(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】固体有機触媒を備える充電可能な非水性リチウム空気電池セル
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20240216BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M4/90 Y
(21)【出願番号】P 2022544168
(86)(22)【出願日】2020-01-20
(86)【国際出願番号】 IB2020000086
(87)【国際公開番号】W WO2021148835
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】509043571
【氏名又は名称】トヨタ・モーター・ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】TOYOTA MOTOR EUROPE
(73)【特許権者】
【識別番号】501455677
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】522287961
【氏名又は名称】ルノー,スティーブン
【氏名又は名称原語表記】RENAULT, STEVEN
(73)【特許権者】
【識別番号】522287972
【氏名又は名称】カルボーニ,マルコ
【氏名又は名称原語表記】CARBONI, MARCO
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルノー,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】カルボーニ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】バルデ,ファニー・イェンヌ・ユリー
(72)【発明者】
【氏名】ポワゾー,フィリップ
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-098215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含有する負極と、
正極活物質として酸素を使用する正極と、
前記負極と前記正極との間に配置されている非水性電解質媒体とを備え、
前記正極は、固体p型電気活性有機触媒リチウム塩を備
え、
前記固体p型電気活性有機触媒リチウム塩は、以下の一般構造(1)を示し、
【化1】
式中、
Arは、ベンゼン、ナフタレン、ペリレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、トリフェニレン、ピレン、ペンタセン、ベンゾ[a]ピレン、コラヌレン、ベンゾ[ghi]ペリレン、コロネン、オバレン、ベンゾ[c]フルオリン、ピリジン、キノロン、イソキノリン、ピラジン、キノキサリン、アクリジン、ピリミジン、キナゾリン、ピリダジン、シンノリン、フタラジン、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジンからなる群より選択される芳香環またはヘテロ芳香環であり、
R
1
~R
4
は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC
1
~C
19
のアルキル基であり、R
1
~R
4
基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換され、
R
5
およびR
6
は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC
1
~C
19
のアルキル基であり、R
5
およびR
6
基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換され、
YおよびY’は、カルボキシレート基、チオカルボキシレート基、スルホネート基、チオスルホネート基、ホスホネート基、チオホスホネート基、スルフェート基、アミデート基からなる群よりそれぞれ独立して選択されるアニオン性基である、リチウム空気電池セル。
【請求項2】
Arは、ベンゼンおよびナフタレンからなる群より選択され、
R
1
~R
4
は、Hおよびアリール基からなる群より選択され、後者は4~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換され、
R
5
およびR
6
は、Hである、請求項1に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項3】
前記固体p型電気活性有機触媒リチウム塩は、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)中のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)1M中において0.148g.L
-1未満の溶解度を示す、請求項1
または請求項2に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項4】
前記固体p型電気活性有機触媒リチウム塩は、以下の一般構造(2)を示す、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム空気電池セル:
【化2】
式中、
R
1およびR
3は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC
1~C
19のアルキル基であり
、R
1およびR
3基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換さ
れ、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC
1~C
19のアルキル基であ
り、R
5およびR
6基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換さ
れる。
【請求項5】
R
1
およびR
3
は、Hおよびアリール基から選択され、後者は4~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換され、
R
5
およびR
6
は、Hである、請求項4に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項6】
R
1およびR
3はフェニル(-C
6H
5)である、請求項4
または請求項5に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項7】
前記正極は、さらに、固体n型電気活性有機触媒リチウム塩を備える、請求項1~
6のいずれか1項に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項8】
前記固体n型電気活性有機触媒リチウム塩は、以下の一般構造(3)を示す、請求項
7に記載のリチウム空気電池セル:
【化3】
式中、R
7およびR
8は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC
1~C
19のアルキル基であり
、R
7およびR
8基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換さ
れる。
【請求項9】
R
7
およびR
8
は、Hおよびアリール基からなる群から選択され、後者は4~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換される、請求項8に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項10】
R
7およびR
8はHである、請求項
8または請求項9に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項11】
固体p型電気活性有機触媒リチウム塩と固体n型電気活性有機触媒リチウム塩との重量比は、0.1/99.9~100/
0である、請求項
7~
10のいずれか1項に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項12】
固体p型電気活性有機触媒リチウム塩と固体n型電気活性有機触媒リチウム塩との重量比は、60/40~40/60の範囲である、請求項11に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項13】
前記正極はさらに炭素を備える、請求項1~
12のいずれか1項に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項14】
炭素と(固体p型電気活性有機触媒リチウム塩+固体n型電気活性有機触媒リチウム塩+炭素)との重量比は77%以上である、請求項
13に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項15】
前記正極は、さらに、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、および末端スルホネート基を有するパーフルオロビニルエーテル基がポリ(テトラフルオロエチレン)骨格に結合した共重合体からなる群より選択されるポリマーバイン
ダを備える、請求項1~
14のいずれか1項に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項16】
前記ポリマーバインダは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である、請求項15に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項17】
前記ポリマーバインダと(固体p型電気活性有機触媒リチウム塩+固体n型電気活性有機触媒リチウム塩+炭素+ポリマーバインダ)との重量比は20%以下である、請求項
15または請求項16に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項18】
前記非水性電解質媒体は、鎖状カーボネート、環状エステルカーボネート、鎖状エーテル、環状エーテル、グリコールエーテル、およびニトリル溶媒からなる群より選択される1種以上の非プロトン性有機溶
媒を備える、請求項1~
17のいずれか1項に記載のリチウム空気電池セル。
【請求項19】
請求項1~
18のいずれか1項に記載のリチウム空気電池セルを組み立てたものを少なくとも2つ備える組電池。
【請求項20】
電気自動車およびハイブリッド車、電子デバイス、および定置発電デバイスのための充電可能な電池としての、請求項
19に記載の組電池の使用。
【請求項21】
請求項
19に記載の組電池を備える、車両、電子デバイス、および定置発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、正極内に固体p型電気活性有機触媒リチウム塩を備えるリチウム空気電池セルに関する。また、本発明は、本発明に係るいくつかのリチウム空気電池セルを備える組電池にも関する。また、電気自動車およびハイブリッド車などの車両、電子デバイス、ならびに定置発電デバイスのための充電可能な電池として、本発明に係るリチウム空気組電池を使用することも、本発明の一部である。最後に、本発明は、本発明に係る組電池を備える車両、電子デバイス、および定置発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
技術背景
充電可能なリチウム電池は、高いエネルギー密度および高い出力を有するため、大きな関心を得ている。特に、充電可能なリチウム空気電池は、高エネルギー密度が要求される電気自動車およびハイブリッド車に関して注目を集めている。リチウム空気電池セルは、様々なデバイス(コンピュータおよび電話など)、自動車、または定置用途において使用されており、組電池中に組み入れることができる。
【0003】
充電可能なリチウム空気電池は、空気中の酸素をカソード活物質として使用する。したがって、カソード活物質として遷移金属酸化物(たとえば、コバルト酸リチウム)を含有する従来の充電可能なリチウム電池と比較して、充電可能なリチウム空気電池は大容量を有し得る。
【0004】
金属空気電池において、カソード活物質である酸素は、電池内には含有されていない。代わりに、この材料は、周囲の雰囲気によって提供される。本来、このようなシステムは、原則的に、非常に高い比エネルギー(電池により提供される単位重量あたりのエネルギーであり、本技術分野においては典型的にはWh/kgで与えられる)を実現し得る。このような電池において、酸素は、部分的に還元されて過酸化物になり得る、または、十分に還元されて、触媒、電解質、酸素の存在量などに依存して水酸化物または酸化物になり得る。負極(アノード)がリチウム(Li)である場合、過酸化リチウム(Li2O2)または酸化リチウム(Li2O)が形成され得る。
【0005】
リチウム空気電池セルは、一般的に、以下に記載される部分を備える:
・金属アノード(たとえば、Liを含有する)、
・非水性電解質(たとえば、リチウム塩を含有する)、および
・空気カソード。
【0006】
この電池セルデバイスのその他の部分は、以下のものなどを提示し得る:アノード側および/またはカソード側における集電体;カソード側電解質(カソード液)とアノード側電解質(アノード液)との間のセパレータ;正極(カソード)と電解質との間、または負極(アノード)と電解質との間のバリア層。
【0007】
リチウム空気電池セルの開発にあたって対処するべき課題は、以下のことを含む:
・正極(カソード)において使用される可溶性触媒がアノードへと移動するのを回避すること、
・電解質の分解を回避することによるリチウム空気電池の充電電圧の低減および/または放電電圧の増大によって、ヒステリシスを低減すること、
・リチウム空気電池の容量を、固定された割合で増大させること。
【0008】
アノードにおける可溶性触媒の移動を回避するために、特殊なセパレータが使用され得る。Leeら(Adv. Energy Mater., 2017, 1602417)は、酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction;OER)のために使用される可溶性触媒DMPZ(5,10-ジヒドロ-5,10-ジメチルフェナジン)の移動を回避するための、ポリマー混合物PEDOT:PSS[ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート]で被覆されたガラス繊維セパレータ(GF/C、Whatman)の使用を提案している。Qiaoら(ACS Energy Lett. 2018, 3, 463-468)は、可溶性の種を遮断する特殊な金属有機構造体(metal-organic framework;MOF)に基づくセパレータを使用することによって、可溶性触媒がLiアノードへと輸送されるのを回避することを示唆している。
【0009】
Gaoらは、非水性リチウム空気電池セルのレート特性を増大させるための、可溶性触媒としての2,5-ジ-tert-ブチル-1,4-ベンゾキノン(DBBQ)を提案している。空気極は、空気カソードとしての、ガス拡散層(Gas Diffusion Layer;GDL)に基づく多孔質炭素電極である。アノードは、LiFePO4(Nature Materials, 2016, 15, 882)または2区画セルの使用を要するOharaのガラスによって保護されたLi(Nature Energy, Vol. 2, 17118 (2017))であるが、Li金属はアノードとして使用できない、というのは、DBBQがこれに向かって移動して、アノードにおいて問題を引き起こし得るためである。
【0010】
Chenら(Nature Chemistry, 2013, 5, 489)は、可溶性触媒としてのテトラチアフルバレン(TTF)および空気カソードとしてのナノ多孔質金を報告している。部分的に充電したLiFePO4が、アノードとして使用されている。
【0011】
Kunduら(ACS Cent., Sci., 2015, 1, 510-515)は、LiO2の酸化(充電プロセス)を促進するために、可溶性触媒としてトリス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]アミン(TDPA)を使用している。
【0012】
先行技術によって提案されている解決策が有する主な欠点は、アノードとしてのLi金属(追加の保護なしで)の使用を許容しない可溶性触媒を使用している点である。実際、アノードにおける可溶性触媒の移動は、リチウム空気電池の性能および安全性を劣化させるため、以下に記載するようなさらなる特徴の使用を必要とする:
・Li金属の表面に堆積して核形成部位を生じることによりデンドライトの形成を引き起こし得る可溶性触媒の混入から、Li金属を保護するための保護バリア、
・溶質種を遮断する特殊なセパレータ、または
・Liアノードを保護するための2つの電解質区画(すなわち、一方はアノード側用、他方はカソード側用)から構成される2区画セルなどの特殊なセル設計。
【0013】
また、Haseら(Chem. Commun. 2016, 52, 12151-12154)は、電気化学的充電に起因する寄生反応を生じることなくLi2O2の酸化を可能とするために、可溶性触媒としてメトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(MeO-TEMPO)を使用している。しかしながら、TEMPO分子は、充電の最後に電池セルの外で化学的に再生させる必要があり、このことは全く実用的ではない、というのは、充電の度に電池セルに新しい電解質を補充しなければならないためである。
【0014】
Bergnerら(Phys. Chem. Chem. Phys., 2015, 17, 31769-31779)は、1-メチル-2-アザアダマンタン-N-オキシル(1-Me-AZADO)などのニトロキシド触媒の使用に関する。しかしながら、こうしたニトロキシドは、電解質中に溶解し得るため、リチウム空気電池セルのアノードを劣化させ得るという欠点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、正極内に固体有機触媒(Solid Organic Catalyst;SOC)を備えるリチウム空気電池セルを提供することによる、先行技術の上記課題すべてに対する措置であり、これは、
・Li-O2電池セル容量を、固定された割合で増大させ、
・Li-O2電池セルの再充電能力を増大させ、これにより、電池セルのサイクル性を増大させ、
・一定水準の容量を維持しながら、レート特性(これは、電池セルの充電速度および/または放電速度を意味する)を増大させ、
・本発明に係るSOCが可溶性でなく、よって、リチウム保護層、特殊なセパレータ、または2区画セルを必要としないために、比較的単純な電池セル設計を可能とし、
・電池セル内部でSOCが自己再生されて初期状態に戻り、
・正極(空気カソード)において使用される炭素の量を低減でき、したがって、不良な再充電能力を引き起こすことが知られている炭素の腐食を回避できる。実際、炭素は、リチウム空気電池システム内において腐食して、Li2O2(理想的な放電生成物)ではなくLi2CO3(副反応による放電生成物)の部分的な形成を導くことがよく知られている。
【0016】
これらに加えて、本発明に係るSOCは、低コストであり(金、白金、またはコバルト酸化物に基づくリチウム空気システムにおいて使用される他の触媒と比較して)、かつ、再生可能な資源(バイオマス)から調製できる環境にやさしい有機材料である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の概要
本発明は、一態様において、
負極活物質を含有する負極(アノード)と、
正極活物質として酸素を使用する正極(カソード)と、
負極と正極との間に配置されている非水性電解質媒体とを備え、
正極は、固体p型電気活性有機触媒リチウム塩を備える、リチウム空気電池セルに関する。
【0018】
別の一態様において、本発明は、本発明に係るいくつかのリチウム空気電池セルを組み立てて合わせたものを備える組電池に関する。
【0019】
また、本発明は、電気自動車およびハイブリッド車、電子デバイス、および定置発電デバイスのための充電可能な電池としての、本発明に係る組電池の使用にも関する。
【0020】
また、最後に、本発明は、本発明に係る組電池を備える車両、電子デバイス、および定置発電デバイスにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1、2、および3(Ex1、Ex2、Ex3)中に記載されるように、0.2mAh.cm
-2にてサイクルさせたリチウム空気電池セルについての、容量(mAh.cm
-2)に対する電圧(V 対 Li
+/Li)を、比較例1、2、および3(CE1、CE2、CE3)と比較して示す。
【
図2】実施例1のリチウム空気電池セルのサイクル実施(
図2a)、および当該リチウム空気電池セルのサイクル数に対する容量維持率(
図2b)を示す(Li
2DAnT:Carbon Super C65(2:7)、レート0.2mAh.cm
-2、電位窓2.2~4.6V 対 Li
+/Li、容量限度800mAh.g
-1
SOC(~2.15mAh.cm
-2))。
【
図3】実施例1のリチウム空気電池セルのサイクル実施(
図3a)(レート0.2mAh.cm
-2、電位窓2.2~4.6V 対 Li
+/Li、容量限度2000mAh.g
-1
SOC(~6mAh.cm
-2))と、比較例1のもの(
図3b)とを示す。
【
図4】Li
2DAnT:Carbon Super C65を2:7の比率で含有する電極に関して、アルゴン(実線)中または酸素(点線)中において得られるSOCとしてLi
2DAnTを含有する作用極を使用する実施例1のリチウム空気電池セルの1回目のサイクルの比較を示す(0.5mAh.cm
-2で定電流放電を行なった)。
【
図5】ガス区画内に1つの電気化学セルを有する金属空気電池セル(
図5a)、およびガス区画内にいくつかのセルを有する金属空気組電池(
図5b)の概略図であって、11はガス区画(乾燥空気または純粋な酸素)、12は金属アノード、13はカソード、14は電解質/セパレータ、15はアノード集電体、16はカソード集電体である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、
負極活物質を含有する負極(アノード)と、
正極活物質として酸素を使用する正極(カソード)と、
負極と正極との間に配置されている非水性電解質媒体とを備え、
正極は、固体p型電気活性有機触媒リチウム塩を備える、リチウム空気セルに関する。
【0023】
本発明に係る固体有機触媒(Solid Organic Catalyst;SOC)は、電解質中に溶解しないため、可溶性の種がアノードへと移動するのを回避できる、という大きな利点を有する。さらに、酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction;OER)および酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction;ORR)などの酸素を伴う反応の電気化学的性能を増大させ、これにより、非水性リチウム空気電池セルの容量および再充電能力を改善する。
【0024】
<アノード>
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、負極(以下、「アノード」とも称される)は、少なくともアノード活物質(以下、「負極活物質」とも称される)を備える。アノード活物質として、リチウム電池のための一般的なアノード活物質を使用でき、アノード活物質は特に限定されない。一般的に、アノード活物質は、リチウムイオン(Li+)を貯蔵/放出できる。
【0025】
充電可能なリチウム空気電池のための具体的なアノード活物質は、たとえば、リチウム金属、リチウム保護されたアノード、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-スズ合金、リチウム-鉛合金、およびリチウム-ケイ素合金などのリチウム合金、リチウム-酸化チタンなどの金属酸化物、リチウム-コバルト窒化物、リチウム-鉄窒化物、およびリチウムマンガン窒化物などの金属窒化物である。これらの中で、リチウム金属が好ましい。
【0026】
「リチウム保護されたアノード」について、本明細書中においては、たとえば、US8,652,692中に記載される「リチウム保護された電極」(Lithium Protected Electrode;LPE)に言及される(但し、これに限定されない)。通常、Li金属は、固体電解質(たとえば式LiM2(PO4)3のLiSiCON(lithium superionic conductor;リチウム超イオン伝導体))によって覆われている。LiSiCONとLi金属との間には、通常、中間層(たとえば、Cu3N/Li3Nからなる)がある。LPEシステムにおいては、Li金属がLiSiCON材料の一方の側に直接結合できる、または、代替的には、Liイオン伝導性を確実にするために、Li塩電解質を含有する少量の溶媒をLiSiCON材料とLi金属との間に添加してもよい。このような材料は、たとえばUS7,282,295およびUS7,491,458中に記載されている。また、LiSiCON材料は、Nature Materials, 10, 682-686 (2011)中にも記載されている。
【0027】
箔または金属の形態での金属または合金などをアノード活物質として使用する場合には、これをアノード自体として使用できる。
【0028】
アノードは、少なくともアノード活物質を含有する必要があるが、必要に応じて、アノード活物質を固定するためのバインダを含有できる。バインダの種類および使用量は、以下に記載される空気カソードの場合と同じである。
【0029】
アノード集電体をアノードに接続してもよく、これはアノードから電流を集める。アノード集電体のための材料およびその形状は、特に限定されない。アノード集電体のための材料の例は、ステンレス鋼、銅、およびニッケルを含む。アノード集電体の形態の例は、箔形態、プレート形態、およびメッシュ(グリッド)形態を含む。
【0030】
<カソード>
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、正極(以下、「カソード」とも称される)は、少なくともカソード活物質(以下、「正極活物質」とも称される)を備える。
【0031】
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、正極は、正極活物質として酸素を使用する。正極活物質としての役割を果たす酸素は、空気中または酸素ガス中に含有され得る。
【0032】
<触媒>
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、正極中に存在する触媒は、固体p型電気活性有機触媒リチウム塩である。
【0033】
好ましい一実施形態において、固体p型電気活性有機触媒リチウム塩は以下の一般構造(1)を有する。
【0034】
式中、
Arは、ベンゼン、ナフタレン、ペリレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、トリフェニレン、ピレン、ペンタセン、ベンゾ[a]ピレン、コラヌレン、ベンゾ[ghi]ペリレン、コロネン、オバレン、ベンゾ[c]フルオリン、ピリジン、キノロン、イソキノリン、ピラジン、キノキサリン、アクリジン、ピリミジン、キナゾリン、ピリダジン、シンノリン、フタラジン、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジンからなる群より選択される芳香環またはヘテロ芳香環であり、
R1~R4は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC1~C19のアルキル基であり、好ましくはRはHまたはC1~C6のアルキル基であり、R1~R4基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換され、
R5およびR6は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC1~C19のアルキル基であり、好ましくはRはHまたはC1~C6のアルキル基であり、R5およびR6基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換され、
YおよびY’は、カルボキシレート基、チオカルボキシレート基、スルホネート基、チオスルホネート基、ホスホネート基、チオホスホネート基、スルフェート基、アミデート基からなる群よりそれぞれ独立して選択されるアニオン性基である。
【0035】
本発明の意味において、以下の用語は以下のことを意味する。
・アルキル:飽和型、直鎖状、または分枝状の、C1~C20、好ましくはC1~C12、より好ましくはC1~C6、さらにより好ましくはC1~C4の炭化水素に基づく脂肪族基。「分枝状」という用語は、メチルまたはエチルなどの少なくとも1つの低級アルキル基が直鎖アルキル鎖上にあることを意味する。アルキル基としては、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、およびn-ペンチルを挙げることができる。
【0036】
・アリール:少なくとも1つの芳香環に由来する任意の官能基または置換基;芳香環は、非局在化しているπ系を備える任意の平面的な単環式または多環式の基に対応し、環の各原子はp軌道を備え、p軌道同士は互いに重なり合っている;このようなアリール基の中で、フェニル基、ビフェニル基、ナフタレン基、およびアントラセン基を挙げることができる。本発明に係るアリール基は、好ましくは、4~20個の炭素原子、さらに好ましくは4~12個の炭素原子、さらにより好ましくは5~6個の炭素原子を備える。
【0037】
・アルケニル:直鎖状または分枝状の、C1~C20、好ましくはC1~C12、より好ましくはC1~C6、さらにより好ましくはC1~C4の不飽和炭化水素に基づく脂肪族基であって、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含有する。「分枝状」という用語は、メチルまたはエチルなどの少なくとも1つの低級アルキル基が直鎖アルケニル鎖上にあることを意味する。
【0038】
・アルカリル:上記に定義されるようなアルキル基に由来する任意の基であって、水素原子が、上記に定義されるようなアリールで置き換えられているもの。アルカリルは、好ましくは、5~20個の炭素原子、より好ましくは5~12個の炭素原子を備える。
【0039】
・アルキルオキシ:飽和型、直鎖状、または分枝状の、C1~C20、好ましくはC1~C12、より好ましくはC1~C6、さらにより好ましくはC1~C4の炭化水素に基づく脂肪族基であって、酸素原子を含有する。アルキル基としては、たとえば、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、iso-プロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、およびイソブチルオキシ基を挙げることができる。
【0040】
・アリールオキシ:酸素原子に結合した任意のアリール基であって、好ましくは4~20個の炭素原子、より好ましくは4~12個の炭素原子を備える。アリールオキシ基としては、たとえばフェノキシ基を挙げることができる。
【0041】
・アミノ-アルキル:飽和型、直鎖状、または分枝状の、C1~C20、好ましくはC1~C12、より好ましくはC1~C6、さらにより好ましくはC1~C4の炭化水素に基づく脂肪族基であって、アミノ基、好ましくは第1級アミノ基-NH2を有する。
【0042】
・アミノ-アリール:アミノ基、好ましくは第1級アミノ基-NH2に結合した任意のアリール基であって、好ましくは4~20個の炭素原子、より好ましくは4~12個の炭素原子を備える。
【0043】
・チオ-アルキル:飽和型、直鎖状、または分枝状の、C1~C20、好ましくはC1~C12、より好ましくはC1~C6、さらにより好ましくはC1~C4の炭化水素に基づく脂肪族基であって、チオール基-SHを有する。
【0044】
・チオ-アリール:チオール基-SHに結合した任意のアリール基であって、好ましくは4~20個の炭素原子、より好ましくは4~12個の炭素原子を備える。
【0045】
・アルキルホスホネート:ホスホン酸基-P(=O)(OR’)2に結合した任意のアルキル基であって、式中、R’は、飽和型、直鎖状、または分枝状の、C1~C20、好ましくはC1~C12、より好ましくはC1~C6、さらにより好ましくはC1~C4の炭化水素に基づく脂肪族基である。
【0046】
・アリールホスホネート:ホスホネート基-P(=O)(OR’)2に結合した任意のアリール基であって、式中、R’は、飽和型、直鎖状、または分枝状の、C1~C20、好ましくはC1~C12、より好ましくはC1~C6、さらにより好ましくはC1~C4の炭化水素に基づく脂肪族基である。
【0047】
・シクロジエニル:少なくとも2つの炭素-炭素二重結合を含有し、好ましくは5~20個の炭素原子、より好ましくは5~12個の炭素原子を備える、任意の不飽和環式基。
【0048】
アニオン性基YおよびY’の存在は、非プロトン性極性溶媒中における固体p型電気活性有機触媒リチウム塩の溶解度の低下を生じさせる。
【0049】
一般構造(1)中において、芳香環またはヘテロ芳香環Arは、好ましくはベンゼンまたはナフタレンである。
【0050】
一般構造(1)中において、R1~R4は、好ましくは、それぞれ独立して、水素(H)およびアリール基からなる群より選択され、後者は4~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換される。R1~R4は、さらにより好ましくは、それぞれ独立して、Hおよびフェニル(-C6H5)から選択される。
【0051】
一般構造(1)中において、R5およびR6は、好ましくは、H、-CH3、または-C2H5であり、より好ましくはHである。
【0052】
一般構造(1)中において、YおよびY’は、好ましくは、カルボキシレート基である。
【0053】
より好ましい一実施形態において、固体p型電気活性有機触媒リチウム塩は、以下の一般構造(2)を示す:
【0054】
式中、
R1およびR3は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC1~C19のアルキル基であり、好ましくはRはHまたはC1~C6のアルキル基であり、R1およびR3基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換され、
R5およびR6は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC1~C19のアルキル基であり、好ましくはRはHまたはC1~C6のアルキル基であり、R5およびR6基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換される。
【0055】
一般構造(2)中において、R1およびR3は、好ましくは、それぞれ独立して、Hおよびアリール基からなる群より選択され、後者は4~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換される。R1およびR3は、さらにより好ましくは、フェニル(-C6H5)である。
【0056】
一般構造(2)中において、R5およびR6は、好ましくは、H、-CH3、または-C2H5であり、より好ましくはHである。
【0057】
本発明に係る固体p型電気活性有機触媒リチウム塩におけるカルボキシレートの存在は、典型的には非水性リチウム空気電池の電解質中で使用される非プロトン性極性溶媒中におけるSOCの溶解度をさらに低下させる。
【0058】
特に好ましい一実施形態において、本発明に係る固体p型電気活性有機触媒リチウム塩は、二リチウム2,5-(ジアニリノ)テレフタレート(Dilithium 2,5-(DiAnilino)Terephthalate;Li2DAnT)である。
【0059】
Li2DAnTは、有機Liイオン電池材料としてのその使用が既に周知されているが、リチウム空気電池材料としては知られていない(Deunf et al., Journal of Materials Chemistry A, 2016, 4, 6131-6139)。この有機リチウムイオン電池材料中において、電解質はカーボネートに基づくものであり、これは、分解する限りにおいて、リチウム空気電池にとっては推奨されない。
【0060】
本発明に係る固体p型電気活性有機触媒リチウム塩は、有利には、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)中のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)1M中において0.148g.L-1未満の溶解度を示す。
【0061】
本発明に係るリチウム空気電池セルの正極は、さらに、固体n型電気活性有機触媒リチウム塩を備えてもよい。
【0062】
好ましい一実施形態において、固体n型電気活性有機触媒リチウム塩は、以下の一般構造(3)を示す:
【0063】
式中、R7およびR8は、それぞれ独立して、H、アリール、アルキル、アルケニル、アルカリル、アルキルオキシ、アリールオキシ、アミノ-アルキル、アミノ-アリール、チオ-アルキル、チオ-アリール、アルキルホスホネート、アリールホスホネート、シクロジエニル、-OCR、-(O=)CHNR、-HN(O=)CR、-(O=)COR、-HN(O=)CHNR、-HN(O=)COR、-(HN=)CHNR、-HN(HN=)CHNR、-(S=)CHNR、-HN(S=)CHNRからなる群より選択され、RはHまたはC1~C19のアルキル基であり、好ましくはRはHまたはC1~C6のアルキル基であり、R7およびR8基は1~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換される。
【0064】
R7およびR8は、好ましくは、それぞれ独立して、Hおよびアリール基からなる群より選択され、後者は4~20個の炭素原子を備えかつ少なくとも1つのハロゲン原子、酸素原子、または硫黄原子で任意に置換される。R7およびR8は、より好ましくは、H、-CH3、または-C2H5であり、より好ましくはHである。
【0065】
特に好ましい一実施形態において、本発明に係る固体n型電気活性有機触媒リチウム塩は、二リチウム(2,5-二リチウム-オキシ)-パラ-テレフタレート(Li4-p-DHT)である。
【0066】
Li4-p-DHTは、Liイオン電池システム中における正極活物質として既に周知されている(Renault et al., Energy & Environmental Science, 2013, 6, 2124-2133)。こうしたシステムにおいて使用される電解質は、EC:DMC(1:1)中の1M LiPF6であり、よって、当該セルは、EC:DMCが酸素の存在下で分解する限りにおいて、酸素を含有しない不活性雰囲気下において働く。
【0067】
固体p型電気活性有機触媒リチウム塩と固体n型電気活性有機触媒リチウム塩との重量比は、0.1/99.9~100/0、好ましくは60/40~40/60の範囲であってよく、より好ましくは50/50である。
【0068】
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、正極は、レドックス触媒が担体上に担持されている要素であってよい。担体の例は炭素である。したがって、本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、正極は、有利には、さらに炭素を備える。炭素の例は、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、およびサーマルブラックなどのカーボンブラック;たとえば鱗状黒鉛のような天然黒鉛、人工黒鉛、および膨張黒鉛などの黒鉛;木炭および石炭に由来する活性炭;カーボンフォーム;合成繊維および石油ピッチに基づく材料を炭化することによって得られるカーボンファイバー;カーボンナノファイバー;フラーレンなどの分子状炭素;ならびにカーボンナノチューブなどのチューブ状炭素を含む。また、Nドープ炭素などの改変炭素も使用してよい。
【0069】
また、本発明に係るリチウム空気電池セルにおいては、炭素以外の材料に基づく正極材料も使用してよい。たとえば、金属フォーム、安定で導電性のある金属酸化物、またはスチールに基づく正極材料を使用できる。
【0070】
本発明において、炭素が使用される場合、これは、好ましくは粉末形態の多孔質材料であり、好ましくは20~2000m2.g-1、より好ましくは60~2000m2.g-1、さらにより好ましくは60~1500m2.g-1という高い比表面積を有する。たとえば、炭素は、多孔度または表面積を増大させるための一般的な方法によって処理を行ない、続いて濡れ性を増大させるための別の処理を行なったものを使用できる。本発明において、粒子径が40nm、比表面積(ブルナウアー-エメット-テラーの方法によって求める)が62m2.g-1であるSUPER P(登録商標)Li(TIMCALより)、粒子径が12nm、比表面積(ブルナウアー-エメット-テラーの方法によって求める)が1487m2.g-1であるBLACK PEARLS(登録商標)2000(Cabot社より)、比表面積(ブルナウアー-エメット-テラーの方法によって求める)が1400m2.g-1であるケッチェンブラック(登録商標)EC-600JD粉末(AzkoNobelより)を含む、異なる形態の炭素を使用できる。本発明において使用できる市販の炭素製品の例は、Carbon Super C65(Imerysより)、KSシリーズ、SFGシリーズ、およびSuper Sシリーズ(TIMCALより)、Noritより入手可能な活性炭製品、およびAB-Vulcan72(Cabotより)を含む。市販される炭素のその他の例は、WAC粉末シリーズ(Xiamen All Carbon社より)、PW15タイプ、Jタイプ、およびSタイプの活性炭(クレハより)、およびMaxsorb MSP-15(関西熱化学より)を含む。
【0071】
炭素の多孔度、表面積、および濡れ性を増大させるための方法の例は、物理的活性化または化学的活性化を含む。化学的活性化方法は、たとえば、強アルカリ性水溶液(たとえば、水酸化カリウム溶液)中に、酸性溶液(たとえば、硝酸またはリン酸)中に、または塩(たとえば、塩化亜鉛)中に炭素材料を浸漬することを含む。この処理に続いて、比較的低温(たとえば、450~900℃)においてか焼工程を行なうことができる(しかし、必ずしも必要というわけではない)。
【0072】
また、炭素は、好ましくは、孔直径が5nm以上、好ましくは20nm以上の孔を有する。炭素の比表面積および孔のサイズは、たとえばBET法またはBJH法によって測定できる。さらに、一般的に、炭素は、好ましくは、平均粒子直径(一次粒子直径)が8~350nm、より好ましくは30~50nmである。炭素の平均一次粒子直径は、TEMによって測定できる。
【0073】
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、炭素と(固体p型電気活性有機触媒リチウム塩+固体n型電気活性有機触媒リチウム塩+炭素)との重量比は、有利には、77%以上である。
【0074】
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、正極は、上述される炭素材料および非炭素材料に加えて、導電性材料を含有してよい。このようなさらなる導電性材料の例は、金属繊維などの導電性繊維、銀粉末、ニッケル粉末、アルミニウム粉末などの金属粉末、ならびにポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料を含む。これらは、別々に、または組み合わせて混合物として、使用してよい。
【0075】
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、正極は、ポリマーバインダを含有してよい。ポリマーバインダは特に限定されない。ポリマーバインダは、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から構成されてよい。これらの例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体を含む。また、一般的にNafion(登録商標)と称されるものなどの、末端スルホネート基を有するパーフルオロビニルエーテル基がポリ(テトラフルオロエチレン)骨格に結合した共重合体も、本発明におけるポリマーバインダとして想定されてよい。こうしたポリマーバインダは、別々に、または組み合わせて混合物として、使用してよい。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、特に好ましいポリマーバインダである。
【0076】
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、ポリマーバインダと(固体p型電気活性有機触媒リチウム塩+固体n型電気活性有機触媒リチウム塩+炭素+ポリマーバインダ)との重量比は、20%以下である。
【0077】
一般的に、本発明の有利な実施形態において、空気カソード集電体を空気カソードに接続し、これは空気カソードから電流を集める。空気カソード集電体の材料およびその形状は、特に限定されない。空気カソード集電体のための材料の例は、ステンレス鋼、アルミニウム、鉄、ニッケル、チタン、および炭素を含む。空気カソード集電体の形態の例は、箔形態、プレート形態、メッシュ(グリッド)形態、および繊維形態を含む。好ましくは、空気カソード集電体は、メッシュ形態などの多孔質構造を有する、というのは、多孔質構造を有する集電体は、空気カソードへの酸素供給効率が優れているためである。
【0078】
いくつかの実施形態において、空気極(空気カソード)は、さらに、疎水性中空繊維を備える。疎水性繊維は、それ自体と電解質との間に空間を生じる傾向がある。こうした空間は、空気極中における酸素の拡散を促進し、比較的厚い電極の使用を可能とする。典型的には、炭素に基づく空気極は、厚さが0.5~0.7mmである。疎水性繊維の添加によって、厚さが少なくとも1mmの電極の使用が可能となる。好適な繊維は、とりわけ、DuPont HOLLOFIL(登録商標)(100%ポリエステル繊維で、芯の中に1つ以上の孔を有する)、グースダウン(ガチョウの皮膚から非常に近いところに見つけられる、非常に小さく極めて軽いダウン)、PTFE繊維、および中空繊維織布を含む。また、こうした繊維にケッチェンブラック(登録商標)炭素を被覆することもできる。
【0079】
<電解質>
本発明に係るリチウム空気電池セルにおいて、負極と正極との間に配置されている非水性イオン伝導性(電解質)媒体は、1種以上の有機溶媒を含有し、典型的には塩を含有する、非水性電解溶液である。使用できる塩の例は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、Li(CF3SO2)2N(LiTFSI)、LiFSI、Li(CF3SO3)(Liトリフラート)、LiN(C2F5SO2)2、LiBOB、LiFAP、LiDMSI、LiHPSI、LiBETI、LiDFOB、LiBFMB、LiBison、LiDCTA、LiTDI、LiPDIなど(但し、これらに限定されない)の周知の支持電解質を含む。こうした塩は、別々に、または組み合わせて使用してよい。塩の濃度は、好ましくは0.1~2.0M、より好ましくは0.8~1.2Mの範囲である。
【0080】
リチウム塩は、適切には、電解質媒体中で、リチウム空気電池における使用が知られている非プロトン性有機溶媒と組み合わせて使用する。このような非プロトン性有機溶媒の例は、鎖状カーボネート、環状エステルカーボネート、鎖状エーテル、環状エーテル、グリコールエーテル、およびニトリル溶媒を含む。鎖状カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、およびメチルエチルカーボネートを含む。環状エステルカーボネートの例は、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンを含む。鎖状エーテルの例は、ジメトキシエタンおよびエチレングリコールジメチルエーテルを含む。環状エーテルの例は、テトラヒドロフランおよび2-メチルテトラヒドロフランを含む。グリコールエーテルの例は、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム)、重量平均分子量Mwが90~225g.mol-1であるポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテルを含む。また、アセトニトリル、プロピオニトリル、および3-メトキシプロピオニトリルなどのニトリル溶媒も使用できる。こうした非プロトン性有機溶媒は、別々に、または組み合わせて混合物として、使用してよい。グリコールエーテル、特にテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)が、好ましい非プロトン性有機溶媒である。
【0081】
本発明の枠組みの範囲内においては、ゲル状ポリマー電解質も使用できる。リチウムイオン伝導性を有するゲル化した電解質は、たとえば、ポリマーを非水性電解溶液に添加してゲル化させることによって得ることができる。特に、ゲル化は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(たとえば、Kynarとして市販されるPVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、およびポリ塩化ビニル(PVC)などのポリマーを添加することによって生じさせることができる。リチウムイオン電池のためのゲル型ポリマー電解質の使用についての検討が、Songら(Journal of Power Sources, 77(1999), 183-197)によって提供されている。
【0082】
また、ゲル電解質調製物に対して、その力学的特性を改善するために、架橋および/または熱硬化可能な成分を添加してよい。
【0083】
さらに、ポリマー電解質のイオン伝導性を改善するために、相当な量の可塑剤(PEG、クラウンエーテルなど)を配合してもよい。
【0084】
これに加えて、このようなゲル状ポリマー電解質に対して、その伝導性を高めるために、ナノ粒子/セラミックス(Al2O3、SiO2、ZrO2、MgO、CeO2など)を添加してもよい。これに関連しては、EP1096591A1またはCroceら(Electrochimica Acta 46 (2001), 2457-2461)を参照することができる。
【0085】
ナノ粒子/セラミックス増量剤の含有量は、通常、膜の10重量%未満である。たとえば、Al2O3ナノ粒子を、Aldrich Research Gradeから入手でき、粒子径は5.8nmであり得る(Swierczynski et al., Chem. Mater., 2001, 13, 1560-1564)。粒子径7nmのSiO2ヒュームドシリカを、Aldrich Reagents Gradeから入手できる。一般的に、ナノ粒子のサイズは、優先的には、約15nmまたはそれ未満である。
【0086】
さらに、本発明の枠組みの範囲内において、電解質媒体に酸素溶解促進剤を添加することが企図されてもよい。この酸素溶解促進剤は、フッ素化ポリマー、フッ素化エーテル、フッ素化エステル、フッ素化カーボネート、フッ素化炭素材料、フッ素化代用血液、または実のところ金属タンパク質であってよい。このような酸素溶解促進剤は、US2010/0266907中に記載される。
【0087】
<セパレータ>
本発明に係る充電可能なリチウム空気電池セルにおいては、空気カソードとアノードとの間に、当該電極間を完全に電気絶縁するために、有利にはセパレータが提供され得る。セパレータは、空気カソードとアノードとを互いから電気的に絶縁でき、空気カソードとアノードとの間に電解質が存在できる構造を有するものであれば、特に限定されない。
【0088】
セパレータの例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ガラスセラミックスなどを備える多孔質フィルムおよび不織布を含む。これらの中で、ガラスセラミックスのセパレータが好ましい。
【0089】
<電池セルケース>
充電可能なリチウム空気電池セルを収納するための電池セルケースは、充電可能なリチウム電池セルのための一般的な電池ケースを使用できる。上述される空気カソード、アノード、および電解質を収容できる限りにおいて、電池セルケースの形状は特に限定されない。電池セルケースの形状の具体例は、コイン形、平板形、円筒形、およびラミネート形を含む。本発明に係る電池は、酸素透過膜、有利には水拡散よりも酸素拡散に対する選択性の方が高いもので、完全に封入することができる。
【0090】
<本発明に係る電池セルの使用>
本発明に係る充電可能なリチウム空気電池セルは、活物質(これは酸素である)が空気カソードに供給された際に、放電できる。酸素供給源の例は、空気および酸素ガスを含み、好ましくは酸素ガスである。供給される空気または酸素ガスの圧力は特に限定されず、適切なように決定できる。
【0091】
本発明に係るリチウム空気電池セルは、一次電池セルまたは充電可能な二次電池セルとして使用できる。
【0092】
本発明に係るリチウム空気電池セルは、たとえば、初期電圧および最終電圧または初期容量および最終容量または比容量によって定められる特定の範囲内で電池をサイクルさせるようなプロセスにおいて実用化できる。たとえば、本発明に係るリチウム空気電池セルを使用するための1つのプロセスは、
(a)リチウム空気電池セルを満充電状態で提供し、
(b)リチウム空気電池セルを、比容量が値Xに達するまで放電し、
(c)リチウム空気電池セルを再充電し、
(d)工程(b)および工程(c)を繰り返す、というプロセスからなっていてよい。
【0093】
選択される比容量の値Xは広範囲で変動してよく、たとえば、200~10000mAh.g-1の範囲であってよい。リチウム空気電池セルの比容量は、2Vを上限として放電することによって求め得る。適切には、電池セルの動作中に、満放電または満充電にならない限度値内で電池セルをサイクルさせることができる。有利には、電池セルを、その比容量(工程(b)において求められる)の10~90%、好ましくは20~80%、より好ましくは20~70%でサイクルさせることができる。また、サイクルは、初期放電容量または最大理論放電容量の特定の限度値の間で行なってもよい。容量を限定してサイクルを実施することによってセルを長持ちさせることができるため、サイクル容量を完全放電容量の約30%に限定することが適切であり得る。
【0094】
空気カソードにLi2O2が添加された電池セルを、製品として提供することができる。このような電池セルは、典型的には、使用前に充電することが考えられる。
【0095】
本発明に係るリチウム空気電池セルは、電気自動車およびハイブリッド車、電子デバイス(コンピュータおよび電話など)、および定置発電デバイスのための充電可能なリチウム電池として使用でき、組電池中に組み入れることができる。電池セルの数はリチウム空気電池の最終用途に依存して変動し得て、好ましくは、電池セル2~250個の間で変動し得る。電池セルを組み立てる方法は、最終目的に依存して、並列または直列の2通りが考えられる。並列の場合には、各セルの容量が加算され、電圧は同じのままである。直列の場合には、各セルの電圧が加算され、容量は最も小さいセルの容量である。
【0096】
そうでないことが本明細書中に記載されていたり文脈上明らかに矛盾していたりしない限りは、上述される要素について考え得るすべての変形体を任意に組み合わせたものが本発明に包含される。よって、本明細書中に(特に、本発明の文脈において適用可能、有利、または好適であるとして)記載されるすべての特徴および実施形態は、本発明の好ましい実施形態において、相互に組み合わせて適用可能であると解釈されるべきである。
【0097】
実施例
本発明に係るSOCの準備:Li2DAnT
2,5-ビス(フェニルアミノ)テレフタル酸とも称される2,5-(ジアニリノ)テレフタル酸(H2DAnT)(1.0g、2.9mmol)のリチオ化を、無水テトラヒドロフラン(30mL)中において、化学量論量の水素化リチウム(45.6mg、5.8mmol)を用いて行なった。この溶液を、室温で、不活性雰囲気において、20時間撹拌した。沈殿をろ過した後、ジエチルエーテルで念入りに洗浄し、60℃で真空下において一晩乾燥させて、最終的にLi2DAnT1.95THF化合物を得た(1.2g、86%)。Li2DAnT1.95THF:淡黄色粉末;IR:νmax(KBr)/cm-1 3360,2980-2880(THF),1600,1570,1530,1500,1440,1420,1370,1285,1050(THF)cm-1;1H NMR:δH(400MHz,(CD3)2SO) 11.22(2H,s,H labile),7.92(2H,s),7.20-7.16(4H,t,J=6.8Hz,H-meta),7.06-7.03(4H,d,J=8.0Hz,H-ortho),6.74-6.70(2H,t,J=6.8Hz,H-para),3.62-3.59(t,H-THF),1.78-1.75(t,H-THF);13C NMR:δC:(400MHz,(CD3)2SO) 170.4(C,C=O),144.7(C,C-NH),135.4(C,C-NHPh),128.9(CH,C-meta),127.0(C,C-COOLi),118.8(CH),118.1(CH,C-para),116.1(CH,C-ortho),67.0(CH2,THF),25.1(CH2,THF);ESI-HRMS m/z 353.1104[M-Li]-(calc.for C20H14LiN2O4,353.1114);元素分析;found:C,64.86%;H,5.83%;N,5.18%(calc.for C20H14Li2N2O4
・1.95THF・0.75H2O:C,64.92%;H,6.09%;N,5.45%)、当該化合物の吸湿性が高いために極微量の水は避けられなかったためである;Li定量のためのICP-OES;found:Li,2.73%(calc.for C20H14Li・N2O4
・1.95THF:Li,2.77%)。Li2DAnT1.95THFを脱溶媒和するために、あらかじめ粉砕しておいた粉末を少量(100mgスケール)、実際の内部温度が250℃であるビュッヒガラスオーブン(B-585 Kugelrohr)中で、18時間加熱した。最終的に、Li2DAnT化合物を得た(100mgスケール、計量可能な収量)。脱溶媒和プロセスの効力を熱分析によって調べ、NMRスペクトルおよびIRスペクトルによって、THFが極微量でさえ存在しないことを確認した。
【0098】
Li2DAnT:明黄色粉末;IR:νmax(KBr)/cm-1 3370,1600,1570,1530,1500,1440,1420,1280cm-1;1H NMR:δH(400MHz,(CD3)2SO) 11.26(2H,s),7.98(2H,s),7.25-7.22(4H,t,J=8.0Hz,H-meta),7.12-7.10(4H,d,J=8.0Hz,H-ortho),6.79-6.76(2H,t,J=7.2Hz,H-para);13C NMR:δC:(100MHz,(CD3)2SO) 170.4(C,C=O),144.7(C,C-NH),135.5(C,C-NHPh),128.9(CH,C-meta),127.0(C,C-COOLi),118.8(CH),118.1(CH,C-para)116.1(CH,C-ortho);ESI-HRMS m/z 353.1104[M-Li]+(calc.for C20H14LiN2O4,353.1114);Li定量のためのICP-OES;found:Li,4.02%(calc.for C20H14LiN2O4:Li,3.85%)。
【0099】
得られたLi2DAnTの特徴は以下の通りであった。
・比表面積:316m2.g-1、
・密度:1.375g.cm-3、および
・形態:小板状(platelets)。
【0100】
本発明に係るSOCの準備:Li4-p-DHT
市販の2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(H4-p-DHT)(Aldrich、198.1mg、1mmol)のリチオ化を、無水メタノール(15mL Aldrich)中、化学量論量のリチウムメトキシド(MeOLi)(Aldrich、メタノール中の2.2M溶液、1.82mL、4mmol)を用いて行なった。黄色沈殿が急速に形成された。14時間の反応後、メタノールを除去し(沈殿のろ過、またはビュッヒガラスオーブンB-585 Kugelrohr中での真空下かつ室温における蒸発により)、黄色固体を、ビュッヒガラスオーブンB-585 Kugelrohr中で真空下かつ100℃において一晩、次いで200℃において12時間かけて乾燥させた。
【0101】
収量=98%。IR:νmax(KBr)/cm-1 1582(C=O),1472-1432(C=C),1372(OC-O),1237(C-O),1115,887,823cm-1;1H NMR:δH(300MHz,(CD3)2SO)+H2SO4 11.20(s,H acid),7.21ppm(s,2H,H arom.);13C NMR:δC:(75MHz,(CD3)2SO) 170.74(COOH),152.42(C-OH),119.88(C-COOH),117.87ppm(CH)。
【0102】
得られたLi4-p-DHTの比表面積は35m2.g-1であった。
電解質の準備:
以下の通りに溶解させることによって、3通りの電解質溶液を調製した。
【0103】
a)TEGDME(Sigma Aldrich、moisture controlled grade)中にビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドリチウム塩(LiTFSI、BASF)を1.0M、
b)TEGDME中にLiTFSIを1.0MおよびDBBQ(Sigma Aldrich)を10-2M(10mM)、
c)TEGDME中にLiTFSIを1.0MおよびTTF(Sigma Aldrich)を10-2M(10mM)。
【0104】
LiTFSI、DBBQ、およびTTFは100℃かつ真空下において一晩乾燥させ、TEGDME溶媒は、グローブボックス中において再生3Åモレキュラーシーブ(Sigma Aldrich)上で少なくとも15日間にわたって乾燥/保存した後で使用した。溶媒中および電解質中の水含有量を、831KFカールフィッシャークーロメーター(Metrohm)技術を用いて求め、4ppm未満と測定された。
【0105】
LiFePO4(LFP)アノードの準備:
組成(重量%):LFP/カーボンブラック/バインダ(PVdF):88/4.5/7.5
予期されたローディング:1.3mAh.cm-2
予期されたローディング:9.89mgtot.cm-2
コーティングの厚さ(アルミホイルなし):47μm
アルミホイルの厚さ:15μm(ρAl=2.7g.cm-3)
コーティングの多孔度:35%
予期された特徴:Qreversible(@C/5、電位窓:2.1~4.3V)~152mAh.gLFP
-1
以下の試験のために使用したLFP電極は、直径11mmのディスク状に打ち抜いたものである(面積:0.9503cm2)。
【0106】
すべての試験のために、標準化する目的で、部分的に酸化させたLFP電極を対極として使用した。
【0107】
同じく標準化する目的で、すべてのデータを、ボルトで表される電圧vsLi+/Liでプロットした(3.4ボルトの補正を適用)。
【0108】
電池の組み立て:
本発明に係るSOCと可溶性触媒(DBBQおよびTTF)とを同じ実験条件下において比較するために、部分酸化LFP/電解質/O2電極とLFPアノードという構成で試験を行なった。
【0109】
雰囲気に対して開口している改変スウェージロック(Swagelok)セルを、アノードとして純粋リチウム金属のディスク(直径=11mm、厚さ=0.7mm)またはLFPのディスク(IMNにより提供)(直径=11mm、厚さ=0.045mm、活物質重量9.4mg)を使用して、組み立てた。2つのガラス繊維セパレータ(Whatman、直径=13mm)を210μLの電解質に含浸させたものを、セパレータとして使用した。上述されるように準備した炭素に基づく電極を、作用極として使用した。組み立てたスウェージロックセルをグローブボックスから出す前に、これらを、入口バルブおよび出口バルブを有する特殊設計された気密容器の中に置いた。容器の中のいくつかのスウェージロックセルはアルゴン下で維持し、それ以外の容器には、連続的かつ比較的高流量の乾燥酸素(純度5.0、高圧シリンダからステンレス鋼ガスラインを通って溢れたもの)を30分間かけて充填した。カソードと同様に、LFPおよびセパレータを、120℃で真空下において一晩乾燥させ、すべてのセル構成要素(改変スウェージロックおよび設計された気密容器)を、使用前に、オーブン中で70℃において12時間乾燥させた。
【0110】
比較例1:炭素のみを含有する空気極(参照)
Carbon Super C65(Imerys)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE、H2O中に60重量%で分散させたもの、Sigma Aldrich)を、重量比4:1w/w(炭素:PTFE)にて、メノウ乳鉢中において20分間混合した。得られた黒色のペーストを、混合性および展性を改善するために、2-プロパノール(VWR International、1.4mL2-プロパノール/gペースト)で濡らした。ゴム状の複合体が得られたら、約160mgを、面積4×4cm2のステンレス鋼メッシュ上に置いた。次いで、メッシュが黒色ペーストで均一に覆われるまで、ゴム状複合体を、テフロン(登録商標)シリンダを使用して押し付けた。次いで、メッシュを2枚のアルミホイルの間に置き、液圧プレスによって35MPaの圧力を30秒間にわたって3回かけた。その後、通気オーブン中で100℃において1時間乾燥させ、次いでカットして、直径4mmのディスクとした。こうして準備した電極を、使用する前に、150℃で真空下において一晩乾燥させた。メッシュ重量を差し引いた後の電極の最終重量は0.8±0.1mgであり、厚さは0.32±0.04mmであった。
【0111】
炭素およびPTFEのみを含有するこの空気極を、可溶性触媒を全く含まない電解質(電解質a))と共に、電池として組み立てた。
【0112】
比較例2:炭素を含有する空気極+電解質中に10mM DBBQを添加
炭素およびPTFEを含有する空気極を比較例1と同じプロトコールに従って準備して、10mM DBBQを含有する電解質(電解質b))と共に、電池として組み立てた。
【0113】
比較例3:炭素を含有する空気極+電解質中に10mM TTFを添加
炭素およびPTFEを含有する空気極を比較例1と同じプロトコールに従って準備して、10mM TTFを含有する電解質(電解質c))と共に、電池として組み立てた。
【0114】
実施例1:炭素を含有する空気極+電解質a)中にLi2DAnT(重量比7:2)
まず、Carbon Super C65およびPTFE(乾燥粉末、オックスフォード大学)を120℃で真空下において一晩乾燥させ、Li2DAnTは、ナント大学より入手したままの状態で、さらなる乾燥または精製はせずに使用した。
【0115】
Carbon Super C65およびLi2DAnTを、重量比7:2(炭素:Li2DAnT)にて、乳鉢中で20分間混合した。この後、PTFEをこのペーストと、(炭素+Li2DAnT):PTFEの重量比を4:1として混合し、約2mLの2-プロパノールを添加した。すべての成分をメノウ乳鉢中で、得られる2つのゴム状の複合体が均質に黒く見えるようになるまで、さらに20分間混合した(重量比は炭素:Li2DAnT=7:2)(総重量比はCarbon Super C65:Li2DAnT:PTFE=28:8:9)。次いで、得られた複合体を少量、あらかじめ打ち抜いたステンレス鋼メッシュのディスク(直径=4mm)上に広げた。次いで、ディスクを2枚のアルミホイルの間に置き、最後に、35MPaの圧力を30秒間にわたって3回かけた。こうして準備した電極を、再度、120℃で真空下において一晩乾燥させて、2-プロパノールの残渣を除去した。メッシュ重量を差し引いた後の最終重量は1.2±0.2mgであった。
【0116】
実施例2:炭素を含有する空気極+電解質a)中にLi2DAnT(重量比2:7)
炭素:Li2DAnTの重量比を2:7(総重量比はCarbon Super C65:Li2DAnT:PTFE=8:28:9)とした以外は、手順は実施例1と同じとした。
【0117】
実施例3:炭素を含有する空気極+電解質a)中にLi2DAnT+Li4-p-DHT(50:50)(炭素:(Li2DAnT+Li4-p-DHT)の重量比は7:2)
Carbon Super C65およびPTFE(乾燥粉末、オックスフォード大学)を120℃で真空下において一晩乾燥させ、Li2DAnTおよび黄色のLi4-p-DHTは、ナント大学より入手したままの状態で、さらなる乾燥または精製はせずに使用した。Li2DAnTおよびLi4-p-DHTを、重量比1:1にて、乳鉢中で20分間混合した。次いで、Carbon Super C65および混合物Li2DAnT/Li4-p-DHTを、重量比7:2(総重量比はCarbon Super C65:Li2DAnT:Li4-p-DHT=7:1:1)にて、乳鉢中で20分間混合した。次いで、PTFEをこのペーストと、(炭素+Li2DAnT+Li4-p-DHT):PTFEの重量比を4:1として混合し、約2mLの2-プロパノールを添加した。すべての成分をメノウ乳鉢中で、得られる2つのゴム状の複合体が均質に黒く見えるようになるまで、さらに20分間混合した。最終混合物の重量比(Carbon Super C65:Li2DAnT:Li4-p-DHT:PTFE)は28:4:4:9である。次いで、得られた複合体を少量、あらかじめ打ち抜いたステンレス鋼メッシュのディスク(直径=4mm)上に広げた。ディスクを2枚のアルミホイルの間に置き、最後に、35MPaの圧力を30秒間にわたって3回かけた。こうして準備した電極を、再度、120℃で真空下において一晩乾燥させて、2-プロパノールの残渣を除去した。メッシュ重量を差し引いた後の最終重量は1.2±0.2mgであった。
【0118】
図1は、SOCとしてLi
2DAnTのみまたはLi
2DAnTとLi
4-p-DHTとの組み合わせを含有する電極が、CE1、CE2、およびCE3の場合とは異なって、放電容量(mAh.cm
-2)を増大させ、リチウム空気を効率100%で再充電することを示す。
【0119】
図2は、実施例1のリチウム空気電池セルのサイクル実施(
図2a)、および当該リチウム空気電池セルのサイクル数に対する容量維持率(
図2b)を示す(Li
2DAnT:Carbon Super C65(2:7)、レート0.2mAh.cm
-2、電位窓2.2~4.6V 対 Li/Li
+、容量限度800mAh.g
-1
SOC(~2.15mAh.cm
-2))。容量限度を2.15mAh.cm
-2としたところ、実施例1のリチウム空気電池セルのサイクル性は、最初の20サイクルにおいて非常に高い。
【0120】
図3は、実施例1のリチウム空気電池セルのサイクル実施(
図3a)(Li
2DAnT:Carbon Super C65(2:7)、レート0.2mAh.cm
-2、電位窓2.2~4.6V 対 Li/Li
+、容量限度2000mAh.g
-1
SOC(~6mAh.cm
-2))と、比較例1のもの(
図3b)とを示す。容量限度を6mAh.cm
-2としたところ、実施例1のリチウム空気電池セルのサイクル性は、比較例1のリチウム空気電池セルと比較して、最初の5サイクルにおいて非常に高い。
【0121】
図4は、Carbon Super C65:Li
2DAnTを7:2の比率で含有する電極に関して、アルゴン(実線)中または酸素(点線)中において得られるSOCとしてLi
2DAnTを含有する作用極を使用する実施例1のリチウム空気電池セルの1回目のサイクルの比較を示す(0.5mAh.cm
-2で定電流放電を行なった)。
図4は、SOC単独では高い容量を有さず、酸素下において容量に対する効果が明らかに見られることを実証する。
【0122】
先行技術の触媒との比較:
下記表(表1)は、本発明中に記載されるリチウム空気電池セルにおいて使用したSOCの特性の概要を、上述される下記先行技術中に開示されるものと比較して示す。
【0123】
先行技術1:Renault et al., Energy & Environmental Science, 2013, 6, 2124-2133、
先行技術2:Gao et al., Nature Materials, 2016, 15, 882、
先行技術3:Chen et al., Nature Chemistry, 2013, 5, 489、
先行技術4:Gao et al., Nature Energy, Vol. 2, 17118 (2017)、
先行技術5:Hase et al., Chem. Commun. 2016, 52, 12151-12154、
先行技術6:Bergner et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 2015, 17, 31769-31779、および
先行技術7:Kundu et al., ACS Cent., Sci., 2015, 1, 510-515。