(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ターボチャージャのケーシングの製造方法
(51)【国際特許分類】
F02B 39/00 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
F02B39/00 C
F02B39/00 T
(21)【出願番号】P 2022551491
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020036024
(87)【国際公開番号】W WO2022064596
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-01-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今野 涼平
(72)【発明者】
【氏名】武田 和也
(72)【発明者】
【氏名】室野 亘
(72)【発明者】
【氏名】紺野 勇哉
【審査官】藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-001218(JP,A)
【文献】特開2013-230485(JP,A)
【文献】特開2010-038201(JP,A)
【文献】実開昭56-050736(JP,U)
【文献】実開昭60-023221(JP,U)
【文献】特開2009-228859(JP,A)
【文献】特開2020-128832(JP,A)
【文献】特開2015-063945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00 - 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャのケーシングの製造方法であって、
前記ケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータを収容するタービンハウジングと、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受を収容する軸受ハウジングと、前記ターボチャージャのコンプレッサインペラを収容するコンプレッサハウジングと、を備え、
前記タービンハウジングは、前記軸受ハウジングと嵌め合う第1嵌合面を含み、
前記軸受ハウジングは、前記タービンハウジングの前記第1嵌合面と嵌め合う第2嵌合面を含み、
前記ケーシングの製造方法は、
前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1嵌合面に削りしろを残した状態で前記タービンハウジングを成形するタービンハウジング成形ステップと、
前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2嵌合面に削りしろを残した状態で前記軸受ハウジングを成形する軸受ハウジング成形ステップと、
前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施して、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの前記少なくとも一方に酸化皮膜を形成する水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングの前記第1嵌合面の前記削りしろを機械加工により除去するタービンハウジング加工ステップと、
前記軸受ハウジングの前記第2嵌合面の前記削りしろを機械加工により除去する軸受ハウジング加工ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる組立ステップと、
を備え、
前記水蒸気処理ステップは、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記タービンハウジングに水蒸気処理を施して、前記タービンハウジングに酸化皮膜を形成するタービンハウジング水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記軸受ハウジングに水蒸気処理を施して、前記軸受ハウジングに酸化皮膜を形成する軸受ハウジング水蒸気処理ステップと、
を含み、
前記タービンハウジング加工ステップは、前記タービンハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記軸受ハウジング加工ステップは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記タービンハウジング加工ステップでは、前記タービンハウジング水蒸気処理ステップの後に、前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1嵌合面に形成された酸化皮膜を機械加工により除去し、
前記軸受ハウジング加工ステップでは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップの後に、前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2嵌合面に形成された酸化皮膜を機械加工により除去する、ターボチャージャのケーシングの製造方法。
【請求項2】
ターボチャージャのケーシングの製造方法であって、
前記ケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータを収容するタービンハウジングと、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受を収容する軸受ハウジングと、前記ターボチャージャのコンプレッサインペラを収容するコンプレッサハウジングと、を備え、
前記ケーシングの製造方法は、
前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施して、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの前記少なくとも一方に酸化皮膜を形成する水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる組立ステップと、
を備え、
前記水蒸気処理ステップでは、前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施し、
前記水蒸気処理ステップは、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記タービンハウジングに水蒸気処理を施して、前記タービンハウジングに酸化皮膜を形成するタービンハウジング水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記軸受ハウジングに水蒸気処理を施して、前記軸受ハウジングに酸化皮膜を形成する軸受ハウジング水蒸気処理ステップと、
を含み、
前記タービンハウジングを機械加工するタービンハウジング加工ステップと、
前記軸受ハウジングを機械加工する軸受ハウジング加工ステップと、
を更に備え、
前記タービンハウジング加工ステップは、前記タービンハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記軸受ハウジング加工ステップは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記タービンハウジングは、前記軸受ハウジングと嵌め合う第1部分を含み、
前記軸受ハウジングは、前記タービンハウジングの前記第1部分と嵌め合う第2部分を含み、
前記タービンハウジング加工ステップでは、前記タービンハウジング水蒸気処理ステップの後に、前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1部分に形成された酸化皮膜を機械加工により除去し、
前記軸受ハウジング加工ステップでは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップの後に、前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2部分に形成された酸化皮膜を機械加工により除去し、
前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1部分に削りしろを残した状態で前記タービンハウジングを成形するタービンハウジング成形ステップと、
前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2部分に削りしろを残した状態で前記軸受ハウジングを成形する軸受ハウジング成形ステップと、
を更に備える、ターボチャージャのケーシングの製造方法。
【請求項3】
前記タービンハウジング加工ステップでは、前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1部分に形成された酸化皮膜と、前記タービンハウジングの前記削りしろとを機械加工により除去し、
前記軸受ハウジング加工ステップでは、前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2部分に形成された酸化皮膜と、前記軸受ハウジングの前記削りしろとを機械加工により除去する、
請求項
2に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法。
【請求項4】
ターボチャージャのケーシングの製造方法であって、
前記ケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータを収容するタービンハウジングと、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受を収容する軸受ハウジングと、前記ターボチャージャのコンプレッサインペラを収容するコンプレッサハウジングと、を備え、
前記ケーシングの製造方法は、
前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施して、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの前記少なくとも一方に酸化皮膜を形成する水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる組立ステップと、
を備え、
前記水蒸気処理ステップでは、前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施し、
前記水蒸気処理ステップは、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記タービンハウジングに水蒸気処理を施して、前記タービンハウジングに酸化皮膜を形成するタービンハウジング水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記軸受ハウジングに水蒸気処理を施して、前記軸受ハウジングに酸化皮膜を形成する軸受ハウジング水蒸気処理ステップと、
を含み、
前記タービンハウジングを機械加工するタービンハウジング加工ステップと、
前記軸受ハウジングを機械加工する軸受ハウジング加工ステップと、
を更に備え、
前記タービンハウジング加工ステップは、前記タービンハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記軸受ハウジング加工ステップは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記軸受ハウジングは、
前記軸受を支持する軸受支持部と、
前記軸受に供給する潤滑油の入口が形成された潤滑油入口側端面と、
前記潤滑油の出口が形成された潤滑油出口側端面と、
前記ターボチャージャのコンプレッサハウジングと嵌め合う第3部分と、
を含み、
前記軸受ハウジング加工ステップでは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップの後に、前記軸受支持部、前記潤滑油入口側端面、前記潤滑油出口側端面、及び、前記第3部分、のうち少なくとも1つに形成された酸化皮膜を機械加工により除去する、ターボチャージャのケーシングの製造方法。
【請求項5】
ターボチャージャのケーシングの製造方法であって、
前記ケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータを収容するタービンハウジングと、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受を収容する軸受ハウジングと、前記ターボチャージャのコンプレッサインペラを収容するコンプレッサハウジングと、を備え、
前記タービンハウジングは、前記軸受ハウジングと嵌め合う第1嵌合面を含み、
前記軸受ハウジングは、前記タービンハウジングの前記第1嵌合面と嵌め合う第2嵌合面を含み、
前記ケーシングの製造方法は、
前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1嵌合面に削りしろを残した状態で前記タービンハウジングを成形するタービンハウジング成形ステップと、
前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2嵌合面に削りしろを残した状態で前記軸受ハウジングを成形する軸受ハウジング成形ステップと、
前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施して、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの前記少なくとも一方に酸化皮膜を形成する水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングの前記第1嵌合面の前記削りしろを機械加工により除去するタービンハウジング加工ステップと、
前記軸受ハウジングの前記第2嵌合面の前記削りしろを機械加工により除去する軸受ハウジング加工ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる組立ステップと、
を備え、
前記水蒸気処理ステップでは、前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施すとともに、
前記水蒸気処理ステップは、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記タービンハウジングに水蒸気処理を施して、前記タービンハウジングに酸化皮膜を形成するタービンハウジング水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記軸受ハウジングに水蒸気処理を施して、前記軸受ハウジングに酸化皮膜を形成する軸受ハウジング水蒸気処理ステップと、
を含み、
前記タービンハウジング水蒸気処理ステップは、前記タービンハウジング加工ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップは、前記軸受ハウジング加工ステップと前記組立ステップとの間に行われる
、ターボチャージャのケーシングの製造方法。
【請求項6】
ターボチャージャのケーシングの製造方法であって、
前記ケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータを収容するタービンハウジングと、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受を収容する軸受ハウジングと、前記ターボチャージャのコンプレッサインペラを収容するコンプレッサハウジングと、を備え、
前記タービンハウジングは、前記軸受ハウジングと嵌め合う第1嵌合面を含み、
前記軸受ハウジングは、前記タービンハウジングの前記第1嵌合面と嵌め合う第2嵌合面を含み、
前記ケーシングの製造方法は、
前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1嵌合面に削りしろを残した状態で前記タービンハウジングを成形するタービンハウジング成形ステップと、
前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2嵌合面に削りしろを残した状態で前記軸受ハウジングを成形する軸受ハウジング成形ステップと、
前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施して、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの前記少なくとも一方に酸化皮膜を形成する水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングの前記第1嵌合面の前記削りしろを機械加工により除去するタービンハウジング加工ステップと、
前記軸受ハウジングの前記第2嵌合面の前記削りしろを機械加工により除去する軸受ハウジング加工ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる組立ステップと、
を備え、
前記水蒸気処理ステップでは、前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施すとともに、
前記水蒸気処理ステップは、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記タービンハウジングに水蒸気処理を施して、前記タービンハウジングに酸化皮膜を形成するタービンハウジング水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記軸受ハウジングに水蒸気処理を施して、前記軸受ハウジングに酸化皮膜を形成する軸受ハウジング水蒸気処理ステップと、
を含み、
前記タービンハウジング水蒸気処理ステップは、前記タービンハウジング加工ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記軸受ハウジング加工ステップは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われる
、ターボチャージャのケーシングの製造方法。
【請求項7】
ターボチャージャのケーシングの製造方法であって、
前記ケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータを収容するタービンハウジングと、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受を収容する軸受ハウジングと、前記ターボチャージャのコンプレッサインペラを収容するコンプレッサハウジングと、を備え、
前記ケーシングの製造方法は、
前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施して、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの前記少なくとも一方に酸化皮膜を形成する水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる組立ステップと、
を備え、
前記ターボチャージャは、
ウェイストゲートバルブと、
前記ウェイストゲートバルブを開閉するための駆動力を生成するアクチュエータと、
前記アクチュエータから前記ウェイストゲートバルブに伝達するための駆動伝達機構と、
を更に備え、
前記駆動伝達機構は、ロッド及び前記ロッドに形成されたロッド穴に挿通されたピンと、
を含み、
前記ケーシングの製造方法は、前記ロッド穴の内周面及び前記ピンの外周面のうち少なくとも一方に水蒸気処理を施して酸化皮膜を形成するステップを更に備える、ターボチャージャのケーシングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ターボチャージャのケーシングの製造方法及びターボチャージャのケーシングに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転軸と静止部材との間における流体の軸方向の移動を制限するためのシール構造が記載されている。このシール構造は、回転軸の外周面に形成されたリング溝と、シール溝に収容されたシールリングとを備えている。また、シールリングは、回転軸との摩擦に対する耐摩耗性能を高めるために、水蒸気処理を施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ターボチャージャのケーシングには、エンジンに組み付けた後に、防錆のために塗布剤として防錆油が塗布される場合がある。しかしながら、従来の塗布剤では、ターボチャージャの出荷前の運転で油が揮発して耐食性が低下してしまうため、輸送時等にケーシングが錆び付いてしまう可能性がある。この点、特許文献1には、ターボチャージャのケーシングの耐食性を向上させるための知見は開示されていない。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示は、ケーシングの耐食性を向上可能な、ターボチャージャのケーシングの製造方法及びターボチャージャのケーシングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係るターボチャージャのケーシングの製造方法は、
ターボチャージャのケーシングの製造方法であって、
前記ケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータを収容するタービンハウジングと、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受を収容する軸受ハウジングと、前記ターボチャージャのコンプレッサインペラを収容するコンプレッサハウジングと、を備え、
前記ケーシングの製造方法は、
前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施して、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの前記少なくとも一方に酸化皮膜を形成する水蒸気処理ステップと、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる組立ステップと、
を備える。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の一実施形態に係るターボチャージャのケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータを収容するタービンハウジングと、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受を収容する軸受ハウジングと、を備え、
前記軸受ハウジングのうち前記タービンハウジングと嵌め合う部分の表面には、機械加工された加工面が形成され、
前記軸受ハウジングのうち前記タービンハウジングと嵌め合う部分を除く少なくとも一部の表面には、酸化皮膜が形成される。
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の一実施形態に係るターボチャージャのケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータを収容するタービンハウジングと、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受を収容する軸受ハウジングと、を備え、
前記軸受ハウジングのうち前記タービンハウジングと嵌め合う部分の表面には、機械加工された加工面上に酸化皮膜が形成され、
前記タービンハウジングのうち前記軸受ハウジングと嵌め合う部分の表面には、機械加工された加工面上に酸化皮膜が形成される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ケーシングの耐食性を向上可能な、ターボチャージャのケーシングの製造方法及びターボチャージャのケーシングが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るターボチャージャ2の概略構成を示す部分断面図である。
【
図2】ターボチャージャ2のケーシング5の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】ケーシング5における切削加工を行う箇所(削りしろを含む箇所)の例を太線で模式的に示した図である。
【
図4】ターボチャージャ2のケーシング5の製造方法の他の一例を示すフローチャートである。
【
図5】ターボチャージャ2のケーシング5の製造方法の他の一例を示すフローチャートである。
【
図6】ウェイストゲートバルブ60、アクチュエータ62及び駆動伝達機構64の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0012】
図1は、一実施形態に係るターボチャージャ2の概略構成を示す部分断面図である。
ターボチャージャ2は、タービンロータ4、タービンハウジング6、軸受8、軸受ハウジング10、コンプレッサインペラ12及びコンプレッサハウジング14を備える。
【0013】
タービンロータ4とコンプレッサインペラ12とはシャフト16を介して連結しており、一体的に回転するように構成されている。すなわち、タービンロータ4、シャフト16及びコンプレッサインペラ12は、一体的に回転する回転体3を構成する。また、タービンハウジング6、軸受ハウジング10及びコンプレッサハウジング14は、回転体3を収容するケーシング5を構成する。
【0014】
以下、シャフト16の軸方向を単に「軸方向」と記載し、シャフト16の径方向を単に「径方向」と記載し、シャフト16の周方向を単に「周方向」と記載することとする。
【0015】
タービンロータ4は、ハブ18と、ハブ18の外周面に周方向に間隔を空けて設けられた複数のタービン動翼20とを含む。
【0016】
タービンハウジング6は、タービンロータ4を収容するように構成されており、スクロール流路22を形成するスクロール部24と、タービンロータ4のタービン動翼20の先端に対向する環状のシュラウド部26と、タービンロータ4を通過した排ガスをターボチャージャ2の外部に導く出口管部28と、軸受ハウジング10と嵌め合う環状の第1部分30とを備える。タービンハウジング6は、例えば鋳鉄又は鋳鋼等を材料として鋳造等により成形される。
【0017】
軸受8は、シャフト16を回転可能に支持することにより、タービンロータ4及びコンプレッサインペラ12を回転可能に支持している。図示する形態では、軸方向に間隔を空けて複数の軸受8(2つの軸受8)が設けられている。
【0018】
軸受ハウジング10は、複数の軸受8を収容するように構成されている。軸受ハウジング10は、タービンハウジング6の第1部分30と嵌め合う環状の第2部分32と、コンプレッサハウジング14と嵌め合う環状の第3部分34とを含む。また、軸受ハウジング10は、軸受8を支持する環状の軸受支持部36と、軸受8に供給する潤滑油の入口38が形成された潤滑油入口側端面40と、潤滑油の出口42が形成された潤滑油出口側端面44と、を含む。潤滑油入口側端面40は軸受ハウジング10の上面に位置しており、潤滑油出口側端面44は軸受ハウジング10の下面に位置している。潤滑油入口側端面40には不図示の潤滑油供給管が接続され、潤滑油出口側端面44には、不図示の潤滑油排出管が接続される。軸受ハウジング10は、例えば鋳鉄等を材料として鋳造により成形される。
【0019】
コンプレッサインペラ12は、ハブ46と、ハブ46の外周面に周方向に間隔を空けて設けられた複数のコンプレッサ翼48とを含む。
【0020】
コンプレッサハウジング14は、コンプレッサインペラ12に空気を導く入口管部50と、コンプレッサ翼48の先端に対向するシュラウド部52と、スクロール流路54を形成するスクロール部56と、軸受ハウジング10の第3部分34と嵌め合う環状の第4部分58とを含む。
【0021】
次に、上述したターボチャージャ2について、ケーシング5の製造方法の一例を
図2及び
図3を用いて説明する。
図2は、上述したターボチャージャ2について、ケーシング5の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3は、ケーシング5における切削加工を行う加工面の箇所(削りしろに対応する箇所)の例を太線で模式的に示した図である。
【0022】
図2に示すように、S101において、タービンハウジング6を上述の材料を用いて鋳造により成形する。この際、タービンハウジング6のうち少なくとも第1部分30に削りしろを残した状態でタービンハウジング6を成形する。
図3に示す例では、第1部分30に加えて、タービンハウジング6のシュラウド壁面や出口管部28の内面及び出口側端面等にも削りしろを残した状態でタービンハウジング6を成形する。
【0023】
S102において、軸受ハウジング10を上述の材料を用いて鋳造により成形する。この際、軸受ハウジング10のうち少なくとも第2部分32に削りしろを残した状態で軸受ハウジング10を成形する。
図3に示す例では、軸受ハウジング10のうち第2部分32、第3部分34、軸受支持部36、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44に削りしろを残した状態で、軸受ハウジング10を成形する。S102で成形される軸受ハウジング10の寸法は、軸受ハウジング10に生成される後述の酸化皮膜の膜厚を考慮して設定される。
【0024】
S103において、
図3に示すように、タービンハウジング6のうち、少なくとも上記第1部分30(軸受ハウジング10と嵌め合う部分)を切削加工することにより、第1部分30を軸受ハウジング10と精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に加工する。この際、タービンハウジング6の上記削りしろを切削加工により除去する。
【0025】
S104において、
図3に示すように、軸受ハウジング10のうち、少なくとも上記第2部分32(タービンハウジング6の第1部分30と嵌め合う部分)を切削加工することにより、第2部分32をタービンハウジング6と精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に加工する。
図3に示す例では、更に、軸受支持部36を、軸受8の外周面に精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に加工する。また、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44を、潤滑油が漏れないように平滑な面に切削加工する。また、上記第3部分34をコンプレッサハウジング14と精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に切削加工する。この際、軸受ハウジング10の上記削りしろの各々を切削加工により除去する。
【0026】
S105において、タービンハウジング6に水蒸気処理を施してタービンハウジング6の表面に酸化皮膜(例えばFe304皮膜)を形成する。当該水蒸気処理では、ターボチャージャ2の機能や組立性を損なわないように酸化皮膜の膜厚が調整される。酸化皮膜の膜厚は、水蒸気処理の処理温度、処理時間、及び水蒸気処理炉内のタービンハウジング6の設置場所によって調整できる。タービンハウジング6に形成される酸化皮膜の膜厚は、例えば10~30μmであってもよい。酸化皮膜の膜厚を10μm以上とすることにより、タービンハウジング6の耐食性を効果的に向上することができ、酸化皮膜の膜厚を30μm以下にすることにより、ターボチャージャ2の機能及び組立性の悪化を効果的に抑制することができる。また、水蒸気処理の処理温度及び処理時間は、膜厚の調整のためだけではなく、タービンハウジング6の熱変形及び高温疲労強度が変化しないように調整される。タービンハウジング6の水蒸気処理の処理温度は、例えば650℃以下であってもよい。
【0027】
S106において、軸受ハウジング10に水蒸気処理を施して軸受ハウジング10の表面に酸化皮膜(例えばFe304皮膜)を形成する。当該水蒸気処理では、ターボチャージャ2の機能や組立性を損なわないように酸化皮膜の膜厚が調整される。酸化皮膜の膜厚は、水蒸気処理の処理温度、処理時間、及び水蒸気処理炉内の軸受ハウジング10の設置場所によって調整できる。軸受ハウジング10に形成される酸化皮膜の膜厚は、例えば10~30μmであってもよい。酸化皮膜の膜厚を10μm以上とすることにより、軸受ハウジング10の耐食性を効果的に向上することができ、酸化皮膜の膜厚を30μm以下にすることにより、ターボチャージャ2の機能及び組立性の悪化を効果的に抑制することができる。また、上記処理温度及び処理時間は、膜厚の調整のためだけではなく軸受ハウジング10の熱変形及び高温疲労強度が変化しないように調整される。軸受ハウジング10の水蒸気処理の処理温度は、例えば650℃以下であってもよい。
【0028】
S107において、酸化皮膜が形成されたタービンハウジング6と、酸化皮膜が形成された軸受ハウジング10と、コンプレッサハウジング14とを組み立てる。S107では、タービンハウジング6の第1部分30と軸受ハウジング10の第2部分32とが嵌め合うようにタービンハウジング6と軸受ハウジング10とが組み立てられ、軸受ハウジング10の第3部分34とコンプレッサハウジング14との第4部分58とが嵌め合うように軸受ハウジング10とコンプレッサハウジング14とが組み立てられる。なお、コンプレッサハウジング14は、S107よりも前に、例えばアルミニウム合金を材料として鋳造等により成形される。
【0029】
以上に示したケーシング5の製造方法では、タービンハウジング6を水蒸気処理するステップ(S105)は、タービンハウジング6を切削加工するステップ(S103)と、ケーシング5を組立てるステップ(S107)との間に行われ、軸受ハウジング10を水蒸気処理するステップ(S106)は、軸受ハウジング10を切削加工するステップ(S104)と、ケーシング5を組立てるステップ(S107)との間に行われる。このため、タービンハウジング6を切削加工するステップ(S103)の後に、タービンハウジング6を水蒸気処理するステップ(S105)が行われ、軸受ハウジング10を切削加工するステップ(S104)の後に、軸受ハウジング10を水蒸気処理するステップ(S106)が行われる。
【0030】
このように製造されたターボチャージャ2のケーシング5では、タービンハウジング6の第1部分30の表面には、切削加工された加工面上に酸化皮膜が形成され、軸受ハウジング10の第2部分32の表面には、切削加工された加工面上に酸化皮膜が形成される。また、軸受ハウジング10の軸受支持部36、潤滑油入口側端面40、潤滑油出口側端面44、及び、第3部分34の表面には、切削加工された加工面上に酸化皮膜が形成される。
【0031】
以上に示したケーシング5の製造方法によれば、タービンハウジング6及び軸受ハウジング10の各々に水蒸気処理で生成される酸化皮膜により、防錆のための一般的な塗布剤(例えばパイロジン(登録商標)KSブラック等)よりも高い耐食性を保持することができる。
【0032】
また、上記のように、タービンハウジング6を水蒸気処理するステップ(S105)は、タービンハウジング6を切削加工するステップ(S103)と、ケーシング5を組立てるステップ(S107)との間に行われ、軸受ハウジング10を水蒸気処理するステップ(S106)は、軸受ハウジング10を切削加工するステップ(S104)と、ケーシング5を組立てるステップ(S107)との間に行われる。
【0033】
このため、タービンハウジング6の酸化皮膜をタービンハウジング6の全体に形成した状態を維持することができ、タービンハウジング6の高い耐食性を実現することができる。また、軸受ハウジング10の酸化皮膜を軸受ハウジング10の全体に形成した状態を維持することができ、軸受ハウジング10の高い耐食性を実現することができる。
【0034】
また、S102で成形される軸受ハウジング10の寸法を、軸受ハウジング10に生成される酸化皮膜の膜厚を考慮して設定し、S105でタービンハウジング6に形成される酸化皮膜の膜厚を適切に調節し、S106で軸受ハウジング10に形成される酸化皮膜の膜厚を適切に調節することにより、ターボチャージャ2の機能や組立性を損なうことなく耐食性を向上させることができる。
【0035】
次に、上述したターボチャージャ2について、ケーシング5の製造方法の他の一例を
図4及び
図3を用いて説明する。
図4は、上述したターボチャージャ2について、ケーシング5の製造方法の他の一例を示すフローチャートである。
図4に示す製造方法は、タービンハウジング6及び軸受ハウジング10の各々について、水蒸気処理と切削加工の順番が
図2に示す製造方法と異なる。
【0036】
図4に示すように、S201において、タービンハウジング6を上述の材料を用いて鋳造等により成形する。この際、タービンハウジング6のうち少なくとも第1部分30に削りしろを残した状態でタービンハウジング6を成形する。
【0037】
S202において、軸受ハウジング10を上述の材料を用いて鋳造等により成形する。この際、軸受ハウジング10のうち少なくとも第2部分32に削りしろを残した状態で軸受ハウジング10を成形する。
図3に示す例では、軸受ハウジング10のうち第2部分32、第3部分34、軸受支持部36、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44に削りしろを残した状態で、軸受ハウジング10を成形する。
図4に示す製造方法では、S202で成形される軸受ハウジング10の寸法を設定する際に、軸受ハウジング10に生成される後述の酸化皮膜の膜厚を考慮する必要が無い。
【0038】
S203において、タービンハウジング6に水蒸気処理を施してタービンハウジング6の表面に酸化皮膜(例えばFe304皮膜)を形成する。当該水蒸気処理では、ターボチャージャ2の機能や組立性を損なわないように酸化皮膜の膜厚が調整される。酸化皮膜の膜厚は、水蒸気処理の処理温度、処理時間、及び水蒸気処理炉内のタービンハウジング6の設置場所によって調整できる。タービンハウジング6に形成される酸化皮膜の膜厚は、例えば10~30μmであってもよい。酸化皮膜の膜厚を10μm以上とすることにより、タービンハウジング6の耐食性を効果的に向上することができ、酸化皮膜の膜厚を30μm以下にすることにより、ターボチャージャ2の機能及び組立性の悪化を効果的に抑制することができる。また、上記処理温度及び処理時間は、膜厚の調整のためだけではなく、タービンハウジング6の熱変形及び高温疲労強度が変化しないように調整される。タービンハウジング6の水蒸気処理の処理温度は、例えば650℃以下であってもよい。
【0039】
S204において、軸受ハウジング10に水蒸気処理を施して軸受ハウジング10の表面に酸化皮膜(例えばFe304皮膜)を形成する。当該水蒸気処理では、ターボチャージャ2の機能や組立性を損なわないように酸化皮膜の膜厚が調整される。酸化皮膜の膜厚は、水蒸気処理の処理温度、処理時間、及び水蒸気処理炉内の軸受ハウジング10の設置場所によって調整できる。軸受ハウジング10に形成される酸化皮膜の膜厚は、例えば10~30μmであってもよい。酸化皮膜の膜厚を10μm以上とすることにより、軸受ハウジング10の耐食性を効果的に向上することができ、酸化皮膜の膜厚を30μm以下にすることにより、ターボチャージャ2の機能及び組立性の悪化を効果的に抑制することができる。また、上記処理温度及び処理時間は、膜厚の調整のためだけではなく軸受ハウジング10の熱変形及び高温疲労強度が変化しないように調整される。軸受ハウジング10の水蒸気処理の処理温度は、例えば650℃以下であってもよい。
【0040】
S205において、
図3に示すように、タービンハウジング6のうち、少なくとも上記第1部分30(軸受ハウジング10と嵌め合う部分)を切削加工することにより、第1部分30を軸受ハウジング10と精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に加工する。この際、タービンハウジング6の少なくとも第1部分30に形成された酸化皮膜と削りしろとを切削加工により除去する。
【0041】
S206において、
図3に示すように、軸受ハウジング10のうち、少なくとも上記第2部分32(タービンハウジング6の第1部分30と嵌め合う部分)を切削加工することにより、第2部分32をタービンハウジング6と精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に加工する。
図3に示す例では、更に、軸受支持部36を、軸受8の外周面に精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に加工する。また、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44を、潤滑油が漏れないように平滑な面に切削加工する。また、上記第3部分34をコンプレッサハウジング14と精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に切削加工する。この際、軸受ハウジング10のうち少なくとも第2部分32に形成された酸化皮膜と削りしろとを切削加工により除去する。
図3に示す例では、軸受ハウジング10の第2部分32、第3部分34、軸受支持部36、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44の各々に形成された酸化皮膜と削りしろとを切削加工により除去する。
【0042】
S207において、酸化皮膜が形成されたタービンハウジング6と、酸化皮膜が形成された軸受ハウジング10と、コンプレッサハウジング14とを組み立てる。S107では、タービンハウジング6の第1部分30と軸受ハウジング10の第2部分32とが嵌め合うようにタービンハウジング6と軸受ハウジング10とが組み立てられ、軸受ハウジング10の第3部分34とコンプレッサハウジング14との第4部分58とが嵌め合うように軸受ハウジング10とコンプレッサハウジング14とが組み立てられる。なお、コンプレッサハウジング14は、S207よりも前に、例えばアルミニウム合金を材料として鋳造等により成形される。
【0043】
以上に示したケーシング5の製造方法では、タービンハウジング6を切削加工するステップ(S205)は、タービンハウジング6を水蒸気処理するステップ(S203)とケーシング5を組立てるステップ(S207)との間に行われ、軸受ハウジング10を切削加工するステップ(S206)は、軸受ハウジング10を水蒸気処理するステップ(S204)とケーシング5を組立てるステップ(S207)との間に行われる。このため、タービンハウジング6を水蒸気処理するステップ(S203)の後に、タービンハウジング6を切削加工するステップ(S205)が行われ、軸受ハウジング10を水蒸気処理するステップ(S204)の後に、軸受ハウジング10を切削加工するステップ(S206)が行われる。
【0044】
このように製造されたターボチャージャ2のケーシング5では、タービンハウジング6の第1部分30の表面には、切削加工された加工面が形成され、軸受ハウジング10の第2部分32の表面には、切削加工された加工面が形成される。また、軸受ハウジング10の軸受支持部36、潤滑油入口側端面40、潤滑油出口側端面44、及び、第3部分34の表面には、切削加工された加工面が形成される。
【0045】
また、タービンハウジング6のうち第1部分30を除く少なくとも一部の表面には、酸化皮膜が形成される。また、軸受ハウジング10のうち第2部分32を除く少なくとも一部(
図3に示す例では、軸受ハウジング10のうち、第2部分32、第3部分34、軸受支持部36、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44の各々を除く部分の少なくとも一部)の表面には、酸化皮膜が形成される。
【0046】
以上に示したケーシング5の製造方法によれば、タービンハウジング6及び軸受ハウジング10の各々に水蒸気処理で生成される酸化皮膜により、防錆のための一般的な塗布剤(例えばパイロジン(登録商標)KSブラック等)よりも高い耐食性を保持することができる。
【0047】
また、上記のように、タービンハウジング6を切削加工するステップ(S205)は、タービンハウジング6を水蒸気処理するステップ(S203)とケーシング5を組立てるステップ(S207)との間に行われ、軸受ハウジング10を切削加工するステップ(S206)は、軸受ハウジング10を水蒸気処理するステップ(S204)とケーシング5を組立てるステップ(S207)との間に行われる。
【0048】
このため、タービンハウジング6の表面と軸受ハウジング10の表面に形成される酸化皮膜の膜厚を考慮してタービンハウジング6及び軸受ハウジング10の各々の寸法を変更する必要がない。また、タービンハウジング6及び軸受ハウジング10の各々について、水蒸気処理によって形成される酸化皮膜の膜厚に誤差が生じた場合であっても、水蒸気処理の後に切削加工が行われるため、タービンハウジング6及び軸受ハウジング10の寸法管理が容易である。したがって、ターボチャージャ2の機能や組立性を損なうことなく耐食性を向上させることができる。特に、高い寸法精度が要求される軸受支持部36を適切な寸法及び形状に加工することができるため、軸受性能の低下を抑制しつつ、耐食性を向上することができる。
【0049】
次に、上述したターボチャージャ2について、ケーシング5の製造方法の他の一例を
図5及び
図3を用いて説明する。
図5は、上述したターボチャージャ2について、ケーシング5の製造方法の他の一例を示すフローチャートである。
図5に示す製造方法は、軸受ハウジング10の水蒸気処理と切削加工の順番が
図2に示す製造方法と異なる。
【0050】
図5に示すように、S301において、タービンハウジング6を上述の材料を用いて鋳造等により成形する。この際、タービンハウジング6のうち少なくとも第1部分30に削りしろを残した状態でタービンハウジング6を成形する。
【0051】
S302において、軸受ハウジング10を上述の材料を用いて鋳造等により成形する。この際、軸受ハウジング10のうち少なくとも第2部分32に削りしろを残した状態で軸受ハウジング10を成形する。
図3に示す例では、軸受ハウジング10のうち第2部分32、第3部分34、軸受支持部36、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44に削りしろを残した状態で、軸受ハウジング10を成形する。
図5に示す製造方法では、S302で成形される軸受ハウジング10の寸法を設定する際に、軸受ハウジング10に生成される後述の酸化皮膜の膜厚を考慮する必要が無い。
【0052】
S303において、
図3に示すように、タービンハウジング6のうち、少なくとも上記第1部分30(軸受ハウジング10と嵌め合う部分)を切削加工することにより、第1部分30を軸受ハウジング10と精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に加工する。この際、タービンハウジング6の上記削りしろを切削加工により除去する。
【0053】
S304において、タービンハウジング6に水蒸気処理を施してタービンハウジング6の表面に酸化皮膜(例えばFe304皮膜)を形成する。当該水蒸気処理では、ターボチャージャ2の機能や組立性を損なわないように酸化皮膜の膜厚が調整される。酸化皮膜の膜厚は、水蒸気処理の処理温度、処理時間、及び水蒸気処理炉内のタービンハウジング6の設置場所によって調整できる。タービンハウジング6に形成される酸化皮膜の膜厚は、例えば10~30μmであってもよい。酸化皮膜の膜厚を10μm以上とすることにより、タービンハウジング6の耐食性を効果的に向上することができ、酸化皮膜の膜厚を30μm以下にすることにより、ターボチャージャ2の機能及び組立性の悪化を効果的に抑制することができる。また、上記処理温度及び処理時間は、膜厚の調整のためだけではなく、タービンハウジング6の熱変形及び高温疲労強度が変化しないように調整される。タービンハウジング6の水蒸気処理の処理温度は、例えば650℃以下であってもよい。
【0054】
S305において、軸受ハウジング10に水蒸気処理を施して軸受ハウジング10の表面に酸化皮膜(例えばFe304皮膜)を形成する。当該水蒸気処理では、ターボチャージャ2の機能や組立性を損なわないように酸化皮膜の膜厚が調整される。酸化皮膜の膜厚は、水蒸気処理の処理温度、処理時間、及び水蒸気処理炉内の軸受ハウジング10の設置場所によって調整できる。軸受ハウジング10に形成される酸化皮膜の膜厚は、例えば10~30μmであってもよい。酸化皮膜の膜厚を10μm以上とすることにより、軸受ハウジング10の耐食性を効果的に向上することができ、酸化皮膜の膜厚を30μm以下にすることにより、ターボチャージャ2の機能及び組立性の悪化を効果的に抑制することができる。また、上記処理温度及び処理時間は、膜厚の調整のためだけではなく軸受ハウジング10の熱変形及び高温疲労強度が変化しないように調整される。軸受ハウジング10の水蒸気処理の処理温度は、例えば650℃以下であってもよい。
【0055】
S306において、
図3に示すように、軸受ハウジング10のうち、少なくとも上記第2部分32(タービンハウジング6の第1部分30と嵌め合う部分)を切削加工することにより、第2部分32をタービンハウジング6と精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に加工する。
図3に示す例では、更に、軸受支持部36を、軸受8の外周面に精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に加工する。また、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44を、潤滑油が漏れないように平滑な面に切削加工する。また、上記第3部分34をコンプレッサハウジング14と精度良く嵌め合うための適切な寸法及び形状に切削加工する。この際、軸受ハウジング10のうち少なくとも第2部分32に形成された酸化皮膜と削りしろとを切削加工により除去する。
図3に示す例では、軸受ハウジング10の第2部分32、第3部分34、軸受支持部36、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44の各々に形成された酸化皮膜と削りしろとを切削加工により除去する。
【0056】
S307において、酸化皮膜が形成されたタービンハウジング6と、酸化皮膜が形成された軸受ハウジング10と、コンプレッサハウジング14とを組み立てる。S307では、タービンハウジング6の第1部分30と軸受ハウジング10の第2部分32とが嵌め合うようにタービンハウジング6と軸受ハウジング10とが組み立てられ、軸受ハウジング10の第3部分34とコンプレッサハウジング14との第4部分58とが嵌め合うように軸受ハウジング10とコンプレッサハウジング14とが組み立てられる。なお、コンプレッサハウジング14は、S307よりも前に、例えばアルミニウム合金を材料として鋳造等により成形される。
【0057】
以上に示したケーシング5の製造方法では、タービンハウジング6を水蒸気処理するステップ(S304)は、タービンハウジング6を切削加工するステップ(S303)とケーシング5を組立てるステップ(S307)との間に行われ、軸受ハウジング10を切削加工するステップ(S306)は、軸受ハウジング10を水蒸気処理するステップ(S305)とケーシング5を組立てるステップ(S307)との間に行われる。このため、タービンハウジング6を切削加工するステップ(S303)の後に、タービンハウジング6を水蒸気処理するステップ(S304)が行われ、軸受ハウジング10を水蒸気処理するステップ(S305)の後に、軸受ハウジング10を切削加工するステップ(S306)が行われる。
【0058】
このように製造されたターボチャージャ2のケーシング5では、タービンハウジング6の表面全体に酸化皮膜が形成される。より詳細には、タービンハウジング6の第1部分30の表面には、切削加工された加工面上に酸化皮膜が形成され、タービンハウジング6のうち第1部分30を除く部分の表面にも、酸化皮膜が形成される。
【0059】
また、軸受ハウジング10の第2部分32の表面には、切削加工された加工面が形成される。また、軸受ハウジング10の軸受支持部36、潤滑油入口側端面40、潤滑油出口側端面44、及び、第3部分34の表面には、切削加工された加工面が形成される。
【0060】
また、軸受ハウジング10のうち第2部分32を除く少なくとも一部(
図3に示す例では、軸受ハウジング10のうち、第2部分32、第3部分34、軸受支持部36、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44の各々を除く部分の少なくとも一部)の表面には、酸化皮膜が形成される。
【0061】
以上に示したケーシング5の製造方法によれば、タービンハウジング6及び軸受ハウジング10の各々に水蒸気処理で生成される酸化皮膜により、防錆のための一般的な塗布剤(例えばパイロジン(登録商標)KSブラック等)よりも高い耐食性を保持することができる。
【0062】
また、上記のように、タービンハウジング6を水蒸気処理するステップ(S304)は、タービンハウジング6を切削加工するステップ(S303)とケーシング5を組立てるステップ(S307)との間に行われ、軸受ハウジング10を切削加工するステップ(S306)は、軸受ハウジング10を水蒸気処理するステップ(S305)とケーシング5を組立てるステップ(S307)との間に行われる。
【0063】
このため、外観上最も大きな部分を占めて高温ガスに晒されるタービンハウジング6は、切削加工後に酸化皮膜が形成されるため、高い耐食性を保持することができる。また、高い寸法精度を求められる軸受支持部36を含む軸受ハウジング10は、水蒸気処理の後に切削加工を行うことで、軸受支持部36を適切な寸法及び形状に加工することができるため、軸受性能の低下を抑制しつつ、耐食性を向上することができる。
【0064】
したがって、高温ガスに晒されるタービンハウジング6の耐食性を効果的に高めつつ、軸受性能に寄与する軸受ハウジング10を適切な寸法及び形状に精度良く加工することができ、ケーシング5の耐食性と軸受性能を効果的に高めることができる。
【0065】
幾つかの実施形態では、例えば
図6に示すように、上記ターボチャージャ2は、タービンロータ4を迂回する不図示の排ガス流路に設けられたウェイストゲートバルブ60と、ウェイストゲートバルブ60を開閉するための駆動力を生成するアクチュエータ62と、アクチュエータ62からウェイストゲートバルブ60に伝達するための駆動伝達機構64とを更に備えていてもよい。
【0066】
図示する例示的な形態では、駆動伝達機構64は、ロッド66、ピン70、アーム72、シャフト74及び支持部76を含む。
【0067】
ロッド66は、アクチュエータ62に接続され、アクチュエータ62から駆動力を受けて往復動する。ロッド66にはアクチュエータ62と反対側の端部にロッド穴68が形成されており、ピン70はロッド穴68に挿通されている。ロッド穴68の内周面とピン70の外周面とは、シャフト74が回転する際に摺動する。アーム72の一端部にはピン70が連結されており、アーム72の他端部にはシャフト74が連結されている。シャフト74はアーム72と反対側で支持部76を介してウェイストゲートバルブ60に連結されている。
【0068】
かかる構成では、ロッド66の往復動がピン70及びアーム72を介してシャフト74の回転運動に変換され、シャフト74の回転運動が支持部76を介してウェイストゲートバルブ60に伝達されてウェイストゲートバルブ60が開閉する。
【0069】
また、
図6に示す構成を含むターボチャージャ2を製造する場合において、ロッド66に水蒸気処理を施して酸化皮膜を形成してもよい。
【0070】
従来は、ロッド66にはステンレスが使用されたり、電気亜鉛メッキにより防錆処理がされていた。しかしながら、ロッド穴68の内周面などの複雑な形状への亜鉛メッキ処理は困難であり、ロッド穴68の内周面とピン70の外周面とが固着する可能性があった。これに対し、水蒸気処理は対象物の大きさや形状に制限が少なく、ロッド66に水蒸気処理を施すことにより、ロッド穴68の内周面に対して良好に酸化皮膜を形成することができるため、ロッド穴68の耐食性を向上することができ、ロッド穴68とピン70との固着を抑制することができる。
【0071】
また、水蒸気処理により耐摩耗性が向上するため、ロッド穴68の内周面とピン70の外周面との摺動による摩耗を低減することができる。
【0072】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0073】
例えば、上述した実施形態では、タービンハウジング6と軸受ハウジング10の両方に水蒸気処理を施したが、タービンハウジング6のみに水蒸気処理を施してもよいし、軸受ハウジング10のみに水蒸気処理を施してもよい。タービンハウジング6と軸受ハウジング10のうち少なくとも一方に水蒸気処理を施すことにより、水蒸気処理を施した部分についてケーシング5の耐食性を向上することができる。
【0074】
また、
図2、
図4及び
図5を用いて説明したケーシング5の幾つかの製造方法において、タービンハウジング6の水蒸気処理のステップと軸受ハウジング10の水蒸気処理のステップとは便宜的に別のステップとして説明したが、タービンハウジング6と軸受ハウジング10とを1つの水蒸気処理炉に入れて同時に水蒸気処理をしてもよい。
【0075】
上述した幾つかの実施形態では、軸受ハウジング10を切削加工するステップにおいて、第2部分32、第3部分34、軸受支持部36、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44に形成された酸化皮膜を切削加工により除去したが、これらの全てに形成された酸化皮膜を切削加工により除去することは必須ではなく、少なくとも第2部分32に形成された酸化皮膜を切削加工により除去することが望ましい。また、更に、第3部分34、軸受支持部36、潤滑油入口側端面40及び潤滑油出口側端面44のうち少なくとも1つに形成された酸化皮膜を切削加工により除去してもよい。
【0076】
また、
図3には、ケーシング5における切削加工を行う箇所(削りしろを含む箇所)の例を太線で示したが、ケーシング5における切削加工を行う箇所は、
図3に示す箇所に限らず、高い寸法精度が要求される他の任意の箇所であってもよい。
【0077】
また、上述した幾つかの実施形態では、タービンハウジング6及び軸受ハウジング10の機械加工の例として切削加工を示したが、切削加工に代えて、又は切削加工に加えて、研削加工や研磨加工等の機械加工を行ってもよい。
【0078】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0079】
(1)本開示に係るターボチャージャ(例えば上述のターボチャージャ2)のケーシング(例えば上述のケーシング5)の製造方法において、
前記ケーシングは、前記ターボチャージャのタービンロータ(例えば上述のタービンロータ4)を収容するタービンハウジング(例えば上述のタービンハウジング6)と、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受(例えば上述の軸受8)を収容する軸受ハウジング(例えば上述の軸受ハウジング10)と、前記ターボチャージャのコンプレッサインペラ(例えば上述のコンプレッサインペラ12)を収容するコンプレッサハウジング(例えば上述のコンプレッサハウジング14)と、を備え、
前記ケーシングの製造方法は、
前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施して、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの前記少なくとも一方に酸化皮膜を形成する水蒸気処理ステップ(例えば上述のS105、S106、S203、S204、S304及びS305)と、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる組立ステップ(例えば上述のS107、S207及びS307)と、
を備える。
【0080】
上記(1)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、タービンハウジング及び軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施すことにより、タービンハウジング及び軸受ハウジングの少なくとも一方に酸化皮膜が形成される。これにより、タービンハウジング及び軸受ハウジングの少なくとも一方における酸化皮膜が形成された部分の耐食性を向上させて、ケーシングの錆び付きを抑制することができる。
【0081】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記水蒸気処理ステップでは、前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に、前記タービンハウジング及び前記軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施す。
【0082】
一般に、ターボチャージャでは、エンジンからの高温の排ガスがタービン側に供給されるのに対して、コンプレッサ側には比較的低温の空気が供給されるため、タービンハウジングには高温耐性を有する材料が使用され、コンプレッサハウジングにはタービンハウジングよりも高温耐性の低い材料が使用される。このため、タービンハウジングと軸受ハウジングとコンプレッサハウジングとを組み立てた後で水蒸気処理をこれらに施すと、コンプレッサハウジングに熱変形が生じる恐れがある。
【0083】
これに対し、上記(2)に記載のケーシングの製造方法では、タービンハウジングと軸受ハウジングとコンプレッサハウジングとを組み立てる前に、タービンハウジング及び軸受ハウジングの少なくとも一方に水蒸気処理を施すため、当該水蒸気処理によってコンプレッサハウジングに熱変形が生じることを回避することができる。したがって、水蒸気処理によるコンプレッサハウジングの熱変形を回避しつつ、ケーシングの耐食性を向上することができる。
【0084】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記水蒸気処理ステップは、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記タービンハウジングに水蒸気処理を施して、前記タービンハウジングに酸化皮膜を形成するタービンハウジング水蒸気処理ステップ(例えば上述のS105、S203、S304)と、
前記タービンハウジングと前記軸受ハウジングと前記コンプレッサハウジングとを組み立てる前に前記軸受ハウジングに水蒸気処理を施して、前記軸受ハウジングに酸化皮膜を形成する軸受ハウジング水蒸気処理ステップ(例えば上述のS106、S204、S305)と、
を含む。
【0085】
上記(3)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、タービンハウジングと軸受ハウジングとコンプレッサハウジングとを組み立てる前に、タービンハウジング及び軸受ハウジングに水蒸気処理を施すため、当該水蒸気処理によってコンプレッサハウジングに熱変形が生じることを回避することができる。したがって、水蒸気処理によるコンプレッサハウジングの熱変形を回避しつつ、ケーシングの錆び付きを抑制することができる。
【0086】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記コンプレッサハウジングに水蒸気処理を行うステップを備えていない。
【0087】
上記(4)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、
コンプレッサハウジングに対して水蒸気処理を行わずに、タービンハウジング及び軸受ハウジングに対して水蒸気処理を行うことにより、水蒸気処理によるコンプレッサハウジングの熱変形を回避しつつ、ケーシングの耐食性を向上することができる。
【0088】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)又は(4)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記タービンハウジングを切削加工するタービンハウジング加工ステップ(例えば上述のS103、S205、S303)と、
前記軸受ハウジングを切削加工する軸受ハウジング加工ステップ(例えば上述のS104、S206、S306)と、
を更に備える。
【0089】
上記(5)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、タービンハウジング及びベアリングハウジングを適切な寸法及び形状に加工することができる。
【0090】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記タービンハウジング加工ステップは、前記タービンハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記軸受ハウジング加工ステップは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われる。
【0091】
上記(6)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、タービンハウジング水蒸気処理ステップの後に、タービンハウジング加工ステップが行われ、軸受ハウジング水蒸気処理ステップの後に、軸受ハウジング加工するステップが行われる。このため、タービンハウジングの表面と軸受ハウジングの表面に形成される酸化皮膜の膜厚を考慮してタービンハウジング及び軸受ハウジングの各々の寸法を変更する必要がない。また、タービンハウジング及び軸受ハウジングの各々について、水蒸気処理によって形成される酸化皮膜の膜厚に誤差が生じた場合であっても、水蒸気処理の後に切削加工が行われるため、タービンハウジング及び軸受ハウジングの寸法管理が容易である。したがって、ターボチャージャの機能や組立性を損なうことなく耐食性を向上させることができ、軸受性能の低下を抑制することができる。
【0092】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記タービンハウジングは、前記軸受ハウジングと嵌め合う第1部分(例えば上述の第1部分30)を含み、
前記軸受ハウジングは、前記タービンハウジングの前記第1部分と嵌め合う第2部分(例えば上述の第2部分32)を含み、
前記タービンハウジング加工ステップでは、前記タービンハウジング水蒸気処理ステップの後に、前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1部分に形成された酸化皮膜を切削加工により除去し、
前記軸受ハウジング加工ステップでは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップの後に、前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2部分に形成された酸化皮膜を切削加工により除去する。
【0093】
上記(7)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、タービンハウジングと軸受ハウジングとの良好な嵌め合い状態を実現しつつ、ケーシングの耐食性を向上させることができる。
【0094】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1部分に削りしろを残した状態で前記タービンハウジングを成形するタービンハウジング成形ステップ(例えば上述のS101、S201、S301)と、
前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2部分に削りしろを残した状態で前記軸受ハウジングを成形する軸受ハウジング成形ステップ(例えば上述のS102、S202、S302)と、を更に備える。
【0095】
上記(8)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、タービンハウジングと軸受ハウジングの各々について、酸化皮膜とを削りしろを切削加工により除去することにより、タービンハウジングと軸受ハウジングとの良好な嵌め合い状態を実現しつつ、ケーシングの耐食性を向上させることができる。
【0096】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記タービンハウジング加工ステップでは、前記タービンハウジングのうち少なくとも前記第1部分に形成された酸化皮膜と、前記タービンハウジングの前記削りしろとを切削加工により除去する、
前記軸受ハウジング加工ステップでは、前記軸受ハウジングのうち少なくとも前記第2部分に形成された酸化皮膜と、前記軸受ハウジングの前記削りしろとを切削加工により除去する。
【0097】
上記(9)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、タービンハウジングと軸受ハウジングとの良好な嵌め合い状態を実現しつつ、ケーシングの耐食性を向上させることができる。
【0098】
(10)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記軸受ハウジングは、
前記軸受を支持する軸受支持部(例えば上述の軸受支持部36)と、
前記軸受に供給する潤滑油の入口(例えば上述の入口38)が形成された潤滑油入口側端面(例えば上述の潤滑油入口側端面40)と、
前記潤滑油の出口(例えば上述の出口42)が形成された潤滑油出口側端面(例えば上述の潤滑油出口側端面44)と、
前記ターボチャージャのコンプレッサハウジングと嵌め合う第3部分(例えば上述の第3部分34)と、
を含み、
前記軸受ハウジング加工ステップでは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップの後に、前記軸受支持部、前記潤滑油入口側端面、前記潤滑油出口側端面、及び、前記第3部分、のうち少なくとも1つに形成された酸化皮膜を切削加工により除去する。
【0099】
上記(10)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、軸受支持部、潤滑油入口側端面、潤滑油出口側端面、及び、第3部分の表面に形成される酸化皮膜の膜厚を考慮して軸受ハウジングの各々の寸法を変更する必要がない。また、軸受支持部、潤滑油入口側端面、潤滑油出口側端面、及び、第3部分のうち少なくとも1つについて、水蒸気処理によって形成される酸化皮膜の膜厚に誤差が生じた場合であっても、水蒸気処理の後に切削加工が行われるため、寸法管理が容易である。したがって、ターボチャージャの機能や組立性を損なうことなく耐食性を向上させることができる。
【0100】
(11)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記タービンハウジング水蒸気処理ステップは、前記タービンハウジング加工ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップは、前記軸受ハウジング加工ステップと前記組立ステップとの間に行われる。
【0101】
上記(11)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、タービンハウジング加工ステップの後に、タービンハウジング蒸気処理ステップが行われ、軸受ハウジング加工ステップの後に、軸受ハウジング水蒸気処理ステップが行われる。このため、タービンハウジングの酸化皮膜をタービンハウジングの全体に形成した状態を維持することができ、タービンハウジングの高い耐食性を実現することができる。また、軸受ハウジングの酸化皮膜を軸受ハウジングの全体に形成した状態を維持することができ、軸受ハウジングの高い耐食性を実現することができる。
【0102】
(12)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記タービンハウジング水蒸気処理ステップは、前記タービンハウジング加工ステップと前記組立ステップとの間に行われ、
前記軸受ハウジング加工ステップは、前記軸受ハウジング水蒸気処理ステップと前記組立ステップとの間に行われる。
【0103】
上記(12)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、タービンハウジング加工ステップの後に、タービンハウジング蒸気処理ステップが行われ、軸受ハウジング水蒸気処理ステップの後に、軸受ハウジング加工ステップが行われる。このため、外観上最も大きな部分を占めて高温ガスに晒されるタービンハウジングは、切削加工後に酸化皮膜が形成されるため、高い耐食性を保持することができる。また、高い寸法精度を求められる軸受ハウジングは、水蒸気処理の後に切削加工を行うことで、適切な寸法及び形状に加工することができるため、軸受性能の低下を抑制しつつ、耐食性を向上することができる。
したがって、高温ガスに晒されるタービンハウジングの耐食性を効果的に高めつつ、軸受性能に寄与する軸受ハウジングを適切な寸法及び形状に精度良く加工することができ、ケーシングの耐食性と軸受性能を効果的に高めることができる。
【0104】
(13)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法において、
前記ターボチャージャは、
ウェイストゲートバルブ(例えば上述のウェイストゲートバルブ60)と、
前記ウェイストゲートバルブを開閉するための駆動力を生成するアクチュエータ(例えば上述のアクチュエータ62)と、
前記アクチュエータから前記ウェイストゲートバルブに伝達するための駆動伝達機構(例えば上述の駆動伝達機構64)と、
を更に備え、
前記駆動伝達機構は、ロッド(例えば上述のロッド66)及び前記ロッドに形成されたロッド穴(例えば上述のロッド穴68)に挿通されたピン(例えば上述のピン70)と、
を含み、
前記ケーシングの製造方法は、前記ロッド穴の内周面及び前記ピンの外周面のうち少なくとも一方に水蒸気処理を施して酸化皮膜を形成するステップを更に備える。
【0105】
従来は、ロッドにはステンレスが使用されたり、電気亜鉛メッキにより防錆処理がされていた。しかしながら、ロッド穴の内周面などの複雑な形状への亜鉛メッキ処理は困難であり、ロッド穴の内周面とピンの外周面とが固着する可能性があった。これに対し、上記(13)に記載のターボチャージャのケーシングの製造方法によれば、水蒸気処理は対象物の大きさや形状に制限が少なく、ロッドに水蒸気処理を施すことにより、ロッド穴の内周面に対して良好に酸化皮膜を形成することができるため、ロッド穴の耐食性を向上することができ、ロッド穴とピンとの固着を抑制することができる。また、水蒸気処理により耐摩耗性が向上するため、ロッド穴の内周面とピンの外周面との摺動による摩耗を低減することができる。
【0106】
(14)本開示のターボチャージャ(例えば上述のターボチャージャ2)のケーシング(例えば上述のケーシング5)は、前記ターボチャージャのタービンロータ(例えば上述のタービンロータ4)を収容するタービンハウジング(例えば上述のタービンハウジング6)と、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受(例えば上述の軸受8)を収容する軸受ハウジング(例えば上述の軸受ハウジング10)と、を備え、
前記軸受ハウジングのうち前記タービンハウジングと嵌め合う部分(例えば上述の第2部分32)の表面には、切削加工された加工面が形成され、
前記軸受ハウジングのうち前記タービンハウジングと嵌め合う部分を除く少なくとも一部の表面には、酸化皮膜が形成される。
【0107】
上記(14)に記載のターボチャージャのケーシングによれば、軸受ハウジングとタービンハウジングとの良好な嵌め合い状態を実現しつつ、ケーシングの耐食性を向上することができる。軸受ハウジングのうちタービンハウジングと嵌め合う部分を除く少なくとも一部の表面には、10~30μmの膜厚を有する酸化皮膜が形成されてもよい。
【0108】
(15)幾つかの実施形態では、上記(14)に記載のターボチャージャのケーシングにおいて、
前記タービンハウジングのうち前記軸受ハウジングと嵌め合う部分(例えば上述の第1部分30)の表面には、切削加工された加工面が形成され、
前記タービンハウジングのうち前記軸受ハウジングと嵌め合う部分を除く少なくとも一部の表面には、酸化皮膜が形成される。
【0109】
上記(15)に記載のターボチャージャのケーシングによれば、軸受ハウジングとタービンハウジングとの良好な嵌め合い状態を実現しつつ、ケーシングの耐食性を向上することができる。タービンハウジングのうち軸受ハウジングと嵌め合う部分を除く少なくとも一部の表面には、10~30μmの膜厚を有する酸化皮膜が形成されてもよい。
【0110】
(16)幾つかの実施形態では、上記(14)に記載のターボチャージャのケーシングにおいて、
前記タービンハウジングの表面全体に酸化皮膜が形成される。
【0111】
上記(16)に記載のターボチャージャのケーシングによれば、軸受ハウジングとタービンハウジングとの良好な嵌め合い状態を実現しつつ、ケーシングの耐食性を向上することができる。
【0112】
(17)本開示のターボチャージャ(例えば上述のターボチャージャ2)のケーシング(例えば上述のケーシング5)は、前記ターボチャージャのタービンロータ(例えば上述のタービンロータ4)を収容するタービンハウジング(例えば上述のタービンハウジング6)と、前記タービンロータを回転可能に支持する軸受(例えば上述の軸受8)を収容する軸受ハウジング(例えば上述の軸受ハウジング10)と、を備え、
前記軸受ハウジングのうち前記タービンハウジングと嵌め合う部分(例えば上述の第2部分32)の表面には、切削加工された加工面上に酸化皮膜が形成され、
前記タービンハウジングのうち前記軸受ハウジングと嵌め合う部分(例えば上述の第1部分30)の表面には、切削加工された加工面上に酸化皮膜が形成される。
【0113】
上記(17)に記載のターボチャージャのケーシングによれば、軸受ハウジングとタービンハウジングとの良好な嵌め合い状態を実現しつつ、ケーシングの耐食性を向上することができる。軸受ハウジングのうちタービンハウジングと嵌め合う部分の表面には、切削加工された加工面上に10~30μmの膜厚を有する酸化皮膜が形成され、タービンハウジングのうち軸受ハウジングと嵌め合う部分の表面には、切削加工された加工面上に10~30μmの膜厚を有する酸化皮膜が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0114】
2 ターボチャージャ
3 回転体
4 タービンロータ
5 ケーシング
6 タービンハウジング
8 軸受
10 軸受ハウジング
12 コンプレッサインペラ
14 コンプレッサハウジング
16 シャフト
18 ハブ
20 タービン動翼
22 スクロール流路
24 スクロール部
26 シュラウド部
28 出口管部
30 第1部分
32 第2部分
34 第3部分
36 軸受支持部
38 入口
40 潤滑油入口側端面
42 出口
44 潤滑油出口側端面
46 ハブ
48 コンプレッサ翼
50 入口管部
52 シュラウド部
54 スクロール流路
56 スクロール部
58 第4部分
60 ウェイストゲートバルブ
62 アクチュエータ
64 駆動伝達機構
66 ロッド
68 ロッド穴
70 ピン
72 アーム
74 シャフト
76 支持部