(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】積層体、インクジェット用紙及び粘着ラベル
(51)【国際特許分類】
B32B 5/32 20060101AFI20240216BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240216BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240216BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B32B5/32
B32B27/20 Z
B32B27/32 Z
B41M5/52 110
(21)【出願番号】P 2022565264
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2021042231
(87)【国際公開番号】W WO2022113846
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2020195564
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(72)【発明者】
【氏名】田尻 弘和
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/182435(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/078267(WO,A1)
【文献】特開2001-277449(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057739(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B41M 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層(A)と樹脂成形層(B)とを備える積層体であって、
前記基材層(A)は熱可塑性樹脂フィルムからなり、
前記樹脂成形層(B)は、第一多孔質層(B1)と第二多孔質層(B2)とを有し、
前記基材層(A)、前記第二多孔質層(B2)、及び前記第一多孔質層(B1)は、この順で積層されており、
前記第一多孔質層(B1)が、
プロピレン系重合体(d1)と、エチレン系重合
体と、フィラー(e1)とを含有し、
前記第一多孔質層(B1)における前記フィラー(e1)の含有量が50~75質量%であり、
前記第二多孔質層(B2)が、
プロピレン系重合体(d2)とフィラー(e2)とを含有し、且つエチレン系重合体及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体を含まず、
前記第二多孔質層(B2)における前記フィラー(e2)の含有量が50~75質量%である、
積層体。
【請求項2】
前記第一多孔質層(B1)の坪量が0.5~10g/m2である、
請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第二多孔質層(B2)の坪量が6.0g/m2以上である、
請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
JIS P8140:1998の規定に基づき、試験溶媒として70質量%エタノール水溶液を用いて測定した、前記樹脂成形層(B)のCobb吸水度が10cc/m2以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
上記樹脂成形層(B)表面に浸透剤層を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記第一多孔質層(B1)の空孔率が40~90%である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記第二多孔質層(B2)の空孔率が40~90%である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記樹脂成形層(B)は、成形支持層(B3)をさらに有し、
前記基材層(A)、前記成形支持層(B3)、前記第二多孔質層(B2)、及び前記第一多孔質層(B1)は、この順で積層されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の積層体を備えるインクジェット用紙。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の積層体と、
前記積層体の前記基材層(A)における前記樹脂成形層(B)とは反対側の面に粘着剤層(C)と、を備える粘着ラベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、並びにこれを用いたインクジェット用紙及び粘着ラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷を施したラベルを容器に設けるに際し、求められる性質に合わせて種々のラベルが研究されている。このようなラベルとしては、例えば、接着層を含む共押出プラスチックフィルムからなるインモールドラベル(特許文献1参照)が挙げられる。この接着層はエチレン共重合体を含み、熱により活性化するヒートシール層である。また、ヒートシール性樹脂層にエンボス加工を施したインモールドラベル(特許文献2参照)、ポリエチレンイミンを主成分とする表面処理剤がコートされ、印刷性に優れた熱可塑性樹脂フィルム(特許文献3参照)、帯電防止性に優れ、かつ印刷性又は耐水性にも優れた熱可塑性樹脂フィルム(特許文献4参照)等も挙げられる。
【0003】
一方、化学品の分類又は化学品を収容する容器におけるラベル表示に関し、従来その表示方法及び取扱い上の注意事項等の内容は各国に委ねられており、国によって大きく相違している状況にあった。
【0004】
しかし近年、化学品は国を超えて輸出入されている。国に依らずに化学物質を安全に製造、使用、輸送、処理、又は廃棄するために、国際的に調和された化学物質の分類及び表示方法が必要であると認識されるようになった。その結果、国際連合で化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS:The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)文書が制定された。
【0005】
このGHS文書に準拠したラベル(以下、GHSラベルと称する)では、例えば危険有害性があると判断(分類)された物質又は混合物について、危険有害性などの情報を表示する必要がある。そのため、GHSラベルには、例えば防錆性能が求められる。特許文献5では、防錆効果に優れ、内容物が外部から視認可能な防錆フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第4837075号明細書
【文献】実全平1-105960号公報
【文献】特開2000-290411号公報
【文献】国際公開第2015/072331号
【文献】特開2016-169311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GHSラベルには、上記の他にも様々な性質が求められる。そのような性質を定めた規格の1つとして、英国規格であるBS5609:1986年が挙げられる。この英国規格によれば、3か月の海水浸漬試験におけるラベル材質と接着剤の永続性及び耐久性に関するラベル性能(セクション2)の他、人工風化、テープ剥離試験及び耐摩耗性試験といった印刷性能(セクション3)が求められる。
【0008】
そこで本発明では、水性インクジェット方式により印刷したときの印刷性能として、BS5609:1986年において求められる優れた耐印刷剥離性及び耐摩耗性を有し、且つ優れたインク乾燥性を有する積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、2種の多孔質層を含む樹脂成形層を具備し、各多孔質層を構成する成分を特定のものにすることにより、水性インクジェット方式等により印刷層を設けた際の印刷性能として、インク乾燥性、耐印刷剥離性及び水中での耐摩耗性に優れた積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
(1)基材層(A)と樹脂成形層(B)とを備える積層体であって、
前記基材層(A)は熱可塑性樹脂フィルムからなり、
前記樹脂成形層(B)は、第一多孔質層(B1)と第二多孔質層(B2)とを有し、
前記基材層(A)、前記第二多孔質層(B2)、及び前記第一多孔質層(B1)は、この順で積層されており、
前記第一多孔質層(B1)が、
プロピレン系重合体(d1)と、エチレン系重合体又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体と、フィラー(e1)とを含有し、
前記第一多孔質層(B1)における前記フィラー(e1)の含有量が50~75質量%であり、
前記第二多孔質層(B2)が、
プロピレン系重合体(d2)とフィラー(e2)とを含有し、且つエチレン系重合体及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体を含まず、
前記第二多孔質層(B2)における前記フィラー(e2)の含有量が50~75質量%である、
積層体。
【0011】
(2)前記第一多孔質層(B1)の坪量が0.5~10g/m2である、
上記(1)に記載の積層体。
【0012】
(3)前記第二多孔質層(B2)の坪量が6.0g/m2以上である、
上記(1)又は(2)に記載の積層体。
【0013】
(4)JIS P8140:1998の規定に基づき、試験溶媒として70質量%エタノール水溶液を用いて測定した、前記樹脂成形層(B)のCobb吸水度が10cc/m2以上である、
上記(1)~(3)のいずれかに記載の積層体。
【0014】
(5)前記樹脂成形層(B)表面に浸透剤層を有する、
上記(1)~(4)のいずれかに記載の積層体。
【0015】
(6)前記第一多孔質層(B1)の空孔率が40~90%である、
上記(1)~(5)のいずれかに記載の積層体。
【0016】
(7)前記第二多孔質層(B2)の空孔率が40~90%である、
上記(1)~(6)のいずれかに記載の積層体。
【0017】
(8)前記樹脂成形層(B)は、成形支持層(B3)をさらに有し、
前記基材層(A)、前記成形支持層(B3)、前記第二多孔質層(B2)、及び前記第一多孔質層(B1)は、この順で積層されている、
上記(1)~(7)のいずれかに記載の積層体。
【0018】
(9)上記(1)~(8)のいずれかに記載の積層体を備えるインクジェット用紙。
【0019】
(10)上記(1)~(8)のいずれかに記載の積層体と、
前記積層体の前記基材層(A)における前記樹脂成形層(B)とは反対側の面に粘着剤層(C)と、を備える粘着ラベル。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水性インクジェット方式により印刷したときの印刷性能として、BS5609:1986年において求められる優れた耐印刷剥離性及び耐摩耗性を有し、且つ優れたインク乾燥性を有する積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態の積層体の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態の積層体の構成の他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の積層体、並びに該積層体を有するインクジェット用紙及び粘着ラベルについて詳細に説明する。以下の説明は本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれに限定されない。
【0023】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」の記載は、アクリルとメタクリルの両方を示す。
【0024】
[積層体]
本発明の積層体は、基材層(A)と、基材層(A)の少なくとも一方の面上に樹脂成形層(B)とを備える。樹脂成形層(B)は、第一多孔質層(B1)と第二多孔質層(B2)とを有し、基材層(A)側から、第二多孔質層(B2)、第一多孔質層(B1)の順に積層される。
【0025】
図1は、本発明の積層体の一実施形態を示す断面図である。
図1に例示する積層体1は、基材層(A)と、基材層(A)の一方の面上に樹脂成形層(B)とを有する。樹脂成形層(B)は、第一多孔質層(B1)と第二多孔質層(B2)とを有する。基材層(A)、第二多孔質層(B2)、及び第一多孔質層(B1)は、この順で積層される。
【0026】
以下、各層の詳細を説明する。
(基材層(A))
基材層(A)は、積層体に強度(コシ)を付与することができる。基材層(A)としては、機械的強度に優れた熱可塑性樹脂フィルムを使用する。
【0027】
<熱可塑性樹脂>
基材層(A)に使用できる熱可塑性樹脂としては、例えばオレフィン系重合体、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びこれらの混合樹脂等が挙げられる。なかでも、耐水性及び耐溶剤性の観点からは、オレフィン系重合体が好ましい。また、基材層(A)に用いる熱可塑性樹脂が樹脂成形層(B)で使用する熱可塑性樹脂と同じ種類であると、樹脂成形層(B)との接着性に優れ、積層体の耐久性が向上することから、好ましい。
【0028】
オレフィン系重合体としては、プロピレン系重合体又はエチレン系重合体等を好ましく使用できる。
プロピレン系重合体としては、例えばプロピレンを単独重合させたアイソタクティックホモポリプロピレン、シンジオタクティックホモポリプロピレン等のプロピレン単独重合体、又はプロピレンを主体とし、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン等を共重合させたプロピレン共重合体等が挙げられる。プロピレン共重合体は、2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0029】
エチレン系重合体としては、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖線状低密度ポリエチレン、エチレン等を主体とし、プロピレン、ブテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、4-メチルペンテン-1等のα-オレフィンを共重合させた共重合体、マレイン酸変性エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体の金属塩(金属は亜鉛、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、エチレン-環状オレフィン共重合体、又はマレイン酸変性ポリエチレン等が挙げられる。
【0030】
上記オレフィン系重合体のなかでも、成形性及びコストの観点からは、プロピレン単独重合体又は高密度ポリエチレンが好ましく、プロピレン単独重合体と高密度ポリエチレンを併用することがより好ましい。
上記熱可塑性樹脂のうち、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
<その他の成分>
基材層(A)である熱可塑性樹脂フィルムは、必要に応じて公知の添加剤を任意に含むことができる。添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機フィラーの分散剤、結晶核剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、脂肪酸アミド等のスリップ剤、染料、顔料、離型剤、又は難燃剤等の公知の助剤が挙げられる。
【0032】
屋外での耐久性を高める観点からは、基材層(A)は、酸化防止剤、又は光安定剤等を含むことが好ましい。
酸化防止剤としては、立体障害フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、又はアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
光安定剤としては、立体障害アミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系光安定剤、又はベンゾフェノン系光安定剤等が挙げられる。
酸化防止剤及び光安定剤の含有量は、基材層(A)の質量に対して、それぞれ0.001~1質量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0033】
基材層(A)は、強度を損なわない程度に、フィラーを含有することができる。また、基材層(A)は、無延伸フィルムであってもよいし、強度を高める観点から延伸フィルムであってもよい。基材層(A)として、フィラーを含有する熱可塑性樹脂の延伸フィルムを使用することにより、基材層(A)の剛度、白色度及び不透明度を目的に応じて調整することができる。フィラーとしては、後述する樹脂成形層(B)で挙げるフィラーを使用することができ、なかでも無機フィラーが好ましい。基材層(A)と樹脂成形層(B)のフィラーは同種のものであっても、異種のものであってもよい。
【0034】
基材層(A)の厚さは、樹脂成形層(B)の厚さと積層体の用途又は目的に応じて適宜決定することができる。通常、基材層(A)の厚さは、十分なコシを得る観点から、15μm以上であることが好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。印刷時の取り扱い性の観点からは、基材層(A)の厚さは、400μm以下であることが好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。
【0035】
(樹脂成形層(B))
樹脂成形層(B)は、該樹脂成形層(B)の表面を構成する第一多孔質層(B1)と第二多孔質層(B2)とを有する。
樹脂成形層(B)は、基材層(A)と第二多孔質層(B2)の間に成形支持層(B3)をさらに有することが好ましい。
【0036】
図2は、成形支持層(B3)を有する場合の積層体の一例を示す断面図である。
図2に例示する積層体1においては、成形支持層(B3)が、基材層(A)と第二多孔質層(B2)との間に配される。つまり、基材層(A)、成形支持層(B3)、第二多孔質層(B2)、及び第一多孔質層(B1)が、この順で積層される。
【0037】
第一多孔質層(B1)及び第二多孔質層(B2)は、各々熱可塑性樹脂とフィラーとを含有する。
各多孔質層(B1)及び(B2)は、熱可塑性樹脂としてプロピレン系重合体を含有する。各多孔質層のプロピレン系重合体及びフィラーを区別するため、第一多孔質層(B1)に含まれるプロピレン系重合体をプロピレン系重合体(d1)と称し、第二多孔質層(B2)に含まれるプロピレン系重合体をプロピレン系重合体(d2)と称する。また第一多孔質層(B1)に含まれるフィラーをフィラー(e1)と称し、第二多孔質層(B2)に含まれるフィラーをフィラー(e2)と称する。
【0038】
(第一多孔質層(B1))
第一多孔質層(B1)は、プロピレン系重合体(d1)と、エチレン系重合体又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)と、フィラー(e1)とを含有する。
【0039】
<<プロピレン系重合体(d1)>>
第一多孔質層(B1)に含有されるプロピレン系重合体(d1)としては、上記基材層(A)の熱可塑性樹脂の項で記載したものと同様のものが使用できる。
例えば、プロピレンを単独重合させたアイソタクティックホモポリプロピレン、シンジオタクティックホモポリプロピレン等のプロピレン単独重合体、プロピレンを主体とし、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン等を共重合させたプロピレン共重合体等が挙げられる。プロピレン共重合体は、2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができるが、空孔形成の観点からは、プロピレン単独重合体を用いることが好ましい。
【0040】
<<エチレン系重合体又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)>>
第一多孔質層(B1)は、プロピレン系樹脂(d1)と非相溶性であり、且つプロピレン系樹脂(d1)より融点が低い樹脂を含有することが好ましい。このような樹脂として、具体的にはエチレン系重合体及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)が挙げられる(以下、これらの樹脂を併せて「非相溶性樹脂」と称することがある。)。非相溶性樹脂を含有することにより、延伸時に非相溶性樹脂とプロピレン系重合体(d1)との界面において優先的に巨大な空孔が形成され、層中の空孔率を高めることができる。この空孔は厚み方向に広がり、連結する傾向があることから、第一多孔質層(B1)のインクの浸透性を高めることができる。また第一多孔質層(B1)の機械的強度は低く、容易に剥離可能であるため、後述のように印刷部の優れた耐印刷剥離性を得ることができる。
非相溶性樹脂の中でも成形時の熱劣化防止の点から、エチレン系重合体が好ましい。
【0041】
<<エチレン系重合体>>
第一多孔質層(B1)に含有されるエチレン系重合体としては、上記基材層(A)の熱可塑性樹脂の項で記載したものと同様のものが使用できる。
例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖線状低密度ポリエチレン、エチレン等を主体とし、プロピレン、ブテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、4-メチルペンテン-1等のα-オレフィンを共重合させた共重合体、マレイン酸変性エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体の金属塩(金属は亜鉛、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、エチレン-環状オレフィン共重合体、又はマレイン酸変性ポリエチレン等が挙げられる。
中でもフィルム延伸時に高い空孔率を発現しやすい点から高密度ポリエチレンが好ましい。
【0042】
<<フィラー(e1)>>
第一多孔質層(B1)に含まれるフィラー(e1)としては、有機フィラー及び無機フィラーをそれぞれ単独で又は組み合わせて使用することができる。フィラー(e1)を含む熱可塑性樹脂組成物を延伸した場合、フィラー(e1)を核とした微細な空孔を熱可塑性樹脂フィルム内部に多数形成することができ、多数の空孔が形成された多孔質層を得ることができる。
【0043】
<<無機フィラー>>
第一多孔質層(B1)に使用できる無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、ゼオライト、マイカ、ガラスファイバー、又は中空ガラスビーズ等の無機粒子が挙げられる。なかでも、重質炭酸カルシウム、焼成クレイ、又は珪藻土等は、安価で、多孔質層を形成する樹脂組成物の延伸によって多くの空孔を形成しやすく、空孔率の調整が容易であることから、好ましい。特に、重質炭酸カルシウム又は軽質炭酸カルシウムは、その平均粒子径又は粒度分布を空孔形成しやすい範囲に調整しやすいことから、好ましい。上記無機粒子のうち、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
<<有機フィラー>>
第一多孔質層(B1)に使用できる有機フィラーとしては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂とは非相溶であり、融点又はガラス転移温度が熱可塑性樹脂よりも高く、熱可塑性樹脂の溶融混練条件下で微分散する有機粒子が好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、環状オレフィンの単独重合体、又は環状オレフィンとエチレンとの共重合体等の有機粒子が挙げられる。また、メラミン樹脂のような熱硬化性樹脂の微粉末を用いてもよく、熱可塑性樹脂を架橋して不溶化することも好ましい。
【0045】
<疎水性フィラー>
第一多孔質層(B1)のフィラー(e1)は、その一部又は全部として、パラフィン又は炭素数12~22の脂肪酸若しくはその塩により表面処理されて、表面が疎水化されたフィラーを含むことが好ましく、特に、炭素数12~22の脂肪酸又はその塩により表面処理された疎水性フィラーが好ましい。
第一多孔質層(B1)におけるフィラー(e1)として、疎水性フィラーを使用することにより、例えば該層を含む積層体を共押出成形する際のメヤニの発生を抑制することができる。
【0046】
表面処理に用いる上記炭素数12~22の脂肪酸としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びエレオステアリン酸等が例示できる。
表面処理の方法は特に限定されず、例えば、上述した無機粒子又は有機粒子のスラリーに、処理剤の水溶液を導入することにより、行うことができる。これにより、表面処理されたフィラー、すなわち炭素数12~22の脂肪酸又はその塩を含有する層を表面に有する疎水性フィラーを得ることができる。
【0047】
第一多孔質層(B1)に含有されるフィラー(e1)の平均粒子径は、空孔形成性の観点から、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、また5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。フィラー(e1)の平均粒子径が0.1μm以上であれば、空孔が形成されやすく水性顔料インクの浸透性を高めやすい。フィラー(e1)の平均粒子径が5μm以下であれば、粗大な空孔の形成を抑えてインクジェット印刷画像の鮮明性を高めやすい。
【0048】
<<含有量>>
第一多孔質層(B1)中のプロピレン系重合体(d1)の含有量は、プロピレン系重合体(d1)を非溶融状態で延伸しやすく、十分な層強度が得られやすいという観点から、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
第一多孔質層(B1)中の非相溶性樹脂の含有量は、非相溶性樹脂を溶融状態で延伸しやすく、フィブリル状の空孔の形成が容易になって耐印刷剥離性を向上させやすいという観点から、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
第一多孔質層(B1)中のプロピレン系重合体(d1)と非相溶性樹脂の含有量比(プロピレン系重合体(d1):非相溶性樹脂)は、1:2~2:1であることが好ましい。
い。
【0051】
第一多孔質層(B1)中のフィラー(e1)の含有量は、インク中の溶媒の輸送性を高め、インク乾燥性を向上させる観点から、50質量%以上であり、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、第一多孔質層(B1)形成用樹脂組成物の造粒及び成形の安定性の観点から、同含有量は、75質量%以下であり、70質量%以下であることが好ましい。
【0052】
第一多孔質層(B1)の坪量は、印刷部の耐印刷剥離性の観点から、0.5g/m2以上であることが好ましく、0.8g/m2以上であることがより好ましく、1.0g/m2以上であることがさらに好ましく、3.0g/m2以上であることが特に好ましい。第一多孔質層(B1)の坪量は、印刷部の耐印刷剥離性の観点から、10.0g/m2以下であることが好ましく、8.0g/m2以下であることがより好ましく、6.0g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0053】
なお、各層の坪量は、層の密度と厚さから求めることができる。層の坪量は、層の厚さ、フィラーの含有量、平均粒子径、又はフィラーを含有する層の延伸条件、例えば延伸温度、延伸倍率等によって調整することができる。
【0054】
第一多孔質層(B1)の厚さは、坪量の観点から、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上がより好ましく、2.0μm以上がさらに好ましい。また、第一多孔質層(B1)の厚さは、インク中の溶媒の輸送性を高め、耐印刷剥離性を維持する観点から、40μm以下であることが好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。
【0055】
第一多孔質層(B1)の空孔率は、インク中の溶媒の輸送性を高め、インク乾燥性を向上させる観点から、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。耐摩耗性(耐塩水擦過性)の観点から、同空孔率は、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
空孔率は、フィラー(e1)の平均粒子径、フィラー(e1)を含有する多孔質層の組成、例えばプロピレン系重合体(d1)、非相溶性樹脂、及びフィラー(e1)の含有比率、延伸温度、延伸倍率等の延伸条件によって調整することができる。
【0056】
空孔率は、電子顕微鏡で観察した多孔質層の断面の一定領域において、空孔が占める面積の比率より求めることができる。具体的には、測定対象のフィルムの任意の一部を切り取り、エポキシ樹脂で包埋して固化させた後、ミクロトームを用いて測定対象のフィルムの面方向に垂直に切断し、その切断面が観察面となるように観察試料台に貼り付ける。観察面に金又は金-パラジウム等を蒸着し、電子顕微鏡にて観察しやすい任意の倍率(例えば、500倍~3000倍の拡大倍率)においてフィルム中の空孔を観察し、観察した領域を画像データとして取り込む。得られた画像データに対して画像解析装置にて画像処理を行い、フィルムの一定領域における空孔部分の面積率(%)を求めて、空孔率(%)とする。この場合、任意の10箇所以上の観察における測定値を平均して、空孔率とすることができる。
【0057】
<<その他の成分>>
第一多孔質層(B1)は、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の添加剤や上述以外の樹脂成分を含有していても良い。添加剤としては、例えば基材層(A)の項で<その他の成分>として挙げたものが挙げられる。樹脂成分としては、例えば上述以外のオレフィン系重合体又はオレフィン系重合体の酸変性物などが挙げられる。
【0058】
(第二多孔質層(B2))
第二多孔質層(B2)は、プロピレン系重合体(d2)とフィラー(e2)とを含有する。第二多孔質層(B2)は、第一多孔質層(B1)のようにエチレン系重合体又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)を含有しない。
【0059】
第二多孔質層(B2)は第一多孔質層(B1)と同様に多孔質構造を有する層であり、主にインク吸収層として機能する。第二多孔質層(B2)は後述する機構により印刷後も所定の色彩堅牢度を確保するため、第一多孔質層(B1)よりも剥離力に対する強度、つまり耐剥離性を有することが好ましい。そのため、第二多孔質層(B2)は、強度が下がる要因となり得るようなポリプロピレンと非相溶性の樹脂、具体的にはエチレン系重合体及びABS樹脂を含まない層である。
【0060】
<<プロピレン系重合体(d2)>>
プロピレン系重合体(d2)としては、第一多孔質層(B1)の項でプロピレン系重合体(d1)の例として挙げたものと同様の重合体が使用でき、好ましいものも同様である。
プロピレン系重合体(d2)は、プロピレン系重合体(d1)と同じ重合体であっても、異なる重合体であってもよい。
【0061】
<<フィラー(e2)>>
第二多孔質層(B2)に含まれるフィラー(e2)としては、第一多孔質層(B1)の項でフィラー(e1)の例として挙げたものと同様のフィラーが使用でき、好ましいものも同様である。フィラー(e2)は、フィラー(e1)と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
但し疎水性フィラーについては、第二多孔質層(B2)にも使用してよいが、インク吸収性の観点からあまり大量に使用しないことが好ましい。
【0062】
一方、第二多孔質層(B2)はフィラー(e2)として、カチオン性ポリマーで表面処理されたカチオン性フィラーを含有していてもよい。
カチオン性ポリマーとしては、例えば窒素含有(メタ)アクリル系共重合体、エチレンイミン系重合体、第3級アミン構造、第4級アミン構造又はホスホニウム塩構造を有する水溶性ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を変性によりカチオン化したビニル系ポリマー等が挙げられる。これらのうちの1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、第3級アミン構造又は第4級アミン構造の3級以上の高級アミン構造を有するカチオン性ポリマーが、好ましい。
【0063】
カチオン性ポリマーの付着量は、フィラー100質量部に対して0.1~5%質量%であることが好ましい。カチオン性ポリマーの含有量を調整することで、多孔質層の吸水量及び浸透性を調整することができる。
【0064】
表面処理の方法は特に限定されない。例えば無機粒子の原料を湿式粉砕する際に、カチオン性ポリマーの水溶液を導入することにより、表面処理することができる。または有機粒子をカチオン性ポリマーの水溶液中にて撹拌し乾燥することにより、表面処理することができる。これにより、カチオン性ポリマーにて表面処理されたフィラー、すなわちカチオン性フィラーを得ることができる。
【0065】
<<その他の成分>>
第二多孔質層(B2)は、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の添加剤や上述以外の樹脂成分を含有していても良い。添加剤としては、例えば基材層(A)の項で<その他の成分>として挙げたものが挙げられる。樹脂成分としては、例えば上述以外のオレフィン系重合体やオレフィン系重合体の酸変性物などが挙げられる。
【0066】
<<含有量>>
第二多孔質層(B2)中のプロピレン系重合体(d2)の含有量は、プロピレン系重合体(d2)を非溶融状態で延伸しやすく、十分な層強度が得られやすいという観点から、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、また、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
第二多孔質層(B2)中のフィラーの含有量は、インク中の溶媒を受容し、インク乾燥性を高める観点から、50質量%以上であり、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、第二多孔質層(B2)形成用樹脂組成物の造粒及び成形の安定性の観点から、同含有量は、75質量%以下であり、70質量%以下であることが好ましい。
【0068】
第二多孔質層(B2)の坪量は、溶媒の受容量及び乾燥性の観点から、4.0g/m2以上であることが好ましく、6.0g/m2以上であることがより好ましく、7.0g/m2以上であることがさらに好ましく、9.0g/m2以上であることが特に好ましい。第二多孔質層(B2)の坪量は、積層体製造コストの観点から、20.0g/m2以下であることが好ましく、15.0g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0069】
第二多孔質層(B2)の厚さは、坪量の観点から、6μm以上であることが好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、第二多孔質層(B2)の厚さは、40μm以下であることが好ましく、30μm以下がさらに好ましい。
【0070】
第二多孔質層(B2)の空孔率は、インク中の溶媒を受容し、インク乾燥性を高める観点から、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。また剥離力が加えられたときの材破を抑える観点から90%以下が好ましく、80%以下がさらに好ましい。
空孔率は、フィラー(e2)の平均粒子径、第二多孔質層(B2)の組成、延伸温度、又は延伸倍率等の延伸条件によって調整することができる。
なお、上記空孔率の測定方法は、第一多孔質層(B1)と同様である。
【0071】
本発明の積層体の第一多孔質層(B1)側表面に対し、水性顔料インクジェット印刷を施した印刷物は、高い色彩堅牢度を有する。具体的には、英国規格であるBS5609:1986年のセクション3に規定されたテープ剥離試験及び耐摩耗性試験において、良好な色彩堅牢度を達成することができる。
【0072】
詳細なメカニズムは不明だが、次のように推測される。樹脂成分としてプロピレン系重合体だけでなく、エチレン系重合体又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)を含む第一多孔質層(B1)は、厚み方向に広がる空孔が内部に形成されやすい。そのため、第一多孔質層(B1)側表面に供給された水性顔料インクは第一多孔質層(B1)を透過し、当該インクに含まれる顔料は、その大部分が第一多孔質層(B1)と第二多孔質層(B2)の界面付近、及び第二多孔質層(B2)の表層部分に存在すると推定される。このような印刷物に対して前述のテープ剥離試験を施した場合、機械的強度の低い(すなわち脆い)第一多孔質層(B1)が層中で破壊され、第二多孔質層(B2)の表面から剥離除去されるが、顔料の大部分が第二多孔質層(B2)の表層付近に残ることにより、インクにより形成された画像が残存すると考えられる。すなわち、優れた耐印刷剥離性を実現することができる。このとき、第一多孔質層(B1)の坪量が0.5g/m2以上であると、印刷部のインクが第一多孔質層(B1)の表面で乾燥しにくく、テープ剥離試験においても画像が剥離しにくく好ましい。一方、第一多孔質層(B1)の坪量が10.0g/m2以下であると、インク中の顔料が第一多孔質層(B1)と第二多孔質層(B2)の界面付近、及び第二多孔質層(B2)の表層部分まで深く浸透するため、テープ剥離試験において画像が第一多孔質層(B1)と共に剥離除去されることを抑えやすい。
【0073】
なお、第一多孔質層(B1)がプロピレン系重合体(d1)と非相溶性樹脂を含むのに対し、第二多孔質層(B2)が非相溶性樹脂を含まないことにより、両層の空孔形状が適切に制御される。その結果、テープ剥離試験においては第二多孔質層(B2)が材破せず第一多孔質層(B1)のみが材破する。
【0074】
また、第一多孔質層(B1)及び第二多孔質層(B2)における空孔中にインクが浸透することにより、印刷部分の水中での耐摩耗性が向上する。そのため、前述したセクション3の耐摩耗性試験においても良好な結果を得ることができる。
【0075】
(成形支持層(B3))
樹脂成形層(B)は、第一多孔質層(B1)及び第二多孔質層(B2)を支持する層として成形支持層(B3)を有してもよい。
成形支持層(B3)は、特に共押出成形法により樹脂成形層(B)を形成する場合、第一多孔質層(B1)及び第二多孔質層(B2)を支持する層として有効である。第一多孔質層(B1)と第二多孔質層(B2)と成形支持層(B3)とを共押出することで、より安定的に共押出成形を行うことができる。
【0076】
成形支持層(B3)はオレフィン系重合体を含むことが好ましく、プロピレン系重合体を含むことがより好ましい。成形支持層(B3)はまたフィラーを含んでいてもよい。成形支持層(B3)の上記成分としては、第一多孔質層(B1)及び第二多孔質層(B2)と同様の重合体及びフィラー等を使用することができる。
【0077】
成形支持層(B3)中のオレフィン系重合体の含有量は、オレフィン系重合体を非溶融状態で延伸しやすく、十分な強度が得られやすいという観点から、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、また、95質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0078】
成形支持層(B3)がフィラーを含む場合、成形支持層(B3)中のフィラーの含有量は、共押出成形時の成形安定性の観点から、5質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、また、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0079】
成形支持層(B3)の厚さは、共押出成形時の成形安定性の観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。また、成形支持層(B3)の厚さは、積層体が過剰に厚くなることを避ける観点から、100μm以下であることが好ましく、70μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。
【0080】
<Cobb吸水度>
本発明の積層体における樹脂成形層(B)のCobb吸水度は、10cc/m2以上であることが好ましい。当該Cobb吸水度は、JIS P8140:1998の規定に基づき、試験溶媒として70質量%エタノール水溶液を用い、接触時間は120秒として測定される。
【0081】
本発明における樹脂成形層(B)は、特定組成の樹脂成分と特定量のフィラーを含有する第一多孔質層(B1)及び第二多孔質層(B2)を備え、且つCobb吸水度を10cc/m2以上とすることが好ましい。これにより、GHSラベルに求められる高い耐印刷剥離性及び耐摩耗性を実現すると共に、高いインク乾燥性を実現することができる。
本発明における樹脂成形層(B)のCobb吸水度は、15cc/m2以上であることがより好ましい。
【0082】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は特に限定されず、通常の方法により製造することができる。
例えば、基材層(A)を構成する熱可塑性樹脂フィルムを形成した後、樹脂成形層(B)を構成する熱可塑性樹脂フィルムを積層してもよい。フィルムの成形方法としては、例えばスクリュー型押出機に接続された単層又は多層のTダイ、Iダイ等により、溶融樹脂をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、又はインフレーション成形等が挙げられる。また、フィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイス方式、又は複数のダイスを使用する押出しラミネーション方式等の通常の手法を使用して、基材層(A)と樹脂成形層(B)のフィルム成形と積層を並行して行うこともできる。
【0083】
樹脂成形層(B)は、第一多孔質層(B1)を構成するフィルムと第二多孔質層(B2)を構成するフィルム(必要に応じて、成形支持層(B3)を構成するフィルム)との共押出成形により形成される、共押出成形層であることが好ましい。このような樹脂成形層(B)を構成する各層間の接着強度は、樹脂成形層(B)と他の層(例えば、基材層(A))との間の接着強度よりも大きくなる。
【0084】
基材層(A)の熱可塑性樹脂フィルムは、樹脂成形層(B)を積層する前に延伸することもできるし、積層後に延伸することもできる。樹脂成形層(B)は薄いため、単層での延伸成形ではなく、基材層(A)に積層後、延伸することが好ましい。なかでも、基材層(A)が二軸延伸層であると、これを含む積層体の機械強度を高くすることができるため好ましい。また、樹脂成形層(B)が一軸延伸層であることが、フィブリル状の表面を形成しやすく、水性顔料インクジェット印刷後の耐印刷剥離性を向上させることができるため、好ましい。基材層(A)が二軸延伸層であり、樹脂成形層(B)が一軸延伸層であるとさらに好ましい。
【0085】
延伸方法としては、例えばロール群の周速差を利用した縦延伸法、テンターオーブンを利用した横延伸法、これらを組み合わせた逐次二軸延伸法、圧延法、テンターオーブンとパンタグラフの組み合わせによる同時二軸延伸法、又はテンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸法等が挙げられる。また、スクリュー型押出機に接続された円形ダイを使用して溶融樹脂をチューブ状に押し出し成形した後、これに空気を吹き込む同時二軸延伸(インフレーション成形)法等も使用できる。
【0086】
延伸を実施するときの延伸温度は、使用する熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、当該熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上の範囲であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合の延伸温度は、当該熱可塑性樹脂の非結晶部分のガラス転移点以上であって、かつ当該熱可塑性樹脂の結晶部分の融点以下の範囲内であることが好ましく、熱可塑性樹脂の融点よりも2~60℃低い温度が好ましい。例えば、プロピレン単独重合体(融点155~167℃)を使用する場合は100~164℃の延伸温度が好ましく、高密度ポリエチレン(融点121~134℃)を使用する場合は70~133℃の延伸温度が好ましい。
【0087】
延伸速度は、特に限定されるものではないが、安定した延伸成形の観点から、20~350m/分の範囲内であることが好ましい。
【0088】
また、延伸倍率についても、使用する熱可塑性樹脂の特性等を考慮して適宜決定することができる。例えば、プロピレン単独重合体又はプロピレン共重合体を使用する場合は、一方向に延伸する場合の延伸倍率は、下限が通常は約1.2倍以上であり、好ましくは2倍以上である一方、上限が通常は12倍以下であり、好ましくは10倍以下である。二軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で、下限が通常は1.5倍以上であり、好ましくは4倍以上である一方、上限が通常は60倍以下であり、好ましくは50倍以下である。その他の熱可塑性樹脂を一方向に延伸する場合は、延伸倍率は、上限が通常は1.2倍以上であり、好ましくは2倍以上である一方、下限が通常は10倍以下であり、好ましくは5倍以下である。二軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で、下限が通常は1.5倍以上、好ましくは4倍以上である一方、上限が通常は20倍以下、好ましくは12倍以下である。
上記延伸倍率の範囲内であれば、目的の空孔率及び坪量が得られやすく、不透明性が向上しやすい。また、積層体の破断が起きにくく、安定した延伸成形ができる傾向がある。
【0089】
<浸透剤が塗布された積層体>
本発明の積層体は、上記樹脂成形層(B)表面に浸透剤を含有する浸透剤層を有していてもよい。具体的には、上記樹脂成形層(B)表面に浸透剤を含む溶液を塗工し乾燥させることにより、浸透剤層を形成することができる。浸透剤の水溶液を樹脂成形層(B)表面に塗布し乾燥させることにより、多孔質層である樹脂成形層(B)の一部に浸透した状態で浸透剤が付着する。このような浸透剤層を有することにより、樹脂成形層(B)側表面に印刷された画像のにじみを抑制することができる。
浸透剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤が挙げられ、本発明ではアニオン性またはノニオン性界面活性剤が好ましく、特にノニオン性界面活性剤を好適に使用することができる。
【0090】
ノニオン性界面活性剤としては、例えばモノオレイン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン及びトリステアリン酸ソルビタンのようなソルビタン脂肪酸エステル;トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンのようなポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル;モノオレイン酸グリセリン及びモノステアリン酸グリセリンのようなグリセリン脂肪酸エステル;モノオレイン酸ジグリセリン、セスキラウリル酸( s e s q u I l a u r a t e )ジグリセリン、モノオレイン酸テトラグリセリン及びモノラウリン酸デカグリセリンのようなポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテルのようなポリオキシアルキレンアルキルエーテル;モノラウリン酸ポリエチレン及びトリオレイン酸ポリオキシエチレンのようなポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルのようなポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル;モノステアリン酸ペンタエリトリトールのようなペンタエリトリトール脂肪酸エステル;ラウリン酸サッカロースのようなサッカロース脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンオレアミドのようなポリオキシエチレン脂肪酸アミド;ラウリルジエタノールアミンのような脂肪族アミン; 及びオレアミドのような脂肪酸アミドからなる群より選択される界面活性剤が挙げられる。
中でも樹脂成形層(B)に適切なインク吸液速度を付与する観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが特に好ましい。
【0091】
理由は定かではないが、ノニオン性界面活性剤、特にポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、エチレン系重合体及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体を含まない多孔質層の表面に塗工しても、にじみ抑制効果を奏しない。しかし、本発明の積層体における樹脂成形層(B)の表面、すなわちプロピレン系重合体(d1)と、エチレン系重合体又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体と、フィラー(e1)とを含有する第一多孔質層(B1)の表面に塗工した場合には、印刷画像のにじみ抑制効果が顕著に発揮される。
【0092】
樹脂成形層(B)表面の浸透剤の量は、固形分換算で0.05g/m2~1.0g/m2が好ましく、0.1g/m2~0.8g/m2がより好ましい。
【0093】
[インクジェット用紙]
本発明のインクジェット用紙は、上述した積層体を含む。
【0094】
[積層体及びインクジェット用紙への印刷]
本発明の積層体及びインクジェット用紙は、インクジェット方式に対する印刷適性を有し、樹脂成形層(B)上に、写真、図形、文字、パターン等の各種情報をインクジェット方式で印刷することができる。印刷には、水性インク、溶剤系インク、紫外線硬化型インク等の各種インクジェット用インクを使用可能である。なかでも、本発明の積層体及びインクジェット用紙は、水性顔料インクに対する印刷適性に優れ、多色印刷時にも滲みが少なく、色鮮やかで鮮鋭性の高いインクジェット印刷が可能である。なお、インクジェット印刷以外にも、水性及び油性のサインペン、蛍光マーカー、又は鉛筆等の筆記具による記録も可能である。
【0095】
<水性顔料インク>
水性顔料インクは、例えば水、顔料、分散剤、水溶性有機溶剤、又は界面活性剤等を含有する。ここで、水性インクとは、溶媒成分のうち60質量%以上を水が占めるインクをいう。
インクの総質量(100質量%)に対する各成分の含有量は、通常、顔料が0.2~10質量%程度、分散剤が1.5~15質量%程度、水溶性有機溶剤が5~40質量%程度、界面活性剤が0.5~2質量%程度である。
【0096】
[粘着ラベル]
本発明の粘着ラベルは、上述した積層体を含む。本発明の粘着ラベルは、上述した積層体の、基材層(A)における樹脂成形層(B)とは反対側の面に粘着剤層(C)を有する。粘着剤層(C)は公知の材料及び手法にて形成することができ、例えば国際公開第2019/189699号に記載の材料及び手法にて形成することができる。
【0097】
粘着ラベルは、さらに粘着剤層(C)の基材層(A)側とは反対側の面に、剥離シートを有していてもよい。
【0098】
本発明の粘着ラベルは、その積層体の樹脂成形層(B)表面に印刷を施して様々な用途に供することができる。特に、積層体の第一多孔質層(B1)側表面に水性顔料インクジェット印刷を施すことにより、高いインク乾燥性と耐印刷剥離性を有し、また塩水中でも高い耐摩耗性を有するラベルを提供することが可能である。このようなラベルは、海上で取り扱われる危険物等に添付するラベルとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその技術的思想の範囲を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」、「%」等の記載は、断りのない限り、質量基準の記載を意味する。
【0100】
[原料]
実施例及び比較例にて使用した原料は以下のとおりである。
<熱可塑性樹脂>
・プロピレン単独重合体PP-1(商品名:MA3U、日本ポリプロ社製、MFR:15g/10min(230℃、2.16kg荷重)、融点:167℃(DSCピーク温度))
・プロピレン単独重合体PP-2(商品名:ノバテックPP MA3H、日本ポリプロ社製、MFR:10g/10min(230℃,2.16kg荷重)、融点:164℃(DSCピーク温度)、密度:0.9g/cm3)
・プロピレン単独重合体PP-3(商品名:ノバテックPP FY6H、日本ポリプロ社製、MFR:1.9g/10min(230℃、2.16kg荷重)、融点:164℃(DSCピーク温度)、密度: 0.9g/cm3)
・高密度ポリエチレンPE-1(商品名:ノバテックHD HJ590N、日本ポリエチレン社製、MFR:40g/10min(190℃、2.16kg荷重)、融点:133℃(DSCピーク温度)、密度:0.96g/cm3)
・高密度ポリエチレンPE-2(商品名:ノバテックHD HJ490、日本ポリエチレン社製、MFR:20g/10min(190℃、2.16kg荷重)、融点:133℃(DSCピーク温度)、密度:0.96g/cm3)
【0101】
<無機フィラー>
・重質炭酸カルシウム粉末F-1(商品名:ソフトン1800、備北粉化工業社製、
平均粒子径:1.25μm)
<カチオン性無機フィラー>
・アミン化炭酸カルシウム粉末F-2(下記表面処理剤により表面処理された重質炭酸カルシウム、平均粒子径:1.5μm)
<<表面処理剤>>
表面処理剤は、特開2004-68017号公報の製造例2にしたがって次のように製造した。環流冷却器、温度計、滴下ロート、撹拌装置及びガス導入管を備えた反応器に、ジアリルアミン塩酸塩(60%濃度の水溶液)500質量部、アクリルアミド(40%濃度の水溶液)13質量部及び水40質量部を入れ、窒素ガスを流入させながら系内温度を80℃に昇温した。撹拌下で、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(25%濃度の水溶液)30質量部を滴下ロートを用いて4時間に渡り滴下した。滴下終了後1時間反応を続け、粘稠な淡黄色液状物を得た。これを50g取り、500ml中のアセトン中に注ぐと白色の沈殿を生じた。沈殿を濾別しさらに2回100mlのアセトンでよく洗浄した後、真空乾燥して白色固体状の重合体(水溶性カチオン性コポリマー)を得た。表面処理剤として用いた。得られた重合体の重量平均分子量をGPCより求めたところ55,000であった。
<分散剤>
・オレイン酸D-1(商品名:ルナック O-V、花王社製)
【0102】
【0103】
[実施例1]
(縦一軸延伸フィルムの製造)
プロピレン単独重合体PP-2(商品名:ノバテック PP MA3H、日本ポリプロ社製)15質量部、プロピレン単独重合体PP-3(商品名:ノバテック PP FY6H、日本ポリプロ社製)59.5質量部、高密度ポリエチレンPE-1(商品名:ノバテックHD HJ590N、日本ポリエチレン社製)9.5質量部、重質炭酸カルシウム粉末F-1(商品名:ソフトン 1800、備北粉化工業社製)16質量部、及び分散剤としてオレイン酸D-1(商品名:ルナック O-V、花王社製)0.1質量部を配合し、ミキサーで撹拌混合して、樹脂組成物A-1を得た。
【0104】
上記樹脂組成物A-1を250℃に設定した押出機で溶融混練した後、ダイスからシート状に押出し、冷却装置にて70℃まで冷却して単層無延伸フィルムを得た。この無延伸フィルムを145℃に再加熱した後、ロール間の周速差を利用して縦方向に5倍に延伸し、縦一軸延伸フィルムを得た。
【0105】
樹脂組成物A-1を構成する材料及び各材料の配合比率(質量部)を下記表2に示す。表2中の略号は、表1に記載の略号と同じである。
【0106】
【0107】
(積層体(4層延伸フィルム)の製造)
<第一多孔質層(B1)>
プロピレン単独重合体PP-1(商品名:MA3U、日本ポリプロ社製)20質量部、非相溶性樹脂である高密度ポリエチレンPE-2(商品名:ノバテックHD HJ490、日本ポリエチレン社製)20質量部、及び重質炭酸カルシウム粉末F-1(商品名:ソフトン 1800、備北粉化工業社製)60質量部を配合し、ミキサーで撹拌混合して、第一多孔質層(B1)を形成するための樹脂組成物B-1を得た。
【0108】
<第二多孔質層(B2)>
プロピレン単独重合体PP-1(商品名:MA3U、日本ポリプロ社製)40質量部、重質炭酸カルシウム粉末F-1(商品名:ソフトン 1800、備北粉化工業社製)60質量部を配合し、ミキサーで撹拌混合して、第二多孔質層(B2)を形成するための樹脂組成物B-2を得た。
【0109】
<成形支持層(B3)>
プロピレン単独重合体PP-2(商品名:ノバテック PP MA3H、日本ポリプロ社製)30質量部、プロピレン単独重合体PP-3(商品名:ノバテック PP FY6H、日本ポリプロ社製)21質量部、高密度ポリエチレンPE-1(商品名:ノバテックHD HJ590N、日本ポリエチレン社製)4質量部、重質炭酸カルシウム粉末F-1(商品名:ソフトン 1800、備北粉化工業社製)45質量部、及び分散剤としてオレイン酸D-1(商品名:ルナック O-V、花王社製)0.5質量部を配合し、ミキサーで撹拌混合して、成形支持層(B3)を形成するための樹脂組成物B-3を得た。
【0110】
上記樹脂組成物B-1、B-2及びB-3を、250℃に設定した押出機を用いて個別に溶融混練した後、押出ダイスに供給した。次いで、上記樹脂組成物B-1、B-2、B-3由来のフィルムがこの順に積層されるように、各樹脂組成物を3層シート状に押出し、上記縦一軸延伸フィルムの片面に積層して、4層構造の積層体を得た。3層シートは、樹脂組成物B-3由来のフィルムが縦一軸延伸フィルムに接するように積層された。樹脂組成物B-1及びB-2とともに樹脂組成物B-3をシート状に共押出しすることにより、安定的に積層体を得ることができた。
【0111】
得られた積層体を、オーブンを用いて160℃に再加熱した後、テンター延伸機を用いて横方向に9倍延伸した。次いで170℃で熱処理し、二軸延伸層が1層、一軸延伸層が3層の4層構造を有する延伸フィルムを得て、実施例1の積層体とした。実施例1の積層体において、樹脂組成物A-1由来の二軸延伸層が基材層(A)であり、樹脂組成物B-1由来の一軸延伸層が第一多孔質層(B1)、B-2由来の一軸延伸層が第二多孔質層(B2)であり、樹脂組成物B-3由来の一軸延伸層が成形支持層(B3)である。
【0112】
実施例1の積層体の厚さは88μmであった。そのうち、樹脂組成物A-1由来の基材層(A)の厚さは43μm、坪量は30g/m2であった。樹脂組成物B-1、B-2、B-3由来の層の厚さはそれぞれ5μm、20μm及び20μmであり、これらの厚さの合計は45μmであった。また、樹脂組成物B-1、B-2及びB-3由来の層の坪量はそれぞれ2g/m2、8g/m2及び20g/m2であり、これらの坪量の合計は30g/m2であった。
【0113】
[実施例2~6、比較例1~5]
実施例1において、樹脂組成物B-1、B-2の各材料の配合比率を、表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様に操作して、実施例2~6、比較例1~5の積層体を得た。積層体中の各層は、各層の坪量が実施例1と同じとなるように形成した。
【0114】
[実施例7]
実施例1において、樹脂組成物B-2の表面処理されていない炭酸カルシウム粉末F-1を、表面処理によってアミン化された炭酸カルシウム粉末F-2に変更したこと以外は、実施例1と同様に操作して、実施例7の積層体を得た。積層体中の各層は、各層の坪量が実施例1と同じとなるように形成した。
【0115】
[比較例6]
比較例5において、樹脂組成物B-2に20質量部の高密度ポリエチレンPE-2(商品名:ノバテックHD HJ490、日本ポリエチレン社製)を加え、重質炭酸カルシウム粉末F-1の配合量を60質量部に変更したこと以外は、比較例5と同様に操作して、比較例6の積層体を得た。積層体中の各層は、各層の坪量が実施例1と同じとなるように形成した。
【0116】
[実施例8~12]
実施例1において、樹脂組成物B-1由来の層または樹脂組成物B-2由来の層の坪量を各々表4に示す値とした以外は、実施例1と同様に操作して、実施例8~12の積層体を得た。
【0117】
[実施例13]
浸透剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名:ID-60、三洋化成工業社製)を固形分換算で2.0質量%含む水溶液を調製した。
得られた浸透剤水溶液を、実施例1にて得られた積層体の第一多孔質層(B1)表面に、乾燥時の塗膜重量が0.2g/m2となるようにロールコーターを用いて塗工した。塗工後直ちに60℃の熱風送風乾燥設備で乾燥して浸透剤層を形成し、実施例13の積層体を得た。
【0118】
[比較例7]
比較例3にて得られた積層体を使用した以外は、実施例13と同様に浸透剤層を形成し、比較例7の積層体を得た。
【0119】
[評価]
各実施例及び比較例の積層体について、下記の評価を行った。
<空孔率>
第一多孔質層(B1)及び第二多孔質層(B2)の空孔率(%)を測定した。空孔率の測定方法は、上述のように電子顕微鏡で観察した多孔質層の断面の一定領域において、空孔が占める面積の比率より求めた。
【0120】
<Cobb吸水度>
JIS P8140:1998の規定に基づき、Cobb吸水度を測定した。
但し、試験溶媒には水ではなく70質量%エタノール水溶液を用い、接触時間は120秒とした。
【0121】
<インク乾燥性>
インクジェット方式の印刷適性を評価するため、次のようにしてインク乾燥性を評価した。
各実施例及び各比較例の積層体の第一多孔質層(B1)側の表面に、JIS X9201:2001(高精細カラーディジタル標準画像(CMYK/SCID))のN5の絵柄をインクジェット方式で印刷した。印刷には、水性顔料インクジェットプリンタ(形式名:TM-C3500、セイコーエプソン社製)と、当該プリンタ標準のシアン、マゼンタ、イエロー及び黒の水性顔料インク(型番:SJIC22)を用いた。
【0122】
インクジェットプリンタで印刷した直後の印刷画像上のインクの状態を目視で観察し、かつ印刷直後の印刷画像上にティッシュペーパーを押し当てて、次の通りインク乾燥性を判定した。
<<評価基準>>
AA(最優秀):表面にインクを滴下した直後、インクを液体として視認できず、紙を軽く押し当ててもインクが紙に全く転写しない
A(優秀):表面にインクを滴下後5秒以内に乾燥し、乾燥後に紙を軽く押し当ててもインクが紙に全く転写しない
B(良好):表面のインクが5秒超え10秒以内に乾燥し、乾燥後に紙を軽く押し当ててもインクが紙に全く転写しない
C(可):表面のインクが10秒超え30秒以内に乾燥し、乾燥後に紙を軽く押し当てるとインクが紙に一部転写する
D(不可):表面にインクが30秒経過後も液体として視認でき、紙を軽く押し当てるとインク全体が転写する
【0123】
<印刷性能>
BS5609に準拠して、<インク乾燥性>評価時と同様に積層体に印刷を行った後、テープ剥離試験及び塩水中での摩耗性試験を実施し、印刷後の積層体の印刷性能(耐印刷剥離性及び耐摩耗性)を評価した。
【0124】
<耐印刷剥離性>
印刷後の積層体(サンプル)を23℃、50%RHの環境下で24時間保管した後、BS5609に準拠してテープ剥離試験を行った。テープ剥離試験では、BS5609規定の透明テープ、すなわち幅25mm、剥離強度が3.4~5.4N/25mmの透明テープを印刷面にしっかりと貼付し、15秒間放置した。テープを90度方向に素早く剥がし、専用のグレースケールを用いて印刷部分の色彩堅牢度を求めて、下記評価基準により耐印刷剥離性を評価した。
【0125】
<<評価基準>>
AA(最優秀):各色においてテープ剥離後の色彩堅牢度が4.5以上
A(優秀):各色においてテープ剥離後の色彩堅牢度が4以上4.5未満
B(良好):各色においてテープ剥離後の色彩堅牢度が3.5以上4未満
C(可):各色においてテープ剥離後の色彩堅牢度が3以上3.5未満
D(不可):各色においてテープ剥離後の色彩堅牢度が3未満
【0126】
<耐摩耗性>
擦過試験機(商品名:Model QT12、LORTONE社製)を用い、BS5609:1986年に準拠して塩水中での耐摩耗性試験を行った。具体的には、市販のセパレート付き粘着剤を用いて印刷後の積層体の印刷面とは反対側の表面に粘着剤層を転写し、粘着ラベルを作成した。試験機の直径170mm、高さ195mmのタンブラー(ドラム)に、海砂(粒径300~500μm)442g及び上水1770gを入れた。SUS(ステンレススチール)304製の中空状の棒(長さ190mm、直径25mm)に粘着ラベル(長さ85mm、幅60mmにカットしたもの)を巻きつけ、試験機のタンブラー内にセットした。25rpm/分で500回転(20分間)させた後、印刷物を回収し、砂を洗い流して水分を拭き取り、下記評価基準にしたがって耐摩耗性を評価した。
【0127】
<<評価基準>>
印刷層の密着性(耐摩耗性)は、摩耗性試験前のブランクとの対比において観察される各色の印刷層の剥がれから、専用のグレースケールを用いて評価を行う。その評価基準はBS1006-A02C:1978年に基づき、以下のとおりである。
A(優秀):試験後に印刷の剥がれがほとんど確認されず、試験後の色彩堅牢度が4以上
B(良好):試験後に文字が判別可能で、試験後の色彩堅牢度が3以上4未満
C(可):試験後に文字が判別可能で、試験後の色彩堅牢度が2以上3未満
D(不可):試験後に文字の識別が不可能、もしくは色彩堅牢度が2未満
【0128】
<耐にじみ性>
実施例1、13及び比較例3、7にて得られた積層体の第一多孔質層(B1)側表面に対し、水性インクジェット方式の印刷における耐にじみ性を評価した。
水性顔料インクジェットプリンタ(形式名:TM-C3500、セイコーエプソン社製)と、当該プリンタ標準のイエロー及び黒の水性顔料インク(型番:SJIC22)を用い、イエロー100%の背景中に5.0mm幅の黒の十字線を含む絵柄を印刷した。印刷後1日以上静置した印刷画像の黒線の幅を測定し、次の通りにじみを判定した。
【0129】
<<評価基準>>
A(優秀):黒の十字線のうち、にじみが大きい直線の太さが6.0mm以下である
B(良好):黒の十字線のうち、にじみが大きい直線の太さが6.0mmを超えて7.0mm以下である
C(可):黒の十字線のうち、にじみが大きい直線の太さが7.0mmを超えて8.0mm以下である
D(不可):黒の十字線のうち、にじみが大きい直線の太さが8.0mmを超えている
【0130】
表3、表4及び表5に評価結果を示す。なお、比較例2及び5の積層体は、第一多孔質層(B1)または第二多孔質層(B2)のフィラー含有量が多すぎたため、積層体を成形できず、評価できなかった。
【表3】
【0131】
【0132】
【0133】
表3及び表4に示すように、本願実施例にて得られた積層体はいずれも、インク乾燥性、耐印刷剥離性及び耐摩耗性に優れたものであった。
一方比較例1は、第一多孔質層(B1)のフィラー含有量が少なすぎたため空孔率が低く、インク乾燥性が不十分であった。
比較例3は第一多孔質層(B1)に非相溶性樹脂を含まないため、第一多孔質層(B1)と第二多孔質層(B2)の脆さが同程度であり、耐印刷剥離性試験において印刷部分が第二多孔質層(B2)から剥がれた。また比較例6は第二多孔質層(B2)にも非相溶性樹脂を含有したため、第二多孔質層(B2)の空孔が厚み方向に大きく、層自体が脆くなった。そのため耐印刷剥離性試験において第二多孔質層(B2)から剥がれ、いずれも色彩堅牢度が不十分であった。
比較例4は第二多孔質層(B2)のフィラー含有量が少なすぎたため、空孔率が低く、インク乾燥性が不十分であった。
【0134】
表5に示すように、本実施例にて得られた積層体は、表面に浸透剤を塗工し乾燥させることにより、印刷画像のにじみ抑制効果を発揮した。一方比較例3及び7の評価結果から明らかなように、エチレン系重合体又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体を含有しない第一多孔質層(B1)は、その表面に浸透剤を塗工し乾燥させても、印刷画像のにじみ抑制効果は発揮しなかった。
【0135】
本出願は、2020年11月25日に出願された日本特許出願である特願2020-195564号に基づく優先権を主張し、当該日本特許出願のすべての記載内容を援用する。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本開示における積層体、インクジェット用紙及び粘着ラベルは、特に水性インクジェット印刷に適し、印刷物の耐水性及び耐摩耗性に優れる。なかでも、BS5609:1986年に準拠した耐摩耗性を有することから、GHSラベル用途として非常に有用である。
【符号の説明】
【0137】
1 熱可塑性樹脂フィルム
A 基材層
B 樹脂成形層
B1 第一多孔質層
B2 第二多孔質層
B3 成形支持層