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特許7438252計時器用ムーブメントのためのバランスばね
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】計時器用ムーブメントのためのバランスばね
(51)【国際特許分類】
   C22C 27/02 20060101AFI20240216BHJP
   G04B 17/06 20060101ALI20240216BHJP
   F16F 1/02 20060101ALI20240216BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20240216BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20240216BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240216BHJP
   C22F 1/02 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
C22C27/02 102Z
G04B17/06 Z
F16F1/02 A
F16F1/02 B
C22C14/00
C22F1/18 F
C22F1/18 H
C22F1/00 625
C22F1/00 631A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692Z
C22F1/00 694A
C22F1/02
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022044945
(22)【出願日】2022-03-22
(65)【公開番号】P2023016679
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】21187512.5
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・ミシュレ
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-515720(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0308685(US,A1)
【文献】特開2013-163840(JP,A)
【文献】特開2021-051065(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0088971(US,A1)
【文献】特開2019-113544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0196407(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101104898(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 27/02
G04B 17/06
F16F 1/02
C22C 14/00
C22F 1/18
C22F 1/00
C22F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたバランスばねであって、
前記バランスばねは、Nbと、Tiと、Hと、及び選択的にO、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素とからなる合金によって作られ、
前記合金において、
Tiの含有量は1~80重量%であり、
Hの含有量は0.17~2重量%であり、
Nbを除く他のすべての元素の合計含有量は0.3重量%以下であり、
100重量%までの残りの量のNbを含む
ことを特徴とするバランスばね。
【請求項2】
Hの含有量は0.2~1.5重量%である
ことを特徴とする請求項1に記載のバランスばね。
【請求項3】
Hの含有量は0.5~1重量%である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のバランスばね。
【請求項4】
Tiの含有量は、20~60重量%である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のバランスばね。
【請求項5】
前記Hは、前記合金において格子間水素の形態で存在する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のバランスばね。
【請求項6】
前記合金の微細構造は、固溶体におけるNbとTiの単一のβ相によって形成される
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のバランスばね。
【請求項7】
熱係数(CT)が-0.6~+0.6s/d℃の範囲内であり、中間温度エラー(ES)が-3~+3s/dの範囲内である
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のバランスばね。
【請求項8】
計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたバランスばねを製造する方法であって、
a)Nbと、Tiと、及び選択的にO、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素とからなる合金によって作られたブランクを作成又は用意し、ここで、前記合金において、Tiの含有量が1~80重量%であり、Nbを除く他のすべての元素の合計含有量が0.3重量%以下であり、100重量%までの残りの量のNbを含む、ステップと、
b)前記合金のTiとNbが実質的にβ相の固溶体の形態となるように、前記ブランクに対してステップといわゆるβ型溶体化処理及びクエンチを行うステップと、
c)前記合金に対して一連の変形シーケンスを、行う場合に2つの変形シーケンスの間及び/又はすべての変形シーケンスの終わりにおいて少なくとも1回の熱処理とともに、行うステップと、
d)ワインドしてバランスばねを形成するワインドステップと、及び
e)最終的定着用熱処理ステップとを行い、
前記方法は、水素を含む環境において付加的な熱化学的処理を行う熱化学的処理ステップを行い、この熱化学的処理ステップは、ステップb)の溶体化処理の間に、ステップc)の熱処理の間に、ステップe)の最終的定着用熱処理の間に、ステップb)及びc)の間に、ステップc)及びd)の間に、ステップd)及びe)の間に、又はステップe)の後に、行い、
前記合金内のH含有量を0.17~2重量%にする
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記熱化学的処理ステップは、ステップe)において行う
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱化学的処理ステップは、再結晶化された状態であるブランク又はバランスばねの構造に対して行う
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱化学的処理は、水素の気圧が5×102N/m2(5mbar)~106N/m2(10bar)である100%水素を含む環境において100~900℃の温度で行い、又は水素の割合が5~90体積%であり合計気圧が5×102N/m2(5mbar)~106N/m2(10bar)である水素と他の気体の混合体を含む環境において行う
ことを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記混合体の前記水素の気圧又は前記合計気圧は、0.5×105~7×105N/m2(0.5~7bar)である
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記温度は、500~800℃である
ことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合体の前記水素の気圧又は前記合計気圧は、3.5×105~4.5×105N/m2(3.5~4.5bar)であり、前記温度は、600~700℃である
ことを特徴とする請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記溶体化処理は、真空にて600℃~1000℃の温度で5分~2時間の継続時間行い、その後にガス下にて冷却する
ことを特徴とする請求項8~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ブランクを作成又は用意するステップa)の後であって前記一連のシーケンスを行うステップc)の前に、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、金、銀、ニッケル-リン(Ni-P)及びニッケル-ホウ素(Ni-B)から選択される延性材料の表面層を前記ブランクに加えてワイヤ成形操作を容易にし、前記ワインドステップd)の前又は後に、エッチングによって前記延性材料の層を前記ワイヤから除去する
ことを特徴とする請求項8~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたバランスばねに関する。本発明は、さらに、このバランスばねを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
計時器のためのバランスばねの製造においては、以下のような制約を受けることがあり、これらは一見して相容れないように思えることが多い。すなわち、高降伏強度を得る必要があり、製造、特に、線引きや圧延の操作、を容易にする必要があり、疲労強度が優れている必要があり、長期間にわたってパフォーマンスレベルが安定している必要があり、断面が小さい必要がある。
【0003】
また、バランスばねのために選択される合金には、このようなスパイラルばねを組み込んだ携行型時計が様々な温度で使用されてもタイミング性能を維持することを確実にする性質もある必要がある。したがって、合金の熱弾性係数、すなわち、CTE、は非常に重要である。CuBe又は洋銀によって作られているバランスを用いてクロノメーター的発振器を形成するためには、±10ppm/℃のCTEを達成しなければならない。
【0004】
合金の熱弾性係数と、バランスばねの膨張係数(α)及びバランスの膨張係数(β)とを発振器の熱係数(CT)に関連づける式は以下の通りである。
【0005】
【数1】
【0006】
ここで、変数Mはs/dでのレートであり、変数Tは℃単位の温度であり、Eは、バランスばねのヤング係数であり、(1/E)(dE/dT)は、バランスばね合金の熱弾性係数であり、膨張係数は℃-1で表されている。
【0007】
実際に、CTは、次のように計算される。
【0008】
【数2】
【0009】
この値は、-0.6~+0.6s/d℃の範囲内である必要がある。
【0010】
従来技術において、計時器の業界のためのバランスばねは、Tiの割合が典型的には40~60重量%、特に47重量%、である二元のNb-Ti合金によって作られることが知られている。変形パターンと適応された熱処理によって、このバランスばねは、β相のNbとTiの固溶体と、α相の析出の形態のTiを含む2相の微細構造を有する。冷間圧延されたβ相のNbとTiの固溶体は大きく正であるCTEを有し、α相のTiは大きく負であるCTEを有する。これによって、二相の合金のCTEを0近くにすることが可能になり、このことはCTのために特に有益である。
【0011】
しかし、バランスばねのために二元のNb-Ti合金を用いることに対しては、いくつかの課題がある。このような二元のNb-Tiの合金は、上述のように低いCTのために特に有益である。一方、その組成は、中間温度エラーのために最適化されてはいない。この中間温度エラーは、2点(8℃と38℃)を通り抜ける直線によって上記のように近似されるレートに対する曲がりの測定に関する。このレートは、8℃と38℃の間の線形的なふるまいから逸脱することがあり、23℃における中間温度エラーは、23℃の温度におけるこの逸脱の測定に関する。これは、以下の式によって計算される。
【0012】
【数3】
【0013】
典型的には、NbTi47合金の場合、中間温度エラーは+4.5s/dであるが、これは、-3~+3s/dの好ましい範囲からは逸脱している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、熱係数を0の近くに維持しつつ中間温度エラーを低減させることを可能にするような、バランスばねのための新しい製造方法と新しい化学組成を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このために、本発明は、Nb、Ti及びHの合金によって作られた計時器用バランスばねに関する。具体的には、前記バランスばねは、Nbと、Tiと、Hと、及び存在する場合にO、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素とからなる合金によって作られ、前記合金において、Tiの含有量は1~80重量%であり、Hの含有量は0.17~2重量%であり、Nbを除く他のすべての元素の合計含有量は0.3重量%以下であり、100重量%までの残りの量のNbを含む。
【0016】
水素を付加することによって、中間温度エラーが0に近く、同時に熱係数が0に近いようなバランスばねを作ることが可能になる。
【0017】
本発明によると、本製造方法の間に、制御された環境の下で、熱化学的処理によって、Nb-Ti合金に水素が付加される。
【0018】
具体的には、本製造方法は、
a)Nbと、Tiと、及び存在する場合にO、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素とからなる合金によって作られたブランクを作成又は用意し、ここで、前記合金において、Tiの含有量が1~80重量%であり、Nbを除く他のすべての元素の合計含有量が0.3重量%以下であり、100重量%までの残りの量のNbを含む、ステップと、
b)前記合金のTiとNbが実質的にβ相の固溶体の形態となるように、前記ブランクに対してβ型溶体化処理及びクエンチを行うステップと、
c)前記合金に対して一連の変形シーケンスを、行う場合に2つの変形シーケンスの間及び/又は一連の変形シーケンスの後において少なくとも1回の熱処理とともに、行うステップと、
d)ワインドしてバランスばねを形成するワインドステップと、及び
e)最終的定着用熱処理ステップとを行い、
前記方法は、水素を含む環境において付加的な熱化学的処理を行う熱化学的処理ステップを行い、この熱化学的処理ステップは、ステップb)の溶体化処理の間に、ステップc)の熱処理の間に、ステップe)の最終的定着用熱処理の間に、ステップb)及びc)の間に、ステップc)及びd)の間に、ステップd)及びe)の間に、又はステップe)の後に、行う。
【0019】
好ましいことに、前記熱化学的処理を、再結晶化された構造に対して行う。
【0020】
このように作成したバランスばねは、支配的な割合又はすべてが格子間水素の形態である水素を含む。「支配的な割合」という用語は、「すべて」とは対照的に、小さい割合の水素化物の非常に局所化された存在があっても排除されることがないように理解しなければならない。前記合金の微細構造は、固溶体におけるNbとTiの単一のβ相によって形成される。
【0021】
本発明に係る方法を用いて作成されたバランスばねは、その低い中間温度エラーと低い熱係数に加えて、500MPa以上であり、より厳密には800~1000MPaの範囲内である、最大抗張力Rmを有する。好ましいことに、このバランスばねは、80GPa以上、好ましくは90GPa以上、の弾性率を有する。
【0022】
以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴や利点を理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】47重量%のTiを含む本発明に係る三元のNb-Ti-Hグレードについての、熱係数に応じた中間温度エラーを示している。
図2】47重量%のTiを含む従来技術に係る二元のNb-Tiグレードについての、熱係数に応じた中間温度エラーを示している。
図3】4×105N/m2(4bar)の水素の下での652℃における15分間の熱化学的処理を経た本発明に係るNb-Ti-Hについての温度に応じたヤング率の変動を示している。図において、ヤング率が、23℃におけるヤング率に対して正規化されている。
図4】同じ合金についてのX線回折パターン(XRDパターン)を示している。
図5】θ=39°のまわりにてこのXRDパターンを拡大したものを示している。左側のピーク(Inv)に対して、熱化学的処理を行っていないものの基準ピーク(Ref)が右側にある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)及び水素(H)の合金によって作られた計時器用バランスばねに関する。具体的には、前記合金は、Nbと、Tiと、Hと、及び存在する場合にO、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素からなり、Tiの含有量は1~80重量%であり、Hの含有量は0.17~2重量%であり、Nbを除く微量元素の形態で存在する他のすべての元素の合計含有量は0.3重量%以下であり、100重量%までの残りの量のNbを含む。
【0025】
好ましくは、Hの含有量は、0.2~1.5重量%であり、より好ましくは0.5~1重量%である。
【0026】
好ましくは、Tiの含有量は、20~60重量%であり、より好ましくは40~50重量%である。
【0027】
本発明において用いられる合金は、潜在的な避けられない微量元素を除いてTi、Nb及びH以外の元素をいずれも含まない。
【0028】
特に、酸素含有量は、全組成物の0.10重量%以下であり、さらには全組成物の0.085重量%以下である。
【0029】
特に、炭素含有量は、全組成物の0.04重量%以下、特に全組成物の0.020重量%以下、さらには全組成物の0.0175重量%以下である。
【0030】
特に、鉄含有量は、全組成物の0.03重量%以下、特に全組成物の0.025重量%以下、さらには全組成物の0.020重量%以下である。
【0031】
特に、窒素含有量は、全組成物の0.02重量%以下、特に全組成物の0.015重量%以下、さらには全組成物の0.0075重量%以下である。
【0032】
具体的には、Siの含有量は、全組成物の0.01重量%以下である。
【0033】
特に、ニッケル含有量は、全組成物の0.01重量%以下、特に全組成物の0.16重量%以下である。
【0034】
特に、銅含有量は、全組成物の0.01重量%以下、特に全組成物の0.005重量%以下である。
【0035】
具体的には、Alの含有量は、全組成物の0.01重量%以下である。
【0036】
本発明よると、前記合金は、水素をキャリアガスとして含む雰囲気における熱化学的処理を介して水素リッチにされる。
【0037】
この熱化学的処理は、当該バランスばねを製造する方法の複数のステップにおいて行うことができる。この方法は、以下のステップを行う。
a)Nbと、Tiと、及び存在する場合にO、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素とからなるらなる合金によって作られたブランクを作成又は用意し、ここで、前記合金において、Tiの含有量が1~80重量%であり、Nbを除く他のすべての元素の合計含有量が0.3重量%以下であり、100重量%までの残りの量のNbを含む、ステップ
b)TiとNbが実質的にβ相の固溶体の形態となるように、前記ブランクに対していわゆるβ型溶体化処理及びクエンチを行うステップと、
c)随意的に一又は複数の熱処理とともに、前記合金に対して変形シーケンスを行うステップ
ここで、用語「変形」は、線引き及び/又は圧延による変形を意味するものと理解することができる。線引きにおいては、必要に応じて、同じシーケンス又は異なるシーケンスで、一又は複数のドロープレートを用いることを必要とすることがある。線引きは、丸い断面を有するワイヤが得られるまで行う。圧延は、線引きと同じ変形シーケンスの間又は別のシーケンスの間に行うことができる。好ましいことに、当該合金に対して行われる最後のシーケンスは、圧延操作であり、好ましくは、ワインダースピンドルの入口断面に適合する矩形の輪郭を有するようにされる。
d)ワインドしてバランスばねを形成するステップ
e)最終定着熱処理を行うステップ
【0038】
本発明によると、前記熱化学的処理は、ステップb)の溶体化処理の間に、ステップc)の熱処理の間に、ステップe)の最終的定着用熱処理の間に、又はステップa)及びb)、b)及びc)、c)及びd)、d)及びe)の間に、又はステップe)の後に、行うことができる。好ましいことに、この処理は、この製造方法の終わりにてステップe)において行う。この製造方法の終わりにて熱化学的処理を行うことによって、行うことがあるいずれの後のステップの間に、真空下などで、水素を環境に解放することをいずれも防ぐことが可能になる。また、これによって、単一の熱処理の間に、ばねの形状、熱係数及び中間温度エラーを固定することが可能になる。
【0039】
熱化学的処理は、100~900℃、好ましくは500~800℃、より好ましくは600~700℃、の保持温度で行う。熱化学的処理は、絶対気圧が5×102N/m2(5mbar)~106N/m2(10bar)、好ましくは0.5×105~7×105N/m2(0.5~7bar)、より好ましくは1×105~6×105N/m2(1~6bar)、さらに好ましくは3.5×105~4.5×105N/m2(3.5~4.5bar)であるような100%のH2を含む環境において行われる。また、熱化学的処理は、合計気圧が5×102N/m2(5mbar)~106N/m2(10bar)、好ましくは0.5×105~7×105N/m2(0.5~7bar)、より好ましくは1×105~6×105N/m2(1~6bar)、さらに好ましくは3.5×105~4.5×105N/m2(3.5~4.5bar)であり、H2の割合が5~90体積%であるような、混合気体、例えばArとH2の混合、を含む環境において行うこともできる。好ましいことに、熱化学的処理は、1分~5時間の継続時間行われる。
【0040】
ステップb)において、変形シーケンスの前のいわゆるβ型溶体化及びクエンチ処理は、真空にて600℃~1000℃の温度で5分~2時間の継続時間行い、その後にガス下にて冷却する処理である。具体的には、この処理は、800℃において1時間行い、その後にガス下にて冷却する。
【0041】
ステップ(c)において、各変形シーケンスは、1~5の範囲の所与の変形率となるように行われ、この変形率は、伝統的な式2ln(d0/d)を満たし、ここで、d0は最後のβクエンチの直径であり、dは冷間圧延ワイヤの直径である。この一連のシーケンス全体にわたる変形の全体的な累積は、1~14の範囲の合計変形率を発生させる。
【0042】
特に、本方法は、1~5の数の変形シーケンスを行う。
【0043】
特に、第1のシーケンスは、少なくとも30%の断面減少を伴う第1の変形を行う。
【0044】
特に、第1のシーケンスを除く各シーケンスは、少なくとも25%の断面減少を伴う変形を行う。
【0045】
変形シーケンスの間に、かつ/又はすべての変形シーケンスの後に、変形処理を行うことができる。この熱処理には、上記のようにβ型溶体化及びクエンチ処理を行うこと、Tiのα相に寄与すること、又は構造を修復/再結晶化すること、といういくつかの目的があることができる。β型溶体化及びクエンチ処理は、真空にて600℃~1000℃の温度で5分~2時間の継続時間行い、その後にガス下にて冷却する。Tiのα相の析出は、300~500℃の温度で1時間~200時間の持続時間行う。修復/再結晶化は、500~600℃の温度で30分~20時間の持続時間行う。
【0046】
ステップ(e)において、最終熱処理は、300℃~700℃の温度で1時間~200時間の持続時間行われる。特に、400℃~600℃の保持温度で前記持続時間は5時間~30時間である。
【0047】
また、本方法は、好ましいことに、前記合金ブランクの作成又は用意の後であってステップc)における変形シーケンスの前に、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、金、銀、ニッケル-リン(Ni-P)及びニッケル-ホウ素(Ni-B)などから選択される延性材料の表面層を前記ブランクに加える付加的なステップを行うことができる。これによって、変形中のワイヤ成形の操作を容易にする。また、最終変形シーケンスの間に、前記変形シーケンスの後に、又はワインドステップの後に、延性材料の層を、特にエッチングによって、ワイヤから除去する。
【0048】
1つの代替的実施形態において、延性材料の表面層を、バランスばねを形成するように堆積し、そのピッチは、剥いだ厚みの倍数ではない。別の代替実施形態において、延性材料の表面層は、ピッチが変動するばねを形成するように堆積される。
【0049】
このような状況で、特定の計時器用のアプリケーションにおいて、所与の時間においてワイヤ成形操作を容易にするために延性材料を加えて、10~500μmの厚みがワイヤに残り、このワイヤの最終直径が0.3~1mmとなるようにする。特にエッチングによって、ワイヤから延性材料の層が除去され、そして、圧延して平坦にされ、その後に、ワインドによってばね自体を実際に製造する。代わりに、圧延して平坦にする後であってワインドの前に、延性材料の層を除去することができる。
【0050】
延性材料の付加は、直流電気によって又は機械的に行うことができる。機械的な場合、延性材料は、銅のような延性材料のスリーブ又はチューブであり、これは、直径が大きな合金の棒体上で調整され、その後に、複合棒体を変形するいくかのステップにおいて細くされる。
【0051】
層の除去は、特に、シアン化物ベース又は酸ベースの溶液、例えば硝酸、を用いるエッチングによって行うことができる。
【0052】
付加的な熱化学的処理ステップに戻ると、水素を加える目的は、中間温度エラーを減らすためである。Tiが47重量%、Nbが53重量%の二元のNb-Ti合金に対して試験を行った。下記の表1の条件で、100%のH2を含む環境において、ステップe)における最終的定着用熱処理の間に、熱化学的処理を行った。熱化学的処理は、再結晶化のための熱処理において終わる変形シーケンスを経た再結晶化された構造(R)に対して、又は後の再結晶化のための熱処理を行わない変形シーケンスが後で行われる冷間圧延された構造(E)に対して、行われた。以下の式を用いて23℃にて中間温度エラー(ES)を測定した。
【0053】
【数4】
【0054】
これは、8℃におけるレートと38℃におけるレートを結ぶ直線からの23℃におけるレートの変分である。例えば、8℃、23℃、38℃におけるレートを、ウィッチ(Witschi)クロノスコープを用いて測定することができる。熱係数(CT)は、同じ機器を用いて、以下の式を用いて測定した。
【0055】
【数5】
【0056】
表1に測定結果を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
サンプル01~04のH含有量は、0.3~1重量%である。すべてのサンプルの中間温度エラーは、所望のように-3~+3s/dの範囲内であり、4×105N/m2(4bar)の水素気圧で処理したサンプルについては0に近い値であった。また、CTは、所望のように-0.6+0.6s/d℃の範囲内であった。サンプル01において最適なものが得られ、これに対しては、再結晶化された構造に対して熱化学的処理が行われ、熱係数と中間温度エラーはそれぞれ0に近い。その単位はそれぞれ、s/d℃とs/dである。このサンプルの水素含有量は、0.6重量%のオーダーである。
【0059】
図1に、サンプル01~04の結果をプロットしており、これにおいては、熱係数(CT)に応じた中間温度エラーを示している。概して、バランスばねの合金が水素を含む場合に、CTとESの間の直接的な関連性が観測された。これは、Tiが47重量%でNbが53重量%である二元の合金を用いた過去の試験において観測されたものとは対照的である。この後者の場合には、図2に示しているように、CTとESの間に関連性がない。これらの2種類の量を同じグラフにプロットすることによって、サンプルを製造する方法のパラメーターにかかわらない散布図を得ることができる。また、CT=ES=0であるような点が発生することはない。これは、三元のNb-Ti-Hの場合には当てはまる。このように、水素を追加することによって、CTを低く維持しつつ、中間温度エラーを制御することができる。
【0060】
また、-20℃~+60℃の範囲にわたって自由に振動するビームの固有周波数を測定する機械的スペクトロメーターを用いて、サンプル02のヤング率に対して温度が及ぼす影響を連続的に測定した(図3)。ヤング率に対する温度の影響は少ししか観測されなかった。
【0061】
同じサンプルに対して、X線回折解析(Bragg-Brentano構成)を行った。図4に、回折スペクトルを示した。30°~80°のXRDパターンは、TiH2又はNbHの水素化合物の相を示唆していない。図5において、NbTiのピーク[110]の領域に対応するθ=39°のまわりにズームインすることによって、熱化学的処理を行っていないものの基準ピーク(Refピーク)と比べて、熱化学的処理を行った後には、左の方へとシフトしていることかかわかる(Invピーク)。熱化学的処理によって、水素化合物を形成せずに水素を格子間水素(intersitial)の形態で導入することが可能になるというように結論づけることができる。 また、αTiの析出は観測されなかった。Tiの析出がないことは、Tiのβ相を安定化させる水素の存在が寄与したものである。
図1
図2
図3
図4
図5