(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】弁周囲漏出軽減のための親水性スカート並びに人工心臓弁移植のための適合及び並置最適化
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2021547442
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 US2020018067
(87)【国際公開番号】W WO2020168048
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-10-14
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517290947
【氏名又は名称】4シー メディカル テクノロジーズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クマール,サラヴァナ ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ストーン,ジェフリー アール.
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-506412(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0039613(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0277417(US,A1)
【文献】特表2018-516610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心腔への拡張移植のための装置であって、
拡張可能な固定構造体を備え、
前記固定構造体は、
上部と外面を有する下方の基部とを画定する拡張可能ステントと、
前記基部から一体的に形成され、内面及び外面を備える弁支持体であって、該弁支持体の前記内面に少なくとも1つの人工弁が取り付けられた、前記弁支持体と、
前記固定構造体の前記基部の前記外面の一部に動作可能に取り付けられたスカートと
を備え、
前記スカートが、2層の材料を備え、かつ、前記スカートに一体化されるか、又は前記スカート上にコーティングされる親水性材料を備え、
前記親水性材料の少なくとも一部は、前記スカートの前記2層の材料の間に形成されたサブポケット内に配置されており、
前記スカートが、前記サブポケットに加え、左心耳の領域内に前記親水性材料の予備ポケットを備え、移植時に、前記親水性材料は膨潤して前記予備ポケットを拡大し、前記左心耳を被覆及び/又は充填し、
前記拡張可能ステントの前記上部は、前記スカートによって覆われないセルを備える
装置。
【請求項2】
前記親水性材料が、前記親水性材料が液体にその後さらされることを可能にするために、前記液体にさらされたときに生分解性、溶解性、生侵食性及び/又は生体吸収性である材料の薄膜でオーバーコーティングされる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記親水性材料は、前記スカートに一体化されるか、又は前記
スカート上にコーティングされるナノ粒子内に包まれ、
前記ナノ粒子は、前記親水性材料が液体にその後さらされることを可能にするために、前記液体にさらされると、生分解性、溶解性、生侵食性及び/又は生体吸収性である、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記親水性材料がナノ粒子内に包まれており、
前記ナノ粒子が、前記親水性材料が液体にその後さらされることを可能にするために、前記液体にさらされると、破壊可能、生分解性、溶解性、生侵食性及び/又は生体吸収性である、
請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記親水性材料が、親水性ポリマー、親水性金属及び/又は親水性ヒドロゲルのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記装置が、僧帽弁のための人工心臓弁としての使用に適合される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記装置が、完全な拡張及び移植が完全に達成された後、又は完全な拡張及び移植の前に、前記スカート内の前記親水性材料の注入または他の送達を許容するよう構成されている、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者
Saravana B.Kumar、ミネソタ州ミネトンカ、米国市民
Jeffrey R.Stone、ミネソタ州ミネトンカ、米国市民
関連出願の相互参照
本出願は、2020年2月11日に出願された、「HYDROPHILIC SKIRT FOR PARAVALVULAR LEAK MITIGATION AND FIT AND APPOSITION OPTIMIZATION FOR PROSTHETIC HEART VALVE IMPLANTS」と題する米国特許出願第16/787792号の優先権を主張し、また、2019年2月14日に出願された、「HYDROPHILIC SHIRT FOR PARAVALVULAR LEAK MITIGATION AND FIT AND APPOSITION OPTIMIZATION FOR PROSTHETIC HEART VALVE IMPLANTS」と題する米国仮特許出願第62/805662号の利益を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発に関する声明
適用されない
【0002】
本発明は、心腔内に装置を移植するための装置及び方法に関する。より詳細には、本発明は、経中隔送達が使用される場合の弁周囲漏出の軽減の改善、移植された固定構造体の心腔並びに関連する解剖学的構造との並置及び嵌合、並びに中隔孔の閉鎖に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトの心臓は、心臓を通る血液の前方への(順行性の)流れを支援する4つの心腔及び4つの心臓弁を含む。心腔は、左心房、左心室、右心房及び左心室を含む。4つの心臓弁には、僧帽弁、三尖弁、大動脈弁及び肺動脈弁が含まれる。全体的に
図1を参照されたい。
【0004】
僧帽弁は、左心房と左心室との間に配置され、左心房への逆流を防ぐための一方向弁として作用することによって、左心房から左心室への血液の流れを制御するのに役立つ。同様に、三尖弁は右心房と右心室との間に配置され、一方で、大動脈弁及び肺動脈弁は心臓から血液を流出させる動脈内に配置される半月弁である。弁はすべて一方向弁であり、前方への(順行性の)血流を可能にするために開く弁尖を有する。正常に機能している弁尖は、逆流した血液によって加えられる圧力下で閉じて、流出したばかりの心腔への血液の逆流(逆行性)を防止する。例えば、僧帽弁は、適切に機能しているとき、左心房と左心室との間の一方向弁を提供し、左心房から左心室への順行性の流れを可能にするために開き、左心室から左心房への逆行性の流れを防止するために閉じる。この逆行性の流れは、存在する場合、僧帽弁逆流又は僧帽弁逆流症として知られている。
【0005】
図2は、僧帽弁尖に対する左心房と、弁輪と、腱索と左心室との間の関係を示す。図示のように、弁輪の上面は、左心房腔の床面又は下面の少なくとも一部を形成し、その結果、本明細書の説明の目的のために、弁輪の上面が、左心房腔の下境界を示すものとして定義される。
【0006】
生来の心臓弁は、それだけに限らないが、疾患、外傷、先天性奇形、及び老化を含む様々な理由及び/又は状態のために機能不全であり得るか、又は機能不全になり得る。これらの種類の状態は、弁構造を適切に閉じることができず、僧帽弁不全の場合に左心室から左心房への血液の逆行性逆流をもたらす可能性がある。
図3は、例示的な機能不全の僧帽弁を伴う逆流血流を示す。
【0007】
僧帽弁逆流症は、右心房から左心房に戻る少なくともいくらかの逆行性血流を可能にする機能不全僧帽弁に起因する特定の問題である。場合によっては、機能不全は、接続又は接合して逆行性の流れを遮断する代わりに、左心房腔内に、すなわち線又は平面Aによって指定される弁輪の上面の上方に脱出する僧帽弁尖(複数可)に起因する。この血液の逆流は、僧帽弁逆流の長期の臨床経過中にかなり変化する心室腔のサイズ及び形状の再構築を含む一連の左心室の代償的適応及び調整をもたらし得る体積負荷を伴って左心室に負担をかける。
【0008】
逆流症は、一般に、三尖弁、大動脈弁及び肺動脈弁並びに僧帽弁を含む生来の心臓弁の問題であり得る。
【0009】
したがって、一般に、生来の心臓弁、例えば僧帽弁は、部分的又は完全な置換を含む機能的修復及び/又は補助を必要とし得る。そのような介入は、開心術及び置換心臓弁の開心移植を含むいくつかの形態をとることができる。侵襲性が高く、患者のリスクを伴い、長期の入院だけでなく非常に痛みを伴う回復期間も必要とする処置については、例えば、米国特許第4,106,129号明細書(Carpentier)を参照されたい。
【0010】
機能不全の心臓弁を置換するための低侵襲性の方法及び装置も知られており、経皮的アクセス及びカテーテルによって促進される置換弁の送達を含む。これらの解決策のほとんどは、当技術分野で一般的に知られているステント、又は送達カテーテルからの放出時に拡張するように設計された他の形態のワイヤネットワークなどの構造支持体に取り付けられた置換心臓弁を含む。例えば、米国特許第3,657,744号明細書(Ersek)、米国特許第5,411,552号明細書(Andersen)を参照されたい。支持ステントの自己拡張変形は、対象の心腔又は血管内で、弁を位置決めし、拡張された装置を定位置に保持するのを助ける。この自己拡張型はまた、多くの場合そうであるように、装置が最初の位置決め試行で適切に位置決めされず、したがって再捕捉されて位置調整されなければならない場合に問題を呈する。完全に又は部分的に拡張された装置の場合のこの再捕捉プロセスは、オペレータが折り畳まれた装置を送達シース又はカテーテル内に引き戻し、装置のインバウンド位置を調整し、次いで位置調整された装置を送達シース又はカテーテルから遠位に再展開することによって適切な位置に再拡張することを可能にする点まで装置を再折り畳みすることを必要とする。拡張されたステント又はワイヤネットワークは、一般に、収縮力又は折り畳み力にも耐える拡張状態を達成するように設計されているため、既に拡張された装置を折り畳むことは困難である。
【0011】
上述の開心術外科的アプローチに加えて、目的の弁へのアクセスを得ることは、少なくとも以下の既知のアクセス経路、すなわち、経心尖、経大腿、経心房、及び経中隔送達技術のうちの1つを介して経皮的に達成される。
【0012】
経中隔送達は、右心房と左心房との間の中隔にアクセス孔を生成することを含む。人工心臓弁装置の送達及び移植が達成されると、中隔孔は、それ自体で治癒するために開いたままであるか、又は少なくとも部分的にシールされる。しかしながら、既知のシーリング技術は、少なくとも部分的な閉鎖を達成するために追加のツール及び操作を必要とする。より効率的で効果的な中隔閉鎖機構が望ましいであろう。
【0013】
一般に、当技術分野は、上述の既知のアクセス経路の1つを使用して、折り畳まれた弁装置の部分的な送達を可能にするシステム及び方法に焦点を当てており、装置の一端は送達シース又はカテーテルから解放され、初期の位置決めのために拡張され、その後、適切な位置決めが達成されたときに完全な解放及び拡張が続く。例えば、米国特許第8,852,271号明細書(Murray,III)、米国特許第8,747,459号明細書(Nguyen)、米国特許第8,814,931号明細書(Wang)、米国特許第9,402,720号明細書(Richter)、米国特許第8,986,372号明細書(Murray,III)、及び米国特許第9,277,991号明細書(Salahieh)、並びに米国特許公開第2015/0272731号明細書(Racchini)及び米国特許公開第2016/0235531号明細書(Ciobanu)を参照されたい。
【0014】
さらに、すべての既知の人工心臓弁は、生来の心臓弁の完全な置換を意図している。したがって、これらの置換心臓弁、及び/又は固定若しくは繋ぎ構造は、僧帽弁の場合、左心房腔から物理的に延在し、内弁輪及び/又は弁尖と係合し、多くの場合、生来の弁尖を内弁輪の壁にピン留めし、それによって生来の弁の残りのすべての機能性を恒久的に排除し、患者を置換弁に完全に依存させる。他の場合では、固定構造体は左心室内に延在し、左心室壁組織及び/又は左心室の上部の副環状面に固定することができる。他のものは、肺動脈における存在又は肺動脈との係合を含み得る。
【0015】
明らかに、介入移植処置の前に生来の弁が実質的に完全な機能性を失っている場合がある。この場合、好ましい解決策は、例えば左心房の外側に広がらず、生来の弁機能を完全に置換するように機能する移植を含む。しかしながら、他の多くの場合、生来の弁はある程度機能的なままであり、移植処置後に機能性を失い続ける場合もあり、失われない場合もある。この場合の好ましい解決策は、生来の弁尖機能を存在する限り保持するために、生来の弁尖を損傷することなく補助弁又は増強弁の両方として機能すると同時に、人工弁の移植後にその機能の大部分又はすべてをゆっくりと失う弁の生来の機能を完全に置き換えることができる弁装置の送達及び移植を含む。
【0016】
二心腔解決策を含むすべての場合において、弁周囲漏出(PVL)は、環状封止を含むがこれに限定されない、人工弁装置及び生来の心腔組織の不十分なシーリング又は並置の結果として生じ得る。例示的な僧帽弁の場合、PVLは、左心室から左心房への血液の逆行性漏出をもたらし、心臓の効率を低下させる。シーリングの並置の欠如は、いくつかの理由で生じ得る。
【0017】
例えば、患者は、心腔内、特に環状表面内に少なくともいくらかの石灰化を有する場合があり、その石灰化組織の順応性を低下させるように働く。この順応性の低下は、組織及び人工心臓弁装置が移植時に互いにシールする能力を低下させ、組織と装置との間に隙間を残す。僧帽弁輪及び三尖弁輪は石灰化の影響を受け、移植された人工心臓弁装置とPVLとのシールの並置不良につながる可能性がある。
【0018】
さらに、
図2に見られるように、環状面は、人によって異なる交連並びに他の高度変化及び/又は形状を有する不規則な景観を含む。移植された心臓弁装置によるこれらの解剖学的特徴及びそれらの患者間の違いの適応は、逆行性PVLを予防するのに十分でなければならない。
【0019】
本明細書に記載の特定の本発明の実施形態は、別段の指示がない限り、単一又は二心腔解決策に容易に適用可能である。さらに、本明細書で論じる特定の実施形態は、一般に、改善されたPVL軽減を伴う生来の弁機能の保存及び/又は置換に適用することができ、したがって、僧帽弁に限定されず、三尖弁、大動脈弁及び/又は肺動脈弁を治療するための装置及び方法を含むように拡張することができる。
【0020】
本明細書に開示されるいくつかの発明の様々な実施形態は、とりわけ、これらの問題に対処する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】米国特許第4,106,129号明細書
【文献】米国特許第3,657,744号明細書
【文献】米国特許第5,411,552号明細書
【文献】米国特許第8,852,271号明細書
【文献】米国特許第8,747,459号明細書
【文献】米国特許第8,814,931号明細書
【文献】米国特許第9,402,720号明細書
【文献】米国特許第8,986,372号明細書
【文献】米国特許第9,277,991号明細書
【文献】米国特許公開第2015/0272731号明細書
【文献】米国特許公開第2016/0235531号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、改善された適合、並置及び/又は弁周囲漏出軽減を有する人工心臓弁装置を提供する。したがって、人工装置は、人工弁尖を支持するための固定構造体(anchoring structure)を備え、固定構造体は、患者の血液中の水溶質と接触したときに膨潤するように設計された親水性材料を含み、及び/又は少なくとも部分的に親水性材料から形成される。装置の患者の組織への適合及び/又は並置を改善するために膨潤を提供する親水性材料を配置することは、とりわけ、弁周囲漏出軽減の改善をもたらす。本明細書に記載の方法及び機構のいくつかは、装置の経中隔送達中に生成される中隔保持に対するシールを提供するためにも使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】正常な血流と比較した僧帽弁逆流症から生じる逆行性血流を示す心臓の断面図を示す。
【
図4A】本発明の一実施形態の部分切欠側面図を示す。
【
図4B】弁支持体の一実施形態の側面切欠図を示す。
【
図5】本発明の一実施形態の部分切欠側面図を示す。
【
図6】本発明の一実施形態の部分切欠側面図を示す。
【
図7】本発明の一実施形態の部分切欠側面図を示す。
【
図8】本発明の一実施形態の部分切欠側面図を示す。
【
図9】本発明の一実施形態の部分切欠側面図を示す。
【
図10】本発明の一実施形態の部分切欠側面図を示す。
【
図11A】本発明の一実施形態の部分切欠側面図を示す。
【
図11B】本発明の一実施形態の上面切欠図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の様々な実施形態は、移植された装置と心腔組織との間の改善されたシーリング及び/又は並置による改善されたPVL軽減を組み合わせた人工心臓弁固定解決策を含む。
【0025】
本発明は、
図4A~
図11B及び
図16~
図17に示すような特定の例示的な実施形態を含む例示的な単一心腔拡張及び移植装置構造の文脈において説明される。しかしながら、上述したように、本発明の様々な実施形態は、一般に一心腔解決策及び/又は二心腔解決策を含むがこれらに限定されない移植された人工心臓弁装置に及ぶ。
【0026】
図4A~
図11B及び
図16~
図17を特に参照すると、拡張可能ステントフレーム(expandable stent frame)12、又はワイヤメッシュ及び/又は形状記憶金属若しくはポリマーなどの他の拡張可能な材料、又は当技術分野で知られているような拡張可能で折り畳み可能なウェブ若しくは相互接続されたセルを含む同等物を含む、折り畳み可能で拡張可能な固定構造体10の例示的な実施形態が示されている。固定構造体10は、好ましくは、折り畳み状態から拡張状態を達成するために拡張するように付勢されてもよいが、他の折り畳みから拡張する機構も使用されてもよい。さらに、固定構造体10は、拡張可能ステントフレーム12又は同等物から形成されてもよく、したがって、例示的な左心房及び左心室の上部環状面又は床の間に配置される弁輪の上部環状面及び/又は内側スロートの一部を含む、心腔壁及び弁輪の自然な動きによって拡張及び収縮するために複数の拡張状態を達成することができる基部(base section)20を備えることができる。
【0027】
基部20は、外面22及び内面24を備え、基部から一体的に形成されるか、又は基部に動作可能に係合するか、又は他の方法で取り付けられる弁支持体(valve support)30を備える。弁支持体30は、内面32及び外面34を含み、弁支持体30は、対象の弁輪と実質的に整列し、弁支持体30の内面32に配置された人工弁尖36の結果としての逆行性血流を防止しながら、一方向順行性血流を許容するように適合される。
【0028】
弁支持体30は、基部20内に全体的に又は少なくとも部分的に配置されてもよく、又は代替の実施形態では、基部20内に弁支持体30の一部がなく、基部20から完全に離れるように延在してもよい。したがって、
図4Aに示すように、弁支持体30は、完全に基部20内に配置される。
図5は、基部20のほぼ完全に外側に延在する弁支持体30を示す。
図6は、部分的に基部20内にあり、また基部20から離れて外側に延在する弁支持体30を示す。
図8は、弁支持体30が基部20と一体的に形成されているという点で、
図4Aの弁支持体30の変形を示す。
【0029】
ここで、
図7に示す例示的なボス構造体(boss structure)40を参照すると、ボス構造体は、存在する場合、固定構造体10を環状部に位置合わせするために使用することができ、基部20と組み合わせて、環状面及びボス40が延在する弁輪の内側スロートを含む弁輪の一部に対するシーリングの並置を支援することができる。ボス40は、図示されているように、基部20に取り付けられるか、又は一体的に形成され、弁支持体30内に画定された流路と位置合わせされる、及び/又は効果的に延在することを含む、本明細書に記載の構造のいずれかと組み合わせて使用することができる。この意味で、ボス40は、
図6の延長弁支持体30と同様である。他の実施形態では、弁支持体30及び/又はボス40を含む固定構造体の一部は、弁輪の上面から離れて弁輪の内側スロートへと順行方向の下流に延在することができる。場合によっては、構造は、生来の弁尖をピン留めするために下方に延在してもよい。他の場合では、構造体は弁輪内に下方に延在し得るが、生来の弁尖をピン留めするには至らない。
【0030】
人工弁装置の他の変形は当技術分野で既知であり、本発明の変形からも利益を得る。
【0031】
PVLを予防するのに役立つために、人工心臓弁用の固定フレームの少なくとも一部、典型的には下部外側部分を何らかの布又は組織で覆うことが知られている。既知の実施形態は、PVLに対するシールを形成するために被覆材料のバンチング(bunching、集群、団子状)などを形成する。しかしながら、これらの解決策は、環状石灰化及び/又は環状景観の変化及び多様性から生じる適合及び/又は並置の問題を適切に解決しない。
【0032】
したがって、図を参照すると、基部の外面22は、心房壁及び/又は上部環状面の一部に順応してシールする材料Mから形成されるか、又はそれを含むスカートSで少なくとも部分的に覆われてもよい。図示されたいくつかの実施形態では、固定構造体10及び/又は弁支持体30の一部は、環状スロート内に一定の距離、すなわち生来の弁尖に向かって環状面の下に延在してもよく、固定構造体10及び/又は弁支持体30の少なくとも一部は、材料Mで覆われてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、材料Mは、LAAをシールするために、例示的な左心房内の左心耳(LAA)を包含する壁の周方向領域の少なくとも一部でシールすることができる。
【0034】
材料Mは、親水性である物質又は化合物を含んでもよく、基部20のスカートは、全体的又は部分的に、少なくとも材料Mから形成されてもよく、親水性であってもよい。この場合、親水性スカートは、患者の血液から水を吸収し、拡張又は膨潤して、基部20と心腔の関連領域との間に締結シール及び/又は並置を提供し、それによって移植時の逆行性血流に対する障壁として機能し、PVLを軽減及び/又は防止することができる。
【0035】
親水性材料Mは、例えば、膨潤した材料M及び/又は材料Mを含む親水性スカートが「正しい」サイズに膨潤することを確実にし、さらに、実質的な膨潤が起こる前に装置が心腔内に適切に位置決めされることを可能にするために、膨潤プロセスがゆっくりと穏やかに起こることを確実にするために、1つの膨潤係数又は2つ以上の膨潤係数で選択することができる親水性ゲル及び/又は親水性ポリマーを含むことができる。例示的な親水性ヒドロゲルは、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)を含み得る。
【0036】
材料Mのヒドロゲル実施形態は、化学的、物理的及び/又はイオン的に架橋されて、水中で膨潤する母体を形成する親水性ポリマーを含み得る。水中のヒドロゲルの膨潤度は、ポリマー/溶媒混合の自由エネルギー、イオン相互作用及び弾性力の間のバランスによって決定され、架橋の程度及びポリマーの化学的性質によって影響される。次いで、膨潤度は、ヒドロゲルのメッシュサイズを決定する。親水性ヒドロゲル及び/又はポリマーは、温度応答性及び/又はpH応答性であり得る。キトサン及びアルギネートなどのいくつかは、天然に存在し、天然の親水性及び生体適合性の両方を提供する。さらに、膨潤は、撹拌などの機械的手段によって開始されてもよい。
【0037】
親水性金属などの他の親水性材料は、固定構造体10の一部を含んでもよい。
【0038】
親水性材料Mは、容易に破壊可能、又は溶解性、又は生分解性、又は生侵食性のナノ粒子内に封入されてもよく、ナノ粒子が破壊されると、親水性材料Mは水にさらされ、膨潤プロセスを開始する。この場合、人工心臓弁装置は、実質的な膨潤が生じる前に位置決めされ移植(implanted、植込み)される。
【0039】
スカートSは、基部20の外面22に取り付けられた内層Iと、外層Oとの2層の材料を備えることができ、内層及び外層はポケット又は一連のポケットPを形成する。親水性材料Mは、PVLに対して最も脆弱な拡張装置と患者の解剖学的構造との間の界面領域における膨潤を容易にするために、ポケット又は一連のポケット内の設計領域に配置又は取り付け又は組み込まれてもよい。例えば、1つ又は複数のポケットは、基部20の底面の周りに、及び/又はそこから少なくとも部分的に上方に配置されてもよい。ポケット(複数可)Pを備える例示的なスカートSが、特に
図12~
図15を参照すると、図に示されている。
図13~
図15に示すように、2層スカート内にサブポケットP’を設けて、特に不十分な並置及び/又はPVLの影響を受けやすい又はそれに対して脆弱な領域に親水性材料Mを個別に配置することができる。
【0040】
図5~
図7及び
図15~
図17に示すような実施形態では、弁支持体30又はボス40又は他の構造は、基部20から少なくとも部分的に外向きに延在し、スカートSは、上述のように形成されたポケット(複数可)P及び/又はサブポケットP’に含まれるが、これに限定されない、一体化された、又はそうでなければスカートSを含む親水性材料Mで、弁支持体30の外面34の少なくとも一部を覆うことができる。
【0041】
ボス構造体、又は弁輪の内側スロート内への他の延長部を備える実施形態では、材料Mを含むポケット(複数可)P及び/又はサブポケットP’は、ボス構造体と基部20との間に形成されて、装置と患者の解剖学的構造との間の任意の間隙を膨潤して閉じることができる。これは
図15に最もよく示されている。
【0042】
代替で、封入された親水性材料Mを備える実施形態では、ナノ粒子又はカプセルは、少なくとも上述のPVL脆弱領域においてスカートに一体化されてもよく、スカートに組み込まれてもよく、スカートをコーティングしてもよく、スカートに取り付けられるか又は接着されてもよい。さらに代替で、親水性材料Mを担持するナノ粒子又はカプセルは、スカート上に付着又は接着又はコーティング又はスカートに一体化されてもよい。
【0043】
したがって、特定の実施形態では、スカートS内に形成されたポケットPは必要とされず、スカートSは、単層の材料から形成されるか、又はそれを含むことができ、その上に親水性材料Mが封入又は非封入形態のいずれかで、付着又は接着又はコーティングされるか、又はその中に一体化される。
図16及び
図17は、親水性材料Mを含む例示的な単層スカートSを示す。
【0044】
代替的な実施形態では、固定構造体10の一部は、親水性材料Mから少なくとも部分的に形成されてもよく、生分解性、溶解性、生侵食性及び/又は生体吸収性材料の薄膜によって被覆又はオーバーコーティングされて、溶質相互作用を遅延させ、親水性材料Mによる膨潤をもたらすことができる。例えば、限定ではないが、ボス構造体40、又は弁輪の内側スロートへの他の延長部は、溶質、例えば血液中の水と接触すると膨潤する親水性ポリマーを含むことができる。この実施形態では、生分解性、生侵食性及び/は、生体吸収性の薄いコーティング層をボス構造体40の上に付与して、移植が達成されるまで膨潤を適切に遅延させることができる。ボス構造体40の外側部分、すなわち、弁輪及び/又は弁輪の内側スロートによって、並びに/あるいは弁輪及び/又は弁輪の内側スロート内に並置された部分は、親水性材料、例えばポリマーを含むことができ、その結果、ボス構造体40の外側部分のみが溶質接触に応答して膨潤し、内側ボス構造体40の寸法は変化しないままである。固定構造体10の他の領域はまた、親水性材料M、例えばポリマー(複数可)から形成されてもよく、例えば固定具10のキーストラット又はセルは、溶質接触で膨潤する親水性ポリマーを含んでもよい。
【0045】
さらに、固定構造体10の一部はまた、上記のように生分解性、溶解性、生侵食性及び/又は生体吸収性の薄膜層によって送達及び移植中に一時的に被覆又はオーバーコーティングされてもよい親水性材料Mの薄膜を備えるスカートSを備えてもよい。
【0046】
さらに、上述の親水性材料Mを封入するナノ粒子は、スカートSを備えるため固定構造体10の一部上に接着又はコーティングされてもよい。これらのナノ粒子は、薄い生分解性、溶解性、生侵食性及び/又は生体吸収性の薄膜でオーバーコーティングされて、送達及び移植中に固定構造体に確実に接着することができる。
【0047】
親水性材料Mを含む又は組み込む親水性スカートを実装するための上記の可能な実施形態のそれぞれは、人工心臓弁装置の様々な構成の一部を覆うために使用され得る。弁支持体30が基部20から形成されるか、又は他の方法で一体化されるか若しくは取り付けられる例示的な実施形態が、
図4A、
図8~
図10、
図11A及び
図16~
図17に示されている。この場合、上述の親水性材料Mを含む親水性スカートSは、基部20の外面22を覆い、基部20の底部を覆うように延在し、基部20内でさらに上方に延在して弁支持体30の内面32を覆うことができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、左心耳(LAA)の封止が目的であり得る。これらの場合、
図15に示すように、親水性材料Mを含む親水性スカートSは、LAAの領域内に親水性材料Mの予備ポケット100を備えることができ、移植時に、親水性材料Mは膨潤してポケット100を拡大し、LAAを被覆及び/又は充填する。親水性材料M予備は、移植された固定構造体10の回転位置にかかわらずLAAの位置決めが達成されるように、スカートSの周囲に材料Mのリング又はガスケット102を備えることができる。代替で、特定のポケット102は、LAAの膨潤シール及び/又は充填のためにLAAに配置される上述のように設けられてもよい。親水性材料M予備は、ポケット(複数可)及び/又はナノ粒子及び/又はコーティングを含む、本明細書で論じられる様々な実施形態に従って形成され得る。
【0049】
したがって、一般に、改善されたシーリング及び/又は並置は、固定構造体10上の1つ又は複数の位置に親水性材料Mを含めることによって改善され得る。親水性材料Mは、スカートSと関連付けられてもよく、一体化されてもよく、又は組み込まれてもよいが、これは単なる一実施形態である。ナノ粒子は、使用される場合、親水性材料Mを血液に曝露する際の所望の遅延を提供するために、容易に破壊可能な材料及び/又は生分解性、生侵食性又は溶解材料を含み得る。
【0050】
さらにより代替で、親水性材料含有ナノ粒子は、拡張及び移植が完全に達成された後、又は完全な拡張及び移植の直前に、移植された装置の関連領域に注入又はそうでない場合送達され得る。さらに、親水性材料Mは、拡張及び移植が完全に達成された後、又は完全な拡張及び移植の直前に、移植された装置の関連領域に封入せずに注入又はそうでない場合送達され得る。親水性材料Mの注入又は送達は、封入されているか否かにかかわらず、親水性材料Mのリザーバ(封入されているか否かにかかわらず)を提供することによって達成され得、これは、既知の技術によって、リザーバと流体連通する管腔を備える送達装置を介して送達される。送達装置の遠位先端は、例えば、プッシュ/プルワイヤ(複数可)などを使用することによって操作者によって操作されて、装置及び関連する解剖学的構造において又はその周りの目立たない目的の領域での送達を可能にすることができる。本明細書に記載の送達装置は、送達カテーテル及び人工装置を対象の心腔に送達するための関連機構の修正であり得る。
【0051】
さらに、装置は、スカートに動作可能に取り付けられ、本明細書で論じるように親水性材料Mを含む少なくとも1つのリッジ、フラップ、又はリングを備えることができ、少なくとも1つのリッジ、フラップ、又はリングは、場合によっては、左心耳に対して、又はその中で、及び/あるいは対象の心腔の弁輪に対してシールするように適合され得る。
【0052】
本明細書に記載の本発明及びその用途の説明は例示的なものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。様々な実施形態の特徴は、本発明の企図内で他の実施形態と組み合わせることができる。本明細書に開示された実施形態の変形及び修正が可能であり、実施形態の様々な要素の実際的な代替及び等価物は、この特許文献を検討することにより当業者に理解されるであろう。本明細書に開示される実施形態のこれら及び他の変形及び修正は、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく行うことができる。