(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】リン脂質と脂肪酸塩の分散体を含む調製物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20240216BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20240216BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20240216BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240216BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240216BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240216BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C12N5/02
A23K20/158
A23L33/12
A61K35/28
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/24
(21)【出願番号】P 2021529680
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2019082919
(87)【国際公開番号】W WO2020109472
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-07
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルティン シリング
(72)【発明者】
【氏名】マリオ ゴメス
(72)【発明者】
【氏名】ボド スペックマン
(72)【発明者】
【氏名】アンネ ベネディクト
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ケスラー
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト ウィンドハープ
(72)【発明者】
【氏名】イネス オクロンベル
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155396(WO,A1)
【文献】特開平06-183954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
A61K47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのリン脂質と、陽イオンおよびω-3またはω-6脂肪酸由来の陰イオンからなる少なくとも1つの脂肪酸塩との分散体を含
み、
前記脂肪酸塩中の陽イオンが、リシン、アルギニン、オルニチン、およびそれらの混合物のうちの1つに由来する有機陽イオンである調製物。
【請求項2】
前記脂肪酸が、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(ARA)、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、および/またはそれらの誘導
体から選択される、請求項1記載の調製物。
【請求項3】
前記リン脂質が、40重量%を超え
るホスファチジルコリンと、5重量%未満のホスファチジルエタノールアミンと、を含む脱油リン脂質である、請求項1
又は請求項2記載の調製物。
【請求項4】
前記リン脂質が、前
記脂肪酸の70重量%を超えるオレイン酸および/またはリノール酸を含む非水素化リン脂質である、請求項1~請求項
3のいずれか1項記載の調製物。
【請求項5】
前記脂肪酸塩に対する前記リン脂質の質量比が0.005を超
える、請求項1~請求項
4のいずれか1項記載の調製物。
【請求項6】
粉末状または液状であることにより、pH6.5~pH7.5のpH値で水と混合した場合に、平均粒径が1μm未
満であるコロイド分散液を生じる、請求項1~請求項
5のいずれか1項記載の調製物。
【請求項7】
前記リン脂質と前記脂肪酸塩の両方が存在し、100μg以下の量で検出可能であるように、前記成分が互いに細かく分散されている、請求項1~請求項
6のいずれか1項記載の調製物。
【請求項8】
請求項1~請求項
7のいずれか1項記載の調製物を含む、細胞培地などの培地。
【請求項9】
前記培地が液状、ゲル状、粉末状、顆粒状、ペレット状、または錠剤状である、請求項
8記載の培地。
【請求項10】
少なくとも以下の工程:
a)リン脂質と脂肪酸塩を水混和性溶媒に一緒に溶解し、少量の水を添加して前記塩を完全に溶解する工程と、
b)前記溶液を水系に添加し、脂質分散液を調製する工程と、
c)超音波処理または均質化により、前記脂質分散液の粒径を、平均粒径が500nm未
満となるように低減する工程と、
d)前記調製物を乾燥させる工程と、
を含む、請求項1~請求項
7のいずれか1項記載の調製物の調製方法。
【請求項11】
少なくとも以下の工程:
a)リン脂質を水混和性溶媒に溶解する工程と、
b)脂肪酸塩を水系に溶解し、前記リン脂質溶液を添加して脂質分散液を調製する工程と、
c)超音波処理または均質化により、前記脂質分散液の粒径を、平均粒径が500nm未
満となるように低減する工程と、
d)前記調製物を乾燥させる工程と、
を含む、請求項1~請求項
7のいずれか1項記載の調製物の調製方法。
【請求項12】
前記水混和性溶媒がエタノール、グリセロールおよびプロピレングリコールのうちの1つまたは複数から選択される、請求項
10または請求項
11記載の方法。
【請求項13】
細胞および組織培養、臓器保存、人間または家畜の栄養摂取、製薬または化粧品の分野で、多価不飽和脂肪酸を細胞、組織、臓器または有機体に提供するための、請求項1~請求項
7のいずれか1項記載の調製物の使用。
【請求項14】
間葉系幹細胞の培養および増殖刺激のための、請求項1~請求項
7のいずれか1項記載の調製物の使用。
【請求項15】
飼料補助材もしくは栄養補助食品、あるいは医薬品としての、請求項1~請求項
7のいずれか1項記載の調製物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン脂質とω-3脂肪酸塩を含む組成物、そのような組成物をリポソームの形で調製するための配合物および方法、ならびにそれらの用途について記載する。
【背景技術】
【0002】
ω-3脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸(DHA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)は、人間の健康にさまざまな有益な効果をもたらすことが知られており、それらはさまざまな細胞成分の重要なビルディングブロックであり、シグナル伝達分子の前駆体として機能する。
【0003】
これらの化合物の主な供給源は、植物由来の油に加えて魚や藻類の油であり、それらはトリグリセリドの形で存在する。エチルエステル由来の油だけでなく、種々の油が市販されている。
【0004】
食品や栄養補助食品によって1日当たりに摂取できるこれらのω-3源は限られているので、これらの脂肪酸の最大の生物学的利用能を確保することが重要である。消化器系における疎水性栄養素の生物学的利用能は低いことが多く、当該栄養素はカプセルやピルの形で食事とは独立して摂取されることが多いので、特にサプリメントにとって課題となる。消化液(胆汁酸、リン脂質、リパーゼ)の分泌は、絶食状態ではほとんどまたは全く促されない。そのため、油脂の不完全な酵素加水分解、低可溶性、そして低生物学的利用能をもたらす。
【0005】
消化器系の下部(例:小腸や大腸)でω-3脂肪酸を放出するために、高度な配合技術を使用して消化器系の一部をスキップすると、生物学的利用能のさらなる課題が生じる。各放出ポリマーでコーティングされたカプセルまたは錠剤をこの目的のために使用することができる。これらの系では、上記の自然な可溶化メカニズムの効果が乏しく、生物学的利用能を低下させるので、適切な手段で補う必要がある。
【0006】
ω-3脂肪酸を(例えば、無血清細胞培地組成物の一部として)インビトロ培養用に単離された細胞および組織へ供給する場合も同じことが当てはまる。これらの用途では、消化管での可溶性は、生体適合性と生物学的利用能を最大化するために、自然系に近い配合物によって再現されることが好ましい。細胞培地への添加では、滅菌フィルターを最適に通過できるように脂肪酸を培地に分散させることも不可欠である。
【0007】
生物学的利用能の課題を解決するために、ω-3脂肪酸の配合物、化学修飾、またはその両方によって、さまざまなアプローチが開発されてきた。
【0008】
有望なアプローチの1つは、ω-3脂肪酸エステルの加水分解とそれに続く鹸化である。これは、自然の消化プロセスの一部を再現しており、それによって溶解度を高める。特許文献1は、酸化に対して安定化し得る多価不飽和ω-3脂肪酸塩を含む組成物を記載している。
【0009】
配合物はまた、生物学的利用能を改善することができる。例えば、特許文献2は、界面活性剤を含む自己乳化油配合物が、胃での分散を増進し、生物学的利用能を上昇させることを開示している。そのような系の欠点は、それらが通常、「持続的に供給されず、かつ消費者にどんどん受け入れられなくなっている非イオン性の合成界面活性剤」を必要とする点である。別の欠点は、水に分散した後に微細な油滴を生成するのに必要な油またはエチルエステルと比較して、界面活性剤および共界面活性剤の量が多い点である。最後に、これらの系はまだ液体状態であるため、酸化しやすく、通常、酸化防止剤の添加と、加工や包装に関する特別な事前準備が必要である。
【0010】
ホスファチジルコリン(レシチン)などのリン脂質は、生体適合性が高く、消化しやすい天然の両親媒性物質および食品成分である。それらは、食品業界で乳化剤として、そして何十年にもわたって栄養補助食品として使用されてきた。したがって、ω-3脂肪酸形態を生成するためにリン脂質が使用されてきたことは驚くべきことではない。たとえば、非特許文献1および非特許文献2では、ω-3遊離脂肪酸とエステルからリン脂質系のリポソーム配合物を調製している。
【0011】
しかし、ω-3エステルおよび脂肪酸のリン脂質系リポソーム配合物にもいくつかの欠点がある。ω-3トリグリセリドとエチルエステルは極性が非常に低いため、リポソーム二重層に安定して分散できるのは少量のみである。また、油といくつかのリン脂質の粘着特性が原因で、追加の賦形剤を添加することなく乾燥によって、それらをより濃縮された粉末形態に転換することは困難である。遊離脂肪酸の使用には遊離脂肪酸の中和が必要であり、これにより処理が複雑になり、リポソームの品質と安定性が低下する可能性がある。また、その際(NaOHまたはKOHを介して)ナトリウムやカリウムなどの対イオンも導入される。これらは栄養用途やその他の用途において望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開公報第2016/102323A1
【文献】国際公開公報第2010/103402A1
【非特許文献】
【0013】
【文献】Alaarg et al.(International Journal of Nanomedicine 2016年:11 5027~5040頁)
【文献】Hadian et al.(Iranian Journal of Pharmaceutical Research(2014年)、13(2):393~404頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
驚くべきことだが、上記の課題を克服するω-3調製物は、リン脂質とω-3脂肪酸塩との混合物から調製できることがわかった。特に、対イオンとして塩基性アミノ酸を含む塩は、有益な特性を持っていることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明の一態様は、少なくとも1つのリン脂質と、陽イオンおよびω-3またはω-6脂肪酸由来の陰イオンからなる少なくとも1つの脂肪酸塩との分散体を含む調製物である。
【0016】
本発明に係る分散体は、IUPACの定義によれば、複数の相を含む材料であり、当該複数相では、少なくとも1つの相が、「連続相全体に分散した、しばしばコロイドサイズ範囲内で細かく分割された位相領域」からなる。2つの相は、同じ状態であっても異なる状態であってもよい。それらは、溶解した分子が溶質と別個の相を形成しない溶液とは異なる。本発明は、コロイド(ミニエマルジョンまたはマイクロエマルジョン)または懸濁液(粒径が1μmを超えるエマルジョン)としての、液体媒体中の液相からなる分散液と、コロイド(ゾル)または懸濁液(粒径:1μm超)としての、液体媒体中の固相からなる分散液と、の両方を指す。さらに、本発明はまた、固体ゾルと呼ばれる、固体連続媒体中の固相からなる分散物にも関する。
【0017】
コロイドは、1nm~1μmの分散相を有する分散体であり、液相が液体連続媒体に分散している場合はエマルジョン、固相が液体連続媒体に分散している場合はゾル、そして固相が固体連続媒体に分散している場合は固体ゾルとして定義される。
【0018】
そのような分散体の調製方法は、改善され、単純化されてよい。組成物は、より良い品質と安定性を有することがわかった。ナトリウムなどの不要な無機対イオンの含有量を減らしてもよい。液体形態の滅菌濾過は、本発明の組成物によって、他の形態のω-3脂肪酸と比較して、著しく促進された。本発明の組成物から調製された乾燥粉末は、処理を容易にするより良い特性を有することがわかった。
【0019】
そのような配合物は、微生物や動物(ヒト細胞を含む)に対するω-3脂肪酸の生物学的利用能を著しく向上することもわかった。
【0020】
本発明の組成物は、ω-3脂肪酸の二重層および塩、好ましくはω-3脂肪酸のアミノ酸塩を形成することができるリン脂質からなる。リン脂質は、複雑な混合物(例:脱油レシチン)、脂肪酸組成が変化する規定バックボーン(例:不飽和または水素化脂肪酸を有するホスファチジルコリン)、または精製および規定化合物(例:ジオレイルホスファチジルコリン、DOPC)であってよい。
【0021】
本発明の好ましい形態では、脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(ARA)、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸および/またはその誘導体、好ましくはω-3脂肪酸であるEPAおよびDHAから選択される。
【0022】
さらに好ましい形態では、脂肪酸塩中の陽イオンは、リシン、アルギニン、オルニチン、コリン、およびそれらの混合物のうちの1つに由来する有機陽イオンである。
【0023】
本発明の代替形態では、リン脂質は、40重量%を超える、好ましくは70重量%、より好ましくは90重量%を超えるホスファチジルコリンと、5重量%未満、好ましくは1未満のホスファチジルエタノールアミンとを含む脱油リン脂質である。
【0024】
代替実施形態では、リン脂質は、総脂肪酸の70重量%を超えるオレイン酸および/またはリノール酸を含む非水素化リン脂質である。
【0025】
本発明のさらに好ましい形態では、脂肪酸塩に対するリン脂質の質量比は、0.005より大きく、好ましくは0.01より大きく、より好ましくは0.09より大きく、最も好ましくは0.39より大きい。
【0026】
代替実施形態では、調製物は、粉末状または液状であり、pH6.5~7.5のpH値で水と混合した場合に、平均粒径が1μm未満、好ましくは500nm未満、最も好ましくは250nm未満のコロイド分散液をもたらす。
【0027】
別の実施形態では、リン脂質と脂肪酸塩の両方が存在し、100μg以下の量で検出可能であるように、当該成分は互いに細かく分散されている。
【0028】
本発明のさらなる主題は、前述の請求項のいずれか1項記載の調製物を含む、細胞培地などの培地である。
【0029】
好ましい実施形態では、培地は、液状、ゲル状、粉末状、顆粒状、ペレット状、または錠剤状である。
【0030】
他の好ましい実施形態では、培地は、使用時の培地の濃度と比較して、2倍、3倍、3.33倍、4倍、5倍または10倍に濃縮された形態(体積%)の液体培地である。これにより、当該濃縮培地をそれぞれの量の滅菌水で簡単に希釈することにより、「すぐに使用できる」培地を調製することができる。本発明に係る培地のそのような濃縮形態はまた、それを培養物に添加することにより、例えば流加培養プロセスにおいて、使用されてもよい。
【0031】
本発明の別態様は、少なくとも以下の工程を含む、本発明に係る調製物の調製方法に関する。
a)リン脂質と脂肪酸塩を水混和性溶媒に一緒に溶解し、少量の水を添加して前記塩を完全に溶解する工程と、
b)前記溶液を水系に添加し、脂質分散液を調製する工程と、
c)超音波処理または均質化により、前記脂質分散液の粒径を、平均粒径が500nm未満、好ましくは250nm未満となるように低減する工程と、
d)必要に応じて、好ましくはスプレー乾燥または凍結乾燥により、前記調製物を乾燥させる工程。
【0032】
本発明に係る方法の代替実施形態は、少なくとも以下の工程を含む。
a)リン脂質を水混和性溶媒に溶解する工程と、
b)脂肪酸塩を水系に溶解し、前記リン脂質溶液を添加して脂質分散液を調製する工程と、
c)超音波処理または均質化により、前記脂質分散液の粒径を、平均粒径が500nm未満、好ましくは250nm未満となるように低減する工程と、
d)必要に応じて、好ましくはスプレー乾燥または凍結乾燥により、前記調製物を乾燥させる工程。
【0033】
本発明に係る方法の好ましい実施形態では、水混和性溶媒は、エタノール、グリセロール、およびプロピレングリコールのうちの1つまたは複数から選択される。
【0034】
本発明の別態様は、好ましくは細胞および組織培養、臓器保存、人間または家畜の栄養摂取、製薬または化粧品の分野で、多価不飽和脂肪酸を細胞、組織、臓器または有機体に提供するための、本発明に係る調製物の使用に関する。
【0035】
特定の実施形態は、間葉系幹細胞の培養および増殖刺激のための本発明に係る調製物の使用に関する。
【0036】
代替実施形態は、飼料補助材もしくは栄養補助食品、あるいは医薬品としての本発明に係る調製物の使用に関する。
【0037】
本発明のさらなる主題は、本発明に係る調製物と、少なくとも1つのさらなる飼料または食品成分(好ましくは、タンパク質、炭水化物、脂肪、さらなるプロバイオティクス、プレバイオティクス、酵素、ビタミン、免疫調節薬、代用乳、ミネラル、アミノ酸、抗コクシジウム薬、酸系製品、医薬品、およびそれらの組み合わせから選択されるもの)と、を含む飼料原料組成物または食物組成物である。
【0038】
本発明に係る飼料原料組成物または食物組成物はまた、ピル、カプセル、錠剤または液体の形の栄養補助食品を含む。
【0039】
本発明のさらなる主題は、本発明に係る調製物と、薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物である。
【0040】
本発明に係る調製物は、動物やヒトに投与された場合、健康状態(特に、腸の健康、心臓血管の健康、心臓代謝の健康、肺の健康、関節の健康、眼の健康、精神の健康、口腔の健康、または動物もしくはヒトの免疫の健康)を改善することが好ましい。
【0041】
したがって、本発明のさらなる主題は、健康状態(特に、腸の健康、心臓血管の健康、心臓代謝の健康、肺の健康、関節の健康、眼の健康、精神の健康、口腔の健康、または動物もしくはヒトの免疫の健康)を改善する本発明に係る組成物であり、当該組成物は本発明の一部である。
【実施例】
【0042】
ω-3脂肪酸の調製の特徴は、以下の方法である。
1.1 粒径測定
粒径については、動的光散乱法(DLS)測定(Zetasizer Nano ZS社、マルバーン)で測定した。
1.2 濁度測定
調製物の濁度については、水で100倍に希釈した後、光路長1cmのキュベット内で600nmの光度計で測定した。
1.3 滅菌ろ過性
5mLの液体調製物を0.2μm滅菌シリンジフィルターでろ過した。ろ過のしやすさを、逆圧の増加または完全目詰まりによって評価した。600nmでの測光による濁度測定は、ろ過の前後に評価した。濁度が高いほど、粒径が大きい。濁度の低下は、ろ過による材料の損失のサインである。サンプルの組成変化は、できるだけ少なくする必要があるため、これは望ましくない。
1.4 乾燥および粉末特性の評価
調製物を凍結乾燥し、当該乾燥調製物の濃度と流動挙動を定性的に評価した。
【0043】
実施例1:リン酸塩緩衝液中でのジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)を用いたω-3脂肪酸分散液の調製および特性評価
ω-3脂肪酸分散液の配合物を調製するために、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC、Lipoid GmbH社)(0.8g)を、エタノール(1mL)に溶解した。0.2gの魚油(ω-3 1400、Doppelherz(登録商標))、ω-3エチルエステル(PronovaPure(登録商標)500:200 EE、BASF社)、ω-3リジン塩の形の遊離ω-3脂肪酸のリジン塩(AvailOm(登録商標)、Evonik社)、ω-3脂肪酸オルニチン塩、またはω-3脂肪酸アルギニン塩を添加し、溶解した。リジン塩はエタノールに溶解しなかったが、蒸留水(20μL)を添加すると溶解することがわかった。
ω-3リジン塩の形の遊離ω-3脂肪酸のリジン塩(AvailOm(登録商標)、Evonik社)は、約67%の脂肪酸と、大量のω-3脂肪酸(EPAおよびDHA)と、少量のω-3脂肪酸(ドコサペンタエン酸)およびω-6脂肪酸(アラキドン酸、ドコサテトラエン酸およびドコサエン酸異性体)と、を含む。
各溶液1mLを、45℃の温度で激しく攪拌しながら、20mLの0.1Mリン酸塩緩衝液(pH=8)に滴下した。必要に応じて、NaOHでpHをpH=8に調整した。その後、分散液を氷上に置き、15分間超音波処理(Branson Sonifier、100%振幅、50%インパルス)して、ナノメートルスケールの分散液(推定上、リポソーム)を生成した。分散液を0.2μmシリンジフィルターで滅菌ろ過した。1.2に記載されているように、濁度と粒径を滅菌ろ過の前後に測定した。調製物は、40g/Lのリン脂質および10g/Lのω-3脂肪酸またはエステルを含んでいた。最終工程で、分散液を凍結乾燥し、得られた調製物の外観を視覚的に分析した。
驚くべきことだが、ω-3脂肪酸のリジン、アルギニンまたはオルニチン塩で得られた調製物は、粒径がより小さく、最良の濾過特性を示し、凍結乾燥後の粘着性粉末が実質的に少ないことがわかった。比較例としてのトリグリセリドおよびエチルエステル、ならびに(本発明に係る)脂肪酸リジン、アルギニンおよびオルニチン塩の結果を表1にまとめる。
表1:DOPCを用いた様々なω-3脂肪酸分散液の特性
【表1】
【0044】
実施例2:水中でのDOPCを使用したω-3脂肪酸およびω-3脂肪酸リジン塩分散液の調製
リン酸塩緩衝液の代わりに水を使用した点以外は、実施例1に記載した通りに配合物を調製した。ω-3脂肪酸リジン塩(AvailOm(登録商標)、Evonik社)に加えて、対応するω-3遊離脂肪酸を使用して、2つの形態の相違点を見つけた。水に脂質を添加した後、pH電極を使用してpHを測定したところ、遊離酸による配合物はやや酸性であり、適切な分散液を得るためには超音波処理の前にNaOHで調整する必要があった。しかし、それぞれの塩を添加すると、塩基を添加することなく超音波処理によって分散させることが可能な適切なpHの調製物が得られた。
驚くべきことだが、ω-3脂肪酸リジン塩(2.2)を含む凍結乾燥生成物は、ω-3遊離脂肪酸を処理して得られる粉末よりも流動性が高く、粘着性が少なく(比較例2.1)、したがって、そのような粉末の処理において利点をもたらす。結果を表2に示す。
表2:ω-3遊離脂肪酸とω-3脂肪酸リジン塩で調製された組成物の相違点
【表2】
【0045】
実施例3:リン脂質に対する脂肪酸塩の様々な比率での、DOPCによるω-3脂肪酸リジン塩分散液の調製および特徴付け
リン酸塩緩衝液の代わりに水を使用し、かつリン脂質に対するω-3脂肪酸塩の異なる比率を使用した点以外は、実施例1に記載した通りに配合物を調製した。得られた水性分散液はすべて、10g/Lのω-3脂肪酸塩を含んでいたが、DOPCの濃度は異なっていた。リン脂質を含まないω-3脂肪酸塩のコロイド水溶液も比較のために調製した。得られた分散液5mLを20mMリン酸塩緩衝液(45mL)(pH=7)で希釈し、粒径と濁度を測定することにより、生理学的pHでの分散特性を評価した。希釈された分散液の濁度を、96ウエル・マイクロタイタープレートで、600nm、液体体積100μLで、マイクロプレートリーダー(Tecan Infinite 200 PRO)で測定した。驚くべきことだが、リン脂質を添加していないω-3脂肪酸塩と比較して、ω-3脂肪酸塩の分散性を向上するには、少量のDOPCで十分であることがわかった。これは、濁度の低下と粒径の低減によって実証され得る。結果を表3にまとめる。
表3:DOPCとω-3脂肪酸リジン塩の様々な比を有する組成物、pH=7で組成物を希釈した後に得られた粒径および濁度
【表3】
【0046】
実施例4:水中でレシチンを用いたω-3脂肪酸分散液の調製および特性評価
DOPCの代わりに、ホスファチジルコリン含有量が90重量%を超える脱油ヒマワリレシチン/ホスファチジルコリン(リポイドH 100)(0.8g)を使用した点以外は、実施例3に記載した通りに配合物を調製した。pH=7のリン酸塩緩衝液で希釈液を調製し、実施例3に記載した通りに濁度を測定した。結果を表4に示したところ、DOPCで得られる結果と同等であった。リン脂質の量が少ないと、より低い濁度によって示されるように、このpH値における脂肪酸塩の分散がはるかに細かくなる。違いは視覚的にも簡単に観察できた。4.6はやや乳白色に見えたが、一方、リン脂質を含む組成物はほとんど透明で、わずかに濁っていた。
表4:様々なレシチンω-3脂肪酸リジン塩比を有する組成物、pH=7で組成物を希釈した後に得られた粒径および濁度
【表4】
実施例5:水中でジオレイルホスファチジルコリンを用いてω-3脂肪酸塩分散液を調製する代替方法
本発明に係る調製物は、「方法を単純化し、かつω-3脂肪遊離脂肪酸形態またはそれぞれのエステルには適さない混合順序」で調製できることがわかった。ω-3脂肪酸リジン塩をリン脂質とともにエタノールに溶解する代わりに、10g/Lの濃度で水に直接溶解し、その後エタノール性リン脂質溶液を添加した。その後、上記の実施例で説明したように、分散液を超音波処理し、滅菌ろ過した。
【0047】
実施例6:B.メガテリウム DSM 32963株における18-ヒドロキシ-エイコサペンタエン酸(18-HEPE)生成の刺激
極性の低さのために、ω-3脂肪酸の生物学的利用能は十分でないことが多く、生化学反応において細胞によって実際に使用および変換されるのはごく少量である。本発明に記載の調製物は、微生物細胞のω-3脂肪酸の生物学的利用能および代謝変換を増強することを示すことができた。これは、マイクロバイオームの利用や変動などの栄養用途に関連する。
バシラス-メガテリウム DSM 32963は、自然発生の分離菌のスクリーニングによって確認された。これは、2018年11月27日付で、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約の規定に基づき、Evonik Degussa GmbHの名前で前記のアクセッション番号で、DSMZに寄託されました。
表1記載の調製物を、振とうフラスコ内の液体培養物中のバシラス-メガテリウム DSM 32963の微生物培養物に添加した。比較目的で、同じω-3脂肪酸濃度を有するω-3脂肪酸リジン塩水溶液も添加した。バシラス-メガテリウム DSM 32963は、エイコサペンタエン酸(EPA)から生物活性の18-ヒドロキシ-エイコサペンタエン酸(18-HEPE)への変換を触媒することがわかった。
0.1%グルコースを含む10mLルリア-ベルターニブロス(LB、Thermo Fisher Scientific社)(LBG)から、B.メガテリウム DSM 32963の培養物を、100mL容量フラスコ内で30℃、200rpmで24時間培養した。完全培養物をLBGの主培養物(200mL)に移した。主培養物を2L容量のフラスコ内で30℃、200rpmで6時間培養した。次に、細胞培養物を10mLずつ回収し、遠心分離(15分、4,000rpm、室温)によって上清を除去し、細胞ペレットをLBG(10mL)または9.76g/LのFeSSIF-V2(biorelevant.com社)を含むLBGで再懸濁した。FeSSIF-V2は、胆汁界面活性剤をシミュレートするために設計されたタウロコール酸、リン脂質、およびその他の成分の混合物である。次いで、「各実験で同じEPA濃度が得られるように(表5)、実施例2の滅菌ろ過調製物から調製された2mLの脂質ストック溶液」をそれぞれ添加した。さらに、サプリメントを、細胞が存在しない振とうフラスコ内の異なる培地にそれぞれ添加し、非生化学的生成物の形成を制御するために同じ条件下で処理した。これらの培養物と各照査基準を、100mL容量振とうフラスコ中で30℃、200rpmで16時間インキュベートした。
表5:サプリメント、ストック溶液の調製、およびその算出されたEPA含有量(g/L)
【表5】
【0048】
続いて、細胞を遠心分離(15分、4,000rpm、室温)によって分離し、ω-3代謝物質の存在を分析するために上清を回収した。上清を水/アセトニトリル混合物からなる溶媒で希釈した(上清:溶媒の比は、1:2であり、溶媒組成は、65%H
2O、pH8および35%MeCNである)。
希釈した上清サンプルをろ過し、m/z318でのポジティブSIMモードでのLC/ESI-MS分析(Agilent QQQ 6420、Gemini 3μ C6-Phenyl)による18-ヒドロキシ-エイコサペンタエン酸(18-HEPE)の検出、およびm/z302でのその前駆体化合物EPAの検出に使用した。
胆汁酸の存在下および非存在下で18-HEPEが形成され、リン脂質を配合したω-3リジン塩としてω-3脂肪酸がバシラス-メガテリウム DSM 32963細胞に提供された場合に、18-HEPEが上清中で最も効果的に検出された。結果を表6にまとめる。
表6:胆汁酸の非存在下および存在下での培養上清の18-HEPE濃度(mg/L)の測定
【表6】
【0049】
実施例7:リン脂質分散ω-3脂肪酸塩の添加によるヒト骨髄由来間葉系幹細胞の刺激された増殖
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)は、細胞治療の形で医療目的に使用され、組織工学(例:in vitro軟骨を作るための軟骨細胞の生成)のための特定の細胞および組織型の元になる。そうするためには、単離細胞の効率的な成長/増殖を可能にする適切な培地組成物が必要になる。一般に、無血清の化学的に規定された培地を使用する場合は、脂質を補充する必要があるとされている。間質細胞を効率的に増殖させるための本発明記載の脂質配合物の適合性を以下に記載したように評価した。
化学的に規定された細胞培地を、Jungらによって記載されたようにして(Cytotherapy、2010年;12:637~657頁)、調製した。培地の組成を表7に示す。
表7:間葉系幹細胞の培養のための化学的に規定された培地の組成
【表7】
【0050】
化学的に規定された脂質濃縮物をThermo Fisher Scientific社(カタログ番号11905031)から入手した。当該濃縮物は、非イオン性界面活性剤(Polysorbate 80およびPluronic F-68)を配合した、脂肪酸とコレステロールの混合物を含んでいた。
この培地の2つの追加バッチを準備した。一方は化学的に規定された脂質濃縮物を含まず、もう一方では、化学的に規定された脂質濃縮物を、DOPCを配合したω-3リジン塩の調製物に置き換えた(実施例1.3)。0.1mLの液体調製物を100mLの細胞培地に添加した。これは1,000倍希釈に相当し、脂肪酸濃度は約10mg/Lとなった。
化学的に規定された培地で骨髄単核細胞に由来するヒト骨髄由来間葉系幹細胞を、StemCell Technologies社から入手し、サプライヤーに推奨されるようにして解凍し、3つの異なる培地バージョンで増殖させた。培地に150,000細胞/mLの細胞密度で植え付し、細胞をCO2インキュベーター内のT25細胞培養フラスコで増殖させた。培地を2~3日ごとに交換し、コンフルエントになる前に細胞を継代した。Accutase(商標)(StemCell Technologies社)で細胞を剥離し、生細胞濃度を測定し、各継代で新鮮培地に15,0000細胞/mLを植え付けた。
増殖性能の指標としての細 胞 倍 加 数(CPD)を、継代数と測定した細胞濃度から計算した。驚くべきことだが、文献記載の化学的に規定された脂質濃縮物は、脂質を添加していない培地(CPD=4.77)と比較した場合、CPDにプラスの効果をもたらさないことがわかった(CPD=4.63)。それとは対照的に、DOPCを配合したω-3リジン塩の添加は、プラスの効果をもたらし、CPDを7.37に増加させた。