(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】心臓弁尖用の尖延長器具
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2021526692
(86)(22)【出願日】2018-11-14
(86)【国際出願番号】 US2018061126
(87)【国際公開番号】W WO2020101676
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】520072187
【氏名又は名称】ハーフ ムーン メディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ギフォード ハンソン エス ザ サード
(72)【発明者】
【氏名】マクリーン マット
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ-マーシー ガウラヴ
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0230919(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0067048(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓弁内の逆流を解決する器具であって、
拡張可能部材を有し、前記拡張可能部材は、安定化部分、前記安定化部分と対向した固定部材、及び前記安定化部分と前記固定部材との間に位置する接合部分を有し、前記安定化部分と前記接合部分は、複数の互いに連結されたストラットを備えており、前記安定化部分と前記固定部材は、前記安定化部分と前記固定部材との間に前記心臓弁の
後尖である第1の生まれつきの尖をクランプするよう構成され、前記接合部分は、前記安定化部分と前記固定部材から前記第1の生まれつきの尖に対して内方に突き出るよう構成され、その結果、前記接合部分は、前記心臓弁の
前尖である第2の生まれつきの尖
と接合するように位置決めされており、
少なくとも、前記拡張可能部材の前記接合部分に取り付けられたカバーを有する、器具。
【請求項2】
前記安定化部分及び前記固定部材のうちの少なくとも一方は、相殺力が存在していない場合に生まれつきの形状を再びとる超弾性材料で形成され、前記拡張可能部材は、前記安定化部分と前記固定部材との間に及ぼされる圧縮力によってのみ前記第1の生まれつきの尖に取り付けられている、請求項1記載の器具。
【請求項3】
前記安定化部分は、少なくとも2つの主ストラットを有し、前記主ストラットの各々は、第1の端部及び第2の端部を有し、前記第1の端部は、互いに共通に接合され、前記第2の端部は、互いに外に扇形に広げられている、請求項1記載の器具。
【請求項4】
前記安定化部分と前記固定部材は、前記器具を再位置決めできるようにするとともに/あるいは取り外すことができるよう前記第1の生まれつきの尖中に穿通しないで前記第1の生まれつきの尖をクランプする、請求項1記載の器具。
【請求項5】
前記安定化部分は、前記ストラッ
トと、
このストラットと隣り合
うストラット
との間を介在する開口部と、を含む、請求項1記載の器具。
【請求項6】
前記接合部分は、前記第1の生まれつきの尖の自由端部を越えて前記心臓弁の生まれつきの弁輪に対して内方に突き出るよう構成され、前記安定化部分の第1の端部は、前記第1の生まれつきの尖の固定端部を越えかつ前記心臓弁の心房側の壁に沿って上方に延びるよう構成されている、請求項3記載の器具。
【請求項7】
前記固定部材は、少なくとも1つの主ストラットを有し、この主ストラットは、前記安定化部分に取り付けられている、請求項1~5のうちいずれか一に記載の器具。
【請求項8】
心臓弁内の逆流を解決する器具であって、
拡張可能部材を有し、前記拡張可能部材は、安定化部分、前記安定化部分と対向した固定部材、及び前記安定化部分と前記固定部材との間に位置する接合部分を有し、前記安定化部分と前記固定部材は、前記安定化部分と前記固定部材との間に前記心臓弁の
後尖である第1の生まれつきの尖をクランプするよう構成され、前記接合部分は、前記安定化部分と前記固定部材から前記第1の生まれつきの尖に対して内方に突き出るよう構成され、その結果、前記接合部分は、前記心臓弁の
前尖である第2の生まれつきの尖
と接合するように位置決めされ、前記固定部材は、互いに離隔した少なくとも2つの主ストラットを有し、
少なくとも、前記拡張可能部材の前記接合部分に取り付けられたカバーを有する、器具。
【請求項9】
各主ストラットは、第1の端部及び第2の端部を有し、前記第1の端部は、互いに共通して接合され、前記第2の端部は、互いに外に扇形に広げられている、請求項8記載の器具。
【請求項10】
前記固定部材は、複数の主ストラット及び前記主ストラット相互間に位置した状態で前記主ストラットに連結された横ストラットを有する、請求項1~5のうちいずれか一に記載の器具。
【請求項11】
前記固定部材及び前記安定化部分のうちの少なくとも一方は、摩擦係合要素をさらに有する、請求項1記載の器具。
【請求項12】
前記拡張可能部材は、中空容積部を備え、前記カバーは、前記中空容積部を包囲している、請求項1記載の器具。
【請求項13】
前記接合部分は、前記安定化部分及び前記固定部材のうちの少なくとも一方と一体に形成されている、請求項1記載の器具。
【請求項14】
前記接合部分は、前記安定化部分及び前記固定部材の各々と直交しており、前記接合部分は、前記第1の生まれつきの尖に向くよう構成された凹面及び第2の生まれつきの尖に向くよう構成された凸面を有する、請求項1記載の器具。
【請求項15】
前記接合部分は、前記第1の生まれつきの尖の自由端部を越えて生まれつきの弁輪に対して内方に突き出、前記安定化部分の第1の端部は、前記第1の生まれつきの尖の固定端部を越えて上方にかつ前記心臓弁の心房側壁に沿って延びている、請求項12~14のうちいずれか一に記載の器具。
【請求項16】
前記安定化部分は、近位端及び遠位端を備えた少なくとも1本の管を含み、前記遠位端と前記近位端との間にはルーメンが延びており、前記固定部材は、前記少なくとも1本の管を貫通するとともに前記第1の生まれつきの尖の心室側表面に係合するよう構成されたワイヤを含む、請求項1~5のうちいずれか一に記載の器具。
【請求項17】
前記ワイヤは、非外傷性先端部を有する、請求項16記載の器具。
【請求項18】
前記安定化部分は、複数の主ストラットを有し、前記主ストラットのうちの少なくとも1つは、該主ストラットの近位端と遠位端との間に延びるルーメンを有し、前記固定部材は、前記主ストラットのうちの少なくとも1つの前記ルーメンを貫通したワイヤを含み、前記ワイヤは、前記第1の生まれつきの尖の心室側表面に係合するよう構成されている、請求項1~5のうちいずれか一に記載の器具。
【請求項19】
前記安定化部分は、複数の主ストラットを備えており、各主ストラットは、少なくとも1つのアイレットを有し、前記固定部材は、複数の固定ストラットを有し、前記固定ストラットのうちの1つは、前記主ストラットのうちの一ストラットのアイレットを貫通している、請求項1~5のうちいずれか一に記載の器具。
【請求項20】
前記安定化部分の第1の端部に取り付けられた心房スタビライザをさらに有し、前記心房スタビライザは、多角形のものでありかつ摩擦係合要素及び/又はカバーを含む、請求項1記載の器具。
【請求項21】
前記安定化部分の第1の端部に取り付けられた心房スタビライザをさらに有し、前記心房スタビライザは、多角形のものである、請求項16記載の器具。
【請求項22】
前記固定部材は、前記接合部分と一体に形成された少なくとも1つのストラットを含む、請求項16記載の器具。
【請求項23】
前記拡張可能部材は、インフレート可能なブラダを含む、請求項1記載の器具。
【請求項24】
前記複数の互いに連結されたストラットは、フレームを形成し、さらに、前記接合部分のところで前記フレームの内側に位置するインフレート可能なブラダを有する、請求項12記載の器具。
【請求項25】
前記第1の生まれつきの尖と、前記安定化部分及び前記固定部材のうちの少なくとも1つに取り付けられるとともに、前記第1の生まれつきの尖と、前記安定化部分及び前記固定部材のうちの少なくとも一方との間に介在した拡張可能なコンポーネントをさらに有し、前記拡張可能コンポーネントは、第1の容積部を備えた送達輪郭形状及び第2の容積部を備えた拡張後の輪郭形状を有し、前記第2の容積部は、前記第1の容積部よりも大きい、請求項1記載の器具。
【請求項26】
前記拡張可能コンポーネントは、前記安定化部分及び前記固定部材のうちの一方に当接する第1の表面及び前記第1の表面と反対側の第2の表面を有し、前記第2の表面は、前記第1の生まれつきの尖を完全に穿通しないで前記第1の生まれつきの尖に摩擦係合するよう構成された摩擦要素を含む、請求項25記載の器具。
【請求項27】
前記拡張可能コンポーネントは、インフレート可能なブラダであり、インフレーション管は、一端部が前記インフレート可能ブラダに取り外し可能に連結されている、請求項26記載の器具。
【請求項28】
前記拡張可能コンポーネントは、前記心臓弁の心房側壁及び心室側壁のうちの一方まで延びるよう寸法決めされている、請求項26記載の器具。
【請求項29】
前記安定化部分及び前記固定部材のうちの少なくとも一方は、超弾性ではない生体適合性金属で作られ、前記拡張可能部材は、前記拡張可能部材が前記送達輪郭形状の状態にある間、前記拡張可能部材が前記第1の生まれつきの尖上に自由に係合して再位置決めすることができるよう前記安定化部分と前記固定部材との間に隙間を有し、前記安定化部分と前記固定部材との間の前記隙間は、前記拡張可能部材が前記拡張後の輪郭形状の状態にあるとき減少するよう寸法決めされている、請求項25記載の器具。
【請求項30】
生まれつきの心臓弁の閉鎖不全を解決する器具であって、
第2の端部と反対側の第1の端部を備えた第1の部材を有し、第1の部材は、第2のフェースと反対側の第1のフェースを備え、
第2の端部と反対側の第1の端部を備えた第2の部材を有し、前記第1の部材の前記第2の端部は、前記第2の部材の前記第2の端部に取り付けられ、前記第2の部材は、第2のフェースと反対側の第1のフェースを備え、前記第1の部材の第1のフェースは、前記第2の部材の前記第1のフェースに衝合し、前記第2の部材の前記第1の端部は、前記第1の部材に対して弾性的に変位可能であり、
前記第1の部材と前記第2の部材は、前記
心臓弁の後尖である第1の生まれつきの尖を穿通しないで前記第1の生まれつきの尖を協働してサンドイッチするとともにクランプ
し、前記器具を前記第1の生まれつきの尖に取り付けるよう構成され、
前記第1の部材の前記第2のフェースに取り付けられるとともに前記心臓弁の生まれつきの弁輪に対して前記第2の端部を越えて内方に突き出た凸状部分を備えた接合部分を有し、前記接合部分は、
前記心臓弁の前尖である第2の生まれつきの尖
に接合する滑らかな外面を備え、前記接合部分と前記第1の部
材は、複数の互いに連結されたストラットを備えており、
前記第1の部材及び前記第2の部材に作動的に連結されたテザーを有する、器具。
【請求項31】
前記第2の部材は、外力に応答して生まれつきの形状から変形後の形状に弾性的に変形するが、いったん外力が除かれると前記生まれつきの形状を再びとる超弾性合金で作られ、前記テザーを引くと、前記第2の部材は、前記第1の部材に対して弾性的に変位する、請求項30記載の器具。
【請求項32】
前記接合部分は、前記安定化部分と前記固定部材から前記第1の生まれつきの尖に対して内方に突き出るよう構成され、その結果、前記接合部分は、前記第2の生まれつきの尖を含む前記心臓弁の複数の尖と少なくとも部分的に接合するように位置決めされている、請求項1記載の器具。
【請求項33】
前記接合部
分の滑らかな外面は、前記第2の生まれつきの尖を含む前記生まれつきの心臓弁の複数の尖
とに接合するためのものである、請求項30記載の器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、逆流性又は閉鎖不全の心臓弁を修復するためのインプラント及びかかるインプラントを植え込む方法に関する。本発明は、特に、逆流性僧帽弁を修復するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
僧帽弁の適正な機能発揮に悪影響を及ぼす病態としては、例えば、僧帽弁逆流症、僧帽弁逸脱及び僧帽弁狭窄が挙げられる。僧帽弁逆流症は、僧帽弁の両尖がピーク収縮圧力で互いに接合してくっつくことがなく、その結果、左心室から左心房への血液の異常な漏れが生じる心臓の疾患である。僧帽弁尖の適正な閉鎖に悪影響を及ぼす場合のある幾つかの構造的要因が存在する。例えば、心臓疾患を患っている多くの患者は、心筋の拡張を生じており、その結果、僧帽弁輪が拡大している。僧帽弁輪の拡大により、弁尖が心収縮中に接合することが困難になる。腱索、乳頭筋を僧帽弁尖の下側に繋ぐ腱の伸展又は裂離もまた、僧帽弁輪の適正な閉鎖に悪影響を及ぼす場合がある。例えば、腱索の断裂により、弁尖が弁尖に加わる不適当な張力に起因して左心房中に逸脱する場合がある。異常な逆流もまた、乳頭筋の機能発揮が、例えば虚血に起因して損なわれた場合にも起こることがある。左心室が心収縮期中に収縮すると、罹患した乳頭筋は、適正な閉鎖を行うほど十分には収縮しない。
【0003】
僧帽弁の逸脱、又は僧帽弁尖が異常に上方に膨らんで左心房中に入ると、それにより、僧帽弁の不規則な挙動が生じ、また、僧帽弁の逆流症が結果として生じる場合がある。僧帽弁の健常な機能発揮もまた、僧帽弁狭窄又は僧帽弁口が狭くなることによって悪影響を受ける場合があり、それにより心拡張の際に左心室の充満インピーダンスが生じる。
【0004】
僧帽弁逆流症は、利尿薬及び/又は血管拡張薬を用いて左心房中に逆流する血液の量を減少させて治療される場合が多い。他の治療法、例えば外科的方式(開放方式及び血管内方式)もまた、僧帽弁の修復か置換かのいずれかのために用いられた。例えば、典型的な修復方式では、拡張した弁輪の複数部分のシンチング(締め)又は切除が行われた。
【0005】
弁輪のシンチングは、一般に弁輪又は周りの組織に固定されている環状又は周囲環状リングの植え込みによって達成されていた。他の修復手技としては、また、相互の部分付着部中への弁尖の縫合又はクリップ法が行われた。
【0006】
別法として、より侵襲的な手技としては、機械的な弁又は生物学的組織を僧帽弁に代えて心臓中に植え込む心臓弁それ自体まるごとの置換が行われた。これら侵襲的な手技は、従来、ラージオープン型開胸術(large open thoracotomy)により行われ、かくして、極めて有痛性であり、相当高い罹病率を呈し、そして長い回復期間を必要とする。
【0007】
しかしながら、多くの修復及び置換手技では、器具の耐久性又は弁形成リング又は置換弁の不適切な寸法の結果として、患者にとって追加の問題が生じる場合がある。さらに、修復手技の多くは、心臓外科医の技量に大きく依存し、この場合、下手に又は不正確に配置された縫合糸が手技の成功に悪影響を及ぼす場合がある。
【0008】
他の心臓弁と比較して、僧帽弁輪の幾つかの部分は、周りの組織からの相当な半径方向支持が限定されており、僧帽弁は、不規則で予測不能な形状を有する。例えば、僧帽弁の内壁は、僧帽弁輪を大動脈流出路の下方部分から隔てる薄い血管壁によって境界づけられているに過ぎない。その結果、僧帽弁輪に加わる相当大きな半径方向力により、大動脈路の下方部分の潰れが生じ、潜在的に致命的な結果をもたらす。
【0009】
左心室の腱索は、僧帽弁修復器具を配備する際に障害物となる場合が多い。左心室内に迷路のようにはりめぐらされた腱索は、僧帽弁の修復にあたって、配備カテーテルをナビゲートして位置決めするのを極めて困難にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現行の手技と関連した問題点が存在すると仮定して、機能障害の心臓弁を治療するための簡単で効果的なかつ侵襲性の低い器具及び方法が要望され続けている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、心臓弁器具、特に逆流を起こしている又は機能不全の心臓弁を治療する器具に関する。用途のうちの多くを僧帽弁に関して説明するが、本発明は、僧帽弁用途には限定されない。本発明の器具は、生まれつきの弁全体を修復するようになっているが、これに置き換えるものではない。
【0012】
本発明の幾つかの実施形態は、1つ又は2つ以上の生まれつきの尖を機能的に延長させて他の尖との接合を容易にし、それにより生まれつきの尖を穿通しないで閉鎖不全を軽減する。本発明の幾つかの実施形態を僧帽弁の後尖に関して説明し、これら実施形態は、前尖のための非外傷性接合面を提供する。しかしながら、本発明はまた、前尖を機能的に延長させる一方で、後尖のための非外傷性接合面を提供するために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2A】本発明に従って生まれつきの心臓弁に取り付けられるよう構成された尖延長器具を示す図である。
【
図2B】本発明に従って生まれつきの心臓弁に取り付けられるよう構成された尖延長器具を示す図である。
【
図2C】本発明に従って生まれつきの心臓弁に取り付けられるよう構成された尖延長器具を示す図である。
【
図3】本発明に係るフレーム型の拡張可能な部材の側面図である。
【
図4】本発明に従って僧帽弁内に植え込まれた尖延長器具を示す図である。
【
図5A】本発明に従って尖延長器具を植え込む方法を示す図である。
【
図5B】本発明に従って尖延長器具を植え込む方法を示す図である。
【
図5C】本発明に従って尖延長器具を植え込む方法を示す図である。
【
図5D】本発明に従って尖延長器具を植え込む方法を示す図である。
【
図5E】本発明に従って尖延長器具を植え込む方法を示す図である。
【
図6A】本発明にかかる尖延長器具を示す図である。
【
図6B】本発明にかかる尖延長器具を示す図である。
【
図7A】本発明に係る尖延長器具の安定化部分を示す図である。
【
図7B】本発明に係る尖延長器具の安定化部分を示す図である。
【
図9A】本発明に従って腱索相互間に延びる固定部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図9B】本発明に従って腱索相互間に延びる固定部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図9C】本発明に従って腱索相互間に延びる固定部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図9D】本発明に従って腱索相互間に延びる固定部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図9E】本発明に従って腱索相互間に延びる固定部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図10A】本発明に従って腱索相互間に延びる固定部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図10B】本発明に従って腱索相互間に延びる固定部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図11A】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図11B】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図13A】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図13B】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図14A】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図14B】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図14C】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図14D】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図14E】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図14F】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図14G】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図15A】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図15B】本発明に係る尖延長器具を示す図である。
【
図16】本発明に係る尖延長器具の安定化部分を示す図である。
【
図17A】本発明にかかる追加の尖延長器具を示す図である。
【
図17B】本発明にかかる追加の尖延長器具を示す図である。
【
図17C】本発明にかかる追加の尖延長器具を示す図である。
【
図17D】本発明にかかる追加の尖延長器具を示す図である。
【
図18A】インフレート可能な拡張可能部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図18B】インフレート可能な拡張可能部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図18C】インフレート可能な拡張可能部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【
図19】本発明に係る尖延長器具のための拡張可能な部材を示す図である。
【
図20】本発明に係る尖延長器具のための拡張可能な部材を示す図である。
【
図21】本発明に係る摩擦要素を備えた拡張可能な部材の拡大図である。
【
図22】本発明に係る拡張可能な部材を備えた尖延長器具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、前尖及び後尖を備えた僧帽弁を示している。前尖は、半円形の形状を有していて、環状周囲の2/5にくっついている。前尖の動きは、左心室の流入(心拡張)と流出(心収縮)との間の境界を定める。僧帽弁の後尖は、三日月の形をしていて、環状周囲のほぼ3/5に着いている。後尖は、代表的には、尖をP1(前方又は外側スカラップ)、P2(中間スカラップ)、及びP3(後方又は内側スカラップ)として特定される3つの個々のスカラップに分割する2つの明確に定められた凹みを有する。前尖の3つの対応したセグメントは、A1(前方セグメント)、A2(中間セグメント)、及びA3(後方セグメント)である。尖凹みは、後尖が心拡張中に開くのを助ける。
【0015】
図1に示されているように、僧帽弁は、前外側及び後内側交連を有し、これら交連は、前尖と後尖が弁輪中でこれらが一緒になる明確に区分された領域を定める。これら交連は、明確に規定された尖セグメントとして存在することができるが、多くの場合、この領域は、2つの解剖学的ランドマーク、すなわち、(a)対応の乳頭筋の軸線、及び(b)特定の扇形の形態を有する交連腱索を用いて識別できる微細な構造である。弁状組織の数ミリメートルは、交連の自由縁を弁輪から隔てる。
【0016】
僧帽弁は、左心房を左心室から隔てる房室弁である。僧帽弁輪は、左心室と左心房との解剖学的接合部を定める。尖の固定端部は、弁輪に着いている。僧帽弁輪の前方部分は、線維性三角に取り付けられていて、一般に、後方弁輪よりも展開されている。右線維性三角は、大動脈弁輪及び膜性中隔の僧帽、三尖、非冠状弁尖相互間の高密度接合領域である。左線維性三角は、大動脈の左線維性境界部と僧帽弁の接合部の両方に位置している。
【0017】
僧帽弁輪は、後尖の挿入部位のところではそれほど十分には展開されていない。と言うのは、このセグメントは、どの線維状構造にも取り付けられておらず、しかもこの領域における線維状スケルトンが不連続だからである。弁輪の後方部分の周囲は、増大し、それにより左心房又は左心室拡張と関連して僧帽逆流症が生じる場合がある。僧帽弁輪は、鞍形であり、心収縮中、交連領域は、近位側に、すなわち心房の上壁に向かって動き、他方、弁輪収縮はまた、この周囲を狭窄する。両方のプロセスは、尖接合を助け、そしてこれら両方のプロセスは、例えば環状拡張及び石灰化のようなプロセスによって悪影響を受ける場合がある。僧帽弁輪は、大動脈弁、冠状静脈洞、及び回旋動脈を含む幾つかの重要な解剖学的構造によって包囲されている。
【0018】
機能的尖延長部
僧帽弁の弁輪拡大に取り組む従来方式は、主として、弁輪形成術リングを用いて弁輪を再形成すること又は前尖と後尖を接合して接合を容易にすることに焦点が当てられていた。これら方式は、対抗した尖相互間の隙間又は間隔が大きすぎる状態では適していない場合がある。本発明の幾つかの実施形態は、例えば尖を非可逆的に破壊しないで(例えば、尖に穿刺しないでかつ/あるいは尖を完全に穿通しないで)生まれつきの尖を機能的に延長させかつこの生まれつきの尖に取り付けられる尖延長器具であり、その結果、尖延長器具を必要に応じて再位置決めするとともに/あるいは取り外すことができるようになっている。
【0019】
また、尖を延長させる先行技術の試みがあった。幾つかの従来方式は、尖を穿通する固着機構体を利用する。しかしながら、かかる方式は、これらにより尖延長器具の再位置決め及び/又は回収を許容しないので顧みられない場合がある。他の方式は、尖を延長させる器具を用いるが、既存の尖延長部は、尖を穿通するアンカーによって尖に侵襲的に取り付けられる。
【0020】
これとは対照的に、本発明の尖延長器具は、例えば尖を穿通しないで尖に非侵襲的に取り付けられて尖延長部の再位置決め及び/又は取り外しを必要に応じて可能にする。
【0021】
図2A~
図2Cは、生まれつきの心臓弁尖に取り付け可能に構成された尖延長器具100を示している。幾つかの実施形態では、尖延長器具100は、前尖と後尖との間に3~15mmの隙間を埋めるよう構成されている。加うるに、尖延長器具は、尖を非可逆的に破壊しないで(例えば、これを永続的に損傷させないで)尖に取り付けられるよう構成されている。これにより、尖延長器具を必要に応じて取り外したり再位置決めしたりすることができることが見込まれる。
【0022】
尖延長器具100は、弁尖のうちの一方(前尖又は後尖)の代わりに人工接合面を提供するよう構成されている。説明を分かりやすくするために、器具100を僧帽弁の後尖に関して説明するが、器具100は、僧帽弁の前尖や他の心臓弁、例えば大動脈弁又は三尖弁の尖に同様に利用できる。
【0023】
尖延長器具100は、拡張可能な部材110(
図2A~
図2Cに想像線で示されている)及びカバー130を有するのが良い。器具100は、接合部分112、安定化部分114、及び固定部材116を有する。拡張可能部材110は、カテーテルに入れられた状態で血管系を通って送達されるのに適した送達形態及び展開形態を有する。展開形態では、接合部分112は、1つ又は2つ以上の生まれつきの弁尖のための人工接合面を提供するよう位置決めされ、安定化部分114と固定部材116は組み合わせ状態で、器具100を弁解剖学的構造に対して固定するよう構成されている。カバー130は、拡張可能部材110に取り付けられるのが良く又はこれと一体であるのが良い。
【0024】
拡張可能部材110は、メッシュ材料、格子細工フレーム、及び/又は1つ又は2つ以上のストラットを備えたフレームであっても良く、あるいは、拡張可能部材は、フレームに加えて又はフレームに代えて、インフレート可能なコンポーネント(例えば、ブラダ/バルーン)を含んでも良い。図示の実施例では、拡張可能部材110は、主ストラット120(想像線で示されている)及び横ストラット122(想像線で示されている)を有する。主ストラット120は、第1の端部123のところで互いに接合されるのが良く、これら主ストラットは、固定部材116の終端部のところの第2の端部124まで延びている。主ストラット120は、第1の端部123から扇形に広がるとともに展開形態において接合部分112を構成する領域で曲がるよう構成されているのが良い。
【0025】
図3は、カバー130の設けられていないフレーム型の拡張可能な部材110の側面図である。主ストラット120は、第1の端部123のところでハブから延びるとともに扇形に広がり、それにより接合部分112及び安定化部分114内に内容積部132を形成するのが良い。主ストラット120は、例えば、移行部に沿って安定化部分114から接合部分112を通って曲がるのが良く、次に、主ストラット120の全て又はサブセットは、接合部分112からさらに延びて固定部材116の少なくとも一部分を構成するのが良い。固定部材116は、クリップであるのが良く、このクリップは、拡張形態において、安定化部分114に接触して緊密なクリップ止め力を生まれつきの尖に及ぼす。変形例として、固定部材116は、
図3に示されているように隙間134だけ安定化部分114から離隔されても良い。横ストラット122は、主ストラット120を位置決めして主ストラット120が展開後に所望の形態を保持するように構成されているのが良い。
【0026】
図2A~
図3に示された実施例のうちの幾つかにおいて、接合部分112、安定化部分114及び固定部材116は、互いに一体に形成されている。たとえば、接合部分112、安定化部分114及び固定部材116は、拡張可能部材110の連続主ストラット120又は横ストラット122によって一体に形成されるのが良い。他の実施例では、接合部分112、安定化部分114及び/又は固定部材116のうちの少なくとも1つは、他のものから見て別個のコンポーネントであっても良く、あるいは、接合部分112、安定化部分114及び固定部材116の各々は、互いに別体であっても良い。
【0027】
図2A~
図2Cを参照すると、接合部分112は、尖の自由端部を越えて延びるようになっており、それにより、生まれつきの心臓弁尖を機能的に延長させる人工接合面を提供する。接合部分112は、互いに対向した尖と嵌合する任意の滑らかな形状を有してよい。
図2A~
図2Cの図示の接合部分112は、閉ループ又はリングであるが、本発明は、滑らかな形状を一般に用いることができるので図示の実施例には限定されない。接合部分112及び安定化部分114は、カバー130によって封止された中空内容積部132(
図2A及び
図3)を包囲する。植え込み後、器具100の中空内容積部132は、血液で少なくとも部分的にいっぱいであり、血液は、凝固して経時的に組織によって置き換えられる。これは、尖延長器具100の長期間固定に寄与することができる。接合部分112は、カバー130と組み合わせた状態で、対向した生まれつきの尖(前尖)のための非外傷性接合面を提供する。
【0028】
拡張可能部材110がフレームである場合、この拡張可能部材は、任意の生体適合性材料、例えば、プラスチック、ステンレス鋼、又は超弾性自己拡張型材料、例えばニッケル‐チタン合金、例えばニチノール(Nitinol(登録商標))で作られたストラット及び/又はメッシュを含むのが良い。カバー130は、ポリマー又は生体用材料(ポリエチレンテレフタレート(PET)、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、シリコーン、ウレタン、心膜など)で作られた生体適合性ファブリックであるのが良い。カバー130は、縫合糸、接着剤、焼結、及び/又は他の適当な取り付け技術によってストラット120,122に取り付けられるのが良い。
【0029】
作用を説明すると、固定部材116を安定化部分114に向かって付勢して生まれつきの尖を展開時に固定部材116と安定化部分114との間の隙間134内にクランプする。本発明の幾つかの実施形態の一観点は、安定化部分114及び固定部材(心室)116が生まれつきの尖を穿通しないで生まれつきの尖に圧着することにある。固定部材116は、尖の心房側及び心室側などに圧着するよう構成された1つ又は2つ以上のクリップを含むのが良い。
図2A~
図2Cに示された非限定的な実施例では、固定部材116は、クリップであるのが良く、このクリップは、安定化部分114が生まれつきの尖の心房側に当接している間、生まれつきの尖の心室側に当接するが、この構成は、所望ならば逆にしても良い。いずれの場合においても、生まれつきの尖を安定化部分114と固定部材116との間にクランプする(例えば、サンドイッチする)。幾つかの実施例では、尖延長器具100は、生まれつきの尖を穿通しないで安定化部分114及び固定部材116の圧縮力によってのみ生まれつきの尖に取り付けられる。
【0030】
図2Aを参照すると、器具100は、摩擦要素140、例えばクリートをさらに有するのが良く、この摩擦要素は、尖に係合し又はこの中に入り込む。摩擦要素140は、安定化部分114及び/又は固定部材116から延びるのが良い。あるいは、例えば、摩擦要素140は、安定化部分114及び/又は固定部材116に取り付けられるのが良く又はこれと一体に形成されるのが良い。摩擦要素140は、尖との係合を容易にするよう鋭利にされるのが良い。幾つかの場合において、摩擦要素140は、生まれつきの尖を完全に穿通しないで生まれつきの心臓弁尖中に入り込むのが良い。他の場合、摩擦要素140は、生まれつきの弁尖の厚さ全体を完全に穿通する。
【0031】
尖延長器具100は、低侵襲技術を用いて拍動中の心臓内に送達されてこの中に植え込まれるようになっている。例えば、尖延長部は、経大腿方式を用いてカテーテルを経て送達されるのが良い。尖延長器具100は、固定部材116を用いて所望の尖に取り付けられる。
【0032】
安定化部分114及び/又は固定部材116は、生まれつきの尖の全て又は一部分と係合するよう寸法決めされているのが良い。これらが尖全体に係合すると、これらは、引き裂かれた状態の尖を支持するのが良い。変形例として、安定化部分114及び/又は固定部材116は、生まれつきの尖の一部分のみ、例えば後尖の中央スカロップP2と係合するよう寸法決めされているのが良く、それによりスカロップP1,P3が稼働状態のままになる。この実施例では、P1及びP3は、前尖(対向した尖)と自由に接合することができる。
【0033】
図4は、左心房から見た生まれつきの僧帽弁内に埋め込まれた器具の頭角図であり、
図5A~
図5Dは、尖延長器具100を生まれつきの僧帽弁のところに植え込む一実施例を示している。尖延長器具100は、経中隔又は経心房接近法による送達のための管状シース中に圧縮されるのが良い。尖延長器具は、経尖側接近法又は経大動脈接近法により送達されても良い。
図5Aを参照すると、送達カテーテル500又はシースを僧帽弁の後尖PLのP2部分の上方で左心房LA内に位置決めするのが良い。次に、器具カテーテル510を送達カテーテル500に通して前進させて尖延長器具100(
図2A~
図3)が
図5Bに示されているように器具カテーテル510内に依然として納められている間に後尖PLのP2尖縁の中央の近くで生まれつきの弁のところに位置決めするのが良い。
図5Cを参照すると、次に固定部材116を部分的に器具カテーテル510から解除しているときに固定部材116は、尖の心室側表面に当たって折れ曲がる。このプロセス中、医師は、尖延長器具100が適当な高さのところにあること及び固定部材116が腱索相互間を通る。
図5Dは、固定部材116が完全に展開されて安定化部分114が部分的に展開されて安定化部分が内側にかつ外側に扇形に広がった後のプロセスを示している。
図5Eは、尖延長器具100を展開して拡張部材110(
図3)が展開形態に拡張した後のプロセスを示している。プロセスのこの段階では、後尖PLは、安定化部分114と固定部材116との間にクランプされ、他方、
前尖Alは、接合部分112の非外傷性表面に接合・当接する。シースを器具100の心房側端部までいったん引っ込めると、僧帽弁閉鎖不全を軽減し又はなくす上での器具の有効性を評価することができる。この段階では、尖延長器具100は、機能的に展開されるが、依然として送達カテーテルに連結されている。器具100が適正に働いている場合、この器具を送達カテーテルからの取り外し/離脱を行うことができる。もしそうでなければ、器具カテーテル510及び/又は送達カテーテル500を再び前進させて取り外し又は再位置決めのために器具100を直線状にしてこれを圧縮するのが良い。
【0034】
尖延長器具100の形状は、生まれつきの後尖に係合するとともに/あるいは生まれつきの前尖と結合する際のその有効性を高めるように定められるのが良い。
図6Aは、尖延長器具100を示しており、安定化部分114及び/又は固定部材116は、これらが後尖PLを生まれつきの尖のほぼ天然の湾曲形状に保持するように構成されている。
図6Bは、尖延長器具100を示しており、安定化部分114及び/又は固定部材116は、これらが生まれつきの後尖PLを比較的平らにされた形状に保持するように構成されている。
図6Bに示された平らにされた形状は、生まれつきの尖の前縁及び腱索を前尖(図示せず)の比較的近くに位置決めすることができる。接合部分112は、
図6Bで分かるように後尖PLの心房側に幾分凹状の形状を有するのが良く、それにより接合部分112の接合面を位置決めしてこれを生まれつきの前尖に接合させることができる。接合部分112は、
図6Aの断面で見て湾曲した又はそれどころか丸形の形状を有しても良く、あるいは、
図6Bで理解できるように幾分直線状の垂直形状を有しても良く、その結果、前尖は、ある範囲の尖高さにわたって一貫した接合面を有するようになっている。器具100の特定の形状は、患者ごとの互いに異なる解剖学的ばらつき、例えば変性疾患のある患者では部分連枷様尖、又は僧帽弁機能不全のある患者では繋留尖に取り組むよう変更可能である。形状はまた、種々の形式の接合幾何学的形状を達成するよう変更可能である。接合部分112は、比較的垂直であって良い。他のオプションとしては、前尖が「トラップドア」幾何学的形状を成すインプラントの心室特徴に当たって閉じる場合のある形態が挙げられる。
【0035】
図7A及び
図7Bは、植え込み後における左心房から見た尖延長器具100を示している。器具100は、後尖PLの縁の約25~35mmに沿って延びて後尖PLの湾曲縁をたどるのが良い。接合部分112は、
図7Aに示されているように反対側の方向に僅かに湾曲しても良く、あるいは、
図7Bに示されているように比較的真っすぐであっても良い。
【0036】
弁輪から尖縁まで測定した生まれつきの尖の長さは、約20mmから約30mmまでの範囲にある。器具100の安定化部分114は、後尖PLの心房側表面に当接し、この安定化部分は、
図7Aに示されているように比較的真っすぐであっても良く、あるいは、安定化部分114は、
図7Bに示されているように生まれつきの尖の表面領域を可能な限り多く係合/支持するよう球状であっても良い(例えば、広げられていても良い)。
【0037】
安定化部分114は、尖の固定端部を越え、そして
図8Aに示されているように僧帽弁輪の上方で心房壁を部分的に上方に延びるのが良い。安定化部分114のこの形態は、器具100が外側に容易に拡張するとともに心房側表面のうちの多くの部分を覆って器具100の安定性を一段と高めるよう器具100の長手方向寸法を増大させる。例えば、かかる長い安定化部分114は、器具100を心房壁に対して補強して器具100が収縮期血圧下において左心房中に反転するのを阻止するのが良く、かくして、後尖はためき又は逸脱に起因した僧帽弁閉鎖不全の治療を容易にすることができる。
【0038】
図8Aに示された器具100のカバー130は、心房壁中への内方成長を促進することができる。この内方成長の結果として、後尖の中間スカラップP2は、閉鎖位置を永続的にとることができ、その結果、中間スカラップP2は、停止部として効果的に働くようになる。器具100は、安定化部分114の端部を心房壁又は僧房弁輪に固定するために有用な固着機構体(図示せず)、例えばねじ、タック、ねじ又はタック用のアイレットなどを有するのが良い。
【0039】
ヒトの僧帽弁の後尖は、典型的には、腱索の後内側群と前外側群との間の隙間を有し、この隙間は、幅が約8~10mmであるのが良く、固定部材116は、腱索(CT)相互間に一貫して位置決めされるよう構成されているのが良い。
図9Aは、例えば、生まれつきの後尖の心室側表面に当たって横たわるよう構成された器具100の固定部材116を示している。
図9Aに示された固定部材は、比較的狭い幅を有するとともに腱索CT相互間の隙間内に予想通りに位置決め可能な尖った/丸形の先端部を有する。
【0040】
図9B~
図9Dは、直線状(
図9B)、スペードの形(
図9C)、又は扇形に広げられた形(
図9D)をした固定部材116の種々の実施例を示している。
図9B~
図9Dに示された幅の広い固定部材116は、例えば、後尖の一部分がはためき又は逸脱する場合があるときに器具100を安定化するのを助けることができる。
【0041】
図9Eを参照すると、固定部材116は、心室壁筋と後尖との間に配置された生まれつき起こっているアルコーブAA中に延びるのが良い。固定部材116のこの延長により、器具100の安定化を高めることができ、このことは、生まれつきの尖とのより堅固な接触部を形成して生まれつきの尖が収縮期血圧下において上方に反転するのを阻止するのを容易にすることが見込まれる。
【0042】
上述の実施形態のうちの幾つかにおいて、固定部材116のうちの1つ又は2つ以上は、腱索の後内側群と前外側群との間の隙間を貫通して後尖の心室側表面に圧接し、それによりインプラントを定位置に保持する。1つ又は2つ以上の固定部材116はまた、これらが好都合に通過するところではどこでも腱索相互間を通って後尖下においてより内側かつ外側に延びるのが良い。かかる実施形態では、器具100を外側かつ内側に拡張し、その後においてかかる固定部材を腱索相互間に延長させて腱索相互間の中央隙間内で束になるのを回避する必要がある。幾つかの用途では、固定部材116を検索の内側群と外側群との間の中央隙間内にのみ折り返して固定部材116と腱索とのからみ合いを軽減することが望ましい。
【0043】
図10Aは、第1の固定部材116a及び第2の固定部材116bを有する尖延長器具100を示している第1の固定部材116aは、
図2A~
図9Eを参照して上述した固定部材116とほぼ同じであるのが良い。第2の固定部材116bは、器具の外側縁部及び内側縁部の近くに位置し、かかる場合、第2の固定部材116b又は他の心室要素を器具100の最初の展開後に展開することが有利な場合がある。例えば、器具100が内側かつ外側に拡張した後、第2の固定部材116bを腱索相互間の隙間中に前進させるのが良い。幾つかの実施形態では、第2の固定部材116bを器具100の外側部分と内側部分に取り付けられた管1005に通して前進させるのが良い。管1005は、ポリイミドなどで作られるのが良く、これら管を器具100の拡張可能部材110又はカバー130に取り付けるのが良い。例えば、管1005をカバー130が取り付けられるのと同時に、拡張可能部材110に例えばこれら要素の全てを互いに縫合することによって取り付けるのが良い。安定化部分114(
図2A~
図2C)のストラットのうちの1つ又は2つ以上が第2の固定部材116bを受け入れるよう寸法決めされたルーメンを有するようにし、それにより管1005の必要をなくすことが望ましい場合がある。
【0044】
第2の固定部材116bは、展開されたインプラントの形状にならうようあらかじめ形成された弾性材料、例えば超弾性ニッケル‐チタン合金、例えばニチノール(Nitinol(登録商標))で作られるのが良く、その結果、これら第2の固定部材は、圧力を生まれつきの尖の心室側表面に加えるよう付勢されるようになっている。第2の固定部材116bは、非外傷性端部、たとえばパドル又はループをさらに有するのが良く、これらパドル又はループは、把持力を最大にするとともに生まれつきの尖への外傷を軽減するために増大した表面積を有する。
【0045】
器具100は、接合部分112を形成するストラットの一体連続物ではない固定部材116により生まれつきの弁内に位置するのが容易であるのが良い。したがって固定部材116は、個々に又は一緒になって前進して後尖の心室側表面に当たる別々のストラットであるのが良い。
図10Bは、例えば、第2の固定部材116Bに類似していて、生まれつきの尖の心室側表面に当たって位置決めされるよう管1005を通って送り進められる固定部材116を備えたかかる器具100を示している。
【0046】
図11A及び
図11Bは、器具100に用いるのに適した拡張可能な部材110の変形例を示している。拡張可能部材110は、多くの主ストラット120及び横ストラット122を備えたニッケル‐チタン合金の平らなシートから切断形成されるのが良い。
図11Aに最も良く示されているように、多数の中央主ストラット120が安定化部分114、接合部分112、及び固定部材116を連続して貫通するのが良い。ストラット120の安定化部分114は、後尖の心房側表面に当たって横たわるよう付勢されるのが良く、接合部分112は、人工接合面のための支持体となるよう構成されるのが良い。主ストラット120の接合部分は、器具100の安定性を促進するよう横ストラット122によって支持されるのが良い。
図11A及び
図11Bに示された実施例では、心房側表面に当たって横たわるよう構成された4つの主ストラットが設けられ、5つの主ストラット120が接合表面112の構造を定めるよう構成されている。固定構造体116は、固定構造体116が後尖の心室側表面の下に延びるよう3つの中央主ストラット120によって支持されている。
【0047】
器具100を大腿静脈接近部位から経中隔穿刺法により送達するため、器具100全体及び送達システムの外径は、全体として24フレンチ(8mm直径)を超えてはならず、ただし、これよりも大きな直径が幾つかの用途について適当な場合がある。その結果、器具100が直線的にアレイ状に並べられた9つの主支持ストラット120を有する場合、各主支持体120は、非限定的な実施例として、0.5mm(0.020インチ)の最大幅を有するのが良い。
【0048】
これよりも小さな直径を達成するため、器具100は、多くの(おそらくは6~12)の直線状要素(例えば、主ストラット120)を備えた円筒形ニッケル‐チタン合金管を切断することによって構成されるのが良い。これら直線状要素は、強度、安定性、及び尖表面に対する高められた摩擦が得られるよう横ストラット(例えば、シェブロン)又は他の可撓性要素によって互いに連結されるのが良い。直線状要素のほぼ半分は、後尖の心房側表面をたどるよう構成されるのが良い安定化部分114を定めることができ、直線状要素の半分は、尖延長形状を作るよう曲げられるのが良い接合部分112を定めることができる。
【0049】
図12は、幾分平らにされた形状を有するとともに固定効果を向上させるために外方に突き出た横ストラット122を有する器具100の一実施形態を示している。かかる実施形態では、器具100の縁のところに位置する横ストラット122は、さらに外側かつ内側に延長させると器具100をさらに安定化させる。後尖の一部分がはためいた場合又は生まれつきの尖のP1‐P2又はP2‐P3セグメント相互に位置合わせ不良が存在した場合、かかる拡張後の横ストラット122は、尖セグメントをさらに安定化するとともに位置合わせすることができる。
【0050】
図13A及び
図13Bは、個々の固定部材116を備えた器具100の拡張可能な部材110の諸観点を示している。主ストラット120は、第1の端部123から安定化部分114及び接合部分112を通って延びるのが良く、その結果、主ストラット120は、後尖の下の一点のところまで延びるようになっている。器具100は、個々の固定部材116を引っ込み位置から伸長位置まで動かすために通すルーメンを備えた主ストラット120を有するのが良い。その結果、個々の固定部材116を主ストラット120から伸長させてこれが生まれつきの尖の心室側表面に係合してインプラント100を定位置に保持することができる。
図13Aの器具100は、インプラント100の外側縁及び内側縁のところに位置する別個独立に前進可能な固定部材116を有する。変形例として、
図13Bに示された器具100の固定部材116の全ては、別個独立に前進可能である。主ストラット120は、中空金属又はポリマー管であるのが良い。他の実施形態では、
図13A及び
図13Bに示された器具100は、中実の主ストラット120及び主ストラットに取り付けられた別々の管、例えばポリイミド管を有する。かかる別々の管が管の内径に一致した主ストラット120の側部に取り付けられた場合、インプラント100が送達のために圧縮されると、全体的な器具直径が最小限に抑えられる。接合部分112は、上述したようにファブリック覆いによって覆われるのが良い。
【0051】
図13Bは、固定部材116を伸長させたり引っ込めたりする伸長機構体1310をさらに示している。伸長機構体1310は、近位部分1314、遠位部分1316、及び非外傷性先端部1318を備えた個々のワイヤを含むのが良い。ワイヤの遠位部分1316及び先端部1318は、固定部材116を構成する。各可動ワイヤの近位部分1314は、ハンドルまで近位側に延びても良く、あるいは、送達システムにおける別個のプッシュワイヤに解除可能に取り付けられても良い。これにより、適当な位置への各ワイヤの別個独立の運動が可能になる。変形例として、伸長機構体1310は、プランジャ1312を含むのが良く、ワイヤのうちの1本又は2本以上がプランジャ1312に取り付けられるのが良く、その結果、プランジャに取り付けられたワイヤは、全て、同時に送り進められたり引っ込められたりすることができるようになっている(
図13Cに示されているように)。これにより、送達カテーテルの構造が単純化され、植え込みプロセスがスピードアップされ、しかも送達カテーテルからのインプラントの放出が単純化される。
【0052】
図14A~
図14Dは、安定化部分114に対して別個独立に展開される接合部分112を有する器具100を示している。例えば、接合部分112は、別々の要素を有するのが良く、これら別々の要素は、かかる別々の要素を安定化部分114の要素に対して前進させることによって展開される。接合部分112は、接合部分を安定化部分114に対してさらに前進させることによって、インプラント100を拡張して接合具合をさらに向上させることができるよう調節可能であるのが良い。
【0053】
図14A及び
図14Bは、安定化部分114と接合部分112が安定化部分114の遠位領域のところで連携された器具100の幾つかの実施形態を示している。具体的に説明すると、安定化部分114は、第1の主ストラット120aの端部のところに第1の主ストラット120a及びアイレット1410を有し、接合部分112は、アイレット1410を貫通するよう構成された第2の主ストラット120bを有する。器具100は、安定化部分114の第1の主ストラット120a相互間に横ストラット122をさらに有するのが良い。安定化部分114の第1の主ストラット120aは、1枚の扁平な金属シート(例えば、形状記憶材料、例えばニチノール)から切断形成されるのが良く、接合部分112の第2の主ストラット120bは、第2の金属シート(例えば、形状記憶材料、例えばニチノール、例えば
図14A及び
図14Cを参照されたい)から切断形成されるのが良い。
【0054】
図14B及び
図14Dは、第1及び第2の主ストラット120a,120bが拡張状態における所望の最終形状に近い曲線を有するようどのように構成されるかを示している。
図14A及び
図14Bに示された器具100は、固定部分116を構成するようこれら遠位端部のところで互いに連結された中央の第2の主ストラット120bを有する。
図14C及び
図14Dに示された器具100は、複数の固定部材116を構成するよう互いに別々に湾曲した別々の第2の主ストラット120bを有する。接合部分112の第2の主ストラット120bは、安定化部分114の第1の主ストラット120aの遠位端部のところで開口部/アイレット1410を通過している。第1及び第2の主ストラット120a,120bは、器具100の近位端部のところで互いに結合されるのが良い。
【0055】
安定化部分114が後尖の表面に圧接するとともに外側及び内側に扇形に広げられた状態で器具100をいったん展開すると、接合部分112をさらに前進させるのが良く、その結果、固定部材116を構成する第2の主ストラット120bの遠位伸長部は、後尖の心室側表面に当たって下に折り返されるようになる。この運動により、器具100が定位置にクランプされ、それと同時に、接合部分112が持ち上げられるとともに後尖が前尖に向かって延長される。
【0056】
図14E~
図14Gは、
図14C及び
図14Dに示された器具100の展開シーケンスを示している。
図14Eは、器具100を送達カテーテル1420の遠位部分から部分的に露出された後の器具100を示している。この時点で、安定化部分114、接合部分112、及び固定部材116を互いに少なくとも部分的に整列させることができる。
図14Fは、接合部分112が曲がり始めた後の器具100を示しており、
図14Gは、安定化部分114、接合部分112、及び固定部材116がこれらの展開形状に動いた後における器具100を示している。
【0057】
図15A及び
図15Bは、
図2A~
図14Gに示されるとともにこれらの図を参照した上述した器具のうちの任意のものとほぼ同じであるのが良い尖延長器具100の一実施形態を示しているが、
図15A及び
図15Bの器具100は、心房スタビライザ1510を有する。
図15A及び
図15Bに示された器具100は、アイレット1410を備えた安定化部分114、接合部分112、及び固定部材116を有するのが良い。図示の実施形態では、安定化部分114は、第1の主ストラット120aを有し、接合部分112は、第1の主ストラット120aから伸長可能であるのが良い第2の主ストラット120bを有し、固定部分116は、第3の主ストラット120cを有するのが良い。安定化部分114及び固定部材116は、横ストラット122をさらに有するのが良い。接合部分112は、接合部分112及び固定部材116を
図14A~
図14Gを参照して上述したように安定化部分114に対して伸長させるようアイレット1410中を摺動するのが良い。
【0058】
心房スタビライザ1510は、心臓の心房壁に係合するよう構成されている。心房スタビライザ1510は、開口部1520を包囲する長方形の要素として図示されているが、心房スタビライザ1510は、1つのストラット又は一連のストラットであっても良く、あるいは、任意の多角形、円、楕円形、長円形又は心房壁に係合するのに適した他の形状のものであって良い。使用にあたり、心房スタビライザ1510は、心房壁に接触し又は違ったやり方で係合するよう構成され、心房スタビライザ1510は、摩擦要素、例えばクリート及び/又はファブリック覆いを有するのが良い。心房スタビライザ1510は、尖延長器具100のための追加の長期間固定をもたらすことができる組織内方成長及び/又は包封を促進するためのファブリック覆いをさらに有するのが良い。
【0059】
図15A及び
図15Bの尖延長器具100は、安定化部分114が後尖の心房側表面に圧接するとともに外側かつ内側に扇形に広げられた状態で展開されるよう構成されている。接合部分112の前進により、固定部材116は、後尖の心室側表面に当たって折り返され、それにより器具を定位置にクランプすると同時に接合部分112を持ち上げるとともに後尖を前尖に向かって延長させる。
【0060】
図14A~
図15Bに示されるとともにこれらの図を参照して上述した器具100は、特定の機能に向けられた追加の特徴を有するのが良い。例えば、接合部分112を安定化部分114に対して前進させることにより、それと同時に、安定化部分114と一緒に形成されかつ/あるいは安定化部分114上に形成された摩擦要素、バーブ、シェブロン、又はアンカーが展開される。例えば、接合部分112を前進させることにより、かかる摩擦要素が下方に押されて生まれつきの尖の心房側表面に当たり、この中に入り込み、又はこれを通過する。器具100は、接合部分112を安定化部分114に対して特定の位置にロックするロック要素(図示せず)をさらに有するのが良い。例えば、器具は、生まれつきの尖に対する多少の延長部とともに選択的に展開されるロックタブ又は要素を有するのが良い。また、安定化部分114、接合部分112、及び固定部材116のこれらの長さに沿う各点における相対厚さは、展開度に基づいて所望の形状範囲を達成するよう様々であって良い。変形構成例では、接合部分112は、接合ラインに沿って器具100の相対伸長度を調節するよう個々に前進可能な別々の第2の主ストラット120bを有するのが良い。
【0061】
図16は、インフレート可能なバルーン又はブラダ1610を含む拡張可能な部材110を有する尖延長器具100を示している。インフレート可能なバルーン又はブラダ1610は、1つ又は2つ以上の主ストラット及び/又は横ストラットを備えたフレームに加えるかこれに代えるかのいずれかの状態で、
図2A~
図15Bに示されるとともにこれらを参照して上述した尖延長器具100のうちの任意のものに用いることができる。器具が生まれつきの弁のところでいったん定位置に位置すると、インフレート可能なブラダ1610をインフレートさせることができる。ブラダ1610は、ブラダ1610が対向した尖と接合するよう対向した尖に向くように構成された接合部分112を有するのが良い。ブラダ1610は、
図2Aに示されるとともに
図2Aを参照した上述した安定化部分114及び接合部分112によって包囲されている中空内容積部132(
図2A)中に挿入可能である。ブラダ1610をインフレートさせることにより、接合部分112は、対向した心臓弁尖(例えば、前尖)に向かって押される。ブラダ1610は、生まれつきの前尖との接合を可能にするとともに閉鎖不全をなくすよう必要に応じた程度にインフレートされるのが良い。
【0062】
能動的に変位可能な底部部材を備えた尖延長部
図17A~
図17Dは、2つの部材1702,1704を有する例示の尖延長器具1200を示している。部材1702は、第1の端部1702A及びこれと反対側の第2の端部1702Bを有する。部材1704は、第1の端部1704A及びこれと反対側の端部1704Bを有する。第2の端部1702Bは、ねじ、リベットなどを含む従来型取り付け方法を用いて第2の端部1704Bに取り付けられている。部材1702,1704は、任意の生体適合性材料で形成可能であり、かかる生体適合性材料としては、プラスチック、金属などが挙げられる。例えば、部材1702,1704は、ステンレス鋼、ニッケル‐チタン合金、例えばニチノール(Nitinol(登録商標))、又はコバルト‐クロム‐ニッケル‐モリブデン合金、例えばエルジロイ(Elgiloy(登録商標))で作られるのが良い。部材1702,1704は、中実の材料シート、メッシュ、1つ又は2つ以上のストラット、格子細工フレームなどで作られるのが良い。
【0063】
部材1702は、第1のフェース1702F及びこれと反対側の第2のフェース1702Gを有する。部材1704は、第1のフェース1704F及びこれと反対側の第2のフェース1704Gを有する。第1の部材1702の第1のフェース1702Fは、第2の部材1704の第1のフェース1704Fに当接している。第2の部材1704の第1の端部1704Aは、第1の部材1702には取り付けられておらず、この第1の端部は、第1の部材1702に対して弾性的に変位可能である。
【0064】
第1の部材1702と第2の部材1704は、協働して、第1の生まれつきの尖をサンドイッチするとともに把持し、この場合、この尖を穿通することはない。第1及び/又は第2の部材は、生まれつきの心臓弁尖に摩擦係合することができる(穿通しないでこの生まれつきの心臓弁尖中に入り込むことができる)摩擦係合部材を有しても良く、あるいは、摩擦係合要素が生まれつきの心臓弁尖中に穿刺しても良いが、これを穿通することがない。
【0065】
尖延長器具1700は、第1の部材1702の第2のフェース1702Gに取り付けられた接合要素1703を有する。接合要素1703は、涙滴形状を有するのが良くかつ第2の端部1702Bを越えて延びる凸状部分1703Cを有するのが良く、接合要素1703は、好ましくは、第2の生まれつきの尖(図示せず)と非外傷的に接合する滑らかな外面を有する。
【0066】
接合要素1703は、内部フレーム構造を有しても良くあるいはそうでなくても良い生体適合性フォームで作られるのが良い。変形例として、接合要素1703は、1つ又は2つ以上の相互に連結されたストラット又はメッシュで形成されているフレーム構造1708で形成されるのが良い。フレーム構造1708は、ファブリック覆い1710によって封止された中空内容積部を包囲する。
【0067】
テザー1712が第1及び第2の部材1702,1704に作動的に連結されている。幾つかの実施形態では、テザー1712は、第2の部材1704を第1の部材1702に対して能動的に変位させるために用いられる。テザーは、種々の生体適合性材料で形成でき、かかる生体適合性材料としては、金属ワイヤ、例えばステンレス鋼、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)で作られたポリマー縫合糸、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、又はポリエステルが挙げられる。
【0068】
第1の部材1702及び/又は第2の部材1704は、外力に応答して生まれつきの形状から変形後の形状に弾性的に変形するが、外力がいったん除かれると、生まれつきの形状に戻る超弾性合金で作られるのが良く、テザー1712を引っ張ると、第2の部材1704は、第1の部材1702に対して弾性的に変位する。
【0069】
心房安定化部材1718は、心房安定化を提供するのに役立つワイヤ形成物に取り付けられるのが良い第1の部材1702の端部1702A‐1に設けられるのが良い。
【0070】
拡張可能な部材を備えた尖延長部
幾つかの場合、効果的なクランプ力を増大させることが望ましい場合がある。拡張可能な要素を生まれつきの尖と固定部材116か安定化部分114かのいずれかとの間に追加することにより、尖に対する効果的なクランプ力を増大させるとともに尖延長器具100の固定具合を向上させることができる。例えば、
図18A~
図18Cは、拡張可能な要素1810を有する器具を示している。拡張可能要素1810を尖の心房側上に配置することができるが、本発明は、尖延長器具の固定部材116と生まれつきの心臓弁尖の心室側表面との間に拡張可能要素1810を追加することに焦点を当てている。拡張可能要素を尖の下に配置することにより器具の運動を制限するとともに対向した尖の閉鎖が起こる際の当接対象であるより安定性のある構造体を提供することができる。
【0071】
例えば、拡張可能要素1810はまた、完全に開く尖の機能を妨害することによって尖の運動を制限することができる。拡張可能要素1810は、心室壁に向かって拡張することができ、その結果、拡張可能要素は、心室壁に心拍周期の間、間欠的に又は連続的に触れるようになる。これは、多くの理由で有利な場合がある。このことにより、器具100及び/又は尖を安定化させることができ、それにより過度の運動及びインプラント、クリッピングされた尖、前尖、又は隣接の尖に対する何らかの摩耗、応力、又は損傷を減少させることができる。
【0072】
拡張可能要素1810は、潜在的に、種々の仕方で修復済みの弁における閉鎖不全を減少させることができる。拡張可能要素は、尖延長器具100が尖延長器具100を対向した尖に向かって押すことによって対抗した尖と接合する能力を向上させることができる。拡張可能要素はまた、P2尖をより適切な位置に保持するか又はP1及びP3が接合することができる表面を作るかのいずれかによって、隣接の尖、例えば後尖のP1及びP3弁尖と接合する能力を向上させることができる。
【0073】
図18A~
図18Cは、拡張可能要素1810の実施例を断面で示している。
図18Aは、器具100が最初に配置されたときの器具100を示し、
図18B及び
図18Cは、拡張可能要素1810の拡張後の器具100を示している。拡張可能部材1810の断面形状は、
図18Bと
図18Cの差異に示されているように種々の輪郭形状を有することができる。例えば、生まれつきの尖は、平らにされた又は湾曲した形状に保持可能であり、拡張可能要素1810は、断面が全体として丸形、三角形、又は多角形であるのが良く拡張可能要素1810は、心室壁に向かって拡張しても良く又はそうでなくても良い。
【0074】
拡張可能要素1810の断面輪郭形状に加えて、他の寸法方向における拡張可能要素1810の輪郭形状は、これと等しく重要である。例えば、固定部材116は、後尖の無索領域中に配置するのを容易にするために比較的狭い遠位輪郭形状を備える場合がある。拡張可能要素1810を固定部材116と尖の心室側表面との間で拡張させた場合、拡張可能要素1810の遠位端部は、
図18B及び
図19に示されているように尖の心室側表面に接触するよう幅が広いのが良い。これにより、拡張可能要素1810に心室壁に向いた幾分三角形の輪郭形状を与えることができる。固定部材116は、尖縁部のより近くにおいては、尖縁部の無索ゾーンとほぼ同じほど広いのが良く、拡張可能要素1810は、同じほど広く又は幾分これよりも広いのが良い。
【0075】
上述したように、拡張可能要素1810は、心室壁に常時触れ又は圧接するよう後方に延びるのが良い。変形例として、拡張可能要素は、後壁との接触具合を最小限に抑えるよう設計されても良く、その結果、少なくとも幾分かの運動範囲が後尖について可能な状態のままでいることができる。これにより、後尖が心拡張期の際に幾分開くことができ、それにより僧帽弁中の潜在的な勾配を減少させることができる。また、かかる形状により、後で人工置換僧帽弁を植え込むことが必要な場合、尖及び植え込まれた器具を邪魔にならないところへ押して心室壁に当てるのが良い。
【0076】
拡張可能要素1810はまた、生まれつきの尖の弁尖P1,P3の心室側の下で外側に拡張するよう設計されているのが良い。拡張可能部材110の外側拡張部は、P1とP2の間、又はP2とP3の間の任意の隙間をまたぐのが良い。これらはまた、P1及びP3をP2尖と整列した状態で全体的に閉鎖された位置に保持することができる。しかしながら、これら外側伸長部の拡張を妨害する傾向のあるストラット索、三次腱、又はそれどころか一次腱が存在する場合がある。したがって、これら外側伸長部は、腱の周りにかつ腱相互間で拡張することができる極めて低い圧力の拡張性の高いバルーン要素であるよう設計される場合があり、又は、これら外側伸長部は、
図20に示されているように腱相互間で伸長する多数のフィンガ状伸長部であっても良い。
【0077】
拡張可能要素1810それ自体は、インフレート可能なバルーン又はブラダを有するのが良い。ブラダは、上述の特定の設計上の目的を達成するために特定の寸法及び形状に合わせて拡張するよう構成されているのが良い。変形例として、拡張可能要素は、拡張可能な弾性バルーンであっても良く、この拡張可能な弾性バルーンは、これが器具の残部によって、腱もしくは弁尖によって、又は心室壁によって拘束されるまでより球形の形状に拡張する。
【0078】
また、拡張可能要素1810には剛性又は半剛性の要素が取り付けられても良い。
図21を参照すると、器具は、弁尖との摩擦係合具合を向上させる摩擦要素2114、例えば、バンプ、スパイク、又は他の特徴部を有するのが良い。変形例として、摩擦要素2114は、拡張可能要素1810を上述の潜在的な形状、例えば三角形、プリズム形状、又は多面体形状に拘束するための剛性又は半剛性直線要素であっても良い。例えば、拡張可能要素1810は、尖の心室側表面に並置してこれが尖の領域としっかりと係合するのを助ける表面に取り付けられた剛性の直線要素を有するのが良い。拡張可能要素1810が送達のために潰されたとき、これら要素は、固定部材116と整列して送達輪郭形状を最小限に抑える。これら剛性直線要素は、弁尖の表面との摩擦係合具合をさらに高める隆起部、溝、バンプ、スパイク、又は他の特徴部をさらに有するのが良い。
【0079】
拡張可能要素1810は、生体適合性材料、例えばウレタン、発泡PTFE、ポリエステル、ポリオレフィン、もしくは他の材料、又はこれらの組み合わせで作られたバルーン又はブラダであるのが良い。例えば、ブラダは、組織内方成長及び接合面の組織適合性を最適化するための発泡PTFEの外面、及び漏れのないインフレーションのためにブラダを封止するためのウレタンの内側層を有する場合がある。
【0080】
送達中、拡張可能要素1810は、インフレーション管がインフレーションのために挿入された状態で送達される場合がある。このインフレーション管は、器具の送達カテーテルを通って上方に延びる。拡張可能要素1810が所望の形状又は体積にいったんインフレートされると、拡張可能要素1810がそのサイズに永続的にインフレートされたままの状態にするよう管を引っ込めるのが良い。
【0081】
拡張可能要素1810は、ある期間の経過後に架橋し又は硬化する1種類又は複数種類のポリマーを備えた状態でインフレートされるのが良く、その結果、ブラダの寸法形状は、永続的である。かかるポリマーの実施例は、ポリエチレングリコール、シリコーン、メタクリレートその他である。拡張可能要素1810はまた、生体適合性材料で作られたコイル状及び/又は組物状構造体で満たされるのが良い。これらコイルは、血管内コイル化のために用いられるコイルとほぼ同じであるのが良い。変形例として、拡張可能要素1810は、永続的に液体のままである生理食塩水又は他の生体適合性溶液でインフレートされても良い。このように、例えば人口僧帽弁の植え込みのための場所を作るために、将来において拡張可能要素1810をデフレートさせることが望ましい場合、これは、ブラダを針で穿刺して破裂させることによって達成できる。これは、インターベンションカテーテル技術を用いて実施できる。
【0082】
変形例として、拡張可能要素1810は、エラストマー部材又は拡張可能な機械的構造体で作られても良い。例えば、拡張可能要素1810は、追加の超弾性フレーム、組物、コイル、又はメッシュであっても良い。これにより、拡張可能要素を送達のための低い輪郭形状に潰すことができ、次に拡張可能要素は、これがいったん定位置に位置すると自己拡張する。組物又はメッシュ構造体は、ステンレス鋼、又はコバルト‐クロム‐ニッケル‐モリブデン合金(例えば、エルジロイ(Elgiloy(登録商標)))で作られても良い。かかる拡張可能要素1810は、内容積部が拡張中又は拡張後に血液で満たすことができるようにする開口部を有するのが良い。
【0083】
上述の実施形態は、弁尖の縁部の周りに折り返し可能な超弾性ニッケル‐チタン合金(例えばニチノール(Nitinol(登録商標)))フレームで作られた固定及び安定化要素を備える植え込み可能な尖延長器具を説明した。代替方式として、このフレームは、ステンレス鋼、コバルト‐クロム鋼、39~41%コバルト、19~21%クロム、14~16%ニッケル、11.3~20.5%鉄、6~8%モリブデン、及び1.5~2.5%マンガンからなる「超合金」、例えばエルジロイ(Elgiloy(登録商標))、又はニチノール(Nitinol(登録商標))よりも強固でありかつ堅い他の生体適合性金属又は金属合金で作られても良いが、ほぼ同じ超弾性を示すわけではない。尖延長器具1300がこれら金属で作られた場合、かかる尖延長器具は、外側に扇形に広がるのに十分な弾性を有するが、尖の縁部周りの折り返しを行うのに十分ではない。したがって、非超弾性フレームを備えたかかる器具は、U字形にあらかじめ形成されても良く、その結果、これは、
図22に示されているように後尖の下に引っ掛け可能である。かかる器具は、延長された尖の縁に沿う湾曲した縁部ではなく、鋭利な縁部を備えた“V”字形に形成されても良い。かかる設計は、必ずしも、血液で満たされる容積部を包囲するわけではない。
【0084】
Uの開いた端部2212は、尖をひっかけることに足るほど大きな3~5mmの開口部を備えるのが良い。器具がいったん定位置に位置すると上述したような拡張可能要素は、尖をクランプするようインフレート可能又は拡張可能である。尖延長器具100が弁閉鎖不全を適切に減少させるように見えない場合であっても、器具100は、後尖から押し離されて送達シース中に戻されるのが良い。3~5mm開口部は、フックの近位端部がシースの開口端部によって捕捉されるのに足るほど小さいであろう。この場合、このシースは、これを器具上でこれに沿って前進させているときに外側に拡張された尖延長部を圧縮することになる。