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特許7438183フォトルミネッセンス無機ナノ粒子を使用した毛細管現象試験
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】フォトルミネッセンス無機ナノ粒子を使用した毛細管現象試験
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
G01N21/64 B
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021502484
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2019069263
(87)【国際公開番号】W WO2020016308
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】1856651
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513262665
【氏名又は名称】エコール ポリテクニック
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プレイラ、パスカル
(72)【発明者】
【氏名】リッチリィ、マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】ブジーグ、セドリック
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドロウ、アンティゴーニ
(72)【発明者】
【氏名】ギャコワン、ティエリー
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-032263(JP,A)
【文献】国際公開第2007/083626(WO,A1)
【文献】特開2013-250097(JP,A)
【文献】特表2005-502573(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017233(WO,A1)
【文献】特開2010-197248(JP,A)
【文献】特開2013-057037(JP,A)
【文献】国際公開第2015/022914(WO,A1)
【文献】特表2013-536431(JP,A)
【文献】STOUWDSAM et al.,Colloidal Nanoparticles of Ln3+-Doped LaVO4: Energy Transfer to Visible- and Near-Infrared-Emitting Lanthanide Ions,Langmuir,American Chemical Society,2005年,Vol.21,PP.7003-7008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(II)のフォトルミネッセンス無機ナノ粒子をプローブとして使用する、毛細管現象試験によって、液体サンプル中の目的の生物学的または化学的物質を検出および/または定量化するためのインビトロ方法であって、
1-xLnVO4(1-y)(PO(II)
式中、
Aは、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、およびそれらの混合物から選択され、
Lnは、ユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、ネオジム(Nd)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、ツリウム(Tm)、プラセオジム(Pr)、ホルミウム(Ho)、およびそれらの混合物から選択され、
0.2≦x≦0.6、および
0≦y<1、
前記方法が、一光子吸収後、ナノ粒子の発光寿命が100ms未満のルミネッセンスを、320nm以下の波長でマトリックスを励起することによって検出することを使用する、方法。
【請求項2】
ルミネッセンスの検出が、300nm以下で構成される波長でマトリックスを励起することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体サンプルが生物学的サンプルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
サンプル中の分子、タンパク質、核酸、毒素、ウイルス、細菌または寄生虫を検出および/または定量化するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記フォトルミネッセンスナノ粒子が、5nm以上で厳密に1μm未満の平均サイズを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Lnが、Eu、Dy、Sm、Yb、Er、Ndおよびそれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Aが、Y、Gd、Laおよびそれらの混合物から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子が、その表面にテトラアルキルアンモニウムカチオンを有し、前記ナノ粒子が、pH≧5の水性媒体中でζが-28mV以下と指定されたゼータ電位を有し、厳密にイオン伝導度が100μS・cm-1未満である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子が、式A1-xLnVO(III)のものであり、式中、A、Ln、およびxが、請求項1、6、および7のいずれか一項に定義されている通りである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記フォトルミネッセンス無機ナノ粒子が、分析される物質に特異的に結合する少なくとも1つの試薬に結合されている毛細管現象試験デバイスを使用する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記フォトルミネッセンス無機ナノ粒子が、毛細管現象試験デバイス内での移動を促進することを目的とする1つまたは複数の薬剤で表面上で官能化されている、毛細管現象試験デバイスを使用する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記液体サンプル、および場合により希釈剤を沈着させるためのゾーン(1)、
前記沈着ゾーンの下流に配置され、「標識ゾーン」と呼ばれ、分析される物質に特異的に結合する少なくとも1つの試薬に結合された前記フォトルミネッセンス無機ナノ粒子が担持された、ゾーン(2)、
前記標識ゾーン(2)の下流に配置され、「検出ゾーン」とも呼ばれ、前記分析される物質に特異的な少なくとも1つの捕捉試薬が固定化される、反応ゾーン(3)、
前記検出ゾーンの下流に位置し、前記分析される物質に特異的に結合する前記試薬に特異的な少なくとも1つの第2の捕捉試薬が固定化される、対照ゾーン(4)、および
場合により、前記反応ゾーンおよび前記対照ゾーンの下流に配置される、吸収パッド(5)、
を含む毛細管現象試験デバイスを使用する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、少なくとも以下のステップ、
(i)前記毛細管現象試験デバイスの前記沈着ゾーン(1)のレベルで、分析される液体サンプル、および場合により希釈剤を適用すること、
(ii)前記フォトルミネッセンスナノ粒子によって生成された前記ルミネッセンスが前記反応ゾーン(3)で検出されるまで、および/または前記ルミネッセンスが移動対照ゾーン(4)で検出されるまで、前記デバイスをインキュベートすること、および
(iii)結果を読んで解釈すること、
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記毛細管現象試験の結果の読み取りが、アッセイの終了時に、毛細管現象試験デバイスのレベルで固定化されたプローブによって生成された前記ルミネッセンスを検出することによって行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子が、式Y1-xEuVO(IV)のものであり、前記ルミネッセンスの検出が、230nm~320nmの波長でYVOマトリックスを励起することによって行われる、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記毛細管現象試験の結果の読み取りが、毛細管現象試験デバイスの直接の肉眼観察により行われる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記毛細管現象試験の結果の読み取りが、発光フィルタおよび光子検出器を含む検出装置を使用して行われる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
果の解釈が、請求項12に定義された毛細管現象試験デバイスの検出ゾーン、対照ゾーンおよびバックグラウンドシグナルに対応するシグナルを決定し、前記バックグラウンドシグナルのルミネッセンスの値を差し引き、前記検出ゾーンからのシグナル対前記対照ゾーンからのシグナルの比を決定することを含む、請求項1から15および17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
液体サンプル中の目的の生物学的または化学的物質を検出および/または定量化するのに有用な毛細管現象試験デバイスであって、前記デバイスは、プローブとして、以下の式(II)のフォトルミネッセンス無機ナノ粒子を含み、
1-xLnVO4(1-y)(PO(II)
式中、
Aは、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、およびそれらの混合物から選択され、
Lnは、ユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、ネオジム(Nd)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、ツリウム(Tm)、プラセオジム(Pr)、ホルミウム(Ho)、およびそれらの混合物から選択され、
0.2≦x≦0.6、および
0≦y<1、
前記ナノ粒子は、一光子吸収後、発光寿命が100ms未満のルミネッセンスを、320nm以下の波長でマトリックスを励起することによってルミネッセンスを発光することができる、デバイス。
【請求項20】
前記ナノ粒子が、請求項5から11のいずれか一項に定義されている通りである、請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
前記デバイスが、請求項12に定義された通りである、請求項19または20に記載のデバイス。
【請求項22】
体外診断キットであって、少なくとも、
請求項19から21のいずれか一項に記載の毛細管現象試験デバイス、および
アッセイ終了時に、前記デバイスのレベルで固定化されたプローブにより生成された前記ルミネッセンスを検出するためのデバイス
を含む、体外診断キット。
【請求項23】
体外診断の目的のための、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法の使用、または請求項19から21のいずれか一項に記載の毛細管現象試験デバイスの使用。
【請求項24】
農産物または食品または環境中の目的の物質を検出および/または定量化するための、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法の使用、または請求項19から21のいずれか一項に記載の毛細管現象試験デバイスの使用。
【請求項25】
違法な化学物質を検出および/または定量化するための、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法の使用、または請求項19から21のいずれか一項に記載の毛細管現象試験デバイスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物分析および体外診断の分野に関する。本発明は、より具体的には、光学的および物理化学的特性が制御されたフォトルミネッセンス無機ナノ粒子をプローブとして使用した毛細管現象試験により、液体サンプル中の目的の生物学的または化学的物質、例えばタンパク質、抗体、毒素および他の化合物を検出および/または定量するためのインビトロ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に「ストリップ試験」という名前で知られている、例えばラテラルフローアッセイ(LFA)などの毛細管現象試験は、臨床、製薬、食品または化学分析の目的で一般的に使用される。それらは、抗体、抗原、タンパク質、バイオマーカー、化学分子、核酸などの多くの種類の分析物の存在を検出するために使用することができる([1])。ラテラルフローアッセイで使用される認識分子が抗体である場合、より一般的には、「イムノクロマトグラフアッセイ」(ラテラルフローイムノアッセイ、LFIA)と呼ばれる。
【0003】
毛細管現象試験は、その使いやすさ、速度(15分以下の時間での検出)、および低コストで特に高く評価されている。
【0004】
一般に、毛細管現象試験用のデバイスは、多孔質固体支持体(例えば、ニトロセルロース膜)の形態の毛細管現象のための手段を使用し、固体支持体の一端に沈着した試験サンプル、および販売されているデバイスに組み込まれた試薬は、毛細管現象によって移動する。
【0005】
典型的には、毛細管現象試験用のデバイスの多孔質固体支持体は、液体形態、凍結乾燥または脱水され、分析される物質(または「分析物」)と特異的に結合し、プローブ(または検出種)と結合した試薬を保持する標識ゾーン(英語の用語では「コンジュゲートパッド」)、および分析物を特異的に捕捉する試薬が固定化された検出ゾーン(英語の用語では「検出パッド」)を含む。
【0006】
分析物と特異的に結合する試薬は、凍結乾燥された形で固定化されるが、濡れると固体支持体中で移動性になる。したがって、固体支持体が液体サンプルと接触すると、液体サンプルは、プローブに結合した分析物と特異的に結合する試薬を同伴する当該支持体における毛細管現象により移動する。サンプル、および分析物と特異的に結合した試薬は、固体支持体における毛細管現象により、分析物に特異的に、固定化された捕捉試薬を保持する検出ゾーンまで移動する。
【0007】
「サンドイッチ」タイプの最も一般的な毛細管現象試験では、プローブに結合した結合試薬は、サンプルに含まれる分析物に結合し、分析物が出会うと、分析物は、捕捉試薬により固体支持体上に固定化される。したがって、サンプル中の分析物の有無は、分析物を介して検出ゾーンのレベルで固定化されたプローブを検出することによって測定される。
【0008】
これらのデバイスはまた、毛細管流の方向に対して検出ゾーンの下流に位置する、いわゆる対照(コントロール)ゾーンを含み、ここで、標識された標的試薬に特異的な第2の捕捉試薬が固定化される。検出ゾーンまで移動した後、分析物と反応しなかった過剰のプローブに結合した結合試薬は、対照ゾーンまで移動し、第2の捕捉試薬に結合する。したがって、ユーザは、デバイス内のサンプルと試薬の移動を検証できるようにするポジティブコントロールを持っているため、試験の適切な動作を検証することができる。
【0009】
したがって、サンプル中の分析物の決定は、検出ゾーンのレベルで、および場合により、対照ゾーンのレベルでプローブの有無を検出することによって達成される。
【0010】
毛細管現象試験で最も一般的に使用されるプローブは、金ナノ粒子である([1]、[2])。ナノ粒子は、表面プラズモン周波数に対応する特徴的な波長の光を吸収する。ナノ粒子の表面プラズモン周波数は、ナノ粒子のサイズと凝集状態に依存する。金ナノ粒子が検出ゾーンおよび/または対照ゾーンのレベルで固定化されると、互いに近接しているナノ粒子の表面プラズモンの周波数に関連する吸収は、したがって、肉眼で視認可能な特徴的な色、典型的には青/紫を当該ゾーンに付与することを可能にする。有利なことに、これらの試験は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などの従来の免疫検出技術に必要な時間、典型的にはELISAアッセイのためには数時間と比較して、サンプルの分析結果を迅速に、典型的には数分で得ることを可能にする。さらに、準備や分析のために高価でかさばる機器を必要としない。
【0011】
しかし、これらの試験には、検出感度が低く、定量限界が低いという大きな欠点がある。したがって、試験は通常、定性的または半定量的な情報のみを提供する。特に、これらのストリップ試験の検出感度は、例えばELISAタイプの従来の免疫検出アッセイによって得られる検出感度よりもはるかに低い。したがって、金ナノ粒子に基づくストリップ試験では、一般的には数ng/mLのオーダーの濃度を検出できるが、ELISAアッセイでは、一般的には2~3桁感度が高い数pg/mLの検出が可能である。例えば、Cortez Diagnostics社は、トロポニンI(心筋梗塞のバイオマーカー)を検出するための感度が1ng/mlのストリップ試験を提供しているが([3])、Abcam社は感度が7pg/mLのELISAアッセイ(ab200016)を提供している。
【0012】
ストリップ試験の感度を向上させるために、言い換えれば、これらのアッセイの検出限界を下げるために、毛細管現象試験における金ナノ粒子に替わるプローブとして、様々な材料、特に修飾金ナノ粒子、磁性粒子、半導体ナノ結晶または「量子ドット」、アップコンバージョン蛍光体、有機フルオロフォアなどが提案されている([1]、[4])。
【0013】
したがって、金ナノ粒子に基づくいくつかのナノ材料は、例えば、金ナノ粒子でコーティングされたFeのナノメートル粒子から形成されたコアを含む磁性ミクロスフェア([5])、金ナノ粒子を保有するシリカナノチューブ([6])、または多分岐金ナノフラワー(GNF)([7])などの、毛細管現象試験用のデバイスのプローブとして探索されてきた。また、金ナノ粒子上に銀の層を沈着させることを提案しているDer-Jiangら([8])を引用することができる。しかし、これらのアプローチでは、これらのプローブを合成するためのルートが必要であり、非常に複雑になることが多い。さらに、銀は金よりも酸化しやすいため、銀と金を組み合わせたプローブは、水性媒体での毛細管現象試験に適用するには安定性が低くなる。
【0014】
有機フルオロフォアや量子ドットなどのフォトルミネッセンスプローブ(以下、より簡単に「ルミネッセンスプローブ」とも呼ぶ)を使用することで、金ナノ粒子に基づくアッセイと比較して、毛細管現象試験の感度を高めることができる。実際、発光(ルミネッセンス)の検出は一般的に、吸収の検出よりも感度が高く(金ナノ粒子の場合のように)、後者は透過光のより高いバックグラウンドに対して行われる(例えば、有機フルオロフォアに関しては[9]、[10]および[11]、QDに関しては[11]~[17]、[50])。
【0015】
残念ながら、これらのフォトルミネッセンスプローブにはいくつかの欠点があるため、ストリップ試験のプローブとしての可能性を十分に活用することができない。これらの欠点の中で、例えば、有機フルオロフォアの場合、照明により不可逆的な構造変化が生じた後、蛍光の消失に反映されるフォトブリーチング現象、あるいは半導体ナノ結晶、または「量子ドット」の場合、発光が瞬く現象があり、プローブは周期的に発光を停止し、その結果、一定の再現性のあるシグナルを生成するのに適していない。他の欠点は、例えば、ルミネッセンスプローブの発光スペクトルの幅に起因する。実際、発光スペクトルが広すぎると、存在する可能性のあるバックグラウンドシグナルをフィルタリングすることが困難になり、これがシグナルの品質、特にシグナル対ノイズ比に影響を与える。生物学的アッセイにおけるプローブの効率に寄与する光学的要因に加えて、プローブの実用的特性および使いやすさも考慮に入れる必要がある。したがって、特定の粒子は、半導体ナノ結晶の場合のように、凍結後にルミネッセンス特性を失うため、バイオコンジュゲート半導体ナノ結晶の保存の欠点を表している。プローブの分子化合物への結合の容易さにより、所望の分子を標的にすることもまた、適切なプローブを選択する際に考慮すべき側面である。したがって、半導体ナノ結晶を含む特定の数の粒子が有機溶媒中で合成される。生物学的用途への使用は、これらの粒子を水中に分散させるための表面処理の追加ステップを必要とすることになるが、このプロセスは、実施するのが複雑であり、時間の経過とともに不安定になる可能性がある([18])。実際、半導体ナノ結晶に使用される表面官能化には、ナノ結晶の表面との共有結合は伴わない。したがって、官能化分子は分離し、プローブとして機能するナノ結晶の分析物(抗体または他のもの)と特異的に結合する試薬の解離を引き起こす可能性がある。したがって、これらのナノ結晶を分析物の特定の結合試薬に結合させるには、官能化のタイプに応じて、数週間から数ヶ月かかる場合がある。しかし、毛細管現象試験を商業的に使用するには、プローブ結合試薬コンジュゲートをテストストリップに沈着させてから2年程度の安定性を必要とする。
【0016】
これらのルミネッセンスプローブのもう一つの欠点は、ルミネッセンスを検出するために必要な励起が寄生光の発光を引き起こす可能性があり、その結果、バックグラウンドシグナルが増加し、その結果、シグナル対ノイズ比が低下することである。寄生発光からこのシグナルを除去する、または少なくとも低減するための様々なアプローチが提案されており、例えば、ルミネッセンスの遅延検出と組み合わせたランタニドイオンのキレートまたは錯体を含むルミネッセンスナノ粒子の使用、アップコンバージョンナノ粒子、または他の永続的なルミネッセンスを有するナノ粒子などが提案されている。
【0017】
したがって、ランタニドのキレートまたは錯体を担持したルミネッセンス粒子は、毛細管現象試験におけるルミネッセンスプローブとしてすでに提案されている。
【0018】
例えば、Zhangら([19])は、ランタニド(Eu)キレートを担持したシリカナノ粒子を、移動ストリップ試験における細菌トウモロコシ萎ちょう細菌病菌(Pantoea stewartii subsp.stewartii)(Pss)を検出するためのプローブとして使用することを提案している。これらのプローブは、金粒子を使用する従来のアッセイで得られる検出限界の100分の1の検出限界を達成することを可能にすると述べられている。さらに、Xiaら([20])は、B型肝炎表面抗原(HBsAg)を検出するためのラテラルフローアッセイで、ユウロピウムキレートを担持したシリカ粒子を使用している。
【0019】
本発明者らはまた、血清サンプル中のα-フェトプロテイン(AFP)を検出するために、または前立腺特異抗原(PSA)およびビオチン化ウシ血清アルブミン(ビオチン-BSA)を検出するために、ラテラルフローアッセイでユウロピウムキレートを担持したポリスチレン微粒子を使用することを提案している、Liangら([21])およびJuntunenら([22])の著作を引用することができる。文献国際公開第2013/013214号および国際公開第2014/146215号はまた、テルビウムおよび/またはユウロピウムのキレートを担持したポリスチレンナノスフェアをラテラルフローアッセイストリップのプローブとして使用することを提案している。
【0020】
また、文献国際公開第2014/146215号で、ランタニドイオンのキレートまたは錯体を含むこれらのナノ粒子の長寿命発光(100μsのオーダー)を利用して、寿命が一般的に1~10nsのオーダーである寄生発光を回避することを可能にする遅延検出を実施することが提案されている。
【0021】
しかし、ルミネッセンスプローブとして使用されるランタニドのキレートまたは錯体を担持したルミネッセンス粒子は、典型的には、キレートまたは錯体あたり単一のランタノイドイオンのみを含む。各キレートまたは錯体は、ナノ粒子またはマイクロ粒子内で無視できないスペースを占有し、これにより、与えられた粒子サイズに対応する発光イオンの数が制限される。例えば、45nmのナノ粒子には、1000個程度のキレートおよび発光イオンのみを含む[47]。さらに、ランタニドイオンの錯体またはキレートを含むこのタイプの粒子の合成は、錯体またはキレートを合成し、次いで、キレートを含む粒子を合成するという少なくとも2つのステップを含む。したがって、このタイプの粒子の合成は複雑であり、したがって比較的高価である。最後に、このタイプの粒子の安定性も疑問視されている([23])。
【0022】
近年、希土類に基づく別のタイプのルミネッセンスナノ粒子が、バイオイメージング、特に毛細管現象試験の用途でルミネッセンスプローブとして提案されており、これらは、赤外または近赤外源による励起下で可視光を放出するアップコンバージョン蛍光体のナノ粒子である(例えば、[24]~[29])。これらのアップコンバージョンナノ粒子を使用する状況では、検出されたシグナルに対応するルミネッセンス発光が観察される前に、2つの光子がナノ粒子によって吸収される。例として、本発明者らは、UPTタイプ(「アップコンバート蛍光体技術」」)のプローブを使用したラテラルフローアッセイストリップを提案し、酵素結合免疫吸着検定法よりも高い検出感度に到達することを可能にする、Niedbalaら([30])の著作に言及することができる。この種のアップコンバージョンルミネッセンスプローブは、例えば、米国特許出願公開第2014/0170674号で提案されているラテラルフローアッセイ用のデバイスで使用されている。
【0023】
これらのアップコンバージョン蛍光体は、特に、前述のルミネッセンスプローブと比較して、フォトブリーチング現象に対して抵抗性を示し、バックグラウンドノイズを引き起こす寄生蛍光が少ないという利点がある。実際、励起は、検出波長よりも低い波長で行われるため、サンプルに含まれる補助物質または多孔質固体支持体による発光は事実上存在しない。
【0024】
残念ながら、これらのアップコンバージョン蛍光体には、量子収率が低いという大きな欠点があり、その効率は、励起源の低い光出力密度に対してかなり低下し、ルミネッセンスは励起の出力密度の二乗に比例する。さらに、試験バンド、および場合により対照バンドを含むかなり広いゾーンを励起する必要があり、これにより、所与の出力に対する励起の出力密度が低下する。したがって、この種のルミネッセンスプローブを用いた試験の読み取りには、励起用のレーザーダイオードと、レンズ、フィルタ、光電子増倍管、プリアンプなどの他の要素を組み合わせた複雑な機器が必要となる。
【0025】
最後に、永続的なルミネッセンスを放出する無機ナノ粒子も、励起によって誘発される寄生ルミネッセンスを回避するために提案されてきた。これらの無機ナノ粒子は、ドーパントとしてランタニドイオンを含む結晶性マトリックスから形成される。永続的なルミネッセンスを伴うナノ粒子の特定の特徴は、ドーパントが結晶の電子構造にトラップ状態を導入し、励起された電荷がそこにトラップされることである。したがって、これらのナノ粒子によるルミネッセンス発光は、これらのトラップ状態から電荷が放出された後にのみ発生する可能性があり、この放出は熱活性化によって発生する([31])。電子構造内のこれらのトラップ状態のエネルギーに応じて、つまりトラップの深さに応じて、熱活性化、したがって発光の寿命は、数時間または数日に達する可能性がある。したがって、ナノ粒子を励起し、励起が停止した後、適切なリーダに毛細管現象試験デバイスを挿入し、励起がない場合、したがって寄生発光がない場合にルミネッセンスを検出することによってアッセイを読み取ることができる。例えば、Patersonら([32])により、金ナノ粒子で得られたものと比較して大幅に改善された検出感度が得られた(検出限界は金ナノ粒子で得られたものの約10分の1)。また、これにより、読み取りに発光フィルタを使用する必要がなくなる。
【0026】
しかし、このシステムには、発光からのシグナルの取得時間が長いという欠点がある。実際、これらのナノ粒子による発光は、状況に応じて数分間、特に数時間、さらには数日間行われるため、発光した光子の数のうち無視できないほどの割合を収集するためには、この寿命に相当する時間を待つ必要がある。したがって、単位時間、例えば1秒あたりでは、発光する光子の数は少なくなり、その結果、高レベルの感度に到達するために、ルミネッセンスの取得時間を長くする必要がある。このような取得時間は、迅速な診断を提供するという毛細管現象試験の目的に反している。この問題に対処するために、励起出力を上げることができるが、しかし、複雑な機器が必要であり、コンパクトで安価なアッセイシステムの要件を満たさない。
【0027】
最後に、ユウロピウムとビスマスを共ドープしたYVOナノ粒子が、毛細管現象試験の別の変形で使用された([33])。ビスマスの存在により、バナジン酸イオンVO 3-内の電荷移動遷移O2--V5+により、280nmでの吸収ピークを有するYVOマトリックスの吸収が、電荷移動遷移Bi3+-V5+の出現により、可視にシフトすることが可能になり、したがって、350nm付近のより一般的な励起源を使用できるようになる。次いで、励起はEu3+イオンに伝達される。しかし、このアプローチには、これらのナノ粒子を複雑に合成するという欠点がある。特に、結晶構造が異なるYVOとBiVOの均質な固溶体を生成することは困難である([34])。これには、より複雑な装置(オートクレーブ)を必要とする高温での水熱合成([33])、または熟成プロセス([34])のいずれかに頼る必要がある。
【0028】
したがって、毛細管現象試験のためにこれまでに提案されたプローブはどれも完全に満足できるものではない。特に、金ナノ粒子に基づく毛細管現象システムよりもはるかに感度の高い検出を提供する、非常に発光性が高く、合成の複雑さが少なく、合成が安価であるプローブと、肉眼で読み取るためのシステムまたはコンパクトで安価なリーダと組み合わせることが可能な、毛細管現象試験デバイスでの使用と互換性のあるプローブが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0029】
本発明は、正確には、毛細管現象試験で使用することができ、この必要性を満たす新規なルミネッセンスプローブを提案することを目的としている。
【0030】
より具体的には、毛細管現象試験による分析方法のプローブとして、制御された光学的および物理化学的特性を備えた、希土類イオンをドープしたルミネッセンスナノ粒子の使用を提案している。
【0031】
したがって、本発明は、以下の式(I)のフォトルミネッセンス無機ナノ粒子をプローブとして使用して、毛細管現象試験によって、液体サンプル中の目的の生物学的または化学的物質を検出および/または定量化するためのインビトロ方法を記載し、
(A1-xLn(M)(I)
式中、
Mは、酸素(O)と結合して結晶性化合物を形成できる1つまたは複数の元素を表し、
Lnは、1つまたは複数のルミネッセンスランタニドイオンに対応し、
Aは、その電子レベルがルミネッセンスプロセスに関与しない結晶性マトリックスの一部を形成する1つまたは複数のイオンに対応し、
0<x<1、および
p、q、およびaの値は、(A1-xLn(M)の電気的中性が守られる値であり、
当該方法は、一光子吸収後、ナノ粒子の発光寿命が100ミリ秒より短いルミネッセンスを検出することを使用している。
【0032】
より具体的には、その第1の態様によれば、本発明は、以下の式(II)のフォトルミネッセンス無機ナノ粒子をプローブとして使用して、毛細管現象試験によって、液体サンプル中の目的の生物学的または化学的物質を検出および/または定量化するためのインビトロ方法に関し、
1-xLnVO4(1-y)(PO(II)
式中、
Aは、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、およびそれらの混合物から選択され、
Lnは、ユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、ネオジム(Nd)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、ツリウム(Tm)、プラセオジム(Pr)、ホルミウム(Ho)、およびそれらの混合物から選択され、
0<x<1、特に0.2≦x≦0.6、より具体的にはxの値は0.4であり、および
0≦y<1、特にyの値は0であり、
当該方法は、一光子吸収後、ナノ粒子の発光寿命が100ms未満のルミネッセンスを、320nm以下の波長でマトリックスを励起することによって検出することを使用している。
【0033】
特に、ルミネッセンスの検出は、マトリックスAVO4(1-y)(PO、例えばYVOを、300nm以下、特に250~300nmの波長で励起することによって有利に行われる。
【0034】
したがって、本発明の方法によれば、検出されたシグナルは、単一光子の吸収後のフォトルミネッセンスナノ粒子によるルミネッセンス発光、言い換えれば、励起波長よりも長い波長での発光に対応する。単一光子の吸収後のルミネッセンス発光は、上記の「アップコンバージョン」粒子の場合のように、二光子吸収のための粒子によるルミネッセンス発光を検出する場合とは異なる。
【0035】
これらのナノ粒子は、以下に説明するように、分析される物質を認識することができる認識分子(抗体、核酸、ペプチド、アプタマーなど)で官能化されている。
【0036】
本発明の意味において、サンプル中の物質の「分析」は、当該物質の有無の検出または定性的特徴付けの側面、ならびに当該物質の決定または定量的特徴付けの側面をカバーする。
【0037】
液体サンプルは、特に生物学的サンプル、特に任意の生物学的流体または体液であってもよい。例えば、液体サンプルは、血液、血清、血漿、唾液、喀痰、鼻汁塗抹標本、尿、希釈された糞便、腟塗抹標本または脳脊髄液から選択される、ヒトから採取されたサンプルであってもよい。
【0038】
また、液体サンプルは、例えば、環境サンプルまたは農産物および食品からのサンプルなどの、生物学的分子、化学分子あるいは病原性ウイルスまたは細菌を含む溶液であってもよい。
【0039】
本発明の方法は、特に、サンプル中、特に生物学的サンプル中の分子、タンパク質、核酸、毒素、ウイルス、細菌または寄生虫を検出および/または定量化するために使用することができる。
【0040】
方法は、例えば、バイオマーカー、抗体、DNAおよび/またはRNA、免疫グロブリン(IgG、IgMなど)、抗原の存在を検出するために使用することができ、また、抗原は、生物学的サンプル中のウイルス、細菌または寄生虫を構成する生体分子であってもよい。
【0041】
また、抗原は、例えば、科学警察の捜査についての目的の分子、例えば、薬物などの違法な化学物質、または防衛上の目的の物質(バイオテロ剤)であってもよい。
【0042】
また、抗原は、食品の安全性(サルモネラ菌(Salmonella)、リステリア菌(Listeria)、大腸菌(Escherichia coli)などの病原菌、またはノロウイルスなどのウイルスまたはアレルゲン)、または環境、例えば汚染物質(農薬)についての目的の物質であってもよい。
【0043】
本発明による毛細管現象試験によって分析することを目的とする、目的の生物学的または化学的物質は、以下、より簡単に「分析される物質」または「分析物」という表現で表す。
【0044】
本発明によるルミネッセンス無機ナノ粒子を、例えばテストストリップなどの毛細管現象試験デバイスにおけるプローブとして使用することは、いくつかの点で特に有利であることが証明されている。
【0045】
第一に、本発明により使用される、以下により詳細に記載される式(A1-xLn(M)(I)の希土類イオンをドープしたナノ粒子、例えば、タイプYVO:EuまたはGdVO:Eu、YAG:Ceのナノ粒子、特に式A1-xLnVO4(1-y)(PO(II)のナノ粒子は、特に、その優れた光安定性に関して特に有利な特性を有しており、この特性により、長時間の一定のシグナルの取得が可能となり、発光が瞬く現象をなくすことが可能となる。
【0046】
さらに、これらのナノ粒子は、凍結後にルミネッセンスを失うことはない。
【0047】
希土類をドープしたバナジン酸イットリウムに基づくナノ粒子は、例えば、Riwotzkiら([45])およびHuignardら([46])によって詳細に記述されている。文献欧州特許第1 282 824号に関しては、生物学的物質または他の有機物質を検出するためのプローブとして、表面修飾無機ルミネッセンスナノ粒子の使用について記載されている。
【0048】
しかし、本発明者らが知る限り、希土類イオンをドープし、永続的なルミネッセンスを有する粒子とは異なり、単一光子を吸収した後に発光する、上記で定義されたフォトルミネッセンス無機ナノ粒子を、毛細管現象試験におけるルミネッセンスプローブとして利用することが提案されたことはない。
【0049】
ランタニドイオンに基づくこれらのナノ粒子が、化学的または生物学的物質の検出および定量化、特に毛細管現象試験において使用できること、さらに、それらが試験の感度の点で性能の向上につながることは、まったく予見できなかった。
【0050】
実際、瞬きがないことを除けば、希土類に基づくナノ粒子のルミネッセンス特性は、量子ドットのルミネッセンス特性より劣っていると考えられている。希土類イオンをドープしたこれらのナノ粒子、特に金属酸化物マトリックスからなるナノ粒子において、ルミネッセンスの励起は、マトリックスの直接励起によって、またはまれに、ルミネッセンス希土類イオンの可視光での直接励起によって行うことができる。希土類イオンを直接吸収するための吸光係数は一般に非常に低いが、結晶性マトリックスを励起するための吸光係数ははるかに高くなる([35])。
【0051】
しかし、結晶性マトリックスの吸収帯は一般的に紫外域に位置しており、これが大きな欠点となっており、生体分子ならびに毛細管現象デバイスの様々なコンポーネント(例えば、毛細管拡散膜)も紫外域で強く吸収される。例えば、バナジン酸イオンVO 3-に基づくマトリックスの場合、280nmにおける吸収ピークは、タンパク質の吸収、特にトリプトファンアミノ酸の吸収と一致する。その結果、希土類イオンをドープした結晶性マトリックスに基づくナノ粒子のルミネッセンスの励起は、特に紫外域で、大きな副次的な発光シグナルを生成する傾向がある。このような寄生発光は、分子の複雑な混合物から低強度のシグナルを正確に識別することを目的とする毛細管流ストリップ試験などの体外診断試験の目的とは相容れない。
【0052】
すべての予想に反して、本発明者らは、紫外域での励起、特に350nm以下、有利には320nm以下、より有利には250nm~および320nm、特に250nm~300nmの励起の条件であっても、本発明による希土類に基づくこれらのフォトルミネッセンスナノ粒子を、毛細管現象試験タイプの体外診断技術におけるプローブとして使用することが可能であることを発見した。
【0053】
理論に縛られることを望まずに、本発明者らは、寄生発光からの強いシグナルが存在するにもかかわらず、使用されたナノ粒子に特有の以下の3つの光学特性により、紫外域で励起されたナノ粒子のルミネッセンスの検出が、毛細管現象試験で可能であることを発見した。i)非常に大きなサイズのナノ粒子に頼る必要がない、本発明のナノ粒子に含まれる多数のルミネッセンスランタニドイオン、ii)一般的に非常に広いスペクトルを有する寄生発光を効果的に除去することを可能にする希土類イオンの狭い発光スペクトル、およびiii)大きなストークスシフト(吸収ピークと発光ピークの間のシフト)、典型的にはEuをドープしたYVOまたはGdVOナノ粒子についての約350nmのストークスシフト(バナジン酸マトリックスの280nmでの吸収ピークとEuの617nmでの発光ピーク)であり、これは、一般的に小さなストークスシフトを有する移動サポートまたは分析される物質を含むサンプルに起因する励起波長と寄生発光の効果的な除去を可能にする。特に、このストークスシフトが大きいということは、検出には、干渉フィルタよりも安価な、単純なハイパスフィルタを使用することが可能であることを意味している。
【0054】
したがって、寄生発光の効果的な除去、および所望の検出感度を達成するのに十分なシグナル対ノイズ比を有するシグナルの取得を得ることが可能である。
【0055】
さらに、すべての予想に反して、380nmでの励起よりも非常に低い、320nm以下、特にバナジン酸マトリックスの吸収ピークが位置する280nm付近(図11(A)参照)または300nmでの励起は、ラテラルフローアッセイに通常使用されるニトロセルロース膜に関連した寄生発光を誘導することが判明した(図11(B)参照)。ランタニドイオンをキレート化または錯体化する分子が、典型的には320nm([47])~400nm([48])を吸収することを知っていると、250nm~300nm、特に260nm~300nmを吸収するマトリックスを使用することは、さらなる利点を提供する。
【0056】
特に、280nmを中心とするYVOまたはGdVOの結晶または300nmを中心とするLaVOの結晶におけるバナジン酸イオンVO 3-内のO2--V5+電荷移動吸収に加えて([40])、Euを含むナノ粒子の場合、O2--Eu3+電荷移動に関連する別の吸収が可能であり、260nmを中心とする吸収につながる。後者は、例えば、LaHf:Eu、AHf(A=Y、Gd、Lu)およびLaZr:Euナノ粒子で観察される([41])。
【0057】
さらに、以下に示す例に示すように、本発明の方法は、検出感度に関して、少なくとも1桁、またはそれ以上に改善された毛細管現象試験の性能に到達することを可能にする。
【0058】
特に、定性分析(サンプル中の分析物の有無)だけでなく、半定量分析および定量分析も可能にする。
【0059】
したがって、本発明はさらに、毛細管現象試験デバイスにおけるプローブとして、上記で定義されたナノ粒子を使用して、当該毛細管現象試験デバイスの検出感度を高めることに関する。
【0060】
フォトルミネッセンスナノ粒子は、プローブとして、図2に模式的に示されるようないわゆる「サンドイッチ」アッセイであっても、図3に示されるようないわゆる「競合」アッセイであっても、任意の既知のタイプの毛細管現象試験、例えばラテラルフローアッセイにおいて使用することができる。フォトルミネッセンスナノ粒子は、特に、毛細管現象試験デバイスの支持体の特性を変更する必要なしに、ルミネッセンスプローブとして、これまでは金ナノ粒子を用いて提案された毛細管現象試験デバイスで使用するのに適している。
【0061】
特に、以下に示す例に示されるように、本発明によるフォトルミネッセンスナノ粒子は、例えば、金ナノ粒子の平均サイズと同様の約30~50nmの平均サイズを有し得、その結果、このサイズの粒子の移動に適した毛細管現象手段、典型的にはニトロセルロース膜に適合している。
【0062】
あるいは、本発明によるフォトルミネッセンスナノ粒子は、より大きくてもよく、したがって、ルミネッセンスシグナルを最適化することが可能になる。実際、ランタニドイオンの数はナノ粒子の体積とともに増加するため、放出されるルミネッセンスシグナルは、球形粒子の半径の3乗に応じて増加する。この場合、ラテラルフローアッセイの移動サポートには、選択したナノ粒子のサイズに適合した細孔を含んでもよい。可変孔径を有する膜は、例えば、市販されている(例えば、MerckMillipore社によって、参照HF075、HF090、HF120、HF135、HF180の下で販売されている可変孔径を有する膜)。
【0063】
より大きなナノ粒子は、例えば、例示されるように粒子の遠心分離によってサイズを分類し、サイズ分布において、最大サイズの粒子のみを保持することによって得られてもよく、またはバルク材料を粉砕することによって得られてもよい。当業者によって知られている他の任意の技術も使用することができる。
【0064】
さらに、例示したように、本発明のナノ粒子は、金粒子の粒子サイズと同様の粒子サイズを維持しながら、ルミネッセンスを生じさせる多数の、特に、ランタニドのキレートまたは錯体に基づく粒子の場合よりも著しく多くのイオンを有し、したがって、高強度の発光シグナルを生成することが可能となり、その結果、改善された感度を達成することが可能となる。
【0065】
有利なことに、本発明による検出方法は、定性的測定を、金ナノ粒子をプローブとして使用するまったく同一のアッセイの検出限界の10分の1まで、特に100分の1まで、さらには1000分の1まで可能にする。
【0066】
最後に、毛細管現象試験におけるプローブとしての本発明によるナノ粒子の使用は、ランタニドのキレートを担持した粒子で得られた結果と比較して、感度に関して、改善された性能さえもたらす。
【0067】
その別の態様によれば、本発明は、液体サンプル中の目的の生物学的または化学的物質を検出および/または定量化するのに有用な毛細管現象試験デバイスに関し、当該デバイスは、上記で定義されたフォトルミネッセンス無機ナノ粒子をプローブとして含む。
【0068】
したがって、より正確には、本発明は、液体サンプル中の目的の生物学的または化学的物質を検出および/または定量化するのに有用な毛細管現象試験デバイスに関し、当該デバイスは、式A1-xLnVO4(1-y)(PO(II)のフォトルミネッセンス無機ナノ粒子をプローブとして含み、式中、A、Ln、x、およびyは、上記の通りであり、当該ナノ粒子は、320nm以下、特に300nm以下、より具体的には250nm~300nmの波長でマトリックスを励起することにより、一光子吸収後、100ms以下の発光寿命でルミネッセンスを放出することができる。
【0069】
したがって、本発明による毛細管現象試験デバイスは、式(II)のフォトルミネッセンス無機ナノ粒子を含み、そのルミネッセンスは、320nm以下、特に300nm以下、より具体的には250nm~300nmの波長でマトリックスを励起することにより、一光子吸収後、100ms以下の発光寿命で検出される。
【0070】
より正確には、ラテラルフローアッセイのための既知のデバイスで従来使用されているプローブ、例えば金ナノ粒子のように、本発明によるフォトルミネッセンスナノ粒子は、特に、「標識ゾーン」(英語の用語では、より一般的に「コンジュゲートパッド」と呼ばれる)と呼ばれるアッセイデバイスのゾーンのレベルで、抗体などの分析される物質を特異的に結合する少なくとも1つの試薬に結合された形態で存在する。
【0071】
本発明は、図1に模式的に示されるように、移動ストリップタイプ(英語の呼称「ラテラルフローストリップ」によって知られる)の従来の毛細管現象試験デバイスを参照して、以下により具体的に説明される。当然、本発明の方法は、本発明のフォトルミネッセンスナノ粒子をプローブとして使用するのに適しているという条件で、毛細管現象試験デバイスの他の任意の変形を使用することができる。
【0072】
したがって、典型的には、本発明による毛細管現象試験デバイスは、基準方向に毛細管現象を行うための手段、特にニトロセルロース膜などの多孔質固体支持体を含んでもよく、そのようなニトロセルロース膜は、
液体サンプルを沈着させるためのゾーン、
サンプルを沈着させるためのゾーンの下流に配置され、標識ゾーンまたはカップリングゾーンと呼ばれ、本発明によるフォトルミネッセンス無機ナノ粒子(プローブ)が担持され、分析される物質に特異的な少なくとも1つの「結合試薬」(認識分子)、例えば抗体に結合される、ゾーン、
標識ゾーンの下流に配置され、「検出ゾーン」とも呼ばれ、分析される物質に特異的な抗体などの少なくとも1つの「捕捉試薬」(認識分子)が固定化される、反応ゾーン、
検出ゾーンの下流に位置する、試薬の移動の対照ゾーン、および
場合により、対照ゾーンの下流に配置される吸収パッドを含む。
【0073】
毛細管現象試験用のデバイスの例は、以下でより詳細に説明される。
【0074】
液体サンプルは、本発明による毛細管現象試験デバイスを使用して直接分析することができる。本発明の方法による液体サンプルの分析は、典型的には、
(i)毛細管現象試験デバイスの沈着ゾーンのレベルに、分析される液体サンプル、および場合により希釈剤を適用すること、
(ii)フォトルミネッセンスナノ粒子によって生成されたルミネッセンスが反応ゾーンで検出されるまで、および/またはルミネッセンスが移動対照ゾーンで検出されるまで、デバイスをインキュベートすること、
(iii)結果を読んで解釈することを含む。
【0075】
その別の態様によれば、本発明は、液体サンプル、特に生物学的サンプル中の目的の生物学的または化学的物質を検出および/または定量化するための本発明による毛細管現象試験デバイスの使用に関する。
【0076】
毛細管現象試験デバイスは、試験結果を提供するリーダに結合することができる。
【0077】
以下に詳述するように、結果の読み取りは、毛細管現象試験デバイスの検出ゾーンのレベルで、および該当する場合は対照ゾーンのレベルで、固定化されたナノ粒子によって生成されたルミネッセンスを検出することを含む。
【0078】
より具体的には、
固定化されたフォトルミネッセンスナノ粒子の励起、および
ルミネッセンス発光の検出
によって実行される。
【0079】
特に有利なことに、適切なフィルタのみを使用して毛細管現象試験デバイスを肉眼で読み取ることが可能である。
【0080】
あるいは、ルミネッセンスは、単純な検出装置を使用して、例えば、発光フィルタおよびカメラなどの検出器を使用して読み取ることができる。
【0081】
発光フィルタは干渉フィルタであってもよいが、単純なハイパスフィルタであってもよい。実際、これらの粒子の発光に関連する大きなストークスシフトのために、一般的に小さなストークスシフトを有する寄生発光は、これらのナノ粒子からの発光よりも短い波長に位置するであろう。
【0082】
最後に、本発明による毛細管現象試験デバイスは、多重検出、言い換えれば、同じ毛細管現象試験による、まったく同一のサンプル中のいくつかの物質の同時検出に適している。
【0083】
その別の態様によれば、本発明はさらに、体外診断の目的で、上記で定義された検出方法、または上記で定義された毛細管現象試験デバイスの使用に関する。有利なことに、本発明による毛細管現象試験により、生物学的サンプル中の特定の物質の低含有量を検出することが可能であることは、例えば、疾患の早期の検出、あるいは疾患の進行のまたは治療処置の効果の診断のために本発明の方法を使用することを可能にする。
【0084】
本発明による毛細管現象試験によって診断することができる疾患は限定されず、1つまたは複数の特異的結合パートナー(リガンド、抗体、抗原、相補的核酸、アプタマーなど)が存在する生物学的に関心のあるタイプの分子(タンパク質、核酸、抗体など)である、疾患の特異的マーカーの存在によって明らかにされるすべての疾患を含む。
【0085】
例として、感染症(細菌性、寄生虫性、またはエイズなどのウイルス性)、炎症性および自己免疫性疾患、心臓病、神経性疾患、または腫瘍性疾患(例えば、乳癌または前立腺癌などの固形癌)について言及する場合がある。
【0086】
感度の最大の向上(100または1000倍)により、ELISAアッセイまたはELISAの変形の1つに近い性能を達成することが可能になる。したがって、本発明の方法は、ELISAタイプの高感度検出が必要であるが利用できない場合に特に適している。
【0087】
したがって、本発明の方法により、ポイントオブケア(POC)での迅速な診断が可能になる。
【0088】
したがって、本発明の方法は、感染症または他の一般的な疾患の診断のための、例えば発展途上国、地方および/または遠隔地における感染症または他の一般的な疾患の診断に有用である可能性がある。
【0089】
また、本発明の方法は、特に患者の生存が危険にさらされている可能性がある場合(心不全、静脈血栓症、炎症性症候群、全身性細菌感染症(敗血症)、急性膵炎)において、緊急診断を可能にするために、救急医療(SAMU、SMUR救急医療サービス)の状況で特に有用であることが証明される可能性がある。このような状況では、病院に到着する前にELISAアッセイと同等の感度で迅速なアッセイを実行し、患者の診断と管理にかかる時間を節約し、患者の生存の可能性を高めるために本発明の方法を使用することができる。
【0090】
さらに、本発明による粒子をプローブとして使用する毛細管現象試験による診断は、投与される医薬品の用量を調整するための定期的な診断試験を必要とする患者(例えば、免疫調節剤または免疫抑制剤の場合)に特に有用であり得る。実際、採血や他のより侵襲的な検査による診断ではなく、ストリップ試験を実行することにより、患者の快適さを改善し、診断のコストを削減し、検出/定量化をより短い間隔で実行することが可能になり、したがって、投与される医薬品の用量をより良好に調整することができるという利点がある。
【0091】
当然、本発明の方法は、上記の用途に限定されない。したがって、核酸(例えば、種子中のGMO)を検出するために、または環境中、例えば水中で、あるいはヒトまたは動物の消費を目的とする食品中の汚染物質または病原体を検出するために使用することができる。
【0092】
したがって、本発明の方法の適用は、免疫学から分子遺伝学、またはDNAおよびRNAの検出にまで及ぶ可能性がある。これは、ナノ粒子に結合した部分的に相補的なフラグメントで、生物学的サンプルのRNAの1つまたは複数のストランドを標識し、次いで、AffymetrixタイプのDNAチップと類似したアプローチに従って、ストリップの基質上にグラフトされた別の領域の相補的なフラグメント上でハイブリダイゼーションすることによって検出するために使用することができる。本発明の1つの利点は、これらのアプローチに通常必要とされる増幅ステップがないことである。
【0093】
本発明の方法はまた、違法な化学物質、例えば、薬物、あるいは警察または防衛のための他の目的の物質を検出するために使用することができる。
【0094】
また、農産物または食品中、あるいは環境中の、目的の物質、特に病原体を検出および/または定量化するために使用することができる。
【0095】
本発明による方法および毛細管現象試験デバイスの他の特徴、変形、および利点は、例示の目的で、本発明を限定するものではなく、以下に示す説明、例および図を読むことでより明確になる。
【0096】
以下、「…と…の間」、「…から…までの範囲」および「…から…までの変化」という表現は等価であり、特に明記しない限り、範囲の限界が含まれることを意味することを意図している。
【0097】
特に明記しない限り、「a/oneを含む」という表現は、「少なくとも1つを含む」と理解されるべきである。
【0098】
フォトルミネッセンス無機ナノ粒子
上記のように、本発明の方法は、毛細管現象試験デバイスのプローブとして、特定の光学的および物理化学的特性を有するフォトルミネッセンス無機ナノ粒子を使用する。
【0099】
本発明のフォトルミネッセンスナノ粒子は、希土類イオンをドープした結晶性マトリックスから形成される。「結晶性マトリックス」は、特定の原子が「置換イオン」と呼ばれる他の原子に置き換えられた、代表的な結晶性固体である。置換イオンは、結晶性マトリックスの化学的または物理的特性を変更することを可能にし、特にナノ粒子に高品質の光学発光を与えることを可能にする。
【0100】
本発明のナノ粒子中の希土類イオンは、希土類イオンの錯体またはキレートの形態ではなく、後者は、例えば、Yuanらの研究([36])に記載されているように、適切な有機配位子と組み合わせた希土類イオンから形成される。
【0101】
本発明のナノ粒子は、同じ性質または異なる性質の希土類イオンとドープすることができる。
【0102】
より具体的には、それらは、ユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、ホルミウム(Ho)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)およびそれらの混合物から選択されるランタニドイオンであってもよい。
【0103】
特に、ランタニドイオンは、Eu、Dy、Sm、Pr、Nd、Er、Yb、Ho、Tmおよびそれらの混合物から、特にEu、Dy、Sm、Yb、Er、Ndおよびそれらの混合物から、特にEu、Dy、Smおよびそれらの混合物から、特にEuから選択されてもよい。
【0104】
本発明による毛細管現象試験においてプローブとして使用されるルミネッセンス無機ナノ粒子は、より具体的には、以下の式(I)のものであり、
(A1-xLn(M)(I)
式中、
Mは、酸素(O)と結合して結晶性化合物を形成できる1つまたは複数の元素を表し、
Lnは、1つまたは複数のルミネッセンスランタニドイオンに対応し、
Aは、その電子レベルがルミネッセンスプロセスに関与しない結晶性マトリックスの一部を形成する1つまたは複数のイオンに対応し、
0<x<1、特に0.1≦x≦0.9、特に0.2≦x≦0.6、特に0.2≦x≦0.4、より具体的にはxの値は0.4であり、および
p、q、およびaの値は、(A1-xLn(M)の電気的中性が守られる値であり、
当該方法は、一光子吸収後、ナノ粒子の発光寿命が100ミリ秒より短いルミネッセンスを検出、言い換えれば、励起波長よりも長い波長でのルミネッセンスを検出することを使用している。
【0105】
Aは、より具体的には、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)およびそれらの混合物から選択されてもよく、特にAは、Y、GdまたはLa、特にYまたはGdを表し、好ましくはAはYを表す。
【0106】
特に、前述の式(I)のMは、V、P、W、Mo、As、Al、Hf、Zr、Ge、Ti、SnおよびMnから選択される1つまたは複数の元素を表すことができる。本発明により使用されるナノ粒子の結晶性マトリックスは、1つまたは複数のタイプのアニオンMを組み込むことができる。
【0107】
好ましくは、Mは、V、P、Al、Hf、Zr、Ge、Ti、SnおよびMnから選択される1つまたは複数の元素を表す。
【0108】
特に、Mは、V1-yを表し、yは0~1の範囲である。より具体的には、Mは、Vを表すことができる。
【0109】
特定の実施形態によれば、前述の式(I)のpは、ゼロとは異なる。
【0110】
一例として、本発明のナノ粒子は、MがVおよび/またはPを表し、pの値が1である式(I)のナノ粒子であってもよいため、当該ナノ粒子のマトリックスA(M)は、VO 3-および/またはPO 3-アニオンを含む。
【0111】
別の特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、MがHfまたはZr、Ge、Ti、Sn、Mnを表し、pの値が2であり、qの値が7である式(I)のナノ粒子であってもよいため、当該粒子のマトリックスは、AHf、AZr、AGe、ATi、ASnまたはAMnである。特に、Aは、La、Y、Gd、またはLuを表すことができ、その場合はa=2である。
【0112】
別の実施形態の例では、MがAlを表し、AがYまたはLuを表し、pの値が5であり、qの値が12であるため、当該ナノ粒子のマトリックスA(M)は、ガーネットYAl12(YAG)またはLuAl12(LuAG)である。
【0113】
別の実施形態の例では、pの値がゼロであり、AがYまたはGdを表すため、当該ナノ粒子のマトリックスA(M)は、タイプYまたはGdのものである。
【0114】
したがって、変形実施形態によれば、毛細管現象試験で使用されるルミネッセンス無機ナノ粒子は、式Gd:Lnのものであり、式中、Lnは、1つまたは複数のルミネッセンスランタニドイオンを表し、特に上記で定義されるように、Lnイオンを有するナノ粒子のドーピングのレベルは、10%~90%、特に20%~60%、特に20%~40%、より具体的には40%である。
【0115】
この変形実施形態の文脈において、ルミネッセンスは、250nm未満の波長でのマトリックスの励起によって検出することができる[51]。
【0116】
本発明によるナノ粒子の結晶性マトリックスのイオン、特に金属酸化物マトリックスのイオンの希土類イオンでの置換の程度は、より具体的には10%~90%、特に20%~60%、特に20%~40%、より具体的には40%であってもよい。
【0117】
このような高レベルのドーピングを選択することは、直感に反していた。実際、一般に、希土類イオンをドープしたルミネッセンスナノ粒子の通常のドープレベルは、より高濃度で発生する「消光」効果を回避するために、10%以下の値に維持されている([42]~[44])。
【0118】
有利なことに、本発明によるナノ粒子の不完全な結晶化度は、以下により詳細に説明されるように、「消光」効果を回避することを可能にする。
【0119】
本発明によるフォトルミネッセンスナノ粒子の別の特徴によれば、それらは、検出されたシグナルに対応する単一の光子の吸収後にルミネッセンスを放出することができる。
【0120】
さらに、本発明のナノ粒子によるルミネッセンス発光は、いわゆる永続的なルミネッセンスを有するナノ粒子([32])とは対照的に、「トラップ」状態を伴わない。
【0121】
したがって、本発明のナノ粒子は、100ミリ秒より短い、言い換えれば、厳密に100ミリ秒未満のルミネッセンス発光寿命を有する([35]、[39]、[49])。
【0122】
発光寿命は、発光するナノ粒子、より具体的には発光する希土類イオンの励起状態の寿命として理解されるべきであり、実際には、励起の停止後のルミネッセンス発光光子の持続時間、または励起停止後のルミネッセンスの指数関数的減衰の特徴的な時間によって決定される。
【0123】
発光するナノ粒子の発光寿命は、ナノ粒子の光分解またはフォトブリーチング前のルミネッセンス発光時間とは異なる。
【0124】
本発明により使用されるナノ粒子は、より具体的には、100ミリ秒未満、または10ミリ秒未満、あるいは1ミリ秒未満の発光寿命を有する。
【0125】
有利なことに、本発明により使用されるナノ粒子は、5μs以上、特に10μs以上、特に20μs以上、または50μs以上の発光寿命を有する。
【0126】
本発明の粒子の発光寿命(Y1-xEuVO粒子の場合、ナノ秒のオーダーの通常のフルオロフォアの寿命と比較して、数百μs)を利用して、複雑でなく安価な材料を使用した、十分な時間分解能(10μsのオーダー、または100μsのオーダー)で時間分解検出、特に発光の遅延検出を行うことが可能である。例えば、励起に使用できるLED(発光ダイオード)の電流を変調し、ストリップの画像を1枚だけでなく一連の画像を記録し、短い寿命(10ns以下のオーダー)の残留寄生発光を除去するように、シグナルを時間の関数として分析することが可能である。
【0127】
変形実施形態によれば、本発明により使用されるフォトルミネッセンスナノ粒子は、以下の式(II)のものであってもよく、
1-xLnVO4(1-y)(PO(II)
式中、
Aは、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、およびそれらの混合物から選択され、特にAは、Yを表し、
Lnは、ユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、ネオジム(Nd)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、ツリウム(Tm)、プラセオジム(Pr)、ホルミウム(Ho)、およびそれらの混合物から選択され、好ましくはLnは、Euを表し、
0<x<1、特に0.2≦x≦0.6、より具体的にはxの値は0.4であり、および
0≦y<1、特にyの値は0であり、
当該方法は、一光子吸収後、ナノ粒子からの100ミリ秒より短い寿命を有するルミネッセンスの検出を使用している。
【0128】
特定の実施形態によれば、本発明により使用されるナノ粒子は、yの値が0である前述の式(II)に対応する。言い換えれば、ナノ粒子は、式A1-xLnVO(III)のものであってもよく、式中、A、Lnおよびxは、上記で定義された通りである。
【0129】
前述の式(II)または(III)において、Aは、より具体的には、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)およびそれらの混合物から選択されてもよい。特に、Aは、YまたはGdを表す。特定の実施形態によれば、前述の式(II)または(III)において、Aは、イットリウム(Y)を表す。
【0130】
前述の式(II)または(III)において、Lnは、より具体的には、ユウロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ネオジム(Nd)およびそれらの混合物から選択されてもよい。特に、Lnは、Eu、Dy、Smおよびそれらの混合物から選択される。別の特定の実施形態によれば、前述の式(II)または(III)において、Lnは、Euを表す。
【0131】
したがって、変形実施形態によれば、本発明によるルミネッセンスプローブとして使用されるナノ粒子は、式Y1-xEuVO(IV)のものであり、式中、0<x<1、特に0.2≦x≦0.6、より具体的にはxの値は0.4である。
【0132】
変形実施形態によれば、対応する電子遷移が許可される場合、希土類イオンの直接吸収を利用することが可能である。これらの場合、直接吸収は、一般的には酸化物マトリックスの吸収よりも弱いままであっても、対応する電子遷移が禁止されている場合よりも強くなる。この場合が適用される希土類イオンの2つの例は、Eu2+およびCe3+イオンである。これらのイオンは、例えば、以下の無機ナノ粒子の構成要素、Ce3+の場合はLaPOまたはYAG、Eu2+の場合はSrとして存在することができる。
【0133】
本発明により使用されるフォトルミネッセンスナノ粒子は、5nm以上で厳密に1μm未満、特に10nm~500nm、好ましくは20nm~200nm、特に20nm~100nmの平均サイズを有することができる。
【0134】
したがって、本発明により使用されるフォトルミネッセンスナノ粒子は、多数の希土類イオンを含むのに十分な体積を有し、したがって、低濃度の分析物の検出を可能にするのに十分な発光シグナルを放出する。
【0135】
好ましくは、本発明のナノ粒子は、少なくとも10個の希土類イオン、特に1000~6000000個の希土類イオン、特に5000~500000個、より具体的には20000~1000000個の希土類イオンを含む。
【0136】
例として、直径30nmのY0.6Eu0.4VO球状ナノ粒子には、70000個のEu3+イオンが含まれている(参考文献Casanovaら[37]によるイオン数の計算)。
【0137】
平均サイズは、透過型電子顕微鏡で測定することができる。透過型電子顕微鏡からの画像は、ナノ粒子の形状(球形、楕円体)を決定し、ナノ粒子の平均寸法を推定することを可能にする。全体が球形の粒子の場合、平均サイズは、粒子の平均直径を意味する。楕円形の粒子の場合、平均サイズは、楕円体と同じ体積の球の平均サイズを意味する。一般に、2D投影である透過画像に表示されない楕円体の3番目の軸は、最小サイズの軸と長さが等しいと想定される。
【0138】
特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、全体的に細長い(扁長な)楕円形である。
【0139】
それらは、より具体的には、aで示される20nm~60nmの長さの主軸、およびbで示される10nm~30nmの長さの短軸を有する。特に、本発明のナノ粒子は、長軸の長さの平均値aが40nmであり、短軸の長さの平均値bが20nmであってもよい。
【0140】
有利なことに、本発明により使用されるナノ粒子は、多分散度が低い。動的光散乱の測定から推定できる多分散度指数は、厳密に0.2未満であることが好ましい。これが粒子の合成または官能化の終了時に当てはまらない場合、遠心分離または当業者に知られている他の任意の技術によりサイズを選別することによって、より低い多分散度を得ることができる。
【0141】
特定の実施形態によれば、希土類イオン、例えばユウロピウム(Eu)によるドーピングのレベルの積に、ナノ粒子による発光の量子効率を掛けたものが最大化される。
【0142】
Lnイオンによるドーピングxのレベルと量子効率の積は、Lnイオンによる強力なドーピングを使用して、量子効率を低下させることなく、特に吸光の濃度につながるドーピングイオン間の移動プロセスを制限することによって、例えば0.2~0.6、特に0.4で最大化できる。特に、高い量子効率を維持するために、ナノ粒子は不完全な結晶化度を有している。実際、優れた結晶化度は、特に、高レベルのドーピングの場合のようにドーピングイオンが互いに接近している場合に、ドーピングイオン間の移動プロセスを促進し、その結果、表面および溶媒の存在に連動した非放射プロセスによるイオンの脱励起プロセスを促進する。特に、室温で、または少なくとも600℃を超えない温度で合成する方法は、これらのナノ粒子に必要な不完全な結晶化度にとって好ましい。
【0143】
ナノ粒子の結晶化度は、少なくとも1つの特定の結晶学的方向のX線回折パターンによって測定されるコヒーレンス長が、透過型電子顕微鏡画像で決定したその方向の粒子サイズの80%未満である場合、「不完全」であると考えられる。多結晶化度、欠陥、多孔性など、様々なタイプの不完全な結晶化度が考慮される場合がある。
【0144】
有利なことに、本発明により使用されるナノ粒子は、それぞれ、発光が停止する前に、10個を超える光子、特に10個を超える、または1010個を超える光子を放出することができる。非常に多くの場合、特にEuをドープしたYVOまたはGdVO粒子の場合、連続照明下では発光の停止(吸光)は観察されない。言い換えれば、有利なことに、本発明によるナノ粒子は、不可逆的な光分解またはフォトブリーチングの現象を示さない。
【0145】
有利なことに、本発明により使用されるナノ粒子は、溶液中で良好なコロイド安定性を示す。
【0146】
溶液中のナノ粒子の安定性は、毛細管現象試験デバイスのプローブとしてのこれらの粒子の使用に基づく検出結果の再現性に関する要件を満たすために特に決定的である。
【0147】
特に、ナノ粒子の良好なコロイド安定性は、毛細管現象試験の多孔質支持体における液体サンプルの移動中に、該当する場合、分析される物質に結合したルミネッセンスナノ粒子の移動を、検出ゾーンまで、場合によりデバイスの対照ゾーンまで、確実に行うことを可能にする。
【0148】
「ゼータ電位」は、懸濁液の安定性を表す要素の1つである。例えば、Malvern社のZetasizer Nano ZSタイプの機器を使用して直接測定することができる。光学デバイスを使用して、この機器は、粒子に印加された電界の関数として粒子の変位速度を測定する。
【0149】
特に、本発明のナノ粒子は、有利には、合成の終了時に、pH≧5の水性媒体中で、-28mV以下である、ζで示されるゼータ電位を有する。特に、ナノ粒子は、pH≧6.5、特にpH≧7、特にpH≧8の水性媒体中で、-30mV以下のゼータ電位を有する。
【0150】
ζで示される「ゼータ電位」は、溶液の大部分と粒子のせん断面との間に存在する電位差として定義することができる。ゼータ電位は、懸濁液の安定性を表している。せん断面(または流体力学的半径)は、粒子が溶液中で移動する際に、溶媒が粒子とともに移動する、粒子の周りの仮想球に対応する。ゼータ電位は、当業者に知られている方法によって、例えば、電界におけるその可溶化層を有する粒子の変位によって決定することができる。
【0151】
このナノ粒子の負のゼータ電位が、pH≧5で-28mV以下であることにより、互いに関連した水溶液中のナノ粒子の静電反発現象を増加させ、凝集現象を抑制することができる。実際、高い絶対値のゼータ電位、特に28mVを超える高い絶対値のゼータ電位は、一般に、低いイオン強度を有する媒体中で凝集効果を抑制できることが、当業者に経験的に知られている。
【0152】
ゼータ電位の測定は、粒子の水性懸濁液の精製後に行われ、したがって、イオン伝導度が厳密に100μS.cm-1未満の水性懸濁液に対して行われることを理解されたい。懸濁液のイオン伝導度は、当該懸濁液中に存在するイオンのレベルを推定することを可能にし、任意の既知の伝導率計を用いて、室温(25℃)で測定することができる。
【0153】
特定の実施形態によれば、本発明により使用されるルミネッセンスナノ粒子は、1つまたは複数の表面分子を有することができ、高いゼータ電位のために、それらを懸濁状態に保つことを促進する。
【0154】
特定の実施形態によれば、本発明により使用されるナノ粒子は、表面上にテトラアルキルアンモニウムカチオンを有してもよい。この種のナノ粒子、およびそれらの合成方法は、例えば、仏国特許第1754416号の下で提出された出願に記載されている。
【0155】
一例として、本発明により使用されるフォトルミネッセンスナノ粒子は、式Y0.6Eu0.4VOのものであってもよく、その表面上に、テトラメチルアンモニウムカチオンが場合により固定化される。
【0156】
本発明により使用されるナノ粒子、特に前述の式(II)のナノ粒子は、主に結晶性および多結晶性であり、特に、X線回折によって推定される微結晶の平均サイズが3nm~40nmである。
【0157】
ナノ粒子の調製
本発明により使用される希土類イオンをドープした結晶性マトリックスを有するフォトルミネッセンスナノ粒子は、当業者に知られている任意の従来の方法によって調製することができる。
【0158】
特に、それらは、コロイド合成経路によって調製することができる。水性コロイド合成の方法は、当業者によく知られている(Bouziguesら、ACS Nano 5、8488-8505(2011)[49])。水性媒体中でのこれらの合成には、溶媒移動の後続のステップを必要としないという利点がある。
【0159】
一例として、式A1-xLnVO4(1-y)(PO(II)のナノ粒子は、水性媒体中で、当該元素AおよびLnの前駆体から出発し、オルトバナジン酸イオン(VO 3-)および場合によりリン酸イオン(PO 3-)の前駆体から出発して、共沈反応によって形成することができる。
【0160】
元素AおよびLnの前駆体は、従来、当該元素の塩、例えば、硝酸塩、塩化物、過塩素酸塩または酢酸塩、特に硝酸塩の形態であってもよい。元素AおよびLnの前駆体、ならびにそれらの量は、当然、ナノ粒子の所望の性質を考慮して適切な方法で選択される。
【0161】
例えば、式Y1-xEuVO(IV)のナノ粒子の合成は、イットリウムおよびユウロピウムの前駆体化合物として、硝酸イットリウム(Y(NO)および硝酸ユウロピウム(Eu(NO)を使用することができる。
【0162】
本発明により使用されるフォトルミネッセンスナノ粒子のための、この種のコロイド経路による合成の方法は、例えば、仏国特許第1754416号の下で出願された出願に記載されている。有利なことに、仏国特許第1754416号に記載されているように、共沈反応は、有効量のテトラアルキルアンモニウムカチオンの存在下で行うことができる。
【0163】
本発明によるルミネッセンスナノ粒子の合成、特に数十ナノメートルを超えるより大きなサイズの合成は、当業者に知られている他の任意のアプローチによって、例えば、粉砕によって達成することができる。
【0164】
ルミネッセンスナノ粒子の表面官能化
ナノ粒子の結合試薬への結合
ラテラルフローアッセイデバイスで従来使用されているプローブと同様に、本発明により使用されるルミネッセンスナノ粒子は、分析される物質に特異的な少なくとも1つの結合試薬に結合される。
【0165】
ルミネッセンスプローブに結合された結合試薬の機能、およびその結果としての性質は、以下に詳述するように、いわゆる「サンドイッチ」アッセイであるか「競合」アッセイであるかに応じて、使用される毛細管現象試験、特にラテラルフローアッセイの性質に応じて異なる。
【0166】
したがって、「結合試薬」とは、「サンドイッチ」タイプのアッセイの文脈で、同定が必要な目的の生物学的または化学的物質に、あるいは「競合」アッセイの文脈で同定が必要な目的の生物学的または化学的物質と競合する検出ゾーンの捕捉試薬に特異的に結合することができる任意の化学的、生化学的または生物学的化合物を意味する。以下に詳述するように、結合試薬はまた、ラテラルフローアッセイのためにデバイスの対照ゾーンに固定化された第2の捕捉試薬に特異的に結合することができる。
【0167】
「結合(bind)」または「結合(binding)」は、任意の強い結合、例えば共有結合、または好ましくは、例えば抗原/抗体タイプの弱い結合の集合を意味する。
【0168】
当然、本発明によるプローブとして使用されるルミネッセンスナノ粒子に結合された結合試薬の性質は、サンプル中で分析される物質を考慮して選択される。
【0169】
有利なことに、本発明により使用されるフォトルミネッセンスナノ粒子は、多種多様な生物学的標的に完全に適しており、特定の結果は、ナノ粒子の表面にグラフトされた1または複数の結合試薬の性質に依存する。
【0170】
結合試薬は、より具体的には、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、抗体フラグメント、ナノボディ、抗原、オリゴヌクレオチド、ペプチド、ホルモン、リガンド、サイトカイン、ペプチド模倣物、タンパク質、炭水化物、化学修飾タンパク質、化学修飾核酸、既知の細胞表面タンパク質を標的とする化学修飾炭水化物、アプタマー、タンパク質とDNA/RNAの集合体、またはHaloTagタイプの標識に使用されるクロロアルカンから選択されてもよい。SNAP-TagまたはCLIP-Tagタイプのアプローチも使用することができる。
【0171】
特定の実施形態によれば、結合試薬は、抗体または抗体フラグメント、ペプチド、化学修飾核酸またはアプタマーであり、特に抗体である。
【0172】
適切な抗体フラグメントは、単純な可変ドメインFv、scFv、Fab、(Fab’)などの免疫グロブリンの少なくとも1つの可変ドメインおよび他のタンパク質分解フラグメントまたは「ナノボディ」(ラクダ科の抗体から得られるVHフラグメントまたは軟骨魚類の抗体から得られるVNARなどの単一ドメインを有する抗体)を含む。
【0173】
本発明による「抗体」という用語は、キメラ抗体、ヒトまたはヒト化抗体、組換えおよび修飾抗体、コンジュゲート抗体、およびそれらのフラグメントを含む。
【0174】
結合試薬はまた、細胞表面受容体に結合することが知られている分子に由来してもよい。例えば、標的化フラグメントは、低密度リポタンパク質、トランスフェリン、EGF、インスリン、PDGF、線維素溶解酵素、抗HER2、抗HER3、抗HER4、アネキシン、インターロイキン、インターフェロン、エリスロポエチンまたはコロニー刺激因子に由来してもよい。
【0175】
粒子の結合試薬への結合
1つまたは複数の結合試薬に結合された粒子を適切に調製するために、結合/グラフトの適切な方法を使用することは、当業者次第である。ルミネッセンスナノ粒子の表面官能化に使用される結合試薬の量は、粒子の量を考慮して調整される。
【0176】
典型的には、各ナノ粒子がいくつかの結合試薬、好ましくは少なくとも5個の結合試薬、より好ましくは少なくとも10個の結合試薬に結合されることが望ましい。
【0177】
結合試薬は、ナノ粒子に直接、またはスペーサー(「リンカー」とも呼ばれる)を介してグラフトすることができる。
【0178】
粒子を生体分子に結合する(グラフト化とも呼ばれる)方法は、当業者にはよく知られている。一般に、共有結合、表面錯体形成、静電相互作用、カプセル化、または吸着による結合である。
【0179】
共有結合による結合の場合を含む特定の場合において、粒子は、結合試薬によって運ばれる別の化学基と反応して共有結合を形成することができる化学基で事前に官能化されてもよい。
【0180】
ナノ粒子の表面に存在する可能性のある化学基の例として、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基、およびエポキシ基に言及することができる。
【0181】
アミノ基は、アミノトリエトキシシラン(APTES)などのアミノオルガノシランなどの分子によって供給することができる。APTESの利点は、共有結合によってナノ粒子の周りにカプセルを形成することである。したがって、APTESによって供給されるアミンは長期間にわたって非常に安定している。アミノ基は、無水コハク酸との反応によってカルボキシル基に変換することができる。
【0182】
カルボキシル基は、クエン酸またはポリアクリル酸(PAA)などの分子によって供給され得る。
【0183】
カルボキシル基は、当技術分野で知られている任意の技術によって、結合試薬がタンパク質または抗体である場合、特に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と反応させ、次いで、ポリペプチドの表面上のアミン官能基と反応させ、共有結合性のアミド結合を形成することによって活性化される。
【0184】
APTESによるナノ粒子の官能化は、ナノ粒子をシリカの層でコーティングした後に有利に行うことができる。
【0185】
他の場合には、粒子は、結合試薬へのその後の結合を可能にすることができる分子に事前に結合されていてもよい。
【0186】
例えば、粒子は、ストレプトアビジンに結合することができ、これはビオチン化された標的剤への結合を可能にする。
【0187】
一例として、仏国特許第1754416号は、ストレプトアビジンに結合されたナノ粒子をビオチン化抗体に結合することによる、ナノ粒子のビオチン化抗体への結合を示している。また、結合は、上記のようにAPTESで官能化されたナノ粒子上の抗体を結合することによって直接実行することもできる(アミノ基のカルボキシル基への変換、カルボキシル基の活性化、および抗体表面のアミノ基との直接反応)。
【0188】
ナノ粒子の表面での結合試薬の結合はまた、当業者によって知られている他の任意の方法によって達成することができる。
【0189】
また、結合は、ナノ粒子をシリカの層でコーティングし、続いて、アミン官能基が2つのNHS官能基を含む二官能性スペーサー剤と反応するのに役立つAPTESでコーティングする反応によってもたらされ得る。次に、二官能性スペーサー剤に結合したナノ粒子は、タンパク質(抗体、ストレプトアビジンなど)の表面のアミン官能基と反応することができる。このタイプの結合方法は、特にCasanovaら([38])およびGiaumeら([39])の研究に記載される。
【0190】
移動剤
また、本発明のルミネッセンスナノ粒子は、その表面の電荷および性質、形状およびサイズに応じて、毛細管現象試験デバイス内、例えばニトロセルロース膜内でのルミネッセンスナノ粒子の移動を容易にする、以下「移動剤」と呼ばれる薬剤でコーティングすることができる。
【0191】
当業者は、1つまたは複数の移動剤でナノ粒子を適切に官能化することができる。特に、この移動剤は、上記のようにナノ粒子の結合試薬への結合、特に、結合試薬が、毛細管現象試験において、分析物に特異的に結合するか、または分析物と競合する捕捉試薬に結合する能力を妨害してはならないことを理解されたい。
【0192】
移動剤は、特に、ステルス剤または不動態化剤から選択されてもよい。
【0193】
そのような薬剤は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリ(エチレンオキシド)(PEO)の鎖、特にシラン化された鎖、PEO-ポリ(プロピレンオキシド)-PEO、ポリ(L-リジン)鎖でグラフト化されたポリ(エチレンオキシド)の鎖(「ポリ(L-リジン)-グラフト化-ポリ(エチレングリコール)」(PLL-g-PEG))、ポリ(L-リジン)でグラフト化デキストランの鎖、ポリ(p-キシリレン)(パリレン)、ポロキサマー(中央部分がプロピレンオキシドブロックであり、末端がポリエチレンオキシドブロックであるトリブロックコポリマー、例えば、BASF社によってPluronic(登録商標)の名前で販売されているもの)ポロキサミン、ポリソルバートおよび多糖類(例えば、キトサン、デキストラン、ヒアルロン酸およびヘパリン)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリラート(HPMA)コポリマーおよびポリアミノ酸、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤および両性イオン性界面活性剤であってもよい。
【0194】
好ましくは、移動剤は、シラン化PEG鎖、ポロキサマーおよびポリ乳酸(PLA)から選択される。これらの薬剤は、当業者に知られている任意のアプローチによってナノ粒子の表面に沈着させることができる。例えば、薬剤は、ナノ粒子上に吸着され得るか、またはナノ粒子上に共有結合的に固定され得る。
【0195】
ナノ粒子と1つまたは複数の移動剤との結合は、例えば、結合試薬のアミノ基の反応によって結合試薬のナノ粒子への結合が起こる際に、アミノ基を有する移動剤を選択することによって、結合試薬の結合と同時に行うことができる。この場合、移動剤の量は、結合試薬の量に対して調整されるべきであり、その結果、ナノ粒子は、その表面上に十分な数の移動剤および結合試薬の両方を含む。
【0196】
毛細管現象試験デバイス
上記のように、上記で定義されたフォトルミネッセンスナノ粒子は、本発明によれば、毛細管現象試験、例えば「ラテラルフロー」アッセイにおけるプローブとして使用される。
【0197】
「ラテラルフロー」という用語は、すべての溶解または分散した化合物が毛細管現象によって、好ましくは同等の速度および規則的な流量で、拡散手段を介して横方向に輸送される液体の流れを指す。
【0198】
本発明の方法は、例えば、金ナノ粒子タイプのプローブで知られている任意の従来の毛細管現象試験デバイスを用いて行うことができる。毛細管現象試験デバイスは、特に任意の構成を想定してもよく、したがって、線形、放射状、T字型、L字型、十字型などの構成を有してもよい。
【0199】
以下、より具体的には、移動ストリップタイプのラテラルフローアッセイ用のデバイスに関連する添付の図1から3および5を参照する。
【0200】
さらに、本発明により使用されるデバイスは、以下に詳述するように、「サンドイッチ」タイプのアッセイ、あるいは、「競合」アッセイに適合させることができる。
【0201】
典型的には、毛細管現象試験デバイス、特に図1に示される本発明によるラテラルフローアッセイ用のデバイスは、基準方向(X)に毛細管現象を行うための手段、特に多孔質固体支持体(10)を含み、
-液体サンプル、および場合により希釈剤を沈着させるためのゾーン(1)、
-沈着ゾーンの下流に配置され、「標識ゾーン」と呼ばれ、分析される物質に特異的に結合する少なくとも1つの試薬に結合された本発明によるフォトルミネッセンス無機ナノ粒子(プローブ)が担持されたゾーン(2)、
-標識ゾーン(2)の下流に配置され、「検出ゾーン」とも呼ばれ、分析される物質に特異的な少なくとも1つの捕捉試薬が固定化される、反応ゾーン(3)、
-検出ゾーン(3)の下流に位置し、分析物に特異的に結合する試薬に特異的な少なくとも1つの第2の捕捉試薬が固定化される、対照ゾーン(4)を含む。
【0202】
「サンドイッチ」アッセイでは、検出ゾーンから分析物を特異的に捕捉する試薬およびプローブに結合された結合試薬は、それぞれ分析物に特異的に結合するように選択され、例えば、分析物の2つの異なるエピトープ部位で結合するように選択される。
【0203】
「競合」アッセイでは、プローブに結合された結合試薬は、分析物と同一または類似しており、検出ゾーンの捕捉試薬に結合して、分析物と競合する。
【0204】
移動対照ゾーン(4)は、サンプルの少なくとも一部がアッセイデバイスの多孔質固体支持体を適切に通過したことをユーザに示す。
【0205】
ラテラルフローアッセイ用のデバイスは、一般的に、反応ゾーンおよび対照ゾーンの下流に配置された吸収パッド(5)をさらに含み、その一端は多孔質支持体と流体接触している。吸収パッドは、毛細管現象による移動を維持し、余分な液体サンプルを受け取る。
【0206】
「上流」および「下流」という用語は、アッセイにおける毛細管流の方向(X)を指し、この移動は、沈着ゾーン(1)(上流の機能端)から検出ゾーン(3)まで行われ、存在する場合、吸収パッド(5)のレベル(下流の機能端)で終了する。
【0207】
ラテラルフローアッセイ用のデバイスの多孔質固体支持体の異なるゾーンのそれぞれは、隣接する1つまたは複数のゾーンと流体連絡している。
【0208】
2つの要素間の「流体接触」は、毛細管現象試験用のデバイスで通常行われているように、第1の要素から第2の要素への液体の移動を可能にするために2つの要素が物理的に接触していることを示すことを目的としている。好ましくは、この接触は、図1に模式的に示されるように、1つの要素を他の要素とオーバーラップさせることによって提供される。
【0209】
「毛細管現象のための手段」は、より具体的には、単純な毛細管現象によって液体の移動を可能にする多孔質固体支持体(10)を意味する。この支持体の多孔性は、液体または湿潤状態でのサンプルおよび/または試薬の毛細管流(または横方向の移動)を可能にする。多孔質支持体は、既知のラテラルフローアッセイデバイスですでに使用されている支持体から選択することができる。例として、多孔質支持体は、ニトロセルロース、ポリエステル、ガラス繊維、セルロース繊維、ポリエーテルスルホン(PES)、セルロースエステル、PVDFなどからなってもよい。
【0210】
毛細管現象の手段は、1つまたは複数の別個の部分からなり得、支持体の異なる部分は、異なる材料からなり得る。毛細管現象の手段が異なる部品または異なる材料からなる場合、これらの要素は、毛細管現象の手段における毛細管流の連続性を可能にするように配置される。
【0211】
典型的には、毛細管現象の手段は、毛細管現象の方向(X)に伸長された多孔質固体支持体からなる。
【0212】
有利なことに、それは、バンドまたはストリップの形態の多孔質支持体(10)である。特に、それは、いくつかの重ねられた、または重なり合った膜からなる免疫クロマトグラフィーストリップであってもよい。
【0213】
特定の実施形態によれば、多孔質支持体はニトロセルロース膜である。ニトロセルロース膜の例として、Millipore(商標)HF240、Millipore(商標)HF180、Millipore(商標)HF135、Millipore(商標)HF120、Millipore(商標)HF090、Millipore(商標)HF075、Sartorius(商標)CN140、Sartorius(商標)CN150、FF120 HP膜(GE)、FF80HP膜(GE)、AE膜、(GE)、イムノポア膜(GE)に言及することができる。
【0214】
ラテラルフローアッセイ用のデバイスの多孔質固体支持体のサイズは、様々であってもよい。例えば、それは、長さが30mm~200mm、好ましくは60mm~100mmであり、幅が2mm~10mm、好ましくは4mm~5mmのバンドであってもよい。
【0215】
本発明によるラテラルフローアッセイ用のデバイスは、例えば、剛性支持体(6)に固定されたクロマトグラフィーストリップからなってもよい。
【0216】
剛性支持体(6)は、板、プラスチックコーティング板、またはより好ましくはプラスチックなどの様々な材料からなってもよい。好ましくは、剛性支持体はポリスチレンで作られている。
【0217】
有利なことに、特定の材料は、毛細管現象のための手段の各ゾーンに対応する。
【0218】
サンプルの沈着ゾーン(1)(英語の用語では「サンプルパッド」という名前でも知られている)は、吸収性の多孔質材料から有利に形成することができる。実際、毛細管現象のための手段の沈着ゾーンは、液体サンプルを受け取ることを意図しており、例えば、尿の流れまたは血液サンプルと接触させることを意図している。この材料は、当業者に知られ、従来のラテラルフローアッセイですでに使用されている適切な吸収剤から選択される。
【0219】
上記の無機フォトルミネッセンスナノ粒子(7)は、図2および図3に示すように、毛細管現象の手段の標識ゾーン(2)(英語の用語では「コンジュゲートパッド」という名前でも知られている)のレベルで使用される。
【0220】
上記のように、これらのナノ粒子(7)は、分析される物質に特異的に結合する少なくとも1つの試薬に結合される。
【0221】
「サンドイッチ」アッセイの文脈では、結合試薬は、ラテラルフローアッセイ中に、分析物に特異的に結合することができる。結合試薬は、例えば、分析物の特異的抗体であってもよい。
【0222】
従来の「競合」アッセイの文脈では、結合試薬は、分析物と競合して、検出ゾーン(3)の捕捉試薬に特異的に結合することができる。したがって、結合試薬は、例えば、分析物自体または適切な類似体であってもよい。「適切な類似体」とは、分析物を特異的に捕捉する試薬に特異的に結合する類似体を意味する。
【0223】
ルミネッセンスプローブに結合された結合試薬はまた、対照ゾーンに固定化された第2の捕捉試薬(9)に特異的に結合することができる。
【0224】
好ましくは、上記のように、ルミネッセンスナノ粒子は、それらの表面上に、ステルス剤または不動態化剤、例えばポリエチレングリコールなどの、ラテラルフローアッセイのためのデバイス内でのそれらの移動を容易にすることを意図した少なくとも1つの薬剤をさらに有する。したがって、これらの薬剤は、該当する場合、結合試薬を介して分析物に結合したナノ粒子の、多孔質支持体、例えばニトロセルロース膜内での、検出ゾーン(3)までの移動を促進する。
【0225】
分析物に特異的に結合する少なくとも1つの試薬に結合した無機フォトルミネッセンスナノ粒子は、毛細管現象のための手段で乾燥状態で固定化されるが、湿ったときに毛細管現象によって自由に移動する。
【0226】
したがって、アッセイ中に、毛細管現象によって毛細管現象の手段を介して移動するサンプルは、分析される物質に特異的に結合する試薬に結合されたナノ粒子を同伴する。
【0227】
分析される物質に特異的な第1の捕捉試薬は、本発明によるラテラルフローアッセイ用のデバイスの毛細管現象の手段の検出ゾーン(3)(英語の用語では検出パッド」という名前でも知られている)のレベルで固定化される。それは、分析物に特異的に結合するその能力のために適切な方法で選択される。
【0228】
「サンドイッチ」アッセイ(図2)の文脈では、検出ゾーンの捕捉試薬は、フォトルミネッセンスナノ粒子に結合するための上記の結合試薬と同様の性質のものであってもよい。それは、例えば、分析される物質に対して強い親和性を有する抗体(8)であってもよい。
【0229】
「競合的」アッセイの文脈では、捕捉試薬はまた、ルミネッセンスプローブに結合された結合試薬に結合することができる(例えば、分析物と同一または類似)。
【0230】
分析物(11)および捕捉試薬(8)は、典型的には、リガンド/受容体、抗原/抗体、DNA/RNA、DNA/DNAまたはDNA/タンパク質の対を形成する。
【0231】
したがって、分析物が抗原またはハプテンである場合、捕捉試薬は、例えば、分析物の特異的抗体であり、または分析物が抗体である場合、捕捉試薬は、抗体によって認識される抗原または分析物を特異的に認識する抗体である。分析物が核酸である場合、捕捉試薬は、例えば、相補的DNAプローブである。
【0232】
捕捉試薬は、湿った際に移動しないように、検出ゾーンのレベルで沈着および固定化される。この固定化は、当業者によって知られている技術によって、例えば、ニトロセルロースまたは電荷修飾ナイロンの膜の場合の静電相互作用によって、またはポリ(フッ化ビニリデン)またはポリエーテルスルホン(PES)の膜の場合の疎水性相互作用によって行うことができる。
【0233】
特定の実施形態によれば、検出ゾーン(3)は、毛細管現象のための手段上で、空間的に分離され、例えば、バンド(1つまたは複数のテストライン「T」)の形態で、1つまたは複数の捕捉試薬で官能化された、1つまたは複数の領域を含んでもよい。複数の「テストライン」の使用は、複数の検出のためのアッセイの使用、言い換えると、まったく同一のサンプル内の複数の物質を同時に検出するためのアッセイの使用の文脈で特に興味深いものである。
【0234】
毛細管現象試験デバイスは、典型的には、アッセイの有効性を確認するために使用される、検出ゾーン(3)の下流に位置する対照ゾーン(4)を含み、このゾーン内に、プローブに結合された結合試薬に特異的な少なくとも1つの第2の捕捉剤(9)が固定化されている。
【0235】
この第2の捕捉剤は、プローブに結合した結合試薬に特異的に結合するその能力のために適切に選択される。それは、例えば、「サンドイッチ」タイプのアッセイの文脈において、分析物に特異的に結合する試薬として使用される二次抗体または抗体の特定の抗原であってもよい。
【0236】
検出ゾーン(3)の第1の捕捉試薬と同様に、この第2の捕捉試薬は、湿った際に動かないように、対照ゾーン(4)のレベルで固定化される。
【0237】
毛細管現象のための手段は、場合により、プレートまたはカセットなどの、一般にプラスチック製の固体支持体(6)に固定することができる。
【0238】
本発明による毛細管現象試験デバイスは、特に、テストストリップが配置されるケース(12)を含んでもよく、当該ケースは、図8に模式的に示されるように、提供される特定の開口部のレベルを除いて、閉じられることが好ましい。特に、開口部(14)は、サンプルの沈着のためにゾーンの上に提供される。読み取りウィンドウ(13)を構成する別の開口部は、例えば、検出ゾーン(3)および任意の対照ゾーン(4)のレベルで提供することができる。あるいは、検出ゾーンおよび対照ゾーンをそれぞれ観察するために、2つのウィンドウを提供することができる。
【0239】
あるいは、これらのゾーンを見えるようにするために、ケースは透明であるか、または1つまたは複数の透明な部品を備えていてもよい。
【0240】
当然、従来の毛細管現象試験デバイスで知られているデバイスの様々な構成を使用することができる。例えば、テストストリップを含むケースは、上面のレベルで、少なくとも1つの中空レリーフを含んでもよく、その基部は、ストリップの表面上にあり、液体サンプルを沈着するためのウェルまたはスペースを形成する。
【0241】
本発明の方法による毛細管現象試験の手順は、より具体的には、
(i)毛細管現象試験デバイスの沈着ゾーン(1)のレベルで、分析される液体サンプル、および場合により希釈剤を適用すること、
(ii)フォトルミネッセンスナノ粒子によって生成されたルミネッセンスが反応ゾーン(3)で検出されるまで、および/またはルミネッセンスが移動対照ゾーン(4)で検出されるまで、デバイスをインキュベートすること、
(iii)結果を読んで解釈することを含む。
【0242】
分析される液体サンプルは、デバイスの毛細管現象のための手段の沈着ゾーン(1)に直接沈着されてもよい。
【0243】
「液体サンプル」とは、分析される物質が溶液または懸濁液になっているサンプルを意味する。この液体サンプルは、特に任意の生物学的流体または体液であってもよい。液体サンプルはまた、生物学的流体または体液から得られてもよい。また、固体サンプルからの液体抽出物であってもよい。
【0244】
典型的には、液体サンプルは、尿、全血、血漿、血清、希釈された糞便である。
【0245】
特定の実施形態によれば、特に、液体サンプルが血漿、血清、全血、鼻汁塗抹標本または腟塗抹標本または喀痰である場合、分析されるサンプルとともに希釈剤が使用される。希釈剤は、デバイスの沈着ゾーンのレベルで沈着される。
【0246】
サンプルを沈着する前に、希釈剤は、分析されるサンプルと混合することができる。あるいは、希釈剤は、サンプルの前または後に沈着することができる。この希釈剤は、多孔質支持体内を移動し、サンプル、および結合試薬に結合したプローブを同伴する。典型的には、この希釈剤は、緩衝生理食塩溶液を含む。希釈剤はまた、界面活性剤または反応に必要な他の任意の成分を含むことができる。
【0247】
次に、毛細管現象試験デバイスは、沈着ゾーンから対照ゾーンへの毛細管現象による液体サンプルの移動に十分な時間インキュベートされる。
【0248】
より具体的には、図2に模式的に示されている「サンドイッチ」タイプのラテラルフローアッセイは、以下のように進行する。
【0249】
多孔質支持体が分析物(11)を含む液体サンプルと接触すると、後者は、プローブ(7)に結合した分析物を特異的に結合する試薬が配置される標識ゾーンまで、この支持体の毛細管現象によって移動する。したがって、分析物(11)は、結合試薬によってルミネッセンスプローブ(7)に結合する。
【0250】
分析される物質が存在する場合、後者は、毛細管現象試験デバイスの検出ゾーン(3)のレベルに固定された第1の捕捉試薬(8)によって、検出ゾーンのレベルに固定化される。したがって、これにより、検出ゾーン(3)のレベルでルミネッセンスプローブが固定化される。
【0251】
したがって、サンプル中の分析される物質の有無は、検出ゾーン(3)のレベルでルミネッセンスプローブを検出することによって測定される。より具体的には、検出ゾーンのレベルで検出されるルミネッセンスは、サンプル中の分析物の濃度とともに、特に濃度に比例して増加する。
【0252】
過剰なプローブ、言い換えれば、分析物と反応していない結合試薬に結合したナノ粒子は、対照ゾーンに移動する。この対照ゾーンでは、結合試薬が第2の捕捉剤(9)に結合し、対照ゾーン(4)のレベルで過剰なプローブを固定化することにつながる。したがって、ユーザは、デバイス内のサンプルと試薬の移動を検証できるようにするポジティブコントロールを自由に使用できるため、試験の適切な動作を検証することができる。
【0253】
本発明の方法の別の変形によれば、使用されるアッセイは、「競合アッセイ」タイプのものである。競合アッセイの文脈では、図3-aに模式的に示されているように、サンプル中に分析物が存在しない場合、ルミネッセンスプローブは、その結合試薬が検出ゾーンの捕捉試薬に結合することにより、検出ゾーンのレベルで固定化される。しかし、分析物が存在する場合、後者は、ルミネッセンスプローブの結合試薬と競合して、検出ゾーンの捕捉試薬に固定される。
【0254】
したがって、競合アッセイの文脈では、検出ゾーンのレベルで検出されるルミネッセンスは、サンプル中の分析物の濃度とともに、特に濃度に反比例して減少する。
【0255】
「競合」タイプのアッセイのさらに別の変形によれば、図3-bに示すように、分析物は、検出ゾーンの捕捉部位のレベルですでに固定化されているが、標識ゾーンのルミネッセンスナノ粒子に結合した結合試薬は、「サンドイッチ」アッセイの場合のように、分析物に特異的に結合することができる。
【0256】
サンプルに分析物が含まれている場合、後者は、サンドイッチアッセイの場合のように、結合試薬を介してルミネッセンスナノ粒子に固定されるため、検出ゾーンのレベルで結合することはできない。しかし、分析物と反応しなかった結合試薬に結合されたプローブは、検出ゾーンの捕捉試薬のレベルで固定化された分析物を介して検出ゾーンに結合することができる。この場合も、検出ゾーンのレベルで検出されるルミネッセンスシグナルは、サンプル中の分析物の濃度とともに減少し、特に反比例して減少する。
【0257】
したがって、毛細管現象試験の前述の変形の1つまたは他のものによれば、結果は、アッセイの終了時に、毛細管現象試験デバイスのレベルで、特に、検出ゾーン(3)のレベルで、および場合により対照ゾーン(4)のレベルでサンプルの移動の終了時に固定化されたナノ粒子によって生成されたルミネッセンスを検出することによって読み取られる。
【0258】
当然、本発明は、添付の図に模式的に示されているような、毛細管現象試験デバイスの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0259】
本発明による方法を実施するための毛細管現象試験デバイスの他の変形は、それらが本発明のフォトルミネッセンスナノ粒子を検出プローブとして使用するのに適しているという条件で、想定され得る。例えば、それらは、「ディップスティックラテラルフロー」タイプまたは「垂直ラテラルフロー」タイプなどの毛細管現象試験用のデバイスであってもよい。
【0260】
変形実施形態によれば、単一のアッセイでサンプルのいくつかの物質を検出することが可能である(いわゆる「多重化」検出)。
【0261】
例えば、「サンドイッチ」アッセイの文脈では、反応ゾーン(3)のレベルで、別々の領域(例えば、いくつかのテストライン「T」)のレベルで、分析される物質の各々に特異的ないくつかの捕捉試薬を固定化することが可能である。この場合、検出プローブとして機能するナノ粒子は、分析される物質の各々に特異的な2つ以上のタイプの捕捉試薬に結合されてもよい。様々な分析物の存在下で、プローブは、各分析物に特異的な捕捉試薬を含む別々の領域の各々に固定されるようになる。反応ゾーンの各々でのルミネッセンスシグナルの存在および値は、対応する分析物の存在および濃度に対応する。この場合は空間多重化である。
【0262】
あるいは、標識ゾーン(2)のレベルで、異なる発光波長で発光する異なるランタニドイオンをドープした様々なプローブを使用することも可能であり、プローブの各々は、分析される物質の各々に特異的な結合試薬に結合され、単一の反応ゾーン(3)のレベルで、分析される物質の各々に特異的ないくつかの捕捉試薬に結合されている。この場合、いくつかの発光色を使用した多重化である。この場合、紫外域における結晶性マトリックスの励起は、同じ励起波長で、異なる波長で発光する異なるランタニドイオンを励起することが可能になるため、特に有利である。
【0263】
空間多重化およびいくつかの発光色による多重化の2つのアプローチを組み合わせて、例えば、各々が4つの分析される物質のうちの2つおよび2つの反応ゾーンに特異的な2種類の試薬に結合され、各々が4つの分析される物質のうちの2つの特異的な結合試薬を含む、2つの異なる発光色を有する2つのプローブで4つの分析物を検出することができる。したがって、第1の反応ゾーンの2つの異なる色のシグナルは、第1の2つの分析物の存在および濃度を示し、第2の反応ゾーンの2つの異なる色のシグナルは、他の2つの分析物の存在および濃度を示す。
【0264】
ルミネッセンスの検出
従来の毛細管現象試験と同様に、本発明の方法により実施される試験(検出および/または定量化)の評価は、検出ゾーン、および場合により対照ゾーンを観察することによって行われる。
【0265】
より正確には、アッセイの結果は、検出ゾーンおよび/または対照ゾーンのレベルで、好ましくは検出ゾーンおよび対照ゾーンのレベルで固定化されたプローブによって生成されたルミネッセンスを検出することによって読み取られる。
【0266】
検出デバイス
本発明による毛細管現象試験デバイスの検出ゾーンおよび対照ゾーンの観察は、より具体的には、(i)フォトルミネッセンスナノ粒子の励起のステップおよび(ii)ルミネッセンス発光の検出のステップを使用する。
【0267】
その別の態様によれば、本発明は、体外診断キットに関し、少なくとも、
上記で定義された本発明による毛細管現象試験デバイス、および
デバイスの検出ゾーン、および場合により対照ゾーンのレベルで固定化されたプローブにより生成されたルミネッセンスを検出するためのデバイスを含む。
【0268】
したがって、励起源を含む照明デバイスを含む単純な検出セットアップにより、ルミネッセンスプローブの存在を観察することが可能である。
【0269】
励起は、ナノ粒子の吸光度特性に適合していなければならない。励起は、紫外線、可視光、または近赤外線で生じる可能性がある。
【0270】
励起は、ランプ、発光ダイオードまたはレーザーなどの非コヒーレント励起源を使用して行うことができる。
【0271】
励起源は、希土類イオンおよび/または希土類イオンが組み込まれているナノ粒子のマトリックスを直接励起することができる。好ましくは、希土類イオンは、検出ゾーンのレベル、および場合により対照ゾーンのレベルで固定化されたフォトルミネッセンスナノ粒子のマトリックス(例えば、AVO、または他の金属酸化物マトリックス)の励起、およびその後の当該ナノ粒子から希土類イオンへのエネルギーの移動により励起される。ほとんどの場合、マトリックスの励起は、紫外域で行われる。
【0272】
特に、上記の式A1-xLnVO4(1-y)(PO(II)のナノ粒子の文脈では、特にyの値が0である場合、ルミネッセンスは、厳密に350nm未満、特に320nm以下、より具体的には300nm以下の波長でのマトリックスの励起によって検出することができる。
【0273】
AVOマトリックス、特に式Y1-xEuVO(IV)のナノ粒子のYVOマトリックスの場合、励起は、230nm~320nm、特に250nm~310nmの間、より具体的には265nm~295nmの波長で行うことができる。ナノ粒子のマトリックスの励起は、マトリックスの吸収係数(または溶液中のナノ粒子の吸光係数)がルミネッセンスイオンの直接励起に対応するものよりはるかに大きいため、特に有利である。さらに、すべての予想に反して、紫外域での励起によって生成される寄生バックグラウンドシグナルは、以下に示す例で示されるように、分析物が低濃度で存在する場合であっても、ナノ粒子の発光に起因するシグナルの検出を妨げる性質のものではない。
【0274】
Euを含む酸化物マトリックスの場合、励起は、210nm~310nm、特に230nm~290nm、より具体的には245nm~275nmの波長で行うことができる。
【0275】
この場合、励起は、紫外線ランプ、紫外線発光ダイオード(LED)、またはUVレーザーを使用して行うことができる。プローブを検出するために必要な励起のパワーおよび強度は、紫外線ランプまたは紫外線LEDを使用して簡単に取得することができる。好ましくは、励起は、LEDを使用して行われ、後者は、エネルギー損失がほとんどなく、したがって、除去される熱がほとんどない。
【0276】
さらに、有利なことに、励起は、ストリップの表面上で、特に検出ゾーンおよび対照ゾーンのレベルで均一に実行される。この均一性は、紫外線ランプだけでなく、検出ゾーンと対照ゾーンの周囲に配置された低電力のいくつかのLEDでも達成することができる。一例として、図7に示すように、4つのLEDからなる4つのグループを使用することができる。図7のスキームは、ストリップの検出ゾーンおよび対照ゾーンの周囲に複数のLEDを配置するための可能なスキームの1つを示している。
【0277】
励起出力密度は、0.5~20mW/cm、特に1~10mW/cmであってもよい。
【0278】
本発明による毛細管現象試験の商業的適用の文脈では、励起中に生成された熱を効果的に除去することができると仮定して、所定の励起出力で得られる検出感度と、問題の励起出力を得るために必要な励起源のコストとの比を考慮して、性能指数を定義することができる。有利なことに、本発明による診断キットは、この性能指数を最適化することを可能にする。
【0279】
特に有利な実施形態によれば、結果の読み取りは、特に分析物の定性的特徴付けの文脈では、毛細管現象試験デバイスの直接の肉眼観察、特に検出ゾーン、場合により対照ゾーンの直接の肉眼観察を、発光フィルタを使用して行うことができる。
【0280】
発光フィルタを使用すると、ルミネッセンスイオンの特徴的な発光バンドを選択して、非特異的なシグナルを除外することが可能である。一例として、Y1-xEuVOナノ粒子を使用する場合、発光される光度は、YVOマトリックス中のEu3+のルミネッセンス波長、すなわち617nmで検出することができる。発光フィルタは、干渉フィルタまたはハイパスフィルタであってもよい。
【0281】
あるいは、単純な検出装置を使用して結果を読み取ることもできる。後者は、発光フィルタおよび検出器を含んでもよい。
【0282】
検出器は、光子検出器である。
【0283】
それは、単一の検出器、特に光電子増倍管、フォトダイオード、またはアバランシェフォトダイオードタイプの単一の検出器であってもよく、またはCCDカメラまたはEM-CCDカメラまたはCMOSカメラなどの2D表面の検出画素からなる感光性デバイスのアレイのタイプの検出器であってもよい。
【0284】
好ましくは、2Dと呼ばれる、カメラなどの検出デバイスである。したがって、ラテラルフローアッセイに使用されるストリップの2D画像を取得することが可能になる。
【0285】
例えば、検出器は、スマートフォンのCCDまたはCMOSセンサであってもよい。
【0286】
有利には、本発明による毛細管現象試験は、発光のシグナルの取得時間が短い。特に、ルミネッセンスは、数秒、特に1秒未満、特に100ミリ秒未満で測定することができる。好ましくは、発光シグナルの取得時間は、スマートフォンのカメラによる画像の取得時間と適合していなければならない。
【0287】
ラテラルフローアッセイの結果の分析
次に、ルミネッセンス結果を解釈することができる。
【0288】
ラテラルフローアッセイの結果の分析は、例えば、肉眼による単純な視覚的観察によって、または例えばCCDカメラで得られたストリップの2D画像、例えばスマートフォンで記録された写真を目視で読み取ることによって、検出ゾーンおよび/または対照ゾーンのレベルでのプローブの存在の単純な決定(定性的測定)からなってもよい。
【0289】
これにより、分析対象のサンプルにアッセイの目的物質が存在するかどうかを判断することが可能である。
【0290】
例えば、「サンドイッチ」タイプのラテラルフローアッセイの文脈では、結果の定性的解釈は、以下のようになってもよい:
・2つのバンドが存在する場合、試験は陽性である;
・単一の対照バンドが存在する場合、試験は陰性である;
・単一の試験バンドが存在する場合、試験は無効である;
・バンドが存在しない場合、試験は無効である。
【0291】
有利なことに、本発明による検出方法は、金ナノ粒子をプローブとして使用するまったく同一の毛細管現象試験の検出限界の、10分の1まで、特に100倍分の1まで、さらには1000分の1までの定性的測定を可能にする。
【0292】
毛細管現象試験の結果の分析はまた、分析される物質の定量的特徴付け、言い換えれば、ルミネッセンス結果を解釈することにより、サンプル内の当該物質の濃度の決定を含んでもよい。
【0293】
次に、本発明により使用される検出システムは、ルミネッセンス発光を分析するための任意の手段、例えば、ルミネッセンスシグナルを記録および利用することを可能にする変換器をさらに含んでもよい。
【0294】
ルミネッセンス測定は、事前に確立された標準またはキャリブレーションを参照することで解釈することができる。
【0295】
上で見たように、サンドイッチタイプのアッセイの文脈では、検出ゾーンのルミネッセンスシグナルは増加し、特に分析物の濃度に比例するが、競合アッセイの文脈では反比例する可能性がある。
【0296】
キャリブレーションを参照することによる定量化は、例えば、分析される物質の異なる濃度を含む、キャリブレーションバンドと呼ばれるいくつかの対照バンドを使用して行われてもよい。
【0297】
ルミネッセンス測定の解釈は、特に、検出ゾーンからのルミネッセンスシグナルと対照ゾーンからのルミネッセンスシグナルとの比率を利用することができる。
【0298】
ルミネッセンスを解釈するためのこれらの手段は、例えば、スマートフォンアプリケーション内で組み合わされて、得られた画像を分析し、得られた結果の定量的値を与えることが可能である。
【0299】
あるいは、本発明により使用される検出システムは、2D検出器、画像を記録するためのシステム、および画像分析ソフトウェアを使用することができる。
【0300】
あるいは、2D検出器をリーダに統合し、記録された画像をスマートフォンまたはその他のシステムに転送して、画像の分析を可能にすることもできる。
【0301】
特に分析物の定量的特徴付けのための(例えば、分析ソフトウェアによる)結果の分析は、例えば、検出ゾーン、対照ゾーン、およびバックグラウンドシグナルに対応するシグナルの決定を含んでもよい。バックグラウンドシグナルのルミネッセンスの値は、他の2つのゾーンの値から差し引かれる。次に、検出ゾーンからのシグナルと対照ゾーンからのシグナルの比率を計算する。
【0302】
より正確には、特に分析物の定量的特徴付けのための(例えば、分析ソフトウェアによる、または有利なことに、検出デバイス(スマートフォンまたは他のもの)にロードされたアプリケーションによる)結果の分析は、例えば、(i)検出ゾーンでのルミネッセンスレベルLの決定、対照ゾーンでのルミネッセンスレベルLの決定、およびユーザが同定したマーカーのないゾーンでのルミネッセンスレベルL(バックグラウンドシグナル)の測定、(ii)式SD/C=(LD/C-L)での生のシグナルSおよびSの計算、(iii)検出ゾーンおよび対照ゾーンの最適な位置測定を可能にするSD/Cの最大化のためのアルゴリズムの使用、(iv)レシオメトリックシグナルR=S/SまたはR=S/(S+S)の計算および(v)分析物の絶対濃度を決定するためのキャリブレーションテーブルとRの値との比較を含んでもよい。検出ゾーンの自動配置(ステップiii)により、ユーザによってもたらされたバイアスを回避し、再現性のある定量的測定値を取得することが可能である。あるいは、検出バンドおよび対照バンドの位置は、ユーザの介入なしに完全に自動的に選択することができる。後者の場合、ストリップ上の検出バンドおよび対照バンドの位置とリーダ内のストリップの位置が常に同じであることが重要である。
【0303】
「サンドイッチ」タイプのアッセイの文脈では、結果の分析は、好ましくは、比率R=S/S+Sの計算を含む。実際、「サンドイッチ」タイプのアッセイの文脈では、分析物の濃度が高いほど、シグナルSが大きくなり、シグナルSが小さくなる(対照ゾーンに移行するために使用できるプローブが少なくなる)。
【0304】
励起、ルミネッセンスの検出、および結果の分析のためのすべての要素は、毛細管現象試験デバイスのリーダ、例えばストリップリーダと呼ばれるケース内で組み合わせることができる。
【0305】
例えば、試験結果を読み取る目的で1つまたは複数のストリップを挿入するために、ストリップリーダに開口部を作ることができる。
【0306】
記録された画像をデータ分析装置に転送できるように、USB接続または同等のものを含む開口部を設けることもできる。
【0307】
本発明による方法は、有利なことに、サンプル中の目的の物質を、厳密に5ng/mL未満、特に0.5ng/mL未満、またはさらには0.05ng/mL未満の含有量で検出することを可能にする。この性能は当然、分析物、および使用する特定の結合試薬の効率に依存する。
【0308】
有利なことに、本発明による検出方法は、金ナノ粒子をプローブとして使用するまったく同一の毛細管現象試験の定量限界の10分の1まで、特に100分の1まで、さらには1000分の1までの定量的測定を可能にする。
【0309】
以下に提示される例および図は、例示の目的でのみ与えられており、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0310】
図1】ラテラルフローアッセイ用のストリップの断面図での模式図。
図2】沈着ゾーン(1)のレベル(上図)およびアッセイの終了時(下図)での分析物(11)を含む分析される液体サンプルを適用する前の「サンドイッチ」タイプのアッセイの模式図。
図3】沈着ゾーン(1)のレベル(上図)およびアッセイの終了時(下図)での分析物(11)を含む分析される液体サンプルを適用する前の2つの変形例による「競合」アッセイの手順の模式図。
図4】例1.1.aにより得られたナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた画像(スケールバー:それぞれ60nm(図4a)および5nm(図4b))。
図5】例1.1.aによる約300個のナノ粒子のセットのTEM画像から決定されたナノ粒子サイズのヒストグラム。
図6】5、0.5、0.05ng/mLのh-FABP抗原を含む溶液を紫外線ランプを照射して移動した後の、例3のアッセイによるストリップの写真。左側に検出バンド、右側に対照バンドがある。吸収パッドは画像の右端にある。写真に示されているルミネッセンスシグナルは、ImageJによって分析した。結果を図7に示す。
図7】例3によりテストストリップで試験した5、0.5、0.05、および0ng/mLのh-FABPを含む液体サンプルについて、ImageJによって測定した比率R=S/S+Sの結果。点は、Rの平均値を表し、エラーバーは、それぞれ3本と2本のストリップに関連する標準偏差を表す。
図8】ラテラルフローアッセイ用のストリップを含むケースの上面図の模式図。
図9】ナノ粒子の励起に4つの紫外線LEDの4つのグループ(「LED#1」から「LED#4」)を使用したストリップリーダのスキーム。ストリップは、挿入レール(20)のレベルでリーダに挿入することができる。読み取りは、カバーの開口部から行われ、その中には、ナノ粒子の発光(例では617nmを中心とする)を選択し、励起波長(例では280nmを中心とする)を拒否することを可能にするフィルタが配置されている。フィルタは、干渉フィルタまたはハイパスフィルタであってもよい。カメラ、例えば携帯電話のCCDまたはCMOSカメラは、画像を記録するためにこの開口部の前に配置される。
図10】Android(Samsung)で動作する専用アプリケーションを使用したストリップの結果の分析の図。左:検出ゾーン、バックグラウンドシグナルのゾーンおよび対照ゾーンについて、上から下に向かって累積的なルミネッセンスのレベルが計算される長方形のストリップの白黒画像。右:Android分析アプリケーションが実行されている携帯電話のスクリーンショット。累積的なルミネッセンスのレベルの計算が行われる長方形のストリップの白黒画像、ならびに「捕捉」、「測定」、「調整」および「保存」の機能を見ることができる。
図11-a】例により合成されたY0.6Eu0.4VOナノ粒子の溶液の吸光度スペクトル。
図11-b】例のラテラルフローアッセイに使用されるようにバッキングカードに接着されたニトロセルロース膜を石英キュベットに挿入し、280、300、および380nmで励起したときの発光スペクトル(励起スリットの幅5nm)。発光は、スペクトル全体にわたって380nmで、より具体的にはY0.6Eu0.4VOナノ粒子に基づくプローブからのシグナルが検出される波長である617nmで励起した後、はるかに強くなる。
図12】発光波長を617nmに固定したY0.6Eu0.4VOナノ粒子の励起スペクトル(図の左側)および励起波長を278nmに固定した発光スペクトル(図の右側)。
図13】発光波長を572nmに固定したYVO:Dy5%ナノ粒子の励起スペクトル(図13-a)および励起波長を278nmに固定した発光スペクトル(図13-b)。
図14】発光波長を600nmに固定したYVO:Sm3%ナノ粒子の励起スペクトル(図14-a)および励起波長を278nmに固定した発光スペクトル(図14-b)。
図15】発光波長をEu3+イオンを含むナノ粒子については617nmに固定し、Dy3+イオンを含むナノ粒子については573nmに固定したY0.6Eu0.4VO、Lu0.6Eu0.4VO、LuVO:Dy10%、La0.6Eu0.4VOおよびGdVO:Dy20%ナノ粒子の励起スペクトル。
図16】278nmの励起波長でのLu0.6Eu0.4VOナノ粒子の発光スペクトル(LuVOマトリックスの励起)。発光には、617nmにメインピークがあり、593nmおよび700nmに他の2つのピークがある。
図17】278nmの励起波長でのLuVO:Dy10%ナノ粒子の発光スペクトル(LuVOマトリックスの励起)。発光には、483nmおよび573nmに2つのメインピークがある。
図18】278nmの励起波長でのLa0.6Eu0.4VOナノ粒子の発光スペクトル(LaVOマトリックスの励起)。発光には、617nmにメインピークがあり、593nmおよび700nmに他の2つのピークがある。
図19】278nmの励起波長でのGdVO:Dy20%ナノ粒子の発光スペクトル(GdVOマトリックスの励起)。発光には、483nmおよび573nmに2つのメインピークがある。
図20】y=0、y=0.05、y=0.2、y=0.5およびy=1の場合のY(VO1-y(PO:Eu20%ナノ粒子の吸光度スペクトル。希釈前の初期濃度は、約50mMのバナジン酸イオンの濃度である。
図21】励起波長を278nmに固定したy=0、y=0.05、y=0.2、y=0.5およびy=1の場合のY(VO1-y(PO:Eu20%ナノ粒子の発光スペクトル。希釈前の初期濃度は、約50mMのバナジン酸イオンの濃度である。
図22】抗原の非存在下での、対照ラインに固定化されたBSA-ビオチンを含む「ディップスティック」ストリップ上のLu0.6Eu0.4VO-SAおよびLu0.9Dy0.1VO-SAナノ粒子の移動。ストリップは、312nmの紫外線ランプを照射して観察される。干渉フィルタ(それぞれEu3+およびDy3+イオンの発光に対してSemrock FF01-620/14-25およびFF03-575/25)を介して検出された発光、Iphone6スマートフォンで撮影した画像。対照ラインには2つの明確なバンドが見られる。画像の右側に、吸収パッドまで移動したナノ粒子の発光が見られる。
【0311】

1.フォトルミネッセンスプローブの調製
1.1.フォトルミネッセンス無機ナノ粒子の合成
1.1.a Y0.6Eu0.4VOナノ粒子の合成
メタバナジン酸アンモニウムNHVOをメタバナジン酸イオンVO の供給源として使用し、オルトバナジン酸VO 3-は、塩基、この場合は水酸化テトラメチルアンモニウム、N(CHOHとの反応後にその場で得られる。Y3+およびEu3+イオンの供給源として、硝酸イットリウムおよび硝酸ユウロピウムを使用した。
【0312】
0.1MのNHVOおよび0.2MのN(CHOHの10mL水溶液(溶液1)を新たに調製する。
【0313】
0.1Mのイオン(Y3++Eu3+)でのY(NOおよびEu(NOの別の10mL溶液(溶液2)を、シリンジポンプで溶液1に1mL/分の流量で滴下する。
【0314】
Y(NO対Eu(NOのモル濃度比は、ナノ粒子中のY3+およびEu3+イオンの所望の比の関数として選択され、典型的には、モル比Y3+:Eu3+は、0.6:0.4である。
【0315】
Y(NO/Eu(NO溶液を添加すると、溶液は拡散性になり、沈殿物を形成することなく白色/乳白色に見える。合成は、すべてのY(NO/Eu(NO溶液が添加されるまで続く。
【0316】
20mLの最終溶液は、過剰な対イオンを除去するために精製する必要がある。この目的のために、11000g(Sigma 3K10、Bioblock Scientific社)で80分間遠心分離(通常は3回)、各遠心分離後の超音波処理(Bioblock Scientific社、Ultrasonic Processor、最大出力130W、50%で40秒間動作)による再分散を、導電率が100μS.cm-1を厳密に下回るまで使用する。化学導電率計を使用して導電率を測定する。
【0317】
テトラメチルアンモニウムカチオンが表面に固定化されているY0.6Eu0.4VOナノ粒子の合成は、以下のように記載できる。
【化1】
【0318】
結果
ボトル内で16時間放置した後のナノ粒子の溶液の目視観察は、均一に拡散する溶液を示している。
【0319】
最終溶液は、合成の最終pH(約pH5)で数ヶ月後でも、水中で非常に安定している。イオン強度は高い(>0.1M)が、溶液は合成媒体を含めて(過剰な対イオンを除去する前に)安定したままである。
【0320】
対イオンを除去した後、DLS-ゼータ電位装置(Zetasizer Nano ZS90、Malvern社)で決定したナノ粒子のゼータ電位は、pH7で-38.4mVである。
【0321】
TEMによるナノ粒子の観察(図4)は、ナノ粒子が細長い楕円形であることを示している。ナノ粒子の寸法は、約300個のナノ粒子のセットのTEM画像から決定される(図5)。本発明のナノ粒子は、aで示される長軸の長さが20~60nmであり、平均値が約40nmであり、bで示される短軸の長さが10~30nmであり、平均値が約20nmである。
【0322】
0.6Eu0.4VOナノ粒子の励起スペクトルおよび発光スペクトルを図12に示す。励起スペクトルには278nmにピークがあり、発光スペクトルには617nmにメインピークがあり、593nmおよび700nmに2つのピークがある。
【0323】
YVOマトリックスのEu3+イオンは、他のルミネッセンスランタニドイオンに置き換えることができる。この場合、V-O電荷移動遷移に関連するVO 3-バナジン酸イオンの吸収ピーク周辺の励起スペクトルおよび吸収スペクトルは変化しない。発光スペクトルは、各ランタニドイオンの発光スペクトルの典型である。
【0324】
1.1.b Y0.95Dy0.05VO(YVO:Dy5%)ナノ粒子の合成
合成は、0.1Mのイオン(Y3++Dy3+)でY(NOおよびDy(NOからなる溶液2を除いて、例1.1.a.の合成と同じである。溶液2を、シリンジポンプで溶液1に1mL/分の流量で滴下する。
【0325】
Y(NO対Dy(NOのモル濃度比は、ナノ粒子中のY3+およびDy3+イオンの所望の比の関数として選択され、この場合、モル比Y3+:Dy3+は、0.95:0.05である。
【0326】
これらのナノ粒子の励起スペクトルおよび発光スペクトルを図13に示す。Dy3+イオンの発光には、483nmおよび573nmに2つのメインピークがある。
【0327】
1.1.c Y0.97Sm0.03VO(YVO:Sm3%)ナノ粒子の合成
合成は、0.1Mのイオン(Y3++Sm3+)でY(NOおよびSm(NOからなる溶液2を除いて、例1.1.a.の合成と同じである。溶液2を、シリンジポンプで溶液1に1mL/分の流量で滴下する。
【0328】
Y(NO対Sm(NOのモル濃度比は、ナノ粒子中のY3+およびSm3+イオンの所望の比の関数として選択され、この場合、モル比Y3+:Sm3+は、0.97:0.03である。
【0329】
これらのナノ粒子の励起スペクトルおよび発光スペクトルを図14に示す。
【0330】
さらに、YVOマトリックスのY3+イオンは、Gd3+、Lu3+およびLa3+などの他のイオンに置き換えることができる(次の例を参照)。これらすべてのマトリックスGdVO、LuVOおよびLaVOの場合、V5+-O 電荷移動遷移に関連するVO 3-バナジン酸イオンの吸収ピーク周辺の励起スペクトルおよび吸収スペクトルは、YVOマトリックスと比較して変化しない。さらに、これらのマトリックスGdVO、LuVOおよびLaVOでは、Eu3+イオンは、他のルミネッセンスランタニドイオンに置き換えることができる。発光スペクトルは、各ランタニドイオンの発光スペクトルの典型である。マトリックスおよびルミネッセンスランタニドイオンの様々な代表的な組み合わせを以下に示す。
【0331】
1.1.d Lu0.6Eu0.4VOナノ粒子の合成
合成は、0.1Mのイオン(Lu3++Eu3+)でLu(NOおよびEu(NOからなる溶液2を除いて、例1.1.a.の合成と同じである。溶液2を、シリンジポンプで溶液1に1mL/分の流量で滴下する。
【0332】
Lu(NO対Eu(NOのモル濃度比は、ナノ粒子中のLu3+およびEu3+イオンの所望の比の関数として選択され、この場合、モル比Lu3+:Eu3+は、0.6:0.4である。
【0333】
Lu0.6Eu0.4VOナノ粒子の励起スペクトルを図15に示し、発光スペクトルを図16に示す。LuVOマトリックスのEu3+イオンの発光スペクトルは、YVOマトリックスの発光スペクトルと比較して実質的変化せず(図12)、617nmにメインピークがあり、593nmおよび700nmに2つのピークがある。
【0334】
1.1.e LuVO:Dy10%ナノ粒子の合成
合成は、0.1Mのイオン(Lu3++Dy3+)でLu(NOおよびDy(NOからなる溶液2を除いて、例1.1.a.の合成と同じである。溶液2を、シリンジポンプで溶液1に1mL/分の流量で滴下する。
【0335】
Lu(NO対Dy(NOのモル濃度比は、ナノ粒子中のLu3+およびDy3+イオンの所望の比の関数として選択され、この場合、モル比Lu3+:Dy3+は、0.9:0.1である。
【0336】
LuVO:Dy10%ナノ粒子の励起スペクトルを図16に示し、発光スペクトルを図17に示す。LuVOマトリックスのDy3+イオンの発光スペクトルは、YVOマトリックスの発光スペクトルと比較して実質的変化せず(図13)、483nmおよび573nmに2つのピークがある。
【0337】
1.1.f La0.6Eu0.4VOナノ粒子の合成
合成は、0.1Mのイオン(La3++Eu3+)でLa(NOおよびEu(NOからなる溶液2を除いて、例1.1.a.の合成と同じである。溶液2を、シリンジポンプで溶液1に1mL/分の流量で滴下する。
【0338】
La(NO対Eu(NOのモル濃度比は、ナノ粒子中のLa3+およびEu3+イオンの所望の比の関数として選択され、この場合、モル比La3+:Eu3+は、0.6:0.4である。
【0339】
La0.6Eu0.4VOナノ粒子の励起スペクトルを図15に示し、発光スペクトルを図18に示す。LaVOマトリックスのEu3+イオンの発光スペクトルは、YVOマトリックスの発光スペクトルと比較して実質的変化せず(図12)、617nmにメインピークがあり、593nmおよび700nmに2つのピークがある。
【0340】
1.1.g GdVO:Dy20%ナノ粒子の合成
これらのナノ粒子の合成は、オルトバナジン酸前駆体から出発して、以下のように行われる。0.1MのNaVOの10mL水溶液(溶液1)を新たに調製し、1MのNaOH溶液でpHを12.6~13に調整する。
【0341】
0.1Mのイオン(Gd3++Dy3+)でのGd(NOおよびDy(NOの別の10mL溶液(溶液2)を、撹拌しながらシリンジポンプで溶液1に1mL/分の流量で滴下する。
【0342】
Gd(NO対Dy(NOのモル濃度比は、ナノ粒子中のGd3+およびDy3+イオンの所望の比の関数として選択され、この場合、モル比Gd3+:Dy3+は、0.8:0.2である。
【0343】
Gd(NO/Dy(NO溶液を添加すると、乳白色の沈殿物が形成される。合成は、すべてのY(NO/Eu(NO溶液が添加されるまで続く。pHが8~9で安定するまで、溶液を30分間撹拌する。
【0344】
過剰な対イオンを除去するには、例1.1.aのように20mLの最終溶液を精製する必要がある。この目的のために、11000g(Sigma 3K10、Bioblock Scientific社)で15分間遠心分離(通常は3回)、各遠心分離後の超音波処理(Bioblock Scientific社、Ultrasonic Processor、最大出力130W、50%で40秒間動作)による再分散を、導電率が100μS.cm-1を厳密に下回るまで使用する。
【0345】
GdVO:Dy20%ナノ粒子の励起スペクトルを図15に示し、発光スペクトルを図19に示す。GdVOマトリックスのDy3+イオンの発光スペクトルは、YVOマトリックスの発光スペクトルと比較して実質的変化せず(図13)、483nmおよび573nmに2つのピークがある。
【0346】
1.1.h Y(VO1-y(PO:Eu20%ナノ粒子の合成
異なるVO 3-:PO 3-比でマトリックス中にVO 3-およびPO 3-イオンの混合物を含むナノ粒子も合成した。
【0347】
合成は、0.1Mのイオン(VO +PO 3-)および0.2(1-y)MのN(CHOHの合計濃度で0.1yMのNaPO、0.1(1-y)MのNHVOからなる溶液1を除いて、例1.1.a.の合成と同じである。上記濃度の10mL水溶液(溶液1)を新たに調製する。y=0、y=0.05、y=0.2、y=0.5、y=1のNPを調製した。
【0348】
PO 3-イオンは278nmで吸収を示さない。したがって、PO 3-イオンを100%含むナノ粒子には、278nmに吸収ピークがない(図20を参照)。これらのナノ粒子の発光スペクトルは、図21に示すが、yが1と異なるすべての値で同一である(y=1では発光は観測されない)。それらには、617nmにメインピークがあり、593nmおよび700nmに2つの追加ピークがある。これらの発光スペクトルは、実質的に同一である。
【0349】
1.2.ナノ粒子のタンパク質への共有結合(抗h-FABP抗体)
ポイント1.1.a.に記載したように得られたY0.6Eu0.4VOナノ粒子は、以下のプロトコルにより抗体に結合される。
【0350】
1.2.1ナノ粒子のシリカ層を用いたコーティング
ナノ粒子の合成の終了時に、ナノ粒子の溶液を17000gで3分間遠心分離して、ナノ粒子の凝集体を沈殿させ、上清を回収する。サイズによる選択を行う。この目的のために、1900gで3分間の遠心分離を数回行う。各遠心分離に続いて、超音波処理器でナノ粒子を再分散させ、次いで、ナノ粒子のサイズをDLS-ゼータ電位装置(Zetasizer Nano ZS90、Malvern社)を使用して決定する。
【0351】
バナジン酸イオンの濃度が20mMである25mLのY0.6Eu0.4VO粒子を調製する。粒子の表面をコーティングするために、2.5mLの純粋なケイ酸ナトリウムの別の溶液(Merck Millipore社1.05621.2500)をピペットで滴下する。この溶液を少なくとも5時間、撹拌しながら作用させる。
【0352】
次に、溶液を精製し、過剰なケイ酸およびナトリウム対イオンを除去する。溶液を11000g(Sigma 3K10、Bioblock Scientific社)で60分間遠心分離し、超音波処理(Bioblock Scientific社、Ultrasonic Processor、400Wの電力で50%で動作)によって再分散させる。このステップは、溶液の導電率が100μS/cm未満になるまで繰り返す。
【0353】
1.2.2.ナノ粒子の表面へのアミンのグラフト化
3つ口タイプの500mLフラスコに225mLの無水エタノールを入れ、最終濃度1.125mMに相当する265μLのAPTES(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)(分子量221.37g/mol、Sigma Aldrich社)を添加する。この量は、導入されたバナジン酸の5当量に相当する。次いで、コンデンサをフラスコに取り付ける。全体をフラスコヒーターに配置し、フードの下に置く。混合物を90℃の還流下で加熱する。3つ口フラスコの入口の1つに、pH9で75mLの水中ナノ粒子のコロイド溶液(バナジン酸イオンの濃度[V]=3mM)を、蠕動ポンプを使用して1mL/分の流量で滴下する。全体を撹拌しながら24時間加熱する。
【0354】
48時間後、ロータリーエバポレータ(rotavapor R-100、BUCHI社)を使用してナノ粒子を部分的に濃縮する。溶液を適切なフラスコで回転させ、50℃の浴で加熱する。
【0355】
回収された溶液を、エタノール:水(3:1)溶媒中での数回の遠心分離によって精製する。精製後、上記のプロトコルに従って、サイズによる選別を行う。
【0356】
1.2.3.アミノ化ナノ粒子の表面へのカルボキシルのグラフト化
グラフト化を開始する前に、溶媒の移動を行う。
【0357】
移動プロトコルは以下の通りである。
【0358】
アミノ化NPをEtOH:HO緩衝液からDMFまたはDMSOに移し、数回の遠心分離(13000g、90分)を行う。各遠心分離間の超音波処理(75%で20秒)により、ペレットを再分散させる。NPの濃度を測定および決定する。
【0359】
5mLのDMFでNPSを回収し、10%の無水コハク酸をガラスビーカーに添加する(つまり、5mL中0.5g)。撹拌しながら、不活性雰囲気下で少なくとも一晩反応させる。
【0360】
カルボキシル化NPを少なくとも2回、遠心分離(13000gで60分間、Legend Micro 17r、Thermo Scientific社)で洗浄し、DMFと過剰の無水コハク酸を除去する。
【0361】
超音波処理(Bioblock Scientific社、Ultrasonic processor)により、カルボキシル化粒子を水またはpH6のMES緩衝液に再懸濁させる。
【0362】
1.2.4.ナノ粒子の抗h-FABP抗体への結合
COOHで表面グラフト化されたナノ粒子の結合は、以下のプロトコルにより行う。
1.MES緩衝液(pH5~6)中のEDC/Sulfo-NHS(それぞれ濃度500mg/mLおよび500mg/mL)の混合溶液を新たに調製する。
2.事前に調製した3mLの溶液に、90nMのNP(この場合は参考文献Casanovaら[37]により、バナジン酸イオンの濃度から算出したナノ粒子の濃度)を添加し、室温で25分間、撹拌しながら反応させる。
3.NPを少なくとも2回、MilliQ水で遠心分離(13000gで60分間、Legend Micro 17R、Thermo Scientific社)ですばやく洗浄し、過剰な試薬を除去する。
4.pH7.3のリン酸ナトリウム緩衝液で超音波処理した後、最後のペレットを回収する。必要な量のタンパク質(抗h-FABP抗体、参照4F29、10 E1、Hytest社)を、必要な比率(タンパク質:Np)の関数として、典型的には20:1の比率のために2μM、および5mg/mLのmPEG-シラン(MW:10 kD、Laysan Bio 256-586-9004)を添加する。
5.この溶液を撹拌しながら室温で2~4時間反応させる。
6.ブロッキング剤(1%のグリシン)を添加して、遊離COOHと反応させ、NPの表面の残留反応部位をブロックする。30分間反応させる。
7.タンパク質に結合したNPを数回、pH7.2のPBSで遠心分離フィルタ(Amicon Ultra 0.5mL、Ref UFC501096、Millipore社)を使用して遠心分離することにより、洗浄する。保存媒体であるリン酸緩衝液+Tween20(0.05%)+0.1%グリシン+10%グリセロールにNPを移す。BCAアッセイには100μLを使用する。残りの溶液をアリコートに分け、-80℃で凍結する。
【0363】
さらに、例1.1.bから1.1.hにより合成したすべてのナノ粒子は、Y0.6Eu0.4VOナノ粒子の場合と同じ方法で、抗体に結合することができる。
【0364】
1.3.ナノ粒子のタンパク質への受動的結合(抗h-FABP抗体)
例1.2の共有結合の代わりに、ナノ粒子の抗体への受動的結合も以下のように行うことができる。
・1mLのナノ粒子(5mMのバナジン酸イオンの濃度)の溶液を15000gで15分間遠心分離する。
・ペレットを800μLのMilliQ水に取り、超音波処理(Bioblock Scientific社、Ultrasonic Processor、最大出力130W、50%で40秒間動作)によって再分散させる。
・リン酸カリウム緩衝液2mM pH7.4に250μg/mLの抗体溶液100μLを添加する。
・回転させながら1時間インキュベートする。
・100μLのリン酸カリウム緩衝液20mM pH7.4/1%BSAを添加する。
・15000gで15分間遠心分離し、上清を除去する。
・ペレットを1mLのリン酸カリウム緩衝液2mM pH7.4/0.1%BSAに取る。超音波処理(Bioblock Scientific社、Ultrasonic Processor、最大出力130W、50%で40秒間動作)によって再分散させる。
・15000gで15分間遠心分離し、上清を除去する。
・ペレットを250μLのリン酸カリウム緩衝液2mM pH7.4/0.1%BSAに取る。超音波処理(Bioblock Scientific社、Ultrasonic Processor、最大出力130W、50%で40秒間動作)によって再分散させる。
【0365】
2.「サンドイッチ」タイプのストリップでの試験の調製
タンパク質の存在を定性的または定量的に決定するための迅速なテストを開発するには、様々なパラメーターを最適化し、反応時間と試験の感度の間の妥協点を見つける必要がある。
【0366】
図1に示すように、アッセイストリップの製造は、以下の4つの重要な部分を組み合わせて行われる。
・本質的に不活性なガラス繊維を標識ゾーン(2)(英語の用語では「コンジュゲートパッド」)(GFDX 103000、Millipore社)として使用する。
・沈着ゾーン(英語の用語では「サンプルパッド」)(1)(Ref CFSP173000、Millipore社)として表面修飾ポリエステルを使用する。それらには、タンパク質との弱い非特異的相互作用、優れた牽引力、および優れた取り扱い特性を有するという利点がある。
・ニトロセルロース膜(NC)(HF180MC100、Millipore社)を毛細管現象の手段(10)として使用する。ニトロセルロース膜は、液体の移動およびタンパク質の固定化に最適な特性を備えている。NC膜は、無孔接着プラスチック(「バッキングカード」)のサポート(6)に接着されている。
・セルロース(CFSP173000、Millipore社)を、吸収能力が高いため、吸収パッド(5)として使用する。
【0367】
心臓のバイオマーカーであるh-FABP(ヒト脂肪酸結合タンパク質)を検出するには、
様々なコンポーネントを組み立てる前に、NC膜に抗体を沈着させる必要がある。
【0368】
1.h-FABP(参照4F29、9F3、Hytest社)に対するマウスモノクローナル抗体の溶液を1mg/mLの濃度でPBS(pH7.4)に希釈する。この溶液を試験バンド(3)に使用する。マウス抗体に対するヤギポリクローナルIgG抗体(Ref ab6708、Abcam社)の別の溶液を、1mg/mLの濃度でPBS(pH7.4)に希釈する。後者は対照バンド(4)に使用する。
【0369】
2.抗体溶液を、「ディスペンサー」(Claremont Bio社Automated Lateral Flow Reagent Dispenser(ALFRD))を使用して、NC膜に沈着させる。シリンジポンプを使用して、NC膜(長さ約30cm、そこからいくつかのストリップを作成する)に沿って、全面に、各バンドについて0.7μL/2mmの容量を沈着させる。37℃で1時間乾燥させる。
【0370】
3.抗体を沈着させた後、NC膜を0.04%で、PBS(pH7.4)+Tween20で希釈した1%BSAで37℃で30分間インキュベートし、抗体が占有していない固定部位を不動態化する。
【0371】
4.ディスペンサーを使用して、NPに結合したAbを標識ゾーン(「コンジュゲートパッド」)に沈着させる。3μL/4mmの容量をグラスファイバー膜に沿って全面に塗布する。PBS(pH7.4)で希釈した1%BSAでブロッキングする前に、室温で1時間乾燥させる。室温で乾燥させる。
【0372】
ストリップの組み立て
1.Abがすでに固定化されているNCの接着部分に、様々な構造(吸収パッドおよび沈着ゾーンとして機能するセルロース、Ab+NPが沈着される標識ゾーン)を組み立てる。コンポーネントは、NCのプラスチックサポートに、標識ゾーン(「コンジュゲートパッド」)、沈着ゾーン(「サンプルパッド」)、最後に吸収パッドの順序で固定させる。毛細管現象による流体の移動を改善するために、図に示すように(図1)、互いに重なり合うように様々なコンポーネントを取り付ける。
【0373】
2.組み立てた膜をペーパーカッターで4mm幅に切断する。
【0374】
3.次に、湿度が30%未満の雰囲気で、吸湿剤(乾燥剤)の存在下でアルミニウムバッグにストリップを保管する。
【0375】
3.ストリップ試験手順
ストリップは、例1.2で調製した抗体に結合されたY0.6Eu0.4VOナノ粒子を使用して調製する。
【0376】
h-FABP(参照8F65、Hytest社)のいくつかの濃度は、5ng/mLから0.05ng/mLまで測定した。組換えh-FABPは、緩衝液または血清で目的の濃度に希釈する。
【0377】
1.上記のポイント2で説明したように調製したストリップ、および分析するサンプルを室温に戻してから、試験を行う。
【0378】
2.400μLのサンプルをボトルに垂直に沈着させる。
【0379】
3.ストリップをボトルに浸し、沈着ゾーン(「サンプルパッド」)を下に向ける。下部のストリップをタップして移動を開始する。ストリップをチューブ内で垂直位置に、10分間保持する。
【0380】
4.紫外線ランプ(Vilber Lourmat、VL-8.MC 312nmで8Wおよび254nmで8W)(デジタル写真の撮影とImageJによる分析、図6および7を参照)を使用するか、図8および9に示すリーダを使用してストリップの結果を読み取る。図10は、Androidで動作する携帯電話の専用アプリケーションを使用したストリップの結果の分析を示している。リーダは、278nmでの4つのLEDの4つのグループおよび検出用の干渉フィルタ(620/15、Semrock社)を使用する。RG605フィルタ(Schott社)などのハイパスフィルタも検出に使用することができる。
【0381】
ナノ粒子の吸収スペクトルを図11(A)に示す。吸収ピークは280nmにあり、半値全幅は約50nmである。紫外線ランプの発光スペクトルは310nmを中心とし、半値全幅は40nmである。紫外線LEDの発光スペクトルは278nmを中心とし、半値全幅は10nmである。
【0382】
結果の定性的解釈
結果の定性的解釈は次の通りである:
・2つのバンドが存在する場合、試験は陽性である;
・単一の対照バンドが存在する場合、試験は陰性である;
・単一の試験バンドが存在する場合、試験は無効である;
・バンドが存在しない場合、試験は無効である。
【0383】
結果の定量的解釈
図10は、専用アプリケーションを使用して携帯電話で撮影したデジタル写真から開始する定量分析の例を示している。携帯電話の画面の「捕捉」を押すと、白黒画像の記録が開始される。次に、「測定」を押すと、アプリケーションにより、携帯電話の画面上で検出ゾーン、次いで対照ゾーンを押すよう指示される。これにより、アプリケーションは、検出ゾーンを含む長方形内の累積ルミネッセンスレベルL、および対照ゾーンを含む同じ大きさの長方形内の累積ルミネッセンスレベルLを計算する。「調整」を押すと、検出ゾーンおよび対照ゾーンに対応する2つの長方形の位置が最適化され、測定シグナルが最大化される。検出ゾーンと対照ゾーンとの間のスペースの中央に位置する同じサイズの長方形内の累積発光レベルは、バックグラウンドシグナルLを決定し、シグナルSD/C=LD/C-Lを計算するのに役立つ。アプリケーションは、比率R=S/SまたはR=S/(S+S)を計算して表示する。Rの値は、ng/mL単位の濃度値を提供するためのキャリブレーションテーブルと比較することができる。結果は「保存」機能で保存して、後で次の結果と比較することができる。
【0384】
h-FABP抗原を含む各サンプルのストリップ試験用に3つのストリップを調製した。抗原を含まないサンプルの場合、2つのストリップのみを調製した。
【0385】
図7のグラフは、5、0.5、0.05、および0ng/mLのh-FABPを含む様々な液体サンプルについて、ImageJによって測定した比率R=S/(S+S)で得られた結果を示している。図7の点は、Rの平均値を表し、エラーバーは、試験した様々なストリップに関連する標準偏差を表す(h-FABPを含むサンプルの場合は3つのストリップ、含まないサンプルの場合は2つのストリップ)。
【0386】
したがって、本発明による方法は、有利には、サンプル中のh-FABPを、5ng/mL以下、特に0.5ng/mL以下、またはさらには0.05ng/mLのような低い値までの含有量で検出することを可能にする。言い換えれば、h-FABPは、330pM以下、特に33pM以下、または3.3pMのような低い値までの含有量で検出することができる。
【0387】
4.「サンドイッチ」タイプの「ディップスティック」ストリップ上でのLu0.6Eu0.4VO-SAおよびLu0.9Dy0.1VO-SAナノ粒子の移動
それぞれ例1.1.dおよび1.1.eにより合成したLu0.6Eu0.4VOおよびLu0.9Dy0.1VOナノ粒子を、例1.3によりストレプトアビジン(SA)に結合させた(受動的結合)。「ディップスティック」ストリップは、ストレプトアビジンに結合したNPを認識するために、BSA-ビオチンをニトロセルロース膜に固定化することにより、例2により調製した。テストストリップは、抗原の非存在下で、例3によるLu0.6Eu0.4VO-SAおよびLu0.9Dy0.1VO-SAナノ粒子を用いて作成した。ストリップは、紫外線ランプ励起(312nm)下で視覚化した。対照ラインのレベルで2つの明確で強いバンドが形成された(図22)。
図1
図2
図3-a】
図3-b】
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11-a】
図11-b】
図12
図13-a】
図13-b】
図14-a】
図14-b】
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22