(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】故障検出装置、故障検出方法及び半導体スイッチ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/00 20070101AFI20240216BHJP
H03K 17/00 20060101ALI20240216BHJP
H03K 17/567 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
H02M1/00 C
H03K17/00 B
H03K17/567
(21)【出願番号】P 2021032576
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】塚越 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】米村 直樹
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-042563(JP,A)
【文献】特開平09-130217(JP,A)
【文献】特開2020-088968(JP,A)
【文献】特開2006-129421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00
H03K 17/00
H03K 17/567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換用の複数の半導体素子チップを備える半導体スイッチ装置の故障検出装置であって、
半導体スイッチ装置内に配置された各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と
、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとを用いて、前記複数の半導体素子チップのうちの1又は複数の半導体素子チップに故障が発生したことを検出する判定部
と、
前記各半導体素子チップに流れる電流と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との関係から、前記故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータを保持する記憶部と
を備え、
前記各半導体素子チップは、互いに並列に接続されている前記電力変換用の複数のスイッチング素子を含み、
前記判定部は、
前記各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果とに基づいて、前記判定基準のデータを用いて前記スイッチング素子の故障により、機能停止に至る可能性が高まっていることを検出する、
故障検出装置。
【請求項2】
前記半導体スイッチ装置は、
前記半導体素子チップに含まれた前記電力変換用の複数のスイッチング素子に流れる電流を纏めて検出する電流検出部を備える
請求項
1に記載の故障検出装置。
【請求項3】
前記半導体スイッチ装置は、
前記半導体素子チップに含まれた前記電力変換用の複数のスイッチング素子に流れる電流を半導体素子チップ毎に検出する電流検出部を備える
請求項
1に記載の故障検出装置。
【請求項4】
電力変換用の複数の半導体素子チップを備える半導体スイッチ装置の故障検出装置であって、
半導体スイッチ装置内に配置された各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとを用いて、前記複数の半導体素子チップのうちの1又は複数の半導体素子チップに故障が発生したことを検出する判定部
を備え、
前記複数の半導体素子チップが互いに並列に接続されていて、
前記故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータには、
前記電圧の検出結果の電圧の大きさに対応付けて夫々規定されている特性テーブルのデータが含まれる、
故障検出装置。
【請求項5】
電力変換用の複数の半導体素子チップを備える半導体スイッチ装置の故障検出装置であって、
半導体スイッチ装置内に配置された各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとを用いて、前記複数の半導体素子チップのうちの1又は複数の半導体素子チップに故障が発生したことを検出する判定部
を備え、
前記半導体スイッチ装置は、その内部で前記複数の半導体素子チップが互いに並列に接続されている、
故障検出装置。
【請求項6】
電力変換用の複数の半導体素子チップを備える半導体スイッチ装置の故障検出方法であって、
半導体スイッチ装置内に配置された各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と
、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとに基づいて、前記複数の半導体素子チップのうちの何れかに故障が発生したことを検出する過程
を含み、
前記各半導体素子チップは、互いに並列に接続されている前記電力変換用の複数のスイッチング素子を含み、
前記故障が発生したことを検出する過程において、
前記各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果とに基づいて、前記判定基準のデータを用いて前記スイッチング素子の故障により、機能停止に至る可能性が高まっていることを検出する、
故障検出方法。
【請求項7】
電力変換用の複数の半導体素子チップを備える半導体スイッチ装置の故障検出方法であって、
半導体スイッチ装置内に配置された各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と
、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとに基づいて、前記複数の半導体素子チップのうちの何れかに故障が発生したことを検出する過程
を含み、
前記複数の半導体素子チップが互いに並列に接続されていて、
前記故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータには、
前記電圧の検出結果の電圧の大きさに対応付けて夫々規定されている特性テーブルのデータが含まれる、
故障検出方法。
【請求項8】
電力変換用の複数の半導体素子チップを備える半導体スイッチ装置の故障検出方法であって、
半導体スイッチ装置内に配置された各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と
、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとに基づいて、前記複数の半導体素子チップのうちの何れかに故障が発生したことを検出する過程
を含み、
前記半導体スイッチ装置の内部で前記複数の半導体素子チップが互いに並列に接続されている、
故障検出方法。
【請求項9】
互いに並列に接続されている複数の半導体素子チップと、
各半導体素子チップに夫々流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と
、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとを用いて、前記複数の半導体素子チップのうちの1又は複数の半導体素子チップに故障が発生したことを検出する判定部
を備え、
前記各半導体素子チップは、互いに並列に接続されている電力変換用の複数のスイッチング素子を含み、
前記判定部は、
前記各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果とに基づいて、前記判定基準のデータを用いて前記スイッチング素子の故障により、機能停止に至る可能性が高まっていることを検出する、
半導体スイッチ装置。
【請求項10】
互いに並列に接続されている複数の半導体素子チップと、
各半導体素子チップに夫々流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と
、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとを用いて、前記複数の半導体素子チップのうちの1又は複数の半導体素子チップに故障が発生したことを検出する判定部と
を備え、
前記故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータには、
前記電圧の検出結果の電圧の大きさに対応付けて夫々規定されている特性テーブルのデータが含まれる、
半導体スイッチ装置。
【請求項11】
自半導体スイッチ装置の内部で互いに並列に接続されている複数の半導体素子チップと、
各半導体素子チップに夫々流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と
、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとを用いて、前記複数の半導体素子チップのうちの1又は複数の半導体素子チップに故障が発生したことを検出する判定部と
を備える半導体スイッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、故障検出装置、故障検出方法及び半導体スイッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体スイッチ装置には、1つのパッケージの中に複数の半導体素子チップを備え、これらの半導体素子チップが互いに並列接続されているものがある。しかしながら、半導体スイッチ装置を長期間使用していると、半導体素子チップが故障することがあり、さらに故障が進行すると半導体スイッチ装置が機能しなくなることがあった。半導体スイッチ装置が機能停止に至らないように、故障検出装置によって半導体素子チップの状態を検出することが望まれているが、複数の半導体素子チップで故障が生じているか否かの検出は容易ではないことがあった。
例えば、半導体素子チップ間の電流アンバランスを検出して故障を診断する方法(特許文献1など参照。)が提案されているが、半導体素子チップの故障状況が均等であるとその故障を検出できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、互いに並列接続されている複数の半導体素子チップの状態を検出することが可能な故障検出装置、故障検出方法及び半導体スイッチ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の故障検出装置は、電力変換用の複数の半導体素子チップを備える半導体スイッチ装置の故障検出装置である。故障検出装置は、判定部と、記憶部とを備える。判定部は、半導体スイッチ装置内に配置された各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとを用いて、前記複数の半導体素子チップのうちの1又は複数の半導体素子チップに故障が発生したことを検出する。前記複数の半導体素子チップが互いに並列に接続されている。記憶部は、前記各半導体素子チップに流れる電流と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との関係から、前記故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータを保持する。前記各半導体素子チップは、互いに並列に接続されている前記電力変換用の複数のスイッチング素子を含む。前記判定部は、前記各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果とに基づいて、前記判定基準のデータを用いて前記スイッチング素子の故障により、機能停止に至る可能性が高まっていることを検出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】実施形態の半導体スイッチ装置を適用した電力変換装置の構成図。
【
図2】比較例の半導体スイッチ装置について説明するための図。
【
図3A】実施形態の半導体スイッチ装置の劣化状態の推定方法を説明するための図。
【
図3B】第2の実施形態の半導体スイッチ装置の劣化状態の推定方法を説明するための図。
【
図4】第2の実施形態の半導体スイッチ装置の構成図。
【
図5】第2の実施形態の半導体スイッチ装置の劣化状態の第2の推定方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の故障検出装置、故障検出方法及び半導体スイッチ装置について説明する。なお、以下の説明では、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。なお、本明細書で言う「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。さらに、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。
【0008】
なお、本明細書で言う「半導体スイッチ装置」とは、1つのユニット(モジュール)又は同種の複数のユニット(モジュール)を含み、それらのユニットを1つのスイッチとして機能させるように形成されている装置のことである。このユニットは、互いに並列に接続されている複数の半導体素子チップを含む。本明細書で言う「半導体素子チップ」とは、制御によりスイッチとして機能する1つの「スイッチング素子」又は同種の複数の「スイッチング素子」を含むものを言う。本明細書で言う「スイッチング素子」とは、制御によりスイッチとして機能する少なくとも1つの半導体スイッチング素子を含む。
【0009】
「互いに並列に接続されている」こととは、同種の半導体スイッチの主回路側の少なくとも2つの端子同士を互いに接続されていることを含む。この場合、半導体スイッチがMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)であれば、ソース同士、ドレイン同士を夫々接続することを言う。IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であれば、エミッタ同士、コレクタ同士を夫々接続することを言う。
【0010】
なお、「互いに並列に接続されている」こととして、上記に加えて、同種の半導体スイッチの制御端子同士を互いに接続されていることを含めてもよい。
【0011】
(第1の実施形態)
図1Aは、実施形態の半導体スイッチ装置1を適用した電力変換装置2の構成図である。
電力変換装置2は、例えば、コンバータ3と、インバータ4と、駆動電流センサ5と、制御部6とを備える。交流電動機Mは、例えば、誘導電動機である。コンバータ3と、インバータ4は、夫々複数の半導体スイッチ装置1を備える。
【0012】
コンバータ3は、半導体スイッチ装置1のスイッチングによって交流電力(AC)を直流電力(DC)に変換する。コンバータ3は、制御部6からの制御によって、直流電力への変換量が夫々調整される。インバータ4は、コンバータ3から与えられる直流電力を、半導体スイッチ装置1のスイッチングによって交流電力に変換する。インバータ4は、制御部6からの制御によって、有効電力又は無効電力の変換量が調整される。駆動電流センサ5は、インバータ4から交流電動機Mの巻線に夫々流れる電流を検出する。
【0013】
以下、インバータ4における電流制御の一例について説明する。
例えば、制御部6は、インバータ4の制御用の電流調整器(ACR)61を備える。電流調整器61は、電流基準Irefと、駆動電流センサ5によって検出された電流に基づいた電流帰還IFBKとの差が0になるようにインバータ4を制御する。このような構成の電力変換装置2では、インバータ4内の半導体スイッチ装置1に流れる電流の大きさが上記の電流基準Irefによって決定される。
【0014】
図1Bは、実施形態の半導体スイッチ装置1の構成図である。
半導体スイッチ装置1は、半導体素子チップ10、20、30と、判定部40と、電流センサ50と、電圧センサ60とを備える。
【0015】
半導体素子チップ10は、スイッチング素子11から14を備える。スイッチング素子11から14は、互いに並列に接続されている。半導体素子チップ20は、スイッチング素子21から24を備える。スイッチング素子21から24は、互いに並列に接続されている。半導体素子チップ30は、スイッチング素子31から34を備える。スイッチング素子31から34は、互いに並列に接続されている。半導体素子チップ10、20、30は、互いに並列に接続されている。
【0016】
上記の半導体素子チップ10、20、30は、同様に構成されている。この場合、スイッチング素子11から14と、スイッチング素子21から24と、スイッチング素子31から34も互いに同種のスイッチング素子である。
【0017】
例えば、半導体素子チップ10は、コレクタ端子10Cと、エミッタ端子10Eと、ゲート端子10Gと、基準電位端子10VRとを備える。コレクタ端子10Cには、スイッチング素子11から14のコレクタが夫々接続されている。エミッタ端子10Eと基準電位端子10VRには、スイッチング素子11から14のエミッタが夫々接続されている。ゲート端子10Gには、スイッチング素子11から14のゲートが夫々接続されている。
【0018】
半導体素子チップ20は、コレクタ端子20Cと、エミッタ端子20Eと、ゲート端子20Gと、基準電位端子20VRとを備える。半導体素子チップ30は、コレクタ端子30Cと、エミッタ端子30Eと、ゲート端子30Gと、基準電位端子30VRとを備える。半導体素子チップ20、30の内部の構成は、上記の半導体素子チップ10の構成と同様であってよい。
【0019】
半導体スイッチ装置1は、電源用の端子である正極用の端子TBPと、負極用の端子TBNと、警報信号を出力するための出力端子TBSOとを備える。
【0020】
端子TBPには、コレクタ端子10C、20C、30Cの夫々が接続されている。端子TBNには、エミッタ端子10E、20E、30Eの夫々が接続されている。
【0021】
電流センサ50は、エミッタ端子10E、20E、30Eに夫々接続される集約点と端子TBNとの間に設けられ、エミッタ端子10E、20E、30Eと端子TBNとの間に流れる電流を纏めて検出する。電流センサ50は、半導体素子チップ10、20、30に夫々含まれた電力変換用の複数のスイッチング素子に流れる電流を纏めて検出する電流検出部の一例である。
【0022】
電圧センサ60は、端子TBPと端子TBNとの間の電圧を検出する。例えば、電圧センサ60が検出する電圧には、スイッチング素子の端子間に発生する電圧(飽和電圧)が含まれる。
【0023】
判定部40は、電流センサ50による電流の検出結果と電圧センサ60による電圧の検出結果とに基づいて、半導体スイッチ装置1が機能停止に至る可能性について判定して、半導体スイッチ装置1が機能停止に至る可能性が高いと判定された場合に、この警報を出力端子TBSOに出力する。判定部40は、上記の判定に健常時の特性を基準にして予め定められた特性データを記録したデータテーブルを用いるとよい。これの詳細は、後述する。
【0024】
(想定する故障について)
ここで
図2を参照して、比較例の半導体スイッチ装置1Zについて説明する。
図2は、比較例の半導体スイッチ装置1Zについて説明するための図である。この半導体スイッチ装置1Zは、本実施形態の判定部を備えるものでない。
【0025】
半導体素子チップ内の12個のスイッチング素子は、その導通時に半導体スイッチ装置1に対する要求される電流量の一部を夫々流す。
【0026】
図2(a)に示す健常時の理想的な状態は、要求される電流量が12等分されて、各スイッチング素子に流れる状態である。
【0027】
経年劣化によって、
図2(b)に示すように半導体素子チップ内の複数のスイッチング素子の一部にOFF故障が生じることがある。このとき、半導体スイッチ装置1に対する要求される電流量が健常時と同じであれば、OFF故障が生じたスイッチング素子に電流が流れない分、健常な状態のスイッチング素子にその電流が流れることになる。例えば、12個のうち3個のスイッチング素子にOFF故障が生じていれば、健常な状態のスイッチング素子に流れる電流は、9等分に近い大きさになる。上記のように、一部のスイッチング素子にOFF故障が発生すると健常な状態のスイッチング素子に対する負荷が増加する。そのためにスイッチング素子の劣化が徐々に進行して、
図2(c)に示すように、OFF故障に至るスイッチング素子が徐々に増加する。これを放置すると、半導体スイッチ装置が破損することがある。なお、スイッチング素子の劣化が均等に進行した場合には、半導体素子チップ10、20、30に流れる電流にばらつきが生じない。なお、OFF故障に至ったスイッチング素子の個数が増えることで、健常なスイッチング素子に配分さる電流量が増加するが、スイッチング素子が増加した電流によって破損しないように、電流値に制限を設けて、これを超えないように制御するとよい。
【0028】
次に、本実施形態による半導体スイッチ装置の劣化状態の推定方法について説明する。
本実施形態において提案する半導体スイッチ装置の劣化状態の推定方法は、次の方法を含む。
・各半導体素子チップに流れる電流の合計値に係る検出結果と、複数の半導体素子チップに掛る電圧の検出結果と、予め定められた特性データとを用いる推定方法
以下、これについて説明する。
【0029】
図3Aを参照して、電流の検出結果を用いて半導体スイッチ装置の劣化状態の推定方法について説明する。
図3Aは、実施形態の半導体スイッチ装置の劣化状態の推定方法を説明するための図である。
【0030】
この
図3Aに示す状態は、前述の
図2の(b)に相当し、半導体素子チップ10、20、30の夫々に故障が生じた状態である。例えば、スイッチング素子12、21、32にOFF故障が生じている。
【0031】
この場合、健常な状態のスイッチング素子の個数が9個になる。各スイッチング素子に半導体スイッチ装置1の電流が等分されているとすれば、半導体素子チップ10、20、30のそれぞれに流れる電流の大きさが等しくなる。
【0032】
電流センサ50は、各半導体素子チップの電流を纏めて検出する。本実施形態では各半導体素子チップの電流のばらつきを検出しない。
【0033】
判定部40は、電流センサ50の検出結果が示す電流の大きさを、電圧センサ60の検出結果が示す電圧の大きさに対応する特性テーブルのデータが示す電流の大きさと比較するとよい。例えば、この特性テーブルのデータは、電圧センサ60の検出結果の電圧の大きさに対応付けて夫々規定されている。
【0034】
より具体的は、判定部40は、電圧センサ60の検出結果が示す特定の電圧において、電流センサ50の検出結果の値に、その特定の電圧に対応する特性テーブルのデータが示す電流の大きさに対して所定値以上の差が生じたら、半導体スイッチ装置1の劣化が進行していると判定してよい。
【0035】
判定部40は、上記の判定方法によって半導体スイッチ装置1の劣化が進行している状態を検出して、これを示す検出信号SD1を出力する。
【0036】
例えば、判定部40は、記憶部401と、論理演算部402とを備える。
【0037】
記憶部401は、各半導体素子チップ(10、20、30)に流れる電流(以下、総電流という。)と、各半導体素子チップ(10、20、30)に夫々掛る電圧との関係から、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータを保持する。この判定基準は、各半導体素子チップ(10、20、30)の安全動作領域(ASO(Area of Safe Operating)から所定のディレーティングを考慮に入れて予め定められた電圧-電流特性の許容範囲を決定するとよい。ここで規定される電流値は、上記の総電流に対応するものである。記憶部401は、これを判定基準のデータとして保持するとよい。
【0038】
論理演算部402は、各半導体素子チップ(10、20、30)に流れる総電流の検出結果と、複数の半導体素子チップ(10、20、30)に掛る電圧との検出結果とに基づいて、判定基準のデータ(特性テーブルのデータ)を用いて前記故障が発生したことを検出する。
【0039】
より具体的には、上記の通り各半導体素子チップ(10、20、30)は、互いに並列に接続されている電力変換用の複数のスイッチング素子を含んでいる。
論理演算部402は、各半導体素子チップ(10、20、30)に流れる総電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップ(10、20、30)に掛る電圧との検出結果とに基づいて、判定基準のデータを用いてスイッチング素子の故障によって、機能停止に至る可能性が高まっていることを検出する。
【0040】
判定部40は、上記の判定方法によって半導体スイッチ装置1の劣化が進行している状態を検出して、これを示す検出信号SD2を出力する。
【0041】
上記の実施形態によれば、故障検出装置(1)は、電力変換用の複数の半導体素子チップ(10、20、30)を備える半導体スイッチ装置1の故障を検出する。故障検出装置の判定部40は、半導体スイッチ装置1内に配置された各半導体素子チップ(10、20、30)に流れる電流の検出結果と、複数の半導体素子チップ(10、20、30)に掛る電圧との検出結果と、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとを用いて、複数の半導体素子チップ(10、20、30)のうちの1又は複数の半導体素子チップ(10、20、30)に故障が発生したことを検出する。複数の半導体素子チップ(10、20、30)は、互いに並列に接続されている。これにより、故障検出装置は、互いに並列接続されている複数の半導体素子チップ(10、20、30)の状態を検出できる。なお、半導体スイッチ装置1は、故障検出装置の一例であり、半導体スイッチ装置1の一部に故障検出装置が含まれてもよい。
【0042】
(第1の実施形態の変形例)
実施形態の変形例について説明する。前述の実施形態では、判定部40と、電流センサ50と、電圧センサ60とを備える半導体スイッチ装置1の事例について説明した。
【0043】
本変形例の半導体スイッチ装置1は、これに変えて、判定部40と、電流センサ50と、電圧センサ60との一部又は全部を、半導体スイッチ装置1の外部で形成してもよい。
この場合、故障検出装置は、判定部40を含み、電流センサ50と、電圧センサ60とからの検出結果のデータを用いて、半導体スイッチ装置1の状態を推定してもよい。この場合、故障検出装置は、半導体スイッチ装置1とは別体で形成されることになるが、実施形態と同様の効果を奏する。
【0044】
(第2の実施形態)
図3Bと
図4と
図5とを参照して、第2の実施形態について説明する。
なお、以下に示す本実施形態の事例に対して、例えば、特開2020-102973号公報に記載の方法と組み合わせることを制限しない。上記の組み合わせによって、特開2020-102973号公報に記載の方法では検出できることが同様に検出でき、さらには、同公報に記載の方法では検出できなかった故障を検出可能にする。この場合、半導体スイッチ装置1Aは、本実施形態の方法で検出した故障と、特開2020-102973号公報に記載の方法で検出した故障の双方の検出結果に基づいて、半導体スイッチ装置1Aの状態を判定するとよい。以下の説明では、半導体素子チップの故障状況が均等である場合にその故障を検出するための手法を中心に説明する。
【0045】
図4は、第2の実施形態の半導体スイッチ装置1Aの構成図である。
半導体スイッチ装置1Aは、半導体スイッチ装置1の判定部40と、電流センサ50とに代えて、判定部40Aと、電流センサ51、52、53とを備える。
【0046】
電流センサ51は、エミッタ端子10Eと端子TBNとの間に設けられ、エミッタ端子10Eと端子TBNとの間に流れる電流を検出する。電流センサ52は、エミッタ端子20Eと端子TBNとの間に設けられ、エミッタ端子20Eと端子TBNとの間に流れる電流を検出する。電流センサ53は、エミッタ端子30Eと端子TBNとの間に設けられ、エミッタ端子30Eと端子TBNとの間に流れる電流を検出する。電流センサ51から53の夫々は、半導体素子チップ10、20、30に夫々含まれた電力変換用の複数のスイッチング素子に流れる電流を纏めて検出する電流検出部の一例である。
【0047】
判定部40Aは、第1判定部41(電流比較部)と、第2判定部42(電流比較部)と、出力部43とを備える。第1判定部41は、後述する第1の推定方法に係る判定を実施する。第2判定部42は、後述する第2の推定方法に係る判定を実施する。出力部43は、第1判定部41による判定の結果と、第2判定部42による判定の結果とに基づいた論理演算(例えば、論理和演算。)を行って、何れかの判定結果に、半導体スイッチ装置1が機能停止に至る可能性が高いと判定された場合に、この警報を出力端子TBSOに出力する。これの詳細は、後述する。
【0048】
(想定する故障に係る半導体スイッチ装置の劣化状態の推定方法ついて)
次に、本実施形態による半導体スイッチ装置の劣化状態の推定方法について説明する。
提案する予測方法は、次の2通りに大別できる。
・各半導体素子チップに流れる電流の検出結果を用いる推定方法(第1の推定方法)
・各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果とを用いる推定方法(第2の推定方法)
以下、これらについて順に説明する。
【0049】
図3Bを参照して、電流の検出結果を用いて半導体スイッチ装置の劣化状態を推定する第1の推定方法について説明する。
図3Bは、第2の実施形態の半導体スイッチ装置の劣化状態の推定方法を説明するための図である。
【0050】
この
図3Bに示す状態は、半導体素子チップ10、30が健常な状態であり、半導体素子チップ20内のスイッチング素子21から23にOFF故障が生じた状態である。なお、スイッチング素子24にはOFF故障が生じていない。
【0051】
この場合、健常な状態のスイッチング素子の個数が9個になる。各スイッチング素子に半導体スイッチ装置1の電流が等分されているとすれば、半導体素子チップ20に流れる電流の大きさを1とすれば、半導体素子チップ10、30のそれぞれに流れる電流の大きさは4になる。
【0052】
電流センサ51から53は、各半導体素子チップの電流をそれぞれ検出するので、その電流のばらつきを検出できる。
【0053】
判定部40Aの第1判定部41は、電流センサ51から53の検出結果に基づいて、検出結果が示す電流の大きさを比較してこれを検出するとよい。
【0054】
より具体的は、第1判定部41は、電流センサ51から53の検出結果の値に所定値以上の差が生じたら、半導体スイッチ装置1の劣化が進行していると判定してよい。
【0055】
或いは、第1判定部41は、電流センサ51から53の検出結果の最大値と最小値に所定値以上の差が生じたら、半導体スイッチ装置1の劣化が進行していると判定してよい。
【0056】
また、或いは、第1判定部41は、電流センサ51から53の検出結果の平均値(または中心値)に対する各検出結果の値に所定値以上の差が生じたら、半導体スイッチ装置1の劣化が進行していると判定してよい。
【0057】
第1判定部41は、上記の何れの判定方法によって半導体スイッチ装置1の劣化が進行している状態を検出して、これを示す検出信号SD1を出力する。
【0058】
図5を参照して、電流の検出結果を用いて半導体スイッチ装置1Aの劣化状態を推定する第2の推定方法について説明する。
図5は、実施形態の半導体スイッチ装置1Aの劣化状態の第2の推定方法を説明するための図である。
【0059】
この
図5に示す状態は、半導体素子チップ10、20、30内のスイッチング素子に夫々OFF故障が生じた状態である。例えば、スイッチング素子11、22、34に、OFF故障が発生したものとする。これによれば、OFF故障が生じたスイッチング素子の半導体素子チップ毎の個数は、夫々1個である。
【0060】
なお、上記の場合には、半導体素子チップ10、20、30の電流にばらつきが生じないため、前述した電流比較を用いる第1の推定方法では、検出が困難な状態である。
【0061】
そこで、第2の推定方法では、電圧も利用して判定することで、これを推定可能にする。
【0062】
健常な状態のスイッチング素子の導通時のON抵抗が夫々同じであると仮定する。
全てのスイッチング素子が健常な状態にあれば、12個が並列接続されているので、スイッチング素子毎の電流は、全体の12分の1になる。
【0063】
ただし、OFF故障のスイッチング素子の個数が増えるほど、各スイッチング素子に流れる電流が増加するため、これに伴い各スイッチング素子の端子間に発生する電圧(飽和電圧)が増加する。そのため、各スイッチング素子における損失が増加することになる。
【0064】
判定部40Aの第2判定部42は、電流センサ51から53の検出結果と、電圧センサ60の検出結果とに基づいて、検出結果が示す電流の大きさを比較してこれを検出するとよい。換言すれば、第2判定部42は、半導体スイッチ装置1内に配置された各半導体素子チップ(10、20、30)に流れる電流の検出結果と、複数の半導体素子チップ(10、20、30)に掛る電圧との検出結果とを用いて、複数の半導体素子チップ(10、20、30)のうちの1又は複数の半導体素子チップ(10、20、30)に故障が発生したことを検出する。
【0065】
例えば、第2判定部42は、記憶部421と、論理演算部422とを備える。
【0066】
記憶部421は、各半導体素子チップ(10、20、30)に流れる電流と、各半導体素子チップ(10、20、30)に夫々掛る電圧との関係から、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータを保持する。この判定基準は、各半導体素子チップ(10、20、30)の安全動作領域(ASOから所定のディレーティングを考慮に入れて予め定められた電圧-電流特性の許容範囲を決定するとよい。記憶部421は、これを判定基準のデータとして保持するとよい。なお、記憶部421の判定基準のデータは、半導体素子チップ(10、20、30)毎のデータであるのに対して、前述の記憶部401の判定基準のデータは、半導体スイッチ装置1としてのデータである点が異なる。
【0067】
論理演算部422は、各半導体素子チップ(10、20、30)に流れる電流の検出結果と、複数の半導体素子チップ(10、20、30)に掛る電圧との検出結果とに基づいて、判定基準のデータを用いて前記故障が発生したことを検出する。
【0068】
より具体的には、上記の通り各半導体素子チップ(10、20、30)は、互いに並列に接続されている電力変換用の複数のスイッチング素子を含んでいる。
論理演算部422は、各半導体素子チップ(10、20、30)に流れる電流の検出結果と、前記複数の半導体素子チップ(10、20、30)に掛る電圧との検出結果とに基づいて、判定基準のデータを用いてスイッチング素子の故障により、機能停止に至る可能性が高まっていることを検出する。
【0069】
第2判定部42は、上記の判定方法によって半導体スイッチ装置1の劣化が進行している状態を検出して、これを示す検出信号SD2を出力する。
【0070】
上記の実施形態によれば、故障検出装置(1A)は、電力変換用の複数の半導体素子チップ(10、20、30)を備える半導体スイッチ装置1の故障を検出する。故障検出装置の判定部40Aは、半導体スイッチ装置1内に配置された各半導体素子チップ(10、20、30)に流れる電流の検出結果と、複数の半導体素子チップ(10、20、30)に掛る電圧との検出結果とを用いて、複数の半導体素子チップ(10、20、30)のうちの1又は複数の半導体素子チップ(10、20、30)に故障が発生したことを検出する。複数の半導体素子チップ(10、20、30)は、互いに並列に接続されている。これにより、故障検出装置は、互いに並列接続されている複数の半導体素子チップ(10、20、30)の状態を検出できる。なお、半導体スイッチ装置1Aは、故障検出装置の一例であり、半導体スイッチ装置1Aの一部に故障検出装置が含まれてもよい。
【0071】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、故障検出装置は、電力変換用の複数の半導体素子チップを備える半導体スイッチ装置の故障を検出する。故障検出装置は、判定部を備える。判定部は、半導体スイッチ装置内に配置された各半導体素子チップに流れる電流の検出結果と、複数の半導体素子チップに掛る電圧との検出結果と、故障が発生したことを識別可能にする判定基準のデータとを用いて、複数の半導体素子チップのうちの1又は複数の半導体素子チップに故障が発生したことを検出する。複数の半導体素子チップは、互いに並列に接続されている。これにより、故障検出装置は、互いに並列接続されている複数の半導体素子チップの状態を検出できる。なお、半導体スイッチ装置は、故障検出装置の一例であり、半導体スイッチ装置の一部に故障検出装置が含まれてもよい。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0073】
例えば、判定部40は、第1判定部41と、第2判定部42とのうち、少なくとも第2判定部42を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1、1A 半導体スイッチ装置(故障検出装置)
2 電力変換装置
3 コンバータ
4 インバータ
5 駆動電流センサ
6 制御部
M 交流電動機
10、20、30 半導体素子チップ
11から14、22から24、31から34 スイッチング素子
40、40A 判定部
41 第1判定部
42 第2判定部
43 出力部
50から53 電流センサ(電流検出部)
60 電圧センサ(電圧検出部)