すると、ケイ素の含有量を増加させる必要があることを示している。これらの結果はさらに、マグネシウム、ケイ素、マンガン、及び鉄を以下のように制御することが有用であることを示している。
(0.4567*Mg+0.2*Mn+0.25*Fe-0.6)<=Si<=(0.4567*Mg+0.2*Mn+0.25*Fe)
【0055】
本開示の様々な実施形態を詳細に説明したが、それらの実施形態の改変及び適合させることは、当業者には明らかであろう。しかしながら、そのような改変及び適合は、本開示の精神及び範囲内にあることが明示的に理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7a
図7b
図7c
図7d
図8a
図8b
図8c
図8d