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特許7438271測時器の石(30)の表面を処理する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】測時器の石(30)の表面を処理する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/48 20060101AFI20240216BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240216BHJP
   G04B 37/22 20060101ALI20240216BHJP
   G04B 31/08 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C23C14/48 Z
C23C14/06 A
G04B37/22 J
G04B31/08 Z
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022099398
(22)【出願日】2022-06-21
(65)【公開番号】P2023008846
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】21183556.6
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ピエリ・ヴュイユ
(72)【発明者】
【氏名】アレクシ・ブールメ
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-525394(JP,A)
【文献】特表2017-516737(JP,A)
【文献】特開2018-069233(JP,A)
【文献】特表2014-504920(JP,A)
【文献】特開2021-096242(JP,A)
【文献】特開2019-192633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/48
C23C 14/06
G04B 37/22
G04B 31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測時器の、単結晶型の石(20)又は多結晶型の石(30)の表面を処理する方法(10)であって、前記石(20、30)が、Al 又はZrO を含み、前記石(20、30)の形状を画定する本体(25)を備える、方法(10)において、前記方法(10)は、前記本体(25)の前記表面(27)の粗さを修正するため、前記本体(25)の少なくとも一部の前記表面(27)上にイオンを注入するステップ(12)を含み、
前記本体(25)の前記表面(27)上に注入される前記イオンは、液滴(26)に対する接触角を増大させ、前記接触角は、水滴に対して50°超、又は更には70°超であることを特徴とする、方法(10)。
【請求項2】
測時器の、単結晶型の石(20)又は多結晶型の石(30)の表面を処理する方法(10)であって、前記石(20、30)が、Al 又はZrO を含み、前記石(20、30)の形状を画定する本体(25)を備える、方法(10)において、前記方法(10)は、前記本体(25)の前記表面(27)の粗さを修正するため、前記本体(25)の少なくとも一部の前記表面(27)上にイオンを注入するステップ(12)と、前記イオンが注入される前記表面(24)上にエピラメ層(21)を堆積するステップ(13)を含み、
前記表面(24)上に注入されるイオンは、液滴(23)に対する接触角を低減し、前記接触角は、水滴に対して40°未満であることを特徴とする、方(10)
【請求項3】
前記エピラメ層(21)は、窒化クロムを含ことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記エピラメ層(21)を堆積する前記ステップ(13)は、PVD、PECVDによって実行することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
注入する前記イオンは、ヘリウム又はアルゴンであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
注入する前記イオンは、窒素であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン注入ステップ(12)は、ECR型磁気電子サイクロトロン共鳴によって実行することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン注入ステップ(12)は、プラズマを使用して実行することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記石(20、30)の前記本体(25)は、単結晶石のためのベルヌーイ型方法によって、又は多結晶石のための焼結方法によって、第1のステップ(11)で既に形成されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に時計製造産業のための、測時器の石の表面を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
時計製造の従来技術において、てんぷ等の回転車のセットは、典型的には、2つの枢動体を含み、これらの2つの枢動体の端部は、枢動体が回転できるように石に挿入される。典型的には、ルビー、ZrO又はサファイア型の石を使用して、軸受けと呼ばれる受石又は案内要素を形成する。これらの受石及び案内要素は、これらを最小摩擦で回転移動可能にするため、枢動体と接触させることが意図される。したがって、受石及び案内要素は、例えば、車セットが回転するように組み付けられる、車セットの心棒の軸受けの全て又は一部を形成する。枢動体のための回転案内要素として使用される石は、典型的には、受石を圧迫するように枢動体が挿入される貫通孔を有する。
【0003】
図1は、石2を備える組立体1の従来技術からの一例であり、石2は、穴3と、穴3への入口を形成する半球状凹部4とを備える。組立体1は、枢動体7を更に備え、枢動体7は、穴3に挿入され、図示しない可動要素が回転可能であるように構成される。
【0004】
原則的に、測時器ムーブメントでは、合成石が使用される。特に、単結晶型の石の製造にベルヌーイ方法が公知である。多結晶型の石も存在し、多結晶型の石は、前駆体をプレス加工し、プレス加工ツールから将来の石の未焼結体を得ることによって製造される。
【0005】
石が形成されると、石は、典型的には、エピラメを石上に堆積する方法を受ける。エピラメは、石表面の物理特性の修正を可能にする薄層である。
【0006】
特に、石を滑らかにするための液体との接触、例えば枢動体との接触にとって、表面の仕上がりは重要である。より詳細には、石の表面上に堆積される液滴は、表面の仕上がりに応じて様々である接触角を形成する。接触角が小さいほど、液滴は表面上に広がり、接触角が大きいほど、液滴は、石の表面上により膨れた状態で残る。例えば、エピラメを被覆された石の場合、潤滑油の液滴角度は、約44°である一方で、エピラメがない場合、液滴は、より小さな角度を形成するため、更に広がる。典型的には、潤滑を改善させるための液滴の広がりは、例えば、石と枢動体との間でのみ望ましい。
【0007】
しかし、エピラメ層の欠点は、エピラメが接触角を効果的に増大させるにもかかわらず、エピラメの効果は、50°未満の角度に依然として制限されることである。その一方で、エピラメ層は、石に対するエピラメ層の接着が最適ではないため、経時的に摩耗する。したがって、エピラメ層の摩耗により、潤滑油の接着が低減する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述の欠点を克服することであり、潤滑油に対してより大きな接触角を有し、寿命がより長い石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的で、本発明は、石、特に測時器の石を処理する方法に関し、石は、石の形状を画定する本体を備える。
【0010】
方法は、前記表面の粗さを修正するために本体の表面上にイオンを注入するステップを含むという点で注目すべきである。
【0011】
イオン注入は、石の表面の起伏を増大又は低減させ、これにより、表面粗さを変更する。注入されるイオンのサイズに応じて、イオンが表面の構造を様々に形成するので、異なる粗さが得られる。一部のイオンは、粗さを増大させる一方で、他のイオンは、表面粗さを低下させる。
【0012】
したがって、イオン注入は、注入のために選択されるイオンに応じて、特定の重要性をもつ2つの反対の効果をもたらし得る。一部のイオンの場合、イオン注入は、液体との接触角の低減を可能にする一方で、他のイオンの場合、液体との接触角は増大する。
【0013】
例えば、表面接触角を低減することによって、このイオン注入表面上に堆積されるエピラメ層の接着が増大する。したがって、エピラメ層の寿命が増大し、イオン注入のない石上に堆積された層ほど急速に摩耗しない。
【0014】
一方で、石の表面接触角を低減することによって、エピラメ層の必要性を省くことができ、潤滑油を石上に直接配設することができる。このことにより、エピラメ層を堆積する必要性をなくすために、石の製造方法を簡略化し、エピラメ層で得られる接触角よりも高い接触角を達成することさえできる。
【0015】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、方法は、石の表面上にエピラメ層を堆積するステップを含む。
【0016】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、エピラメ層は、窒化クロムを含み、好ましくは、窒化クロムから完全に作製される。
【0017】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、エピラメ層を堆積するステップは、PVD、PECVDによって実行される。
【0018】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、表面上に注入されるイオンは、液滴に対する接触角を低減し、接触角は、水滴に対して40°未満である。
【0019】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、注入されるイオンは、ヘリウム又はアルゴンである。
【0020】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、本体の表面上に注入されるイオンは、液滴に対する接触角を増大させ、接触角は、水滴に対して50°超、又は更には70°超である。
【0021】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、注入されるイオンは、窒素である。
【0022】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、イオン注入ステップは、ECR型磁気電子サイクロトロン共鳴によって実行される。
【0023】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、イオン注入ステップは、プラズマを使用して実行される。
【0024】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、石の本体は、単結晶石のためのベルヌーイ型方法によって、又は多結晶石のための焼結方法によって、第1のステップで既に形成されている。
【0025】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、石は、Al又はZrOを含み、好ましくは、Al又はZrOから完全に作製される。
【0026】
他の特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら、決して限定的な案内としてではなく、概略的な案内として示す、以下の説明で明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】従来技術からの1つの公知の実施形態による、枢動体のための軸受けの概略図である。
図2】本発明による石を作製する方法のブロック図である。
図3】本発明による方法の第1の実施形態を使用して得られる石の概略図である。
図4】本発明による方法の第2の実施形態を使用して得られる石の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上記で説明したように、本発明は、図1に示す計時器の案内要素を形成可能な、石の表面処理のための方法10に関する。石は、例えば天真の、トラニオンとも呼ばれる枢動体と接触させ、天真を最小の摩擦で回転させることが意図される。したがって、本発明は、石の処理を可能にするものであり、この石は、特に、図1に示すもの等の天真が回転できるように、組み付けられる天真の軸受けの全て又は一部を形成可能であることは理解されよう。
【0029】
図2に示す方法10によれば、石の本体は、第1のステップ11で形成される。
【0030】
多結晶型の石の場合、前駆体は、少なくとも1つの粉体材料と結合剤との混合物から生成する。この材料は、非限定的、非網羅的な様式で、セラミックとし得る。この背景において、セラミックベースの粉体は、少なくとも1つの酸化金属、窒化金属又は炭化金属を含有し得る。例示のために、セラミックベースの粉体は、合成サファイアを生成する酸化アルミニウム、又はAl型ポリルビーを生成する酸化アルミニウムと酸化クロムとの混合物、又はZrO型ジルコニウム・セラミックを含有し得る。更に、結合剤は、例えば、ポリマー又は有機型等の様々な性質を有し得る。
【0031】
次に、将来の石の未焼結体を生成するため、プレス加工デバイスの上側ダイ及び下側ダイを用いて前駆体をプレス加工するステップが実行される。
【0032】
次に、将来の石の鉱物体を生成して前記少なくとも1つの材料にするため、前記未焼結体に対して焼結が実行される。材料は、上述のように、セラミックとし得る。言い換えれば、このステップは、将来穿孔される石のセラミック体を生成するために未焼結体を焼結することが意図される。好ましくは、本発明によれば、焼結ステップは、例えば、熱による結合剤除去による熱分解を含み得る。
【0033】
鉱物体は、例えば、事前に規定した石の厚さを得るため、上面及び底面を成形するように機械加工し得る。機械加工は、必要な場合、石を通る穴をあけること、及び本体の表面を機能化することから構成することもできる。
【0034】
鉱物体のラッピング及び/又はブラッシング及び/又は研磨により、特殊な仕上がりをもたらす。この仕上げステップは、使用に適合する表面仕上げを石に与える。そのような仕上げステップは、最終寸法の調節及び/又は縁部の除去及び/又は表面粗さの局所的な修正を更に可能にする。
【0035】
単結晶石の場合、本体は、ベルヌーイ型方法を使用して形成される。ベルヌーイ型方法は、単結晶シードと接触すると結晶化する材料を融解させるステップを含む。コランダム(Al)は、出発材料として典型的に使用される。機械加工及びラッピングは、多結晶型の石の実施形態と同様である。
【0036】
本発明によれば、方法10の第2のステップ12は、イオン注入によって本体の表面の少なくとも一部を処理することから構成される。イオン注入は、イオンを材料の中に導入可能にする技術である。
【0037】
したがって、イオン注入は、本体表面の起伏を修正することによって、ナノ構造の形成を可能にする。より詳細には、表面へのイオン注入により起伏をもたらし、これにより、表面粗さを修正する。注入されるイオンの種類に応じて、イオンが、表面の構造を様々に形成する異なるサイズを有するので、異なる粗さが得られる。一部のイオンは、粗さを増大させる一方で、他のイオンは、表面粗さを低下させる。粗さを増大させると、接触角を増大させる一方で、粗さを低下させると、接触角を低下させる。
【0038】
イオン源と、イオン・ビームを生成する静電気特性を使用する粒子加速器と、イオンを受ける石の本体を収容する筐体とを備える、そのような処理のための施設が存在する。
【0039】
好ましい代替実施形態では、注入は、石の本体をイオン・プラズマに浸漬することによって、実行される。石は、例えば、ECR型電子サイクロトロン共鳴方法によってイオン・プラズマに沈められる。
【0040】
方法10の第2のステップ12の第1の実施形態は、石の表面にイオンを注入することから構成され、このイオンは、前記表面上での液体に対する接触角を低減可能にするものである。得られる接触角は、好ましくは、水滴に対して40°未満である。したがって、そのような表面は、本体の表面上に堆積される層、例えば、エピラメ層の接着の改善を可能にする。好ましくは、石の表面上に注入されるイオンは、ヘリウムイオン又はアルゴンイオンである。というのは、これらは接触角を低減するためである。
【0041】
第2のステップ12の第2の実施形態では、イオンが石に注入され、このイオンは、石の表面上で液滴に対する接触角を増大可能にするものである。好ましくは、石の表面上に注入されるイオンは、窒素イオンである。接触角は、水滴に対して60°超、又は更に70°超である。このことにより、エピラメ層を不要にする。
【0042】
好ましくは、イオンは、150nmまでの深さで本体に注入される。
【0043】
方法10の第3のステップ13は、選択される実施形態に応じて、任意であり、好ましくは、第1の実施形態に適用される。第3のステップ13は、第2のステップでイオン注入によって処理された表面の一部の上にエピラメ層を堆積することから構成される。エピラメ層は、好ましくは、窒化クロム層である。エピラメ層は、典型的には、PVD又はPECVD型方法によって気相で堆積される。エピラメ層は、好ましくは、0.003から0.006μmの厚さを有する。
【0044】
任意で、第4のステップ14において、エピラメ層に対してレーザーによるナノ構造の形成を実行し得る。したがって、石の表面のどの部分がエピラメ層を有するかを選択することが可能である。
【0045】
図3に示す石20の部分は、第1の実施形態により処理された石に対応する。石20は、本体25と、液体に対する接触角を低減させるイオンが注入されている表面24とを備える。石20は、この表面24上に堆積されたエピラメ層21を更に含む。図示のように、エピラメ層上に堆積された液滴は、油滴に対して40°超の接触角を形成する。
【0046】
図4に示す石30の部分は、第2の実施形態により処理された石に対応する。石30は、本体25と、液滴に対する接触角を増大可能にするイオンが注入されている表面27とを備える。この石は、エピラメ層を必要とせず、エピラメ層は図にない。水滴は、このイオン注入のために、例えば、少なくとも70°の接触角を形成する。
【符号の説明】
【0047】
20 石
21 エピラメ層
23 液滴
24 表面
25 本体
26 液滴
27 表面
30 石
図1
図2
図3
図4