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特許7438409エアバッグ装置及びエアバッグ装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】エアバッグ装置及びエアバッグ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/217 20110101AFI20240216BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20240216BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B60R21/217
B60R21/207
B60N2/42
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022576715
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2022001761
(87)【国際公開番号】W WO2022158483
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2021009788
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】桜井 努
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-126499(JP,A)
【文献】特開2019-059337(JP,A)
【文献】特開2014-128997(JP,A)
【文献】特開2000-016222(JP,A)
【文献】特開2006-088851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0110244(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B60N 2/00- 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚のパネル(51,52)を含むエアバッグクッション(5)と、前記エアバッグクッション(5)内にガスを噴出するインフレータ(6)とを備えるエアバッグ装置(4)において、
一方のパネル(52)の縁から延設された基部(534)、及び、前記基部(534)の先端から前記エアバッグクッション(5)の内側に折り畳まれた折り畳み部(538)を有する第1片(531)と、
前記折り畳み部(538)と対向するように配置され、前記折り畳み部(538)と縫製されており、他方のパネル(51)の縁部と連結された第2片(537)と、
縫製により前記折り畳み部(538)及び前記第2片(537)から形成され、前記エアバッグクッション(5)の内側から外側に向かって延びる、前記インフレータ(6)の挿入路(55)と
を備えることを特徴とするエアバッグ装置(4)。
【請求項2】
前記折り畳み部(538)及び前記第2片(537)は矩形であり、
前記折り畳み部(538)及び前記第2片(537)を縫い合わせる第1縫い目(536)と、前記一方のパネル(52)、前記他方のパネル(51)、前記第1片(531)及び前記第2片(537)を縫い合わせる第2縫い目(539a,539b,539c)とが形成されており、
前記第1縫い目(536)及び前記第2縫い目(539a)は重なり合うことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置(4)。
【請求項3】
前記挿入路(55)は、前記エアバッグクッション(5)の内側に開口している内側口(533)と、前記エアバッグクッション(5)の外側に開口している外側口(535)とを有し、
前記内側口(533)は前記外側口(535)よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置(4)。
【請求項4】
前記第1片(531)は前記一方のパネル(52)と一体に形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れか一つに記載のエアバッグ装置(4)。
【請求項5】
前記第1片(531)及び前記第2片(537)は前記一方のパネル(52)と一体形成されており、
前記第2片(537)は前記第1片(531)の先端に連設されており、
前記内側口(533)は、前記第1片(531)及び前記第2片(537)の境に穿設されていることを特徴とする請求項3に記載のエアバッグ装置(4)。
【請求項6】
前記第1片(531)及び前記第2片(537)は夫々別部材であることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載のエアバッグ装置(4)。
【請求項7】
前記一方のパネル(52)は、前記エアバッグクッション(5)が膨張展開した場合に円筒形状をなす側面パネルであり、
前記他方のパネル(51)は、前記側面パネルの一方の開口端を塞ぐ底面パネルであることを特徴とする請求項1から6の何れか一つに記載のエアバッグ装置(4)。
【請求項8】
前記一方のパネル(52)は、複数のパーツ(521,522)から構成されていることを特徴とする請求項7に記載のエアバッグ装置(4)。
【請求項9】
前記インフレータ(6)のガス噴出口(62)は、前記内側口(533)から離れて配置されていることを特徴とする請求項3又は5に記載のエアバッグ装置(4)。
【請求項10】
少なくとも2枚のパネル(51,52)を含むエアバッグクッション(5)と、前記エアバッグクッション(5)内にガスを吹き込むインフレータ(6)とを備えるエアバッグ装置(4)の製造方法において、
前記2枚のパネル(51,52)のうち一方のパネル(52)の縁から延設された第1片(531)における該第1片(531)の基部(534)から離れた位置に第2片(537)を重ね、
前記第1片(531)の延び方向に沿って、該延び方向と交差する方向に離隔された2箇所で、前記第2片(537)と、前記第1片(531)における前記第2片(537)との対応部分(538)とを縫い合わせる第1縫製を縫製して、前記インフレータ(6)の挿入路(55)を形成し、
前記基部(534)と対向するよう、前記第1片(531)の前記対応部分(538)を折り畳み、
前記一方のパネル(52)、前記対応部分(538)、前記第2片(537)及び他方のパネル(51)を縫い合わせる第2縫製を縫製し、
前記エアバッグクッション(5)の外側に開口している前記挿入路(55)の外側口(535)から、前記インフレータ(6)を前記エアバッグクッション(5)内に挿入することを特徴とするエアバッグ装置(4)の製造方法。
【請求項11】
前記第1縫製は、前記エアバッグクッション(5)の内側に開口する前記挿入路(55)の内側口(533)が前記外側口(535)よりも小さくなるように、縫製されることを特徴とする請求項10に記載のエアバッグ装置(4)の製造方法。
【請求項12】
前記第2片(537)は前記第1片(531)の先端に連設され、前記第1片(531)及び前記第2片(537)が一体形成されており、
前記第1片(531)及び前記第2片(537)の境に前記内側口(533)を穿設し、
前記第1片(531)と重なるように、前記第2片(537)を前記内側口(533)の位置にて折り返すことを特徴とする請求項11に記載のエアバッグ装置(4)の製造方法。
【請求項13】
前記第1片(531)及び前記第2片(537)は夫々別部材であることを特徴とする請求項10又は11に記載のエアバッグ装置(4)の製造方法。
【請求項14】
前記一方のパネル(52)は、前記エアバッグクッション(5)が膨張展開した場合に円筒形状をなす側面パネルであり、
前記他方のパネル(51)は、前記側面パネルの一方の開口端を塞ぐ底面パネルであることを特徴とする請求項10から13の何れか一つに記載のエアバッグ装置(4)の製造方法。
【請求項15】
複数のパーツ(521,522)から前記一方のパネル(52)を形成することを特徴とする請求項14に記載のエアバッグ装置(4)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエアバッグ装置及びエアバッグ装置の製造方法に関する。
本出願は、2021年1月25日出願の日本出願第2021-009788号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エアバッグ装置が広く普及している。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、ガス圧でエアバッグが膨張展開して乗員を受け止めて保護する。
【0003】
特許文献1には、高圧室と低圧室とを区画する隔壁を貫通するチューブを設け、該チューブの中にインフレータを配置することによって、インフレータからのガス噴出の際、チューブが広がり高圧室及び低圧室にガスが供給され、高圧室にガスが充満した場合、高圧室内のガス圧によってチューブが閉じられ、高圧室から低圧室へガスが流れることを防止できるサイドエアバッグ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-126497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、エアバッグ装置は、膨張展開時にエアバッグクッション内のガス圧を迅速に高める必要があり、エアバッグクッションとインフレータとの間からガスが漏れることを防止する必要がある。ガス漏れの防止のために、一般には、エアバッグクッションとインフレータとの連結部に金具を嵌める手法が用いられている。しかし、このように金具を用いる場合、部品点数が増え、エアバッグ装置の製造コストが高くなるうえに、金具を嵌める工程が別途必要となり、生産性が悪くなるという問題が生じていた。
【0006】
しかし、特許文献1のサイドエアバッグは、高圧室から低圧室へのガスの流れを止めるものであって、エアバッグクッションから外側へのガス漏れについては工夫されていない。また、特許文献1のサイドエアバッグは、インフレータからのガス噴出によってチューブを広げてガスを供給しているので、チューブが広がった場合はチューブの両端へガスが流れることになり、膨張展開時にエアバッグクッション内のガス圧を迅速に高めることができなくなる。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、別途部材を必要とせず、簡単な構成にて、膨張展開時に、エアバッグクッションとインフレータとの間から外側へガスが漏れることを防止できるエアバッグ装置及びエアバッグ装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエアバッグ装置は、少なくとも2枚のパネルを含むエアバッグクッションと、前記エアバッグクッション内にガスを噴出するインフレータとを備えるエアバッグ装置において、一方のパネル(52)の縁から延設された基部(534)、及び、前記基部(534)の先端から前記エアバッグクッション(5)の内側に折り畳まれた折り畳み部(538)を有する第1片(531)と、前記折り畳み部(538)と対向するように配置され、前記折り畳み部(538)と縫製されており、他方のパネル(51)の縁部と連結された第2片(537)と、縫製により前記折り畳み部(538)及び前記第2片(537)から形成され、前記エアバッグクッション(5)の内側から外側に向かって延びる、前記インフレータ(6)の挿入路(55)とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るエアバッグ装置の製造方法は、少なくとも2枚のパネルを含むエアバッグクッションと、前記エアバッグクッション内にガスを吹き込むインフレータとを備えるエアバッグ装置の製造方法において、前記2枚のパネルのうち一方のパネルの縁から延設された第1片における該第1片の基部から離れた位置に第2片を重ね、前記第1片の延び方向に沿って、該延び方向と交差する方向に離隔された2箇所で、前記第2片と、前記第1片における前記第2片との対応部分とを縫い合わせる第1縫製を縫製して、前記インフレータの挿入路を形成し、前記基部と対向するよう、前記第1片の前記対応部分を折り畳み、前記一方のパネル、前記対応部分、前記第2片及び他方のパネルを縫い合わせる第2縫製を縫製し、前記エアバッグクッションの外側に開口している前記挿入路の外側口から、前記インフレータを前記エアバッグクッション内に挿入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、別途部材を用いずに、簡単な構成にて、膨張展開時にエアバッグクッションとインフレータとの間から外側へガスが漏れることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るエアバッグ装置が設けられた車室の内部を略示する斜視図である。
図2図1のII-II線によるエアバッグ装置の断面図である。
図3】エアバッグクッションの斜視図である。
図4】車室内でのエアバッグクッションの展開形態を示す前方から見た正面図である。
図5】エアバッグクッションの挿入通路付近を拡大して示す部分的拡大図である。
図6図5のVI-VI線による縦断面図である。
図7】エアバッグクッションの構成を説明する説明図である。
図8】実施の形態に係るエアバッグ装置の製造手順を説明する説明図である。
図9】実施の形態に係るエアバッグ装置の製造手順を説明する説明図である。
図10】実施の形態に係るエアバッグ装置の製造手順を説明する説明図である。
図11】実施の形態に係るエアバッグ装置の製造手順を説明する説明図である。
図12】膨張展開時におけるエアバッグクッションの膨張過程を説明する模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示の実施の形態に係るエアバッグ装置について、図面に基づいて詳述する。本発明の実施の形態に係るエアバッグ装置は、車両のシートに装着される。
【0013】
以下の説明で使用している「上下方向」とは、車室の天井の中心と床の中心とを結ぶ線上での方向を示し、天井に向かう方向が「上方向」、床に向かう方向が「下方向」である。また「前後方向」とは、車両が進行する方向であり、前進方向が「前方向」、後進方向が「後方向」である。更に、「車幅方向」とは、上記した「前後方向」と直交する方向であり、車室内で通常の座席が並んで配置される方向である。
【0014】
図1は、実施の形態に係るエアバッグ装置4が設けられた車室1の内部を略示する斜視図である。図1には、車室1の床面10上に車幅方向に並べて設置された運転席2及び助手席3と、運転席2に装備されたシートベルト23とが示されている。運転席2は、座部21と、該座部21の後側から上向きに立ち上がる背もたれ22とを備えており、乗員20(図4参照)は、座部21上にシートベルト23を装着して着座する。
【0015】
運転席2の背もたれ22の助手席3側の側面には、実施の形態に係るエアバッグ装置4が組み込まれている。図2は、図1のII-II線によるエアバッグ装置4の断面図である。本図における上下方向は、前述した「前後方向」に対応する。
【0016】
エアバッグ装置4は、収納部40内に収納されたエアバッグクッション5とインフレータ6とを備える。収納部40は、背もたれ22の助手席3側(図2における左側)の側面に外向きの開口を有して設けられた箱体であり、例えば、背もたれ22の骨格フレームの一部を利用して構成されている。収納部40の開口は、背もたれ22の側面と面一をなすカバー板41に覆われている。カバー板41は、収納部40よりも低強度の樹脂製の板であり、カバー板41の前部(図2における上部)の内面には、上下方向に延びる開裂溝42が形成されている。
【0017】
エアバッグクッション5は、例えば、ナイロン繊維等の高強度繊維の編み込みにより強化された布地製の袋体であり、折りたたまれた状態で収納部40の内に収納されている。インフレータ6は、略円筒状であり、エアバッグクッション5の内に収納されている。インフレータ6の周面には、径方向外向きにスタッドボルト60が突設されており、該スタッドボルト60は、スタッド穴532(図7参照)を通してエアバッグクッション5の外側に延びている。
【0018】
インフレータ6は、収納部40の底板に通したスタッドボルト60にナット61を締め付けて固定されており、エアバッグクッション5は、インフレータ6の収納位置で収納部40の底板との間に挟まれて固定されている。
【0019】
インフレータ6は、車両衝突等の緊急時に作動し、エアバッグクッション5の内側に膨張展開用のガスを噴射する。エアバッグクッション5は、インフレータ6の噴射ガスの作用により爆発的に膨張し、開裂溝42の位置でカバー板41を破断して、収納部40を支えとして外方に向けて展開する。
【0020】
図3は、エアバッグクッション5の斜視図であり、膨張展開した形態を示している。図3に示す如く、エアバッグクッション5は、主展開部53と、主展開部53の上面中央部から上方に突出する突出部54とを備えている。換言すれば、エアバッグクッション5は、膨張展開時に上下方向に離れて対向する上面パネル50及び下面パネル51と、上面パネル50及び下面パネル51(他方のパネル、底面パネル)の周縁を連絡する円筒形の側面パネル52(一方のパネル)とからなる。
【0021】
側面パネル52は、前後方向に離れて対向している、前側面パネル521及び後側面パネル522からなる。前側面パネル521が後側面パネル522よりも前方に配置されている。前側面パネル521及び後側面パネル522の縁部同士が縫い合わされ、円筒形状をなしている。
【0022】
上面パネル50、下面パネル51及び側面パネル52は、例えば、夫々の周縁を縫い合わせることにより一体的に接合され、図示のように左右方向(車幅方向)に長い直方体状に展開する主展開部53を構成する。突出部54は、上面パネル50の長さ方向中央部で上向きに立ち上がり、左右方向に適宜の幅を有して展開する。
【0023】
インフレータ6は、図中に破線で示すように、軸長方向を上下方向とし、後側面パネル522の内面に沿わせて収容されている。前述した固定に用いるスタッドボルト60は、インフレータ6の上下方向に離れた2箇所に設けられ、夫々スタッド穴532を通して後側面パネル522の外側に突出している。
【0024】
図4は、車室1内でのエアバッグクッション5の展開形態を示す前方から見た正面図である。前述の如く、エアバッグクッション5は、運転席2の背もたれ22の側部に収納されており、車両衝突等の緊急時にインフレータ6の噴射ガスの作用により膨張し、車幅方向に隣り合う運転席2と助手席3との間で展開する。
【0025】
上面パネル50、下面パネル51及び側面パネル52により構成された主展開部53は、運転席2に着座する乗員20及び助手席3に着座する乗員30の胴部及び肩部に対応する高さ位置で横方向に拡がり、運転席2及び助手席3の前位置に達する両側部分で乗員20、30を側方から拘束する。従って、側面衝突時における乗員20、30の横移動を防止し、乗員20、30を有効に保護することができる。なお、図4中の乗員20、30は、2点鎖線により略示してある。
【0026】
突出部54は、主展開部53の中央で上方に立ち上がり、運転席2に着座する乗員20及び助手席3に着座する乗員30の頭部に対応する高さ位置に達する。従って、例えば、助手席3に着座している乗員30がOOP(Out Of Position:非正規着座姿勢)であっても、運転席2側に横移動する乗員30の頭部を突出部54により拘束することができる。
【0027】
後側面パネル522と下面パネル51との縫い合わせ部には、インフレータ6をエアバッグクッション5の内側に挿入する為の挿入通路55が形成されている。図5は、エアバッグクッション5の挿入通路55付近を拡大して示す部分的拡大図であり、図6は、図5のVI-VI線による縦断面図である。図6では、便宜上、スタッド穴532を省略しており、スタッドボルト60を仮想線(一点鎖線)にて示している。
【0028】
挿入通路55は、後側面パネル522において下面パネル51側の縁の一部から延設され、途中でエアバッグクッション5の内側に折り畳まれた第1片部531と、第1片部531に対向しており、下面パネル51において後側面パネル522側の縁からエアバッグクッション5の内側に延設された第2片部537とを有する。第1片部531は細長い長方形状をなしている。第2片部537は、長手方向の寸法が第1片部531よりも短く、幅方向の寸法が第1片部531と略等しい矩形状をなしている。エアバッグクッション5の内側に折り畳まれた、第1片部531の折り畳み部538(対応部分)は、第2片部537と略等しい大きさを有する。折り畳み部538と第2片部537とは対向配置されている。
【0029】
第1片部531は、後側面パネル522と一体形成されており、基部534及び折り畳み部538を含む。更に第1片部531は第2片部537とも一体形成されている。第2片部537は第1片部531の先端に連設されている。即ち、後側面パネル522において下面パネル51側の縁の一部から延設片56が延設されており、延設片56は第1片部531及び第2片部537を含む(図7及び図8参照)。
【0030】
また、第1片部531と第2片部537との境、即ち、折り畳み部538と第2片部537との間には、厚み方向に貫通する、例えばスリット形状の貫通孔533(内側口)が穿設されている。貫通孔533を基準に折り畳み部538と第2片部537とに分けられる。貫通孔533の縁の長さは後述するインフレータ6の本体部63の外周の長さと略等しい。
【0031】
換言すれば、延設片56は基部534から少し離れた位置で一旦エアバッグクッション5の内側に折り畳まれており、折り畳み部538と第2片部537とが対向するよう貫通孔533にて再び折り畳まれている。延設片56(第2片部537)の端部は、後述するように、下面パネル51と縫い合わされている。
【0032】
第1片部531の延び方向、即ち折り畳み部538又は第2片部537の長手方向に沿って、折り畳み部538及び第2片部537を縫い合わせる第1縫い目536が形成されている。第1縫い目536は、折り畳み部538又は第2片部537の幅方向に離れて、折り畳み部538及び第2片部537の両長辺側の縁部に夫々形成されている。
【0033】
これによって、折り畳み部538及び第2片部537からなり、折り畳み部538又は第2片部537の長手方向、即ち、エアバッグクッション5の内側から外側に延びる挿入通路55が形成される。挿入通路55では、エアバッグクッション5の内側の一端に貫通孔533が開口しており、エアバッグクッション5の外側の他端に外側口535が開口している。
【0034】
挿入通路55において、第1縫い目536同士間の間隔は、貫通孔533から遠ざかるにつれて徐々に大きくなる。従って、外側口535は貫通孔533よりも大きい。
【0035】
インフレータ6は円筒形状の本体部63を有しており、本体部63の一端部には膨張展開用のガスを噴射するガス噴出口62が設けられている。インフレータ6は本体部63の一端から挿入通路55に挿入されており、前記一端のガス噴出口62が貫通孔533から離れてエアバッグクッション5の内側に配置され、他端が外側口535近傍に配置されている。
【0036】
上述の如く、第1縫い目536同士間の間隔は貫通孔533から遠ざかるにつれて徐々に大きくなっているので、本体部63の周面と第2片部537又は折り畳み部538との間隔も貫通孔533から遠ざかるにつれて徐々に大きくなる。
【0037】
後側面パネル522の下面パネル51側の縁部であって第1片部531を除く部分(以下、第1片部531を除く縁部と略称する)、及び、第2片部537の短辺側の縁部には、下面パネル51の縁部と縫い合わせる第2縫い目539a、539b、539cが形成されている。
【0038】
詳しくは、第2片部537の縁部の両隅に円弧を描くように形成された第2縫い目539aは、下面パネル51、第2片部537、折り畳み部538及び基部534を繋ぎ合わせる。また、第2片部537の短辺側の端部に沿って形成された第2縫い目539bは、第2片部537と下面パネル51のみを繋ぎ合わせる。更に、後側面パネル522における第1片部531を除く縁部に沿って形成された第2縫い目539cは、後側面パネル522と下面パネル51とを繋ぎ合わせる。特に、第2縫い目539aは、第1縫い目536と交差するように形成されている。第2縫い目539aが第1縫い目536と重なるので、ガス漏れを防止できる。
【0039】
図7は、エアバッグクッション5の構成を説明する説明図である。便宜上、図7においては、縫い合わせる前の上面パネル50、下面パネル51、前側面パネル521及び後側面パネル522を簡略化して図示してある。また、以下の説明においては、図中の「上、下」及び「左、右」を使用する。
【0040】
図7Aは、前側面パネル521を示しており、前側面パネル521は主展開部53を構成する長方形の部分と、該長方形の部分の上側の長辺の中央部から上方に延設され、突出部54を構成する短冊形の部分とを含んでいる。
図7Bは、後側面パネル522を示しており、後側面パネル522は主展開部53を構成する長方形の部分を有している。該長方形の部分の上側の長辺には、中央部から上方に矩形部分が延設されており、前記長方形の部分の下側の長辺には、左側の端部近傍から下方に細長い長方形状の延設片56が延設されている。前記長方形の部分に1つのスタッド穴532が形成されており、延設片56に2つのスタッド穴532が形成されている。
図7Cは、上面パネル50を示しており、左右対称な形状を有しており、上方の凹凸形状の縁に、前側面パネル521の上方の縁が縫い合わされ、下方の縁に後側面パネル522の上方の縁が縫い合わされる。
図7Dは、下面パネル51を示しており、略倒立台形の形状をなしている。下面パネル51の平行な2辺のうち長辺の縁には前側面パネル521が縫い合わされ、短辺の縁には後側面パネル522が縫い合わされる。
【0041】
本実施の形態においては、上面パネル50、下面パネル51、前側面パネル521及び後側面パネル522の縫い合わせによって、袋形状のエアバッグクッション5を構成する場合を例に説明するが、これに限定されるものではない。例えば、接着又は溶着等の任意の接合手法を使用できる。
【0042】
図8図11は、実施の形態に係るエアバッグ装置4の製造手順を説明する説明図である。また、図8図11は、図7で破線にて囲まれた部分のみを示している。以下に実施の形態に係るエアバッグ装置4の製造方法を、図8図11に従って説明する。
【0043】
先ず、作業者は、図7Bに示す後側面パネル522を用意する。図8に示すように、後側面パネル522では、一長辺側の縁の一部から細長い長方形状をなす延設片56が延設されている。延設片56の中間部及び基部534にスタッド穴532がそれぞれ形成されている。
【0044】
作業者は、延び方向、即ち長手方向における延設片56の中間部にスリット形状の貫通孔533を穿設する(図9参照)。貫通孔533は延設片56の幅方向に延びている。延設片56は、貫通孔533を基準に、基部534側の第1片部531と、先端側の第2片部537とに分けられる。即ち、第1片部531及び第2片部537の境に貫通孔533が穿設される。
【0045】
次いで、作業者は、図10の如く、貫通孔533の位置を折り目として、折り畳み部538が上側になるように、第2片部537を基部534側に折り返す(図10の白抜き矢印参照)。これによって、基部534から離れた位置にて、折り畳み部538及び第2片部537が重なる。折り畳み部538は第2片部537と対応している。図10では、折り返される前の第2片部537を一点鎖線にて示している。
【0046】
この際、第1片部531の延び方向、即ち折り畳み部538又は第2片部537の長手方向に沿って、折り畳み部538及び第2片部537を縫い合わせる第1縫製が施される。前記第1縫製は、折り畳み部538又は第2片部537の幅方向に離れて、折り畳み部538及び第2片部537の両長辺側の縁部にて夫々施される。従って、図10の如く、前記第1縫製により、2本の第1縫い目536が形成されている。前記第1縫製は、第1縫い目536同士間の間隔が、貫通孔533から基部534に近づくにつれて徐々に大きくなるように施される。
このような第1縫製により、折り畳み部538又は第2片部537の長手方向に延びる挿入通路55が形成されている。現時点では、挿入通路55の一端に貫通孔533が開口しており、挿入通路55の他端は基部534側に開口している。斯かる開口端が既に説明した外側口535となる。上述の如く、外側口535は貫通孔533よりも大きい。
【0047】
次に、作業者は、図11に示すように、基部534と対向するよう、第2片部537が重なった状態のまま、折り畳み部538を折り畳む(図11の白抜き矢印参照)。図11では、折り畳まれる前の折り畳み部538を二点鎖線にて示している。この際、2つのスタッド穴532が重なっており、基部534の上に、折り畳み部538が重なり、折り畳み部538の上に、第2片部537が重なっている。
【0048】
このような状態で、作業者は、第2片部537の上に、下面パネル51を載置させ、後側面パネル522、折り畳み部538、第2片部537及び下面パネル51を縫い合わせる第2縫製を施す。図11では、下面パネル51を一点鎖線にて示している。第2縫製によって、第2縫い目539a、539b、539cが形成される。
【0049】
即ち、下面パネル51、第2片部537、折り畳み部538及び基部534を縫い合わせる第2縫い目539aが、第2片部537の縁部の両隅に円弧を描くように形成される。また、第2片部537と下面パネル51のみを縫い合わせる第2縫い目539bが第2片部537の短辺側の端部に沿って形成される。また、後側面パネル522と下面パネル51とを縫い合わせる第2縫い目539cが、基部534を除く後側面パネル522の縁部に沿って形成される。上述の如く、第2縫い目539aは、第1縫い目536と交差するように形成される。
【0050】
以降、作業者は、前側面パネル521の一長辺側の縁を下面パネル51の縁に縫い合わせる。また、作業者は、前側面パネル521の前記長方形の部分における両短辺側縁部を、後側面パネル522の前記長方形の部分における両短辺側縁部と夫々縫い合わせて、円筒形状の側面パネル52を構成する。そして、作業者は、前側面パネル521の他長辺側の縁及び後側面パネル522の他長辺側の縁に、上面パネル50の縁を縫い合わせる。
以上の作業によって、エアバッグクッション5が形成される。
【0051】
続いて、作業者は、エアバッグクッション5の挿入通路55にインフレータ6を挿入する。インフレータ6は本体部63の一端から、外側口535を通して挿入通路55内に挿入される。本体部63の一端は挿入通路55を通過して貫通孔533からエアバッグクッション5の内側に抜け出る。本体部63は、一端のガス噴出口62が貫通孔533から離れて配置され、他端が外側口535近傍に配置される。
【0052】
一方、膨張展開時にはエアバッグクッション5内のガス圧を迅速に高める必要があり、エアバッグクッション5とインフレータ6(本体部63)との間からガスが漏れることを防止する必要がある。ガス漏れの防止のために、一般には、エアバッグクッション5におけるインフレータ6の挿入部に所謂スチールバンドのような金具を嵌める手法が用いられている。しかし、このように金具を用いる場合、部品点数が増え、エアバッグ装置の製造コストが高くなるうえに、金具を嵌める工程が別途必要となり、生産性が悪くなるという問題が生じていた。
実施の形態に係るエアバッグ装置4はこのような問題を解決できるように構成されている。以下詳しく説明する。
【0053】
図12は、膨張展開時におけるエアバッグクッション5の膨張過程を説明する模式的部分断面図である。図12は、図6で破線にて囲まれた部分を示している。また、図12Aは、エアバッグクッション5が膨張展開する直前の状態を示しており、図12Bは、エアバッグクッション5が膨張展開する途中の状態を示しており、図12Cは、エアバッグクッション5の膨張展開が完了した状態を示している。
【0054】
上述の如く、エアバッグクッション5の挿入通路55にインフレータ6が挿入されており、挿入通路55では外側口535が貫通孔533よりも大きく、挿入通路55の内面とインフレータ6の本体部63との間隔は貫通孔533から外側口535に近づくにつれて徐々に大きくなっている。即ち、挿入通路55は、エアバッグクッション5の外側から内側に向けて縮径する錐形状をなしている。
エアバッグクッション5が膨張展開する前は、このような挿入通路55の内面とインフレータ6の本体部63との間隔が維持されており、下面パネル51が後側面パネル522と対向し、インフレータ6が下面パネル51及び後側面パネル522の間に介在している(図12A参照)。
【0055】
インフレータ6がガス噴射を始めると、エアバッグクッション5の膨張展開が始まる。上述の如く、インフレータ6のガス噴出口62は、貫通孔533から離れており、ガス噴出口62からのガスの噴出方向が直接貫通孔533に向けられることはない。即ち、ガスの噴出が貫通孔533を広げることはない。
【0056】
図12Bの如く、噴出されたガスはエアバッグクッション5の内面に沿って迅速に移動する。即ち、挿入通路55には、外側口535側の外面からガス圧が加わる。かつ、挿入通路55がエアバッグクッション5の外側から内側に向けて縮径する錐形状をなしているので、図12Bの如く、ガスの流れは挿入通路55の外面によって外側口535側から貫通孔533側に案内される。この際、ガスは全径方向からインフレータ6に圧力を加える。
【0057】
上述の如く、挿入通路55は折り畳み部538と第2片部537とを重ねて縫い合わせることによって構成されており、インフレータ6は折り畳み部538と第2片部537との間に介在している。従って、挿入通路55に加わるガス圧は、折り畳み部538と第2片部537とを互いに接近させる方向に作用する。よって折り畳み部538と第2片部537との間隔、即ち挿入通路55の内面とインフレータ6との間隔は狭くなる。
【0058】
エアバッグクッション5内のガス圧が高くなるにつれて、挿入通路55の内面とインフレータ6との間隔はより狭くなり、下面パネル51及び後側面パネル522の間の間隔は広がる。エアバッグクッション5の膨張展開完了時に、挿入通路55の内面とインフレータ6との間隔はなくなって挿入通路55は閉じられ、下面パネル51及び後側面パネル522の間の間隔は略直角を成す程度に広がる(図12C参照)。
【0059】
以降も、インフレータ6からのガス噴出は続く。しかし、挿入通路55が閉じられているので、エアバッグクッション5内のガス圧は更に高くなり、挿入通路55が一層きつく締められる。よって、確実にガス漏れを防止できる。
【0060】
以上の如く、実施の形態に係るエアバッグ装置4では、挿入通路55が所謂逆止弁の役割をなし、エアバッグクッション5内から外へのガス漏れを防止できる。よって、ガス漏れの防止のため、スチールバンドのような金具を別途に設ける必要がなくなる。従って、部品点数を減らしてエアバッグ装置4の製造コストを低減させることができ、金具を嵌める工程を省いて生産性を高めることができる。
【0061】
上述の如く、実施の形態に係るエアバッグ装置4は、第1片部531が後側面パネル522と一体形成されており、更に第1片部531が第2片部537と一体形成されているので、工数を減らし、作業性を高めることができる。
【0062】
以上においては、側面パネル52が前側面パネル521及び後側面パネル522の2つのパーツによって構成されている場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、側面パネル52が1つのパネルからなるように構成しても良い。即ち、前側面パネル521及び後側面パネル522の長手方向の寸法の和に相当する長手方向の寸法を有する1つの長方形パネルを用意し、斯かる長方形パネルの両短辺側の縁同士を縫い合わせて円筒形状に形成しても良い。
【0063】
また、以上においては、第1片部531が後側面パネル522と一体形成され、更に第1片部531が第2片部537と一体形成されている場合を例に挙げて説明したがこれに限定されるものではない。第1片部531と後側面パネル522とが夫々別部材であり、第1片部531と第2片部537とが夫々別部材であっても良く、第1片部531と後側面パネル522とが夫々別部材であり、第1片部531と第2片部537のみが一体形成されても良く、第1片部531と後側面パネル522のみが一体形成され、第1片部531と第2片部537とが夫々別部材であっても良い。
【符号の説明】
【0064】
1 車室
2 運転席
3 助手席
4 エアバッグ装置
5 エアバッグクッション
6 インフレータ
50 上面パネル
51 下面パネル
52 側面パネル
55 挿入通路
56 延設片
60 スタッドボルト
62 ガス噴出口
63 本体部
521 前側面パネル
522 後側面パネル
531 第1片部
533 貫通孔
534 基部
535 外側口
536 第1縫い目
537 第2片部
538 折り畳み部
539a,539b,539c 第2縫い目
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12