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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】風車翼の診断方法
(51)【国際特許分類】
   F03D 17/00 20160101AFI20240216BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20240216BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240216BHJP
【FI】
F03D17/00
F03D1/06 A
G01M99/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022127611
(22)【出願日】2022-08-10
(62)【分割の表示】P 2021073743の分割
【原出願日】2021-04-26
(65)【公開番号】P2022168865
(43)【公開日】2022-11-08
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堤 和久
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-161246(JP,A)
【文献】特開2016-050566(JP,A)
【文献】特開2019-013976(JP,A)
【文献】特開2020-143895(JP,A)
【文献】特開2020-008293(JP,A)
【文献】国際公開第2020/039565(WO,A1)
【文献】特開2007-231911(JP,A)
【文献】特開2004-036612(JP,A)
【文献】特開2016-156674(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2354538(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/00-80/80
G01M 13/00-13/045;99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の風力発電装置の風車翼の診断方法であって、
前記風車翼の歪を検出するためのセンサを追設する工程と、
前記センサからの検出信号を取得する工程と、
前記検出信号に基づいて、前記風車翼に作用する荷重を演算する工程と、
前記検出信号に基づいて、前記風車翼の異常の有無を検知する工程と、
を備え、
前記センサを追設する工程で追設する前記センサには、前記異常の有無を検知するために前記風車翼の歪を検出する異常検知用センサが含まれ、
前記異常の有無を検知する工程では、前記異常検知用センサからの検出信号に基づいて、前記異常の有無を検知し、
前記荷重を演算する工程では、前記既設の風力発電装置で発電を開始する前の期間中に前記風車翼の翼軸線が鉛直方向に最も近づくアジマス角において取得された、前記センサからの前記検出信号から求められる前記風車翼に作用する遠心力と、前記風車翼を備える風車ロータの回転速度の二乗とについて予め得られている関係に基づいて、前記風車翼に作用する遠心力の影響を排除した前記荷重を演算する
風車翼の診断方法。
【請求項2】
前記異常の有無を検知する工程では、前記異常検知用センサからの検出信号に基づく前記風車翼の歪の経時的な変化の変化量が予め定めた閾値以上であれば前記異常があると判断する
請求項1に記載の風車翼の診断方法。
【請求項3】
前記既設の風力発電装置は、前記風車翼を複数備える風車ロータを有し、
前記センサを追設する工程で追設する前記センサには、複数の前記風車翼の内の第1風車翼の歪を検出するための第1センサと、前記複数の前記風車翼の内の前記第1風車翼とは異なる第2風車翼の歪を検出するための第2センサとが含まれ、
前記検出信号を取得する工程では、前記第1センサからの第1検出信号と、前記第2センサからの第2検出信号と、を取得し、
前記異常の有無を検知する工程では、前記第1検出信号と前記第2検出信号とに基づいて前記第1風車翼の異常の有無を検知する
請求項1又は2に記載の風車翼の診断方法。
【請求項4】
前記センサを追設する工程で追設する前記センサには、前記風車翼の翼軸線を中心とする翼根部における周方向位置の内、前記風車翼のコード方向に沿って対向する前縁側と後縁側との2つの位置にそれぞれ配置された前縁側センサ及び後縁側センサ、並びに、前記コード方向と直交する方向に沿って対向する腹側と背側との2つの位置にそれぞれ配置された腹側センサ及び背側センサとが含まれ、
前記検出信号を取得する工程では、前記前縁側センサからの検出信号と、前記後縁側センサからの検出信号と、腹側センサからの検出信号と、背側センサからの検出信号と、を取得し、
前記異常の有無を検知する工程では、前記前縁側センサからの検出信号と前記後縁側センサからの検出信号との比較結果、又は、腹側センサからの検出信号と背側センサからの検出信号との比較結果の少なくとも何れか一方の比較結果に基づいて前記風車翼の異常の有無を検知する
請求項1又は2に記載の風車翼の診断方法。
【請求項5】
前記荷重を演算する工程で演算された前記荷重の情報を前記風力発電装置の外部に送信する工程、
を備える
請求項1乃至の何れか一項に記載の風車翼の診断方法。
【請求項6】
前記荷重を演算する工程では、前記検出信号に基づいて、既設の風力発電装置が備える既設の演算装置によって前記荷重を演算する
請求項1乃至の何れか一項に記載の風車翼の診断方法。
【請求項7】
前記風力発電装置に対して、前記検出信号に基づいて前記風車翼に作用する荷重を演算するための演算装置を追設する工程、
を備え、
前記荷重を演算する工程では、前記検出信号に基づいて、前記演算装置を追設する工程で追設した前記演算装置によって前記荷重を演算する
請求項1乃至の何れか一項に記載の風車翼の診断方法。
【請求項8】
前記風力発電装置に対して、前記演算装置を追設する工程で追設した前記演算装置に電力を供給可能な蓄電装置を追設する工程、
を備える
請求項に記載の風車翼の診断方法。
【請求項9】
前記センサの校正を行う工程、
を備える
請求項1乃至の何れか一項に記載の風車翼の診断方法。
【請求項10】
前記センサの校正を行う工程では、
少なくとも、
前記風車翼の翼軸線が水平となるアジマス角で前記風車翼を固定して、前記センサからの検出信号を取得する工程と、
前記翼軸線が鉛直方向に最も近づくアジマス角で前記風車翼を固定して、前記センサからの検出信号を取得する工程と、
を実施することで取得した前記センサからの検出信号に基づいて、前記センサの校正を行う
請求項に記載の風車翼の診断方法。
【請求項11】
前記風車翼のアジマス角を推定するためのアジマス角推定用センサを追設する工程と、
前記風車翼のピッチ角を推定するためのピッチ角推定用センサを追設する工程と、
前記アジマス角推定用センサからの検出信号に基づいて前記アジマス角を推定する工程と、
前記ピッチ角推定用センサからの検出信号に基づいて前記ピッチ角を推定する工程と、
を備える
請求項1乃至10の何れか一項に記載の風車翼の診断方法。
【請求項12】
前記検出信号を取得する工程では、前記風車翼の回転速度に基づいて前記検出信号を取得するサンプリング周波数を変更する
請求項1乃至11の何れか一項に記載の風車翼の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風車翼の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置の風車翼における歪を測定することで風車翼の損傷を検知すること知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-156674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のものでは、風車翼に取り付けたセンサによって、風車翼の歪をリアルタイムで測定することができる。そのため、風力発電装置の運転中に風車翼に作用する荷重を把握することができる。
そこで、例えば、風力発電装置の運転中に風車翼に異常な荷重が作用したことを検知して、風力発電装置の運転を停止する等、風力発電装置の運転管理のために風車翼に取り付けたセンサを利用することも考えられる。
【0005】
しかし、既設の風力発電装置の風車翼において上述したようなセンサが設けられていなければ、該センサを用いた運転管理ができない。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は、上述の事情に鑑みて、既設の風力発電装置において風車翼の歪をリアルタイムで測定することによる風車翼の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る風車翼の診断方法は、
既設の風力発電装置の風車翼の診断方法であって、
前記風車翼の歪を検出するためのセンサを追設する工程と、
前記センサからの検出信号を取得する工程と、
前記検出信号に基づいて前記風車翼に作用する荷重を演算する工程と、
を備え、
前記センサを追設する工程では、前記風車翼の翼軸線を中心とする翼根部における周方向位置の内、前記風車翼のコード方向に沿って対向する2つの位置の内の一方に第1センサを配置し、前記コード方向と直交する方向に沿って対向する2つの位置の内の一方に第2センサを設置し、
前記荷重を演算する工程では、前記第1センサからの検出信号、及び、前記第2センサからの検出信号に基づいて前記荷重を演算する。
【0008】
(2)本開示の少なくとも一実施形態に係る風車翼の診断方法は、
既設の風力発電装置の風車翼の診断方法であって、
前記風車翼の歪を検出するためのセンサを追設する工程と、
前記センサからの検出信号を取得する工程と、
前記検出信号に基づいて前記風車翼に作用する荷重を演算する工程と、
前記検出信号に基づいて、前記風車翼の異常の有無を検知する工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、既設の風力発電装置において風車翼の歪をリアルタイムで測定することによる風車翼の診断方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】幾つかの実施形態に係る風力発電装置の風車の全体構成を示す概略図である。
図2A】一実施形態に係る風車翼の翼根部における、風車翼の長手方向に直交する断面を示す模式図である。
図2B】他の実施形態に係る風車翼の翼根部における、風車翼の長手方向に直交する断面を示す模式図である。
図3A】変換信号の処理に関する一実施形態の構成に関するブロック図である。
図3B】変換信号の処理に関する他の実施形態の構成に関するブロック図である。
図4図3Bに示す実施形態におけるハブの内部を模式的に示した斜視図である。
図5】幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法の処理手順を示すフローチャートである。
図6】1翼当たりの風下方向曲げモーメント及び1翼当たりのトルク成分の演算に関するブロック図である。
図7図6のブロック図の一部についての、より詳細なブロック図である。
図8】合成トルク成分の演算についてのブロック図である。
図9】風車ロータについての曲げモーメント、及び、ナセルについての曲げモーメントの演算についてのブロック図である。
図10A】風車翼についての曲げモーメントについて説明するための図である。
図10B】風車ロータについての曲げモーメントについて説明するための図である。
図10C】ナセルについての曲げモーメントについて説明するための図である。
図11】センサの校正工程についての処理手順を示すフローチャートである。
図12】幾つかの実施形態に係る風車翼についての、翼軸線に直交する断面における模式的な断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0012】
(全体構成)
まず、幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法の適用となる風力発電装置の構成について説明する。図1は、幾つかの実施形態に係る風力発電装置の風車の全体構成を示す概略図である。同図に示すように、風車1aは、少なくとも1枚の風車翼3と、風車翼3が取り付けられるハブ2とを備える風車ロータ5を備える。風車ロータ5は、タワー6の上部に設けられ、タワー6に支持されるナセル4に回転自在に支持されており、風車翼3が風を受けると風車翼3を含む風車ロータ5が回転するようになっている。
【0013】
幾つかの実施形態では、風車1aは風力発電装置1の一部である。ナセル4には、発電機(不図示)と、風車ロータ5の回転を発電機に伝達するための動力伝達機構(不図示)とが収容されている。風力発電装置1は、風車ロータ5から動力伝達機構を介して発電機に伝達された回転エネルギーが、発電機によって電気エネルギーに変換されるように構成される。
【0014】
図2Aは、一実施形態に係る風車翼の翼根部における、風車翼の長手方向に直交する断面を示す模式図である。
図2Bは、他の実施形態に係る風車翼の翼根部における、風車翼の長手方向に直交する断面を示す模式図である。
図1及び図2Aに示すように、風車1aは、風車翼3の歪を検出するためのセンサとして、風車翼3の各々の翼根部3aに取り付けられた4つの光ファイバセンサ12(12A~12D)を備える。図1及び図2Aに示すように、風車1aは、光入射部17及び光検出部18を含む光源・信号処理ユニット10を備える。
図2Bに示すように、風車1aは、風車翼3の歪を検出するためのセンサとして、風車翼3の各々の翼根部3aに取り付けられた2つの光ファイバセンサ12(12A及び12D)を備えていてもよい。図2Bに示すように、風車1aは、光入射部17及び光検出部18を含む光源・信号処理ユニット10を備えていてもよい。
【0015】
光ファイバセンサ12は、長手方向において屈折率が周期的に変化する回折格子部を有する。
幾つかの実施形態に係る光ファイバセンサ12は、FBG(Fiber Bragg Grating)センサである。
広帯域のスペクトルをもった光が光ファイバセンサ12に入射すると、屈折率が周期的に変化する回折格子部での反射は、格子間隔(グレーティング周期)に依存した特定の波長に対してのみ、互いに強めあう方向に干渉する。これによって光ファイバセンサ12は、構成の特定の波長成分のみを反射し、それ以外の波長を透過させる。
光ファイバセンサ12に加わる歪や周囲の温度が変化すると、回折格子部の屈折率や格子間隔が変化し、この変化に応じて反射光の波長λが変化する。
光ファイバセンサ12における反射光の波長λと初期波長λとの差分は、光ファイバセンサ12の歪εや温度ΔTの影響を受ける。よって、初期波長λが既定値であれば、反射光の波長λを計測することで、光ファイバセンサ12に生じる歪や光ファイバの温度を検出することができる。
【0016】
光ファイバセンサ12及び光源・信号処理ユニット10は、後述するように、既設の風力発電装置1に対して後から追設されたものである。
図2Aに示す各風車翼3の翼根部3aには、4つの光ファイバセンサ12A~12Dが取り付けられる。図2Aに示すように、風車翼3の翼根部3aは断面が略円形状になっており、光ファイバセンサ12A~12Dは、翼根部3aの壁面に90°ずつ離れて張り付けられる。なお、図2Aに示す各風車翼3では、4つの光ファイバセンサ12A、12B、12C及び12Dは、この順に、それぞれ風車翼3の腹側(HP側)21、後縁側24、背側(LP側)22、及び前縁側23において翼根部3aの壁面に貼付けられている。より具体的には、図2Aに示す各風車翼3では、光ファイバセンサ12には、風車翼3の翼軸線L0を中心とする翼根部3aにおける周方向位置の内、コードC方向に沿って対向する前縁側23と後縁側24との2つの位置にそれぞれ配置された前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)及び後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)、並びに、コードC方向と直交する方向に沿って対向する腹側21と背側22との2つの位置にそれぞれ配置された腹側センサ(光ファイバセンサ12A)及び背側センサ(光ファイバセンサ12C)とが含まれる。
【0017】
図2Aに示す各風車翼3において、翼根部3aに歪が生じると、各光ファイバセンサ12A~12Dには、各取り付けられた箇所の歪に応じた歪が生じるようになっている。
また、これら4つの光ファイバセンサ12A、12B、12C及び12Dは、光ファイバケーブル16によってこの順に直列に接続されている。光ファイバケーブル16の両端部にはコネクタ(13,15)が設けられ、光ファイバセンサ12A~12Dと光源・信号処理ユニット10とを接続するための光ファイバケーブル14と、光ファイバセンサ12A~12Dを直列に接続する光ファイバケーブル16とが、コネクタ13又はコネクタ15を介して接続される。
【0018】
なお、図2Aに示す各風車翼3では、1本の風車翼3に対して4つの光ファイバセンサ12A~12Dが取り付けられているが、図2Bに示す各風車翼3では、各風車翼3に対して、2つの光ファイバセンサ12が取り付けられている。図2Bに示す各風車翼3では、光ファイバセンサ12には、翼軸線L0を中心とする翼根部3aにおける周方向位置の内、風車翼3のコードC方向に沿って対向する前縁側23と後縁側24との2つの位置の内の一方に配置された光ファイバセンサ12と、コードC方向と直交する方向に沿って対向する腹側21と背側22との2つの位置の内の一方に配置された光ファイバセンサ12とを含むとよい。図2Bに示す各風車翼3に対して取り付けられた2つの光ファイバセンサ12は、風車翼3のコードC方向に沿って対向する前縁側23と後縁側24との2つの位置の内の前縁側23に配置された光ファイバセンサ12Dと、コードC方向と直交する方向に沿って対向する腹側21と背側22との2つの位置の内の腹側21に配置された光ファイバセンサ12Aとである。
なお、図2Bに示す各風車翼3に対して取り付けられた2つの光ファイバセンサ12の内の1つは、風車翼3のコードC方向に沿って対向する前縁側23と後縁側24との2つの位置の内の前縁側23に配置された光ファイバセンサ12Dではなく、後縁側24に配置された光ファイバセンサ12Bであってもよい。また、図2Bに示す各風車翼3に対して取り付けられた2つの光ファイバセンサ12の内の他の1つは、コードC方向と直交する方向に沿って対向する腹側21と背側22との2つの位置の内の腹側21に配置された光ファイバセンサ12Aではなく、背側22に配置された光ファイバセンサ12Cであってもよい。
【0019】
また、上述においては、風車翼3の翼根部3aに光ファイバセンサ12が取り付けられた例について説明したが、風車翼3において光ファイバセンサ12が取り付けられる位置は翼根部3aに限定されない。例えば、光ファイバセンサ12は、ピッチ角度を変更可能に風車翼3を支持する不図示のハブ構造体に取り付けられていてもよい。
【0020】
また、例えば、光ファイバセンサ12は、翼根軸受、すなわち後述する図4に示したピッチ軸受300に取り付けられていてもよい。具体的には、光ファイバセンサ12は、以下で説明する不図示のボルトやナットなどの締結部材に取り付けられていてもよい。
例えば幾つかの実施形態に係る風車1aでは、ピッチ軸受300は、互いに相対的に旋回可能な内輪304と外輪306との間に不図示の転動体が保持された構成を有する。内輪304は風車翼3に対して不図示のボルトによって固定されるとともに、外輪306は不図示のボルトによってハブ2に対して固定される。このようなピッチ軸受300がハブ2と風車翼3との間に配置されることで、内輪304に固定された風車翼3は、外輪306に固定されたハブ2に対してピッチ方向(風車翼3の翼軸線L0回り)に旋回可能に構成される。
【0021】
幾つかの実施形態では、光ファイバセンサ12は、上述した不図示のボルトや、このボルトとともに用いられるナット等の締結部材に取り付けられていてもよい。
【0022】
また、上述においては、風車翼3の歪を検出するためのセンサとして光ファイバセンサ12を例に挙げて説明したが、風車翼3の歪を検出するためのセンサは、光ファイバセンサ12に限定されない。風車翼3の歪を検出するためのセンサは、例えば金属抵抗式の歪ゲージであってもよく、半導体歪ゲージであってもよい。
なお、風車翼3の歪を検出するためのセンサが例えば金属抵抗式の歪ゲージや半導体歪ゲージであれば、光源・信号処理ユニット10に代えて歪ゲージシグナルコンディショナ11(図3B参照)を用いる。
【0023】
光入射部17及び光検出部18を含む光源・信号処理ユニット10は、幾つかの実施形態ではハブ2の内部に設置される。
光入射部17は、光ファイバセンサ12A~12Dに光を入射するように構成される。光入射部17は、例えば、広帯域のスペクトルをもつ光を発光可能な光源を有する。
また、光検出部18は、光ファイバセンサ12A~12Dの各々の回折格子部からの反射光を検出するように構成される。
【0024】
光入射部17から発光された広帯域の光は、光ファイバケーブル(14,16)を伝播し、各光ファイバセンサ12A~12Dへ入射される。各光ファイバセンサ12A~12Dにおいては、入射された光のうち、各回折格子部の歪及び温度に応じた特定の波長を有する光のみが該回折格子部にて反射される。回折格子部で反射された反射光は、光ファイバケーブル(16,14)を伝播し、光検出部18で検出されるようになっている。
なお、光ファイバセンサ12A~12Dは直列に接続されており、光入射部17から各光ファイバセンサ12A~12Dまでの距離、及び、光ファイバセンサ12A~12Dから光検出部18までの距離が互いに異なる。このため、光検出部18では、光入射部17により光が発されてから、各光ファイバセンサ12A~12Dからの反射光が光検出部18により検出されるまでに経過した時間により、検出された各反射光が何れの光ファイバセンサ12によるものであるかを判断することができる。
【0025】
以下の説明では、光ファイバセンサ12A~12Dの各々の回折格子部からの反射光を、光ファイバセンサ12A~12Dからの光信号を検出信号とも称する。
なお、風車翼3の歪を検出するためのセンサが例えば金属抵抗式の歪ゲージや半導体歪ゲージであれば属抵抗式の歪ゲージや半導体歪ゲージからの信号を検出信号とも称する。
また、以下の説明では、光源・信号処理ユニット10から出力される、風車翼3の歪に関する電気信号を検出信号の変換信号、又は単に変換信号とも称する。
同様に、風車翼3の歪を検出するためのセンサが例えば金属抵抗式の歪ゲージや半導体歪ゲージであれば、歪ゲージシグナルコンディショナ11から出力される、風車翼3の歪に関する電気信号を検出信号の変換信号、又は単に変換信号とも称する。
【0026】
また、以下の説明では、風車1aでは、風車ロータ5は、例えば3枚の風車翼3を備えるものとして説明する。3枚の風車翼3の個々を区別する必要がある場合には、3枚の風車翼3の内の一つを第1風車翼31と称し、第1風車翼31以外の2枚の風車翼3の内の一つを第2風車翼32と称し、残りの風車翼3を第3風車翼33と称する。
【0027】
以下の説明では、本願明細書及び図面において、光ファイバセンサ12(12A~12D)を、単にセンサ12(12A~12D)とも称する。
【0028】
図3Aは、変換信号の処理に関する一実施形態の構成に関するブロック図である。
図3Aに示す実施形態は、風車翼3の歪を検出するためのセンサが光ファイバセンサ12である場合のブロック図である。
また、図3Aに示す実施形態は、主として、既設の風力発電装置1が自社で製造した風力発電装置である場合に実施し得る実施形態でもある。
図3Aに示す実施形態では、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50として、ハブ2内に配置されたハブPLC51と、ナセル4内に配置されたナセルPLC53とを備えている。
図3Aに示す実施形態では、上述したように、光ファイバセンサ12及び光源・信号処理ユニット10が既設の風力発電装置1に対して後から追設されている。図3Aに示す実施形態では、3枚の風車翼3毎に光源・信号処理ユニット10が設けられている。
【0029】
図3Aに示す実施形態では、光源・信号処理ユニット10に対して、ハブ2内の既設の電源であるハブ電源57から電力が供給されるように構成されている。
【0030】
図3Aに示す実施形態では、光源・信号処理ユニット10からの変換信号は、ハブPLC51に出力される。
図3Aに示す実施形態では、光源・信号処理ユニット10からの変換信号に基づいて、ハブPLC51において、後で詳述するように、風荷重によって風車翼3に作用する曲げモーメント等を算出するようにしてもよい。
【0031】
なお、ハブPLC51において、風荷重によって風車翼3に作用する曲げモーメント等を演算した場合、ハブPLC51は、ナセルPLC53に演算結果を出力する。
この場合、ナセルPLC53は、風力発電装置1を遠隔監視するための装置であるSCADA61に、ハブPLC51から受信した上記演算結果を出力する。
【0032】
また、図3Aに示す実施形態では、光源・信号処理ユニット10からの変換信号に基づいて、ナセルPLC53において、風荷重によって風車翼3に作用する曲げモーメント等を演算するようにしてもよい。この場合、ハブPLC51は、光源・信号処理ユニット10からの変換信号をナセルPLC53に出力する。
ナセルPLC53は、ハブPLC51を介して受信した光源・信号処理ユニット10からの変換信号に基づいて、風荷重によって風車翼3に作用する曲げモーメント等を演算する。そして、ナセルPLC53は、演算結果をSCADA61に出力する。
【0033】
図3Bは、変換信号の処理に関する他の実施形態の構成に関するブロック図である。
図3Bに示す実施形態は、風車翼3の歪を検出するためのセンサが、例えば金属抵抗式の歪ゲージや半導体歪ゲージ等のセンサ42である場合のブロック図である。
また、図3Bに示す実施形態は、主として、既設の風力発電装置1が他社で製造した風力発電装置である場合や、既設の風力発電装置1が自社で製造した風力発電装置であっても、風荷重によって風車翼3に作用する曲げモーメント等を既設の演算装置50よりも高い処理能力を有する演算装置で演算するという要望がある場合に実施し得る実施形態でもある。
図3Bに示す実施形態では、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50である風車PLC55を備えている。
なお、風車PLC55は、上述したハブPLC51であってもよく、ナセルPLC53であってもよく、ハブPLC51及びナセルPLC53であってもよい。
【0034】
図3Bに示す実施形態では、センサ42及び歪ゲージシグナルコンディショナ11が既設の風力発電装置1に対して後から追設されている。
また、図3Bに示す実施形態では、主に、風荷重によって風車翼3に作用する曲げモーメント等を演算するための演算装置(追設演算装置)63と、追設演算装置63に電力を供給可能な蓄電装置65とが既設の風力発電装置1に対して後から追設されている。
図3Bに示す実施形態では、通信装置67と、リレー69とが既設の風力発電装置1に対して後から追設されている。
【0035】
図3Bに示す実施形態では、追設演算装置63は、例えば小型のパーソナルコンピュータや、いわゆるシングルボードコンピュータ等であってもよい。
図4は、図3Bに示す実施形態におけるハブ2の内部を模式的に示した斜視図である。図3Bに示す実施形態では、図4Aに示すように、例えばハブ2の既設の演算装置50の近傍に、追設演算装置63を配置してもよい。
【0036】
なお、追設演算装置63として追設する小型のパーソナルコンピュータや、いわゆるシングルボードコンピュータ等における演算能力は、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50の演算能力よりも高いと考えられる。そこで、図3Bに示す実施形態のように、例えば小型のパーソナルコンピュータや、いわゆるシングルボードコンピュータ等を追設演算装置63として追設した場合には、追設演算装置63を追設しなかった場合と比べて、センサ12におけるサンプリング周波数を高い周波数に設定するようにしてもよい。
【0037】
図3Bに示す実施形態では、蓄電装置65は、例えばハブ電源57からの電力の供給を受けながら、歪ゲージシグナルコンディショナ11や追設演算装置63に電力を供給することができる装置であるとともに、ハブ電源57からの電力の供給が断たれても、規定の時間の間、歪ゲージシグナルコンディショナ11や追設演算装置63に電力を供給することができる蓄電機能を有する装置である。
例えば、蓄電装置65は、充放電可能な二次電池を有するものであるとよい。なお、蓄電装置65は、二次電池ではなく一次電池を有するものであってよい。
【0038】
図3Bに示す実施形態では、通信装置67は、例えば追設演算装置63で演算された風荷重によって風車翼3に作用する曲げモーメント等の演算結果を風力発電装置1の外部の装置に無線で送信するための装置である。
図3Bに示す実施形態では、リレー69は、例えば追設演算装置63において演算した上記曲げモーメント等の演算結果に基づいて、風車PLC55に警報信号等を出力する際に用いられるものである。なお、図3Bに示す実施形態では、リレー69は、必ずしもも必要ではなく、例えば追設演算装置63における演算を風車PLC55に直接出力するようしてもよい。
【0039】
図3Bに示す実施形態では、歪ゲージシグナルコンディショナ11からの変換信号は、追設演算装置63に出力される。
図3Bに示す実施形態では、歪ゲージシグナルコンディショナ11からの変換信号に基づいて、追設演算装置63において、風荷重によって風車翼3に作用する曲げモーメント等を算出するように構成されている。
図3Bに示す実施形態では、追設演算装置63は、演算した上記曲げモーメント等の演算結果を通信装置67を介して風力発電装置1の外部の装置に無線で送信できる。
また、図3Bに示す実施形態では、追設演算装置63は、演算した上記曲げモーメント等の演算結果に基づいて、風車PLC55に警報信号等を出力するか否かを判定し、風車PLC55に警報信号等を出力すると判定すると、リレー69を介して風車PLC55に警報信号等を出力できる。
【0040】
図3Bに示す実施形態では、何らかの不具合が発生して、ハブ電源57が停電しても、規定の時間の間、歪ゲージシグナルコンディショナ11や追設演算装置63に対して蓄電装置65から電力を供給できる。すなわち、何らかの不具合によって風力発電装置1側からの給電が断たれたとしても、蓄電装置65からの電力で追設演算装置63を稼働できる。
【0041】
(風車翼の診断方法)
以下、幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法について説明する。
図5は、幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法の処理手順を示すフローチャートである。
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法は、既設の風力発電装置1の風車翼3の診断方法であって、追設工程S10と、検出信号取得工程S30と、荷重演算工程S50と、を備える。なお、幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法は、外部送信工程S70と、異常検知工程S90と、をさらに備えていてもよい。
【0042】
(追設工程S10)
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法では、追設工程S10は、既設の風力発電装置1において、風車翼3の歪を検出するためのセンサとして例えば光ファイバセンサ12を追設する工程である。幾つかの実施形態に係る追設工程S10では、風車翼3の歪を検出するためのセンサが例えば金属抵抗式の歪ゲージや半導体歪ゲージ等のセンサ42であってもよい。
幾つかの実施形態に係る追設工程S10で追設するセンサには、例えば図1及び図2Aに示すように、翼軸線L0を中心とする翼根部3aにおける周方向位置の内、コードC方向に沿って対向する前縁側23と後縁側24との2つの位置にそれぞれ配置された前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)及び後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)が含まれるとよい。幾つかの実施形態に係る追設工程S10で追設するセンサには、例えば図1及び図2Aに示すように、コードC方向と直交する方向に沿って対向する腹側21と背側22との2つの位置にそれぞれ配置された腹側センサ(光ファイバセンサ12A)及び背側センサ(光ファイバセンサ12C)とが含まれるとよい。なお、光ファイバセンサ12A~Dではなく、歪ゲージや半導体歪ゲージ等のセンサ42を設置してもよい。
【0043】
幾つかの実施形態に係る追設工程S10では、翼軸線L0を中心とする翼根部3aにおける周方向位置の内、コードC方向に沿って対向する前縁側23と後縁側24との2つの位置の内の一方に第1センサとして例えば光ファイバセンサ12を配置し、コードC方向と直交する方向に沿って対向する腹側21と背側22との2つの位置の内の一方に第2センサとして例えば光ファイバセンサ12を設置してもよい。なお、光ファイバセンサ12ではなく、歪ゲージや半導体歪ゲージ等のセンサ42を設置してもよい。
【0044】
幾つかの実施形態に係る追設工程S10では、追設するセンサ12、42には、風車翼3の異常の有無を検知するために風車翼3の歪を検出する異常検知用センサが含まれるとよい。この異常検知用センサ(センサ12、42)は、後述するように風車翼3に作用する荷重を演算するための検出信号を出力するセンサ12、42と兼用されてもよく、風車翼3の異常の有無を検知するための専用のセンサ12、42であってもよい。
【0045】
異常検知用センサが風車翼3に作用する荷重を演算するための検出信号を出力するセンサ12、42と兼用されるのであれば、センサ12、42に追設数を抑制でき、センサ12、42の追設コストを削減できる。
【0046】
異常検知用センサが風車翼3の異常の有無を検知するための専用のセンサ12、42であれば、例えば、風車翼3の異常の有無を検知するための演算処理の実施頻度を抑制する等して、異常検知用センサからの検出信号の処理を簡略化でき、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50や追設演算装置63において、演算負荷を抑制できる。
【0047】
また、幾つかの実施形態に係る追設工程S10では、図3A及び図3Bに示すように、既設の風力発電装置1において、光源・信号処理ユニット10や歪ゲージシグナルコンディショナ11等、風車翼3の歪を検出するためのセンサからの検出信号を受信して風車翼3の歪に関する電気信号である変換信号を出力するための装置を追設する。
【0048】
幾つかの実施形態に係る追設工程S10では、図3Bに示すように、既設の風力発電装置1において、追設演算装置63を追設してもよく、蓄電装置65を追設してもよく、通信装置67を追設してもよく、リレー69を追設してもよい。
【0049】
なお、幾つかの実施形態に係る追設工程S10では、上述したような追設対象である各機器を作業員が既設の風力発電装置1に追設する。
【0050】
(検出信号取得工程S30)
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法では、検出信号取得工程S30は、風車翼3の歪を検出するためのセンサ(例えば光ファイバセンサ12やセンサ42)からの検出信号を取得する工程である。
幾つかの実施形態に係る検出信号取得工程S30では、風車翼3の歪を検出するためのセンサからの検出信号を光源・信号処理ユニット10や、歪ゲージシグナルコンディショナ11で取得する。そして、幾つかの実施形態に係る検出信号取得工程S30では、光源・信号処理ユニット10や、歪ゲージシグナルコンディショナ11からの変換信号をハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50や、追設演算装置63に出力する。
【0051】
なお、検出信号取得工程S30)では、風車翼3の回転速度に基づいて検出信号を取得するサンプリング周波数を変更してもよい。
風車翼3の回転速度に関わらず検出信号を取得するサンプリング周波数が一定であれば、風車翼3の回転速度が大きくなるほど、検出信号を取得してから次の検出信号の取得までのアジマス角度の変化量が大きくなる。そのため、風車翼3の回転速度が大きくなるほど、風車翼3が1回転する間に取得できる検出信号の数が減ってしまい、風荷重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントの変動を検出する精度が低下してしまう。
風車翼3の回転速度に基づいて検出信号を取得するサンプリング周波数を変更すれば、より具体的には、風車翼3の回転速度が大きくなるほど検出信号を取得するサンプリング周波数を大きくすれば、風車翼3の回転速度が大きくなっても、上記の変動を検出する精度の低下を抑制できる。
【0052】
(荷重演算工程S50)
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法では、荷重演算工程S50は、検出信号に基づいて風車翼に作用する荷重を演算する工程ある。
幾つかの実施形態に係る荷重演算工程S50では、風車翼3の歪を検出するためのセンサからの検出信号に基づいて、より具体的には、光源・信号処理ユニット10や、歪ゲージシグナルコンディショナ11からの変換信号に基づいて、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50や、追設演算装置63において、風荷重によって風車翼3に作用する曲げモーメント等を演算する。
また、幾つかの実施形態に係る荷重演算工程S50では、演算された風車翼3に作用する曲げモーメント等に基づいて、座標変換を行うことで、風車ロータ5に作用する曲げモーメントやナセル4に作用する曲げモーメントを演算する。
幾つかの実施形態に係る荷重演算工程S50は、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50で実施してもよくや、追設演算装置63で実施してもよい。荷重演算工程S50における具体的な演算処理の内容については、後で詳述する。
【0053】
なお、幾つかの実施形態に係る荷重演算工程S50における演算は、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50で行ってもよく、追設演算装置63で行ってもよい。
荷重演算工程S50における演算を、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50で行うようにした場合、追設する演算装置(追設演算装置63)の数を抑制できるので、既設の風力発電装置1において風車翼3の歪をリアルタイムで測定することによる風車翼3の診断方法を提供するにあたり、演算装置の追設コストを削減できる。
【0054】
なお、一般的には、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50は、センサ12からの検出信号に基づいて風車翼3に作用する荷重を演算することを想定していなければ、その演算能力は、追設演算装置63として追設する小型のパーソナルコンピュータや、いわゆるシングルボードコンピュータ等における演算能力に比べると、該荷重を演算するのに十分であるとは言い難い場合がある。
追設工程S10において追設演算装置63を追設し、荷重演算工程S50における演算を、追設演算装置63で行うようにすれば、該荷重を演算するのに十分な演算能力を有する追設演算装置63を追設して該荷重を演算できる。
【0055】
(外部送信工程S70)
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法では、外部送信工程S70は、荷重演算工程S50で演算された荷重の情報を風力発電装置の外部に送信する工程である。
幾つかの実施形態に係る外部送信工程S70では、例えば図3Bに示すように、追設演算装置63は、演算した上記曲げモーメント等の演算結果を通信装置67を介して風力発電装置1の外部の装置に無線で送信する。なお、荷重演算工程S50において既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50において上記曲げモーメント等を演算しているのであれば、外部送信工程S70では、既設の演算装置50が通信装置67を介して風力発電装置1の外部の装置に無線で送信するようにしてもよい。
【0056】
荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)で演算された荷重の情報を風力発電装置1の内部に配置された記憶装置等に格納していた場合、極端な例を挙げれば、例えば風車1aの倒壊のような事故が発生して該記憶装置が破壊されてしまうと、該記憶装置から上記情報を取り出すことができなくなり、事故の原因の調査に上記情報を利用することができなくなってしまう。
外部送信工程S70を実施することで、上記情報を風力発電装置1の外部の記憶装置等で格納しておけば、仮に上記のような事故が発生したとしても、事故の原因の調査に上記情報を利用することができる。すなわち、外部送信工程S70を実施することで、上記情報の消失の可能性を低減できる。
【0057】
(異常検知工程S90)
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法では、異常検知工程S90は、検出信号に基づいて、風車翼3の異常の有無を検知する工程ある。
幾つかの実施形態に係る異常検知工程S90では、風車翼3の歪を検出するためのセンサからの検出信号に基づいて、より具体的には、光源・信号処理ユニット10や、歪ゲージシグナルコンディショナ11からの変換信号に基づいて、ハブPLC51や、追設演算装置63において、風車翼3の異常の有無を判定する。
幾つかの実施形態に係る異常検知工程S90は、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50で実施してもよく、追設演算装置63で実施してもよい。異常検知工程S90における風車翼3の異常の有無の判定の具体的な処理の内容については、後で詳述する。
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法では、異常検知工程S90を備えることで、風車翼3の歪に基づいて風車翼3の異常の有無を検知できる。
【0058】
(1翼当たりの風下方向曲げモーメント及び1翼当たりのトルク成分の演算)
以下、幾つかの実施形態に係る荷重演算工程S50における具体的な演算処理の内容の内、1翼当たりの風下方向曲げモーメント及び1翼当たりのトルク成分の演算処理について説明する。
図6は、1翼当たりの風下方向曲げモーメント及び1翼当たりのトルク成分の演算に関するブロック図である。1翼当たりの風下方向曲げモーメント及び1翼当たりのトルク成分の演算は、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50や、追設演算装置63で実施される。説明の便宜上、以下の説明では、追設演算装置63において1翼当たりの風下方向曲げモーメント及び1翼当たりのトルク成分を演算するものとして説明するが、上述したように、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50で実施してもよい。
【0059】
なお、図6のブロック図は、例えば図2Bに示すように、風車翼3の各々の翼根部3aに取り付けられた2つのセンサ(第1センサ及び第2センサ)からの検出信号に基づいて1翼当たりの風下方向曲げモーメント及び1翼当たりのトルク成分を演算する場合についてのものである。なお、当該2つのセンサは、例えば光ファイバセンサ12A及び12Dであってもよく、2つの歪ゲージや半導体歪ゲージ等のセンサ42であってもよい。
例えば図2Aに示すように、風車翼3の各々の翼根部3aに取り付けられた4つのセンサからの検出信号に基づく演算内容ついては、後で説明する。なお、当該4つのセンサは、例えば光ファイバセンサ12A~12Dであってもよく、4つの歪ゲージや半導体歪ゲージ等のセンサ42であってもよい。
以下の説明では、便宜上、主として、風車翼3の歪を検出するためのセンサが光ファイバセンサ12である場合について説明するが、風車翼3の歪を検出するためのセンサが歪ゲージや半導体歪ゲージ等のセンサ42であっても同様である。
【0060】
図7は、図6のブロック図のうち、風車翼3に作用するコードC方向に沿った軸線周りの曲げモーメントMFLAP、及び、コードC及び風車翼3の中心軸(翼軸線L0)に直交する軸線周りの曲げモーメントMEDGEの演算についての、より詳細なブロック図である。
【0061】
まず、図6に基づいて説明する。
追設演算装置63は、センサ12Aが検出したセンサ12Aの歪εflapを温度補正部101fで補正することで、歪εflapから風車翼3の熱伸びの影響を除く。
追設演算装置63は、熱伸びの影響を除いた歪εflapを補正部102fで補正することで、風車翼3に作用する遠心力と重力の影響を除く。
追設演算装置63は、遠心力と重力の影響を除いた歪εflapを補正部103fで補正することで、歪εflapを風車翼3に作用するコードC方向に沿った軸線周りの曲げモーメントMFLAPを算出する。
【0062】
なお、補正部103fでは、以下の式(1)によって曲げモーメントMFLAPを算出する。
FLAP=k1×(εflap-b1) ・・・(1)
ここで、k1は、歪モーメント校正係数であり、歪を曲げモーメントに変換するための係数である。
b1は、曲げ歪校正係数ZERO調整であり、曲げモーメントがゼロのときの歪である。
【0063】
次いで、ピッチ角補正部104fでは、曲げモーメントMFLAPをピッチ角に基づいて、風下方向曲げモーメントの成分と、風車ロータ5のトルク成分とに分解する。
【0064】
同様に、追設演算装置63は、センサ12Dが検出したセンサ12Dの歪εedgeを温度補正部101eで補正することで、歪εedgeから風車翼3の熱伸びの影響を除く。
追設演算装置63は、熱伸びの影響を除いた歪εedgeを補正部102eで補正することで、風車翼3に作用する遠心力と重力の影響を除く。
追設演算装置63は、遠心力と重力の影響を除いた歪εedgeを補正部103eで補正することで、歪εedgeを風車翼3に作用するコードC及び風車翼3の中心軸に直交する軸線周りの曲げモーメントMEDGEを算出する。
【0065】
なお、補正部103eでは、以下の式(2)によって曲げモーメントMEDGEを算出する。
EDGE=k2×(εedge-b2) ・・・(2)
ここで、k2は、歪モーメント校正係数であり、歪を曲げモーメントに変換するための係数である。
b2は、曲げ歪校正係数ZERO調整であり、曲げモーメントがゼロのときの歪である。
【0066】
次いで、ピッチ角補正部104eでは、曲げモーメントMEDGEをピッチ角に基づいて、風下方向曲げモーメントの成分と、風車ロータ5のトルク成分とに分解する。
【0067】
ピッチ角補正部104fで求められた風下方向曲げモーメントの成分と、ピッチ角補正部104eで求められた風下方向曲げモーメントの成分とを足し合わせることで、1翼当たりの風下方向曲げモーメントが求められる。
【0068】
ピッチ角補正部104fで求められた風車ロータ5のトルク成分と、ピッチ角補正部104eで求められた風車ロータ5のトルク成分とを足し合わせ、コーン角補正部105においてコーン角に基づいて補正を行うことで、1翼当たりのトルク成分が求められる。
【0069】
次に、図7に基づいて、風車翼3に作用するコードC方向に沿った軸線周りの曲げモーメントMFLAP、及び、コードC及び風車翼3の中心軸(翼軸線L0)に直交する軸線周りの曲げモーメントMEDGEの演算について説明する。
追設演算装置63は、センサ12Aが検出したセンサ12Aの歪εflapから曲げ歪校正係数ZERO調整(b1)を減算器201fで減算し、風車翼3の熱伸びに相当する歪を減算器202fで減算する。
【0070】
追設演算装置63は、遠心力による歪を減算器203fで減算する。具体的には、風車ロータ5の回転速度の二乗と、風車翼3に作用する遠心力とが正比例の関係をなることを利用し、風車ロータ5の回転速度の二乗と、風車翼3に作用する遠心力との関係を予め求めておく。
より具体的には、風車ロータ5の回転速度の二乗と、風車翼3に作用する遠心力により風車翼3に生じる歪とが正比例の関係をなることを利用し、風車ロータ5の回転速度の二乗と、風車翼3に作用する遠心力との関係として、風車ロータ5の回転速度1rpmの二乗当たりの、遠心力による引張歪を係数Eとして予め求めておく。そして、この係数を利用して、追設演算装置63は、乗算器206で遠心力による引張歪を算出する。
そして、追設演算装置63は、乗算器206で算出した引張歪を減算器203fで減算する。
【0071】
なお、上記係数Eは、以下のようにして求められる。
既設の風力発電装置1で発電を開始する前の期間中に風車翼3の翼軸線L0が鉛直方向に最も近づくアジマス角において、センサ12からの検出信号から求められる風車翼3に作用する遠心力(より具体的には、遠心力により風車翼3に生じる歪)と、風車ロータ5の回転速度の二乗との関係を予め取得する。そして、すなわち、風車ロータ5の回転速度が異なる歪のデータを複数点取得する。そして、横軸に風車ロータ5の回転速度の二乗をとり、縦軸に遠心力により風車翼3に生じる歪を取ったグラフ上に取得した複数点のデータをプロットし、この複数点のデータから求められる直線の傾きを上記係数Eとする。
この係数Eの取得作業は、作業員が行ってもよく、追設演算装置63が定期的に実施するようにしてもよい。
【0072】
なお、風車翼3の翼軸線L0が鉛直方向に最も近づくアジマス角とは、風車1aを正面から見たときに、対象となる風車翼3が12時又は6時の位置に位置するときのアジマス角のことである。
【0073】
上述のように演算することで、風荷重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントを求めるにあたり、風車翼3に作用する遠心力の影響を排除できる。
【0074】
追設演算装置63は、アジマス角、チルト角、コーン角が考慮された、風車翼3に作用する重力による歪を加算器204fで加算する。
そして、追設演算装置63は、歪モーメント校正係数(k1)を乗算器205fで乗じることで、コードC方向に沿った軸線周りの曲げモーメントMFLAPを算出する。
【0075】
同様に、追設演算装置63は、センサ12Dが検出したセンサ12Dの歪εedgeから曲げ歪校正係数ZERO調整(b2)を減算器201eで減算し、風車翼3の熱伸びに相当する歪を減算器202eで減算する。
【0076】
追設演算装置63は、遠心力による歪を減算器203eで減算する。具体的には、上述したように、追設演算装置63は、乗算器206で算出した引張歪を減算器203eで減算する。
【0077】
追設演算装置63は、アジマス角、チルト角、コーン角が考慮された、風車翼3に作用する重力による歪を加算器204eで加算する。
そして、追設演算装置63は、歪モーメント校正係数(k2)を乗算器205eで乗じることで、コードC及び風車翼3の中心軸に直交する軸線周りの曲げモーメントMEDGEを算出する。
【0078】
このように、追設演算装置63によって、第1センサとしてのセンサ12Aからの検出信号、及び、第2センサとしてセンサ12Dからの検出信号に基づいて、風車翼3に作用する荷重を演算することができる。
【0079】
ここで、風車翼3は、一般的には、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)等の繊維強化プラスチックで形成されることが多い。そのため、風車翼3の製造段階で風車翼の歪を検出するためのセンサ12を設置する場合には、地上で作業ができ、繊維の層の間にセンサ12を埋め込むことも比較的容易であるので、センサ12の設置は比較的容易である。
しかし、既設の風力発電装置1の風車翼3にセンサ12を追設する場合、風車翼3が風車ロータ5に取り付けられたままであるので、風車翼3の製造段階に比べると風車翼3の姿勢をセンサ12の設置に適した姿勢にし難い等の制限が課せられる。したがって、風車翼3にセンサ12を配置し、さらに繊維強化プラスチックでセンサ12を覆って固定する等の作業を伴うセンサ12の設置は、比較的困難な作業となる。そのため、既設の風力発電装置1の風車翼3にセンサ12を追設する場合、追設するセンサ12の数は、少ない方が望ましい。
【0080】
したがって、上述したように、風車翼3の各々の翼根部3aに取り付けられた2つのセンサからの検出信号に基づいて1翼当たりの風下方向曲げモーメント及び1翼当たりのトルク成分を演算するようにすれば、センサ12を追設する工程(追設工程S10)で設置するセンサ12の数が1翼当たり2つで済む。そのため、追設作業の工数を大幅に削減できる。これにより、既設の風力発電装置1において風車翼3の歪をリアルタイムで測定することによる風車翼3の診断方法を提供するにあたり、センサ12の追設コストを削減できる。
【0081】
風車翼3に作用する荷重を演算するにあたり、上述したように、風車翼3に作用する遠心力、及び、風車翼3に作用する重力の影響を排除した荷重を演算するとよい。
これにより、風車翼3に作用する遠心力、及び、風車翼3に作用する重力の影響が排除された、風荷重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントを求めることができる。
【0082】
(4つの光ファイバセンサ12A~12Dからの検出信号に基づく演算内容)
風車翼3に作用するコードC方向に沿った軸線周りの曲げモーメントMFRAP、及び、コードC及び風車翼3の中心軸(翼軸線L0)に直交する軸線周りの曲げモーメントMEDGEを、図2Aに示すような4つの光ファイバセンサ12(12A~12D)からの検出信号に基づいて演算する場合について説明する。
【0083】
風荷重によるコードC方向に沿った軸線周りの曲げモーメントMFRAPが作用する前と後では、コードC方向に沿って対向する2つの位置に配置した2つのセンサ(センサ12D及びセンサ12B)からの検出信号から求められる風車翼3の歪のそれぞれは、歪の変化量は同じであるが歪の増減が逆となる。そのため、求められた2つの歪の変化量の差の2分の1が曲げモーメントMFRAPによる歪の変化量となる。また、2つのセンサからの検出信号から求められた2つの歪の変化量の差を算出する際に、風車翼3に作用する遠心力や重力の影響が相殺される。そのため、曲げモーメントMFRAPの算出が容易となる。なお、風荷重によるコードC及び風車翼3の中心軸(翼軸線L0)に直交する軸線周りの曲げモーメントMEDGEの算出についても同じことが言える。
【0084】
以下、図6のブロック図に基づいて説明する。
追設演算装置63は、センサ12Aが検出したセンサ12Aの歪εflapAを温度補正部101fで補正することで、歪εflapAから風車翼3の熱伸びの影響を除く。同じく、追設演算装置63は、センサ12Cが検出したセンサ12Cの歪εflapCを温度補正部101fで補正することで、歪εflapCから風車翼3の熱伸びの影響を除く。
なお、追設演算装置63は、補正部102fにおける補正を省略する。
【0085】
そして、追設演算装置63は、温度補正部101fで熱伸びの影響を除いた歪εflapAと歪εflapCから、補正部103fにおいて、以下の式(3)によって曲げモーメントMFRAPを算出する。
FRAP=k3×(εflapA-εflapC)/2-b3) ・・・(3)
ここで、k3は、歪モーメント校正係数であり、歪を曲げモーメントに変換するための係数である。
b3は、曲げ歪校正係数ZERO調整であり、曲げモーメントがゼロのときの歪である。
【0086】
同様に、追設演算装置63は、センサ12Dが検出したセンサ12Dの歪εflapDを温度補正部101eで補正することで、歪εflapDから風車翼3の熱伸びの影響を除く。同じく、追設演算装置63は、センサ12Bが検出したセンサ12Bの歪εflapBを温度補正部101eで補正することで、歪εflapBから風車翼3の熱伸びの影響を除く。
なお、追設演算装置63は、補正部102eにおける補正を省略する。
【0087】
そして、追設演算装置63は、温度補正部101eで熱伸びの影響を除いた歪εflapDと歪εflapBから、補正部103eにおいて、以下の式(4)によって曲げモーメントMEDGEを算出する。
EDGE=k4×(εflapD-εflapB)/2-b4) ・・・(4)
ここで、k4は、歪モーメント校正係数であり、歪を曲げモーメントに変換するための係数である。
b4は、曲げ歪校正係数ZERO調整であり、曲げモーメントがゼロのときの歪である。
【0088】
なお、図7に基づく処理についての詳細な説明は省略するが、図2Aに示すような4つの光ファイバセンサ12(12A~12D)からの検出信号に基づいて演算する場合、追設演算装置63は、減算器203f、204f、203eにおける減算を省略する。
【0089】
(座標変換の実施による風車ロータ5及びナセル4に作用する曲げモーメントの演算)
以下、座標変換の実施による風車ロータ5及びナセル4に作用する曲げモーメントの演算について説明する。
図8は、合成トルク成分MXR、すなわち、風車ロータ5のロータトルクの演算についてのブロック図である。
図9は、風車ロータ5についての曲げモーメント、及び、ナセル4についての曲げモーメントの演算についてのブロック図である。
図10Aは、風車翼3についての曲げモーメントについて説明するための図である。
図10Bは、風車ロータ5についての曲げモーメントについて説明するための図である。
図10Cは、ナセル4についての曲げモーメントについて説明するための図である。
以下の各演算は、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50や、追設演算装置63で実施される。説明の便宜上、以下の説明では、追設演算装置63において各演算を行うものとして説明するが、上述したように、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50で実施してもよい。
【0090】
(合成トルク成分MXRの演算)
なお、幾つかの実施形態に係る荷重演算工程S50において、以下で説明するように、合成トルク成分MXRの演算処理や、風車ロータ5についての曲げモーメントについての演算処理、ナセル4についての曲げモーメントの演算処理を行ってもよい。
これらの演算処理は、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50や、追設演算装置63で実施される。説明の便宜上、以下の説明では、追設演算装置63においてこれら演算処理を実施するものとして説明するが、上述したように、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50で実施してもよい。
【0091】
図8に示すように、追設演算装置63は、上述のようにして演算した、3つの風車翼3のそれぞれにおける、1翼当たりのトルク成分(第1翼トルク成分、第2翼トルク成分、第3翼トルク成分)を足し合わせることで、合成トルク成分MXRを演算する。
【0092】
(風車ロータ5についての曲げモーメント)
図9に示すように、追設演算装置63は、上述のようにして演算した、3つの風車翼3のそれぞれにおける、1翼当たりの風下方向曲げモーメントを、風車翼3毎の取り付け位置に基づく補正を行って足し合わせることで、風車ロータ5についての上下方向分解曲げモーメントMYRと、左右方向分解曲げモーメントMZRとを演算する(図10B参照)。
【0093】
(ナセル4についての曲げモーメント)
図9に示すように、追設演算装置63は、風車ロータ5についての上下方向分解曲げモーメントMYRと、左右方向分解曲げモーメントMZRとに対し、それぞれアジマス角よる補正を行って足し合わせることで、ナセル4についての合成上下方向曲げモーメントMdを演算する(図10C参照)。
また、追設演算装置63は、風車ロータ5についての上下方向分解曲げモーメントMYRと、左右方向分解曲げモーメントMZRとに対し、それぞれアジマス角よる補正を行って足し合わせ、チルト角による補正を行うことで、ナセル4についての合成左右方向曲げモーメントMqを演算する(図10C参照)。
【0094】
(センサ12の校正について)
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法では、以下で説明するセンサ12の校正工程S200を備えているとよい。
図11は、センサ12の校正工程S200についての処理手順を示すフローチャートである。
センサ12の校正工程S200は、追設された上記のセンサ12の構成を行う工程であり、図11に示すように、風車翼3の翼軸線L0が水平となるアジマス角でセンサからの検出信号を取得する第1取得工程S210と、翼軸線L0が鉛直方向に最も近づくアジマス角でセンサからの検出信号を取得する第2取得工程S230と、取得した検出信号に基づいてセンサ12の校正を行う校正工程S250とを有する。
なお、本実施形態に係るセンサ12の校正工程S200は、作業員によって実施される。
【0095】
第1取得工程S210は、風車翼3の翼軸線L0が水平となるアジマス角で風車翼3を固定して、該風車翼3のセンサ12からの検出信号を取得する工程である。
第1取得工程S210では、校正対象のセンサ12が取り付けられた風車翼3の翼軸線L0が水平となるアジマス角、例えば風車1aを正面から見たときの3時の位置で風車翼3を固定する。そして、当該風車翼3のピッチ角度を変更して、コードC方向に沿って配置されたセンサ12の波長が極大又は極小となるピッチ角度にて、該センサ12の波長(検出信号)を記録する。次に、当該風車翼3のピッチ角度を変更して、コードC方向と直交する方向に沿って配置されたセンサ12の波長が極大又は極小となるピッチ角度を該センサ12の波長(検出信号)を記録する。
【0096】
次いで、風車1aを正面から見たときの9時の位置まで当該風車翼3を移動させた後、固定する。そして、3時の位置において実施したように、センサ12の波長(検出信号)を記録する。
【0097】
アジマス角を横軸にとり、波長を縦軸にとると、波長の曲線はサイン波と同様の形状となる。そこで、上述のようにして記録した波長のデータから、ゼロ点と振幅を仮決めする。
【0098】
第2取得工程S230は、翼軸線L0が鉛直方向に最も近づくアジマス角で風車翼3を固定して、センサ12からの検出信号を取得する工程である。
第2取得工程S230では、風車1aを正面から見たときの12時の位置と6時の位置とにおいて、当該風車翼3を固定して、センサ12の波長(検出信号)を記録する。
なお、上述した、翼軸線L0が鉛直方向に最も近づくアジマス角とは、具体的には風車1aを正面から見たときの12時の位置及び6時の位置である。例えばコーン角及びチルト角が共に0度であれば、風車1aを正面から見たときの12時の位置及び6時の位置では翼軸線L0が鉛直方向を向く。
【0099】
また、任意のアジマス角度となる複数の位置において、当該風車翼3を固定して、3時の位置において実施したように、センサ12の波長(検出信号)を記録する。例えば、アジマス角度を30度ずつ変更して、センサ12の波長(検出信号)を記録するとよい。
なお、上述したような、それぞれのアジマス角度におけるセンサ12の波長(検出信号)の記録の順序は、上述した説明の順序に限定されず、任意の順序で実施してよい。
また、3つの風車翼3のそれぞれについてのセンサ12の波長(検出信号)の記録を並行して行ってもよい。例えば、第1風車翼31が3時の位置にあり、第2風車翼32が11時の位置にあるとき、まず第1風車翼31のセンサ12の波長(検出信号)を記録した後、第1風車翼31の他の位置でのセンサ12の波長(検出信号)を記録するのではなく、第2風車翼32を12時の位置に移動させて第2風車翼32センサ12の波長(検出信号)を記録してもよい。
【0100】
校正工程S250は、上述のようにして得られた波長のデータに基づいて、センサ12の校正を行う工程である。具体的には、校正工程S250では、上述のようにして得られた波長のデータを、例えば最小二乗法によってサイン波にフィッティングする。そして、このようにして得られたサイン波の片振幅の大きさが、風車翼3の自重による曲げモーメントによる波長と一致するものとして、上述した歪モーメント校正係数や曲げ歪校正係数ZERO調整を求める。
【0101】
なお、追設されたセンサがセンサ42であった場合、上述の説明における「波長」を「歪」に置き換えることとする。
【0102】
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法では、上述したセンサ12の校正工程S200を備えているので、時間の経過に伴いセンサ12の出力値がずれる現象、いわゆるドリフトが生じたとしても、センサ12のドリフトの影響を低減できる。
【0103】
幾つかの実施形態に係る風車翼の診断方法によれば、風車翼3の翼軸線L0が水平となるアジマス角で風車翼3を固定して、センサ12からの検出信号を取得することで、風車翼3の自重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントによる検出信号を取得できる。
翼軸線L0が鉛直方向に最も近づくアジマス角で風車翼3を固定して、センサ12からの検出信号を取得することで、風車翼3の自重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントの影響を極力排除した検出信号を取得できる。
また、それぞれの工程において風車ロータ5が回転しないように風車翼3を固定して、センサ12からの検出信号を取得するので、風車翼3の回転の加減速の影響が排除された検出信号を取得できる。
これにより、センサ12の校正精度を向上できる。
【0104】
(風車翼の異常の有無の検知について)
以下、幾つかの実施形態に係る異常検知工程S90における具体的な演算処理の内容について説明する。
以下で説明する演算処理は、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50や、追設演算装置63で実施される。説明の便宜上、以下の説明では、追設演算装置63において以下で説明する演算処理を実施するものとして説明するが、上述したように、ハブPLC51等、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50で実施してもよい。
【0105】
上述したように追設されたセンサ12からの検出信号に基づいて、風車翼3の損傷など、風車翼3の異常の有無を検知することができる。
例えば、風車翼3を構成する繊維強化プラスチックにおいて層間の剥離が生じる等すると、風車翼3が1回転する間に表れる歪の変動の傾向が変化したり、歪の変動幅や変動する歪の平均値等に変化が表れる。
このような変化を検出することで、風車翼3の異常の有無を検知することが可能となる。
【0106】
図12は、幾つかの実施形態に係る風車翼3についての、翼軸線L0に直交する断面における模式的な断面図の一例である。図12では、風車翼3の基端から風車ロータ5の径方向外側に離れた位置における断面を示しており、風車翼3の断面形状は、やや扁平した円筒形状となっている。
幾つかの実施形態に係る風車翼3では、図12に示すように、円筒形状を有する風車翼3の内側において、風車翼3を補強するための補強部材301が設けられている。図12に示す例では、翼軸線L0に沿って見たときに、風車翼3の内部を複数の領域に分割するように、補強部材301が風車翼3の内周面3bの内、翼軸線L0を挟んだ一方側の領域(例えば図示下側の領域)から他方側の領域(例えば図示上側の領域)まで延在している。
図12に示す例では、補強部材301の両端部301aは、風車翼3の内周面3bに接着される等して接続されている。
【0107】
(風車翼3同士での比較による損傷の検知)
例えば、複数の風車翼3の内、一つの風車翼3において、補強部材301の両端部301aが風車翼3の内周面3bから剥離すると、このような剥離が生じていない他の風車翼3と比べ、荷重が掛かったときの歪の大きさに差が生じることとなる。
そのため、上述のように光ファイバセンサ12やセンサ42によって測定した歪を風車翼3同士で比較することで、風車翼3の損傷を検出することができる。
【0108】
すなわち、追設演算装置63は、検出信号取得工程において取得した、風車翼3の歪を検出するためのセンサ(例えば光ファイバセンサ12やセンサ42)からの検出信号に基づいて、例えば、風車翼3同士で歪を比較する。そして、比較した歪の差が予め定めた閾値以上であれば、追設演算装置63は、風車翼3に異常が生じていると判断するようにしてもよい。
ここで、例えば、追設工程S10で追設するセンサ12、42には、複数の風車翼3の内の第1風車翼31の歪を検出するための第1風車翼センサ(センサ12、42)と、複数の風車翼の内の第1風車翼31とは異なる第2風車翼32の歪を検出するための第2風車翼センサ(センサ12、42)とが含まれるとよい。
また、検出信号取得工程S30では、光源・信号処理ユニット10、又は歪ゲージシグナルコンディショナ11は、第1風車翼センサ(センサ12、42)からの第1風車翼検出信号と、第2風車翼センサ(センサ12、42)からの第2風車翼検出信号と、を取得するとよい。
異常検知工程S90では、追設演算装置63は、第1風車翼検出信号と第2風車翼検出信号とに基づいて、より具体的には、第1風車翼検出信号及び第2風車翼検出信号に由来して光源・信号処理ユニット10、又は歪ゲージシグナルコンディショナ11から出力される変換信号に基づいて、第1風車翼31の損傷、すなわち異常の有無を検知するとよい。
【0109】
異常検知工程S90では、追設演算装置63は、上記変換信号に基づいて、上述したように第1風車翼31及び第2風車翼32の歪を算出した後、第1風車翼31の異常の有無を検知してもよく、上記変換信号に基づいて、第1風車翼31及び第2風車翼32の歪を算出することなく第1風車翼31の異常の有無を検知してもよい。
【0110】
これにより、異常の有無の検知対象となる第1風車翼31とは異なる第2風車翼32の歪を参照することで、第1風車翼31における異常の有無の検知が容易となる。
【0111】
(風車翼3同士での比較によらない損傷の検知)
上述したように、風荷重によって風車翼3に対してコードC方向に沿った曲げモーメントが作用する前と後では、前縁側センサ及び後縁側センサからの検出信号から求められる風車翼の歪のそれぞれは、歪の変化量は同じであるが歪の増減が逆となる。
そのため、前縁側センサからの検出信号と後縁側センサからの検出信号とで上記のような関係が成り立たなくなった場合、センサ12の不具合でなければ、風車翼3に何らかの不具合が生じたことが考えられる。
同様に、腹側センサからの検出信号と背側センサからの検出信号とで上記のような関係が成り立たなくなった場合、センサ12の不具合でなければ、風車翼3に何らかの不具合が生じたことが考えられる。
【0112】
そこで、例えば、図1及び図2Aに示すように、前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)、後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)、腹側センサ(光ファイバセンサ12A)及び背側センサ(光ファイバセンサ12C)が含まれる場合には、以下のようにして、風車翼3の異常の有無を検知するようにしてもよい。
検出信号取得工程S30では、光源・信号処理ユニット10は、前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)、後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)、腹側センサ(光ファイバセンサ12A)及び背側センサ(光ファイバセンサ12C)からの第2風車翼検出信号と、を取得するとよい。なお、これらの4つのセンサ12に代えて、4つのセンサ42を用いてもよい。
【0113】
異常検知工程S90では、追設演算装置63は、以下の(a)又は(b)の少なくとも何れか一方の比較結果に基づいて風車翼3の異常の有無を検知するとよい。
(a)前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)からの検出信号と後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)からの検出信号との比較結果(より具体的にはこれら検出信号に由来する変換信号との比較結果)。
(b)腹側センサ(光ファイバセンサ12A)からの検出信号と背側センサ(光ファイバセンサ12C)からの検出信号との比較結果(より具体的にはこれら検出信号に由来する変換信号との比較結果)。
【0114】
異常検知工程S90では、追設演算装置63は、記変換信号に基づいて、風車翼3の歪を算出することなく風車翼3の異常の有無を検知してもよいが、上記変換信号に基づいて、上述したように風車翼3の歪を算出した後、風車翼3の異常の有無を検知してもよい。
【0115】
これにより、前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)からの検出信号と後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)からの検出信号、又は、腹側センサ(光ファイバセンサ12A)からの検出信号と背側センサ(光ファイバセンサ12C)からの検出信号、の少なくとも何れか一方に基づいて風車翼3の異常の有無を検知できる。
【0116】
また、別の実施例としては、追設演算装置63は、検出信号取得工程において取得した、風車翼3の歪を検出するためのセンサ(例えば光ファイバセンサ12やセンサ42)からの検出信号に基づいて、例えば数か月や数年等の比較的長い期間にわたって歪の経時的な変化を不図示の記憶装置に記憶させる。そして、上記のような歪の経時的な変化の変化量が予め定めた閾値以上であれば、追設演算装置63は、風車翼3に異常が生じていると判断するようにしてもよい。
【0117】
上述したように風車翼3に異常が生じていると判断した場合、例えば追設演算装置63は、通信装置67を介して風力発電装置1の外部の装置に、風車翼3に異常が生じていることを示す信号を無線で送信するようにしてもよい。
【0118】
(アジマス角の推定)
上述した幾つかの実施形態では、アジマス角の情報は、既設の風力発電装置1から取得していた。しかし、アジマス角を検出するためのセンサを追設し、追設したセンサからアジマス角の情報を取得するようにしてもよい。
【0119】
例えば上述した追設工程S10は、風車翼3のアジマス角を推定するためのアジマス角推定用センサを追設する工程を含んでいてもよい。該工程では、アジマス角推定用センサ44(図1参照)は、ハブ2等のように風車ロータ5とともに回転する部材の何れかに取り付けられる。
アジマス角推定用センサ44は、X軸、Y軸、及びZ軸の3軸の加速度をそれぞれ検出可能な1つの加速度センサを含んでいるとよい。該加速度センサによって重力が作用する方向を検出し、該加速度センサの検出結果から追設演算装置63においてアジマス角を推定するようにしてもよい。
なお、アジマス角推定用センサ44が、X軸、Y軸、及びZ軸の3軸の周りの角速度をそれぞれ検出可能な1つの角速度センサも含んでいれば、例えば振動等に起因して加速度センサの検出結果から重力の作用方向を検出できなかった場合に、以下のようにしてアジマス角を推定するようにしてもよい。すなわち、振動等で重力の作用方向を検出できなくなる前の重力の作用方向と、角速度センサで検出した風車ロータ5の角速度、及び、振動等で重力の作用方向を検出できなくなってからの経過時間に基づいて、追設演算装置63はアジマス角を推定するようにしてもよい。
これにより、既設の風力発電装置1からアジマス角の情報が得られなくても、アジマス角推定用センサ44によってアジマス角の情報が得られる。
【0120】
(ピッチ角の推定)
上述した幾つかの実施形態では、ピッチ角の情報は、既設の風力発電装置1から取得していた。しかし、ピッチ角を検出するためのセンサを追設し、追設したセンサからピッチ角の情報を取得するようにしてもよい。
【0121】
例えば上述した追設工程S10は、風車翼のピッチ角を推定するためのピッチ角推定用センサを追設する工程を含んでいてもよい。該工程では、ピッチ角推定用センサ46(図1参照)は、例えば複数の風車翼3のそれぞれに追設されるとよい。なお、複数の風車翼3間でのピッチ角の相違が問題にならなければ、該工程では、ピッチ角推定用センサ46は、複数の風車翼3の何れか1つに追設されるとよい。
ピッチ角推定用センサ46は、X軸、Y軸、及びZ軸の3軸の加速度をそれぞれ検出可能な1つの加速度センサを含んでいるとよい。
風車翼3が3時及び6時の位置では、重力の作用する方向と風車翼3の翼軸線L0とが直交する。そこで、該加速度センサによって3時及び6時の位置における重力が作用する方向を検出し、該加速度センサの検出結果と、3時及び6時の位置で予め測定しておいたピッチ角と重力の作用する方向との関係から追設演算装置63においてピッチ角を推定するようにしてもよい。
これにより、既設の風力発電装置1からピッチ角の情報が得られなくても、ピッチ角推定用センサ46によってピッチ角の情報が得られる。
【0122】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0123】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る風車翼の診断方法は、既設の風力発電装置1の風車翼3の診断方法であって、風車翼3の歪を検出するためのセンサ12、42を追設する工程(追設工程S10)と、センサ12、42からの検出信号を取得する工程(検出信号取得工程S30)と、検出信号に基づいて風車翼3に作用する荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)と、を備える。センサ12、42を追設する工程(追設工程S10)では、風車翼3の翼軸線L0を中心とする翼根部3aにおける周方向位置の内、風車翼3のコードC方向に沿って対向する2つの位置の内の一方に第1センサ(センサ12、42)を配置し、コードC方向と直交する方向に沿って対向する2つの位置の内の一方に第2センサ(センサ12、42)を設置する。荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)では、第1センサ(センサ12、42)からの検出信号、及び、第2センサ(センサ12、42)からの検出信号に基づいて荷重を演算する。
【0124】
例えば、コードC方向に沿って対向する2つの位置、及び、コードC方向と直交する方向に沿って対向する2つの位置のそれぞれに風車翼3の歪を検出するためのセンサ12を追設した場合のことを考える。
風荷重によるコードC方向に沿った軸線周りの曲げモーメントMFRAPが作用する前と後では、コードC方向に沿って対向する2つの位置に配置した2つのセンサ(センサ12D及びセンサ12B)からの検出信号から求められる風車翼3の歪のそれぞれは、歪の変化量は同じであるが歪の増減が逆となる。そのため、求められた2つの歪の変化量の差の2分の1が曲げモーメントMFRAPによる歪の変化量となる。また、2つのセンサからの検出信号から求められた2つの歪の変化量の差を算出する際に、風車翼3に作用する遠心力や重力の影響が相殺される。そのため、曲げモーメントMFRAPの算出が容易となる。なお、風荷重によるコードC及び風車翼3の中心軸(翼軸線L0)に直交する軸線周りの曲げモーメントMEDGEの算出についても同じことが言える。
【0125】
ここで、風車翼3は、一般的には、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)等の繊維強化プラスチックで形成されることが多い。そのため、風車翼3の製造段階で風車翼の歪を検出するためのセンサ12を設置する場合には、地上で作業ができ、繊維の層の間にセンサ12を埋め込むことも比較的容易であるので、センサ12の設置は比較的容易である。
しかし、既設の風力発電装置1の風車翼3にセンサ12を追設する場合、風車翼3が風車ロータ5に取り付けられたままであるので、風車翼3の製造段階に比べると風車翼3の姿勢をセンサ12の設置に適した姿勢にし難い等の制限が課せられる。したがって、風車翼3にセンサ12を配置し、さらに繊維強化プラスチックでセンサ12を覆って固定する等の作業を伴うセンサ12の設置は、比較的困難な作業となる。そのため、既設の風力発電装置1の風車翼3にセンサ12を追設する場合、追設するセンサ12の数は、少ない方が望ましい。
【0126】
上記(1)の方法によれば、センサ12、42を追設する工程(追設工程S10)で設置するセンサ12、42の数が2つで済むため、追設作業の工数を大幅に削減できる。これにより、既設の風力発電装置1において風車翼3の歪をリアルタイムで測定することによる風車翼3の診断方法を提供するにあたり、センサ12、42の追設コストを削減できる。
【0127】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)では、風車翼3に作用する遠心力、及び、風車翼3に作用する重力の影響を排除した荷重を演算するとよい。
【0128】
上述したように、上記(1)の方法では、センサ12、42を追設する工程(追設工程S10)において、コードC方向に沿って対向する2つの位置の内の一方、及び、コードC方向と直交する方向に沿って対向する2つの位置の内の一方に配置された2つのセンサ12、42が追設される。そのため、風荷重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントを求めるためには、風車翼3に作用する遠心力、及び、風車翼に作用する重力の影響を排除する必要がある。
上記(2)の方法によれば、風車翼3に作用する遠心力、及び、風車翼3に作用する重力の影響を排除した荷重を演算するので、風荷重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントを求めることができる。
【0129】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の方法において、荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)では、既設の風力発電装置1で発電を開始する前の期間中に風車翼3の翼軸線L0が鉛直方向に最も近づくアジマス角において取得された、センサ12、42からの検出信号から求められる風車翼3に作用する遠心力と、風車翼3を備える風車ロータ5の回転速度の二乗とについて予め得られている関係に基づいて、風車翼3に作用する遠心力の影響を排除した荷重を演算してもよい。
【0130】
上記(3)の方法によれば、風荷重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントを求めるにあたり、風車翼3に作用する遠心力の影響を排除できる。
【0131】
(4)本開示の少なくとも一実施形態に係る風車翼の診断方法は、既設の風力発電装置1の風車翼3の診断方法であって、風車翼3の歪を検出するためのセンサ12、42を追設する工程(追設工程S10)と、センサ12、42からの検出信号を取得する工程(検出信号取得工程S30)と、検出信号に基づいて風車翼3に作用する荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)と、検出信号に基づいて、風車翼3の異常の有無を検知する工程(異常検知工程S90)と、を備える。
【0132】
上記(4)の方法によれば、風車翼3の歪に基づいて風車翼3の異常の有無を検知できる。
【0133】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の方法において、センサ12、42を追設する工程(追設工程S10)で追設するセンサ12、42には、異常の有無を検知するために風車翼3の歪を検出する異常検知用センサが含まれるとよい。異常の有無を検知する工程(異常検知工程S90)では、異常検知用センサからの検出信号に基づいて、異常の有無を検知するとよい。
【0134】
上記(5)の方法によれば、風車翼3に作用する荷重の演算に際して異常検知用センサからの検出信号が不要である場合には、該検出信号の処理を簡略化でき、センサ12、42からの検出信号を処理するための演算装置において、負荷を抑制できる。
【0135】
(6)幾つかの実施形態では、上記(4)又は(5)の方法において、既設の風力発電装置1は、風車翼3を複数備える風車ロータ5を有する。センサ12を追設する工程(追設工程S10)で追設するセンサ12、42には、複数の風車翼3の内の第1風車翼31の歪を検出するための第1センサ(第1風車翼センサ(センサ12、42))と、複数の風車翼の内の第1風車翼31とは異なる第2風車翼32の歪を検出するための第2センサ(第2風車翼センサ(センサ12、42))とが含まれるとよい。検出信号を取得する工程(検出信号取得工程S30)では、第1センサ(第1風車翼センサ(センサ12、42))からの第1検出信号(第1風車翼検出信号)と、第2センサ(第2風車翼センサ(センサ12、42))からの第2検出信号(第2風車翼検出信号)と、を取得するとよい。異常の有無を検知する工程(異常検知工程S90)では、第1検出信号(第1風車翼検出信号)と第2検出信号(第2風車翼検出信号)とに基づいて第1風車翼31の異常の有無を検知するとよい。
【0136】
上記(6)の方法によれば、異常の有無の検知対象となる第1風車翼31とは異なる第2風車翼32の歪を参照することで、第1風車翼31における異常の有無の検知が容易となる。
【0137】
(7)幾つかの実施形態では、上記(4)又は(5)の方法において、センサ12、42を追設する工程(追設工程S10)で追設するセンサ12、42には、風車翼3の翼軸線L0を中心とする翼根部3aにおける周方向位置の内、風車翼3のコードC方向に沿って対向する前縁側23と後縁側24との2つの位置にそれぞれ配置された前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)及び後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)、並びに、コードC方向と直交する方向に沿って対向する腹側21と背側22との2つの位置にそれぞれ配置された腹側センサ(光ファイバセンサ12A)及び背側センサ(光ファイバセンサ12C)とが含まれるとよい。検出信号を取得する工程では、前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)からの検出信号と、後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)からの検出信号と、腹側センサ(光ファイバセンサ12A)からの検出信号と、背側センサ(光ファイバセンサ12C)からの検出信号と、を取得するとよい。異常の有無を検知する工程(異常検知工程S90)では、前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)からの検出信号と後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)からの検出信号との比較結果、又は、腹側センサ(光ファイバセンサ12A)からの検出信号と背側センサ(光ファイバセンサ12C)からの検出信号との比較結果の少なくとも何れか一方の比較結果に基づいて風車翼3の異常の有無を検知するとよい。
【0138】
上述したように、風荷重によって風車翼3に対してコードC方向に沿った曲げモーメントが作用する前と後では、前縁側センサ及び後縁側センサからの検出信号から求められる風車翼の歪のそれぞれは、歪の変化量は同じであるが歪の増減が逆となる。
そのため、前縁側センサからの検出信号と後縁側センサからの検出信号とで上記のような関係が成り立たなくなった場合、センサ12の不具合でなければ、風車翼3に何らかの不具合が生じたことが考えられる。
同様に、腹側センサからの検出信号と背側センサからの検出信号とで上記のような関係が成り立たなくなった場合、センサ12の不具合でなければ、風車翼3に何らかの不具合が生じたことが考えられる。
上記(7)の方法によれば、前縁側センサ(光ファイバセンサ12D)からの検出信号と後縁側センサ(光ファイバセンサ12B)からの検出信号、又は、腹側センサ(光ファイバセンサ12A)からの検出信号と背側センサ(光ファイバセンサ12C)からの検出信号、の少なくとも何れか一方に基づいて風車翼3の異常の有無を検知できる。
【0139】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかの方法において、荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)で演算された荷重の情報を風力発電装置1の外部に送信する工程(外部送信工程S70)、を備えるとよい。
【0140】
荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)で演算された荷重の情報を風力発電装置1の内部に配置された記憶装置等に格納していた場合、極端な例を挙げれば、例えば風車1aの倒壊のような事故が発生して該記憶装置が破壊されてしまうと、該記憶装置から上記情報を取り出すことができなくなり、事故の原因の調査に上記情報を利用することができなくなってしまう。
上記(8)の方法によれば、上記情報を風力発電装置1の外部の記憶装置等で格納しておけば、仮に上記のような事故が発生したとしても、事故の原因の調査に上記情報を利用することができる。すなわち、上記(8)の方法によれば、上記情報の消失の可能性を低減できる。
【0141】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかの方法において、荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)では、検出信号に基づいて、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50によって荷重を演算してもよい。
【0142】
上記(9)の方法によれば、追設する演算装置63の数を抑制できるので、既設の風力発電装置1において風車翼3の歪をリアルタイムで測定することによる風車翼3の診断方法を提供するにあたり、演算装置の追設コストを削減できる。
【0143】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかの方法において、風力発電装置1に対して、検出信号に基づいて風車翼3に作用する荷重を演算するための演算装置を追設する工程(追設工程S10)、を備えていてもよい。荷重を演算する工程(荷重演算工程S50)では、検出信号に基づいて、演算装置を追設する工程(追設工程S10)で追設した演算装置63によって荷重を演算するとよい。
【0144】
一般的に、既設の風力発電装置1が備える既設の演算装置50は、センサ12、42からの検出信号に基づいて風車翼3に作用する荷重を演算することを想定していなければ、その演算能力は、該荷重を演算するのに十分であるとは言い難い場合がある。
上記(10)の方法によれば、該荷重を演算するのに十分な演算能力を有する演算装置63を追設できる。
【0145】
(11)幾つかの実施形態では、上記(10)の方法において、風力発電装置1に対して、演算装置を追設する工程(追設工程S10)で追設した演算装置63に電力を供給可能な蓄電装置65を追設する工程(追設工程S10)、を備えるとよい。
【0146】
上記(11)の方法によれば、何らかの不具合によって風力発電装置1側からの給電が断たれたとしても、蓄電装置65からの電力で演算装置を稼働できる。
【0147】
(12)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(11)の何れかの方法において、センサの校正を行う工程S200、を備えるとよい。
【0148】
上記(12)の方法によれば、時間の経過に伴いセンサ12、42の出力値がずれる現象、いわゆるドリフトが生じたとしても、センサ12、42のドリフトの影響を低減できる。
【0149】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)の方法において、センサの校正を行う工程S200では、少なくとも、風車翼3の翼軸線L0が水平となるアジマス角で風車翼3を固定して、センサ12、42からの検出信号を取得する工程S210と、翼軸線L0が鉛直方向に最も近づくアジマス角で風車翼3を固定して、センサ12、42からの検出信号を取得する工程S230と、を実施することで取得したセンサ12、42からの検出信号に基づいて、センサ12、42の校正を行うとよい。
【0150】
上記(13)の方法によれば、風車翼3の翼軸線L0が水平となるアジマス角で風車翼3を固定して、センサ12、42からの検出信号を取得することで、風車翼3の自重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントによる検出信号を取得できる。
翼軸線L0が鉛直方向に最も近づくアジマス角で風車翼3を固定して、センサ12、42からの検出信号を取得することで、風車翼3の自重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントの影響を極力排除した検出信号を取得できる。
また、それぞれの工程において風車ロータ5が回転しないように風車翼3を固定して、センサ12、42からの検出信号を取得するので、風車翼3の回転の加減速の影響が排除された検出信号を取得できる。
これにより、センサ12、42の校正精度を向上できる。
【0151】
(14)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(13)の何れかの方法において、風車翼3のアジマス角を推定するためのアジマス角推定用センサを追設する工程と、風車翼のピッチ角を推定するためのピッチ角角推定用センサを追設する工程と、アジマス角推定用センサからの検出信号に基づいてアジマス角を推定する工程と、ピッチ角推定用センサからの検出信号に基づいてピッチ角を推定する工程と、を備えていてもよい。
【0152】
上記(14)の方法によれば、既設の風力発電装置1からアジマス角やピッチ角の情報が得られなくても、アジマス角推定用センサ及びピッチ角角推定用センサによってアジマス角やピッチ角の情報が得られる。
【0153】
(15)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(14)の何れかの方法において、検出信号を取得する工程(検出信号取得工程S30)では、風車翼3の回転速度に基づいて検出信号を取得するサンプリング周波数を変更してもよい。
【0154】
風車翼3の回転速度に関わらず検出信号を取得するサンプリング周波数が一定であれば、風車翼3の回転速度が大きくなるほど、検出信号を取得してから次の検出信号の取得までのアジマス角度の変化量が大きくなる。そのため、風車翼3の回転速度が大きくなるほど、風車翼3が1回転する間に取得できる検出信号の数が減ってしまい、風荷重によって風車翼3に対して作用する曲げモーメントの変動を検出する精度が低下してしまう。
上記(15)の方法によれば、風車翼3の回転速度が大きくなるほど検出信号を取得するサンプリング周波数を大きくすれば、風車翼3の回転速度が大きくなっても、上記の変動を検出する精度の低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0155】
1 風力発電装置
1a 風車
2 ハブ
3 風車翼
4 ナセル
5 風車ロータ
10 光源・信号処理ユニット
11 歪ゲージシグナルコンディショナ
12 光ファイバセンサ(センサ)
42 センサ
50 既設の演算装置
51 ハブPLC
53 ナセルPLC
55 風車PLC
57 ハブ電源
63 演算装置(追設演算装置)
65 蓄電装置
67 通信装置

図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12