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特許7438390感熱記録材料における顕色剤としてのN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】感熱記録材料における顕色剤としてのN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素の使用
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/333 20060101AFI20240216BHJP
   B41M 5/40 20060101ALI20240216BHJP
   B41M 5/41 20060101ALI20240216BHJP
   B41M 5/327 20060101ALI20240216BHJP
   B41M 5/42 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B41M5/333 220
B41M5/40 220
B41M5/41 200
B41M5/327 215
B41M5/42 211
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022557175
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2021057129
(87)【国際公開番号】W WO2021191085
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】20164949.8
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522327876
【氏名又は名称】コーラー イノベーション アンド テクノロジー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホルン,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ストーリング,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ステパット,マーレン
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-528440(JP,A)
【文献】特開2019-048411(JP,A)
【文献】特表2018-509316(JP,A)
【文献】特開2018-144392(JP,A)
【文献】特表2002-532441(JP,A)
【文献】国際公開第00/035679(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0221982(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03109059(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラッグ角(2θ/CuKα)が10.3、11.0、12.9、13.2、15.4、17.1、18.0、18.2、19.4、20.0、20.7、21.2、23.0、24.9、25.3、26.5、26.8、27.5、30.7、32.7のX線回折パターンを有するN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素の、保管用の感熱記録材料における顕色剤としての使用であって、
前記感熱記録材料は、
画像濃度及び/若しくは相対的印刷コントラストの低下並びに/又は面積ベースの顕色剤量の 減少を抑えるように、
担体基材と、前記担体基材の一方の面に付与され、少なくとも1つの非フェノール系顕色剤及び少なくとも1つの発色剤を含む感熱発色層と、
裏面にコーティングを付与する印刷方法を用いた裏面印刷を可能にするための、
前記感熱発色層とは反対側に面する前記担体基材面上の接着層及び/又はコーティングと
を含み、
前記使用において、
(1)移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の≧1.20光学濃度単位の値での保管後の画像濃度が、保管前の画像濃度の値の35%以上、かつ/又は、
(2)前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の相対的印刷コントラストが、保管前の相対的印刷コントラストの値の70%以上、かつ/又は、
(3)前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の面積ベースの顕色剤量が、保管前の面積ベースの顕色剤量の30%以上である、
使用。
ここで、前記移行試験は、次に示すものである。
感熱発色層とは反対側に面する担体基材面に接着層を有するA4感熱記録材料を、縦方向に幅6cmの3つの細片に分割する。2つの細片は、60℃、圧力1350N/m、相対湿度50%で、光のない状態において2枚のガラス板の間で4週間保管する。
一方、1つの細片には印刷し、画像濃度の決定に従って測定し、保管前の画像濃度(o.d.)とする。
前記2つの細片は、保管後、一旦室温にした後、前記画像濃度の決定に従って印刷し、光学濃度を決定し、平均し、次の(式3)に従って、同様に決定された保管されていない試料における保管前の画像濃度に対して、保管後の画像濃度を定める。
【数3】
前記画像濃度の決定は、X-Rite社のSpectroEye濃度計を使用して画像濃度(光学濃度(optical density:o.d.値))を測定する、ことによって行う。ここで、o.d.値の測定不確実性は≦2%と推定する。(式3)に従って計算された%値のばらつきは≦±2パーセントポイントとする。
【請求項2】
前記担体基材が、紙、合成紙及び/又はプラスチックフィルムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記少なくとも1つの発色剤が、トリフェニルメタン系、フルオラン系、アザフタリド系及び/又はフルオレン系であることを特徴とする、請求項1又は2項に記載の使用。
【請求項4】
少なくとも1つのさらなる中間層が前記担体基材と前記感熱発色層との間に存在することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記発色剤が、前記感熱発色層の全固形分に対して、5~30重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記顕色剤が、前記感熱発色層の全固形分に対して、3~35重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記接着層が、少なくとも1つの感圧接着剤を含み、かつ/又は熱活性化接着剤を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の≧1.20光学濃度単位の値での画像濃度が、保管前の画像濃度の値の35%以上、前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の相対的印刷コントラストが、保管前の相対的印刷コントラストの値の70%以上、前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の面積ベースの顕色剤量が、保管前の面積ベースの顕色剤量の30%以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の≧1.20光学濃度単位の値での画像濃度が、保管前の画像濃度の値の35%以上、前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の相対的印刷コントラストが、保管前の相対的印刷コントラストの値の70%以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の相対的印刷コントラストが、保管前の相対的印刷コントラストの値の70%以上、前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の面積ベースの顕色剤量(mg/m2)が、保管前の面積ベースの顕色剤量の30%以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の≧1.20光学濃度単位の値での画像濃度が、保管前の画像濃度の値の35%以上、前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の面積ベースの顕色剤量が、保管前の面積ベースの顕色剤量の30%以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の≧1.20光学濃度単位の値での画像濃度が、保管前の画像濃度の値の40%以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の相対的印刷コントラストが、保管前の相対的印刷コントラストの値の70%以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記移行試験に従って保管された前記感熱記録材料の面積ベースの顕色剤量が、保管前の面積ベースの顕色剤量の30%以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記感熱記録材料が、前記感熱発色層とは反対側に面する前記担体基材面上に接着層を有することを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱記録材料における顕色剤としてのN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素の使用であって、前記感熱記録材料は、担体基材と、担体基材の一方の面に付与され、少なくとも1つの非フェノール系顕色剤としてのN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素及び少なくとも1つの発色剤を含有する感熱発色層と、その感熱層を担持する担体基材面とは反対側の面に付与されるいわゆるバックコート調製物とを含み、サーマル印刷されていない記録材料の長期保管後の熱誘導印字性能の低下を抑える目的での使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バックコート調製物は、自己接着ラベル(サーマルラベル)を得るため、又は様々な用途特性を改善するために感熱記録材料と共に使用される。具体的には、バックコート調製物は、自己接着層又はポリマー結合剤及び顔料から実質的になるコーティング(バックコート)であり得る。
【0003】
直接サーマル印刷のための自己接着層を裏面に備えた感熱記録材料(いわゆるサーマルラベル)は、従来技術から知られている。
【0004】
文献の特開昭59162087号公報、米国特許出願公開第4370370号明細書、及び米国特許出願公開第4388362号明細書には、剥離紙を有するサーマルラベルが記載されている。
【0005】
文献の独国特許出願公開第19757589号明細書には、感熱層の上に保護層を有し、剥離紙を含まない(「ライナーレス」)サーマルラベルが記載されている。
【0006】
文献の独国特許出願公開第19806433号明細書には、シリコーン化合物を含まず化学線によって硬化された保護層を有するライナーレスのサーマルラベルが開示されている。
【0007】
文献の欧州特許出願公開第0600622号明細書及び独国特許発明第19724647号明細書には、保護層を有し、ホットメルトで裏面がコーティングされたライナーレスのサーマルラベルが記載されている。
【0008】
文献の欧州特許第1085069号明細書及び欧州特許第2474963号明細書には、熱活性化接着剤を有するライナーレスの実施形態のサーマルラベル材料が開示されており、保護層ありと保護層なしの両方のサーマルラベルが記載されている。
【0009】
文献の欧州特許出願公開第3219507号明細書では、感熱層の表面が接着剤に対して非接着性にされている、事実上の保護層がないライナーレスのサーマルラベルが特許請求されている。
【0010】
従来の印刷方法を用いて裏面の印刷適性を改善するために、又は好ましくない湿気条件下で担体基材のカールを最小限にするために、いわゆる「バックコート」コーティングを備えた感熱記録材料も従来技術から知られている。
【0011】
すなわち、異なる周囲湿度での感熱記録材料の担体基材の2つの面の異なる収縮挙動(2つの面/コートの異なる水蒸気吸収)は、バックコーティングによって効果的に改善することができる。例えば、文献の米国特許第6667275号明細書には、基材の巻き取り印刷用紙のカールに有利に作用するための、感熱記録材料用の多層バックコーティングが開示されている。
【0012】
文献の特開2018167483号公報には、特に、裏面にコーティングを付与することによって、裏面上の油性インク又は印刷インクに曝された感熱記録材料のサーマル生成印刷の耐性を改善する方法が開示されている。多くの場合、これらのバックコーティングの配合物は、SB又はアクリレートラテックスなどの水性エマルジョンポリマーを必須成分として含有する。
【0013】
例えば、文献の特開2003175671号公報には、軟質ポリマーフィルム(Tg≧-30°)を形成する感熱記録材料用の水性ラテックスで調製されたバックコーティングが特許請求されている。文献の特公平0720735号公報及び特開2000204123号公報には、感熱記録材料用のアクリレートのエマルジョンポリマーを有するバックコート配合物が開示されている。
【0014】
感熱記録材料の発色層には、通常、熱の影響下で互いに反応することによって発色現象をもたらす発色剤及び顕色剤が存在する。費用効率の良いフェノール系顕色剤(ビスフェノールA、ビスフェノールS等)が広く使用されている。これらにより、特定の用途に許容可能な性能プロファイルを有するサーマルラベルを得ることができる。
【0015】
感熱発色層中に非フェノール系顕色剤を含有するサーマルラベルもまた、従来技術から知られている。これは特に、印刷された感熱記録材料が、可塑化物質及び可塑化材料又は油などの疎水性物質と接触する場合の印刷の耐久性を改善するために開発された。技術的利点に加えて、(ビス)フェノール系化学物質の毒性リスクに関する公の場の議論により、特に、非フェノール系顕色剤への関心が大いに高まった。
【0016】
バックコーティングが施され、サーマル印刷されていない(「白色の」)自己接着サーマルラベル又は感熱記録材料を長期間にわたって、特に高い周囲温度及び/又は湿度で保管すると、用途関連特性が悪化する可能性がある。特に、このようなバックコート調製物が施された感熱記録材料は、保管後に、印刷物(例えば、バーコードや文字)の黒色度又は保管後の表面白色度が規定値に達しなくなる可能性がある。しかし、印刷物の黒色度の低さは、一般に表示のコントラストの減少につながり、背景の白色度の低減によってさらに悪化する。例えばバーコードの可読性は、ラベル用途にとって特に重要であるため、低コントラスト値は、この必須の用途関連特性に悪影響を及ぼす。この現象の原因は、裏面及び/又はバックコーティング上の接着層であり、この接着層から、保管時間が経過するにつれて、物質が担体基材を通って化学反応性感熱記録層に移行し、その後のサーマル印刷プロセスに有害な方法で、発色反応に必須の成分、特に顕色剤と相互作用すると考えられる。この移行の問題に対しては、モル質量が比較的小さい(<10kDa)物質が最も大きく寄与している。また、熱活性化接着剤、すなわち室温で固形の接着剤を使用した場合にも、保管後の性能悪化が生じる可能性がある。
【0017】
特に、構造的に比較的単純な(ビス)フェノールよりも複雑な化学構造を有し、一般に非フェノール系顕色剤の場合のように分子中に多数の反応部位を有する顕色剤、特にN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素などのスルホニル尿素顕色剤(SU顕剤)は、バックコート調製物を備えた感熱記録材料から放出され得る物質との望ましくない相互作用問題の影響を受ける可能性がある。
【0018】
感圧接着剤の凝集力及び基材への接着強度(接着力)を接着層内で確保するために、典型的な感圧接着剤配合物には、ベースポリマーに加えて、非ポリマー粘着性樹脂(例えば、天然樹脂又は炭素樹脂)及び/又は可塑剤、粘着付与剤、並びに場合により架橋剤、安定剤等の他の小分子添加剤が使用される。
【0019】
ベースポリマーが合成プロセスからの残留モノマー又はオリゴマーを含有し、高い周囲湿度及び周囲温度で促進される加水分解によってさらなるモノマーを形成する可能性があることを考慮すると、接着層に固有の小分子物質の移行可能性については、容易に認識され得る。
【0020】
同じことが、バックコーティングにおける結合剤又はバリア剤として頻繁に使用され、乳化重合によって生成されるSB及びアクリレートラテックスにも当てはまる。
【0021】
バックコーティングのポリマー成分の移行可能性について判断するときには、ラテックス中に残留モノマーが存在する上記の可能性に加えて、界面活性剤、石鹸、及び開始剤などの、乳化重合における典型的なプロセス関連の物質が存在することを考慮しなければならない。
【0022】
先行技術によって接着サーマルラベルのこの問題に対する様々な解決策が提供されており、すなわち、文献の米国特許出願公開第4370370号明細書及び欧州特許第2474963号明細書に記載されているように、担体基材の裏面と接着層との間に追加の層(いわゆるバックコート)を付与すること、又は文献の特開昭59162087号公報に記載されているように、特殊な物質、例えばカルボキシル化ポリビニルアルコールを接着層に導入することが提供されている。
【0023】
しかし、これらの解決策は追加の生成工程を必要とし、ラベル材料を全体的により複雑にするため経済的に不利であり、より高価で移行が少ない結合剤を利用する場合に、バックコーティングの移行問題を最小限にすることができるだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】特開昭59162087号公報
【文献】米国特許出願公開第4370370号明細書
【文献】米国特許出願公開第4388362号明細書
【文献】独国特許出願公開第19757589号明細書
【文献】独国特許出願公開第19806433号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0600622号明細書
【文献】独国特許発明第19724647号明細書
【文献】欧州特許第1085069号明細書
【文献】欧州特許第2474963号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3219507号明細書
【文献】米国特許第6667275号明細書
【文献】特開2018167483号公報
【文献】特開2003175671号公報
【文献】特公平0720735号公報
【文献】特開2000204123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、特に感熱記録材料の品質保持期限を改善することによって、裏面に接着層及び/又は機能性コーティングを担持するサーマル印刷されていない感熱記録材料の特性プロファイルを最適化することにある。この方法では、特にサーマル印刷されていない感熱記録材料がより長い保管時間を経た場合にも、保管後のサーマル印刷における印字性能の低下を、可能な限り最大限抑えることにある
【0026】
印字性能は、とりわけ、相対的印刷コントラスト及び画像濃度によって特徴付けられる。
【0027】
また、自己接着記録材料(又は、裏面印刷のためにバックコーティングを備えた記録材料)の重要な用途関連特性への悪影響を抑えることも意図されており、この悪影響は主に、過酷な保管条件下での接着層、バックコーティング、又は裏面印刷インクからの構成要素の移行によって生じる。
【0028】
本発明者らは、特にモル質量が比較的低い(<10kDa)物質によるこの不利な移行が、以下の状況で生じることを認めた。
【0029】
a)記録材料が裏面に自己接着層を有している(接着剤からの移行)。
【0030】
b)記録材料が、じかに(「直接」)裏面に印刷されている(印刷インクからの移行)。
【0031】
c)記録材料がバックコーティングを有している(このコ-ティングからの移行)。この場合、記録材料は必ずしも印刷されている必要はなく、移行は、印刷されていない状態での保管によっても生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0032】
驚くべきことに、今回、非フェノール系顕色剤のN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素の特定の多形体を使用することによって、上記の欠点を克服できることが分かった。特に、その使用によって、バックコート調製物が施された感熱記録材料の、要求される周囲条件下で保管した後の印字性能の低下が抑えられる。
【0033】
非フェノール系顕色剤のN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素のこの特定の多形体は、以下ではベータ形とも呼ばれる。
【0034】
ベータ形の他に、以下の2つの他の多形体が知られている。
【0035】
1)アルファ形が国際公開第00/35679号に最初に記載され、また、感熱記録材料用の顕色剤としてPergafast 201又はPF201の名称で市販されている。
【0036】
2)ベータ形に相当する多形体及び別の多形体が、米国特許出願公開第2005/221982号明細書に初めて記載された。前記文献にはまた、感熱記録材料用の顕色剤としての3つの多形体の混合物の使用、並びに2つのさらなる多形体又は3つの多形体の混合物を含有する感熱記録材料が記載されている。感熱記録材料はまた、他の既知の顕色剤を含有してもよく、少なくとも1つの顕色剤、例えばベータ形又はガンマ形を使用することによって調製されてもよい。担体材料は、裏面に保護層、接着層又は磁性層を有してもよい。しかし、問題に対処するための本発明によるベータ形の使用は、ここでは認識されておらず、また概括的な開示に基づいて自明でもない。
【0037】
顕色剤としての化学化合物、N-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素(Pergafast 201)のアルファ形の使用については、文献の欧州特許出願公開第3 109 059号明細書に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0038】
上述の問題は、感熱記録材料における顕色剤として、ブラッグ角(2θ/CuKα)が10.3、11.0、12.9、13.2、15.4、17.1、18.0、18.2、19.4、20.0、20.7、21.2、23.0、24.9、25.3、26.5、26.8、27.5、30.7、32.7(β-PF201)のX線回折パターンを有するN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素の使用によって対処される。前記感熱記録材料は、相対的印刷コントラスト及び/若しくは画像濃度の低下並びに/又は面積ベースの顕色剤量の減少を抑えるように、担体基材と、担体基材の一方の面に付与され、非フェノール系顕色剤として少なくともN-(p-トルエンスルホニル)-N’-(3-p-トルエンスルホニル-オキシ-フェニル)尿素及び少なくとも1つの発色剤を含む感熱発色層と、用途関連特性(例えば、従来の印刷方法及び/又はローリングを用いる裏面印刷に対する適合性)を改善するための、感熱発色層とは反対側に面する担体基材面上の接着層及び/又はコーティングとを含み、(以下に定める)移行試験に従って保管された感熱記録材料の相対的印刷コントラストが少なくとも70%に等しく、かつ/又は、移行試験に従って保管された感熱記録材料の≧1.20光学濃度単位の値での画像濃度が、保管前の画像濃度の値の少なくとも35%に等しく、かつ/又は、移行試験に従って保管された感熱記録材料の面積ベースの顕色剤量(mg/m2)が、保管前の面積ベースの顕色剤量の少なくとも30%に等しい。
【0039】
本発明による使用は、特に、自己接着感熱記録材料、すなわち、感熱発色層とは反対側に面する担体基材面上に接着層を有する感熱記録材料の非常に実用的な事例に関する。
【0040】
自己接着感熱記録材料は、好ましくは、表面から取り外し可能であるか、又は永久接着性である。
【0041】
好ましくは、(以下に定める)移行試験に従って保管された用紙の相対的印刷コントラストは、少なくとも80%である。
【0042】
好ましくは、移行試験に従って保管された用紙の≧1.20光学濃度単位の値での画像濃度は、少なくとも40%、特に好ましくは少なくとも50%である。
【0043】
好ましくは、移行試験に従って保管された用紙における面積ベースの顕色剤量は、保管前の顕色剤量の少なくとも30%である。
【0044】
本開示の文脈において、保管とは、60℃、圧力1350N/m2、相対湿度50%で、光がない状態において、2枚のガラス板の間に感熱記録材料を4週間保管すること(移行試験)を意味する。
【0045】
移行試験(接着剤移行試験)、画像濃度の決定、相対的印刷コントラストの決定、並びに発色剤及び顕色剤の面積濃度の定量的決定について以下に記載する。
【0046】
(1)白色度の決定
【0047】
Elrepho 3000分光光度計を使用し、ISO 2470に従って、サーマルラベル紙の感熱コーティングを担持する面(=上面)の白色度を決定した。
【0048】
式1を用いて、保管後の白色度の減少%を算出した。
【0049】
【数1】
【0050】
(2)画像濃度の決定
【0051】
X-Rite社のSpectroEye濃度計を使用して画像濃度(光学濃度(optical density:o.d.))を測定した。ここで、o.d.値の測定不確実性は≦2%と推定された。(式3)に従って計算された%値のばらつきは≦±2パーセントポイントであった。
【0052】
(3)相対的印刷コントラストの決定
【0053】
サーマル印刷領域の光学濃度(oDS)及び印刷されていない領域の光学濃度(oDW)の値から、式(2)に従って相対的コントラストを計算した(s=黒色領域、w=白色領域)。
【0054】
【数2】
【0055】
(4)移行試験(接着剤移行試験)
【0056】
感熱発色層とは反対側に面する担体基材面に接着層を有するA4感熱記録材料を、縦方向に幅6cmの3つの細片に分割した。2つの細片は、60℃、圧力1350N/m2、相対湿度50%で、光のない状態において2枚のガラス板の間で4週間保管し、一方、1つの細片には印刷し、(2)に従って測定した(保管前の画像濃度、o.d.)。
【0057】
2つの細片は、保管後、一旦室温にした後、(2)に従って印刷し、光学濃度を決定し、平均し、式(式)に従って、同様に決定された保管されていない試料の画像濃度値に対して、光学濃度の値を定めた。
【0058】
【数3】
【0059】
(5)発色剤及び顕色剤、特に顕色剤の面積濃度の定量的決定
【0060】
DAD検出器を備えたAgilent 1200シリーズのHPLC装置でのHPLC分離後に、コート成分(発色剤及び顕色剤)を定量化した。
【0061】
試料調製:パンチを使用して紙試料から2つの円形領域(面積0.000402m2)を打ち抜いた。超音波浴において、3mlのアセトニトリル(HPLC品質)で紙試料を30分間抽出した。抽出物が濁っている場合は、これを0.45μmフィルタに通して濾過した。標準として、10μlを注入した。
【0062】
構成成分のHPLC分離:オートサンプラを使用して、上記抽出物を分離カラム(カートリッジ4×2mmを有するSecurityGuardプレカラムを前に備えたSynergi 4μm Fusion RP80A、250×3mm)に注入し、流動剤のアセトニトリル:0.1%ギ酸を含むH2O(60:40体積部)を用い、アセトニトリル(0.1%ギ酸を含む)グラジエントで溶出した。
【0063】
クロマトグラムの定量的評価は、t回を通して特定された試料ピークと、参照試料によって決定された標準曲線との面積比較によって行った。HPLC定量化における測定誤差は±2%であった。
【0064】
既知の方法に従って、多形化合物(α形及びβ形)の調製を行った。
【0065】
表1に、粉末X線回折図(XRPD)からの最も強い反射、特徴的なFTIRバンド、及び融解挙動(DSC)などの、調査したPF 201の多形体の最も重要な測定特性をまとめている。
【0066】
【表1】
【0067】
感熱記録材料用の担体基材の選択は重要ではない。しかし、経済的及び環境的な観点から、担体基材が紙、合成紙及び/又はプラスチックフィルム、特に紙を含んでいると好ましい。
【0068】
必要に応じて、担体基材と感熱層との間に少なくとも1つのさらなる中間層(「プレコート」)が存在し、このさらなる中間層には、感熱層用担体の表面平滑性を改善し、担体基材と感熱層との間の遮熱を確保するという役割がある。
【0069】
好ましくは、この中間層における顔料として、有機中空球状顔料及び/又は焼成カオリンが使用される。
【0070】
また、少なくとも1つの保護層及び/又は印刷適性を高める少なくとも1つの層が、本発明による感熱記録材料中に存在してもよく、これらの層は感熱層の上に付与される。
【0071】
当該感熱記録材料は、特に、いわゆるライナーレス用途のために、少なくとも1つの通例の保護層及び/又は通例の非粘着コーティング(例えばシリコーンコーティング)を追加的に含むことができる。ここでも、ベータ形は、考えられるこれらの層からの物質の移行に関して有利であることが証明されている。原理的には、ベータ形は、特に通常の、時には過酷で長期の保管条件下で、他のコーティングから発色層に移行する可能性がある物質に対して、感熱記録材料を低感受性にすると推測され得る。
【0072】
好ましくは、(使用される顕色剤の総量に対して)少なくとも80重量%、特に好ましくは少なくとも90重量%のベータ形が顕色剤として使用される。特に好ましくは、不可避不純物を除いて、ベータ形のみが顕色剤として使用される。
【0073】
発色剤の選択に関して、当該感熱記録材料はまた、いかなる大きな制約も受けない。しかし、好ましくは、発色剤は、トリフェニルメタン、フルオラン、アザフタリド及び/又はフルオレン系の色素である。特に非常に好ましい発色剤はフルオラン系の色素であり、それは、その入手可能性及びバランスのとれた用途関連特性により、魅力的な価格/性能の比を有する記録材料の提供が可能になるためである。
【0074】
特に好ましいフルオラン系色素は以下の通りである。
【0075】
3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、
【0076】
3-(N-エチル-N-4-トルジンアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、
【0077】
3-(N-エチル-N-イソアミルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、
【0078】
3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-(2,4-ジメチルアニリノ)フルオラン、
【0079】
3-ピロリジノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、
【0080】
3-(シクロヘキシル-N-メチルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、
【0081】
3-ジエチルアミノ-7-(3-トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン、
【0082】
3-N-n-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、
【0083】
3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-(3-メチルアニリノ)フルオラン、
【0084】
3-N-n-ジブチルアミノ-7-(2-クロロアニリノ)フルオラン、
【0085】
3-(N-エチル-N-テトラヒドロフルフリルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、
【0086】
3-(N-メチル-N-プロピルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、
【0087】
3-(N-エチル-N-エトキシプロピルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、
【0088】
3-(N-エチル-N-イソブチルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン及び/又は
【0089】
3-ジペンチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン。
【0090】
発色剤は、記録材料の望ましい用途関連特性が結果として損なわれないことを条件として、個々の物質として、又は2つ以上の発色剤の任意の混合物として使用することができる。
【0091】
発色剤は、感熱層の全固形分に対して、好ましくは約5~約30の量、特に好ましくは約8~約20の量で存在する。
【0092】
使用される顕色剤は、個別の、又は同じ顕色剤の他の多形体との混合物として、若しくは化学的に異なる顕色剤との混合物としての、最高融点を有する多形変態の非フェノール系顕色剤(表1の多形=ベータ形)である。
【0093】
顕色剤の量は、感熱層の全固形分に対して、好ましくは約3~約35重量%、特に好ましくは約10~約25重量%である。
【0094】
顕色剤と発色剤との重量比は、好ましくは最大3:1、特に好ましくは最大2:1、非常に特に好ましくは最大1:1である。おそらく、改善された又は少なくとも同じ品質の感熱記録材料を得るために、ベータ形はアルファ形よりも少量で使用することができる。
【0095】
顕色剤の少なくとも1つの多形変態(ベータ形)に加えて、1つ又は複数の、サーマル溶媒とも呼ばれる増感剤が感熱発色層中に存在してもよく、このことには、サーマル印刷感度がより制御し易くなるという利点がある。
【0096】
一般に、融点が約90~約150℃であり、色複合体の形成を妨げることなく溶融状態で発色成分(発色剤及び顕色剤)を溶解する結晶性物質は、有利には増感剤であると考えられる。
【0097】
好ましくは、増感剤は、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド又はパルミチン酸アミドなどの脂肪酸アミド、N,N’-エチレン-ビス-ステアリン酸アミド又はN,N’-エチレン-ビス-オレイン酸アミドなどのエチレン-ビス-脂肪酸アミド、N-(ヒドロキシメチル)ステアリン酸アミド、N-ヒドロキシメチルパルミチン酸アミド又はヒドロキシエチルステアリン酸アミドなどの脂肪酸アルカノールアミド、ポリエチレンワックス又はモンタンワックスなどのワックス、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジベンジル、4-ベンジルオキシ安息香酸ベンジル、シュウ酸ジ-(4-メチルベンジル)、シュウ酸ジ-(4-クロロベンジル)又はシュウ酸ジ-(4-ベンジル)などのカルボン酸エステル、1,2-ジフェノキシエタン、1,2-ジ-(3-メチルフェノキシ)エタン、2-ベンジルオキシナフタレン又は1,4-ジエトキシナフタレンなどの芳香族エーテル、ジフェニルスルホンなどの芳香族スルホン、及び/又はベンゼンスルホンアニリド又はN-ベンジル-4-トルエンスルホンアミドなどの芳香族スルホンアミド、又は4-ベンジルビフェニルなどの芳香族炭化水素である。
【0098】
増感剤は、感熱層の全固形分に対して、好ましくは約10~約40の量、より好ましくは約15~約25の量で存在する。
【0099】
さらに好ましい実施形態では、発色剤、フェノール不含顕色剤、及び増感剤に加えて、色複合体のための少なくとも1つの安定剤(劣化防止剤)が、感熱発色層中に任意選択で存在する。
【0100】
安定剤は、好ましくは立体障害フェノール類、特に好ましくは1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシル-フェニル)ブタン、1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、及び1,1-ビス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチル-フェニル)ブタンで構成される。
【0101】
本発明による記録材料における安定剤として、尿素-ウレタン化合物(市販品UU)、又は4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンから誘導されるエーテル、例えば4-ベンジルオキシ-4’-(2-メチルグリシジルオキシ)-ジフェニルスルホン(商品名NTZ-95(登録商標)、日本曹達株式会社)又はオリゴマーエーテル(商品名D90(登録商標)、日本曹達株式会社)を使用することができる。
【0102】
安定剤は、好ましくは、少なくとも1つのフェノール不含顕色剤に対して0.2~0.5重量部の量で存在する。
【0103】
さらに好ましい実施形態では、少なくとも1つの結合剤が感熱発色層中に存在する。結合剤は、好ましくは、水溶性デンプン、デンプン誘導体、デンプンをベースとしたEcoSphere(登録商標)タイプのバイオラテックス、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、部分的又は完全に鹸化されたポリビニルアルコール、化学修飾されたポリビニルアルコール又はスチレン-無水マレイン酸コポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、アクリルアミド-(メタ)アクリレートコポリマー、アクリルアミド-アクリレート-メタクリレートターポリマー、ポリアクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、アクリレート-ブタジエンコポリマー、ポリ酢酸ビニル及び/又はアクリロニトリル-ブタジエンコポリマーで構成される。
【0104】
感熱記録材料、好ましくは自己接着感熱記録材料、特に自己接着ラベルの特定の用途関連性能特性を獲得するために、結合剤は、橋かけ剤(架橋剤)の存在下でのコーティングプロセスの乾燥工程において結合剤の最適な架橋度が達成された状態で、好ましくは感熱層中に架橋した形態で存在する。
【0105】
架橋剤は、場合によりホウ素塩(ホウ砂)と混合された、グリオキサール、ジアルデヒドデンプン、グルタルアルデヒド等の多価アルデヒドであってもよく、グリオキシル酸の塩又はエステルであってもよく、炭酸ジルコニウムアンモニウムをベースとした架橋剤であってもよく、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂(polyamidoamine epichlorohydrin resin:PAE樹脂)であってもよく、アジピン酸ジヒドラジド(adipic acid dihydrazide:AHD)、ホウ酸又はその塩などであってもよい。
【0106】
特別に修飾されたポリビニルアルコール又はアクリレートなどの自己架橋結合剤により、結合剤ポリマーに既に導入されている反応架橋性基のおかげで、架橋剤を一切使用しない架橋が可能である。
【0107】
架橋剤は、感熱層からの架橋性結合剤成分に対して、好ましくは約0.05~約0.5の量、特に好ましくは約0.1~約0.2の量で存在する。
【0108】
さらに好ましい実施形態では、少なくとも1つの剥離剤(非粘着剤)又は滑剤が、感熱発色層中に存在する。これらの薬剤は、好ましくは脂肪酸金属塩、例えばステアリン酸亜鉛又はステアリン酸カルシウム、又はベヘン酸塩、合成ワックス、例えば脂肪酸アミドの形態にある、例えばステアリン酸アミド及びベヘン酸アミド、脂肪酸アルカノールアミド、例えばステアリン酸メチロールアミド、様々な融点を有するパラフィンワックス類、様々な分子量のエステルワックス類、エチレンワックス類、様々な硬度のプロピレンワックス類及び/又は天然ワックス類、例えばカルナウバワックス又はモンタンワックスである。
【0109】
剥離剤は、感熱層の全固形分に対して、好ましくは約1~約10の量、特に好ましくは約3~約6の量で存在する。
【0110】
別の好ましい実施形態において、感熱発色層は顔料を含有する。顔料を使用する利点の1つは、それらが、サーマル印刷プロセスで生成された化学融解物を顔料の表面に固定することができることである。顔料を使用して、感熱発色層の表面白色度及び不透明度、並びに従来の印刷インクでの感熱発色層の印刷適性を制御することもできる。最後に、顔料には、例えば、比較的高価な着色機能性化学物質に対する「増量剤の役割」がある。
【0111】
特に適切な顔料は、合成及び天然起源の無機顔料、好ましくは粘土、沈降炭酸カルシウム又は天然の炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、シリカ、沈降シリカ及びヒュームドシリカ(例えばAerodisp(登録商標)タイプ)、珪藻土、炭酸マグネシウム、タルクであるが、スチレン/アクリレートコポリマー壁又は尿素/ホルムアルデヒド縮合ポリマーを有する中空顔料などの有機顔料もある。これらは単独で又は任意の混合物で使用することができる。
【0112】
顔料は、感熱層の全固形分に対して、好ましくは約20~約50重量%の量で、特に好ましくは約30~約40重量%の量で存在する。
【0113】
当該感熱記録材料の表面白色度を制御するために、感熱発色層に蛍光増白剤(増白剤)を導入することができる。これらは好ましくはスチルベン誘導体である。
【0114】
特定のコーティング特性を改善するために、個々の場合において、さらなる構成要素、特に増粘剤及び/又は界面活性剤などのレオロジー助剤を当該感熱記録材料の必須構成要素に加えることが好ましい。
【0115】
(乾燥)感熱層の付与面積密度は、好ましくは約1~約10g/m2、好ましくは約3~約5g/m2である。
【0116】
上記の感熱記録材料は、既知の生成方法により得ることができる。
【0117】
乾燥した感熱発色層に平滑化処理を行うと有利である。ここで、ISO5627:1995-03に従って測定されるベック平滑度を、約100~約1000秒、好ましくは約250~約600秒に設定することが有利である。
【0118】
ISO8791-4:2008-05による表面粗さ(PPS)は、約0.50~約2.50μmの範囲、好ましくは1.00~2.00μmの範囲である。
【0119】
当該感熱記録材料は、好ましくはフェノールを含まず、サーマル紙が直接サーマル法を用いて印刷される接着層をその裏面に備える用途に好適であり、特定の印字性能、背景白色度及びコントラストの値に関して、過酷な周囲条件下で保管した場合でも、長い保管寿命が当然確保されている。
【0120】
裏面に付与される接着剤の選択に関して、本発明はいかなる大きな限定も受けない。室温で粘着性である接着剤と、(例えば熱による)活性化の後にのみ粘着性になる接着剤の両方が適している。永久接着剤及び取り外し可能な接着剤の両方を使用することができる。感熱記録材料の裏面に接着物を付与するために使用される技術も、本発明の範囲を決して限定するものではない。接着剤の水性分散液、又は有機媒体に溶解若しくは懸濁した接着剤、並びに溶融状態で付与される接着剤(ホットメルト接着剤)を使用することができる。
【0121】
乾燥した接着層の付与面積密度は、好ましくは約10~約150g/m2、好ましくは約15~約30g/m2である。
【0122】
本発明による使用は、さらに好ましくは、移行試験に従って保管された紙の相対的印刷コントラストが少なくとも70%に等しく、かつ/又は移行試験に従って保管された紙の≧1.20o.d.単位の値での画像濃度が、保管前の画像濃度の値の少なくとも35%に等しいことを特徴とする。
【0123】
本発明による使用は、さらに好ましくは、移行試験に従って保管された紙の相対的印刷コントラストが少なくとも70%に等しく、かつ/又は移行試験に従って保管された紙における面積ベースの顕色剤量(mg/m2)が保管前の顕色剤量の少なくとも30%に等しいことを特徴とする。
【0124】
本発明による使用は、さらに好ましくは、移行試験に従って保管された紙の≧1.20o.d.単位の値での画像濃度が、保管前の画像濃度の値の少なくとも35%に等しく、かつ/又は移行試験に従って保管された紙における面積ベースの顕色剤量(mg/m2)が、保管前の顕色剤量の少なくとも30%に等しいことを特徴とする。
【0125】
さらに好ましい実施形態では、本発明による使用は、移行試験に従って保管された紙の相対的印刷コントラストが少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%に等しいことを特徴とする。
【0126】
さらに好ましい実施形態では、本発明による使用は、移行試験に従って保管された紙の≧1.20o.d.単位の値での画像濃度が、保管前の画像濃度の値の少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%であることを特徴とする。
【0127】
さらに好ましい実施形態では、本発明による使用は、移行試験に従って保管された紙における面積ベースの顕色剤量(mg/m2)が、保管前の顕色剤量の少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%に等しいことを特徴とする。
【0128】
要約すると、顕色剤のフェノール不含ベータ形の特定の多形変態を使用することによって、自己接着感熱記録材料、特にサーマルラベルを得ることが可能であり、これは、過酷な周囲条件下での長期保管後の、表面白色度の顕著な耐久性、サーマル印刷における高い印字性能及び印刷画像の良好なコントラスト値によって特徴付けられることが、驚くべきことに示されたと主張することができる。
【実施例
【0129】
Pergafast 201(登録商標)(表1からのα多形、アルファ形)の低融点多形変態を比較用顕剤として使用した。
【0130】
自己接着ラベルとしてのサーマル紙の仕上げ
【0131】
A4シートの裏面への接着層の付与
【0132】
a)表面に感熱層を担持するA4用紙(サーマル紙)の裏面に、ドクターブレードを使用して接着剤分散液を付与し、ホット・エア・ガンを使用して最高70℃で乾燥させた。さらなる加工において接着層を保護するために、シリコン処理をした剥離紙を、エアポケット及びしわを避けながら接着層に積層した。
【0133】
b)2枚の剥離紙の間の薄い接着層からなる「接着剤-ライナーサンドイッチ」の場合、2枚のライナー紙の一方を取り外した後、エアポケットやしわを避けながら、A4サーマル紙の裏面に接着層(粘着性の面)を積層した。
【0134】
サーマルラベルの生成中、最初に接着層を付与し、次に接着層を担持する反対側の面に感熱記録層を付与するかどうかは重要ではい。
【0135】
感熱記録紙の感熱発色層を形成するための水性コーティング懸濁液を、顔料コーティングでプレコートされた72g/m2の紙のコート側に、ドクターバーによって実験室規模で付与した。
【0136】
上記の顔料添加プレコートの組成は重要ではない。通常、このコーティングは、焼成カオリンと、スチレン-ブタジエン及び/又はデンプンをベースとした結合剤とからなる。場合によっては無機顔料と混合した有機(中空球状)顔料を使用することも一般的である。この顔料添加層の付与量は、約3~10g/m2の間である。
【0137】
感熱コーティング物の水性付与懸濁液を乾燥させた後、サーマル記録シートを得た。感熱発色層の付与量は、3.8~4.3g/m2の間であった。感熱層を担持した反対側の基材面(裏面)に、上記a)又はb)の1つの方法に従って接着層を付与することにより、サーマルラベルとしての使用に適した複合材料を得た。接着剤の付与量は約20g/m2であった。
【0138】
上記の知見に基づき、担体基材上に複合画像を形成するために、水性付与懸濁液の以下の配合物を上記のように使用し、感熱記録材料又はサーマル紙を生成した。
【0139】
付与懸濁液のための分散液(いずれの場合も1重量部)の調製
【0140】
20重量部の3-N-n-ジブチルアミン-6-メチル-7-アニリノフルオラン(ODB-2)を、33重量部のGhosenex(商標)L-3266(スルホン化ポリビニルアルコール、Nippon Ghosei社)の15%水溶液とビーズミル中で粉砕することによって、水性分散液A(発色剤分散液)を調製した。
【0141】
66重量部のGhosenex(商標)L-3266の15%水溶液と共に、40重量部の顕色剤をビーズミル中で粉砕することによって、水性分散液B(顕色剤分散液)を調製した。
【0142】
33重量部のGhosenex(商標)L-3266の15%水溶液と40重量部の増感剤をビーズミル中で粉砕することによって、水性分散液C(増感剤分散液)を調製した。
【0143】
粉砕によって生成された分散液は全て、平均粒径D(4,3)が0.80~1.20μmであった。Beckman Coulter社のCoulter LS230装置を使用して、分散液の粒径分布をレーザー回折によって測定した。
【0144】
分散液D(滑剤分散液)は、9重量部のステアリン酸Zn、1重量部のGhosenex(商標)L-3266、及び40部の水からなる20%ステアリン酸亜鉛分散液であった。
【0145】
顔料Pは、56% PCC懸濁液(PCC=沈降炭酸カルシウム)であった。
【0146】
結合剤は、10%ポリビニルアルコール水溶液(Mowiol 28-99、Kuraray Europe社)からなるものであった。
【0147】
架橋剤Vは、グリオキサールの42%水溶液であった。
【0148】
架橋剤Vは、グリオキサール-ホウ砂系架橋剤(Cartabond TSI(登録商標)、Clariant社)の42%水溶液であった。
【0149】
蛍光増白剤として、テトラスルホ-スチルベン化合物、Blankophor(登録商標)PT(Blankophor社)の31%水溶液を使用した。
【0150】
B、D、C、P、A、結合剤、蛍光増白剤及びVの導入順序を考慮した上で、1.6部のA、1.5部のB、1.5部のC、70部のD、188部の顔料P、400部の結合剤溶液、4部の蛍光増白剤及び14部の架橋剤溶液V(全て重量部)を撹拌しながら混合することによって、感熱付与懸濁液を調製し、水で約25%の固形分含有量にした。
【0151】
以下の市販の接着剤を使用して、自己接着サーマルラベルを生成した。
【0152】
R5000N(Avery Fasson)は、取り外し可能なアクリレート系接着剤である。
【0153】
S2200(Avery Fasson)は、スチレン-イソプレン及びPVCコポリマーをベースとした急速冷凍用途のための永久ホットメルト接着剤である。
【0154】
Technomelt PS 8746(Henkel社)は、合成ゴムをベースとした永久ホットメルト接着剤である。
【0155】
このようにして自己接着サーマルラベルにした感熱記録材料を、下に示すように試験/評価した(表2)。
【0156】
(1)表面白色度(白色度)
【0157】
Elrepho 3000分光光度計を使用し、ISO 2470に従って、サーマルラベル紙の感熱コーティングを担持する面(=上面)の白色度を決定した。
【0158】
式1を用いて、保管後の白色度の減少%を算出した。
【0159】
【数4】
【0160】
(2)動的色濃度
【0161】
サーマル紙(幅6cmの細片)に、200dpi及び560オームのKyoceraプリントバーを備えたAtlantek 200試験プリンタ(Atlantek社、米国)を印加電圧20.6V、及び事前試行によって決定したパルス幅で使用して、エネルギー段階(energy graduations)のない市松模様をサーマル印刷した。パルス幅は、光学濃度が1.20±0.05になるように選択した。印刷試料の一正方形の面積は、80×80ドットに相当した。X-Rite社のSpectroEye濃度計を使用して画像濃度(光学濃度、o.d.)を測定した。o.d.値の測定不確実性は≦2%と推定された。(式)に従って計算された%値のばらつきは≦±2パーセントポイントであった。
【0162】
(3)相対的印刷コントラスト
【0163】
サーマル印刷領域の光学濃度(oDS)及び印刷していない領域の光学濃度(oDW)の値を用いて、式(2)に従って相対的コントラストを計算した(s=黒色領域、w=白色領域)。
【0164】
【数5】
【0165】
(4)サーマルラベル紙の接着剤移行試験
【0166】
A4自己接着サーマルラベル紙を縦方向に幅6cmの3つの細片に分割した。2つの細片は、60℃、圧力1350N/m2、相対湿度50%で、光のない状態において2枚のガラス板の間で4週間保管し、一方、1つの細片には印刷し、(2)に従って測定した(保管前の画像濃度、o.d.)。
【0167】
2つの細片は、保管後、一旦室温にした後、(2)に従って印刷し、光学濃度を決定し、平均し、式(式)に従って、同様に決定された保管されていない試料の画像濃度値に対して、光学濃度の値を定めた。
【0168】
【数6】
【0169】
生成した記録材料の評価を表2にまとめる。
【0170】
(5)発色剤及び顕色剤の面積濃度の定量(表3)
【0171】
DAD検出器を備えたAgilent 1200シリーズのHPLC装置でのHPLC分離後に、コート成分(発色剤及び顕色剤)を定量化した。
【0172】
試料調製:パンチを使用して紙試料から2つの円形領域(面積0.000402m2)を打ち抜いた。超音波浴において、3mlのアセトニトリル(HPLC品質)で紙試料を30分間抽出した。抽出物が濁っている場合は、これを0.45μmフィルタに通して濾過した。標準として、10μlを注入した。
【0173】
構成成分のHPLC分離:オートサンプラを使用して、上記抽出物を分離カラム(カートリッジ4×2mmを有するSecurityGuardプレカラムを前に備えたSynergi 4μm Fusion RP80A、250×3mm)に注入し、流動剤のアセトニトリル:0.1%ギ酸を含むH2O(60:40体積部)を用い、アセトニトリル(0.1%ギ酸を含む)グラジエントで溶出した。
【0174】
クロマトグラムの定量的評価は、t回を通して特定された試料ピークと、参照試料によって決定された標準曲線との面積比較によって行った。HPLC定量化における測定誤差は±2%であった。
【0175】
以上の実施例から、本発明の感熱自己接着ラベルは、特に、以下の有利な特性を示すことが分かる(表2及び表3)。
【0176】
(1)顕色剤としてベータ形を有し、印刷されず保管された自己接着サーマルラベル紙の白色度は、代替の多形変態(アルファ形、Pergafast 201)を有する比較試料の白色度よりも高い。
【0177】
(2)顕色剤としてベータ形を使用すると、過酷な条件下での長期保管後に、α PF 201が顕色剤として使用されたものよりも著しく高い印刷濃度を示す自己接着サーマルラベルになる。
【0178】
(3)(1)及び(2)から、顕色剤としてベータ形を有するサーマルラベル紙には、保管後の性能特性の対比において明らかに利点がある。
【0179】
(4)接着層からの移行性構成要素に対する耐薬品性は、比較例よりも著しく高い(表3)。
【0180】
(5)ベータ形の使用により、重要な用途関連の態様において高品質の自己接着サーマルラベルを得ることができる。
【0181】
【表2】
【表3】