(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及びその温度制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
B41J2/01 101
B41J2/01 123
B41J2/01 125
B41J2/01 451
(21)【出願番号】P 2022076746
(22)【出願日】2022-05-06
(62)【分割の表示】P 2017042084の分割
【原出願日】2017-03-06
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良祐
(72)【発明者】
【氏名】中屋 友佑
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-215642(JP,A)
【文献】特開2014-193599(JP,A)
【文献】特開2009-214439(JP,A)
【文献】特開平05-309924(JP,A)
【文献】特表2015-524756(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0098882(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドからインクを転写体に吐出して画像を形成し、前記画像を
前記転写体に圧接する圧胴により前記転写体から記録媒体に転写するインクジェット記録装置であって、
前記画像が前記記録媒体に転写された後の前記転写体を冷却する冷却手段と、
前記画像が形成された前記転写体を加熱する加熱手段と、
前記冷却手段により冷却された前記転写体の温度を測定する第1の測定手段と、
前記加熱手段により加熱された前記転写体の温度を測定する第2の測定手段と、
前記第1の測定手段により測定された温度に基づいて、前記冷却手段による冷却能力を制御し、前記第2の測定手段により測定された温度に基づいて、前記加熱手段による加熱能力を制御する制御手段と、
前記圧胴の外周面を撮像できるように設置されており、前記画像が転写された前記記録媒体に記録された画像を撮影する撮影手段と、を有し、
前記圧胴に前記記録媒体を密接させて搬送しながら前記転写体から前記画像を転写させることで、前記記録媒体に画像を記録し、
前記制御手段は、前記冷却手段の冷却能力と前記加熱手段の加熱能力を制御しても前記転写体が前記記録ヘッドに対向する第1の位置における前記転写体の温度が第1の温度範囲外となっているか、又は、前記転写体が前記
圧胴に対向する第2の位置における前記転写体の温度が第2の温度範囲外となっている場合、記録動作を停止するよう制御することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、
第1の液体を前記転写体に付与することにより、前記転写体を冷却する第1の冷却手段と、
ブローされるエアにより前記転写体を冷却する第2の冷却手段と、
前記第1の液体とは異なる第2の液体を前記転写体に付与することにより、前記転写体を冷却する第3の冷却手段とを含み、
前記転写体の冷却は、前記第1の冷却手段、前記第2の冷却手段、第3の冷却手段の順によりなされることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1の冷却手段は、
前記第1の液体を収容する第1の収容部と、
前記第1の収容部に収容された前記第1の液体を冷却する第1の冷却機構と、
前記第1の収容部に収容された前記第1の液体の温度を測定する第3の測定手段と、を含み、
前記第3の冷却手段は、
前記第2の液体を収容する第2の収容部と、
前記第2の収容部に収容された前記第2の液体を冷却する第2の冷却機構と、
前記第2の収容部に収容された前記第2の液体の温度を測定する第4の測定手段と、を含み、
前記制御手段はさらに、前記第3の測定手段により測定された温度に基づいて前記第1の冷却機構の設定温度を設定し、前記第4の測定手段により測定された温度に基づいて前記第2の冷却機構の設定温度を設定するよう制御することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第1の液体は、前記画像が前記記録媒体に転写された後の前記転写体の表面を清掃するために用いられる清掃液であり、
前記第2の液体は、前記転写体に前記記録ヘッドにより画像が形成される前に付与され、前記記録ヘッドから吐出されるインクと反応する反応液であることを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第2の冷却手段は、エアをブローするファンを含み、
前記制御手段はさらに、前記第1の測定手段により測定された温度に基づいて、前記ファンによるエアブロー量を制御することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記加熱手段は、ヒータを含み、
前記制御手段は、前記ヒータをPWM制御により加熱し、前記PWM制御のデューティを変更することで前記加熱手段の前記加熱能力を制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記転写体は予め定められた回転軸の周りに回転する回転体であり、該回転によって前記転写体の表面は円軌道上を循環的に移動する構成となっており、
前記円軌道に沿い、前記転写体の周囲に前記転写体の回転方向に、前記記録ヘッド、前記加熱手段、前記第2の測定手段、前記冷却手段、前記第1の測定手段が順に配置されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記転写体の周囲に、前記記録ヘッドと前記加熱手段との間に、前記記録ヘッドから吐出されたインクにより前記転写体に形成された画像に含まれる液体成分を、前記転写体に多孔質体を接触させることにより、吸収する吸収手段をさらに設け、
前記
圧胴は、前記転写体の周囲に、前記第2の測定手段と前記冷却手段との間に設けられ、前記画像を前記転写体から前記記録媒体に転写することを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記インクは、色材としての顔料と、樹脂と、前記液体成分とを含有することを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記転写体が前記記録ヘッドに対向する第1の位置では、前記転写体の温度が第1の温度範囲になるよう、そして、前記転写体が前記
圧胴に対向する第2の位置では、前記転写体の温度が第2の温度範囲になるよう前記冷却手段の冷却能力と前記加熱手段の加熱能力を制御することを特徴とする請求項8又は9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記撮影手段によって撮影された画像に基づいて画像の検査を行う検査手段を有することを特徴とする請求項
1乃至10のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
第1の搬送胴を有し、
記録媒体は前記圧胴に搬送された後に前記第1の搬送胴に搬送され、
前記第1の搬送胴によって搬送されている前記記録媒体に対してコーティング処理を行う第1のコーティング手段を有することを特徴とする請求項1乃至
11のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
記録ヘッドからインクを転写体に吐出して画像を形成し、前記画像を前記転写体に圧接する圧胴
により前記転写体から記録媒体に転写するインクジェット記録装置であって、
記録媒体
を、前記圧胴に搬送された後に
搬送する第1の搬送胴
と、
前記第1の搬送胴によって搬送されている前記記録媒体に対してコーティング処理を行う第1のコーティング手段
と、
前記画像が前記記録媒体に転写された後の前記転写体を冷却する冷却手段と、
前記画像が形成された前記転写体を加熱する加熱手段と、
前記冷却手段により冷却された前記転写体の温度を測定する第1の測定手段と、
前記加熱手段により加熱された前記転写体の温度を測定する第2の測定手段と、
前記第1の測定手段により測定された温度に基づいて、前記冷却手段による冷却能力を制御し、前記第2の測定手段により測定された温度に基づいて、前記加熱手段による加熱能力を制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記冷却手段の冷却能力と前記加熱手段の加熱能力を制御しても前記転写体が前記記録ヘッドに対向する第1の位置における前記転写体の温度が第1の温度範囲外となっているか、又は、前記転写体が前記圧胴に対向する第2の位置における前記転写体の温度が第2の温度範囲外となっている場合、記録動作を停止するよう制御することを特徴とす
るインクジェット記録装置。
【請求項14】
第2の搬送胴を有し、
前記記録媒体は前記第1の搬送胴に搬送された後に前記第2の搬送胴に搬送され、
前記第2の搬送胴によって搬送されている前記記録媒体に対してコーティング処理を行う第2のコーティング手段を有し、
前記第1のコーティング手段によって前記記録媒体の一方の面のコーティングを行い、前記第2のコーティング手段によって他方の面のコーティングを行うことを特徴とする請求項
13に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
記録ヘッドからインクを転写体に吐出して画像を形成し、前記画像を
前記転写体に圧接する圧胴により前記転写体から記録媒体に転写するインクジェット記録装置における温度制御方法であって、
前記画像が前記記録媒体に転写された後の前記転写体を冷却する冷却工程と、
前記画像が形成された前記転写体を加熱する加熱工程と、
前記冷却工程において冷却された前記転写体の温度を測定する第1の測定工程と、
前記加熱工程において加熱された前記転写体の温度を測定する第2の測定工程と、
前記第1の測定工程において測定された温度に基づいて、前記冷却工程における冷却能力を制御し、前記第2の測定工程により測定された温度に基づいて、前記加熱工程による加熱能力を制御する制御工程と、
前記圧胴の外周面を撮像できるように設置された撮影手段により、前記画像が転写された前記記録媒体に記録された画像を撮影する撮影工程と、を有し、
前記圧胴に前記記録媒体を密接させて搬送しながら前記転写体から前記画像を転写させることで、前記記録媒体に画像を記録し、
前記制御工程では、前記冷却工程における冷却能力と前記加熱工程における加熱能力を制御しても前記転写体が前記記録ヘッドに対向する第1の位置における前記転写体の温度が第1の温度範囲外となっているか、又は、前記転写体が前記
圧胴に対向する第2の位置における前記転写体の温度が第2の温度範囲外となっている場合、記録動作を停止するよう制御することを特徴とする温度制御方法。
【請求項16】
記録ヘッドからインクを転写体に吐出して画像を形成し、前記画像を
前記転写体に圧接する圧胴により前記転写体から記録媒体に転写するインクジェット記録装置における温度制御方法であって、
記録媒体を、前記圧胴に搬送された後に第1の搬送胴により搬送する工程と、
前記第1の搬送胴によって搬送されている前記記録媒体に対して第1のコーティング手段によりコーティング処理を行う工程と、
前記画像が前記記録媒体に転写された後の前記転写体を冷却する冷却工程と、
前記画像が形成された前記転写体を加熱する加熱工程と、
前記冷却工程において冷却された前記転写体の温度を測定する第1の測定工程と、
前記加熱工程において加熱された前記転写体の温度を測定する第2の測定工程と、
前記第1の測定工程において測定された温度に基づいて、前記冷却工程における冷却能力を制御し、前記第2の測定工程により測定された温度に基づいて、前記加熱工程による加熱能力を制御する制御工程と、を有し、
前記制御工程では、前記冷却工程における冷却能力と前記加熱工程における加熱能力を制御しても前記転写体が前記記録ヘッドに対向する第1の位置における前記転写体の温度が第1の温度範囲外となっているか、又は、前記転写体が前記
圧胴に対向する第2の位置における前記転写体の温度が第2の温度範囲外となっている場合、記録動作を停止するよう制御することを特徴とする温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置及びその温度制御方法に関し、特に、例えば、インクを中間転写体に吐出して形成した画像を記録媒体に転写して記録するインクジェット記録装置及びその温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット方式に従って記録を行う記録装置において、記録ヘッドよりインクを中間ドラムに吐出し、その中間ドラムに画像を形成し、その画像を記録媒体に転写して画像を記録する構成の記録装置がある。例えば、特許文献1には、中間ドラムのような中間転写体(単に転写体ともいう)の周囲にインクジェット記録ヘッドを用いた画像形成部やインク除去部や転写処理部などを備える構成が開示されている。
【0003】
また、特許文献2にも中間転写体に記録ヘッドからインクを吐出して画像を形成し、その形成画像をその中間転写体から記録紙に転写する構成のインクジェット記録装置が開示されている。特許文献2によれば、記録ヘッドから吐出された高温のインクがローラに捲回されたリング状の中間転写体で冷却されるが、中間転写体と吐出されたインクがヒータにより再び加熱され、液状のインクが記録紙に転写される。
【0004】
また、インクジェット記録ヘッドにより中間転写体にインクを吐出して画像を形成する過程とその形成画像を中間転写体から記録媒体に転写する過程とを繰返する記録装置において、その中間転写体を低温する冷却手段と高温にする加熱手段とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-182064号公報
【文献】特開平5-147209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記従来例では、中間転写体の温度を制御する手段がないため、外乱(雰囲気温度、中間転写体の胴温度、インク潜熱、色味ばらつきなど)の影響に弱く、中間転写体の温度を適正に維持することができない。例えば、記録ヘッドにより画像が形成される前に中間転写体を冷却し、その温度を制御する手段がないため、画像形成が安定しないという問題がある。また、中間転写体に形成された画像を記録媒体に転写する前に、その中間転写体を加熱しても、その加熱温度を制御する手段がないため、転写が安定しないという問題がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、転写体の温度を適正に制御し、高品位な画像を記録することができるインクジェット記録装置及びその温度制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明のインクジェット記録装置は次のような構成を有する。
【0009】
即ち、記録ヘッドからインクを転写体に吐出して画像を形成し、前記画像を前記転写体に圧接する圧胴により前記転写体から記録媒体に転写するインクジェット記録装置であって、前記画像が前記記録媒体に転写された後の前記転写体を冷却する冷却手段と、前記画像が形成された前記転写体を加熱する加熱手段と、前記冷却手段により冷却された前記転写体の温度を測定する第1の測定手段と、前記加熱手段により加熱された前記転写体の温度を測定する第2の測定手段と、前記第1の測定手段により測定された温度に基づいて、前記冷却手段による冷却能力を制御し、前記第2の測定手段により測定された温度に基づいて、前記加熱手段による加熱能力を制御する制御手段と、前記圧胴の外周面を撮像できるように設置されており、前記画像が転写された前記記録媒体に記録された画像を撮影する撮影手段と、を有し、前記圧胴に前記記録媒体を密接させて搬送しながら前記転写体から前記画像を転写させることで、前記記録媒体に画像を記録し、前記制御手段は、前記冷却手段の冷却能力と前記加熱手段の加熱能力を制御しても前記転写体が前記記録ヘッドに対向する第1の位置における前記転写体の温度が第1の温度範囲外となっているか、又は、前記転写体が前記圧胴に対向する第2の位置における前記転写体の温度が第2の温度範囲外となっている場合、記録動作を停止するよう制御することを特徴とする。
【0010】
また本発明を他の側面から見れば、記録ヘッドからインクを転写体に吐出して画像を形成し、前記画像を前記転写体に圧接する圧胴により前記転写体から記録媒体に転写するインクジェット記録装置における温度制御方法であって、前記画像が前記記録媒体に転写された後の前記転写体を冷却する冷却工程と、前記画像が形成された前記転写体を加熱する加熱工程と、前記冷却工程において冷却された前記転写体の温度を測定する第1の測定工程と、前記加熱工程において加熱された前記転写体の温度を測定する第2の測定工程と、前記第1の測定工程において測定された温度に基づいて、前記冷却工程における冷却能力を制御し、前記第2の測定工程により測定された温度に基づいて、前記加熱工程による加熱能力を制御する制御工程と、前記圧胴の外周面を撮像できるように設置された撮影手段により、前記画像が転写された前記記録媒体に記録された画像を撮影する撮影工程と、を有し、前記圧胴に前記記録媒体を密接させて搬送しながら前記転写体から前記画像を転写させることで、前記記録媒体に画像を記録し、前記制御工程では、前記冷却工程における冷却能力と前記加熱工程における加熱能力を制御しても前記転写体が前記記録ヘッドに対向する第1の位置における前記転写体の温度が第1の温度範囲外となっているか、又は、前記転写体が前記圧胴に対向する第2の位置における前記転写体の温度が第2の温度範囲外となっている場合、記録動作を停止するよう制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転写体の温度を適正に制御できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の代表的な実施形態である記録システムの概要図である。
【
図3】
図2の記録ユニットの変位態様の説明図である。
【
図4】
図1の記録システムの制御系のブロック図である。
【
図5】
図1の記録システムの制御系のブロック図である。
【
図6】
図1の記録システムの動作例の説明図である。
【
図7】
図1の記録システムの動作例の説明図である。
【
図8】転写体の温度制御を実行するために転写体の周囲に設けられた構成要素を模式的に示す図である。
【
図9】転写体の表面温度の時間変化を示す図である。
【
図10】4つの温度センサにより測定された温度に基づく転写体の温度制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について、さらに具体的かつ詳細に説明する。各図において、矢印XおよびYは水平方向を示し、互いに直交する。矢印Zは上下方向を示す。
【0014】
<用語の説明>
この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。さらに人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0015】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0016】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。なお、インクの成分については、特に限定はないが、本実施形態では、色材である顔料、水、樹脂を含む水性顔料インクを用いる場合を想定する。
【0017】
またさらに、「記録要素」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0018】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0019】
以下に用いる記録ヘッド用の素子基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0020】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0021】
<記録システム>
図1は本発明の一実施形態に係る記録システム1を概略的に示した正面図である。記録システム1は、転写体2を介して記録媒体Pにインク像を転写することで記録物P’を製造する、枚葉式のインクジェットプリンタである。記録システム1は、記録装置1Aと、搬送装置1Bとを含む。本実施形態では、X方向、Y方向、Z方向が、それぞれ、記録システム1の幅方向(全長方向)、奥行き方向、高さ方向を示している。記録媒体PはX方向に搬送される。
【0022】
<記録装置>
記録装置1Aは、記録ユニット3、転写ユニット4および周辺ユニット5A~5E、および、供給ユニット6を含む。
【0023】
<記録ユニット>
記録ユニット3は、複数の記録ヘッド30と、キャリッジ31とを含む。
図1と
図2を参照する。
図2は記録ユニット3の斜視図である。記録ヘッド30は、転写体(中間転写体)2に液体インクを吐出し、転写体2上に記録画像のインク像を形成する。
【0024】
本実施形態の場合、各記録ヘッド30は、Y方向に延設されたフルラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの記録媒体の画像記録領域の幅分をカバーする範囲にノズルが配列されている。記録ヘッド30は、その下面に、ノズルが開口したインク吐出面を有しており、インク吐出面は、微小隙間(例えば数mm)を介して転写体2の表面と対向している。本実施形態の場合、転写体2は円軌道上を循環的に移動する構成であるため、複数の記録ヘッド30は、放射状に配置されている。
【0025】
各ノズルには吐出素子が設けられている。吐出素子は、例えば、ノズル内に圧力を発生させてノズル内のインクを吐出させる素子であり、公知のインクジェットプリンタのインクジェットヘッドの技術が適用可能である。吐出素子としては、例えば電気熱変換体によりインクに膜沸騰を生じさせ気泡を形成することでインクを吐出する素子、電気機械変換体(ピエゾ素子)によってインクを吐出する素子、静電気を利用してインクを吐出する素子等が挙げられる。高速で高密度の記録の観点からは電気熱変換体を利用した吐出素子を用いることができる。
【0026】
本実施形態の場合、記録ヘッド30は、9つ設けられている。各記録ヘッド30は、互いに異なる種類のインクを吐出する。異なる種類のインクとは、例えば、色材が異なるインクであり、イエロインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインク等のインクである。1つの記録ヘッド30は1種類のインクを吐出するが、1つの記録ヘッド30が複数種類のインクを吐出する構成であってもよい。このように複数の記録ヘッド30を設けた場合、そのうちの一部が色材を含まないインク(例えばクリアインク)を吐出してもよい。
【0027】
キャリッジ31は、複数の記録ヘッド30を支持する。各記録ヘッド30は、インク吐出面側の端部がキャリッジ31に固定されている。これにより、インク吐出面と転写体2との表面の隙間をより精密に維持することができる。キャリッジ31は、案内部材RLの案内によって、記録ヘッド30を搭載しつつ変位可能に構成されている。本実施形態の場合、案内部材RLは、Y方向に延設されたレール部材であり、X方向に離間して一対設けられている。キャリッジ31のX方向の各側部にはスライド部32が設けられている。スライド部32は案内部材RLと係合し、案内部材RLに沿ってY方向にスライドする。
【0028】
図3は記録ユニット3の変位態様を示しており、記録システム1の右側面を模式的に示した図である。記録システム1の後部には回復ユニット12が設けられている。回復ユニット12は記録ヘッド30の吐出性能を回復する機構を有する。そのような機構としては、例えば、記録ヘッド30のインク吐出面をキャッピングするキャップ機構、インク吐出面をワイピングするワイパ機構、インク吐出面から記録ヘッド30内のインクを負圧吸引する吸引機構を挙げることができる。
【0029】
案内部材RLは、転写体2の側方から回復ユニット12に渡って延設されている。記録ユニット3は、案内部材RLの案内により、実線で記録ユニット3を示した吐出位置POS1と、破線で記録ユニット3を示した回復位置POS3との間で変位可能であり、不図示の駆動機構により移動される。
【0030】
吐出位置POS1は、記録ユニット3が転写体2にインクを吐出する位置であり、記録ヘッド30のインク吐出面が転写体2の表面に対向する位置である。回復位置POS3は、吐出位置POS1から退避した位置であり、記録ユニット3が回復ユニット12上に位置する位置である。回復ユニット12は記録ユニット3が回復位置POS3に位置した場合に、記録ヘッド30に対する回復処理を実行可能である。本実施形態の場合、記録ユニット3が回復位置POS3に到達する前の移動途中においても回復処理を実行可能である。吐出位置POS1と回復位置POS3の間には予備回復位置POS2があり、回復ユニット12は記録ヘッド30が吐出位置POS1から回復位置POS3へ移動中に、予備回復位置POS2において記録ヘッド30に対する予備的な回復処理を実行可能である。
【0031】
<転写ユニット>
図1を参照して転写ユニット4について説明する。転写ユニット4は、転写胴41と圧胴42とを含む。これらの胴は、Y方向の回転軸周りに回転する回転体であり、円筒形状の外周面を有している。
図1において、転写胴41および圧胴42の各図形内に示した矢印は、これらの回転方向を示しており、転写胴41は時計回りに、圧胴42は反時計回りに回転する。
【0032】
転写胴41は、その外周面に転写体2を支持する支持体である。転写体2は、転写胴41の外周面上に、周方向に連続的にあるいは間欠的に設けられる。連続的に設けられる場合、転写体2は無端の帯状に形成される。間欠的に設けられる場合、転写体2は、有端の帯状に複数のセグメントに分けて形成され、各セグメントは転写胴41の外周面に等ピッチで円弧状に配置することができる。
【0033】
転写胴41の回転により、転写体2は円軌道上を循環的に移動する。転写胴41の回転位相により、転写体2の位置は、吐出前処理領域R1、吐出領域R2、吐出後処理領域R3およびR4、転写領域R5、転写後処理領域R6に区別することができる。転写体2はこれらの領域を循環的に通過する。
【0034】
吐出前処理領域R1は、記録ユニット3によるインクの吐出前に転写体2に対する前処理を行う領域であり、周辺ユニット5Aによる処理が行われる領域である。本実施形態の場合、反応液が付与される。吐出領域R2は記録ユニット3が転写体2にインクを吐出してインク像を形成する形成領域である。吐出後処理領域R3およびR4はインクの吐出後にインク像に対する処理を行う処理領域であり、吐出後処理領域R3は周辺ユニット5Bによる処理が行われる領域であり、吐出後処理領域R4は周辺ユニット5Cによる処理が行われる領域である。転写領域R5は転写ユニット4により転写体2上のインク像が記録媒体Pに転写される領域である。転写後処理領域R6は、転写後に転写体2に対する後処理を行う領域であり、周辺ユニット5Dによる処理が行われる領域である。
【0035】
なお、吐出前処理領域R1と転写後処理領域R6の間には、周辺ユニット5Eが設けられ、周辺ユニット5Eからのエアブローにより転写体2の冷却が行われる。
【0036】
本実施形態の場合、吐出領域R2は、一定の区間を有する領域である。他の領域R1、R3~R6は、吐出領域R2に比べるとその区間は狭い。時計の文字盤に喩えると、本実施形態の場合、吐出前処理領域R1は概ね10時の位置であり、吐出領域R2は概ね11時から1時の範囲であり、吐出後処理領域R3は概ね2時の位置であり、吐出後処理領域R4は概ね4時の位置である。転写領域R5は概ね6時の位置であり、転写後処理領域R6は概ね8時の領域である。
【0037】
転写体2は、単層から構成してもよいが、複数層の積層体としてもよい。複数層で構成する場合、例えば、表面層、弾性層、圧縮層の三層を含んでもよい。表面層はインク像が形成される画像形成面を有する最外層である。圧縮層を設けることで、圧縮層が変形を吸収し、局所的な圧力変動に対してその変動を分散し、高速記録時においても転写性を維持することができる。弾性層は表面層と圧縮層との間の層である。
【0038】
表面層の材料としては、樹脂、セラミック等各種材料を適宜用いることができるが、耐久性等の点で圧縮弾性率の高い材料を用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素含有樹脂、加水分解性有機ケイ素化合物を縮合して得られる縮合物等が挙げられる。表面層には、反応液の濡れ性、画像の転写性等を向上させるために、表面処理を施して用いてもよい。表面処理としては、フレーム処理、コロナ処理、プラズマ処理、研磨処理、粗化処理、活性エネルギー線照射処理、オゾン処理、界面活性剤処理、シランカップリング処理などが挙げられる。これらを複数組み合わせてもよい。また、表面層に任意の表面形状を設けることもできる。
【0039】
圧縮層の材料としては、例えばアクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。このようなゴム材料の成形時には、所定量の加硫剤、加硫促進剤等を配合し、さらに発泡剤、中空微粒子或いは食塩等の充填剤を必要に応じて配合し、多孔質のゴム材料としてもよい。これにより、様々な圧力変動に対して気泡部分が体積変化を伴って圧縮されるため、圧縮方向以外への変形が小さく、より安定した転写性、耐久性を得ることができる。多孔質のゴム材料としては、各気孔が互いに連続した連続気孔構造のものと、各気孔がそれぞれ独立した独立気孔構造のものがあるが、いずれの構造であってもよく、これらの構造を併用してもよい。
【0040】
弾性層の部材としては、樹脂、セラミック等、各種材料を適宜用いることができる。加工特性等の点で、各種エラストマー材料、ゴム材料を用いることができる。具体的には、例えばフルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。また、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、スチレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン/プロピレン/ブタジエンのコポリマー、ニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。特に、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴムは、圧縮永久ひずみが小さいため、寸法安定性、耐久性の面で有利である。また、温度による弾性率の変化が小さく、転写性の点でも有利である。
【0041】
表面層と弾性層の間、弾性層と圧縮層の間には、これらを固定するために各種接着剤や両面テープを用いることもできる。また、転写体2は、転写胴41に装着する際の横伸びの抑制や、コシを保つために圧縮弾性率が高い補強層を含んでもよい。また、織布を補強層としてもよい。転写体2は前記材質による各層を任意に組み合わせて作製することができる。
【0042】
圧胴42は、その外周面が転写体2に圧接される。圧胴42の外周面には、記録媒体Pの先端部を保持するグリップ機構が少なくとも一つ設けられている。グリップ機構は圧胴42の周方向に離間して複数設けてもよい。記録媒体Pは圧胴42の外周面に密接して搬送されつつ、圧胴42と転写体2とのニップ部を通過するときに、転写体2上のインク像が転写される。
【0043】
転写胴41と圧胴42とを駆動するモータ等の駆動源は、これらに共通とし、歯車機構等の伝達機構により、駆動力を分配することができる。
【0044】
<周辺ユニット>
周辺ユニット5A~5Eは転写胴41の周囲に配置されている。本実施形態の場合、周辺ユニット5A~5Eは、順に、付与ユニット、吸収ユニット、加熱ユニット、清掃ユニット、冷却ユニットである。
【0045】
付与ユニット5Aは、記録ユニット3によるインクの吐出前に、転写体2上に反応液を付与する機構である。反応液は、インクを高粘度化する成分を含有する液体である。ここで、インクの高粘度化とは、インクを構成している色材や樹脂等がインクを高粘度化する成分と接触することによって化学的に反応し、あるいは物理的に吸着し、これによってインクの粘度の上昇が認められることである。このインクの高粘度化には、インク全体の粘度上昇が認められる場合のみならず、色材や樹脂等のインクを構成する成分の一部が凝集することにより局所的に粘度の上昇が生じる場合も含まれる。
【0046】
インクを高粘度化する成分は、金属イオン、高分子凝集剤など、特に制限はないが、インクのpH変化を引き起こして、インク中の色材を凝集させる物質を用いることができ、有機酸を用いることができる。反応液の付与機構としては、例えば、ローラ、記録ヘッド、ダイコーティング装置(ダイコータ)、ブレードコーティング装置(ブレードコータ)などが挙げられる。転写体2に対するインクの吐出前に反応液を転写体2に付与しておくと、転写体2に達したインクを直ちに定着させることができる。これにより、隣接するインク同士が混ざり合うブリーディングを抑制することができる。
【0047】
吸収ユニット5Bは、転写前に、転写体2上のインク像から液体成分を吸収する機構である。インク像の液体成分を減少させることで、記録媒体Pに記録される画像のにじみ等を抑制することができる。液体成分の減少を異なる視点で説明すれば、転写体2上のインク像を構成するインクを濃縮すると表現することもできる。インクを濃縮するとは、インクに含まれる液体成分が減少することによって、インクに含まれる色材や樹脂といった固形分の液体成分に対する含有割合が増加することを意味する。
【0048】
吸収ユニット5Bは、例えば、インク像に接触してインク像の液体成分の量を減少させる液吸収部材を含む。液吸収部材はローラの外周面に形成されてもよいし、液吸収部材が無端のシート状に形成され、循環的に走行されるものでもよい。インク像の保護の点で、液吸収部材の移動速度を転写体2の周速度と同じにして液吸収部材を転写体2と同期して移動させてもよい。
【0049】
液吸収部材は、インク像に接触する多孔質体を含んでもよい。液吸収部材へのインク固形分付着を抑制するため、インク像に接触する面の多孔質体の孔径は、10μm以下であってもよい。ここで、孔径とは平均直径のことを示し、公知の手段、例えば水銀圧入法や、窒素吸着法、SEM画像観察等で測定可能である。なお、液体成分は、一定の形を有さず、流動性があり、ほぼ一定の体積を有するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、インクや反応液に含まれる水や有機溶媒等が液体成分として挙げられる 。
【0050】
加熱ユニット5Cは、転写前に、転写体2上のインク像を加熱する機構である。インク像を加熱することで、インク像中の樹脂が溶融し、記録媒体Pへの転写性を向上する。加熱温度は、樹脂の最低造膜温度(MFT)以上とすることができる。MFTは一般的に知られている手法、例えばJIS K 6828-2:2003や、ISO2115:1996に準拠した各装置で測定することが可能である。転写性及び画像の堅牢性の観点から、MFTよりも10℃以上高い温度で加熱してもよく、更に、20℃以上高い温度で加熱してもよい。加熱ユニット5Cは、例えば、赤外線等の各種ランプ、温風ファン等、公知の加熱デバイスを用いることができる。加熱効率の点で、赤外線ヒータを用いることができる。
【0051】
清掃ユニット5Dは、転写後に転写体2上を清掃する機構である。清掃ユニット5Dは、転写体2上に残留したインクや、転写体2上のごみ等を除去する。清掃ユニット5Dは、例えば、多孔質部材を転写体2に接触させる方式、ブラシで転写体2の表面を擦る方式、ブレードで転写体2の表面をかきとる方式等の公知の方式を適宜用いることができる。また、清掃に用いる清掃部材は、ローラ形状、ウェブ形状等、公知の形状を用いることができる。
【0052】
冷却ユニット5Eは、清掃ユニット5Dにより清掃された転写体2をエアブローにより冷却する送風機構である。そのエアブロー量は後述するように、転写体2の周囲に設けられた複数の温度センサにより検出された温度によって制御される。これにより、冷却効果が制御される。
【0053】
以上の通り、本実施形態では、付与ユニット5A、吸収ユニット5B、加熱ユニット5C、清掃ユニット5D、冷却ユニット5Eを周辺ユニットとして備えるが、
図1に示すような独立的なユニットを備えることにより本発明は限定されるものではない。例えば、付与ユニット5A又は清掃ユニット5Dに転写体2の冷却ユニット5Eと同等の冷却機能を付与してもよい。本実施形態では、加熱ユニット5Cの熱により転写体2の温度が上昇する場合がある。記録ユニット3により転写体2にインクを吐出した後、インク像がインクの主溶剤である水の沸点を超えると、吸収ユニット5Bによる液体成分の吸収性能が低下する場合がある。吐出されたインクが水の沸点未満に維持されるように転写体2を冷却することで、液体成分の吸収性能を維持することができる。
【0054】
なお、冷却ユニット5Eには、送風機構に加え、転写体2に部材(例えばローラ)を接触させ、この部材を送風機構により冷却する構成を備えてもよい。さらに、冷却ユニット5Eにより清掃ユニット5Dの清掃部材を冷却する機構を備えてもよい。冷却タイミングは、転写後、反応液の付与前までの期間であってもよい。
【0055】
<供給ユニット>
供給ユニット6は、記録ユニット3の各記録ヘッド30にインクを供給する機構である。供給ユニット6は記録システム1の後部側に設けられていてもよい。供給ユニット6は、インクの種類毎に、インクを貯留する貯留部TKを備える。貯留部TKは、メインタンクとサブタンクとによって構成されてもよい。各貯留部TKと各記録ヘッド30とは流路6aで連通し、貯留部TKから記録ヘッド30へインクが供給される。流路6aは、貯留部TKと記録ヘッド30との間でインクを循環させる流路であってもよく、供給ユニット6はインクを循環させるポンプ等を備えてもよい。流路6aの途中または貯留部TKには、インク中の気泡を脱気する脱気機構を設けてもよい。流路6aの途中または貯留部TKには、インクの液圧と大気圧との調整を行うバルブを設けてもよい。貯留部TK内のインク液面が、記録ヘッド30のインク吐出面よりも低い位置となるように、貯留部TKと記録ヘッド30のZ方向の高さが設計されてもよい。
【0056】
<搬送装置>
搬送装置1Bは、記録媒体Pを転写ユニット4へ給送し、インク像が転写された記録物P’を転写ユニット4から排出する装置である。搬送装置1Bは、給送ユニット7、複数の搬送胴8、8a、二つのスプロケット8b、チェーン8cおよび回収ユニット8dを含む。
図1において、搬送装置1Bの各構成の図形の内側の矢印はその構成の回転方向を示し、外側の矢印は記録媒体Pまたは記録物P’の搬送経路を示している。記録媒体Pは給送ユニット7から転写ユニット4へ搬送され、記録物P’は転写ユニット4から回収ユニット8dへ搬送される。給送ユニット7側を搬送方向で上流側と呼び、回収ユニット8d側を下流側と呼ぶ場合がある。
【0057】
給送ユニット7は、複数の記録媒体Pが積載される積載部を含むと共に、積載部から一枚ずつ記録媒体Pを、最上流の搬送胴8に給送する給送機構を含む。各搬送胴8、8aはY方向の回転軸周りに回転する回転体であり、円筒形状の外周面を有している。各搬送胴8、8aの外周面には、記録媒体P(または記録物P’)の先端部を保持するグリップ機構が少なくとも一つ設けられている。各グリップ機構は、隣接する搬送胴間で記録媒体Pを受け渡されるように、その把持動作および解除動作が制御される。
【0058】
二つの搬送胴8aは、記録媒体Pの反転用の搬送胴である。記録媒体Pを両面記録する場合、表面への転写後に、圧胴42から下流側に隣接する搬送胴8へ記録媒体Pを渡さずに、搬送胴8aに渡す。記録媒体Pは、二つの搬送胴8aを経由して表裏が反転され、圧胴42の上流側の搬送胴8を経由して再び圧胴42へ渡される。これにより、記録媒体Pの裏面が転写胴41に面することになり、裏面にインク像が転写される。
【0059】
チェーン8cは、二つのスプロケット8b間に巻き回されている。二つのスプロケット8bの一方は駆動スプロケットであり他方は従動スプロケットである。駆動スプロケットの回転によりチェーン8cが循環的に走行する。チェーン8cには、その長手方向に離間して複数のグリップ機構が設けられている。グリップ機構は、記録物P’の端部を把持する。下流端に位置する搬送胴8からチェーン8cのグリップ機構に記録物P’が渡され、グリップ機構に把持された記録物P’はチェーン8cの走行により回収ユニット8dへ搬送され、把持が解除される。これにより記録物P’が回収ユニット8d内に積載される。
【0060】
<後処理ユニット>
搬送装置1Bには、後処理ユニット10A、10Bが設けられている。後処理ユニット10A、10Bは転写ユニット4よりも下流側に配置され、記録物P’に対して後処理を行う機構である。後処理ユニット10Aは、記録物P’の表面に対する処理を行い、後処理ユニット10Bは、記録物P’の裏面に対する処理を行う。処理の内容としては、例えば、記録物P’の画像記録面に、画像の保護や艶出し等を目的としたコーティングを挙げることができる。コーティングの内容としては、例えば、液体の塗布、シートの溶着、ラミネート等を挙げることができる。
【0061】
<検査ユニット>
搬送装置1Bには、検査ユニット9A、9Bが設けられている。検査ユニット9A、9Bは転写ユニット4よりも下流側に配置され、記録物P’の検査を行う機構である。
【0062】
本実施形態の場合、検査ユニット9Aは、記録物P’に記録された画像を撮影する撮影装置であり、例えば、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を含む。検査ユニット9Aは、連続的に行われる記録動作中に、記録画像を撮影する。検査ユニット9Aが撮影した画像に基づいて、記録画像の色味などの経時変化を確認し、画像データあるいは記録データの補正の可否を判断することができる。本実施形態の場合、検査ユニット9Aは、圧胴42の外周面に撮像範囲が設定されており、転写直後の記録画像を部分的に撮影可能に配置されている。検査ユニット9Aにより全ての記録画像の検査を行ってもよいし、所定数毎に検査を行ってもよい。
【0063】
本実施形態の場合、検査ユニット9Bも、記録物P’に記録された画像を撮影する撮影装置であり、例えば、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を含む。検査ユニット9Bは、テスト記録動作において記録画像を撮影する。検査ユニット9Bは、記録画像の全体を撮影し、検査ユニット9Bが撮影した画像に基づいて、記録データに関する各種の補正の基本設定を行うことができる。本実施形態の場合、チェーン8cで搬送される記録物P’を撮影する位置に配置されている。検査ユニット9Bにより記録画像を撮影する場合、チェーン8cの走行を一時的に停止して、その全体を撮影する。検査ユニット9Bは、記録物P’上を走査するスキャナであってもよい。
【0064】
<制御ユニット>
次に、記録システム1の制御ユニットについて説明する。
図4および
図5は記録システム1の制御ユニット13のブロック図である。制御ユニット13は、上位装置(DFE)HC2に通信可能に接続され、また、上位装置HC2はホスト装置HC1に通信可能に接続される。
【0065】
ホスト装置HC1は、例えば、情報処理装置であるPC(Personal Computer)であってもよいし、サーバ装置であってもよい。また、ホスト装置HC1と上位装置HC2間の通信方法については、有線/無線のいずれでもよく、特に限定するものではない。
【0066】
ホスト装置HC1では、記録画像の元になる原稿データが生成、あるいは保存される。ここでの原稿データは、例えば、文書ファイルや画像ファイル等の電子ファイルの形式で生成される。この原稿データは、上位装置HC2へ送信され、上位装置HC2では、受信した原稿データを制御ユニット13で利用可能なデータ形式(例えば、RGBで画像を表現するRGBデータ)に変換する。変換後のデータは、画像データとして上位装置HC2から制御ユニット13へ送信され、制御ユニット13は受信した画像データに基づき、記録動作を開始する。
【0067】
本実施形態の場合、制御ユニット13は、メインコントローラ13Aと、エンジンコントローラ13Bとに大別される。メインコントローラ13Aは、処理部131、記憶部132、操作部133、画像処理部134、通信I/F(インタフェース)135、バッファ136および通信I/F137を含む。
【0068】
処理部131は、CPU等のプロセッサであり、記憶部132に記憶されたプログラムを実行し、メインコントローラ13A全体の制御を行う。記憶部132は、RAM、ROM、ハードディスク、SSD等の記憶デバイスであり、CPU131が実行するプログラムや、データを格納し、また、CPU131にワークエリアを提供する。記憶部132のほか、外付けの記憶部が更に設けられていてもよい。操作部133は、例えば、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力デバイスであり、ユーザの指示を受け付ける。操作部133は、例えば、入力部と表示部が一体となった構成であってもよい。なお、ユーザ操作は、操作部133を介した入力に限定するものではなく、例えば、ホスト装置HC1や上位装置HC2から指示を受け付けるような構成であってもよい。
【0069】
画像処理部134は例えば画像処理プロセッサを有する電子回路である。バッファ136は、例えば、RAM、ハードディスクやSSDである。通信I/F135は上位装置HC2との通信を行い、通信I/F137はエンジンコントローラ13Bとの通信を行う。
図4において破線矢印は、画像データの処理の流れを例示している。上位装置HC2から通信IF135を介して受信された画像データは、バッファ136に蓄積される。画像処理部134はバッファ136から画像データを読み出し、読み出した画像データに所定の画像処理を施して、再びバッファ136に格納する。バッファ136に格納された画像処理後の画像データは、プリントエンジンが用いる記録データとして、通信I/F137からエンジンコントローラ13Bへ送信される。
【0070】
図5に示すように、エンジンコントローラ13Bは、制御部14、15A~15Eを含み、記録システム1が備えるセンサ群およびアクチュエータ群16の検知結果の取得および駆動制御を行う。これらの各制御部は、CPU等のプロセッサ、RAMやROM等の記憶デバイス、外部デバイスとのインタフェースを含む。なお、制御部の区分けは一例であり、一部の制御を更に細分化した複数の制御部で実行してもよいし、逆に、複数の制御部を統合して、それらの制御内容を一つの制御部で行うように構成してもよい。
【0071】
エンジン制御部14は、エンジンコントローラ13Bの全体の制御を行う。記録制御部15Aは、メインコントローラ13Aから受信した記録データをラスタデータ等、記録ヘッド30の駆動に適したデータ形式に変換する。記録制御部15Aは、各記録ヘッド30の吐出制御を行う。
【0072】
転写制御部15Bは、付与ユニット5Aの制御、吸収ユニット5Bの制御、加熱ユニット5Cの制御、清掃ユニット5Dの制御、及び冷却ユニット5Eの制御を行う。
【0073】
信頼性制御部15Cは、供給ユニット6の制御、回復ユニット12の制御、および記録ユニット3を吐出位置POS1と回復位置POS3との間で移動させる駆動機構の制御を行う。
【0074】
搬送制御部15Dは、転写ユニット4の駆動制御や、搬送装置1Bの制御を行う。検査制御部15Eは、検査ユニット9Bの制御、および検査ユニット9Aの制御を行う。
【0075】
センサ群およびアクチュエータ群16のうち、センサ群には、可動部の位置や速度を検知するセンサ、温度を検知するセンサ、撮像素子等が含まれる。アクチュエータ群にはモータ、電磁ソレノイド、電磁バルブ等が含まれる。
【0076】
<動作例>
図6は記録動作の例を模式的に示す図である。転写胴41および圧胴42が回転されつつ、以下の各工程が循環的に行われる。状態ST1に示すように、始めに転写体2上に付与ユニット5Aから反応液Lが付与される。転写体2上の反応液Lが付与された部位は転写胴41の回転に伴って移動していく。反応液Lが付与された部位が記録ヘッド30の下に到達すると、状態ST2に示すように記録ヘッド30から転写体2にインクが吐出される。これによりインク像IMが形成される。その際、吐出されるインクが転写体2上の反応液Lと混ざりあうことで、色材の凝集が促進される。吐出されるインクは、供給ユニット6の貯留部TKから記録ヘッド30に供給される。
【0077】
転写体2上のインク像IMは転写体2の回転に伴って移動していく。インク像IMが吸収ユニット5Bに到達すると状態ST3に示すように吸収ユニット5Bによりインク像IMから液体成分が吸収される。インク像IMが加熱ユニット5Cに到達すると状態ST4に示すように加熱ユニット5Cによりインク像IMが加熱され、インク像IM中の樹脂が溶融し、インク像IMが造膜される。このようなインク像IMの形成に同期して、搬送装置1Bにより記録媒体Pが搬送される。
【0078】
状態ST5に示すように、インク像IMと記録媒体Pとが転写体2と圧胴42とのニップ部に到達し、記録媒体Pにインク像IMが転写され、記録物P’が製造される。ニップ部を通過すると、記録物P’に記録された画像が検査ユニット9Aにより撮影され、記録画像が検査される。記録物P’は搬送装置1Bにより回収ユニット8dへ搬送される。
【0079】
転写体2上のインク像IMが形成されていた部分は、清掃ユニット5Dに到達すると状態ST6に示すように清掃ユニット5Dにより清掃される。清掃後、転写体2は一回転したことになり、同様の手順で記録媒体Pへのインク像の転写が繰り返し行われる。なお、転写体2の状態が、状態ST6から状態ST1に戻る前に、冷却ユニット5Eにより転写体2の表面が十分に冷却される。上記の説明では理解を容易にするために、転写体2の一回転で一枚の記録媒体Pへのインク像IMの転写が一回行われるように説明したが、転写体2の一回転で複数枚の記録媒体Pへのインク像IMの転写が連続的に行うことができる。
【0080】
このような記録動作を継続していくと各記録ヘッド30のメンテナンスが必要となる。
【0081】
図7は各記録ヘッド30のメンテナンスの際の動作例を示している。状態ST11は、吐出位置POS1に記録ユニット3が位置している状態を示す。状態ST12は、記録ユニット3が予備回復位置POS2を通過している状態を示し、通過中に回復ユニット12により記録ユニット3の各記録ヘッド30の吐出性能を回復する処理が実行される。その後、状態ST13に示すように、記録ユニット3が回復位置POS3に位置した状態で、回復ユニット12により各記録ヘッド30の吐出性能を回復する処理が実行される。
【0082】
次に以上のような構成の記録システムにおいて、転写体2の温度を効果的に冷却、加熱し、転写体2の温度を適正に維持する制御について説明する。
【0083】
<転写体の温度制御>
図8は、転写体の温度制御を実行するために転写体の周囲に設けられた構成要素を模式的に示す図である。なお、
図8において、
図1で示した記録システムの種々の構成要素のうち、転写体の温度制御と直接的に関係しない部分については図示していない。また、
図8において、既に
図1を参照して説明した構成要素については同じ参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0084】
図8に示されるように、転写体2の回転方向に関して、付与ユニット5Aの下流側に温度センサ111が設けられ、加熱ユニット5Cの下流側に温度センサ112が設けられている。このように、2つの温度センサを配置することにより、清掃ユニット5Dと冷却ユニット5Eと付与ユニット5Aにより冷却された転写体2の温度が検出され、加熱ユニット5Cにより加熱された転写体2の温度が検出される。温度センサ111、112は転写体2の表面より放射される赤外線を検知することにより、転写体2の温度を検出する非接触式センサである。
【0085】
このような構成により、転写体2の温度は記録ユニット3の直下では、T1~T2℃に保持される。一方、画像が転写される転写胴41と圧胴42とのニップ部では、T3~T4℃に保持される。
【0086】
付与ユニット5Aは、転写体2に付与する反応液Lを収容する反応液収容部103aと、反応液収容部103aに収容された反応液Lを取り出すローラ103bと、ローラ103bに含浸された反応液Lを転写体2に付与するローラ103cとを含む。反応液収容部103aは反応液Lを一定の温度以下に冷却して保持する冷却機構を備える。反応液収容部103aには反応液Lの温度を測定する温度センサ113が備えられる。
【0087】
また、清掃ユニット5Dは、転写体2を清掃するために用いる清掃液(CL液)を収容するCL液収容部109aと、そこに含まれたCL液を転写体2に付与するローラ109bとを含む。CL液収容部109aは、CL液を一定の温度以下に冷却して保持する冷却機構を備える。CL液収容部109aにはCL液の温度を測定する温度センサ114が備えられる。
【0088】
以上の構成から分かるように、付与ユニット5Aによる反応液Lの付与と、清掃ユニット5DによるCL液の付与とにより、転写体2はある程度、冷却される。従って、付与ユニット5Aと清掃ユニット5Dとは液冷の冷却機能を備えていると言える。なお、温度センサ113と温度センサ114は本実施の構成のように液収容部に備えられても良いし、図示しない液体供給流路内、または液体冷却循環流路内に備えられるものでも良い。
【0089】
これに加えて、上述のように、付与ユニット5Aと清掃ユニット5Dとの間には、冷却ユニット5Eが設けられている。冷却ユニット5Eは、転写体2にエアを送風するファンとその送風量を制御する制御ブースティングとを備えている。このように、この実施形態における冷却ユニット5Eは空冷の冷却機能を備えていると言える。
【0090】
以上説明したように、この実施形態における記録システムでは、転写体2の回転方向に関して、液冷、空冷、液冷の順序で転写体2の冷却を行う冷却機構を備えている。このような順序は転写体2に対する効率的な冷却効果を達成するために決められたものである。
【0091】
また、以上の構成から分かるように、転写体2の温度制御は4つの温度センサにより検出された温度に基づいて行われる。
【0092】
図9は、転写体の表面温度の時間変化を示す図である。
【0093】
この実施形態の転写体2は4.5秒で一回転する回転速度で回転しながら、記録動作を行う。
図9では、転写体2の表面のある一点が一回転中にどのように表面温度が変化するのかが示されている。
図9には、転写体2が4回転して得られた各周目の温度プロファイルが図示されており、それぞれ1周目、2周目、3周目、4周目として示されている。各周は、転写体2の任意の点が付与ユニット5Aと冷却ユニット5Eとの間にあるときに始まり、転写体2が1回転して、再びその点が付与ユニット5Aと冷却ユニット5Eとの間に戻ってきたときに終了する。そのため、
図9において、時間軸(横軸)の原点(0点)が各周の開始点であり、4.5秒(sec)がその周の終了点となる。
【0094】
図9によれば、1周目では記録システムの暖気運転(暖気1)が行われ、2周目でも記録システムの暖気運転(暖気2)が行われ、そして、3~4周目では記録システムの記録動作(記録1、記録2)が行われる。
【0095】
図9に示されるように、その回転において、転写体2の任意の点は、付与ユニット5A、記録ユニット3、加熱ユニット5C、転写ユニット4、清掃ユニット5D、冷却ユニット5Eが備えられた場所を通過する。そして、温度測定1では、温度センサ111により転写体2の温度が測定され、温度測定2では、温度センサ112により転写体2の温度が測定される。これらの測定温度が、加熱ユニット5Cによる転写体2の加熱動作、冷却ユニット5Eによる転写体2の冷却動作の制御にフィードバックされる。また、冷却制御には、温度センサ113により測定される反応液Lの温度と、温度センサ114により測定されるCL液の温度と、一定の温度範囲内となるように冷却機構(チラー)の動作を制御することも含まれる。温度センサ111~114により測定された温度による転写体2の温度制御の詳細については後述する。
【0096】
図9から分かるように、各周で転写体2の温度プロファイルが異なる。しかしながら、その温度プロファイルによれば、付与ユニット5Aによる反応液Lの付与により転写体2の温度は低下する。また、清掃ユニット5DによるCL液の付与により転写体2の温度は低下する。さらに、冷却ユニット5Eによるエアブローによっても転写体2の温度は低下する。一方、加熱ユニット5Cによるヒータ加熱により転写体2の温度は上昇する。
【0097】
この実施形態では、記録システムの暖気運転中に転写体2を1~2回転中に4つの温度センサ111~114により測定された温度に基づいて、転写体2の温度が所定の範囲内となるように温度制御の処理を実行する。暖気運転中に温度制御を実行するには次の理由による。即ち、吐出領域R2を転写体2が通過するとき、転写体2の温度がT1℃未満であるとインクが凝集不足になり、形成画像の品質が低下する。一方、転写体2の温度はT2℃を越えるとインクの水分が蒸発することにより樹脂成分が収縮しインク吐出により形成された画像が割れてしまう。また、転写領域R5を転写体2が通過する時、転写体2の温度はT3℃未満であると画像転写が良好でなくなり、T4℃を越えるとブランケット(転写体2)の耐久性が低下する。
【0098】
従って、暖気運転中に転写体の温度制御処理を実行することで、吐出領域R2を転写体2が通過する時、転写体2の温度をT1~T2℃に維持する。一方、転写領域R5を転写体2が通過する時には転写体2の温度をT3~T4℃に維持するように制御する。このようにして、3~4周目には記録ユニット3による吐出領域R2を転写体2が通過する時には、転写体2の温度はT1~T2℃に維持される。また、転写ユニット4による転写領域R5を転写体2が通過する時には転写体2の温度はT3~T4℃に維持される。
【0099】
そして、記録動作中には、外乱(雰囲気温度、転写体の胴温度、インク潜熱、色味ばらつきなど)の影響を抑えて、良好な画像形成と画像転写を行うために、4つの温度センサにより測定された温度に基づいて転写体の温度を制御する。
【0100】
図10は4つの温度センサにより測定された温度に基づく転写体の温度制御を示すフローチャートである。
【0101】
図10において、(a)は温度センサ111による測定温度に基づく冷却制御を示すフローチャート、(b)は温度センサ112による測定温度に基づく加熱制御を示すフローチャートである。さらに、(c)は、温度センサ113~114による測定温度に基づく冷却制御を示すフローチャートである。
【0102】
図10(a)によれば、記録動作中にステップS110では、転写体2の回転方向に関し付与ユニット5Aの直ぐ下流で温度センサ111により転写体2の温度を測定し、これを取得する。ステップS120では、その測定温度に基づいて、冷却ユニット5Eのエアブロー量を算出する。一般的には、エアブロー量が大きいほど冷却能力は大きくなるので、転写体2の温度が高いほど、エアブロー量が大きくなるように算出がなされる。
【0103】
さらに、ステップS130では、算出されたエアブロー量が現在のエアブロー量と比較して、変更が必要であれば算出されたエアブロー量に変更する。そして、ステップS140では、吐出領域R2を転写体2が通過する時の温度と、転写領域R5を転写体2が通過する時の温度が上述したような温度範囲となっているかどうかを調べる。ここで、そのような温度範囲となっているなら、記録動作を続行可能であると判断し処理はステップS110に戻り、その温度範囲外となっているなら記録動作を停止する。
【0104】
図10(b)によれば、記録動作中にステップS210では、転写体2の回転方向に関し加熱ユニット5Cの直ぐ下流で温度センサ112により転写体2の温度を測定し、これを取得する。ステップS120では、その測定温度に基づいて、加熱ユニット5Cのヒータデューティ(Duty)を算出する。一般的には、Dutyが大きいほど加熱能力は大きくなるので、転写体2の温度が低いほど、Dutyが大きくなるように算出がなされる。この実施形態は、加熱ユニット5Cに内蔵されたヒータをPWM制御して加熱する。従って、PWMのデューティを大きくすることでヒータの発熱量は大きくなる。
【0105】
さらに、ステップS230では、算出されたDutyが現在のDutyと比較して、変更が必要であれば算出されたDutyに変更する。そして、ステップS240では、吐出領域R2を転写体2が通過する時の温度と、転写領域R5を転写体2が通過する時の温度が上述したような温度範囲となっているかどうかを調べる。ここで、そのような温度範囲となっているなら、記録動作を続行可能であると判断し処理はステップS210に戻り、その温度範囲外となっているなら記録動作を停止する。
【0106】
図10(c)によれば、記録動作中にステップS310では、温度センサ113~114により反応液L、CL液の温度をそれぞれ測定し、これらを取得する。ステップS320では、それらの測定温度に基づいて、付与ユニット5Aと清掃ユニット5Dそれぞれの冷却機構(チラー)の設定温度を算出する。一般的には、設定温度が低いほど冷却能力は大きくなるので、転写体2の温度が高いほど、設定温度が大きくなるように算出がなされる。
【0107】
さらに、ステップS330では、算出された設定温度が現在の設定温度と比較して、変更が必要であれば算出された設定温度に変更する。そして、ステップS340では、吐出領域R2を転写体2が通過する時の温度と、転写領域R5を転写体2が通過する時の温度が上述したような温度範囲となっているかどうかを調べる。ここで、そのような温度範囲となっているなら、記録動作を続行可能であると判断し処理はステップS310に戻り、その温度範囲外となっているなら記録動作を停止する。
【0108】
従って以上説明した実施形態に従えば、複数の温度センサにより測定された温度に基づいて冷却機構の冷却能力と加熱ユニットのヒータによる加熱能力とを制御して、転写体の温度が適正な範囲を維持することができる。
【0109】
<他の実施形態>
上記実施形態では、記録ユニット3が複数の記録ヘッド30を有するが、一つの記録ヘッド30を有してもよい。記録ヘッド30はフルラインヘッドでなくてもよく、記録ヘッド30をY方向に移動させながらインク像を形成するシリアル方式であってもよい。
【0110】
記録媒体Pの搬送機構は、ローラ対によって記録媒体Pを挟持して搬送する方式等、他の方式であってもよい。ローラ対によって記録媒体Pを搬送する方式等においては、記録媒体Pとしてロールシートを用いてもよく、転写後にロールシートをカットして記録物P’を製造してもよい。
【0111】
上記実施形態では、転写体2を転写胴41の外周面に設けたが、転写体2を無端の帯状に形成し、循環的に走行させる方式等、他の方式であってもよい。
【0112】
また、本発明は上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0113】
2 転写体、3 記録ユニット、4 転写ユニット、5A 付与ユニット、5B 吸収ユニット、5C 加熱ユニット、5D 清掃ユニット、5E 冷却ユニット、30 記録ヘッド、41 転写胴、42 圧胴、111~114 温度ユニット、103a 反応液収容部、103b~103c ローラ、109a 清掃液収容部、109b ローラ、P 記録媒体